2σ Guide

フリーランス新法の実務体系と
企業法務対応

発注、支払、変更、募集、相談、解除まで、企業が整備すべき業務プロセスを一般情報として整理します。

2024年 11月1日施行
60日以内 報酬支払期日
30日前 解除等の予告
本ページは株式会社Dプロフェッションズ(医師/医療機関/弁護士/弁護士法人ではありません)が運営しています。
一般的な情報提供を目的としており医療上の助言や法律相談等を行うものではありません。
広告(PR)を掲載しています。広告は編集内容や推奨を意味しません。
Video

フリーランス新法の実務体系と 企業法務対応

発注、支払、変更、募集、相談、解除まで、企業が整備すべき業務プロセスを一般情報として整理します。

動画を読み込み中…
2σ GUIDE ・ VIDEO
フリーランス新法の実務体系と 企業法務対応
発注、支払、変更、募集、相談、解除まで、企業が整備すべき業務プロセスを一般情報として整理します。
動画の文字起こし(全文テキスト)

2σ GUIDE ・ VIDEO

  • フリーランス新法の実務体系と 企業法務対応
  • 発注、支払、変更、募集、相談、解除まで、企業が整備すべき業務プロセスを一般情報として整理します。

POINT 1

  • フリーランス新法の全体像
  • 発注から支払、変更、解除、相談対応までを横断的に見る制度です。
  • 契約書だけでは完結しない制度です
  • 次の重要ポイントは、フリーランス新法を企業の業務プロセス規制として読むための要点です。
  • フリーランス新法は、発注時の明示、60日以内の支払、1か月以上の禁止行為、6か月以上の配慮や解除管理までを横断します。

POINT 2

  • フリーランス新法が企業法務に与える意味
  • 実務上の確認ポイントを整理します。
  • 企業法務にとって、フリーランス新法は「契約書の条文を直すだけの法律」ではありません。
  • むしろ、企業内の発注行為そのものを可視化し、統制し、証跡化する法律です。
  • 従来、多くの企業では、フリーランスとの取引は部署単位で行われていました。

POINT 3

  • フリーランス新法の適用対象を判断するための基本概念
  • 特定受託事業者、従業員使用、業務委託、労働者性を分けて確認します。
  • 特定受託事業者
  • 20時間と31日
  • 労働者性

POINT 4

  • フリーランス新法の取引条件の明示義務
  • 1. 取引条件の明示:業務内容、報酬、支払期日などを直ちに示します。
  • 2. 60日以内:給付受領日又は役務提供日を起算点に支払期日を管理します。
  • 3. 禁止行為:受領拒否、減額、返品、買いたたき等を重点管理します。
  • 4. 配慮と解除:育児介護等の配慮と30日前予告、理由開示に備えます。

POINT 5

  • フリーランス新法の報酬支払期日の設定と期日内支払
  • 請求書基準ではなく、受領日又は役務提供日を起点に管理します。
  • 請求書受領日ではなく受領日基準です
  • 6.1 60日以内ルール
  • 6.2 起算日の考え方

POINT 6

  • フリーランス新法の1か月以上の業務委託における禁止行為
  • 実務上の確認ポイントを整理します。
  • 7.1 受領拒否
  • 7.2 報酬の減額
  • 7.3 返品

POINT 7

  • フリーランス新法の募集情報の的確表示
  • 実務上の確認ポイントを整理します。
  • 8.1 募集情報規制の意味
  • 8.3 実務上のチェックポイント
  • フリーランス新法は、契約成立後だけでなく、募集段階にも規制を及ぼします。

POINT 8

  • フリーランス新法の育児介護等と業務の両立に対する配慮
  • 実務上の確認ポイントを整理します。
  • 9.1 義務の趣旨
  • 9.2 必ず希望どおりにしなければならないわけではない
  • 9.3 配慮の具体例

まとめ

  • フリーランス新法の実務体系と 企業法務対応
  • フリーランス新法の全体像:発注から支払、変更、解除、相談対応までを横断的に見る制度です。
  • フリーランス新法が企業法務に与える意味:実務上の確認ポイントを整理します。
  • フリーランス新法の適用対象を判断するための基本概念:特定受託事業者、従業員使用、業務委託、労働者性を分けて確認します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

フリーランス新法の全体像

発注から支払、変更、解除、相談対応までを横断的に見る制度です。

次の重要ポイントは、フリーランス新法を企業の業務プロセス規制として読むための要点です。契約書の修正だけでは足りない理由が分かるため重要で、発注、支払、変更、解除、相談対応のどこに管理が必要かを読み取ってください。

契約書だけでは完結しない制度です

フリーランス新法は、発注時の明示、60日以内の支払、1か月以上の禁止行為、6か月以上の配慮や解除管理までを横断します。

フリーランス新法とは、一般に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」を指します。行政資料では「フリーランス・事業者間取引適正化等法」とも呼ばれています。令和5年4月28日に可決成立し、同年5月12日に公布され、令和6年11月1日に施行されました。公正取引委員会は、この法律について、働き方の多様化の進展に鑑み、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事できる環境を整備するためのものと説明しています。

フリーランス新法の中心的な目的は、次の二つです。

次の比較表は、この章で扱う項目を実務上の意味に分けて整理したものです。確認漏れが支払や契約管理に波及するため重要で、各行の要件と対応の違いを読み取ってください。

目的内容主な所管
取引の適正化発注時の取引条件明示、報酬支払期日の設定、受領拒否、減額、返品、買いたたき等の禁止公正取引委員会、中小企業庁
就業環境の整備募集情報の的確表示、育児介護等と業務の両立への配慮、ハラスメント対策、中途解除等の予告と理由開示厚生労働省

厚生労働省も、同法により、個人で働くフリーランスに業務委託を行う発注事業者に対して、取引条件の明示、給付受領日から原則60日以内の報酬支払、ハラスメント対策の体制整備等が義務付けられると説明しています。

この法律の重要性は、単に「フリーランスを保護する法律ができた」という点にとどまりません。企業にとっては、購買、外注、制作、IT開発、広告、物流、教育、研究、専門職委託、イベント運営、コンテンツ制作、建設、コンサルティングなど、従来は各部門が比較的自由に発注してきた取引に、横断的な統制が求められるようになった点が重要です。

特に企業法務上は、フリーランス新法を次のように位置付ける必要があります。

  1. 契約書レビューだけで完結しない、発注から支払、変更、解除、相談対応までの業務プロセス規制です。
  2. 下請取引、独占禁止法、労働法、知的財産法、個人情報保護法、業法規制と重なり得ます。
  3. 法務部だけでなく、購買部、事業部、経理部、人事部、コンプライアンス部、内部監査部、情報システム部、知財部が連携して運用する必要があります。
  4. 違反時には行政調査、指導、助言、勧告、命令、公表、罰金のリスクがあります。
  5. フリーランスからの申出、相談、SNS上の発信、業界内の評判低下を通じて、レピュテーションリスクが顕在化しやすいです。
Section 01

フリーランス新法が企業法務に与える意味

実務上の確認ポイントを整理します。

企業法務にとって、フリーランス新法は「契約書の条文を直すだけの法律」ではありません。むしろ、企業内の発注行為そのものを可視化し、統制し、証跡化する法律です。

従来、多くの企業では、フリーランスとの取引は部署単位で行われていました。たとえば、マーケティング部がデザイナーにバナー制作を依頼し、情報システム部が個人エンジニアに改修を依頼し、広報部がライターに記事作成を依頼し、研修担当が講師にセミナーを依頼します。これらは金額が比較的小さく、契約書よりもメール、チャット、発注書、請求書ベースで進むことも少なくありません。

しかし、フリーランス新法は、金額の大小だけで適用を決める法律ではありません。受注者が法律上の「特定受託事業者」に該当し、発注者が「業務委託事業者」又は「特定業務委託事業者」に該当し、対象となる業務委託が存在すれば、少額発注であっても問題となり得ます。

そのため、企業法務の実務では、次の発想転換が必要です。

次の比較表は、この章で扱う項目を実務上の意味に分けて整理したものです。確認漏れが支払や契約管理に波及するため重要で、各行の要件と対応の違いを読み取ってください。

従来ありがちな発想フリーランス新法対応後の発想
契約書がない小口発注なので法務確認は不要小口でも取引条件明示、支払期日、変更管理が必要
請求書が来てから支払えばよい給付受領日、役務提供日を起点に支払期限を管理する
成果物が気に入らなければ修正させればよい委託内容、検査基準、責任原因、追加対価を確認する
業務委託なので労務部門は関係ない育児介護等の配慮、ハラスメント相談体制は労務管理に近い
業務委託先のSNS募集は現場に任せる募集情報の的確表示義務があり、虚偽表示、誤解表示、古い情報の放置が問題となる
業務委託契約の終了は契約条項どおりでよい6か月以上の業務委託では原則30日前予告と理由開示対応が必要

フリーランス新法対応の中心は、法務の知識と業務プロセス設計の結合です。契約法務、労務法務、コンプライアンス、内部統制、会計処理、システム管理を一体として扱う必要があります。

Section 02

フリーランス新法の適用対象を判断するための基本概念

特定受託事業者、従業員使用、業務委託、労働者性を分けて確認します。

次の一覧は、対象判断で最初に確認する概念を並べたものです。誰が対象となるかを誤ると義務範囲全体がずれるため重要で、受託者、発注者、業務委託、労働者性を分けて読み取ってください。

受託者

特定受託事業者

従業員を使用しない個人、一人代表で従業員を使用しない法人が中心です。

従業員

20時間と31日

1週間20時間以上かつ31日以上の雇用見込みが、従業員使用の判断で重要です。

実態

労働者性

契約名が業務委託でも、指揮命令や時間拘束などから労働法の問題が残ることがあります。

3.1 特定受託事業者とは何か

フリーランス新法の適用を考えるうえで最初に確認すべき概念は「特定受託事業者」です。公正取引委員会のQ&Aでは、特定受託事業者は、業務委託の相手方であって、次のいずれかに該当するものと説明されています。

  1. 個人であって、従業員を使用しないもの
  2. 法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの

したがって、世間一般で「フリーランス」と呼ばれていても、法律上の特定受託事業者に該当しない場合があります。たとえば、従業員を雇用している個人事業主、複数役員がいる法人、事業者ではなく消費者として取引している個人は、フリーランス新法上の特定受託事業者に該当しない可能性があります。

一方で、一人法人、個人事業主、副業で業務委託を受ける会社員、従業員を使用しない弁護士、デザイナー、プログラマー、ライター、カメラマン、一人親方などは、要件を満たせば特定受託事業者になり得ます。Q&Aも、副業で他の事業者から業務委託契約に基づき業務を受託している労働者は、その受託業務を行う範囲で特定受託事業者に該当し得ると説明しています。

3.2 「従業員を使用」とは何か

「従業員を使用しているか」は、適用対象判断の中核です。Q&Aによれば、「従業員を使用」とは、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者を雇用することをいいます。短時間、短期間等の一時的に雇用される労働者を雇用することは、これに含まれません。

また、派遣先として、上記基準を満たす派遣労働者を受け入れる場合も「従業員を使用」に該当します。一方、事業に同居親族のみを使用している場合は、「従業員を使用」に該当しません。

実務上は、発注時点で、受注者が従業員を使用しているかを確認する必要があります。公正取引委員会のQ&Aは、確認は口頭でも可能としつつ、トラブル防止の観点から、電子メールやSNSのメッセージ機能等、記録が残る方法で確認することが望ましいと説明しています。

3.3 業務委託事業者と特定業務委託事業者

フリーランス新法では、発注側の属性によって義務の範囲が変わります。

次の比較表は、この章で扱う項目を実務上の意味に分けて整理したものです。確認漏れが支払や契約管理に波及するため重要で、各行の要件と対応の違いを読み取ってください。

発注側の区分意味主な義務
業務委託事業者特定受託事業者に業務委託をする事業者取引条件の明示義務
特定業務委託事業者特定受託事業者に業務委託をする事業者で、個人なら従業員を使用するもの、法人なら二以上の役員がある又は従業員を使用するもの報酬支払期日、禁止行為、募集情報、育児介護等、ハラスメント、中途解除等に関する義務

重要なのは、発注者自身が従業員を使用していない個人事業主や一人法人であっても、業務委託事業者として取引条件の明示義務を負い得る点です。Q&Aも、従業員を使用していない発注事業者であっても、業務委託事業者として3条通知による明示を行う必要があると説明しています。

3.4 業務委託とは何か

フリーランス新法上の業務委託は、事業者がその事業のために他の事業者に対して、物品の製造、情報成果物の作成又は役務の提供を委託する取引を中心に考えます。

典型例は次のとおりです。

次の比較表は、この章で扱う項目を実務上の意味に分けて整理したものです。確認漏れが支払や契約管理に波及するため重要で、各行の要件と対応の違いを読み取ってください。

分類
物品の製造、加工部品加工、試作品制作、衣装制作、印刷物制作
情報成果物の作成ソフトウェア、デザイン、記事、写真、動画、楽曲、設計図、分析レポート
役務の提供講演、研修、コンサルティング、配送、撮影、通訳、現場作業、保守運用

Q&Aは、法人が自身の事業の用に供するために行う委託行為は「事業のため」に委託する行為に該当すると説明しています。また、個人である発注事業者についても、個々の具体的な業務委託に応じて、当該個人が事業者として契約の当事者となっているといえる場合には「事業のため」に該当します。

一方、株式会社と取締役、監査役、会計監査人等との契約関係は、会社内部の関係であり、当該会社にとっての他の事業者との業務委託には該当しないと説明されています。

3.5 労働者性との関係

形式的に業務委託契約を締結していても、実態として労働基準法上の労働者と判断される場合には、労働基準関係法令が適用され、フリーランス新法は適用されません。厚生労働省は、労働基準法上の労働者に該当するかは契約の形式や名称にかかわらず、実態を勘案して総合的に判断されると説明しています。

この点は企業法務上きわめて重要です。発注者が「業務委託契約」と呼んでいても、実態が指揮命令下の労務提供であれば、労働時間、賃金、割増賃金、労災、安全衛生、解雇規制等の問題に発展します。フリーランス新法は、労働者性の問題を回避するための法律ではなく、あくまで事業者間取引としての業務委託を適正化する法律です。

Section 03

フリーランス新法の発注事業者に課される7つの義務と禁止行為

発注時、1か月以上、6か月以上で管理すべき項目が変わります。

次の時系列は、業務委託期間に応じて義務が積み上がる順番を示します。期間要件の見落としが違反につながるため重要で、発注時、1か月以上、6か月以上で何が増えるかを読み取ってください。

発注時

取引条件の明示

業務内容、報酬、支払期日などを直ちに示します。

支払

60日以内

給付受領日又は役務提供日を起算点に支払期日を管理します。

1か月以上

禁止行為

受領拒否、減額、返品、買いたたき等を重点管理します。

6か月以上

配慮と解除

育児介護等の配慮と30日前予告、理由開示に備えます。

政府広報オンラインは、発注者の属性と業務委託期間に応じて、発注事業者が守るべき義務を整理しています。従業員を使用していない発注事業者は、書面等による取引条件の明示を行う必要があります。従業員を使用している発注事業者は、これに加えて報酬支払期日の設定、募集情報の的確表示、ハラスメント対策に係る体制整備等が問題となります。さらに、1か月以上、6か月以上の業務委託では追加の義務が発生します。

実務上は、次の表で確認すると理解しやすいです。

次の比較表は、この章で扱う項目を実務上の意味に分けて整理したものです。確認漏れが支払や契約管理に波及するため重要で、各行の要件と対応の違いを読み取ってください。

義務又は禁止行為主な内容対象となる発注側期間要件
取引条件の明示業務内容、報酬、支払期日等を明示業務委託事業者なし
報酬支払期日の設定、期日内支払給付受領日から原則60日以内でできる限り短い期間特定業務委託事業者なし
禁止行為受領拒否、減額、返品、買いたたき、購入・利用強制等特定業務委託事業者1か月以上
募集情報の的確表示虚偽表示、誤解表示の禁止、正確かつ最新の表示特定業務委託事業者募集時
育児介護等と業務の両立への配慮申出内容の把握、対応検討、実施又は理由説明特定業務委託事業者6か月以上
ハラスメント対策の体制整備方針明確化、相談体制、事後対応、不利益取扱い防止特定業務委託事業者なし
中途解除等の事前予告、理由開示原則30日前予告、理由開示対応特定業務委託事業者6か月以上

ここでいう期間の考え方は、単純に個別発注書の納期だけを見るものではありません。Q&Aは、単一の業務委託又は基本契約による場合、始期は契約締結日又は基本契約締結日のいずれか早い日、終期は給付受領日、契約終了日、基本契約終了日のいずれか遅い日を基準とする旨を示しています。

Section 04

フリーランス新法の取引条件の明示義務

法定事項を後から証明できる状態にします。

次の時系列は、業務委託期間に応じて義務が積み上がる順番を示します。期間要件の見落としが違反につながるため重要で、発注時、1か月以上、6か月以上で何が増えるかを読み取ってください。

発注時

取引条件の明示

業務内容、報酬、支払期日などを直ちに示します。

支払

60日以内

給付受領日又は役務提供日を起算点に支払期日を管理します。

1か月以上

禁止行為

受領拒否、減額、返品、買いたたき等を重点管理します。

6か月以上

配慮と解除

育児介護等の配慮と30日前予告、理由開示に備えます。

5.1 取引条件の明示義務の意義

フリーランス新法における最も基本的な義務が、取引条件の明示義務です。発注事業者は、特定受託事業者に業務委託をした場合、一定の事項を、書面又は電磁的方法により明示する必要があります。

この義務は、従業員を使用している大企業だけでなく、フリーランスに発注するフリーランス、一人社長、従業員を使用しない法人にも課され得ます。つまり、フリーランス新法対応の入口は、すべての発注者について「発注内容を記録に残す」ことにあります。

5.2 明示すべき事項

公正取引委員会のQ&Aは、明示事項として次の8項目を挙げています。

  1. 業務委託事業者及び特定受託事業者の名称
  2. 業務委託をした日
  3. 給付又は役務の内容
  4. 給付又は役務提供の期日
  5. 給付又は役務提供の場所
  6. 報酬の額及び支払期日
  7. 検査をする場合は検査完了日
  8. 現金以外の方法で支払う場合は支払方法に関すること

実務では、単なる契約書の存在だけでは足りません。契約書、発注書、注文書、メール、チャット、クラウド上の発注画面などを総合して、上記の事項が明確に示され、後から証明できる状態になっている必要があります。

5.3 電磁的方法による明示

Q&Aは、電磁的方法による提供として、電子メール、チャットツール、SMS、SNS、ウェブサイト、アプリケーション等のメッセージ機能による送信を挙げています。明示事項は本文に記載する方法だけでなく、明示事項を掲載したウェブページのURLをメッセージで送る方法も認められます。もっとも、クラウドサービス等ではメッセージ削除や閲覧不能化のリスクがあるため、発注者側と特定受託事業者側の双方でスクリーンショット等により保存することが望ましいです。

企業法務上は、次の設計が有効です。

次の比較表は、この章で扱う項目を実務上の意味に分けて整理したものです。確認漏れが支払や契約管理に波及するため重要で、各行の要件と対応の違いを読み取ってください。

課題対応
チャット発注が散在する発注フォーム又はワークフローを一本化する
現場が口頭で追加依頼する追加発注、仕様変更は必ず電子記録化する
URL先の条件が後で変わる発注時点のPDF保存、画面保存、バージョン管理を行う
発注者と受注者の呼称が不明確契約主体の正式名称、屋号、担当者名を分けて記載する
報酬の算定方法が曖昧固定額、時間単価、成果単価、追加費用、税別税込を明示する

5.4 未定事項の取扱い

業務委託時点で詳細が未定の場合もあります。たとえば、ソフトウェア開発で最終仕様が未確定、番組制作で具体的な内容が未確定、イベントで会場条件が後日決定というケースです。

Q&Aは、取引の性質上、業務委託時点では明示事項の内容を決定できないと客観的に認められる場合には、正当な理由があり得ると説明しています。ただし、未定事項が決まった後は、速やかに協議して決定し、直ちに明示する必要があります。

したがって、実務上は、未定事項を単に「別途協議」とするのではなく、少なくとも次の事項を記録する必要があります。

  1. 何が未定なのか
  2. なぜ未定なのか
  3. いつまでに決める予定か
  4. 決定方法は何か
  5. 決定後にどの方法で補充明示するか
  6. 未定事項によって報酬が増減する場合の算定基準
Section 05

フリーランス新法の報酬支払期日の設定と期日内支払

請求書基準ではなく、受領日又は役務提供日を起点に管理します。

次の重要ポイントは、支払管理で最も誤りやすい起算日を示します。請求書基準の社内運用が法定期日とずれやすいため重要で、受領日又は役務提供日から60日以内という読み方を確認してください。

請求書受領日ではなく受領日基準です

請求書が届いてから60日以内ではなく、給付受領日又は役務提供日を起算点にします。検査や社内承認が長引く場合も、支払期限の管理が必要です。

6.1 60日以内ルール

特定業務委託事業者は、特定受託事業者から給付を受領した日を起算日として、原則60日以内のできる限り短い期間内で報酬支払期日を定め、その期日までに報酬を支払う必要があります。政府広報オンラインも、報酬支払期日の設定と期日内支払を、従業員を使用している発注事業者の義務として整理しています。

このルールの実務上のポイントは、請求書受領日ではなく、給付受領日又は役務提供日を基準に支払管理を行う点です。

6.2 起算日の考え方

Q&Aは、支払期日を定める際の起算日は給付を受領した日であり、受領した日を算入すると説明しています。また、委託内容別の起算日について、物品の製造・加工委託では物品を受け取り自己の占有下に置いた日、情報成果物の作成委託では記録媒体の受領又は電子メール等で受領した情報が発注者のコンピュータ内に記録された時点、役務提供委託では個々の役務提供を受けた日又は一連の役務提供が終了した日と説明しています。

このため、企業実務では、次のような運用は危険です。

次の比較表は、この章で扱う項目を実務上の意味に分けて整理したものです。確認漏れが支払や契約管理に波及するため重要で、各行の要件と対応の違いを読み取ってください。

危険な運用問題点
請求書が届いてから60日以内に支払う起算日は請求書受領日ではない
検収完了後60日以内とする検査の有無にかかわらず受領日が問題になる
月末締め翌々月末払いを一律に適用する受領日から60日を超える可能性がある
支払期日を発注書に書かない支払期日管理ができず、違反認定リスクが高まる
部門が受領日を記録しない経理が適法な支払期限を判断できない

6.3 再委託の場合の例外

再委託の場合には、一定の事項を明示した場合に、元委託者から特定業務委託事業者への支払期日を基準とする例外が認められることがあります。Q&Aは、再委託の例外を適用する場合、通常の明示事項に加えて、再委託である旨、元委託者の名称等、元委託業務の対価の支払期日を明示する必要があると説明しています。

実務では、元請、下請、再委託の階層があるIT開発、映像制作、建設、イベント運営、物流、調査業務などで特に注意を要します。元委託者からの入金が遅いことを理由に、フリーランスへの支払を無期限に遅らせることはできません。

6.4 経理部門の役割

フリーランス新法の支払規制は、経理だけでなく、発注部門、購買部門、法務部門が協力しなければ遵守できません。経理部門は請求書だけを見ている場合、給付受領日や役務提供日を把握できないからです。

最低限、支払システムには次の項目を登録する必要があります。

  1. 発注日
  2. 契約又は発注番号
  3. 特定受託事業者該当性
  4. 給付内容又は役務内容
  5. 給付受領日又は役務提供日
  6. 検査完了日
  7. 支払期日
  8. 再委託該当性
  9. 元委託者の支払期日
  10. 支払実行日
Section 06

フリーランス新法の1か月以上の業務委託における禁止行為

実務上の確認ポイントを整理します。

特定業務委託事業者が特定受託事業者に1か月以上の業務委託をする場合、一定の禁止行為が定められています。政府広報オンラインは、禁止行為として、受領拒否、報酬減額、返品、買いたたき、購入・役務利用強制、経済上の利益提供要請、フリーランスが悪くない内容変更又はやり直しを挙げています。

7.1 受領拒否

受領拒否とは、発注した給付について、特定受託事業者に責任がないのに受け取らないことをいいます。たとえば、発注者側の販売計画が変わった、社内稟議が通らなかった、発注者の顧客が不要と言ったという理由だけで、完成した成果物の受領を拒むことは問題となり得ます。

実務上は、受領拒否のリスクを避けるため、契約上、成果物の仕様、納期、納品方法、受領場所、検査基準を明確化する必要があります。仕様変更や発注取消しが必要になった場合は、取消しの理由、時期、相手方の作業進捗、補償の要否を記録し、必要に応じて対価を支払うべきです。

7.2 報酬の減額

報酬の減額は、発注時に決めた報酬を後で減らす行為です。発注者の都合で「予算が足りない」「顧客から値引きを求められた」「社内決裁額が下がった」として減額することは、典型的なリスク行為です。

ただし、すべての金額変更が当然に違法となるわけではありません。業務量が実際に減少した、発注内容が双方合意で縮小した、特定受託事業者の責めに帰すべき不履行があり合理的な範囲で調整したなど、事情により評価は変わります。重要なのは、一方的な減額ではなく、事前の明示、合意、合理的な算定根拠、証跡を残すことです。

7.3 返品

返品とは、受領した物品等を、特定受託事業者に責任がないのに返す行為です。発注者の在庫都合、顧客都合、販売不振、担当者変更などを理由に返品することは問題となり得ます。

成果物が委託内容に適合しない場合は、契約不適合、検査基準、補修、再納品、報酬調整の問題として整理します。返品や再作業の原因がどちらにあるかを曖昧にしたまま、現場判断で戻すことは避ける必要があります。

7.4 買いたたき

買いたたきとは、通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬を不当に定めることをいいます。単に安い価格で合意したというだけで直ちに問題となるわけではないが、発注者の交渉上の優位、短納期、追加要望、知的財産権の譲渡、二次利用、修正回数、拘束時間、専門性などを考慮すると、通常対価との乖離が問題になることがあります。

特に知的財産権が絡む取引では注意が必要です。Q&Aは、成果物に関する権利の譲渡又は許諾を受けたい場合、権利の譲渡、許諾の範囲を給付内容の一部として明確に記載し、権利の対価を報酬に加える必要があると説明しています。また、特定受託事業者と協議せず一方的に通常支払われる対価より低い額を定めた場合には、買いたたきとして問題となるおそれがあります。

7.5 購入、利用強制

購入、利用強制とは、発注者が指定する物又は役務を、特定受託事業者に購入又は利用させることをいいます。Q&Aは、対象は原材料等だけでなく、保険、リース、インターネットプロバイダ等のサービスも含み、自社の製品、サービスだけでなく、取引先、特約店、子会社、関係会社等の製品やサービスも含まれると説明しています。

たとえば、発注者指定の高額なツール、研修、会員サービス、機材、保険、制服等の購入を強制する場合は、業務上必要か、費用負担は合理的か、代替手段はあるか、報酬との関係は適切かを検討する必要があります。

7.6 不当な経済上の利益の提供要請

不当な経済上の利益の提供要請とは、発注者が自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させ、特定受託事業者の利益を不当に害する行為です。

実務上問題となりやすいのは、無償の追加作業、無償の販促協力、無償の見本作成、無償の体験提供、無償のデータ提供、契約外のレポート作成などです。公正取引委員会は、2026年5月19日、音楽教室の運営等を行う事業者が特定受託事業者に無償で体験レッスンを行わせたことについて、不当な経済上の利益の提供要請の禁止に関する勧告を公表しています。

7.7 不当な給付内容の変更、やり直し

発注者が、特定受託事業者に責任がないのに、給付内容を変更させたり、受領後にやり直しをさせたりして、利益を不当に害する場合も問題となります。Q&Aは、不当な給付内容の変更及び不当なやり直しとは、特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、内容変更又は受領後のやり直しをさせ、利益を不当に害することと説明しています。

実務上は、次のような区別が重要です。

次の比較表は、この章で扱う項目を実務上の意味に分けて整理したものです。確認漏れが支払や契約管理に波及するため重要で、各行の要件と対応の違いを読み取ってください。

場面原則的な考え方
発注時の仕様に適合しない修正、補修を求め得るが、原因と範囲を記録する
発注者の希望が変わった追加発注又は変更発注として対価を検討する
顧客都合で変更が必要になった元委託者との関係を含め、再委託先への負担転嫁に注意する
当初仕様が曖昧だった発注者側の明示不十分として追加対価が必要になり得る
軽微な修正を含む契約だった修正回数、範囲、期限を契約で明示する
Section 07

フリーランス新法の募集情報の的確表示

実務上の確認ポイントを整理します。

8.1 募集情報規制の意味

フリーランス新法は、契約成立後だけでなく、募集段階にも規制を及ぼします。特定業務委託事業者が広告等にフリーランスの募集情報を掲載する場合、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確かつ最新の内容に保つ必要があります。政府広報オンラインも、募集情報の的確表示を就業環境整備の一内容として説明しています。

募集情報の的確表示は、企業の採用広報、業務委託募集、クラウドソーシング、SNS投稿、代理店募集、講師募集、登録制プラットフォーム、制作パートナー募集などに影響します。

8.2 SNS等による募集と6項目

厚生労働省及び労働局の資料では、SNS等を通じて募集する場合、募集情報の中で、特定受託事業者の募集を行う者の氏名又は名称、住所、連絡先、業務内容、業務に従事する場所、報酬を欠くものは、誤解を生じさせる表示に該当するものとして、本法第12条違反となると説明されています。

この規制は、いわゆる闇バイト対策の文脈でも注目されているが、一般企業にとっても重要です。たとえば、SNSで「簡単な在宅ワーク、月収50万円以上可」と投稿しながら、実際には業務内容、報酬算定、所在地、連絡先、場所が不明確である場合、法令違反だけでなく、企業信用の低下につながります。

8.3 実務上のチェックポイント

募集情報は、少なくとも次の観点で確認する必要があります。

  1. 募集主体が実際の発注者と一致しているか
  2. 業務内容が具体的か
  3. 報酬額、算定方法、支払時期が誤解を招かないか
  4. 就業場所、オンライン可否、常駐の有無が明示されているか
  5. 必要な資格、経験、機材、費用負担が明示されているか
  6. 募集情報が古い条件のまま放置されていないか
  7. 労働者募集と業務委託募集が混在していないか
  8. 成果報酬、歩合、インセンティブの条件が明確か
  9. 代理店、加盟店、登録パートナー募集との違いが明確か
  10. 反社会的勢力、犯罪実行者募集と誤解される表現がないか
Section 08

フリーランス新法の育児介護等と業務の両立に対する配慮

実務上の確認ポイントを整理します。

9.1 義務の趣旨

特定業務委託事業者は、6か月以上の業務委託について、特定受託事業者から育児介護等の配慮の申出があった場合、一定の対応をする必要があります。Q&Aは、申出があった場合、配慮の申出内容等の把握、配慮内容又は取り得る選択肢の検討、配慮内容の伝達及び実施又は不実施の場合の伝達と理由説明が必要と説明しています。

この義務は、雇用契約における育児介護休業制度そのものではありません。フリーランスは労働者ではなく事業者であるため、業務委託契約の枠組みを維持しながら、妊娠、出産、育児、介護と業務の両立を可能にするための配慮を検討する義務です。

9.2 必ず希望どおりにしなければならないわけではない

Q&Aは、本法第13条の趣旨は、特定受託事業者が希望する育児介護等の配慮を必ず実現しなければならないというものではないと説明しています。十分に検討した結果、やむを得ず必要な配慮を行うことができない場合には、配慮不実施の旨を伝達し、その理由を説明すれば、直ちに違反となるものではありません。

したがって、企業の実務対応として重要なのは、次のプロセスです。

  1. 申出窓口を明確にする
  2. 申出内容を記録する
  3. 業務内容、納期、顧客要請、代替手段、費用、品質影響を確認する
  4. 取り得る選択肢を検討する
  5. 実施可否を伝える
  6. 実施できない場合は理由を説明する
  7. 報酬、納期、業務量の変更がある場合は契約条件を補充明示する
  8. 申出を理由とする不利益取扱いをしない

9.3 配慮の具体例

Q&Aは、妊婦健診がある日の打合せ時間調整、妊娠に起因する症状により急に業務対応ができなくなる場合の対応の事前取決め、出産に伴う納品方法変更、子の急病による納期変更、介護を理由とする一部業務のオンライン切替えなどを例示しています。

実務上は、配慮を「特別扱い」と捉えるのではなく、継続的業務委託におけるリスク管理と考える必要があります。事前に相談ルートを整備しておけば、突然の納期遅延、未納、契約解除、ハラスメント申立て、SNS炎上を防ぎやすいです。

Section 09

フリーランス新法のハラスメント対策に係る体制整備

実務上の確認ポイントを整理します。

10.1 業務委託におけるハラスメント

フリーランス新法は、特定業務委託事業者に対し、特定受託業務従事者に対するハラスメント対策の体制整備を求めています。Q&Aは、この規定について、特定受託業務従事者が業務委託に起因してハラスメントを受けやすい立場にあることを踏まえ、能力を発揮しつつ業務を継続できる環境を整備するためのものと説明しています。

業務委託におけるハラスメントは、事務所内だけに限られません。Q&Aは、取引先の事務所、顧客の自宅、打合せの飲食店、同じ業務を遂行する関係者の打ち上げ、電話やメール等も、業務委託に関して行われる場面に含まれ得ると説明しています。

10.2 体制整備の具体的内容

Q&Aは、ハラスメント対策の体制整備として、方針の明確化及び周知啓発、相談に応じ適切に対応するための体制整備、事後の迅速かつ適切な対応、併せて講ずべき措置を実施しなければならないと説明しています。相談窓口については、外部機関に委託する、担当者を定める、相談制度を設けるなどの対応が考えられます。

企業実務では、既存の従業員向けハラスメント相談窓口を、特定受託業務従事者にも利用可能にする方法が考えられます。ただし、その場合でも、フリーランスに周知され、利用しやすく、相談受付が認識できる仕組みになっている必要があります。Q&Aも、既存の労働者向け相談窓口を活用する場合は、本法第14条に基づく措置義務の内容を満たすか確認したうえで、特定受託業務従事者にも利用可能とする方法が考えられると説明しています。

10.3 再委託、常駐、現場型業務の注意点

再委託や常駐型業務では、ハラスメントの加害者が発注者の従業員だけとは限りません。元委託者、顧客、現場管理者、共同作業者、別会社の担当者が関与することがあります。

Q&Aは、特定受託業務従事者が元委託事業者の管理する現場で働く場合、元委託事業者に対してもハラスメント対策の重要性の理解を求め、連携して対策を行うことが効果的と説明しています。たとえば、現場におけるハラスメント対策の実施を要望することや、相談窓口の担当者が現場管理者と連携して事実確認を行うこと等を契約に盛り込むことが考えられます。

Section 10

フリーランス新法の中途解除等の事前予告と理由開示

実務上の確認ポイントを整理します。

次の判断の流れは、6か月以上の業務委託を終了する前に確認する順番です。終了連絡の遅れは行政上のリスクだけでなく紛争にもつながるため重要で、期間、理由、予告、例外、理由開示を順に読み取ってください。

中途解除・不更新の確認順序

期間を確認

契約期間、更新履歴、実質的継続期間を確認します。

終了類型を区別

中途解除か不更新か、例外事由があるかを整理します。

30日前予告を検討

予告日当日から終了日前日まで30日間を確保できるかを確認します。

理由開示に備える

請求があった場合の回答方針と証拠を準備します。

11.1 30日前予告の基本

6か月以上の業務委託に係る契約を中途解除する場合、又は更新しない場合、特定業務委託事業者は原則として30日前までに予告する必要があります。政府広報オンラインも、6か月以上の業務委託を中途解除する場合や更新しない場合、原則30日前までの予告と、理由開示請求があった場合の理由開示が義務付けられていると説明しています。

Q&Aは、事前予告の趣旨について、一定期間継続する取引において、契約の中途解除や不更新を事前に知らせることで、特定受託事業者が次の取引へ円滑に移行できるようにし、解除等に伴う時間的、経済的損失を軽減することを目的とすると説明しています。

11.2 30日前の数え方

Q&Aは、解除日又は不更新の場合の契約満了日の少なくとも30日前までに予告を行う必要があり、予告日当日から解除日の前日までの期間が30日間確保されている必要があると説明しています。たとえば8月31日に解除する場合は、8月1日までに予告が必要です。

11.3 解除の有効性との関係

Q&Aは、フリーランス新法第16条の予告義務は、解除等の効力を本法に基づいて判断するものではなく、解除等の効力や損害賠償請求等は民事上の争いとして司法判断等により解決されると説明しています。

これは重要です。フリーランス新法上の予告義務違反が直ちに解除無効を意味するとは限らないが、民法、契約条項、信義則、不法行為、損害賠償、行政上の措置、レピュテーションの各リスクは別途残ります。

11.4 実務上の解除プロセス

企業は、6か月以上の業務委託について、少なくとも次の手順を整備する必要があります。

  1. 契約期間、更新履歴、実質的継続期間を確認する
  2. 中途解除か不更新かを区別する
  3. 解除事由、不更新理由、証拠を整理する
  4. 30日前予告の要否を判断する
  5. 例外事由の有無を検討する
  6. 予告文面を法務又は担当部門が確認する
  7. 理由開示請求が来た場合の回答方針を用意する
  8. アカウント停止、発注停止、業務量削減が実質的な解除に当たらないか確認する
  9. 反社、重大違反、機密漏えい等の即時対応事案では、民事上、危機管理上の整理も行う
Section 11

フリーランス新法の他法令との関係

実務上の確認ポイントを整理します。

12.1 取適法との関係

フリーランス新法は、従来の下請法、現在の取適法との関係でも重要です。厚生労働省は、旧下請法が改正され、令和8年1月1日より「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」として施行されることに伴い、ガイドラインを改定したと説明しています。

Q&Aは、本法及び取適法の両方が適用される発注を行う場合、同一の書面や電子メール等において、両法が定める記載事項を併せて一括で示すことが可能と説明しています。ただし、いずれか一方のみに基づく記載事項があるときは、その事項も記載する必要があります。

したがって、企業実務では、取適法対応の注文書を既に持っている企業であっても、フリーランス新法固有の要件を満たしているか確認する必要があります。

12.2 独占禁止法との関係

フリーランスとの取引は、フリーランス新法だけでなく、独占禁止法上の優越的地位の濫用に該当する可能性もあります。内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の連名で策定されたガイドラインは、フリーランス・事業者間取引適正化等法、独占禁止法、取適法、労働関係法令の適用関係を明らかにし、問題行為を明確化するものとされています。

独占禁止法は、特定受託事業者に該当しない事業者との取引にも問題となり得るため、企業は「フリーランス新法の対象外だから自由」とは考えるべきではありません。

12.3 労働法との関係

業務委託契約であっても、実態として労働者性が認められれば、労働基準法、労働契約法、労災保険、安全衛生、男女雇用機会均等法、育児介護休業法等の問題になります。厚生労働省は、労働者性は契約形式や名称ではなく実態を勘案して総合判断されると説明しています。

実務上は、次の要素を確認します。

  1. 業務遂行方法に対する具体的指揮命令の有無
  2. 勤務場所、勤務時間の拘束性
  3. 代替性の有無
  4. 報酬が時間給的か成果報酬的か
  5. 事業者性、機材負担、損益負担の有無
  6. 専属性の程度
  7. 就業規則、社内規程の適用有無
  8. 名刺、メールアドレス、組織図上の扱い

12.4 知的財産法との関係

デザイン、文章、写真、動画、音楽、ソフトウェア、設計図、研究成果などでは、知的財産権の帰属と利用範囲が大きな論点となります。Q&Aが指摘するように、成果物に関する権利の譲渡又は許諾を受ける場合は、権利の範囲と対価を明確にする必要があります。

契約書では、少なくとも次の事項を明示します。

  1. 著作権の帰属
  2. 著作者人格権の不行使特約
  3. 利用許諾の範囲、媒体、地域、期間
  4. 二次利用、改変、翻案、再許諾の可否
  5. 商標、意匠、特許、ノウハウの扱い
  6. 既存素材、オープンソース、第三者素材の利用条件
  7. AI生成物を利用する場合の責任分担
  8. 権利譲渡又は許諾に対応する対価

12.5 個人情報保護法、情報セキュリティとの関係

フリーランスに顧客情報、従業員情報、機密情報、ソースコード、未公開データを扱わせる場合、個人情報保護法、秘密保持、アクセス権限、ログ管理、再委託管理、事故対応の問題が生じます。

フリーランス新法上の取引条件明示とは別に、情報管理条項、個人情報取扱条項、秘密保持契約、セキュリティチェック、事故報告義務、返却・削除義務を整備する必要があります。

Section 12

フリーランス新法の契約書、発注書、業務フローの実務対応

実務上の確認ポイントを整理します。

13.1 最低限整備すべき文書

企業が整備すべき文書は、次のとおりです。

次の比較表は、この章で扱う項目を実務上の意味に分けて整理したものです。確認漏れが支払や契約管理に波及するため重要で、各行の要件と対応の違いを読み取ってください。

文書目的
フリーランス取引管理規程社内ルール、対象範囲、承認権限、禁止事項を定める
発注前チェックシート受注者属性、従業員使用有無、業務内容、期間を確認する
業務委託契約書基本条項、成果物、報酬、知財、秘密保持、解除を定める
発注書又は3条通知テンプレート法定明示事項を漏れなく示す
変更発注書仕様変更、追加作業、納期変更、報酬変更を記録する
検収記録受領日、検査日、適合性、修正依頼を記録する
支払管理表受領日を起点に支払期日を管理する
募集情報チェックリストSNS、求人媒体、登録フォームの表示を確認する
ハラスメント相談運用規程相談窓口、調査、対応、不利益取扱い禁止を定める
中途解除、不更新チェックシート6か月以上取引の解除、予告、理由開示を管理する

13.2 発注書テンプレートに入れるべき項目

発注書又は3条通知テンプレートには、少なくとも次の項目を入れます。

  1. 発注者の名称、所在地、担当者、連絡先
  2. 受注者の名称、屋号、氏名、連絡先
  3. 受注者が従業員を使用しないことの確認欄
  4. 業務委託をした日
  5. 業務の内容
  6. 成果物、役務、仕様、数量、品質基準
  7. 納期又は役務提供日
  8. 納品場所又は役務提供場所
  9. 検査を行う場合の検査完了日
  10. 報酬額、税別税込、源泉徴収の扱い
  11. 経費、交通費、材料費の扱い
  12. 支払期日、支払方法
  13. 再委託該当性
  14. 知的財産権の帰属又は利用範囲
  15. 変更、追加発注の手続
  16. ハラスメント相談窓口
  17. 育児介護等の配慮申出窓口
  18. 契約解除、不更新の連絡方法
  19. 保存方法、証跡番号

13.3 変更管理の重要性

フリーランス取引で最も紛争化しやすいのは、発注後の変更です。特に、制作、開発、コンサルティング、映像、広告、イベントでは、仕様変更、修正追加、納期前倒し、成果物の二次利用、キャンセル、顧客都合による差戻しが頻繁に生じます。

変更管理では、次の原則を徹底します。

  1. 変更は口頭だけで行わない
  2. 変更理由を記録する
  3. 変更が報酬、納期、権利、責任範囲に与える影響を確認する
  4. 追加対価の要否を検討する
  5. 変更後の条件を補充明示する
  6. 顧客都合をそのままフリーランスに転嫁しない
  7. 無償対応を求める場合は、契約上の範囲内かを確認する
Section 13

フリーランス新法の部門別の対応ポイント

実務上の確認ポイントを整理します。

次の一覧は、部門ごとの役割を示します。法務だけでは運用できない制度であるため重要で、どの部門がどの証跡を持つべきかを読み取ってください。

法務部門

対象判断、契約書、発注書、変更発注、解除、不更新、行政対応を設計します。

設計

購買部門

取引先属性、標準発注書、価格交渉、支払条件を管理します。

発注

経理部門

受領日又は役務提供日を把握し、60日以内の支払を管理します。

支払

内部監査

通知漏れ、支払超過、変更発注、相談窓口の運用を点検します。

監査

14.1 法務部門

法務部門は、フリーランス新法対応の設計者です。契約書ひな形の改訂だけでなく、発注フロー、承認権限、違反疑義対応、行政調査対応、紛争対応まで所掌します。

主な対応は次のとおりです。

  1. 適用対象判断基準の策定
  2. 契約書、発注書、変更発注書の整備
  3. 知財、秘密保持、個人情報条項の見直し
  4. 禁止行為に関する社内研修
  5. 中途解除、不更新のレビュー
  6. 行政調査、申出対応の窓口設計
  7. 取適法、独禁法、労働法との整理

14.2 購買、外注管理部門

購買部門は、発注条件の明示、価格交渉、支払条件、取引先管理の中心です。

対応ポイントは次のとおりです。

  1. フリーランス取引先の属性確認
  2. 反社チェック、インボイス登録、源泉徴収、支払情報の確認
  3. 標準発注書の利用徹底
  4. 買いたたき、減額、返品、追加無償作業の防止
  5. 支払期日を満たす経理連携
  6. 取引先マスタの分類管理

14.3 事業部門

事業部門は、実際に依頼し、仕様を伝え、成果物を受け取り、修正を求める立場です。違反は現場の一言から発生することが多いです。

事業部門には、次の教育が必要です。

  1. 口頭発注をしない
  2. チャットで追加依頼したら記録化する
  3. 修正依頼は契約範囲を確認する
  4. 無償対応を安易に求めない
  5. 発注取消し、減額は法務又は購買に相談する
  6. ハラスメント発言、人格攻撃、過度な深夜連絡を避ける
  7. 育児介護等の配慮申出を無視しない

14.4 経理部門

経理部門は、支払期日遵守の最後の防衛線です。請求書の到着だけを基準にするのではなく、給付受領日又は役務提供日を把握する仕組みが必要です。

特に、月末締め翌々月末払い、検収完了後払い、顧客入金後払い、請求書受領後起算の運用は見直する必要があります。

14.5 人事、労務、コンプライアンス部門

人事、労務、コンプライアンス部門は、ハラスメント対策、育児介護等配慮、相談窓口、研修、労働者性判断で重要です。

業務委託だから人事労務の対象外と考えるのは危険です。フリーランス新法では、業務委託関係においても、就業環境整備が求められます。

14.6 内部監査部門

内部監査部門は、法令対応が実際に運用されているかを検証します。

監査項目としては、次のようなものが考えられます。

  1. フリーランス取引台帳の整備状況
  2. 3条通知の漏れ
  3. 支払期日超過の有無
  4. 変更発注の記録
  5. 減額、返品、無償対応の有無
  6. 募集情報の更新管理
  7. 相談窓口の周知状況
  8. 中途解除、不更新の予告状況
  9. 行政申出、苦情、紛争の記録
Section 14

フリーランス新法の業種別の注意点

実務上の確認ポイントを整理します。

15.1 IT、ソフトウェア開発

IT開発では、仕様変更、準委任と請負の混在、アジャイル開発、保守運用、常駐、再委託、オープンソース、AI利用が問題となります。

注意点は次のとおりです。

  1. 業務内容を「開発一式」とせず、作業範囲を明確にする
  2. 追加開発、仕様変更、バグ修正の範囲を分ける
  3. 受領日、検収日、リリース日を区別する
  4. ソースコード、著作権、利用許諾、再利用権を明示する
  5. 常駐先でのハラスメント相談経路を整備する
  6. アカウント停止が実質的な契約解除にならないか確認する

15.2 広告、デザイン、ライティング、映像制作

クリエイティブ領域では、修正回数、二次利用、著作権、著作者人格権、クライアント都合の差戻し、コンペ参加費、無償提案が問題になりやすいです。

注意点は次のとおりです。

  1. ラフ、初稿、完成稿の扱いを明示する
  2. 修正回数と追加費用を決める
  3. 二次利用、媒体展開、海外利用、広告出稿期間を明示する
  4. 採用されなかった提案物の権利と対価を明確にする
  5. クライアント都合のキャンセル料を定める
  6. 無償の販促協力や実績掲載条件を整理する

15.3 メディア、芸能、音楽、教育

出演、講師、演奏、撮影、編集、レッスン、イベント登壇では、拘束時間、リハーサル、移動、キャンセル、肖像、録音録画、二次利用が問題となります。

注意点は次のとおりです。

  1. 本番だけでなく準備、リハーサル、打合せの対価を明確にする
  2. キャンセル料、日程変更、天候中止を定める
  3. 肖像、録音、録画、配信、アーカイブ利用を明示する
  4. 無償体験、無償出演、無償宣伝協力を安易に求めない
  5. セクハラ、パワハラ、顧客からの迷惑行為への対応を整備する

15.4 建設、一人親方、現場作業

建設現場では、一人親方、重層下請、現場指揮、安全衛生、労働者性、偽装請負が問題となります。

注意点は次のとおりです。

  1. 請負範囲、現場、期間、単価、材料負担を明示する
  2. 安全衛生上の指示と労働者性の境界を整理する
  3. 元請、下請、再委託先のハラスメント対応を連携する
  4. 受領、役務提供終了、出来高確認の記録を残す
  5. 突然の現場変更、待機、手戻りの費用負担を整理する

15.5 コンサルティング、専門職、士業

弁護士、税理士、会計士、社労士、弁理士、コンサルタント、研究者、講師などの専門職委託では、成果物よりも役務提供、助言、調査、報告が中心となります。

注意点は次のとおりです。

  1. 業務範囲、前提条件、成果物の有無を明確にする
  2. 成果保証ではなく助言提供であることを必要に応じて明示する
  3. 追加相談、会議参加、資料修正の対価を定める
  4. 守秘義務、利益相反、資料管理を明確にする
  5. 報告書、意見書の利用範囲、第三者開示の可否を定める
Section 15

フリーランス新法の違反時のリスク、申出制度、勧告事例

実務上の確認ポイントを整理します。

次の注意項目は、違反時に起こり得るリスクをまとめたものです。罰金だけを見ていると実務影響を過小評価するため重要で、行政、民事、評判、取引継続への波及を読み取ってください。

行政リスク

報告徴収、立入検査、指導、助言、勧告、命令、公表の対象となり得ます。

申出リスク

フリーランスによる行政機関への申出と、不利益取扱い禁止を管理します。

民事リスク

未払報酬、損害賠償、解除紛争、知的財産、労働者性が問題になり得ます。

評判リスク

SNSや業界コミュニティでの情報発信が採用、広報、顧客対応へ影響します。

16.1 行政上のリスク

フリーランス新法に違反した場合、行政機関による報告徴収、立入検査、指導、助言、勧告、命令、公表の対象となります。政府広報オンラインは、命令違反や検査拒否等の場合には50万円以下の罰金が科されると説明しています。

また、フリーランスは、発注事業者に違反と思われる行為があった場合、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省に対して申出を行うことができます。発注事業者は、申出をしたことを理由として、契約解除や今後の取引拒絶などの不利益取扱いをしてはなりません。

16.2 施行後の勧告事例から見える重点リスク

公正取引委員会の公表情報を見ると、施行後の勧告事例では、取引条件の明示義務、報酬支払義務、報酬減額、不当な経済上の利益の提供要請などが問題となっています。

たとえば、2026年2月の共同通信社に対する勧告では、取引条件の明示義務と報酬支払義務が問題となりました。 同じく2026年2月の中部電力に対する勧告でも、特定受託事業者に対する業務委託時の明示事項不備や支払期日に関する問題が公表されています。 2026年5月のシアー株式会社に対する勧告では、特定受託事業者に無償で体験レッスンを行わせたことが、不当な経済上の利益の提供要請の禁止に関して問題とされました。

これらから、企業が重点的に点検すべき事項は次のとおりです。

  1. 発注時に法定明示事項を漏れなく示しているか
  2. 明示事項が書面又は電磁的方法で証跡化されているか
  3. 支払期日を受領日基準で管理しているか
  4. 支払期日を定めない運用が残っていないか
  5. 顧客都合や社内都合で減額していないか
  6. 無償作業、無償協力、無償体験を求めていないか
  7. 取締役会、経営会議、コンプライアンス委員会に報告される仕組みがあるか

16.3 民事、レピュテーション、取引継続リスク

行政上の措置とは別に、民事上の損害賠償、未払報酬請求、契約解除紛争、著作権侵害、不当利得、労働者性をめぐる紛争が生じ得ます。また、フリーランスは個人としてSNS、業界コミュニティ、口コミを通じて情報発信することがあるため、企業名が公開されれば採用、広報、顧客対応にも影響します。

企業は、法令違反を「罰金50万円の問題」と狭く捉えるべきではありません。フリーランス取引は、専門人材の獲得、事業スピード、クリエイティブ品質、外部専門性の活用に直結します。適正な取引は、リスク回避であると同時に、優秀な外部人材から選ばれるための経営戦略でもあります。

Section 16

フリーランス新法のよくある実務質問

個別事情で結論が変わるため、一般的な制度理解として整理します。

Q1. 契約書があれば、3条通知は不要か

一般的には、契約書に法定明示事項がすべて記載され、業務委託時に書面又は電磁的方法で示されていれば、3条通知の機能を果たし得るとされています。ただし、業務内容、納期、場所、報酬、支払期日、検査完了日などが不足する場合は、発注書、注文書、メール等で補充が必要となる可能性があります。具体的な対応は、契約書と発注実態を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q2. チャットで発注してもよいか

一般的には、電子メール、チャットツール、SMS、SNS、アプリのメッセージ機能等も電磁的方法として使われ得るとされています。ただし、明示事項を後から閲覧、保存、出力できるか、削除やアカウント停止が起きた場合にも証跡を確認できるかによって、運用上の評価が変わる可能性があります。具体的な対応は、利用ツールと保存方法を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q3. フリーランス側が請求書を出さない場合、支払わなくてよいか

一般的には、支払期日の起算日は給付受領日又は役務提供日であり、請求書受領日ではないとされています。社内処理で請求書が必要な場合でも、請求書未着を理由に法定支払期日を超えると問題となる可能性があります。具体的な対応は、請求方法、確認期限、リマインド手順を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q4. 成果物が気に入らない場合、無償で何度でも修正させられるか

一般的には、発注時の仕様や検査基準に適合しない場合、契約上の修正を求め得ることがあります。ただし、発注者の好み、顧客都合、後出しの仕様変更、曖昧な指示による手戻りを無償で負担させることは問題となる可能性があります。具体的な対応は、修正回数、修正範囲、追加費用、証拠関係を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q5. 著作権は発注者に当然帰属するか

一般的には、著作権が発注者に当然帰属するとは限らないとされています。著作権の譲渡、利用許諾、二次利用、改変、再許諾、著作者人格権不行使などは、契約内容や成果物の性質によって結論が変わる可能性があります。具体的な対応は、契約書、発注時の明示事項、成果物の利用範囲を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q6. フリーランスが法人化していれば対象外か

一般的には、一人法人で、一の代表者以外に他の役員がなく、従業員を使用しない場合は、特定受託事業者に該当し得るとされています。ただし、役員構成、従業員使用の有無、契約当事者の実態によって判断が変わる可能性があります。具体的な対応は、相手方の事業形態と取引実態を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q7. 契約期間が1か月未満なら何も対応しなくてよいか

一般的には、取引条件の明示義務、報酬支払期日の設定、募集情報の的確表示、ハラスメント対策などは、期間要件がない又は別の基準で適用される場合があるとされています。そのため、1か月未満の取引でも対応が必要となる可能性があります。具体的な対応は、適用される義務と契約期間を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q8. 6か月以上の契約でなければ中途解除の予告は不要か

一般的には、フリーランス新法第16条の30日前予告義務は6か月以上の業務委託が中心とされています。ただし、契約更新により実質的に継続している場合、基本契約期間が長い場合、契約条項や民法上の問題が関係する場合には、結論が変わる可能性があります。具体的な対応は、契約期間、更新履歴、解除理由を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q9. フリーランスからの育児介護等の申出には必ず応じなければならないか

一般的には、希望どおりの配慮を常に実現する制度ではないとされています。ただし、申出内容を把握し、取り得る選択肢を検討し、実施又は不実施を伝え、不実施の場合は理由を説明することが重要となる可能性があります。具体的な対応は、業務内容、契約期間、申出内容、代替案を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q10. 既存の従業員向けハラスメント窓口を使ってよいか

一般的には、既存の従業員向けハラスメント窓口を特定受託業務従事者にも利用可能にする運用は考えられます。ただし、周知、利用しやすさ、相談受付後の対応、再委託先や現場型業務での実効性によって、十分な体制といえるかが変わる可能性があります。具体的な対応は、相談窓口の対象者、周知方法、対応記録を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Section 17

フリーランス新法の企業が導入すべきコンプライアンスプログラム

実務上の確認ポイントを整理します。

次の時系列は、企業が導入すべき対応プログラムの順番を示します。部分対応では漏れが残るため重要で、棚卸し、分類、標準化、研修、監査改善の順に読み取ってください。

第1段階

取引棚卸し

フリーランス取引を部門横断で洗い出します。

第2段階

リスク分類

長期継続、金額大、知財あり、常駐、再委託、個人情報ありを優先します。

第3段階

標準化

通知テンプレート、変更発注、支払期日アラートを整えます。

第4段階

研修

チャット追加依頼、顧客都合、無償作業など実例で教育します。

第5段階

監査改善

通知漏れ率、支払超過、相談対応を点検します。

18.1 第1段階 ― 取引棚卸し

まず、社内のフリーランス取引を棚卸しします。対象は、購買部門が管理する取引だけではありません。広告、広報、開発、研究、教育、採用、総務、経営企画、海外事業、法務、知財、M&A、危機管理など、各部門の小口発注も含めて確認します。

棚卸し項目は次のとおりです。

  1. 取引先名
  2. 個人か法人か
  3. 従業員使用有無
  4. 役員数
  5. 業務内容
  6. 契約期間、更新状況
  7. 年間発注金額
  8. 発注部門
  9. 契約書、発注書の有無
  10. 支払条件
  11. 知財、個人情報、機密情報の有無
  12. 常駐、現場作業の有無

18.2 第2段階 ― リスク分類

次に、取引をリスク分類します。

次の比較表は、この章で扱う項目を実務上の意味に分けて整理したものです。確認漏れが支払や契約管理に波及するため重要で、各行の要件と対応の違いを読み取ってください。

リスク区分優先対応
長期継続、金額大、知財あり、常駐、再委託、個人情報あり契約書改訂、支払管理、相談窓口、解除管理
継続発注、成果物あり、仕様変更が多い発注書、変更管理、検収記録
単発小口、明確な成果物、個人情報なし標準発注書、支払期日管理

18.3 第3段階 ― 標準化

社内で次の標準化を進めます。

  1. 取引先登録時の属性確認
  2. 3条通知テンプレート
  3. 業務委託契約書ひな形
  4. 変更発注フロー
  5. 支払期日アラート
  6. 募集情報レビュー
  7. ハラスメント相談窓口
  8. 育児介護等配慮申出フロー
  9. 解除、不更新レビュー
  10. 行政申出対応手順

18.4 第4段階 ― 研修

研修対象は法務部だけではありません。発注権限を持つすべての部門、経理、購買、人事、広報、情報システム、現場管理者に研修を行います。

研修では、抽象的な法令説明よりも、次のような実例を扱うべきです。

  1. チャットで追加修正を依頼したケース
  2. 顧客都合でキャンセルしたケース
  3. 請求書が遅れたケース
  4. 体験レッスンや無償サンプルを求めたケース
  5. SNSで業務委託募集を出したケース
  6. 妊娠、育児、介護の相談を受けたケース
  7. フリーランスに強い口調で深夜対応を求めたケース
  8. 長期委託を突然打ち切るケース

18.5 第5段階 ― 監査と改善

運用開始後は、内部監査又はコンプライアンス部門が定期点検を行います。

重点監査項目は次のとおりです。

  1. 3条通知の漏れ率
  2. 支払期日超過件数
  3. 変更発注書の作成率
  4. 減額、返品、無償作業の発生件数
  5. 募集情報の更新状況
  6. ハラスメント相談件数と対応状況
  7. 育児介護等配慮申出の処理状況
  8. 中途解除、不更新の予告実施状況
  9. 行政申出、外部相談、紛争の発生状況
  10. 再発防止策の実行状況
Section 18

フリーランス新法のまとめ

実務上の確認ポイントを整理します。

フリーランス新法は、発注者とフリーランスの取引を、契約、支払、変更、募集、就業環境、解除の各段階で適正化する法律です。企業法務にとって重要なのは、条文理解だけでなく、実際の発注業務をどのように統制するかです。

特に重要な実務対応は次の10点です。

  1. フリーランス取引を棚卸しする
  2. 特定受託事業者該当性を発注時点で確認する
  3. 取引条件を必ず書面又は電磁的方法で明示する
  4. 給付受領日又は役務提供日を起点に支払期日を管理する
  5. 1か月以上の業務委託では禁止行為を重点管理する
  6. 募集情報を正確かつ最新に保つ
  7. 育児介護等の申出を無視せず、検討と説明を記録する
  8. ハラスメント相談体制をフリーランスにも周知する
  9. 6か月以上の業務委託では中途解除、不更新を事前管理する
  10. 法務、購買、経理、人事、コンプライアンス、内部監査が連携する

フリーランス新法への対応は、単なる義務履行ではありません。外部専門人材との信頼関係を高め、優秀な人材に選ばれる企業になるための基盤です。発注者が明確な条件を示し、適正な対価を支払い、ハラスメントのない環境を整備し、解除や変更を公正に行うことは、法令遵守であると同時に、企業価値を守る実務そのものです。

Guide

フリーランス新法で次に確認したいこと

目的に近い詳しい解説へ進めるよう、関連するテーマを整理しました。

知りたい内容を選ぶと、手続、費用、地域、具体的な論点などの詳しい解説に進めます。

このテーマから次に確認されやすい詳しい解説を9件表示しています。

Reference

この記事の参考情報源

公的機関・法令

  • 公正取引委員会「フリーランスの取引適正化に向けた公正取引委員会の取組」
  • 厚生労働省「フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ」
  • 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」特定受託事業者、特定業務委託事業者、従業員使用等に関する説明
  • 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」派遣労働者、同居親族等に関する説明
  • 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」発注時点での従業員有無確認、3条通知に関する説明
  • 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」業務委託、事業のため、役員等との関係に関する説明
  • 厚生労働省「フリーランスであっても、働き方によっては『労働者』に当たる可能性があります」
  • 政府広報オンライン「フリーランスが安心して働ける環境づくりのための法律、2024年11月からスタート!」発注事業者の義務整理
  • 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」期間の考え方
  • 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」3条通知の明示事項
  • 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」電磁的方法による明示
  • 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」報酬支払期日の起算日
  • 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」再委託の例外
  • 政府広報オンライン「1か月以上の業務委託をする場合の禁止行為」
  • 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」知的財産権の取扱い
  • 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」購入・利用強制
  • 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」不当な給付内容変更、やり直し
  • 政府広報オンライン「就業環境の整備について」