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家族信託では
身上監護ができない
問題と併用の必要性

家族信託は財産管理と承継の有力な制度ですが、介護契約、施設入所、医療契約、行政手続などを当然に代理できる制度ではありません。財産を動かす権限と本人の生活を支える権限を分けて整理します。

3者三者構造
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家族信託では 身上監護ができない 問題と併用の必要性

家族信託は財産管理と承継の有力な制度ですが、介護契約、施設入所、医療契約、行政手続などを当然に代理できる制度ではありません。

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家族信託では 身上監護ができない 問題と併用の必要性
家族信託は財産管理と承継の有力な制度ですが、介護契約、施設入所、医療契約、行政手続などを当然に代理できる制度ではありません。
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  • 家族信託では 身上監護ができない 問題と併用の必要性
  • 家族信託は財産管理と承継の有力な制度ですが、介護契約、施設入所、医療契約、行政手続などを当然に代理できる制度ではありません。

POINT 1

  • 家族信託では身上監護ができない問題の要点
  • 財産管理の制度と、本人の生活・療養看護を支える制度は役割が違います。
  • 信託財産を動かす権限
  • 本人の生活を支える権限
  • 死亡後・相続後の整理

POINT 2

  • 家族信託と身上監護の定義を分けて理解する
  • 1. 家族信託、民事信託とは何か
  • 2. 身上監護とは何か
  • 民事信託の三者構造と、身上監護の二つの層を整理します。

POINT 3

  • 家族信託でできることは信託財産の管理・処分・承継
  • 不動産、生活費原資、承継順序、分別管理が主な強みです。
  • 1. 不動産の管理・処分
  • 2. 生活費・医療費・介護費の支払い原資を確保する
  • 3. 財産承継の順序を設計する

POINT 4

  • 家族信託では身上監護ができない理由と実務上の限界
  • 受託者は本人の包括代理人ではなく、信託財産以外にも効力は及びません。
  • 1. 受託者は本人の代理人ではない
  • 2. 信託財産以外には及ばない
  • 3. 介護・医療・福祉の契約は本人の生活に関する法律行為である

POINT 5

  • 家族信託と成年後見・任意後見の役割比較
  • 本人の判断能力低下前後で、利用できる制度と監督の仕組みが変わります。
  • 1. 法定後見制度
  • 2. 任意後見制度
  • 3. 財産管理委任契約との違い

POINT 6

  • 家族信託だけで身上監護に行き詰まる典型場面
  • 1. 信託財産から施設費を支払える:信託目的と支出基準に沿っているかを確認します。
  • 2. 本人の施設入所契約を誰が結ぶか:支払い権限とは別に、本人代理の根拠が必要になります。
  • 3. 任意後見などで対応:代理権目録に施設入所や介護契約が含まれるか確認します。
  • 4. 申立てや再設計を検討:法定後見、親族調整、専門職相談が必要になる可能性があります。

POINT 7

  • 家族信託と身上監護をつなぐ併用設計
  • 1. 家族信託・任意後見・財産管理委任を準備:不動産や金銭は信託へ、生活支援手続は財産管理委任へ、将来の代理は任意後見へ分けて設計します。
  • 2. 見守り契約で発効時期を確認:医療・介護関係者との連携により、任意後見監督人選任を申し立てる時期を逃さないようにします。
  • 3. 任意後見または法定後見で身上監護を支える:介護契約、施設契約、医療契約、行政手続、信託外財産の管理を代理権の範囲で支えます。
  • 4. 遺言・死後事務・信託終了条項を接続:葬儀、納骨、施設費の精算、家財整理、残余財産の帰属、相続登記、税務を整理します。

POINT 8

  • 家族信託と身上監護の併用モデル
  • 家族構成や資産内容によって、中心になる制度は変わります。
  • モデル1 親の認知症対策と実家売却に備える標準型
  • モデル2 障害のある子を持つ親の親亡き後対策
  • モデル3 相続争いが予想される家庭

まとめ

  • 家族信託では 身上監護ができない 問題と併用の必要性
  • 家族信託では身上監護ができない問題の要点:財産管理の制度と、本人の生活・療養看護を支える制度は役割が違います。
  • 家族信託でできることは信託財産の管理・処分・承継:不動産、生活費原資、承継順序、分別管理が主な強みです。
  • 家族信託では身上監護ができない理由と実務上の限界:受託者は本人の包括代理人ではなく、信託財産以外にも効力は及びません。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

家族信託では身上監護ができない問題の要点

財産管理の制度と、本人の生活・療養看護を支える制度は役割が違います。

家族信託は、本人の財産を信頼できる家族等に託し、信託目的に従って管理・処分・承継させる制度である。特に、認知症等による判断能力低下後も、不動産の管理、賃貸、売却、生活費の支払い、将来の資産承継を止めないための有力な方法として利用される。

しかし、家族信託の効力は、原則として「信託財産」と「信託目的」に結び付く。受託者は、信託財産の管理・処分等を行う立場であって、本人の包括的な法定代理人になるわけではない。したがって、介護サービス契約、施設入所契約、医療契約、行政手続、本人の居所選択、本人固有財産の管理、遺産分割協議への参加、身元保証、医療行為への同意などの問題は、家族信託だけでは処理できない、または処理できる範囲が限定される。

結論として、家族信託は「財産管理・資産承継の道具」として優れているが、「本人の生活、療養看護、福祉、医療、住まいに関する代理・支援」を完結させる制度ではない。本人の判断能力低下に備える設計では、家族信託に加えて、任意後見契約、見守り契約、財産管理委任契約、死後事務委任契約、遺言、日常生活自立支援事業、成年後見制度、医療・介護の意思決定支援文書を組み合わせる必要がある。

このページの中心命題は次のとおりである。

重要家族信託では身上監護ができない問題と併用の必要性は、単なる制度比較ではなく、「財産を動かす権限」と「本人の生活を支える代理・支援権限」が別物であることから生じる実務上の構造問題である。

次の一覧は、家族信託と併用制度が分担する主な領域を整理したものです。制度を選ぶときは、どの制度が何を担当するのかを分けて見ることが重要で、信託だけで生活支援まで済むわけではない点を読み取ってください。

Asset

信託財産を動かす権限

不動産、金銭、株式、債権など、信託契約で特定した財産の管理・処分・承継を担います。

Care

本人の生活を支える権限

介護契約、施設入所、医療契約、福祉サービス、行政手続などは別に設計します。

Will

死亡後・相続後の整理

信託終了条項、遺言、死後事務委任、相続登記、税務申告をつなぎます。

Section 01

家族信託と身上監護の定義を分けて理解する

民事信託の三者構造と、身上監護の二つの層を整理します。

1. 家族信託、民事信託とは何か

家族信託は、法律上の正式名称ではなく、一般に、親族等の信頼できる人を受託者として利用する民事信託を指して使われる実務上の呼称である。信託法上の信託は、委託者が信託行為によって、一定の目的に従い、財産の管理・処分等を受託者に行わせる制度である。信託協会も、信託を「自分の大切な財産を、信頼できる人に託し、自分が決めた目的に沿って大切な人や自分のために運用・管理してもらう制度」と説明している。

家族信託で登場する基本人物は、通常、次の三者である。

次の表は、この章で扱う項目を比較・整理したものです。制度や手続の違いを把握するうえで重要で、各列を見比べながら、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

立場役割典型例
委託者財産を信託する人高齢の親
受託者信託財産を管理・処分する人子、親族、法人
受益者信託財産から利益を受ける人委託者本人、配偶者、障害のある子

たとえば、父が自宅と賃貸不動産を子に信託し、父自身を受益者とする設計では、子は受託者として不動産の管理、賃料の受領、修繕、必要に応じた売却、父の生活費や介護費用への支払いを行うことができる。父の判断能力が低下しても、信託契約が適切に設計されていれば、受託者の権限は継続し、財産管理の停滞を避けやすくなる。

2. 身上監護とは何か

身上監護とは、本人の生活、療養看護、医療、介護、福祉、住まいなど、本人の身の回りの事柄に関する法律行為や手続を支える領域をいう。法務省の成年後見制度Q&Aでは、成年後見人等は、本人の生活・医療・介護・福祉など身のまわりの事柄にも目を配りながら本人を保護・支援し、必要な福祉サービスや医療が受けられるよう、介護契約の締結や医療費の支払いなどを行うと説明されている。もっとも、食事の世話や実際の介護などは、一般に成年後見人等の職務ではないとも明記されている。

ここで重要なのは、身上監護には二つの層があることである。

次の表は、この章で扱う項目を比較・整理したものです。制度や手続の違いを把握するうえで重要で、各列を見比べながら、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

内容
法律行為・手続の層契約、申請、支払い、解約、連絡調整介護サービス契約、施設入所契約、入院契約、医療費支払い、要介護認定申請
事実行為の層実際の身体介護、家事、送迎、見守り食事介助、排泄介助、掃除、通院付き添い、買い物代行

成年後見人や任意後見人は、主として前者の「法律行為・手続の層」に関与する。後者の事実行為は、家族、介護事業者、医療・福祉職、見守りサービス等が担う領域である。したがって、任意後見を併用しても、任意後見人が当然に直接介護をするわけではない。

3. 身上監護と身上保護

近年の政策資料や成年後見制度利用促進の議論では、「身上監護」だけでなく「身上保護」という表現も使われる。身上監護は、従来、後見人等の職務範囲を説明する実務用語として用いられてきた。一方、身上保護は、本人の意思決定支援、自己決定権、尊厳、地域生活の継続を重視する広い概念として使われることが多い。

厚生労働省の第二期成年後見制度利用促進基本計画では、成年後見制度を、財産管理のみを重視するのではなく、本人の自己決定権を尊重し、意思決定支援・身上保護も重視した運用にすることが掲げられている。

このページでは、読者に分かりやすくするため、キーワードである「身上監護」を中心に用いる。ただし、現代的な実務では、身上監護を、単なる契約代行ではなく、本人の意思を尊重した身上保護・意思決定支援の一部として捉える必要がある。

Section 02

家族信託でできることは信託財産の管理・処分・承継

不動産、生活費原資、承継順序、分別管理が主な強みです。

家族信託は、本人の判断能力低下に備えた財産管理制度として非常に有効である。特に、不動産やまとまった金融資産がある家庭では、成年後見制度や遺言だけでは対応しにくい課題を補える。

1. 不動産の管理・処分

認知症等によって本人が売買契約や賃貸借契約を締結できなくなると、不動産の売却、賃貸、修繕、建替え、担保設定などが止まるおそれがある。家族信託では、信託契約に定めた範囲で、受託者が信託不動産を管理・処分できる。信託協会は、金銭的価値のある財産であれば、金銭、株式・債券、土地・建物、金銭債権などが信託対象となり得ると説明している。

たとえば、親が施設入所する場合に、自宅を売却して入所費用や生活費に充てる設計をしておけば、親の判断能力低下後も、信託契約上の権限に基づいて売却を進められる可能性がある。

2. 生活費・医療費・介護費の支払い原資を確保する

信託財産に預金や不動産収益が含まれていれば、受託者は、信託目的に従って本人の生活費、医療費、介護費、施設費、税金、修繕費等を支払うことができる。これは家族信託の大きな利点である。成年後見制度では、家庭裁判所の監督や後見人の職務範囲の制約があり、資産運用や柔軟な承継設計に限界がある場合もある。信託は、あらかじめ定めた目的に従って、一定の柔軟性を持って財産を管理できる。

3. 財産承継の順序を設計する

遺言は、原則として遺言者の死亡時に誰へ財産を承継させるかを定める制度である。これに対し、信託では、受益者の連続や残余財産の帰属先などを設計することで、本人死亡後の一定の承継順序をあらかじめ定められる。たとえば、父の死亡後は母を受益者とし、母の死亡後は子に残余財産を帰属させるなどの設計が考えられる。

ただし、受益者連続型信託や受益権の移転は、相続税・贈与税・所得税の検討が不可欠である。国税庁は、信託に関する相続税・贈与税の取扱いについて通達や解説を公表しており、信託受益権、受益者等が存しない信託、受益者連続型信託などは、税務上の専門判断を要する。

4. 受託者の分別管理により財産を管理する

信託では、信託財産は受託者名義となるが、受託者個人の固有財産とは分別して管理される。信託協会は、信託した財産の所有権は受託者へ移転し、受託者自身の財産や他の信託財産とは分別して管理されると説明している。 信託法上も、受託者には信託事務処理義務、善管注意義務、忠実義務、分別管理義務、帳簿作成義務等が課される。

この点は、単なる家族内の預かり金や口約束と異なる。家族信託は、契約書、登記、口座、帳簿、報告体制を整えることで、財産管理の透明性を高める仕組みになり得る。

Section 03

家族信託では身上監護ができない理由と実務上の限界

受託者は本人の包括代理人ではなく、信託財産以外にも効力は及びません。

1. 受託者は本人の代理人ではない

家族信託では、受託者が信託財産の管理・処分権限を持つ。しかし、それは「信託財産に関する権限」であり、本人の生活全般について当然に代理する権限ではない。

信託法の受託者は、信託行為の定めに従い、信託財産に属する財産の管理・処分その他信託目的達成に必要な行為を行う立場である。 ここから導かれる実務上の結論は明確である。

重要受託者は、信託財産の管理者であって、本人の身上監護全般を行う法定代理人ではない。

たとえば、子が父の信託不動産を売却できるとしても、その子が父の介護施設入所契約を父の代理人として当然に締結できるわけではない。施設費を信託口座から支払えるとしても、施設との利用契約を誰が結ぶのか、医療機関の説明を誰が受けるのか、介護サービス計画の同意を誰が行うのかは、別の法的問題である。

2. 信託財産以外には及ばない

家族信託は、信託された財産に効力を及ぼす。本人のすべての財産が当然に信託財産になるわけではない。信託していない預貯金、年金受取口座、日常の現金、生命保険契約、未信託不動産、デジタル資産、事業用資産などは、別途管理権限を検討しなければならない。

実務でよくある失敗は、実家不動産だけを信託し、生活口座や年金口座、医療費の引落口座、公共料金の支払い口座を信託設計に入れないケースである。この場合、受託者は実家を管理できても、本人の預金を動かせず、施設費の初期費用や医療費を支払えない可能性がある。信託財産に十分な現金がなければ、不動産売却までの資金繰りも問題になる。

3. 介護・医療・福祉の契約は本人の生活に関する法律行為である

介護サービス契約、施設入所契約、入院契約、訪問看護契約、福祉用具貸与契約などは、本人の生活や療養看護に関する法律行為である。これらは、信託財産の管理・処分そのものではない。

もちろん、信託契約の中に「本人の生活、療養看護、介護に必要な費用を支払う」と定めることはできる。しかし、それは「費用を支払う」権限であって、「本人を代理して介護契約を締結する」権限とは別である。費用支払いと契約締結を混同すると、施設・医療機関・介護事業者との実務で行き詰まる。

4. 医療同意はさらに別問題である

医療契約や入院手続と、手術・投薬・身体侵襲を伴う医療行為への同意は区別される。成年後見人等であっても、医療行為に関する同意権は有していないとされるのが現在の実務上の基本理解である。厚生労働省の「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」でも、後見人等は医療行為に関する同意権を有していないと記載されている。

したがって、家族信託の受託者に医療同意権がないことは当然であり、任意後見人や成年後見人であっても医療同意を単独で代行できるわけではない。必要なのは、ACP(人生会議)、事前指示書、医療・ケアチームとの意思決定支援、親族・支援者間の情報共有、緊急連絡体制である。厚生労働省は、身寄りがない人の入院や医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドラインを公表しており、医療機関側にも身元保証人不在を前提とした対応が求められている。

5. 事実行為は制度だけでは解決しない

家族信託でも任意後見でも成年後見でも、直接の介護や日常の世話を当然に引き受ける制度ではない。法務省の成年後見制度Q&Aでも、食事の世話や実際の介護などは一般に成年後見人等の職務ではないとされている。 日本公証人連合会も、任意後見人の仕事は代理権を用いて行うものであり、任意後見人が自分でおむつ交換や掃除をするという事実行為ではないと説明している。

そのため、家族信託の設計では、法律上の権限だけでなく、介護保険サービス、地域包括支援センター、ケアマネジャー、訪問介護、医療機関、見守りサービス、親族の役割分担を含めた生活支援計画を作る必要がある。

Section 04

家族信託と成年後見・任意後見の役割比較

本人の判断能力低下前後で、利用できる制度と監督の仕組みが変わります。

1. 法定後見制度

法定後見制度は、本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所の審判によって成年後見人、保佐人、補助人等が選任される制度である。民法858条は、成年後見人が成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うにあたり、本人の意思を尊重し、心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならないと定めている。民法859条は、成年後見人が成年被後見人の財産を管理し、その財産に関する法律行為について代表すると定めている。

法定後見制度の強みは、本人の判断能力が低下した後でも利用できる点である。家族信託は、本人に契約締結能力がある時期に設定する必要がある。すでに判断能力が低下し、信託契約を締結できない場合は、原則として家族信託を新たに設定することは困難であり、法定後見の利用を検討することになる。

一方で、法定後見には次のような実務上の注意がある。

次の表は、この章で扱う項目を比較・整理したものです。制度や手続の違いを把握するうえで重要で、各列を見比べながら、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

項目注意点
後見人の選任家庭裁判所が選任するため、家族が希望した人が必ず選ばれるとは限らない
監督家庭裁判所や後見監督人の監督を受ける
財産管理本人保護を重視し、柔軟な資産運用や相続税対策目的の行為には慎重
報酬専門職後見人や後見監督人の報酬が継続的に発生することがある
現行制度の終了現行法上、後見開始原因が消滅しない限り、単に目的が終わったという理由で当然に終了する制度ではない

もっとも、2026年4月3日、政府は成年後見制度と遺言制度の見直しを含む民法等の一部を改正する法律案を閣議決定し、同日国会へ提出した。内閣法制局の法案情報では、後見及び保佐の制度の廃止、補助制度の適用範囲拡大、事理弁識能力を欠く常況にある者についての補助制度の特例創設、任意後見契約と補助制度との関係の見直し等が提出理由として掲げられている。 このページの確認時点では、成立状況や施行時期を必ず最新確認すべきである。

2. 任意後見制度

任意後見制度は、本人が判断能力を有するうちに、将来判断能力が不十分になった場合に備えて、自分が選んだ人に生活、療養看護、財産管理に関する事務の代理権を与える契約を締結しておく制度である。任意後見契約は、公証人が作成する公正証書によって締結し、本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所で任意後見監督人が選任されて初めて効力が生じる。

任意後見の強みは、本人が元気なうちに「誰に」「何を」任せるかを決められる点である。家族信託と任意後見は、次のように役割が分かれる。

次の表は、この章で扱う項目を比較・整理したものです。制度や手続の違いを把握するうえで重要で、各列を見比べながら、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

領域家族信託任意後見
信託不動産の管理・売却得意契約内容と代理権の範囲によるが、後見制度上の制約あり
信託口座からの生活費支払い得意財産管理代理として可能
介護サービス契約不十分代理権目録に含めれば対応可能
施設入所契約不十分代理権目録に含めれば対応可能
医療契約・入院手続不十分代理権目録に含めれば対応可能
医療行為への同意原則不可原則不可
本人固有財産の管理信託していなければ不可代理権目録の範囲で可能
家庭裁判所等の監督信託契約上の監督設計次第任意後見監督人による監督あり

3. 財産管理委任契約との違い

財産管理委任契約は、本人が判断能力を有する段階から、特定の財産管理や生活支援手続を受任者に委任する契約である。任意後見契約と組み合わせて「移行型」とすることがある。つまり、元気なうちは財産管理委任契約で支援し、判断能力が不十分になれば任意後見監督人の選任を申し立て、任意後見へ移行する設計である。

ただし、財産管理委任契約には、任意後見監督人のような公的監督がない。本人の判断能力が低下すると、本人が受任者を監督したり、契約を見直したりすることが難しくなる。そのため、移行時期を見逃さない見守り契約、親族・専門職・医療福祉関係者によるチェック体制が重要である。

4. 日常生活自立支援事業

日常生活自立支援事業は、認知症高齢者、知的障害者、精神障害者等のうち判断能力が不十分な人が地域で自立した生活を送れるよう、利用者との契約に基づき、福祉サービスの利用援助等を行う事業である。厚生労働省は、対象者について、判断能力が不十分で、日常生活に必要なサービス利用の情報入手、理解、判断、意思表示を本人のみで適切に行うことが困難な方であり、かつ本事業の契約内容について判断し得る能力を有する方と説明している。援助内容には、福祉サービスの利用援助、苦情解決制度の利用援助、住宅改造や日常生活上の消費契約、住民票届出等の行政手続援助、日常的金銭管理、定期的訪問による生活変化の察知が含まれる。

家族信託や任意後見よりも軽い支援が適している段階では、社会福祉協議会の窓口に相談する価値がある。ただし、契約内容を理解できる能力が必要であり、重度の判断能力低下後の包括的な代理制度ではない。

Section 05

家族信託だけで身上監護に行き詰まる典型場面

費用支払いと契約主体の違いが、施設・医療・相続の場面で表面化します。

次の判断の流れは、施設入所などで費用は払えるのに契約が進まない場面を整理したものです。重要なのは、支払い原資と契約代理の権限が別である点で、どこで任意後見や法定後見の検討に移るのかを読み取ってください。

費用支払いと契約主体の判断の流れ

信託財産から施設費を支払える

信託目的と支出基準に沿っているかを確認します。

本人の施設入所契約を誰が結ぶか

支払い権限とは別に、本人代理の根拠が必要になります。

代理権あり
任意後見などで対応

代理権目録に施設入所や介護契約が含まれるか確認します。

代理権なし
申立てや再設計を検討

法定後見、親族調整、専門職相談が必要になる可能性があります。

1. 施設入所契約を誰も結べない

父が認知症になり、子が受託者として父の自宅を信託管理している。父の介護度が上がり、有料老人ホームへの入居が必要になった。信託口座には入居一時金を支払える資金がある。しかし、施設からは入居契約書への署名、身元引受、緊急連絡、医療対応方針の確認を求められる。

この場合、受託者は信託財産から入居費用を支払うことはできても、父の代理人として入居契約を締結できるとは限らない。任意後見契約が発効していれば、代理権目録に施設入所契約や介護サービス契約が含まれる限り、任意後見人が対応できる可能性が高い。任意後見がなければ、法定後見申立てを検討することになる。

2. 信託していない預金口座が凍結的に使えない

家族信託で不動産だけを信託したが、本人の年金口座や医療費引落口座は本人名義のままだった。本人が判断能力を失い、銀行窓口での手続ができなくなると、家族が日常費用を立て替える状態になる。信託不動産の売却には時間がかかり、当面の生活費・施設費・医療費に困る。

この失敗を防ぐには、信託財産に十分な金銭を組み込むこと、本人固有の預貯金について任意後見・財産管理委任の権限を設計すること、年金受取・公共料金・介護保険自己負担分の支払い動線を確認することが必要である。

3. 介護サービスの変更に対応できない

訪問介護から施設介護へ、デイサービスからショートステイへ、在宅医療から入院へと、本人の生活状況は変化する。家族信託だけでは、費用支払いはできても、サービス契約の締結・変更・解約、ケアプランへの同意、福祉用具契約、住宅改修契約の本人代理が問題になる。

任意後見契約では、代理権目録に、介護保険申請、要介護認定、居宅介護支援契約、介護サービス契約、施設入退所、医療契約、福祉サービス契約、費用支払い等を具体的に記載する必要がある。

4. 受託者が本人の相続人として利益相反になる

親の家族信託で子Aが受託者となっている。親の相続開始後、信託外財産について子Aと子Bが遺産分割協議を行う必要がある。子Aが生前から信託財産の管理をしていたため、子Bが「使い込みではないか」「信託口座からの支払いが不透明だ」と疑う。

家族信託は財産管理の透明化に役立つが、受託者が相続人でもある場合、利益相反や不信感が生じやすい。帳簿、領収書、定期報告、信託監督人・受益者代理人の設置、専門職によるチェックが重要である。相続人間でもめる可能性がある場合は、弁護士の関与を早期に検討すべきである。

5. 医療同意を求められて家族が混乱する

受託者である子が病院から手術同意書への署名を求められた。子は「家族信託の受託者だから署名できる」と考えたが、医療行為への同意は信託財産の管理ではない。成年後見人等でも医療行為への同意権を有しないとされるため、受託者が当然に同意できるわけではない。

この場面では、本人の意思、過去の発言、ACP、医療・ケアチームとの話合い、親族間の合意形成、緊急時対応方針が重要になる。家族信託の契約書だけでは解決しない領域である。

Section 06

家族信託と身上監護をつなぐ併用設計

任意後見、見守り、財産管理委任、遺言、死後事務、ACPを役割分担させます。

1. 家族信託と任意後見の役割分担

家族信託と任意後見は、対立する制度ではなく、補完関係にある。家族信託は財産管理・資産承継を中心に設計し、任意後見は本人の生活・療養看護・福祉・医療契約・本人固有財産の代理を中心に設計する。

推奨される基本構造は次のとおりである。

次の表は、この章で扱う項目を比較・整理したものです。制度や手続の違いを把握するうえで重要で、各列を見比べながら、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

目的主制度補完制度
不動産の凍結対策家族信託任意後見、遺言
預貯金・年金・日常費用管理任意後見、財産管理委任家族信託
介護契約・施設契約任意後見見守り契約、家族会議
医療契約・入院手続任意後見ACP、緊急連絡体制
医療同意本人意思、医療・ケアチームの意思決定支援ACP、事前指示、親族調整
死後の葬儀・納骨・行政手続死後事務委任遺言、信託終了条項
相続・承継遺言、信託遺言執行者、税理士、司法書士

2. 家族信託と見守り契約

任意後見契約は、契約を結んだだけでは効力が発生しない。本人の判断能力が不十分になり、家庭裁判所が任意後見監督人を選任して初めて発効する。したがって、誰かが本人の状態を継続的に見守り、適切な時期に任意後見監督人選任の申立てを行わなければ、任意後見契約は「眠ったまま」になる。

見守り契約では、定期面談、電話確認、医療・介護関係者との連携、判断能力低下の兆候確認、任意後見発効の検討基準を定める。家族信託と任意後見を併用する場合、見守り契約は制度を接続するスイッチとして重要である。

3. 家族信託と財産管理委任契約

本人がまだ判断能力を有しているが、身体機能の低下や遠方居住により、銀行手続、支払い、役所手続が難しい場合がある。この段階では、財産管理委任契約により、本人の意思に基づいて支援者が手続を行うことが考えられる。

家族信託は大きな財産の管理に、財産管理委任は日常の手続に、任意後見は判断能力低下後の代理に使うという三層構造が実務的である。

4. 家族信託と遺言

信託した財産については信託契約の終了条項や残余財産帰属条項が重要になる。一方で、信託していない財産、生命保険、動産、デジタル資産、未整理の債権債務などは、遺言でカバーすべき場合が多い。

遺言がないと、信託外財産について遺産分割協議が必要になり、相続人の一人に判断能力の問題がある場合は、成年後見や特別代理人の問題が発生することがある。家族信託を作ったから遺言は不要、という考え方は危険である。

5. 家族信託と死後事務委任契約

家族信託は、本人の死亡によって終了する設計もあれば、一定期間継続する設計もある。しかし、葬儀、納骨、永代供養、病院・施設費の精算、行政手続、家財整理、デジタルアカウント整理などは、信託だけでは十分に処理できない場合がある。

死後事務委任契約を併用することで、相続人以外の人や専門職に死後の事務を委任できる。特に、おひとりさま、子のいない夫婦、相続人が遠方・不仲・非協力の場合は重要である。

6. 家族信託と成年後見制度

すでに本人の判断能力が低下している場合、家族信託契約を有効に締結できない可能性が高い。この場合は、法定後見制度を利用して、本人の保護・支援を図る必要がある。

また、家族信託を設定済みでも、信託外財産や身上監護の問題が発生すれば、後から成年後見制度が必要になることがある。家族信託は成年後見を完全に排除する制度ではない。むしろ、家族信託で財産管理の大部分を安定させ、必要な範囲で後見制度を使うという考え方が現実的である。

次の時系列は、本人が元気な段階から判断能力低下後、死亡後までの制度接続を表しています。いつ何を発効させるかを事前に決めることが重要で、見守り契約が任意後見を動かす合図になる点を読み取ってください。

判断能力がある段階

家族信託・任意後見・財産管理委任を準備

不動産や金銭は信託へ、生活支援手続は財産管理委任へ、将来の代理は任意後見へ分けて設計します。

変化の兆候

見守り契約で発効時期を確認

医療・介護関係者との連携により、任意後見監督人選任を申し立てる時期を逃さないようにします。

判断能力低下後

任意後見または法定後見で身上監護を支える

介護契約、施設契約、医療契約、行政手続、信託外財産の管理を代理権の範囲で支えます。

死亡後

遺言・死後事務・信託終了条項を接続

葬儀、納骨、施設費の精算、家財整理、残余財産の帰属、相続登記、税務を整理します。

Section 07

家族信託と身上監護の併用モデル

家族構成や資産内容によって、中心になる制度は変わります。

モデル1 親の認知症対策と実家売却に備える標準型

状況

父が80代。母は死亡。子が二人。父は自宅と預貯金を持つ。将来、施設入所時に自宅を売却して費用に充てたい。子同士の関係は良好だが、遠方居住。

推奨設計

次の表は、この章で扱う項目を比較・整理したものです。制度や手続の違いを把握するうえで重要で、各列を見比べながら、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

書類・制度内容
家族信託契約自宅と一定の金銭を信託。子Aを受託者、父を受益者。施設入所・医療介護費への支払い、自宅売却を可能にする
任意後見契約子Aまたは専門職を任意後見受任者。介護契約、施設契約、医療契約、行政手続、信託外預金管理を代理権目録に記載
見守り契約月1回の確認、医師診断・介護認定・金銭管理困難の兆候を発効判断基準にする
遺言信託外財産、残余財産、受益権の承継関係を整理
死後事務委任葬儀、納骨、施設・病院精算、家財整理を定める
ACP文書延命治療、入院時連絡先、医療・ケア方針の希望を記録

ポイント

受託者と任意後見人を同じ子にする場合は、事務の効率は良いが、権限集中のリスクがある。子Bへの定期報告、信託監督人、専門職チェックを検討する。

モデル2 障害のある子を持つ親の親亡き後対策

状況

父母に障害のある子Cがいる。Cは財産管理が難しい。親亡き後に、Cの生活費、住まい、福祉サービス利用を安定させたい。

推奨設計

次の表は、この章で扱う項目を比較・整理したものです。制度や手続の違いを把握するうえで重要で、各列を見比べながら、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

書類・制度内容
福祉型信託・家族信託親の財産を信託し、Cを受益者とする。生活費、福祉費用、住居費を給付
受託者親族、信託会社、一般社団法人等を検討
受益者代理人・信託監督人Cの権利保護のため、弁護士・司法書士・社会福祉士等を検討
成年後見・保佐・補助または任意後見C本人の判断能力に応じて、福祉契約、医療契約、行政手続を支える
遺言信託外財産の流れ、他の相続人との調整
福祉支援計画相談支援専門員、社会福祉協議会、地域生活支援拠点との連携

ポイント

障害のある子の支援では、財産給付だけでは不十分である。福祉サービス契約、住まい、日常支援、医療、緊急時対応、虐待防止、意思決定支援まで設計する必要がある。

モデル3 相続争いが予想される家庭

状況

再婚家庭。先妻の子と後妻がいる。父は賃貸不動産を持つ。将来の財産管理と承継で紛争が予想される。

推奨設計

次の表は、この章で扱う項目を比較・整理したものです。制度や手続の違いを把握するうえで重要で、各列を見比べながら、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

書類・制度内容
家族信託賃貸不動産の管理を明確化し、受益権・残余財産の承継を設計
任意後見身上監護と信託外財産を担当。受託者と別人にすることも検討
遺言遺留分に配慮し、信託外財産と受益権承継を整理
遺言執行者弁護士・司法書士等の専門職を指定
税務試算相続税、贈与税、譲渡所得税、小規模宅地等の特例等を検討
紛争予防文書推定相続人への説明、財産目録、意思確認記録、診断書、面談記録

ポイント

紛争リスクが高い場合、家族信託だけではかえって疑念を増やすことがある。契約締結時の本人意思確認、利益相反対策、専門職関与、定期報告、遺留分対策が不可欠である。

モデル4 おひとりさま・子のいない夫婦

状況

本人に子がいない。兄弟姉妹や甥姪は遠方。自宅と預貯金があり、将来の施設入所、入院、葬儀、死後整理が不安。

推奨設計

次の表は、この章で扱う項目を比較・整理したものです。制度や手続の違いを把握するうえで重要で、各列を見比べながら、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

書類・制度内容
任意後見契約生活、療養看護、財産管理の中核
財産管理委任契約判断能力低下前から支援を開始
見守り契約任意後見発効時期を見逃さない
家族信託不動産売却や生活費原資の確保が必要な場合に検討
死後事務委任葬儀、納骨、病院施設精算、家財処分、行政手続
遺言残余財産の帰属、寄付、親族への配分
医療・介護意思表示ACP、緊急連絡先、身元保証問題への対応

ポイント

おひとりさまでは、家族信託よりも任意後見・死後事務委任・遺言が中心になる場合が多い。信頼できる受託者や任意後見人の選任、監督体制、報酬財源の確保が鍵である。

Section 08

家族信託と身上監護をつなぐ契約条項の確認点

信託契約、任意後見の代理権目録、見守り、死後事務を具体化します。

1. 家族信託契約の条項

家族信託契約では、少なくとも次の点を明確にする。

次の表は、この章で扱う項目を比較・整理したものです。制度や手続の違いを把握するうえで重要で、各列を見比べながら、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

項目確認事項
信託目的本人の生活・療養看護費の確保、資産管理、資産承継など
信託財産不動産、金銭、株式、債権等の特定
受託者権限管理、賃貸、修繕、売却、建替え、借入、担保設定の可否
支出基準生活費、医療費、介護費、施設費、税金、専門職報酬
受益者当初受益者、第二受益者、受益権の内容
監督信託監督人、受益者代理人、報告義務
帳簿領収書保存、年次報告、親族への開示範囲
受託者交代死亡、辞任、解任、判断能力低下、不正時の手続
信託終了終了事由、残余財産帰属者、清算手続
税務受益者変更、残余財産、譲渡、相続発生時の取扱い

特に身上監護との関係では、「生活・療養看護費用の支払い」は明確に記載しておくべきである。ただし、支払い条項を書いても、受託者が本人の身上監護代理人になるわけではないため、任意後見契約と整合させる必要がある。

2. 任意後見契約の代理権目録

任意後見契約では、代理権目録が実務上の生命線である。次のような項目を具体的に検討する。

次の表は、この章で扱う項目を比較・整理したものです。制度や手続の違いを把握するうえで重要で、各列を見比べながら、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

領域代理権目録に入れる例
財産管理預貯金管理、振込、公共料金支払い、保険手続、年金受領
不動産賃貸借契約、修繕契約、管理委託契約、売却関連手続
医療医療契約、入院契約、医療費支払い、診療情報の取得
介護要介護認定申請、介護サービス契約、ケアプラン関連手続
施設有料老人ホーム、特別養護老人ホーム、グループホーム等の入退所契約
福祉障害福祉サービス、行政給付、社会福祉協議会との手続
税務・行政住民票、戸籍、税金、健康保険、介護保険、各種届出
訴訟・紛争弁護士への委任、示談、調停等については慎重に専門家確認
信託連携信託財産からの支払い請求、受託者との情報共有

ただし、任意後見人の代理権も万能ではない。医療行為への同意、婚姻・離婚・養子縁組、遺言作成、投票など本人の一身専属性が強い行為は、代理になじまない。

3. 見守り契約の発動基準

見守り契約では、「いつ任意後見監督人選任申立てをするか」を曖昧にしないことが重要である。たとえば次の基準を置く。

次の表は、この章で扱う項目を比較・整理したものです。制度や手続の違いを把握するうえで重要で、各列を見比べながら、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

判断材料具体例
医療認知症診断、主治医意見書、入院、服薬管理困難
介護要介護認定、ケアマネジャーからの連絡、在宅生活困難
金銭支払い忘れ、同じ物の大量購入、詐欺被害、通帳紛失
生活火の不始末、道迷い、食事・衛生管理困難
契約不利な契約、解約不能、施設入所の必要
本人意思本人が支援開始を希望する発言

4. 死後事務委任契約の範囲

死後事務委任では、次の事項を定める。

次の表は、この章で扱う項目を比較・整理したものです。制度や手続の違いを把握するうえで重要で、各列を見比べながら、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

項目内容
葬儀規模、宗教、喪主、費用上限
納骨墓地、永代供養、散骨等
医療・施設精算入院費、施設費、退去費用
行政手続死亡届後の周辺手続、健康保険、介護保険等
家財整理遺品整理、賃貸住宅明渡し、車両処分
デジタルスマートフォン、メール、サブスク、SNS
ペット引取先、飼育費
報酬受任者報酬、実費、支払い財源
Section 09

家族信託と身上監護で専門職が関与する場面

登記・税務・福祉・紛争予防を分担することがあります。

家族信託では身上監護ができない問題と併用の必要性を適切に扱うには、単一の専門職だけでなく、複数専門職の役割分担が必要になることが多い。

次の表は、この章で扱う項目を比較・整理したものです。制度や手続の違いを把握するうえで重要で、各列を見比べながら、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

専門職主な役割
弁護士紛争予防、遺留分、利益相反、使い込み疑い、契約無効リスク、訴訟・調停、相続人間対立
司法書士信託登記、相続登記、不動産名義変更、成年後見申立書類作成、登記実務
税理士相続税、贈与税、所得税、譲渡所得、信託受益権評価、税務調査対応
行政書士紛争・税務・登記申請を除く契約書・遺産分割協議書等の書類作成支援
公証人任意後見契約、公正証書遺言、財産管理委任、死後事務委任等の公正証書化
社会福祉士成年後見、権利擁護、福祉サービス調整、本人意思決定支援
ケアマネジャー介護保険サービス計画、在宅・施設支援、生活課題の把握
FP家計、老後資金、保険、資金繰り、専門職連携
不動産鑑定士不動産評価、遺産分割・売却・賃貸判断
土地家屋調査士境界、分筆、表示登記
宅地建物取引士・不動産会社売却、賃貸、重要事項説明、契約実務
公認会計士・中小企業診断士会社・事業承継、非上場株式、経営分析
社会保険労務士遺族年金、年金関連手続
医療・介護機関医療・ケアの意思決定支援、実際の療養支援

特に、相続人間で不信感がある場合や、親族の一人に財産管理を集中させる場合は、弁護士・司法書士・税理士等による外部監督や定期報告を組み込むことが望ましい。

Section 10

家族信託と相続登記義務化の関係

不動産を止めないために、信託登記・相続登記・遺言の導線を確認します。

2024年4月1日から相続登記の申請義務化が始まっている。法務省は、不動産を相続したことを知った日から3年以内の登記が必要であり、義務化前の相続も対象となると説明している。

家族信託との関係では、次の点が重要である。

  1. 信託設定時に不動産を信託する場合、信託登記が必要になる。
  2. 信託終了後に残余財産を帰属権利者へ移す場合、登記が必要になる。
  3. 信託していない不動産について相続が発生した場合、相続登記義務化の対象になる。
  4. 相続人の一人が認知症等で遺産分割協議ができない場合、成年後見や特別代理人の問題が生じる。
  5. 不動産の管理・売却・承継を止めないためには、家族信託、遺言、相続登記の導線を一体化する必要がある。

司法書士の関与が特に重要な領域である。

Section 11

家族信託と税務上の注意

信託受益権、受益者変更、不動産売却、相続発生時の課税関係を確認します。

家族信託は、しばしば「節税対策」と誤解される。しかし、家族信託の主目的は、通常、財産管理、認知症対策、承継秩序の設計であり、単独で相続税を劇的に減らす制度ではない。

税務上は、次の点に注意する。

次の表は、この章で扱う項目を比較・整理したものです。制度や手続の違いを把握するうえで重要で、各列を見比べながら、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

論点注意
自益信託委託者と受益者が同一の場合、設定時課税の有無を確認
他益信託委託者と受益者が異なる場合、贈与税課税の可能性
受益者死亡受益権移転と相続税の関係
受益者連続受益者連続型信託の課税関係
不動産売却譲渡所得、取得費、居住用特例等
小規模宅地等信託不動産・受益権と特例適用の可否
固定資産税納税通知、実質負担、信託口座からの支払い
受託者報酬所得区分、源泉徴収の有無等
消費税賃貸不動産・事業用資産がある場合

国税庁は、信託に関する相続税・贈与税の取扱いを公表しており、受益者等が存しない信託や受益者連続型信託は専門的な検討を要する。 家族信託の契約書を作る前に、税理士へ課税シミュレーションを依頼すべきである。

Section 12

家族信託と身上監護の実務チェックリスト

必要性、任意後見、契約書作成前の確認を順番に点検します。

1. 家族信託が必要か

次の表は、この章で扱う項目を比較・整理したものです。制度や手続の違いを把握するうえで重要で、各列を見比べながら、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

質問はいの場合
親名義の不動産を将来売却する可能性があるか家族信託を検討
賃貸不動産の管理継続が必要か家族信託を強く検討
認知症後も生活費原資を確保したいか家族信託と任意後見を併用
障害のある子の生活費給付を設計したいか福祉型信託を検討
二次相続以降の承継順序を考えたいか信託と遺言を併用
相続人間でもめそうか弁護士関与、監督体制を検討

2. 任意後見が必要か

次の表は、この章で扱う項目を比較・整理したものです。制度や手続の違いを把握するうえで重要で、各列を見比べながら、どの場面で何を確認すべきかを読み取ってください。

質問はいの場合
将来の介護契約・施設契約を誰が結ぶか不安か任意後見が有力
医療契約や入院手続に備えたいか任意後見とACPを検討
信託していない預金や年金口座があるか任意後見または財産管理委任が必要
本人の生活全体を継続的に支援する人を決めたいか任意後見と見守り契約を検討
家庭裁判所の監督がある仕組みを望むか任意後見を検討
すでに判断能力が不十分か法定後見を検討

3. 契約書作成前の確認事項

  1. 本人の判断能力確認
  2. 本人の意思確認記録
  3. 財産目録の作成
  4. 推定相続人の確認
  5. 遺留分リスクの確認
  6. 税務試算
  7. 信託不動産の評価
  8. 受託者候補の適性
  9. 任意後見人候補の適性
  10. 監督人・予備受託者の選定
  11. 医療・介護希望の確認
  12. 死後事務の希望確認
  13. 相続登記・信託登記の段取り
  14. 銀行・信託口口座の対応確認
  15. 家族会議の記録
Section 13

家族信託と身上監護のよくある質問

個別判断ではなく、一般的な制度説明として整理します。

Q1. 家族信託を作れば成年後見は不要ですか。

一般的には、家族信託は信託財産の管理・処分には有効ですが、本人の介護契約、施設入所契約、医療契約、行政手続、信託外財産の管理には限界があるとされています。ただし、財産内容、本人の判断能力、家族関係、契約内容によって必要な制度は変わります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q2. 受託者が施設費を払えるなら、施設入所契約もできますか。

一般的には、費用を払う権限と、本人を代理して施設入所契約を締結する権限は別とされています。ただし、信託契約、任意後見契約、施設側の確認事項、本人の判断能力によって実務対応は変わる可能性があります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q3. 任意後見人なら医療同意もできますか。

一般的には、任意後見人や成年後見人であっても医療行為への同意権を当然に有するわけではないとされています。ただし、医療契約、入院手続、医療費支払い、本人意思の確認、緊急性の有無によって関係者の対応は変わる可能性があります。具体的な対応は、医療・ケアチームや弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q4. 家族信託と任意後見の受任者は同じ人でよいですか。

一般的には、同じ人にする設計もあり得ますが、権限集中と利益相反に注意が必要とされています。ただし、相続人間の関係、財産規模、監督体制、報告方法によって適切な設計は変わります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q5. すでに親が認知症です。家族信託を作れますか。

一般的には、本人が信託契約の内容を理解し、契約締結意思を有すると評価できることが必要とされています。ただし、判断能力の程度、医師の診断、面談記録、公証人・専門職の確認状況によって結論は変わる可能性があります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q6. 家族信託を作ると相続税が安くなりますか。

一般的には、家族信託は節税そのものを目的とする制度ではなく、財産管理や承継秩序の設計に使われる制度とされています。ただし、受益者、受益権、残余財産、信託不動産の売却、受益者連続などの設計により課税関係が変わる可能性があります。具体的な税務判断は、税理士等の専門家へ相談する必要があります。

Q7. 相続登記義務化と家族信託は関係しますか。

一般的には、信託不動産には信託登記が必要であり、信託終了や相続発生時には登記の導線を確認する必要があるとされています。ただし、信託財産か信託外財産か、相続開始時期、遺言や遺産分割の有無によって必要な手続は変わる可能性があります。具体的な対応は、司法書士や弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q8. 家族信託契約書に身上監護も行うと書けば解決しますか。

一般的には、信託契約にそのような表現を入れても、受託者が当然に本人の代理人になるわけではないとされています。ただし、契約内容、相手方の確認事項、任意後見や財産管理委任の有無によって実務上の対応は変わる可能性があります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q9. 成年後見制度は2026年に変わるのですか。

一般的には、2026年4月3日に成年後見制度と遺言制度の見直しを含む民法等の一部を改正する法律案が国会へ提出されています。ただし、成立時期、施行時期、経過措置、実務運用は最新情報によって変わります。具体的な制度利用は、最新の法令・裁判所情報を確認し、弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Section 14

家族信託では身上監護ができない問題の結論

鍵は、財産と人を分けて考えることです。

家族信託では身上監護ができない問題と併用の必要性を理解する鍵は、「財産」と「人」を分けて考えることである。

家族信託は、信託財産を管理・処分し、本人の生活費や介護費の原資を確保し、資産承継の秩序を設計する制度である。これは、認知症対策や相続対策において非常に有効である。

しかし、本人がどこで暮らすか、どの介護サービスを受けるか、どの施設に入るか、医療契約をどう結ぶか、行政手続をどう進めるか、信託外財産をどう管理するかという問題は、家族信託だけでは完結しない。さらに、医療行為への同意は、成年後見人・任意後見人であっても当然に代行できるものではない。

したがって、実務上の最適解は、家族信託を単独の万能制度として使うのではなく、次のように組み合わせることである。

  1. 家族信託で、不動産・金銭・資産承継を設計する。
  2. 任意後見契約で、生活・療養看護・介護・医療契約・行政手続を支える。
  3. 見守り契約で、任意後見の発効時期を逃さない。
  4. 財産管理委任契約で、判断能力低下前の支援を行う。
  5. 遺言で、信託外財産と相続全体を整理する。
  6. 死後事務委任で、葬儀・納骨・施設精算・家財整理を定める。
  7. ACPと医療・介護連携で、医療同意の空白を補う。
  8. 税理士・司法書士・弁護士等の専門職で、税務・登記・紛争予防を固める。

家族信託の最大の価値は、本人の尊厳ある生活を支えるための財産基盤を守ることにある。しかし、本人の尊厳ある生活は、財産だけでは守れない。身上監護、意思決定支援、医療・介護、相続、税務、登記、家族関係を一体として設計して初めて、家族信託は本来の力を発揮する。

Reference

このページの参考資料

公的機関・中立的団体の資料を中心に整理しています。

法令・制度資料

  • e-Gov法令検索「信託法」
  • e-Gov法令検索「民法」
  • e-Gov法令検索「任意後見契約に関する法律」
  • 法務省「成年後見制度・成年後見登記制度 Q&A」
  • 法務省「不動産を相続したらかならず相続登記」
  • 法務省「民法等の一部を改正する法律案」
  • 内閣法制局「民法等の一部を改正する法律案」

信託・後見・福祉資料

  • 一般社団法人信託協会「信託の基本」
  • 一般社団法人信託協会「信託の特徴」
  • 一般社団法人信託協会「信託を利用するメリット」
  • 厚生労働省「任意後見制度とは」
  • 日本公証人連合会「任意後見契約」
  • 厚生労働省「日常生活自立支援事業」
  • 厚生労働省「第二期成年後見制度利用促進基本計画・施策の実施状況等」

医療・税務資料

  • 厚生労働省「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」
  • 厚生労働省「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」関連通知等
  • 国税庁「相続税及び贈与税に関する取扱い」
  • 国税庁「相続税法基本通達 第9条の3・第9条の4関係」