コーポレートガバナンス・コード対応を、定義、制度上の位置づけ、判断基準、社内体制、開示文案、投資家対話、2026年改訂案への備えまで実務で使える形に整理します。
不実施を隠す制度ではなく、企業の説明責任を検証可能にするための実務です。
不実施を隠す制度ではなく、企業の説明責任を検証可能にするための実務です。
コンプライ・オア・エクスプレインとは、対象となる原則を実施するか、実施しない場合には理由を説明するという規律手法です。日本の上場会社実務では、東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードへの対応として使われます。
実務上もっとも重要なのは、これをチェック項目に丸を付ける作業と誤解しないことです。会社法や金融商品取引法のような一律の禁止・義務とは異なり、各社の業種、規模、成長段階、株主構成、機関設計、海外展開、人的資本、資本政策、リスク特性を踏まえ、原則の趣旨に沿った実質的対応を説明する必要があります。
次の3つの問いは、制度の中心にある考え方を表しています。何を検討すべきか、なぜ説明が必要か、どの水準まで示すべきかを一目で確認できるため、最初の社内整理に役立ちます。
その原則は、何を防ぎ、何を実現しようとしているのかを確認します。
自社は、趣旨をどの仕組み、手続、運用、監督、開示で実現しているかを整理します。
原則どおりでない場合でも、合理性を投資家が検証できる程度に説明できるかを確認します。
実施、理由説明、通常の開示を分けて管理することが出発点です。
コンプライは、対象となる原則を実施している状態を指します。ただし、形式的な表明では足りません。制度が存在し、実際に運用され、適切な会議体で検討され、議事録や資料などの裏付けで確認でき、投資家から質問を受けても一貫して説明できる状態が重要です。
次の比較一覧は、コンプライ、エクスプレイン、開示の違いを整理したものです。3つを混同すると記載欄の不足や説明の空洞化が起きやすいため、どの場面で何を求められているかを読み分けることが大切です。
| 区分 | 意味 | 実務上の確認点 |
|---|---|---|
| コンプライ | 原則を実質的に実施している状態 | 制度、運用、会議体、証跡、外部説明の5点を確認します。 |
| エクスプレイン | 原則を実施していない場合に理由を説明する対応 | 未実施事項、理由、代替策、見直し時期、取締役会関与を示します。 |
| 開示 | 役員報酬方針、スキル・マトリックス、政策保有株式の検証など、原則が求める情報を示す対応 | CG報告書、ウェブサイト、有価証券報告書、統合報告書、招集通知の整合性を確認します。 |
エクスプレインは不合格や違反の同義語ではありません。重要なのは、当該原則の趣旨を踏まえ、なぜ現時点の対応が合理的なのかを、ステークホルダーが理解できる水準で示すことです。
良いエクスプレインに必要な項目を次の一覧にまとめます。各項目は投資家が確認したい観点に対応しているため、文案レビュー時には不足している欄がないかを確認します。
どの原則について説明しているのかを明確にします。
現時点で何を実施していないのかを曖昧にしません。
会社の状況と原則の趣旨を結び付けて説明します。
原則の目的を別の仕組みでどう実現しているかを示します。
いつ、どのような条件で再検討するかを示します。
取締役会などがどのように関与したかを示します。
法令そのものではない一方、上場制度と説明責任に深く結び付いています。
コーポレートガバナンス・コードは、会社法や金融商品取引法の条文そのものではありません。しかし、東京証券取引所はコードを上場制度に組み込み、コーポレート・ガバナンスに関する報告書を通じて、実施しない原則について理由説明を求めています。
次の表は、市場区分ごとの対象範囲と実務上の注意点を整理したものです。対象範囲を誤ると、必要な説明欄を落としたり、逆に不要な文案作成に時間を使ったりするため、最初に市場区分を確認することが重要です。
| 市場区分 | 現行実務で意識する対象 | 実務対応の要点 |
|---|---|---|
| プライム市場 | コードの全原則 | 投資家比較を前提に、取締役会、資本政策、英文開示、サステナビリティなどを横断管理します。 |
| スタンダード市場 | コードの全原則 | 実効性と負担のバランスを取りつつ、未実施理由の検証可能性を確保します。 |
| グロース市場 | 基本原則 | 対象範囲が限定されても、投資家から原則相当の論点を質問される可能性を管理します。 |
2026年4月10日に金融庁と東京証券取引所はコーポレートガバナンス・コード改訂案を公表し、5月15日まで意見募集を行いました。次の強調表示は、実務担当者が特に見落としやすい移行上の注意点を示しています。確定内容の確認と、現行報告書の更新作業を分けて進める必要があります。
制度要綱案では、改訂後コードを踏まえたコーポレート・ガバナンスに関する報告書を、準備ができ次第、2027年7月末日までに提出する考え方が示されています。現行対応と改訂案対応を別表で管理することが実務上重要です。
次の時系列は、2026年改訂案への準備を段階ごとに整理したものです。いつ何を確認すべきかを読み取ることで、文案更新だけでなく、取締役会議題や社内証跡の整備を前倒しできます。
現行コードとの差分表を作り、対象原則と解釈指針化される項目を整理します。
確定内容を確認し、社内説明と移行プロジェクトを正式化します。
部門ヒアリング、取締役会議題設計、資本配分や成長投資の補強課題を洗い出します。
全部実施を機械的に目指すより、趣旨に沿った説明可能性が問われます。
全部コンプライが常に最良とは限りません。創業者のリーダーシップが強い成長企業、海外投資家比率が高い会社、支配株主を有する上場子会社、規制業種、地方の中堅企業では、ガバナンス課題の重点が異なります。
次の比較表は、形式的な対応と実質的な対応の違いを示します。読者は、左欄のような表現で止まっていないか、右欄のように事実、代替策、見直し方針まで説明できているかを確認してください。
| 避けたい対応 | なぜ弱いか | 望ましい方向 |
|---|---|---|
| 未実施項目をゼロにすることだけを目的にする | 形式的な実施に偏り、実態の弱さが残ります。 | 原則の趣旨、自社事情、代替策を説明できるかを重視します。 |
| 必要性が乏しいとのみ書く | 判断主体、根拠、見直し条件が分かりません。 | 未実施理由、会議体の関与、今後の条件を具体化します。 |
| 委員会設置など形式だけを整える | 運用実態がなければ実質的な監督になりません。 | 開催回数、議題、資料、社外役員意見、取締役会への反映を記録します。 |
良い説明は、未実施であることを隠しません。会社の現状、代替的な監督機能、今後の方向性を示すことで、投資家が建設的に対話できる状態を作ります。
文案作成は最後です。まず対象原則、実態、ギャップ、方針を固めます。
実務では、対象範囲の確認から提出後の対話・更新までを一連のプロセスにします。次の表は11段階の作業と成果物を並べたものです。順番を守ることで、文案先行による実態不足や証跡不足を防げます。
| 段階 | 作業 | 成果物 |
|---|---|---|
| 1 | 対象原則の確定 | 対象原則一覧、改訂対応表 |
| 2 | 現行開示の棚卸し | CG報告書、統合報告書、招集通知、有価証券報告書の比較表 |
| 3 | 実態調査 | 部門ヒアリング、規程、議事録、運用資料 |
| 4 | 原則趣旨の理解 | 原則別メモ、投資家論点メモ |
| 5 | 実施状況評価 | コンプライ、一部実施、未実施、要確認の判定表 |
| 6 | ギャップ分析 | 不足事項、改善策、開示リスク一覧 |
| 7 | 方針決定 | 取締役会・経営会議向け資料 |
| 8 | 文案作成 | 実施しない理由、各原則に基づく開示、補足説明 |
| 9 | レビュー | 法務、IR、会計、内部監査、外部専門家レビュー記録 |
| 10 | 取締役会報告・承認 | 議事録、承認資料、反対意見・留保意見の記録 |
| 11 | 提出・対話・更新 | CG報告書、投資家Q&A、更新管理台帳 |
原則別評価シートは、開示統制の証跡になります。次の一覧は、各原則で最低限残したい項目をまとめたものです。後日、投資家、監査役、社外取締役、取引所、外部専門家から確認を受けても判断根拠を説明できる状態を目指します。
原則番号、原則名、対象市場、原則の趣旨を記録します。
基礎情報関連規程、関連会議体、現行開示箇所、裏付け資料を結び付けます。
証跡実施状況、想定質問、ギャップ、改善策、エクスプレイン要否を整理します。
判断文案責任者、承認会議体、次回見直し時期を明確にします。
運用実施していると言えるためには、制度・運用・監督・証跡・説明可能性が必要です。
実施していると判断するには、形式的な文言ではなく、社内実態を確認する必要があります。次の一覧は5つの判断観点を示します。各項目を満たすほど、投資家との対話や取締役会での説明に耐えやすくなります。
方針、規程、会議体、担当部門が明確であること。
制度が実際に動き、直近年度にも実績があること。
取締役会または独立社外役員が関与していること。
議事録、資料、決定書、評価結果などの裏付けがあること。
質問を受けた場合に合理的に説明できること。
実態調査では、資料の有無だけでなく、資料が実際に取締役会や委員会で使われているかを確認します。次の一覧は、確認対象を領域別に整理したものです。どの資料がどの原則の裏付けになるかを読み取ってください。
| 確認領域 | 主な資料 | 読み取るべき点 |
|---|---|---|
| 機関設計・会議体 | 定款、取締役会規程、監査役会規程、監査等委員会規程、指名・報酬委員会規程 | 権限、構成、審議事項、独立性を確認します。 |
| 取締役会運営 | 議事録、会議資料、実効性評価結果、改善計画 | 実際に議論され、改善に結び付いているかを確認します。 |
| 指名・報酬 | 選解任基準、後継者計画、スキル・マトリックス、報酬方針 | 客観性、利益相反管理、中長期価値との整合を確認します。 |
| 資本政策・政策保有 | 政策保有株式の検証資料、議決権行使基準、資本配分資料 | 資本コスト、保有合理性、縮減方針を確認します。 |
| 人的資本・リスク管理 | 人的資本方針、内部監査計画、リスク管理資料、IR面談記録 | 開示と実態、投資家質問への備えを確認します。 |
一部実施の場合は、未実施部分を隠すより、実施部分と未実施部分を分けて説明したほうが透明性が高い場合があります。中核的要素を満たしているか、未実施部分が重要か、代替策があるか、投資家が重要視するかを確認します。
未実施事項、会社の状況、代替策、見直し方針を順番に示します。
エクスプレイン文案は、投資家が知りたい順序に沿って書くと分かりやすくなります。次の判断の流れは、記載の順番と各段階で示す情報を表します。上から順に事実、理由、代替策、今後の方向性を確認してください。
何を実施していないのかを最初に示します。
事業特性、成長段階、組織体制、株主構成、経営課題を説明します。
なぜ現時点で実施しない判断が合理的なのかを示します。
原則の趣旨をどう実現し、いつ・どの条件で見直すかを示します。
取締役会などがどのように確認したかを示します。
次の表は、使いがちな抽象表現と、補うべき情報を整理したものです。左欄の表現は単独では情報密度が低いため、右欄のように根拠、判断主体、時期、代替策を追加する必要があります。
| 避けたい単独表現 | 不足する情報 | 補うべき内容 |
|---|---|---|
| 必要ないと判断しています | 判断理由と判断主体が不明 | 会社の状況、取締役会等の関与、具体的な根拠を示します。 |
| 今後の検討課題です | 時期と条件が不明 | いつまでに、何を、どの条件で検討するかを示します。 |
| 適切に対応しています | 実態が検証できない | 会議体、頻度、資料、社外役員の関与、運用実績を示します。 |
| 総合的に勘案しました | 評価軸が不明 | 定量・定性指標、投資家意見、リスク評価を示します。 |
改善された文案には、直近年度に何回議論したか、どの会議体で確認したか、どの専門性を持つ社外役員が関与したか、どの指標を使ったか、いつまでに何を検討するかといった情報が入ります。長さよりも、検証できる事実が含まれているかが重要です。
取締役会、指名・報酬、政策保有株式、資本配分などは重点的に確認します。
主要論点は、単にCG報告書の欄を埋めるだけでは足りません。次の比較一覧は、論点ごとに整える資料と、エクスプレインが必要になりやすい場面を整理したものです。どの論点でどの証跡を確認すべきかを読み取ってください。
| 論点 | 整える資料 | 説明が必要になりやすい場面 |
|---|---|---|
| 取締役会の構成 | スキル・マトリックス、候補者選定基準、独立性判断基準、社外取締役の選任理由 | 独立社外取締役比率、多様性、議長属性、指名・報酬プロセスが期待水準に届かない場合 |
| 取締役会実効性評価 | 評価対象、評価方法、分析主体、課題、改善策、翌年度フォローアップ | アンケート実施だけで改善策や結果概要の説明が薄い場合 |
| 指名・報酬 | CEO選解任基準、後継者計画、委員会構成、報酬方針、業績連動指標 | 委員会未設置、独立性不足、報酬決定プロセスの客観性不足がある場合 |
| 政策保有株式 | 銘柄別検証資料、資本コスト分析、縮減方針、議決権行使基準 | 取引関係維持だけで経済合理性や縮減進捗が説明されていない場合 |
| 資本政策・成長投資 | 中期経営計画、資本配分方針、ROE、ROIC、資本コスト、事業ポートフォリオ資料 | 手元資金、成長投資、株主還元の考え方が取締役会監督と結び付いていない場合 |
| サステナビリティ・人的資本 | 方針、目標、実績、重要課題、取締役会監督資料 | 理念だけで経営戦略との接続や有価証券報告書との整合が弱い場合 |
| グループガバナンス | 関連当事者取引審査、少数株主保護方針、独立社外取締役関与、特別委員会方針 | 親子上場、支配株主、利益相反がある場合 |
資本配分の説明では、株主還元を増やすか否かだけに単純化しないことが重要です。成長投資、研究開発、人材投資、知財・無形資産投資、DX投資、M&A、リスク耐性、規制対応との関係で必要性を説明できるかを確認します。
法務だけでは完結しないため、IR、経営企画、内部監査、人事、財務を巻き込みます。
コード対応は商事法務担当や法務部が主管することが多い一方、記載内容は経営戦略、資本政策、取締役会運営、内部監査、人材戦略、サステナビリティ、IR、財務、税務、M&A、リスク管理に関係します。次の表は、関与者ごとの主な役割を整理したものです。どの情報を誰から集めるべきかを読み取るために重要です。
| 領域 | 主な関与者 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 全体統括 | 法務担当、商事法務担当、企業内弁護士 | 原則別の対応管理、開示文案、取締役会付議 |
| 法的確認 | 外部弁護士、企業内弁護士 | 上場規則、会社法、金商法、開示リスクの確認 |
| 取締役会運営 | 取締役会事務局、社外取締役、監査役 | 実効性評価、議案設計、議事録整備 |
| 財務・資本政策 | CFO、公認会計士、税理士、経営企画 | 資本コスト、政策保有株式、資本配分、成長投資 |
| 内部統制 | 内部監査、リスクマネジメント、コンプライアンス | 運用状況の検証、証跡管理、改善計画 |
| 人材・労務 | 人事、社労士、労務法務担当 | 多様性、人材育成、人的資本、後継者計画 |
| 知財・技術 | 知財法務担当、弁理士、技術部門 | 知財投資、研究開発、無形資産戦略 |
| 投資家対応 | IR、経営企画、代表取締役、CFO | 対話方針、Q&A、英文開示、議決権行使助言対応 |
| 登記・機関設計 | 司法書士、法務、外部弁護士 | 役員変更、定款変更、機関設計変更 |
取締役会は、担当部門が作る文書を形式的に確認するだけでは足りません。次の一覧は、取締役会資料に含めたい情報です。取締役会が何を確認し、どのリスクを把握したかを残すために重要です。
役員構成、資本政策、投資家質問、改訂動向の変化を示します。
一覧と各エクスプレイン文案を提示します。
想定質問、他社比較、議決権行使上の論点を整理します。
改訂コードへの対応状況と今後の改善計画を示します。
制度、運用、レビューの証跡を残し、他媒体との整合性を確認します。
外部に提出する開示文書である以上、記載には裏付けが必要です。次の3種類の証跡は、後日説明を求められた場合に判断根拠を示すための基礎になります。どの記載がどの証跡に支えられているかを確認してください。
規程、方針、委員会規則、決裁基準など、仕組みの存在を示す資料です。
議事録、会議資料、評価結果、検証記録など、実際の運用を示す資料です。
法務レビュー、IRレビュー、内部監査確認、外部専門家コメントの記録です。
開示統制は、担当者の注意力だけに依存しない形で設計します。次の一覧は、年次更新で有効な統制を示しています。責任部門、変更通知、横断レビュー、取締役会報告、提出後の質問台帳化までを一連の管理として読み取ってください。
各原則に責任部門を設定し、年1回は実態確認を行います。
年次確認制度や運用が変わった場合、主管部門へ通知する運用を設けます。
更新管理法務、IR、経理、内部監査が開示内容と実態の整合を確認します。
レビュー提出後の投資家質問を記録し、次回更新へ反映します。
対話反映CG報告書は、有価証券報告書、招集通知、事業報告、統合報告書、サステナビリティレポート、決算説明資料、ウェブサイト、英文開示資料と整合している必要があります。美しい開示文を作る前に、取締役会の議題設計や運用実態を整えることが重要です。
丁寧な説明は、防御ではなく建設的対話の材料になります。
投資家は、コンプライしているかどうかだけを見ているわけではありません。次の一覧は、投資家が確認しやすい観点をまとめたものです。説明の厚み、代替策、取締役会関与、改善可能性を読み取る視点が重要です。
会社が原則の趣旨を理解しているか。
未実施の理由が会社固有の事情に基づいているか。
代替的な監督や統制が実効的に機能しているか。
担当部門だけでなく取締役会が確認しているか。
将来の見直し時期や条件が示されているか。
経営戦略、資本政策、リスク管理と矛盾していないか。
提出後は投資家対話用Q&Aを準備します。次の表は、未実施原則について想定される質問と回答時に含めたい要素を整理したものです。回答の一貫性を保つため、法務、IR、経営企画、CFO、代表取締役、社外取締役で共有することが重要です。
| 想定質問 | 回答に含める要素 |
|---|---|
| なぜ今年も未実施なのか | 未実施事項、会社の状況、判断理由、代替策を示します。 |
| いつまでに実施する予定か | 見直し時期、条件、取締役会での確認状況を示します。 |
| 社外取締役はどう評価しているか | 事前説明、取締役会審議、意見の反映方法を示します。 |
| 他社と比較して遅れている理由は何か | 市場区分、業種、成長段階、株主構成、経営課題を示します。 |
| 資本効率や株主還元との関係は何か | 資本配分方針、成長投資、還元、リスク耐性の考え方を示します。 |
エクスプレインの質は、議決権行使にも影響し得ます。独立社外取締役比率、指名・報酬委員会、女性取締役、政策保有株式、資本効率、親子上場、買収防衛策などは、議決権行使助言会社や機関投資家の基準と関係しやすい領域です。
現行対応表と改訂案対応表を分け、二段階更新に備えます。
2026年改訂案への対応では、現行コード対応と改訂案対応を混同しないことが重要です。次の比較表は、2つの管理表の役割を整理したものです。どちらの表で何を管理すべきかを読み取ってください。
| 管理表 | 目的 | 主な確認事項 |
|---|---|---|
| 現行コード対応表 | 現在のCG報告書を正しく更新する | 現行原則、現行開示、未実施理由、今年の変更点 |
| 改訂案対応表 | 改訂後コードへの移行準備を進める | 原則番号・構造変更、補充原則の扱い、解釈指針、提出期限、社内整備課題 |
移行プロジェクトは、文案だけでなく実体整備を含みます。次の一覧は、体制設計で必要な役割を示しています。誰がスポンサーとなり、どの部門を巻き込み、どこへ報告するかを読み取ることができます。
代表取締役、CFO、または取締役会議長が全体の優先度を示します。
法務部、商事法務部、取締役会事務局が対応表と文案を管理します。
IR、経営企画、財務、人事、サステナビリティ、内部監査、経理、知財、リスク管理が参加します。
取締役会、監査役会、指名・報酬委員会へ進捗と課題を報告します。
次の時系列は、2026年から2027年7月末までの移行作業を整理したものです。期間ごとに何を終えるべきかを読み取ることで、短期間では整備しにくい資本配分や取締役会事務局機能の補強を早めに始められます。
改訂案の分析、現行コードとの差分表作成、対象原則の再整理を行います。
最終改訂内容の確認、社内説明、プロジェクト正式化を進めます。
部門ヒアリング、ギャップ分析、取締役会議題設計を進めます。
文案作成、取締役会実効性評価、資本配分等の補強を行います。
取締役会確認、IRレビュー、英文対応、株主総会対応との整合、提出を進めます。
前年文案の流用、実態不足、投資家対話との不整合を防ぎます。
典型的な失敗は、どれも実態、証跡、説明、対話のいずれかが弱いことから生じます。次の一覧は、失敗例と予防策を並べたものです。自社の更新プロセスでどこに弱点があるかを読み取ってください。
役員構成、資本政策、投資家質問、改訂内容の変化を反映できません。毎年、原則別責任部門に実態確認を依頼します。
投資家対話で信頼を損ねます。コンプライ判定基準を社内で定め、一部実施は説明対象にするか検討します。
必要性や検討中だけでは説明になりません。未実施事項、理由、代替策、見直し時期、取締役会関与を必須項目にします。
資本政策、人材戦略、内部監査の実態が反映されません。部門横断のレビュー会議を設けます。
CG報告書とIR面談の説明がずれることがあります。提出後にIR向け資料とQ&Aを共有します。
担当部門の作成物にとどまります。未実施原則、重要判断、投資家懸念を取締役会で報告・審議します。
文案、取締役会資料、部門ヒアリング、投資家Q&Aを型として整えます。
テンプレートは、記載内容を固定するためではなく、情報の抜けを防ぐために使います。次の一覧は、4種類の実務テンプレートで確認する項目を整理したものです。各場面で何を記入すべきかを読み取ってください。
原則番号・原則名、未実施事項、会社の状況、判断理由、代替策、取締役会確認、見直し時期を記載します。
開示文案本日の審議事項、前回からの変更点、対象原則、未実施原則、文案、投資家懸念、改訂対応、提出予定日を整理します。
会議体現行開示と実態の一致、制度・運用変更、審議実績、裏付け資料、想定質問、未実施事項、改善予定を確認します。
実態調査未実施事項、会社の状況、判断理由、代替策、取締役会での議論、今後の見直し時期、参考開示箇所を揃えます。
対話準備各テンプレートでは、抽象表現で終わらせず、会議体、頻度、関与者、運用実績、時期、条件を入れます。機密情報を過度に出さない配慮も必要ですが、検証できないほど抽象化すると説明責任を果たしにくくなります。
リソース不足を理由にする場合こそ、優先順位と段階的整備を示します。
中小・新興上場会社では人的・財務的リソースが限られます。ただし、リソース不足という説明だけでは十分ではありません。次の一覧は、限られた体制でも説明に含めたい要素を示します。投資家が知りたいのは、どのリスクを優先し、どのように段階的に整備するかです。
人員、組織体制、外部専門家の活用状況を示します。
どの原則やリスクを先に整備するのかを説明します。
最小限の会議体、レビュー、証跡管理を示します。
いつまでにどの水準へ高めるかを示します。
一度にすべてを整備できない場合は、段階的コンプライを設計します。次の時系列は、方針策定から外部評価・独立社外役員関与の強化までを5段階で示しています。順番に運用実績を作ることが重要です。
方針を策定し、取締役会で確認します。
責任部門と運用プロセスを定めます。
議事録、レビュー記録、改善計画などの運用実績を作ります。
実績を踏まえて開示内容を具体化します。
外部評価または独立社外役員の関与を強化します。
IPO準備会社は、上場後にコード対応が必要になるため、上場前からガバナンス設計の指針として活用できます。取締役会運営、独立社外役員候補者、役員選任・報酬方針、関連当事者取引管理、内部監査体制、反社会的勢力排除、内部通報制度、CG報告書ドラフトを早期に整えます。
実態と異なる記載、取締役会の形式的追認、不祥事時の不整合に注意します。
CG報告書の記載が実態と異なる場合、投資家からの信頼を損ない、上場規則上の問題やレピュテーションリスクを招く可能性があります。次の一覧は、特に注意したい記載リスクを整理したものです。どの表現が実態確認を必要とするかを読み取ってください。
実際には開催していない会議体を開催していると書くと、記載と実態が乖離します。
取締役会で審議していない事項を十分に審議していると書くことは避けます。
存在するだけの規程を適切に運用していると書く場合は、運用証跡が必要です。
社内決定されていない計画を実施予定と断定しないようにします。
有価証券報告書や統合報告書と矛盾する内容は避けます。
不祥事、会計不正、品質問題、個人情報漏えい、独禁法違反、労務問題、重大事故、情報セキュリティ事故が発生した場合は、既存のCG報告書を再点検します。次の判断の流れは、危機対応時に確認すべき順番を示しています。既存開示の修正要否、他媒体との整合、再発防止策との接続を確認してください。
内部統制やリスク管理に関する記載を確認します。
適時開示、法定開示、CG報告書、ウェブサイトの整合性を確認します。
取締役会・監査役会の対応記録を確認します。
再発防止策とガバナンス改善策を投資家向け説明につなげます。
年次更新、説明品質、2026年改訂案対応を分けて確認します。
チェックリストは、担当者の経験に依存せず抜け漏れを減らすための道具です。次の表は、年次更新、エクスプレイン品質、2026年改訂案対応を横並びで整理しています。自社の進捗確認に使う場合は、各欄を責任部門と証跡に結び付けてください。
| 区分 | 確認項目 |
|---|---|
| 年次更新 | 市場区分に応じた対象原則、現行CG報告書の棚卸し、他媒体との整合、責任部門、裏付け資料、未実施・一部実施原則、文案項目、横断レビュー、取締役会報告、投資家Q&A、提出後台帳を確認します。 |
| 説明品質 | 対象原則、未実施事項、会社固有事情、代替策、取締役会関与、将来の見直し時期または条件、他媒体との整合、投資家が追加質問できる具体性、機密情報の過度な開示がないことを確認します。 |
| 2026年改訂案対応 | 現行原則との対応表、補充原則から原則・解釈指針へ移る項目、解釈指針の管理、2027年7月末までの提出期限、取締役会報告、資本配分・成長投資・取締役会事務局機能のギャップ分析、投資家対話Q&A、最終改訂内容の再確認担当を確認します。 |
よくある疑問を、一般的な制度説明として整理します。
一般的には、形式的にコンプライして実態が伴わないよりも、会社の個別事情を踏まえて丁寧にエクスプレインするほうが、投資家との建設的対話に資する場合があります。ただし、市場区分、株主構成、未実施原則の内容、代替策の実効性によって評価は変わる可能性があります。具体的な説明方針は、資料を整理したうえで専門家へ相談する必要があります。
一般的には、すべての原則について機械的にコンプライすること自体が目的ではないとされています。重要なのは、原則の趣旨・精神を理解し、自社の状況に照らして、実施するか、実施しない場合には理由を十分に説明することです。ただし、対象範囲や投資家の期待は市場区分や会社の状況で変わる可能性があります。
一般的には、検討中という表現を用いること自体はあり得ますが、それだけでは説明として不十分になりやすいとされています。何を、誰が、いつまでに、どのような条件で検討するのかを示す必要があります。具体的な記載水準は、原則の重要性や社内決定状況によって変わります。
一般的には、他社事例は参考資料になり得ますが、そのまま使うことは望ましくないとされています。業種、規模、株主構成、取締役会構成、経営課題が異なるため、ひな型的表現は避ける必要があります。具体的には、自社の実態と証跡に基づき調整する必要があります。
一般的には、形式的な承認要否は社内規程や提出内容により異なるとされています。ただし、重要な未実施原則やガバナンス方針に関する記載は、取締役会に報告または付議することが望ましい場合があります。具体的な手続は、社内規程、上場規則、記載内容の重要性を踏まえて確認する必要があります。
一般的には、形式的なコンプライ・オア・エクスプレインの対象範囲が基本原則に限定される場合でも、投資家から原則・補充原則相当の論点を質問されることがあります。上場準備、資本政策、社外取締役、内部統制、人的資本などの重要論点は、対象外であっても社内管理する必要があります。
一般的には、解釈指針はコンプライ・オア・エクスプレインの対象外とされる方向でも、原則の実施等を検討する際に参照することが期待されるとされています。したがって、対象外という理由だけで無視すると、原則の趣旨理解や投資家対話で不足が生じる可能性があります。
一般的には、英文開示の範囲は会社によって異なりますが、海外投資家が多い会社では日本語版と英語版の整合性が重要です。要約版を出す場合でも、未実施原則や重要なガバナンス方針について誤解が生じないようにする必要があります。具体的な対応範囲は、投資家構成や開示方針を踏まえて検討します。
実体、証跡、開示、対話を一体で設計することが核心です。
コンプライ・オア・エクスプレインの実務対応は、単なる上場会社の事務作業ではありません。自社のガバナンスがなぜ合理的なのか、どこに課題があり、どのように改善するのかを、投資家その他のステークホルダーに説明する技術です。
次の一覧は、良い対応と悪い対応の特徴を整理したものです。自社の運用がどちらに近いかを読み取ることで、次回更新までに補強すべきポイントが見えます。
| 良い対応 | 悪い対応 |
|---|---|
| 原則の趣旨を理解している | ひな型を貼り付けている |
| 自社事情を具体的に説明している | 前年文案を流用している |
| 実施・未実施の判断を取締役会レベルで検討している | 未実施を曖昧にしている |
| 代替策や改善計画がある | 取締役会の関与が弱い |
| 投資家との対話に開かれている | 投資家からの質問に答えにくい |
| 開示と実態が一致している | 改訂動向を継続的に更新していない |
企業法務、商事法務、コンプライアンス、内部監査、IR、経営企画、会計税務、外部専門家が連携し、実体、証跡、開示、対話を一体として設計することが、コンプライ・オア・エクスプレインの実務対応の核心です。