裁判は賠償金を自動的に上げる手続ではなく、証拠に基づいて裁判所のものさしで損害を再評価してもらう手続です。増額が見込める場面と、費用や時間を考えると示談が合理的な場面を整理します。
裁判は賠償金を自動的に上げる手続ではなく、証拠に基づいて裁判所のものさしで損害を再評価してもらう手続です。
増えることはありますが、法的根拠と証拠がなければ裁判を選ぶ意味は限られます。
交通事故の損害賠償で裁判をすると、示談より賠償金が増えることは珍しくありません。ただし、裁判を起こせば自動的に増えるわけではありません。増えるのは、示談段階の提示額が低く、かつ裁判で認められるだけの法的根拠と証拠がある場合です。
実務上の見方を一文でいえば、裁判は「賠償金を上げる装置」ではなく、「証拠に基づいて裁判所のものさしで再評価してもらう手続」です。そのため、増える案件もあれば、ほとんど増えない案件、費用や時間を考えると実質的に不利になる案件もあります。
次の一覧は、示談提示と裁判上の評価で差が出やすい損害項目を整理したものです。どの争点で金額が動きやすいかを先に把握すると、裁判を検討すべき論点と、示談前に確認すべき資料を読み分けやすくなります。
| 争点 | 増額が生じやすい理由 |
|---|---|
| 慰謝料 | 任意保険会社の提示が裁判実務上の水準より低いことがあります。 |
| 後遺障害 | 等級、労働能力喪失率、喪失期間の評価で差が出ます。 |
| 逸失利益 | 基礎収入、将来の稼働可能性、生活費控除、中間利息控除で金額が大きく動きます。 |
| 休業損害 | 会社員、自営業者、家事従事者、役員、学生などで立証方法が異なります。 |
| 過失割合 | 事故態様の立証により、相手方提示より有利な認定があり得ます。 |
| 将来介護費、装具費、住宅改造費 | 重度後遺障害では、将来費用の認定が総額に大きく影響します。 |
| 物損の評価損、代車料、休車損 | 保険会社が限定的にしか認めないことがあります。 |
反対に、すでに裁判実務上の目安に近い提示が出ている場合、事故と症状の因果関係が弱い場合、通院実績や医療記録が乏しい場合、過失割合で不利な証拠が多い場合、増額幅より弁護士費用や時間的負担が大きい場合は、裁判をしても実質的な利益が小さくなります。
このページでは、示談と裁判の違い、賠償金が増える仕組み、増えない理由、医療証拠、警察資料、保険実務、裁判所の判断構造、相談すべきタイミングを、一般情報として整理します。
裁判で増えるかどうかは、手続の違いと損害計算の基準を分けて見る必要があります。
交通事故でいう示談とは、加害者側または保険会社側と被害者側が、損害賠償の金額、支払方法、過失割合、既払金の扱い、今後追加請求をしないことなどを合意して紛争を終わらせることです。民法上の和解に近い性質を持ち、当事者が互いに譲歩して争いをやめることを約することで効力が生じるとされています。
示談の最大の利点は早期解決です。裁判よりも短期間で支払を受けられ、出廷や書面作成の負担も小さくなります。反面、いったん示談書に署名押印すると、原則として後から「もっと高く請求できたはず」と言って蒸し返すことは難しくなります。
裁判とは、裁判所に訴状を提出し、当事者が主張と証拠を出し合い、裁判所が法律を適用して判断する手続です。交通事故の民事訴訟では、民法709条の不法行為責任、自賠責法3条の運行供用者責任、民法715条の使用者責任などが責任原因として問題になることが多いとされています。
民事訴訟では、訴状提出、主張、証拠提出、争点整理、証拠調べ、判決または裁判上の和解という順序で進みます。2026年5月21日以降に提起された民事訴訟事件では、mintsという民事裁判書類電子提出システムを利用したオンライン提出が可能になり、弁護士等の訴訟代理人にはオンライン提出が義務付けられています。
交通事故の賠償金は、単一の金額ではありません。治療費、通院交通費、付添看護費、入院雑費、休業損害、逸失利益、慰謝料、将来介護費、葬儀費、車両修理費、評価損、代車料、休車損など、個別の損害項目を積み上げた合計です。
次の比較は、示談提示額と裁判で認められる金額に差が出る背景を示します。どの基準で計算されているかが分かると、保険会社提示をそのまま受け入れる前に、見直す余地があるかを判断しやすくなります。
| 基準 | 概要 | 実務上の位置づけ |
|---|---|---|
| 自賠責基準 | 自賠責保険、共済の支払基準です。 | 被害者保護のための最低限度に近い公的基準です。 |
| 任意保険会社基準 | 各保険会社が示談交渉で用いる内部的な支払水準です。 | 非公開で、事案や会社により異なります。 |
| 裁判基準、弁護士基準 | 裁判例の傾向を踏まえた実務上の目安です。 | 訴訟や弁護士交渉で参照されることが多い水準です。 |
自賠責保険では、傷害による損害について被害者1人につき120万円を限度とし、治療関係費、文書料、休業損害、慰謝料が支払われるとされています。休業損害は原則1日6,100円、収入減の立証がある場合は1日19,000円を限度として実額が支払われ、傷害慰謝料は1日4,300円とされています。
後遺障害では、傷害が治ったときに身体に残された精神的または肉体的な毀損状態で、傷害と後遺障害との間に相当因果関係があり、医学的に認められるものが問題になります。自賠責の後遺障害限度額は、介護を要する第1級で4,000万円、介護を要する第2級で3,000万円、それ以外の後遺障害では第1級3,000万円から第14級75万円とされています。
次の一覧は、裁判で示談より賠償金が増えやすい典型場面をまとめたものです。左の項目が争点になっているほど金額差が大きくなりやすく、右の説明から、どの資料や主張が重要になるかを読み取れます。
傷害慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料は、初回提示と裁判実務上の目安に差が出やすい項目です。
等級が1つ違うだけで、後遺障害慰謝料、逸失利益、自賠責限度額が大きく変わります。
自営業者、会社役員、兼業者、家事従事者などでは、資料の出し方で評価が変わることがあります。
基礎収入、労働能力喪失率、喪失期間、生活費控除、中間利息控除が総額を左右します。
映像、実況見分調書、信号周期、車両損傷などで提示割合を覆せる可能性があります。
重度後遺障害では、将来介護費、住宅改造費、福祉車両、装具費が大きな争点になります。
判決では一定範囲の弁護士費用相当額や遅延損害金が検討されることがあります。
例えば、むち打ちで3か月通院し、実通院日数が30日だったとします。自賠責の傷害慰謝料は1日4,300円を基礎に、治療期間内で実治療日数などを考慮して対象日数を決めます。単純なモデルでは、実通院30日を2倍した60日が対象日数となり、4,300円×60日=25万8,000円となります。
一方、裁判実務上の目安では、通院期間、傷害の内容、実通院頻度、治療経過、他覚所見の有無などを総合して、自賠責より高い慰謝料が検討されることがあります。ただし、通院頻度が極端に少ない、治療中断が長い、医師の指示に基づかない施術だけが多い、事故前から同じ症状があった、といった事情があると、裁判でも慰謝料が抑えられることがあります。
後遺障害に基づく損害を請求する場合は、後遺障害の有無や程度を立証する必要があります。訴訟前に自賠責の被害者請求または事前認定で後遺障害等級認定を済ませておくことが考えられます。自賠責の認定が民事訴訟で必ずそのまま採用されるわけではありませんが、訴訟で活用でき、早期解決に資する面があります。
次の比較は、後遺障害で裁判を検討しやすい典型例と、そこで問題になりやすい点を示します。どの資料が不足しているかを確認することで、裁判前の準備の優先順位が見えます。
| 典型例 | 問題点 |
|---|---|
| 非該当だが症状が強く残っている | 医療記録、画像、神経学的所見、就労制限の立証が必要です。 |
| 14級認定だが12級相当を主張したい | 他覚所見の有無、可動域制限、神経症状の医学的根拠が争点です。 |
| 高次脳機能障害が疑われる | 事故直後の意識障害、画像所見、神経心理学的検査、家族の変化記録が重要です。 |
| 歯、顎、眼、耳、醜状障害がある | 診療科横断的な資料と後遺障害診断書の記載精度が重要です。 |
| 介護を要する重度障害 | 将来介護費、住宅改造費、装具費、近親者介護の評価が争点です。 |
逸失利益とは、事故がなければ将来得られたはずの収入を失った損害です。後遺障害逸失利益は、基礎収入、労働能力喪失率、労働能力喪失期間に対応する係数を掛け合わせて考えます。死亡逸失利益では、本人が生きていれば得られた収入から生活費控除を行います。
ここで争いになりやすいのは、基礎収入、労働能力喪失率、労働能力喪失期間、生活費控除率、中間利息控除です。法務省は、2026年4月1日から2029年3月31日までの法定利率について、年3%のまま変動しないと公表しています。将来の損害が大きい事案ほど、利率や係数の扱いが総額に大きく影響します。
過失割合は賠償金に直接掛け算されます。総損害が1,000万円の事案で、被害者の過失が20%なら受取額は800万円です。過失が10%に修正されれば900万円となり、過失割合だけで100万円の差が出ます。総損害が1億円なら、同じ10%の違いで1,000万円の差です。
高次脳機能障害、脊髄損傷、遷延性意識障害、四肢麻痺、重度の神経障害などでは、将来介護費、住宅改造費、福祉車両、装具、リハビリ、成年後見、近親者介護、職業介助、生活支援が問題になります。医学的必要性、介護時間、家族介護と職業介護の分担、平均余命、将来の施設利用可能性などが厳密に争われます。
裁判を選べば有利になるとは限らず、証拠、因果関係、費用対効果を慎重に見る必要があります。
弁護士が介入して交渉した後、保険会社が裁判実務上の目安に近い金額を提示している場合、裁判をしても大きな増額がないことがあります。解決までの時間、訴訟費用、本人尋問の負担、医療照会への対応を考えると、早期示談の方が合理的な場合があります。
裁判では、主張だけでは足りません。裁判所は証拠に基づいて事実を認定します。交通事故証明書、現場見取図、刑事事件記録、医療記録、陳述書、自動車検査証、写真、地図、修理見積書、請求書、領収書、ドライブレコーダー記録などが典型的な証拠になります。
次の一覧は、裁判で不利に働きやすい証拠状況を示します。左の状況に当てはまるほど、右のリスクが大きくなるため、裁判前に補える資料があるかを確認することが重要です。
| 弱い証拠状況 | 裁判上のリスク |
|---|---|
| 事故直後に警察へ届けていない | 事故発生や事故態様の立証が困難になります。 |
| 人身事故への切替えが遅い | けがと事故の関連性を争われやすくなります。 |
| 通院間隔が長く空いている | 症状の継続性を疑われやすくなります。 |
| 医師の記録に症状の訴えが少ない | 後遺障害や慰謝料の根拠が弱くなります。 |
| 整骨院のみで医師の診察が少ない | 医学的証拠として評価が限定されることがあります。 |
| ドライブレコーダーを保存していない | 過失割合の反論が難しくなります。 |
| 休業損害の資料がない | 実収入減の立証が難しくなります。 |
交通事故訴訟では、「事故があった」「症状がある」だけでは足りません。事故と症状、治療、後遺障害、休業との間に相当因果関係が必要です。既往症、加齢変性、事故前からの腰痛や頚部痛、精神疾患、別事故、スポーツ傷害などがある場合、裁判では医学的因果関係が厳しく検討されます。
過失割合も、保険会社の提示より有利になることもあれば、不利になることもあります。被害者側が相手に全責任があると考えていても、映像に速度超過、前方不注視、信号変わり目への進入、一時停止不十分などが映っていれば、過失が増える可能性があります。
裁判には、印紙代、郵券、記録取得費、診断書費用、鑑定費、弁護士費用、出廷や打合せの時間がかかります。弁護士費用特約がある場合は負担が軽減されますが、特約がない場合、増額幅が小さい案件では費用倒れが問題になります。法テラスの民事法律扶助を利用できる場合もありますが、収入や資産などの条件があります。
最大額だけでなく、認定リスク、費用、時間、精神的負担を差し引いて考えます。
裁判をするかどうかは、単純な最大金額ではなく、実質的な期待値で考える必要があります。裁判で見込まれる回収額に勝敗や認定リスクを掛け合わせ、弁護士費用、実費、時間的負担、精神的負担を差し引いて見ます。
示談の実質価値は、早期に確実に受け取れる金額、時間短縮の価値、紛争終了の心理的価値を加え、取り逃がす可能性のある増額分を差し引いて考えます。裁判で10万円増える可能性があっても、1年以上かかり本人の負担が大きいなら、示談が合理的なことがあります。
次の比較は、裁判と示談の向き不向きを整理したものです。数値ではなく「高い」「中程度」「低い」の目安で見て、どちらに寄せて検討すべきかを大まかに把握します。
| 状況 | 裁判向き | 示談向き |
|---|---|---|
| 増額見込みが大きい | 高い | 低い |
| 証拠が強い | 高い | 中程度 |
| 後遺障害、死亡、重度障害 | 高い | 事案次第 |
| 早期に資金が必要 | 低い | 高い |
| 過失割合の証拠が不安定 | 中程度 | 中程度 |
| 弁護士費用特約がある | 高い | 高い |
| 本人の精神的負担が大きい | 低い | 高い |
| 増額幅が数万円から十数万円 | 低い | 高い |
裁判を検討するときは、保険会社提示の内訳、裁判実務上の目安、証拠の強さ、増額見込み、費用と時間、裁判以外の選択肢という順番で確認します。順番に見ることで、感情的な納得感と法的な見通しを分けて整理できます。
治療費、休業損害、慰謝料、逸失利益、過失割合、既払金控除を分けて見ます。
裁判例、過失割合基準、医療記録を踏まえて見込み額を出します。
医療記録、画像、事故資料、休業資料、生活記録がそろっているか確認します。
裁判での見込み回収額 - 現在の示談提示額を出し、敗訴リスクも反映します。
弁護士費用特約、法テラス利用、訴訟費用、待てる期間を確認します。
証拠が強ければ、訴訟や中立機関の利用を比較します。
早期解決の価値を含めて、合意の合理性を確認します。
後から作れない資料を先に守ることが、裁判でも示談でも重要です。
交通事故証明書は、交通事故の事実を確認したことを証明する書面です。事故に遭ったときは警察に届出をして、後日交付を受けることが案内されています。裁判または弁護士相談の前には、事故、医療、収入、生活、物損、保険の各分野で資料を整理します。
次の一覧は、裁判や示談見直しの前に最低限そろえたい資料を分野別にまとめたものです。分野ごとの不足を確認すると、どの論点で立証が弱くなるかを早めに把握できます。
| 分野 | 資料 |
|---|---|
| 事故関係 | 交通事故証明書、事故状況説明書、現場写真、車両写真、ドライブレコーダー、防犯カメラ、信号周期、実況見分調書、供述調書 |
| 医療関係 | 診断書、診療報酬明細書、カルテ、画像、検査結果、後遺障害診断書、リハビリ記録、薬剤情報 |
| 収入関係 | 源泉徴収票、給与明細、休業損害証明書、確定申告書、帳簿、売上資料、雇用契約書、就労予定資料 |
| 生活関係 | 家事制限の記録、介護記録、日常生活動作の変化、家族の陳述書、通院交通費メモ |
| 物損関係 | 修理見積書、請求書、領収書、車検証、査定書、代車資料、営業車の稼働資料 |
| 保険関係 | 保険会社提示書、自賠責認定票、任意保険約款、弁護士費用特約の有無、人身傷害保険の有無 |
資料収集で重要なのは、後から作れる資料と作れない資料を区別することです。ドライブレコーダー、防犯カメラ、事故直後の写真、現場状況、初診時の症状記録は、時間が経つと失われやすい資料です。
医療証拠では、事故によりどの傷病が発生したか、どの治療をどの期間と頻度で受けたか、症状固定時にどの後遺障害が残ったかが重要です。症状固定前は治療費、休業損害、傷害慰謝料が中心で、症状固定後は後遺障害慰謝料、逸失利益、将来介護費などが中心になります。
次の一覧は、診療科や専門職ごとに重要になりやすい資料を示します。診断書だけでなく、画像、検査、治療経過、生活への支障が記録として残っているかを確認することが読み取りの中心です。
| 医療職の視点 | 重要資料 |
|---|---|
| 整形外科 | 骨折、靱帯損傷、神経症状、可動域、疼痛、リハビリ経過 |
| 脳神経外科 | 頭部外傷、脳出血、脳挫傷、意識障害、画像、高次脳機能障害 |
| 形成外科 | 瘢痕、醜状障害、機能再建 |
| 眼科、耳鼻科 | 視力、視野、聴力、めまい、耳鳴り、平衡機能 |
| 口腔外科、歯科 | 歯牙破折、顎関節、咬合、開口障害 |
| 精神科、心療内科 | PTSD、不安、抑うつ、不眠、事故後の心理症状 |
| リハビリ職 | 可動域、筋力、歩行、ADL、復職可能性 |
事故態様の争いでは、実況見分調書、診断書、車両写真、当事者や目撃者の供述調書、ドライブレコーダー、EDR、スマートフォンの位置情報、防犯カメラ、車両損傷解析などが重要になります。
次の一覧は、過失割合で裁判を検討するときに確認すべき問いと資料をまとめたものです。問いに対応する資料があるほど、事故類型や修正要素を具体的に検討しやすくなります。
| 問い | 確認資料 |
|---|---|
| 信号はどちらが何色だったか | 信号周期表、実況見分調書、目撃者、ドライブレコーダー |
| 速度はどの程度だったか | 映像、EDR、制動痕、損傷状況、鑑定 |
| 一時停止や安全確認はあったか | 現場見取図、停止線、道路標識、防犯カメラ |
| 回避可能性はあったか | 速度、距離、視認性、反応時間、道路状況 |
| 衝突位置はどこか | 車両損傷、破片散乱、現場写真、鑑定 |
| 歩行者、自転車側の動きはどうか | 目撃者、映像、道路構造、夜間視認性 |
勤務中や通勤中の事故では労災が関係します。重度障害では障害年金、介護保険、障害福祉サービス、傷病手当金、休職制度、復職支援が生活再建に関わります。裁判の賠償金だけで生活再建を設計せず、公的制度との関係も整理する必要があります。
裁判は重要な選択肢ですが、常に最初の手段とは限りません。
交通事故の損害賠償では、裁判以外にも、弁護士による再交渉、交通事故紛争処理センター、日弁連交通事故相談センター、自賠責保険・共済紛争処理機構、調停、自賠責の被害者請求などがあります。どの手段が向くかは、争点、証拠、治療の進み具合、費用負担で変わります。
次の一覧は、裁判以外の選択肢を目的別に整理したものです。どの制度が何を扱うかを把握すると、いきなり訴訟に進む前に使える手段があるかを検討しやすくなります。
弁護士が入るだけで、保険会社が裁判実務上の目安を意識した提示に変わることがあります。
再交渉中立公正な立場から、法律相談、和解あっ旋、必要に応じた審査を無料で支援する機関です。
ADR交通事故の相談、示談あっせん、審査を行い、弁護士を通じて申し込める場合もあります。
相談後遺障害等級、過失割合、因果関係、休業損害などの自賠責支払内容を中立的に審査します。
書類審査訴訟前に自賠責保険会社へ直接請求し、保険金額の限度で支払を受ける方法が考えられます。
資金確保交通事故紛争処理センターの法律相談では、申立人の主張や提出資料を確認し、損害賠償の問題点を整理するとされています。ただし、事故直後や治療中など、まだ和解に至らない段階では対象外となることがあります。自賠責保険・共済紛争処理機構は、手続が原則無料で、書類審査が中心です。
類型ごとの争点を知ると、どの項目で差が出るかを把握しやすくなります。
以下は考え方を理解するための単純化したモデルです。実際の金額は、事故日、治療内容、既払金、過失割合、証拠、地域実務、裁判例、弁護士費用特約の有無により変わります。
次の一覧は、典型的な4つの事案でどの損害項目が争点になりやすいかを整理したものです。自分の事故に近い類型を見ることで、裁判と示談のどちらを検討すべきかの入口が見えます。
| モデルケース | 金額差が出やすい点 | 読み取り方 |
|---|---|---|
| むち打ち、後遺障害なし、3か月通院 | 傷害慰謝料、治療費打切り、休業損害、過失割合 | 増額可能性はありますが、後遺障害がないため幅は限定的になりやすいです。 |
| 後遺障害14級の神経症状 | 後遺障害慰謝料、逸失利益、医学的根拠、仕事への影響 | 通院状況や症状の一貫性が厳しく見られ、裁判または弁護士交渉による増額可能性が問題になりやすいです。 |
| 高次脳機能障害が疑われる事案 | 意識障害、脳損傷、神経心理学的検査、家族や職場の変化記録、将来介護 | 医療、法律、福祉、就労支援の連携が不可欠で、裁判の有無が総額に大きく影響します。 |
| 死亡事故 | 死亡慰謝料、死亡逸失利益、葬儀費、近親者固有の慰謝料、過失割合、相続関係 | 生活費控除率や基礎収入、将来収入の評価、過失割合で大きな争いがあると裁判を検討する価値が高くなります。 |
相談のタイミングは、示談提示後だけではありません。事故直後から時効が近い時期まで、それぞれ確認すべき内容が異なります。順番に見ることで、後から修正しにくい資料を早めに整えられます。
交通事故証明書、現場写真、映像、保険会社対応の初動を確認します。
健康保険、労災、通院頻度、医師の記録、休業資料を整理します。
必要な検査、診療科、画像資料、職場や家庭での支障記録を確認します。
等級、逸失利益、因果関係、追加資料の余地を確認します。
現在の提示額、裁判見込み額、証拠、費用、時間、リスクを比べます。
訴訟提起や合意による時効管理を検討します。
不法行為に基づく損害賠償請求権は、原則として損害および加害者を知った時から3年で時効にかかると説明されています。人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権は損害および加害者を知った時から5年、不法行為の時から20年で請求できなくなるとされています。
専門家の視点も複数あります。弁護士は損害項目の漏れ、裁判実務上の目安との差、証拠の強さ、費用対効果、時効、相手方の反論可能性を見ます。医師は診断名、治療必要性、症状固定、後遺障害、医学的関連性を見ます。保険担当者は支払基準、過失割合、既払金、治療の相当性、後遺障害等級、社内決裁可能額を見ます。警察資料や事故解析では、事故態様、速度、信号、一時停止、視認性、回避可能性、車両損傷、映像記録が重要です。
裁判で増額できるかは、個別事情と証拠で結論が変わります。
一般的には、裁判実務上の目安は損害額を考える際の参考になります。ただし、裁判所は個別事情と証拠に基づいて判断するため、事故態様、負傷程度、治療経過、既往症、過失割合によって結論が変わる可能性があります。具体的な見通しは、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、保険会社提示が妥当な場合もあります。ただし、被害者本人には基準差や損害項目の漏れが見えにくいことがあります。事故態様、後遺障害、休業損害、既払金、保険契約によって判断が変わるため、示談前に専門家の確認を受けることが考えられます。
一般的には、示談書に清算条項が入っている場合、後から追加請求することは難しいとされています。ただし、示談時に予測できなかった後遺障害が後で判明した場合など、例外が問題になることがあります。具体的な可否は、示談書の文言、症状の経過、医学的資料によって変わるため、弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、慰謝料は治療期間や実通院日数だけでなく、傷害内容、医師の診断、治療の必要性、相当性、症状の推移で評価されます。医師の診察が乏しく施術中心の場合、裁判で治療の必要性を争われることがあります。具体的には、医療記録や通院状況を整理して専門家へ確認する必要があります。
一般的には、判決で弁護士費用相当額が損害として一部認められることはありますが、実際の弁護士報酬全額とは限りません。また、訴訟費用と弁護士費用は区別されます。弁護士費用特約の有無、契約内容、請求額、認容額によって負担は変わるため、具体的な費用は依頼前に確認する必要があります。
次の一覧は、裁判を検討しやすい案件と、慎重に考えたい案件を対比したものです。左に近いほど裁判やADRを検討しやすく、右に近いほど示談や再交渉を含めた費用対効果の確認が重要になります。
| 裁判を検討しやすい案件 | 慎重に考えたい案件 |
|---|---|
| 保険会社提示と裁判見込み額に大きな差がある | 増額見込みが小さい |
| 後遺障害等級、逸失利益、将来介護費など高額項目が争点である | 証拠が弱く、裁判で不利な認定の可能性が高い |
| 事故態様について有利な映像や客観証拠がある | すでに妥当な提示が出ている |
| 医療記録が整っており、因果関係の立証可能性が高い | 被害者側の過失が増えるリスクがある |
| 弁護士費用特約があり、費用倒れリスクが小さい | 体調や生活状況から長期紛争に耐えにくい |
最後に、示談書に署名する前に確認したい項目を整理します。左の項目が抜けていないかを確認し、右の内容が提示書や資料で説明できるかを見れば、裁判に進むべき論点が残っているかを把握しやすくなります。
| チェック | 確認内容 |
|---|---|
| 示談書 | 清算条項、後遺障害、既払金、支払期限、遅延時の扱い |
| 慰謝料 | 自賠責水準か、任意保険水準か、裁判実務上の目安との差 |
| 後遺障害 | 症状固定日、後遺障害診断書、等級、異議申立ての余地 |
| 逸失利益 | 基礎収入、労働能力喪失率、喪失期間、係数 |
| 休業損害 | 休業損害証明書、収入資料、家事労働、事業所得 |
| 過失割合 | 事故類型、修正要素、ドライブレコーダー、刑事記録 |
| 医療費 | 治療打切り、健康保険、労災、未払治療費 |
| 物損 | 修理費、時価額、評価損、代車料、休車損 |
| 保険 | 弁護士費用特約、人身傷害保険、搭乗者傷害保険 |
| 時効 | 人身、物損、自賠責、任意保険、加害者請求との違い |
| 相談先 | 弁護士、法テラス、交通事故紛争処理センター、日弁連交通事故相談センター |
公的機関と中立的な交通事故関連機関の資料名を整理しています。