役員等賠償責任保険の対象者、対象会社、職務行為、損害、Side A・Side B・Side C、主要リスク、免責事由、会社法手続、事故初動までを体系的に整理します。
役員が訴えられたら自動的に保険金が出る、という単純な制度ではありません。
役員が訴えられたら自動的に保険金が出る、という単純な制度ではありません。
D&O保険、すなわち会社役員賠償責任保険は、取締役、監査役、執行役、一定の執行役員などが、役員としての職務遂行に関連して損害賠償請求を受けた場合に、法律上の損害賠償金や争訟費用などを補償する保険です。
ただし、D&O保険の補償範囲と免責事由は、保険証券、普通保険約款、特約、通知状況、和解の経過、各国法上の強行法規によって変わります。会社法上も、役員等賠償責任保険契約の内容決定手続と開示が問題になります。
次の一覧は、D&O保険で補償対象になるかを判断するときの7つの確認軸を示しています。上から順に確認すると、対象者、請求、損害、手続、免責、限度額のどこで問題が起きるかを読み取りやすくなります。
記名法人、国内外子会社、買収後子会社、売却済み子会社、JV、投資先を確認します。
会社役員としての業務遂行に起因する請求か、私的取引や専門業務リスクかを分けます。
claims-made型では、請求時点、延長報告期間、過去通知、一連の請求が重要です。
損害賠償金、和解金、争訟費用、調査費用、刑事手続費用、罰金・課徴金を区別します。
認識ある法令違反、犯罪、私的利益、既知事由、身体・財物、汚染などを確認します。
通知、同意、協力義務、支払限度額、免責金額、縮小支払割合、他保険条項を確認します。
会社役員賠償責任保険の役割と、会社法上の役員等賠償責任保険契約を確認します。
D&O保険は、Directors and Officers Liability Insuranceの略称で、日本語では会社役員賠償責任保険または役員等賠償責任保険と呼ばれます。典型的には会社が保険契約者となり、保険会社との間で契約を締結し、取締役、監査役、執行役、一定の執行役員、社外派遣役員、退任役員、相続人などを被保険者にします。
役員は経営上の裁量を持つ一方で、会社法423条1項の会社に対する責任、会社法429条の第三者に対する責任、善管注意義務・忠実義務、株主代表訴訟、金融商品取引法上の開示責任、労務・安全配慮関連責任などを負う可能性があります。
次の表は、役員責任の主な根拠とD&O保険を検討する意味を整理したものです。責任の種類ごとに請求者や根拠が異なるため、保険で支えたいリスクがどこにあるかを読み取ることが重要です。
| 責任の類型 | 主な根拠 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 会社に対する責任 | 会社法423条1項 | 任務懈怠により会社へ損害を与えた場合の責任です。株主代表訴訟と結びつきます。 |
| 第三者に対する責任 | 会社法429条 | 悪意または重大な過失がある職務執行により、第三者へ損害が生じた場合の責任です。 |
| 善管注意義務・忠実義務 | 会社法330条、民法644条、会社法355条 | 取締役が法令、定款、株主総会決議を守り、会社のため忠実に職務を行う義務です。 |
| 株主代表訴訟 | 会社法847条 | 株主が会社のために役員責任を追及する訴訟で、D&O保険の典型的な対象になります。 |
| 開示・証券関連責任 | 金融商品取引法など | 有価証券報告書や適時開示の不実記載が、上場会社の役員責任に発展することがあります。 |
| 労務・安全配慮関連責任 | 労働法、民法、会社法429条など | 過労死、ハラスメント、安全配慮義務違反、内部通報放置が役員個人への請求につながることがあります。 |
会社法430条の3は、株式会社が保険者との間で締結する保険契約のうち、役員等が職務執行に関して責任を負うこと、または責任追及請求を受けることによって生ずる損害を保険者が填補する契約を念頭に置きます。会社法上の役員等と、保険商品上の被保険者の範囲は一致しないことがあるため、両者を分けて確認します。
被保険者、対象会社、職務行為、請求、損害、争訟費用を順に確認します。
D&O保険の補償範囲は、複数の条件を積み上げて判断します。被保険者に該当し、対象会社や対象職務に関する行為であり、保険期間中または延長報告期間中に損害賠償請求がなされ、約款上の損害に該当し、通知・同意・協力義務を満たし、免責事由に当たらず、支払限度額や免責金額の範囲内に収まるかを確認します。
次の判断の流れは、保険金支払可能性を検討するときの順番を示しています。途中のどこかで条件を満たさないと、補償対象外、限度額不足、通知遅延、免責該当などの問題が顕在化するため、上から順に読みます。
現任、退任、社外、子会社、執行役員、相続人を確認します。
記名法人、子会社、社外派遣先、役員としての職務行為を見ます。
claims-made型では請求時点、延長報告期間、一連の請求が重要です。
損害賠償金、和解金、争訟費用、調査費用などを区別します。
認識ある法令違反、犯罪、既知事由などを確認します。
通知、同意、免責金額、縮小支払割合、他保険条項を見ます。
次の表は、被保険者として確認されやすい対象者を整理したものです。会社法上の役員等に限らず、保険商品上の定義が広がる場合があるため、証券と特約の文言から読み取ります。
| 区分 | 実務上の確認点 |
|---|---|
| 取締役 | 代表取締役、業務執行取締役、非業務執行取締役、社外取締役が含まれるかを確認します。 |
| 監査役・監査等委員・監査委員 | 機関設計ごとに保険証券上の表現を確認します。 |
| 執行役・会計参与・会計監査人 | 会社法上の役員等に含まれますが、商品上の対象範囲は個別に確認します。 |
| 執行役員・管理職従業員 | 会社法上の執行役とは異なるため、約款や特約で明示されているかを確認します。 |
| 社外派遣役員 | 子会社、関連会社、JV、投資先、業界団体へ派遣された役員が対象かを確認します。 |
| 退任役員・相続人・家族 | 退任後の請求、死亡後の相続人への請求、家族への関連請求が含まれるかを確認します。 |
対象会社と職務行為では、記名法人、国内外子会社、新規取得子会社、売却済み子会社、SPC、投資先、JV、ファンド、公益法人などの扱いを確認します。次の一覧は、職務行為として請求原因になりやすい分野を示しており、どの分野が普通約款で対象となり、どの分野が特約や別保険に回るかを読み取るために重要です。
有価証券報告書の虚偽記載、内部統制不備、会計不正、適時開示遅延が問題になります。
証券関連過労死、ハラスメント、個人情報漏えい、サイバー攻撃対応不備が役員監督責任として問題になります。
別保険併用製品不具合、食品表示、環境開示、利益相反取引、支配株主取引、買収防衛策が問題になります。
特約確認損害の定義では、補償されやすい費用と除外されやすい費用を明確に分けます。次の表は、判決、和解、争訟費用、調査費用、刑事手続費用、罰金などの扱いを比較するものです。補償可能性の列と注意点の列を合わせて確認します。
| 損害・費用 | 補償可能性 | 実務上の注意 |
|---|---|---|
| 判決による損害賠償金 | 中心的な補償対象です。 | 免責事由、限度額、縮小支払割合を確認します。 |
| 和解金 | 補償対象になることが多いです。 | 保険会社の事前同意、合理性、免責部分との按分を確認します。 |
| 弁護士費用・争訟費用 | 中心的な補償対象です。 | 前払い、事前同意、パネル弁護士、内枠・外枠を確認します。 |
| 調査対応費用 | 特約で補償されることがあります。 | 公的調査、第三者委員会、社内調査の定義を確認します。 |
| 刑事手続対応費用 | 特約で限定的に補償されることがあります。 | 有罪確定後の返還、犯罪行為免責、罰金不担保に注意します。 |
| 信頼回復広告費用・PR費用 | 特約で補償されることがあります。 | 支払限度額が小さい場合が多いため、別枠かを確認します。 |
| 課徴金・罰金・税金 | 原則として補償されません。 | 公序、強行法規、損害定義から外れることを確認します。 |
| 懲罰的損害賠償・契約上加重された賠償金 | 制限または除外されやすいです。 | 国・州法や法律上当然負う責任との差額を確認します。 |
争訟費用の前払いは、役員個人の防御に直結します。訴訟や調査は長期化しやすく、判決前に数千万円から数億円規模の防御費用が発生することもあるため、賠償金限度額だけでなく費用補償の発動条件と支払速度を確認します。
役員個人、会社補償、会社自身の補償を分けて理解します。
D&O保険の補償範囲を理解するには、国際的に使われるSide A、Side B、Side Cという分類が有用です。誰に保険金が支払われ、会社補償契約や会社自身の損害とどう関係するかを分けることで、補償の穴を見つけやすくなります。
次の一覧は、Side A・Side B・Side Cの違いを示しています。役員個人を守る機能、会社が補償した支出を戻す機能、会社自身の証券関連リスクを支える機能を読み分けることが重要です。
会社が補償できない場合や補償しない場合に、保険会社が役員個人の損害を直接補償します。株主代表訴訟、会社倒産、会社補償不能、会社との利害対立で重要です。
会社が役員へ補償契約や規程に基づいて損害賠償金や争訟費用を補償した場合に、会社の支出を保険会社が補償します。
会社自身が損害賠償請求を受けた場合の補償です。証券関連請求や会社有価証券賠償責任補償などで問題になります。
会社法手続では、D&O保険の内容決定と開示を、会社補償契約や責任限定契約と混同しないことが大切です。次の表は、取締役会決議や開示で資料化すべき事項を整理しています。各行は、取締役会が保険契約の実質を確認したと説明するための判断材料です。
| 決議・報告事項 | 内容 |
|---|---|
| 保険契約者・保険者 | どの会社が契約者となり、どの保険会社が引き受けるかを示します。 |
| 被保険者の範囲 | 役員、執行役員、子会社役員、退任役員、相続人、社外派遣役員などを示します。 |
| 保険期間・補償内容 | 始期、終期、延長報告期間、Side A、Side B、Side C、費用補償、特約を示します。 |
| 支払限度額・免責金額 | 1請求、保険期間中総額、追加限度額、自己負担額、縮小支払割合を示します。 |
| 保険料と会社補償との関係 | 会社負担、役員負担、子会社按分、補償契約・補償規程との整合を示します。 |
| 主要免責と適正性確保措置 | 故意、犯罪、認識ある法令違反、私的利益、既知事由、身体・財物、汚染と、内部統制や取締役会報告を示します。 |
| 開示方針 | 事業報告、株主総会参考書類、有価証券報告書、コーポレートガバナンス報告書との整合を示します。 |
特別利害関係取締役の扱いでは、全取締役が同一条件で被保険者になる通常のD&O保険と、一部役員に有利な契約を分けます。社外取締役や監査役等への説明、取締役会規程、関連当事者取引規程、利益相反管理規程、外部専門家の確認、議事録の記載範囲をあらかじめ整理します。
公開会社では、事業報告に被保険者の範囲と契約内容の概要を記載します。株主総会参考書類でも、候補者を被保険者とする保険契約を締結している場合や締結予定がある場合に、契約内容の概要を記載する場面があります。保険契約の詳細条件を過度に開示せず、株主が重要な点を理解できる程度に補償対象、保険料負担、職務執行適正性確保措置を示します。
株主代表訴訟、第三者訴訟、証券、M&A、労務、サイバー、独禁法を整理します。
D&O保険で問題になるリスクは、役員個人への請求だけでなく、会社補償、会社費用、証券関連、調査費用、雇用関連、海外訴訟まで広がります。もっとも、各リスクが常に補償対象になるわけではなく、普通約款、特約、別保険との役割分担を確認します。
次の一覧は、主要リスクごとにD&O保険で確認する論点をまとめたものです。リスク名だけで判断せず、誰への請求か、どの費用か、免責や特約のどこを見るかを読み取ることが重要です。
役員個人の損害賠償金・争訟費用、会社の補助参加費用、提訴請求時点の通知、和解手続、認識ある法令違反の免責を確認します。
債権者、取引先、従業員、顧客、投資家からの請求が対象です。身体障害、財物損壊、人格権侵害は特約の有無を確認します。
虚偽記載、内部統制不備、海外証券訴訟、クラスアクション、会社自身への請求、会社有価証券賠償責任補償を確認します。
買収価格、フェアネス、利益相反、少数株主保護、ランオフカバー、売却済み子会社、表明保証保険との役割分担を確認します。
過労死、ハラスメント、違法残業、内部通報者保護違反について、役員監督責任とEPL保険の分担を確認します。
役員の監督義務違反はD&O保険の論点になり得ますが、事故対応費用や事業中断はサイバー保険との分担を確認します。
課徴金、罰金、没収、追徴金は通常対象外です。役員個人への請求や争訟費用でも、認識ある法令違反や犯罪行為の免責を確認します。
証券関連や海外訴訟では、賠償額だけでなく、防御費用、フォレンジック会計、eディスカバリ、翻訳、海外専門家費用が大きくなります。支払限度額は、売上高だけでなく、時価総額、株主数、海外上場、ADR、M&A頻度、規制業種性、子会社数、社外役員数、事故履歴を踏まえて検討します。
免責事由、免責金額、縮小支払割合、支払限度額を分けて確認します。
D&O保険の免責事由は、保険会社が保険金を支払わない事由です。企業法務の現場では、免責金額と混同されやすいですが、免責事由に該当すると高額な支払限度額を設定していても補償されません。
次の表は、免責事由、免責金額、縮小支払割合、支払限度額の違いを整理したものです。似た言葉でも効果が異なるため、まず用語の違いを読み取ることが重要です。
| 用語 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 免責事由 | 該当すると保険金が支払われない事由です。 | 認識ある法令違反、犯罪行為、私的利益取得、既知請求などです。 |
| 免責金額 | 補償対象であっても、一定額までは自己負担となる仕組みです。 | 1請求あたり500万円、会社補償部分1000万円などです。 |
| 縮小支払割合 | 補償対象損害に一定割合を乗じて保険金を算定する仕組みです。 | 損害額から免責金額を控除した後に90%を支払う設計などです。 |
| 支払限度額 | 保険期間中または1請求あたりの上限です。 | 保険期間中総支払限度額10億円などです。 |
次の一覧は、D&O保険で確認すべき主要な免責事由を整理しています。各項目は、補償対象かどうかだけでなく、争訟費用の前払い、通知、和解、会社補償との整合にも影響するため、約款ごとの文言を確認します。
違法な私的利益、犯罪行為、認識ある法令違反、違法報酬、インサイダー取引、利益供与などを確認します。
法務部、外部専門家、監査、内部通報、行政指導、反対意見などを認識していたかが問題になります。
有罪確定までの前払い、有罪確定後の返還、法人と役員個人の刑事弁護費用の区別を確認します。
違法報酬、ストックオプション不正、キックバック、贈賄、インサイダー取引などを確認します。
保険開始前の請求、請求のおそれ、過去通知済み事情、一連の請求、遡及日を確認します。
死亡、疾病、精神的苦痛、財物損壊、人格権侵害は、特約や別保険の領域になることがあります。
環境事故そのものと、環境関連開示や監督責任としての役員責任を分けて確認します。
会社対役員、役員間、破産管財人、株主代表訴訟、元役員、雇用関連請求の例外を確認します。
一定割合以上の議決権を有する株主からの請求や支配株主関連請求の扱いを確認します。
投資助言、医療行為、設計監理、システム実装などは専門職賠償責任保険との分担を確認します。
約款上は対象に見えても、制裁法令や現地保険規制で支払えない場合があります。
税金、罰金、課徴金、懲罰的損害賠償、契約上加重された賠償金を確認します。
次の比較表は、経営判断の失敗と免責事由に近い行為を分けて整理したものです。結果が悪かっただけなのか、法令違反の認識や私的利益取得があるのかによって、補償可否の読み方が変わります。
| 状況 | 補償可否の考え方 |
|---|---|
| 経営判断が結果として失敗した場合 | 一般的にはD&O保険の想定リスクであり、免責に直ちに該当するとは限りません。 |
| 注意義務違反があるが法令違反の認識がない場合 | 補償対象となる余地があります。重過失の扱いは約款と会社補償で分けて確認します。 |
| 法令違反の可能性を認識しながら実行した場合 | 認識ある法令違反免責が問題になります。 |
| 私的利益を違法に取得した場合 | 典型的な免責事由として扱われます。 |
| 粉飾、隠蔽、虚偽説明を意図的に行った場合 | 認識ある法令違反、犯罪行為、私的利益などの免責が問題になります。 |
| 贈賄、利益供与、インサイダー取引の場合 | 典型的な免責事由として厳しく確認されます。 |
保険会社が支払う仕組みと、会社が役員を補償する仕組みを分けます。
会社補償契約とは、会社が役員等に対し、職務執行に関して法令違反が疑われ、または責任追及請求を受けたことに対処するための費用や、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合の一定の損失を補償する契約です。会社法430条の2が規律しています。
次の比較表は、D&O保険と会社補償契約の違いを整理したものです。支払主体、根拠、会社に対する責任、倒産時の実効性が異なるため、どちらか一方だけで足りると考えないことが重要です。
| 項目 | D&O保険 | 会社補償契約 |
|---|---|---|
| 支払主体 | 保険会社です。 | 会社です。 |
| 根拠 | 保険契約、約款、特約です。 | 会社法430条の2、補償契約、社内規程です。 |
| 主な対象 | 役員個人の賠償金・争訟費用、会社補償支出、会社費用などです。 | 防御費用、第三者損害に関する一定の損失です。 |
| 会社に対する責任 | 契約上補償されることがあります。 | 原則として補償できない部分があります。 |
| 悪意・重過失 | 約款免責に該当しない限り補償可能性が残る場合があります。 | 第三者損害について悪意・重大な過失がある場合、補償できない部分があります。 |
| 会社倒産時 | Side Aが機能する可能性があります。 | 会社が支払不能なら機能しません。 |
| 手続・開示 | 会社法430条の3の決議と保険契約管理を確認します。 | 会社法430条の2の決議、補償実行時の報告、開示を確認します。 |
会社補償は、会社が役員を支える制度ですが、会社自身が利害対立の当事者になる場合や会社に資力がない場合には機能しません。D&O保険、とくにSide Aは、会社補償だけでは埋められない役員保護の中核になります。
経営判断、重過失、和解金、調査費用、刑事・行政対応、利益相反を整理します。
D&O保険の補償範囲では、経営判断原則、重過失、和解金、調査費用、行政調査・刑事手続対応費用、社外役員の追加限度額、保険金請求時の利益相反が実務上よく問題になります。いずれも、一般論だけでなく約款文言、事実認定、通知、同意、限度額管理に左右されます。
次の一覧は、実務で争点になりやすい項目を整理しています。各項目では、補償対象かどうかだけでなく、保険会社の同意、費用の合理性、会社法手続、複数被保険者の利益相反を読み取ることが重要です。
結果として失敗しただけで当然に責任が発生するわけではありません。当時の情報収集、意思決定過程、利益相反、専門家意見を確認します。
責任判断重過失だから必ず保険金が出ないとは限らず、認識ある法令違反、犯罪行為、私的利益取得に当たるかを確認します。
免責確認保険会社の事前同意、対象請求と対象外請求の按分、免責事由を認める文言の有無、株主代表訴訟の手続を確認します。
同意管理社内調査、第三者委員会、公的調査、フォレンジック、PR、翻訳、eディスカバリの範囲と限度額を確認します。
特約確認公的調査等対応費用や刑事手続対応費用の特約、有罪確定時の返還、罰金・課徴金不担保を確認します。
返還条項社外役員専用限度額、Side A専用限度額、退任後延長補償、個別通知体制を確認します。
人材確保会社が役員を訴える可能性、旧経営陣への責任追及、監査役等の役割、保険会社への情報提供を整理します。
有事対応保険金請求においては、会社、現経営陣、旧経営陣、社外取締役、監査役、株主、債権者、規制当局、保険会社の利害が対立することがあります。事故発生時には、保険対応専任チームと訴訟対応チームを分けつつ、弁護士、保険仲介人、保険会社とのコミュニケーションを一元管理します。
取締役会提出前、約款レビュー、限度額設定、更新プロセスを整理します。
D&O保険は、毎年の更新時に実質的なリスク評価を行います。前年と同じように見える更新でも、保険料、限度額、免責、特約、被保険者範囲、海外子会社、米国リスク、除外条項が変わり得ます。
次の表は、取締役会へ提出する前に確認する項目をまとめたものです。法的手続、被保険者範囲、会社補償、限度額、Side A、争訟費用、免責、既知事由、海外リスク、グループ、開示、税務、事故対応を横断的に読み取ります。
| チェック項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 法的手続 | 会社法430条の3に基づく決議が必要か、決議機関はどこかを確認します。 |
| 被保険者範囲 | 現任、退任、新任、社外、子会社、海外、執行役員、管理職を含むかを確認します。 |
| 会社補償 | 補償契約、補償規程、D&O保険のSide Bが整合しているかを確認します。 |
| 支払限度額 | 代表訴訟、証券訴訟、海外訴訟、調査費用を踏まえて十分かを確認します。 |
| Side A | 会社倒産や会社補償不能時に十分な役員個人保護があるかを確認します。 |
| 争訟費用 | 前払い、事前同意、内枠・外枠、パネル弁護士を確認します。 |
| 免責事由 | 認識ある法令違反、犯罪、私的利益、既知事由、身体・財物、汚染などを確認します。 |
| 既知事由 | 内部通報、行政調査、訴訟予告、重大インシデントを申告・通知したかを確認します。 |
| 海外・グループ・開示 | 米国・カナダ、欧州、中国、制裁、海外上場、子会社買収・売却、事業報告、参考書類を確認します。 |
| 税務・事故対応 | 保険料負担、給与課税、損金性、子会社負担、通知窓口、保険会社同意手順を確認します。 |
約款レビューでは、条項名を眺めるだけでは足りません。次の一覧は、D&O保険の普通約款と特約で重点的に確認する25項目を示しています。定義、通知、免責、同意、按分、他保険、支配権変動、制裁、準拠法を一連のものとして確認します。
被保険者、会社・子会社、職務行為、損害賠償請求、損害、争訟費用の定義を確認します。
1〜6保険期間、遡及日、継続契約、一連の請求、通知条項、既知事由を確認します。
7〜9認識ある法令違反、被保険者間訴訟、身体・財物・汚染、証券・会社補償、雇用関連、調査費用を確認します。
10〜15前払いと返還、和解同意、拒否時条項、按分条項、他保険条項、分離条項を確認します。
16〜20支配権変動、ランオフ、制裁制限、紛争解決、準拠法、解約・不更新、上乗せ保険条件を確認します。
21〜25更新時の実務プロセスは、部門横断で進めます。法務・リスク管理が訴訟や内部通報を棚卸しし、財務・IRが開示リスクや資金調達を整理し、人事・労務が労務紛争を確認し、情シス・個人情報部門がサイバーリスクを整理し、海外法務が海外規制を確認します。そのうえで保険仲介人、外部専門家、取締役会、開示担当が連携します。
通知遅延、保険会社同意、防御体制、取締役会報告を管理します。
D&O保険の補償を確保するためには、事故発生直後の初動が重要です。請求書、訴状、当局通知、内部通報、報道資料を保全し、保険証券・約款・通知条項を確認し、外部専門家や保険仲介人と連携します。
次の時系列は、事故発生後に何をいつ行うかを整理したものです。時間が進むほど通知、同意、証拠保全、開示、和解管理が複雑になるため、左の時点と右の対応を合わせて読みます。
請求書、訴状、当局通知、内部通報、報道資料を保全し、保険担当、法務、経営陣へ共有します。
保険証券、約款、通知条項を確認し、外部専門家や保険仲介人に連絡し、利益相反を整理します。
保険会社へ通知し、弁護士選任、費用見積、事前同意、初期対応方針を確認します。
社内調査、証拠保全、取締役会報告、適時開示要否、当局対応、メディア対応を統合します。
争訟費用の請求、和解同意、免責論点、限度額消化、複数被保険者間の費用配分を管理します。
通知すべき可能性がある事象は、訴状、内容証明郵便、弁護士名の通知書、株主からの提訴請求書、監査役等への責任追及要求、行政調査開始通知、報告徴求、立入検査、内部通報、具体化した報道、M&A後に発覚した重大不正などです。
防御体制では、どの専門家を起用するか、時間単価、予算、複数役員の代理、会社と役員の利害対立、海外訴訟の現地専門家、調査委員会と防御弁護の役割分担、和解交渉の権限、保険会社の同意を確認します。取締役会・監査役会には、事案概要、役員責任の可能性、D&O保険の通知状況、会社補償契約、調査体制、適時開示、免責事由、利益相反、費用見込みを報告します。
上場会社以外でも、役員個人への請求リスクは現実に存在します。
D&O保険は上場会社だけの保険ではありません。中小企業や非上場会社でも、倒産時の債権者請求、取引先への虚偽説明、労務管理不備、親族株主・少数株主との対立、事業承継・M&A、規制違反、金融機関対応により役員個人の責任が問題になります。
次の一覧は、中小企業・非上場会社で確認すべき観点を整理しています。限度額を小さくしすぎると、争訟費用だけで役員個人に大きな負担が生じるため、会社規模だけでなく紛争の起こり方を読み取ることが重要です。
親族株主や少数株主からの責任追及、事業承継時の対立、M&A後の不正会計発覚を確認します。
役員個人保証、金融機関対応、倒産リスク、粉飾決算や資金使途違反に関連する請求を確認します。
労務・安全衛生リスクが高い業種や、許認可・行政規制が厳しい業種では、役員監督責任を確認します。
代表者と会社の資産・取引、子会社・関連会社・個人事業との取引、株主総会決議の要否を確認します。
業種ごとに、D&O保険だけで足りるリスクと、別保険で設計すべきリスクは異なります。次の表は、業種別に注意する論点を整理したものです。役員監督責任と事業そのものの賠償責任を分けて読むことが重要です。
| 業種 | 主な注意点 |
|---|---|
| 金融機関・証券・保険 | 顧客資産、適合性、マネロン、反社、当局検査、海外制裁、E&Oや犯罪保険との総合設計を確認します。 |
| IT・AI・データ事業 | 個人情報、著作権、営業秘密、アルゴリズム差別、サイバー事故、システム障害とE&O・サイバー保険を確認します。 |
| 医薬・ヘルスケア | 薬機法、品質管理、医療事故、研究不正、贈収賄、身体障害免責、専門職業務免責を確認します。 |
| 建設・不動産 | 談合、建設業法、下請法、土壌汚染、地震・水害、財物損壊・汚染免責を確認します。 |
| 食品・消費財 | 食品表示、景品表示法、リコール、品質不正、SNS炎上、PL保険との分担を確認します。 |
| エネルギー・環境 | 環境汚染、気候変動開示、ESG、排出規制、核・天災免責とサステナビリティ開示責任を分けます。 |
D&O保険は役員リスク管理の重要な制度ですが、過信すると事故対応で大きな誤算が生じます。責任そのものを消す制度ではなく、約款と特約の範囲で損害や費用を補償する制度です。
次の一覧は、実務で見かける誤解を整理したものです。誤解の内容と正しい見方を並べて確認することで、取締役会説明や役員研修で伝えるべきポイントを読み取れます。
D&O保険は責任発生を消す制度ではありません。会社法、金融商品取引法、民法、労働法、各業法で責任を判断します。
違法な私的利益取得、犯罪行為、認識ある法令違反、違法報酬、インサイダー取引は典型的な免責事由です。
会社補償とD&O保険では扱いが異なります。約款上の免責事由に該当するかを確認します。
会社補償契約、Side B、保険会社の事前同意、費用の合理性、免責、限度額、通知義務を確認します。
D&O保険は役員責任が中心です。フォレンジック、通知、事業中断、復旧、個人情報対応はサイバー保険で設計する領域です。
現行実務では、会社法430条の3に基づく適法な会社負担であれば、給与課税不要とする取扱いが示されています。
補償対象、手続、会社補償、退任後、過去行為、刑事費用、更新を一般情報として整理します。
一般的には、被保険者の定義、損害賠償請求の定義、損害の定義、保険金を支払わない場合、通知条項、支払限度額、免責金額、争訟費用の前払い条項を確認します。ただし、商品や特約によって重要条項は変わるため、普通保険約款と特約を確認する必要があります。
一般的には、D&O保険の重要な補償対象として設計されることがあります。ただし、役員個人の賠償金、争訟費用、会社の補助参加費用、和解金、訴訟告知対応費用の扱いは契約内容で変わります。具体的な補償可否は約款と事実関係で確認します。
一般的には不十分と整理されます。会社法430条の3は保険契約の内容決定を求めているため、被保険者範囲、補償内容、保険期間、支払限度額、免責金額、主要免責、保険料負担、職務執行適正性確保措置などを資料化して決議します。
一般的には不要とはいえません。会社補償は会社が支払う制度であり、会社に資力がない場合、会社と役員が対立する場合、会社に対する責任が問題となる場合には限界があります。D&O保険、とくにSide Aは会社補償の限界を補完します。
一般的には、退任後延長補償、ランオフカバー、延長報告期間、継続契約、退任役員の定義によって変わります。退任後に会社が保険を更新しなかった場合の保護は、社外取締役や退任役員にとって特に重要です。
一般的には、claims-made型では過去の行為に起因する請求でも、保険期間中に請求がなされれば補償対象となる余地があります。ただし、遡及日、既知事由、保険開始前請求、継続契約、過去訴訟免責で除外されることがあります。
一般的には、特約により限定的に補償されることがあります。ただし、罰金、追徴金、没収、課徴金は通常対象外です。犯罪行為が認定された場合には、免責または前払い済み費用の返還が問題になることがあります。
一般的には、Side Aの限度額、会社補償契約、退任後補償、社外役員専用限度額、争訟費用前払い、免責事由、会社倒産時の補償、専門家選任、保険会社通知体制を確認します。就任承諾書や責任限定契約とも合わせて確認します。
一般的には、通知すべき可能性が高いです。免責該当の可能性があるからといって通知を遅らせると、通知義務違反や補償機会喪失のリスクが高まります。通知文言では、事実と評価を区別する必要があります。
一般的には、毎年同じとは限りません。保険市場、会社のリスク、海外訴訟動向、M&A、業績、株価、規制、事故履歴により、保険料、限度額、免責金額、特約、除外条項が変わります。更改時には取締役会決議と開示の前提を見直します。
平時設計、有事対応、事後改善を制度として運用します。
D&O保険は単なる購買契約ではなく、ガバナンス、訴訟管理、危機対応、税務、開示、保険実務が交差する制度です。法務、商事法務、リスク管理、内部監査、監査役、会計、税務、保険仲介人、保険会社が役割を分けて関与します。
次の表は、専門職・部門ごとの主な役割を整理しています。どの担当がどの論点を持つかを明確にすると、更新時の属人化や事故時の連絡漏れを防ぎやすくなります。
| 部門・専門職 | 主な役割 |
|---|---|
| 法務・企業内専門家 | 会社法430条の3、会社補償契約、取締役会決議、開示、約款レビュー、事故通知、和解、免責、利益相反を確認します。 |
| 商事法務・取締役会事務局 | 議案、議事録、株主総会参考書類、事業報告、責任限定契約、補償契約との整合を管理します。 |
| コンプライアンス・リスク管理 | 免責事由に該当し得る不正の予防と、D&O保険、サイバー保険、EPL保険、PL保険などの統合設計を行います。 |
| 内部監査・監査役等 | 法令違反の兆候、内部統制不備、経営判断過程の記録化、株主代表訴訟対応、職務執行適正性を確認します。 |
| 会計・税務 | 会計不正、内部統制、開示リスク、保険料の税務処理、子会社按分、役員給与課税、損金性を確認します。 |
| 保険仲介人・保険会社 | 保険市場、約款比較、限度額、免責、特約、事故通知、更新交渉、保険金支払、和解同意、免責判断に関与します。 |
実務設計は、平時、有事、事後改善の3段階で見ると整理しやすくなります。次の一覧は、各段階で何を制度化するかを示しており、D&O保険を毎年の保険更新だけで終わらせないために重要です。
取締役会で補償範囲と免責事由を確認し、会社補償契約・責任限定契約・D&O保険を一体でレビューし、通知基準と開示テンプレートを整備します。
事実認定前の断定を避けつつ通知を遅らせず、会社と役員の利害対立、専門家選任、費用予算、和解前同意、限度額消化を管理します。
保険金請求の結果を踏まえて約款、特約、限度額を見直し、免責や通知遅延が問題になった場合は内部統制、教育、事故対応規程を改定します。
補償範囲、免責、会社法手続、事故対応を一つのガバナンスプロセスにします。
D&O保険の補償範囲と免責事由は、企業法務、保険実務、会社法、訴訟実務、危機管理が交差する高度なテーマです。役員が適切なリスクテイクを行い、優秀な人材が経営に参画するための重要な制度です。一方で、故意の違法行為、犯罪行為、認識ある法令違反、私的利益取得を補償する制度ではありません。
次の強調部分は、企業がD&O保険を運用するときの到達点を示しています。補償範囲、免責事由、会社法手続、事故対応を別々に管理せず、一つのガバナンスプロセスとして運用することが読み取りどころです。
誰が、どの職務行為について、どの請求を受けたとき、どの損害・費用が補償されるのかを具体的に把握し、免責事由を経営陣に共有し、取締役会決議、開示、事故通知、保険会社同意、和解管理までを制度化します。
このページの内容を確認するための法令・公的資料・保険実務資料です。