2σ Guide

成年後見制度の利用者数の推移と
利用が増えている背景

令和元年から令和7年までの公的統計をもとに、成年後見制度の利用者数、申立て動機、増加背景、相続実務で問題になりやすい場面を整理します。

259,901人 令和7年末の利用者数
15.8% 令和元年末からの増加率
10,909件 相続手続を動機とする申立て
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成年後見制度の利用者数の推移と 利用が増えている背景

令和元年から令和7年までの公的統計をもとに、成年後見制度の利用者数、申立て動機、増加背景、相続実務で問題になりやすい場面を整理します。

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成年後見制度の利用者数の推移と 利用が増えている背景
令和元年から令和7年までの公的統計をもとに、成年後見制度の利用者数、申立て動機、増加背景、相続実務で問題になりやすい場面を整理します。
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  • 成年後見制度の利用者数の推移と 利用が増えている背景
  • 令和元年から令和7年までの公的統計をもとに、成年後見制度の利用者数、申立て動機、増加背景、相続実務で問題になりやすい場面を整理します。

POINT 1

  • 成年後見制度の利用者数と相続への影響を最初に押さえる
  • 高齢化と認知症
  • 75歳以上人口の増加、認知症高齢者と軽度認知障害の増加により、預貯金管理や契約の支援ニーズが高まっています。
  • 家族機能の変化
  • 単身高齢者世帯、高齢夫婦のみ世帯、親族との疎遠化により、家族だけで財産管理や身上保護を担いにくくなっています。

POINT 2

  • 成年後見制度とは何か ― 法定後見と任意後見の違い
  • 制度の目的、類型、統計を見るときの前提を整理します。
  • 法律的には、本人の財産管理と身上保護を支える仕組みです。
  • 身体介護そのものを後見人が行う制度ではありません。
  • 任意後見契約は公正証書で作成し、判断能力低下後に家庭裁判所が任意後見監督人を選任して効力が発生します。

POINT 3

  • 成年後見制度の利用者数の推移 ― 令和元年から令和7年
  • ストックとしての利用者数と、申立て動機の内訳を分けて確認します。
  • 令和元年末から令和7年末までの利用者数は一貫して増加しています。
  • 次の横棒グラフは、令和元年末から令和7年末までの類型別増加率を比較したものです。
  • 棒が長いほど伸びが大きいことを示し、保佐と補助の利用が相対的に広がっている点を読み取るために重要です。

POINT 4

  • 成年後見制度の利用が増えている背景
  • 1. 利用者数が224,442人から259,901人へ増加:6年間で35,459人増え、増加率は約15.8パーセントです。
  • 2. 第二期成年後見制度利用促進基本計画:本人を中心とした支援、意思決定支援、身上保護、地域連携ネットワークの整備が重視されています。
  • 3. 相続登記の義務化:不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内の登記申請が必要になり、相続不動産を放置しにくくなりました。
  • 4. 民法等の一部を改正する法律案の提出:高齢化や単身高齢者世帯の増加を踏まえ、成年後見や遺言をより利用しやすくする方向の議論が進んでいます。

POINT 5

  • 相続で成年後見制度が問題になる典型場面
  • 遺産分割、預金、不動産、相続税、使い込み疑いを本人保護の視点で見ます。
  • 認知症の配偶者が共同相続人
  • 知的障害や精神障害のある相続人
  • 相続不動産を売却して分ける

POINT 6

  • 成年後見制度で誤解しやすい論点
  • 相続が終われば当然に終了するわけではない
  • 現行制度では、本人の判断能力が回復した場合などを除き、相続手続が終わっただけで当然に終了するものではありません。
  • 親族が当然に後見人になるわけではない
  • 令和7年統計では、親族が選任された割合は16.4パーセント、親族以外は83.6パーセントです。

POINT 7

  • 成年後見制度と相続に関わる専門職の役割
  • 紛争、登記、税務、福祉、不動産、金融を分けて相談先を考えます。
  • どの相談先がどの論点に強いかを読み取り、成年後見制度と相続手続を同時に進める際の連携先を見極めるために役立ちます。

POINT 8

  • 相続で成年後見制度を検討する手順
  • 1. 本人の判断能力を確認:遺産分割、不動産売却、預金解約の意味を理解できるかを確認します。
  • 2. 相続財産と本人財産を分ける:亡くなった人の遺産と、判断能力が問題となっている本人の財産・収支を分けて整理します。
  • 3. 遺言の有無を確認:有効な遺言があれば遺産分割協議が不要になる場合がありますが、遺留分や税務の問題が残ることがあります。
  • 4. 利益相反を確認:後見人候補者も共同相続人か、過去の預金管理や生前贈与があるかを確認します。
  • 5. 専門職・特別代理人等を検討:本人の利益保護と中立性が重視されます。
  • 6. 必要な支援範囲を整理:保佐、補助、成年後見などの類型を検討します。

まとめ

  • 成年後見制度の利用者数の推移と 利用が増えている背景
  • 成年後見制度の利用者数と相続への影響を最初に押さえる:人数の増加だけでなく、本人保護と相続実務の接点を分けて理解します。
  • 成年後見制度とは何か ― 法定後見と任意後見の違い:制度の目的、類型、統計を見るときの前提を整理します。
  • 成年後見制度の利用者数の推移 ― 令和元年から令和7年:ストックとしての利用者数と、申立て動機の内訳を分けて確認します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

成年後見制度の利用者数と相続への影響を最初に押さえる

人数の増加だけでなく、本人保護と相続実務の接点を分けて理解します。

成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分な人について、財産管理、契約、身上保護、相続手続などを法的に支援する制度です。相続では、共同相続人の一人が判断能力を欠く場合、遺産分割協議を有効に成立させるために制度利用が問題になりやすくなります。

公的統計では、令和7年12月末時点の成年後見制度の利用者数は合計259,901人です。令和6年12月末の253,941人から1年間で5,960人増え、増加率は約2.3パーセントでした。制度全体は緩やかな増加ですが、保佐と補助は比較的高い伸びを示しています。

次の重要ポイントは、令和7年末の利用者数と制度の見方を短く整理したものです。相続手続で制度を検討する前提になるため、人数の増加だけでなく、本人保護が中心である点を読み取ってください。

成年後見制度は相続人の都合ではなく本人の権利を守る制度です

遺産分割、預金解約、不動産売却、相続税申告を進める場面でも、本人にとって利益があるか、本人の意思をどう確認するか、利益相反がないかを検討する必要があります。

次の一覧は、成年後見制度の利用が増えている主な背景を並べたものです。どの要因も相続や財産管理に影響するため、単なる高齢化だけでなく、家族構成、金融実務、不動産、政策整備をあわせて読むことが重要です。

高齢化と認知症

75歳以上人口の増加、認知症高齢者と軽度認知障害の増加により、預貯金管理や契約の支援ニーズが高まっています。

家族機能の変化

単身高齢者世帯、高齢夫婦のみ世帯、親族との疎遠化により、家族だけで財産管理や身上保護を担いにくくなっています。

相続実務の必要性

遺産分割、相続登記、不動産処分、保険金請求、相続税申告などで、本人の代理や同意の仕組みが必要になる場面が増えています。

地域と政策の整備

市区町村長申立て、地域連携ネットワーク、中核機関の整備により、制度につながりにくかった人も支援へ届きやすくなっています。

Section 01

成年後見制度とは何か ― 法定後見と任意後見の違い

制度の目的、類型、統計を見るときの前提を整理します。

成年後見制度は、判断能力が不十分な成人が生活上の重要な契約、預貯金管理、不動産管理、介護サービス利用、医療・福祉サービスの調整、相続手続などで不利益を受けないよう支援する制度です。法律的には、本人の財産管理と身上保護を支える仕組みです。

身上保護とは、介護施設への入所契約、介護保険サービスの利用契約、住まいに関する契約、生活環境の調整など、本人の生活や療養看護に関する法律行為を支援することです。身体介護そのものを後見人が行う制度ではありません。

制度は大きく、本人の判断能力がすでに不十分になった後に家庭裁判所が後見人等を選任する法定後見と、本人が十分な判断能力を有するうちに将来に備えて契約する任意後見に分かれます。任意後見契約は公正証書で作成し、判断能力低下後に家庭裁判所が任意後見監督人を選任して効力が発生します。

次の比較表は、法定後見の3類型と任意後見の基本的な違いを整理したものです。相続手続でどの支援が必要になるかは本人の判断能力と手続内容で変わるため、類型ごとの支援範囲を読み取ることが重要です。

類型典型的な判断能力の状態支援の基本構造相続実務での典型場面
成年後見判断能力を欠くのが通常の状態成年後見人が広い代理権を持つ重度の認知症の相続人がいる、預金解約や遺産分割が必要
保佐判断能力が著しく不十分重要行為について保佐人の同意等が必要財産管理や不動産処分の理解が不十分だが、一定の意思表示は可能
補助判断能力が不十分本人が同意した特定行為について補助人が支援軽度の判断能力低下があり、特定の契約や手続だけ支援が必要
任意後見契約時は判断能力がある将来に備えて契約で任せる内容を決める遺言や財産管理契約と組み合わせ、判断能力低下後の支援に備える

この整理は一般的な目安です。実際には医師の診断書、本人の生活状況、財産状況、申立ての目的、本人の意思、家庭裁判所の判断によって決まります。相続手続を進めたいからといって、当然に成年後見が選ばれるわけではありません。

統計の読み方利用者数はある時点で制度を利用している人の数で、申立件数はその年に家庭裁判所へ申立てが行われた件数です。死亡、取消し、類型変更により、申立件数の増加がそのまま利用者数の増加になるとは限りません。
Section 03

成年後見制度の利用が増えている背景

高齢化、認知症、単身世帯、金融・不動産・地域連携を横断して見ます。

成年後見制度の利用が増えている背景を「高齢者が増えたから」とだけ見ると、実務上の重要な要因を見落とします。75歳以上人口、認知症、家族構成の変化、預貯金管理、介護契約、不動産処分、相続登記義務化、地域連携ネットワークが重なって、制度利用の必要性が高まっています。

次の表は、高齢化と認知症に関する主要な数値をまとめたものです。成年後見制度が高齢者だけの制度ではない一方で、75歳以上人口や認知症高齢者の増加が、財産管理や相続手続の相談増加と結びついている点を読み取ることが重要です。

項目数値成年後見制度との関係
令和6年10月1日の総人口1億2,380万人人口全体が減る中で高齢者の比重が上がっています。
65歳以上人口3,624万人高齢化率は29.3パーセントです。
75歳以上人口2,078万人総人口の16.8パーセントで、介護・金融・相続実務の問題が増えやすい層です。
令和4年の認知症高齢者数443.2万人判断能力低下により預金、契約、遺産分割の支援が問題になります。
令和4年の軽度認知障害の高齢者数558.5万人保佐、補助、任意後見、財産管理契約などの比較検討が重要になります。
令和7年の申立て原因認知症61.3パーセント認知症が申立て原因の中心であり、相続や金融手続で判断能力の確認が重要になります。
令和12年の認知症高齢者推計523.1万人中期的にも、本人の意思決定支援と財産管理の需要が増えると考えられます。
令和22年の認知症高齢者推計584.2万人長期的にも制度利用ニーズが高い状態が続くと考えられます。
令和22年の軽度認知障害の高齢者推計612.8万人判断能力が完全に失われる前の支援策を早く比較する必要性を示します。

次の棒の比較は、認知症高齢者数と軽度認知障害の推計を時点別に示しています。数値が大きいほど対象となり得る人が多いことを表し、将来の財産管理や相続準備を早めに考える必要性を読み取れます。

443.2万
令和4年 認知症
471.6万
令和7年 認知症
523.1万
令和12年 認知症
584.2万
令和22年 認知症
612.8万
令和22年 軽度認知障害

単身高齢者世帯や高齢夫婦のみ世帯の増加も大きな背景です。65歳以上の人がいる世帯は全世帯の約半数を占め、単独世帯と夫婦のみ世帯がそれぞれ約3割とされています。家族がいない人、家族と疎遠な人、家族間で争いがある人では、市区町村長申立て、地域包括支援センター、社会福祉協議会、専門職後見人、市民後見人の役割が大きくなります。

地域連携の整備も制度利用の入口を広げています。厚生労働省の令和6年度調査では、市町村計画を策定済みの自治体は1,358自治体、中核機関を整備済みの自治体は1,187自治体とされ、福祉、医療、行政、司法、専門職団体が連携して制度利用につなげる体制づくりが進んでいます。

預貯金管理では、本人確認や意思確認ができない場合に金融機関が高額取引を進めにくくなります。施設入所一時金、医療費、定期預金解約、生活費の支払いが必要でも、本人の意思確認ができなければ成年後見人等の選任が求められることがあります。

不動産処分も利用増加の要因です。令和7年の申立て動機では不動産処分が15,502件でした。本人名義の自宅売却、相続不動産の共有持分、境界、未登記建物、空き家管理などでは、本人の法律行為や代理の問題が複雑になります。

次の時系列は、成年後見制度の利用が増える社会的背景を、制度・人口・相続実務の流れで整理したものです。順番に見ることで、制度利用の増加が一つの原因ではなく、複数の変化が重なった結果であることを読み取れます。

令和元年から令和7年

利用者数が224,442人から259,901人へ増加

6年間で35,459人増え、増加率は約15.8パーセントです。

令和4年度から令和8年度

第二期成年後見制度利用促進基本計画

本人を中心とした支援、意思決定支援、身上保護、地域連携ネットワークの整備が重視されています。

令和6年4月1日

相続登記の義務化

不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内の登記申請が必要になり、相続不動産を放置しにくくなりました。

令和8年4月3日

民法等の一部を改正する法律案の提出

高齢化や単身高齢者世帯の増加を踏まえ、成年後見や遺言をより利用しやすくする方向の議論が進んでいます。

Section 04

相続で成年後見制度が問題になる典型場面

遺産分割、預金、不動産、相続税、使い込み疑いを本人保護の視点で見ます。

相続手続で成年後見制度が問題になる典型例は、共同相続人の一人が遺産分割の意味、財産の内容、自分の取得分、合意の法的効果を理解できない場面です。本人が理解していないのに形式的に署名押印だけをさせると、後日、協議の有効性が争われる可能性があります。

次の一覧は、相続で制度利用が問題になりやすい場面を整理したものです。どの場面でも、他の相続人の都合ではなく、本人の権利、生活費、将来の介護、利益相反を確認する必要がある点を読み取ってください。

配偶者

認知症の配偶者が共同相続人

父が亡くなり、母と子が相続人になる場合、母が協議の意味を理解できなければ、母の権利を守るため成年後見人等の関与が必要になることがあります。

障害

知的障害や精神障害のある相続人

本人が取得する財産は、将来の住まい、医療、福祉サービス、生活費、親亡き後の支援体制に直結します。

不動産

相続不動産を売却して分ける

共有者の一人が判断能力を欠く場合、売却価格、測量、境界、税務、代金分配まで含めて本人に不利益がないかを確認します。

預金

生前の預金引き出しが疑われる

後見人等が選任されると、財産目録、収支、領収書管理により透明性が高まりますが、過去の使い込み疑いが当然に消えるわけではありません。

税務

相続税申告の期限が近い

判断能力の問題があると遺産分割が遅れ、配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例、納税資金準備に影響することがあります。

次の表は、相続で問題になりやすい実務論点と、成年後見制度で確認される観点を対応させたものです。相続手続を進める前に、どの論点が本人の利益や家庭裁判所の監督に関わるかを読み取るために重要です。

相続の場面確認すべき観点注意点
遺産分割協議本人が協議の意味と結果を理解できるか理解できない場合、形式的な署名押印は重大なリスクになります。
本人と後見人候補者が共同相続人利益相反があるか特別代理人等や専門職後見人が必要になることがあります。
本人の法定相続分を下回る案本人に不利益がないか生活費、介護費、本人の意思、財産評価を確認します。
相続不動産の売却価格、売却理由、居住用不動産か本人の居住用不動産処分では家庭裁判所の許可が問題になる場面があります。
相続税申告申告期限、特例、納税資金期限が迫ってから申立てると、選任までに時間がかかる可能性があります。
重要成年後見人等は本人の利益を守る立場です。本人の法定相続分を大きく下回る内容、合理的な説明のない無償譲渡、将来生活費を考慮しない分割案には、一般的に慎重な検討が必要です。
Section 05

成年後見制度で誤解しやすい論点

相続のためだけに使う、家族が当然に選ばれる、争いがなくなるという誤解を避けます。

成年後見制度は、相続手続を進めるための便利な道具として理解すると、後見開始後の継続管理、報酬、家庭裁判所への報告、本人の意思尊重、利益相反の問題でつまずきやすくなります。

次の一覧は、相続相談で特に誤解されやすい点をまとめたものです。各項目は、制度利用前に家族が確認すべき注意点を示しており、制度の限界と本人保護の優先順位を読み取るために重要です。

相続が終われば当然に終了するわけではない

現行制度では、本人の判断能力が回復した場合などを除き、相続手続が終わっただけで当然に終了するものではありません。

親族が当然に後見人になるわけではない

令和7年統計では、親族が選任された割合は16.4パーセント、親族以外は83.6パーセントです。家庭裁判所は本人の利益を基準に判断します。

家族の希望どおりの遺産分割とは限らない

成年後見人等は本人の利益を守るため、本人に不利益な分け方には慎重な確認を行います。

任意後見契約だけで直ちに始まるわけではない

任意後見は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任してから効力が発生します。遺言や財産管理契約との役割分担も必要です。

相続争いを自動的に解決する制度ではない

遺留分、特別受益、寄与分、使い込み、不動産評価、遺言の有効性などは、別途専門的な検討が必要になることがあります。

制度見直しでは、必要性がなくなった場合の終了や、より柔軟な利用が議論されています。ただし、現時点で個別案件を進める場合は、現行制度を前提に申立て後の生活、財産管理、後見人報酬、家庭裁判所への報告まで見通す必要があります。

Section 06

成年後見制度と相続に関わる専門職の役割

紛争、登記、税務、福祉、不動産、金融を分けて相談先を考えます。

相続と成年後見が交差する案件では、一つの専門職だけで全体を処理できないことが多くあります。争いがあるなら弁護士、不動産登記が中心なら司法書士、相続税が問題なら税理士、任意後見や遺言なら公証人を軸にしつつ、福祉・不動産・金融の専門職と連携することが重要です。

次の表は、各専門職や機関が担う主な役割を整理したものです。どの相談先がどの論点に強いかを読み取り、成年後見制度と相続手続を同時に進める際の連携先を見極めるために役立ちます。

専門職・機関主な役割成年後見と相続が交差する場面
弁護士紛争処理、交渉、調停、審判、訴訟、遺留分、使い込み疑い、利益相反対応相続人間でもめている、後見人と相続人の利害が対立する、遺産分割調停が必要
司法書士相続登記、戸籍収集、登記書類、家庭裁判所提出書類作成、不動産登記相続不動産がある、後見申立書類を整えたい、相続登記義務化に対応したい
税理士相続税申告、財産評価、税務代理、税務調査対応相続税が発生しそう、遺産分割が税務に影響する、納税資金が必要
行政書士紛争・税務・登記申請を除く書類作成、遺産分割協議書作成支援、遺言作成支援争いがない相続で書類整理をしたい、戸籍や相続関係説明の準備をしたい
公証人公正証書遺言、任意後見契約、公正証書作成判断能力があるうちに任意後見や遺言を整えたい
社会福祉士身上保護、福祉サービス調整、地域生活支援施設入所、介護サービス、障害福祉、本人中心の生活支援が重要
家庭裁判所後見等開始審判、後見人等選任、監督、居住用不動産処分許可等申立て、後見人選任、利益相反、後見監督が必要
市区町村市区町村長申立て、利用支援事業、相談窓口、地域連携親族がいない、虐待や経済的搾取が疑われる、費用支援が必要
不動産鑑定士・土地家屋調査士不動産評価、境界、測量、分筆、表示登記不動産価格や境界が争点になり、本人の不利益を避ける必要がある
金融機関・信託銀行預金、信託、遺言信託、保険請求案内預金凍結、保険金請求、遺言執行、財産管理の相談が必要
Section 07

相続で成年後見制度を検討する手順

判断能力、財産、遺言、利益相反、申立て目的、選任後の流れを順に確認します。

相続と成年後見制度が関係する場合、最初に確認するのは、本人が具体的な法律行為をどの程度理解し、判断し、意思表示できるかです。医師の診断名だけでなく、遺産分割、不動産売却、預金解約などの内容と結果を理解できるかを確認します。

次の判断の流れは、相続で成年後見制度を検討する際の基本順序を示しています。上から順に確認することで、制度が必要か、どの類型が問題になり得るか、利益相反や期限リスクをどこで確認するかを読み取れます。

相続で成年後見制度を検討する基本順序

本人の判断能力を確認

遺産分割、不動産売却、預金解約の意味を理解できるかを確認します。

相続財産と本人財産を分ける

亡くなった人の遺産と、判断能力が問題となっている本人の財産・収支を分けて整理します。

遺言の有無を確認

有効な遺言があれば遺産分割協議が不要になる場合がありますが、遺留分や税務の問題が残ることがあります。

利益相反を確認

後見人候補者も共同相続人か、過去の預金管理や生前贈与があるかを確認します。

利益相反あり
専門職・特別代理人等を検討

本人の利益保護と中立性が重視されます。

利益相反が限定的
必要な支援範囲を整理

保佐、補助、成年後見などの類型を検討します。

申立ての目的は、「相続手続のため」だけでは不十分です。たとえば、本人の法定相続分を確保するため、施設入所費用を確保するため、相続登記義務化に対応するため、保険金請求や預貯金解約に法的代理人が必要であるため、というように本人の利益と手続の必要性を具体化します。

次の時系列は、申立てから選任後の管理までの一般的な流れを整理したものです。期間は事案ごとに異なるため、相続税申告、不動産売買、施設入所など期限のある手続がある場合は、早めに準備する必要があることを読み取ってください。

準備

本人の状況、財産、親族関係、申立て目的を整理

医師の診断書、介護記録、財産資料、相続関係資料を集めます。

申立て

家庭裁判所へ申立書類を提出

財産目録、収支予定表、親族関係資料、候補者情報などを整えます。

審理

本人、申立人、親族、候補者の確認

必要に応じて鑑定、調査、親族照会が行われます。

選任後

財産調査と相続手続の実施

後見人等が財産目録を提出し、預金管理、不動産管理、遺産分割、身上保護を進めます。

継続

家庭裁判所への定期報告

後見等は継続的な制度であり、報酬や報告、本人生活の支援を見通す必要があります。

次の一覧は、相談前に準備すると判断がしやすくなる資料を3つのまとまりで示しています。資料が完全にそろっていなくても相談は可能ですが、判断能力、財産、相続人、争いの有無を早期に整理することが重要です。

1

本人に関する資料

氏名、住所、生年月日、家族関係、医師の診断書、認知症検査結果、介護認定資料、施設入所契約書、預貯金通帳、保険証券、不動産資料、年金額、医療費、生活費、本人の意思を示すメモなど。

判断能力生活費
2

相続に関する資料

被相続人の戸籍、相続人関係図、遺言書の有無、遺産目録、不動産登記事項証明書、固定資産税評価証明書、名寄帳、残高証明書、取引履歴、有価証券、生命保険、債務、遺産分割案など。

遺産調査期限
3

親族関係と紛争状況

親族の連絡先、申立てに賛成・反対している人、使い込み疑い、遺産分割でもめている論点、後見人候補者の希望、本人と候補者の利益相反の有無など。

利益相反紛争
Section 08

成年後見制度の利用増加をどう評価するか

量的な増加と、本人の意思を尊重する質的改善を分けて考えます。

成年後見制度の利用者数が増えていることは、高齢化、認知症、単身世帯、家族機能の変化、相続財産の複雑化、地域権利擁護の整備を反映しています。特に相続実務では、判断能力が不十分な相続人がいる場合に、遺産分割協議、相続登記、不動産売却、預金解約、保険金請求、税務申告を適法に進めるための制度として重要です。

次の重要ポイントは、制度利用の増加を評価するときの視点をまとめたものです。人数が増えること自体ではなく、必要な人が必要な範囲で利用でき、本人の意思決定が尊重されるかを読み取ることが重要です。

量的拡大だけでなく、質的改善が重要です

令和7年末の利用者数は259,901人ですが、認知症高齢者の推計は数百万人規模です。すべての人に制度が必要なわけではない一方、必要な人が制度につながっていない可能性もあります。

今後重要なのは、本人にとって必要な制度を、必要な時期に、必要な範囲で利用できるようにすることです。保佐・補助の増加、任意後見の活用、意思決定支援、地域連携ネットワーク、専門職後見人と市民後見人の役割分担、制度見直しは、この質的改善の方向性を示しています。

Section 09

成年後見制度と相続のFAQ

個別判断ではなく、一般的な制度理解として確認します。

親が認知症ですが、すぐに成年後見制度を使う必要がありますか。

一般的には、認知症と診断されたことだけで直ちに成年後見制度が必要になるわけではないとされています。ただし、本人がどの法律行為を理解できるか、財産管理の支障、金融機関や介護施設から法的代理人を求められているか、相続手続の有無によって結論が変わる可能性があります。具体的な対応は、医療・介護・財産資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

相続人の一人が認知症の場合、遺産分割協議書に署名してもらえば足りますか。

一般的には、本人が遺産分割の意味と結果を理解できない場合、形式的な署名押印だけでは協議の有効性に疑義が生じる可能性があるとされています。ただし、判断能力の程度、協議内容、財産内容、医師の診断、本人の意思表示の状況で結論は変わります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士や司法書士等の専門家へ相談する必要があります。

成年後見人は家族が希望すれば家族から選ばれますか。

一般的には、家族を候補者として示すことはできますが、家庭裁判所は本人の利益を基準に選任するとされています。親族間の争い、多額の財産、使い込み疑い、不動産処分、利益相反、候補者の管理能力などによって、専門職が選任される可能性があります。具体的な見通しは、家庭裁判所提出資料や親族関係を確認したうえで専門家へ相談する必要があります。

成年後見制度を使うと、相続財産を自由に分けられなくなりますか。

一般的には、成年後見人等は本人の利益を守る立場であり、本人に不利益な分け方には慎重な確認が必要とされています。ただし、本人の法定相続分、生活費、介護費、財産評価、本人の意思、将来の必要資金によって判断は変わる可能性があります。具体的な遺産分割案は、弁護士や税理士等の専門家と確認する必要があります。

成年後見制度を使わずに家族信託で対応できますか。

一般的には、家族信託は本人に十分な判断能力があるうちに契約する必要があるとされています。すでに判断能力が不十分な場合、契約の有効性が問題になる可能性があります。また、家族信託は身上保護を直接担う制度ではありません。具体的な制度選択は、本人の判断能力、財産内容、家族関係を整理したうえで専門家へ相談する必要があります。

任意後見と遺言はどちらを優先すべきですか。

一般的には、任意後見は生前の判断能力低下に備える制度であり、遺言は死亡後の財産承継を定める制度とされています。役割が異なるため、どちらか一方だけで足りるとは限りません。具体的には、任意後見、公正証書遺言、財産管理契約、見守り契約、死後事務委任契約、家族信託などを組み合わせて検討する必要があります。

相続登記義務化により成年後見制度の利用は増えますか。

一般的には、相続登記義務化により相続不動産を放置しにくくなり、遺産分割協議を進める必要性が高まると考えられます。ただし、実際に成年後見制度が必要かは、相続人の判断能力、遺言の有無、不動産の共有状況、期限、登記手続の内容で変わります。具体的には、不動産資料と相続関係を整理したうえで専門家へ相談する必要があります。

成年後見制度の利用者数は今後も増えますか。

一般的には、高齢化、認知症高齢者の増加、単身高齢者世帯の増加、相続不動産問題、地域連携ネットワークの整備を踏まえると、制度利用のニーズは高いと考えられます。ただし、制度見直しにより、成年後見、保佐、補助の枠組みや統計の見え方が変わる可能性があります。今後は人数だけでなく、本人の意思決定を尊重した柔軟な支援が広がるかが重要です。

Section 10

成年後見制度の利用者数推移から見る結論

相続手続を安全に進めるには、本人保護を中心に据えることが出発点です。

成年後見制度の利用者数は、令和元年末の224,442人から令和7年末の259,901人へ一貫して増加しています。特に保佐と補助の伸びが大きく、本人の判断能力を全面的に代替するだけでなく、本人の意思を尊重しながら必要な範囲で支援する制度利用が広がりつつあります。

利用が増えている背景には、高齢化、認知症、単身高齢者世帯の増加、預貯金管理、介護契約、不動産処分、相続手続、市区町村長申立て、地域連携ネットワーク、相続登記義務化、制度見直しの議論があります。相続では、遺産分割、預金解約、不動産売却、相続税申告、使い込み疑いの調査と深く関わります。

ただし、成年後見制度は相続人の便宜のための制度ではありません。中心にあるのは、判断能力が不十分な本人の権利、財産、生活、意思決定の保護です。制度を利用する場合でも、本人に利益があるか、本人の意思をどう尊重するか、利益相反がないか、後見開始後の生活と費用をどう支えるかを確認する必要があります。

Reference

参考文献・公的資料

制度統計、高齢化、相続登記、制度見直しに関する公的資料です。

裁判所・省庁資料

  • 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況 令和7年1月から12月」
  • 厚生労働省「成年後見制度の現状 令和7年5月」
  • 厚生労働省「令和6年度成年後見制度利用促進施策に係る取組状況調査結果」
  • 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」
  • 内閣法制局「民法等の一部を改正する法律案」
  • 衆議院法務調査室「成年後見制度の概要及び見直し」

高齢社会・法令資料

  • 内閣府「令和7年版高齢社会白書 第1章 第1節 1 高齢化の現状と将来像」
  • 内閣府「令和7年版高齢社会白書 第1章 第1節 3 家族と世帯」
  • e-Gov法令検索「民法」
  • e-Gov法令検索「任意後見契約に関する法律」
  • e-Gov法令検索「成年後見制度の利用の促進に関する法律」