2σ Guide

不当廉売(ダンピング)の
判断と反論

独占禁止法上の不当廉売と国際取引上の不当廉売関税を分け、価格・費用基準、継続性、市場影響、正当理由、証拠化、反論書まで実務の順番で整理します。

4要件国内不当廉売の軸
253件令和6年度の注意
2026年4月AD迂回防止制度
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不当廉売(ダンピング)の 判断と反論

安売りは原則として適法ですが、費用割れ・継続性・市場影響・正当理由を分けて確認する必要があります。

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不当廉売(ダンピング)の 判断と反論
安売りは原則として適法ですが、費用割れ・継続性・市場影響・正当理由を分けて確認する必要があります。
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  • 不当廉売(ダンピング)の 判断と反論
  • 安売りは原則として適法ですが、費用割れ・継続性・市場影響・正当理由を分けて確認する必要があります。

POINT 1

  • 不当廉売(ダンピング)の判断と反論の全体像
  • 1. 対象商品・期間・地域を特定:価格施策の範囲を確定します。
  • 2. 実質価格と費用を比較:ポイント、送料、リベート、配送費などを反映します。
  • 3. 継続性と市場影響を確認:期間、数量、商圏、競争者数、意図を見ます。
  • 4. 証拠保全と専門検討:資料を保全し、追加値下げや広告表現を審査します。
  • 5. 合理性を記録化:価格決定時点の目的、資料、確認結果を残します。

POINT 2

  • 不当廉売(ダンピング)の法的構造
  • 法定不当廉売と一般指定6項を分け、競争者保護ではなく競争過程保護の観点から整理します。
  • 同等に効率的な事業者でも耐えられない価格か
  • 独占禁止法は、公正かつ自由な競争を促進するため、私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法を禁止しています。
  • 不当廉売は、このうち不公正な取引方法に位置づけられます。

POINT 3

  • 不当廉売(ダンピング)の4要件
  • 価格・費用基準、継続性、事業活動困難化のおそれ、正当理由を資料ベースで確認します。
  • 第1要件 ― 価格・費用基準
  • 第2要件 ― 継続性
  • 第3要件 ― 事業活動を困難にさせるおそれ

POINT 4

  • 一般指定6項と不当廉売(ダンピング)の広いリスク
  • 有力事業者による大量販売
  • 市場シェアの高い事業者が、競合の主力商品を継続的かつ大量に低価格販売する場面です。
  • 主力商品への集中
  • 競合他社にとって経営上重要な商品だけを狙う場合、競争秩序への影響が問題になりやすくなります。

POINT 5

  • 不当廉売(ダンピング)の原価分析実務
  • 1. 対象商品・役務を特定:廉売と指摘された商品、サービス、SKU、契約条件、販売チャネルを確定します。
  • 2. 廉売期間を特定:開始日、終了日、延長有無、広告掲載期間、価格復帰状況を整理します。
  • 3. 実質販売価格を算定:表示価格だけでなく、クーポン、ポイント、送料、リベート、返品条件を反映します。
  • 4. 供給に連動する費用を抽出:対象商品を供給しなければ発生しない費用、数量に応じて増減する費用、密接関連費用を切り分けます。
  • 5. 単価比較と感応度分析:期間別、地域別、顧客別、チャネル別に比較し、根拠資料番号まで結びます。

POINT 6

  • 不当廉売(ダンピング)を主張する側の立証戦略
  • 申告・差止め・損害賠償を検討する前に、価格、期間、数量、原価推計、市場影響を証拠化します。
  • 公正取引委員会への申告
  • 令和6年度に253件の注意
  • 民事差止め・損害賠償

POINT 7

  • 不当廉売(ダンピング)を疑われた企業の反論戦略
  • 1. 対象を確定:商品、価格、期間、地域、顧客、チャネルを特定します。
  • 2. 資料を保全:販売データ、仕入データ、原価資料、契約書、広告、社内メール、チャット、価格決裁資料を保存します。
  • 3. 意図を示す表現を確認:競合排除を示唆する文言がないか確認し、追加値下げや広告表現を一時的に審査します。
  • 4. 窓口を一本化:公取委、取引先、メディア対応の窓口をそろえ、時系列に基づく説明を準備します。

POINT 8

  • 不当廉売(ダンピング)リスクを下げる価格施策の設計
  • 競合近隣だけの赤字価格
  • 競合店舗の近隣だけで赤字価格を設定すると、競合排除目的を疑われやすくなります。
  • 競合主力商品だけの長期値下げ
  • 競合の粗利源や主力商品を狙った長期値下げは、市場への影響が問題になりやすくなります。

まとめ

  • 不当廉売(ダンピング)の 判断と反論
  • 不当廉売(ダンピング)の判断と反論の全体像:安売りは原則として適法ですが、費用割れ・継続性・市場影響・正当理由を分けて確認する必要があります。
  • 不当廉売(ダンピング)の法的構造:法定不当廉売と一般指定6項を分け、競争者保護ではなく競争過程保護の観点から整理します。
  • 不当廉売(ダンピング)の4要件:価格・費用基準、継続性、事業活動困難化のおそれ、正当理由を資料ベースで確認します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

不当廉売(ダンピング)の判断と反論の全体像

安売りは原則として適法ですが、費用割れ・継続性・市場影響・正当理由を分けて確認する必要があります。

不当廉売(ダンピング)の判断と反論では、まず安売りそのものと、競争秩序を害するおそれのある低価格販売を分けて考える必要があります。効率化、物流改善、品質維持を伴う低価格は価格競争の中心ですが、採算を度外視して競争者を市場から排除し、または事業活動を困難にさせるおそれがある場合には、独占禁止法上の問題になります。

このページでは、国内市場の低価格販売を扱う独占禁止法上の不当廉売と、輸入品・輸出品をめぐる不当廉売関税を分けて整理します。どちらの制度を見ているのかを誤ると、集める証拠、費用分析、当局対応、反論の組み立てがずれてしまうため、最初に制度の射程を確認することが重要です。

次の比較一覧は、不当廉売(ダンピング)という言葉に含まれる2つの制度を表しています。制度を取り違えると実務対応が大きく変わるため、価格を何と比べるのか、どの被害を問題にするのかを読み取ってください。

Domestic

独占禁止法上の不当廉売

国内市場で、供給に要する費用を著しく下回る対価による継続供給などが問題になります。企業法務で「赤字販売ではないか」と相談される場面の中心です。

Trade

不当廉売関税

輸出価格が輸出国の正常価格より低く、輸入国の国内産業に損害が生じる場合に、割増関税の対象となる制度です。通商法務・海外調査対応の領域です。

この記事の基本姿勢は、単なる価格の低さではなく、価格と費用の関係、継続性、市場への影響、正当な理由を分解して検討することです。反論側も主張側も、感覚的な「安すぎる」「正当な値下げだ」という説明だけでは足りず、当時の資料と数値をつないで説明する必要があります。

判断の入口では、どの論点を先に確認するかが重要です。次の判断の流れは、国内不当廉売で最初に検討する順番を表しており、各段階で資料不足があれば結論を急がないことを読み取ってください。

国内不当廉売の初期判断

対象商品・期間・地域を特定

価格施策の範囲を確定します。

実質価格と費用を比較

ポイント、送料、リベート、配送費などを反映します。

継続性と市場影響を確認

期間、数量、商圏、競争者数、意図を見ます。

懸念あり
証拠保全と専門検討

資料を保全し、追加値下げや広告表現を審査します。

説明可能
合理性を記録化

価格決定時点の目的、資料、確認結果を残します。

Section 01

不当廉売(ダンピング)の法的構造

法定不当廉売と一般指定6項を分け、競争者保護ではなく競争過程保護の観点から整理します。

独占禁止法は、公正かつ自由な競争を促進するため、私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法を禁止しています。不当廉売は、このうち不公正な取引方法に位置づけられます。

次の表は、独占禁止法上の不当廉売を理解するための2つの根拠を表しています。法定不当廉売と一般指定6項では射程が異なるため、どちらの枠組みで問題にされているのかを読み取ることが重要です。

区分根拠概要実務上の意味
法定不当廉売独占禁止法2条9項3号正当な理由なく、供給に要する費用を著しく下回る対価で継続供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある行為です。価格・費用基準、継続性、事業活動困難化のおそれ、正当理由が中心論点になります。
一般指定6項不公正な取引方法6項法定不当廉売に該当する行為のほか、不当に低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある行為です。可変的性質を持つ費用を下回らない場合や単発的な廉売でも、市場への悪影響が強いと問題化し得ます。

不当廉売(ダンピング)の判断と反論では、単に「安いかどうか」ではなく、価格がどの費用を下回っているのか、継続的・反復的な供給なのか、競争者等の事業活動を困難にさせる具体的可能性があるのか、正当な理由があるのかを分解します。

基本思想独占禁止法は競争者そのものではなく、公正で自由な競争過程を保護します。効率的な企業が低価格で販売し、非効率な企業が退出すること自体は、通常、競争法上の問題ではありません。

費用比較では、業界一般の費用や競争者の費用ではなく、原則として廉売行為者自身の費用構造が検討対象になります。競争者が「自社の原価では赤字だから相手も不当廉売だ」と主張しても、それだけでは足りません。

次の重要ポイントは、価格競争と不当廉売を分ける実務上の境目を表しています。読者は、競争者の利益が減ることと、競争秩序が害されることを混同しない点を読み取ってください。

同等に効率的な事業者でも耐えられない価格か

不当廉売規制が問題にするのは、同等に効率的な事業者であっても供給を続ければ損失が拡大し、撤退または参入断念を余儀なくされるような価格設定です。

Section 02

不当廉売(ダンピング)の4要件

価格・費用基準、継続性、事業活動困難化のおそれ、正当理由を資料ベースで確認します。

国内不当廉売の中心は、価格・費用基準、継続性、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ、正当な理由の4要件です。いずれか一つだけで結論を出すのではなく、対象商品、対象期間、対象市場ごとに資料をそろえて検討します。

第1要件 ― 価格・費用基準

「供給に要する費用」は、抽象的な標準原価ではなく、廉売行為者が当該商品・役務を供給するために負担する費用です。販売業では仕入原価に販売費および一般管理費を加えた総販売原価、製造業では製造原価・販売費・一般管理費の配賦、役務提供業では人件費、外注費、システム利用料、配送費、保守費、決済手数料、サポート費などが問題になります。

次の表は、業態ごとに可変的性質を持つ費用になりやすい項目を整理したものです。価格と比べる費用を誤ると反論全体が崩れるため、どの費用が供給量や対象商品と結びつくのかを読み取ってください。

業態可変的性質を持つ費用になりやすいもの留意点
小売業仕入価格、仕入に付随する運送費・検収費、決済手数料、商品別配送費仕入価格は名目価格ではなく、値引き、リベート、現品添付等を考慮した実質価格で見ます。
製造業直接材料費、直接労務費、直接経費、対象製品供給と密接に関連する製造原価対象製品供給と明らかに関連しない費用を含めるかは争点になります。
EC・プラットフォーム決済手数料、配送補助、梱包費、返品処理費、販売ごとに発生するポイント負担ポイント、クーポン、送料込み価格を実質価格として評価する必要があります。
SaaS・デジタルサービスユーザー増加に応じて増えるクラウド利用料、サポート費、決済費、本人確認費固定開発費を直ちに単価へ配賦してよいかは慎重な分析が必要です。
物流・役務運転者稼働費、外注費、燃料費、荷扱費、配送単位で発生する保険・決済費混載・共同配送では、対象サービスへの配賦方法が争点化しやすくなります。

反論の起点は、相手方の原価推計が正しいかどうかです。リベート、数量割引、年度末値引き、物流一括契約による値引き、税抜・税込、送料込み・送料別、ポイント付与後の実質負担、セット販売や会員価格、固定費の過大配賦、広告費の扱い、対象商品と別商品の費用混同を確認します。

第2要件 ― 継続性

法定不当廉売では、低価格供給が継続して行われる必要があります。相当期間にわたり繰り返して廉売を行うこと、または営業方針等から客観的にそれが予測されることが問題になります。毎日連続している必要はなく、毎週末の特売でも需要者の購買状況によっては継続供給と評価され得ます。

次の表は、継続性への反論で使われやすい事情を整理したものです。形式的な限定表示だけでなく、実際の販売量・補充・終了実績を確認する必要があるため、証拠として何を見ればよいかを読み取ってください。

反論方向具体的事情
単発性開店記念、創業祭、在庫処分、決算前の限定キャンペーン、数量限定販売であること。
期間限定性明確な開始日・終了日があり、終了後は通常価格に戻っていること。
対象限定性特定店舗、特定SKU、旧モデル、賞味期限間近商品などに限られること。
予測可能性の不存在営業方針として反復継続する意思がなく、広告・社内資料にも継続販売方針がないこと。
市場影響の限定性競合の主要販売時期・主要商圏に持続的影響を与えるものではないこと。

第3要件 ― 事業活動を困難にさせるおそれ

不当廉売は、相手方が実際に倒産した場合に限られません。諸般の状況から事業活動を困難にさせる具体的可能性が認められる場合を含み、廉売行為者の規模、態様、数量、期間、広告宣伝、商品の特性、意図・目的などが総合考慮されます。

次の表は、市場への影響を基礎づけやすい事情と反論に使いやすい事情を並べています。競争者の利益減少だけでは足りないため、市場地位、数量、期間、商品特性、意図、市場状況のどこに証拠があるかを読み取ってください。

要素不当廉売を基礎づけやすい事情反論に使いやすい事情
市場地位高い市場シェア、資金力、全国的販売網、垂直統合市場シェアが低い、新規参入者である、販売能力が限定的
廉売数量競合商圏に大量供給、主要需要期に集中数量限定、限定店舗、サンプル的販売
廉売期間長期間、反復継続、終了見込みなし短期間、在庫処分、明確な終了日
商品特性競合他社の主力商品、粗利源、差別化困難商品ニッチ商品、旧モデル、代替品が多数、差別化可能
意図・目的競合排除を示す社内文書、競合商圏だけの廉売需要喚起、在庫処分、新規顧客獲得、効率化還元
市場状況参入障壁が高い、競争者の資金力が弱い競争者多数、参入容易、価格以外の競争要素が大きい

第4要件 ― 正当な理由

価格・費用基準、継続性、事業活動困難化のおそれが問題となる場合でも、廉売を正当化する特段の事情があれば不当廉売にはならない可能性があります。需給関係による価格低落、再調達価格の低下、市況対応、想定困難な原材料価格高騰、生鮮食料品、季節商品、きず物、はんぱ物、瑕疵ある商品の相応の低価格などが検討対象です。

次の表は、正当理由を主張する際に必要となる証拠を整理したものです。抽象的な説明だけでは不十分なため、価格決定時点の合理性をどの資料で裏付けるかを読み取ってください。

正当理由必要な証拠
在庫処分在庫年齢表、滞留在庫リスト、保管費、廃棄予定、販売期限
生鮮・劣化リスク賞味期限、消費期限、品質低下データ、廃棄実績
季節商品シーズン終了日、販売ピーク、過年度の値下げ慣行
旧モデル処分新モデル発売日、型落ち情報、メーカー価格改定通知
市況対応市場価格データ、競合価格推移、原材料市況、再調達価格
契約上の不可避性価格決定時点、原材料調達時点、想定外のコスト変動資料
試験販売期間・数量限定の事業計画、終了後価格、検証目的
注意正当理由は、「安くしたかった」では足りません。その価格にすることが事業上合理的で、公正競争を害する目的・効果とは異なることを資料で示す必要があります。
Section 03

一般指定6項と不当廉売(ダンピング)の広いリスク

法定不当廉売に満たない場合でも、市場への悪影響が強い価格施策は別枠で検討されます。

法定不当廉売に該当しない場合でも、一般指定6項により不当廉売と評価される可能性があります。可変的性質を持つ費用以上であっても総販売原価を下回る価格で供給する場合や、可変的性質を持つ費用を下回る価格で単発的に供給する場合には、対象商品の特性、意図・目的、廉売の効果、市場全体の状況等を見ます。

次の一覧は、一般指定6項の検討が必要になりやすい場面を表しています。可変費を下回っていないという一点だけで安心せず、競争上の決定的局面や競合主力商品への集中がないかを読み取ってください。

有力事業者による大量販売

市場シェアの高い事業者が、競合の主力商品を継続的かつ大量に低価格販売する場面です。

主力商品への集中

競合他社にとって経営上重要な商品だけを狙う場合、競争秩序への影響が問題になりやすくなります。

特定地域・特定顧客

競合商圏や大口顧客だけに低価格を提示すると、排除意図を疑われやすくなります。

需要期・入札・大型契約

単発でも競争上決定的な局面で低価格を提示すると、一般指定6項の検討対象になり得ます。

反論側は、可変的性質を持つ費用を下回っていないことに加え、販売数量が限定的であること、競争者が多数存在すること、価格以外の競争要素があること、対象商品が競合の主力商品ではないこと、正当目的が資料化されていることを整理します。

Section 04

不当廉売(ダンピング)の原価分析実務

法務と会計が同じ対象・期間・数量で価格と費用を再構成します。

不当廉売(ダンピング)の判断と反論における原価分析は、通常の経営管理とは目的が異なります。経営管理では事業部利益、限界利益、営業利益、投資回収、資金繰りが重視されますが、不当廉売では当該商品・役務の供給に伴ってどの費用が発生するか、価格がどの費用を下回るかが中心です。

次の時系列は、法務と会計が共同で原価分析を進める順番を表しています。手順を飛ばすと価格比較の前提が崩れるため、対象、期間、実質価格、費用抽出、証拠化の順番を読み取ってください。

Step 01

対象商品・役務を特定

廉売と指摘された商品、サービス、SKU、契約条件、販売チャネルを確定します。

Step 02

廉売期間を特定

開始日、終了日、延長有無、広告掲載期間、価格復帰状況を整理します。

Step 03

実質販売価格を算定

表示価格だけでなく、クーポン、ポイント、送料、リベート、返品条件を反映します。

Step 04

供給に連動する費用を抽出

対象商品を供給しなければ発生しない費用、数量に応じて増減する費用、密接関連費用を切り分けます。

Step 05

単価比較と感応度分析

期間別、地域別、顧客別、チャネル別に比較し、根拠資料番号まで結びます。

実質販売価格の算定

不当廉売の判断では、店頭表示価格だけでは不十分です。クーポン、ポイント還元、キャッシュバック、送料無料、セット割引、ボリュームディスカウント、期間限定値引き、下取り値引き、リベート、返品・返金条件、取引条件の有利化を反映する必要があります。

次の比較表は、表示価格と実質価格のずれを生む要素を表しています。価格表だけでは廉売の有無を判断できないため、読者は各項目が売主負担を増やすのか、実質費用を下げるのかを読み取ってください。

要素実質価格への影響確認資料
ポイント・クーポン買主の実質負担を下げ、売主側の経済条件に影響します。販促条件、EC設定画面、会員規約
送料自社負担表示価格が同じでも、配送費負担により実質条件が変わります。配送契約、送料設定、出荷実績
メーカー協賛金対象商品に直接対応する値引きか、別目的の販促金かを分けます。協賛契約、請求書、会計処理
セット販売商品単体の表示価格だけでなく、取引全体の経済的実態を見ます。セット条件、同梱商品、販売実績
返品・返金条件返品処理費や返金リスクが対象供給に結びつく場合があります。返品規程、返金実績、処理費用

固定費・共通費・広告費の扱い

既存店舗の家賃、既存社員の固定給、本社管理部門費、過去に支出済みのシステム開発費は、対象商品を追加供給しなくても発生する費用であることが多く、可変的性質を持つ費用として当然に扱うことはできません。一方、特定キャンペーンのために追加雇用した販売員、注文処理のための外注費、販売がなければ発生しない配送費は、可変的性質を持つ費用として扱われやすくなります。

広告費は特に難しい論点です。次の一覧は、広告費・共通費を検討する際の切り分けを表しています。どの費用が対象商品の供給と密接に関連するのかを読み取ることが、反論書の説得力に直結します。

Fixed

既存固定費

既存店舗の家賃、過去の開発費、本社管理部門費などは、追加供給がなくても発生する費用として整理できる場合があります。

Variable

追加供給費用

注文処理外注費、配送費、追加販売員、決済手数料などは、対象商品の販売数量と結びつく費用として検討します。

Ads

広告費

一般的なブランド広告と、対象商品の供給開始・継続に不可避な集中的広告費を分けて整理します。

実務会計上の売上原価、管理会計上の限界利益、税務上の損金、独禁法上の可変的性質を持つ費用は目的が異なります。法務、会計、税務、営業、物流が同じ対象期間と同じ数量で資料をそろえることが重要です。
Section 05

不当廉売(ダンピング)を主張する側の立証戦略

申告・差止め・損害賠償を検討する前に、価格、期間、数量、原価推計、市場影響を証拠化します。

競合他社による不当廉売を疑う場合、感情的に「安すぎる」と主張しても実務上は弱くなります。廉売価格、期間、数量、原価推計、商圏、市場、競争影響、意図、正当理由の不存在を、証拠として整理する必要があります。

次の表は、不当廉売を主張する側が最初に集めるべき資料を表しています。どの要件をどの証拠で支えるのかを読み取ることで、申告書や差止め検討の土台を作れます。

項目収集すべき資料
廉売価格レシート、見積書、請求書、EC画面、チラシ、広告、契約書
廉売期間価格推移表、広告掲載期間、店舗調査記録、ウェブアーカイブ
廉売数量店頭在庫、販売数量推計、入札結果、出荷量、顧客からの情報
原価推計業界標準仕入価格、メーカー価格表、卸価格、物流費、人件費
商圏・市場地域、顧客層、チャネル、代替品、競合数、シェア
競争影響自社売上減少、粗利低下、顧客喪失、店舗閉鎖、取引停止
意図・目的相手方の発言、社内外資料、競合排除を示唆する広告・営業トーク
正当理由の不存在対象商品が通常品である、在庫処分でない、期間限定でない等

公正取引委員会への申告

公正取引委員会への申告は、違反行為の被害者でなくても行うことができます。不当廉売または差別対価については、行為者名、店舗名・給油所名、商品名称、販売価格、廉売期間、廉売を推認させる情報、文書・写真・チラシ等の資料をできる限り明らかにすることが望ましいとされています。

申告書では、申告者情報、被申告者情報、対象商品・役務、対象地域・商圏、価格と期間、原価割れと考える理由、継続性、事業活動困難化のおそれ、正当理由がないと考える事情、添付証拠一覧、希望する措置を整理します。

次の重要数値は、行政実務で不当廉売の相談・申告が一定数処理されていることを表しています。制度利用の可能性を考える際には、処理件数だけでなく、証拠の具体性と対象業種の実態を読み取ることが重要です。

令和6年度に253件の注意

公正取引委員会は、酒類、石油製品、家庭用電気製品等の小売業に係る不当廉売の申告について、不当廉売につながるおそれがあるとして253件の注意を行ったと公表しています。迅速処理は原則2か月以内に処理する方針に基づくものと説明されています。

民事差止め・損害賠償

独占禁止法24条は、不公正な取引方法等により利益を侵害され、著しい損害を生じ、または生ずるおそれがある者に、侵害の停止または予防を請求する権利を認めています。25条は一定の独占禁止法違反について損害賠償責任を定めていますが、26条により、25条に基づく損害賠償請求権は原則として排除措置命令または一定の納付命令が確定した後でなければ裁判上主張できません。

次の表は、被害企業が取り得る手段と留意点を表しています。行政申告と民事手続では目的と立証負担が異なるため、自社が何を実現したいのかを読み取って選択する必要があります。

手段長所留意点
公取委への申告行政調査により相手方資料へアクセスできる可能性があります。申告者が処分をコントロールできるわけではありません。
独禁法24条の差止請求価格行為の停止・予防を直接求め得ます。著しい損害のおそれ、違反行為の立証が必要です。
独禁法25条の損害賠償無過失責任の枠組みです。原則として命令確定後でなければ裁判上主張できません。
民法709条の損害賠償命令確定を待たない構成が理論上あり得ます。故意・過失、違法性、損害、因果関係の立証負担が重くなります。
取引先・業界団体への説明風評被害を防ぎ、取引継続を確保しやすくなります。共同ボイコットや価格調整に注意が必要です。
Section 06

不当廉売(ダンピング)を疑われた企業の反論戦略

初動では資料保全、意図表現の確認、価格と費用の再構成、窓口一本化を急ぎます。

不当廉売を疑われた企業は、営業部門だけで対応してはなりません。価格設定の説明は、法務、経理、営業、購買、物流、経営企画、広報が連携して行う必要があります。

次の時系列は、指摘を受けた直後に行う対応を表しています。初動の遅れは資料散逸や不利な表現の拡散につながるため、対象特定、保全、表現確認、窓口一本化の順番を読み取ってください。

Initial 01

対象を確定

商品、価格、期間、地域、顧客、チャネルを特定します。

Initial 02

資料を保全

販売データ、仕入データ、原価資料、契約書、広告、社内メール、チャット、価格決裁資料を保存します。

Initial 03

意図を示す表現を確認

競合排除を示唆する文言がないか確認し、追加値下げや広告表現を一時的に審査します。

Initial 04

窓口を一本化

公取委、取引先、メディア対応の窓口をそろえ、時系列に基づく説明を準備します。

危険表現社内文書に「競合を潰す」「相手が撤退するまで赤字で売る」「資金力で耐えれば勝てる」などの表現がある場合、価格設定の正当性があっても意図・目的に関する資料として不利に働くことがあります。

主要な反論類型

次の一覧は、疑われた企業が組み立てる代表的な反論を表しています。各項目は単独で完結するものではなく、実質価格、費用、期間、市場、損害を相互に結びつけて説明することが重要です。

1

実質価格は可変的費用を下回っていない

仕入値引き、リベート、販売奨励金、共同物流、在庫評価、メーカー協賛金等を反映した実質費用を算定します。

価格費用
2

費用配賦が誤っている

既存店舗の家賃、既存システム開発費、本社管理部門費、ブランド広告費などを機械的に単価配賦していないかを争います。

配賦
3

継続性がない

短期キャンペーン、数量限定、在庫処分、旧モデル処分、賞味期限接近商品の見切り販売であることを示します。

期間
4

正当な理由がある

市況、在庫、季節性、品質劣化、旧モデル、再調達価格の低下などを価格決定時点の資料で説明します。

理由
5

競争秩序への悪影響がない

市場シェアが低い、競争者が多数存在する、参入障壁が低い、数量が限定的であるなどを市場データで示します。

市場
6

商品・市場が異なる

品質、納期、保証、付帯サービス、契約条件、顧客層、販売チャネルの違いを整理します。

市場画定
7

損害・因果関係がない

売上減少が需要減少、品質問題、供給不足、営業力低下、別の新規参入、為替・原材料価格変動によるものかを検討します。

損害

メーカー協賛金等を反論に使う場合には、その性質を慎重に整理します。対象商品の供給に直接対応する値引きなのか、別目的の販促金なのか、会計処理と契約実態が一致しているかが重要です。

Section 07

不当廉売(ダンピング)リスクを下げる価格施策の設計

低価格販売の目的、期間、数量、原価、地域差、表現、証拠を事前に整えます。

価格施策は、価格競争として正当化できる場合もありますが、設計を誤ると不当廉売リスクが高まります。特に、競合商圏、競合主力商品、大口顧客、入札・大型契約などに低価格を集中させる場合は、目的と資料化が重要です。

次の一覧は、リスクが高まりやすい価格施策を表しています。低価格そのものではなく、競合排除目的、対象の集中、期間の長さ、価格回復計画、補填構造が疑われる点を読み取ってください。

競合近隣だけの赤字価格

競合店舗の近隣だけで赤字価格を設定すると、競合排除目的を疑われやすくなります。

競合主力商品だけの長期値下げ

競合の粗利源や主力商品を狙った長期値下げは、市場への影響が問題になりやすくなります。

大口顧客だけへの極端な低価格

競合の重要顧客だけに低価格を提示すると、対象限定の合理性が問われます。

撤退後の価格回復計画

値下げ後に競合が撤退した地域で価格を大きく戻す計画がある場合、意図・目的の説明が難しくなります。

他商品利益による長期補填

赤字商品を長期間補填する構造は、同等に効率的な競争者への影響が問題になり得ます。

履行困難な低価格入札

実行不可能な低価格を入札・大型契約で提示すると、競争法以外の契約リスクも生じます。

価格施策の安全性を高めるには、目的、期間、数量、原価、地域差、表現、証拠、事後確認を設計段階でそろえます。次の表は、価格施策を審査する際の原則を表しており、後から説明を作るのではなく、価格決定時点で何を残すべきかを読み取ってください。

原則実務対応
目的を正当化する在庫処分、需要喚起、効率化還元、旧モデル処分など合理的目的を文書化します。
期間を限定する開始日・終了日を明確にし、延長には再審査を行います。
数量を限定する数量限定の根拠を在庫数・販売計画と一致させます。
原価を確認する可変的性質を持つ費用を下回らないか事前に確認します。
地域差を説明する配送費、需要、競争環境、在庫状況など合理的理由を持ちます。
表現を管理する競合排除目的と受け取られる社内外表現を避けます。
証拠を残す価格決定時点の合理性を示す資料を保存します。
事後確認を行う競合影響、価格復帰、販売数量、利益率を確認します。
Section 08

不当廉売(ダンピング)の業種別論点と裁判例

業種ごとの費用構造と、裁判例・実務例から見た立証の特徴を整理します。

不当廉売(ダンピング)の論点は、業種によって費用構造と証拠が変わります。小売・EC、ガソリン・酒類・家庭用電気製品、SaaS・デジタルサービス、入札・公共調達では、実質価格や可変的費用の捉え方が異なります。

次の一覧は、業種ごとの実務論点を表しています。同じ「低価格」でも、どの費用を見ればよいか、正当理由がどこに出やすいかが異なるため、各業種の費用構造を読み取ってください。

小売・EC

ポイント、クーポン、送料、セット割、タイムセール、在庫処分が組み合わさるため、実質価格の把握が難しくなります。賞味期限間近、旧モデル、外箱破損、返品在庫、季節終了品の値下げには正当理由が認められやすい場合があります。

実質価格

ガソリン・酒類・家庭用電気製品

申告・迅速処理の実務が多い分野です。ガソリン等では、仕入価格、運送費、検収費等の仕入れに付随する諸経費を含む仕入原価が重要になります。

小売
S

SaaS・デジタルサービス

追加ユーザー1人あたりの費用が小さく見える一方、クラウド利用料、認証費、決済費、サポート費、オンボーディング費、データ転送費を整理する必要があります。

限界費用

入札・公共調達

低価格入札が直ちに不当廉売となるわけではありませんが、履行不能水準、競合排除後の値上げ予定、他事業利益による長期補填は複合リスクを生みます。

調達

裁判例・実務例の読み方

不当廉売の裁判例では、原価割れだけで結論が出るのではなく、目的、態様、競争関係、市場状況、立証の程度が問われます。行政申告と民事訴訟では役割も異なり、民事差止めでは原告側の立証負担が重くなりやすい点に注意が必要です。

次の表は、代表的な裁判例・実務例から読み取るべき特徴を表しています。事案名そのものではなく、原価、市場、競争影響、著しい損害のおそれの立証がどう問題になるかを読み取ってください。

事案実務上の示唆
都営芝浦と畜場事件地方公共団体であっても経済活動の主体として独占禁止法の適用を受け得ること、不当廉売該当性は原価割れだけでなく目的、態様、競争関係、市場状況などを総合考慮することを示します。
ゆうパック差止請求事件民事差止めでは、原価、価格体系、市場、競争影響、著しい損害のおそれの立証が難しくなり得ることを示します。
Section 09

不当廉売関税と国際取引上のダンピング対応

国内独禁法の不当廉売とは別に、正常価額・輸出価格・損害・因果関係を検討します。

国際取引でいうダンピングは、国内市場の低価格販売とは異なります。日本から輸出している産品について、日本国内で販売している価格より安い価格で輸出していると、輸出先国から追加的な関税を課される場合があり、このような不当に安値での輸出が不当廉売関税の問題になります。

次の表は、独占禁止法上の不当廉売と不当廉売関税の違いを表しています。価格比較の対象、被害要件、手続、反論方法が異なるため、国内販売の値下げ問題を関税制度と同一視しないことを読み取ってください。

区分独占禁止法上の不当廉売不当廉売関税、アンチダンピング
主な場面国内市場における低価格販売輸入品または日本企業の輸出品に対する貿易救済調査
価格比較廉売行為者の供給費用との比較正常価額、通常は輸出国国内販売価格と輸出価格の比較
被害他の事業者の事業活動困難化のおそれ輸入国国内産業の損害または損害のおそれ
手続公取委調査、排除措置命令、民事差止め等AD調査、暫定措置、最終決定、関税賦課
反論原価、継続性、正当理由、競争影響ダンピング不存在、損害不存在、因果関係不存在、手続違反

AD税を課すための実体的要件は、一般に、ダンピングの有無、輸入国の国内産業における損害の有無、ダンピングと損害の因果関係の3つに整理されます。

次の一覧は、輸出企業側が組み立てる3層の反論を表しています。どの層で争うのかにより、必要な会計データ、販売データ、市場データが変わるため、それぞれの焦点を読み取ってください。

Layer 01

ダンピング不存在

正常価額の算定、比較対象の国内販売、製品仕様、取引段階、販売数量、支払条件、為替換算、輸送費、保険料、関税、販売費調整、サンプル抽出を確認します。

Layer 02

損害不存在

輸入数量、価格差、国内産業の売上、利益、生産高、市場シェア、雇用、設備稼働率、対象産品の範囲を検討します。

Layer 03

因果関係不存在

需要減少、原材料価格上昇、為替、エネルギー費、規制変更、国内事業者間の過当競争、他国輸入、代替品、技術変化を検討します。

AD調査対応の実務

AD調査を受けた企業は、質問状への対応が極めて重要です。調査対応を行わず情報を提供しない場合、利用可能な事実に基づく認定がされ、輸出企業に不利な結果となる可能性があります。

次の一覧は、海外AD調査で早期に組むべき体制を表しています。質問状回答は法務だけで完結しないため、現地対応、会計、営業、生産、IT、翻訳、政府対応の役割を読み取ってください。

現地・日本側の法務対応

輸出国・輸入国の現地弁護士、日本側通商法務弁護士、経済産業省等との連絡窓口を整えます。

法務

会計・原価・販売データ

経理・原価担当、営業・輸出管理担当、生産管理担当が、対象期間と対象産品のデータを抽出します。

数値

証拠管理と回答作成

IT・データ抽出担当、翻訳・証拠管理担当が、質問状回答に耐える形で資料を整理します。

証拠

日本の不当廉売関税制度と2026年改正

日本国内で輸入品に対する不当廉売関税を求める場合には、関税定率法8条、不当廉売関税等に関する政令、手続ガイドライン等を確認する必要があります。令和8年度関税改正では、不当廉売関税に係る迂回防止制度が2026年4月1日に施行されました。

次の一覧は、迂回防止制度で問題になり得る取引類型を表しています。形式的な供給国や品目変更だけでなく、課税命令前と実質的に同様の商取引が続いていないかを読み取ってください。

第三国迂回

供給国を形式的に変更しつつ、実質的には同様の商取引を継続する類型です。

軽微変更迂回

品目を形式的に変更しながら、実質的に課税対象品と近い取引を続ける類型です。

輸入国迂回

半製品輸入や国内仕上げ加工などにより、課税命令前と同様の経済実態が残るかが問題になります。

迂回防止調査では、利害関係者の意見表明機会や除外申請に係る調査を含め、原則10か月以内、必要に応じ最大6か月延長の期間が説明されています。既存のAD関税対象品を扱う企業は、原産国変更、軽微加工、半製品輸入、国内仕上げ加工、第三国経由輸入が迂回と評価されないか確認する必要があります。

Section 10

不当廉売(ダンピング)のチェックリストと反論書

低価格販売側・主張側の確認項目、反論書の構成、社内審査体制を整理します。

不当廉売(ダンピング)の判断と反論では、低価格販売を行う企業側と、不当廉売を受けたと考える企業側で、確認する資料が異なります。どちらの立場でも、価格決定時点の資料と時系列をそろえることが重要です。

次の表は、低価格販売を行う企業側の事前・事後チェック項目を表しています。価格施策を始める前に、目的、対象、実質価格、可変的費用、継続性、市場影響、表現、承認体制を確認すべきことを読み取ってください。

チェック項目確認内容証拠化
価格設定目的在庫処分、需要喚起、効率化還元など正当目的があるか企画書、稟議書、会議資料
対象範囲商品、地域、顧客、期間が限定されているか商品リスト、店舗リスト、キャンペーン条件
実質価格ポイント、送料、クーポン込みで算定したか価格表、販促条件、EC設定画面
可変的費用仕入価格、配送費、決済費等を下回っていないか原価表、仕入契約、請求書
継続性長期・反復販売になっていないか開始日・終了日、販売実績
市場影響競合の主力商品・主力地域を狙っていないか市場分析、商圏分析
表現管理競合排除目的を示す表現がないか社内メール、チャット、広告文言
承認体制法務・経理・営業が確認したか承認ログ、チェックシート

次の表は、不当廉売を受けたと考える企業側のチェック項目を表しています。相手方の価格だけでなく、継続性、原価割れ推計、競争影響、市場地位、意図、正当理由の有無、手続選択まで一体で確認することを読み取ってください。

チェック項目確認内容証拠
相手方の価格いつ、どこで、いくらで販売しているかレシート、見積書、広告、画面保存
継続性どれくらいの期間、反復しているか価格推移表、調査記録
原価割れ推計どの費用を下回ると考えるか仕入価格推計、業界資料
競争影響自社の売上・利益・顧客に影響があるか売上推移、顧客喪失記録
市場地位相手が有力事業者か市場シェア資料、店舗数、販売数量
意図競合排除の発言・資料があるか営業資料、発言記録
正当理由の有無在庫処分等といえるか商品状態、販売期間、数量
手続選択申告、差止め、交渉、訴訟のどれか法務メモ、専門家意見

反論書の基本構成

不当廉売の指摘を受けた場合、反論書では法的主張と会計資料を分離せず、同じ論理で接続します。「可変的費用を下回っていない」と主張するなら、その定義、抽出方法、対象期間、対象数量、根拠資料番号まで明示します。

次の判断の流れは、反論書を組み立てる順番を表しています。事案の概要から法的枠組み、実質価格、費用分析、継続性、正当理由、市場影響、結論へ進むことで、読み手が証拠と主張の対応関係を追えるようになります。

反論書の構成順

事案の概要

対象商品、期間、価格、指摘内容を整理します。

法的判断枠組み

独占禁止法2条9項3号、一般指定6項、4要件を示します。

実質価格と費用分析

表示価格、値引き、ポイント、送料、リベート、可変的費用、固定費・共通費の扱いを説明します。

継続性・正当理由・市場影響

期間限定、数量限定、在庫処分、市況、市場シェア、競争者数、参入状況を整理します。

結論と今後の措置

該当性の評価と、今後のコンプライアンス措置を示します。

企業内コンプライアンス体制

不当廉売リスクは、事後対応よりも事前審査が有効です。大企業、地域有力企業、プラットフォーム事業者、垂直統合企業、資金力のある新規参入企業は、低価格施策の審査体制を整備する必要性が高くなります。

次の表は、社内で担うべき役割を表しています。価格施策は営業だけの判断で進めず、原価確認、法的審査、独禁法リスク評価、市場影響分析、証拠保全、役員報告まで役割を分けることを読み取ってください。

役割担当
価格施策の企画営業、マーケティング、事業部
原価確認経理、管理会計、購買、物流
法的審査法務、企業内弁護士、外部弁護士
独禁法リスク評価コンプライアンス、競争法担当
市場影響分析経営企画、データ分析、外部経済専門家
証拠保全法務、情報システム、リーガルオペレーション
役員報告ゼネラルカウンセル、CLO、取締役会

次の一覧は、低価格施策の審査を開始すべき典型的な兆候を表しています。数値面の異常だけでなく、競合からの警告や役員・営業責任者の発言もリスク評価に含めることを読み取ってください。

粗利・仕入価格の異常

粗利が一定率を下回る、または実質価格が仕入価格を下回る可能性がある場面です。

競合主力地域・商品

競合の主力地域・主力商品を対象にする価格施策です。

長期継続・大量広告

1か月を超えて継続する、または大量広告を伴う低価格施策です。

警告・申告可能性

競合から警告書を受けた、または公取委への申告可能性がある場面です。

競合排除目的の発言

役員・営業責任者が競合排除目的に言及している場合です。

Section 11

不当廉売(ダンピング)でよくある誤解

赤字販売、可変費、市場影響、顧客獲得、AD関税の混同を一般情報として整理します。

不当廉売(ダンピング)では、赤字販売、可変費、市場影響、顧客獲得、アンチダンピング制度について誤解が生じやすくなります。次のQ&Aは一般的な整理であり、個別の価格施策や紛争の結論は、対象商品、対象市場、証拠関係、時期によって変わります。

赤字販売なら必ず違法ですか

一般的には、赤字販売であっても、在庫処分、見切り販売、市況対応、季節商品、旧モデル処分などの正当理由があれば、不当廉売とは限らないとされています。ただし、価格・費用、継続性、市場影響、証拠関係によって結論が変わる可能性があります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

可変的費用を下回っていなければ安全ですか

一般的には、可変的性質を持つ費用を下回っていないことは重要な反論材料になります。ただし、一般指定6項により、総販売原価を下回り、かつ市場シェア、廉売数量、期間、意図・目的、市場への影響等から公正な競争秩序に悪影響を与える場合には、問題となる可能性があります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

競合が困っていれば不当廉売ですか

一般的には、競争者の利益が減少するだけで直ちに不当廉売となるわけではないとされています。重要なのは競争者保護ではなく競争秩序の保護であり、事業活動困難化のおそれ、市場構造、退出可能性、参入阻害などが問題になります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

顧客獲得目的なら問題ありませんか

一般的には、顧客獲得は通常の事業目的です。ただし、採算を度外視し、同等に効率的な競争者を排除するような価格設定で顧客を獲得する場合には、問題となる可能性があります。目的の正当性だけでなく、価格・費用、継続性、市場影響を確認する必要があります。

国内の不当廉売と不当廉売関税は同じですか

一般的には、国内低価格販売の不当廉売と、国際貿易上のアンチダンピングは、価格比較の対象、被害要件、手続、反論方法が異なる制度です。国内販売の値下げ問題を、直ちに不当廉売関税のダンピングと同一視しないことが重要です。具体的な対応は、取引国、対象産品、調査状況に応じて専門家へ相談する必要があります。

Section 12

不当廉売(ダンピング)の判断と反論は統合問題

価格、費用、市場、証拠、通商法務を同じ時間軸で接続して説明することが重要です。

不当廉売(ダンピング)の判断と反論は、単純な価格比較ではありません。国内独占禁止法上は、価格・費用基準、継続性、事業活動困難化のおそれ、正当理由を、対象商品、対象期間、対象市場ごとに精査する必要があります。

特に、可変的性質を持つ費用、実質販売価格、費用配賦、競争影響、社内文書の意図・目的は、実務上の核心です。不当廉売を主張する側は、相手方の価格、期間、数量、原価割れの推計、市場影響を証拠化しなければなりません。不当廉売を疑われた側は、実質価格と費用、正当理由、継続性の不存在、競争秩序への悪影響の不存在を、客観資料に基づき説明する必要があります。

国際取引では、不当廉売関税の制度が別個に存在し、正常価額、輸出価格、損害、因果関係、調査手続への対応が中心となります。2026年4月には日本で不当廉売関税に係る迂回防止制度も創設され、輸入企業・輸出企業・国内産業のいずれにとっても、通商法務上の確認が不可欠となりました。

次の重要ポイントは、不当廉売対応の結論を表しています。低価格施策を説明できる体制は法務だけで作れないため、同じ事実と同じ時間軸を共有することが最も有効なリスク管理であると読み取ってください。

法務・会計・経済分析を同じ時間軸でつなぐ

弁護士、企業内法務、外部弁護士、公認会計士、税理士、経済分析担当、通商法務担当、営業・購買・物流部門が、同じ事実と同じ時間軸に基づき、価格設定の合理性を説明できる体制を構築することが重要です。

このページは公開情報に基づく一般的な解説であり、個別案件についての法的助言ではありません。実際の不当廉売(ダンピング)の判断と反論では、対象商品、対象市場、価格設定経緯、原価構造、証拠状況、当局対応、訴訟戦略により結論が大きく変わるため、具体的には弁護士等の専門家に相談する必要があります。

Reference

参考資料・一次資料

公的機関・法令

  • 公正取引委員会「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」
  • 公正取引委員会「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」
  • 公正取引委員会「不公正な取引方法」
  • 公正取引委員会「不当廉売又は差別対価についての申告について」
  • 公正取引委員会「令和6年度における独占禁止法違反事件の処理状況について」
  • 公正取引委員会「ガソリン等の流通における不当廉売、差別対価等への対応について」
  • 経済産業省「日本企業の海外AD対応について」
  • 経済産業省「貿易救済措置に関する法令一覧」
  • 経済産業省「最近の制度改正」
  • 財務省「令和8年度税制改正(関税)について」

裁判例・判例情報

  • 最高裁平成元年12月14日第一小法廷判決、都営芝浦と畜場事件
  • 裁判所「平成18年1月19日判決言渡し 平成16年(ワ)第20498号 不公正取引差止請求事件」
  • 判例解説「原価割れ料金と正当な理由がないのにの判断 ― 都営芝浦と畜場事件」