2σ Guide

商標権侵害 損害賠償の算定
商標法38条と企業実務

商標法38条の5つの入口から、逸失利益、侵害者利益、相当使用料、取得・維持費用、証拠収集、裁判例、和解対応までを企業法務向けに整理します。

5 算定ルート
38条 中心規定
90% 数量控除例
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商標権侵害 損害賠償の算定 商標法38条と企業実務

商標法38条の各ルートを並べ、どの事実と証拠が金額を左右するかを先に把握します。

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商標権侵害 損害賠償の算定 商標法38条と企業実務
商標法38条の各ルートを並べ、どの事実と証拠が金額を左右するかを先に把握します。
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  • 商標権侵害 損害賠償の算定 商標法38条と企業実務
  • 商標法38条の各ルートを並べ、どの事実と証拠が金額を左右するかを先に把握します。

POINT 1

  • 商標権侵害 損害賠償の前提となる商標・使用・効力の基礎
  • 1. 登録商標と指定商品・役務を確認:権利範囲、存続期間、指定商品・指定役務を確認します。
  • 2. 相手方標章と使用態様を特定:商品名、広告、EC表示、店舗名、請求書などの表示箇所を切り分けます。
  • 3. 商標的使用・類似・効力制限を検討:普通名称、品質表示、自己名称表示、出所表示性の有無を確認します。
  • 4. 対象期間・数量・売上へ進む:38条の算定ルートを比較します。
  • 5. 非侵害・範囲限定を整理:損害額の前に成否と範囲を争点化します。

POINT 2

  • 商標権侵害 損害賠償を38条1項で算定する方法
  • 権利者の逸失利益、販売能力、販売できなかった事情、1項2号の相当使用料を分けて見ます。
  • 1号は権利者の単位利益、2号は1号で拾えない数量についての相当使用料に関わります。
  • どの数量が権利者の逸失利益に入り、どの数量が相当使用料に回るのかを分けることが、重複や抜けを防ぐために重要です。
  • 次の数値例は、1項1号で算定する部分と、1項2号で相当使用料に回す部分を分けるためのものです。

POINT 3

  • 商標権侵害 損害賠償を38条2項の侵害者利益で算定する
  • 市場の違い
  • 商品・役務の市場、価格帯、顧客層、販売地域、販売チャネルが大きく異なる場合です。
  • 商標以外の売上要因
  • 侵害者独自の機能、品質、デザイン、営業努力、広告投資、別ブランド表示が売上に寄与した場合です。

POINT 4

  • 商標権侵害 損害賠償を相当使用料と取得・維持費用で見る
  • 38条3項・4項・5項は、利益立証が難しい場面の重要な補完ルートです。
  • 商標法38条3項は、登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額を、損害額として請求できる旨を定めます。
  • 警告後継続、意図的模倣、隠蔽、偽造品販売などは、使用料率の評価に影響し得ます。
  • 類似商標や類似商品・役務の侵害では、同項の適用要件を慎重に確認します。

POINT 5

  • 商標権侵害 損害賠償の証拠収集と算定プロセス
  • 1. 権利者が同種商品・役務を販売しているか:販売している場合は38条1項の検討余地が大きくなります。
  • 2. 単位利益と販売能力を検討:立証できれば1項、侵害者利益が高ければ2項も併用します。
  • 3. 侵害者売上と使用料を検討:2項又は3項を中心に、要件が合えば5項も検討します。
  • 4. 主位的請求と予備的請求を組み合わせる:1項1号、1項2号、2項、3項、5項を事案ごとに重ねます。

POINT 6

  • 商標権侵害 損害賠償で企業が取る実務対応
  • 権利者側と侵害を疑われた側の初動、交渉、証拠保全、反論を分けて整理します。
  • 38条1項への防御
  • 38条2項への防御
  • 38条3項への防御

POINT 7

  • 商標権侵害 損害賠償を会計・税務・内部統制から管理する
  • ブランド台帳
  • 主要ブランドの商標登録状況、指定商品・指定役務、更新期限、海外登録を一覧化します。
  • 契約管理
  • ライセンス契約、代理店契約、共同ブランド契約、終了後使用禁止条項を整理します。

POINT 8

  • 商標権侵害 損害賠償でよくある誤解
  • 売上高、同一文字、通常料率、ページ削除、社内体制に関する誤解を一般情報として整理します。
  • 侵害者の売上高がそのまま損害額になりますか
  • 登録商標と同じ文字なら常に高額賠償になりますか
  • 相当使用料は通常のライセンス料と同じですか

まとめ

  • 商標権侵害 損害賠償の算定 商標法38条と企業実務
  • 商標権侵害 損害賠償の前提となる商標・使用・効力の基礎:損害額の前に、商標権侵害が成立する範囲と損害賠償請求の法的構造を確認します。
  • 商標権侵害 損害賠償を38条1項で算定する方法:権利者の逸失利益、販売能力、販売できなかった事情、1項2号の相当使用料を分けて見ます。
  • 商標権侵害 損害賠償を38条2項の侵害者利益で算定する:侵害者の限界利益、控除費用、推定覆滅、商標の寄与を中心に整理します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

商標権侵害 損害賠償の算定は5つの入口から整理する

商標法38条の各ルートを並べ、どの事実と証拠が金額を左右するかを先に把握します。

商標権侵害の損害賠償額は、侵害品の売上高に一定率を掛けるだけでは決まりません。どの条文を使うか、どの数量や売上を対象にするか、控除費用をどこまで認めるか、商標が売上にどの程度寄与したか、権利者が実際に販売できたかによって、結論は大きく変わります。

最初に5つの算定ルートを横並びで見ると、請求側と防御側の争点が分かれます。次の比較表は、各ルートの計算発想、向いている場面、主な争点を示すもので、読み手は自社案件でどの入口が現実的かを見極める材料にできます。

算定ルート根拠典型的な計算発想向いている場面主な争点
権利者の逸失利益38条1項1号侵害品数量 × 権利者の単位利益権利者が同種の商品・役務を販売し、代替需要を奪われたと説明しやすい場面販売能力、単位利益、売れなかった事情、商標の寄与
数量超過分の相当使用料38条1項2号1号で拾えない数量 × 相当使用料侵害数量が販売能力を超える場合や、一部数量について販売できない事情がある場合使用料率、許諾可能性、仮想交渉の前提
侵害者利益38条2項侵害対象売上 − 直接関連し追加的に必要な費用侵害者の売上や利益から立証する方が現実的な場面限界利益、控除費用、推定覆滅、因果関係
相当使用料38条3項・4項対象売上 × 合理的使用料率、又は数量 × 単位使用料権利者が自ら販売していない場合や、利益立証が難しい場合使用料率、顧客吸引力、過去ライセンス、侵害後の仮想合意
取得・維持費用38条5項登録商標の取得・維持に通常必要な費用相当額同一又は社会通念上同一の商標が指定商品・役務に使われた場面適用要件、費用範囲、他ルートとの関係

実務では、1つのルートだけで争うとは限りません。主位的に38条1項又は2項を主張し、予備的に38条3項を置き、事案によって38条5項も検討する構成がよく使われます。重要なのは、最も高い金額だけでなく、証拠でどこまで説明できるか、相手方がどの反論を出すか、裁判所が因果関係をどの程度認めるかです。

商標権侵害の損害賠償額では、条文ごとに見る証拠が異なります。次の3つの項目は、数量、利益、使用料のどこに力点を置くかを整理するためのもので、訴訟前の検討や和解交渉の優先順位づけに役立ちます。

Quantity

数量と販売能力

38条1項では、侵害数量のうち権利者が販売できた数量が中心になります。販売能力、在庫、生産能力、販売チャネルの重なりを確認します。

Profit

利益と控除費用

38条2項では、侵害対象売上からどの費用を控除できるかが大きな争点です。直接性と追加性を資料で説明できるかが鍵です。

Royalty

使用料と商標価値

38条3項では、過去ライセンス、業界慣行、商標の顧客吸引力、侵害後の仮想交渉を踏まえて使用料率を検討します。

Section 01

商標権侵害 損害賠償の前提となる商標・使用・効力の基礎

損害額の前に、商標権侵害が成立する範囲と損害賠償請求の法的構造を確認します。

商標は、文字、図形、記号、立体的形状、色彩、音などで構成され、商品又は役務の出所を示し、品質への信頼やブランド価値を蓄積する標識です。商標法は、商標使用者の業務上の信用を守り、産業の発達と需要者の利益保護を図ることを目的としています。

商標の使用態様は広く、商品や包装に付す行為だけでなく、商品ページ、広告、取引書類、電子的情報、店舗看板、サービス紹介ページ、アプリ画面、動画説明欄なども問題になり得ます。ただし、同じ文字列が表示されているだけで直ちに侵害になるわけではなく、商標的使用、標章の類似、商品・役務の類似、効力制限の有無を確認します。

侵害判断と損害額算定は、次の順番で見ます。この判断の流れは、先に侵害の成否と対象範囲を絞らないと、後の金額計算が過大又は過小になりやすいことを示しています。

損害額に入る前の確認順序

登録商標と指定商品・役務を確認

権利範囲、存続期間、指定商品・指定役務を確認します。

相手方標章と使用態様を特定

商品名、広告、EC表示、店舗名、請求書などの表示箇所を切り分けます。

商標的使用・類似・効力制限を検討

普通名称、品質表示、自己名称表示、出所表示性の有無を確認します。

成立する可能性
対象期間・数量・売上へ進む

38条の算定ルートを比較します。

争いが強い
非侵害・範囲限定を整理

損害額の前に成否と範囲を争点化します。

損害賠償請求は、基本的には民法709条の不法行為責任を基礎とし、故意又は過失、損害、因果関係が問題になります。商標権は登録により公示されるため、商標法39条により準用される特許法上の仕組みによって過失が推定されますが、過失の推定は責任成立の問題であり、損害額の高さを自動的に決めるものではありません。

注意商標法38条は制裁ではなく、損害額を算定又は推定するための規定です。悪質な行為であっても、売上全額が当然に損害額になるわけではなく、利益、使用料、因果関係、推定覆滅を検討します。

商標権の効力には限界もあります。自己の氏名・名称を普通に用いられる方法で表示する場合、普通名称や品質・用途等を普通に表示する場合、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識できない態様で使われる場合などは、効力が及ばない可能性があります。

Section 02

商標権侵害 損害賠償を38条1項で算定する方法

権利者の逸失利益、販売能力、販売できなかった事情、1項2号の相当使用料を分けて見ます。

38条1項は、侵害者が侵害行為によって商品を譲渡した場合に、権利者がその数量に対応する販売機会を失ったと考え、権利者の単位利益を基礎に損害額を算定する規定です。1号は権利者の単位利益、2号は1号で拾えない数量についての相当使用料に関わります。

次の比較表は、1項1号と1項2号を別々に見るためのものです。どの数量が権利者の逸失利益に入り、どの数量が相当使用料に回るのかを分けることが、重複や抜けを防ぐために重要です。

区分計算発想確認する証拠注意点
38条1項1号権利者の単位数量当たり利益 × 販売できたと認められる数量自社商品の単位利益、在庫、生産能力、販売チャネル、対象期間の販売実績侵害数量をそのまま権利者販売数量に置き換えるわけではありません。
38条1項2号1号で逸失利益に入らない数量 × 相当使用料使用料率、過去ライセンス、ライセンス可能性、数量超過や特定数量の根拠登録商標の使用許諾ができたといえない事情がある場合は慎重な検討が必要です。

単位数量当たり利益は、一般に商品を1個追加で販売した場合に得られる限界利益を基礎に考えます。仕入原価、材料費、外注加工費、数量連動の配送費、決済手数料、販売手数料、梱包資材費などは控除されやすい一方、既存人件費、家賃、役員報酬、一般管理費、既存設備の減価償却費は、追加販売がなくても発生する固定費として扱われることがあります。

次の数値例は、1項1号で算定する部分と、1項2号で相当使用料に回す部分を分けるためのものです。数量の内訳と単価を読み取ることで、同じ侵害数量でも最終金額がどのように変わるかが分かります。

項目数値計算上の意味
侵害者の譲渡数量10,000個算定の出発点になる数量
権利者の販売能力8,000個1号で考慮できる上限の目安
販売できなかった特定数量2,000個1号から除外され得る数量
権利者の単位利益1,200円販売できた数量に掛ける利益
相当使用料1個150円1号で拾えない数量に掛ける金額
1号部分7,200,000円(8,000個 − 2,000個) × 1,200円
2号部分600,000円(能力超過2,000個 + 特定数量2,000個) × 150円
合計7,800,000円逸失利益と相当使用料の合算

権利者が販売できない事情は、38条1項で特に重要です。侵害者の営業努力、侵害品の性能・品質・価格差、商標以外の特徴、競合品、市場の非同一性、商標が販売に寄与した程度などが問題になります。高価格帯の権利者商品と低価格の侵害品では、侵害品購入者が権利者商品を買ったとは限らないため、数量控除が争われやすくなります。

地力の素事件では、裁判所が原告商品の20kg当たり単位利益を1,027円と算定しつつ、商品の競合関係、市場規模、商標の著名性、別の出所表示、商品カテゴリの違いなどを踏まえて、販売数量の90%について販売できない事情があると判断しました。次の横棒グラフは、この裁判例で示された数量控除の大きさを直感的に把握するためのものです。濃い色の割合ほど、逸失利益に残る数量が小さくなることを読み取れます。

控除数量
90%
残る数量
10%
東京地方裁判所令和5年6月21日判決で示された数量控除の例です。
Section 03

商標権侵害 損害賠償を38条2項の侵害者利益で算定する

侵害者の限界利益、控除費用、推定覆滅、商標の寄与を中心に整理します。

商標法38条2項は、侵害者が侵害行為により利益を受けているとき、その利益の額を商標権者又は専用使用権者の損害額と推定する規定です。権利者の販売能力や単位利益の立証が難しい場合でも、侵害者の売上・利益を出発点にできる点に実務上の意味があります。

計算発想38条2項の推定損害額は、侵害者の侵害対象売上高から、侵害対象売上を得るために直接関連し追加的に必要となった費用を控除して考えます。会計上の営業利益や税務上の所得と同一とは限りません。

控除費用は、侵害者側の防御で大きな争点になります。次の表は、費用の種類ごとに控除されやすさを整理したものです。読み手は、自社が請求する側か防御する側かに応じて、どの資料を準備すべきかを確認できます。

費用項目控除されやすさ実務上の見方
侵害商品の仕入原価・製造原価高い対象商品に直接対応する原価であれば控除されやすい。
配送費・決済手数料・販売手数料比較的高い売上数量に応じて追加発生する費用であることを証拠化します。
対象商品の広告費事案による対象商品・対象期間に直接対応する広告かが重要です。
店舗家賃・共通人件費・一般管理費低い又は事案による侵害販売のための追加費用といえるかが争点です。
役員報酬・既存設備費低い固定費性が強く、追加性の立証が難しいことがあります。
税金事案による利益算定上の控除対象として扱うかは慎重な検討が必要です。

38条2項の推定は、侵害者の利益をすべて没収する制度ではありません。侵害者は、権利者損害との因果関係を妨げる事情を主張し、推定覆滅を求めることがあります。次の一覧は、推定覆滅で問題になりやすい事情を並べたもので、商標の顧客吸引力と他の売上要因を分けて検討するために重要です。

市場の違い

商品・役務の市場、価格帯、顧客層、販売地域、販売チャネルが大きく異なる場合です。

商標以外の売上要因

侵害者独自の機能、品質、デザイン、営業努力、広告投資、別ブランド表示が売上に寄与した場合です。

権利者側の販売制約

権利者に供給能力、販売能力、対象地域での販売実績が乏しい場合です。

競合品の存在

市場に多数の競合品があり、侵害品需要が権利者商品へ移転したとはいえない場合です。

トリニティ事件では、裁判所が38条2項の利益を、侵害サービスの売上額から当該役務提供に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益と整理しました。保証金、礼金、保険料、家賃、媒体掲載料、水道光熱費、備品費等は、対象役務との直接性・追加性・証拠不足などを理由に控除が認められず、売上額と同額が利益と評価されています。

次の比較グラフは、費用控除の立証が認められる場合と認められない場合の見え方を示します。数値そのものは説明用ですが、控除資料が弱いほど、売上に近い金額が利益として評価され得ることを読み取れます。

100%
売上高
70%
控除後利益
100%
控除不十分
Section 04

商標権侵害 損害賠償を相当使用料と取得・維持費用で見る

38条3項・4項・5項は、利益立証が難しい場面の重要な補完ルートです。

商標法38条3項は、登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額を、損害額として請求できる旨を定めます。権利者が自ら商品・役務を販売していない場合、侵害者の費用構造が不透明な場合、主位的な利益主張に不安がある場合に、最低限の損害主張として重要になります。

相当使用料は、売上高に料率を掛ける方法、数量に単位使用料を掛ける方法、固定額、最低保証額、段階別料率、地域別料率、期間別料率などで評価されることがあります。次の表は、料率を決める際の考慮要素を整理したもので、商標の価値と使用態様をどう説明するかが読みどころです。

考慮要素内容
実際のライセンス実績同一又は類似商標を第三者に許諾した契約、料率、地域、期間、独占性。
業界慣行当該業界で一般的な商標ライセンス料率や取引慣行。
商標の顧客吸引力著名性、周知性、広告宣伝実績、ブランド価値、需要者認識。
商品・役務の類似性指定商品・指定役務と侵害商品・役務の近さ。
使用態様商品名、店舗名、広告、パッケージ、ドメイン、検索広告などでの目立ち方。
侵害期間・地域長期・広範囲の使用ほど高く評価され得ます。
品質管理リスクブランド管理上のリスクや品質低下による信用毀損の懸念。
侵害後の仮想合意38条4項により、侵害があったことを前提に合意されるべき対価を考慮できます。

38条4項は、通常の事前ライセンス料を機械的に当てはめるだけではなく、無断使用が発覚し侵害が認定された後の仮想的交渉を考慮できる点に意味があります。警告後継続、意図的模倣、隠蔽、偽造品販売などは、使用料率の評価に影響し得ます。

商標法38条5項は、登録商標又は社会通念上同一の商標を、指定商品又は指定役務について使用する侵害行為に関し、取得及び維持に通常要する費用相当額を損害額として請求できる規定です。次の表は、公的費用の例を整理したもので、高額賠償の主戦場というより、他ルートの立証が難しい場合の補完的な位置づけを読み取るためのものです。

費用金額例意味
商標登録出願料3,400円 + 区分数 × 8,600円出願時の公的費用です。
商標登録料区分数 × 32,900円登録時の公的費用です。
更新登録申請料区分数 × 43,600円更新時の公的費用です。
1区分の新規出願・登録44,900円出願料12,000円と登録料32,900円を単純合算した例です。

弁理士費用、調査費用、拒絶理由対応費用、ブランド管理費用なども実務上発生しますが、38条5項の通常要する費用に含まれるかは、費目の性質、必要性、相当性、証拠の有無で個別に判断されます。類似商標や類似商品・役務の侵害では、同項の適用要件を慎重に確認します。

Section 05

商標権侵害 損害賠償の証拠収集と算定プロセス

対象特定、期間区分、条文選択、数字と因果関係の証拠を順番に整えます。

裁判所は、商標法39条により準用される制度を通じて、具体的態様の明示義務、書類提出、損害計算のための鑑定、相当な損害額の認定などを扱います。もっとも、裁判所が自由に金額を決めるわけではなく、当事者は対象商品、期間、売上、利益率、使用料率、市場状況などの材料をできる限り提出する必要があります。

損害額の議論に入る前に、次の10項目で対象を特定します。この一覧は、対象が曖昧なまま計算すると後で大きく崩れることを避けるためのもので、EC、店舗、広告、サービス提供のどこが問題なのかを切り分ける読み方が重要です。

1

登録商標

商標登録番号、標章、存続期間を確認します。

権利範囲
2

指定商品・指定役務

実際の事業範囲との重なりを見ます。

類似範囲
3

相手方標章

文字、ロゴ、略称、表示位置を特定します。

表示態様
4

商品・役務と使用態様

対象SKU、サービスメニュー、広告、請求書、ECページを分けます。

対象限定
5

期間・地域・チャネル

登録後の使用期間、販売地域、ECモール、店舗、広告媒体を区切ります。

期間管理

次に、計算対象期間を時系列で区切ります。次の時系列は、登録前の使用、警告後の継続、販売停止後の残存表示などを分けるためのもので、どの時点から損害額に入るかを読み取ることが重要です。

登録日

商標権の設定登録

商標権侵害としての損害賠償は、基本的に登録後の使用が中心になります。

開始日

侵害使用の開始

商品ページ、広告、店舗表示、請求書などの初出を確認します。

警告日

警告書送付と認識可能時期

警告後の継続は、悪質性や使用料率の評価に影響し得ます。

停止日

販売停止・広告停止・ページ削除

停止後も在庫販売、検索キャッシュ、SNS拡散が残る場合があります。

解決時点

和解・仮処分・判決

金銭条件だけでなく、将来不使用や在庫処理の実効性を確認します。

条文選択は、権利者が同種商品・役務を販売しているか、単位利益や販売能力を立証できるか、侵害者の売上・利益を把握できるかで変わります。次の判断の流れは、主位的請求と予備的請求を組み合わせるための道筋を示します。

算定ルート選択の判断の流れ

権利者が同種商品・役務を販売しているか

販売している場合は38条1項の検討余地が大きくなります。

はい
単位利益と販売能力を検討

立証できれば1項、侵害者利益が高ければ2項も併用します。

いいえ
侵害者売上と使用料を検討

2項又は3項を中心に、要件が合えば5項も検討します。

主位的請求と予備的請求を組み合わせる

1項1号、1項2号、2項、3項、5項を事案ごとに重ねます。

証拠は、数字の証拠と因果関係の証拠に分けると整理しやすくなります。次の比較表では、売上・費用の資料と、商標が売上に寄与したこと又は寄与していないことを示す資料を分けており、双方の準備範囲を読み取れます。

分類主な証拠使い道
数字の証拠販売数量、売上高、単価、値引き、返品、仕入原価、製造原価、配送費、決済手数料、EC手数料、広告費、在庫数量、期間別・SKU別・店舗別売上38条1項・2項・3項の基礎数値を作ります。
因果関係の証拠周知性、広告宣伝実績、SNS・メディア掲載、混同問い合わせ、苦情、ECレビュー、検索語句、表示の目立ち方、競合品、価格帯、顧客層、別ブランド表示商標の寄与、推定覆滅、数量控除、使用料率の評価に使います。
Section 06

商標権侵害 損害賠償で企業が取る実務対応

権利者側と侵害を疑われた側の初動、交渉、証拠保全、反論を分けて整理します。

権利者側は、相手方のECページや広告が削除される前に、URL、取得日時、取得者を記録したスクリーンショット、テスト購入品、包装、納品書、発送元、出品者ID、商品ID、JANコード、レビュー、ランキング、広告クリエイティブ、店舗写真、レシート、混同問い合わせを保存します。警告書では、損害額を過大に断定せず、現時点の暫定的算定であることを明示し、資料開示後に修正する余地を残すことが実務的です。

侵害を疑われた側は、損害額交渉の前に侵害成立を確認します。登録の有効性、存続期間、指定商品・指定役務、自社商品・役務との類似、自社標章との類似、商標的使用、普通名称・品質表示・自己名称表示、先使用、不使用取消、無効理由、実際の使用期間・数量・売上を整理します。

次の比較表は、双方の初動で確認する事項を並べたものです。立場ごとの優先順位を読み分けることで、証拠保全と交渉戦略を同時に整えやすくなります。

立場初動で行うこと損害額への影響
権利者側表示、URL、日時、購入品、広告、販売価格、レビュー、混同問い合わせを保存する。侵害態様、対象期間、商標の寄与、相当使用料率の立証につながります。
権利者側警告書で登録番号、指定商品・役務、侵害標章、使用態様、根拠条文を明示する。資料開示や和解交渉の起点を明確にします。
疑われた側関連資料を削除せず、対象期間・対象商品・対象チャネルを特定して保全する。対象売上の限定、控除費用、推定覆滅の資料になります。
疑われた側警告後の使用継続を止め、商標的使用や効力制限の反論を検討する。悪質性、使用料率、和解条件の悪化を抑える可能性があります。

損害額への防御は、38条の各ルートに対応させて整理します。次の3つの項目は、どの条文に対して何を争うのかを分けるためのもので、相手方の請求構成を読んだ後の反論整理に使えます。

Article 38-1

38条1項への防御

販売能力、価格・品質差、市場非同一、競合品、別ブランド、商標寄与、単位利益の過大性、返品・非侵害商品の混入を確認します。

Article 38-2

38条2項への防御

対象売上の範囲、非侵害部分、直接・追加費用、権利者損害との因果関係、商標以外の売上要因を整理します。

Article 38-3

38条3項への防御

使用料率の過大性、使用態様の限定性、顧客吸引力、既存ライセンス料率、対象期間・売上の過大主張を確認します。

和解交渉では、裁判で認められる可能性のある金額を基準にしつつ、早期解決、差止め、相手方の支払能力、悪質性、今後の取引関係、レピュテーションリスクを考慮します。金銭だけでなく、将来のブランド毀損を止める条件も重要です。

重要販売資料や広告資料を不用意に削除すると、証拠隠滅と受け取られるおそれがあります。個人情報や営業秘密を含む資料は、マスキング、秘密保持契約、閲覧制限、訴訟上の秘密保持命令などを検討しながら保全します。
Section 07

商標権侵害 損害賠償を会計・税務・内部統制から管理する

損害額算定は、法務だけでなく会計、営業、知財、経営、M&A・IPO対応にも関わります。

商標権侵害の損害賠償額の算定では、売上、原価、利益率、広告費、在庫、返品、チャネル別売上、製造能力、販売予測などの管理会計データが不可欠です。月次試算表や損益計算書だけでは足りず、SKU別、チャネル別、期間別の粒度が求められることがあります。

企業にとって重要な金額になる場合、引当金、偶発債務、注記、適時開示、取締役会報告、監査法人対応が問題になります。上場企業、IPO準備企業、M&A対象会社では、知財紛争はデューデリジェンス上の重要項目です。損害賠償金の支払い・受領の税務処理も、賠償の性質、法人税、消費税、源泉税、国際取引、移転価格で結論が変わります。

次の一覧は、平時から整えるべき管理体制を示します。紛争発生後に数字や証拠を探すのではなく、ブランド、契約、売上、ライセンス、監視の情報を普段から結び付けておく点を読み取れます。

ブランド台帳

主要ブランドの商標登録状況、指定商品・指定役務、更新期限、海外登録を一覧化します。

契約管理

ライセンス契約、代理店契約、共同ブランド契約、終了後使用禁止条項を整理します。

売上・利益データ

ブランド別、SKU別、チャネル別、期間別の売上・利益を取得できる体制を作ります。

監視と通報

ECモール、SNS、広告プラットフォームでの模倣品・無断使用の監視手順を整えます。

近時の裁判例分析では、38条1項に関する裁判例が8件、38条2項に関する裁判例が40件あるとされ、38条2項では平成29年以降、推定覆滅の枠組みで処理する傾向が見られると指摘されています。覆滅・寄与の割合は0から20%程度又は90%以上という両極的な傾向があるとの分析もあります。

次の比較表は、寄与率・覆滅率を左右する事情を権利者側と侵害者側に分けたものです。どちらの事情を証拠で厚くできるかが、売上や利益の数字を最終的な損害額へ変換する場面で重要になります。

権利者に有利な事情侵害者に有利な事情
商標が著名・周知である商標の認知度が低い
商品名・ブランド名として目立つ使用小さな表示、説明的表示、限定的使用
権利者商品と侵害品が直接競合する市場・価格帯・顧客層が異なる
需要者の混同証拠がある混同証拠がない
偽造品・模倣品に近い侵害者独自ブランド・機能が主因
警告後も継続使用した早期停止・善意の是正
権利者に十分な販売能力がある権利者に供給能力がない
侵害者が商標を広告の中心にした商標以外の広告・営業努力が中心

ケース類型ごとの見通しも重要です。偽造品販売では商標が購入理由の中心になりやすく、ECモールのブランド名無断使用では対象売上の範囲、店舗名・サービス名使用では固定費控除や地域市場、互換品表示では商標的使用や効力制限、旧代理店・元ライセンシーでは過去料率や契約終了後の使用が問題になります。

和解契約では、次の条件を金銭条件と一体で確認します。この一覧は、和解金だけではブランド毀損を止めきれない場合があるため、将来不使用と再発防止を読み落とさないために重要です。

将来の使用停止

商標、類似表示、広告、ECページ、SNS投稿、店舗名、ドメイン名を対象にします。

差止め

在庫廃棄・ラベル除去

在庫品、包装、同梱物、販促物の処理方法と報告義務を定めます。

在庫

和解金・支払条件

支払期限、分割払い、期限の利益喪失、再違反時の違約金を設計します。

金銭

秘密保持と清算条項

誹謗中傷禁止、権利非争い、管轄裁判所、関連会社への周知を確認します。

合意管理
Section 08

商標権侵害 損害賠償でよくある誤解

売上高、同一文字、通常料率、ページ削除、社内体制に関する誤解を一般情報として整理します。

以下のFAQは、企業法務でよく問題になる誤解を一般的な制度説明として整理するものです。具体的な結論は、登録商標、指定商品・役務、使用態様、証拠、契約、時期によって変わるため、個別の見通しや対応方針は弁護士・弁理士等の専門家に相談する必要があります。

FAQ 01

侵害者の売上高がそのまま損害額になりますか

一般的には、38条2項では侵害者の利益が損害額と推定されるのであり、売上高そのものではありません。ただし、控除費用の直接性・追加性を十分に説明できない場合、売上高に近い金額が利益と評価される可能性があります。具体的な対応は、会計資料と対象売上を整理したうえで専門家へ相談する必要があります。

FAQ 02

登録商標と同じ文字なら常に高額賠償になりますか

一般的には、同じ文字であっても、指定商品・役務との関係、商標的使用、効力制限、需要者の認識、商標の顧客吸引力によって結論が変わります。商標が売上にどの程度寄与したかも損害額に影響します。具体的には、使用態様と証拠関係を確認する必要があります。

FAQ 03

相当使用料は通常のライセンス料と同じですか

一般的には、通常の事前ライセンス料が重要な参考資料になります。ただし、38条4項により、侵害があったことを前提として当事者間で合意されるべき対価も考慮されます。無断使用の経緯、警告後の継続、ブランド価値によって評価は変わる可能性があります。

FAQ 04

警告後にページを削除すれば損害はなくなりますか

一般的には、ページ削除や販売停止は将来損害の抑制に重要ですが、過去の侵害による損害が当然に消えるわけではありません。販売数量、広告効果、ブランド毀損、在庫販売、検索キャッシュ、SNS拡散などが問題になる可能性があります。具体的な整理は、時系列と証拠を確認して行う必要があります。

FAQ 05

法務部門だけで精密に計算できますか

一般的には、損害額算定には知財、営業、EC運営、マーケティング、経理、管理会計、税務、内部監査、外部専門家の連携が必要になることが多いとされています。売上、利益、顧客吸引力、証拠保全を横断して確認する必要があります。

商標権侵害の損害賠償額は、売上高ではなく、利益、数量、使用料、因果関係、推定覆滅を経て決まります。商標の顧客吸引力、権利者の販売能力、侵害者の限界利益、使用料率、証拠保全、会計資料、和解条件を一体で見ることが、企業法務上の基本姿勢になります。

最後に、押さえるべき原則を一覧にします。この一覧は、訴訟前の検討、警告書、資料開示、和解交渉、取締役会報告で、論点の抜け漏れを確認するために使えます。

実務原則確認すること
売上高は出発点利益、数量、使用料、因果関係、推定覆滅を経て損害額になります。
顧客吸引力が重要商標が売上にどれだけ寄与したかを証拠で示します。
38条1項は販売能力と単位利益権利者がどれだけ売れたか、売れなかった事情があるかを検討します。
38条2項は限界利益と推定覆滅控除費用と因果関係の反論を資料で整理します。
38条3項は最低限の損害主張過去ライセンス、業界慣行、商標価値、侵害後の仮想交渉を踏まえます。
38条5項は補完的に使う同一商標・指定商品役務同一の場面で取得・維持費用相当額を検討します。
初動の証拠保全が鍵ECページ、広告、販売資料、会計資料、混同証拠を早期に保存します。
和解では金額以外も重要将来不使用、在庫処理、広告削除、再発防止、違約金、秘密保持を設計します。
Reference

参考資料

商標法38条、商標権侵害の救済、裁判例、研究資料を確認するための資料名です。

公的資料・法令

  • 特許庁「商標権侵害への救済手続」
  • Japanese Law Translation「Trademark Act」Article 1
  • Japanese Law Translation「Trademark Act」Article 2
  • Japanese Law Translation「Trademark Act」Articles 25 and 26
  • Japanese Law Translation「Trademark Act」Article 38
  • Japanese Law Translation「Trademark Act」Article 39
  • 特許庁「産業財産権関係料金一覧」

裁判例・研究資料

  • 東京地方裁判所令和5年6月21日判決「地力の素」事件
  • 東京地方裁判所令和6年4月26日判決「トリニティ」事件
  • 金子敏哉「商標法38条1項1号・2項による損害額の算定と商標権の保護法益」PATENT STUDIES No.76
  • 『商標・意匠・不正競争判例百選〔第2版〕』小僧寿し事件