2σ Guide

法定後見と任意後見の違いを
相続実務で比較

判断能力が低下した後の本人保護に向く法定後見と、元気なうちに将来の支援者を決める任意後見を、表・手続・費用・統計・FAQで整理します。

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259,901人 令和7年末の利用者数
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法定後見と任意後見の違いを 相続実務で比較

判断能力が低下した後の本人保護に向く法定後見と、元気なうちに将来の支援者を決める任意後見を、表・手続・費用・統計・FAQで整理します。

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法定後見と任意後見の違いを 相続実務で比較
判断能力が低下した後の本人保護に向く法定後見と、元気なうちに将来の支援者を決める任意後見を、表・手続・費用・統計・FAQで整理します。
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  • 法定後見と任意後見の違いを 相続実務で比較
  • 判断能力が低下した後の本人保護に向く法定後見と、元気なうちに将来の支援者を決める任意後見を、表・手続・費用・統計・FAQで整理します。

POINT 1

  • 法定後見と任意後見の違いを最初に押さえる
  • 判断能力がすでに低下しているか、元気なうちに備える段階かで、選ぶ制度は大きく変わります。
  • 成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などにより、ひとりで契約や手続を進めることに不安がある人を支援する制度です。
  • 相続では、遺産分割協議、相続放棄、預貯金解約、不動産売却、相続登記、相続税申告など、本人の財産に影響する手続が続きます。
  • 相続手続を急ぐ場面か、将来の財産管理を本人が選べる段階かが重要で、どちらの列に近いかを読むと全体像をつかみやすくなります。

POINT 2

  • 成年後見制度の全体像と法定後見・任意後見の位置づけ
  • 制度は本人財産を家族が自由に使うためではなく、本人の利益と生活を守るためにあります。
  • 成年後見制度は、本人の財産を家族や専門家が自由に使えるようにする制度ではありません。
  • 本人の利益、本人の意思、本人らしい生活の継続を守るために、財産管理と身上保護に関する法律行為を支援する制度です。
  • 財産管理には、預貯金、不動産、有価証券、保険、年金、負債、税金、施設費、医療費などの管理が含まれます。

POINT 3

  • 法定後見の仕組みと相続手続でできること
  • 後見、保佐、補助の三類型と、申立てから選任までの流れ、費用を整理します。
  • 後見、保佐、補助の違い
  • 法定後見で扱う主な職務
  • 法定後見の手続と期間

POINT 4

  • 任意後見の仕組みと法定後見との違い
  • 1. 本人に判断能力がある:誰に、何を、どこまで任せるかを決めます。
  • 2. 公証役場で任意後見契約公正証書を作成:代理権目録を具体的に定め、契約が登記されます。
  • 3. 家庭裁判所が任意後見監督人を選任:任意後見人が監督人の監督のもとで事務を開始します。

POINT 5

  • 相続で法定後見と任意後見の違いが決定的になる場面
  • 遺産分割、預貯金解約、不動産売却、相続登記では、本人の判断能力と代理権が直接問題になります。
  • 認知症の相続人がいる遺産分割
  • 預貯金解約と金融機関対応
  • 相続不動産の売却と居住用不動産

POINT 6

  • 法定後見と任意後見が向いているケースの違い
  • 現在の保護が必要な場面と、将来の支援者を本人が決めたい場面を分けて考えます。
  • 遺産分割協議の内容を理解できない
  • 本人名義の預貯金管理や自宅売却が必要
  • 親族による使い込みや相続争いがある

POINT 7

  • 法定後見と任意後見の違いから選び方を判断する
  • 1. 本人は契約内容を理解し、自分で支援者を選べるか:任意後見契約を結ぶ前提になる確認です。
  • 2. 任意後見を検討:代理権目録、遺言、死後事務委任、財産管理委任契約も併せて設計します。
  • 3. 法定後見を検討:本人保護のため、家庭裁判所の審判による支援を確認します。
  • 4. すでに遺産分割、預貯金解約、不動産売却が必要か:急ぎの手続がある場合は、法定後見の必要性と申立て期間を確認します。
  • 5. 親族間で相続紛争や利益相反があるか:対立がある場合は、弁護士、司法書士、税理士等の役割分担を早めに整理します。

POINT 8

  • 法定後見と任意後見の違いを踏まえた専門職の役割
  • 本人の意思決定支援
  • 相続と成年後見は一つの専門職だけで完結しないことが多い分野です。

まとめ

  • 法定後見と任意後見の違いを 相続実務で比較
  • 法定後見と任意後見の違いを最初に押さえる:判断能力がすでに低下しているか、元気なうちに備える段階かで、選ぶ制度は大きく変わります。
  • 成年後見制度の全体像と法定後見・任意後見の位置づけ:制度は本人財産を家族が自由に使うためではなく、本人の利益と生活を守るためにあります。
  • 法定後見の仕組みと相続手続でできること:後見、保佐、補助の三類型と、申立てから選任までの流れ、費用を整理します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

法定後見と任意後見の違いを最初に押さえる

判断能力がすでに低下しているか、元気なうちに備える段階かで、選ぶ制度は大きく変わります。

成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などにより、ひとりで契約や手続を進めることに不安がある人を支援する制度です。大きく分けると、家庭裁判所が後見人等を選ぶ法定後見と、本人が判断能力のあるうちに将来の支援者と支援内容を契約で決めておく任意後見があります。

相続では、遺産分割協議、相続放棄、預貯金解約、不動産売却、相続登記、相続税申告など、本人の財産に影響する手続が続きます。本人がその意味を理解できない状態で手続を進めると、無効争い、親族間紛争、金融機関での手続拒否、登記の停滞につながる可能性があります。

次の比較表は、制度選択で最初に見るべき分岐を整理したものです。相続手続を急ぐ場面か、将来の財産管理を本人が選べる段階かが重要で、どちらの列に近いかを読むと全体像をつかみやすくなります。

観点法定後見任意後見
使う時期判断能力がすでに不十分になった後判断能力が十分なうちに準備し、低下後に発効
支援者を決める人家庭裁判所原則として本人
権限の根拠民法と家庭裁判所の審判任意後見契約と任意後見監督人選任
取消しによる保護類型に応じてあり法定後見のような行為能力制限による取消権は基本的にない
相続実務での典型判断能力低下後の遺産分割、預貯金解約、不動産処分将来の財産管理者を本人が選ぶ生前対策

法定後見は現在の保護、任意後見は将来設計に向きます。すでに判断能力が低下している場合は任意後見契約を新たに結ぶことが難しく、法定後見の検討が中心になる点が出発点です。

注意このページは一般的な制度説明です。本人の判断能力、財産内容、相続人間の対立、税務申告期限、不動産の有無によって結論は変わるため、具体的な対応は資料を整理したうえで弁護士、司法書士、税理士、公証人等へ確認する必要があります。
Section 01

成年後見制度の全体像と法定後見・任意後見の位置づけ

制度は本人財産を家族が自由に使うためではなく、本人の利益と生活を守るためにあります。

成年後見制度は、本人の財産を家族や専門家が自由に使えるようにする制度ではありません。本人の利益、本人の意思、本人らしい生活の継続を守るために、財産管理と身上保護に関する法律行為を支援する制度です。

財産管理には、預貯金、不動産、有価証券、保険、年金、負債、税金、施設費、医療費などの管理が含まれます。身上保護には、介護サービス利用契約、施設入所契約、入院契約、福祉サービス利用契約など、本人の生活や医療福祉に関する法律行為の支援が含まれます。実際の食事介助、掃除、身体介護、医療行為そのものは、通常、後見人等の職務ではありません。

次の一覧は、成年後見制度を二層で整理したものです。制度名だけでは違いが見えにくいため、開始する時点と家庭裁判所の関与の仕方を読み取ることが重要です。

大分類中身典型的な場面
法定後見後見、保佐、補助すでに判断能力が低下し、家庭裁判所の審判で支援を開始する場合
任意後見任意後見契約、任意後見監督人選任本人が判断能力のあるうちに将来の支援者と支援内容を決める場合

厚生労働省の制度案内でも、任意後見は本人があらかじめ選んだ人に将来代わりにしてもらいたいことを契約で決める制度、法定後見は家庭裁判所によって成年後見人等が選任される制度として整理されています。

相続と結びつく場面では、本人が相続人になる場合、相続財産を本人の生活費や施設費に充てる場合、本人名義の不動産を処分する場合、本人の相続税申告に必要な資料を集める場合などが問題になります。

Section 02

法定後見と任意後見の違いを相続実務で比較する

開始時期、権限、取消権、費用、相続手続との相性を一つの表で確認します。

次の比較表は、相続相談で問題になりやすい項目を中心に整理したものです。左から順に制度の違い、相続実務での意味を確認し、現在の保護が必要なのか、将来への備えを設計したいのかを読み分けます。

比較項目法定後見任意後見相続実務での意味
制度の本質判断能力が不十分になった本人を、家庭裁判所の審判により保護、支援する制度判断能力が十分なうちに、本人が将来の支援者と支援内容を契約で決める制度すでに認知症等が進んでいる場合は法定後見、将来への備えは任意後見が中心
根拠民法の後見、保佐、補助に関する規定、家事事件手続、後見登記制度等任意後見契約に関する法律、民法の委任、後見登記制度等片方は裁判所の審判、片方は契約と監督人選任が出発点
利用開始の時期本人の判断能力がすでに低下した後本人が判断能力を有する時に契約し、判断能力低下後に任意後見監督人が選任されると発効今すぐ相続手続が必要か、将来対策かで選択が変わる
本人の判断能力後見、保佐、補助の類型に応じて、判断能力の低下が必要契約締結時に契約内容を理解できる判断能力が必要判断能力低下後に任意後見契約を新たに作ることは困難
支援者を誰が決めるか家庭裁判所が成年後見人、保佐人、補助人を選任本人が任意後見受任者を選び、公正証書で契約家族を候補者にしても、法定後見では必ず選任されるとは限らない
支援者の名称成年後見人、保佐人、補助人契約時は任意後見受任者、発効後は任意後見人いずれも本人のために行動する義務を負う
監督家庭裁判所が監督し、必要に応じて監督人が選任される任意後見監督人が必ず選任され、その監督を受ける任意後見は、監督人選任が発効条件になる点が重要
権限の決まり方後見、保佐、補助の類型と家庭裁判所の審判により決まる任意後見契約の代理権目録で決まる任意後見は契約設計の精度が実務上の成否を左右する
代理権後見は財産に関する法律行為について広い代理権。保佐、補助は審判で付与された範囲契約で定めた範囲の代理権不動産売却、遺産分割、金融機関手続を含めるか事前設計が必要
同意権保佐、補助で問題になる。後見では同意で有効化する構造ではない原則として同意権制度ではない本人が単独でした行為への事前抑止の仕組みが異なる
取消権類型に応じて、本人がした一定の法律行為を取り消せる法定後見のような行為能力制限による取消権は基本的にない悪質商法、使い込み、浪費への対応では法定後見の保護が強い場合がある
公正証書不要任意後見契約は公正証書で作成する必要がある公証役場で契約内容を具体化する必要がある
登記後見、保佐、補助の審判内容が登記される任意後見契約が登記され、監督人選任後に効力が生じる金融機関や法務局手続で登記事項証明書が必要になることがある
費用の中心申立費用、郵便料、登記手数料、鑑定料、後見人等報酬公正証書作成費用、登記関係費用、監督人選任申立費用、任意後見人報酬、監督人報酬初期費用だけでなく継続報酬を確認する
相続手続への適合性判断能力低下後の遺産分割、預貯金解約、不動産処分に対応しやすい事前に相続手続や財産管理を委任事項に入れておくと備えになるすでに遺産分割が必要な局面では法定後見が現実的なことが多い
遺産分割協議成年後見人等が本人を代理し得る。ただし利益相反に注意契約で権限があれば任意後見人が代理し得る。ただし利益相反に注意後見人と本人が共同相続人なら特別代理人等が問題になり得る
居住用不動産処分成年被後見人等の居住用不動産処分には家庭裁判所の許可が必要契約上の代理権があれば処分行為の代理が問題になるが、本人利益と監督人監督が中心施設入所費用を作るための自宅売却では慎重な検討が必要
本人の死亡後原則として後見等は終了し、相続手続へ移行原則として任意後見も終了し、相続手続へ移行死後事務、遺言執行、相続税申告は別設計が必要
向いている人すでに判断能力が低下し、現に法的手続が必要な人判断能力があるうちに、将来の支援者と生活方針を自分で決めたい人現在の保護と将来設計を分けて判断する
最大の注意点家庭裁判所が選ぶため、家族が希望する人が選任されるとは限らない契約しただけでは始まらず、監督人選任まで発効しない親族間対立がある場合は専門家への相談が重要
Section 04

任意後見の仕組みと法定後見との違い

本人が元気なうちに契約する制度ですが、契約しただけでは始まらない点に注意が必要です。

任意後見とは、本人が十分な判断能力を有する時に、将来判断能力が不十分になった場合に備えて、任意後見人となる人と委任する事務の内容を公正証書で契約しておく制度です。本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると、任意後見人が委任事務を行います。

任意後見契約の三段階

次の時系列は、任意後見が準備、契約、発効の三段階で進むことを示しています。契約締結と権限行使の時点が分かれているため、いつから実際に使えるのかを読み取ることが重要です。

契約準備段階

本人に判断能力がある

誰に、何を、どこまで任せるかを決めます。

契約締結段階

公証役場で任意後見契約公正証書を作成

代理権目録を具体的に定め、契約が登記されます。

発効段階

家庭裁判所が任意後見監督人を選任

任意後見人が監督人の監督のもとで事務を開始します。

任意後見契約を作っただけでは、任意後見人が直ちに法的権限を行使できるわけではありません。任意後見契約は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が生じます。

任意後見契約で定める内容

次の一覧は、代理権目録に入れるか検討される主な事務を整理したものです。任意後見は契約で定めた範囲が実務上の上限になるため、本人の財産、住まい、相続手続の見込みに応じて必要な権限を読み取ることが重要です。

財産

保存、管理、処分

預貯金、不動産、有価証券、保険、収入受領、支払などをどこまで任せるかを定めます。

生活

医療、介護、福祉サービス

医療契約、介護契約、福祉サービス利用契約、施設入所に関する事務を具体化します。

相続

登記、税務資料、遺産分割

登記、税務申告資料の収集、遺産分割協議、相続放棄、限定承認などを検討します。

標準的な代理権目録をそのまま使えば安全というわけではありません。財産内容、家族関係、不動産の有無、事業の有無、相続対策、将来の住まい、施設入所の可能性、金融機関の実務対応を踏まえ、必要な権限を具体的に定めることが重要です。

任意後見契約の費用

次の表は、任意後見契約の費用を作成時、登記時、発効後の費用に分けて把握するためのものです。公証役場で確認しやすい費用と、契約内容や監督人選任後に変わる費用を分けて読む必要があります。

費用項目概要
公正証書作成手数料日本公証人連合会の案内では、任意後見契約公正証書について1契約13,000円が示されている
法務局に納める収入印紙代2,600円
登記嘱託手数料日本公証人連合会の案内では1,600円
書留郵便料法務局への登記申請用
正本、謄本等の作成手数料電磁的記録か書面か、枚数により変動
任意後見監督人選任申立費用判断能力低下後に家庭裁判所へ申立てる際の費用
任意後見人報酬契約で定める
任意後見監督人報酬家庭裁判所の審判により本人財産から支払われる場合がある

任意後見でできないこと

次の表は、任意後見で誤解されやすい点と正しい理解を対比したものです。任意後見は自由度が高い一方で万能ではないため、取消権、遺言、死後事務の限界を読み取ることが重要です。

誤解正しい理解
任意後見人は本人の代わりに何でも決められる契約で定めた代理権の範囲に限られる
任意後見契約を結べばすぐに使える任意後見監督人が選任されて初めて効力が生じる
任意後見人には取消権がある法定後見のような行為能力制限による取消権は基本的にない
本人の遺言を任意後見人が作れる遺言は本人が行うもので、後見人等が代理して作ることはできない
死後の葬儀や納骨も当然にできる原則として本人死亡により任意後見は終了するため、死後事務委任契約など別設計が必要
Section 05

相続で法定後見と任意後見の違いが決定的になる場面

遺産分割、預貯金解約、不動産売却、相続登記では、本人の判断能力と代理権が直接問題になります。

相続で法定後見と任意後見の違いが重要になるのは、相続手続が法律行為の連続だからです。遺産分割協議は、相続人全員の合意により相続財産の帰属を決める法律行為です。相続放棄や限定承認も、期間制限のある重大な法律行為です。不動産売却、預貯金解約、株式売却、保険金請求、借入金整理、賃貸借契約の解除なども、本人の財産に直接影響します。

本人がこれらの行為の意味を理解できない場合、無理に本人名義で署名押印を進めると、後日の無効争い、親族間紛争、金融機関での手続拒否、登記手続の停滞を招きます。

認知症の相続人がいる遺産分割

次の表は、認知症の相続人がいる場合に検討される制度と注意点を整理したものです。相続人の一人を除いて協議を進めることはできないため、誰が本人の利益を守る立場に立つのかを読み取ることが重要です。

状況検討すべき制度注意点
父が死亡し、母が重度認知症。子らで遺産分割したい法定後見母の利益を守る成年後見人が必要になる可能性が高い
母と長男が共同相続人で、長男が母の成年後見人候補法定後見と利益相反対応長男が自分の相続分と母の相続分を同時に決めることは利益相反になり得る
本人が元気なうちに、将来の相続手続を子に任せたい任意後見代理権目録に遺産分割協議、相続放棄等を含めるか検討する

預貯金解約と金融機関対応

最高裁判所事務総局家庭局の令和7年の概況では、主な申立て動機として「預貯金等の管理・解約」が最も多いとされています。本人の判断能力が低下した後、金融機関は家族だけの申出では預貯金解約や口座管理に応じにくくなるためです。

相続では、被相続人の預貯金解約だけでなく、認知症の相続人本人の口座管理、相続財産の入金、施設費支払、税金支払が問題になります。すでに任意後見契約があり、任意後見監督人が選任されていれば任意後見人が対応できる場合がありますが、契約がない場合や判断能力がすでに低下している場合は、法定後見の申立てが現実的になります。

相続不動産の売却と居住用不動産

相続不動産を売って現金で分ける場合、本人が相続人であれば、売買契約、登記、代金受領、譲渡所得税、施設費や生活費への充当など、多くの法律行為と税務判断が生じます。

法定後見では、本人の居住用不動産を処分するには、家庭裁判所の許可が必要です。現に住んでいる家だけでなく、病院や施設から戻ったときに住む可能性がある住居が含まれる場合があります。本人の生活の本拠に関わるため、本人の意思、生活環境、売却の必要性、価格の相当性、代替住居、施設入所の見通しを慎重に検討します。

相続登記義務化との関係

2024年4月1日から、相続登記の申請が義務化されています。不動産を相続したことを知った日から3年以内の登記が必要で、義務化前の相続も対象になります。

相続人の中に判断能力が不十分な人がいると、遺産分割協議や相続登記が進まず、期限管理が難しくなります。相続登記義務化により、判断能力低下を理由に手続を先送りするリスクは大きくなっています。

Section 06

法定後見と任意後見が向いているケースの違い

現在の保護が必要な場面と、将来の支援者を本人が決めたい場面を分けて考えます。

次の一覧は、法定後見と任意後見のどちらを検討しやすいかを場面別に整理したものです。本人の判断能力がすでに低下しているか、本人が支援者を自分で選べる段階かを読み取ることが重要です。

法定後見

遺産分割協議の内容を理解できない

本人を代理する後見人等が必要になる可能性が高い場面です。

法定後見

本人名義の預貯金管理や自宅売却が必要

金融機関対応、家庭裁判所への報告、居住用不動産処分許可が問題になり得ます。

法定後見

親族による使い込みや相続争いがある

裁判所監督と中立的な代理人の選任が有効な場合があります。

任意後見

将来の入院、施設入所、金融機関手続が不安

事前に信頼できる支援者を選び、事務内容を決められます。

任意後見

誰に財産管理を任せるか本人が決めたい

子どもが複数いる場合でも、本人の意思を契約で具体化できます。

任意後見

死後事務や遺言も含めて設計したい

任意後見とは別に、死後事務委任契約、遺言、財産管理委任契約等を組み合わせます。

法定後見の実務では、親族が後見人候補者になることもありますが、家庭裁判所は本人の財産状況、親族間対立、相続問題、候補者の適性、専門性、利益相反の可能性を総合して選任します。候補者を希望しても家庭裁判所が希望どおりに選任するとは限りません。

任意後見は、本人の自己決定を反映しやすい制度です。しかし、代理権目録が不十分だと、いざ判断能力が低下した後に必要な手続ができないことがあります。反対に、広すぎる権限を与えると濫用リスクが高まります。

Section 07

法定後見と任意後見の違いから選び方を判断する

本人の判断能力、相続手続の緊急性、取消しの必要性、親族対立を順に確認します。

次の判断の流れは、制度選択で最初に確認する順番を表しています。上から順に判断能力、現在必要な相続手続、本人がした契約の取消し、本人による支援者指定の希望を確認すると、検討すべき制度を絞り込みやすくなります。

制度選択の判断の流れ

本人は契約内容を理解し、自分で支援者を選べるか

任意後見契約を結ぶ前提になる確認です。

はい
任意後見を検討

代理権目録、遺言、死後事務委任、財産管理委任契約も併せて設計します。

いいえ
法定後見を検討

本人保護のため、家庭裁判所の審判による支援を確認します。

すでに遺産分割、預貯金解約、不動産売却が必要か

急ぎの手続がある場合は、法定後見の必要性と申立て期間を確認します。

親族間で相続紛争や利益相反があるか

対立がある場合は、弁護士、司法書士、税理士等の役割分担を早めに整理します。

次の表は、具体的な質問ごとに、はいといいえの方向性を比較したものです。単独の質問で結論を出すのではなく、複数の質問を組み合わせてリスクを確認することが重要です。

質問はいいいえ
本人は契約内容を理解し、自分で支援者を選べるか任意後見を検討法定後見を検討
すでに遺産分割、預貯金解約、不動産売却が必要か法定後見の必要性を急いで確認任意後見、遺言、家族信託等を比較
本人がした契約を取り消す必要が生じそうか法定後見の保護が有効な場合がある任意後見でも財産管理の備えは可能
支援者を本人が強く指定したいか任意後見が適しやすい法定後見では家庭裁判所選任を受け入れる必要がある
親族間で相続紛争があるか弁護士相談を優先し、法定後見や特別代理人を検討司法書士、公証人、行政書士等への相談も検討
不動産、会社、非上場株式、税務問題があるか司法書士、税理士、公認会計士、不動産鑑定士等と連携財産内容に応じた専門家選択を行う
Section 08

法定後見と任意後見の違いを踏まえた専門職の役割

相続と成年後見は一つの専門職だけで完結しないことが多い分野です。

次の表は、相続と成年後見に関わる専門職の典型的な役割を整理したものです。誰に何を相談するかを誤ると手続が止まるため、紛争、登記、税務、公証、不動産、福祉、金融のどの論点かを読み取ることが重要です。

専門職主な役割法定後見、任意後見との関係
弁護士相続紛争、遺留分、使い込み疑い、交渉、調停、審判、訴訟親族対立、利益相反、不正疑いがある場合の中心職
司法書士相続登記、成年後見申立書類作成、不動産登記、後見人就任不動産がある相続、家庭裁判所提出書類、登記で重要
税理士相続税申告、税務代理、税務調査対応相続税、譲渡所得税、贈与税、準確定申告の判断で重要
行政書士紛争、税務、登記申請を除く書類作成遺産分割協議書、相続人関係説明図、遺言作成支援など
公証人公正証書遺言、任意後見契約公正証書任意後見契約作成の中核
社会福祉士身上保護、福祉サービス連携、本人支援後見人、保佐人、補助人、任意後見監督人として関与し得る
不動産鑑定士不動産評価遺産分割や後見財産処分で価格が争点になる場合に重要
土地家屋調査士境界、分筆、表示登記相続土地の分割、境界確定で関与
宅地建物取引士、不動産仲介業者相続不動産売却本人利益に合う価格、条件、手続の透明性が必要
公認会計士非上場株式評価、会社財務分析事業承継、会社株式を含む相続で重要
中小企業診断士事業承継計画、経営改善会社を誰が継ぐか、経営継続が問題になる場合に有用
ファイナンシャル・プランナー家計、保険、老後資金、専門家連携法律、税務、登記の独占業務を避けつつ全体設計を支援
社会保険労務士遺族年金、公的年金手続死亡後の周辺手続で重要
金融機関、信託銀行預金、信託、遺言信託、相続手続後見登記事項証明書、遺産分割協議書等の確認が必要

次の一覧は、実務で特に詰まりやすい論点をまとめたものです。どの論点も本人の利益を中心に考える必要があり、相続人側の都合だけで処理できない点を読み取ることが重要です。

本人の意思決定支援

本人を単に管理する制度ではなく、尊厳のある本人らしい生活の継続と地域社会への参加を支える考え方が重視されています。

利益相反

母の後見人である長男が父の共同相続人でもある場合など、本人利益と自己利益が衝突する場面では特別代理人等が問題になります。

生前贈与と相続税対策

本人財産を本人のために守る制度であり、相続税を減らす目的だけで家族へ財産を移すことは慎重に考える必要があります。

遺言との関係

後見人、保佐人、補助人、任意後見人は、本人の代わりに遺言を作ることはできません。

死後事務との関係

本人死亡後の葬儀、納骨、家財処分等は、任意後見とは別に死後事務委任契約や遺言を検討します。

Section 09

法定後見と任意後見の違いを統計から見る

任意後見は重要な制度ですが、発効している件数は法定後見に比べて少ないのが実情です。

最高裁判所事務総局家庭局の成年後見関係事件の概況によると、令和7年1月から12月までの成年後見関係事件の申立件数は合計43,159件で、そのうち後見開始29,233件、保佐開始9,743件、補助開始3,302件、任意後見監督人選任881件でした。

また、令和7年12月末時点の成年後見制度の利用者数は259,901人で、内訳は成年後見180,828人、保佐58,162人、補助18,078人、任意後見2,833人です。

次の横棒グラフは、令和7年12月末時点の利用者数259,901人に対する各類型のおおよその割合を表しています。任意後見の割合が小さいことを読み取ることで、将来設計として契約を作ることと、実際に発効して運用されることの間に差がある点を確認できます。

成年後見
69.6%
保佐
22.4%
補助
7.0%
任意後見
1.1%
割合は利用者数259,901人に対する概算です。

この数字からは、任意後見が制度上重要である一方、実際に発効している任意後見の件数は法定後見に比べて少ないことが分かります。理由としては、任意後見契約を作る前に判断能力が低下してしまうこと、契約後に監督人選任申立てがされないこと、制度の認知度が十分でないこと、費用や監督人報酬への不安などが考えられます。

相続対策としては、本人が元気なうちに任意後見、遺言、家族信託等を検討することが望ましい一方、現実の相談現場では、すでに判断能力が低下してから法定後見を検討する事案が多いといえます。

次の強調表示は、制度選択で見落としやすい統計上の読み取りをまとめたものです。申立ての多くは比較的短期間で終局する一方、個別事情により遅れる可能性があるため、期限のある相続手続では早期着手が重要です。

2か月以内が約71.1%、4か月以内が約93.8%

成年後見関係事件の終局事件についての割合です。鑑定、親族対立、財産調査、利益相反、不動産処分がある場合は個別に期間が延びることがあります。

Section 10

ケース別に見る法定後見と任意後見の使い分け

相続の相談場面では、本人の判断能力、相続人関係、期限、不動産、税務が重なって問題になります。

次の一覧は、相続現場でよく出る相談を制度選択の観点から整理したものです。似た状況でも、本人の判断能力と相続手続の緊急性によって対応が変わる点を読み取ることが重要です。

1

父が死亡し、母が重度認知症。子ども二人で遺産分割したい

母が遺産分割協議の意味を理解できないなら、子ども二人だけで協議を成立させることはできません。法定後見の申立てを検討し、利益相反がある場合は特別代理人等も確認します。

法定後見利益相反
2

母は軽度認知症だが、まだ会話も理解もできる。将来に備えたい

任意後見契約の内容を理解できる段階であれば、契約を検討できます。ただし、契約締結能力の確認が重要で、公証人、医師、専門家との連携が必要になります。

任意後見公正証書
3

兄が親の預金を使い込んでいる疑いがある

本人の判断能力が低下しているなら、法定後見を検討します。親族間対立が強い場合、家庭裁判所が親族ではなく専門職を選任する可能性があります。

不正疑い専門職
4

本人が元気なうちに、自宅売却や施設入所を子に任せたい

任意後見が有力です。代理権目録に不動産管理、処分、施設入所契約、介護サービス契約、金融機関取引、税務申告資料の収集などを入れるか検討します。

任意後見不動産
5

相続税申告期限が迫り、相続人の一人に判断能力低下がある

相続税申告は、原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内という期限が問題になります。未分割申告、法定後見申立て、税理士への早期相談を並行して確認します。

10か月税務
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法定後見と任意後見の違いに関するFAQ

個別の結論は本人の判断能力、財産、親族関係、証拠、時期によって変わります。

親が認知症になった後でも任意後見契約を作れますか

一般的には、契約内容を理解し、自分の意思で任意後見受任者と委任事項を決められる判断能力があれば、任意後見契約を検討できる可能性があります。ただし、判断能力がすでに不十分で契約締結能力に疑問がある場合は、法定後見の検討が中心になります。診断名だけで結論は決まらないため、医師、公証人、弁護士等へ確認する必要があります。

子どもを成年後見人にしたいと希望すれば、必ず選ばれますか

一般的には、家庭裁判所が本人の保護、財産内容、親族関係、相続争い、候補者の適性、利益相反の有無を見て選任するとされています。親族間対立がある場合や財産管理が複雑な場合は、専門職が選ばれることがあります。具体的な見通しは、資料を整理したうえで専門家に相談する必要があります。

任意後見契約を作れば、悪質商法の契約を取り消せますか

一般的には、任意後見では法定後見のような行為能力制限に基づく取消権は基本的にないとされています。悪質商法対策として取消権による保護が必要な場合は、後見、保佐、補助の利用可能性を検討します。ただし、契約内容や本人の状態によって対応は変わるため、具体的には弁護士等へ相談する必要があります。

後見人は相続税申告をできますか

一般的には、後見人等は本人の財産管理や必要書類の収集に関与しますが、税務代理や税務相談は税理士の業務領域とされています。相続税が発生する可能性がある場合は、税理士に依頼し、後見人等が本人の代理人として必要な範囲で協力する形になります。申告期限や財産内容により対応は変わるため、税理士等へ早めに確認する必要があります。

後見人は本人のために生前贈与できますか

一般的には、本人の利益に反する贈与や、相続税対策だけを目的とする贈与は慎重に考える必要があるとされています。後見制度は本人財産を本人のために守る制度であり、推定相続人の節税目的を実現する制度ではありません。具体的な可否は、本人の生活状況、財産、贈与の目的、家庭裁判所の判断等により変わります。

任意後見人を複数にできますか

一般的には、複数の任意後見受任者を定めることは可能とされています。ただし、権限を共同で行使するのか、分担するのか、報酬をどうするのか、意見対立時にどうするのかを明確にする必要があります。契約設計は個別事情に左右されるため、公証役場や専門家へ相談する必要があります。

法定後見は一度始まるとやめられませんか

一般的には、本人の判断能力が回復し、後見等の必要がなくなった場合には、開始審判の取消しが問題になります。ただし、高齢による認知症などでは長期継続することが多く、相続手続だけのために一時的に使ってすぐ終了する制度とは限りません。具体的には本人の状態と家庭裁判所の判断を確認する必要があります。

兄弟姉妹の一人が反対しても法定後見の申立てはできますか

一般的には、申立権者に該当すれば、他の親族全員の同意がなくても申立て自体は可能とされています。ただし、親族間対立がある場合、裁判所の審理や後見人選任に影響する可能性があります。対立が深いときは、資料を整理して弁護士等へ相談する必要があります。

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法定後見と任意後見の違いを確認する実務チェックリスト

申立て前、契約前に確認すべき項目を分けて整理します。

法定後見を検討する場合

次の表は、法定後見を検討する際に確認すべき項目をまとめたものです。判断能力、親族関係、利益相反、財産、期限を同時に確認することで、申立て後に不足が出にくくなります。

確認項目確認の目的
本人の判断能力低下の程度を医師に相談したか後見、保佐、補助の検討材料にする
診断書、本人情報シートの準備が必要か確認したか家庭裁判所提出資料を整える
相続人、親族関係、利益相反の有無を整理したか特別代理人等の必要性を確認する
預貯金、不動産、保険、負債、年金、収支を一覧化したか財産目録と収支予定を作りやすくする
遺産分割、相続放棄、不動産売却、相続税申告の期限を確認したか申立て期間と相続手続の期限を調整する
後見人候補者に適性と利益相反がないか検討したか候補者どおりに選任されない可能性を把握する
弁護士、司法書士、税理士のどれに相談すべきか整理したか紛争、書類、税務の役割分担を明確にする
家庭裁判所の管轄と必要書類を確認したか申立先と書類不足を避ける

任意後見を検討する場合

次の表は、任意後見を検討する際に確認すべき項目をまとめたものです。本人の理解能力と代理権目録の精度が、将来使える制度になるかどうかを左右します。

確認項目確認の目的
本人が契約内容を理解できる状態か確認したか任意後見契約を有効に結ぶ前提を確認する
任意後見受任者の信頼性、年齢、健康、居住地、専門性を確認したか長期運用に耐えられる支援者か検討する
代理権目録に必要な事項を過不足なく入れたか将来必要な手続ができるようにする
不動産、金融資産、保険、事業、相続手続を洗い出したか財産内容に合う権限を設計する
報酬、費用、記録保存、定期報告の方法を決めたか濫用リスクと運用負担を管理する
任意後見監督人選任後に発効することを理解しているか契約だけでは始まらない点を確認する
公正証書遺言、死後事務委任、見守り契約、財産管理委任契約との組合せを検討したか老後と相続を連続的に設計する
公証役場へ事前相談したか契約内容、費用、必要資料を確認する

次の強調表示は、制度選択の結論を一文で整理したものです。判断能力がすでに低下しているか、本人が将来設計を自分で決められるかを最初に見ることが重要です。

最大の分岐点は、本人の判断能力が今どの段階にあるか

法定後見は判断能力低下後の本人保護に向き、任意後見は判断能力があるうちの将来設計に向きます。相続で迷う場合は、判断能力、相続手続の緊急性、親族間対立、財産の種類、不動産の有無、税務申告期限を整理します。

法定後見は、遺産分割、預貯金解約、不動産処分、使い込み疑い、親族間対立など、相続の現実問題に対応する場面で重要です。取消権や裁判所監督があるため保護力は強い一方、本人や家族が希望する人が必ず後見人になるとは限らず、制度利用は長期に及びやすい点に注意が必要です。

任意後見は、本人が判断能力のあるうちに、将来の支援者と支援内容を自分で決められる制度です。本人の自己決定を反映しやすく、遺言、死後事務委任、財産管理委任、家族信託などと組み合わせることで、老後と相続の連続的な設計が可能です。一方で、契約だけでは発効せず、任意後見監督人選任が必要であり、法定後見のような取消権は基本的にないため、契約設計と運用管理が重要です。

Reference

この記事の参考情報源

公的機関・専門機関

  • 厚生労働省「成年後見制度の種類」
  • 厚生労働省「法定後見制度とは 手続の流れ、費用」
  • 法務省「法定後見制度について」
  • 法務省「任意後見制度について」
  • 法務省「相続登記の申請義務化について」
  • 裁判所「後見開始」
  • 裁判所「居住用不動産処分許可の申立書」
  • 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況 令和7年1月から12月」
  • 日本公証人連合会「任意後見契約」
  • 日本公証人連合会「任意後見契約公正証書を作成する費用」

法令

  • e-Gov法令検索「民法」
  • e-Gov法令検索「任意後見契約に関する法律」