2σ Guide

取締役の忠実義務違反と
競業避止義務

会社法356条1項1号を中心に、承認実務、損害賠償、退任後競業、営業秘密、社内調査、取締役会運営までを一般情報として整理します。

356条競業取引承認
423条2項損害推定
3要件営業秘密
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取締役の忠実義務違反と 競業避止義務

会社法 356条1項1号を中心に、承認実務、損害賠償、退任後競業、営業秘密、社内調査、取締役会運営までを一般情報として整理します。

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取締役の忠実義務違反と 競業避止義務
会社法 356条1項1号を中心に、承認実務、損害賠償、退任後競業、営業秘密、社内調査、取締役会運営までを一般情報として整理します。
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2σ GUIDE ・ VIDEO

  • 取締役の忠実義務違反と 競業避止義務
  • 会社法 356条1項1号を中心に、承認実務、損害賠償、退任後競業、営業秘密、社内調査、取締役会運営までを一般情報として整理します。

POINT 1

  • 取締役の忠実義務違反と競業避止義務の全体像
  • 核心は、無承認の競業取引を防ぎ、会社の利益を犠牲にしない手続を残すことです。
  • 会社法356条1項1号を中心に、承認、損害、退任後、営業秘密、社内調査までを一つの地図にします。

POINT 2

  • 取締役の忠実義務違反と競業避止義務の用語整理
  • 現実の事業
  • 会社案内、契約書、売上台帳、Webサイト、事業部資料から、実際に収益化している範囲を確認します。
  • 将来事業
  • 事業計画、予算、PoC、研究開発資料、M&A 資料から、具体的準備が進む領域を見ます。

POINT 3

  • 取締役の競業避止義務を支える会社法の条文
  • 会社法330条、355条、356条、365条、369条、423条、429条を連動して読みます。
  • 取締役と会社の関係は委任関係であり、会社法330条と民法644条により善管注意義務が基礎になります。
  • 会社法355条は忠実義務を定め、356条1項1号は競業取引の事前開示・承認を求めます。
  • 取締役会設置会社では、365条により承認機関が取締役会になります。

POINT 4

  • 取締役の忠実義務違反と競業避止義務の成立要件
  • 虚偽または不足した説明
  • 重要な顧客、利益、資本関係、秘密情報利用を隠している場合は、承認の前提が崩れます。
  • 承認範囲の逸脱
  • 対象顧客、地域、期間、金額、商品範囲を超えた取引は、別途問題になります。

POINT 5

  • 取締役の競業取引を承認する実務手順
  • 1. 重要事実を資料化します:取引相手、対象顧客、期間、金額、利益、会社情報の不使用措置を具体的に書面化します。
  • 2. 法務、監査役、社外役員へ共有します:会社法356条・365条該当性、承認機関、利害関係取締役の扱いを確認します。
  • 3. 当該取締役を議決から外します:説明後の退席、定足数、決議要件、承認条件を議事録に残します。
  • 4. 報告と再承認を運用します:取引実績、変更、利益、顧客接触を定期的に確認し、範囲外の行為は再承認を検討します。

POINT 6

  • 取締役の競業避止義務違反と損害賠償責任
  • 会社法423条1項の任務懈怠責任と423条2項の損害推定を中心に整理します。
  • 競業取引で得た利益額が、会社の損害額と推定される場合があります。
  • 取締役が競業避止義務に違反した場合、会社法423条1項に基づき会社に対する損害賠償責任が問題になります。
  • 次の重要ポイントは、会社法423条2項の損害推定の使いどころを示しています。

POINT 7

  • 取締役の退任後競業、営業秘密、ノウハウ流出
  • 退任後の自由と制限、秘密保持、営業秘密三要件、技術提供型競業を整理します。
  • 秘密管理性
  • 非公知性
  • 取締役が退任すれば、原則として会社法356条1項1号の取締役としての競業避止義務からは離れます。

POINT 8

  • 取締役の競業避止義務違反で問題になる類型
  • 競合会社設立、顧問就任、顧客移転、技術提供、グループ会社、スタートアップ、M&A、副業を整理します。
  • 競業避止義務違反は、単純な同業会社設立だけではありません。
  • 重要なのは、どの類型でも「会社の顧客、情報、人材、信用、商機」が移っていないかを見ることです。
  • 各項目から、初動で集める資料とリスクの方向性を読み取ってください。

まとめ

  • 取締役の忠実義務違反と 競業避止義務
  • 取締役の忠実義務違反と競業避止義務の用語整理:忠実義務、善管注意義務、競業避止義務、利益相反取引を分けて把握します。
  • 取締役の競業避止義務を支える会社法の条文:会社法330条、355条、356条、365条、369条、423条、429条を連動して読みます。
  • 取締役の忠実義務違反と競業避止義務の成立要件:取引、会社の事業の部類、自己または第三者のため、重要事実の開示を順番に確認します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

取締役の忠実義務違反と競業避止義務の全体像

会社法356条1項1号を中心に、承認、損害、退任後、営業秘密、社内調査までを一つの地図にします。

取締役の忠実義務違反と競業避止義務は、取締役が会社の情報、顧客、商機、信用を利用して自己または第三者の利益を優先する場面を扱う企業法務の中核論点です。会社法355条の忠実義務、356条1項1号の競業取引承認、365条の取締役会承認、423条の損害賠償責任を連動して確認します。

次の重要ポイントは、このページで扱う論点の入口を表しています。なぜ重要かというと、競業取引では「同業かどうか」だけでなく、承認、情報利用、損害、退任後契約、営業秘密が同時に問題になるためです。読者は、どの段階で会社側と取締役側の確認事項が変わるかを読み取ってください。

核心は、無承認の競業取引を防ぎ、会社の利益を犠牲にしない手続を残すことです。

取締役が会社の事業の部類に属する取引を自己または第三者のために行う場合、重要事実の開示と適法な承認が出発点になります。承認後も、承認範囲、秘密情報の不使用、取引後報告、損害防止策が問われます。

実務上の検討順序は、行為が取引に当たるか、会社の事業の部類に属するか、誰の利益のためか、事前承認があるか、損害または利益があるか、営業秘密や契約違反が重なるかという流れです。

次の判断の流れは、競業避止義務違反を検討するときの基本順序を示しています。順番が重要なのは、承認の有無だけを見ても、そもそも競業取引に当たるか、承認範囲を超えたか、営業秘密を使ったかを見落とすためです。上から順に、会社法上の要件と周辺責任の分岐を確認してください。

競業避止義務違反の基本判断

行為者の地位

問題行為時に取締役であったかを確認します。

取引該当性

売買、紹介、営業支援、技術提供など実質的な経済活動を見ます。

会社の事業の部類

現実の事業、準備中の事業、顧客、技術、市場の重なりを見ます。

承認なし
責任リスク

任務懈怠、損害推定、差止め、調査対応が問題になります。

承認あり
範囲確認

開示内容、承認条件、報告、秘密情報不使用を確認します。

Section 01

取締役の忠実義務違反と競業避止義務の用語整理

忠実義務、善管注意義務、競業避止義務、利益相反取引を分けて把握します。

取締役は、会社から経営判断と業務執行・監督を委ねられた会社法上の役員です。代表取締役や業務執行取締役だけでなく、社外取締役や非業務執行取締役も、経営情報や事業計画に触れる以上、忠実義務、秘密保持、利益相反管理を意識する必要があります。

次の比較表は、関連する義務と取引類型の違いを整理したものです。なぜ重要かというと、競業避止義務だけを見ていると、利益相反取引、営業秘密、善管注意義務の論点を落としやすいためです。左列で概念を確認し、右列で実務上どの資料や場面を見るかを読み取ってください。

概念意味実務で見るポイント
忠実義務会社の利益のために誠実に職務を行い、自己または第三者の利益を不当に優先しない義務です。会社機会の奪取、情報流用、会社財産の私的利用、利益相反の開示を確認します。
善管注意義務会社から委任を受けた者として合理的な注意を尽くす義務です。監督、情報収集、リスク管理、取締役会への報告を確認します。
競業避止義務取締役が会社の事業の部類に属する取引を無承認で行わない義務です。会社法356条1項1号、365条、承認範囲、取引後報告を確認します。
利益相反取引取締役と会社の利益が衝突する直接取引・間接取引です。会社法356条1項2号・3号、特別利害関係取締役、関連当事者取引を確認します。

最高裁大法廷昭和45年6月24日判決は、忠実義務について、民法上の善管注意義務を敷衍し明確にしたものという趣旨を示しています。ただし実務では、忠実義務は競業取引、自己取引、会社機会の奪取、情報流用を評価する中核概念として使われます。

次の一覧は、会社の事業の部類に属する取引かを判断するときの主な視点をまとめています。重要なのは、定款目的の文言だけでなく、実際の事業、準備中の事業、顧客、技術、市場の代替性を合わせて見ることです。各項目から、どの資料を集めるべきかを読み取ってください。

現実の事業

会社案内、契約書、売上台帳、Webサイト、事業部資料から、実際に収益化している範囲を確認します。

将来事業

事業計画、予算、PoC、研究開発資料、M&A資料から、具体的準備が進む領域を見ます。

顧客と市場

CRM、顧客リスト、提案書、代理店契約、商圏、市場調査から代替性を確認します。

技術と情報

特許、営業秘密、設計資料、ソースコード、実験データが競争力の源泉かを見ます。

Section 02

取締役の競業避止義務を支える会社法の条文

会社法330条、355条、356条、365条、369条、423条、429条を連動して読みます。

取締役と会社の関係は委任関係であり、会社法330条と民法644条により善管注意義務が基礎になります。会社法355条は忠実義務を定め、356条1項1号は競業取引の事前開示・承認を求めます。取締役会設置会社では、365条により承認機関が取締役会になります。

次の比較表は、競業避止義務に関係する主要条文を役割別に整理しています。なぜ重要かというと、条文ごとに承認、議決排除、損害推定、第三者責任という役割が異なるためです。表では、条文番号と実務上の使いどころを対応させて読んでください。

条文位置づけ実務上の意味
会社法330条・民法644条委任関係と善管注意義務取締役は受任者として合理的な注意を尽くします。
会社法355条忠実義務会社のため忠実に職務を行う義務の根拠になります。
会社法356条1項1号競業取引の承認規制自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引をする場合に重要事実の開示と承認を求めます。
会社法365条取締役会設置会社の承認と報告取締役会承認と取引後の重要事実報告を確認します。
会社法369条2項特別利害関係取締役の議決排除当該取締役が議決に加わらない運用を確認します。
会社法423条会社に対する損害賠償責任任務懈怠責任と競業取引による利益額の損害推定を検討します。
会社法429条第三者責任悪意または重過失により第三者へ損害を与えた場合に問題になります。

営業秘密の持ち出しや使用を伴う場合は、不正競争防止法も重要です。営業秘密として保護されるには、秘密管理性、有用性、非公知性という三つの要件を満たす整理が必要です。重大事案では、特別背任、横領、詐欺、営業秘密侵害の刑事リスクも並行して確認します。

Section 03

取締役の忠実義務違反と競業避止義務の成立要件

取引、会社の事業の部類、自己または第三者のため、重要事実の開示を順番に確認します。

競業避止義務違反の検討では、問題行為時に取締役であったこと、会社の事業の部類に属する取引をしたこと、自己または第三者のために行ったこと、重要事実を開示せず承認を受けていないことが中心になります。退任後の行為でも、在任中の準備、顧客勧誘、情報持ち出しがあれば在任中の義務違反として評価される可能性があります。

次の比較表は、抽象的な兼職や投資と、競業取引として問題になりやすい行為を分けています。重要なのは、名義や契約名ではなく、誰が顧客を動かし、誰が利益を得たかを実質的に見る点です。左から順に、行為の外形、問題になる理由、確認資料を読み取ってください。

行為類型評価の方向性確認資料
競合会社の株式保有それだけで直ちに取引とは限りませんが、支配や営業関与があれば問題になります。株主名簿、投資契約、議決権、報酬資料
同業他社の役員・顧問名義上の就任と、営業支援・技術支援・価格戦略への関与を分けて見ます。顧問契約、議事録、メール、報酬、紹介料
会社顧客への競合提案会社の商機や顧客基盤を移す行為として重大に評価されやすいです。提案書、CRM、商談履歴、顧客メール、見積
技術・ノウハウ提供競業避止義務だけでなく営業秘密、著作権、共同研究契約にも波及します。リポジトリログ、設計資料、実験データ、アクセスログ
親族会社・投資先への案件移転契約当事者が本人でなくても、第三者のための取引として問題になり得ます。資本関係、銀行口座、請求書、役員登記

重要事実の開示では、取引相手、取引主体、資本関係・人的関係、商品・サービス、対象顧客、地域、販売チャネル、期間、金額、想定利益、会社情報の利用有無、会社への不利益、防止策、取引後報告の方法を具体化します。「同じ業界で少し副業します」という説明だけでは、会社が合理的判断をしにくい点に注意が必要です。

次の一覧は、承認を得てもなお責任が問題になりやすい事情を整理しています。重要なのは、承認が万能ではなく、開示の正確性と承認後の運用が問われる点です。各項目から、承認資料と実際の行動にズレがないかを確認してください。

虚偽または不足した説明

重要な顧客、利益、資本関係、秘密情報利用を隠している場合は、承認の前提が崩れます。

承認範囲の逸脱

対象顧客、地域、期間、金額、商品範囲を超えた取引は、別途問題になります。

秘密情報の利用

会社の営業秘密、価格情報、技術資料を使えば、不正競争防止法や秘密保持義務も重なります。

取引後報告の欠落

取引実績や重要な変更を報告しない場合、取締役会の監督が機能しにくくなります。

Section 04

取締役の競業取引を承認する実務手順

株主総会承認、取締役会承認、特別利害関係取締役、承認粒度、事後承認の限界を整理します。

取締役会非設置会社では、原則として株主総会承認を確認します。取締役会設置会社では、会社法365条により取締役会承認を確認します。中小企業や同族会社でも、「株主も知っていたはず」という曖昧な運用では、相続、M&A、税務調査、少数株主紛争をきっかけに問題化することがあります。

次の時系列は、競業取引の承認を実務で進めるときの順番を示しています。順番が重要なのは、事実開示、利害関係遮断、決議、議事録、取引後報告のいずれかが抜けると、後日承認の実効性が争われやすいためです。上から下へ、承認前、承認時、承認後の確認事項を読み取ってください。

承認前

重要事実を資料化します

取引相手、対象顧客、期間、金額、利益、会社情報の不使用措置を具体的に書面化します。

事前共有

法務、監査役、社外役員へ共有します

会社法356条・365条該当性、承認機関、利害関係取締役の扱いを確認します。

決議

当該取締役を議決から外します

説明後の退席、定足数、決議要件、承認条件を議事録に残します。

承認後

報告と再承認を運用します

取引実績、変更、利益、顧客接触を定期的に確認し、範囲外の行為は再承認を検討します。

承認決議の粒度は、広すぎると実効性を失い、狭すぎると運用しにくくなります。相手方、商品・サービス、顧客、地域、チャネル、期間、金額上限、使用禁止情報、会社顧客への接触制限、再承認条件、定期報告を組み合わせて限定します。

次の比較表は、承認範囲を設計するときの過不足を整理しています。重要なのは、包括承認に見えても会社が重要事実を把握できる粒度を保つことです。左列の項目ごとに、広すぎる例と実務上の限定方法を比べてください。

項目広すぎる例限定の考え方
事業範囲IT関連事業すべて在任中に担当した特定サービスや特定顧客に限定します。
顧客範囲全顧客への接触可既存顧客、商談中顧客、重要見込み客を除外または事前報告にします。
期間期限なし一定期間ごとに報告し、変更時は再承認を求めます。
金額上限なし売上上限、利益上限、案件単位の再承認基準を置きます。
情報利用一般的な秘密保持のみ使用禁止情報、アクセス制限、ログ確認、資料返還を明記します。

事後承認は、損害賠償額や会社の追認意思に影響する可能性があります。ただし、会社法356条1項1号が「取引をしようとするとき」の開示・承認を求めているため、過去の無承認状態が当然に完全に治癒されると考えるのは危険です。隠蔽、損害、利益取得、秘密情報利用、承認権限者の誤認がある場合は、責任追及リスクが残ります。

Section 05

取締役の競業避止義務違反と損害賠償責任

会社法423条1項の任務懈怠責任と423条2項の損害推定を中心に整理します。

取締役が競業避止義務に違反した場合、会社法423条1項に基づき会社に対する損害賠償責任が問題になります。会社は、取締役の地位、競業取引、会社の事業の部類、承認なしまたは承認範囲逸脱、任務懈怠、故意過失、損害、因果関係を証拠で整理します。

次の重要ポイントは、会社法423条2項の損害推定の使いどころを示しています。重要なのは、会社が逸失利益を一から厳密に立証する負担を軽くできる場合がある点です。取締役または第三者が得た利益額が、会社の損害額と推定される場面を読み取ってください。

競業取引で得た利益額が、会社の損害額と推定される場合があります。

たとえば取締役が会社の顧客に対し、自己の会社を通じて同種サービスを販売し、自己の会社が3000万円の利益を得た場合、その利益額を損害額として構成できる可能性があります。取締役側は、会社がその取引を取得できなかった事情、利益額の算定、費用控除、因果関係、承認の存在などを反論することになります。

「利益額」は単純な売上高ではなく、通常は売上から売上原価、直接費、必要経費を控除した利益が問題になります。どの費用を控除できるかは、事業実態、会計資料、証拠、裁判所の評価で変わります。

次の比較表は、損害額や利益額を検討するための資料を事業別に整理しています。なぜ重要かというと、デジタル事業と製造業では利益の出方も控除費用も異なるためです。各列から、利益額の算定で集める資料と、逸失利益の立証で争われる点を読み取ってください。

資料・論点デジタル事業製造業・技術事業
売上・請求SaaS契約、請求書、MRR、解約率、LTVを確認します。受注台帳、納品書、請求書、販売単価を確認します。
原価・費用クラウド費用、開発人件費、広告費、代理店手数料を確認します。材料費、外注費、歩留まり、在庫、設備償却を確認します。
資金の流れ銀行口座、決済サービス、関連会社間取引を見ます。仕入請求書、原価資料、役員報酬、配当、貸付金を見ます。
逸失利益会社に供給能力、提案実績、価格競争力があったかを確認します。生産能力、品質、納期、他競合、市場縮小の有無を確認します。

弁護士費用、調査費用、フォレンジック費用、会計調査費用、顧客対応費用、広報対応費用が損害に含まれるかは、支出の必要性、相当性、因果関係によって判断が変わります。特に不法行為構成では、相当因果関係のある費用の一部が損害として扱われる余地があります。

Section 06

取締役の退任後競業、営業秘密、ノウハウ流出

退任後の自由と制限、秘密保持、営業秘密三要件、技術提供型競業を整理します。

取締役が退任すれば、原則として会社法356条1項1号の取締役としての競業避止義務からは離れます。職業選択の自由、営業の自由、経済活動の自由から、退任後の競業を無限定に禁止することはできません。ただし、在任中の準備、顧客奪取、従業員引抜き、秘密情報持ち出し、退任後競業避止契約、営業秘密侵害、不法行為が問題になる場面があります。

次の比較表は、退任後競業避止条項を設計するときの過度な例と限定例を示しています。重要なのは、企業利益の保護と職業選択の自由のバランスです。期間、地域、事業範囲、顧客、行為、代償措置を個別に読み取ってください。

項目過度に広い例限定の例
期間退任後5年間一切の同業禁止退任後6か月または1年など、必要性に応じた期間にします。
地域世界中で禁止会社が現に営業する地域や顧客圏に限定します。
事業範囲IT関連事業すべて禁止在任中に担当した特定サービスや特定顧客に関する競業に限定します。
顧客範囲全顧客への接触禁止在任中に接触した顧客、重要見込み客に限定します。
行為範囲就職、投資、助言をすべて禁止競合事業の営業、開発、役員就任、顧客勧誘などに限定します。
代償措置なし役員退職慰労金、特別報酬、譲渡対価への反映を検討します。
例外例外なし書面承認、受動的投資、競合性のない職務を除外します。

競業避止義務と秘密保持義務は重なりますが、法的には別の義務です。競業しなくても秘密情報を漏らせば秘密保持義務違反になり得ます。逆に、秘密情報を使わなくても在任中に会社と同種取引を無承認で行えば競業避止義務違反が問題になります。

次の一覧は、不正競争防止法上の営業秘密として保護されるための三つの要件と、取締役の競業事案で問題になりやすい情報を整理しています。重要なのは、情報の価値だけでなく、秘密として管理されていた事実を示すことです。各項目から、管理体制と証拠を確認してください。

Requirement 01

秘密管理性

秘密として管理されていることです。アクセス権限、表示、誓約、ログ、保管場所が確認対象になります。

Requirement 02

有用性

事業活動に役立つ技術上または営業上の情報であることです。顧客、価格、技術、データ、開発計画が問題になります。

Requirement 03

非公知性

公然と知られていないことです。公開資料、業界常識、取引先共有の範囲を確認します。

AI、素材、半導体、医薬、バイオ、ロボット、SaaS、データビジネス、FinTech、ヘルスケアでは、顧客奪取だけでなく、技術情報、データ、モデル、仕様、開発ロードマップの移転が大きな問題になります。取締役が技術顧問として競合他社へ関与する場合、形式上は助言でも、会社の事業機会や技術優位性が移る危険があります。

Section 07

取締役の競業避止義務違反で問題になる類型

競合会社設立、顧問就任、顧客移転、技術提供、グループ会社、スタートアップ、M&A、副業を整理します。

競業避止義務違反は、単純な同業会社設立だけではありません。営業担当取締役の顧客移転、技術担当取締役のノウハウ提供、親会社・子会社間の商機配分、スタートアップ創業者の別会社開発、M&A後の旧代表者の競業、副業・兼業など、会社の事業機会と情報を誰が使うかが問題になります。

次の一覧は、類型ごとの確認ポイントを整理しています。重要なのは、どの類型でも「会社の顧客、情報、人材、信用、商機」が移っていないかを見ることです。各項目から、初動で集める資料とリスクの方向性を読み取ってください。

競合会社の設立

法人設立日、定款目的、Web公開日、顧客への初回連絡日、契約日、請求書を確認します。

典型類型

競合他社の役員・顧問

営業支援、技術指導、価格戦略、顧客紹介、提案書作成、交渉同席の有無を確認します。

兼職管理

営業担当取締役の顧客移転

発注履歴、契約更新、担当者変更、個人メール、面談記録、退職予定従業員との連絡を見ます。

顧客基盤

技術担当取締役の外部提供

リポジトリログ、クラウドアクセス、USB履歴、生成AI入力履歴、ソースコード類似性を確認します。

営業秘密

グループ会社間の競業

兼任役員規程、グループ内取引規程、少数株主保護、関連当事者取引開示を確認します。

統制設計

M&A・事業承継後の競業

対象事業、地域、期間、顧客、違約金、差止め、秘密保持、顧客勧誘禁止を設計します。

買収価値

スタートアップでは、創業者が複数事業を同時に進める場面があります。しかし、投資家から資金調達した会社の取締役でありながら、同一領域のプロダクトを別会社で開発・販売すれば、忠実義務違反、会社機会の奪取、投資契約違反、上場審査、M&Aデューデリジェンスで問題になります。

副業・兼業では、会社の事業と無関係な活動ならリスクは相対的に小さい一方、会社顧客、ノウハウ、ブランド、職務時間、従業員、設備を利用すると、忠実義務・競業避止義務違反になり得ます。役員兼職・副業規程では、事前届出、承認、秘密情報利用禁止、会社資産利用禁止、収益報告、取引後報告を定めます。

Section 08

取締役の競業疑いに対する会社側の初動対応

証拠保全、利害関係遮断、監査機関報告、本人ヒアリング、顧客対応を整理します。

競業疑いが生じた場合、初動を誤ると証拠が消え、名誉毀損、プライバシー侵害、労務紛争、証拠収集の適法性、レピュテーションの問題が生じます。事実確認前の断定的公表、感情的なメール、私物端末の無断確認、顧客への一方的な不正通知、証拠保全前の詰問は避けます。

次の時系列は、会社側が初動で進める順番を示しています。重要なのは、本人への接触や顧客対応の前に証拠を保全し、利害関係者を意思決定から外すことです。上から順に、事実確認、証拠、機関対応、法的措置の流れを確認してください。

Step 01

事実の仮整理

誰が、いつ、どの顧客、取引先、従業員、情報に関与したかを整理します。

Step 02

証拠保全

メール、チャット、CRM、契約書、請求書、アクセスログ、PCログ、クラウドログを保全します。

Step 03

利害関係遮断

疑いのある取締役を調査方針や法的措置の意思決定から外します。

Step 04

監査機関と外部専門家

監査役、社外取締役、弁護士、フォレンジック、会計専門家と連携します。

Step 05

本人ヒアリングと措置

証拠保全後に公正な手続で説明を受け、差止め、損害賠償、和解、開示を検討します。

デジタルフォレンジックでは、会社メール、個人メールへの転送、クラウドストレージ、USB、スマートフォン、チャット、CRM、Git、SaaS管理画面、オンライン会議ログ、カレンダー、印刷ログが重要です。ただし、役員のプライバシー、通信の秘密、個人情報保護、社内規程、証拠収集の適法性に配慮します。

次の比較表は、会社が立証すべき主な事実と典型証拠を対応させています。なぜ重要かというと、競業事案では感情的な疑いだけでは足りず、取引、承認、損害、因果関係、隠蔽を資料で示す必要があるためです。各行から、どの事実にどの証拠を当てるかを読み取ってください。

立証事項典型証拠
取締役の地位登記事項証明書、株主総会議事録、取締役会議事録、就任承諾書
会社の事業内容定款、Webサイト、契約書、売上資料、事業計画、取締役会資料
競業取引契約書、請求書、メール、営業資料、顧客証言、会計帳簿
自己または第三者のため資本関係資料、報酬資料、銀行口座、株主名簿、役員登記
承認なし取締役会議事録、株主総会議事録、稟議、承認台帳
損害・利益会計帳簿、税務申告、入出金、売上原価、利益計算
因果関係・隠蔽顧客移転経緯、商談履歴、比較見積、個人アドレス、削除履歴、虚偽説明
Section 09

取締役会、監査役、社外取締役、専門職の役割

監督、申告制度、社外役員の質問、社内規程、契約条項、議事録を整えます。

取締役会は、競業・利益相反リスクを監督する責任を負います。競業疑いを把握しながら放置すると、他の取締役の監視義務違反が問題になることもあります。監査役、監査等委員、監査委員は、取締役会への報告、調査要請、差止請求、監査報告への反映を検討します。

次の一覧は、取締役会と監査機関が平時から整備する統制をまとめています。重要なのは、属人的な信頼だけに依存せず、届出、承認、報告、監査、調査を仕組みにすることです。各項目から、自社の規程や運用に不足がないかを確認してください。

申告と届出

役員兼職・競業届出、関連当事者取引申告、年次確認、追加申告義務を整備します。

承認基準

取締役会承認基準、特別利害関係取締役の退席、取引後報告の方法を明確にします。

情報管理

M&A、新規事業、投資案件、技術資料、顧客情報のアクセス管理を整えます。

調査体制

違反時の調査手順、監査役・内部監査連携、外部専門家の起用基準を置きます。

社外取締役は、経営者間の人間関係や同族関係から独立して、利益相反を監督する役割を期待されます。競業取引の承認では、会社が同じ商機を追求しないのか、顧客が重ならないのか、取締役がどの利益を得るのか、秘密情報を使わない担保は何か、取引後報告はどの頻度か、承認撤回条件は何かを確認します。

次の比較表は、社内規程、役員就任契約、申告書、議事録に入れる内容を整理しています。なぜ重要かというと、予防策は口頭の注意では残りにくく、後日紛争で資料化された運用が重視されるためです。左列の文書ごとに、入れるべき内容を読み取ってください。

文書入れる内容
役員規程忠実義務、競業取引の事前届出・承認、利益相反取引、兼職、副業、秘密保持、退任時返還、調査協力を定めます。
役員就任契約競業取引の事前承認、秘密情報の不使用、退任時の返還・削除、海外法やM&A契約との整合性を確認します。
利益相反・競業申告書競合法人への関与、他社役員・顧問、親族会社、個人的取引、投資・副業、従業員勧誘予定を申告します。
取締役会議事録開示された重要事実、特別利害関係取締役の退席、承認条件、報告義務、再承認条件を記録します。

法務担当、外部弁護士、取締役会事務局、コンプライアンス担当、内部監査担当、会計士・税理士、弁理士・知財担当、労務担当、フォレンジック専門家、経営者・社外役員・監査役は、それぞれ異なる視点を持ちます。競業事案では、条文構成、証拠整理、議事録、損害算定、知財、労務、情報管理、開示判断を一体で扱います。

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取締役の競業避止義務を点検する実務チェックリスト

会社側、取締役側、取締役会承認時の確認事項をまとめます。

実務では、疑いが生じた後の対応だけでなく、競業可能性のある活動を始める前、承認時、退任時に確認する事項を分けておくと、漏れを減らせます。個別の結論は事実関係で変わるため、チェック結果をもとに専門家へ相談する体制が重要です。

次の比較表は、会社側、取締役側、取締役会承認時の確認事項を並べています。重要なのは、同じ競業リスクでも立場によって見る資料と行動が違う点です。列ごとに、自分の立場で先に確認する項目を読み取ってください。

会社が疑いを把握したとき取締役が活動前に確認すること取締役会承認時の確認
地位、担当職務、アクセス権限を確認します。会社の事業と競合しないか確認します。会社法356条・365条に基づく議案と明示します。
競業先、第三者、関連会社、親族会社を特定します。会社の顧客・見込み客と重ならないか確認します。重要事実が資料化されているか確認します。
対象取引、顧客、商品、期間、金額を整理します。秘密情報を使用しない措置を設計します。会社への不利益と防止措置を説明します。
承認議事録、株主総会議事録、稟議を確認します。報酬、株式、紹介料などの利益を整理します。当該取締役の経済的利益を開示します。
メール、チャット、CRM、契約書、会計資料を保全します。承認要否、議決不参加、報告義務を確認します。特別利害関係取締役の退席と議決不参加を実施します。
監査役、社外取締役、外部専門家へ連携します。退任後競業避止契約と秘密保持契約を確認します。承認範囲、条件、期限、取引後報告を具体化します。

取締役が退任する場合は、退任日、代表権喪失日、登記、アカウント停止、会社資料・端末・名刺・印章・鍵の返還、秘密保持義務、退任後競業避止義務、顧客・従業員への連絡ルール、役員報酬・退職慰労金、SNS・Web表示を整理します。在任中に会社資料を複製しない、会社顧客に事前勧誘しない、従業員を秘密裏に引き抜かない、会社案件を意図的に停滞させないことが重要です。

Section 11

取締役の忠実義務違反と競業避止義務のFAQ

よくある疑問を一般情報として整理します。個別事案では事実関係と証拠により結論が変わります。

Q1. 取締役が同業他社の取締役に就任しただけで競業避止義務違反になりますか。

一般的には、単なる就任だけで直ちに会社法356条1項1号の競業取引になるとは限りません。ただし、営業、契約、技術支援、顧客紹介、価格戦略に関与すると、競業取引または忠実義務違反が問題となる可能性があります。具体的な整理は、兼職内容、報酬、情報接触、会社事業との重なりを確認して弁護士等へ相談する必要があります。

Q2. 会社の承認を受ければ、どのような競業でも許されますか。

一般的には、承認は重要事実が正確に開示され、適法な機関で承認され、承認範囲内で行われることが前提です。虚偽説明、秘密情報利用、承認範囲逸脱、不公正な条件、会社損害がある場合は、なお責任が問題となる可能性があります。

Q3. 退任後であれば自由に競業できますか。

一般的には、退任後は会社法上の取締役としての競業避止義務から離れます。ただし、在任中の顧客奪取準備、会社情報の持ち出し、従業員引抜き、退任後競業避止契約、営業秘密利用、不当な態様による会社損害がある場合は、責任が問題となる可能性があります。

Q4. 会社の顧客が取締役個人の人脈なら自由に使えますか。

一般的には、一概に判断できません。個人の人脈であっても、会社の名刺、信用、営業資料、従業員、予算、契約関係を用いて形成された顧客関係は、会社の事業機会や顧客基盤として保護される可能性があります。具体的には証拠関係によって変わります。

Q5. 会社に損害が見えていなければ問題ありませんか。

一般的には、競業承認規制は損害が現実化する前に利益相反リスクを管理する制度です。損害賠償額は別途問題になりますが、無承認競業取引自体が任務懈怠として評価される可能性があります。

Q6. 会社法423条2項の損害推定とは何ですか。

一般的には、取締役が競業取引を行い、取締役または第三者が利益を得た場合、その利益額が会社の損害額と推定される制度です。利益額や因果関係については、会計資料や事業実態によって争われる可能性があります。

Q7. 競業取引の承認は包括的にできますか。

一般的には、一定範囲の包括承認が検討される余地はあります。ただし、重要事実が不明確な包括承認は危険です。対象事業、顧客、期間、地域、金額、使用禁止情報、報告義務を具体的に限定する必要があります。

Q8. 社外取締役にも競業避止義務はありますか。

一般的には、社外取締役も会社法上の取締役であるため、会社法355条・356条の規律を受けます。複数社の役員や顧問を務める場合は、兼職先との競合関係、秘密情報、利益相反、議案ごとの退席を慎重に管理する必要があります。

Q9. 競業避止義務違反は刑事事件になりますか。

一般的には、すべての違反が刑事事件になるわけではありません。ただし、自己または第三者の利益を図る目的で任務に背き、会社に財産上の損害を与えた場合は、特別背任罪等が問題となる可能性があります。営業秘密の不正取得・使用・開示がある場合も注意が必要です。

Q10. 会社は疑いのある取締役のメールやPCを調査できますか。

一般的には、会社所有のアカウントや端末、業務システムについて、社内規程や利用目的の範囲で調査できる場合があります。ただし、プライバシー、通信の秘密、個人情報保護、労務法、証拠収集の適法性に注意が必要です。私物端末や個人クラウドの調査は、弁護士やフォレンジック専門家の関与を検討する必要があります。

Q11. 一人株主・一人取締役の会社でも承認が必要ですか。

一般的には、会社法356条の規律自体は問題になります。一人株主がすべてを認識し承認している場合は紛争化しにくいことがありますが、後日の株式譲渡、相続、M&A、債権者対応、税務調査、破産、少数株主の出現で問題化する可能性があります。議事録や承認書面を残す実務が重要です。

Q12. 会社の事業と似たテーマで講演・執筆することも競業ですか。

一般的には、通常の講演・執筆が直ちに競業取引になるとは限りません。ただし、有償コンサルティング、競合会社への技術助言、会社顧客への営業、未公表情報や営業秘密の開示を伴う場合は問題となる可能性があります。契約前に秘密保持、会社承認、利益相反確認を整理する必要があります。

Reference

参考資料

  • e-Gov法令検索「会社法」
  • 最高裁判所大法廷昭和45年6月24日判決(八幡製鉄政治献金事件)
  • 裁判所判例検索掲載資料(競業取引と会社法423条2項の損害推定に関する裁判例)
  • 経済産業省「営業秘密 ― 営業秘密を守り活用する」
  • 東京地方裁判所民事部資料「取締役の任務懈怠責任を巡る諸問題について」
  • 法律実務解説(無承認競業取引の有効性と損害賠償に関する解説)
  • 裁判所判例検索掲載資料(取締役退任後の競業・取引先奪取に関する事案)
  • 経済産業省資料「競業避止義務契約の有効性について」
  • 裁判所判例検索掲載資料(元代表者による技術・ノウハウ提供に関する事案)
  • 会社法356条・365条に関する承認機関と重要事実開示の研究資料