2σ Guide

企業結合のセーフハーバー
市場シェア・HHI・実務判断を整理

独占禁止法の企業結合審査で使う市場シェア、HHI、HHI増分、35%基準、垂直型・混合型の見方を一般情報として整理します。

1,500水平型の低集中基準
2,500HHIと35%基準の境界
10%/25%垂直型・混合型の基準
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企業結合のセーフハーバー 市場シェア・HHI・実務判断を整理

独占禁止法の企業結合審査で使う市場シェア、HHI、HHI増分、35%基準、垂直型・混合型の見方を一般情報として整理します。

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企業結合のセーフハーバー 市場シェア・HHI・実務判断を整理
独占禁止法の企業結合審査で使う市場シェア、HHI、HHI増分、35%基準、垂直型・混合型の見方を一般情報として整理します。
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  • 企業結合のセーフハーバー 市場シェア・HHI・実務判断を整理
  • 独占禁止法の企業結合審査で使う市場シェア、HHI、HHI増分、35%基準、垂直型・混合型の見方を一般情報として整理します。

POINT 1

  • 1. 要旨 ― 企業結合のセーフハーバー(市場シェア)の考え方の核心
  • 企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。
  • 35%はセーフハーバーそのものではありません
  • 垂直型企業結合・混合型企業結合については、市場シェアがより直接的に基準として現れます。
  • ここで重要なのは、セーフハーバーは「絶対安全」や「届出不要」と同義ではない、という点です。

POINT 2

  • 2. 企業結合審査の基本構造
  • 企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。
  • 2.1 企業結合とは何か
  • 2.2 企業結合審査が問う「競争を実質的に制限することとなる」とは何か
  • 2.3 水平型・垂直型・混合型の違い

POINT 3

  • 3. セーフハーバーとは何か
  • 企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。
  • 3.1 セーフハーバーの意味
  • 3.2 「市場シェアのセーフハーバー」という言い方の注意点
  • もっとも、セーフハーバーは次のものではありません。

POINT 4

  • 4. 市場シェアを理解する前提 ― 一定の取引分野の画定
  • 企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。
  • 4.1 市場シェアは「どの市場か」を決めなければ意味を持たない
  • 4.2 商品範囲
  • 4.3 地理的範囲

POINT 5

  • 5. 市場シェアの算定方法
  • 企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。
  • 5.1 基本式
  • 5.2 最新の市場シェアを原則とする
  • 5.3 当事会社グループ単位で見る

POINT 6

  • 6. HHIの基本 ― 市場シェアを二乗して合計する理由
  • 企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。
  • 6.1 HHIとは何か
  • 6.2 なぜ市場シェアを二乗するのか
  • 6.3 HHI増分

POINT 7

  • 7. 水平型企業結合のセーフハーバー基準
  • 企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。
  • 7.1 基準の全体像
  • 7.2 HHI1,500以下 ― 低集中市場
  • 7.3 HHI1,500超2,500以下かつ増分250以下 ― 中程度集中市場で小さな変化

POINT 8

  • 8. 垂直型企業結合のセーフハーバー基準
  • 企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。
  • 8.1 垂直型企業結合の問題構造
  • 8.2 垂直型のセーフハーバー
  • 8.3 垂直型の計算・検討例

まとめ

  • 企業結合のセーフハーバー 市場シェア・HHI・実務判断を整理
  • 1. 要旨 ― 企業結合のセーフハーバー(市場シェア)の考え方の核心:企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。
  • 2. 企業結合審査の基本構造:企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。
  • 3. セーフハーバーとは何か:企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

1. 要旨 ― 企業結合のセーフハーバー(市場シェア)の考え方の核心

企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。

企業結合のセーフハーバー(市場シェア)の考え方を一言でいえば、企業結合後の市場構造が一定の低リスク水準に収まる場合には、通常、競争を実質的に制限することとは考えられない、という審査上の目安です。

ただし、日本の企業結合審査では、水平型企業結合について「市場シェアだけ」でセーフハーバーを判定するのではなく、原則としてHHI(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)HHIの増分を用います。市場シェアは、HHIを計算する素材であると同時に、当事会社グループの市場における地位、競争者との格差、垂直型・混合型企業結合のセーフハーバー判定などで中心的な意味を持ちます。

公正取引委員会の企業結合ガイドライン上、水平型企業結合では、次のいずれかを満たす場合、通常、競争を実質的に制限することとは考えられません。

次の比較表は、この章の項目と実務上の意味を整理したものです。確認漏れを防ぐため、列ごとの違いと優先順位を読み取ってください。

類型企業結合後HHIHHI増分位置づけ
11,500以下問わない水平型企業結合のセーフハーバー
21,500超2,500以下250以下水平型企業結合のセーフハーバー
32,500超150以下水平型企業結合のセーフハーバー

また、上記のセーフハーバーに該当しない場合でも、企業結合後HHIが2,500以下であり、かつ企業結合後の当事会社グループの市場シェアが35%以下である場合には、過去の事例に照らして、競争を実質的に制限することとなるおそれは小さいと通常考えられる、とされています。

垂直型企業結合・混合型企業結合については、市場シェアがより直接的に基準として現れます。すなわち、当事会社が関係するすべての一定の取引分野で、企業結合後の当事会社グループの市場シェアが10%以下である場合、または企業結合後HHIが2,500以下で当事会社グループの市場シェアが25%以下である場合には、通常、競争を実質的に制限することとは考えられません。

ここで重要なのは、セーフハーバーは「絶対安全」や「届出不要」と同義ではない、という点です。市場シェアに反映されないデータ、知的財産権、潜在的競争力、ネットワーク効果、当事会社間の近接性、顧客の切替困難性などがある場合には、数値上セーフハーバーに近くても慎重な検討が必要です。公正取引委員会のガイドラインも、当事会社が競争上重要なデータや知的財産権等の資産を有するなど、市場シェアに反映されない高い潜在的競争力を有する場合には、各判断要素の検討が必要となることがあると明示しています。

次の重要表示は、35%基準と垂直型・混合型の基準をまとめています。数値が似ていても意味が違うため、セーフハーバーそのものか、おそれが小さい範囲かを読み分けてください。

35%はセーフハーバーそのものではありません

水平型では、企業結合後HHIが2,500以下で当事会社グループの市場シェアが35%以下なら、おそれが小さい範囲として扱われます。垂直型・混合型では、市場シェア10%以下、またはHHI2,500以下かつ市場シェア25%以下が基準です。

Section 01

2. 企業結合審査の基本構造

企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。

2.1 企業結合とは何か

企業結合とは、複数の企業が株式取得、合併、会社分割、共同株式移転、事業譲受け等により、一定程度または完全に一体化して事業活動を行う関係を形成・維持・強化することをいいます。独占禁止法は、企業結合によって一定の取引分野における競争が実質的に制限されることとなる場合、その企業結合を禁止しています。

企業法務の現場では、企業結合という言葉は、単なる「合併」より広く使われます。たとえば、次のような取引は企業結合審査の検討対象になり得ます。

  • 株式取得による子会社化、持分取得、追加取得
  • 吸収合併・新設合併
  • 吸収分割・新設分割
  • 共同株式移転
  • 事業譲受け、重要な事業上固定資産の譲受け
  • 共同出資会社、ジョイントベンチャー
  • 役員兼任

実務上は、取引スキームが会社法・税務・会計上どのように設計されているかだけでなく、競争単位が減少するのか、川上・川下の取引関係が統合されるのか、補完財・隣接市場・潜在的競争者との関係が変化するのかを見ます。

2.2 企業結合審査が問う「競争を実質的に制限することとなる」とは何か

企業結合審査で問われるのは、企業結合の結果、一定の取引分野において、当事会社グループが単独で、または競争者と協調して、価格、品質、数量、その他の取引条件をある程度自由に左右できる状態が容易に現出し得るかどうかです。公正取引委員会のガイドラインは、この考え方を、判例上の「競争を実質的に制限する」の理解も踏まえて説明しています。

ここでいう「競争」は、価格だけではありません。品質、品揃え、納期、研究開発、サービス水準、データ利用条件、プライバシー、セキュリティ、環境性能、アフターサービスなども、商品・役務の性質に応じて競争条件になり得ます。

そのため、企業結合のセーフハーバー(市場シェア)の考え方は、単なる算数ではありません。市場シェアやHHIは、競争への影響を初期的に把握する重要な指標ですが、それ自体が競争法上の結論を機械的に決めるものではありません。

2.3 水平型・垂直型・混合型の違い

企業結合審査では、企業結合の類型ごとに検討枠組みが異なります。

次の比較表は、この章の項目と実務上の意味を整理したものです。確認漏れを防ぐため、列ごとの違いと優先順位を読み取ってください。

類型内容典型的リスクセーフハーバーの使い方
水平型企業結合同じ市場で競争している会社間の結合競争単位の減少、価格引上げ、協調促進HHIとHHI増分を中心に判定
垂直型企業結合川上・川下など取引段階が異なる会社間の結合投入物閉鎖、顧客閉鎖、秘密情報入手市場シェア10%、またはHHI2,500以下かつ市場シェア25%以下
混合型企業結合水平型・垂直型以外の結合。隣接市場、補完財、異業種など抱き合わせ、組合せ供給、潜在的競争の消滅垂直型と同様に判定

同じM&Aでも、複数の側面を持つことがあります。たとえば、A社とB社が一部商品では競合し、別の商品では川上・川下の取引関係にあり、さらに補完財の関係にもある場合、水平型、垂直型、混合型の各観点をそれぞれ検討する必要があります。

Section 02

3. セーフハーバーとは何か

企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。

3.1 セーフハーバーの意味

セーフハーバーとは、企業結合審査において、一定の数値基準を満たす場合に、通常、競争を実質的に制限することとは考えられないとされる範囲を指します。企業結合のセーフハーバー(市場シェア)の考え方は、事業者に予測可能性を与え、法務・M&A実務における初期リスク判定を容易にする機能を持ちます。

もっとも、セーフハーバーは次のものではありません。

  • 届出義務の有無を決める基準そのものではありません。 届出義務は、主として当事会社グループの国内売上高、取得後議決権割合、合併・分割・事業譲受け等の法定要件により判断されます。
  • 絶対的な適法保証ではありません。 例外的事情があれば、数値基準に収まっていても詳細検討が必要となり得ます。
  • 市場画定を省略するものではありません。 市場シェアもHHIも、一定の取引分野を画定しなければ計算できません。
  • 当事会社の内部文書や顧客ヒアリングに代わるものではありません。 実際の競争実態が数値と異なる場合、競争実態が重視されます。

3.2 「市場シェアのセーフハーバー」という言い方の注意点

企業法務の現場では、「市場シェアが低いからセーフハーバーではないか」という表現がよく使われます。しかし、日本の水平型企業結合では、正確には「市場シェアそのもの」ではなく、各社の市場シェアから計算されるHHIとHHI増分によってセーフハーバーを判定します。

つまり、水平型企業結合における企業結合のセーフハーバー(市場シェア)の考え方は、次のような二層構造です。

  1. まず、市場シェアを算出します。
  2. その市場シェアを用いて、HHIとHHI増分を計算します。
  3. 水平型セーフハーバー基準に該当するか確認します。
  4. 該当しない場合でも、HHI2,500以下かつ当事会社グループ市場シェア35%以下の「おそれが小さい」範囲に入るか確認します。
  5. それでも安心せず、当事会社間の近接性、競争者、輸入、参入、需要者の交渉力、データ・知財、内部文書等を確認します。

垂直型・混合型では、市場シェア10%以下、またはHHI2,500以下かつ市場シェア25%以下という形で、市場シェアがより直接的なセーフハーバー基準として使われます。

Section 03

4. 市場シェアを理解する前提 ― 一定の取引分野の画定

企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。

4.1 市場シェアは「どの市場か」を決めなければ意味を持たない

市場シェアは、分母となる市場をどのように定義するかで大きく変わります。たとえば、ある会社のシェアが「国内飲料市場」では5%でも、「国内エナジードリンク市場」では40%、さらに「コンビニ向け高価格帯エナジードリンク市場」では60%になることがあります。

企業結合審査では、需要者がどの範囲の供給者から商品・役務を調達できるかという観点から、一定の取引分野、すなわち市場の範囲を画定します。公正取引委員会の公表資料は、まず商品範囲と地理的範囲を画定し、そのうえで競争が実質的に制限されるかを検討する、という構造を示しています。

4.2 商品範囲

商品範囲は、需要者にとって代替可能な商品・役務の範囲です。以下の要素が問題になります。

  • 用途・機能が同じか
  • 価格帯が近いか
  • 品質・規格・性能が近いか
  • 需要者が容易に切り替えられるか
  • 取引慣行や調達方法が共通するか
  • 商品ライフサイクルや技術革新の状況
  • 需要者が当該商品をどのように認識しているか

たとえば、法人向けSaaSでは、同じ「業務支援ソフト」と呼ばれていても、会計、人事、営業支援、在庫管理、データ分析では需要者の用途が異なります。一方で、特定の用途では複数の提供形態、たとえばオンプレミス型、クラウド型、API連携型が実質的に代替することもあります。

4.3 地理的範囲

地理的範囲は、需要者がどの地域の供給者から調達可能かという範囲です。日本全国市場、地域市場、世界市場、アジア太平洋市場など、商品・役務の性質に応じて異なります。

輸送費、関税、規格、認証、言語、保守体制、法規制、納期、顧客の調達方針などが地理的範囲に影響します。公正取引委員会のガイドラインは、国内需要者向けの輸入があれば、市場シェアの算出に当たり国内への供給として算入するとしています。

4.4 SSNIPテスト

市場画定でよく参照される考え方がSSNIPテストです。SSNIPとは、Small but Significant and Non-transitory Increase in Price、すなわち「小幅ではあるが実質的かつ一時的ではない価格引上げ」を意味します。公正取引委員会の令和6年度資料は、通常、引上げ幅は5%から10%程度、期間は1年程度を指すと説明しています。

簡単にいえば、仮にある商品・地域を独占している事業者が5%から10%程度の価格引上げをした場合、需要者が他の商品・地域に十分に切り替えるなら、その商品・地域だけでは市場が狭すぎる可能性があります。逆に、需要者が切り替えられず、価格引上げが利益になるなら、その範囲が市場として成立し得ます。

実務上は、SSNIPを数式で厳密に行う場合もあれば、顧客ヒアリング、過去の価格変動、入札データ、顧客の切替履歴、営業資料、解約理由、競合比較資料などから定性的に検討する場合もあります。

Section 04

5. 市場シェアの算定方法

企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。

5.1 基本式

市場シェアは、通常、次の式で表されます。

計算式市場シェア(%)= 当該事業者の供給数量または売上高 ÷ 市場全体の供給数量または売上高 × 100

企業結合ガイドラインは、製造販売業の場合、市場シェアは原則として一定の取引分野における商品の販売数量に占める各事業者の商品の販売数量の百分比によるとしつつ、数量によることが適当でない場合には販売金額により算出するとしています。

数量ベースと金額ベースのどちらを使うべきかは、商品特性に左右されます。

次の比較表は、この章の項目と実務上の意味を整理したものです。確認漏れを防ぐため、列ごとの違いと優先順位を読み取ってください。

指標向いている場面注意点
数量ベース商品が比較的同質で、単価差が小さい場合高価格帯・低価格帯の差別化を過小評価することがある
金額ベース価格差が大きく、金額で取引実態を把握する慣行がある場合値上げ・値下げによりシェアが変動しやすい
容量・能力ベース生産能力、処理能力、配送能力が競争上重要な場合実際の販売実績と乖離することがある
ユーザー数・契約数SaaS、通信、プラットフォーム等無料ユーザーと有料ユーザーの価値差を反映しにくい
取引額・GMVマーケットプレイス、仲介サービス等手数料収入との関係を別途確認する必要がある

5.2 最新の市場シェアを原則とする

企業結合による市場シェアの変化の算定に当たっては、入手可能な最新の当事会社グループの市場シェアを基に計算することが原則です。ただし、長期的な販売数量や売上高の変化、需要者の選好の変化、技術革新、商品の陳腐化、市場シェアの変動状況などから、企業結合後の市場シェアに大きな変動が見込まれる場合には、その点も加味されます。

したがって、単年度の市場シェアだけを見るのは危険です。実務では、少なくとも直近3年程度の推移、可能であれば四半期推移、案件の性質によっては受注パイプラインや開発ロードマップも確認します。

5.3 当事会社グループ単位で見る

企業結合審査では、単体会社だけではなく、企業結合集団や当事会社グループの市場シェアを確認します。親会社、子会社、兄弟会社、共同支配会社、事業部門、海外グループ会社の日本向け販売などをどこまで含めるかは、取引構造と法的支配関係、実際の競争単位に応じて慎重に整理する必要があります。

たとえば、A社の日本法人だけを見ればシェア5%でも、海外親会社グループから日本向けに供給される製品を含めるとシェア20%になる場合があります。逆に、同じブランドを扱っていても、独立した販売代理店が価格や販売戦略を独自に決めている場合、その扱いを丁寧に検討する必要があります。

5.4 市場シェア算定で実務上よく使う資料

市場シェアの算定では、次のような資料を組み合わせます。

次の比較表は、この章の項目と実務上の意味を整理したものです。確認漏れを防ぐため、列ごとの違いと優先順位を読み取ってください。

資料長所注意点
当事会社の販売データ正確性が高い市場全体の分母が分からないことが多い
業界団体統計網羅性がある分類が企業結合審査上の市場と一致しないことがある
政府統計・貿易統計公的で信頼性が高い商品コードが粗い場合がある
市場調査会社レポート競合比較に使いやすい推計方法や定義を確認する必要がある
顧客ヒアリング需要者から見た代替性が分かるサンプルバイアスに注意
競合会社のIR資料競合の公開情報として有用セグメント定義が粗い場合がある
入札データ実際の競争相手が分かる入札外取引を含まない
内部文書当事会社が誰を競争者と見ているか分かる表現が誇張されている場合もある

重要なのは、市場シェアの数字だけでなく、その数字がどの市場定義、どの期間、どのデータソース、どの推計方法に基づくのかを明示することです。

Section 05

6. HHIの基本 ― 市場シェアを二乗して合計する理由

企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。

6.1 HHIとは何か

HHIは、一定の取引分野における各事業者の市場シェアを二乗し、その総和をとる指数です。公正取引委員会のガイドラインも、HHIは各事業者の市場シェアの2乗の総和によって算出されると説明しています。

計算式HHI = s1² + s2² + s3² + … + sn²

ここで、s1、s2、s3は各事業者の市場シェアを百分率で表したものです。市場シェア30%なら30として計算します。0.30ではありません。

たとえば、5社がそれぞれ20%ずつの市場なら、HHIは次のとおりです。

例示20²+20²+20²+20²+20²=400×5=2,000

一方、1社が80%、残り4社が5%ずつなら、HHIは次のとおりです。

例示80²+5²+5²+5²+5²=6,400+100=6,500

同じ5社市場でも、HHIは大きく異なります。HHIは、単なる事業者数ではなく、市場シェアの偏りを反映します。

6.2 なぜ市場シェアを二乗するのか

市場シェアを二乗することで、大きな市場シェアを持つ事業者の影響が強調されます。市場シェア40%の会社は、20%の会社の2倍のシェアですが、HHI上は1,600対400で4倍の寄与になります。

この設計により、HHIは次のような市場構造の違いを捉えやすくなります。

  • 多数の小規模事業者が分散している市場
  • 少数の大規模事業者に集中している市場
  • 1社だけが突出している市場
  • 2社または3社の寡占市場

企業結合審査では、当事会社の合算市場シェアだけでなく、市場全体の集中度が重要です。合算市場シェア30%でも、他に40%の強い競争者がいる市場と、残り70%が多数の小規模事業者に分散している市場では、競争上の意味が異なります。

6.3 HHI増分

HHI増分は、企業結合によってHHIがどれだけ上昇するかを示す指標です。2社間の水平型企業結合で、A社の市場シェアがa%、B社の市場シェアがb%であれば、HHI増分は次のように計算できます。公正取引委員会のガイドラインも、当事会社が2社であった場合、それぞれの市場シェアを乗じたものを2倍することにより計算できるとしています。

計算式HHI増分 = 2 × a × b

たとえば、A社20%、B社10%なら、HHI増分は次のとおりです。

例示2 × 20 × 10 = 400

これは、次の式から導かれます。

導出結合前 ― 20²+10²=400+100=500 結合後 ― (20+10)²=30²=900 増分 ― 900-500=400

3社以上の統合では、すべての当事会社ペアについて、2×市場シェア×市場シェアを合計します。

計算式HHI増分 = 2 × Σ(si × sj) (i < j)
Section 06

7. 水平型企業結合のセーフハーバー基準

企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。

7.1 基準の全体像

水平型企業結合では、次のいずれかに該当する場合、通常、競争を実質的に制限することとは考えられません。

  1. 企業結合後のHHIが1,500以下である場合
  2. 企業結合後のHHIが1,500超2,500以下で、かつHHI増分が250以下である場合
  3. 企業結合後のHHIが2,500を超え、かつHHI増分が150以下である場合

この基準は、単独行動による競争の実質的制限と協調的行動による競争の実質的制限の双方を念頭に置くものです。

7.2 HHI1,500以下 ― 低集中市場

企業結合後HHIが1,500以下の場合、市場全体の集中度は比較的低いと評価されます。この場合、当事会社の統合により競争単位が減少しても、市場全体として競争者が相当程度存在し、当事会社グループが価格等を左右する可能性は通常低いと考えられます。

ただし、HHI1,500以下でも、当事会社が特定顧客に対して極めて強い地位を持つ場合、重要な知的財産権やデータを持つ場合、将来の有力な競争者である場合には、追加分析が必要となり得ます。

7.3 HHI1,500超2,500以下かつ増分250以下 ― 中程度集中市場で小さな変化

企業結合後HHIが1,500超2,500以下の場合、市場は一定程度集中しています。そのため、企業結合が市場構造に与える変化、すなわちHHI増分が重要になります。増分が250以下であれば、通常、競争上大きな構造変化ではないと評価されます。

ここで注意したいのは、当事会社の合算市場シェアがそれほど高くなくても、両社が互いに近接した競争者であり、顧客にとって「第一候補」と「第二候補」である場合には、定性的にはリスクが高まることです。

7.4 HHI2,500超かつ増分150以下 ― 高集中市場だが変化が小さい場合

企業結合後HHIが2,500を超える場合、市場は高集中です。しかし、HHI増分が150以下であれば、企業結合による集中度の追加的上昇は小さいため、通常、競争を実質的に制限することとは考えられません。

たとえば、すでに大きな事業者が存在する高集中市場で、当事会社の一方が極めて小さな市場シェアしか持たない場合、企業結合によるHHI増分は小さくなります。ただし、その小規模事業者が革新的な製品を持つ「maverick」的存在であったり、潜在的な成長力を持つ場合には、単純なHHI増分だけでは足りません。

7.5 35%基準はセーフハーバーそのものではない

水平型企業結合では、しばしば「市場シェア35%以下なら安全か」という質問が出ます。正確には、企業結合後HHIが2,500以下であり、かつ企業結合後の当事会社グループの市場シェアが35%以下の場合には、競争を実質的に制限することとなるおそれは小さいと通常考えられるという位置づけです。

これは、セーフハーバー基準に該当しない場合でも、過去の事例に照らして問題となるおそれが小さいとされる範囲です。したがって、35%以下という数字だけで「セーフハーバーに入った」と表現するのは、厳密には不正確です。

7.6 計算例

次の比較表は、この章の項目と実務上の意味を整理したものです。確認漏れを防ぐため、列ごとの違いと優先順位を読み取ってください。

当事会社シェア競争者シェア結合後HHIHHI増分判定の目安
例1A10%+B5%C30%、D25%、E20%、F10%2,250100HHI1,500超2,500以下かつ増分250以下。セーフハーバー
例2A40%+B1%C25%、D15%、E10%、F9%2,71280HHI2,500超だが増分150以下。セーフハーバー
例3A20%+B10%C25%、D20%、E15%、F10%2,250400セーフハーバー非該当。ただしHHI2,500以下かつ合算30%のため、おそれ小の範囲
例4A30%+B20%C25%、D15%、E10%3,4501,200セーフハーバー非該当。詳細分析が必要

例3は実務上よく問題になります。合算市場シェアは30%で一見低く見えますが、A社とB社の重なりが大きいためHHI増分は400になります。この場合、セーフハーバーではないものの、結合後HHI2,500以下かつ合算市場シェア35%以下であるため、一般には問題となるおそれが小さい範囲に入ります。もっとも、両社が顧客にとって最も近い代替先である場合や、特定地域・特定用途ではシェアが高い場合には、追加検討が必要です。

Section 07

8. 垂直型企業結合のセーフハーバー基準

企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。

8.1 垂直型企業結合の問題構造

垂直型企業結合は、たとえばメーカーと販売業者、原材料メーカーと完成品メーカー、データ保有者とデータ活用サービス事業者のように、取引段階が異なる会社間の結合です。

垂直型企業結合は、水平型企業結合と異なり、同一市場の競争単位を直接減少させません。そのため、通常は水平型よりも競争への影響は小さいと考えられます。しかし、次のような場合には問題になり得ます。

  • 川上市場の当事会社が、川下市場の競争者に対して供給拒否または不利な条件での取引を行う。
  • 川下市場の当事会社が、川上市場の競争者からの購入を拒否または不利な条件にします。
  • 当事会社グループが競争者の秘密情報を入手し、競争上不利に用います。
  • 競争者間の協調的行動がとりやすくなります。

公正取引委員会のガイドラインは、垂直型企業結合について、市場の閉鎖性・排他性、協調的行動等の問題を生じない限り、通常、競争を実質的に制限することとは考えられないとしています。

8.2 垂直型のセーフハーバー

垂直型企業結合では、企業結合後の当事会社グループが次のいずれかに該当する場合、通常、競争を実質的に制限することとは考えられません。

  1. 当事会社が関係するすべての一定の取引分野において、企業結合後の当事会社グループの市場シェアが10%以下である場合
  2. 当事会社が関係するすべての一定の取引分野において、企業結合後HHIが2,500以下であり、かつ企業結合後の当事会社グループの市場シェアが25%以下である場合

ここでのポイントは、「すべての一定の取引分野」です。川上市場では10%以下でも、川下市場で30%ある場合には、全体としてセーフハーバー該当性を慎重に判断する必要があります。

8.3 垂直型の計算・検討例

たとえば、A社が部品Xのメーカー、B社が完成品Yのメーカーで、B社がA社を買収する場合を考えます。

次の比較表は、この章の項目と実務上の意味を整理したものです。確認漏れを防ぐため、列ごとの違いと優先順位を読み取ってください。

市場当事会社グループ市場シェアHHIセーフハーバー判定
部品X市場(川上)8%不明10%以下なので、この市場では基準該当
完成品Y市場(川下)22%2,100HHI2,500以下かつ25%以下なので基準該当

この場合、川上・川下の双方でセーフハーバーに入る可能性があります。ただし、A社の部品Xが代替困難な必須部品である、B社の完成品Yが特定顧客にとって事実上唯一の選択肢である、A社が競争者の重要情報を保有する、といった事情があれば、追加検討が必要です。

8.4 投入物閉鎖と顧客閉鎖

垂直型企業結合の実務で特に重要なのが、投入物閉鎖と顧客閉鎖です。

投入物閉鎖とは、川上市場の当事会社が、川下市場の競争者に対して重要な投入物の供給を拒絶したり、不利な条件で供給したりすることで、川下市場の競争者の競争力を弱めることです。

顧客閉鎖とは、川下市場の当事会社が、川上市場の競争者から購入しない、または不利な条件でしか購入しないことにより、川上市場の競争者の販売機会を狭めることです。

これらは単に「やろうと思えばできる」だけでは足りません。実務上は、次の二段階で検討します。

  1. 能力 ― 当事会社グループが閉鎖を行えば、競争者が代替供給先・代替販売先を十分に確保できないか。
  2. インセンティブ ― 閉鎖を行うことで失う利益より、グループ全体として得る利益が大きいか。

市場シェアは、この能力とインセンティブの評価に直結します。川上市場のシェアが低く代替供給者が多ければ、投入物閉鎖の能力は低くなります。川下市場のシェアが低く、他に多くの顧客がいれば、顧客閉鎖の能力は低くなります。

Section 08

9. 混合型企業結合のセーフハーバー基準

企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。

9.1 混合型企業結合とは

混合型企業結合とは、水平型にも垂直型にも該当しない企業結合です。たとえば、異業種企業間の統合、地理的範囲が異なる企業間の統合、補完財を供給する企業間の統合、潜在的参入者との統合などが含まれます。

混合型企業結合も、同一市場の競争単位を直接減らすわけではありません。しかし、次のような競争上の問題が生じ得ます。

  • 組合せ供給・抱き合わせにより競争者が排除されます。
  • 片方の商品で強い地位を持つ会社が、他方商品の市場に影響を及ぼす。
  • 潜在的競争者が買収され、将来の競争が消滅します。
  • 競争者の秘密情報が当事会社グループに流入します。
  • データ、知的財産権、標準規格、ネットワーク効果が市場支配力を補強します。

9.2 混合型のセーフハーバー

混合型企業結合のセーフハーバーは、垂直型企業結合と同様に判断されます。すなわち、当事会社が関係するすべての一定の取引分野で、企業結合後の当事会社グループの市場シェアが10%以下である場合、または企業結合後HHIが2,500以下で市場シェア25%以下である場合には、通常、競争を実質的に制限することとは考えられません。

9.3 潜在的競争者との企業結合

混合型で近年特に重要なのが、潜在的競争者との企業結合です。買収対象会社が現時点では対象市場で小さな売上しか持たない、または売上がない場合でも、データ、技術、人材、顧客基盤、知的財産権を通じて将来有力な競争者になり得る場合があります。

この場合、市場シェアは低く見えます。しかし、企業結合により将来の競争圧力が消滅するなら、数値上の市場シェアだけではリスクを把握できません。特に、デジタル、AI、医薬、半導体、プラットフォーム、データ分析、サイバーセキュリティ、ヘルスケア等では、現在の売上高や販売数量に表れない競争力が重要です。

Section 09

10. セーフハーバー非該当の場合の判断要素

企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。

セーフハーバーに該当しない場合でも、直ちに違法または問題ありになるわけではありません。公正取引委員会の資料も、セーフハーバー非該当の場合には、当事会社グループの単独行動や競争者との協調的行動により競争が実質的に制限されるかを検討すると説明しています。

10.1 単独行動による競争の実質的制限

単独行動とは、企業結合後の当事会社グループが、競争者と協調しなくても、単独で価格引上げや品質低下等を行いやすくなることです。次の要素が重視されます。

  • 当事会社グループの市場シェアと順位
  • 市場シェアの増分
  • 競争者との市場シェア格差
  • 競争者の供給余力
  • 当事会社間の従来の競争関係
  • 商品の差別化と代替性
  • 輸入圧力
  • 参入圧力
  • 需要者の価格交渉力
  • 隣接市場からの競争圧力
  • 研究開発競争
  • 効率性
  • 業績不振・退出可能性

特に重要なのが、当事会社間の近接性です。市場シェアが中程度でも、顧客がA社とB社を最も近い代替先として認識している場合、統合後の価格引上げリスクは高まります。

10.2 協調的行動による競争の実質的制限

協調的行動とは、企業結合後、市場に残る競争者同士が互いの行動を予測しやすくなり、明示的なカルテルがなくても、価格引上げや競争回避が起こりやすくなることです。

協調的行動のリスクは、次のような市場で高まりやすいと考えられます。

  • 競争者の数が少ない。
  • 市場シェアが少数社に集中しています。
  • 商品が同質的で差別化が小さい。
  • 価格や取引条件が透明です。
  • 需要が安定しています。
  • 取引が反復継続的です。
  • 参入や輸入が困難です。
  • 過去に協調的な行動や価格追随が見られる。

市場シェアは協調的行動の分析でも重要です。上位数社の市場シェアが高く、当事会社の統合により上位企業の数が減る場合、協調的行動のリスクが高まる可能性があります。

Section 10

11. 市場シェアに反映されにくい重要要素

企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。

次のポイント一覧は、市場シェアに反映されにくい重要要素を整理しています。現在の売上シェアが低くても、将来の競争力や顧客の切替困難性を持つ資産があれば追加分析が必要になる点を読み取ってください。

データ

購買履歴、検索ログ、位置情報などが将来の競争優位を左右することがあります。

知的財産権

次世代規格、標準必須技術、医薬品候補、AIモデルなどは将来市場に影響します。

顧客ロックイン

移行費用、互換性、長期契約により顧客が切り替えにくい場合があります。

内部文書

事業計画や競合分析は、当事会社の競争認識を示す重要資料です。

11.1 データ

デジタル市場では、データの量、種類、更新頻度、独自性、利用可能性が競争力の源泉になることがあります。市場シェアが低い企業でも、競争上重要なデータを保有していれば、将来の競争圧力や他社の参入可能性に大きな影響を与えることがあります。

公正取引委員会のガイドラインは、市場シェアに反映されない競争上重要なデータや知的財産権等の資産、高い潜在的競争力を有する場合には、セーフハーバーに該当しても判断要素の検討が必要となることがあるとしています。

11.2 知的財産権・標準必須技術

特許、ノウハウ、標準必須特許、API仕様、データベース、ブランド、認証、規格適合性などは、市場シェアだけでは評価しにくい競争資産です。

たとえば、現在の売上シェアが5%でも、次世代規格に不可欠な特許を持つ企業を買収する場合、将来の市場支配力に影響する可能性があります。医薬品、半導体、通信、AIモデル、クラウド基盤、セキュリティソフトでは、この点が特に重要です。

11.3 顧客ロックインとスイッチングコスト

市場シェアが低くても、特定顧客が切り替えにくい商品・役務では、局所的な競争上の問題が生じ得ます。たとえば、基幹システム、医療機器、特殊部品、設備保守、長期契約サービスでは、切替費用、データ移行、訓練、認証、互換性、停止リスクが高いため、顧客の実質的選択肢が限られます。

この場合、市場全体のシェアよりも、特定顧客群、特定用途、特定地域、特定規格における地位が問題になることがあります。

11.4 内部文書

近年の企業結合審査では、内部文書の重要性が増しています。公正取引委員会も主要事例の公表において、内部文書の提出を求めた事例を明示しています。令和6年度の主要な企業結合事例では、11事例のうち5事例で内部文書の提出を求めたと公表されています。

内部文書には、経営会議資料、投資委員会資料、M&A検討資料、営業戦略資料、競合比較資料、顧客別収益資料、価格戦略資料、プロダクトロードマップなどが含まれます。これらは、当事会社が誰を競争者と認識していたか、統合によってどのような価格・利益改善を見込んでいたかを示すことがあります。

Section 11

12. 実務での判定判断の流れ

企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。

次の判断の流れは、初期判定の順番を示します。類型整理、市場画定、市場シェア、HHI、非数値要素の順に進めることで、数字だけに寄らない結論を読み取れます。

初期判定の順番

取引類型を整理

水平型、垂直型、混合型のどの側面があるかを確認します。

一定の取引分野を仮置き

商品範囲と地理的範囲を複数案で置きます。

市場シェアとHHIを計算

指標とデータソースを明記し、感応度を確認します。

非数値要素を確認

データ、知財、顧客切替、内部文書、効率性を合わせて見ます。

企業結合のセーフハーバー(市場シェア)の考え方を実務に落とし込むと、次の判断の流れになります。

12.1 ステップ1 ― 取引類型を整理する

まず、取引が株式取得、合併、会社分割、共同株式移転、事業譲受け、役員兼任、共同出資会社のいずれに該当するかを整理します。届出義務の有無、禁止期間、スケジュール、海外届出の有無もこの段階で確認します。

12.2 ステップ2 ― 競争関係・取引関係・補完関係を洗い出す

次に、当事会社間に次の関係があるかを確認します。

  • 同一商品・役務で競争しているか。
  • 川上・川下の取引関係があるか。
  • 補完財・隣接市場の関係があるか。
  • 片方が他方の市場に参入する可能性があるか。
  • 片方が競争上重要なデータ、知財、顧客基盤を持つか。

ここで漏れがあると、市場シェア計算以前に分析が誤ります。

12.3 ステップ3 ― 一定の取引分野を仮置きする

商品範囲、地理的範囲、取引段階、顧客セグメント、価格帯、用途、規格などを整理し、複数の市場定義を仮置きします。初期段階では、広い市場と狭い市場の両方を置き、感応度分析を行うことが重要です。

12.4 ステップ4 ― 市場シェアを算出する

市場ごとに、当事会社と主要競争者の市場シェアを算出します。数量ベース、金額ベース、ユーザー数ベース等を使い分け、データソースと推計方法を明示します。

12.5 ステップ5 ― HHIとHHI増分を計算する

水平型では、各市場について結合後HHIとHHI増分を計算します。垂直型・混合型でも、HHI2,500以下かつ市場シェア25%以下の基準を確認するため、HHI計算が必要になることがあります。

12.6 ステップ6 ― セーフハーバー該当性を確認する

市場ごとに、水平型、垂直型、混合型のいずれの基準を適用するかを整理し、セーフハーバーに該当するか確認します。

12.7 ステップ7 ― 非数値要素を確認する

セーフハーバーに該当する場合でも、次の点を確認します。

  • 当事会社が互いに最も近い競争者ではないか。
  • 競争上重要なデータ・知財・技術を持っていないか。
  • 将来の有力な潜在的競争者ではないか。
  • 顧客が切り替え困難ではないか。
  • 内部文書に競争上懸念のある記載がないか。
  • 海外当局が問題視し得る市場ではないか。

12.8 ステップ8 ― 結論とアクションを決める

最後に、法務・事業・経営・外部弁護士で次の事項を決めます。

  • 届出要否
  • 届出前相談の要否
  • 海外届出の要否
  • クロージングスケジュール
  • データ追加収集
  • 競争法リスクメモの作成
  • 問題解消措置の要否
  • 内部文書管理と説明方針
  • 取締役会・投資委員会への報告内容
Section 12

13. 市場シェア・HHIメモの作り方

企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。

企業法務担当者が社内で使うべき成果物は、「市場シェア・HHIメモ」です。最低限、次の構成にします。

13.1 基本情報

  • 案件名
  • 取引スキーム
  • 当事会社グループ
  • 対象事業
  • クロージング予定日
  • 届出要否の初期判定
  • 担当部署・外部専門家

13.2 市場定義

  • 商品範囲
  • 地理的範囲
  • 取引段階
  • 顧客セグメント
  • 代替品・隣接市場
  • 広い市場と狭い市場の双方
  • 市場定義の根拠資料

13.3 市場シェア表

次の比較表は、この章の項目と実務上の意味を整理したものです。確認漏れを防ぐため、列ごとの違いと優先順位を読み取ってください。

市場A社B社合算競争者1競争者2その他データソース備考
市場1
市場2

13.4 HHI表

次の比較表は、この章の項目と実務上の意味を整理したものです。確認漏れを防ぐため、列ごとの違いと優先順位を読み取ってください。

市場結合前HHI結合後HHIHHI増分セーフハーバー該当性35%範囲コメント
市場1
市場2

13.5 非数値要素

  • 当事会社間の競争関係
  • 顧客から見た代替性
  • 入札での競合頻度
  • 競争者の供給余力
  • 輸入・参入可能性
  • 需要者の交渉力
  • データ・知財・技術
  • 内部文書上の競合認識
  • 効率性
  • 問題解消措置の要否

13.6 結論

結論は、次のように書くと社内で共有しやすくなります。

記載例対象取引について、現時点で把握可能な市場シェアに基づくと、市場1では水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当します。他方、市場2では結合後HHIが2,500を超え、HHI増分も150を超えるため、セーフハーバー基準には該当しません。もっとも、市場2では有力な競争者が複数存在し、需要者の調達先分散も確認されるため、追加ヒアリングおよび内部文書レビューを行ったうえで、届出前相談の要否を判断します。
Section 13

14. よくある誤解と実務上の落とし穴

企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。

14.1 誤解1 ― 市場シェアが35%以下なら常に安全

35%以下という数字は重要ですが、水平型企業結合のセーフハーバーそのものではありません。HHI2,500以下という条件も必要であり、しかも「競争を実質的に制限することとなるおそれは小さいと通常考えられる」という位置づけです。

市場シェア35%以下でも、当事会社が最も近接した競争者同士である、特定顧客群では実質的に二者択一である、競争上重要な技術を統合する、といった事情があれば詳細分析が必要です。

14.2 誤解2 ― 届出不要なら競争法リスクはない

届出義務がない企業結合でも、独占禁止法上の審査対象になり得ます。公正取引委員会の手続対応方針は、届出を要しない企業結合計画についても、具体的な計画内容を示した相談があった場合には届出案件に準じて対応すること、また買収対価総額が大きく国内需要者に影響を与えると見込まれる場合には資料提出を求めて審査を行うことを示しています。

特に、被買収会社の国内売上高が小さいものの、買収対価が大きく、国内に研究開発拠点がある、日本語サイトで営業している、国内売上高が一定額を超えるなどの場合には、届出不要でも競争法リスクを検討することが重要です。

14.3 誤解3 ― 市場シェアは事業部が出した数字をそのまま使えばよい

事業部の市場シェアは、営業戦略上の市場定義に基づくことがあります。競争法上の市場定義とは異なる可能性があります。

たとえば、事業部が「高級品市場」と呼んでいる範囲が、競争法上は「一般品も含む広い市場」になることもあれば、逆に事業部が「国内市場」と捉えている範囲が、実際には「特定用途向けの地域市場」に絞られることもあります。

14.4 誤解4 ― 競争者が多ければ安心

競争者の数だけでなく、その市場シェア、供給余力、品質、顧客から見た代替性、価格競争力、販売網、参入障壁が重要です。形式的に10社存在しても、実際に顧客が切り替えられる競争者が2社しかいなければ、競争圧力は限定的です。

14.5 誤解5 ― 海外市場があるから国内シェアは低く見てよい

輸入や海外供給者を市場シェアに含めるには、国内需要者が海外供給者から実際に調達できること、輸送・規格・保守・言語・契約・認証等の障壁が小さいことを確認する必要があります。単に海外に類似製品があるだけでは不十分です。

Section 14

15. 事例的に考える企業結合のセーフハーバー(市場シェア)の考え方

企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。

15.1 ケースA ― 典型的な水平型統合

A社とB社はいずれも国内で同じ産業用部品を販売しています。市場シェアはA社10%、B社5%、競争者C社30%、D社25%、E社20%、F社10%です。

計算結合前HHI=10²+5²+30²+25²+20²+10²=2,150 結合後HHI=15²+30²+25²+20²+10²=2,250 HHI増分=2×10×5=100

企業結合後HHIは2,250で、1,500超2,500以下です。HHI増分は100で250以下です。したがって、水平型企業結合のセーフハーバーに該当します。

ただし、A社とB社が特定用途でのみ強く競合している場合、狭い市場で別途計算する必要があります。

15.2 ケースB ― 高集中市場だが小規模事業者の買収

A社は市場シェア40%、B社は1%、競争者C社25%、D社15%、E社10%、F社9%です。

計算結合後HHI=41²+25²+15²+10²+9²=2,712 HHI増分=2×40×1=80

結合後HHIは2,500超ですが、HHI増分は150以下です。したがって、数値上は水平型企業結合のセーフハーバーに該当します。

しかし、B社が小規模でも革新的な新製品を持ち、A社の将来の有力な競争者と見込まれていた場合、潜在的競争の消滅やイノベーション競争の観点から検討が必要です。

15.3 ケースC ― 合算30%だがセーフハーバー非該当

A社20%、B社10%、競争者C社25%、D社20%、E社15%、F社10%です。

計算結合後HHI=30²+25²+20²+15²+10²=2,250 HHI増分=2×20×10=400

結合後HHIは2,500以下ですが、HHI増分は250を超えるため、水平型のセーフハーバーには該当しません。しかし、結合後HHI2,500以下かつ当事会社グループの市場シェア30%であるため、35%以下の「おそれが小さい」範囲に入ります。

この場合、詳細分析の焦点は、A社とB社の近接性、顧客の切替可能性、競争者C社・D社の供給余力、需要者の交渉力などになります。

15.4 ケースD ― 垂直型統合で川上市場が強い

A社は重要原材料Xのメーカーで、市場シェア35%です。B社は完成品Yのメーカーで、市場シェア15%です。B社がA社を買収する場合、川上市場である原材料X市場の当事会社グループ市場シェアは35%であり、10%基準にも25%基準にも該当しません。

この場合、セーフハーバー非該当です。投入物閉鎖の能力とインセンティブ、代替原材料の有無、他の原材料メーカーの供給余力、完成品Y市場でのB社の競争力、B社の競争者がA社原材料に依存している程度を検討します。

Section 15

16. 届出手続とセーフハーバーの関係

企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。

次の時系列は、届出手続と審査期間の基本を整理しています。30日、120日、90日という期間の意味を読み取ることで、M&Aスケジュールに競争法対応を組み込めます。

届出受理

第1次審査

問題なし通知、報告等の要請、確約手続通知などが検討されます。

30日

禁止期間

届出受理の日から30日を経過するまで、原則として株式取得等を行うことができません。

第2次審査

120日・90日

届出受理から120日、またはすべての報告等受理から90日のいずれか遅い日までが重要です。

16.1 第1次審査と第2次審査

公正取引委員会の手続対応方針によれば、届出書が受理されると第1次審査が開始されます。第1次審査では、通常、禁止期間内に、独占禁止法上問題がないとして排除措置命令を行わない旨の通知をするか、より詳細な審査が必要として報告等の要請を行うか、確約手続通知を行うか、いずれかの対応を採ることになります。

第2次審査では、報告等の要請が行われ、第三者からの意見聴取や詳細な競争分析が行われ得ます。公正取引委員会は、届出受理の日から120日を経過した日と、すべての報告等を受理した日から90日を経過した日のいずれか遅い日までの期間内に、一定の対応を採ることになります。

16.2 禁止期間

届出会社は、届出受理の日から30日を経過するまで、原則として当該株式取得等を行うことができません。ただし、公正取引委員会は必要があると認める場合には、この期間を短縮できます。

セーフハーバーに該当する案件は、独占禁止法上問題がないことが明らかである場合が多く、スムーズな審査につながりやすいといえます。ただし、届出書の内容、市場定義、資料の整備状況、当局の関心、第三者からの情報提供等によって審査の進み方は変わります。

16.3 近時の審査状況

公正取引委員会は、令和6年度に企業結合計画の届出を437件受理し、そのうち第1次審査の結果、独占禁止法上問題ないとして排除措置命令を行わない旨の通知をしたものは423件、第1次審査中に取下げがあったものは14件、第2次審査に移行したものはなかったと公表しています。また、令和6年度に届出を要しない企業結合計画に関する審査を終了した件数は7件でした。

この数字は、多くの案件が第1次審査で処理されていることを示しますが、競争法リスクが軽視できるという意味ではありません。主要事例では、内部文書の活用、経済分析、海外当局との情報交換、問題解消措置などが実務上重要な役割を持っています。

Section 16

17. 問題解消措置との関係

企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。

セーフハーバーに該当しない案件でも、問題解消措置によって独占禁止法上問題ないと判断される場合があります。公正取引委員会のガイドラインは、問題解消措置は、企業結合によって失われる競争を回復することができるものであることが基本であり、事業譲渡等の構造的措置が原則であると説明しています。

典型的な問題解消措置には、次のようなものがあります。

  • 事業部門の譲渡
  • 一部資産・生産設備・顧客契約の譲渡
  • 知的財産権のライセンス
  • 供給契約・引取権の設定
  • 差別的取扱いの禁止
  • 情報遮断措置
  • 取引条件の透明化
  • 第三者による監視、トラスティの設置

ただし、問題解消措置は、M&Aの経済性やPMI計画に大きく影響します。したがって、セーフハーバー非該当が見込まれる案件では、初期段階から事業部門・会計・税務・法務・外部弁護士が連携し、どのような措置が実行可能かを検討する必要があります。

Section 17

18. 企業内での役割分担

企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。

企業結合のセーフハーバー(市場シェア)の考え方を正しく適用するには、法務部だけでなく、複数部門の協力が必要です。

次の比較表は、この章の項目と実務上の意味を整理したものです。確認漏れを防ぐため、列ごとの違いと優先順位を読み取ってください。

役割主な担当
競争法リスクの全体設計企業内弁護士、法務担当、外部弁護士
届出要否・当局対応企業内弁護士、外部弁護士、M&A法務担当
市場シェアデータ収集事業部、経営企画、営業企画、法務
HHI計算・経済分析法務、外部弁護士、経済専門家、コンサルタント
会計・財務データ整理公認会計士、財務部、経理部
取引スキーム調整M&A担当、税理士、弁護士、会計士
内部文書レビュー法務、外部弁護士、コンプライアンス担当
情報遮断・クリーンチーム法務、コンプライアンス、IT、外部専門家
取締役会報告経営企画、法務、ゼネラルカウンセル

セーフハーバー分析は、単なる法務部のチェック項目ではありません。市場シェアの数字は事業部が持ち、HHI計算は法務が行い、競争実態は営業・顧客対応部門が知っており、内部文書は経営企画やM&Aチームが作成していることが多いためです。

Section 18

19. チェックリスト ― 企業結合のセーフハーバー(市場シェア)の考え方

企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。

19.1 初期判定チェックリスト

  • [ ] 取引類型を特定したか。
  • [ ] 届出要否を確認したか。
  • [ ] 国内だけでなく海外届出も確認したか。
  • [ ] 当事会社間の水平関係を洗い出したか。
  • [ ] 川上・川下関係を洗い出したか。
  • [ ] 補完財・隣接市場・潜在的競争関係を洗い出したか。
  • [ ] 商品範囲を複数案で検討したか。
  • [ ] 地理的範囲を複数案で検討したか。
  • [ ] 顧客セグメント別市場を検討したか。
  • [ ] 数量ベース・金額ベースのどちらが適切か検討したか。
  • [ ] 市場シェアのデータソースを明示したか。
  • [ ] 直近データだけでなく推移を確認したか。
  • [ ] 結合後HHIを計算したか。
  • [ ] HHI増分を計算したか。
  • [ ] 水平型セーフハーバー該当性を確認したか。
  • [ ] 垂直型・混合型セーフハーバー該当性を確認したか。
  • [ ] 35%以下の「おそれが小さい」範囲を確認したか。
  • [ ] 当事会社間の近接性を確認したか。
  • [ ] 競争者の供給余力を確認したか。
  • [ ] 輸入・参入・隣接市場の圧力を確認したか。
  • [ ] 需要者の交渉力を確認したか。
  • [ ] データ・知財・技術・標準規格を確認したか。
  • [ ] 内部文書を確認したか。
  • [ ] 必要に応じて届出前相談を検討したか。

19.2 レッドフラッグ

次の事情がある場合、数値上セーフハーバーに近くても慎重な検討が必要です。

  • 当事会社が顧客にとって第一候補・第二候補の関係にあります。
  • 入札で当事会社同士が頻繁に最終候補に残っています。
  • 買収対象が将来の有力な競争者です。
  • 買収対象が重要なデータ、知財、技術、人材を有します。
  • 特定顧客・特定用途・特定地域で合算シェアが高いです。
  • 競争者の供給余力が乏しい。
  • 顧客の切替費用が高いです。
  • 参入障壁が高いです。
  • 内部文書に「競争を減らす」「価格改善」「値引き圧力の除去」といった記載があります。
  • 海外当局も同じ市場を注視しています。
Section 19

20. よくある質問

企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。

Q1. 企業結合のセーフハーバー(市場シェア)の考え方は、届出要否の判断にも使えますか。

一般的には、届出要否そのものを決める基準ではないとされています。届出要否は、独占禁止法および関連規則に基づく国内売上高、議決権割合、取引類型等で判断されます。ただし、取引類型やグループ範囲によって確認事項が変わる可能性があります。具体的な届出要否は、取引資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q2. 市場シェアが低ければ、HHIを計算しなくてもよいですか。

一般的には、水平型企業結合ではHHIとHHI増分を計算することが重要とされています。市場シェアが低い場合でも、市場全体の集中度や当事会社の組合せによって評価が変わる可能性があります。具体的な算定方法は、市場定義、データソース、当事会社グループの範囲を整理したうえで専門家へ相談する必要があります。

Q3. セーフハーバーに該当すれば、公取委から必ず問題なしと判断されますか。

一般的には、セーフハーバー該当は競争上の懸念が小さいことを示す目安とされています。ただし、絶対的な保証ではありません。データ、知財、潜在的競争力、当事会社間の近接性など、市場シェアに反映されない事情がある場合には追加検討が必要となる可能性があります。具体的な見通しは、関連資料を整理したうえで専門家へ相談する必要があります。

Q4. 35%基準はどのように使えばよいですか。

一般的には、水平型企業結合でセーフハーバーに該当しない場合でも、結合後HHIが2,500以下で、結合後の当事会社グループ市場シェアが35%以下であれば、おそれが小さい範囲として整理されることがあります。ただし、これはセーフハーバーそのものではなく、追加検討を不要にする絶対基準でもありません。具体的な評価は、市場実態や当事会社間の近接性を踏まえて専門家へ相談する必要があります。

Q5. 主要競争者の市場シェアしか分からない場合はどうしますか。

一般的には、公正取引委員会のガイドラインに沿って、HHIの理論上の最大値と最小値を勘案することが考えられます。実務では、複数の仮定を置いた感応度分析を行い、どの仮定でセーフハーバーに入るか、どの仮定で外れるかを明示する方法があります。ただし、推計の置き方で結論が変わる可能性があるため、具体的な分析は専門家へ相談する必要があります。

Q6. 金額ベースと数量ベースで結果が違う場合、どちらを使いますか。

一般的には、商品の性質、取引慣行、価格差の有無、需要者の認識に照らして適切な指標を選ぶとされています。数量ベースが原則的に用いられますが、価格差が大きく金額で供給実績等を算定する慣行が定着している場合など、数量によることが適当でないときは販売金額によることがあります。具体的な指標選択は、資料を整理したうえで専門家へ相談する必要があります。

Q7. 海外売上や輸入品は市場シェアに含めますか。

一般的には、国内需要者向けの輸入があれば、国内への供給として市場シェアに算入することがあります。ただし、海外供給者が国内需要者に対して実質的な代替供給者といえるかは、輸送費、規格、保守、認証、納期、法規制等によって変わります。具体的な算入範囲は、供給実態を整理したうえで専門家へ相談する必要があります。

Q8. 企業結合後の効率性はセーフハーバー非該当を補えますか。

一般的には、効率性は競争上の判断要素になり得るとされています。ただし、効率性は企業結合に固有で、実現可能で、需要者の厚生を増大させるものである必要があります。単にコスト削減が見込まれるだけでは足りない可能性があるため、具体的な主張整理は資料を確認したうえで専門家へ相談する必要があります。

Q9. 中小企業同士の統合でもセーフハーバー分析は必要ですか。

一般的には、中小企業同士の統合でも、地域市場や特定用途市場では高い市場シェアになることがあります。特に地方市場、専門商材、医療・建設・物流・食品・設備保守などでは、狭い市場でのシェア確認が重要とされています。具体的な分析範囲は、事業内容と顧客の代替先を整理したうえで専門家へ相談する必要があります。

Q10. どの段階で外部弁護士に相談するとよいですか。

一般的には、競合関係があるM&A、垂直関係が強いM&A、データ・知財・プラットフォームが関係するM&A、海外届出があり得るM&A、または市場シェアが十分に低いと確認できないM&Aでは、基本合意前またはデューデリジェンス初期に論点整理を始めることが重要とされています。ただし、相談時期や必要資料は取引構造によって変わります。具体的には弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Section 20

21. まとめ

企業結合のセーフハーバーを数値と実務判断の両面から整理します。

企業結合のセーフハーバー(市場シェア)の考え方は、企業法務・M&A実務における競争法リスクの初期判定に不可欠です。しかし、その本質は「市場シェアが何%なら安全」という単純なものではありません。

水平型企業結合では、市場シェアを基礎にHHIとHHI増分を計算し、1,500、2,500、250、150という基準を確認します。35%という数字は重要ですが、セーフハーバーそのものではなく、HHI2,500以下と組み合わされた「おそれが小さい」範囲として理解することが重要です。

垂直型・混合型企業結合では、市場シェア10%以下、またはHHI2,500以下かつ市場シェア25%以下という基準が直接的に重要です。ただし、投入物閉鎖、顧客閉鎖、組合せ供給、秘密情報、潜在的競争の消滅といった非水平型特有の論点を忘れてはなりません。

最も重要なのは、次の実務姿勢です。

  1. 市場を定義します。
  2. 市場シェアを根拠付きで算出します。
  3. HHIとHHI増分を計算します。
  4. セーフハーバー該当性を市場ごとに確認します。
  5. 数値に反映されない競争実態を検討します。
  6. 必要に応じて届出前相談、追加調査、問題解消措置を検討します。

企業結合のセーフハーバー(市場シェア)の考え方は、法務部だけの作業ではありません。事業部、経営企画、M&Aチーム、会計・税務、外部弁護士、経済専門家、コンプライアンス担当が協力し、市場実態に即した説明可能な分析を行うことが、企業結合審査を円滑に進めるための核心です。

Reference

この記事の参考情報源

公的機関の資料

  • 公正取引委員会「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」
  • 公正取引委員会「企業結合審査の手続に関する対応方針」
  • 公正取引委員会「令和6年度における企業結合関係届出の状況及び主要な企業結合事例について」
  • 公正取引委員会「令和6年度における企業結合関係届出の状況」
  • 公正取引委員会「企業結合」ポータル