2σ Guide

事業承継で株式を移転する際の
価格の決め方

非上場株式の価格は、税務評価だけでは決まりません。会社法、売買実務、M&A、遺留分、資金調達、説明資料を分けて整理します。

4層価格の見方
5問最初の確認
6段階実務手順
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事業承継で株式を移転する際の 価格の決め方

非上場株式の価格は、税務評価だけでは決まりません。

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事業承継で株式を移転する際の 価格の決め方
非上場株式の価格は、税務評価だけでは決まりません。
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  • 事業承継で株式を移転する際の 価格の決め方
  • 非上場株式の価格は、税務評価だけでは決まりません。

POINT 1

  • 事業承継で株式を移転する際の価格の決め方の全体像
  • 非上場株式の価格は、税務・会社法・取引実務・紛争予防を分けて考える必要があります。
  • 事業承継で株式を移転する際、多くの経営者や後継者が最初に知りたいのは「自社株はいくらで渡せばよいのか」です。
  • 次の重要ポイントは、価格決定で最初に分けるべき視点を示しています。
  • 相続税 評価額、会社法上の価格、実際の取引価格、将来の説明に耐える価格は一致しないことがあります。

POINT 2

  • 事業承継で株式価格を決める前に確認する5つの問い
  • 誰から誰へ移すか
  • 何株を移すか
  • 何のための価格か
  • 評価時点をいつにするか
  • 誰に説明する価格か
  • 評価計算に入る前に、移転相手、株数、目的、時点、説明相手を整理します。

POINT 3

  • 贈与・相続での事業承継株式価格と税制の考え方
  • 相続税 評価は重要な出発点ですが、納税猶予制度と価格決定は別に考えます。
  • 会社規模や株主区分により使う方式が変わるため、どの方式が自社に関係するかを読み取ることが重要です。
  • 特定の評価会社に該当するかも確認が必要です。
  • ただし、株価をゼロにする制度ではありません。

POINT 4

  • 事業承継で株式を売買する場合の価格帯と税務リスク
  • 1. 相続税評価額を算定:取引相場のない株式の評価を出発点にします。
  • 2. 複数の参考値を比較:純資産、収益価値、類似会社比較などを並べます。
  • 3. 売主と買主の資金を確認:譲渡所得税と支払能力を同時に試算します。
  • 4. 低額譲渡リスクを検証:著しく低い価額と見られない根拠を確認します。
  • 5. 契約書と記録を整備:議事録、算定資料、支払記録、株主名簿更新を残します。

POINT 5

  • 会社法上の価格と自己株式取得を事業承継でどう見るか
  • 譲渡制限株式、相続人への売渡請求、自己株式取得では、税務評価とは別の手続が問題になります。
  • 税務評価だけで決めるのではなく、会社法上の承認機関、協議、裁判所手続、財源規制を読み取る必要があります。
  • 多くの中小企業では、株式譲渡に会社の承認を必要とする譲渡制限株式が採用されています。
  • 自己株式取得は、先代経営者や相続人から会社が株式を買い取り、後継者の取得資金負担を軽くしたり株式分散を防いだりする手法です。

POINT 6

  • M&A・第三者承継での事業承継株式価格は交渉で決まる
  • 株式の不備
  • 株主名簿と実質株主の不一致、名義株、株券所在不明、過去の株式移転契約書の欠落があると、買主がリスクを見込みます。
  • 契約・許認可
  • 重要契約に支配権変更条項がある、許認可の承継に制限がある、届出が未整備といった事情は条件交渉に影響します。

POINT 7

  • 遺留分と価格説明は事業承継の株式集中で最大の論点になる
  • 後継者に株式を集めるほど、他の相続人に説明できる評価と代替財産の設計が必要です。
  • 価格は親族間の納得を支える説明言語です
  • 株式評価書・算定資料
  • 契約書・説明資料

POINT 8

  • 事業承継の株式価格を算定する実務プロセス
  • 1. 株主構成と権利内容を確認:定款、株主名簿、株券発行の有無、過去の譲渡契約、議事録、相続関係、種類株式・新株予約権を確認します。
  • 2. 承継スキームを仮決定:贈与、相続、売買、自己株式取得、M&A、持株会社化のどれを主軸にするかを決めます。
  • 3. 税務評価を算定:直近3期分の決算書、申告書、株主名簿、固定資産台帳、土地建物、有価証券、保険、借入金、配当実績を確認します。
  • 4. 複数の価格候補を出す:相続税評価、簿価純資産、時価純資産、正常収益力、EBITDA倍率、DCF、M&A市場感、資金調達可能額を比較します。
  • 5. 税務・法務リスクを検証:贈与税、譲渡所得税、法人税、みなし配当、会社法、相続、少数株主、金融契約を確認します。
  • 6. 意思決定過程を文書化:価格算定メモ、評価明細、専門家意見、議事録、交渉経緯、契約書、支払記録、株主名簿更新を保存します。

まとめ

  • 事業承継で株式を移転する際の 価格の決め方
  • 事業承継で株式を移転する際の価格の決め方の全体像:非上場株式の価格は、税務・会社法・取引実務・紛争予防を分けて考える必要があります。
  • 贈与・相続での事業承継株式価格と税制の考え方:相続税 評価は重要な出発点ですが、納税猶予制度と価格決定は別に考えます。
  • 事業承継で株式を売買する場合の価格帯と税務リスク:親族内売買や従業員承継では、契約価格と税務上の時価を同時に検証します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

事業承継で株式を移転する際の価格の決め方の全体像

非上場株式の価格は、税務・会社法・取引実務・紛争予防を分けて考える必要があります。

事業承継で株式を移転する際、多くの経営者や後継者が最初に知りたいのは「自社株はいくらで渡せばよいのか」です。しかし、非上場株式には市場価格がなく、贈与、相続、親族内売買、従業員承継、自己株式取得、M&Aでは、同じ会社でも価格の意味が変わります。

次の重要ポイントは、価格決定で最初に分けるべき視点を示しています。読者にとって重要なのは、最安値を探すことではなく、どの相手に、どの目的で、どの資料をもって説明する価格なのかを読み取ることです。

価格は一つの正解ではなく、目的ごとに設計するものです

相続税評価額、会社法上の価格、実際の取引価格、将来の説明に耐える価格は一致しないことがあります。承継目的、法的手続、税務リスク、親族間の公平、資金負担、将来の紛争予防を同時に満たす価格帯を検討することが重要です。

特に同族会社では、当事者だけが納得しても十分とは限りません。税務署、他の相続人、少数株主、取締役会、金融機関、裁判所、後継者の家族などに説明できる資料を残すことが、価格そのものと同じくらい重要になります。

Section 01

事業承継の株式価格は4つの層に分けて考える

税務評価、会社法上の価格、取引価格、説明可能価格を混同しないことが出発点です。

次の比較表は、事業承継で使われる価格の4つの層を整理したものです。列ごとに目的、場面、注意点を分けて読むと、同じ株式でも「何のための価格か」によって基準が変わることが分かります。

価格の層主な意味主な場面注意点
税務上の評価額相続税・贈与税・所得税・法人税で問題となる評価贈与、相続、低額譲渡、同族関係者間売買当事者の合意価格と一致するとは限りません
会社法上の価格譲渡制限株式の買取り、相続人等への売渡請求などで問題となる価格譲渡承認拒否、相続人への売渡請求協議不成立時には裁判所の価格決定手続があり得ます
取引価格売主と買主が実際に合意する売買代金親族内売買、従業員承継、M&A合意価格でも税務・少数株主保護上の検証が必要です
説明可能価格税務調査、相続紛争、株主間紛争、金融機関説明に耐える価格重要な承継スキーム全般算定資料、議事録、交渉経緯、専門家意見が重要です

基本用語も整理しておく必要があります。事業承継は、経営権、株式、事業用資産、取引関係、従業員、許認可、金融機関との関係、経営理念を次世代へ移すことです。株式会社では、代表者が変わるだけでなく、議決権を伴う株式の移転が安定しているかが大きな論点になります。

株式の移転方法には、贈与、相続、遺贈、売買、代物弁済、自己株式取得、持株会社への現物出資、会社分割・株式交換・株式交付などがあります。非上場株式は市場価格がないため、目的別の評価方式、当事者交渉、専門家算定、裁判所の判断などによって価格が形成されます。

時価の意味に注意税法上の時価、会社法上の公正な価格、会計上の公正価値、M&A交渉上の買収価格は一致しないことがあります。税務上の相続税評価額だけで売買してよい、純資産額だけで会社法価格が決まる、と短絡しないことが重要です。
Section 02

事業承継で株式価格を決める前に確認する5つの問い

評価計算に入る前に、移転相手、株数、目的、時点、説明相手を整理します。

次の判断の流れは、価格算定に入る前の確認順序を表しています。上から順に確認することで、税務評価だけを先に計算してしまう失敗を避け、価格の意味と必要資料を読み取れます。

価格決定前の確認順序

誰から誰へ移すか

親から子、親族間、従業員、発行会社、第三者買主などで論点が変わります。

何株を移すか

少数株式か、過半数か、3分の2以上かで支配権の意味が異なります。

何のための価格か

申告、売買、自己株式取得、M&A、遺留分、裁判所手続などを分けます。

評価時点をいつにするか

相続開始時、贈与時、契約日、クロージング日などで価格が変わります。

誰に説明する価格か

税務署、相続人、少数株主、金融機関、裁判所に説明できる資料を整えます。

次の比較表は、議決権割合ごとの実務上の意味を示しています。割合が大きいほど会社支配に近づき、価格にも支配権や拒否権の価値が反映されやすいことを読み取ってください。

議決権割合実務上の意味
3分の2以上定款変更や組織再編などの特別決議を単独で成立させやすい割合です
過半数取締役選任などの普通決議を支配しやすい割合です
3分の1超特別決議を単独で阻止しやすい割合です
少数株式経営支配権は弱いものの、株主権行使や紛争対応上の意味があります

価格を説明する相手も重要です。税務署、他の相続人・親族株主、少数株主、取締役会・監査役、金融機関、買主候補、裁判所、後継者の配偶者・次世代など、説明相手が多いほど、価格算定の過程を文書化する必要性が高まります。

Section 03

贈与・相続での事業承継株式価格と税制の考え方

相続税評価は重要な出発点ですが、納税猶予制度と価格決定は別に考えます。

次の比較表は、相続税・贈与税で問題となる取引相場のない株式の主な評価方式を整理したものです。会社規模や株主区分により使う方式が変わるため、どの方式が自社に関係するかを読み取ることが重要です。

評価方式主な対象概要注意点
類似業種比準方式大会社を中心に検討類似業種の株価を基に、配当・利益・純資産を比準します利益水準、配当政策、資産構成、決算時期が影響します
純資産価額方式小会社、資産型会社、不動産保有会社など資産・負債を評価し直し、純資産を基礎にします土地、有価証券、保険積立金、簿外債務、訴訟リスクを確認します
併用方式中会社類似業種比準方式と純資産価額方式を一定割合で併用します会社規模判定や評価会社区分が重要です
配当還元方式同族株主以外の少数株主など1年間の配当金額を一定利率で還元して評価します後継者が同族株主等に該当する場合は通常そのまま使えません

特定の評価会社に該当するかも確認が必要です。比準要素数1の会社、株式等保有特定会社、土地保有特定会社、開業後3年未満の会社、休業中の会社、清算中の会社などでは、通常の会社規模別評価とは違う扱いになることがあります。

事業承継税制は、非上場会社株式の贈与税・相続税について、一定要件のもとで納税が猶予され、さらに要件を満たすと免除され得る制度です。ただし、株価をゼロにする制度ではありません。対象株式の評価額、申告、担保、認定、継続届出、代表者要件、議決権要件などを管理する必要があります。

期限と要件を分けて確認法人版事業承継税制の特例措置では、特例承継計画の提出期限が令和9年9月30日までとされています。制度の利用可否は期限、会社要件、後継者要件、先代経営者要件、継続管理を含めて確認する必要があります。

売買による承継では、事業承継税制ではなく、売買代金、譲渡所得税、買主の資金調達が中心になります。先代経営者の老後資金、他の相続人への代償金、後継者の経営責任をどう考えるかによって、一部売買・一部贈与などの組合せも検討されます。

Section 04

事業承継で株式を売買する場合の価格帯と税務リスク

親族内売買や従業員承継では、契約価格と税務上の時価を同時に検証します。

次の比較表は、売買による承継で起きやすい税務・資金の論点を並べたものです。どの当事者に、どの税目や資金負担が生じるかを読み取ると、単に安い価格にすることの危うさが分かります。

論点主に影響を受ける人確認すべき内容
低額譲渡・みなし贈与買主となる後継者個人が著しく低い価額で取得した場合、時価との差額が贈与とみなされる可能性があります
法人への時価の2分の1未満譲渡売主である個人株主法人へ著しく低額で譲渡すると、時価で譲渡があったものとして扱われるリスクがあります
譲渡所得税売主である先代経営者など譲渡価額から取得費・手数料等を差し引いて計算し、創業者株式では譲渡益が大きくなりやすいです
資金調達後継者・後継者法人自己資金、金融機関融資、分割払い、役員報酬、退職金、一部贈与との組合せを検討します

親族内売買では、相続税評価額だけでなく、純資産価額、収益価値、類似会社比較、売主の納税資金、買主の支払能力、他の相続人への説明可能性を横断して見ます。目的は「できるだけ安く」ではなく、合理的根拠があり後から説明できる価格にすることです。

次の判断の流れは、親族内売買で価格帯を検討する順序を示しています。順番に沿って確認することで、税務と資金繰りのどちらか一方だけを見る偏りを避けられます。

親族内売買の価格帯を検討する順序

相続税評価額を算定

取引相場のない株式の評価を出発点にします。

複数の参考値を比較

純資産、収益価値、類似会社比較などを並べます。

売主と買主の資金を確認

譲渡所得税と支払能力を同時に試算します。

低額譲渡リスクを検証

著しく低い価額と見られない根拠を確認します。

契約書と記録を整備

議事録、算定資料、支払記録、株主名簿更新を残します。

後継者に資金がない場合も、資金不足だけを理由に著しく低い価格へ寄せると税務リスクが生じます。分割払い、金融機関融資、後継者法人、自己株式取得、一部贈与・一部売買、退職金、種類株式などを組み合わせ、説明できる設計にする必要があります。

Section 05

会社法上の価格と自己株式取得を事業承継でどう見るか

譲渡制限株式、相続人への売渡請求、自己株式取得では、税務評価とは別の手続が問題になります。

次の比較表は、会社法上の価格が問題になりやすい場面を整理したものです。税務評価だけで決めるのではなく、会社法上の承認機関、協議、裁判所手続、財源規制を読み取る必要があります。

場面価格の決まり方実務上の注意点
譲渡制限株式の譲渡承認請求会社または指定買取人が買い取る場合、協議で価格を定め、調わなければ裁判所への価格決定申立てがあり得ます定款、譲渡承認機関、議事録、株主名簿を確認します
相続人等に対する売渡請求定款規定と株主総会決議を前提に、会社と相続人等が協議し、調わなければ裁判所手続があり得ます期限管理と定款規定の有無が重要です
自己株式取得会社が株式を買い取りますが、株主総会決議や分配可能額などの制約があります特定株主からの取得では他の株主との公平も問題になります
相続人からの自己株式取得一定要件を満たせば、みなし配当課税ではなく株式譲渡所得として扱われる特例が検討されます相続税納税資金、株式集約、適用期間・手続書類を確認します

多くの中小企業では、株式譲渡に会社の承認を必要とする譲渡制限株式が採用されています。望ましくない第三者が株主になることを防ぐためですが、事業承継では後継者へ株式を移す際にも定款、株主名簿、承認機関、議事録を確認する必要があります。

自己株式取得は、先代経営者や相続人から会社が株式を買い取り、後継者の取得資金負担を軽くしたり株式分散を防いだりする手法です。ただし、会社財産の流出、分配可能額、他の株主の利益、みなし配当、相続人特例が関係します。

会社法価格と税務評価は目的が違います税務評価は課税の公平を目的とし、会社法上の価格決定は株主間の公平や会社財産の保護も問題にします。税務評価額だけを根拠にすると、相続人や少数株主から公正な価格ではないと争われる可能性があります。
Section 06

M&A・第三者承継での事業承継株式価格は交渉で決まる

企業価値評価の算定額は出発点であり、最終価格は買主調査と契約条件で変わります。

次の比較表は、M&Aで使われる主な企業価値評価の考え方を整理したものです。手法ごとに見ている価値が違うため、算定額をそのまま最終価格と考えないことを読み取ってください。

アプローチ代表的手法見ている価値中小企業での使い方
コスト・アプローチ簿価純資産法、時価純資産法会社が保有する純資産不動産保有会社や資産型企業で重要です
マーケット・アプローチ類似会社比較法、類似取引比較法類似企業・類似取引の市場価格業界データがある場合に参考になります
インカム・アプローチDCF法、収益還元法将来キャッシュ・フロー成長企業や安定収益企業で重要です
実務的な複合評価時価純資産+営業権、EBITDA倍率など純資産と正常収益力の組合せ中小企業M&Aで使われることがあります

EBITDA倍率法では、概ね「株式価値=EBITDA×倍率−純有利子負債±調整項目」と考えます。ただし、中小企業では役員報酬、親族給与、オーナー個人費用、退職金、賃料、保険料、単発損益、過年度未処理事項などにより、表面上の利益が実態とずれることがあります。

次の一覧は、M&A価格を下げたり契約条件を重くしたりしやすい法務要素を示しています。読者にとって重要なのは、財務数値だけでなく、契約・労務・許認可・株式の不備が価格に反映される点を読み取ることです。

株式の不備

株主名簿と実質株主の不一致、名義株、株券所在不明、過去の株式移転契約書の欠落があると、買主がリスクを見込みます。

契約・許認可

重要契約に支配権変更条項がある、許認可の承継に制限がある、届出が未整備といった事情は条件交渉に影響します。

労務・紛争

未払残業代、ハラスメント、労働紛争、情報漏えい、製品責任などのリスクは、価格減額や補償条項につながることがあります。

M&A会社の簡易査定額は、法的に確定した価格ではありません。買主のデューデリジェンス表明保証、補償条項、退職金、役員借入金、現預金、運転資本、簿外債務、クロージング条件により最終価格は変動します。

Section 07

遺留分と価格説明は事業承継の株式集中で最大の論点になる

後継者に株式を集めるほど、他の相続人に説明できる評価と代替財産の設計が必要です。

次の重要ポイントは、遺留分と株式価格の関係を整理したものです。なぜ重要かというと、後継者に議決権を集中させても、相続時の金銭負担が残る可能性があるためです。読者は、価格評価と親族間の説明が一体であることを読み取ってください。

価格は親族間の納得を支える説明言語です

後継者へ自社株を集中させる場合、他の相続人の遺留分、代償金、生命保険、遺言、民法特例を組み合わせて検討します。生前贈与時の評価が低くても、会社価値が上昇すると遺留分計算上の負担が増えることがあります。

遺留分とは、一定の相続人に最低限保障される相続分に相当する金銭的請求権の基礎となる制度です。自社株は会社支配に不可欠である一方、評価額が高くなりやすいため、後継者に株式を集中させると、他の相続人への金融資産、不動産、生命保険、代償金が不足しやすくなります。

次の一覧は、遺留分紛争を予防するために残す資料を示しています。資料の種類が多いのは、価格の妥当性だけでなく、関係者がどのような前提で意思決定したかを説明するためです。

評価

株式評価書・算定資料

贈与、売買、遺留分説明の前提となる価額と評価時点を残します。

合意

契約書・説明資料

贈与契約書、売買契約書、親族説明資料、民法特例の合意書などで経緯を明らかにします。

会社

定款・議事録・株主名簿

会社法上の手続と株式の移転結果を確認できる資料を整えます。

経営承継円滑化法の民法特例には、一定要件の下で、後継者が先代経営者から贈与等により取得した自社株式について、遺留分算定基礎財産から除外する合意や価額を固定する合意を可能にする仕組みがあります。株式価格そのものを決める制度ではなく、将来の遺留分紛争への影響を管理する制度として理解する必要があります。

Section 08

事業承継の株式価格を算定する実務プロセス

株主構成の確認から、スキーム選定、評価、検証、文書化まで段階的に進めます。

次の時系列は、価格算定の実務プロセスを表しています。順番には意味があり、株式の所在や権利内容を確認しないまま評価だけを進めると、実行段階で止まる可能性があります。

Step 1

株主構成と権利内容を確認

定款、株主名簿、株券発行の有無、過去の譲渡契約、議事録、相続関係、種類株式・新株予約権を確認します。

Step 2

承継スキームを仮決定

贈与、相続、売買、自己株式取得、M&A、持株会社化のどれを主軸にするかを決めます。

Step 3

税務評価を算定

直近3期分の決算書、申告書、株主名簿、固定資産台帳、土地建物、有価証券、保険、借入金、配当実績を確認します。

Step 4

複数の価格候補を出す

相続税評価、簿価純資産、時価純資産、正常収益力、EBITDA倍率、DCF、M&A市場感、資金調達可能額を比較します。

Step 5

税務・法務リスクを検証

贈与税、譲渡所得税、法人税、みなし配当、会社法、相続、少数株主、金融契約を確認します。

Step 6

意思決定過程を文書化

価格算定メモ、評価明細、専門家意見、議事録、交渉経緯、契約書、支払記録、株主名簿更新を保存します。

次の比較表は、承継スキームごとに価格設計の中心がどこにあるかを示しています。スキームが変われば、価格の意味と必要資料が変わることを読み取ってください。

スキーム価格設計の中心
生前贈与贈与税評価、事業承継税制、遺留分
遺言・相続相続税評価、遺産分割、遺留分
親族内売買売買価格、譲渡所得税、低額譲渡リスク
従業員承継資金調達、経営権、保証解除
自己株式取得会社法手続、財源、みなし配当
M&A企業価値評価、デューデリジェンス、契約交渉
Section 09

典型ケース別に見る事業承継の株式価格の決め方

親族内贈与、親族内売買、自己株式取得、従業員承継、M&Aで重点が変わります。

次の比較一覧は、典型ケースごとに価格の中心論点を示しています。ケースごとに、税務、会社法、資金、契約、相続のどこを重点的に読むべきかが分かります。

1

父から長男へ生前贈与

贈与税評価、事業承継税制、遺留分が中心です。評価、税制適用、他の相続人への説明、遺言、民法特例を合わせて検討します。

贈与遺留分
2

父から長男へ売却

売買価格、父の譲渡所得税、長男の資金調達、低額譲渡リスクが中心です。分割払いでは利息、担保、残債処理も契約化します。

売買税務
3

相続人から会社が買い取り

自己株式取得の手続、分配可能額、売主追加請求権、みなし配当または相続人特例が中心です。定款規定や財源を生前から整えます。

自己株式財源
4

従業員に承継

後継者の資金力、金融機関融資、保証解除、議決権設計が中心です。過大な債務を負わせると承継後の経営が不安定になります。

MBO保証
5

第三者へM&Aで売却

買主が得る経済的利益と支配権の対価として価格が決まります。最終価格は契約条件、補償、運転資本、借入金、退職金と一体で交渉されます。

M&A契約

価格を下げる施策には、役員退職金、配当政策、不動産・有価証券の整理、持株会社化、種類株式があります。ただし、株価引下げだけを目的とした形式的処理は、税務、会社法、会計、資金繰り、金融機関説明、将来のM&Aへの影響を生みます。

次の重要ポイントは、価格対策の限界をまとめたものです。読者は、評価額を下げることと、承継後に会社を安定させることを同時に見る必要があります。

不自然な株価対策は危険です退職金、配当、資産売却、持株会社化、種類株式は有効な場面がありますが、事業実態や手続と合わない処理は税務否認、少数株主対応、金融機関説明の問題につながります。
Section 10

事業承継の株式価格でよくある失敗と相談先

額面譲渡、根拠不足、専門家の役割混同を避け、資料を整えて相談します。

次の一覧は、価格決定で起きやすい失敗を示しています。なぜ重要かというと、価格の数字自体よりも、根拠不足や手続不備が後の紛争・税務調査・M&A条件に影響しやすいためです。

額面で譲渡する

会社法上の額面感覚は現在価値を示しません。利益剰余金や含み益がある会社では、著しい低額譲渡と見られる可能性があります。

税務評価だけでM&A価格を決める

相続税評価は課税目的の評価です。第三者売却では支配権、将来利益、シナジーが反映されます。

M&A査定額を親族内価格に使う

高い査定額をそのまま使うと、後継者に過大な債務が残り、承継後の経営が不安定になることがあります。

株主名簿を確認しない

名義株、相続未了株式、株券不明、所在不明株主があると、価格以前に承継を実行できないことがあります。

契約書を作らない

親子間でも、いつ、誰が、何株を、いくらで移したかを証明できないと、税務調査や相続紛争で困ります。

価格の根拠を残さない

評価書、試算表、議事録、専門家とのやり取り、支払記録がなければ、合理性を説明しにくくなります。

次の比較表は、専門家ごとの主な役割をまとめたものです。どの相談先が何を担当するかを読み取ることで、税務だけ、法務だけ、M&A査定だけで全体設計をしてしまう危険を避けられます。

相談先主な役割
弁護士相続人間対立、遺留分、株式譲渡契約、贈与契約、株主間契約、定款、会社法手続、M&A契約、少数株主対応を整理します
税理士非上場株式評価、贈与税・相続税、事業承継税制、低額譲渡、みなし贈与、譲渡所得税、みなし配当を検討します
公認会計士・M&Aアドバイザー企業価値評価、財務デューデリジェンス、EBITDA、正常収益力、運転資本調整、買主候補との価格交渉を支援します
司法書士定款変更登記、種類株式、役員変更登記、相続登記、不動産承継、議事録・登記手続を支援します

初回相談前には、定款、登記事項証明書、株主名簿、直近3期分の決算書・申告書、固定資産台帳、借入金明細、生命保険契約一覧、役員報酬・退職金規程、過去の株式譲渡契約書・贈与契約書、親族関係図、遺言書の有無、金融機関保証資料、許認可一覧を可能な範囲で準備します。

価格決定時には、価格の目的、評価時点、株主構成、定款の譲渡制限、相続税評価、譲渡所得税、資金調達、低額譲渡、会社法手続、遺留分、事業承継税制、価格算定根拠、契約書・議事録・株主名簿更新を確認します。

Section 11

事業承継の株式価格でよくある質問

FAQは一般的な制度説明にとどめ、個別の価格判断は専門家確認が必要なものとして整理します。

Q1. 相続税評価額で売買すれば安全ですか。

一般的には、相続税評価額は相続税・贈与税の計算目的の評価であり、売買価格として常に妥当とは限らないとされています。ただし、親族間売買、第三者M&A、会社法上の買取りなど、目的や当事者関係で結論は変わる可能性があります。具体的な価格設計は、資料を整理したうえで弁護士・税理士等へ相談する必要があります。

Q2. 親から子へ1円で株式を売ることはできますか。

一般的には、契約形式として売買契約を作ることと、税務上安全に移転できることは別問題とされています。会社価値、資産内容、将来収益、役員借入金、含み益などで判断が変わる可能性があります。具体的には専門家に評価資料を確認してもらう必要があります。

Q3. 赤字会社なら株価はゼロですか。

一般的には、赤字であっても土地、有価証券、現預金、保険積立金、許認可、顧客基盤などに価値があれば株価がゼロとは限らないとされています。損益だけでなく、貸借対照表と将来収益の両方を確認する必要があります。

Q4. 会社が相続人から株式を買い取る価格は自由に決められますか。

一般的には、自己株式取得には会社法上の手続、財源規制、他の株主との公平、税務上のみなし配当などが関係するとされています。個別の価格の相当性は会社の財務、定款、株主構成、相続関係で変わるため、専門家の確認が必要です。

Q5. M&A会社の査定額はそのまま売却価格になりますか。

一般的には、査定額は交渉の出発点であり、最終価格は買主候補、調査結果、契約条件、補償、退職金、借入金、運転資本、クロージング条件で変わるとされています。具体的な売却条件は、契約書と調査資料を確認して判断する必要があります。

Q6. 株価を下げてから贈与する対策は有効ですか。

一般的には、有効な場合もありますが、形式的・不自然な対策には否認リスクがあるとされています。役員退職金、配当、資産整理、組織再編、持株会社化は、税務だけでなく会社法、会計、資金繰りとの整合性を確認する必要があります。

Q7. 後継者に資金がない場合、価格はどうすればよいですか。

一般的には、後継者の資金不足だけを理由に著しく低い価格へ寄せると税務リスクが生じる可能性があります。分割払い、融資、後継者法人、自己株式取得、一部贈与・一部売買などを組み合わせる余地がありますが、具体的な設計は専門家に相談する必要があります。

Q8. 他の相続人に株式を渡さなければ、価格説明は不要ですか。

一般的には、後継者に株式を集中させる場合でも、他の相続人の遺留分や納得が問題になる可能性があります。株式評価額、他財産、生命保険、代償金、遺言、民法特例などを含めて説明可能性を確保する必要があります。

Q9. 弁護士と税理士のどちらに先に相談すべきですか。

一般的には、相続人間対立、株主間紛争、契約書、会社法手続、M&A契約が重要なら弁護士、株価評価や税額試算が中心なら税理士への相談が重要とされています。多くの案件では両者の連携が必要です。

Q10. 最低限、何を文書化すべきですか。

一般的には、評価時点、評価方法、採用価格の理由、関係者の意思決定、契約内容、支払記録、株主名簿更新を残すことが重要とされています。具体的な書類の範囲は、承継方法や株主構成により変わります。

Reference

この記事の参考情報源

公的情報・法令

  • 国税庁「No.4638 取引相場のない株式の評価」
  • 国税庁「No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」
  • 国税庁「No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法」
  • 国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税」
  • 国税庁「No.1464 譲渡した株式等の取得費」
  • 国税庁「No.1477 相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例」
  • 中小企業庁「法人版事業承継税制」
  • 中小企業庁「中小M&Aガイドライン」
  • 中小企業庁「中小企業経営承継円滑化法 申請マニュアル 民法特例」
  • e-Gov法令検索「会社法」