2σ Guide

競合他社との
共同研究開発と独禁法

公取委ガイドライン、相談事例、知財・標準化・情報交換・契約条項の実務を、企業法務の観点から体系的に整理します。

20% 通常問題となりにくい目安
70〜80% 令和6年度相談事例の合計シェア
3年 終了後制限が問題なしとされた例
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競合他社との 共同研究開発と独禁法

公取委ガイドライン、相談事例、知財・標準化・情報交換・契約条項の実務を、企業法務の観点から体系的に整理します。

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競合他社との 共同研究開発と独禁法
公取委ガイドライン、相談事例、知財・標準化・情報交換・契約条項の実務を、企業法務の観点から体系的に整理します。
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2σ GUIDE ・ VIDEO

  • 競合他社との 共同研究開発と独禁法
  • 公取委ガイドライン、相談事例、知財・標準化・情報交換・契約条項の実務を、企業法務の観点から体系的に整理します。

POINT 1

  • 競合他社との共同研究開発と独禁法の全体像
  • 共同研究は当然に禁止されるものではありません。問題は、競争を補完する協力か、競争を止める協力かです。
  • 協力は競争を補完する範囲に限定する
  • 目的・対象・期間を限定
  • 競争上機微な情報を遮断

POINT 2

  • 競合他社との共同研究開発と独禁法で使う基本用語
  • 共同研究契約
  • 各社が研究費・人員・設備を拠出する場合、目的、対象、情報共有、成果帰属、終了後制限の限定が重要です。
  • コンソーシアム・業界団体
  • 団体が価格、数量、規格、取引先、研究テーマ、商品化方針を拘束すると、事業者団体の問題が生じ得ます。

POINT 3

  • 競合他社との共同研究開発と独禁法の判断枠組み
  • 1. 研究目的・対象を特定:効率性、技術革新、安全性、環境性能、互換性などの正当目的を確認します。
  • 2. 市場と参加者の地位を確認:製品市場と技術市場を分け、合計シェア、技術力、代替技術、非参加者の状況を見ます。
  • 3. 共同化の必要性を検討:単独実施やより制限的でない代替手段では目的達成が難しいかを整理します。
  • 4. 再設計・相談検討:対象範囲、期間、成果利用、第三者アクセス、情報共有を絞ります。
  • 5. 条項・運用を精査:契約、会議体、データ管理、監査記録まで一体で設計します。

POINT 4

  • 競合他社との共同研究開発と独禁法で危ない条項
  • 実施条項、成果技術、成果製品の三層でリスクを分類します。
  • 共同研究開発の実施に関する条項
  • 成果技術に関する条項
  • 成果技術を利用した製品に関する条項

POINT 5

  • 共同研究の情報交換リスクと独禁法対応
  • 契約書よりも、会議・資料・メール・チャットで競争上機微な情報が混ざることが実務上の核心です。
  • 競合他社との共同研究開発と独禁法で最も実務的に怖いのは、契約書よりも情報交換です。
  • 研究に必要な情報交換と、競争上危険な情報交換を区別しなければなりません。
  • 次の実務措置一覧は、情報交換リスクを会議運営とデータ管理の両方から抑えるための方法を表しています。

POINT 6

  • 公取委相談事例で見る競合他社との共同研究開発と独禁法
  • 1. 終了後3年間の担当技術者制限:背信行為防止、担当技術者のみを対象とする限定性、他の技術者や営業活動を制限しない点が重視されています。
  • 2. 輸送機械メーカー8社の基礎研究:輸送機械部品の性能向上につながる基礎研究を大学等に委託し、研究成果を共有する取組が問題ないとされました。
  • 3. 特定競争者だけ長期に成果供与を制限するリスク
  • 4. 産業用機械メーカー6社の基礎技術研究:技術研究組合を設立して産業用機械の基礎技術を共同研究する取組が問題ないとされました。
  • 5. CO2を排出しない燃料を使う新技術の基礎研究:輸送用機械メーカー4社が技術研究組合を設立し、未確立技術に関する基礎研究を共同実施する取組が問題ないとされました。
  • 6. 温室効果ガス削減に向けたパッケージ仕様の共同研究:製品Aメーカー数社が、パッケージの一部を小型化・軽量化するための共同研究を行う取組が問題ないとされました。

POINT 7

  • 競合他社との共同研究開発契約の独禁法設計
  • 1. 目的と研究対象を限定:正当目的と対象外活動の自由を明記します。
  • 2. 情報交換範囲を定義:技術情報と競争上機微な営業情報を分離します。
  • 3. 背景知財・成果知財を設計:既有技術、成果、改良発明、第三者ライセンスを分けます。
  • 4. 成果製品の競争を確認:価格・数量・販売先・地域・発売時期を各社独立決定にします。
  • 5. 会議運営と監査を接続:条項を、アジェンダ、議事録、アクセス権限、研修、監査に落とし込みます。

POINT 8

  • 標準化・GX・海外競争法と共同研究開発
  • 成果が標準、環境対応、経済安全保障、海外市場に関わるほど、透明性・非差別性・複数法域対応が重要になります。
  • 標準化・パテントプール
  • 脱炭素・循環経済
  • 経済安全保障

まとめ

  • 競合他社との 共同研究開発と独禁法
  • 競合他社との共同研究開発と独禁法の全体像:共同研究は当然に禁止されるものではありません。問題は、競争を補完する協力か、競争を止める協力かです。
  • 競合他社との共同研究開発と独禁法で使う基本用語:競合他社、共同研究開発、技術市場、製品市場、競争の実質的制限を分けて理解します。
  • 競合他社との共同研究開発と独禁法の判断枠組み:共同研究開発そのものの評価と、付随する取決めの評価を二段階で分けます。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

競合他社との共同研究開発と独禁法の全体像

共同研究は当然に禁止されるものではありません。問題は、競争を補完する協力か、競争を止める協力かです。

競合他社との共同研究開発と独禁法を考えるとき、最初に押さえるべき点は、競合他社と共同研究開発を行うこと自体が当然に違法となるわけではないということです。公正取引委員会は、共同研究開発について、研究開発コストの軽減、リスク分散、研究期間の短縮、異分野技術の相互補完などにより、技術革新を促進し得るものと位置付けています。

一方で、競合他社は本来、価格、品質、性能、技術、納期、顧客対応、販売戦略、商品投入時期、研究開発方針をめぐって競争する主体です。共同研究開発の名の下で、価格、数量、顧客、販売地域、生産能力、商品化時期、研究開発テーマ、技術導入先などを相互に拘束し、競争を実質的に制限する場合には、独占禁止法上の問題が生じます。

次の重要ポイントは、共同研究開発を設計する際に最初に確認すべき軸を表しています。読者にとって重要なのは、研究内容だけでなく、情報交換、成果利用、非参加者への影響、会議運営まで一体で見なければならない点を読み取ることです。

協力は競争を補完する範囲に限定する

共同研究開発は、競争を補完するための協力であれば許容されやすく、競争を代替・停止・調整するための協力になると危険です。

次のポイント一覧は、実務上の核心となる五つの管理対象を示しています。なぜ重要かというと、契約条項だけを整えても、情報交換や成果利用の設計が甘いとリスクが残るためです。どの項目が自社の計画で弱いかを読み取り、追加検討の入口にしてください。

SCOPE

目的・対象・期間を限定

研究テーマが広すぎる、期間が長すぎる、成果利用の制限が過大である場合、参加者の独立した研究開発競争を弱めるリスクが高まります。

INFO

競争上機微な情報を遮断

研究に必要な技術情報と、価格、販売数量、顧客、取引条件、コスト構造、将来の販売計画などの営業情報を峻別します。

MARKET

製品市場の競争を残す

共同で研究しても、商品化、価格設定、販売先、販売数量、販売地域、広告宣伝、顧客対応は各社が独立して決めることが原則です。

ACCESS

非参加者を排除しない

成果が標準、規格、必須技術、実質的な市場参入条件となる場合には、合理的なアクセス条件の設計が重要になります。

GOVERNANCE

会議体まで統制

研究会、分科会、非公式会合、メール、チャット、データ共有、成果発表の運用からも独禁法リスクが発生します。

Section 01

競合他社との共同研究開発と独禁法で使う基本用語

競合他社、共同研究開発、技術市場、製品市場、競争の実質的制限を分けて理解します。

このページでいう競合他社とは、同一又は近接する製品・サービス・技術の市場で競争している事業者を指します。現在は同じ商品を販売していなくても、研究開発の方向性、市場参入計画、技術的能力、販売チャネルなどから見て、将来競争者になり得る事業者は、潜在的競争者として扱われることがあります。

共同研究開発とは、複数の事業者が、一定の技術、製品、製法、データ、素材、部品、ソフトウェア、標準、検査方法、環境対応技術などについて、研究開発を共同で行う取組をいいます。

次の比較一覧は、共同研究開発を検討する際に混同しやすい概念を整理したものです。用語の違いを押さえることが重要なのは、市場の捉え方や競争制限の評価を誤ると、必要な情報遮断や契約制限の範囲もずれるためです。各行から、どの概念が自社案件のどの論点に対応するかを読み取ってください。

用語実務上の意味独禁法上の見方
競合他社同一又は近接する製品・サービス・技術の市場で競争している事業者です。潜在的競争者も含めて、研究開発競争を共同化する場合に注意が必要です。
共同研究開発共同研究契約、技術研究組合、コンソーシアム、共同出資会社、大学・研究機関・スタートアップを介した共通テーマ研究などを含みます。基礎研究は比較的低リスク、特定商品・仕様・発売時期・コストに近い開発研究は高リスクになりやすいです。
技術市場成果である技術そのものが取引される市場です。国内外の企業、大学、研究機関、スタートアップなど、顕在的・潜在的な研究開発主体が残るかを見ます。
製品市場製品・サービスが販売される市場です。価格だけでなく、品質改良、商品投入時期、供給能力、顧客提案、ライセンス条件も競争手段として評価されます。
競争の実質的制限研究開発活動や市場での競争が参加者間で弱まる状態です。技術市場又は製品市場で競争が実質的に制限されるおそれがある場合、独占禁止法3条の問題になり得ます。

独禁法上の検討では、製品市場だけでなく技術市場も重要です。国内の完成品市場で競合数社のシェアが高くても、技術市場では海外企業、大学、研究機関、スタートアップ、部品メーカー、ソフトウェア企業などが相当数存在し、研究開発競争が残る場合があります。逆に、製品市場のシェアが低くても、特定技術が標準必須技術で代替技術がほとんど存在しない場合には、技術市場での競争制限リスクが高くなります。

次の一覧は、共同研究開発の形態ごとに、どの場面で独禁法リスクが生じやすいかを示しています。形態を整理することが重要なのは、契約型、団体型、共同出資型では見るべき条文と管理方法が変わるためです。自社の取組がどの形態に近いかを読み取ってください。

共同研究契約

各社が研究費・人員・設備を拠出する場合、目的、対象、情報共有、成果帰属、終了後制限の限定が重要です。

コンソーシアム・業界団体

団体が価格、数量、規格、取引先、研究テーマ、商品化方針を拘束すると、事業者団体の問題が生じ得ます。

共同出資会社

株式保有、役員兼任、事業譲受け、合併会社分割などの企業結合規制も併せて検討する必要があります。

知財・標準化連携

背景技術、研究成果、改良発明、標準必須特許、ライセンス条件が競争を減殺しないかを確認します。

関係する主な条文・制度

次の表は、共同研究開発で問題になり得る条文・制度と典型場面を結び付けたものです。条文ごとの役割を押さえることが重要なのは、同じ共同研究でも、価格調整、排除、拘束、団体活動、企業結合では評価軸が異なるためです。どのリスクが重なっているかを読み取ってください。

条文・制度問題になりやすい場面確認ポイント
独占禁止法3条価格、数量、技術、製品、設備、顧客、取引条件、研究テーマ、商品化、発売時期を共同で制限する場面です。不当な取引制限や私的独占として、一定の取引分野の競争が実質的に制限されないかを確認します。
独占禁止法19条共同研究の契約条項や運用が、参加者・第三者の事業活動を不当に拘束する場面です。不公正な取引方法として、必要範囲を超えた拘束や差別的取扱いがないかを確認します。
独占禁止法8条業界団体、協会、コンソーシアム、標準化団体を通じて活動する場面です。団体が会員企業の競争手段を拘束していないかを確認します。
独占禁止法10条・企業結合規制共同出資会社やジョイントベンチャーを設立する場面です。親会社間の競争が弱まらないか、JVを通じて競争上機微な情報が共有されないかを確認します。
知財利用と独禁法背景技術、成果技術、改良発明、ノウハウ、標準必須特許、ライセンス条件を扱う場面です。技術の効率的利用や秘密保持に合理性があっても、必要範囲を超えて競争を減殺しないかを確認します。
Section 02

競合他社との共同研究開発と独禁法の判断枠組み

共同研究開発そのものの評価と、付随する取決めの評価を二段階で分けます。

競合他社との共同研究開発と独禁法を検討する際には、第一に共同研究開発そのものが技術市場又は製品市場の競争を実質的に制限するか、第二に共同研究開発に伴う取決めが参加者や第三者の事業活動を不当に拘束するか、という二段階で考えると整理しやすくなります。

次の判断の流れは、企画段階から契約条項レビューまでの確認順序を表しています。順番が重要なのは、共同化の必要性が弱い案件では、後から情報遮断や条項修正をしてもリスクが残るためです。上から順に、どの段階で追加検討又は再設計が必要になるかを読み取ってください。

共同研究開発の独禁法評価の順序

研究目的・対象を特定

効率性、技術革新、安全性、環境性能、互換性などの正当目的を確認します。

市場と参加者の地位を確認

製品市場と技術市場を分け、合計シェア、技術力、代替技術、非参加者の状況を見ます。

共同化の必要性を検討

単独実施やより制限的でない代替手段では目的達成が難しいかを整理します。

過大
再設計・相談検討

対象範囲、期間、成果利用、第三者アクセス、情報共有を絞ります。

限定
条項・運用を精査

契約、会議体、データ管理、監査記録まで一体で設計します。

第一段階 ― 共同研究開発そのものの評価

次の四つの項目は、共同研究開発そのものが競争を制限するかを見る主要な考慮要素です。これらを並べて確認することが重要なのは、20%という目安だけで結論が決まるわけではなく、研究の性格、必要性、範囲、期間を総合して見る必要があるためです。どの項目がリスクを上げ、どの項目がリスクを下げるかを読み取ってください。

参加者の数・市場シェア・地位

参加者の市場シェアが高く、技術開発力、設備、資金力、データ、特許、販売チャネルなどが強いほど注意が必要です。

研究の性格

基礎研究は比較的低リスク、応用研究は中間的、特定商品・仕様・発売時期・コストに直結する開発研究は高リスクになりやすいです。

共同化の必要性

単独ではコスト・リスク・技術的難度が高い、技術が補完的、社会的課題に対応するため業界横断研究が必要といった事情を確認します。

対象範囲・期間

対象範囲、期間、参加者、成果、情報共有、成果利用の範囲が明確で限定されているほど、競争への影響は限定されやすくなります。

次の割合の横棒グラフは、このページで扱う市場シェアの目安と相談事例の数字を比較するものです。数値だけを見ると高シェアが直ちに危険に見えますが、実務上は研究の性格や情報遮断と併せて読むことが重要です。横棒の長さから、20%は安心材料にすぎず、70%台から90%台でも条件次第で問題なしとされた事例があることを読み取ってください。

通常の目安
20%
令和6年度
70〜80%
令和2年度
約80%
令和5年度
約90%
高シェアでも、基礎研究、必要性、対象限定、情報遮断、独立した商品化、非参加者アクセスが評価される場合があります。

第二段階 ― 取決めが不当に競争を拘束するか

次の比較表は、公取委ガイドラインの取決め分類を契約レビューで使いやすい形に整理したものです。分類を分けることが重要なのは、同じ共同研究契約の中でも、許容されやすい条項と再設計が必要な条項が混在するためです。条項ごとにどの水準に当たるかを読み取ってください。

分類意味契約レビューでの扱い
原則として問題となりにくい事項共同研究開発を円滑に進めるために必要な合理的範囲の取決めです。必要性と限定性を文書化し、運用が条項を超えないよう管理します。
問題となるおそれがある事項個別事情によっては、独立した研究開発や技術選択を妨げる可能性がある取決めです。対象、期間、代替手段、市場影響を検討し、必要に応じて絞り込みます。
問題となるおそれが強い事項価格決定の自由、研究開発競争、既有技術利用、競合製品販売を直接制限しやすい取決めです。原則として再設計し、実施前に専門家レビューや当局相談を検討します。
Section 03

競合他社との共同研究開発と独禁法で危ない条項

実施条項、成果技術、成果製品の三層でリスクを分類します。

共同研究開発の実施に関する条項

次の表は、共同研究を進めるために必要な合理的範囲であれば原則として問題となりにくい条項を整理したものです。なぜ重要かというと、許容されやすい条項でも、対象や期間が広がると競争制限に転化するためです。各行から、必要性と限定性をどこで説明すべきかを読み取ってください。

条項類型実務上の意味
研究目的、期間、分担、費用負担を定める条項研究体制・責任・予算を明確にします。
共同研究に必要な技術情報、知見、データを参加者間で開示する条項必要な技術協力を可能にします。
秘密保持義務営業秘密・ノウハウ・研究データの漏えいを防止します。
進捗報告義務研究管理・成果確認のための報告です。
開示技術の目的外流用禁止他社技術の無断転用を防ぎます。
研究期間中の同一テーマの独自研究又は第三者共同研究の制限成果帰属争い、フリーライド、背信行為を防止します。
必要な場合に限った密接関連テーマの第三者共同研究制限成果の混同や研究専念を確保します。
合理的期間に限った終了後の同一又は密接関連テーマの第三者共同研究制限背信行為防止又は権利帰属確定のための限定措置です。
共同研究への他の事業者の参加制限参加者管理、機密保持、費用負担を調整します。

次の表は、個別事情によって問題となるおそれがある条項です。ここを分けて確認することが重要なのは、秘密情報の不正利用禁止と、知見・経験を活かした独立開発の禁止を混同しやすいためです。どの条項が独立した技術競争を妨げる方向に近づくかを読み取ってください。

条項類型リスクの理由
開示技術から着想を得た別技術の開発まで制限する条項技術流用防止を超え、独立した研究開発を妨げます。
共同研究の目的を超えて、同種技術の導入を制限する条項より優れた技術の採用を妨げ、技術選択の自由を奪います。
離脱後も他社技術導入を実質的に認めない条項参加者の事業活動を過度に拘束します。

次の表は、共同研究開発の実施に必要とは認められにくく、公正競争阻害性が強いと考えられる条項です。特に重要なのは、共同研究テーマを超えた研究開発制限や既有技術の利用制限は、共同研究の保護ではなく競争の停止に近づく点です。どの条項を原則として再設計すべきかを読み取ってください。

条項類型典型的な危険性
共同研究テーマ以外の研究開発を制限する条項参加者の研究開発活動全般を拘束します。
終了後に同一テーマの研究開発を広く制限する条項研究開発競争を長期的に停止させます。
既有技術の自社利用・第三者許諾を制限する条項共同研究前から保有する技術の競争利用を奪います。
成果に基づく製品以外の競合製品の生産・販売を制限する条項商品市場での競争を直接制限します。

成果技術に関する条項

次の表は、成果技術の帰属や利用について原則として問題となりにくい条項を整理したものです。成果技術の扱いが重要なのは、権利関係が曖昧だと紛争になる一方、囲い込みが強すぎると改良研究のインセンティブを弱めるためです。どこまでが共同投資の回収や秘密保持の範囲かを読み取ってください。

条項類型実務上の意味
成果の定義・帰属を定める条項発明、ノウハウ、データ、ソフトウェア、試作品、報告書等の権利関係を明確にします。
成果の第三者への実施許諾を制限する条項共同投資の回収、秘密保持、共同研究のインセンティブを確保します。
第三者実施許諾料の分配を定める条項ライセンス収益の配分ルールです。
成果に係る秘密保持義務ノウハウ・営業秘密を保護します。
改良発明等の開示義務又は非独占的実施許諾義務成果の継続的活用と技術共有を可能にします。

次の表は、成果技術について特に注意すべき高リスク条項です。ここが重要なのは、改良発明は共同研究後の技術競争の中心であり、譲渡義務や独占的実施許諾義務が競争の芽を摘む可能性があるためです。安全寄りの設計として、非独占的ライセンス、用途限定、必要範囲限定を検討すべき場面を読み取ってください。

条項類型リスクの理由
成果を利用した研究開発を制限する条項共同研究後の改良・応用・派生研究を阻害します。
改良発明等を他参加者へ譲渡する義務又は独占的実施許諾義務改良研究のインセンティブを減殺します。

成果技術を利用した製品に関する条項

成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合や、成果に基づく製品の品質を確保する必要がある場合には、合理的な期間に限って販売先や購入先を一定範囲に制限することが許容される場合があります。ただし、ノウハウの取引価値が失われた後も制限し続ける、同等の部品・原材料を他から調達できるのに指定先からの購入を強制する、といった場合はリスクが高まります。

次の表は、成果製品に関する制限のうち、特に市場分割、供給制限、顧客分割、代替取引先の排除に近づきやすいものを整理したものです。製品市場の競争を残すことが重要なため、各行から、共同研究成果の品質保持を超えて競争的差別化を妨げていないかを読み取ってください。

条項類型リスクの理由
成果に基づく製品の生産・販売地域を制限する条項市場分割に近づきます。
成果に基づく製品の生産・販売数量を制限する条項供給制限に近づきます。
成果に基づく製品の販売先を制限する条項顧客分割・排除に近づきます。
成果に基づく製品の原材料・部品購入先を制限する条項競争者・代替取引先の排除につながります。
成果に基づく製品の品質・規格を制限する条項競争的差別化を妨げる可能性があります。
成果に基づく製品の第三者への販売価格を制限する条項価格決定の自由を奪うため、公正競争阻害性が強いとされています。
重要価格、値上げ時期、割引、リベート、原価転嫁、最低販売価格、推奨価格、入札価格、顧客別価格、販売条件について、参加者間で調整することは極めて危険です。
Section 04

共同研究の情報交換リスクと独禁法対応

契約書よりも、会議・資料・メール・チャットで競争上機微な情報が混ざることが実務上の核心です。

競合他社との共同研究開発と独禁法で最も実務的に怖いのは、契約書よりも情報交換です。共同研究開発では、技術者、知財担当、法務担当、事業部、経営企画、購買、製造、品質保証、営業企画が同じ会議体に入りやすくなります。研究に必要な情報交換と、競争上危険な情報交換を区別しなければなりません。

次の比較表は、研究目的に照らして共有可能性が高い情報と、原則として共有を避けるべき情報を対比したものです。ここを分けることが重要なのは、技術的コスト情報や研究進捗の共有が、販売価格・数量・顧客戦略の共有に広がるとカルテルリスクに接近するためです。左列と右列の境界を読み取り、会議アジェンダや資料レビューに反映してください。

共有可能性が高い情報原則として共有を避けるべき情報
研究テーマに必要な技術的課題、実験方法、評価方法、検査方法現在又は将来の販売価格、値上げ方針、価格算定式
研究対象に直接関係するデータ、安全性・環境性能・品質検証に必要な情報顧客別価格、リベート、割引、販売条件
共同研究の進捗、分担、スケジュール販売数量、出荷数量、生産数量、在庫、供給能力の将来計画
成果帰属に必要な発明者情報、発明届、出願方針顧客名、取引先、入札予定、商談状況、顧客獲得方針
研究費、共同研究設備、委託研究先との調整情報販売地域、販売チャネル、代理店政策、商品化時期、発売延期、販売終了予定
研究目的に必要な技術資料や試験結果成果製品の市場投入戦略、原価、利益率、価格転嫁方針、購買条件、テーマ外の研究計画、人材採用条件

次の実務措置一覧は、情報交換リスクを会議運営とデータ管理の両方から抑えるための方法を表しています。重要なのは、契約書に独禁法遵守と書くだけでは管理できず、会議前、会議中、会議後、非公式連絡まで統制する必要がある点です。どの措置を自社の事務局運営に組み込むべきかを読み取ってください。

1

会議アジェンダの事前確認

事務局又は法務が、営業情報・価格情報・数量情報・顧客情報が議題に入っていないか確認します。

会議前
2

独禁法遵守アナウンス

各会議の冒頭で、価格、数量、顧客、販売戦略、入札、将来商品化計画などを議論しないことを確認します。

冒頭確認
3

議事録の作成・保存

誤解を招く表現を避け、実際に何を議論したかを記録します。後日の調査・監査・当局対応で重要な証拠になります。

記録
4

参加者の限定

技術的議論に営業担当者を同席させない、価格決定権限者を参加させないなど、必要最小限の参加者に限定します。

権限管理
5

データの集約・匿名化

市場データや技術データを扱う場合、個社別データではなく、第三者機関による集約値・匿名化データの利用を検討します。

データ管理
6

クリーンチーム

競争上機微な情報に接触する必要がある場合、事業意思決定から切り離された限定参加者又は外部専門家による体制を設計します。

限定接触
7

退席ルール

会議中に危険な話題が出た場合、法務担当が制止し、必要に応じて退席・議事録記載・再発防止を行います。

中止手順
8

チャット・メール統制

非公式チャット、懇親会、資料共有フォルダ、メールCCにも同じルールを適用します。

非公式連絡
注意令和6年度相談事例では、参加企業の合計シェアが70〜80%程度と高かったにもかかわらず、費用・価格・数量・取引先等の情報を共有しないこと、各社が独自に開発・製造すること、非参加者も合理的対価で成果仕様を利用できること等が重要な要素として扱われています。
Section 05

公取委相談事例で見る競合他社との共同研究開発と独禁法

高シェアの数字だけで結論を出さず、対象限定、基礎研究性、非参加者アクセス、情報遮断を見ます。

公取委の相談事例は、高シェアの競合企業間でも、対象範囲を絞り、情報交換を限定し、独立した競争と非参加者アクセスを確保すれば、共同研究開発が許容され得ることを示しています。

次の時系列は、共同研究開発に関する主な相談事例を年次順に整理したものです。時系列で見ることが重要なのは、基礎研究、環境目的、仕様限定、終了後制限、非参加者アクセスといった判断要素がどのように積み重なっているかを把握できるためです。各事例から、どの条件がリスク低減に働いたかを読み取ってください。

平成23年度

終了後3年間の担当技術者制限

電子機器メーカーとソフトウェア開発事業者の共同研究で、開発期間中及び終了後3年間、担当技術者を特定競合3社の同一テーマ開発業務に従事させない制限が問題ないとされました。背信行為防止、担当技術者のみを対象とする限定性、他の技術者や営業活動を制限しない点が重視されています。

平成28年度 事例2

輸送機械メーカー8社の基礎研究

輸送機械部品の性能向上につながる基礎研究を大学等に委託し、研究成果を共有する取組が問題ないとされました。8社の合計シェアは約90%でしたが、各社が独自に研究・開発・製造を行い、非参加者にも合理的対価で成果を提供する点が重要です。

平成28年度 事例3

特定競争者だけ長期に成果供与を制限するリスク

共同研究成果である技術供与と当該技術を用いた製品販売を第三者に行うことを一定期間制限する際、特定の競争者に対してのみ制限期間を長期とすることは、問題となるおそれがあるとされています。

令和2年度

産業用機械メーカー6社の基礎技術研究

技術研究組合を設立して産業用機械の基礎技術を共同研究する取組が問題ないとされました。6社の合計シェアは約80%でしたが、研究の性格、共同化の必要性、対象範囲・期間が総合的に検討されています。

令和5年度

CO2を排出しない燃料を使う新技術の基礎研究

輸送用機械メーカー4社が技術研究組合を設立し、未確立技術に関する基礎研究を共同実施する取組が問題ないとされました。合計シェアは約90%でしたが、人的資源・資金が多く必要で単独実施が難しいこと、製品化競争が直ちに制限されないことが重視されています。

令和6年度

温室効果ガス削減に向けたパッケージ仕様の共同研究

製品Aメーカー数社が、パッケージの一部を小型化・軽量化するための共同研究を行う取組が問題ないとされました。合計シェアは70〜80%程度でしたが、対象が製品全体ではなく一部仕様、研究期間が3年程度、費用割合が最大でも10%程度、費用・価格・数量・取引先等を共有しないことが重要です。

次の割合比較は、相談事例で示された主な数値を並べたものです。数字を横に比較することが重要なのは、高シェアという事実だけでなく、対象が製品全体か一部仕様か、研究期間や費用割合が限定されているかを同時に見る必要があるためです。棒の高さから合計シェアの大きさを把握しつつ、注記からリスク低減要素を読み取ってください。

80%
令和6年度
90%
令和5年度
80%
令和2年度
90%
平成28年度
読み方高シェアでも、対象範囲の限定、基礎研究性、共同化の必要性、情報遮断、各社独立の商品化、非参加者への合理的アクセスがあるかで評価が変わります。
Section 06

競合他社との共同研究開発契約の独禁法設計

目的条項から監査・記録化まで、契約と運用をつなげて設計します。

競合他社との共同研究開発と独禁法のリスクは、契約書の設計によって大きく変わります。共同研究開発契約、コンソーシアム契約、技術研究組合規約、標準化活動規約では、研究の範囲だけでなく、成果利用、情報交換、第三者アクセス、監査・記録化まで一体で設計する必要があります。

次の表は、共同研究開発契約で設計すべき主要条項と、各条項の焦点を整理したものです。契約項目を一覧化することが重要なのは、知財条項だけを詳細にしても、目的外の営業情報共有や終了後制限が残ると独禁法リスクが下がらないためです。各行から、契約書に書く事項と運用で担保する事項を読み取ってください。

条項設計の焦点独禁法上の注意点
目的条項何のために、どの範囲で、何を共同で研究するのかを技術的・客観的に特定します。価格、販売数量、顧客、地域、商品化方針を共同で決める目的ではないことを明記します。
研究対象・対象外条項研究対象を具体化し、対象外の技術・商品・顧客・用途について各社の自由を残します。「関連技術全般」「派生技術一切」など広すぎる定義を避けます。
情報交換条項技術情報、試験データ、研究進捗に限って共有し、営業情報を明確に禁止します。会議運用、資料管理、データルーム、議事録、アクセス権限と連動させます。
研究期間・終了条項必要な研究期間に限定し、延長時に競争法リスクを再評価します。終了後制限は背信行為防止や権利帰属確定に必要な限度に限定します。
既有技術・背景知財条項共同研究前から各社が保有する技術を明確化します。既有技術の自社利用や第三者許諾を不当に制限しないようにします。
成果知財・フォアグラウンドIP条項発明者、出願人、共有持分、実施権、第三者ライセンス、費用、侵害対応を決めます。成果を利用した研究開発制限や改良発明の独占的囲い込みに注意します。
改良発明・派生成果条項通知義務、非独占的ライセンス、用途限定、商用化の自由を組み合わせます。改良発明の譲渡義務や独占的実施許諾義務は慎重に検討します。
第三者アクセス条項非参加者への合理的・非差別的なライセンス、客観的参加要件、透明な拒絶理由を設計します。成果が標準・規格・必須技術になり得る場合に特に重要です。
独禁法遵守条項価格、数量、顧客、販売地域、入札、商品化時期を協議しないことを具体化します。危険議題の中止・退席・報告、研修、監査、違反時是正まで定めます。
監査・記録化条項議事録、研究計画、進捗報告、情報共有ログ、アクセス権限、成果物管理、出願・ライセンス記録を残します。後日、何を共有し、何を共有しなかったかを説明できる状態にします。

次の判断の流れは、共同研究契約をレビューする際の実務手順を表しています。順序を明確にすることが重要なのは、目的・対象が曖昧なまま成果利用や改良発明を検討しても、安全な条項設計にならないためです。上から順に確認し、どこで専門家レビューを入れるかを読み取ってください。

共同研究契約レビューの進め方

目的と研究対象を限定

正当目的と対象外活動の自由を明記します。

情報交換範囲を定義

技術情報と競争上機微な営業情報を分離します。

背景知財・成果知財を設計

既有技術、成果、改良発明、第三者ライセンスを分けます。

成果製品の競争を確認

価格・数量・販売先・地域・発売時期を各社独立決定にします。

会議運営と監査を接続

条項を、アジェンダ、議事録、アクセス権限、研修、監査に落とし込みます。

条項例参加者は、本共同研究の目的達成に合理的に必要な技術情報、試験データ、研究進捗情報に限り相互に共有し、現在又は将来の販売価格、販売数量、生産数量、顧客、取引条件、入札、販売地域、商品化時期その他競争上機微な営業情報を共有しない、という方向で具体化します。
Section 07

標準化・GX・海外競争法と共同研究開発

成果が標準、環境対応、経済安全保障、海外市場に関わるほど、透明性・非差別性・複数法域対応が重要になります。

共同研究開発の成果が標準、規格、認証基準、業界仕様、互換性ルール、パテントプールにつながる場合、独禁法リスクは一段高くなります。標準化は、ネットワーク効果、互換性、安全性、環境性能を高める一方で、市場全体の技術選択を固定化し、競争者を排除する力を持つことがあります。

次のポイント一覧は、標準化、GX・脱炭素、経済安全保障、海外競争法で追加確認すべき視点を整理したものです。これが重要なのは、公益性や国際性がある案件でも、価格・数量・顧客・技術提供先の調整まで正当化されるわけではないためです。各項目から、通常の共同研究契約に上乗せして確認すべき事項を読み取ってください。

STANDARD

標準化・パテントプール

標準採用製品の販売価格、生産数量、製品化時期を取り決めないこと、競合規格や代替技術を不当に制限しないこと、特定事業者の技術提案を不当に排除しないことが重要です。

GX

脱炭素・循環経済

環境目的は何か、共同化しなければ達成困難か、研究対象が必要範囲か、各社が独自に差別化・販売競争を続けられるかを確認します。

SECURITY

経済安全保障

技術流出防止や安定供給を理由に、競合他社間で顧客、価格、数量、供給先、取引拒絶、技術提供先を過度に調整しないことが重要です。

GLOBAL

海外競争法

成果が海外市場で利用される場合、日本法だけでなく、EU、米国、中国、韓国、台湾、英国、豪州などの競争法も検討します。

経済安全保障分野では、2025年11月20日に公取委が「経済安全保障に関連した事業者の取組における独占禁止法上の基本的な考え方」及び「経済安全保障と独占禁止法に関する事例集」を公表しています。重要技術の流出防止、サプライチェーン強靱化、重要物資の安定供給、代替供給網の構築、共同調達、共同備蓄、共同研究、共同投資では、政策的必要性が高い一方で、競合企業間の情報交換・共同事業・企業結合を伴うため、目的と手段の対応関係、必要性、代替手段、影響範囲の限定を確認します。

標準化を伴う共同研究開発の確認事項

次の表は、標準化を伴う共同研究開発で特に確認すべき事項をまとめたものです。表で見ることが重要なのは、標準の範囲、技術提案、ライセンス、非参加者アクセス、標準採用後の販売活動が一体で競争に影響するためです。各行から、透明性・客観性・非差別性・開放性をどこで担保するかを読み取ってください。

確認事項見るべき内容
標準化の目的互換性、安全性、環境性能、品質、効率性など合理的目的に基づくか。
標準の範囲必要最小限に限定され、必要範囲を超えて製品仕様・性能等を共通化していないか。
競合規格・代替技術競合規格の開発や採用製品の開発・生産を合理的理由なく禁止していないか。
技術提案の採否採否が透明・客観的で、特定事業者の技術提案を不当に排除していないか。
標準必須特許ライセンス条件が合理的で、FRAND的な考え方に照らして過度でないか。
非参加者アクセス非参加者が標準にアクセスでき、標準に参加しない企業を排除する効果がないか。
標準採用製品価格、数量、販売先、発売時期を共同で決めていないか。

海外競争法との比較

次の比較表は、日本だけで完結しない共同研究開発で確認すべき海外競争法の視点を整理したものです。海外法域を分けることが重要なのは、日本で問題なしと見込まれる案件でも、米国での情報交換、共同販売、標準化、ライセンス条件、EUでの一括適用免除要件などが別途問題になるためです。各国・地域で追加検討すべき論点を読み取ってください。

法域・領域主な確認ポイント
EU研究開発協定に関するCommission Regulation (EU) 2023/1066、共同利用、成果利用、市場シェア、アクセス条件、ハードコア制限、情報交換、共同商業化の有無を確認します。
米国FTCとDOJは2000年の競争者間協働ガイドラインを2024年12月に撤回し、2026年2月には新たなガイダンス可能性へのコメントを求めています。裸の価格協定、数量制限、市場分割、入札談合、賃金・人材引抜き制限、競争上機微情報の交換は厳しく評価されます。
国際案件全般参加企業の所在地、研究拠点、販売市場、顧客所在地、成果技術の利用地域、標準化団体・特許プールの所在国、データ移転、輸出管理、経済制裁、各国当局への届出・相談を確認します。
Section 08

競合他社との共同研究開発と独禁法の運用手順

企画、NDA、契約交渉、実施、成果利用、終了後監査までを段階管理します。

共同研究開発では、後から契約書だけを修正しても、事業設計が競争制限的であればリスクは残ります。企画段階から、法務、知財、事業部、研究開発、コンプライアンス、内部監査を巻き込むことが重要です。

次の時系列は、企画段階から終了後・監査段階までの管理ポイントを表しています。段階ごとに確認することが重要なのは、検討段階では情報交換、実施段階では会議運営、成果利用段階では販売戦略化、終了後では残存制限が主なリスクになるためです。順番に、どの段階でどの部門を関与させるかを読み取ってください。

企画段階

共同化の必要性と代替手段を検討

なぜ競合他社と共同で行う必要があるのか、単独実施、委託研究、大学・研究機関との共同研究、標準化団体での議論など、より制限的でない代替手段がないかを確認します。研究対象、市場シェア、技術力、非参加者、標準化可能性、海外競争法も見ます。

NDA・検討段階

情報交換の範囲を限定

検討目的、開示対象、受領者、目的外利用、返還・削除・アクセスログ管理を定めます。検討段階でも、価格、顧客、数量、販売計画、入札情報は共有しないことが重要です。

契約交渉段階

条項をリスク分類に照らして精査

目的・対象範囲、参加者、研究期間、情報共有、同一テーマ制限、既有技術、技術導入、成果帰属、成果利用、第三者ライセンス、改良発明、成果製品の価格・数量・販売先・地域、標準化、独禁法遵守、監査・記録化を確認します。

実施段階

契約書よりも運用を管理

毎回の会議で、議題、参加者、資料、議事録、共有データを管理します。初回会合、重要な成果利用方針決定会合、標準化方針会合、第三者アクセス方針会合には法務レビューを入れることが望まれます。

成果利用・商品化段階

研究協力から市場競争へ切り替える

販売価格、価格転嫁方針、発売時期、供給数量、顧客、販売地域、成果を使わない競合製品の販売、非参加者アクセスを参加者間で調整しないようにします。

終了後・監査段階

残存制限と実態を再評価

秘密保持、成果帰属、改良発明、第三者ライセンス、成果発表、標準化、担当技術者制限を点検します。成果利用の実態が契約と乖離していないか、会議体が不要に継続していないかも確認します。

次の表は、成果利用・商品化段階で発生しやすい危険な変化を整理したものです。この段階が重要なのは、研究目的の会議が販売戦略会議に変質しやすいからです。各行から、共同研究契約や会議運営で明確に禁止・分離すべき事項を読み取ってください。

危険な変化管理方法
共同研究成果を使った製品の販売価格を相談する価格設定は各社が独立して決定することを契約と会議冒頭で確認します。
原価上昇分の価格転嫁方針を共同で決める研究費や技術コストの共有と、市場価格・利益率の協議を分離します。
発売時期をそろえる商品化時期や発売延期の決定は各社の独立事項とします。
供給数量を分担する生産数量、出荷数量、供給能力の将来計画を共有しない運用にします。
顧客や販売地域を分ける顧客名、取引先、販売地域、代理店政策を共同研究会議の議題から外します。
成果にアクセスできない競争者を排除する成果が標準・必須技術に近づく場合、合理的・非差別的なアクセス条件を検討します。
Section 09

リスク水準と社内役割分担

低・中・高・極めて高いリスクを分け、法務だけでなく研究開発、知財、コンプライアンス、内部監査で管理します。

競合他社との共同研究開発と独禁法の管理は、法務部だけでは完結しません。研究開発部門と営業部門の分離、知財部門による成果設計、コンプライアンス部門による研修、内部監査による実態点検、経営企画によるJV・投資・補助金との整合確認が必要です。

次の表は、リスク水準ごとの典型例と実務対応を整理したものです。水準を分けることが重要なのは、低リスク案件と高リスク案件で、必要なレビューの深さ、公取委相談、外部専門家関与、アクセス条件設計の必要性が変わるためです。自社案件がどの水準に近いかを読み取ってください。

リスク水準典型例実務対応
基礎研究、対象範囲限定、期間限定、各社独立商品化、営業情報共有なし通常の法務レビュー、議事録管理、独禁法遵守条項
高シェア企業が参加、応用研究、成果共有、一定の第三者ライセンス制限競争法専門家レビュー、情報交換プロトコル、非参加者アクセス検討
開発研究、標準化・規格化、成果が必須技術化、非参加者排除の可能性公取委相談検討、外部弁護士関与、アクセス条件・透明性確保
極めて高い価格・数量・顧客・地域・発売時期の調整、既有技術利用制限、競合製品販売制限、改良発明の独占的囲い込み原則として再設計します。実施前に中止・修正し、必要に応じて当局相談を検討します。

次の表は、企業内で関与すべき部門と主な責任を整理したものです。役割を明確にすることが重要なのは、研究開発部門だけ、又は法務部だけでは、技術、情報、知財、市場、監査の全体を見切れないためです。各部門がどの責任を持つかを読み取り、会議体や承認ルートに反映してください。

役割主な責任
事業部共同研究の事業目的、必要性、成果利用方針を整理します。
研究開発部門研究対象、技術的必要性、情報共有範囲を特定します。
法務・企業内弁護士独禁法、契約、ガバナンス、紛争リスクを評価します。
外部弁護士高リスク案件、当局相談、海外法、標準化、企業結合を支援します。
知財部・弁理士背景知財、成果知財、改良発明、出願、ライセンスを設計します。
コンプライアンス部門研修、会議運営ルール、違反時対応を整備します。
内部監査運用実態、情報交換、記録管理を点検します。
経営企画JV、コンソーシアム、投資、補助金、事業戦略との整合を確認します。
情報システム・セキュリティデータルーム、アクセス権限、ログ、情報漏えい対策を管理します。
海外法務EU、米国、中国等の競争法・輸出管理・制裁規制を確認します。
運用上の要点研究目的の会議に営業上の意思決定者が参加すると、意図せず競争上機微な情報交換が発生するリスクがあります。研究開発部門と営業部門の分離は、共同研究開発の実務管理で特に重要です。
Section 10

公取委相談と実務チェック

高シェア、標準化、非参加者排除、共同販売・共同購買、政策性が高い案件では、事前相談も視野に入れます。

公取委は、事業者や事業者団体が行おうとする具体的行為について、独禁法等に照らして問題がないか相談に応じ、事前相談制度では書面回答を行う制度を設けています。ただし、企業結合案件はこの事前相談制度の対象外です。

次の判断の流れは、公取委相談を検討すべきかを整理するためのものです。相談要否を段階的に見ることが重要なのは、抽象的な不安だけではなく、シェア、標準化、第三者アクセス、共同販売・共同購買、政策性、海外当局の関心といった具体要素を整理する必要があるためです。どの分岐で相談準備に進むかを読み取ってください。

公取委相談を検討する場面

参加者の市場地位を確認

合計シェアが高い、業界上位企業の大半が参加する場合は注意します。

成果の市場影響を確認

標準・規格・必須技術化、非参加者の市場参入や事業継続への影響を見ます。

取引条件の共同化を確認

成果アクセス条件が差別的か、共同購買・共同生産・共同物流・共同販売を含むかを見ます。

該当あり
相談準備

市場、シェア、目的、必要性、範囲、期間、情報交換、成果利用、契約条項案、会議運営ルールを具体化します。

限定的
通常レビュー

契約、情報遮断、議事録、監査記録を整えて運用します。

企画段階チェック

  • 共同研究開発の目的は明確か。
  • 単独実施が困難な理由又は共同化の必要性を説明できるか。
  • 研究対象は必要最小限に限定されているか。
  • 参加者の市場シェア・技術力・特許・データを把握しているか。
  • 技術市場と製品市場を区別して検討したか。
  • 非参加者・新規参入者への影響を検討したか。
  • 標準化・規格化・必須技術化の可能性を検討したか。
  • 海外競争法の適用可能性を検討したか。

契約段階チェック

  • 目的条項が競争制限的に読めないか。
  • 対象範囲・期間が明確か。
  • 研究対象外の独立活動が明記されているか。
  • 競争上機微な営業情報の共有禁止が明記されているか。
  • 同一テーマ・関連テーマの研究制限が必要最小限か。
  • 終了後制限が過度でないか。
  • 既有技術の利用・許諾を不当に制限していないか。
  • 成果帰属・成果利用・第三者ライセンスが合理的か。
  • 改良発明の譲渡義務・独占的許諾義務がないか。
  • 成果製品の価格・数量・販売先・地域を制限していないか。
  • 独禁法遵守条項が具体的か。
  • 会議運営・議事録・監査ルールがあるか。

実施段階チェック

  • 会議アジェンダを事前に法務確認しているか。
  • 競争上機微な情報を共有していないか。
  • 参加者は必要最小限か。
  • 議事録を作成・保存しているか。
  • 研究データへのアクセス権限を管理しているか。
  • 非公式会合・懇親会で危険な話題が出ていないか。
  • 成果利用段階で販売戦略の協議に変質していないか。
  • 共同研究終了後も不要な会議体が継続していないか。

当局相談チェック

  • 高シェア又は業界主要企業の大半が参加するか。
  • 標準化・必須技術化する可能性があるか。
  • 非参加者の事業活動が困難になる可能性があるか。
  • 成果アクセス条件が差別的に見えるか。
  • 共同研究に共同購買・共同生産・共同物流・共同販売が含まれるか。
  • GX、経済安全保障、重要インフラ、医薬、AI、半導体など政策性が高いか。
  • 海外当局の関心が予想されるか。
Section 11

よくある質問

競合他社との共同研究開発と独禁法について、一般的な制度・実務上の考え方を整理します。

Q1. 競合他社と共同研究開発をするだけで違法ですか。

一般的には、共同研究開発をするだけで直ちに独禁法上問題となるものではないとされています。ただし、研究開発競争や製品市場競争を実質的に制限する場合、又は付随条項が参加者・第三者の事業活動を不当に拘束する場合には問題となる可能性があります。具体的な適法性は、市場、参加者、契約条項、情報交換の実態、成果利用によって変わるため、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q2. 参加者の合計シェアが20%を超えると違法ですか。

一般的には、20%を超えることだけで直ちに違法となるものではないとされています。共同研究開発ガイドラインは、製品市場で競争関係にある事業者がその製品の改良又は代替品の開発を行う場合、合計シェア20%以下であれば通常問題とならないとしていますが、20%超でも研究の性格、必要性、対象範囲、期間、技術市場の状況を総合判断します。具体的な見通しは、個別事情を踏まえて弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q3. 高シェアの競合企業が共同研究することは可能ですか。

一般的には、高シェアであっても共同研究開発が独禁法上問題なしと評価される可能性はあります。公取委の相談事例には、合計シェア70〜80%、約80%、約90%の事例で問題なしとされたものがあります。ただし、基礎研究であること、共同化の必要性、対象範囲の限定、情報遮断、各社独立の商品化、非参加者への合理的アクセスなどが重要です。具体的な対応方針は、案件資料を整理して専門家へ相談する必要があります。

Q4. 共同研究の会議で価格や原価を話してもよいですか。

一般的には、価格、価格算定式、顧客別価格、原価、利益率、価格転嫁方針などの競争上機微な営業情報の共有は避けるべきとされています。ただし、研究目的に必要な技術的コスト情報と、製品の価格設定・利益率に関する情報は区別が必要です。具体的に共有できる情報範囲は、研究目的、資料内容、参加者、会議運営によって変わるため、弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q5. 共同研究期間中、参加者の同一テーマの独自研究を禁止できますか。

一般的には、共同研究テーマと同一テーマについて、共同研究実施期間中の独自研究又は第三者との研究開発を制限することは、原則として問題となりにくいとされています。ただし、対象テーマを広げすぎないこと、研究期間に限定すること、必要性を説明できることが重要です。具体的な条項設計は、研究対象や成果帰属の事情によって変わるため、専門家へ相談する必要があります。

Q6. 終了後も同一テーマの研究を禁止できますか。

一般的には、終了後の研究開発制限は参加者の研究開発活動を不当に拘束しやすいため慎重な検討が必要とされています。ただし、背信行為防止又は権利帰属確定のために必要で、合理的期間に限られ、対象者・対象技術・対象行為が限定される場合には、問題なしと評価される可能性があります。具体的な可否は、制限の範囲と必要性を整理して専門家へ相談する必要があります。

Q7. 共同研究成果を第三者にライセンスしないことはできますか。

一般的には、成果の第三者への実施許諾を制限すること自体は、原則として問題となりにくいとされています。ただし、参加者の合計シェアが高く、成果が事業に不可欠な技術・標準・規格となり、非参加者がアクセスできないことで市場から排除されるおそれがある場合には、問題となる可能性があります。具体的な条件設計は、成果の性質や市場影響を踏まえて専門家へ相談する必要があります。

Q8. 改良発明を全て他参加者に譲渡させる条項は安全ですか。

一般的には、改良発明等を他の参加者へ譲渡する義務や、独占的に実施許諾する義務は、改良研究のインセンティブを減殺するため、公正競争阻害性が強いとされています。非独占的ライセンス、用途限定、必要範囲限定などの代替設計を検討することが重要です。具体的な条項は、研究目的、成果の範囲、対価、期間、代替手段によって変わるため、専門家へ相談する必要があります。

Q9. 成果技術を使った製品の販売価格を参加者間で決められますか。

一般的には、成果に基づく製品の第三者への販売価格を参加者間で制限することは、公正競争阻害性が強いとされています。販売価格、値上げ時期、割引、リベート、入札価格、顧客別価格、販売条件は、各社が独立して決めるべき事項です。具体的な会議運営や契約条項は、情報遮断の観点から専門家へ相談する必要があります。

Q10. 契約書に独禁法遵守条項を入れれば十分ですか。

一般的には、独禁法遵守条項を入れるだけでは十分ではないとされています。独禁法リスクは、契約書だけでなく、会議、メール、チャット、データ共有、議事録、非公式会合、共同発表、成果利用の実態から発生します。契約条項、情報交換プロトコル、会議運営、研修、監査、記録化を一体で整備する必要があり、具体的な体制は専門家へ相談する必要があります。

Reference

参考文献・一次情報

公的機関・競争当局・法令情報を中心に整理しています。

日本の法令・公的資料

  • 公正取引委員会「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」
  • e-Gov法令検索「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」
  • 公正取引委員会「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」
  • 公正取引委員会「標準化に伴うパテントプールの形成等に関する独占禁止法上の考え方」
  • 公正取引委員会「グリーン社会の実現に向けた公正取引委員会の取組」及び関連資料
  • 公正取引委員会「経済安全保障に関連した事業者の取組における独占禁止法上の基本的な考え方」及び「経済安全保障と独占禁止法に関する事例集」
  • 公正取引委員会「事業活動についての事前相談」
  • 特許庁「オープンイノベーションポータルサイト ― オープンイノベーション促進のためのモデル契約書」

公正取引委員会の相談事例

  • 令和6年度・事例5「メーカーによる温室効果ガス排出量削減に向けたパッケージの仕様の共同研究等」
  • 令和5年度・事例1「輸送用機械メーカーによる二酸化炭素を排出しない燃料を使用する新技術のための共同研究」
  • 令和2年度・事例7「産業用機械メーカーによる基礎技術に係る共同研究の実施」
  • 平成28年度・事例2「競合するメーカーによる共同研究」
  • 平成28年度・事例3「共同研究開発の成果等の競争者への供与の制限」
  • 平成23年度・事例5「共同研究開発終了後の同一テーマの開発制限」

海外競争法関連資料

  • European Commission, Horizontal Block Exemptions - Horizontal Agreements
  • Commission Regulation (EU) 2023/1066 on certain categories of research and development agreements
  • Federal Trade Commission, FTC and DOJ Withdraw Guidelines for Collaboration Among Competitors
  • Federal Trade Commission, Federal Trade Commission and Department of Justice Seek Public Comment for Guidance on Business Collaborations