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優先株式の条件設計と
タームシート記載

種類株式の権利内容、投資契約、株主間契約、会計・税務、登記、IPOやM&Aでの出口設計まで、タームシート段階で整合させるための実務論です。

4層経済・支配・出口・手続
3文書定款・投資契約・株主間契約
12項目実行前チェック
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優先株式の条件設計と タームシート記載

種類株式の権利内容、投資契約、株主間契約、会計・税務、登記、IPOやM&Aでの出口設計まで、タームシート段階で整合させるための実務論です。

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優先株式の条件設計と タームシート記載
種類株式の権利内容、投資契約、株主間契約、会計・税務、登記、IPOやM&Aでの出口設計まで、タームシート段階で整合させるための実務論です。
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  • 優先株式の条件設計と タームシート記載
  • 種類株式の権利内容、投資契約、株主間契約、会計・税務、登記、IPOやM&Aでの出口設計まで、タームシート段階で整合させるための実務論です。

POINT 1

  • 優先株式の条件設計とタームシート記載の全体像
  • 資本政策、会社法、契約、登記、会計・税務、IPO/M&Aを横断して読みます。
  • タームシートは交渉メモではなく、資本政策を実行文書へつなぐ設計図です
  • 次の重要ポイントは、優先株式の条件設計とタームシート記載で最初にそろえるべき視点を整理したものです。
  • 経済条件だけで決めると後続契約や登記で不整合が起きやすいため重要です。

POINT 2

  • 優先株式の条件設計は会社法上の種類株式から始まる
  • 普通株式と異なる権利内容をどの範囲で定款化するかを整理します。
  • 経済的権利
  • 支配・同意権
  • 出口の権利

POINT 3

  • 優先株式タームシート記載は後続文書の設計図になる
  • 拘束力の有無だけでなく、定款・投資契約・株主間契約への落とし込みを確認します。
  • 実務上は「条件概要書」「投資条件書」「主要条件書」と呼ばれることもあります。
  • タームシートには、通常、拘束力を持たせない条項と、拘束力を持たせる条項が混在します。
  • 他方で、秘密保持、独占交渉、費用負担、準拠法、裁判管轄、情報開示義務の一部などには拘束力を持たせることがあります。

POINT 4

  • 優先株式設計の4層 ― 経済・支配・出口・手続
  • 経済条件
  • 支配条件
  • 出口条件
  • 手続条件
  • 条件を四つの層に分けると、交渉と実行手続の抜け漏れを減らせます。

POINT 5

  • 優先株式の会社法上の中核論点
  • 1. 株式内容かを確認:配当、残余財産、取得請求、議決権制限、拒否権は定款反映を検討します。
  • 2. 募集事項と決議を確認:株式数、払込金額、払込期日、資本金・資本準備金、決議機関をそろえます。
  • 3. 種類株主総会の要否を確認:既存種類株主に損害を及ぼすおそれがある変更かを見ます。
  • 4. 分配可能額を確認:償還や自己株式取得は財源規制と取得不能時の扱いを設計します。
  • 5. 登記・契約へ反映:定款、議事録、投資契約、株主間契約の文言をそろえます。

POINT 6

  • 優先株式の主要条件とタームシート記載例
  • 発行価額、配当、残余財産分配、転換、希薄化防止、承諾事項を具体化します。
  • 6.1 発行価額・バリュエーション・持分比率
  • 6.2 優先配当
  • 6.3 残余財産分配優先権

POINT 7

  • 優先株式タームシートを定款・契約・手続へ落とす技法
  • 1. 条件を一つずつ分解:配当、分配、転換、承諾、情報、譲渡、払込などに分けます。
  • 2. 定款・登記へ:種類株式の内容として第三者にも分かる形にします。
  • 3. 投資契約・株主間契約へ:違反時の効果、存続期間、承諾主体を明記します。
  • 4. 手続期限を設定:決議、払込、登記、前提条件、承諾取得をいつまでに行うかをそろえます。

POINT 8

  • 優先株式の類型別設計ポイント
  • スタートアップ、戦略投資、事業承継、再生、上場会社で重視点が変わります。
  • シリーズA投資
  • 事業会社の戦略投資
  • 事業承継・中小企業

まとめ

  • 優先株式の条件設計と タームシート記載
  • 優先株式の条件設計とタームシート記載の全体像:資本政策、会社法、契約、登記、会計・税務、IPO/M&Aを横断して読みます。
  • 優先株式の条件設計は会社法上の種類株式から始まる:普通株式と異なる権利内容をどの範囲で定款化するかを整理します。
  • 優先株式タームシート記載は後続文書の設計図になる:拘束力の有無だけでなく、定款・投資契約・株主間契約への落とし込みを確認します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

優先株式の条件設計とタームシート記載の全体像

資本政策、会社法、契約、登記、会計・税務、IPO/M&Aを横断して読みます。

次の重要ポイントは、優先株式の条件設計とタームシート記載で最初にそろえるべき視点を整理したものです。経済条件だけで決めると後続契約や登記で不整合が起きやすいため重要です。四つの観点を順に読み、どの条件が将来の資金調達、支配権、出口、手続に影響するかを把握してください。

タームシートは交渉メモではなく、資本政策を実行文書へつなぐ設計図です

種類株式の内容、投資契約、株主間契約、分配合意、登記、会計・税務、IPOやM&Aでの出口を同時に整合させる必要があります。

「優先株式の条件設計とタームシート記載」は、単に投資家に有利な条項を並べる作業ではありません。会社法上の種類株式、定款、募集株式発行手続、種類株主総会、投資契約、株主間契約、分配合意、会計処理、税務評価、登記、IPO審査、M&A時の出口設計までを同時に整合させる高度な企業法務実務です。

優先株式は、スタートアップのエクイティ・ファイナンスでよく用いられますが、それだけに限られません。事業承継、再生局面、ジョイントベンチャー、事業会社による戦略投資、金融機関・ファンドによる救済投資、上場会社の資本政策、いわゆる社債型種類株式など、さまざまな場面で用いられます。したがって、タームシートには「投資家の経済的リターン」「創業者・既存株主の支配権」「会社の将来資金調達の柔軟性」「会計・税務・開示・上場審査上の説明可能性」を同時に反映しなければなりません。

このページは、企業法務に悩む経営者、法務担当者、商事法務担当者、CFO、投資担当者、M&A担当者、司法書士、公認会計士、税理士、中小企業診断士、経営コンサルタント、研究者などを念頭に置き、専門的な内容をできる限り定義から説明します。なお、このページは一般的な解説であり、個別案件の法的助言、税務助言、会計助言、投資助言ではありません。実際の発行・投資・登記・会計処理・税務申告に当たっては、弁護士、司法書士、公認会計士、税理士その他の専門家に確認してください。

Section 01

優先株式の条件設計は会社法上の種類株式から始まる

普通株式と異なる権利内容をどの範囲で定款化するかを整理します。

次の一覧は、会社法上の種類株式で調整できる代表的な権利を整理したものです。優先株式という単独制度があるのではなく、複数の権利内容を組み合わせて設計する点が重要です。各項目を読み、どの権利を定款事項として明確にする必要があるかを確認してください。

ECONOMICS

経済的権利

剰余金配当、残余財産分配、取得価額、転換比率など、投資家の回収額と普通株主の取り分を左右します。

CONTROL

支配・同意権

議決権、種類株主総会、拒否権、役員選任権など、経営判断の速度と投資家保護の均衡を決めます。

EXIT

出口の権利

取得請求、取得条項、普通株式化、M&A時分配、共同売却、売却協力義務など、回収局面の設計につながります。

実務でいう「優先株式」とは、普通株式とは異なる権利内容を持ち、特に剰余金配当、残余財産分配、議決権、取得請求権、取得条項、拒否権などについて投資家に一定の優先性または保護を与える株式を指すことが多い用語です。

ただし、日本の会社法上、「優先株式」という単独の画一的な制度があるわけではありません。会社法は、株式会社が内容の異なる二以上の種類の株式を発行できることを前提に、種類株式の設計対象を列挙しています。代表的には、次のような事項について、普通株式と異なる内容を定款で定めることができます。

  • 剰余金の配当に関する優先・劣後・制限
  • 残余財産の分配に関する優先・劣後・制限
  • 株主総会で議決権を行使できる事項
  • 譲渡制限
  • 株主が会社に取得を請求できる権利
  • 一定事由が生じた場合に会社が取得できる条項
  • 会社が株主総会決議によって全部を取得できる条項
  • 取締役会決議・株主総会決議等について、種類株主総会決議を要する旨の拒否権的な内容
  • 非公開会社における種類株主による取締役・監査役の選任

この意味で、「優先株式の条件設計」とは、会社法上の種類株式の制度を使って、経済的権利、支配権、出口、希薄化保護、ガバナンス権を組み合わせる作業です。

Section 02

優先株式タームシート記載は後続文書の設計図になる

拘束力の有無だけでなく、定款・投資契約・株主間契約への落とし込みを確認します。

タームシートとは、投資契約・株主間契約・分配合意・定款変更・募集株式発行決議などに先立ち、主要条件を一覧化した合意文書または交渉文書です。実務上は「条件概要書」「投資条件書」「主要条件書」と呼ばれることもあります。

タームシートには、通常、拘束力を持たせない条項と、拘束力を持たせる条項が混在します。たとえば、投資金額、発行株式数、バリュエーション、残余財産分配優先権、転換条件、希薄化防止、取締役指名権、事前承諾事項などは、最終契約締結までは法的拘束力を持たない旨を明記することがあります。他方で、秘密保持、独占交渉、費用負担、準拠法、裁判管轄、情報開示義務の一部などには拘束力を持たせることがあります。

重要なのは、タームシートが「最後にそのまま残る契約」ではないという点です。タームシートに書かれた各条件は、最終的には次のいずれか、または複数の文書に落とし込まれます。

次の比較表は、この章で扱う選択肢や文書上の落とし込み先を横並びで整理したものです。条件の違いが権利の強さ、手続の重さ、将来の説明可能性に直結するため重要です。左から順に分類、内容、実務上の注意を読み比べ、どの条件をどの文書で確認すべきかを把握してください。

条件の性質主な落とし込み先実務上の注意
株式の内容そのもの定款、登記、募集事項決議会社法上の種類株式の内容として記載できるかを確認する
投資実行の条件投資契約、払込前提条件デューデリジェンス、表明保証、前提条件、払込停止事由を設計する
株主間の行動規律株主間契約取締役指名、議決権行使、譲渡制限、共同売却、ドラッグ・アロング等を規定する
M&A時の売却代金配分分配合意、株主間契約会社法上の残余財産分配と、M&A時の契約上の代金分配を混同しない
情報権・報告権投資契約、株主間契約金商法・インサイダー規制・営業秘密管理との関係を整理する
登記・商業実務定款、株主総会議事録、取締役会議事録、登記申請書種類株式の内容、発行可能種類株式総数、発行済株式数との整合性を確認する

したがって、優先株式の条件設計とタームシート記載では、「この条項は定款事項か、契約事項か、手続事項か」を最初から区別する必要があります。タームシート上では一文で表現できる条件でも、定款・投資契約・株主間契約・分配合意・登記書類では異なる法的意味を持つためです。

Section 03

優先株式設計の4層 ― 経済・支配・出口・手続

条件を四つの層に分けると、交渉と実行手続の抜け漏れを減らせます。

次の一覧は、優先株式設計を四つの層に分けたものです。どれか一つを強くしても、他の層と整合しなければ実行時に詰まるため重要です。上から順に、経済条件、支配条件、出口条件、手続条件のどこで論点が生じるかを読み取ってください。

01

経済条件

発行価額、優先配当、残余財産分配、希薄化防止、取得価額を整理します。

02

支配条件

議決権、事前承諾、情報権、取締役指名、オブザーバー権を整理します。

03

出口条件

IPO時普通株式化、M&A時分配、共同売却、売却協力、買戻しを整理します。

04

手続条件

定款変更、募集事項決議、種類株主総会、登記、開示、規制確認を整理します。

優先株式の条件は、大きく四つの層に分けて考えると整理しやすくなります。

第一に、経済条件です。発行価額、払込金額、バリュエーション、優先配当、残余財産分配優先権、みなし清算時の分配、転換比率、希薄化防止、償還・取得価額などが含まれます。投資家のリターンと創業者・既存株主の持分価値に直接影響します。

第二に、支配条件です。議決権、種類株主総会、拒否権、事前承諾事項、取締役指名権、オブザーバー権、情報請求権、重要事項に関する同意権などです。会社の意思決定速度、経営者の裁量、投資家保護、将来の資金調達に影響します。

第三に、出口条件です。IPO時の普通株式化、M&A時の代金分配、ドラッグ・アロング、タグ・アロング、共同売却権、先買権、譲渡制限、ロックアップ、買戻し、デフォルト時の取得請求などです。投資回収の可能性と創業者の支配継続に影響します。

第四に、手続条件です。発行手続、株主総会・取締役会決議、種類株主総会、既存株主への通知、払込期日、現物出資の有無、資本金・資本準備金の計上、登記、開示、反社チェック、独占禁止法・外為法・業法規制の確認などです。手続を誤ると、条件がどれほど合理的でも発行自体が争われるリスクがあります。

Section 04

優先株式の会社法上の中核論点

定款、募集株式発行、種類株主総会、償還と分配可能額を確認します。

次の判断の流れは、タームシート上の条件を会社法上の手続へ落とす順番を示しています。契約だけで完結する条件と、定款・決議・登記まで必要な条件を混同すると権利が予定どおり機能しないため重要です。上から順に、株式内容、募集事項、種類株主総会、分配可能額の確認へ進めてください。

種類株式条件を実行可能にする確認順序

株式内容かを確認

配当、残余財産、取得請求、議決権制限、拒否権は定款反映を検討します。

募集事項と決議を確認

株式数、払込金額、払込期日、資本金・資本準備金、決議機関をそろえます。

種類株主総会の要否を確認

既存種類株主に損害を及ぼすおそれがある変更かを見ます。

金銭取得あり
分配可能額を確認

償還や自己株式取得は財源規制と取得不能時の扱いを設計します。

金銭取得なし
登記・契約へ反映

定款、議事録、投資契約、株主間契約の文言をそろえます。

5.1 定款で定めるべき事項

種類株式の内容は、原則として定款に定める必要があります。優先配当、優先残余財産分配、議決権制限、取得請求権、取得条項、拒否権的な種類株主総会事項などは、単に投資契約に書くだけでは会社法上の種類株式の内容として第三者に対抗できる形にならない場合があります。

たとえば、投資家が「この種類株式は1倍の残余財産分配優先権を持つ」と理解していても、定款に適切に反映されていなければ、清算時に会社法上の残余財産分配権として機能しないおそれがあります。契約上の損害賠償請求や履行請求の問題として処理できる場合があっても、株式そのものの権利内容とは別問題です。

5.2 募集株式発行手続

新たに優先株式を発行する場合、会社は募集株式の数、払込金額または算定方法、現物出資の内容、払込期日または払込期間、増加する資本金・資本準備金などを定める必要があります。非公開会社では、募集株式発行について株主総会特別決議が必要になるのが原則です。公開会社では、一定の場合に取締役会決議による発行が認められますが、有利発行や支配株主の異動を伴う発行などでは追加の手続・説明・開示が問題になります。

タームシートでは、単に「投資家は1億円を払い込む」と書くだけでは不十分です。次のような事項を、会社法上の募集事項と整合する形で記載します。

発行会社 ― 株式会社〇〇
発行株式 ― A種優先株式
発行株式数 ― 〇株
払込金額 ― 1株当たり〇円
総払込金額 ― 〇円
払込期日 ― 20XX年〇月〇日
資本金・資本準備金 ― 会社法および会社計算規則に従い、払込金額のうち〇円を資本金、〇円を資本準備金に組み入れる。
発行手続 ― 発行会社は、払込期日までに必要な株主総会決議、種類株主総会決議、取締役会決議、定款変更、登記その他の手続を完了する。

5.3 種類株主総会

種類株式を設計する際に見落とされがちなのが、種類株主総会です。会社法上、ある種類の株主に損害を及ぼすおそれがある一定の行為については、その種類株主総会の決議が必要となる場合があります。また、定款上、特定の事項について種類株主総会の決議を必要とする内容を設計することもあります。

ここで重要なのは、種類株主総会の要否を「投資家保護」と「会社の機動性」の両面から設計することです。投資家保護を強めるために拒否権を広く設計しすぎると、日常の資金調達、役員変更、事業提携、M&A、ストックオプション発行、借入、子会社設立、重要契約締結が逐一止まる可能性があります。他方で、会社の機動性を優先しすぎると、投資家は経済的価値の希薄化や支配権の変動を防げません。

5.4 自己株式取得・償還と分配可能額

実務上「償還権」「リデンプション」と呼ばれる条項は、会社法上は自己株式取得、取得請求権、取得条項などとして設計されます。会社が金銭を対価として株式を取得する場合、分配可能額規制に注意が必要です。会社の資金繰りが厳しい局面ほど投資家は償還を求めたい一方、分配可能額が不足していれば、会社は金銭対価での取得を実行できない場合があります。

したがって、タームシートでは「投資家はいつでも償還を請求できる」といった単純な記載は避けるべきです。分配可能額、取得手続、取得価額、取得請求期間、取得不能時の取扱い、違反時の契約上の救済、優先順位を明確にします。

Section 05

優先株式の主要条件とタームシート記載例

発行価額、配当、残余財産分配、転換、希薄化防止、承諾事項を具体化します。

次の比較一覧は、主要条件のうち投資家保護と会社の柔軟性の衝突が起きやすい項目をまとめたものです。条件名だけでは影響が見えにくいため、どの場面で普通株主や後続ラウンドへ効くかを確認することが重要です。各項目の説明を読み、タームシート本文で計算式・例外・承認主体まで書くべき条件を見分けてください。

1

発行価額・評価額

投資前評価額、投資後評価額、完全希薄化ベースの範囲で持分比率が変わります。

経済条件
2

優先配当・残余財産分配

累積性、参加性、倍率、順位、未払配当の加算有無で回収順位が変わります。

回収条件
3

転換・希薄化防止

IPO時の普通株式化と、低価発行時の転換価額調整を一体で確認します。

後続調達
4

承諾・情報・出口

事前承諾事項、情報権、共同売却、売却協力義務は会社の機動性に影響します。

支配条件

6.1 発行価額・バリュエーション・持分比率

最初に決めるべき経済条件は、投資金額、発行価額、発行株式数、投資前評価額、投資後評価額です。スタートアップ投資では、投資前評価額を「プリマネー」、投資後評価額を「ポストマネー」と呼ぶことがあります。

注意すべきは、優先株式の発行価額と普通株式の時価が同一とは限らない点です。優先株式には残余財産分配優先権、希薄化防止、情報権、拒否権などが付くため、普通株式よりも経済的価値が高い場合があります。他方、議決権制限や譲渡制限がある場合には、評価に影響します。

タームシートでは、次の事項を明確にします。

投資金額 ― 金〇円
投資前評価額 ― 金〇円。ただし、完全希薄化ベースで算定する。
投資後評価額 ― 金〇円
発行価額 ― A種優先株式1株当たり金〇円
完全希薄化ベース ― 発行済普通株式、発行済種類株式、発行済新株予約権、発行予定のストックオプションプールその他当事者が合意する潜在株式を含む。

「完全希薄化ベース」に何を含めるかは、交渉上きわめて重要です。既存ストックオプションだけを含めるのか、今回投資前に設定する未発行のオプションプールまで含めるのかによって、創業者と投資家の希薄化負担が変わります。

6.2 優先配当

優先配当とは、剰余金配当について、普通株式より優先して一定額または一定率の配当を受ける権利です。種類株式の中でも古典的な優先権です。

優先配当には、主に次の設計があります。

次の比較表は、この章で扱う選択肢や文書上の落とし込み先を横並びで整理したものです。条件の違いが権利の強さ、手続の重さ、将来の説明可能性に直結するため重要です。左から順に分類、内容、実務上の注意を読み比べ、どの条件をどの文書で確認すべきかを把握してください。

項目意味実務上の効果
累積型ある年度に未払いとなった優先配当が翌年度以降に繰り越される投資家保護が強いが、会社の将来配当余力を圧迫する
非累積型未払い配当は翌年度以降に繰り越されない会社側の負担は軽いが、投資家保護は弱い
参加型優先配当後、普通株主とともに追加配当に参加する投資家リターンが大きくなりやすい
非参加型優先配当のみで追加配当には参加しない普通株主とのバランスを取りやすい
固定率型発行価額に対して年〇%など社債に近い経済性を持ちやすい
裁量配当型配当可能な範囲で取締役会・株主総会が決定スタートアップではこちらに近い設計が多い

スタートアップでは、初期段階で配当可能利益を出さず成長投資を優先することが多いため、優先配当は形式的または低率に設計されることがあります。一方、事業承継、再生投資、上場会社の社債型種類株式などでは、配当条件が中心的な経済条件となります。

タームシート例は次のとおりです。

優先配当 ― A種優先株主は、普通株主に先立ち、A種優先株式1株当たり発行価額に年〇%を乗じた額を上限として、剰余金の配当を受ける権利を有する。
累積性 ― 未払優先配当は累積しない。
参加性 ― A種優先株主は、上記優先配当を受けた後、普通株主に対する剰余金配当には参加しない。

6.3 残余財産分配優先権

残余財産分配優先権とは、会社の清算時に、普通株主に先立って一定額の残余財産の分配を受ける権利です。スタートアップ投資でいう「リクイデーション・プリファレンス」に対応する中心的な条項です。

設計上の主要論点は、次のとおりです。

次の比較表は、この章で扱う選択肢や文書上の落とし込み先を横並びで整理したものです。条件の違いが権利の強さ、手続の重さ、将来の説明可能性に直結するため重要です。左から順に分類、内容、実務上の注意を読み比べ、どの条件をどの文書で確認すべきかを把握してください。

論点代表的な選択肢ポイント
優先倍率1倍、1.5倍、2倍など倍率が高いほど投資家保護が強く、普通株主のアップサイドが削られる
参加性参加型、非参加型参加型は投資回収後も普通株式相当分に参加するため投資家に有利
上限キャップあり、キャップなし参加型にキャップを付けるとバランスを取りやすい
順位パリパス、シニア、ジュニア後続ラウンドとの優先順位調整が重要
未払配当の加算加算あり、なし累積配当との整合性を確認する

非参加型1倍の例は、投資家にとって「最低限、投資元本相当を先に回収し、それ以上のアップサイドは普通株式に転換して参加するか、優先権を行使するかを選ぶ」構造です。創業者・普通株主にとっては、過度なダウンサイド保護を避けやすいため、スタートアップ投資で比較的受け入れられやすい設計です。

参加型は、投資家がまず優先分配を受けたうえで、さらに普通株主と同様に残余財産の分配に参加する構造です。投資家保護は強くなりますが、出口価格が中程度の場合に普通株主の受取額が大きく減る可能性があります。キャップなし参加型は、創業者インセンティブを損なうことがあるため、慎重な説明が必要です。

タームシート例は次のとおりです。

残余財産分配優先権 ― 会社が清算する場合、A種優先株主は、普通株主に先立ち、A種優先株式1株につき、発行価額の1倍に未払優先配当額を加算した額の分配を受ける。
非参加性 ― A種優先株主は、上記優先分配を受けた後、残余財産の追加分配には参加しない。ただし、A種優先株式を普通株式に転換したものとみなした場合の分配額が上記優先分配額を上回る場合、A種優先株主は転換後普通株式に基づく分配を選択できる。
順位 ― A種優先株式の残余財産分配優先権は、既発行の全ての普通株式に優先し、将来発行される同順位優先株式とは同順位とする。ただし、A種優先株式に劣後しない株式を発行する場合には、A種優先株主の承認を要する。

6.4 M&A時のみなし清算と分配合意

残余財産分配優先権は、会社が清算する場面の権利です。しかし、スタートアップ投資では、実際の投資回収は清算ではなくM&Aで行われることが多いです。そのため、株式譲渡、合併、会社分割、株式交換、株式交付、事業譲渡などを「みなし清算事由」と定義し、M&A対価を残余財産分配と同様のウォーターフォールで分配する契約条項を設けることがあります。

ここで混同してはいけないのは、「会社法上の残余財産分配」と「M&A時の売却代金配分」は法的性質が異なるという点です。清算時の残余財産分配優先権は定款上の種類株式の内容として設計されます。他方、M&A時の売却代金配分は、多くの場合、株主間契約または分配合意によって実現されます。株式譲渡であれば売却代金は会社ではなく売主株主に支払われるため、会社の定款だけで全株主間の代金配分を完全にコントロールすることはできません。

タームシートでは、次のように記載します。

みなし清算事由 ― 合併、株式交換、株式移転、株式交付、会社分割、事業の全部または重要な一部の譲渡、発行会社の議決権の過半数の移転その他これらに類する取引であって、A種優先株主の承認を得たものをいう。
M&A時分配 ― みなし清算事由により株主が受領する金銭、株式その他の対価は、別途締結する株主間契約または分配合意に従い、清算時の残余財産分配優先権と同様の経済的結果となるよう配分する。

この条項は、M&A実行の際の買主、既存株主、優先株主、ストックオプション保有者、税務上の取扱いに影響します。特に、株式対価、アーンアウト、エスクロー、表明保証保険、役員退職慰労金、リテンションボーナスがある場合には、何を「M&A対価」に含めるかを定義しなければなりません。

6.5 普通株式への転換 ― 取得請求権・取得条項として設計する

実務上「優先株式を普通株式に転換する」と表現されることがあります。ただし、会社法上の設計としては、優先株主が会社に優先株式の取得を請求し、その対価として普通株式を交付する取得請求権付種類株式、または一定事由が生じたときに会社が優先株式を取得し、その対価として普通株式を交付する取得条項付種類株式として構成することが一般的です。

転換条項の目的は、主に三つです。

第一に、IPO時に資本構成を単純化することです。上場審査や投資家への説明の観点から、優先株式を普通株式に一本化する必要が生じることがあります。

第二に、優先株主にアップサイド参加の選択肢を与えることです。M&Aや清算時に、優先分配を受けるより普通株式に転換した方が有利な場合、投資家は転換を選択できます。

第三に、希薄化防止条項を転換比率の調整として実現することです。後続ラウンドで低い発行価額の株式が発行された場合、優先株式1株当たり取得できる普通株式数を増やすことで、投資家の持分希薄化を緩和します。

タームシート例は次のとおりです。

任意転換 ― A種優先株主は、いつでも、A種優先株式を会社に取得させ、その対価として普通株式の交付を受けることを請求できる。
転換比率 ― 当初転換比率は、A種優先株式1株につき普通株式1株とする。ただし、株式分割、株式併合、無償割当、低価発行その他本タームシートに定める希薄化防止事由が生じた場合には、転換比率を調整する。
IPO時自動転換 ― 会社が金融商品取引所への上場を申請し、A種優先株主の承認を得た場合、上場に先立ち、全てのA種優先株式は普通株式に転換される。

6.6 希薄化防止条項

希薄化防止条項とは、会社が将来、既存優先株式の発行価額より低い価格で株式または潜在株式を発行する場合に、既存優先株主の経済的価値の希薄化を調整する条項です。

代表的な方式は、フルラチェット方式と加重平均方式です。

次の比較表は、この章で扱う選択肢や文書上の落とし込み先を横並びで整理したものです。条件の違いが権利の強さ、手続の重さ、将来の説明可能性に直結するため重要です。左から順に分類、内容、実務上の注意を読み比べ、どの条件をどの文書で確認すべきかを把握してください。

方式内容実務上の特徴
フルラチェット後続ラウンドの低い発行価額に合わせて既存優先株式の転換価額を一気に引き下げる投資家保護が非常に強いが、創業者・普通株主の希薄化が大きい
加重平均発行済株式数、発行済潜在株式数、後続発行株式数、発行価額を考慮して転換価額を調整する投資家保護と会社側負担のバランスを取りやすい
ブロードベース加重平均完全希薄化ベースを広く取り込む調整幅が比較的穏やかになりやすい
ナローベース加重平均対象株式数を狭く取る調整幅が大きくなりやすい

除外発行の定義も重要です。ストックオプション、役職員インセンティブ、株式分割、株式併合、M&A対価、業務提携先への発行、金融機関へのワラント、クラウドファンディングなどを希薄化防止の対象外にするかどうかで、会社の将来の柔軟性が変わります。

タームシート例は次のとおりです。

希薄化防止 ― 会社が、A種優先株式の当初発行価額を下回る発行価額で株式、新株予約権その他株式取得権を発行する場合、A種優先株式の転換価額は、ブロードベース加重平均方式により調整される。
除外発行 ― 役職員向けストックオプション、株式分割、株式併合、無償割当、M&A対価としての株式発行、A種優先株主が承認した戦略的提携に伴う発行その他最終契約で定める発行は、希薄化防止調整の対象外とする。

6.7 議決権・拒否権・事前承諾事項

優先株式は、議決権を持つ場合もあれば、議決権を制限する場合もあります。スタートアップ投資では、議決権は普通株式と同等に持たせつつ、一定の重要事項について投資家の事前承諾を要求する設計が見られます。上場会社の資本調達や社債型種類株式では、無議決権または議決権制限株式として設計されることがあります。

事前承諾事項は、投資家保護の中核ですが、過度に広いと会社の経営を止めます。たとえば、「一切の借入」「一切の契約締結」「一切の採用」「一切の予算変更」に投資家承諾を要求すると、会社の運営は極端に重くなります。投資家が守るべき事項は、会社の価値や投資家の権利を根本的に損なう事項に絞るべきです。

典型的な事前承諾事項は、次のとおりです。

  • 定款変更
  • 株式、新株予約権、社債、新株予約権付社債の発行
  • 優先株式に優先または同順位の株式の発行
  • 合併、会社分割、株式交換、株式移転、株式交付、事業譲渡
  • 解散、清算、破産、民事再生、会社更生等の申立て
  • 重要な資産の譲渡・担保設定
  • 一定金額を超える借入・保証・担保提供
  • 事業計画・予算の重要変更
  • 代表取締役、CFOその他重要役員の選解任
  • 関連当事者取引
  • 配当、自己株式取得、資本減少
  • ストックオプションプールの設定・変更
  • IPO方針・M&A方針の重要変更

タームシート例は次のとおりです。

事前承諾事項 ― 会社は、以下の事項を行う場合、A種優先株主の過半数の事前承諾を得るものとする。ただし、日常業務の範囲内で行われる取引、および承認済み事業計画に含まれる取引を除く。
承諾主体 ― A種優先株主の過半数とは、発行済A種優先株式の過半数を保有するA種優先株主をいう。
濫用防止 ― A種優先株主は、会社および全株主の共通利益を著しく害する目的で承諾を拒絶してはならない。

承諾主体は、「投資家全員の同意」よりも「優先株主の過半数」「主要投資家の過半数」「リード投資家の同意」などにした方が、機動性を確保しやすい場合があります。もっとも、投資家の数、持分比率、利益相反、将来ラウンドの構造によって最適解は異なります。

6.8 取締役指名権・オブザーバー権

投資家が一定数の取締役を指名できる権利は、ガバナンスに大きく影響します。取締役は会社に対して善管注意義務・忠実義務を負い、単に投資家の代理人として行動できるわけではありません。そのため、投資家指名取締役を置く場合には、会社の利益、投資家利益、他株主利益、利益相反管理、情報管理を整理する必要があります。

オブザーバー権は、取締役会に出席して意見を述べるが議決権は持たない権利です。投資家に情報アクセスを与える一方、取締役としての法的責任を負わない点で柔軟ですが、営業秘密、インサイダー情報、競業投資家、利益相反案件では制限が必要です。

タームシート例は次のとおりです。

取締役指名権 ― A種優先株主の過半数は、会社の取締役1名を指名する権利を有する。会社および創業株主は、当該候補者が取締役に選任されるよう合理的な範囲で協力する。
オブザーバー権 ― 主要A種優先株主は、取締役会にオブザーバー1名を出席させることができる。ただし、利益相反、営業秘密、法令遵守上の必要がある場合、会社は当該オブザーバーの出席または資料提供を制限できる。

6.9 情報権・監査権

投資家は、投資後に会社の状況を把握するため、月次・四半期・年次の財務情報、事業計画、資金繰り表、重要契約、KPI、取締役会資料などの提供を求めることがあります。

情報権は、投資家保護に有用ですが、過度に広いと会社の事務負担が増えます。また、投資家が競合会社にも投資している場合、営業秘密や競争法上の問題が生じることがあります。上場準備会社では、未公表重要事実やインサイダー情報の管理も重要です。

タームシートでは、提供頻度、提供期限、対象資料、受領者、秘密保持、競業投資家への制限、情報管理体制を定めます。

6.10 譲渡制限、先買権、共同売却権、ドラッグ・アロング

優先株式は、投資家の出口を確保しつつ、望ましくない第三者への株式移転を防ぐ必要があります。そこで、譲渡制限、先買権、共同売却権、ドラッグ・アロング、タグ・アロングなどを組み合わせます。

先買権とは、株主が株式を第三者に売却しようとする場合、他の株主または会社が先に買い取る機会を持つ権利です。共同売却権とは、創業者や主要株主が株式を第三者に売却する場合、投資家も同条件で売却に参加できる権利です。ドラッグ・アロングとは、一定条件を満たすM&Aについて、反対株主にも売却を義務付ける権利です。タグ・アロングとは、支配株主が売却する際に少数株主が同条件で売却に参加できる権利です。

ドラッグ・アロングはM&A実行力を高めますが、少数株主に売却を強制するため、発動要件を慎重に設計する必要があります。たとえば、取締役会承認、普通株主多数、優先株主多数、一定以上の売却価格、残余財産分配優先権に基づく最低回収額、利益相反のない第三者取引であることなどを条件にします。

Section 06

優先株式タームシートを定款・契約・手続へ落とす技法

計算式、後続ラウンド、日本法用語の整理で実行可能性を高めます。

次の判断の流れは、タームシートの一文をどの文書へ落とし込むかを示しています。文書の役割を誤ると、同じ条件でも株式内容、契約義務、手続義務のどれとして効くのかが不明確になるため重要です。条件を読んだら、まず株式そのものの権利か、当事者間の約束か、実行手続かを分けてください。

条件の落とし込み先を分ける手順

条件を一つずつ分解

配当、分配、転換、承諾、情報、譲渡、払込などに分けます。

株式内容
定款・登記へ

種類株式の内容として第三者にも分かる形にします。

当事者間の約束
投資契約・株主間契約へ

違反時の効果、存続期間、承諾主体を明記します。

手続期限を設定

決議、払込、登記、前提条件、承諾取得をいつまでに行うかをそろえます。

7.1 「定款事項」「契約事項」「手続事項」を分ける

優先株式のタームシートで最も重要な技法は、各条件を次の三つに分類することです。

次の比較表は、この章で扱う選択肢や文書上の落とし込み先を横並びで整理したものです。条件の違いが権利の強さ、手続の重さ、将来の説明可能性に直結するため重要です。左から順に分類、内容、実務上の注意を読み比べ、どの条件をどの文書で確認すべきかを把握してください。

分類書き方の要点
定款事項優先配当、残余財産分配、取得請求権、取得条項、議決権制限、種類株主総会事項会社法上の種類株式の内容として記載できる表現にする
契約事項表明保証、前提条件、情報権、事前承諾、取締役指名協力、譲渡制限、M&A時分配当事者、違反時の効果、存続期間、救済手段を定める
手続事項株主総会、取締役会、種類株主総会、登記、払込、前提条件誰が、いつまでに、どの手続を完了するかを定める

たとえば、「投資家はM&A時に1倍優先分配を受ける」という記載は、清算時の残余財産分配権なのか、株式譲渡代金の契約上の配分なのか、合併対価の配分なのかを分けなければ曖昧です。

7.2 計算式を曖昧にしない

優先株式の紛争は、しばしば計算式の曖昧さから生じます。次の点は必ず定義すべきです。

  • 発行価額とは、払込金額をいうのか、資本組入額をいうのか
  • 未払配当を残余財産分配額に加算するか
  • 税金、取引費用、債務返済、エスクロー、アーンアウトをM&A対価から控除するか
  • 株式対価の場合の評価基準日はいつか
  • 為替換算が必要な場合のレートは何か
  • 複数種類の優先株式がある場合の順位はどうなるか
  • 端数処理は切上げ、切捨て、四捨五入のどれか
  • ストックオプション未行使分を完全希薄化に含めるか

タームシート段階で全ての数式を完成させるのが難しい場合でも、「最終契約において、別紙計算例を作成する」と明記すべきです。計算例は、ダウンラウンド、フラットラウンド、アップラウンド、M&A低額売却、M&A高額売却、IPO、清算など複数シナリオで作成します。

7.3 後続ラウンドを想定する

A種優先株式だけを見て設計すると、B種、C種、D種の資金調達時に破綻することがあります。後続ラウンドでは、既存投資家と新規投資家の間で、優先順位、希薄化防止、拒否権、情報権、取締役指名権が衝突します。

タームシートでは、少なくとも次の点を想定します。

  • 将来発行される優先株式は、既存優先株式と同順位か、上位か、下位か
  • 上位の優先株式発行には既存優先株主の承認を要するか
  • 既存投資家のプロラタ投資権を認めるか
  • 新規投資家の要求により既存条項を修正できるか
  • 既存投資家の拒否権が将来資金調達を阻害しないか
  • ブリッジファイナンス、コンバーティブル・エクイティ、J-KISS等との整合性をどう取るか

7.4 用語の定義を日本法に合わせる

英米系タームシートの用語をそのまま日本語化すると、会社法上の概念とずれることがあります。

次の比較表は、この章で扱う選択肢や文書上の落とし込み先を横並びで整理したものです。条件の違いが権利の強さ、手続の重さ、将来の説明可能性に直結するため重要です。左から順に分類、内容、実務上の注意を読み比べ、どの条件をどの文書で確認すべきかを把握してください。

英語実務用語日本法実務での注意
Preferred Stock会社法上は種類株式として設計する
Conversion取得請求権・取得条項による普通株式交付として構成することが多い
Liquidation Preference清算時の残余財産分配優先権と、M&A時の契約上の分配を分ける
Redemption自己株式取得・取得請求権・取得条項・分配可能額規制を確認する
Protective Provisions定款上の種類株主総会事項か、契約上の事前承諾事項かを分ける
Drag Along株主間契約上の売却協力義務として設計することが多い
ROFR会社法上の譲渡承認手続と契約上の先買権を整合させる
Section 07

優先株式の類型別設計ポイント

スタートアップ、戦略投資、事業承継、再生、上場会社で重視点が変わります。

次の一覧は、利用場面ごとに優先株式で重視される条件の違いを整理したものです。同じ優先株式でも、スタートアップ、戦略投資、事業承継、再生、上場会社では目的が異なるため重要です。各場面で、配当、支配、出口、説明可能性のどれを強く設計するかを読み取ってください。

STARTUP

シリーズA投資

1倍非参加型残余財産分配、任意転換、希薄化防止、主要事項の承諾、情報権を中心にします。

STRATEGIC

事業会社の戦略投資

業務提携、競業制限、情報管理、独占交渉、出口制限との整合性を重視します。

SME

事業承継・中小企業

議決権と経済権を分け、後継者支配と先代・親族の経済的保護を調整します。

RESCUE

再生・救済投資

強い優先順位、償還、デフォルト時対応、スポンサーの承諾権が問題になります。

8.1 スタートアップのシリーズA投資

スタートアップのシリーズA投資では、投資家がリスクを取る一方、創業者のインセンティブと会社の成長速度を維持することが重要です。過度に重い優先権や拒否権は、次回ラウンドの投資家から嫌われる可能性があります。

一般的に検討される条件は、次のとおりです。

  • 1倍非参加型残余財産分配優先権
  • 任意転換およびIPO時自動転換
  • ブロードベース加重平均型希薄化防止
  • 主要事項に限定した事前承諾権
  • 主要投資家への情報権
  • 主要投資家またはリード投資家のオブザーバー権
  • プロラタ投資権
  • 創業者株式の譲渡制限・リバースベスティング
  • M&A時のドラッグ・アロング

シリーズAでは、投資家保護を確保しながら、シリーズB以降の投資家が受け入れやすい「市場標準に近い」設計を意識する必要があります。

8.2 事業会社による戦略投資

事業会社がスタートアップに投資する場合、純投資家とは異なり、事業提携、共同開発、販売連携、データ連携、知財ライセンス、独占交渉、競業避止、買収オプションなどが同時に問題になります。

この場合、優先株式の条件だけでなく、業務提携契約との関係が重要です。投資契約に過度な独占権や競業制限を入れると、将来のM&Aや資金調達の障害になることがあります。特に、特定の事業会社投資家に強い拒否権を与えると、競合他社による買収、海外展開、提携先変更、ライセンス戦略が制約される可能性があります。

タームシートでは、戦略投資家に与える情報権・拒否権・独占権を、純投資家に与える経済的優先権と分けて記載することが重要です。

8.3 事業承継・中小企業の種類株式

中小企業の事業承継では、優先株式や議決権制限株式を用いて、経済的利益と経営支配を分離することがあります。たとえば、後継者には議決権のある普通株式を集中させ、非後継者には配当優先・無議決権の種類株式を交付する設計が考えられます。

ただし、相続税評価、遺留分、会社法上の株主平等原則、少数株主保護、種類株主総会、定款変更、既存株主の同意、金融機関対応が複雑に絡みます。タームシートというより、事業承継計画、株主間合意、定款変更、贈与・相続設計を一体として検討します。

8.4 再生・救済投資

財務危機にある会社への投資では、投資家は強いダウンサイド保護を求めます。優先配当、償還権、強い残余財産分配優先権、取締役指名権、財務制限条項、重要資産処分の承諾権、追加投資権などが問題になります。

一方、会社側は分配可能額、債権者保護、金融機関との合意、既存株主の希薄化、債務超過、会計上の継続企業の前提、倒産手続との関係を検討する必要があります。再生局面では、優先株式単体ではなく、DES、DDS、第三者割当増資、債務免除、事業譲渡、スポンサー契約と組み合わせることが多いです。

8.5 上場会社・社債型種類株式

上場会社または上場を目指す会社では、優先株式の設計は市場性、開示、投資家保護、取引所規則、流動性、既存普通株主への影響を考慮する必要があります。社債型種類株式は、配当や取得条項の設計により社債に近い経済性を持つ一方、会社法上は株式であり、債権者に対する優先弁済権を持つわけではありません。

上場商品としての種類株式は、商品性、開示、投資者保護、流動性、普通株式との関係を厳格に説明する必要があります。タームシート段階から、取引所、証券会社、監査法人、弁護士、信託銀行、株主名簿管理人と協議することが不可欠です。

Section 08

優先株式の会計・評価・税務の確認点

負債性・資本性、価値評価、低額発行、みなし配当を早めに確認します。

9.1 会計上の見方

種類株式は、保有者側の会計処理、発行会社側の表示、評価、減損、金融商品会計、純資産の表示、配当処理に影響します。特に、一定時点に一定額で償還されるなど、経済的性質が社債に近い種類株式は、評価・表示・投資家説明において普通株式とは異なる扱いが問題になります。

企業会計基準委員会の実務対応報告第10号は、種類株式の貸借対照表価額に関する保有者側の実務上の取扱いを示しています。ただし、これは発行会社側の会計処理を直接定めるものではないため、発行会社は別途、監査法人・会計士と確認する必要があります。

9.2 株式価値評価

優先株式の価値評価では、普通株式と同じ価格を単純に当てはめられない場合があります。優先配当、残余財産分配、転換権、希薄化防止、償還権、議決権制限、譲渡制限、拒否権などが価値に影響するからです。

評価手法としては、事案に応じて、DCF法、類似会社比較法、純資産法、オプション・プライシング法、優先分配ウォーターフォールを反映したシナリオ分析などが検討されます。日本公認会計士協会の研究報告は、種類株式の評価事例を示す参考資料ですが、それ自体が一律の評価基準や唯一のマニュアルではありません。実務では、評価目的、評価基準日、取引当事者、少数株主性、支配権、流動性、税務目的か会計目的かを明確にします。

9.3 税務上の注意

非上場株式の評価では、同族株主等か否か、会社規模、類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式などが問題になります。種類株式がある場合には、権利内容に応じた評価、普通株式との価値配分、配当優先・残余財産優先・議決権制限の影響を検討する必要があります。

税務上は、次の場面で特に注意が必要です。

  • 創業者または役員への低額発行
  • 既存株主から投資家への有利発行
  • ストックオプション行使価格との関係
  • 優先株式と普通株式の価格差
  • 事業承継における種類株式の相続税評価
  • 自己株式取得・償還時の配当所得・譲渡所得・みなし配当
  • M&A時の売却代金配分
  • 関連当事者間取引

タームシート段階では、税務評価を後回しにしないことが重要です。法務上は成立する条件でも、税務上の説明が困難であれば、関係者に予期しない課税リスクが生じます。

Section 09

優先株式の登記・商事法務で確認する事項

定款、議事録、発行可能種類株式総数、払込、登記事項を整合させます。

優先株式を発行するには、定款変更、発行可能種類株式総数、発行する種類株式の内容、募集株式発行決議、種類株主総会、払込、登記などを正確に処理する必要があります。

商業登記の実務では、次の点を確認します。

  • 定款に種類株式の内容が過不足なく記載されているか
  • 発行可能株式総数と発行可能種類株式総数が整合しているか
  • 既存株式の種類、発行済株式数、潜在株式数が確認されているか
  • 株主総会決議、種類株主総会決議、取締役会決議の要否が確認されているか
  • 議事録の記載が登記原因と整合しているか
  • 払込証明、資本金計上、資本準備金計上が正しいか
  • 登記事項として必要な種類株式の内容が反映されているか
  • 既存の投資契約・株主間契約に承諾事項がないか

タームシートで「定款変更その他必要な手続を行う」と書くだけでは不十分です。実際には、払込日から逆算して、株主総会招集手続、基準日設定、取締役会開催、反対株主対応、種類株主総会、定款変更案、登記申請スケジュールを作成する必要があります。

Section 10

優先株式と投資条件の法務デューデリジェンス

資本政策、契約、会計税務、紛争労務の観点から調査します。

次の一覧は、優先株式や投資条件の法務調査で特に紛争化しやすい確認点をまとめたものです。資本政策の不備はM&Aや次回資金調達で価格・前提条件に直結するため重要です。各項目を読み、株式、契約、税務、紛争のどこに未解決リスクが残るかを確認してください。

株式・資本政策

定款、登記簿、株主名簿、発行済株式数、潜在株式、過去の発行手続を照合します。

契約・事業

主要契約、知財帰属、借入制限、許認可、外為法、反社、個人情報の制約を確認します。

会計・税務

直近決算、試算表、繰越欠損金、関連当事者取引、種類株式評価を確認します。

紛争・労務

潜在紛争、労務問題、内部通報、行政指導、重大クレームを確認します。

優先株式発行前には、少なくとも次の事項を確認します。

11.1 株式・資本政策

  • 定款、登記簿、株主名簿、株式事務の整合性
  • 発行済株式数、自己株式、新株予約権、ストックオプション
  • 過去の株式発行手続の有効性
  • 株券発行会社か否か
  • 名義株、失念株、相続未処理株式の有無
  • 既存株主間契約、投資契約、譲渡制限、先買権
  • 過去の有利発行・低額発行リスク

11.2 契約・事業

  • 主要契約のチェンジ・オブ・コントロール条項
  • 知財帰属、共同開発、ライセンス制限
  • 借入契約の財務制限条項、増資制限、担保制限
  • 行政許認可、業法規制、外為法、輸出管理
  • 反社会的勢力排除、制裁、贈収賄防止
  • 個人情報・データ移転・サイバーセキュリティ

11.3 会計・税務

  • 直近決算、月次試算表、資金繰り
  • 税務申告、税務調査、繰越欠損金
  • 役員・株主との関連当事者取引
  • ストックオプション会計・税制適格性
  • 種類株式評価の前提
  • 監査法人・税理士の見解

11.4 紛争・労務・コンプライアンス

  • 係争中または潜在的紛争
  • 労務問題、未払残業代、ハラスメント
  • 競業避止・秘密保持違反
  • 内部通報・不祥事調査
  • 行政指導・当局照会
  • 重大な顧客クレーム
Section 11

優先株式タームシート骨子の読み方

当事者、発行条件、優先権、承諾事項、拘束力をひと続きで確認します。

以下は、実務上の検討項目を示すためのサンプルです。個別案件にそのまま使用するための雛形ではありません。

1. 当事者
発行会社 ― 株式会社〇〇
投資家 ― 〇〇投資事業有限責任組合ほか
創業株主 ― 〇〇、〇〇

2. 発行株式
発行会社は、A種優先株式を発行する。

3. 投資金額・発行価額
投資金額 ― 金〇円
発行価額 ― A種優先株式1株当たり金〇円
発行株式数 ― 〇株
投資前評価額 ― 金〇円(完全希薄化ベース)
投資後評価額 ― 金〇円(完全希薄化ベース)

4. 優先配当
A種優先株主は、普通株主に先立ち、A種優先株式1株当たり発行価額に年〇%を乗じた額を上限として剰余金配当を受ける。
未払優先配当は累積しない。
A種優先株主は、優先配当後の追加配当には参加しない。

5. 残余財産分配優先権
清算時、A種優先株主は、普通株主に先立ち、A種優先株式1株当たり発行価額の1倍に未払優先配当額を加算した額の分配を受ける。
A種優先株式は非参加型とする。

6. みなし清算
合併、株式交換、株式移転、株式交付、会社分割、事業譲渡、議決権過半数の移転その他最終契約で定める取引をみなし清算事由とする。
みなし清算事由における対価は、株主間契約または分配合意に従い、清算時の分配順位と同様の経済的結果となるよう配分する。

7. 普通株式への転換
A種優先株主は、いつでもA種優先株式を会社に取得させ、その対価として普通株式の交付を受けることを請求できる。
当初転換比率は1対1とする。
IPO時には、A種優先株主の承認を条件として、A種優先株式は普通株式に自動転換される。

8. 希薄化防止
会社がA種優先株式の発行価額を下回る価格で株式または潜在株式を発行する場合、A種優先株式の転換価額はブロードベース加重平均方式により調整される。
役職員向けストックオプションその他最終契約で定める除外発行は調整対象外とする。

9. 事前承諾事項
会社は、定款変更、株式等の発行、優先株式に優先または同順位の株式の発行、M&A、重要資産の処分、一定額を超える借入、関連当事者取引、解散・清算、自己株式取得その他最終契約で定める事項について、A種優先株主の過半数の事前承諾を得る。

10. 情報権
会社は、主要A種優先株主に対し、月次試算表、四半期財務諸表、年次財務諸表、事業計画、取締役会資料その他合意する情報を提供する。

11. 取締役指名権・オブザーバー権
A種優先株主の過半数は、取締役1名を指名する権利を有する。
主要A種優先株主は、取締役会にオブザーバー1名を出席させることができる。

12. 譲渡制限・共同売却・ドラッグ
創業株主の株式譲渡には、会社および主要投資家の承諾を要する。
創業株主が株式を第三者に譲渡する場合、A種優先株主は共同売却権を有する。
一定条件を満たすM&Aについて、株主はドラッグ・アロングに従い売却に協力する。

13. 投資実行の前提条件
法務・財務・税務DDの完了、投資契約・株主間契約・分配合意の締結、定款変更、必要な会社機関決議、種類株主総会決議、登記に必要な書類の準備、表明保証の真実性、重大な悪影響の不存在を前提条件とする。

14. 拘束力
本タームシートのうち、秘密保持、独占交渉、費用負担、準拠法、裁判管轄、拘束力に関する条項を除き、法的拘束力を有しない。

15. 準拠法・管轄
日本法を準拠法とし、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
Section 12

優先株式タームシートでよくある失敗例

定款漏れ、M&A時分配の混同、広すぎる承諾事項などを避けます。

次の一覧は、優先株式のタームシートで後から修正負担が大きくなる失敗例を整理したものです。交渉段階では小さく見える表現のずれが、登記、M&A、IPO、税務で大きな障害になるため重要です。各項目を読み、どの文書・手続・計算式で先回りして潰すべきかを確認してください。

定款事項の漏れ

株式内容として効かせたい条件を契約だけに置くと、会社法上の権利として機能しないおそれがあります。

M&A時分配の混同

清算時の残余財産分配と株式売却代金の分配は法的性質が異なります。

承諾事項の過大化

日常業務まで投資家承諾の対象にすると、経営判断が重くなります。

後続ラウンドの未想定

同順位・先順位・除外発行を決めないと、次回調達で既存投資家との調整が難しくなります。

13.1 定款に入れるべき内容を契約にしか書いていない

最も典型的な失敗は、優先配当や残余財産分配優先権を投資契約にだけ書き、定款に正確に反映していないケースです。株式の内容として効力を持たせたい条項は、会社法上の種類株式の内容として定款に定める必要があります。

13.2 M&A時分配を清算時分配と混同している

清算時の残余財産分配優先権は、会社の残余財産分配に関する権利です。株式譲渡によるM&Aでは、対価は会社ではなく売主株主に支払われます。したがって、M&A時の代金配分は、株主間契約・分配合意・ドラッグ条項と連動させる必要があります。

13.3 事前承諾事項が広すぎる

投資家保護を重視するあまり、日常業務まで投資家承諾事項に含めると、会社の意思決定が停止します。事前承諾事項は、会社価値や投資家権利に重大な影響を与える事項に絞り、金額基準、除外事項、承認済み予算の例外を設定すべきです。

13.4 希薄化防止条項の除外発行が不明確

ストックオプションや業務提携先への発行まで希薄化防止の対象になると、会社の人材採用や事業提携に支障が出ます。除外発行は、投資家保護を損なわない範囲で明確に定義します。

13.5 後続ラウンドを想定していない

A種優先株式の権利を強くしすぎると、B種以降の投資家が投資しにくくなります。将来ラウンドの上位・同順位・下位、既存投資家承認、プロラタ権、条項修正手続をあらかじめ想定します。

13.6 会計・税務を後回しにしている

法務上は成立する優先株式でも、会計上の表示、評価、税務上の時価、みなし配当、相続税評価、ストックオプション行使価格に影響します。タームシート段階で会計士・税理士を関与させるべきです。

13.7 登記実務を軽視している

種類株式の内容は登記にも関係します。定款・決議・登記申請書の記載に齟齬があると、登記が遅れ、払込・クロージング・投資実行に影響します。司法書士との早期連携が重要です。

Section 13

優先株式設計に関わる専門職ごとの役割

法務、司法書士、会計士、税理士、CFO、投資家の確認範囲を分けます。

次の比較表は、専門職・社内担当者ごとの主な確認範囲を整理したものです。優先株式は法務だけで完結せず、会計、税務、登記、資本政策、事業部門の判断がつながるため重要です。担当ごとの役割を読み、誰がどの論点をレビューすべきかを明確にしてください。

優先株式の条件設計とタームシート記載では、複数の専門職が連携します。

次の比較表は、この章で扱う選択肢や文書上の落とし込み先を横並びで整理したものです。条件の違いが権利の強さ、手続の重さ、将来の説明可能性に直結するため重要です。左から順に分類、内容、実務上の注意を読み比べ、どの条件をどの文書で確認すべきかを把握してください。

専門職・担当者主な役割
企業内弁護士・法務担当契約全体、社内意思決定、既存契約、リスク整理、交渉窓口
外部弁護士会社法、投資契約、株主間契約、M&A、紛争リスク、条項ドラフト
商事法務担当株主総会、取締役会、種類株主総会、議事録、定款管理
司法書士定款変更、募集株式発行、種類株式の登記、添付書類確認
公認会計士・監査法人会計処理、評価、IPO審査、内部統制、開示
税理士税務評価、みなし配当、相続・事業承継、役員・株主課税
CFO・経営企画バリュエーション、資本政策、資金繰り、投資家対応
投資家・ファンド担当投資条件、モニタリング、出口戦略、リスク管理
取締役会事務局機関決定、議案整理、スケジュール管理
知財・事業部門事業提携、ライセンス、技術資産、競業・独占条項の確認

実務で重要なのは、各専門職が自分の領域だけを最適化しないことです。たとえば、弁護士が投資家保護を強化しすぎると、CFOは次回資金調達で苦労します。税理士が税務リスクを重視しすぎると、投資家が納得する経済条件を作れない場合があります。司法書士が登記可能性を見ても、M&A時の分配合意までは当然にはカバーしません。全体設計が必要です。

Section 14

優先株式条件の交渉ポイント

投資家側と会社・創業者側の関心を同じ表で見比べます。

15.1 投資家側の視点

投資家は、次の点を重視します。

  • 投資元本の下方保護
  • 創業者のコミットメント維持
  • 将来ラウンドでの希薄化管理
  • 重要事項への拒否権
  • 情報アクセス
  • M&A時の回収順位
  • IPO時の円滑な普通株式化
  • 既存株主・経営者の表明保証
  • 反社、法令遵守、知財帰属の安全性

投資家側は、強い権利を要求するだけでなく、会社の将来成長と次回調達可能性を損なわない条件にすることが長期的には合理的です。

15.2 会社・創業者側の視点

会社・創業者は、次の点を重視します。

  • 経営の機動性
  • 創業者インセンティブ
  • 次回資金調達への影響
  • M&A時の普通株主受取額
  • 取締役会の独立性
  • 情報提供負担
  • 事業提携や採用への柔軟性
  • ストックオプションプールの確保
  • IPO時の整理可能性

会社側は、投資家に対して「拒否権を減らしてほしい」と抽象的に主張するだけでは不十分です。代わりに、金額基準、承認済み予算の例外、主要事項限定、承諾主体の合理化、一定期間後の見直し、IPO申請後の解除など、具体的な代替案を提示することが有効です。

Section 15

優先株式条件設計の12項目チェック

定款、登記、決議、承諾、会計税務、IPO/M&Aまで確認します。

次の重要ポイントは、タームシートを実行可能な文書として確認するための総点検項目です。条件が多い案件ほど、権利の所在、手続、評価、出口、経営制約を同時に見る必要があるため重要です。12項目を順に読み、答えられない項目が残る場合は該当条項を再設計してください。

12項目に答えられない条件は、交渉後半で詰まりやすい

株式そのものの権利か、定款に入るか、登記されるか、決議が必要か、既存承諾が要るか、会計・税務・IPO・M&A・後続ラウンド・日常経営・紛争時の計算に耐えるかを確認します。

優先株式の条件設計では、次の問いを順番に確認すると、条項の過不足を発見しやすくなります。

  1. この権利は、株式そのものの権利か、株主間の契約上の権利か。
  2. 定款に入れる必要があるか。
  3. 登記に反映されるか。
  4. 会社法上、株主総会・取締役会・種類株主総会のどの決議が必要か。
  5. 既存株主・既存投資家の承諾が必要か。
  6. 会計上、負債性・資本性・評価に影響するか。
  7. 税務上、時価・みなし配当・低額発行・相続評価に影響するか。
  8. IPO時に普通株式化できるか。
  9. M&A時に全株主が協力する仕組みがあるか。
  10. 後続ラウンドで新規投資家が受け入れられるか。
  11. 会社の日常経営を過度に制約しないか。
  12. 紛争になったときに、計算式と手続が明確か。

この12項目に答えられないタームシートは、見た目が整っていても実行段階で破綻する可能性があります。

Section 16

優先株式の条件設計とタームシート記載のまとめ

タームシートを資本政策の契約化として扱う視点で締めます。

優先株式の条件設計とタームシート記載は、会社法、契約法、商業登記、会計、税務、ファイナンス、IPO、M&A、ガバナンスを横断する実務です。優先株式は、投資家に優先権を与えるためだけの道具ではありません。会社の成長、投資家の保護、創業者のインセンティブ、将来資金調達、出口戦略を一つの資本政策として契約化するための設計手段です。

良いタームシートは、単に投資家に有利でも、会社に有利でもありません。将来の全当事者が「この条件なら資金調達、経営、次回ラウンド、M&A、IPOを前に進められる」と判断できる設計になっています。

そのためには、次の三つが不可欠です。

第一に、会社法上の種類株式として定款に反映すべき事項を正確に把握すること。第二に、契約上の投資家保護と会社の機動性を均衡させること。第三に、会計・税務・登記・IPO/M&Aまで見通して、タームシート段階から実行可能性を検証することです。

「優先株式の条件設計とタームシート記載」は、専門家だけの形式論ではありません。会社の将来価値、創業者の支配権、投資家のリターン、従業員インセンティブ、買収可能性、上場可能性を左右する実務の中核です。したがって、タームシートは交渉のメモではなく、企業の将来を設計する技術文書として扱うべきです。

Reference

参考資料

  • e-Gov法令検索「会社法」
  • 経済産業省「スタートアップ投資契約に関するガイドライン」
  • 日本取引所グループ「種類株等の上場制度」「社債型種類株式」関連資料
  • 企業会計基準委員会 実務対応報告第10号「種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い」
  • 日本公認会計士協会 経営研究調査会研究報告第53号「種類株式の評価事例」
  • 国税庁「取引相場のない株式の評価」関連情報