自賠責保険は交通事故の最低限の対人賠償を支える制度です。傷害・後遺障害・死亡で対象項目と限度額が変わり、物損や自己損害、症状固定後の治療費などは別制度で考える必要があります。
自賠責保険は交通事故の最低限の対人賠償を支える制度です。
まず、支払対象になる人身損害と、別制度で考えるべき損害を切り分けます。
自賠責保険は、自動車の運行によって他人の生命または身体に生じた損害について、法定の支払基準と限度額の範囲で支払う制度です。したがって中心は人身損害であり、車両修理費や建物損害などの物的損害、加害車両側の自己損害、法定限度額を超える部分は原則として対象外です。
次の比較表は、代表的な損害や場面を支払対象かどうかで整理したものです。最初にこの違いを押さえると、治療費・慰謝料・物損・後遺障害・死亡損害をどの制度で検討するかを誤りにくくなります。右列では、実務で特に確認すべき限度額や例外を読み取ってください。
| 区分 | 自賠責での扱い | 主な内容 | 実務上の注意 |
|---|---|---|---|
| 傷害による損害 | 原則支払対象 | 治療関係費、文書料、休業損害、慰謝料 | 被害者1名につき120万円が上限 |
| 後遺障害による損害 | 原則支払対象 | 逸失利益、慰謝料等 | 等級認定が必要で、1級から14級で差が大きい |
| 死亡による損害 | 原則支払対象 | 葬儀費、逸失利益、本人慰謝料、遺族慰謝料 | 被害者1名につき3,000万円が上限 |
| 死亡に至るまでの傷害 | 支払対象 | 死亡前の治療関係費、文書料、休業損害、慰謝料 | 事故当日または翌日死亡では積極損害のみ |
| 車両修理費・評価損・代車費用 | 対象外 | 物的損害 | 任意保険の対物賠償などで検討 |
| 建物・ガードレール・積荷等の損害 | 対象外 | 物的損害 | 自賠責は対物を補償しない |
| 加害車両の運転者自身の人身損害 | 対象外 | 自己損害 | 人身傷害保険や搭乗者傷害などで検討 |
| 保有者・借受人側の人身損害 | 対象外となることがある | 「他人」でない損害 | 同乗者でも運行供用者なら対象外となりうる |
| 自損事故 | 対象外 | 単独衝突など | 加害者に法律上の対人賠償責任がない |
| 100%被害者側責任の事故 | 対象外 | 無責事故 | 相手車両の自賠責は支払対象外 |
| 症状固定後の治療費 | 原則対象外 | 後遺障害認定後の治療継続分 | 残った障害は後遺障害損害として評価 |
| 自賠責限度額を超える部分 | 自賠責としては対象外 | 高額損害の超過部分 | 加害者本人または任意保険で検討 |
| ひき逃げ・無保険車・盗難車事故 | その車両の自賠責では救済困難 | 自賠責で処理できない人身事故 | 政府の保障事業の対象になりうる |
このページでは、単に「出る」「出ない」を並べるだけでなく、なぜその結論になるのか、どの損害項目がどの限度額に入るのか、どの資料で立証するのかまで整理します。金額や基準は、2020年4月1日以後に発生した事故に適用される現行支払基準を前提にしています。
制度の入口は「運行」「他人」「法律上の損害賠償責任」です。
自賠責保険の正式名称は自動車損害賠償責任保険です。制度の目的は、自動車の運行によって人の生命または身体が害された場合の損害賠償を保障し、被害者保護を図ることにあります。日常語の「事故で困ったら広くお金が出る保険」ではなく、法律上の対人賠償責任を法定限度額の範囲で支える制度です。
次の三つの項目は、自賠責保険で支払対象になるかを判断する入口を表しています。ここを誤ると、同乗者の負傷、単独事故、停車中の作業事故などで結論を取り違えやすくなります。各項目では、どの事実を資料で確認する必要があるかを読み取ってください。
走行だけでなく事故態様全体を見て、自動車の運行と死傷との関係が問題になります。停車中、積卸し中、車外作業中などでは、運行該当性が争点になることがあります。
ここでの他人は、単なる自分以外の人ではなく、運行供用者や運転者ではない者を指します。同乗者でも保有者・借受人などであれば対象外となることがあります。
相手方に責任がない事故、自損事故、100%被害者側責任の事故などでは、自賠責の支払対象にならない場面があります。
次の判断の流れは、上の三要件を実務で確認する順番を示しています。この順番で見ることが重要なのは、治療費や慰謝料の項目に進む前に、自賠責制度の入口を満たすかを切り分ける必要があるためです。分岐では、どこで対象外の可能性が出るかを確認してください。
運行と死傷との関係を確認します。
同乗者でも保有・借受の実態を見ます。
自損事故や無責事故では別制度を検討します。
傷害・後遺障害・死亡の各基準を確認します。
自賠責には、加害者が先に賠償してから保険会社へ請求する加害者請求だけでなく、被害者が加害車両の自賠責保険会社へ直接請求する被害者請求があります。任意保険会社が自賠責分も含めてまとめて支払う一括払制度が使われると、自賠責基準で支払われた部分が見えにくくなるため、支払根拠を分けて理解することが大切です。
対象項目でも、限度額を超える部分は自賠責だけでは埋まりません。
自賠責保険は、対象になるかどうかだけでなく、いくらまで出るかが重要です。次の表は、傷害・死亡・後遺障害の上限を並べたものです。被害者1名ごとの上限であり、重度後遺障害や死亡事故では民事上の損害額がこの範囲を超えることがある点を読み取ってください。
| 損害区分 | 支払限度額 | 読み方 |
|---|---|---|
| 傷害による損害 | 120万円 | 治療関係費、休業損害、慰謝料などの合計上限 |
| 死亡による損害 | 3,000万円 | 葬儀費、逸失利益、本人慰謝料、遺族慰謝料の合計上限 |
| 後遺障害による損害(要介護1級) | 4,000万円 | 後遺障害の中で最も高い限度額 |
| 後遺障害による損害(要介護2級) | 3,000万円 | 介護を要する第2級の上限 |
| 後遺障害による損害(上記以外) | 75万円から3,000万円 | 1級から14級の等級に応じて変動 |
次の強調表示は、限度額の意味を一文で整理したものです。読者にとって重要なのは、限度額が「被害者の全損害額」ではなく「自賠責として支払う上限」だと理解することです。高額案件では、超過部分を任意保険や加害者本人への請求で検討する必要がある点を確認してください。
重度後遺障害、若年者の死亡、高収入者の死亡、長期介護を要する事故では、自賠責限度額を超える損害が生じることがあります。自賠責で支払われる部分と、任意保険・加害者賠償で検討する部分を分けて把握する必要があります。
傷害、後遺障害、死亡に分けて、支払項目と注意点を確認します。
傷害による損害は、治療関係費などの積極損害、休業損害、慰謝料に分けて整理されます。次の表は、支払基準上の代表項目と実務上の要点を一覧化したものです。どの費用が「必要かつ妥当な実費」なのか、どの項目に定額や上限があるのかを読み取ってください。
| 項目 | 内容 | 支払基準の要点 |
|---|---|---|
| 応急手当費 | 応急処置に直接要した費用 | 必要かつ妥当な実費 |
| 診察料 | 初診料、再診料、往診料 | 必要かつ妥当な実費 |
| 入院料 | 普通病室を原則とする入院費 | 傷害態様上必要なら上位病室も対象となりうる |
| 投薬料・手術料・処置料等 | 医療行為全般 | 必要かつ妥当な実費 |
| 通院費・転院費・入退院費 | 通院、転院、入退院の交通費 | 必要かつ妥当な実費 |
| 看護料 | 入院看護、自宅看護、通院看護 | 要件充足で定額または実額 |
| 諸雑費 | 入院・療養に直接必要な雑費 | 入院は原則1日1,100円 |
| 柔道整復等の費用 | 柔道整復師、あんま・マッサージ・指圧師、はり師、きゅう師による施術 | 免許保有者による必要かつ妥当な実費 |
| 義肢等の費用 | 義肢、歯科補てつ、義眼、眼鏡、補聴器、松葉杖等 | 必要かつ妥当な実費。眼鏡は5万円限度 |
| 診断書等の費用 | 診断書、診療報酬明細書等 | 必要かつ妥当な実費 |
| 文書料 | 交通事故証明書、印鑑証明書、住民票等 | 必要かつ妥当な実費 |
| その他の費用 | 事故現場から医療機関までの搬送費等 | 必要かつ妥当な実費 |
| 休業損害 | 事故による収入減少、有給休暇使用、家事従事者の休業相当損害 | 原則1日6,100円、立証で19,000円限度の実額 |
| 慰謝料 | 精神的・肉体的苦痛 | 1日4,300円。対象日数は治療期間内で判断 |
次の一覧は、傷害損害の中でも見落とされやすい項目をまとめたものです。重要なのは、領収書の有無だけでなく、医師の必要性判断、事故との因果関係、通院や施術の相当性が支払可否に影響する点です。各項目では、何が例外になり、どの数字を押さえるべきかを確認してください。
入院中の看護料は、原則として12歳以下の子どもに近親者等が付き添った場合に1日4,200円です。自宅看護・通院看護は、医師が必要性を認めた場合に近親者等の付添い1日2,100円が原則です。
家事従事者は休業による収入減少があったものとみなされます。有給休暇を使用した場合も、休業損害の対象として整理されます。
免許を有する柔道整復師、はり師、きゅう師等の施術費は対象になりえます。ただし、医療機関の診療経過と施術経過が大きくずれると争点化しやすくなります。
物損一般は対象外ですが、身体機能を補う義肢、義眼、眼鏡、補聴器、松葉杖等は例外的に対象となります。眼鏡は5万円限度です。
妊婦が胎児を死産または流産した場合、通常の慰謝料とは別に慰謝料が認められるとされています。
後遺障害は、症状固定時に事故と相当因果関係を有し、医学的に認められる障害が残っている状態です。次の表は、後遺障害で支払われる基本項目を整理しています。ここでは、等級認定を受けること、医学的資料をそろえること、逸失利益と慰謝料等を分けて考えることが重要だと読み取ってください。
| 項目 | 内容 | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| 逸失利益 | 労働能力低下による将来の収入減 | 収入、労働能力喪失率、喪失期間等で算定 |
| 慰謝料等 | 精神的・肉体的苦痛に対する補償 | 等級ごとに定額。要介護等級では初期費用加算あり |
| 被扶養者加算 | 第1級から第3級で被扶養者がいる場合の増額 | 自動的ではなく要件確認が必要 |
次の表は、後遺障害慰謝料等の金額を等級別に並べたものです。等級が一つ違うだけで金額が大きく変わるため、後遺障害診断書、画像所見、神経学的所見、可動域検査、神経心理学的検査などの資料が実務上大きな意味を持つことを読み取ってください。
| 区分 | 等級 | 慰謝料等 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 介護を要する後遺障害 | 第1級 | 1,650万円 | 初期費用500万円を加算 |
| 介護を要する後遺障害 | 第2級 | 1,203万円 | 初期費用205万円を加算 |
| 上記以外 | 第1級 | 1,150万円 | 第1級から第3級は被扶養者加算の確認が必要 |
| 上記以外 | 第2級 | 998万円 | 等級ごとに定額 |
| 上記以外 | 第3級 | 861万円 | 等級ごとに定額 |
| 上記以外 | 第4級 | 737万円 | 等級ごとに定額 |
| 上記以外 | 第5級 | 618万円 | 等級ごとに定額 |
| 上記以外 | 第6級 | 512万円 | 等級ごとに定額 |
| 上記以外 | 第7級 | 419万円 | 等級ごとに定額 |
| 上記以外 | 第8級 | 331万円 | 等級ごとに定額 |
| 上記以外 | 第9級 | 249万円 | 等級ごとに定額 |
| 上記以外 | 第10級 | 190万円 | 等級ごとに定額 |
| 上記以外 | 第11級 | 136万円 | 等級ごとに定額 |
| 上記以外 | 第12級 | 94万円 | 等級ごとに定額 |
| 上記以外 | 第13級 | 57万円 | 等級ごとに定額 |
| 上記以外 | 第14級 | 32万円 | 等級ごとに定額 |
死亡損害では、死亡そのものの損害と、死亡に至るまでの傷害損害を分けて確認する必要があります。次の表は、死亡損害として明示される項目を整理したものです。遺族慰謝料の人数別金額、被扶養者がいる場合の加算、葬儀費の定額を読み取ってください。
| 項目 | 内容 | 支払基準 |
|---|---|---|
| 葬儀費 | 通夜、祭壇、火葬、埋葬、墓石など | 100万円 |
| 逸失利益 | 死亡しなければ将来得られた収入から生活費を控除したもの | 収入、就労可能期間、被扶養者の有無等で算定 |
| 死亡本人の慰謝料 | 被害者本人の慰謝料 | 400万円 |
| 遺族の慰謝料 | 配偶者・子・父母の慰謝料 | 請求権者1名550万円、2名650万円、3名以上750万円。被扶養者ありでさらに200万円加算 |
死亡前に治療が行われた場合は、治療関係費、死体検案書料、死亡後の処置料等が死亡に至るまでの傷害損害として問題になります。ただし、事故当日または翌日死亡の場合は積極損害のみとされ、休業損害や慰謝料は認められません。
対象外とは、被害が存在しないという意味ではなく、自賠責の支払対象ではないという意味です。
自賠責で補償されない損害は、任意保険、加害者本人への損害賠償請求、政府の保障事業、労災、健康保険など別制度で処理されることがあります。次の表は、対象外になりやすい場面と代替的に検討される処理先を整理したものです。どの理由で自賠責から外れるのかを確認すると、次に見るべき制度を選びやすくなります。
| 補償されない損害・場面 | 自賠責で出ない理由 | 代替的な処理先の例 |
|---|---|---|
| 車両修理費、全損時価額、評価損、代車費用 | 物的損害であり自賠責の対象外 | 任意保険の対物賠償、加害者本人 |
| 建物、塀、ガードレール、積荷、商品、衣類、スマートフォン等の損害 | 物的損害であり自賠責の対象外 | 任意保険の対物賠償、加害者本人 |
| 加害車両の運転者自身のケガ | 被害者が「他人」に当たらない | 人身傷害保険、搭乗者傷害、労災等 |
| 保有者・借受人側のケガ | 「他人性」を欠くことがある | 人身傷害保険等 |
| 自損事故 | 法律上の対人賠償責任がない | 自損事故保険、人身傷害保険等 |
| 100%被害者側責任の事故 | 相手方に自賠法上の責任が生じない | 自身の人身傷害保険等 |
| 自動車の運行によって生じた死傷でない場合 | 自賠責の対象事故ではない | 事案に応じ民法・労災等 |
| 保険契約者・保有者・運転者の悪意による損害 | 明文で対象外 | 別制度でも救済が難しいことがある |
| 症状固定後の治療費 | 後遺障害として処理され、治療費は原則打切り | 任意保険、自己負担、公的医療保険等 |
| 自賠責限度額を超える全ての損害 | 自賠責の法定限度超過 | 加害者本人、任意保険 |
| ひき逃げ・無保険車・盗難車事故の被害 | その車両の自賠責で救済できない | 政府の保障事業 |
次の一覧は、特に誤解されやすい対象外理由をまとめたものです。読者にとって重要なのは、物的損害や自己損害を「請求できない」と短絡せず、自賠責では対象外でも別制度で検討できる可能性を切り分けることです。各項目では、何が対象外の根拠になるのかを読み取ってください。
車の修理費、評価損、代車費用、建物や積荷の損害は、自賠責の対人制度から外れます。義肢・眼鏡等の身体機能補完物は例外的に検討されます。
契約者、運転者、保有者、借受人側の損害は、原則として自賠責の保護対象ではありません。同乗者でも他人性の確認が必要です。
単独事故や100%被害者側責任の事故では、相手方に法律上の対人賠償責任がないため、自賠責支払の入口を満たしません。
症状固定後は、治療費ではなく残った障害を後遺障害損害として評価する段階に移ります。長期化する傷病ほど線引きが争点になります。
項目自体が対象でも、総額が限度額を超えれば超過部分は自賠責からは支払われません。任意保険や加害者本人への請求を検討します。
その車両の自賠責で救済できない場合でも、政府の保障事業の対象になる可能性があります。自賠責対象外と救済不能は同じではありません。
一見すると対象外に見えるものでも、例外や条件があります。
境界事例では、損害の名前だけでは判断できません。次の一覧は、整骨院等の施術費、身体機能を補う物、同乗者、死亡事故の治療関係費を、確認すべき条件ごとに整理したものです。各項目では、対象外に見える理由と、対象になりうる根拠の両方を読み取ってください。
免許を有する柔道整復師、はり師、きゅう師等の施術費は支払基準上の項目です。ただし、事故との因果関係、施術の必要性、期間・頻度の相当性が問われます。
必要性医療記録通常の持ち物は物的損害として対象外ですが、身体機能を補う物は例外です。眼鏡の費用については5万円限度という数値基準もあります。
例外項目5万円限度同乗者は一般に被害者として扱われやすい一方、車両の所有者・借受人などで運行供用者に当たる場合は「他人性」を欠くことがあります。
他人性運行供用者死亡前の治療費、死体検案書料、死亡後の処置料等は、死亡に至るまでの傷害損害として整理されます。請求漏れが生じやすい項目です。
死亡前後請求漏れ注意境界事例で共通するのは、名称だけで結論を決めず、事故との因果関係、身体損害との結びつき、他人性、医療記録との整合性を確認することです。物損一般は対象外でも、身体機能補完物のように人身損害と密接に結びつく例外があります。
対象項目でも、重大な過失や因果関係の不明確さで減額されることがあります。
自賠責は被害者保護の制度ですが、常に満額が支払われるわけではありません。次の表は、代表的な減額事由と確認すべきポイントを整理したものです。過失割合の70%という境目、死亡・後遺障害で因果関係が難しい場合の5割減額、傷害の最低保障に関する扱いを読み取ってください。
| 減額事由 | 基準の要点 | 実務上の読み方 |
|---|---|---|
| 被害者に重大な過失がある場合 | 被害者の過失割合が70%以上でなければ減額しないと説明されています | 70%以上では支払基準の減額表に従って減額される可能性があります |
| 傷害で20万円未満となる場合 | 死亡・後遺障害を除く傷害について最低保障に関する特則があります | 自賠責は被害者保護の観点から、裁判実務の過失相殺とは異なる構造を採ります |
| 受傷と死亡または後遺障害との因果関係が困難な場合 | 死亡損害・後遺障害損害について5割減額 | 既往症、死因不明、自殺と事故の関係などで医学的因果関係が問題になります |
次の注意点一覧は、減額が問題になるときにどの資料が重視されやすいかをまとめたものです。読者にとって重要なのは、減額の可能性を感覚で判断せず、事故態様、医療記録、既往症、死亡または後遺障害との因果関係を資料で確認することです。各項目では、どの争点に資料が必要かを読み取ってください。
信号、速度、進路、回避可能性、ドライブレコーダー映像などが過失割合の判断材料になります。
初診時の主訴、診断名、画像所見、通院経過は、受傷との結びつきを確認するための中心資料です。
既往症や死因が問題になる場合、事故と死亡・後遺障害との関係が不明確として減額される可能性があります。
請求漏れと立証不足を防ぐには、事故類型ごとに資料を整理することが重要です。
実務で多い誤解は、自賠責が何でも出る保険だと考えること、同乗者なら必ず対象だと考えること、物損事故扱いなら人身損害の請求ができないと考えること、後遺障害認定後も治療費が当然続くと考えることです。いずれも、支払対象、他人性、届出区分、症状固定の理解を分ければ整理できます。
次の時系列は、傷害事故、後遺障害事故、死亡事故で準備すべき資料を段階別にまとめたものです。この順番で整理することが重要なのは、自賠責の支払が証拠資料に基づいて行われるためです。各段階で、保存すべき資料と確認すべき事実を読み取ってください。
事故直後から医療機関を受診し、診断名と受傷機転を記録してもらいます。通院交通費、診断書料、文書料、付添看護の有無、休業日数、収入資料も整理します。
MRI、CT、神経学的所見、可動域検査、神経心理学的検査、就労制限、家事・日常生活支障を整理します。後遺障害診断書の記載漏れにも注意が必要です。
葬儀費の領収書や明細、死亡診断書または死体検案書、戸籍資料、被扶養者の有無、収入資料、年金受給状況を確認します。死亡までの治療関係費や検案費の請求漏れにも注意します。
次の比較表は、よくある誤解と正しい整理を対応させたものです。誤解をそのままにすると、資料収集の遅れや請求先の取り違えにつながるため、右列の整理を手元の事故状況に当てはめて確認してください。
| よくある誤解 | 正しい整理 |
|---|---|
| 病院代が出るなら何でも自賠責 | 治療関係費は対象ですが、物損一般や症状固定後治療費、加害車両側の自己損害は別です。 |
| 同乗者なら必ず被害者 | 同乗者でも運行供用者に当たる場合は、他人性を欠くことがあります。 |
| 警察が物損事故扱いなら自賠責は使えない | 届出区分と実際の人身損害の有無は別問題です。治療を受けた事実や診断内容が重要です。 |
| 後遺障害認定後も治療費は当然続く | 症状固定後は、原則として治療費ではなく後遺障害損害の問題へ移ります。 |
| 自賠責で足りない分も自動的に保険会社が補う | 任意保険の有無、免責、争いの有無によって処理が変わります。限度額超過部分は別に検討します。 |
対象か対象外かだけでなく、制度・資料・限度額をセットで確認します。
次の要約は、このページの結論を最も短く整理したものです。重要なのは、自賠責が「交通事故被害者救済の出発点」であって、全損害を無制限に埋める終着点ではないという点です。ここから、どの損害項目をどの制度で、どの資料により、いくらまで認めてもらうのかを確認してください。
傷害、後遺障害、死亡の各損害は自賠責の中心ですが、物損、加害車両側の自己損害、症状固定後治療費、法定限度額超過部分、無責事故、自損事故などは原則として自賠責の支払対象ではありません。
一般的には、個別の事故態様、負傷程度、証拠関係、保険契約、症状固定時期によって結論が変わる可能性があります。具体的な請求方針や見通しは、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
制度の根拠を確認するための一次資料・公的資料です。