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海外資産を持っている場合の
税務調査の注意点

国外財産調書、CRS、相続・贈与、資料保存、税務調査対応まで、海外資産を説明できる状態に整えるための実務的な整理です。

5,000万円超国外財産調書の目安
100万円超国外送金等調書の目安
約275万件令和6事務年度のCRS受領情報
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海外資産を持っている場合の 税務調査の注意点

国外財産調書、CRS、相続・贈与、資料保存、税務調査対応まで、海外資産を説明できる状態に整えるための実務的な整理です。

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海外資産を持っている場合の 税務調査の注意点
国外財産調書、CRS、相続・贈与、資料保存、税務調査対応まで、海外資産を説明できる状態に整えるための実務的な整理です。
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  • 海外資産を持っている場合の 税務調査の注意点
  • 国外財産調書、CRS、相続・贈与、資料保存、税務調査対応まで、海外資産を説明できる状態に整えるための実務的な整理です。

POINT 1

  • 海外資産の税務調査 ― 要旨
  • 海外にあるから把握されないという発想を捨てる
  • 読者にとって重要なのは、細かな手続に入る前に、どの考え方を軸に判断すべきかを読み取ることです。
  • 海外金融口座や国外資産に関する情報が日本の課税当局へ届く場面が広がっています。
  • 資産、所得、資料、説明を一体として管理することが重要です。

POINT 2

  • 「海外資産」とは何か
  • 1-1. 一般的な意味での海外資産
  • 1-2. 「国外財産」と「海外資産」は同じではない
  • 典型例は次のとおりです。
  • 税務調査では、制度ごとの定義の違いが実務上の争点になります。

POINT 3

  • 海外資産の税務調査 ― 最初に確認する必要がある「居住者」該当性
  • 2-1. 日本の居住者は国外所得も原則として課税対象になる
  • 2-2. 非永住者の範囲にも注意する
  • 2-3. 住所・居所の判断は形式だけで決まらない
  • 海外資産の税務調査で最初に確認する必要がある論点は、「その人が日本の居住者かどうか」です。

POINT 4

  • なぜ海外資産は税務署に把握されるのか
  • 3-1. CRSによる金融口座情報の自動的交換
  • 3-2. 国外送金等調書
  • 3-3. 租税条約等に基づく情報交換
  • 3-4. 国外財産調書・財産債務調書

POINT 5

  • 国外財産調書の注意点
  • 4-1. 提出義務者
  • 4-2. 「借入金を差し引いて5,000万円以下」は原則として通用しない
  • 4-3. 価額は時価又は見積価額で記載する
  • 4-4. 記載漏れ・未提出の影響

POINT 6

  • 海外資産の税務調査 ― 財産債務調書との関係
  • 5-1. 財産債務調書とは
  • 5-2. 国外財産調書と財産債務調書は重なることがある
  • 5-3. 「財産価額」は債務控除後ではない
  • 財産債務調書は、一定の所得・財産規模を有する人が、財産の種類、数量、価額、債務の金額などを記載して提出する制度です。

POINT 7

  • 海外資産の税務調査 ― 税務調査の基本手続と納税者の対応
  • 1. 連絡内容を記録:税務調査か行政指導か、税目、対象期間、資料要求を記録します。
  • 2. 調査範囲を確認:事前通知、調査目的、対象年分、求められている資料を確認します。
  • 3. 資料を整理:海外口座、証券、不動産、法人、信託、保険、相続資料を分類します。
  • 4. 修正申告を急がない:争点、証拠、加算税、不服申立ての可能性を確認します。

POINT 8

  • 海外資産別の税務調査上の注意点
  • 7-1. 海外預金
  • 7-2. 外国証券・外国証券口座
  • 7-3. 海外不動産
  • 7-4. 海外法人・CFC税制

まとめ

  • 海外資産を持っている場合の 税務調査の注意点
  • 海外資産の税務調査 ― 要旨:海外にあるから把握されないという発想を捨てる
  • 「海外資産」とは何か:1-1. 一般的な意味での海外資産
  • 海外資産の税務調査 ― 最初に確認する必要がある「居住者」該当性:2-1. 日本の居住者は国外所得も原則として課税対象になる
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

海外資産の税務調査 ― 要旨

記事の主要論点を読者向けに整理し、手続、資料、注意点を確認します。

次の強調箇所は、このページ全体で特に重要な結論を示しています。読者にとって重要なのは、細かな手続に入る前に、どの考え方を軸に判断すべきかを読み取ることです。

海外にあるから把握されないという発想を捨てる

海外金融口座や国外資産に関する情報が日本の課税当局へ届く場面が広がっています。資産、所得、資料、説明を一体として管理することが重要です。

海外資産を保有している場合の税務調査では、単に「海外に口座や不動産があるか」だけでなく、次の点が総合的に確認されます。

  1. 日本の居住者として、国外所得も日本で申告が必要な立場にあるか。
  2. 海外預金、外国証券、海外不動産、海外法人、信託、保険、暗号資産、相続財産などから生じた所得を正しく申告しているか。
  3. 国外財産調書や財産債務調書を提出する必要がある人が、期限内に正確な内容で提出しているか。
  4. CRS(共通報告基準)による海外金融口座情報、国外送金等調書、租税条約等に基づく情報交換、相続税調査資料などと、本人の申告内容が整合しているか。
  5. 調査時に、取得価額、時価、為替換算、所得発生時期、外国税額、実質的所有者を裏付ける資料を提示できるか。

結論からいえば、海外資産に関する税務調査の最大の注意点は、「海外にあるから把握されない」という発想を捨て、資産・所得・資料・説明を一体として管理することです。近年は、国際的な情報交換制度により、海外金融口座や国外資産に関する情報が日本の課税当局へ届く場面が広がっています。したがって、税務調査への備えは、調査通知を受けてから始めるのでは遅い場合があります。

Section 01

「海外資産」とは何か

記事の主要論点を読者向けに整理し、手続、資料、注意点を確認します。

1-1. 一般的な意味での海外資産

このページでいう「海外資産」とは、日本国外に所在する、又は国外の制度・金融機関・取引所・法人・契約関係を通じて保有される財産をいいます。典型例は次のとおりです。

次の比較表は、この章の要点を項目ごとに整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いを比べて、自分の状況に近い点と注意したい点を読み取ることです。

区分税務調査で問題になりやすい点
海外預金外国銀行口座、外貨預金利子、残高、送金原資、名義と実質所有者
外国証券外国株式、外国ETF、外国債券、外国証券口座配当、利子、譲渡益、外国税額、取得価額
海外不動産海外居住用不動産、賃貸不動産、土地賃料、減価償却、修繕費、譲渡益、現地税
海外法人・持分外国法人株式、LLC、パートナーシップ持分実質支配、配当、CFC税制、評価額
信託・財団海外信託、ファミリートラスト、財団委託者・受益者・支配者、課税時期、相続税・贈与税
保険・年金海外生命保険、年金契約、解約返戻金所得区分、相続・贈与、評価額
暗号資産等海外取引所口座、NFT、ステーブルコイン等所得計算、取引履歴、評価、所在判定
相続・贈与財産海外口座、海外不動産、海外法人株式相続財産の把握漏れ、取得時期、相続人間の説明

ここで重要なのは、「海外資産」という言葉が、所得税・相続税・贈与税・国外財産調書制度・財産債務調書制度などで、必ずしも同じ意味で使われるわけではない点です。税務調査では、制度ごとの定義の違いが実務上の争点になります。

1-2. 「国外財産」と「海外資産」は同じではない

国外財産調書制度では、毎年12月31日時点で合計5,000万円を超える国外財産を有する一定の居住者が、翌年6月30日までに国外財産調書を提出する必要があります。ここでいう「国外財産」は、財産の所在判定に基づいて判断されます。

一方、一般的な会話でいう「海外資産」はより広い。たとえば、外国証券会社に口座がある場合、証券・預金・デリバティブ・暗号資産・未収配当などが混在することがあります。すべてを同じ扱いにしてよいわけではありません。

国税庁の国外財産調書制度FAQでは、暗号資産やNFTについて、財産の所在は原則として納税者の住所によるとされ、居住者が海外の取引所等に暗号資産やNFTを保有していても、それだけで国外財産調書の記載対象になるわけではないと整理されています。もっとも、これは国外財産調書の所在判定に関する話であり、暗号資産取引による所得の申告義務がなくなるという意味ではありません。

Section 02

海外資産の税務調査 ― 最初に確認する必要がある「居住者」該当性

記事の主要論点を読者向けに整理し、手続、資料、注意点を確認します。

2-1. 日本の居住者は国外所得も原則として課税対象になる

海外資産の税務調査で最初に確認する必要がある論点は、「その人が日本の居住者かどうか」です。

所得税法上、居住者とは、日本国内に住所を有する人、又は現在まで引き続き1年以上居所を有する人をいいます。居住者のうち非永住者以外の者は、国内源泉所得だけでなく、国外源泉所得も含め、原則として日本で課税対象となります。非居住者は、原則として国内源泉所得について日本で課税されます。

このため、日本に生活の本拠を置く人が、海外銀行口座、海外証券口座、海外不動産から利子・配当・賃料・譲渡益を得ている場合、「海外で得た所得だから日本では申告しない」という理解は危険です。

2-2. 非永住者の範囲にも注意する

非永住者とは、居住者のうち、日本国籍を有しておらず、過去10年以内に日本国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人をいいます。非永住者は、国外源泉所得のうち日本国内で支払われたもの、又は国外から日本へ送金されたものなどが課税範囲に含まれます。

非永住者の課税範囲は、一般の居住者と異なります。しかし、非永住者であるかどうか、国外源泉所得に該当するか、日本へ送金されたと評価されるかは、事実関係と法的評価が密接に関係します。海外資産を持つ外国籍の方、駐在員、帰国者、国際結婚家庭などでは、税務調査前に居住者区分を整理しておく必要があります。

2-3. 住所・居所の判断は形式だけで決まらない

居住者該当性は、住民票の有無だけで機械的に決まるものではありません。家族の居住地、職業、滞在日数、資産の所在、生活の本拠、契約関係などが総合的に考慮されることがあります。税務調査では、出入国記録、勤務実態、住宅の使用状況、家族の生活状況、銀行取引、通信記録などから、実質的な生活拠点が確認される場合があります。

Section 03

なぜ海外資産は税務署に把握されるのか

記事の主要論点を読者向けに整理し、手続、資料、注意点を確認します。

次の一覧は、手続や資料を種類別に整理したものです。読者にとって重要なのは、項目ごとに連絡先、準備資料、限界が異なる点を比べ、どの窓口に何を示すかを読み取ることです。

CRS

CRSによる情報交換

令和6事務年度、日本は101か国・地域から約275万件のCRS情報を受領しています。

約275万件101か国

国外送金等調書

100万円を超える国外送金や国外からの受領送金が把握の入口になります。

100万円超送金

相続税調査

海外資産関連事案では申告漏れ課税価格97億円、申告漏れ件数209件が公表されています。

97億円209件

3-1. CRSによる金融口座情報の自動的交換

CRSとは、Common Reporting Standardの略で、日本語では「共通報告基準」と呼ばれます。OECDが策定した、非居住者の金融口座情報を各国税務当局間で自動的に交換するための国際的な枠組みです。

CRSの下では、外国の金融機関が、口座保有者の居住地国、氏名、住所、口座残高、利子・配当等の情報を自国税務当局へ報告し、その情報が居住地国の税務当局に提供されます。国税庁は、CRS情報や法定調書情報を国外送金等調書・国外財産調書等と照合し、国外資産や国外所得の把握、調査選定、徴収共助等に活用しています。

令和6事務年度において、日本は101か国・地域から約275万件の日本居住者に係るCRS情報を受領しています。個人口座に限っても約272万件、残高約9.6兆円とされます。これは、海外口座の存在が「本人が申告しなければ分からない」時代ではなくなっていることを示しています。

3-2. 国外送金等調書

国外送金等調書とは、国外への送金又は国外から受領した送金のうち、一定額を超える取引について、金融機関が税務署へ提出する資料です。国税庁資料では、国外への送金及び国外から受領した送金の金額が100万円を超えるものについて、金融機関が送金者・受領者・取引金額・取引年月日等を記載して提出する制度として説明されています。

この制度は、海外資産そのものを直接申告する制度ではありませんが、税務署が「海外口座への資金移動」「海外口座からの資金流入」「海外不動産購入資金」「海外法人への出資」「海外からの配当・貸付金返済」などを把握する入口になり得ます。

注意が必要なのは、送金額が一定額を超えたかどうかと、所得税・相続税・贈与税の課税関係は別問題という点です。送金そのものが直ちに所得とは限りません。しかし、送金の原資、目的、相手方、契約関係を説明できなければ、税務調査で強い関心を持たれることがあります。

3-3. 租税条約等に基づく情報交換

日本は、多くの国・地域と租税条約、情報交換協定、租税に関する相互行政支援条約等を通じて、税務当局間の情報交換を行っています。情報交換には、要請に基づく情報交換、自発的情報交換、自動的情報交換などがあります。

たとえば、日本の税務署が「海外の銀行口座に配当・譲渡益があるが、申告がないのではないか」と疑う場合、租税条約等に基づいて相手国税務当局へ情報提供を求めることがあります。国税庁の公表資料でも、CRS情報で外国の証券口座を把握した後、相手国に取引明細等を要請し、配当や株式譲渡益を算定して課税した事例が紹介されています。

3-4. 国外財産調書・財産債務調書

国外財産調書や財産債務調書は、納税者本人が財産の種類・数量・価額などを記載して提出する制度です。提出された調書は、所得税や相続税の申告内容と照合されます。逆に、提出義務があるのに未提出である場合や、記載漏れがある場合、申告漏れが判明したときに加算税の加重措置が問題となります。

3-5. 相続税調査における海外資産情報

海外資産は相続税調査でも重要です。国税庁は、相続税の海外資産関連事案について、CRS情報や租税条約等に基づく情報交換を活用して海外取引・海外資産を把握しています。令和6事務年度の相続税調査では、海外資産関連事案の申告漏れ課税価格が97億円、申告漏れ件数が209件と公表されています。

相続税では、被相続人本人が亡くなっているため、相続人が海外資産の全体像を知らないことがあります。海外銀行口座、海外証券口座、海外不動産、海外法人株式、海外保険、信託受益権などは、被相続人の生前の管理資料が乏しいと、後から取得価額や残高、実質所有者を確認するのに時間がかかる。

Section 04

国外財産調書の注意点

記事の主要論点を読者向けに整理し、手続、資料、注意点を確認します。

4-1. 提出義務者

国外財産調書は、居住者(非永住者を除く)のうち、その年の12月31日において合計5,000万円を超える国外財産を有する人が提出する制度です。提出期限は、原則として翌年6月30日です。

ここでいう5,000万円は、国外財産の合計価額であり、所得金額ではありません。たとえば、海外銀行口座の残高、外国証券、海外不動産、海外法人株式などを合計した価額が5,000万円を超えるかどうかを確認する必要があります。

4-2. 「借入金を差し引いて5,000万円以下」は原則として通用しない

国外財産調書の提出義務判定では、財産の価額を確認します。海外不動産を購入するために借入金がある場合でも、財産の価額から借入金を差し引いた純額だけで判断してよいわけではありません。国税庁FAQでも、国外財産の取得等に充てた借入金の元本を国外財産の価額から控除することはできないと整理されています。

4-3. 価額は時価又は見積価額で記載する

国外財産調書に記載する国外財産の価額は、その年の12月31日における時価又は見積価額です。

「時価」とは、12月31日における不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいいます。「見積価額」とは、取得価額、売買実例、12月31日前後の取引価格、帳簿価額などを基礎として合理的に算定した価額をいいます。

海外不動産や非上場外国法人株式のように市場価格が分かりにくい資産では、後から税務調査で説明できるように、評価方法、根拠資料、為替換算、現地評価書、固定資産税評価に相当する資料、鑑定書、取得時資料などを保存しておくことが重要です。

4-4. 記載漏れ・未提出の影響

国外財産調書を期限内に提出し、かつ調書に記載された国外財産に係る所得税又は相続税の申告漏れがあった場合には、過少申告加算税又は無申告加算税が5%軽減される制度があります。一方、国外財産調書を提出していない場合、又は調書に記載対象の国外財産の記載がない場合には、申告漏れに係る加算税が5%加重されることがあります。

さらに、税務調査で国外財産に関する書類の提示又は提出を求められ、指定期限までに提示等をしない場合には、加重割合が5%から10%へ引き上げられることがあります。単に調書を出すだけでなく、調書の内容を裏付ける資料を保存しておく必要があります。

4-5. 刑事罰の可能性

国外財産調書に偽りの記載をして提出した場合、又は正当な理由なく期限内に提出しなかった場合には、罰則の対象となる可能性があります。国税庁の説明では、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金が定められている。ただし、未提出については、情状により刑が免除されることがあります。

実務上、いきなり刑事事件になるケースばかりではないが、海外資産の隠蔽、虚偽説明、資料改ざん、名義借り、架空債務などが絡むと、重加算税や刑事リスクの問題に発展しやすい。

4-6. 相続開始年の例外

相続又は遺贈により取得した国外財産については、相続開始年の国外財産調書において一定の例外があります。相続開始年の12月31日に国外財産を有する場合でも、その相続国外財産を記載しないで提出できる場面があり、その場合には提出義務判定でも相続国外財産の価額を除外できます。

もっとも、これは相続税申告で海外相続財産を記載しなくてよいという意味ではありません。相続税申告における財産把握は別途必要です。相続開始後は、国外財産調書、相続税申告、遺産分割、現地手続、為替換算、取得費資料の承継を一体として管理する必要があります。

Section 05

海外資産の税務調査 ― 財産債務調書との関係

記事の主要論点を読者向けに整理し、手続、資料、注意点を確認します。

5-1. 財産債務調書とは

財産債務調書は、一定の所得・財産規模を有する人が、財産の種類、数量、価額、債務の金額などを記載して提出する制度です。

国税庁の説明によれば、対象者には大きく次のような類型があります。

  • 確定申告義務がある人又は還付申告をすることができる人で、その年分の退職所得を除く各種所得金額の合計額が2,000万円を超え、かつ、その年の12月31日において合計3億円以上の財産又は合計1億円以上の国外転出特例対象財産を有する人。
  • その年の12月31日において、合計10億円以上の財産を有する居住者。

提出期限は、原則として翌年6月30日です。

5-2. 国外財産調書と財産債務調書は重なることがある

国外財産調書は「国外財産」に焦点を当てる制度であり、財産債務調書は一定規模以上の「財産・債務」全体を把握する制度です。海外資産を多く保有している人は、両方の提出義務が問題になることがあります。

財産債務調書についても、記載された財産債務に関して所得税の申告漏れがあった場合には加算税の軽減措置があり、未提出又は記載漏れがある場合には加算税の加重措置があります。したがって、国外財産調書だけを確認して安心するのではなく、財産債務調書の提出義務も確認する必要があります。

5-3. 「財産価額」は債務控除後ではない

財産債務調書の対象者判定でも、財産価額は債務を差し引いた純額ではなく、保有財産の総額で判定されます。借入を活用して海外不動産や外国証券を保有している場合、純資産では少なく見えても、財産総額では提出義務が生じることがあります。

Section 06

海外資産の税務調査 ― 税務調査の基本手続と納税者の対応

記事の主要論点を読者向けに整理し、手続、資料、注意点を確認します。

次の判断の流れは、複数の選択肢を順番に確認するためのものです。読者にとって重要なのは、上から順に確認し、分岐ごとに次の相談先や準備資料を読み取ることです。

税務調査連絡後の基本順序

連絡内容を記録

税務調査か行政指導か、税目、対象期間、資料要求を記録します。

調査範囲を確認

事前通知、調査目的、対象年分、求められている資料を確認します。

資料を整理

海外口座、証券、不動産、法人、信託、保険、相続資料を分類します。

修正申告を急がない

争点、証拠、加算税、不服申立ての可能性を確認します。

6-1. 税務調査と行政指導を区別する

税務署から連絡が来た場合、それが税務調査なのか、行政指導なのかを確認することが重要です。国税庁FAQでは、税務調査と行政指導は区別され、行政指導に基づいて自主的に修正申告等をした場合には、原則として過少申告加算税は課されないと説明されています。ただし、期限後申告など一定の場合には無申告加算税が問題になることがあります。

税務署職員は、納税者に対して、税務調査として行うのか行政指導として行うのかを明示することとされています。連絡を受けたら、まず「これは税務調査ですか、行政指導ですか」と確認し、日時、税目、対象期間、求められている資料を記録します。

6-2. 原則として事前通知がある

実地の税務調査では、原則として事前通知が行われます。通知事項には、調査開始日時、調査場所、調査対象税目、対象期間、調査目的などが含まれます。ただし、事前通知をすると違法又は不当な行為を容易にするおそれがある場合、正確な課税標準等の把握を困難にするおそれがある場合などには、事前通知なしに調査が行われることがあります。

海外資産案件では、資料が海外にある、外国語資料の翻訳が必要、現地金融機関から取引明細を取得するのに時間がかかる、といった事情が多いです。事前通知を受けたら、税理士・弁護士等と相談し、合理的な理由があれば日程調整を申し出ることも検討します。

6-3. 質問検査権と資料提出

税務調査では、税務署職員が質問し、帳簿書類その他の物件の提示又は提出を求めることがあります。海外資産に関しては、次のような資料が求められやすいです。

  • 海外銀行口座の残高証明書、月次明細、入出金履歴
  • 外国証券口座の年間取引報告書、売買明細、配当明細、利子明細
  • 海外不動産の売買契約書、賃貸借契約書、管理会社明細、修繕費領収書
  • 外国税額の証明書、源泉税明細、納税証明
  • 海外法人の株主名簿、決算書、配当決議、出資契約
  • 信託契約書、受益者指定書、分配明細、管理報告書
  • 相続関係資料、遺言、プロベート関連資料、遺産分割資料
  • 為替レートの算定根拠
  • 国外財産調書・財産債務調書の作成根拠資料

資料の提示・提出を正当な理由なく拒む、虚偽資料を提出する、又は資料を破棄・改ざんすることは、重大なリスクを生む。特に国外財産調書に関連する資料を指定期限までに提示等できない場合、加算税の加重割合が上がる可能性があります。

6-4. 電子的記録の提出

海外金融機関や海外証券会社では、取引明細がPDF、CSV、オンライン画面、電子メールで提供されることが多いです。国税庁FAQでは、電子的記録について、画面表示、プリントアウト、記録媒体への複写、e-Taxやオンラインストレージを用いた提出などの方法が説明されています。

実務上は、税務調査の前に、電子データを年度別・口座別・資産別に整理し、改ざんの疑いを招かないよう原本性を確保することが重要です。クラウド上の明細は、金融機関の保存期間を過ぎると取得できなくなることがあります。海外資産を持つ人は、毎年の確定申告時に取引履歴を保存しておくべきです。

6-5. 調査結果と修正申告

税務調査の結果、申告内容に問題があるとされた場合、税務署は課税標準や税額、修正が必要とされる理由などを説明します。納税者が修正申告をするかどうかは、納税者本人の判断です。修正申告に応じない場合、税務署が更正処分を行うことがあります。

ここで注意が必要なのは、修正申告をすると、原則としてその修正申告自体は税務署の処分ではないため、不服申立ての対象にならない点です。後から争う場合には、更正の請求など別の手続が問題になります。税務署から「修正申告をする必要があります」と言われたときほど、安易に署名・提出せず、争点、証拠、税額、加算税、延滞税、不服申立ての可能性を確認する必要があります。

Section 07

海外資産別の税務調査上の注意点

記事の主要論点を読者向けに整理し、手続、資料、注意点を確認します。

次の一覧は、手続や資料を種類別に整理したものです。読者にとって重要なのは、項目ごとに連絡先、準備資料、限界が異なる点を比べ、どの窓口に何を示すかを読み取ることです。

海外預金

利子、残高、送金原資、名義と実質所有者が問題になります。

利子名義

外国証券

配当、利子、譲渡益、取得費、為替差損益の整理が重要です。

取得費為替

海外不動産

賃料、減価償却、譲渡益、現地税、TTM等の為替換算が問題になります。

賃料譲渡益

海外法人

CFC税制、配当、役員報酬、実質支配、事業実体が確認されます。

CFC実体

暗号資産

海外取引所でも所得計算、取引履歴、評価、実質所有者が問題になります。

履歴評価

7-1. 海外預金

海外銀行口座で問題になりやすいのは、利子、残高、送金原資、名義と実質所有者です。

海外預金の利子は、日本の居住者にとって国外所得となり得る。現地で源泉徴収されている場合でも、日本での申告義務や外国税額控除の検討が必要になります。税務調査では、利子の発生日、金額、現地税額、円換算、口座名義、入出金の相手方が確認されます。

名義が本人ではなく配偶者、子、親、法人、信託名義になっている場合でも、実質的な所有者が誰かが問題になります。本人が資金を拠出し、本人が管理し、本人のために運用している場合、名義だけで課税関係を避けられるわけではありません。

7-2. 外国証券・外国証券口座

外国証券口座では、配当、利子、株式譲渡益、投資信託分配金、外国税額、取得費、為替差損益の整理が重要です。

日本の特定口座のように、証券会社が日本税務向けの年間取引報告書を作成してくれるとは限りません。外国証券会社の明細は、英語その他の外国語で、税制上の所得区分が日本と一致しないことがあります。そのため、税務調査では、取引明細を日本の所得税法上の区分に再分類する作業が必要になります。

特に注意したい点は、次のとおりです。

  • 取得価額が分からない株式の譲渡益計算。
  • 株式分割、スピンオフ、合併、株式交換、DRIP(配当再投資)による取得費調整。
  • 外国源泉税の控除可否。
  • 現地通貨から円への換算方法。
  • 過年度からの繰越損失と日本の申告制度の整合性。
  • 外国口座内の現金残高と証券価額の双方を国外財産調書へ記載対象になるか。

7-3. 海外不動産

日本の居住者が海外不動産を売却して譲渡益を得た場合、その譲渡益は日本でも課税対象となります。国税庁の説明では、居住者は国内外の所得について日本で課税され、海外不動産の譲渡益も国内不動産を売却した場合と同様に課税されるとされています。

海外不動産で問題になりやすいのは、次の点です。

  • 取得価額を証明する売買契約書、登記資料、送金記録。
  • 購入時・売却時の為替レート。
  • 改良費、修繕費、仲介手数料、弁護士費用、登記費用の取扱い。
  • 賃貸収入、管理費、固定資産税に相当する現地税、保険料、ローン利息。
  • 減価償却の計算。
  • 現地で課された税金と外国税額控除の可否。
  • 共同所有や家族名義の場合の持分。
  • 相続・贈与で取得した場合の取得価額の承継。

海外不動産の譲渡所得を外国通貨で計算する場合、原則として取引日におけるTTM(対顧客直物電信売相場TTSと買相場TTBの仲値)を用いるとされています。ただし、売却代金を直ちに円に換えた場合など、一定の場合にはTTB又はTTSを用いることができると説明されています。

7-4. 海外法人・CFC税制

海外法人を保有している場合、単に「法人名義だから個人の所得ではない」と考えるのは危険です。外国法人から配当を受ければ配当所得等が問題になり、株式を譲渡すれば譲渡所得が問題になります。さらに、一定の外国関係会社については、外国子会社合算税制、いわゆるCFC税制が問題になることがあります。

CFC税制は、税率の低い国・地域の外国法人を利用して所得を留保することによる課税繰延べや租税回避に対応するため、一定の場合に外国法人の所得を日本の株主側で合算して課税する制度です。個人が海外法人を保有する場合でも、持株割合、実質支配、事業実体、管理支配、受動的所得の内容などにより、検討が必要になります。

海外法人については、次の資料を保存しておくべきです。

  • 設立書類、定款、株主名簿。
  • 出資契約、払込記録。
  • 取締役会・株主総会議事録。
  • 決算書、税務申告書、現地納税証明。
  • 配当決議、送金明細。
  • 役員報酬、貸付金、債権債務の明細。
  • 現地での事業実体を示す資料。

7-5. 海外信託・ファミリートラスト

海外信託は、税務調査で特に難しい分野です。信託契約では、委託者、受託者、受益者、プロテクター、裁量権者など複数の関係者が存在し、所有権や受益権の考え方が日本法と異なることがあります。

税務上は、誰が実質的に財産を移転したのか、誰が経済的利益を受けるのか、いつ課税関係が生じるのか、相続税・贈与税・所得税のどれが問題になるのかを検討する必要があります。信託契約書の一部だけを見ても判断できない場合が多く、補足合意、レター・オブ・ウィッシュ、分配履歴、会計報告書、受託者との通信などを含めた資料収集が必要です。

7-6. 海外保険・年金

海外生命保険や年金契約では、保険料負担者、契約者、被保険者、受取人、解約返戻金、満期保険金、死亡保険金の関係が重要です。日本の保険税制と現地制度が一致しない場合も多いです。

税務調査では、誰が保険料を負担したか、誰が受益するか、解約返戻金の価値があるか、相続財産又は贈与財産に該当するか、所得として認識すべきタイミングはいつかが問題になります。

7-7. 暗号資産・NFT

暗号資産やNFTについては、海外取引所を使っていても、国外財産調書上の「国外財産」に該当しない場合があります。一方で、暗号資産の売却、交換、決済利用、マイニング、ステーキング、エアドロップ等により所得が生じる場合、日本での所得税申告が問題になります。

税務調査では、ウォレット、取引所、チェーン上の取引履歴、取得価額、移転履歴、交換時の時価、秘密鍵管理、実質所有者が確認されます。海外取引所が閉鎖されたり、古い履歴が取得できなくなったりすることもあるため、取引のたびに記録を保存することが重要です。

Section 08

相続・贈与と海外資産

記事の主要論点を読者向けに整理し、手続、資料、注意点を確認します。

8-1. 海外資産は相続税申告から漏れやすい

相続税調査では、被相続人の海外口座、外国証券、海外不動産、海外法人株式、海外保険、信託受益権などが問題になりやすい。相続人が海外資産の存在を知らない場合でも、CRS情報、国外送金等調書、過去の確定申告、海外郵便物、メール、パスポート履歴、現地代理人との通信などから、税務署が把握することがあります。

相続税申告で特に注意が必要なのは、次の点です。

  • 被相続人が日本の居住者だったか。
  • 相続人・受遺者の住所や国籍により課税範囲がどうなるか。
  • 海外財産の相続開始日時点の価額をどう評価するか。
  • 現地で課税された相続税・遺産税との調整。
  • 海外のプロベート手続に時間がかかる場合の申告期限対応。
  • 遺産分割前に誰が資料を取得できるか。
  • 名義預金、名義株式、家族信託、共同名義口座の実質所有者。

8-2. 生前贈与・名義変更にも注意する

海外口座から子や配偶者へ送金した場合、単なる生活費・教育費・貸付・預け金なのか、贈与なのかが問題になります。現地制度上は贈与税がなくても、日本の贈与税が問題になることがあります。

税務調査では、贈与契約書の有無だけでなく、資金移動の目的、返済予定、利息、管理権限、受取人の使用実態、家族間のやり取りが確認されます。形式的に「貸付」と記載していても、返済実績がなければ贈与と評価されるリスクがあります。

Section 09

海外資産の税務調査 ― 税務調査で典型的に問題となる誤解

記事の主要論点を読者向けに整理し、手続、資料、注意点を確認します。

次の一覧は、見落とすと不利益につながりやすい注意点をまとめたものです。読者にとって重要なのは、各項目がどのようなリスクを示すかを読み取り、早めに資料や相談先を整理することです。

海外で税金を払ったから日本では不要

日本の居住者として申告が必要な場合があります。

家族名義だから自分の資産ではない

資金拠出者、管理者、利益享受者が確認されます。

税務署は海外のことを調べられない

CRSや国外送金等調書により把握される場面が広がっています。

資料がないから説明できないで済む

取得価額、必要経費、外国税額、所有者を立証できないリスクがあります。

9-1. 「海外で税金を払ったから日本では申告不要」

海外で源泉税や所得税を支払っていても、日本の居住者として日本で申告が必要な場合があります。二重課税を調整する制度として外国税額控除があるが、控除を受けるには、外国税額の証明や確定申告での手続が必要です。

外国税額控除は、「外国で払った税金をそのまますべて日本の税金から差し引ける」という制度ではありません。控除限度額、対象となる外国所得税、租税条約上の制限、添付資料などを確認する必要があります。

9-2. 「口座残高があるだけで所得はないから関係ない」

口座残高自体は所得ではないが、利子、配当、売却益、為替差益、賃料などが発生していれば申告対象になり得る。また、残高があること自体が国外財産調書や財産債務調書の提出義務に関係することがあります。

9-3. 「家族名義だから自分の資産ではない」

家族名義の海外口座であっても、資金の出どころ、管理者、使用実態によっては本人の財産又は贈与財産と評価される可能性があります。特に、親が資金を出し、親が通帳・オンラインバンキング・投資判断を管理し、子が実質的に自由に使えない場合、名義だけでは判断できません。

9-4. 「海外法人に入れているから個人課税はない」

海外法人を通じて資産を保有している場合でも、配当、役員報酬、貸付金、株式譲渡、CFC税制、相続税評価などが問題になります。法人の実体が乏しく、実質的に個人の財布として使われている場合、税務調査で厳しく確認されることがあります。

9-5. 「税務署は海外のことを調べられない」

CRS、国外送金等調書、租税条約等に基づく情報交換により、海外資産や海外所得に関する情報は以前より把握されやすくなっています。金融機関の守秘義務や海外口座の存在を理由に、日本の税務調査から当然に逃れられるわけではありません。

9-6. 「資料がないから説明できない」で済む

海外資産では、資料の取得に時間がかかることがあります。しかし、説明資料がないままでは、取得価額、必要経費、外国税額、所有者、価額の合理性を立証できません。税務調査では、納税者側が有利な主張をするためにも、資料管理が不可欠です。

Section 10

海外資産の税務調査 ― 調査前に整えるべき資料一覧

記事の主要論点を読者向けに整理し、手続、資料、注意点を確認します。

海外資産を持つ人は、毎年、次のような資料を保存しておくことが重要です。

10-1. 共通資料

  • パスポート、在留資格、海外滞在記録。
  • 住民票、賃貸借契約、勤務契約、家族の居住実態資料。
  • 海外送金明細、送金目的を示す契約書・請求書。
  • 為替レートの根拠資料。
  • 外国税額を証明する資料。
  • 日本の確定申告書、国外財産調書、財産債務調書の控え。
  • 過去の税理士・専門家との相談メモ。

10-2. 海外預金

  • 年末残高証明書。
  • 月次明細又は年間取引履歴。
  • 利子明細、源泉税明細。
  • 口座開設書類、名義人・共同名義人の資料。
  • 入出金の相手方・目的を示す資料。

10-3. 外国証券

  • 年間取引報告書。
  • 売買報告書、取得時資料。
  • 配当・利子・分配金明細。
  • 外国税額控除の根拠資料。
  • 株式分割、合併、スピンオフ等の資料。
  • 年末時点の残高・評価額資料。

10-4. 海外不動産

  • 売買契約書、登記資料。
  • 取得費・譲渡費用の領収書。
  • 賃貸借契約、管理会社明細。
  • 現地税、保険料、修繕費、ローン利息資料。
  • 鑑定書、固定資産税評価に相当する資料。
  • 売却時の決済明細、送金記録。

10-5. 海外法人・信託・保険

  • 法人設立書類、株主名簿、決算書。
  • 信託契約書、受益者資料、分配明細。
  • 保険証券、保険料支払記録、解約返戻金資料。
  • 受益権・株式・契約価値の評価資料。
  • 現地専門家の意見書や説明資料。

10-6. 相続・贈与

  • 遺言書、遺産分割協議書、プロベート資料。
  • 相続開始日時点の残高証明・評価資料。
  • 贈与契約書、貸付契約書、返済履歴。
  • 被相続人の過去の確定申告書・国外財産調書。
  • 家族間の資金移動の説明資料。
Section 11

海外資産の税務調査 ― 税務調査を受けたときの対応方針

記事の主要論点を読者向けに整理し、手続、資料、注意点を確認します。

11-1. 初動で確認する事項

税務署から連絡を受けたら、次の事項を記録します。

  • 連絡日時。
  • 担当者の所属・氏名・連絡先。
  • 税務調査か行政指導か。
  • 対象税目。
  • 対象期間。
  • 調査場所。
  • 求められている資料。
  • 事前通知の内容。
  • 税理士又は弁護士への通知の有無。

不用意に「全部問題ありません」「資料はありません」「それは家族のものです」などと断定すると、後で説明が変わったときに信用性を損なうことがあります。不明な点は、「確認して回答します」と述べ、資料に基づいて回答します。

11-2. 嘘をつかない、隠さない、壊さない

税務調査で最も避けるべき行為は、虚偽説明、資料隠し、資料改ざん、事後作成書類の偽装、口裏合わせです。これらは、単なる計算誤りを、重加算税や刑事リスクのある案件に変えてしまいます。

海外資産の場合、本人が制度を誤解していた、資料が外国語で分からなかった、現地専門家の説明を誤解した、といった事情がある場合もあります。しかし、誤解と隠蔽は別です。誤りが見つかった場合には、事実関係、誤りの原因、修正内容、再発防止策を整理して説明します。

11-3. 調査官の質問の範囲を確認する

税務調査では、対象期間や対象税目が通知されます。もっとも、対象年分の申告内容を確認するために、前後の年分や関係資料の提示を求められることがあります。国税庁FAQでも、調査対象年分の申告内容を確認するために必要がある場合、他年分の帳簿書類等の提示等を求めることがあると説明されています。

したがって、「対象年ではないから一切見せない」という単純な対応は適切でない場合があります。一方で、調査範囲が不明確なまま広がる場合には、どの税目・期間・争点を確認するための資料なのかを丁寧に確認します。

11-4. 資料の留置きには同意の確認が必要

税務署職員が帳簿書類等を預かる、いわゆる留置きについては、必要性の説明と納税者の承諾が必要であり、承諾なく強制的に留め置かれるものではないと国税庁FAQで説明されています。海外資産資料には、個人情報、家族情報、企業秘密、弁護士との通信、現地法上の守秘義務に関係する資料が含まれることがあります。提出・留置きの範囲、コピーの可否、返却時期を確認します。

11-5. 修正申告を急ぎすぎない

税務署から指摘を受けると、早く終わらせたい心理が働きます。しかし、海外資産案件では、争点が複雑で、金額も大きくなりやすいです。修正申告をする前に、次の点を確認します。

  • 指摘された所得・財産は本当に本人に帰属するか。
  • 取得価額や必要経費は十分に反映されているか。
  • 外国税額控除を適用できるか。
  • 国外財産調書・財産債務調書の加算税軽減・加重がどうなるか。
  • 重加算税の対象とされていないか。
  • 争う場合の証拠と手続は何か。
  • 修正申告後に不服申立てが制限される点を理解しているか。
Section 12

海外資産の税務調査 ― 弁護士相談が重要な場面

記事の主要論点を読者向けに整理し、手続、資料、注意点を確認します。

海外資産の税務調査では、税理士が中心となって申告・税務代理を行う場面が多いです。一方で、次のような場合には、弁護士への相談が特に重要になります。

12-1. 重加算税・刑事リスクがある場合

仮装・隠蔽、虚偽資料、架空契約、名義借り、意図的な海外送金、資料破棄などを疑われている場合、単なる税額計算ではなく、法的防御の問題になります。供述内容、資料提出、関係者説明、税務署とのやり取りが、後の不服申立てや刑事事件に影響することがあります。

12-2. 実質所有者に争いがある場合

海外口座や海外法人株式が家族名義、信託名義、共同名義になっている場合、誰の財産かが争点になります。相続人間で意見が違う場合、贈与・貸付・預け金の評価が問題になる場合、民事法上の権利関係と税務上の評価を同時に検討する必要があります。

12-3. 相続・遺産分割・国際家族法が絡む場合

海外資産を含む相続では、日本の相続税だけでなく、現地の相続手続、プロベート、遺言の有効性、相続人の範囲、夫婦財産制、信託、成年後見などが関係することがあります。税務調査対応と遺産分割対応が衝突しないよう、全体設計が必要です。

12-4. 不服申立て・訴訟を検討する場合

税務署の更正処分、加算税賦課決定、財産評価、居住者認定、所得帰属、重加算税の可否などを争う場合、再調査の請求、審査請求、取消訴訟などの手続が問題になります。これらは法的主張と証拠構成が中心となるため、弁護士の関与が有益です。

12-5. 海外の専門家・金融機関との交渉が必要な場合

海外銀行、海外証券会社、現地弁護士、現地会計士、受託者、管理会社、相続代理人から資料を取り寄せる場合、現地法上の手続や守秘義務が障害になることがあります。日本の税務調査に必要な資料を、どの範囲で、どの形式で取得・翻訳・提出するかについて、専門家間の連携が必要になります。

Section 13

海外資産の税務調査 ― 税理士に相談が重要な場面

記事の主要論点を読者向けに整理し、手続、資料、注意点を確認します。

弁護士への相談が重要な場面がある一方、税務申告、税務代理、税額計算、修正申告、外国税額控除、国外財産調書・財産債務調書の作成実務では、税理士の関与が中核となることが多いです。

特に次のような場合には、国際税務に詳しい税理士へ早めに相談する必要があります。

  • 海外口座の利子・配当・譲渡益を申告していなかった。
  • 外国証券口座の取引件数が多く、自分で所得計算できません。
  • 海外不動産の賃貸収入・売却益があります。
  • 国外財産調書を提出する必要があるか分からない。
  • 財産債務調書の提出義務があるか分からない。
  • 外国税額控除の書類をどう準備する必要があるか分からない。
  • 過年度の申告漏れを自主的に修正したい。
  • 相続税申告に海外財産が含まれます。

複雑案件では、税理士と弁護士が連携し、税額計算と法的リスク管理を分担する体制が重要です。

Section 14

海外資産の税務調査 ― 事前対策としての内部整理

記事の主要論点を読者向けに整理し、手続、資料、注意点を確認します。

次の一覧は、この章で先に押さえるべき主要項目を整理したものです。読者にとって重要なのは、同じ問題でも性質が異なるため、各項目の違いを確認して自分の状況に近い論点を読み取ることです。

台帳

資産台帳

国、金融機関、名義人、実質所有者、取得日、取得価額、年末時価を記録します。

年次

年次レビュー

利子、配当、譲渡益、賃料、外国税額控除、調書提出義務を毎年確認します。

説明

説明可能性

誰の資産か、いくらの価値か、どの所得が発生したかを資料で説明できる状態にします。

海外資産を持つ個人やファミリーは、次のような内部整理を毎年行うと、税務調査リスクを大きく下げることができます。

14-1. 資産台帳を作る

資産台帳には、少なくとも次の項目を記載します。

  • 国・地域。
  • 金融機関・証券会社・管理会社名。
  • 口座番号又は資産識別情報。
  • 名義人。
  • 実質所有者。
  • 取得日。
  • 取得価額。
  • 年末時価又は見積価額。
  • 所得の種類。
  • 外国税額。
  • 日本での申告状況。
  • 国外財産調書・財産債務調書への記載状況。

14-2. 年次レビューを行う

毎年、確定申告前に次の確認を行います。

  • 海外口座の年間利子・配当・譲渡益を集計したか。
  • 外国証券の売却益・損失を日本の税制に合わせて計算したか。
  • 海外不動産の賃料・経費・減価償却を整理したか。
  • 外国税額控除の対象資料を取得したか。
  • 12月31日時点の国外財産合計額が5,000万円を超えていないか。
  • 財産債務調書の提出義務がないか。
  • 相続・贈与・名義変更・信託変更があったか。
  • 過年度に漏れが見つかった場合、修正申告を検討したか。

14-3. 説明可能性を確保する

税務調査では、申告書の数字そのものだけでなく、その数字に至る説明可能性が重要です。海外資産では、次の3点を常に意識します。

  1. 誰の資産か

名義人だけでなく、資金拠出者、管理者、利益享受者を説明できるか。

  1. いくらの価値か

年末時価、見積価額、取得価額、為替換算の根拠を説明できるか。

  1. どの所得が発生したか

利子、配当、賃料、譲渡益、為替差益、保険金、信託分配などを分類できるか。

Section 15

海外資産の税務調査 ― よくある質問

記事の主要論点を読者向けに整理し、手続、資料、注意点を確認します。

Q1. 海外口座にお金を置いているだけなら申告不要ですか。

口座残高そのものは所得ではありません。しかし、利子が発生していれば所得税の申告対象になり得ます。また、12月31日時点の国外財産の合計額が5,000万円を超える場合には、国外財産調書の提出義務が問題になります。さらに、財産規模によっては財産債務調書も確認が必要です。

Q2. 海外不動産を売った場合、日本で申告しなければなりませんか。

日本の居住者であれば、海外不動産を売却して得た譲渡益も、原則として日本で課税対象になります。現地で税金を支払った場合は、外国税額控除の検討が必要です。売買契約書、取得費資料、譲渡費用、現地税、為替レートを整理する必要があります。

Q3. 外国証券会社から日本の年間取引報告書が出ない場合、どうすればよいですか。

取引履歴、配当明細、利子明細、売買報告書、残高明細を取得し、日本の所得税法上の区分に従って集計する必要があります。取引件数が多い場合や株式分割・スピンオフ等がある場合は、国際税務に詳しい税理士へ相談するのが現実的です。

Q4. 国外財産調書を出していませんでした。どうすればよいですか。

まず、提出義務が本当にあったか、対象年分、国外財産の種類、価額、記載漏れの内容を確認します。未提出や記載漏れは、加算税の加重や罰則の問題につながる可能性があります。税務署から連絡が来る前に自主的に整理することが重要です。

Q5. 海外で源泉徴収された税金は、日本の税金から全額差し引けますか。

全額を当然に差し引けるわけではありません。外国税額控除には控除限度額、対象となる外国所得税の範囲、租税条約上の制限、必要書類があります。外国税額の証明資料を保存し、確定申告で正しく手続する必要があります。

Q6. CRSで海外口座は必ず日本に伝わりますか。

CRS参加国・地域、金融機関の分類、口座名義、居住地判定などにより異なりますが、多くの海外金融口座情報は税務当局間で自動交換されます。少なくとも、「海外口座だから日本の税務署に分からない」と考えるのは適切ではありません。

Q7. 税務調査で英語資料をそのまま出してよいですか。

資料提出自体は可能な場合がありますが、調査官が内容を正確に理解できるよう、日本語の説明、要約、翻訳、勘定科目別集計表を添えることが重要です。特に重要な契約書、信託契約、保険証券、現地税務資料は、専門家による確認が必要です。

Q8. 弁護士と税理士はどのように相談先を分けますか。

税額計算、申告、修正申告、外国税額控除、国外財産調書の作成は税理士が中心となることが多いです。一方、重加算税、刑事リスク、相続人間の紛争、実質所有者の争い、不服申立て、訴訟、法的責任の整理がある場合は弁護士への相談が重要です。複雑案件では両者の連携が重要です。

Section 16

チェックリスト ― 海外資産を持っている場合の税務調査の注意点

記事の主要論点を読者向けに整理し、手続、資料、注意点を確認します。

次のチェックリストは、税務調査前の自己点検に使うことができます。

A. 居住者・課税範囲

  • 日本の居住者、非永住者、非居住者の区分を確認した。
  • 家族の居住地、勤務実態、海外滞在日数を整理した。
  • 国外所得の日本での申告要否を確認した。

B. 所得申告

  • 海外預金の利子を集計した。
  • 外国証券の配当・利子・譲渡益を集計した。
  • 海外不動産の賃料・経費・譲渡益を集計した。
  • 外国税額控除の資料を保存した。
  • 暗号資産・NFT等の取引履歴を保存した。

C. 調書提出

  • 12月31日時点の国外財産合計額を確認した。
  • 国外財産調書の提出義務を確認した。
  • 財産債務調書の提出義務を確認した。
  • 調書記載額の根拠資料を保存した。
  • 借入金控除後の純額だけで判定していない。

D. 資料管理

  • 海外銀行・証券会社の年間明細を保存した。
  • 不動産契約書、管理明細、現地税資料を保存した。
  • 海外法人・信託・保険の契約資料を保存した。
  • 重要資料の日本語説明又は翻訳を準備した。
  • 為替換算の根拠を記録した。

E. 調査対応

  • 税務調査か行政指導かを確認した。
  • 対象税目・対象期間・調査目的を記録した。
  • 不明点を即答せず、資料確認後に回答する体制を作った。
  • 修正申告前に争点と証拠を確認した。
  • 必要に応じて税理士・弁護士へ相談した。
Section 17

海外資産の税務調査 ― まとめ

記事の主要論点を読者向けに整理し、手続、資料、注意点を確認します。

海外資産を持っている場合の税務調査の注意点は、単に「申告漏れを指摘されないようにする」という狭い問題ではありません。居住者該当性、所得の帰属、財産評価、為替換算、外国税額控除、国外財産調書、財産債務調書、CRS情報、相続・贈与、海外法人・信託、資料保存、調査手続、不服申立てまでを一体として管理する必要があります。

実務上、最も重要なのは、次の三つです。

第一に、海外資産を一覧化し、誰の資産か、いくらの価値か、どの所得が発生したかを説明できる状態にしておくこと。第二に、国外財産調書・財産債務調書の提出義務を毎年確認し、提出する場合には根拠資料まで保存すること。第三に、税務署から連絡が来た場合には、税務調査か行政指導かを確認し、修正申告や資料提出について専門家と慎重に検討することです。

海外資産は、国境を越えるために複雑に見える。しかし、税務調査で問われる核心は一貫しています。すなわち、「事実を正しく把握し、法令に従って申告し、必要な資料で説明できるか」です。海外資産を保有している人は、調査が来てから慌てるのではなく、平時から証拠と説明を整えることが、最も有効なリスク管理となります。

Reference

この記事の参考情報源

国税庁・財務省・法令

  • 国税庁「No.2010 納税義務者となる個人」
  • 国税庁「No.7456 国外財産調書の提出義務」
  • 国税庁「No.7457 財産債務調書の提出義務」
  • 国税庁「国外財産調書制度に関するFAQ」
  • 国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」
  • 国税庁「租税条約等に基づく情報交換事績の概要」
  • 国税庁「相続税の調査等の状況」
  • 国税庁「No.1240 居住者に係る外国税額控除」
  • 国税庁「No.3560 居住者が海外の不動産を売却した場合の課税関係等」
  • 財務省「租税条約」
  • e-Gov法令検索「国税通則法」
  • e-Gov法令検索「国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」