標準必須特許とFRANDをめぐるEU・中国の最新制度、裁判・競争法・WTO紛争、契約とM&Aでの対応を横断的に整理します。
標準必須特許とFRANDをめぐるEU・中国の最新制度、裁判・競争法・WTO紛争、契約とM&Aでの対応を横断的に整理します。
EU・中国のSEP規制動向を一言で整理すると、EUはSEPライセンスの包括的な制度化を試みたものの規則案がいったん撤回され、裁判・競争法・通商紛争へ重心が戻っています。一方、中国はSAMRの反独占指引と人民法院のグローバルFRAND判断を通じ、SEPライセンス実務への関与を強めています。
SEPとは標準必須特許、つまり5G、Wi-Fi、映像圧縮、IoT、コネクテッドカー、スマート工場、医療機器、産業用通信モジュールなどの標準を実施するために避けて通れない特許です。通信機器メーカーだけでなく、自動車、家電、産業機械、ヘルスケア、金融端末、物流、エネルギー、建設設備、クラウド連携機器にも企業法務リスクとして波及します。
次の重要ポイントは、EU・中国のSEP規制動向を経営リスクとして読むための入口です。どの制度が動いたかだけでなく、契約交渉、証拠管理、差止め、M&A、サプライチェーンのどこに影響するかを読み取ることが重要です。
FRAND交渉、競争法、国際訴訟、製品企画、標準化活動、M&A、内部統制が重なります。企業法務では、警告書が届いてから対応するのではなく、標準技術を採用する段階から記録と契約を整える姿勢が必要です。
EU・中国の制度差は、同じFRANDという言葉を使いながら、透明性をどこまで行政制度化するか、裁判所が世界的ライセンス条件をどこまで決めるか、当局が交渉行動へどこまで関与するかに表れます。下の比較一覧では、まず押さえるべき三つの軸を示します。
2023年の欧州委員会SEP規則案は2025年10月に正式撤回されました。ただしHuawei v ZTE判例、加盟国裁判所、UPC、欧州委員会の競争法・通商対応は引き続き重要です。
2024年11月8日に公表された標準必要専利反壟断指引は、情報開示、FRAND承諾、善意交渉、高額料率、差止め濫用、事業者結合を体系化しました。
EUは、中国裁判所による世界的ライセンス条件・ロイヤルティ率への関与を問題視し、DS632でWTOパネル設置を求めています。
標準化、標準必須特許、FRAND、ホールドアップ・ホールドアウト、差止めを同じ地図に置いて理解します。
技術標準とは、製品・サービス・通信方式・データ形式などについて、互換性、安全性、品質、効率性を確保するための共通仕様です。ETSI、3GPP、IEEE、ISO、IEC、ITUなどの標準化団体が重要な役割を持ちます。
SEPは、標準を実施するために不可避的に使用される特許です。標準化団体に対する宣言は重要な出発点ですが、実際に標準実施に不可欠か、特許が有効か、製品が当該特許を実施しているかは別途検討されます。
次の表は、EU・中国のSEP規制動向で繰り返し登場する基礎用語を整理したものです。用語の違いを押さえることで、裁判・行政指針・契約条項が何を問題にしているかを読み分けやすくなります。
| 概念 | 意味 | 企業法務での確認点 |
|---|---|---|
| 技術標準 | 通信方式、データ形式、接続仕様などの共通仕様。 | 自社製品・部品・ソフトウェアがどの標準を実施しているかを把握します。 |
| SEP | 標準を実施するために避けて通れない特許。 | 宣言特許と実際の必須性、有効性、実施の有無を分けて検討します。 |
| FRAND | 公平、合理的かつ非差別的なライセンス条件。 | 料率、対象製品、地域、期間、既存契約、交渉経緯を証拠化します。 |
| ASI・AASI | 他法域での訴訟を止める命令と、それに対抗する命令。 | グローバル紛争では提訴順序、執行可能性、秘密情報管理を統合します。 |
SEP規制の核心は、権利者と実施者のどちらか一方だけを守ることではありません。下の比較一覧は、過大な条件を迫るリスクと支払いを先延ばしするリスクを並べ、FRANDがどの緊張関係を調整する考え方かを示します。
標準が市場に普及した後、SEP権利者が標準を使わざるを得ない実施者に過大な料率や不合理条件を求めるリスクです。
実施者が標準技術を使いながら交渉を遅らせ、支払いを回避または先延ばしするリスクです。
EU・中国の制度は、差止め、料率、対案、証拠管理を通じて、双方の交渉行動の誠実性を評価します。
標準技術が製品・部品・クラウド連携に入り込むほど、SEPは知財部門だけで閉じない経営課題になります。
従来、SEP紛争はスマートフォン、基地局、通信チップ、映像符号化の大型技術企業間紛争として語られがちでした。しかしIoT化により、自動車、工場設備、医療機器、家電、金融端末、物流、エネルギー設備も標準技術を利用する場面が増えています。
日本企業がEUや中国に拠点を持たない場合でも、製品がEU市場で販売される、中国で製造される、中国メーカーに部品を供給する、EU企業や中国企業と共同開発する、標準化会合に参加する、通信モジュールを調達する、欧州・中国企業をM&Aする、といった場面で影響を受けます。
下の一覧は、企業法務担当者がEU・中国のSEP規制動向を踏まえて悩みやすい場面を整理したものです。どの場面でも、特許侵害の有無だけでなく、契約、競争法、訴訟、サプライチェーンの情報を同時に確認する必要があります。
ライセンス要求書を受けた場合、返答期限、対象特許、標準、料率根拠、交渉意思の表明を管理します。
中国で製造しEUで販売する場合、中国の行政・裁判実務とEUの差止リスクが連動します。
通信モジュールやソフトウェアを調達していても、完成品・販売地域までカバーされるか確認が必要です。
SEPを含む事業・会社・特許を買収する場合、FRAND承諾、既存契約、当局申告、係争リスクを調べます。
社内での位置づけも重要です。下の一覧は、SEP対応を知財部門だけでなく複数部門の連携に広げるための役割分担を示します。各部門がどの情報を持ち、どこで記録を残すかを読み取ってください。
警告書対応、FRAND対案、特許評価、交渉記録、訴訟・当局対応の中心になります。
証拠管理製品が実施する標準、部品・ソフトウェアの仕様、標準化活動への参加履歴を把握します。
標準実装販売停止、和解金、投資家説明、BCP、M&A判断にSEPリスクを反映します。
経営判断EUは包括規則案を出しましたが、2025年10月に正式撤回され、裁判・競争法・通商対応が実務の中心に戻りました。
EUのSEP規制は、TFEU102条の支配的地位濫用規制、Samsung事件・Motorola事件、CJEUのHuawei v ZTE判決、ドイツなど加盟国裁判所、UPC、ETSIなどの知財ポリシー、欧州委員会の政策文書・ソフトローの組み合わせで運用されてきました。
2023年の欧州委員会SEP規則案は、この分散的な制度を、透明性と予測可能性を高める方向で統合しようとする試みでした。しかし撤回により、少なくとも2026年5月26日時点でEU全域に直接適用される新たなSEP規則は成立していません。
次の時系列は、EUにおける制度化の試みがどこで進み、どこで止まったかを示します。日付の順番を追うことで、単なる政策変更ではなく、欧州委員会、欧州議会、理事会、裁判所の役割分担を読み取れます。
EUIPOのCompetence Centre、SEP登録、必須性チェック、FRAND決定、総ロイヤルティ率、SME支援を柱にしました。
立法追跡情報では、賛成454、反対83、棄権78とされています。
理事会での審議停滞を経て、欧州委員会は提案を正式に撤回しました。
欧州議会は撤回決定の取消しを求める訴訟を維持する方針を承認しており、制度設計をめぐる対立は残っています。
次の表は、撤回されたEU規則案の主要構成要素です。成立していない制度ですが、EUがどの不確実性を問題視していたかを理解する手がかりになるため、今後の再設計や各国裁判実務を読むうえで重要です。
| 構成要素 | 狙い | 企業法務への示唆 |
|---|---|---|
| EUIPO Competence Centre | SEP登録、必須性チェック、FRAND決定、SME支援の管理。 | 行政的インフラで交渉の透明性を高める構想でした。 |
| SEP登録 | 特許と標準の関係を明らかにする。 | 権利者側はポートフォリオ整理、実施者側は対象特許確認が重要になります。 |
| FRAND決定手続 | 裁判前に最長9か月の決定手続を原則化する。 | 訴訟の脅威や遅延戦術から離れた交渉環境を作る狙いがありました。 |
| 総ロイヤルティ率 | 複数権利者の最大総負担を見える化する。 | 累積ロイヤルティの管理、事業計画への反映に関係します。 |
| SME支援 | 無料助言、費用軽減、登録アクセス、SMEに有利な条件促進。 | 非通信業界・中小企業にもSEP問題が広がることを前提にしていました。 |
Huawei v ZTE、Samsung・Motorola事件、UPC、DS611・DS632が、差止めとFRAND交渉の実務を形づくります。
EU実務の中核は、CJEUのHuawei v ZTE判決です。FRAND条件でライセンスする取消不能の承諾をしたSEP権利者が差止めや製品回収を求める場合でも、一定の手順を満たす限り、TFEU102条上の支配的地位濫用にはならないとされました。
下の判断の流れは、Huawei v ZTE型の交渉手順を企業法務の証拠管理に落としたものです。順番が重要であり、どの段階で通知・提案・対案・保証・会計資料を残すべきかを読み取ってください。
対象特許を特定し、どのように侵害されているかを示します。
必須性・有効性・侵害を争う場合でも、FRAND条件なら交渉する意思を明確にします。
料率、算定方法、対象製品、地域、期間を文書で示します。
実施者側の交渉態度が不誠実と評価される可能性があります。
料率根拠、比較契約、保証、会計資料を準備します。
EUでは、競争法執行と特許訴訟フォーラムも重要です。次の表は、EUの制度・事件が何を示したかを並べたものです。差止めが全面的に否定されているのではなく、交渉行動と市場への影響で評価される点を読み取ることができます。
| 項目 | 実務上の意味 | 確認すべき証拠 |
|---|---|---|
| Samsung事件 | 一定のライセンス枠組みに同意する相手への差止請求を控えるコミットメントが問題になりました。 | FRAND枠組みへの合意、相手方の意思、差止め請求の経緯。 |
| Motorola事件 | 特定事情の下で、FRAND承諾済みSEPに基づく差止請求・執行が競争法上問題になりました。 | 相手方の交渉態度、過大条件の有無、競争への影響。 |
| UPC | 複数国に及ぶ欧州特許訴訟の場として、SEP・FRAND判断が出始めています。 | FRAND抗弁、無効・非侵害、サプライヤーライセンス、ポートフォリオ交渉履歴。 |
| DS611 | 中国のASI政策をめぐり、EUはWTOで有利判断を得たと公表しました。 | 他法域訴訟の制限、命令の範囲、当局・裁判所への説明。 |
| DS632 | 中国裁判所が世界的FRAND条件を定め得ることがWTO紛争化しています。 | 裁判管轄、対象ポートフォリオ、EU特許への影響、和解可能性。 |
2024年11月公表の標準必要専利反壟断指引は、反独占法・標準化法・専利法を背景にSEP交渉を体系化しました。
SAMRは2024年11月8日、標準必要専利反壟断指引を公表しました。同指引は2024年8月26日のSAMR第22回局務会議で採択され、2024年11月4日付で印発されたものです。
目的は、標準必要専利を濫用して競争を排除・制限する行為を予防・制止し、市場競争、イノベーション、経済効率、消費者利益、社会公共利益を保護することにあります。形式上は一般的指針であり強制性を持たないと明記されていますが、企業の交渉行動、当局対応、裁判実務、コンプライアンス設計に影響します。
次の表は、中国SAMR指引の全6章22条を実務テーマごとに整理したものです。各章がどの行為を対象にしているかを見ると、単なる料率問題ではなく、標準化、交渉、差止め、M&Aまでつながる規律であることが分かります。
| 章 | 主な内容 | 企業法務への影響 |
|---|---|---|
| 第1章 総則 | 目的、根拠、SEP概念、分析原則、関連市場、事前・事中監督。 | 技術市場、製品・サービス市場、地域市場を個別事案ごとに整理します。 |
| 第2章 交渉行動 | 情報開示、FRAND承諾、善意交渉。 | SEPリスト、標準対照表、料率根拠、返答期限、対案を証拠化します。 |
| 第3章 独占協定 | 標準制定・実施、特許プール、競争上敏感な情報交換。 | 標準化団体・特許プール参加時の独禁法研修と議事録管理が必要です。 |
| 第4章 支配的地位濫用 | 高額料率、ライセンス拒絶、抱き合わせ、不合理条件、差別待遇、救済措置濫用。 | 料率、契約条件、差止め請求の前提を競争法視点で確認します。 |
| 第5章 事業者結合 | SEP関連取引の申告、基準未満取引への申告要求、制限条件。 | SEPを含むM&Aや特許売買でも、中国競争法レビューが問題になります。 |
| 第6章 附則 | 指引の効力と解釈。 | 強制性はないものの、当局・裁判・交渉で参照される可能性があります。 |
中国指引の特徴は、正式調査・処分だけでなく、事前・事中監督を明示する点です。次の時系列は、行政関与がどの段階で始まり得るかを示します。標準制定や交渉の早い段階から、文書管理と説明方針を準備する必要があることを読み取れます。
標準化団体の規則に従い、保有または認識している必要特許を適時・十分に開示します。
権利者はSEPリストや料率根拠を示し、実施者は合理的期間内に意思表示・対案を行います。
排除・制限競争リスクを発見した場合、反独占執行機関に報告し、監督・指導を受ける余地があります。
当局は正式処分に先立ち、注意喚起、面談、改善要求などの方法で関与できます。
中国では、情報開示、FRAND承諾、善意交渉、高額料率、ライセンス拒絶、差止め濫用が実務上の焦点です。
SAMR指引第6条から第8条は、中国におけるSEP交渉実務の中心です。SEP権利者の要請には、通常、SEPリスト、合理的数量のクレームチャート、料率計算方法・根拠、合理的な返答期限が含まれます。実施者は合理的期間内にライセンス取得の善意意思を示し、不当な遅延・拒絶を避ける必要があります。
次の判断の流れは、中国指引を前提にした警告書対応の順番を示します。実施者が争う権利を留保しつつ、交渉意思・対案・資料提出をどの段階で示すかを読み取ってください。
SEPリスト、標準対照表、料率計算方法、返答期限の有無を確認します。
対象製品がどの標準を実施し、サプライヤーライセンスがどこまで及ぶかを確認します。
FRAND条件なら交渉する意思を示しつつ、必須性・有効性・侵害の争点は留保します。
比較契約、販売量、地域、製品価値、累積負担を踏まえます。
遅延や拒絶と見られると、差止め・当局対応で不利になる可能性があります。
中国指引は、支配的地位濫用の具体類型も詳しく示します。下の表は、実務で争点になりやすい条項を契約・交渉の確認項目へ変換したものです。料率だけでなく、契約条件や紛争解決条項にも注意が必要です。
| 論点 | 中国指引の見方 | 実務で確認すること |
|---|---|---|
| 高額料率 | 比較可能契約からの乖離、期限切れ・無効・非SEPへの課金、価値変化の未調整などを考慮。 | 対象特許の有効性・必須性、比較契約、製品価値、累積ロイヤルティを整理します。 |
| ライセンス拒絶 | FRAND承諾後、正当理由なくライセンス意思のある実施者を拒むことが問題になり得ます。 | サプライチェーンのどの主体がライセンスを受けるか、補償条項を設計します。 |
| 抱き合わせ | 一括ライセンス、非SEPライセンス、他製品購入を正当理由なく強制する場合が争点になります。 | 契約範囲、不要特許、非SEP、別製品条件を切り分けます。 |
| 不合理条件 | 無償グラントバック、合理的対価なき強制クロスライセンス、異議制限、紛争解決地域の制限など。 | 条項ごとに必要性、対価、選択肢、競争制限効果を説明できるようにします。 |
| 差止め濫用 | 善意交渉を経ず、不公平な高額料率や不合理条件を受け入れさせる救済措置濫用を問題視します。 | 通知、提案、対案、相手方の応答、遅延の証拠を保存します。 |
中国の主要事例は、行政の反独占規律と裁判所のFRAND判断が相互に影響していることを示します。次の一覧では、各事例から企業法務が何を学ぶべきかを整理しています。
実施者が善意で行動している場面で、不公平に高額な料率を受け入れさせる目的の差止めが問題になり得ることを示しました。
過大なロイヤルティや差別的条件などが、反独占当局の執行対象になり得ることを示しました。
中国最高人民法院がグローバルSEPライセンス料に関する管轄を認めたことが注目されました。
同じFRANDでも、EUは判例・裁判所中心、中国は行政指針と裁判実務の併用という違いが目立ちます。
EUの2023年規則案は、SEP登録、必須性チェック、FRAND決定、総ロイヤルティ率、SME支援を行政的に組み合わせる包括制度でした。撤回後は、Huawei v ZTE判例、加盟国裁判所、UPC、欧州委員会の競争法・通商対応が中心になります。
中国のSAMR指引は、情報開示、FRAND承諾、善意交渉、ライセンス拒絶、高額料率、差止め濫用、事業者結合を明示し、事前・事中監督という行政関与のチャネルも置きます。EUが制度化しきれなかった透明性の一部を、中国が行政指針として先に明文化した面があります。
次の比較表は、EUと中国の規制思想を主要論点ごとに並べています。左右の違いを見ることで、同じ交渉記録でも、どの法域でどの意味を持つかを読み分けやすくなります。
| 比較軸 | EU | 中国 | 実務の読み方 |
|---|---|---|---|
| 制度の中心 | 規則案撤回後は判例、加盟国裁判所、UPC、競争法・通商対応。 | SAMR指引、反独占法、人民法院のFRAND判断。 | EUでは訴訟証拠、中国では当局説明も意識します。 |
| 透明性 | 登録・必須性チェック・FRAND決定の制度化は未成立。 | 情報開示、FRAND承諾、善意交渉を指引で明文化。 | SEPリスト、クレームチャート、料率根拠の準備が共通です。 |
| 差止め | Huawei v ZTEの手順と誠実交渉が重要。 | 善意交渉を経ない救済措置濫用を問題視。 | 差止め可否は、双方の交渉行動の証拠戦になりやすいです。 |
| グローバルFRAND | 中国裁判所の世界的条件設定をWTOで問題視。 | OPPO v Sharpなどを通じ、グローバル料率への関与を強めています。 | どの法域で先に争うかが交渉力に影響します。 |
| 中小企業・非通信業界 | 規則案ではSME支援を明示していました。 | SME支援を前面には出さないが、交渉行動規律で予測可能性を高めます。 | IoT製品では企業規模にかかわらず対応体制が必要です。 |
制度差を実務対応へ落とす際は、法域ごとに別々の方針を作るだけでは足りません。次の比較一覧は、EUと中国の双方で通用しやすい共通準備を示します。交渉前から持っておくべき資料を読み取ってください。
通知、返答、会議録、提案、対案、資料提出、相手方の遅延を時系列で保存します。
比較契約、特許の質、標準貢献度、対象製品価値、地域、期間、クロスライセンスを整理します。
EU、UPC、中国、英国、米国、日本など、どの裁判所がどの範囲を判断するかを早期に検討します。
自社がSEP権利者か、実施者か、または両方かを整理し、契約・M&A・内部統制へ落とし込みます。
SEPリスク評価の第一歩は、自社の立場を整理することです。SEP権利者であれば、標準化団体への参加記録、SEP宣言、FRAND承諾、ポートフォリオ管理、料率設計、差止め戦略が問題になります。実施者であれば、製品がどの標準を実施しているか、サプライヤーがライセンスを持つか、要求書へどう返答するか、FRAND対案をどう作るかが問題になります。
次の実務一覧は、EU・中国のSEP規制動向を社内タスクに変換したものです。自社の立場ごとに、どの資料を誰が準備するかを読み取ってください。
標準別・国別・ファミリー別に宣言特許、必須性が強い特許、無効リスク、期限切れ特許を区分します。
棚卸し過去ライセンス、比較契約、ポートフォリオ評価、対象製品価値、地域、期間、クロスライセンスを説明できる状態にします。
FRAND要求書を無視せず、対象製品・標準・サプライヤー契約を確認し、ライセンス意思と対案を期限内に示します。
期限管理部品購入、OEM・ODM、共同開発、ライセンス契約で、SEP補償、権利帰属、紛争解決、ASI対応を設計します。
条項設計SEP宣言、FRAND承諾の承継、既存ライセンス、係争、特許プール、中国の事業者結合申告要否を確認します。
DD標準技術採用時のレビュー、標準化会合の競争法研修、交渉記録保存、役員会報告基準を整備します。
運用契約では、SEPリスクを抽象的な「第三者権利侵害」だけで処理しないことが大切です。次の表は、契約類型ごとに、どの条項でSEPリスクを受け止めるかを整理しています。部品、完成品、販売地域、標準技術の責任分担を読み取ってください。
| 契約類型 | 確認すべきSEP条項 | 実務上の狙い |
|---|---|---|
| 部品購入契約 | 必要ライセンスの有無、第三者SEP請求への補償、訴訟協力、代替供給。 | 通信モジュールやソフトウェア由来のリスクをサプライチェーンで管理します。 |
| OEM・ODM契約 | ライセンス取得主体、ブランド企業と製造委託先の責任、地域別販売範囲。 | 完成品販売時の差止め・補償・費用負担を明確にします。 |
| 共同開発契約 | 標準化活動、特許開示、FRAND承諾、共同発明のSEP化、将来ライセンス方針。 | 研究開発段階から標準化と競争法のリスクを管理します。 |
| ライセンス契約 | 対象特許、標準、製品、地域、期間、料率、監査、秘密保持、MFN、グラントバック、紛争解決。 | SAMR指引で問題視され得る不合理条件を事前に点検します。 |
欧州で警告を受けた場合、中国で警告を受けた場合、自社が権利行使する場合、グローバル紛争の場合に分けます。
欧州でSEP権利者から警告を受けた実施者は、まず無視しないことが重要です。対象特許、標準、製品、侵害態様、販売地域を確認し、FRAND条件であればライセンス交渉に応じる意思を表明します。その際、必須性・有効性・侵害を争う権利は留保できます。
次の一覧は、代表的なシナリオごとの初動を比較したものです。同じSEP問題でも、欧州、中国、自社が権利者、複数法域紛争のどれかで、集める資料と意思決定の順番が変わることを読み取ってください。
Huawei v ZTEの枠組みを意識し、具体的提案の有無、料率根拠、返答期限、対案の準備を管理します。
SAMR指引第8条の善意交渉を意識し、SEPリスト、標準対照表、料率計算方法、行政対応の可能性を確認します。
対象特許、標準との対応、対象製品、料率根拠、合理的返答期限、相手方の応答記録を整理します。
提訴・反訴の順序、ASI・AASI、グローバルFRAND判断、秘密情報管理、事業継続計画を統合します。
グローバル紛争では、単一国の専門家に任せるだけでは情報が分断されやすくなります。下の時系列は、警告書から和解・判決対応までの管理項目を並べています。順番ごとに、社内決裁と外部専門家の連携点を読み取ってください。
法務、知財、技術、購買、営業で共有し、期限、対象国、対象製品を一元管理します。
必須性、有効性、侵害、サプライヤーライセンス、補償条項、販売実績を整理します。
料率、地域、期間、対象製品、保証、会計資料、比較契約を文書化します。
EU、UPC、中国、英国、米国、日本などの提訴順序、ASI・AASI、秘密情報管理を統合します。
販売停止リスク、代替供給、投資家・取引先説明、役員会報告を同時に設計します。
よくある実務質問を、一般的な制度説明として整理します。個別案件の結論は事実関係により変わります。
一般的には、2023年に提案されたEUのSEP規則案は成立しておらず、2025年10月に正式撤回されたと整理されています。ただし、Huawei v ZTE判例、欧州委員会の競争法執行、加盟国裁判所、UPC、標準化団体の知財ポリシーは引き続き重要です。具体的な対応は、販売地域、対象特許、交渉経緯を整理したうえで専門家へ相談する必要があります。
一般的には、SAMR指引はSEP領域の競争行為に関する一般的指針であり、強制性を有しないとされています。ただし、当局の執行判断、企業のコンプライアンス、裁判実務、交渉上の主張に影響する可能性があります。具体的なリスク評価は、中国での製造・販売・研究開発・交渉状況によって変わります。
一般的には、EUのHuawei v ZTE判決も中国SAMR指引第18条も、SEP権利者の差止請求を全面的に否定しているわけではないとされています。ただし、FRAND承諾があるにもかかわらず、善意交渉を尽くさず、不公平な高額料率や不合理条件を受け入れさせる目的で救済措置を用いる場合は、競争法上の問題になる可能性があります。
一般的には、その一言だけで十分とはいえないとされています。EUでも中国でも、実施者には迅速・誠実な対応が求められ、対象特許や料率に疑問がある場合でも、期限内の意思表示、必要情報の要求、合理的な対案、交渉記録の保存が重要です。具体的な対応方針は、警告内容と証拠関係によって変わります。
一般的には、中国裁判所がグローバルSEPライセンス条件・料率に関与する傾向は国際的な争点になっています。EUは、EU特許を含み得るSEPポートフォリオについて中国が世界的条件を定め得ることを問題視し、WTO紛争DS632で扱っています。個別案件では、当事者、対象特許、販売地域、提訴法域によって見通しが変わります。
一般的には、サプライヤーがライセンスを受けていても、その範囲が自社製品、完成品、販売地域まで及ぶかは契約や法域により変わる可能性があります。特許消尽の成否も取引形態や契約内容に左右されます。購買契約、補償条項、ライセンス証明、販売地域を整理したうえで確認する必要があります。
一般的には、通信機能付き製品をEU・中国で販売する企業は、規模にかかわらずSEP要求を受ける可能性があります。EU規則案がSME支援を掲げていたことも、IoT時代に中小企業がSEP問題へ直面し得ることを示しています。具体的には、製品仕様、部品調達、販売地域、契約条項によって対応の優先順位が変わります。
一般的には、FRAND承諾の承継、既存ライセンス、係争リスク、標準化団体への宣言、特許の必須性・有効性、特許プール参加、過去の当局対応、EU・中国販売地域、中国の事業者結合申告要否が重要とされています。具体的な確認範囲は、対象会社の事業、技術、販売地域、取引規模によって変わります。
権利者・実施者・共通管理に分けて、社内で確認すべき事項と今後の焦点を整理します。
SEP対応は、警告書が来たときだけの臨時対応では足りません。次の表は、権利者側、実施者側、法務・知財・経営共通の確認事項を整理したものです。自社の立場に応じて、未整備の項目を優先的に補うために使えます。
| 立場 | 確認項目 | 優先して整える資料 |
|---|---|---|
| SEP権利者 | 宣言一覧、必須性評価、期限切れ・無効リスク、FRAND承諾、料率根拠、差止め前レビュー。 | SEPリスト、標準対照表、比較契約、料率計算根拠、交渉記録。 |
| 実施者 | 実施標準、サプライヤーライセンス、要求書対応、ライセンス意思、対案作成、BCP。 | 製品仕様書、販売地域・数量、購買契約、補償条項、返答案、対案根拠。 |
| 法務・知財・経営共通 | 標準技術採用レビュー、標準化会合研修、役員会報告、M&A項目、EU・中国アップデート。 | 社内手順、研修資料、報告基準、DDチェックリスト、現地専門家リスト。 |
今後の焦点は、EU、中国、国際的な調整の三方向に分かれます。下の一覧は、どの変化が契約・訴訟・M&Aに影響しやすいかを示します。定期的なアップデートで確認すべき論点を読み取ってください。
全面的な規則案ではなく、限定的な透明性措置、SME支援、任意の必須性チェック、競争法ガイダンス更新が検討される可能性があります。
license to all、特許プール、非実施主体、グローバルFRAND、FRAND承諾付き特許の譲渡・M&A審査が焦点です。
特許権は国ごと、標準と製品販売は世界的であるため、裁判所・当局の判断が矛盾するリスクがあります。
EU・中国のSEP規制動向は、標準技術を使う企業が、どのようにイノベーションを利用し、対価を支払い、権利を行使し、競争を守り、事業を継続するかを問う総合問題です。企業法務は、製品開発、購買、知財、契約、競争法、訴訟、M&A、経営判断の横断課題としてSEPを位置づける必要があります。