基礎収入、労働能力喪失率、喪失期間、ライプニッツ係数の4要素から、後遺障害逸失利益と死亡逸失利益を整理します。
基礎収入、労働能力喪失率、喪失期間、ライプニッツ係数の4要素から、後遺障害逸失利益と死亡逸失利益を整理します。
計算式、入力値、資料、金額差の見方を整理します。
逸失利益とは、交通事故がなければ将来得られたはずの利益を失ったことによる損害である。交通事故訴訟における損害は、治療費、休業損害、逸失利益、慰謝料などの項目ごとに積み上げて算定される。裁判所も、交通事故における損害は個別項目ごとに計算されると説明している。
ここで重要なのは、逸失利益は将来損害だという点である。したがって、事故直後から症状固定までの減収を扱う休業損害とは区別される。整理すると、会社員の損害は次の二層構造になる。
会社員について実務で中心になるのは、次の2類型である。
交通事故で後遺障害が残り、将来の労働能力が低下した結果、将来得られるはずだった給与・賞与・昇給余地などが失われる損害。
交通事故で被害者が死亡し、将来得られるはずだった収入そのものが失われる損害。こちらは本人が将来自分のために使う生活費を控除して計算する。
このページの主眼は会社員であるため、まず後遺障害逸失利益を中心に論じ、その後に死亡逸失利益を扱う。
計算式、入力値、資料、金額差の見方を整理します。
次の比較一覧は、後遺障害逸失利益と死亡逸失利益の基本式を並べたものです。入力値の違いが金額に直結するため重要です。各式で、基礎収入に何を掛け、どの控除が入るかを読み取ってください。
労働能力喪失率と就労可能年数に対応するライプニッツ係数を掛けます。
死亡事案では本人の生活費控除率を差し引き、就労可能年数の係数を掛けます。
一時金で受け取るため、中間利息控除により年数より小さい係数になります。
会社員の後遺障害逸失利益の基本式は、次のとおりである。
国土交通省の自賠責保険支払基準でも、後遺障害による逸失利益は、年間収入額等に労働能力喪失率と、後遺障害確定時の年齢に応じた就労可能年数のライプニッツ係数を乗じて算出するとされている。
死亡逸失利益の基本式は、次のとおりである。
死亡事案では労働能力喪失率は事実上100%であるため、計算上の中心は基礎収入、生活費控除率、就労可能年数になる。国土交通省の支払基準でも、死亡逸失利益は年間収入額等から本人の生活費を控除した額に就労可能年数のライプニッツ係数を乗じて算出すると整理されている。
ライプニッツ係数とは、将来毎年発生する収入を、事故時または症状固定時の一時金に割り戻すための現価係数である。将来の給与をいま一括で受け取るなら、将来受け取るはずだった時点まで運用できる利益があるため、その分を控除する必要がある。この控除を中間利息控除という。
民法は中間利息控除を条文化しており、不法行為にもその規律が準用される。法定利率は民法404条で定められ、2020年4月1日以後は年3%を基本とし、2026年4月1日以後も年3%に据え置かれている。
計算式、入力値、資料、金額差の見方を整理します。
次の重要ポイント一覧は、会社員の逸失利益を左右する4要素をまとめたものです。どれか1つでも前提が変わると金額が大きく動くため重要です。各項目で、どの資料や判断が入力値を支えるのかを読み取ってください。
源泉徴収票、休業損害証明書、給与明細、賞与資料、賃金センサスが問題になります。
後遺障害等級表を出発点に、職種や実際の業務制約を踏まえて検討します。
症状固定時年齢、障害内容、職種、52歳以上の平均余命基準が金額に影響します。
事故日の法定利率と就労可能年数に応じて、中間利息控除後の係数を使います。
会社員の逸失利益で最初に問題になるのは、何を年収とみるかである。自賠責基準では、有職者の収入額は原則として事故前1年間の収入額と、年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額を比較して定める。35歳未満で事故前1年間の収入額を立証できる者については、事故前1年間の収入額、全年齢平均給与額の年相当額、年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額を用いる。
裁判所の交通関係訴訟用の共通書式マニュアルでも、逸失利益計算欄の基礎収入は、休業損害証明書や源泉徴収票に従って正確に入力し、賃金センサスを参照する場合には年度・男女・学歴・年齢を特定するよう案内されている。
したがって、会社員の実務では、まず次の資料が中核になる。
会社員の基礎収入は、通常、月例賃金だけでなく賞与や継続的な諸手当を含めた年収ベースで把握する。なぜなら、実務上の基礎資料が「事故前1年間の収入額」や源泉徴収票だからである。もっとも、どの手当まで含めるかは、継続性、労務対価性、偶発性の有無、事故との相当因果関係の有無によって争点化し得る。
実務感覚としては、「毎月・毎年の就労に対する対価として継続的に支給されていたか」が重要であり、単発的・恩恵的・臨時的な給付はそのまま基礎収入に算入できるとは限らない。
若い会社員では、事故当時の年収がまだ低くても、将来の昇給余地を踏まえると平均賃金を基礎収入に使った方が高くなることがある。自賠責基準が35歳未満について、事故前収入だけでなく全年齢平均給与額や年齢別平均給与額とも比較させているのは、この将来増収可能性に配慮した構造と理解できる。
この論点は、20代後半から30代前半の会社員で特に重要である。たとえば、転職直後、入社直後、昇進前、育休復帰直後など、事故前1年だけを見ると実態より低く出る場合がある。
賃金センサスとは、厚生労働省の賃金構造基本統計調査を指す。裁判実務では、収入立証が不十分な場合や、平均賃金で補正する場面で頻繁に参照される。厚生労働省によれば、この調査は、主要産業に雇用される労働者について、賃金の実態を雇用形態、就業形態、職種、性、年齢、学歴、勤続年数、経験年数別等に明らかにする基幹統計である。
現時点で公表済みの最新の概況は、令和7年(2025年)賃金構造基本統計調査であり、2026年3月24日に公表されている。報道資料によれば、一般労働者の賃金月額は男女計340,600円、男性373,400円、女性285,900円である。
もっとも、逸失利益算定で使うのは単純な全国平均だけではない。裁判所のマニュアルどおり、年度・男女・学歴・年齢を特定して参照するのが実務に近い。
労働能力喪失率とは、事故によって従前の労働能力がどの程度失われたかを百分率で表したものである。たとえば、100%なら完全喪失、35%なら将来の稼働能力が35%失われたという意味である。
自賠責実務では、後遺障害等級ごとに標準的な喪失率表がある。国土交通省公表の労働能力喪失率表では、別表第2の一般的な後遺障害について、4級92%、5級79%、6級67%、7級56%、8級45%、9級35%、10級27%、11級20%、12級14%、13級9%、14級5%とされている。
次の比較表は、後遺障害等級、労働能力喪失率を並べて確認するためのものです。提出準備や判断で迷いやすい点を整理するうえで重要です。左から各列の意味を追い、項目ごとの違いと注意点を読み取ってください。
| 後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
|---|---|
| 1級 | 100% |
| 2級 | 100% |
| 3級 | 100% |
| 4級 | 92% |
| 5級 | 79% |
| 6級 | 67% |
| 7級 | 56% |
| 8級 | 45% |
| 9級 | 35% |
| 10級 | 27% |
| 11級 | 20% |
| 12級 | 14% |
| 13級 | 9% |
| 14級 | 5% |
会社員の逸失利益では、後遺障害等級がそのまま金額を自動決定するわけではない。裁判所の共通書式マニュアルでも、後遺障害等級によらない喪失率を主張する場合には、その理由を記載するよう求めている。つまり、実務では、職種、業務内容、昇進への影響、通勤可能性、PC作業・立位作業・運転業務への制約、疼痛の持続性、高次脳機能障害の程度などを踏まえ、標準表から増減する余地がある。
たとえば、同じ12級でも、デスクワーク中心の管理部門と、精密作業・長時間運転・高所作業が必要な職種では、実際の就労制約が同じとは限らない。したがって、会社員だから喪失率が低いとも、等級どおり必ず認められるとも言えない。
後遺障害逸失利益では、喪失率と同じくらい、何年分を認めるかが金額を大きく左右する。
国土交通省公表の「就労可能年数とライプニッツ係数表」では、18歳以上の有職者・家事従事者について、
を就労可能年数としている。
したがって、自賠責基準の表をそのまま使うと、例えば35歳会社員は32年、45歳会社員は22年、58歳会社員は13年になる。
後遺障害逸失利益の喪失期間は、事故時ではなく、通常は症状固定時を起点に問題となる。国土交通省の支払基準は「後遺障害確定時の年齢」に対応する係数を用いるとし、裁判所の共通書式でも喪失期間始期年齢は症状固定時または死亡時年齢が自動入力される設計になっている。
ここでいう症状固定とは、治療を継続しても大幅な改善が期待しにくくなり、医学的に後遺障害評価の段階に入った状態を指す実務用語である。
喪失期間は、とくに次のような場面で争点化しやすい。
つまり、喪失期間は「年齢だけ」の問題ではなく、「障害内容と就労実態」の問題でもある。
民法改正の影響で、2020年4月1日以後に発生した事故では、中間利息控除に用いる法定利率は原則年3%となる。法務省の説明資料でも、2020年4月1日から事件や事故によって発生する損害賠償請求権について、法定利率引下げにより逸失利益額が増加すると整理されている。また、中間利息控除には事故時、すなわち損害賠償請求権が生じた時点の法定利率を適用することが明確化されている。
したがって、実務上は概ね次の理解になる。
国土交通省の就労可能年数表に整合する代表値を挙げると、次のとおりである。
次の比較表は、就労可能年数、3%ライプニッツ係数を並べて確認するためのものです。提出準備や判断で迷いやすい点を整理するうえで重要です。左から各列の意味を追い、項目ごとの違いと注意点を読み取ってください。
| 就労可能年数 | 3%ライプニッツ係数 |
|---|---|
| 5年 | 4.580 |
| 10年 | 8.530 |
| 13年 | 10.635 |
| 20年 | 14.877 |
| 22年 | 15.937 |
| 27年 | 18.327 |
| 30年 | 19.600 |
| 32年 | 20.389 |
この表からも分かるとおり、年数が単純に加算されるわけではない。たとえば30年分を現在価値に直すと、30ではなく約19.600になる。これが一時金前払いによる中間利息控除の効果である。
計算式、入力値、資料、金額差の見方を整理します。
次の比較グラフは、本文の5つの設例で示した逸失利益額を、最も大きい死亡逸失利益の例を100%として並べたものです。金額差がどこで生まれるかを直感的につかむために重要です。棒の高さは概算額の大小を示し、年齢、等級、期間、生活費控除の違いを読み取ってください。
次の比較表は、各設例の前提と概算結果を一つにまとめたものです。計算式だけでは見落としやすい差額要因を確認するために重要です。列ごとに年齢、収入、率、期間、係数、結果を追い、どの入力値が金額差を生んだかを読み取ってください。
| 設例 | 主な前提 | 係数 | 概算結果 |
|---|---|---|---|
| 35歳9級 | 年収600万円、喪失率35%、32年 | 20.389 | 約4,281.7万円 |
| 45歳12級A | 年収750万円、喪失率14%、10年 | 8.530 | 約895.7万円 |
| 45歳12級B | 年収750万円、喪失率14%、22年 | 15.937 | 約1,673.4万円 |
| 58歳7級 | 年収1,000万円、喪失率56%、13年 | 10.635 | 約5,955.6万円 |
| 40歳死亡 | 年収700万円、生活費控除35%、27年 | 18.327 | 約8,338.8万円 |
以下の金額例は、逸失利益のみを切り出した説明用モデルである。実際の賠償額は、ここに治療費、休業損害、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、将来介護費、過失相殺、既払金控除、労災給付との関係などが加わる。
また、説明の便宜上、係数は主として公表表の小数第3位で用い、金額は概算表示とする。
前提
計算
結論
この設例の後遺障害逸失利益は、約4,281.7万円である。
9級は35%という標準喪失率を用いるため、年収600万円クラスの会社員では、比較的高額になりやすい。若年から中堅の会社員では、喪失期間が長いため、喪失率が同じでも金額が大きく伸びる。
前提A: 期間を10年とみる設例
計算
結論
この場合の逸失利益は、約895.7万円である。
しかし、45歳会社員について、もし喪失期間を67歳までの22年とみるなら結果は大きく変わる。
前提B: 期間を22年とみる設例
比較
この例が示すとおり、12級・14%という喪失率自体より、期間を10年とみるか22年とみるかの方が金額差を大きく生む。会社員の逸失利益で保険会社提示額と裁判基準額が開く主要因の一つは、まさにこの喪失期間評価である。
この例は、「高年齢だから67歳までしか認められない」と短絡できないことを示す。
前提
計算
結論
この設例の逸失利益は、約5,955.6万円である。
58歳は67歳との差だけを見れば9年だが、自賠責の就労可能年数表では52歳以上について平均余命の2分の1基準が採られるため、58歳の就労可能年数は13年になる。高年齢会社員では、この基準理解を誤ると大幅な過少計算につながる。
死亡逸失利益では生活費控除が入る。ここでは、国土交通省基準に沿い、生活費立証が困難で被扶養者がいるケースとして35%控除の設例を置く。
前提
計算
結論
この設例の死亡逸失利益は、約8,338.8万円である。
なお、死亡事案ではこのほかに、葬儀費、死亡本人慰謝料、遺族慰謝料等が別建てで問題になる。自賠責基準でも、死亡による損害は葬儀費、逸失利益、本人慰謝料、遺族慰謝料から構成される。
最後に、法定利率の違いだけでどの程度金額が変わるかを示す。
前提
3%ベース
5%ベース
差額
同じ年収、同じ喪失率、同じ期間でも、法定利率が3%か5%かで約2,114万円の差が生じる。したがって、会社員の逸失利益の計算では、事故日が2020年4月1日前か後かを最初に確認しなければならない。
計算式、入力値、資料、金額差の見方を整理します。
自賠責基準は、被害者保護のための最低限の定型処理として、収入額、喪失率、就労可能年数、ライプニッツ係数の標準表を用いる。
これに対し、訴訟や本格的な示談交渉では、裁判所が各事件ごとに、
を個別に判断する。大阪地方裁判所も、交通事故の損害は項目ごとに計算され、裁判所は当事者の主張と提出証拠に基づいて個別具体的に事実認定し法律を適用すると説明している。
裁判所の共通書式マニュアルでも、休業損害や後遺障害逸失利益の自動計算機能がある一方で、計算方法等に見解の対立がある部分は手入力や理由記載で修正できるとされている。これは、逸失利益算定が定型計算でありながら、なお個別事情に開かれていることを示している。
会社員の逸失利益で実際に争われやすいのは、次の論点である。
年収を事故前1年の実収入でみるか、賃金センサスで補正するか。
継続性のある部分をどこまで年収に算入するか。
等級表どおりか、会社員としての実職務への影響を踏まえて増減するか。
67歳基準、平均余命の2分の1基準、症状逓減を踏まえた短縮など、どの評価が妥当か。
復職の有無、配置転換、役職維持、昇進阻害、減給、退職の相当因果関係などをどうみるか。
つまり、会社員の逸失利益は、表計算で終わるテーマではなく、労務資料、医証、後遺障害診断、業務内容の具体性が勝負を分けるテーマである。
計算式、入力値、資料、金額差の見方を整理します。
裁判所の共通書式マニュアルと大阪地裁の交通事件案内を踏まえると、会社員の逸失利益立証では、少なくとも次の資料を意識したい。
会社員の逸失利益では、医療資料だけでも足りず、給与資料だけでも足りない。医療上の障害が、実際の職務能力低下としてどのように現れたかを、書面でつなぐ必要がある。
計算式、入力値、資料、金額差の見方を整理します。
休業損害は、事故後から症状固定までの減収であり、逸失利益は症状固定後または死亡後の将来損害である。両者を同じ期間で二重計上すると、当然ながら争いになる。
若年会社員、転職直後、育休復帰直後、昇進直前などでは、事故前1年の数字だけで固定すると実態を外すことがある。自賠責基準が35歳未満で平均給与額比較を要求していること自体、若年者の将来増収可能性が軽視できないことを示している。
後遺障害等級は重要だが、それだけでは足りない。会社員の実職務、職責、キャリア経路、専門性、身体使用部位、通勤制約が、喪失率や喪失期間の評価に直結する。
52歳以上では、単純に67歳までの残年数でなく、平均余命のうち短い方の2分の1年数が用いられる自賠責表を確認しなければならない。58歳で9年ではなく13年になる典型例は、その理解不足がいかに危険かを示している。
2020年4月1日をまたぐかどうかで、中間利息控除の係数が変わる。結果として逸失利益が数百万円から数千万円単位で変わり得る。
計算式、入力値、資料、金額差の見方を整理します。
次の判断の流れは、会社員の逸失利益を概算するときの確認順序を整理したものです。事故日や症状固定時期を後回しにすると係数や期間を誤りやすいため重要です。上から順に、日付、収入、等級、期間、係数、他の損害項目の順で読み取ってください。
2020年4月1日前後で法定利率が変わります。
後遺障害では症状固定時年齢が期間と係数の起点になります。
源泉徴収票、休業損害証明書、給与明細、賞与明細を集めます。
標準表を出発点に、職務への実際の影響も確認します。
逸失利益だけで最終賠償額にはならないため、他の損害と区別します。
会社員の逸失利益を自分で概算したいなら、手順は次の順で整理するとよい。
2020年4月1日前後で法定利率が変わる。
後遺障害逸失利益では、症状固定時年齢が重要になる。
源泉徴収票、休業損害証明書、給与明細、賞与明細を集め、必要に応じて賃金センサスも検討する。
自賠責等級を出発点にしつつ、会社員としての実職務に照らして修正可能性を考える。
年齢、障害内容、職種、52歳以上基準の有無を確認する。
公表表に従い、就労可能年数に対応する係数を用いる。
逸失利益だけで最終賠償額とはならない。治療費、休業損害、慰謝料、過失相殺、既払金控除等を合算・調整する。
計算式、入力値、資料、金額差の見方を整理します。
会社員の逸失利益の計算方法と具体的な金額例を一言でまとめるなら、次のとおりである。
要するに、会社員の逸失利益は、数式自体は単純でも、入力値の選び方が難しい。したがって、金額例を見て概算の感覚を持つことは有益だが、実際の請求では、医療、労務、保険、法務の資料をつなげて立証することが決定的に重要になる。
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