2σ Guide

遺産分割調停の申立書の
書き方と記載例

相続人間の話合いが止まったとき、家庭裁判所へ出す申立書で何をどこまで書くかを、申立先、当事者、趣旨、理由、目録、添付書類、記載例の順に整理します。

1,200円被相続人1人あたりの収入印紙
10か月相続税申告の原則期限
3年相続登記の主な申請期限
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遺産分割調停の申立書の 書き方と記載例

この章の要点を、本文と図表で確認します。

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遺産分割調停の申立書の 書き方と記載例
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  • 遺産分割調停の申立書の 書き方と記載例
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POINT 1

  • 遺産分割調停の申立書で最初に押さえる結論
  • 1. 協議がまとまらない:遺産分割協議書を作れない状態です。
  • 2. 申立書と資料を準備:相続人、遺産、争点、証拠を整理します。
  • 3. 調停成立:調停調書をもとに登記や払戻しへ進みます。
  • 4. 審判へ移行する可能性:裁判官が判断する段階に進むことがあります。

POINT 2

  • 遺産分割調停とは何か ― 申立書を書く前の前提
  • この章の要点を、本文と図表で確認します。
  • 調停委員会が当事者の意見を聴き、必要な資料提出を促し、解決案や助言を示しながら話合いを進めます。
  • 遺産分割調停の法的前提は、民法上の遺産分割です。
  • 遺産の分割では、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、相続人の年齢、職業、心身の状態、生活状況その他一切の事情を考慮します。

POINT 3

  • 遺産分割調停の申立書を書く前に分ける法律問題
  • この章の要点を、本文と図表で確認します。
  • 3.1 遺産分割の中心問題
  • 3.2 遺産を探すだけの手続ではない
  • 3.3 借金は原則として遺産分割の対象ではない

POINT 4

  • 遺産分割調停の申立書の基本構造
  • この章の要点を、本文と図表で確認します。
  • 申立書本体は、大きく次の情報で構成されます。
  • 違いを分けて確認することが重要です。
  • 裁判所の記入例には、申立書の写しが法律の定めるところにより相手方に送付される旨が示されています。

POINT 5

  • 遺産分割調停の申立先・申立人・相手方の書き方
  • この章の要点を、本文と図表で確認します。
  • 5.1 申立先の家庭裁判所
  • 5.2 申立人
  • 5.3 相手方

POINT 6

  • 遺産分割調停の申立ての趣旨の書き方
  • この章の要点を、本文と図表で確認します。
  • 6.1 遺産全部の分割を求める場合
  • 6.2 一部の遺産だけを分割したい場合
  • 申立ての趣旨は、家庭裁判所に何を求めるかを端的に記載する欄です。

POINT 7

  • 遺産分割調停の申立ての理由の書き方
  • この章の要点を、本文と図表で確認します。
  • 7.1 遺産の種類及び内容
  • 7.2 特別受益
  • 7.3 事前の遺産の一部分割

POINT 8

  • 遺産分割調停の遺産目録の書き方
  • この章の要点を、本文と図表で確認します。
  • 8.1 土地遺産目録
  • 8.2 建物遺産目録
  • 8.3 現金、預貯金、株式等遺産目録

まとめ

  • 遺産分割調停の申立書の 書き方と記載例
  • 遺産分割調停の申立書で最初に押さえる結論:この章の要点を、本文と図表で確認します。
  • 遺産分割調停とは何か ― 申立書を書く前の前提:この章の要点を、本文と図表で確認します。
  • 遺産分割調停の申立書を書く前に分ける法律問題:この章の要点を、本文と図表で確認します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

遺産分割調停の申立書で最初に押さえる結論

この章の要点を、本文と図表で確認します。

次の一覧は、申立書作成で最初に確認すべき骨格をまとめたものです。手続の入口で補正や追加提出を減らすために重要です。上から順に、当事者、提出先、費用、資料、限界、審判移行の可能性を確認してください。

PARTY

申立人と相手方

共同相続人の一部が申立人になる場合、他の共同相続人全員を相手方にします。

COURT

提出先

相手方のうち一人の住所地を管轄する家庭裁判所、又は合意で定める家庭裁判所に申し立てます。

COST

費用

被相続人一人につき収入印紙1,200円分と連絡用郵便切手等を準備します。

PROOF

資料

戸籍、住民票又は戸籍附票、不動産、預貯金、有価証券などの資料で裏付けます。

次の判断の流れは、協議が止まった状態から調停、審判へ進む可能性までを示しています。順番を押さえることが大切なのは、申立書の段階で何を主張し、何を資料化するかが後の期日運営に影響するためです。上から下へ、話合い、申立て、資料整理、合意又は審判という流れを読み取ってください。

遺産分割調停の入口から出口まで

協議がまとまらない

遺産分割協議書を作れない状態です。

申立書と資料を準備

相続人、遺産、争点、証拠を整理します。

合意できる
調停成立

調停調書をもとに登記や払戻しへ進みます。

合意できない
審判へ移行する可能性

裁判官が判断する段階に進むことがあります。

遺産分割調停の申立書の書き方と記載例を理解するうえで最も重要なのは、申立書を単なる穴埋め用紙と考えないことです。申立書は、家庭裁判所に対して、誰の相続について、誰と誰の間で、どの遺産を、どの範囲で、どのような理由により調停に付すのかを示す手続文書です。申立書の記載が曖昧だと、相続人の漏れ、遺産目録の不足、添付資料の不備、管轄の誤り、相手方への送付上の問題が生じ、手続開始後に補正や追加提出を求められる可能性が高くなります。

実務上の骨格は次のとおりです。

  1. 申立人は、共同相続人、包括受遺者、相続分譲受人などです。共同相続人の一部が申立人になる場合、他の共同相続人全員を相手方にします。
  2. 申立先は、相手方のうち一人の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所です。
  3. 費用は、被相続人一人につき収入印紙1,200円分と連絡用郵便切手等です。郵便料は裁判所ごとに異なります。
  4. 申立書には、被相続人、当事者、申立ての趣旨、申立ての理由、遺産目録、特別受益目録、分割済遺産目録などを整理して記載します。
  5. 戸籍、住民票又は戸籍附票、不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳の写し又は残高証明書、有価証券資料など、遺産と相続関係を裏付ける資料が必要です。
  6. 遺産分割調停は、遺産を探し出してくれる手続ではありません。遺産の範囲や使い込みの疑いがある場合は、申立人側で裏付け資料を準備する必要があります。
  7. 調停が成立しなければ、自動的に審判手続に移行し、裁判官が判断する段階に進むことがあります。

裁判所の公式ページは、遺産分割調停について、相続人間で遺産分割の話合いがつかない場合に家庭裁判所の調停又は審判手続を利用できると説明し、調停不成立の場合には審判手続が開始されると案内しています。

Section 01

遺産分割調停とは何か ― 申立書を書く前の前提

この章の要点を、本文と図表で確認します。

遺産分割調停とは、被相続人の遺産をどの相続人がどのように取得するかについて、相続人等の間で合意ができない場合に、家庭裁判所の調停手続を利用して合意形成を目指す手続です。調停委員会が当事者の意見を聴き、必要な資料提出を促し、解決案や助言を示しながら話合いを進めます。裁判所の家事事件Q&Aでも、調停は裁判所において当事者双方の話合いによって問題を解決するための手続であり、調停委員会が双方から話を聞き、必要に応じて資料提出を受けると説明されています。

遺産分割調停の法的前提は、民法上の遺産分割です。共同相続人は、原則として協議により遺産の全部又は一部を分割できますが、協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所に分割を求めることができます。遺産の分割では、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、相続人の年齢、職業、心身の状態、生活状況その他一切の事情を考慮します。これらは民法906条、907条を中心とする規律です。

ここでいう「調停」は、裁判官が最初から一方的に結論を命じる手続ではありません。まずは合意による解決を目指します。ただし、調停が成立しない場合には審判に移行し、裁判官が遺産の種類、性質、相続人の事情などを考慮して判断します。したがって、申立書の段階から、調停で話し合うべき事実、証拠、争点を正確に配置することが重要です。

Section 02

遺産分割調停の申立書を書く前に分ける法律問題

この章の要点を、本文と図表で確認します。

遺産分割調停の申立書に何でも書けばよいわけではありません。申立書の対象は「遺産分割」です。相続をめぐる紛争には、遺産分割に含めて調整できる問題と、別手続又は別事件で扱うべき問題があります。

3.1 遺産分割の中心問題

遺産分割調停で中心になるのは、次の事項です。

  • 相続人が誰か
  • 遺産に何が含まれるか
  • 各遺産の評価をどう見るか
  • 各相続人の法定相続分又は指定相続分
  • 特別受益の有無と内容
  • 寄与分の主張の有無
  • 一部分割済みの財産の有無
  • 遺産分割前の預貯金債権の払戻し等の有無
  • 現物分割、代償分割、換価分割、共有取得などの分割方法

特に、不動産がある場合は評価が争点になりやすく、固定資産評価額、路線価、時価査定、不動産鑑定評価などの位置付けを整理する必要があります。非上場株式、事業用資産、知的財産、農地、山林、借地権、賃貸物件がある場合は、資料収集と評価方法が高度になります。

3.2 遺産を探すだけの手続ではない

「相手が遺産を隠しているのではないか」という不安は多くあります。しかし、裁判所のQ&Aは、家庭裁判所の遺産分割手続は遺産を探し出すことを目的とした手続ではなく、他にも遺産があると考える場合は原則として自ら裏付け資料を提出することが求められると説明しています。

したがって、申立書には「兄が全部隠している」などの感情的記載ではなく、次のような資料化された記載をすべきです。

  • 被相続人が生前利用していた金融機関名、支店名
  • 固定資産税納税通知書に記載された不動産
  • 証券会社の取引残高報告書
  • 生命保険契約照会の結果
  • 会社の株主名簿、決算書、法人税申告書の写し
  • 被相続人の通帳の出金履歴
  • 相手方が管理している資料の所在

3.3 借金は原則として遺産分割の対象ではない

被相続人の債務、たとえば借入金、未払金、保証債務などは、相続開始によって法定相続分に応じて当然に分割されるものと考えられ、原則として遺産分割の対象にはなりません。裁判所のQ&Aも、調停で特定の相続人が債務を相続する旨の合意をしても、債権者に当然に対抗できるわけではないと説明しています。

もっとも、相続人間の内部負担として「誰が実質的に負担するか」を調整することはあります。申立書では、債務を遺産目録に単純に並べるのではなく、債務の存在、債権者、残額、担保、不動産との関係、遺産分割案への影響を整理して記載します。

3.4 遺留分侵害額請求は別の問題になり得る

「遺言で長男だけが全財産を取得することになっている」「生前贈与で取り分が著しく減った」という場面では、遺産分割だけでなく遺留分侵害額請求の問題が生じることがあります。遺留分侵害額請求は、一定の相続人に保障される最低限の取り分を金銭請求として実現する制度です。裁判所は、遺留分侵害額請求調停について、調停申立てとは別に内容証明郵便等による意思表示が必要であり、相続開始及び遺留分侵害を知った時から1年、相続開始時から10年という期間制限があると説明しています。

遺産分割調停の申立書を書こうとしている事件が、実は遺留分事件なのか、遺産分割事件なのかを誤ると、手続選択を誤ります。遺言がある事件では、遺言の内容、遺言執行者の有無、遺留分の有無、遺産分割の余地を最初に確認してください。

3.5 寄与分、特別寄与料、特別受益は区別する

相続人が被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与をした場合には、寄与分の問題が生じます。裁判所には「寄与分を定める処分調停」という手続もあり、遺産分割事件が既に係属している場合の添付書類省略なども案内されています。

一方、相続人ではない親族が無償で療養看護その他の労務を提供し、被相続人の財産維持又は増加に特別の寄与をした場合には、特別寄与料の問題が生じます。裁判所は、特別寄与料について、特別寄与者が相続開始及び相続人を知った時から6か月を経過したとき、又は相続開始時から1年を経過したときは申立てができないと案内しています。

特別受益は、相続人の一部が被相続人から生前贈与や遺贈を受けていた場合に、相続分を調整する制度です。民法904条の3により、相続開始から長期間が経過した場合、特別受益や寄与分を反映した具体的相続分の主張に制約が生じることがあります。古い相続案件では、期限と経過措置を専門家に確認してください。

Section 03

遺産分割調停の申立書の基本構造

この章の要点を、本文と図表で確認します。

裁判所は、遺産分割調停申立書、土地遺産目録、建物遺産目録、現金・預貯金・株式等遺産目録、当事者目録、事情説明書、進行に関する照会回答書、送達場所等届出書などの書式を公開しています。

申立書本体は、大きく次の情報で構成されます。

次の比較表は、遺産分割調停の申立書の基本構造を項目ごとに整理したものです。違いを分けて確認することが重要です。各列を左から順に読み、どの情報をどの場面で使うかを把握してください。

項目記載する内容実務上の注意
申立先家庭裁判所名相手方の一人の住所地又は合意管轄を確認
事件種類遺産分割、調停又は審判通常は調停にチェック
日付作成年月日提出日又は作成日
申立人氏名、押印又は記名複数申立人なら連名
被相続人本籍、最後の住所、氏名、死亡年月日戸籍、住民票除票、戸籍附票と一致
当事者申立人、相手方、法定代理人等共同相続人全員を漏らさない
申立ての趣旨全部又は一部の分割を求める旨一部分割では対象財産番号を特定
申立ての理由遺産、特別受益、分割済み、預貯金払戻し、動機感情論ではなく争点と資料で書く
添付書類戸籍、住民票、遺産資料等裁判所ごとの部数と郵便料に注意

裁判所の記入例には、申立書の写しが法律の定めるところにより相手方に送付される旨が示されています。 そのため、相手方に知られたくない住所、勤務先、連絡先、DVや虐待に関係する情報を不用意に書かないことが重要です。住所の非開示や秘匿制度を使うべき事情がある場合は、提出前に家庭裁判所又は弁護士へ確認してください。裁判所のQ&Aも、DV被害等により現住所を知られたくない場合には住所の非開示の申出ができると案内しています。

Section 04

遺産分割調停の申立先・申立人・相手方の書き方

この章の要点を、本文と図表で確認します。

5.1 申立先の家庭裁判所

遺産分割調停の申立先は、相手方のうち一人の住所地の家庭裁判所、又は当事者が合意で定める家庭裁判所です。 申立人の住所地ではない点に注意してください。相手方が複数いる場合は、そのうち一人の住所地で足ります。

記載例は次のとおりです。

東京家庭裁判所 御中
令和○年○月○日

合意管轄を使う場合は、管轄合意書を添付するのが通常です。相手方の住所が不明な場合は、戸籍附票等で住民票上の住所を調査します。裁判所のQ&Aも、相手方の住所が分からない場合に戸籍附票の写しを取得する方法があると説明しています。

5.2 申立人

申立人になれるのは、共同相続人、包括受遺者、相続分譲受人です。 共同相続人の一部が申し立てる場合、申立人以外の共同相続人は相手方になります。

申立人 山田太郎 印
申立人住所 〒000-0000 東京都○○区○○一丁目1番1号
電話番号 03-0000-0000

本人が高齢、病気、判断能力の問題を抱えている場合は、成年後見、保佐、補助、任意後見、代理権の範囲を確認します。未成年者が相続人で、親権者との間に利益相反がある場合は、特別代理人の選任が必要になることがあります。

5.3 相手方

相手方は、申立人以外の共同相続人全員です。相続人が一人でも漏れると、遺産分割全体の有効性に重大な問題が生じます。

当事者目録の記載例は次のとおりです。

相手方1
住所 〒000-0000 神奈川県○○市○○二丁目2番2号
氏名 山田花子
生年月日 昭和○年○月○日
被相続人との続柄 妻

相手方2
住所 〒000-0000 埼玉県○○市○○三丁目3番3号
氏名 山田桜
生年月日 平成○年○月○日
被相続人との続柄 長女

相続人調査では、出生から死亡までの戸籍、除籍、改製原戸籍を連続して確認します。兄弟姉妹相続、代襲相続、数次相続、養子縁組、認知、離婚再婚、旧民法下の相続が絡むと、相続人確定が難しくなります。司法書士、弁護士、行政書士等による戸籍収集と相続関係説明図作成が有用な場面です。ただし、紛争性が高い場合の交渉や代理は弁護士領域です。

Section 05

遺産分割調停の申立ての趣旨の書き方

この章の要点を、本文と図表で確認します。

申立ての趣旨は、家庭裁判所に何を求めるかを端的に記載する欄です。裁判所の記入例では、遺産の全部の分割を求めるか、一部の分割を求めるかを選択する形式になっています。

6.1 遺産全部の分割を求める場合

被相続人の遺産の全部の分割の調停を求める。

最も一般的です。遺産目録に、判明している遺産をできる限り網羅します。なお、裁判所の記入例は、遺産目録には遺産の全部を記載し、不明なもの及び分割済遺産目録に記載するものは除くという趣旨の注記を示しています。 不明な財産を無理に財産番号として書くのではなく、事情説明書や備考で「○○銀行に口座が存在する可能性がある。相手方が資料を保管している」などと整理するのが実務的です。

6.2 一部の遺産だけを分割したい場合

被相続人の遺産である別紙遺産目録記載の財産のうち、A1土地、B1建物、C1預貯金の分割の調停を求める。

一部分割は、他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合には制限されます。対象財産番号を明確にし、なぜ一部分割を先に行う必要があるのかを事情説明書で説明します。たとえば、空き家の管理費、固定資産税、老朽化、売却予定、共有状態の長期化、会社経営への影響などが理由になり得ます。

Section 06

遺産分割調停の申立ての理由の書き方

この章の要点を、本文と図表で確認します。

申立ての理由は、申立書の実質部分です。感情や非難を書く欄ではなく、裁判所が手続を進行させるための基礎事実を書く欄です。記入例では、遺産の種類及び内容、特別受益、事前の一部分割、事前の預貯金債権の行使、申立ての動機などを整理する形式になっています。

7.1 遺産の種類及び内容

遺産の種類及び内容 別紙遺産目録記載のとおり

実務では、申立書本体に細かく書くより、土地遺産目録、建物遺産目録、現金・預貯金・株式等遺産目録に分けて書きます。

7.2 特別受益

特別受益とは、共同相続人の一部が被相続人から生前贈与や遺贈を受けていた場合に、相続人間の公平を図るため相続分を調整する制度です。申立段階では、裁判所がただちに認めるという意味ではなく、「主張がある」ことを明確にします。

特別受益 有
相手方山田花子は、令和2年3月、被相続人から住宅取得資金として500万円の贈与を受けた。裏付け資料として、被相続人名義○○銀行普通預金口座の出金履歴及び相手方名義口座への入金履歴を提出予定である。

特別受益は、贈与の目的、金額、時期、被相続人の資産状況、相続人間の均衡、証拠の有無が争点になります。単に「昔お金をもらっているはず」と書くのではなく、客観資料を示します。

7.3 事前の遺産の一部分割

被相続人の死亡後、相続人間で一部の財産だけをすでに分けている場合は、分割済遺産目録を作成します。

事前の遺産の一部分割 有
令和6年12月、相続人全員の合意により、被相続人名義の普通預金のうち葬儀費用精算後の100万円を、相続人3名で各3分の1ずつ取得した。

この記載は、残余遺産の分割に影響します。分割済み財産を遺産目録にも重複記載すると混乱します。

7.4 事前の預貯金債権の行使

民法909条の2により、遺産分割前でも一定範囲で預貯金債権の払戻しを受ける制度があります。これを利用した相続人がいる場合、申立書又は事情説明書に記載します。

事前の預貯金債権の行使 有
申立人山田太郎は、令和6年9月、葬儀費用の支払のため、○○銀行○○支店普通預金から民法909条の2に基づき150万円の払戻しを受けた。

払戻しの目的、金額、使途、領収書、残額を整理しておくと、後の調停で説明が容易になります。

7.5 申立ての動機

申立ての動機は、話合いがつかない理由を簡潔に書きます。相手方への人格攻撃を避け、争点を明確化します。

悪い例 ―

相手方が不誠実で、父の財産を独り占めしようとしているため。

良い例 ―

相続人間で令和6年10月から令和7年2月まで協議したが、被相続人名義不動産の評価額、相手方山田花子に対する住宅取得資金贈与の扱い、預貯金の分割方法について合意に至らないため。
Section 07

遺産分割調停の遺産目録の書き方

この章の要点を、本文と図表で確認します。

遺産目録は、遺産分割調停の申立書の中核です。目録が不正確だと、調停で何を分けるのかが不明になります。

8.1 土地遺産目録

土地は登記事項証明書の表示に合わせて記載します。

番号 A1
所在 東京都○○区○○一丁目
地番 1番1
地目 宅地
地積 120.00平方メートル
備考 固定資産評価額 30,000,000円。被相続人単独所有。

注意点は次のとおりです。

  • 住所ではなく、登記上の所在、地番を書く
  • 地積は登記記録と一致させる
  • 持分がある場合は持分を明記する
  • 私道、農地、山林、借地権、底地、共有持分を見落とさない
  • 固定資産税納税通知書だけでなく登記事項証明書を確認する

8.2 建物遺産目録

建物も登記事項証明書に合わせます。

番号 B1
所在 東京都○○区○○一丁目1番地1
家屋番号 1番1
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積 1階 70.00平方メートル、2階 55.00平方メートル
備考 固定資産評価額 8,000,000円。申立人が管理中。

未登記建物がある場合は、固定資産評価証明書、名寄帳、課税明細、建築確認、現地写真等で特定します。土地家屋調査士が必要になることもあります。

8.3 現金、預貯金、株式等遺産目録

預貯金は、金融機関名、支店名、預金種別、口座番号、残高基準日を記載します。

番号 C1
品目 ○○銀行○○支店 普通預金 口座番号0000000
数量(金額) 5,432,100円
備考 令和6年8月10日現在残高証明書あり

番号 C2
品目 △△証券 一般口座 上場株式 株式会社□□
単位 株
数量(金額) 1,000株
備考 令和6年8月末取引残高報告書あり。評価額は別途協議。

預金は相続開始時残高、現在残高、死亡直前後の出金、利息、解約済口座の扱いが問題になります。株式や投資信託は、相続開始時評価、分割時評価、売却時評価のどれを採るかで争いが生じます。申立段階では、まず財産を特定し、評価は資料をそろえて協議するという整理が現実的です。

8.4 生命保険金は常に遺産とは限らない

死亡保険金は、受取人指定がある場合、原則として受取人固有の財産と扱われ、遺産分割の対象にならないことがあります。ただし、契約形態、保険料負担者、受取人、保険金額、相続人間の公平、特別受益性の有無などにより論点が生じます。申立書に単純に遺産として載せる前に、保険証券、契約者、被保険者、受取人、保険料支払者を確認してください。

8.5 非上場株式、事業用財産

被相続人が会社経営者だった場合、非上場株式、役員貸付金、会社への貸付金、会社からの借入金、事業用不動産、保証債務が絡みます。非上場株式は、税務評価、時価評価、純資産価額、類似業種比準価額、会社支配権などが複雑に絡むため、公認会計士、税理士、弁護士の連携が重要です。

Section 08

遺産分割調停の添付書類の準備

この章の要点を、本文と図表で確認します。

裁判所の公式ページは、遺産分割調停の標準的な申立添付書類として、事情説明書、進行に関する照会回答書、戸籍関係書類、住民票又は戸籍附票、遺産に関する証明書などを掲げています。

9.1 申立書と写し

申立書1通
申立書の写し 相手方の人数分

相手方が3人なら、裁判所用1通と相手方用3通を準備するのが基本です。地域や裁判所の運用により追加の提出を求められることがあります。

9.2 戸籍関係

共通して重要なのは次の資料です。

  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍、除籍、改製原戸籍謄本
  • 相続人全員の現在戸籍謄本
  • 被相続人の子又は代襲者で死亡している人がいる場合、その人の出生時から死亡時までの戸籍等
  • 相続人全員の住民票又は戸籍附票

第二順位相続、第三順位相続では、父母、祖父母、兄弟姉妹、おいめいの戸籍が追加で必要になります。裁判所のページも、相続順位に応じた追加戸籍を案内しています。

法定相続情報一覧図の写しを利用できる場合があります。法務局は、法定相続情報一覧図の写しが戸除籍謄本等の束の代わりに相続登記に利用でき、預金払戻し、相続税申告、年金等手続にも利用できると説明しています。 ただし、家庭裁判所への提出でどの範囲まで代替できるかは、申立先に確認してください。

9.3 遺産に関する証明書

不動産については次の資料が基本です。

  • 登記事項証明書
  • 固定資産評価証明書
  • 名寄帳
  • 公図、地積測量図、建物図面
  • 固定資産税納税通知書
  • 賃貸借契約書、管理委託契約書
  • 不動産査定書又は鑑定評価書

預貯金、有価証券については次の資料が基本です。

  • 残高証明書
  • 通帳の写し
  • 取引履歴
  • 証券会社の残高報告書
  • 株式配当通知書
  • 投資信託運用報告書

その他、保険証券、自動車登録事項証明書、ゴルフ会員権資料、貸金契約書、借用書、未収金資料、会社決算書、株主名簿、相続税申告書控えなどが必要になることがあります。

9.4 相続税申告との関係

相続税の申告が必要な場合、遺産分割調停中であっても申告期限は延びません。国税庁は、相続税の申告と納税は原則として被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内であり、遺産が未分割でも期限までに申告しなければならないと説明しています。また、未分割申告では小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減などが当初適用できない場合があり、分割後に修正申告又は更正の請求を行う場面があります。

したがって、申立書作成時点で相続税が見込まれる場合は、税理士と連携し、遺産目録の評価基礎、未分割申告、申告期限後3年以内の分割見込書などを検討します。調停での評価と相続税評価は同一とは限らないため、税務評価をそのまま分割時価と扱うと争いになることがあります。

9.5 相続登記との関係

不動産がある遺産分割では、調停成立後又は審判確定後に相続登記を行います。法務省は、相続により不動産所有権を取得した相続人は、取得を知った日から3年以内に相続登記申請をする義務があり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象となると説明しています。また、遺産分割成立時には、その成立日から3年以内に内容を踏まえた所有権移転登記を申請する義務もあります。

申立書の段階で不動産を正確に特定しておくことは、調停条項、審判主文、登記申請書の整合性を保つために重要です。司法書士に事前確認してもらうと、登記不能な表示や持分記載の誤りを防ぎやすくなります。

Section 09

記載例1 ― 子が、母と姉を相手に遺産全部の分割を求める場合

この章の要点を、本文と図表で確認します。

以下は架空の事例です。実在の人物、住所、金融機関、事件とは関係ありません。

10.1 事案

被相続人 山田一郎
死亡日 令和6年8月10日
最後の住所 東京都新宿区○○一丁目1番1号
相続人 妻 山田花子、長男 山田太郎、長女 山田桜
申立人 長男 山田太郎
相手方 妻 山田花子、長女 山田桜
主な遺産 自宅土地建物、預貯金、上場株式
争点 自宅の取得者、預貯金の分け方、長女への生前贈与の有無

10.2 申立書本体の記載例

東京家庭裁判所 御中
令和7年3月1日

申立人 山田太郎 印

調停 遺産分割申立書

被相続人1人につき収入印紙1,200円分を貼付
予納郵便切手 申立先裁判所の案内に従う

添付書類
1 被相続人の出生時から死亡時までの戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本
2 相続人全員の戸籍謄本
3 被相続人の住民票除票
4 相続人全員の住民票又は戸籍附票
5 相続関係説明図
6 遺産目録
7 不動産登記事項証明書
8 固定資産評価証明書
9 預貯金残高証明書
10 有価証券残高報告書
11 事情説明書
12 進行に関する照会回答書
13 送達場所等届出書

当事者 別紙当事者目録記載のとおり

被相続人
本籍 東京都新宿区○○一丁目1番地
最後の住所 東京都新宿区○○一丁目1番1号
氏名 山田一郎
死亡年月日 令和6年8月10日

申立ての趣旨
被相続人の遺産の全部の分割の調停を求める。

申立ての理由
遺産の種類及び内容 別紙遺産目録記載のとおり
特別受益 有
事前の遺産の一部分割 無
事前の預貯金債権の行使 無

申立ての動機
相続人間で令和6年9月から令和7年2月まで協議したが、被相続人名義の自宅不動産を誰が取得するか、預貯金をどの割合で分割するか、相手方山田桜に対する住宅取得資金贈与500万円を特別受益として考慮するかについて合意に至らないため、調停を求める。

10.3 当事者目録の記載例

申立人
住所 〒000-0000 東京都中野区○○二丁目2番2号
氏名 山田太郎
生年月日 昭和55年4月1日
被相続人との続柄 長男

相手方1
住所 〒000-0000 東京都新宿区○○一丁目1番1号
氏名 山田花子
生年月日 昭和30年5月1日
被相続人との続柄 妻

相手方2
住所 〒000-0000 神奈川県横浜市○○区○○三丁目3番3号
氏名 山田桜
生年月日 昭和58年6月1日
被相続人との続柄 長女

10.4 土地遺産目録の記載例

番号 A1
所在 東京都新宿区○○一丁目
地番 1番1
地目 宅地
地積 150.00平方メートル
備考 固定資産評価額 45,000,000円。被相続人単独所有。自宅敷地。

10.5 建物遺産目録の記載例

番号 B1
所在 東京都新宿区○○一丁目1番地1
家屋番号 1番1
種類 居宅
構造 木造スレート葺2階建
床面積 1階 80.00平方メートル、2階 65.00平方メートル
備考 固定資産評価額 12,000,000円。相手方山田花子が居住中。

10.6 現金、預貯金、株式等遺産目録の記載例

番号 C1
品目 ○○銀行新宿支店 普通預金 口座番号0000000
数量(金額) 6,250,000円
備考 令和6年8月10日現在残高証明書あり

番号 C2
品目 △△信用金庫新宿支店 定期預金 口座番号1111111
数量(金額) 3,000,000円
備考 令和6年8月10日現在残高証明書あり

番号 C3
品目 □□証券 特定口座 株式会社甲株式
単位 株
数量(金額) 1,000株
備考 令和6年8月末取引残高報告書あり。評価額は協議未了。

10.7 特別受益目録の記載例

番号 T1
品目 住宅取得資金贈与
金額 5,000,000円
受益者 山田桜
時期 令和2年3月15日
備考 被相続人名義○○銀行普通預金口座から500万円が出金され、同日、山田桜名義口座に入金された。通帳写し及び取引履歴を提出予定。
Section 10

記載例2 ― 不動産だけ先に一部分割を求める場合

この章の要点を、本文と図表で確認します。

11.1 事案

相続人間では預貯金と株式の評価、非上場株式の扱いに争いがある。
一方で、空き家になっている被相続人名義不動産について、固定資産税、修繕費、防犯上の問題があり、先に売却又は取得者決定をする必要がある。

11.2 申立ての趣旨の記載例

被相続人の遺産である別紙遺産目録記載の財産のうち、A1土地及びB1建物の分割の調停を求める。

11.3 申立ての理由の記載例

遺産の種類及び内容 別紙遺産目録記載のとおり
特別受益 不明
事前の遺産の一部分割 無
事前の預貯金債権の行使 無

申立ての動機
被相続人名義のA1土地及びB1建物は現在空き家であり、固定資産税、火災保険料、庭木管理費、雨漏り修繕費の負担が継続している。相続人間では預貯金及び非上場株式の評価に争いがあり、遺産全部の分割協議には時間を要する見込みであるが、A1土地及びB1建物については老朽化が進み、第三者への損害発生のおそれもあるため、先に同不動産の分割方法を定める必要がある。

一部分割では、他の遺産との均衡をどう保つかが問題になります。たとえば、先に不動産を一人が取得する場合、後の預貯金分割で調整するのか、代償金を支払うのか、換価分割するのかを検討します。

Section 11

記載例3 ― 相手方の使い込み疑いがある場合

この章の要点を、本文と図表で確認します。

12.1 書いてよいこと、避けるべきこと

使い込み疑いがある場合、申立書に強い表現を書きたくなります。しかし、家庭裁判所は遺産を探し出す機関ではありません。重要なのは、疑いの根拠を資料で示し、遺産分割の前提となる遺産範囲又は相続人間の調整問題として整理することです。

避けるべき記載 ―

相手方は父の預金を盗んだ。全額返すべきである。

改善例 ―

被相続人死亡前の令和6年6月1日から令和6年8月10日までの間に、○○銀行新宿支店普通預金口座から合計3,200,000円の出金がある。被相続人は同時期に入院中で自ら出金することが困難であったため、出金者、使途、残額について確認を求める。取引履歴、入院記録、医療費領収書を提出予定である。

12.2 申立ての理由への記載例

申立ての動機
相続人間では、被相続人名義○○銀行普通預金から令和6年6月以降に出金された合計3,200,000円の使途について説明が一致していない。申立人は、同出金のうち医療費及び施設費に充てられた部分を除き、遺産又は相続人間の清算対象として考慮すべきであると考えている。相手方はこれを争っているため、遺産の範囲及び分割方法について調停を求める。

使い込みが不法行為、不当利得、預金払戻請求、損害賠償請求として構成される場合、遺産分割調停だけでは解決できず、民事訴訟等が必要になることがあります。弁護士による法的構成の検討が重要です。

Section 12

遺産分割調停の事情説明書と進行照会回答書

この章の要点を、本文と図表で確認します。

裁判所の公式書式には、申立書本体のほか、事情説明書と進行に関する照会回答書があります。 これらは、裁判所が初回期日前に事件の概要、争点、必要資料、当事者間の連絡状況、出席上の配慮事項を把握するための書面です。

事情説明書には、次の事項を整理します。

  • 相続発生後の協議経過
  • 合意できている点、争いがある点
  • 遺言書の有無
  • 相続放棄者の有無
  • 相続人の死亡、未成年者、成年後見等の有無
  • 遺産の管理者
  • 不動産の使用者、管理費、固定資産税の負担者
  • 預貯金通帳、権利証、保険証券等の保管者
  • 特別受益、寄与分、使い込み疑いの概要
  • 希望する分割方法
  • 相手方に知られたくない情報、出席上の配慮

進行に関する照会回答書には、期日の出席可能性、相手方との連絡状況、調停成立の見込み、緊急性、資料提出予定などを書きます。これらは「裁判所だけに伝える情報」と「相手方に開示され得る情報」の区別が重要です。不安がある場合は、提出先の家庭裁判所に扱いを確認してください。

Section 13

遺産分割調停の申立書で関係する専門家

この章の要点を、本文と図表で確認します。

遺産分割調停の申立書は、紛争処理、戸籍、不動産、税務、評価、登記が交差する文書です。次のように専門家を使い分けると、誤りを減らせます。

次の比較表は、遺産分割調停の申立書で関係する専門家を項目ごとに整理したものです。違いを分けて確認することが重要です。各列を左から順に読み、どの情報をどの場面で使うかを把握してください。

専門職主な役割申立書作成との関係
弁護士交渉、調停、審判、訴訟、遺留分、使い込み疑い紛争性がある場合の中心職。代理人として申立て、期日対応、主張書面作成を行う
司法書士相続登記、戸籍収集、相続関係説明図、登記書類不動産特定、登記につながる調停条項確認、戸籍整理で重要
税理士相続税申告、未分割申告、税務評価、税務調査対応相続税期限、特例、評価資料、分割案の税務影響を検討
行政書士争いのない書類作成、相続関係図、遺産分割協議書紛争性がない範囲の書類整理に適する
不動産鑑定士土地建物の時価評価不動産評価が争点のときに鑑定評価を行う
土地家屋調査士境界、分筆、表示登記土地を分ける、未登記建物を整理する場面で重要
公認会計士非上場株式、会社価値、財務分析会社経営者の相続、事業承継で重要
宅地建物取引士、不動産仲介業者売却査定、売買実務換価分割を検討する場合に関与
家庭裁判所調査官、調停委員、裁判官調停進行、調査、審判判断当事者が提出した資料を基礎に進行、判断を行う

紛争がある事件では、最初に弁護士へ相談するのが基本です。不動産登記だけ、税務申告だけ、協議書作成だけで足りる事件とは異なり、遺産分割調停では手続代理、主張整理、証拠提出、和解案、審判移行への備えが必要になるためです。

Section 14

遺産分割調停の申立書の提出前チェックリスト

この章の要点を、本文と図表で確認します。

提出前に、次の項目を確認してください。

15.1 当事者チェック

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍が連続しているか
  • 相続人全員の現在戸籍を取得したか
  • 代襲相続、数次相続、養子、認知、前婚の子を確認したか
  • 相続放棄の有無を確認したか
  • 未成年者、成年後見人、利益相反の有無を確認したか
  • 申立人以外の共同相続人全員を相手方にしたか

15.2 遺産チェック

  • 不動産登記事項証明書を取得したか
  • 固定資産評価証明書又は名寄帳を取得したか
  • 預貯金の金融機関、支店、口座番号を特定したか
  • 相続開始時残高と現在残高の違いを確認したか
  • 有価証券、投資信託、保険、車、貸付金、会社株式を確認したか
  • 債務、保証、葬儀費用、未払税金を別途整理したか

15.3 争点チェック

  • 分割方法の希望を整理したか
  • 特別受益の主張と証拠を整理したか
  • 寄与分の主張と証拠を整理したか
  • 使い込み疑いについて取引履歴等を取得したか
  • 遺言書の有無と効力を確認したか
  • 遺留分問題が別に生じないか確認したか

15.4 手続チェック

  • 申立先の家庭裁判所が正しいか
  • 収入印紙1,200円分を用意したか
  • 郵便切手又は保管金の金額を申立先に確認したか
  • 申立書の写しを相手方人数分準備したか
  • 事情説明書、進行照会回答書、送達場所等届出書を準備したか
  • 相手方に知られたくない住所等の非開示、秘匿を検討したか

次の一覧は、提出直前に確認すべき項目を4つの分野に分けたものです。分野ごとに確認する資料が違うため、上から順に当事者、遺産、争点、手続の抜けを見つけるために使ってください。

PEOPLE

当事者

戸籍、相続放棄、未成年者、成年後見、相手方漏れを確認します。

ASSETS

遺産

不動産、預貯金、有価証券、保険、債務、葬儀費用を分けて確認します。

ISSUES

争点

特別受益、寄与分、使い込み疑い、遺言、遺留分を整理します。

PROCESS

手続

管轄、収入印紙1,200円、郵便切手、写し、非開示の要否を確認します。

Section 15

遺産分割調停の申立書に関するよくある質問

この章の要点を、本文と図表で確認します。

Q1. 弁護士に依頼しなくても遺産分割調停を申し立てられますか

一般的には、本人申立ても可能とされています。ただし、遺産の範囲、使い込み、特別受益、寄与分、不動産評価、遺留分、遺言の効力、非上場株式などが争点になる場合は、資料整理や主張立証の難度が上がります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q2. 申立前にすべての戸籍をそろえられない場合はどうしますか

一般的には、申立前に入手できない戸籍等がある場合、申立後に追加提出する運用も案内されています。ただし、戸籍の不足は相続人確定に直結します。どの戸籍が不足しているか、取得中か、取得困難な理由は何かを明確にし、具体的には家庭裁判所又は専門家へ確認する必要があります。

Q3. 相手方に住所を知られたくない場合はどうしますか

一般的には、DV、虐待、親族間暴力などにより住所を知られたくない場合、非開示の申出や秘匿制度の利用を検討することがあります。ただし、事情や提出書類によって扱いが変わる可能性があります。具体的な対応は、提出前に家庭裁判所又は弁護士へ相談する必要があります。

Q4. 相続税申告がまだ終わっていない場合でも調停を申し立てられますか

一般的には、調停申立て自体と相続税申告期限は別に管理されます。相続税申告が必要な場合、遺産が未分割でも申告期限は原則として延びないとされています。ただし、未分割申告、特例適用、修正申告、更正の請求の要否は財産内容で変わります。具体的には税理士等へ相談する必要があります。

Q5. 相続登記義務化により注意する点はありますか

一般的には、不動産の表示を正確に記載し、調停成立後に登記できる内容にする必要があります。相続登記の申請義務や、遺産分割成立後の登記義務が関係します。ただし、不動産の表示、持分、未登記建物、共有状態によって結論が変わる可能性があります。具体的には司法書士等へ相談する必要があります。

Q6. 申立書に希望する分け方を書いてよいですか

一般的には、希望する分け方を書くことはあります。ただし、申立書本体には簡潔に書き、具体的な分割案は事情説明書又は別紙で整理する方法が実務的とされています。評価額、代償金支払能力、居住実態、売却可能性で結論が変わるため、具体的な案は専門家に確認する必要があります。

Q7. 被相続人の葬儀費用は遺産目録に書きますか

一般的には、葬儀費用は遺産そのものではなく相続開始後に発生する費用と整理されます。相続人間の清算問題として話し合われることはありますが、遺産目録に遺産として記載するのは通常慎重に考える必要があります。領収書、支払者、香典、葬儀規模などを整理し、具体的には専門家へ確認する必要があります。

Section 16

遺産分割調停の申立書の品質を高める原則

この章の要点を、本文と図表で確認します。

遺産分割調停の申立書の品質は、次の四つで決まります。

第一に、相続人の確定です。相続人を漏らさないことは、すべての前提です。戸籍の読み違い、代襲相続の見落とし、前婚の子の見落とし、数次相続の処理漏れは、調停全体を停滞させます。

第二に、遺産の特定です。不動産は登記情報で、預貯金は金融機関資料で、有価証券は証券会社資料で、会社関係は株主名簿や決算書で特定します。不明財産は「不明」と書くだけでなく、調査対象と根拠を示します。

第三に、争点の整理です。裁判所に伝えるべきことは、相手方への不満ではなく、どの事実について合意がなく、どの資料で判断してほしいのかです。

第四に、出口の設計です。調停成立後には、登記、預金解約、株式名義変更、税務申告、売却、代償金支払が続きます。申立書の時点で出口を見据えておくと、調停条項が実行可能になります。

Section 17

遺産分割調停の申立書のまとめ

この章の要点を、本文と図表で確認します。

遺産分割調停の申立書の書き方と記載例で重要なのは、用紙の空欄を埋めることではなく、相続人、遺産、争点、証拠、分割希望、提出先、添付書類を一つの手続文書として整合させることです。

申立書では、被相続人と当事者を戸籍に基づいて正確に特定し、遺産目録を証明資料に基づいて作成し、申立ての趣旨で全部分割か一部分割かを明示し、申立ての理由で協議不成立の原因、特別受益、分割済み財産、預貯金払戻し、使い込み疑いなどを資料に即して整理します。

遺産分割調停は、感情的対立を法的、会計的、登記的、税務的に整理し直す手続です。弁護士を中心に、司法書士、税理士、不動産鑑定士、土地家屋調査士、公認会計士などが必要に応じて連携することで、申立書の精度と調停の解決可能性は大きく高まります。

Reference

この記事の参考情報源

公的機関・法令

  • 裁判所 遺産分割調停
  • 裁判所 裁判手続 家事事件Q&A
  • e-Gov法令検索 民法
  • 裁判所 遺留分侵害額の請求調停
  • 裁判所 寄与分を定める処分調停
  • 裁判所 特別の寄与に関する処分調停
  • 裁判所 遺産分割調停の申立書
  • 裁判所 記入例 遺産分割
  • 法務局 法定相続情報証明制度
  • 国税庁 相続財産が分割されていないときの申告
  • 法務省 相続登記の申請義務化について