精神障害の認定基準、発病前おおむね6か月の整理、証拠化、労基署への請求、会社が協力しない場合や不支給決定への対応まで、制度の全体像を一般情報として整理します。
パワハラの有無だけでなく、精神障害の発病、業務による強い心理的負荷、業務外要因との関係が検討されます。
パワハラの有無だけでなく、精神障害の発病、業務による強い心理的負荷、業務外要因との関係が検討されます。
パワハラによる精神障害について労災認定を受けるための中心は、「パワハラがあったか」だけではありません。労働基準監督署長は、厚生労働省の心理的負荷による精神障害の認定基準に沿って、精神障害の発病、業務による心理的負荷、業務外要因・個体側要因との関係を総合的に判断します。
認定基準上の対象疾病は、ICD-10の第Ⅴ章「精神及び行動の障害」に分類される精神障害のうち、器質性のもの及び有害物質に起因するものを除く精神障害です。業務に関連して発病する可能性のあるものは、主としてF2からF4に分類される精神障害とされています。
次の強調部分は、パワハラ労災を考えるときの出発点をまとめたものです。制度上の判断は本人のつらさだけでなく、同種の労働者の観点から見た客観的な強さも踏まえるため、医学資料と時系列をそろえる重要性を読み取ってください。
医学資料、時系列、パワハラの具体的内容、会社に相談した事実、会社の対応又は不対応、発病時期との関係を一つの流れとして整理することが重要です。
以下の三つの項目は、労災認定で最初に確認されやすい柱を並べたものです。左から順に、医学的な発病、発病前おおむね6か月の業務上出来事、業務外要因との関係を示しており、どれか一つだけで判断されるわけではない点が重要です。
うつ病、適応障害、心的外傷後ストレス障害など、医師の診断と診療経過から対象となる精神障害の発病が医学的に認められる必要があります。単なる不快感、職場への嫌悪感、疲労感だけでは通常足りません。
発病前おおむね6か月の間に、身体的攻撃、精神的攻撃、隔離、過大要求、過小要求、私生活への過度な介入などが、内容・程度・反復継続性・会社対応の有無に照らして評価されます。
家庭問題、借金、疾病、既往歴などがあっても直ちに否定されるわけではありません。ただし、明らかに業務外要因や個体側要因により発病したと判断される場合は、業務起因性が否定され得ます。
一般に申請と呼ばれますが、制度上は労災保険給付の請求です。会社の同意制ではありません。
一般には「労災申請」と呼ばれますが、制度上は、被災労働者又は遺族が労災保険給付を請求し、労働基準監督署長が支給・不支給を決定する手続です。会社が労災だと認める手続ではなく、会社が労災ではないと主張しても、最終的な判断権者は会社ではありません。
厚生労働省も、労災として認められるかどうかは事業主が決めるものではなく、労働者本人が労働基準監督署に請求し、労働基準監督署長が支給・不支給を決定すると説明しています。事業主証明が得られない場合でも、制度上は請求が可能とされています。
次の比較表は、パワハラによる精神障害で問題になりやすい給付を整理したものです。目的の列で何を補償する制度かを確認し、制度上の給付と会社への慰謝料・損害賠償請求が別の問題である点を読み取ってください。
| 主な給付 | 対象になりやすい場面 | 会社への損害賠償との関係 |
|---|---|---|
| 療養補償給付 | 精神科・心療内科等での治療費が問題になる場面 | 治療費に関する公的保険給付であり、慰謝料請求とは別制度です。 |
| 休業補償給付 | 休職などで賃金を受けていない期間がある場面 | 休業中の所得補償を目的とし、会社責任の有無を直ちに確定するものではありません。 |
| 障害補償給付 | 症状固定後に後遺障害が残る場面 | 後遺障害の残存が問題になる場合に検討されます。 |
| 遺族補償給付・葬祭料等 | 死亡・自殺事案で遺族の補償が問題になる場面 | 遺族の公的補償であり、会社に対する民事責任追及とは別に整理されます。 |
防止法制上のパワハラ該当性と、労災認定上の業務起因性は重なりますが、完全に同一ではありません。
職場におけるパワーハラスメントは、厚生労働省の指針上、職場において行われる三つの要素をすべて満たすものと整理されています。適正な業務指示・指導は、客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲内であれば、パワハラには該当しない点も重要です。
次の表は、パワハラの三要素を「意味」と「実務上の着眼点」に分けて示したものです。左列で要件を確認し、右列で証拠化するときにどの事実へ注目するかを読み取ってください。
| 要素 | 意味 | 実務上の着眼点 |
|---|---|---|
| 優越的な関係を背景とした言動 | 職務上の地位、知識、経験、人間関係、集団性により、抵抗や拒絶が困難な関係を背景とする言動です。 | 上司から部下だけでなく、同僚集団、専門知識を持つ部下、派遣先担当者なども問題になり得ます。 |
| 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの | 業務指導・注意の目的や必要性があっても、手段・態様・程度が社会通念上相当性を欠くものです。 | 長時間の叱責、人格否定、見せしめ、私的雑用の強制、仕事を与えないことなどが問題になります。 |
| 労働者の就業環境が害されること | 就業する上で看過できない支障が生じることです。 | 出勤困難、睡眠障害、休職、業務遂行能力低下、通院開始などを確認します。 |
次の一覧は、代表的な六類型と証拠化の要点を対応させたものです。類型は限定列挙ではなく、複数の出来事が組み合わさることが多いため、典型例だけでなく証拠化ポイントの列も合わせて確認してください。
| 類型 | 典型例 | 労災認定での証拠化ポイント |
|---|---|---|
| 身体的な攻撃 | 殴打、足蹴り、物を投げつける | 診断書、写真、録音録画、目撃者、直後の報告記録 |
| 精神的な攻撃 | 人格否定、脅迫、侮辱、長時間の叱責、大声での威圧的叱責、侮辱的メール | 発言内容の記録、メール・チャット、録音、同席者、叱責時間の記録 |
| 人間関係からの切り離し | 長期隔離、集団無視、仕事外し | 座席配置、業務指示、チャット除外、会議不参加、同僚証言 |
| 過大な要求 | 遂行不能な業務、私的雑用、教育なしの過大目標 | 業務量、納期、スキルとの乖離、残業時間、目標設定資料 |
| 過小な要求 | 合理性なく仕事を与えない、能力経験とかけ離れた低い仕事を命じる | 人事異動資料、業務分掌、メール、前後の担当業務比較 |
| 個の侵害 | 私生活監視、病歴・性的指向・性自認等の機微情報の暴露 | 発言記録、投稿・メール、社内共有範囲、相談履歴 |
労災認定では、認定基準上の対象疾病が発病したか、その発病前おおむね6か月の業務上の出来事が精神障害を発病させるおそれのある強い心理的負荷といえるかが問題になります。会社が単なる指導と説明していても、人格否定的言動が反復継続し、相談しても改善されず、発病に至った事情が客観資料で裏付けられる場合には、心理的負荷の評価が変わり得ます。
対象疾病、発病前おおむね6か月の業務による心理的負荷、業務外要因との関係を専門的に読みます。
第1要件は、対象疾病の発病です。対象疾病の発病の有無、疾患名、発病時期は、主治医の意見書、診療録、請求人や関係者からの聴取内容、その他の情報から得られた認定事実により医学的に判断されます。
次の一覧は、認定基準の三要件を準備資料の観点から並べたものです。各項目の見出しで要件を確認し、本文でどの資料や説明が必要になりやすいかを読み取ってください。
初診日、診断名、症状、就労不能の有無が分かる診療録・診断書、休職診断書、処方薬、通院頻度、症状の推移、発病時期を推定できる記録が重要です。
発病前おおむね6か月の間に、発病に関与したと考えられる出来事とその後の状況を把握し、本人の主観だけでなく同種の労働者の観点から客観的に評価します。
既往症、家庭問題、持病などがあっても直ちに否定されるわけではありません。発病時期に近接した業務上出来事の強さと、業務外要因の寄与を整理します。
発病前おおむね6か月の評価では、指導・叱責等に至る経緯や状況、身体的攻撃・精神的攻撃等の内容と程度、上司等との職務上の関係、反復・継続など執拗性、就業環境を害する程度、会社の対応の有無と内容、改善状況が重視されます。
次の時系列は、認定基準を読むときの視点の移り方を示しています。上から順に、発病確認、発病前の出来事確認、出来事後の状況、業務外要因、2023年改正で整理しやすくなった観点をたどることで、どの段階に証拠が必要かを読み取れます。
診療録、診断書、主治医意見、本人や関係者からの聴取内容などから医学的に判断されます。
パワハラの内容、程度、反復性、相手との関係、会社対応、長時間労働などを一体として整理します。
家庭問題や既往歴がある場合でも、業務上出来事との時期的・医学的な関係を確認します。
心理的負荷評価表の見直し、カスタマーハラスメント等の出来事追加、パワハラ六類型すべての具体例の明記、精神障害悪化の業務起因性が認められる範囲の見直し、医学意見収集方法の効率化などが示されました。
治療を要する身体的攻撃、反復継続する精神的攻撃、会社の不対応、長時間労働との組み合わせなどが重要です。
認定基準の評価表では、パワハラについて弱・中・強の具体例が示されています。実務的には、出来事の重大性だけでなく、反復・継続性、会社の対応、発病との近接性、長時間労働や支援欠如との組み合わせが問題になります。
次の一覧は、強い心理的負荷と評価されやすい事情を、証拠化の観点と合わせて整理したものです。各項目は単独でも重要ですが、複数が重なるほど全体評価に影響し得るため、どの事情が自分の時系列に含まれるかを確認してください。
上司等から暴行等を受け、医療機関で治療を要する身体的被害が生じた場合です。診断書、写真、救急搬送記録、警察相談記録、目撃者、直後のメッセージが重要です。
治療を要しない程度の暴行でも、反復・継続し、執拗に行われた場合は評価が変わり得ます。回数、期間、予期不安、会社の放置を整理します。
人格や人間性を否定する発言、業務目的を大きく逸脱した叱責、長時間の厳しい叱責、他の労働者の面前での大声の叱責などが反復・継続した場合です。
無視、孤立化、会議からの排除、達成困難な業務の強制、教育なしの過大目標、仕事を与えないことなども、内容と継続性によって重要になります。
会社に相談しても適切な対応がなく改善されなかった場合、又は会社が把握していても対応しなかった場合は、心理的負荷の評価そのものに関わります。
パワハラが単独では中程度に見える場合でも、長時間労働、急な業務増加、責任の集中、支援の欠如が併存すると、全体として評価される可能性があります。
業務命令の形をとるパワハラは、表面的には人事、教育、配置転換、目標管理に見えることがあります。発令理由、本人の能力・経験、他の労働者との扱いの差、業務量、達成可能性、教育体制、相談後の会社対応を丁寧に整理することが重要です。
怒りをぶつける資料ではなく、いつ、どこで、誰が、何を、どのように行い、発病にどうつながったかを検証できる資料が重要です。
労基署は、請求人の主張だけでなく、会社、関係者、医療機関、勤務記録等から事実を認定します。証拠化では、出来事と発病の関係を第三者が検証できるように整理することが重要です。
次の表は、出来事を記録するときの基本項目を示しています。左列の項目を埋めることで、日時、場所、相手、内容、影響・対応の順に事実を確認でき、右列の例から具体性の粒度を読み取れます。
| 項目 | 書くべき内容 | 例 |
|---|---|---|
| 日時 | できる限り年月日、時間帯 | 2025年5月12日 9:15頃、朝礼中 |
| 場所 | 会議室、執務室、オンライン会議等 | 第2会議室、Teams会議 |
| 相手 | 上司、同僚、部下、役員、派遣先担当者等 | 営業部長A、課長B |
| 内容 | 実際の発言・行為を具体的に | 「お前は給料泥棒だ」と大声で発言、資料を投げた |
| 影響・対応 | 体調、業務支障、相談、会社対応 | 動悸、早退、同日人事へメール、回答なし |
次の表は、パワハラ事案で有用になりやすい資料を種類ごとに整理したものです。内容の列で何を保存するかを確認し、注意点の列で取得方法や個人情報、原本性に関するリスクを読み取ってください。
| 証拠類型 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 医療資料 | 診断書、診療録、紹介状、処方記録、休職診断書 | 職場で何があったかを医師に正確に伝え、診療録に残るようにします。 |
| 電子データ | メール、チャット、社内SNS、オンライン会議ログ | 改ざん疑義を避けるため、原本性、日時、送信者が分かる形で保存します。 |
| 録音・録画 | 叱責、面談、会議の音声等 | 違法・不当な取得方法、秘密情報や第三者の個人情報の扱いに注意します。迷う場合は弁護士に相談する必要があります。 |
| 勤務資料 | 勤怠、残業、シフト、業務量、目標、評価、配置転換資料 | 長時間労働、過大要求、過小要求の裏付けになります。 |
| 相談記録 | 人事、相談窓口、産業医、上司、労組への相談記録 | 会社対応の有無・内容を示す重要資料になります。 |
| 目撃者資料 | 同僚の陳述、会議参加者、関係者メモ | 退職後は協力を得にくくなるため、早期に整理します。 |
| 自分の記録 | 日記、メモ、通院前後の症状記録、睡眠記録 | 事後にまとめたものは、作成日と根拠資料を明記します。 |
次の時系列は、労基署、弁護士、社労士、医師へ説明するときの並べ方の例です。上から日付順に出来事、証拠、体調・業務への影響、会社対応を追うことで、発病前おおむね6か月の出来事と症状悪化の対応関係を読み取れます。
課長Aから朝礼で人格否定発言を受けた。証拠は同僚Bのメモ、録音。体調面では動悸があり、午後に早退。会社対応はなし。
メール控えを保存。不眠が継続し、人事からは「様子を見る」と回答された。
Teams議事録と録音を保存。出勤前に嘔吐があり、会社対応はなし。
診断書、診療明細を保存。休職指示を受け、人事へ診断書を提出した。
時系列表では、感想や評価語を減らし、事実を優先します。「何分間」「誰の前で」「何回」「どの言葉」「どの業務指示」「相談後に何が起きたか」を書くと、認定基準の評価視点に対応しやすくなります。
医療機関の受診、証拠整理、給付の選択、請求書作成、提出、労基署調査、決定、不服申立ての順に進みます。
パワハラによる精神障害の労災請求では、まず治療と安全確保が優先されます。発病の有無、診断名、発病時期は医学的判断事項であり、診療録は労災認定で重要な資料になります。差し迫った自傷他害の危険、希死念慮、極端な不眠、食事が取れない状態がある場合は、労災手続よりも安全確保と医療介入を優先する必要があります。
次の判断の流れは、労災請求の全体手順を上から順番に示したものです。各段階で関係する人や資料が変わるため、いま自分がどの位置にいるか、次に何を準備するかを読み取ってください。
診断・治療を受け、職場での出来事と症状を可能な範囲で医師に説明します。
パワハラの相手、発言・行為、回数、期間、会社対応、体調変化をまとめます。
療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付などを確認します。
発病前おおむね6か月の出来事、初診日、診断名、休職開始日などを整理して記載します。
会社が拒否する場合でも、理由説明書や依頼記録を添えて労基署へ相談しながら進める余地があります。
給付の種類により、労災指定医療機関経由又は労基署長への直接提出になります。
本人、会社、関係者、医療機関等への調査に備え、時系列と証拠をもとに説明します。
不支給又は内容に不服がある場合は、期限を意識して審査請求を検討します。
次の表は、目的ごとの代表的な様式と提出先をまとめたものです。目的の列から自分の状況に近い給付を探し、様式番号と提出の流れを確認してください。
| 目的 | 業務災害の場合の代表的様式 | 提出先・流れの概要 |
|---|---|---|
| 労災指定医療機関で無料で治療を受ける | 療養補償給付たる療養の給付請求書 ― 様式第5号 | 労災指定医療機関へ提出し、医療機関経由で労基署長へ提出 |
| 労災指定医療機関以外で立替払いした治療費を請求する | 療養補償給付たる療養の費用請求書 ― 様式第7号(1)等 | 労基署長へ直接提出 |
| 休業し賃金を受けていない場合に休業補償を請求する | 休業補償給付支給請求書 ― 様式第8号 | 労基署長へ提出 |
| 症状固定後に障害が残る場合 | 障害補償給付支給請求書 ― 様式第10号等 | 労基署長へ提出 |
| 死亡事案 | 遺族補償給付関係 ― 様式第12号等 | 労基署長へ提出 |
厚生労働省は、労災指定医療機関で療養した場合は様式第5号を医療機関に提出し、費用を支払う必要がないこと、指定医療機関でない場合はいったん立て替えてから療養費用を請求すること、休業した場合は第4日目から休業補償給付が支給されることを説明しています。休業1日目から3日目は労災保険からは休業補償給付が出ないため、業務災害の場合、労働基準法上の休業補償が会社の問題として残ることがあります。
提出先は給付の種類によって異なります。労災指定医療機関で治療を受ける場合は様式第5号を医療機関に提出し、指定医療機関以外で立替払いした場合は様式第7号(1)等を労基署長へ直接提出します。休業補償給付は様式第8号を労基署長へ提出します。どの労基署に出すかは、原則として事業場を管轄する労働基準監督署が問題になります。
時効、証拠散逸、目撃者の退職、チャットログの削除などを考えると、早期に整理を始めることが重要です。
労災保険給付には請求権の時効があります。パワハラによる精神障害では、本人が手続を進める気力を失っていることが少なくありませんが、証拠の散逸や期限の徒過を防ぐため、本人が難しい場合は家族、支援者、代理人に協力を求めることも検討されます。
次の表は、主な給付ごとの時効の目安と起算点を整理したものです。給付ごとに2年と5年の違いがあり、起算点も療養費の支出日、賃金を受けない日、治癒日、死亡日などで異なる点を読み取ってください。
| 給付 | 時効の目安 | 起算点の考え方 |
|---|---|---|
| 療養補償等給付 | 2年 | 療養費を支出した日ごとに請求権が発生し、その翌日から |
| 休業補償等給付 | 2年 | 賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から |
| 葬祭料等 | 2年 | 被災労働者が亡くなった日の翌日から |
| 障害補償等給付 | 5年 | 傷病が治癒した日の翌日から |
| 遺族補償等年金・一時金 | 5年 | 被災労働者が亡くなった日の翌日から |
会社がパワハラを否認することは珍しくありません。会社側は、業務指導だった、本人の受け止めの問題、私生活上の問題が原因、診断前から不調だったなどと説明することがあります。しかし、労災認定は会社の同意制ではなく、請求に基づいて労基署長が判断します。
次の一覧は、会社が非協力又は否認する場合に整理しておきたい対応を示しています。各項目は、会社の証明拒否や退職後の資料不足に備えるためのもので、どの記録を残すべきかを読み取ってください。
依頼した日時、相手、回答を記録し、証明拒否の理由をメール等で確認します。
会社が証明しない理由を説明する書面を作り、証明なしでも提出できるか管轄労基署に相談します。
パワハラの証拠、通院記録、相談記録を添付し、時系列と一緒に説明できるようにします。
会社とのやり取りが不利益取扱い、退職強要、解雇に発展しそうな場合は、弁護士等の専門家に相談する必要があります。
退職したからといって、在職中の業務上出来事に基づく労災請求が当然にできなくなるわけではありません。発病時期、時効、証拠が重要です。
派遣、契約社員、パート、出向先・常駐先でのハラスメントなどは、事実関係が複雑になりやすいため、早めの相談が望ましい場面があります。
審査請求、再審査請求、取消訴訟では、期限と争点分析が重要です。
労災保険給付に関する支給・不支給決定に不服がある場合は、都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に審査請求をする制度があります。不支給決定を受けた場合は、理由を確認し、証拠の不足、発病時期、出来事評価、業務外要因の評価など、どこが争点になったのかを把握する必要があります。
次の時系列は、不服申立ての大まかな順番と期限を示しています。上から順に、3か月以内の審査請求、2か月以内の再審査請求、一定の場合の取消訴訟を確認し、期限が短い段階ほど早めの争点整理が必要であることを読み取ってください。
労災保険給付の決定に不服がある場合、労働者災害補償保険審査官に審査請求をする制度があります。単に納得できないと述べるだけでなく、認定基準のどの要件・評価に誤りがあるかを整理します。
審査官の決定にも不服がある場合は、労働保険審査会に再審査請求をする制度があります。審査請求から3か月を経過しても審査決定がない場合にも再審査請求ができるとされています。
労災保険給付に関する処分の取消訴訟は、原則として審査請求に対する審査官の決定を経た後でなければ提起できないとされています。ただし、審査請求から3か月を経過しても決定がない場合には、裁判所へ提起できると説明されています。
次の表は、弁護士等への相談を特に検討しやすい場面と理由をまとめたものです。左列で状況を確認し、右列で労災請求だけでなく労働契約、損害賠償、証拠収集、期限管理など別の論点が重なっていないかを読み取ってください。
| 相談を検討しやすい場面 | 理由 |
|---|---|
| 会社がパワハラを全面否認している | 証拠構成、会社主張への反論、事業主証明拒否への対応が必要になります。 |
| 解雇、退職勧奨、降格、懲戒、配置転換が絡む | 労災請求と労働契約上の権利救済を並行して検討する必要があります。 |
| 会社への損害賠償・慰謝料請求を考えている | 労災保険給付と民事損害賠償は制度が異なります。 |
| 録音、社内資料、個人情報の扱いに不安がある | 証拠収集方法の適法性・相当性を検討する必要があります。 |
| 精神障害の発病時期や業務外要因が争点になりそう | 医療記録、医学意見、事実経過を法的に整理する必要があります。 |
| 不支給決定を受けた | 3か月の審査請求期限があり、争点分析が急がれます。 |
| 自殺・死亡事案 | 遺族補償、会社責任、証拠保全、心理的負荷評価が高度に専門化します。 |
社会保険労務士は、労災保険給付請求の実務、書類作成、労基署手続に強みがあります。弁護士は、会社との交渉、損害賠償請求、解雇・退職強要、不利益取扱い、審査請求・訴訟を含む紛争処理に強みがあります。医師は、診断、治療、就労可否、発病時期の医学的判断に関与します。複雑事案では、これらの専門性を分けて活用するのが現実的です。
誤解されやすい点を、一般的な制度説明として整理します。個別の見通しは事情により変わります。
一般的には、労災認定の判断権者は会社ではなく労基署長とされています。会社の否認は調査上の一事情であり、客観資料、医療資料、第三者証言により補える場合があります。ただし、具体的な見通しは証拠関係や発病時期によって変わるため、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、診断書は重要な資料ですが、発病前おおむね6か月の業務による強い心理的負荷、業務外要因との関係も検討されます。診断名だけでなく、発病時期と業務上出来事の結びつきが重要です。具体的な評価は診療録、時系列、会社対応、証拠関係によって変わる可能性があります。
一般的には、単発の不適切発言でも内容が極めて重大であれば評価対象になり得ますが、多くの事案では反復継続性、執拗性、会社対応、発病との近接性が重要とされています。具体的な判断は、発言内容、頻度、証拠、医療記録などによって変わります。
一般的には、認定基準は単に本人の性格や既往歴だけで判断するものではありません。業務による心理的負荷が客観的に強いか、業務外要因がどの程度関係したかが検討されます。既往歴がある場合は隠すのではなく、治療歴、発病時期、症状悪化の経過を整理することが重要です。
一般的には、労災保険給付は公的保険給付であり、会社に対する慰謝料・損害賠償とは別制度です。労災認定は会社の民事責任を直ちに確定するものではありませんが、安全配慮義務違反や不法行為責任を検討する上で重要な事実資料になることがあります。具体的な請求可否や金額は、弁護士等へ相談する必要があります。
医療、事実関係、証拠、手続の四つに分けて、準備漏れを減らします。
パワハラの労災請求では、被害感情を強く訴えるだけでは十分ではありません。労基署は認定基準に沿って事実を評価するため、医療、事実関係、証拠、手続を分けて整理することが重要です。
次の一覧は、申請準備を四つの領域に分けた確認項目です。各領域の見出しで準備対象を確認し、本文の項目で不足している資料や作業を読み取ってください。
心療内科・精神科等を受診したか、診断名・初診日・休職の必要性が分かる診断書があるか、通院経過・症状推移・処方内容を整理したか、医師に職場での出来事を具体的に伝えたか、発病時期に関する資料を整理したかを確認します。
診断発病時期発病前おおむね6か月の出来事を時系列化したか、相手の役職・関係性を整理したか、発言・行為の具体的内容を記録したか、反復・継続性、回数、期間、会社への相談記録、会社対応又は不対応を示す資料があるかを確認します。
6か月会社対応メール、チャット、録音、会議資料、勤怠、残業、業務量、評価、配置転換資料、目撃者・関係者、日記・メモを整理し、社内資料の持ち出しや個人情報の扱いに注意します。
保存個人情報必要な給付の種類、様式第5号、第7号、第8号等の書式、事業主証明の依頼、会社が拒否した場合の説明資料、提出先の労基署、時効・審査請求期限を確認します。
様式期限次の判断の流れは、主張を組み立てる順序を示しています。上から順に、対象疾病、発病時期、業務上出来事、心理的負荷、業務外要因、会社主張への対応を確認すると、労基署調査、専門家相談、不服申立てのいずれにも転用しやすくなります。
いつ、どの医療機関で、何と診断され、どのような症状があり、就労にどう影響したかを整理します。
初診日だけでなく、睡眠障害、出勤困難、動悸、抑うつ、希死念慮など、発病時期を推認できる事実を示します。
パワハラの相手、言動、回数、期間、場所、目撃者、証拠を示します。
身体的攻撃、人格否定、長時間の叱責、反復継続性、会社相談後の不対応、長時間労働、支援欠如などを評価視点に沿って整理します。
家庭問題や既往歴がある場合は隠すのではなく、業務上出来事との関係、治療歴、症状悪化の経過を整理します。
業務指導だったという主張に対し、必要性、相当性、態様、回数、発言内容、他の労働者との比較、相談後の対応をもとに整理します。
精神障害の労災請求は増加し、パワハラは主要な出来事として扱われています。
厚生労働省が公表した令和6年度「過労死等の労災補償状況」によれば、業務災害に係る精神障害の請求件数は3,780件、支給決定件数は1,055件でした。また、出来事別の支給決定件数では、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が224件で最も多い類型として示されています。
次の強調部分は、令和6年度の数字から読み取れる位置づけを整理したものです。件数は請求すれば自動的に認定されるという意味ではなく、パワハラによる精神障害が労災補償実務上も重要な類型であることを示すものとして確認してください。
パワハラによる精神障害は例外的な問題ではありません。他方で、認定基準に沿った事実整理、医学資料、証拠の保存が不可欠です。
パワハラの労災認定を目指す場合、最初にすべきことは、心身の不調がある場合の早期受診、発病前おおむね6か月の出来事の時系列化、メール・チャット・録音・勤怠・相談記録・診断書などの証拠保存、様式第5号・第7号・第8号など必要書式と提出先の確認、会社が否認・証明拒否する場合や不支給決定を受けた場合の専門家相談です。
労災請求は、会社との対立を意味するだけの手続ではありません。業務によって発病した精神障害について、治療と生活を支えるための公的補償制度です。本人が疲弊し、記録を整理する力を失っていることも多いため、認定基準の構造を理解し、証拠を散逸させず、必要な専門家につながることが現実的な第一歩になります。
公的機関の認定基準、手続案内、統計資料を中心に整理しています。