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契約書で損害賠償の上限が
設定されている場合の注意点

損害賠償の上限条項は、事故後の金銭的な帰結を左右します。上限額だけでなく、対象範囲、例外、消費者契約法、第三者請求、保険との整合性を確認します。

7項目 最初の確認
12か月 利用料基準の例
6分類 実務チェック
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契約書で損害賠償の上限が 設定されている場合の注意点

損害賠償の上限条項は、事故後の金銭的な帰結を左右します。

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契約書で損害賠償の上限が 設定されている場合の注意点
損害賠償の上限条項は、事故後の金銭的な帰結を左右します。
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  • 契約書で損害賠償の上限が 設定されている場合の注意点
  • 損害賠償の上限条項は、事故後の金銭的な帰結を左右します。

POINT 1

  • 契約書で損害賠償の上限を見る ―はじめに
  • 主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。
  • 契約書を読んでいると、次のような条項を見かけることがあります。
  • このような条項は、一般に「損害賠償責任の上限条項」「責任制限条項」「損害賠償額の上限条項」などと呼ばれます。
  • 取引の一方が負う賠償額を一定の金額に限定することで、契約上のリスクを予測しやすくする目的があります。

POINT 2

  • 契約書で損害賠償の上限を見る ― 基本用語の定義
  • 主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。
  • 3.1 損害賠償とは
  • 3.2 損害賠償の上限とは
  • 3.3 免責条項・責任制限条項・賠償額の予定の違い

POINT 3

  • 契約書で損害賠償の上限を見る ― 法的な基本構造
  • 1. 損害と因果関係:契約違反、損害、因果関係、金額を確認します。
  • 2. 法律上の範囲:通常損害、予見可能な特別損害、不法行為責任を確認します。
  • 3. 契約上の制限:上限額、累計・個別、損害類型、請求期間を確認します。
  • 4. 例外事由:故意・重過失、消費者契約、第三者請求を確認します。

POINT 4

  • 損害賠償の上限条項を読むときのチェックポイント
  • 主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。
  • 5.1 上限額の基準を確認する
  • 5.2 「累計上限」か「個別上限」かを確認する
  • 5.3 どの請求原因に適用されるかを確認する

POINT 5

  • 契約書で損害賠償の上限を見る ― 請求する側から見た注意点
  • 主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。
  • 6.1 上限額が実損害に見合うか
  • 6.2 重要な義務違反を例外にする
  • 6.3 「直接損害」の内容を具体化する

POINT 6

  • 契約書で損害賠償の上限を見る ― 責任を負う側から見た注意点
  • 主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。
  • 7.1 事業として負担可能なリスクか
  • 7.2 無制限責任を負わないための文言設計
  • 7.3 故意・重過失の例外をどう設計するか

POINT 7

  • 契約書で損害賠償の上限を見る ― 契約類型別の注意点
  • 主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。
  • 8.1 システム開発契約
  • 8.2 SaaS・クラウド利用規約
  • 8.3 業務委託契約

POINT 8

  • 契約書で損害賠償の上限を見る ― 条項例と読み方
  • 主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。
  • 9.1 基本的な上限条項
  • 9.2 故意・重過失を例外とする条項
  • 9.3 別上限を設ける条項

まとめ

  • 契約書で損害賠償の上限が 設定されている場合の注意点
  • 契約書で損害賠償の上限を見る ―はじめに:主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。
  • 契約書で損害賠償の上限を見る ― 基本用語の定義:主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。
  • 契約書で損害賠償の上限を見る ― 法的な基本構造:主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

契約書で損害賠償の上限を見る ― はじめに

主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。

契約書を読んでいると、次のような条項を見かけることがあります。

条項例「当社が相手方に対して負う損害賠償責任は、契約金額を上限とする。」

このような条項は、一般に「損害賠償責任の上限条項」「責任制限条項」「損害賠償額の上限条項」などと呼ばれます。取引の一方が負う賠償額を一定の金額に限定することで、契約上のリスクを予測しやすくする目的があります。

しかし、損害賠償の上限があるからといって、常にその金額だけで済むとは限りません。逆に、上限があるからといって、請求する側が常に不利になるとも限りません。条項の文言、契約の種類、当事者の属性、損害の発生原因、故意・重過失の有無、消費者契約かどうか、第三者被害があるかどうかなどによって、結論は大きく変わります。

この記事では、契約書で損害賠償の上限が設定されている場合の注意点について、民法、消費者契約法、情報システム取引のモデル契約、実務上の交渉ポイントを踏まえて、一般の方にも理解できるように専門的に解説します。

Section 01

契約書で損害賠償の上限を見る ― この記事の結論

主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。

次の重要ポイント一覧は、契約書で損害賠償の上限が設定されている場合の確認軸を整理したものです。上限額だけを見ると重要なリスクを見落とすため、範囲・例外・保険の三方向から読むことが重要です。各項目から、条項の数字以外に確認すべき点を読み取ってください。

範囲

何の請求に適用されるか

債務不履行、不法行為、補償義務、第三者請求まで含むかを確認します。

例外

何が上限外か

故意・重過失、秘密保持、個人情報、知的財産、生命・身体損害を確認します。

実務

価格・保険と合うか

取引価格、想定損害、保険金額、業務の重要性に照らして確認します。

契約書で損害賠償の上限が設定されている場合、最初に確認すべき点は次のとおりです。

契約金額、月額料金、直近12か月の支払額、個別発注額、保険金額など、何を基準にしているかを確認します。

  1. 上限額がいくらか

同じ100万円の上限でも、1請求ごと、1事故ごと、契約期間全体の累計上限では意味がまったく異なります。

  1. 上限が「1事故ごと」か「契約全体で累計」か

実務上、故意または重過失による損害まで一律に上限で制限できるかは大きな論点です。モデル契約でも、この点は明示的に扱われています。

  1. 故意・重過失の場合も上限が適用されるのか

逸失利益、間接損害、特別損害、データ消失、営業停止損害、第三者請求対応費用などが含まれるかを確認します。

  1. 直接損害・通常損害に限定されているか

事業者と消費者との契約では、消費者契約法により、事業者の損害賠償責任を免除・制限する条項が無効となる場合があります。

  1. 消費者契約に該当しないか

条項の射程が「本契約に関して」なのか、「債務不履行、不法行為その他請求原因のいかんを問わず」なのかによって範囲が変わります。

  1. 契約違反だけでなく、不法行為・製造物責任・知的財産侵害などにも及ぶか

高額損害、人身事故、情報漏えい、重大なシステム障害、知的財産侵害、消費者向け約款、海外取引が関係する場合は、早期に専門家へ相談する価値が高い領域です。

  1. 弁護士に相談すべき場面を見極めること
Section 02

契約書で損害賠償の上限を見る ― 基本用語の定義

主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。

3.1 損害賠償とは

損害賠償とは、契約違反や違法行為によって相手方に損害を与えた場合に、その損害を金銭などで填補する制度です。

契約関係では、代表的には民法415条の「債務不履行による損害賠償」が問題になります。たとえば、納期どおりに納品しない、秘密保持義務に違反する、委託業務を適切に行わない、契約で定めた品質を満たさないといった場合です。民法416条は、債務不履行による損害賠償の範囲について、通常生ずべき損害と、特別の事情によって生じた損害のうち当事者が予見すべきであったものを扱っています。

契約関係がない場合でも、民法709条の不法行為責任が問題になることがあります。たとえば、第三者の権利を侵害した場合、故意または過失によって他人に損害を与えた場合などです。

3.2 損害賠償の上限とは

損害賠償の上限とは、契約上、賠償責任を一定額までに限定する仕組みです。たとえば次のような定め方があります。

  • 「損害賠償額は、契約金額を上限とする」
  • 「損害賠償責任は、直近12か月間に支払われた利用料金相当額を上限とする」
  • 「1事故あたりの賠償責任は1,000万円を上限とする」
  • 「本契約に基づく損害賠償責任の累計額は、委託料総額を超えないものとする」

このような条項は、損害の発生を否定するものではありません。あくまで、損害賠償責任が認められる場合に、その金額をどこまで負担するかを事前に決めるものです。

3.3 免責条項・責任制限条項・賠償額の予定の違い

似た用語が多いため、整理しておきます。

免責条項は、一定の場合に責任を負わないとする条項です。たとえば「当社はいかなる損害についても責任を負わない」という条項です。

責任制限条項は、責任を完全に免れるのではなく、責任の範囲・金額・期間・損害類型を限定する条項です。損害賠償の上限条項は、この一種です。

損害賠償額の予定は、契約違反があった場合に支払うべき損害賠償額をあらかじめ定めるものです。民法420条は、当事者が債務不履行について損害賠償額を予定できることを定めています。

上限条項と賠償額の予定は混同されやすいですが、両者は同じではありません。上限条項は「最大でもこの金額まで」という天井を設けるものです。賠償額の予定は「違反があれば原則としてこの金額を支払う」という性格を持ちます。契約書では両方が組み合わされることもあります。

3.4 通常損害・特別損害・直接損害・間接損害

損害賠償の上限条項とセットでよく出てくるのが、損害類型の限定です。

通常損害とは、通常生ずべき損害をいいます。民法416条1項に対応する考え方です。

特別損害とは、特別の事情によって生じた損害をいいます。民法416条2項は、当事者がその事情を予見すべきであった場合に限り、賠償請求できるとしています。

直接損害は、契約違反や事故から直接生じた損害を指す実務上の用語です。ただし、日本の民法上「直接損害」という語が明確に定義されているわけではありません。そのため、契約書で「直接損害に限る」と書く場合は、何を直接損害と考えるのかをできるだけ具体化することが重要です。

間接損害も同様に、法律上の明確な定義がある語ではありません。営業機会の喪失、評判低下、顧客離れ、二次的な取引停止損害などが想定されることがありますが、取引分野によって意味が異なります。

逸失利益とは、契約違反や事故がなければ得られたはずの利益をいいます。システム障害による売上減少、販売機会の喪失、製品供給停止による利益喪失などが典型です。

Section 04

損害賠償の上限条項を読むときのチェックポイント

主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。

5.1 上限額の基準を確認する

上限額は、単純に「契約金額」と書かれている場合もあれば、より細かく定義されている場合もあります。

代表的な基準は次のとおりです。

次の比較表は、この章の項目を整理したものです。要点を素早く確認するために重要です。左列から分類を見て、右列以降で具体的な意味や注意点を読み取ってください。

上限額の定め方注意点
契約金額契約全体の代金か、個別発注ごとの代金かを確認する
月額利用料1か月分だけだと、重大事故時には低すぎる可能性がある
直近6か月または12か月の支払額SaaS・クラウド契約でよく見られる。契約開始直後の事故では低額になり得る
個別契約の委託料基本契約と個別契約がある場合、どの個別契約を基準にするかが問題になる
保険金額実際に保険でカバーされる範囲と一致するか確認が必要
固定額取引規模や損害規模に見合っているかを確認する

上限額が低すぎると、請求する側にとっては十分な回復ができません。一方、上限額が高すぎると、責任を負う側にとっては事業継続リスクになります。契約金額、想定損害、保険、利益率、業務の重要性を総合的に見て設定する必要があります。

5.2 「累計上限」か「個別上限」かを確認する

同じ「100万円を上限とする」という条項でも、次のように意味が異なります。

  • 1事故あたり100万円
  • 1請求あたり100万円
  • 1契約期間あたり100万円
  • 契約全体の累計で100万円
  • 個別契約ごとに100万円
  • 損害類型ごとに100万円

たとえば、毎月サービスを提供する契約で、毎月小さな障害が発生した場合、1事故ごとの上限であれば複数回請求できる可能性があります。しかし、契約全体の累計上限であれば、最初の事故で上限を使い切ると、その後の事故では賠償余地がなくなる可能性があります。

責任を負う側は「累計上限」を望むことが多く、請求する側は「1事故ごと」または「重要義務違反は別枠」を望むことが多いです。

5.3 どの請求原因に適用されるかを確認する

責任制限条項には、次のような文言があります。

条項例「本契約に基づき発生する損害賠償責任は……」

この場合、債務不履行に限定されるのか、不法行為や不当利得、補償義務、秘密保持義務違反、知的財産権侵害まで含むのかが問題になります。

より広い文言では、次のように書かれることがあります。

条項例「債務不履行、不法行為その他請求原因のいかんを問わず、本契約に関連して当事者が負う損害賠償責任は……」

この文言は、請求原因を広く包含しようとするものです。ただし、広く書けば当然にすべてが制限されるというわけではありません。故意・重過失、強行法規、消費者保護、第三者の権利、製造物責任などは別途検討が必要です。

5.4 どの損害が除外されているかを確認する

責任制限条項では、上限額だけでなく、対象となる損害の種類も限定されることがあります。

よくある文言は次のとおりです。

条項例「損害賠償の範囲は、直接かつ現実に発生した通常損害に限る。」

情報システム取引のモデル契約でも、損害賠償の範囲を「直接かつ現実に被った通常の損害」に限定し、特別損害、逸失利益、間接損害を含めない考え方が示されています。

もっとも、実務上は「直接損害」「間接損害」の境界が争われやすいです。たとえば、システム障害でECサイトが停止した場合、復旧費用は直接損害に近いと考えられますが、停止中に失われた売上や利益は逸失利益として除外される可能性があります。ただし、契約の目的がEC運営支援そのものであり、停止による売上減少が当事者に強く予見されていた場合には、単純に一律除外できるかが争点になります。

5.5 例外事由を確認する

損害賠償の上限条項には、例外が設けられることがあります。

典型例は次のとおりです。

  • 故意または重過失による損害
  • 秘密保持義務違反
  • 個人情報・機密情報の漏えい
  • 知的財産権侵害
  • 反社会的勢力排除条項違反
  • 法令違反
  • 生命・身体に関する損害
  • 第三者からの請求に対する補償義務
  • 支払義務そのもの
  • 不正利用、詐欺、横領、背任的行為

請求する側にとっては、重要な義務違反を上限の例外にすることが重要です。責任を負う側にとっては、例外を広げすぎると上限条項の意味がなくなるため、どのリスクを別枠にするか慎重に判断する必要があります。

5.6 「支払義務」と損害賠償を区別する

契約代金、利用料金、委託料、ライセンス料などの支払義務は、損害賠償とは別の本来的な給付義務です。

たとえば、買主が1,000万円の商品代金を支払っていない場合に、売主が代金支払を請求することは、通常、損害賠償請求ではありません。この場合、「損害賠償責任は100万円を上限とする」と書かれていても、未払代金1,000万円の請求まで100万円に制限されるとは限りません。

そのため、責任制限条項では、次のような文言が置かれることがあります。

条項例「ただし、本契約に基づく料金支払義務、秘密保持義務違反、知的財産権侵害に基づく責任については、この限りでない。」

5.7 期間制限を確認する

損害賠償の上限条項とともに、請求期間が制限されることがあります。

条項例「損害賠償請求は、損害発生から6か月以内に行わなければならない。」

このような条項は、時効とは別に、契約上の請求期間を定めるものです。ただし、期間が極端に短い場合や、消費者契約である場合には、有効性が問題になる可能性があります。

なお、民法166条は、債権の消滅時効について、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年という基本的な枠組みを定めています。不法行為については別途、民法724条などの規律があります。

契約上の短期請求期間を置く場合は、法定時効との関係、発見困難な損害、情報漏えい、知的財産侵害、潜在的瑕疵などを考慮する必要があります。

5.8 保険との整合性を確認する

損害賠償の上限は、保険とセットで考える必要があります。

たとえば、サイバー保険、専門職賠償責任保険、PL保険、請負業者賠償責任保険、施設賠償責任保険などがある場合、契約上の上限額と保険金額が整合しているかを確認します。

ただし、保険に入っているからといって、すべての損害が補償されるわけではありません。故意による事故、特定のサイバー事故、契約上加重された責任、罰金・制裁金、特定の間接損害などは免責となることがあります。保険証券、約款、特約、免責事項を確認することが重要です。

5.9 契約終了後も残るかを確認する

秘密保持義務、個人情報保護義務、知的財産権に関する義務、競業避止義務、データ返還・削除義務などは、契約終了後も残ることがあります。

この場合、損害賠償の上限条項も契約終了後の義務違反に適用されるのか、契約終了時に消滅するのかを確認します。

一般的には、次のような存続条項を置きます。

条項例「第○条(秘密保持)、第○条(損害賠償)、第○条(知的財産権)、第○条(準拠法および管轄)は、本契約終了後もなお有効に存続する。」
Section 05

契約書で損害賠償の上限を見る ― 請求する側から見た注意点

主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。

6.1 上限額が実損害に見合うか

請求する側にとって最も重要なのは、上限額が実際に想定される損害に見合っているかです。

たとえば、月額3万円のクラウドサービスで、責任上限が「直近1か月分の利用料」とされている場合、上限額は3万円です。しかし、そのサービス停止によって営業が1日止まり、数百万円の損害が発生する可能性があるなら、上限額は実損害に比べて著しく低いかもしれません。

この場合、次のような交渉が考えられます。

  • 上限額を直近12か月分の利用料にする
  • 重大障害の場合は別上限にする
  • 個人情報漏えいは別枠にする
  • 故意・重過失は上限の対象外にする
  • SLA違反にはサービスクレジットとは別に損害賠償を認める
  • 代替サービス費用・復旧費用は直接損害として含める

6.2 重要な義務違反を例外にする

請求する側は、すべての損害を無制限に請求できるようにしたいと考えがちですが、交渉上それは現実的でない場合があります。そこで、重要な義務違反だけを上限の例外にする設計が有効です。

たとえば、次の義務は例外にしやすい領域です。

  • 秘密保持義務
  • 個人情報保護義務
  • 知的財産権侵害をしない義務
  • 反社会的勢力排除義務
  • 法令遵守義務
  • 支払義務
  • 生命・身体損害に関する責任

ただし、例外を広げすぎると、相手方が受け入れにくくなります。取引の本質的リスクがどこにあるかを見極めることが重要です。

6.3 「直接損害」の内容を具体化する

請求する側が避けたいのは、事故発生後に相手方から「それは間接損害なので対象外です」と言われることです。

そのため、重要な損害については、あらかじめ直接損害に含めることを明記する方法があります。

例 ―

条項例「直接損害には、合理的な調査費用、復旧費用、代替サービス利用費用、第三者対応費用、通知費用、原因究明費用を含む。」

特に情報漏えい、システム障害、業務委託、物流停止、製品不具合では、事故対応費用そのものが高額になることがあります。これらを上限内に含めるのか、上限外にするのかを明確にする必要があります。

6.4 第三者請求への対応を確認する

第三者から請求を受けた場合、契約当事者間の上限条項だけでは不十分なことがあります。

たとえば、委託先のミスで顧客情報が漏えいし、顧客から損害賠償請求を受けた場合、委託元は顧客に対応しなければなりません。このとき、委託元が委託先に対してどこまで補償を求められるかは、補償条項と責任制限条項の関係によります。

次の点を確認します。

  • 第三者請求に関する補償条項があるか
  • 補償義務も上限の対象か
  • 弁護士費用、和解金、調査費用、通知費用が含まれるか
  • 相手方の承諾なく和解した場合も補償されるか
  • 第三者請求対応の主導権を誰が持つか
Section 06

契約書で損害賠償の上限を見る ― 責任を負う側から見た注意点

主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。

7.1 事業として負担可能なリスクか

責任を負う側にとって、損害賠償の上限条項は事業継続のためのリスク管理手段です。

特に、低価格・大量取引のサービスでは、料金に比べて無制限責任を負うと、単一事故で事業全体が破綻する可能性があります。SaaS、クラウド、物流、広告配信、制作、コンサルティング、保守運用、API提供などでは、上限条項を置く実務上の必要性が高い場合があります。

ただし、上限条項を強くしすぎると、顧客から信頼されにくくなります。重要なのは、料金、リスク、保険、代替手段、顧客の業務依存度に見合った合理的な上限を設定することです。

7.2 無制限責任を負わないための文言設計

責任を負う側は、次のような点を明確にします。

  • 上限額
  • 累計上限か個別上限か
  • 対象となる請求原因
  • 除外される損害類型
  • 請求期間
  • 例外事由
  • 補償条項との関係
  • サービスクレジットとの関係
  • 契約終了後の適用

特に、「補償条項は上限の対象外」と書かれていると、知的財産権侵害や第三者請求について無制限責任を負う可能性があります。責任を負う側は、補償義務についても上限を設けるか、保険でカバーできる範囲に限定するかを検討します。

7.3 故意・重過失の例外をどう設計するか

故意・重過失を上限の例外にする条項は一般的に見られます。しかし、責任を負う側からすると、「重過失」の範囲が広く解釈されると上限条項が空洞化します。

そのため、契約書では、次のような工夫が考えられます。

  • 「故意または重大な過失」と明記する
  • 通常の過失は上限内であることを明確にする
  • セキュリティ義務違反のすべてを重過失扱いにしない
  • 重大事故でも、原因が不可抗力・第三者攻撃・顧客側設定ミスの場合は切り分ける
  • 事故対応費用と損害賠償を分けて扱う

IPAのモデル契約見直しでも、重過失について、条項本文で詳細に定義するのではなく、一般的な理解や裁判例の観点を解説に追記する方向性が示されています。

7.4 説明責任と透明性

利用規約や約款では、責任制限条項を目立たない場所に置くだけでは不十分な場合があります。

特に、一般消費者や中小事業者を相手にするサービスでは、次の点が重要です。

  • 重要条項を分かりやすく表示する
  • 申込画面で利用規約への同意を取得する
  • 免責・責任制限の内容を過度に広げない
  • 故意・重過失の場合の例外を明確にする
  • 消費者契約法に抵触しないよう確認する
  • 約款変更時の通知・同意プロセスを整備する

「責任を負わない」とだけ強く書くより、どの損害について、どの範囲で、どの金額まで責任を負うのかを明確にした方が、紛争予防の観点では有効です。

Section 07

契約書で損害賠償の上限を見る ― 契約類型別の注意点

主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。

次の一覧は、契約類型ごとに確認すべきリスクを整理したものです。契約の種類によって想定損害と例外にすべき義務が異なるため、汎用的な文言をそのまま使わないことが重要です。各項目から、自分の契約に近い類型と着眼点を読み取ってください。

1

システム・SaaS

障害、データ消失、バックアップ、サービスクレジット、セキュリティを確認します。

重要
2

業務委託

誤案内、支払ミス、個人情報誤送信、第三者対応費用を確認します。

委託
3

製品・OEM

不適合品、リコール、PL保険、ライン停止、第三者被害を確認します。

製品
4

NDA・知的財産

秘密情報、差止め、補償義務、権利侵害、代替措置を確認します。

知財

8.1 システム開発契約

システム開発契約では、損害賠償の上限条項が非常に重要です。開発費が数百万円でも、システム障害によって発生する業務停止損害は数千万円、数億円に達することがあります。

経済産業省の情報システム取引に関するモデル契約では、損害賠償の範囲、上限額、請求期間を個別事情に応じて定める考え方が示されています。また、損害の範囲を直接かつ現実に被った通常損害に限定し、特別損害・逸失利益・間接損害を除外し、損害賠償額の累計を契約金額相当額に制限する例が示されています。

システム開発では、次の点を確認します。

  • 要件定義、設計、開発、テスト、移行、保守のどの段階の責任か
  • 請負契約か準委任契約か
  • 検収後の不具合責任はどうなるか
  • 顧客側の協力義務違反があるか
  • データ移行失敗・バックアップ不足の責任分担
  • 納期遅延による損害の扱い
  • セキュリティ事故の扱い
  • 複数ベンダーが関与する場合の責任分担

IPAのモデル契約第2版では、セキュリティ、プロジェクトマネジメント、ユーザ・ベンダ間の協力、重過失、複数契約の関係などが見直しのポイントとして示されています。

8.2 SaaS・クラウド利用規約

SaaSやクラウドサービスでは、責任上限を「直近1か月分」「直近3か月分」「直近12か月分」の利用料金とする例が多く見られます。

サービス提供者側の理由は、月額料金に比べて無制限責任を負うことが難しいためです。一方、利用者側から見ると、業務基盤として使っているサービスが停止した場合、利用料金を大きく超える損害が発生することがあります。

特に確認すべき点は次のとおりです。

  • サービス停止時の補償はサービスクレジットだけか
  • 損害賠償請求も可能か
  • データ消失時の復旧責任はあるか
  • バックアップ義務はどちらにあるか
  • SLA違反は上限の対象か
  • サイバー攻撃・不正アクセス時の責任分担
  • 個人情報漏えい時の通知費用・調査費用
  • 無料プラン・試用版では責任が大幅に限定されていないか

SaaSでは、利用者自身の設定ミス、外部ID連携、API利用、第三者アプリとの連携によって事故が起こることもあります。契約書上、どこまでが提供者の責任で、どこからが利用者の責任かを整理する必要があります。

8.3 業務委託契約

業務委託契約では、委託先のミスにより、委託元の業務・顧客対応・評判に損害が出ることがあります。

例 ―

  • コールセンター業務で誤案内をした
  • 広告運用で法令違反表示を出した
  • 経理代行で支払ミスをした
  • 人材紹介で虚偽情報を見落とした
  • BPOで個人情報を誤送信した

このような契約では、責任上限を単純に委託料相当額とするだけでは不十分な場合があります。業務の重要性、処理する情報の機微性、第三者被害の可能性、再委託の有無を踏まえて設計する必要があります。

特に、個人情報や営業秘密を扱う業務委託では、秘密保持義務違反や情報漏えいを上限の例外にするか、別上限を設けるかが重要です。

8.4 売買契約・製造委託契約・OEM契約

製品取引では、納入品の欠陥、品質不良、リコール、第三者被害が問題になります。

売買契約や製造委託契約では、次の点を確認します。

  • 不適合品の交換・修理・代替品提供で足りるのか
  • 損害賠償も請求できるのか
  • リコール費用は上限の対象か
  • 消費者・第三者からの請求は誰が負担するか
  • PL保険の有無
  • 部品供給停止によるライン停止損害
  • 納期遅延による逸失利益
  • 品質保証期間

製品の欠陥が生命・身体被害につながる場合、契約当事者間の上限条項だけでは対応できません。製造物責任、第三者請求、行政対応、リコール、公表対応を含めて検討する必要があります。

8.5 秘密保持契約(NDA)

秘密保持契約では、損害賠償の上限を置くべきかどうかが難しい問題になります。

情報を開示する側は、秘密情報が漏えいした場合の損害が大きいため、上限を設けたくないことが多いです。情報を受領する側は、従業員のミスやサイバー攻撃による漏えいリスクを考え、無制限責任を避けたいと考えることがあります。

NDAで確認すべき点は次のとおりです。

  • 秘密情報の定義が広すぎないか
  • 口頭情報や視覚情報も含むか
  • すでに公知の情報は除外されているか
  • 受領者の役職員・委託先の行為も責任対象か
  • 差止請求が可能か
  • 損害賠償の上限があるか
  • 秘密保持義務違反は上限の例外か
  • 返還・廃棄・削除義務があるか

秘密情報の価値が高い場合、単純な金額上限では開示側の保護として不十分なことがあります。他方で、受領側にとっては、秘密情報の範囲が曖昧なまま無制限責任を負うのは危険です。

8.6 ライセンス契約・知的財産契約

ソフトウェア、商標、コンテンツ、特許、著作物のライセンス契約では、知的財産権侵害に関する補償が重要です。

たとえば、ライセンサーが提供したソフトウェアが第三者の著作権を侵害していた場合、ライセンシーが第三者から請求を受けることがあります。この場合、ライセンサーがどこまで防御費用・和解金・損害賠償金を補償するかを定めます。

確認すべき点は次のとおりです。

  • 知的財産権侵害補償があるか
  • 補償義務は上限の対象か
  • オープンソースソフトウェア利用の責任分担
  • 改変・組み合わせ利用による侵害は除外されるか
  • 第三者からの警告対応を誰が主導するか
  • 侵害が判明した場合の代替措置
  • ライセンス停止時の損害

知的財産契約では、補償義務を無制限にするか、通常の上限より高い別上限を設けるかが交渉上の焦点になります。

8.7 M&A・投資契約

M&Aや投資契約では、表明保証違反に基づく補償責任について、上限額、下限額、請求期間、バスケット、デ minimis、特別補償などが細かく定められます。

一般的な事業契約よりも金額が大きく、リスク配分が複雑です。上限条項は、売買価格の一定割合、エスクロー金額、保険金額、特定表明保証違反の別枠などと組み合わせて設計されます。

M&Aでは、通常の損害賠償上限条項というより、補償条項全体の設計として検討する必要があります。税務、労務、知財、環境、訴訟、反社、財務諸表、許認可など、対象会社固有のリスクを反映するため、専門家の関与が特に重要です。

Section 08

契約書で損害賠償の上限を見る ― 条項例と読み方

主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。

以下は、実務上よく見る条項例です。実際に使用する場合は、契約類型・当事者・取引規模に応じて調整が必要です。

9.1 基本的な上限条項

条項例当事者の一方が本契約に違反し、相手方に損害を与えた場合、当該当事者は、相手方に対し、直接かつ現実に発生した通常損害に限り賠償するものとする。ただし、損害賠償額の累計は、本契約に基づき相手方が当該当事者に支払った委託料総額を上限とする。

この条項のポイントは次のとおりです。

  • 対象は「本契約違反」
  • 損害範囲は「直接・現実・通常損害」
  • 上限は「委託料総額」
  • 「累計」なので複数請求を合算する

注意点は、不法行為、第三者請求、秘密保持義務違反、故意・重過失、支払義務がどう扱われるか不明確なことです。

9.2 故意・重過失を例外とする条項

条項例前項の規定は、当事者の故意または重過失により生じた損害、秘密保持義務違反、個人情報の漏えい、知的財産権侵害に基づく損害については適用しない。

この条項は、重要リスクを上限から外すものです。請求する側に有利です。責任を負う側から見ると、例外が広いため、保険や内部統制で対応できるかを確認する必要があります。

9.3 別上限を設ける条項

条項例前項にかかわらず、個人情報の漏えいに起因する損害賠償責任の累計額は、金3,000万円を上限とする。

この条項は、通常の上限とは別に、特定リスクについて高めの上限を設定するものです。無制限責任を避けつつ、重要リスクについて一定の実効的な回復を確保する中間的な設計です。

9.4 消費者契約で問題になりやすい条項

条項例当社は、いかなる場合も、利用者に生じた損害について一切責任を負いません。

消費者向けサービスでこのような全面免責条項を置くことは、消費者契約法上問題となる可能性が高いです。事業者の債務不履行や不法行為に基づく損害賠償責任の全部を免除する条項などは、同法8条の規律により無効となり得ます。

9.5 曖昧で危険な条項

条項例当社の責任は、法律で許される範囲で制限されます。

このような条項は、何がどの範囲で制限されるのか分かりにくく、紛争予防効果が低いです。上限額、対象損害、請求原因、例外事由を具体的に書くべきです。

9.6 上限とサービスクレジットの関係

SaaS契約では、SLA違反があった場合に、利用料の一部を減額する「サービスクレジット」が設定されることがあります。

注意すべきなのは、サービスクレジットが唯一の救済手段なのか、それとも損害賠償とは別に受けられるのかです。

例 ―

条項例サービスクレジットは、SLA違反に関する利用者の唯一かつ排他的な救済手段とする。

この文言があると、原則としてSLA違反について損害賠償を別途請求しにくくなる可能性があります。利用者側は、重大障害、故意・重過失、データ消失、セキュリティ事故を例外にするかどうかを検討する必要があります。

Section 09

契約書で損害賠償の上限を見る ― 交渉実務での考え方

主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。

10.1 上限条項は「勝ち負け」ではなくリスク配分

損害賠償の上限条項は、どちらか一方が得をするためだけの条項ではありません。取引価格、業務範囲、保険、管理体制、事故時の損害規模を踏まえて、誰がどのリスクを負担するかを決める条項です。

低額サービスで無制限責任を求めれば、提供者は価格を上げるか、契約を断るか、保険費用を転嫁することになります。一方、重要業務を委託する側が極端に低い上限を受け入れると、重大事故時に十分な回復を受けられません。

合理的な交渉では、次のように考えます。

  • 取引価格に見合う通常リスクは上限内
  • 相手方の支配領域にある重大リスクは別上限または例外
  • 故意・重過失は原則として上限の例外
  • 支払義務は上限の対象外
  • 第三者請求は補償条項で別途整理
  • 保険でカバー可能なリスクは保険金額と整合させる

10.2 上限額の水準を決める要素

上限額は、単に「相手が提示してきたから」ではなく、次の要素を踏まえて決めます。

  1. 契約金額
  2. 利益率
  3. 業務の重要度
  4. 代替可能性
  5. 事故発生時の想定損害
  6. 個人情報・機密情報の有無
  7. 第三者被害の可能性
  8. 保険の有無と保険金額
  9. 当事者の管理可能性
  10. 過去の事故実績
  11. 業界標準
  12. 規制法令の有無

たとえば、単なる社内向け補助ツールと、決済基盤・医療情報・金融取引・インフラ運用に関わるシステムでは、同じ上限額でよいとはいえません。

10.3 交渉で使える代替案

損害賠償の上限について意見が対立した場合、次のような中間案があります。

  • 通常損害は契約金額を上限とする
  • 情報漏えいは契約金額の3倍を上限とする
  • 故意・重過失は上限の対象外とする
  • 知的財産権侵害は保険金額を上限とする
  • 第三者請求は別上限とする
  • 逸失利益は除外するが、復旧費用・代替費用は含める
  • サービス停止はサービスクレジットを原則とし、重大障害は別途協議する
  • 初年度は低めの上限、更新後は取引実績に応じて見直す
  • 高リスク業務については追加料金で高い上限を選択可能にする

このように、上限条項は一枚岩ではありません。損害類型ごとにリスクを分解し、合理的に配分することが実務上重要です。

10.4 社内決裁で説明すべきポイント

契約担当者が損害賠償の上限条項を修正する場合、社内決裁では次の点を説明するとよいでしょう。

  • 相手方提示案の内容
  • 自社に不利な点
  • 想定される最大損害
  • 上限額が妥当かどうか
  • 重要な例外があるか
  • 保険でカバーされるか
  • 代替案
  • 交渉余地
  • 最終的に受け入れるリスク

法務部門だけで判断せず、事業部、情報システム部門、セキュリティ部門、経理、保険担当、経営層と連携することが重要です。

Section 10

契約書で損害賠償の上限を見る ― 紛争になりやすい論点

主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。

11.1 「直接損害」と「間接損害」の境界

「直接損害に限る」と書かれていても、どこまでが直接損害かは事案によって争われます。

たとえば、システム障害で発生した次の費用を考えてみます。

  • システム復旧費用
  • 外部専門家への調査費用
  • 代替システム利用費用
  • 顧客への通知費用
  • コールセンター増員費用
  • 売上減少
  • ブランド価値低下
  • 株価下落

復旧費用や調査費用は比較的直接損害として位置づけやすい一方、売上減少やブランド価値低下は逸失利益・間接損害として争われやすいです。通知費用やコールセンター増員費用は、事故対応に不可欠であれば直接損害と主張される余地がありますが、条項の書き方次第です。

11.2 逸失利益の扱い

逸失利益は高額になりやすいため、責任を負う側は除外したいと考えます。請求する側は、契約違反によって本来得られるはずだった利益が失われた場合、これを回復したいと考えます。

逸失利益を完全に除外する条項は、事業者間契約では一定の合理性がありますが、取引の目的からみて逸失利益が主要な損害である場合には、交渉上の争点になります。

例 ―

  • 広告配信契約で広告配信が停止した
  • EC基盤が停止して販売できなかった
  • 予約システム障害で予約を受け付けられなかった
  • 部品納入遅延で製造ラインが停止した

このような場合、請求する側は、逸失利益を完全に除外するのではなく、一定額まで認める、特定の重大違反では認める、または代替費用を直接損害として認めるよう交渉することがあります。

11.3 弁護士費用・調査費用・専門家費用

日本の実務では、訴訟に要した弁護士費用の全額が当然に損害として認められるわけではありません。不法行為の場合には一定範囲で認められることがありますが、契約違反の場合の扱いは事案によって異なります。

契約上、弁護士費用や専門家費用を請求したい場合は、明記しておくのが安全です。

例 ―

条項例損害には、合理的な弁護士費用、調査費用、専門家費用、通知費用および第三者対応費用を含む。

ただし、責任を負う側から見ると、これらの費用が無制限に膨らむリスクがあります。そのため、「合理的な範囲」「事前承諾」「上限内」「上限外だが別上限」などの調整が必要です。

11.4 顧客側の過失・協力義務違反

民法418条は、債務不履行に関して債権者に過失があった場合、裁判所が損害賠償の責任および額を定めるにあたってこれを考慮すると定めています。

システム開発や業務委託では、顧客側の協力義務違反が大きな問題になります。

例 ―

  • 必要な情報を提供しなかった
  • 承認が遅れた
  • 仕様変更を繰り返した
  • テストに協力しなかった
  • バックアップを取っていなかった
  • セキュリティ設定を誤った

このような場合、たとえ損害が発生しても、相手方だけに全額責任を負わせるのは妥当でないことがあります。上限条項だけでなく、協力義務、責任分担、変更管理、検収、バックアップ、セキュリティ運用を契約で定めることが重要です。

11.5 上限条項と解除・返金の関係

契約違反があった場合、損害賠償だけでなく、解除、返金、原状回復、代替履行が問題になることがあります。

たとえば、サービスが提供されなかった場合、利用者は既払い料金の返金を求めることがあります。これが損害賠償なのか、不当利得返還なのか、契約上の返金義務なのかによって、上限条項の適用が変わる可能性があります。

責任を負う側は、返金義務も上限に含めるのかを明確にしたいでしょう。請求する側は、未提供サービス分の返金まで損害賠償上限で制限されないようにしたいでしょう。

11.6 「協議する」条項の限界

契約書には、次のような条項が置かれることがあります。

条項例損害が発生した場合、当事者は誠実に協議する。

誠実協議条項は、交渉のきっかけとしては有用ですが、それだけで具体的な金銭回復が保証されるわけではありません。損害賠償の上限、範囲、請求手続、支払時期、第三者対応を明確にしておかなければ、結局紛争になります。

Section 11

契約書で損害賠償の上限を見る ― 消費者向けサービスで特に注意すべきこと

主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。

12.1 全面免責は避ける

消費者向けの利用規約で「当社は一切責任を負わない」と書くことは、非常に危険です。消費者契約法8条は、事業者の債務不履行や不法行為による損害賠償責任を全部免除する条項などを無効とする規律を置いています。

したがって、消費者向けサービスでは、次のような設計が必要です。

  • 事業者の故意・重過失による損害は除外しない
  • 軽過失の場合に限ることを明確にする
  • 全部免責ではなく、合理的な範囲の責任制限にする
  • 消費者にとって分かりやすい表現にする
  • 重要条項として目立つ場所に表示する

12.2 「軽過失の場合に限る」ことを明確にする

消費者契約法8条3項は、事業者の損害賠償責任の一部を免除する条項で、軽過失の場合に限ることを明らかにしていないものを無効とする規律を置いています。

そのため、消費者向け規約では、たとえば次のように明確にする必要があります。

条項例当社の軽過失により利用者に損害が生じた場合、当社は、通常生ずべき直接の損害に限り、かつ利用者が当社に支払った利用料金相当額を上限として賠償します。ただし、当社の故意または重過失により生じた損害については、この限りではありません。

このような文言であっても、サービス内容、利用者層、損害の性質によっては、さらに検討が必要です。

12.3 違約金・キャンセル料にも注意する

消費者が事業者に支払うキャンセル料、違約金、遅延損害金などは、消費者契約法9条の問題になることがあります。同条は、解除に伴う損害賠償額の予定や違約金について、平均的な損害額を超える部分を無効とする規律を置いています。

つまり、事業者が消費者に対して高額な違約金を設定する場合、「契約で決めたから当然に有効」とは限りません。実際の平均的損害、キャンセル時期、提供済みサービス、代替販売可能性などを踏まえて設計する必要があります。

Section 12

契約書で損害賠償の上限を見る ― 弁護士に相談すべき場面

主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。

損害賠償の上限条項は、契約書の中でも紛争時の金額に直結する重要条項です。次のような場合は、早めに弁護士へ相談することを推奨します。

  1. 相手方から無制限責任を求められている
  2. 自社が提示した責任制限条項に強い修正要求が来ている
  3. 契約金額に比べて想定損害が非常に大きい
  4. 個人情報、医療情報、金融情報、営業秘密を扱う
  5. 生命・身体損害の可能性がある
  6. 製品事故・リコールの可能性がある
  7. 知的財産権侵害の補償条項がある
  8. 第三者からの請求が想定される
  9. 消費者向け利用規約を作成している
  10. 海外企業との契約で準拠法・管轄が外国法である
  11. すでに事故が発生している
  12. 取引先との関係上、強い交渉が難しい

弁護士に相談する際は、契約書だけでなく、見積書、提案書、仕様書、利用規約、発注書、メール、事故報告書、保険証券、業務フロー、取引金額、想定損害額を準備すると、より具体的な助言を受けやすくなります。

Section 13

契約書で損害賠償の上限を見る ― 実務チェックリスト

主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。

契約書で損害賠償の上限が設定されている場合、以下のチェックリストを使って確認してください。

14.1 基本確認

  • □ 損害賠償の上限額はいくらか
  • □ 上限額の算定基準は明確か
  • □ 契約金額、個別契約金額、月額料金、直近支払額のどれか
  • □ 上限は1事故ごとか、1請求ごとか、契約全体の累計か
  • □ 消費税、実費、立替金、追加費用を含むか
  • □ 遅延損害金や違約金も上限に含まれるか

14.2 対象範囲

  • □ 債務不履行だけか、不法行為も含むか
  • □ 「請求原因のいかんを問わず」と書かれているか
  • □ 補償義務も上限の対象か
  • □ 第三者請求も上限の対象か
  • □ 支払義務は上限の対象外になっているか
  • □ 解除・返金・原状回復との関係は明確か

14.3 損害類型

  • □ 直接損害に限定されているか
  • □ 通常損害に限定されているか
  • □ 特別損害は除外されているか
  • □ 逸失利益は除外されているか
  • □ 間接損害は除外されているか
  • □ 調査費用・復旧費用・通知費用は含まれるか
  • □ 弁護士費用・専門家費用は含まれるか

14.4 例外事由

  • □ 故意・重過失は上限の例外か
  • □ 秘密保持義務違反は例外か
  • □ 個人情報漏えいは例外か
  • □ 知的財産権侵害は例外か
  • □ 生命・身体損害は例外か
  • □ 法令違反・反社条項違反は例外か
  • □ 例外が広すぎて上限条項が無意味になっていないか

14.5 消費者契約・約款

  • □ 消費者契約に該当するか
  • □ 全面免責になっていないか
  • □ 軽過失の場合に限ることが明記されているか
  • □ 故意・重過失の場合の責任を不当に制限していないか
  • □ 消費者の利益を一方的に害する条項になっていないか
  • □ 重要条項として分かりやすく表示されているか
  • □ 定型約款として同意取得・表示方法に問題がないか

14.6 社内管理

  • □ 上限額は保険金額と整合しているか
  • □ 事故時の最大損害を試算したか
  • □ 事業部門・情報システム部門・セキュリティ部門と確認したか
  • □ 高リスク契約として社内承認が必要か
  • □ 過去の契約雛形と整合しているか
  • □ 例外的な修正を契約管理台帳に記録したか
Section 14

契約書で損害賠償の上限が設定されている場合のFAQ

一般的な制度説明として、個別判断を避けて整理します。

Q1. 契約書に損害賠償の上限があれば、常にその金額までしか請求できませんか。

一般的には、常にそうとは限らないとされています。条項の文言、故意・重過失の有無、消費者契約かどうか、強行法規、第三者被害、請求原因の範囲によって変わります。具体的な見通しは契約書全文と事実関係を確認する必要があります。

Q2. 契約金額を上限とすると書かれている場合、どの契約金額を指しますか。

一般的には、契約書の構造によって解釈が変わります。基本契約の総額、個別契約の金額、発注書ごとの金額、月額料金、直近一定期間の支払額などが考えられます。曖昧な場合は紛争原因になるため、具体的な定義を置く必要があります。

Q3. 故意・重過失の場合も上限で制限できますか。

一般的には、故意・重過失による損害まで一律に上限で制限できるかは慎重な検討が必要とされています。契約類型、当事者の属性、損害の性質、消費者契約かどうかによって結論が変わる可能性があります。具体的には専門家へ相談する必要があります。

Q4. 直接損害とは何ですか。

一般的には、契約違反や事故から直接生じた損害を指す実務上の用語として使われます。ただし、日本の民法上の明確な定義語ではありません。復旧費用、調査費用、代替費用、通知費用などを含めるかは契約書で具体化する必要があります。

Q5. 消費者向け利用規約でも損害賠償の上限を置けますか。

一般的には、置ける場合はありますが、消費者契約法の制約を受けます。事業者の責任を全部免除する条項や、故意・重過失による責任を制限する条項などは無効となる可能性があります。軽過失の場合に限ることを明らかにするなど、個別の設計確認が必要です。

Q6. 損害賠償の上限が低すぎる場合、どう交渉すればよいですか。

一般的には、具体的な損害シナリオを示して交渉する方法があります。システム停止時の売上影響、復旧費用、通知費用、顧客対応費用、代替サービス費用を試算し、別上限、故意・重過失の例外、復旧費用の明記などを提案することが考えられます。

Q7. 相手方が雛形なので修正できないと言う場合はどう考えますか。

一般的には、修正できない場合でも、受け入れ可能なリスクかを評価する必要があります。追加料金で上限を上げる、保険証明書を提出してもらう、重要データを預けない、バックアップを自社で取る、代替手段を確保する、発注範囲を限定するなどのリスク低減策が考えられます。

Q8. 最も重要な確認ポイントは何ですか。

一般的には、上限額だけでなく、対象となる請求原因、損害類型、例外事由、消費者契約法、故意・重過失、第三者請求との関係を確認することが重要とされています。数字だけを見て判断すると、重要なリスクを見落とす可能性があります。

Section 15

契約書で損害賠償の上限を見る ― まとめ

主要な論点を、本文と視覚的な整理で確認します。

次の強調表示は、このページ全体の結論をまとめたものです。契約前、修正交渉中、事故発生後のどの場面でも立ち返る視点として重要です。条項の数字だけでなく、取引のリスク配分を読み取ってください。

損害賠償の上限条項はリスク配分そのものです

契約書全文、取引目的、契約金額、想定損害、扱う情報や製品の性質、交渉状況、自社の立場、事故の有無を整理して確認します。

契約書で損害賠償の上限が設定されている場合、その条項は、事故が起きた後の金銭的な帰結を大きく左右します。

しかし、確認すべきなのは「上限額がいくらか」だけではありません。上限が累計か個別か、どの請求原因に適用されるか、直接損害・通常損害に限定されているか、逸失利益や間接損害が除外されているか、故意・重過失や秘密保持義務違反が例外か、消費者契約法上問題がないか、第三者請求や保険と整合しているかを総合的に見る必要があります。

特に、一般の方や企業担当者が弁護士に相談する場合は、単に「この条項は有効ですか」と聞くのではなく、次の情報を整理して相談すると効果的です。

  • 契約書全文
  • 取引の目的
  • 契約金額
  • 想定される損害
  • 扱う情報や製品の性質
  • 相手方との交渉状況
  • 自社が請求する側か、責任を負う側か
  • 事故がすでに起きているか

損害賠償の上限条項は、形式的な雛形文言ではなく、取引のリスク配分そのものです。契約前に丁寧に確認することが、紛争予防と事業継続の両方につながります。

Reference

参考情報源

法令・公的資料

  • 民法415条・416条(債務不履行による損害賠償、損害賠償範囲)。Japanese Law Translation「民法」
  • 民法709条(不法行為による損害賠償)。Japanese Law Translation「民法」
  • 民法420条(賠償額の予定)。Japanese Law Translation「民法」
  • 民法90条・91条(公序良俗、任意規定と異なる意思表示)。Japanese Law Translation「民法」
  • 経済産業省「情報システム・モデル取引・契約書」第53条および解説(損害賠償の範囲、上限、故意・重過失に関する説明)
  • 消費者契約法8条・8条の2(事業者の損害賠償責任を免除する条項等)。Japanese Law Translation「消費者契約法」
  • 消費者契約法9条・10条(平均的損害額を超える違約金等、消費者の利益を一方的に害する条項)。Japanese Law Translation「消費者契約法」
  • 民法548条の2(定型約款の合意、相手方の利益を一方的に害する条項)。Japanese Law Translation「民法」
  • 製造物責任法3条(製造業者等の損害賠償責任)。Japanese Law Translation「製造物責任法」
  • 民法166条、724条、724条の2(債権・不法行為等の期間制限)。Japanese Law Translation「民法」
  • IPA「モデル契約見直しのポイント」重過失に関する見直し
  • IPA「情報システム・モデル取引・契約書第2版」
  • 民法418条(過失相殺)。Japanese Law Translation「民法」