不使用取消審判、商標審査、警告書対応、ライセンス監査で求められる資料を、要件ごとに整理し、客観資料の連鎖として組み立てるための企業法務向けガイドです。
単独資料ではなく、商標使用を要件ごとに結びつける設計として捉えます。
単独資料ではなく、商標使用を要件ごとに結びつける設計として捉えます。
使用証拠を求められた時の提出資料は、商品写真やウェブ画面を単発で出すものではありません。その商標が、いつ、どこで、誰によって、どの商品又は役務について、どのような態様で使われたかを、客観資料の組合せで説明できるように整えるものです。
次の重要ポイントは、このページ全体で扱う立証設計の中心を表しています。商標登録を守る場面では要件を外すと資料の量が多くても評価されにくいため、読者は期間、国内使用、使用主体、対象商品・役務、商標同一性、使用態様の6要素を必ず同時に確認する必要があります。
不使用取消審判では、審判請求の登録前3年以内に、日本国内で、商標権者・専用使用権者・通常使用権者のいずれかが、請求対象の商品又は役務について、登録商標又は社会通念上同一の商標を使用していたことを示す必要があります。
実務上は、商標が表示された商品・包装の写真、商品を特定できる注文書・納品書・請求書・領収書、販売先や販売地域を示す資料、商標権者又は使用権者との関係資料、証拠説明書をつなげて提出します。ウェブサイトや広告を使う場合も、商標、日付、URL、運営主体、商品・役務との関係、公開又は頒布の事実を補う資料が必要になります。
商標表示だけでなく、商品・役務、時期、主体、国内使用、使用態様まで説明できる資料群です。
ここでいう使用証拠とは、主に商標の使用を証明する資料です。商標には、商品名、サービス名、ロゴ、ブランド名、店舗名、アプリ名、サービスロゴなど、事業者の商品又は役務を示す標識が含まれます。
次の一覧は、使用証拠を求められる場面を整理したものです。場面ごとに立証目的が異なるため、読者は自社がどの手続や交渉で資料を求められているのかを先に特定し、提出範囲と開示水準を読み分けることが重要です。
登録商標を要証期間内に日本国内で使用していたことを、商標権者側が客観資料で示す場面です。
指定商品又は指定役務について、実際の使用又は使用意思があることを説明する場面です。
相手方に使用実態、使用開始時期、対象商品・役務を説明し、交渉や公的手続に備える場面です。
使用権者や事業部門から使用状況を報告させ、ブランド管理と将来の証拠保存につなげる場面です。
特に不使用取消審判は、登録商標を実際に使っていたとしても、それを証明できなければ登録が取り消されるリスクがあります。そのため、このページでは不使用取消審判を中心に、審査、紛争、契約管理、社内証跡管理まで含めて整理します。
不使用取消審判、審査、紛争、契約監査では、同じ資料でも使い方が変わります。
日本では、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者が、継続して3年以上、日本国内で、指定商品又は指定役務について登録商標を使用していない場合、何人も、その指定商品又は指定役務に関する商標登録の取消しを請求できます。
審査では、出願人が指定商品又は指定役務に係る業務を行っていること、又は今後行う予定があることを示す資料が重視されます。カタログ、ちらし、店舗写真、業務内容を紹介する記事、売上高資料、使用意思を明記した文書、準備状況を示す資料などが検討対象になります。
使用意思を説明する場合は、出願後3〜4年以内、登録後3年に相当する時期までに商標の使用を開始する意思があるかが問題になり得ます。広く指定しすぎた商品・役務が原因で疑義が出た場合は、実態に合う範囲へ補正することが合理的な場合もあります。
相手方から本当にその商標を使っているのか、どの商品に使っているのか、いつから使っているのかと問われることがあります。交渉資料なら必要最小限の開示にとどめる場合があり、公的手続なら証拠番号、作成者、作成年月日、立証趣旨を明確にして反論に耐える客観性を高める必要があります。
商標法上の使用類型と6要素を外さないことが、提出資料の出発点です。
次の比較表は、商標法上の使用態様と、それを裏付ける典型資料の対応を表しています。日常語の「使っている」と商標法上評価される使用はずれることがあるため、読者は自社資料がどの類型を直接示すのかを読み取ることが重要です。
| 類型 | 典型例 | 重要な提出資料 |
|---|---|---|
| 商品又は包装に商標を付す | 商品ラベル、箱、タグ、容器、包装袋 | 商品写真、包装写真、製造記録、ラベル版下、在庫記録 |
| 商標を付した商品を販売・納品する | 店舗販売、EC販売、卸売、輸出入 | 注文書、納品書、請求書、領収書、売上台帳、配送記録、入金記録 |
| 役務提供時に利用物へ商標を付す | 飲食店のメニュー・食器、タクシー車両、講座テキスト | メニュー写真、店内写真、契約書、予約記録、提供記録 |
| 商標を付した物を用いて役務を提供する | ロゴ入り車両で配送、ロゴ入り教材で講座提供 | 役務提供記録、利用者記録、請求書、写真 |
| 役務提供用の物を展示する | 看板、店頭機器、什器、制服、サービスカウンター | 店舗写真、撮影日、所在地、広告契約、設置契約 |
| 広告・価格表・取引書類への表示 | カタログ、チラシ、Web広告、LP、価格表、提案書 | 公開・頒布日、URL、出力日、媒体名、配布記録、広告費請求書 |
| 電子的役務・SaaS・アプリ画面 | ログイン画面、サービス画面、アプリストア、操作画面 | 画面キャプチャ、リリース記録、利用契約、課金記録、アクセスログ |
| 音商標等 | 商品販売時・役務提供時の音の再生 | 音源、再生状況記録、提供場面、配信ログ |
次の表は、不使用取消審判で立証すべき6要素と確認資料を対応させたものです。どれか一つが欠けると資料全体の説得力が落ちやすいため、読者は各行をチェック項目として使い、証拠の穴を早期に見つけることが重要です。
| 要素 | 確認すべき問い | 典型的な確認資料 |
|---|---|---|
| いつ | 要証期間内か | 日付入り請求書、注文書、納品書、広告掲載日、Web出力日、ログ、撮影日 |
| どこで | 日本国内の使用か | 国内店舗住所、国内販売先住所、国内配送先、国内向けWebページ、日本語ページ、国内広告媒体 |
| 誰が | 商標権者・専用使用権者・通常使用権者か | 商標登録原簿、会社登記、ライセンス契約、フランチャイズ契約、グループ会社関係資料 |
| どの商品・役務に | 請求対象の指定商品・指定役務か | 商品カタログ、SKU、型番、役務説明、契約書、指定商品・役務との対応表 |
| どの商標を | 登録商標又は社会通念上同一の商標か | 登録商標の画像、実使用商標の画像、比較表、ロゴガイドライン |
| どのように使用したか | 商標法2条3項各号のどれに該当するか | 販売証拠、広告証拠、役務提供証拠、電磁的提供証拠 |
次の判断の流れは、請求対象の商品・役務と実際に使った商品・役務を照合する順番を表しています。最初に範囲を間違えると、証拠を大量に集めても核心から外れるため、読者は左から右ではなく上から下へ、対象範囲を絞ってから資料を探すことを読み取る必要があります。
審判請求書で取消しを求められている指定商品・指定役務を確認します。
商品名、SKU、サービス名、プラン名、カタログ分類を登録上の表示に対応させます。
登録商標そのものか、社会通念上同一と説明できる表示かを比較します。
日付、国内使用、主体、使用態様を裏付けます。
対応表、同一性説明、別商標出願、対象範囲の見直しを検討します。
社会通念上同一と類似は同じではありません。登録時のロゴと実使用ロゴの差、文字の有無、図形の省略、欧文字・片仮名の変更、色彩変更、配置変更、他の語との結合などがある場合は、登録商標画像、実使用商標画像、変更点、称呼・観念・外観の比較を示す資料を用意します。
権利範囲、商標表示、商品・役務、取引、時期、場所、主体を分けて確認します。
| 分類 | 提出資料 | 立証する内容 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 権利・請求範囲資料 | 商標登録原簿、登録証、J-PlatPat情報、審判請求書、拒絶理由通知、相手方書簡 | どの商標・商品役務・期間が問題か | まず請求対象を確定します。 |
| 商標表示資料 | 商品写真、包装写真、ラベル、タグ、Web画面、広告、アプリ画面 | 実際に表示された商標 | 商標部分を鮮明に示します。 |
| 商品・役務特定資料 | カタログ、仕様書、SKU表、型番表、サービス説明書、利用規約 | どの商品・役務に使われたか | 登録上の指定商品・役務と対応づけます。 |
| 取引資料 | 契約書、注文書、発注書、納品書、請求書、領収書、売上台帳、POSデータ | 販売・提供・譲渡・納品の事実 | 写真の商品と同一の商品であることを示します。 |
| 時期資料 | 日付入り書類、撮影日、掲載日、配布日、ログ、タイムスタンプ | 要証期間内の使用 | 印刷日と掲載日を区別します。 |
| 場所資料 | 店舗所在地、国内販売先住所、配送伝票、国内広告媒体、日本語Webページ | 日本国内での使用 | 海外サイトが日本から見えるだけでは弱い場合があります。 |
| 使用主体資料 | 商標権者資料、使用許諾契約、フランチャイズ契約、グループ会社資料 | 誰が使用したか | 第三者使用なら通常使用権者性を説明します。 |
| 公開・頒布資料 | 広告掲載証明、配布記録、広告会社請求書、媒体見本、Web出力 | 広告的使用の公開性 | チラシ素材だけでは頒布の証明が弱くなります。 |
| 補助資料 | メール、FAX、チャット、議事録、社内申請、製造指示、物流記録 | 証拠間の連結・補強 | 主要事実を直接示す証拠の補助として使います。 |
| 説明資料 | 証拠説明書、要証事実対応表、陳述書、翻訳文、比較表 | 証拠の意味を審査官・審判官・相手方に伝える | 証拠の束を読める構造にします。 |
この一覧のうち、最重要は商標表示資料、商品・役務特定資料、取引資料、時期資料、使用主体資料です。広告的使用の場合は、公開・頒布資料も同じくらい重要になります。
事業モデルごとに、商標表示、取引、公開、国内性、使用主体の示し方が変わります。
次の表は、商品販売型ビジネスで提出資料がどの目的を担うかを表しています。写真だけでは時期や主体が分からないことが多いため、読者は商標表示と取引書類を同じ商品名・型番で結びつける必要があることを読み取ってください。
| 目的 | 推奨資料 |
|---|---|
| 商標が商品・包装に表示されていること | 商品本体写真、包装写真、ラベル写真、タグ写真、箱写真、ロット番号写真 |
| 商品が特定できること | 商品名、型番、SKU、JANコード、仕様書、カタログ、商品マスタ |
| 要証期間内に販売されたこと | 注文書、納品書、請求書、領収書、売上台帳、POSデータ、EC注文履歴 |
| 日本国内で販売されたこと | 国内販売先住所、配送伝票、店舗住所、国内取引先との契約書 |
| 商標権者等が使用したこと | 販売者名、会社名、ライセンス契約、販売代理店契約、フランチャイズ契約 |
| 証拠間の連結 | 写真の商品名・型番と請求書の商品名・型番を一致させる対応表 |
次の表は、無形の役務をどの資料で説明するかを示しています。役務では商品写真のような一点資料が作りにくいため、読者は提供場面、顧客が見る表示、契約・請求・予約の記録を組み合わせて読むことが重要です。
| 役務類型 | 提出資料の例 |
|---|---|
| 飲食店 | 店舗看板写真、メニュー、予約台帳、レシート、店舗所在地、Web予約ページ、店内写真 |
| 教育・研修 | 講座案内、申込書、受講契約、教材、受講者請求書、開催記録、配布資料 |
| コンサルティング | 契約書、提案書、報告書、請求書、業務完了報告、サービス紹介ページ |
| 医療・美容・ヘルスケア | 予約ページ、施術メニュー、同意書、領収書、店舗写真、広告、利用規約 |
| IT・SaaS | サービス画面、ログイン画面、利用規約、申込フォーム、サブスクリプション請求書、利用ログ |
| 金融・保険 | 商品説明書、契約申込書、約款、顧客向けWebページ、広告審査資料、取引記録 |
次の比較一覧は、SaaSやアプリで重要になる立証事項と資料を対応させています。デジタル証拠は改変可能性を疑われやすいため、読者は画面だけでなく、取得方法、URL、ログ、契約主体、国内向け提供を合わせて確認する必要があります。
ログイン画面、管理画面、ダッシュボード、アプリ画面のキャプチャで表示を示します。
表示利用規約、申込フォーム、サブスクリプション契約、利用開始メールをつなげます。
提供リリースノート、画面更新履歴、ログ、請求日、契約開始日で時期を示します。
時期日本語ページ、日本国内顧客、国内請求先、国内サポート体制で国内性を補います。
国内運営会社表示、特定商取引法表示、契約主体、グループ会社関係、ライセンス契約を確認します。
主体次の表は、広告本体と補強資料の関係を表しています。広告的使用では広告データがあるだけでは足りないことがあるため、読者は公開・頒布された事実を示す資料を必ずセットで確認してください。
| 広告媒体 | 広告本体 | 補強資料 |
|---|---|---|
| 新聞・雑誌 | 掲載紙面、表紙、奥付、発行日 | 媒体資料、掲載証明、広告請求書 |
| チラシ | チラシ現物、データ | 印刷会社納品書、配布会社報告書、配布地域・日付、広告費領収書 |
| カタログ | カタログ現物、表紙、該当ページ、奥付 | 発行日、配布先、発送記録、展示会配布記録 |
| Web広告 | 広告画像、LP、広告管理画面 | 配信期間、配信対象地域、広告費請求書、クリックログ |
| SNS | 投稿画面、投稿URL、投稿日時 | アカウント運営者、投稿ログ、広告配信設定、インサイト資料 |
| 看板 | 看板写真、設置場所 | 設置契約、施工請求書、撮影日、所在地、掲出期間証明 |
商標権者本人ではなく、通常使用権者、専用使用権者、販売代理店、フランチャイジー、グループ会社が商標を使っている場合、提出資料は二段階になります。第一に、使用者が商標権者から許諾を受けた者であることを示す資料が必要です。第二に、その使用権者が要証期間内に日本国内で請求対象の商品・役務について登録商標を使用した資料が必要です。契約書だけでは足りないため、販売実績、商品写真、納品書、広告、店舗資料、請求書も集めます。
資料を点で並べず、登録商標、実使用商標、商品・役務、取引、時期、主体をつなげます。
使用証拠の弱さは、多くの場合、証拠が点でしか存在しないことにあります。商品写真は商標表示を示しても時期を示さず、請求書は取引を示しても商標表示を示さず、ウェブ画面は広告を示しても公開期間や国内向けであることを示さない場合があります。
次の判断の流れは、資料を単独で並べるのではなく、登録商標から立証趣旨までを順番に結びつける構造を表しています。この順番が重要なのは、審査官、審判官、相手方、社内決裁者が、どの資料がどの事実を支えるかを追えるようにするためです。
登録原簿、公報、商標画像で権利内容を示します。
商品写真、Web画面、広告に表示された商標を示します。
SKU、型番、サービス説明、指定商品・役務対応表で対象をつなげます。
注文書、納品書、請求書、広告掲載証明、ログで実際の使用を補います。
日付、住所、契約主体、ライセンス契約で6要素の不足を埋めます。
証拠説明書、陳述書、主張書面で資料の意味を言語化します。
次の表は、要証事実、該当証拠、説明を対応させる例を表しています。この表が重要なのは、資料の穴や重複が見え、追加すべきSKU表、商品マスタ、掲載証明、配布報告書を判断しやすくなるためです。
| 要証事実 | 該当証拠 | 説明 |
|---|---|---|
| 登録商標は「ABC」ロゴである | 乙1 登録原簿、乙2 商標公報 | 登録番号、指定商品、商標構成を示します。 |
| 実使用商標は登録商標と社会通念上同一である | 乙3 商品写真、乙4 比較表 | 文字部分・図形部分が同一で、色変更のみであることを示します。 |
| 商品「ABCクリーム」は指定商品「化粧品」に含まれる | 乙5 商品仕様書、乙6 カタログ | 商品の用途・成分・販売分類を示します。 |
| 要証期間内に販売された | 乙7 2025年6月10日付請求書、乙8 納品書 | 2025年6月に国内取引先へ販売したことを示します。 |
| 日本国内で使用された | 乙7 請求書、乙8 納品書、乙9 配送記録 | 販売先・配送先が東京都内であることを示します。 |
| 使用者は商標権者である | 乙1 登録原簿、乙7 請求書 | 請求書発行者が商標権者であることを示します。 |
| 商標法2条3項2号の使用に該当する | 乙3、乙7、乙8 | 商標を付した商品を譲渡・引渡ししたことを示します。 |
証拠説明書には、号証番号、標目、原本・写しの別、作成年月日、作成者、立証趣旨、必要に応じて証拠方法の種類、外国語資料の翻訳文を記載します。2026年5月21日以降の特許庁手続では、電磁的記録を証拠として提出できるようになるため、文書か電磁的記録かの整理にも注意します。
不使用取消審判、審査、交渉、監査で初動と開示範囲を切り分けます。
次の時系列は、不使用取消審判で初動から提出前までに何を行うかを表しています。期限が限られる場面では順番が重要になるため、読者は受領直後に請求対象と期限を確定し、証拠収集と説明資料作成を並行して進めることを読み取ってください。
審判請求書、請求対象、予告登録日、答弁期限を法務、知財、外部専門家で確認します。
要証期間、対象商品・役務、使用主体、使用商標を事業部や営業、マーケティングと確認します。
原本確認、写真、取引資料、広告資料、ログを集め、資料間の対応表を作成します。
証拠説明書、答弁書、陳述書、マスキング方針、翻訳を準備します。
請求対象との対応、提出形式、個人情報・営業秘密の扱いを最終確認します。
特許庁審査で確認された場合、実際に業務を行っている資料を提出する、使用意思と準備状況を示す、疑義のある指定商品・指定役務を削除又は限定する補正を行う、という三つの選択肢を検討します。事業実態に合わない範囲を無理に維持しようとすると、説明が弱くなる場合があります。
次の表は、紛争交渉での段階的開示を表しています。相手方に全資料を最初から開示すると営業秘密や交渉上の不利益が生じることがあるため、読者は目的に応じて公開資料、一部マスキング資料、秘密保持契約後の詳細資料、公的手続用資料を分けて読むことが重要です。
| 段階 | 開示資料 | 目的 |
|---|---|---|
| 初期回答 | 商標表示のある商品写真、公開済みWebページ、公開カタログ | 使用実態の存在を示します。 |
| 交渉段階 | 一部マスキング済み請求書、販売期間、商品対応表 | 要証期間内の使用を示します。 |
| 秘密保持契約後 | 取引先名、数量、売上、契約書、ライセンス資料 | 詳細立証、和解条件交渉に使います。 |
| 審判・訴訟 | 号証化した客観資料、証拠説明書、陳述書 | 公的手続での立証に使います。 |
ライセンス監査では、使用商品一覧、使用商標一覧、販売地域、販売期間、販売チャネル、商品写真、包装写真、広告資料、売上数量又は販売実績、商標ガイドライン遵守状況、サンプル現物又は画像、不適切使用の是正記録、証拠保存フォルダの一覧を保存します。
資料があるのに評価されない典型例を知り、補強資料を先に用意します。
次の一覧は、使用証拠で起きやすい失敗と補強方法を並べたものです。失敗例を先に知ることが重要なのは、資料を集めた後で要件不足が判明すると、追加取得が難しいことが多いためです。読者は各項目から、どの弱点をどの資料で補うかを読み取ってください。
案、版下、ロゴデータだけでは実際の使用を示しません。商品を包装した写真、販売記録、納品書、請求書、広告頒布記録を補います。
撮影日が分からないと要証期間内の使用を示しにくくなります。撮影者の陳述書、メタデータ、同一商品の請求書、広告掲載日を補います。
請求書の商品名、型番、SKU、JANコードを、商標表示のある商品写真やカタログと一致させます。
URL、出力日、掲載日、運営者、商品・役務内容、価格又は申込導線を保存します。
日本語ページ、日本円価格、日本国内配送、国内顧客への販売、国内広告、国内問い合わせ窓口を補います。
販促品への表示が本来の商品・役務の宣伝にすぎない場合があります。請求対象の商品・役務との関係を確認します。
第三者使用では、使用許諾契約、フランチャイズ契約、販売代理店契約、ブランド使用承認メールを提出します。
日付、取引先、商品名、型番、数量、金額、住所、契約主体を隠しすぎると証拠力が落ちます。必要に応じて閲覧制限を検討します。
スクリーンショット、メール、ログは取得方法と同一性を説明できる形で保存します。
電子データは紙資料よりも改変可能性を疑われやすいため、取得方法と同一性を説明できる状態で保存します。次の一覧は、電子証拠ごとに何を記録するかを示しています。読者は画面の見た目だけではなく、取得者、取得日、抽出条件、保存媒体まで説明できるかを確認してください。
URL、出力日、ページ全体、運営者情報、対象商品・役務ページ、申込導線を保存します。
URL出力日本文、送受信者、送受信日時、添付ファイル、ヘッダー情報、関連スレッドを保存します。
補助資料出力元システム、出力権限者、対象期間、抽出条件、フィールドの意味、顧客IDや取引IDとの対応を説明します。
業務データファイル形式、ハッシュ値、保存媒体、原本データの保管場所、加工・マスキングの有無を記録します。
同一性2026年5月21日から、特許庁手続では電磁的記録を証拠として提出できるようになることが案内されています。ただし、電子化された文書、Webページ、メール、画像、動画、音声等は従来どおり文書や準文書として提出してもよいとされています。提出前には、対象手続での提出方法、DVD-R提出、電子特殊申請、PDF化、証拠説明書の記載、相手方副本の要否を確認します。
営業秘密や個人情報を守りながら、日付、主体、商品名、国内性などの証拠力を残します。
使用証拠には、取引先名、価格、数量、売上、契約条件、個人名、メールアドレス、顧客住所、社内担当者名などが含まれることがあります。提出時は、立証に必要な開示と秘密保護のバランスを取る必要があります。
次の表は、マスキング可否の目安と理由を表しています。証拠力に関わる情報まで隠すと立証が弱くなるため、読者は何を隠せるかだけでなく、何を残さなければならないかを読み取ることが重要です。
| 情報 | マスキング可否の目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 商品名、型番、SKU | 原則として隠さない | 商品特定に必要です。 |
| 日付 | 原則として隠さない | 要証期間内かを示します。 |
| 取引主体名 | 原則として隠さない又は一部開示 | 使用主体・取引実在性に必要です。 |
| 住所 | 国内使用の立証に必要な範囲で開示 | 日本国内使用を示します。 |
| 金額 | 必ずしも全額開示不要だが注意 | 取引実在性を示す場合があります。 |
| 個人名 | 必要に応じて限定開示 | 個人情報保護との調整が必要です。 |
| 口座番号、電話番号 | 原則マスキング可 | 立証に不要な場合が多いです。 |
| 営業秘密部分 | 必要最小限マスキング又は閲覧制限検討 | 証拠力低下に注意します。 |
マスキングにより証拠価値が落ちる場合、手続上の閲覧制限や秘密保持措置を検討します。提出前には、個人情報を含むか、取引先との秘密保持義務に抵触しないか、営業秘密を含むか、マスキング後も立証趣旨を満たすか、原本保管と写し提出の管理ができているかを確認します。
認められた例と否定された例から、証拠の連鎖、対象商品・役務、同一性、国内性を点検します。
次の比較一覧は、使用が認められた例と否定された例から見える評価軸をまとめたものです。実務で重要なのは事件名そのものではなく、資料が何を示し、どの要素が足りなかったかです。読者は肯定例では資料の連鎖、否定例では商品・役務との関係、同一性、国内性の弱さを読み取ってください。
| 評価 | 例 | 提出資料・判断のポイント | 実務上の教訓 |
|---|---|---|---|
| 使用が認められた | サンローラン事件 | 商品パッケージ、購入確認書、代金振込資料、売上伝票などが提出されました。 | 商品写真だけでなく、取引書類と入金・売上記録を組み合わせます。 |
| 使用が認められた | 極事件 | ラベルが貼られた商品の写真、ラベル、対応する伝票、受領書、陳述書などが提出されました。 | 写真、ラベル、伝票、受領記録を同じ商品でつなげます。 |
| 使用が認められた | PRTIMES事件 | 広告依頼に関するチラシ、チラシ作成・配布会社からの納品書、チラシ代金の領収書などが提出されました。 | 広告素材だけでなく、頒布又は公開された事実を示します。 |
| 使用が否定された | DALE CARNEGIE事件 | 講座教材に商標が表示されていても、指定商品「印刷物」についての使用とは認められませんでした。 | 表示物が請求対象の商品・役務についての使用かを確認します。 |
| 使用が否定された | HERTZ事件 | カーレンタル事業の販促品に表示された企業名は、指定商品についての商標使用とは認められませんでした。 | ノベルティ表示と商品・役務の商標使用を混同しないようにします。 |
| 使用が否定された | Princess Cruises事件、MAGIC事件 | 図形部分のない文字のみの使用や異なる結合態様が問題になりました。 | ロゴリニューアル、略称、文字だけの使用では同一性を検討します。 |
| 使用が否定された | PAPA JOHN'S事件 | 米国サーバー上の英語ページで、日本の需要者を対象としたものとは認められませんでした。 | 日本語表示、国内顧客、国内配送、国内広告、国内代理店、国内販売実績で補強します。 |
商標ごと、商品・役務ごと、年度ごとに、後から説明できる証拠保存体制を作ります。
使用証拠は、求められてから作るものではありません。ウェブページの更新、担当者の退職、商品の廃番、古い請求書の所在不明が起きる前に、登録後の各年に証拠を保存する運用を作ることが重要です。
次の一覧は、各登録商標について年1回保存すべき資料を表しています。年次保存が重要なのは、後から要証期間内の資料を探すよりも、商標ごと・商品ごと・年度ごとの証拠を継続的に残す方が、審判や交渉時に再現性を保ちやすいためです。
登録商標情報、登録番号、指定商品・指定役務、実使用商標画像を保存します。
商品写真、包装写真、ラベル、タグ、カタログ、パンフレット、チラシを保存します。
URL・出力日付きWebページ、注文書、納品書、請求書、領収書を保存します。
広告掲載証明、広告管理画面、配布記録、ライセンシーの使用報告書を保存します。
国内販売先又は国内提供実績の資料、販売地域、販売期間、販売チャネルを保存します。
ロゴ変更履歴、ブランドガイドライン、商品・役務対応表を保存します。
次の保存例は、商標番号、商標名、年度、資料種別でフォルダを分ける方法を表しています。第三者が後から読める形にすることが重要なため、読者は年度と資料種別で検索できる構造を読み取ってください。
| 階層 | 保存内容 |
|---|---|
| 商標別フォルダ | 商標番号、商標名、年度で整理します。 |
| 01_registration | 登録原簿、公報、指定商品・役務の情報 |
| 02_goods_photos | 商品本体、包装、ラベル、タグの写真 |
| 03_web_pages | URL・出力日付きWebページ、ECページ、LP |
| 04_transactions | 注文書、納品書、請求書、領収書、売上台帳 |
| 05_ads | 広告、カタログ、チラシ、配布記録、掲載証明 |
| 06_licensee_reports | ライセンシーの使用報告書、契約資料 |
| 07_correspondence | メール、チャット、承認記録、社内申請 |
| 08_evidence_matrix | 要証事実対応表、証拠説明書案 |
ファイル名には、日付、資料名、商品名、商標名、作成者を入れます。たとえば「2025年6月10日・請求書・ABCクリーム・取引先名一部省略」「2025年6月12日・包装写真・営業部撮影」のように、後から資料の意味が分かる名称にします。
次の文例は、法務・知財部門が事業部へ必要資料を依頼するときの要素を表しています。単に使用証拠を求めるとロゴ画像だけが送られてくることがあるため、読者は商品名、型番、日付、販売先、販売地域、原本保管場所まで指定する必要があることを読み取ってください。
| 依頼する資料 | 求める情報 |
|---|---|
| 商標が表示された商品本体、包装、ラベル、タグの写真 | 商品名、型番、撮影日、撮影者、撮影場所 |
| 国内で販売・納品した注文書、納品書、請求書、領収書、売上台帳 | 日付、販売先、販売地域、商品名、型番 |
| カタログ、商品マスタ、仕様書 | 商品名、型番、SKU、用途、販売分類 |
| Webページ、ECページ、広告、チラシ、カタログ | URL、出力日、掲載日、配布日、運営者 |
| 代理店・販売店・ライセンシーの資料 | 契約書、許諾関係資料、使用報告書、販売実績 |
| 資料管理情報 | 原本保管場所、作成者、作成日、加工・マスキングの有無 |
提出前チェック、証拠説明書、陳述書、ライセンス条項まで、実務で使う形に落とします。
次のチェックリストは、提出前に確認すべき項目を表しています。最終確認が重要なのは、証拠提出後に不足が見つかると、補正や追加提出の余地が限られる場合があるためです。読者は確認欄を使い、対象範囲、期間、同一性、主体、国内性、説明書まで漏れがないかを読み取ってください。
| チェック項目 | 確認 | コメント |
|---|---|---|
| 請求対象の指定商品・指定役務を確認した | ☐ | 登録全体ではなく請求対象を確認します。 |
| 要証期間を正確に計算した | ☐ | 審判請求の登録日から逆算します。 |
| 使用商標と登録商標の同一性を比較した | ☐ | ロゴ変更・結合商標・色違いに注意します。 |
| 使用者が商標権者又は使用権者であることを示した | ☐ | ライセンス契約等を確認します。 |
| 日本国内使用を示した | ☐ | 国内住所、国内顧客、国内媒体を示します。 |
| 商品・役務と指定商品・役務の対応表を作った | ☐ | SKU・型番・サービス名を対応づけます。 |
| 写真と取引書類が同じ商品を示す | ☐ | 商品名、型番、JANコードを合わせます。 |
| 広告の頒布・公開を示す資料を付けた | ☐ | 媒体日付、配布記録、広告会社請求書を確認します。 |
| URL・出力日付きWeb資料を保存した | ☐ | Web証拠の基本です。 |
| 証拠説明書を作った | ☐ | 号証、標目、作成者、立証趣旨を整理します。 |
| 外国語資料に翻訳を付けた | ☐ | 取調べを求める部分を翻訳します。 |
| マスキングで証拠力が落ちていないか確認した | ☐ | 必要なら閲覧制限を検討します。 |
| 原本保管場所を記録した | ☐ | 原本提出を求められる場合に備えます。 |
次の表は、証拠説明書で号証、標目、作成年月日、作成者、原本・写し、立証趣旨をどう対応させるかを表しています。提出資料の意味を第三者が追えるようにすることが重要なため、読者は標目だけでなく立証趣旨まで具体化する必要があります。
| 号証 | 標目 | 作成年月日 | 作成者 | 原本・写し | 立証趣旨 |
|---|---|---|---|---|---|
| 乙1 | 商標登録原簿写し | 2026年6月1日 | 特許庁 | 写し | 本件登録商標、商標権者、指定商品を示します。 |
| 乙2 | 商品「ABCクリーム」の包装写真 | 2025年6月12日 | 営業部担当者 | 写し | 商品包装に本件商標と社会通念上同一の商標が表示されていることを示します。 |
| 乙3 | 2025年6月10日付納品書 | 2025年6月10日 | 被請求人 | 写し | 要証期間内に日本国内の取引先へ商品「ABCクリーム」を納品したことを示します。 |
| 乙4 | 商品マスタ | 2025年6月1日 | 商品管理部 | 写し | 乙2の商品と乙3記載の商品が同一であることを示します。 |
| 乙5 | Web商品ページ出力物 | 2025年6月15日出力 | 被請求人 | 写し又は電磁的記録 | 本件商標が商品広告に表示され、日本国内向けに商品が紹介されていたことを示します。 |
次の一覧は、陳述書に含めるべき要素を表しています。陳述書は客観証拠の代替ではなく補助資料であるため、読者は写真、請求書、納品書、契約書、広告資料と組み合わせる前提で読む必要があります。
| 番号 | 記載要素 |
|---|---|
| 1 | 陳述者の所属・役職・担当業務 |
| 2 | 対象商標と対象商品の概要 |
| 3 | 対象商品の販売開始時期 |
| 4 | 商標が商品・包装・広告に表示されていた具体的状況 |
| 5 | 要証期間内の販売・納品の事実 |
| 6 | 添付証拠の作成経緯、保管状況、原本の所在 |
| 7 | 写真撮影日、撮影場所、撮影者 |
| 8 | ライセンシー又は代理店が関与する場合の関係 |
| 9 | マスキング箇所の理由 |
| 10 | 陳述内容が真実である旨、日付、署名又は記名押印 |
次の条項例は、使用証拠の保存と提出をライセンス契約に組み込む考え方を表しています。将来の不使用取消審判や紛争で協力を得るために重要なため、読者は保存期間、提出期限、説明可能性、契約終了後の存続を読み取ってください。
| 項目 | 条項例の要点 |
|---|---|
| 保存義務 | ライセンシーは、本商標を使用した商品、包装、広告、ウェブページ、販売資料、取引書類、販売実績その他の資料を、各使用日から少なくとも一定期間保存します。 |
| 提出義務 | ライセンサーから請求を受けた場合、権利維持又は権利行使に必要な範囲で、前項の資料を一定営業日以内に提出します。 |
| 説明可能性 | 作成日、作成者、原本の所在、対象商品又は役務、販売地域、販売期間を合理的に説明できるよう管理します。 |
| 存続期間 | 本条の義務は、本契約終了後も一定期間存続させます。 |
一般情報として、提出資料の考え方と注意点を確認します。
一般的には、商品写真は商標表示を示す重要な資料とされています。ただし、撮影日、販売時期、販売場所、使用主体、請求対象の商品・役務との関係が写真だけでは分からないことがあります。具体的な提出方針は、証拠関係と手続段階を整理したうえで弁護士・弁理士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、請求書だけで商標表示を示せない場合でも、商品名、型番、SKU、JANコードが商標表示のある商品写真やカタログと一致すれば補強資料になり得ます。ただし、商品・役務の対応関係や証拠全体の整合性によって評価は変わります。具体的には、資料一式を確認して専門家に相談する必要があります。
一般的には、商標表示だけでなく、URL、出力日、掲載日、運営者、商品・役務内容、価格又は申込導線、国内向けであることを示す情報を残すことが重要とされています。ただし、手続や相手方の争点によって必要資料は変わります。具体的な保存方法は、証拠の取得方法と原本管理を含めて専門家へ確認する必要があります。
一般的には、立証に不要な個人情報や口座番号などはマスキングを検討できます。一方で、日付、商品名、取引主体、国内住所などを隠しすぎると証拠力が落ちる可能性があります。個別の開示範囲は、営業秘密、個人情報、閲覧制限の可否、手続段階によって変わるため、専門家へ相談する必要があります。
商標使用を証明できる状態を、平時から会社の運用として残しておきます。
使用証拠を求められた時の提出資料は、単なる資料集めではなく、法的要件から逆算した立証設計です。最初に確認すべきなのは、どの商標について、どの商品・役務について、どの期間の、誰による、どの地域での、どの態様の使用が問われているかです。
不使用取消審判では、登録商標又は社会通念上同一の商標が、要証期間内に、日本国内で、商標権者又は使用権者により、請求対象の商品又は役務について、商標法上の使用態様で使われたことを、客観資料の連鎖で示す必要があります。
そのために必要となる資料は、商品写真、包装写真、ウェブページ、広告、注文書、納品書、請求書、領収書、売上台帳、契約書、ライセンス資料、ログ、メール、証拠説明書です。ただし、どの資料が必要かは、商品か役務か、広告的使用か販売使用か、権利者本人かライセンシーか、国内使用か海外使用かによって変わります。
企業法務としては、求められてから慌てるのではなく、商標ごと、商品・役務ごと、年度ごとに使用証拠を保存する体制を作ることが重要です。ブランドは、登録して終わりではありません。登録後も、正しく使い、使った事実を証明できる状態にしておくことで、法的資産として機能しやすくなります。