2σ Guide

遺言書で特定の
相続人を廃除できるか

遺言書で廃除の意思を示すことはできます。ただし、遺言書だけで相続権が当然に消えるのではなく、遺言執行者による家庭裁判所への請求と審判が必要です。

892条 廃除事由
893条 遺言による請求
10日 審判確定後の届出目安
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遺言書で特定の 相続人を廃除できるか

遺言書で廃除の意思を示すことはできます。

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遺言書で特定の 相続人を廃除できるか
遺言書で廃除の意思を示すことはできます。
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  • 遺言書で特定の 相続人を廃除できるか
  • 遺言書で廃除の意思を示すことはできます。

POINT 1

  • 要旨
  • 要点を整理し、後続の章で確認する論点を示します。
  • 最初に押さえる結論
  • 家庭裁判所
  • 税務と登記

POINT 2

  • 1. 問題の所在
  • 制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。
  • そこで検索されるのが、「遺言書で特定の相続人を廃除することはできるか」というテーマです。
  • 一般用語としての「相続から外す」と、民法上の「廃除」は同じではありません。
  • 遺言で「長男には一切相続させない」と書けば、遺言による財産配分としては一定の意味を持ちます。

POINT 3

  • 2. 用語の定義
  • 制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。
  • 2.1 被相続人
  • 2.2 相続人と推定相続人
  • 2.3 遺留分

POINT 4

  • 3. 法的な結論
  • 制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。
  • 3.1 遺言書に廃除の意思を書くことはできる
  • 3.2 遺言書だけで相続権を失わせることはできない
  • 3.3 家庭裁判所が認めた場合、効力は死亡時にさかのぼる

POINT 5

  • 4. 廃除できる相続人とできない相続人
  • 制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。
  • 4.1 廃除対象は「遺留分を有する推定相続人」
  • 4.2 兄弟姉妹を相続から外すには廃除ではなく遺言が中心
  • 4.3 廃除は特定の被相続人との関係で効力を持つ

POINT 6

  • 5. 廃除事由
  • 制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。
  • 5.1 虐待
  • 5.2 重大な侮辱
  • 5.3 その他の著しい非行

POINT 7

  • 6. 家庭裁判所の判断枠組み
  • 制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。
  • 6.1 条文該当性だけでは足りない
  • 6.2 相続的協同関係という観点
  • 6.3 遺言による廃除は証拠が特に重要

POINT 8

  • 7. 遺言書にどう書くべきか
  • 制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。
  • 7.1 廃除意思を明確にする
  • 7.2 廃除理由書を作る
  • 7.3 感情ではなく事実を書く

まとめ

  • 遺言書で特定の 相続人を廃除できるか
  • 要旨:要点を整理し、後続の章で確認する論点を示します。
  • 1. 問題の所在:制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。
  • 2. 用語の定義:制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

要旨

要点を整理し、後続の章で確認する論点を示します。

「遺言書で特定の相続人を廃除することはできるか」という問いに対する結論は、厳密には「遺言書で廃除の意思を表示することはできるが、その記載だけで自動的に相続人から外れるわけではない」です。日本の民法は、被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示した場合、遺言執行者が遺言の効力発生後、遅滞なく家庭裁判所に廃除を請求しなければならないと定めています。したがって、遺言による廃除は、遺言書の作成、遺言執行者の関与、家庭裁判所の審理、審判の確定という複合的な手続です。

次の重要ポイントは、このページで最初に押さえるべき判断軸を表しています。早い段階で制度や手続の位置づけを確認することが重要で、後続の章ではこの三つの観点に沿って詳細を読み進めます。

最初に押さえる結論

民法893条は、遺言で廃除意思が表示された場合、遺言執行者が遅滞なく家庭裁判所へ請求する構造を定めています。家庭裁判所が認めた場合、効力は死亡時にさかのぼります。

次の一覧は、本文全体を読むための主要な観点を三つに整理したものです。読者にとって重要なのは、どの論点が方式、手続、実務上の実現可能性に関わるかを分けることです。各項目から、以後の章で確認すべきポイントを読み取ってください。

Stage 01

遺言書

廃除の意思表示を明確にし、理由書や証拠の所在、遺言執行者、予備的配分を整えます。

Stage 02

家庭裁判所

虐待、重大な侮辱、著しい非行と廃除相当性が審理されます。

Stage 03

税務と登記

審判の進行とは別に、相続税の10か月期限や相続登記の3年期限を管理します。

廃除が認められる対象は、すべての相続人ではありません。民法892条は「遺留分を有する推定相続人」を対象にしています。典型的には、配偶者、子、子の代襲者、直系尊属です。兄弟姉妹には遺留分がないため、兄弟姉妹を相続から外したい場合には、通常、廃除ではなく、遺言で財産を他の人に承継させる設計を検討します。

廃除が認められるためには、対象者が被相続人に対して虐待をしたこと、重大な侮辱を加えたこと、またはその他の著しい非行があったことが必要です。単なる不仲、疎遠、価値観の違い、親の意に沿わない結婚、軽微な口論、通常の親子間の対立だけでは足りない場合が多く、家庭裁判所は、事実の重大性、経緯、被相続人側の事情、対象者の改心や関係修復の有無などを総合して判断します。最高裁判所も、家庭裁判所が諸般の事情を総合考察して廃除相当性を判断する制度であることを示しています。

このページでは、「遺言書で特定の相続人を廃除することはできるか」について、民法の条文、家庭裁判所手続、証拠収集、遺言書作成実務、相続税、不動産登記、専門職の役割、典型的な誤解まで、一般の方にも理解できるように定義から順に解説します。

Section 01

1. 問題の所在

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

相続の現場では、「長年暴力を受けてきた子には遺産を渡したくない」「財産を勝手に使い込んだ相続人に遺留分を請求されたくない」「介護を拒み、暴言だけを続けた相続人を相続から外したい」という相談が少なくありません。そこで検索されるのが、「遺言書で特定の相続人を廃除することはできるか」というテーマです。

しかし、この問題では、次の三つを区別しなければなりません。

  1. 遺言で特定の相続人に財産を渡さないように配分すること
  2. 遺留分侵害額請求を受ける可能性を残したまま、遺言で財産承継先を指定すること
  3. 民法上の「推定相続人の廃除」により、相続権および遺留分権を失わせること

一般用語としての「相続から外す」と、民法上の「廃除」は同じではありません。遺言で「長男には一切相続させない」と書けば、遺言による財産配分としては一定の意味を持ちます。しかし、長男が遺留分権利者であれば、廃除が認められない限り、遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。これに対して、民法上の廃除が認められれば、その相続人は当該被相続人との関係で相続権を失い、遺留分を主張することもできなくなります。

したがって、「遺言書で特定の相続人を廃除することはできるか」を正確に言い換えると、「遺言書で推定相続人を廃除する意思を表示し、死後に遺言執行者が家庭裁判所へ請求することによって、家庭裁判所が廃除を認める制度を利用できるか」という問いになります。

Section 02

2. 用語の定義

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

2.1 被相続人

被相続人とは、亡くなって財産や権利義務を相続の対象として残す人です。遺言書を作成する段階では、まだ死亡していないため「遺言者」と呼ぶことが多いですが、相続開始後の文脈では「被相続人」と呼びます。

2.2 相続人と推定相続人

相続人とは、被相続人の死亡により相続権を取得する人です。これに対して、推定相続人とは、まだ相続が開始していない時点で、もし今その人が死亡すれば相続人になるべき立場にある人をいいます。

廃除制度は、原則として相続開始前の段階では「推定相続人」を相手にします。遺言による廃除では、遺言者の死亡後に遺言執行者が請求しますが、制度上の対象は、遺言者の生前に「推定相続人」であった者です。

2.3 遺留分

遺留分とは、兄弟姉妹以外の一定の相続人に保障される最低限の取り分です。遺言によって全財産を第三者に遺贈したとしても、遺留分権利者は一定の場合に遺留分侵害額請求を行うことができます。民法1042条は、兄弟姉妹以外の相続人に遺留分を認めています。

2.4 廃除

廃除とは、遺留分を有する推定相続人に、被相続人に対する虐待、重大な侮辱、その他の著しい非行がある場合に、家庭裁判所の判断によって、その推定相続人の相続権を失わせる制度です。

日常語の「排除」ではなく、民法上の制度名は「廃除」です。検索や申立書では、この漢字の違いも重要です。

2.5 遺言執行者

遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な事務を行う者です。遺言による廃除では、遺言執行者が家庭裁判所に廃除を請求することが民法893条で予定されています。遺言書で遺言執行者を指定していない場合や、指定された遺言執行者が就任できない場合には、利害関係人が家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てることがあります。裁判所は、遺言執行者の選任手続について、遺言執行者が遺言内容を実現する者であること、遺言で指定がない場合などに家庭裁判所へ申立てができることを案内しています。

2.6 家庭裁判所

家庭裁判所は、家事事件、少年事件などを扱う裁判所です。推定相続人の廃除は、家庭裁判所の審判手続で扱われます。遺言書に「廃除する」と書かれていても、家庭裁判所が廃除事由の有無と廃除相当性を審査します。

Section 04

4. 廃除できる相続人とできない相続人

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

4.1 廃除対象は「遺留分を有する推定相続人」

民法892条は、廃除対象を「遺留分を有する推定相続人」としています。したがって、廃除の対象となるのは、典型的には次の人です。

立場廃除対象になる可能性理由
配偶者あり遺留分を有する相続人であるため
あり遺留分を有する相続人であるため
孫など子の代襲者あり子を代襲して相続人となる場合があるため
父母、祖父母など直系尊属あり子がいない場合などに遺留分を有するため
兄弟姉妹原則なし兄弟姉妹には遺留分がないため
甥、姪原則なし兄弟姉妹の代襲者であっても遺留分がないため

4.2 兄弟姉妹を相続から外すには廃除ではなく遺言が中心

兄弟姉妹には遺留分がありません。そのため、例えば独身で子も親もいない人が、自分の兄弟姉妹に財産を渡したくない場合、通常は兄弟姉妹を廃除する必要はありません。全財産を特定の第三者、配偶者の親族、公益法人、世話になった人などに遺贈する遺言を作成すれば、兄弟姉妹から遺留分侵害額請求を受けることは原則としてありません。

もっとも、遺言の方式不備、遺言能力、詐欺、強迫、錯誤、遺言の解釈などをめぐって争われる可能性はあります。そのため、兄弟姉妹を相続から外す場面でも、公正証書遺言、遺言執行者の指定、財産目録の整備、予備的遺言条項の設計が重要になります。

4.3 廃除は特定の被相続人との関係で効力を持つ

廃除の効果は、その廃除をした被相続人との相続関係において生じます。ある親との関係で子が廃除されたとしても、別の親、祖父母、兄弟姉妹など別の被相続人について当然に相続権を失うわけではありません。

この点を誤解すると、「一度廃除された人は家族全体の相続から永久に外れる」という誤った理解につながります。廃除は重い制度ですが、あくまで個別の被相続人との関係で機能します。

Section 05

5. 廃除事由

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

民法892条は、廃除事由を三つに分けています。すなわち、虐待、重大な侮辱、その他の著しい非行です。

5.1 虐待

虐待とは、被相続人の身体、精神、生活の安全を著しく害する行為をいいます。典型例としては、暴力、暴言、脅迫、介護放棄、生活上の支配、監禁的な行為、医療や介護へのアクセス妨害などが問題になります。

ただし、廃除が認められるかは、単に「きつい言葉があった」「家族間で揉めた」という水準ではなく、被相続人の人格や生活を重大に侵害したといえるか、継続性や悪質性があるか、証拠で裏付けられるかが重要です。

5.2 重大な侮辱

重大な侮辱とは、被相続人の名誉、尊厳、人格を深く傷つける行為です。公開の場での激しい侮辱、長期にわたる人格否定、親族や近隣への虚偽の吹聴、葬儀や介護場面での極端な侮辱的言動などが問題となり得ます。

ただし、家庭裁判所は文脈を見ます。高齢の親と子の間で互いに感情的な発言があった場合、相手方だけを一方的に廃除するほど重大かは慎重に判断されます。被相続人側にも原因があったか、関係修復の機会があったか、後に許した事情があるかも見られます。

5.3 その他の著しい非行

その他の著しい非行とは、虐待や重大な侮辱に限定されないが、相続権を失わせるほど重大な非行をいいます。考えられる例としては、次のようなものがあります。

  • 被相続人の財産を継続的に無断で引き出した
  • 被相続人を脅して贈与や借入れをさせた
  • 介護費や生活費を横領した
  • 被相続人への暴力や脅迫で刑事事件化した
  • 被相続人を長期間にわたり悪意で扶養しなかった
  • 被相続人の生活基盤を破壊する行為をした
  • 被相続人の遺言作成を妨害した
  • 被相続人に対する重大な犯罪行為をした

ただし、「借金がある」「親の希望する職業に就かなかった」「連絡を取らなかった」「家業を継がなかった」「宗教や政治的意見が違う」「親の望まない相手と結婚した」といった事情だけでは、直ちに著しい非行とはいえません。家庭裁判所は、相続権を剥奪するほどの重大性を慎重に判断します。

Section 06

6. 家庭裁判所の判断枠組み

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

6.1 条文該当性だけでは足りない

廃除の審理では、民法892条の文言に形式的に当たる事情があるかだけでなく、廃除を認めることが相当かが検討されます。最高裁判所は、家庭裁判所が被相続人側の宥恕、相続人側の改心など諸般の事情を総合的に考察して、廃除することが相当かどうかを判断する制度であることを示しています。

ここでいう「宥恕」とは、簡単にいえば許すことです。過去に重大な非行があっても、被相続人が明確に許していた、関係が修復されていた、遺言後に同居や介護が再開していたなどの事情があると、廃除相当性に影響することがあります。

6.2 相続的協同関係という観点

裁判例や実務上の解説では、廃除制度を、相続的協同関係を著しく破壊した者に相続権を保障するのは相当でないという観点から説明することがあります。ここで重要なのは、親子関係や夫婦関係が単に悪化しただけではなく、相続権や遺留分を保護する前提となる関係が、対象者の重大な非行によって破壊されたといえるかです。

6.3 遺言による廃除は証拠が特に重要

生前廃除では、被相続人本人が家庭裁判所で事情を説明できます。これに対して、遺言による廃除では、遺言者はすでに亡くなっています。そのため、遺言執行者は、遺言書の記載、理由書、日記、録音、診断書、警察や自治体への相談記録、介護記録、通帳、LINEやメール、写真、第三者の陳述書など、客観的資料で廃除事由を立証する必要があります。

「遺言書に強い言葉で書いてあるから認められる」というものではありません。むしろ、遺言書の中で感情的な表現ばかりが目立ち、具体的な日時、場所、行為、損害、証拠が乏しい場合には、家庭裁判所の判断に耐えにくくなります。

Section 07

7. 遺言書にどう書くべきか

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

7.1 廃除意思を明確にする

遺言書には、単に「相続させない」と書くだけではなく、民法892条に基づき推定相続人を廃除する意思を明確に記載することが望ましいです。

例として、次のような骨格が考えられます。

第X条(推定相続人の廃除)
遺言者は、遺言者の長男である甲野太郎(昭和○年○月○日生)について、民法第892条に基づき、推定相続人から廃除する意思を表示する。
廃除を求める理由は、別紙「廃除理由書」記載のとおりである。

ただし、これは一般的な骨格例であり、そのまま使えば有効になるという意味ではありません。遺言の方式、財産内容、相続人関係、証拠、予備的な財産配分、遺言執行者の指定を含めて、個別に設計する必要があります。

7.2 廃除理由書を作る

遺言本文に長大な事実経過をすべて書くと、かえって読みづらくなり、形式面のミスも生じやすくなります。そこで、遺言本文では廃除意思を明確にし、別紙または関連資料として廃除理由書を整備する方法が考えられます。

廃除理由書には、次のような項目を時系列で記載します。

項目記載すべき内容
日時いつ起きたか。年月日、時間帯、期間
場所自宅、病院、施設、銀行、親族宅など
行為者誰が、誰に対して行ったか
行為内容暴力、暴言、脅迫、無断引出し、介護放棄など
被害けが、診断、精神的苦痛、財産被害、生活困難など
証拠診断書、写真、通帳、録音、メール、相談記録など
その後の経緯謝罪、弁償、再発、関係修復、許した事情の有無

7.3 感情ではなく事実を書く

廃除を求める遺言書では、感情的な形容詞よりも事実が重要です。

望ましくない例は次のようなものです。

長男は人間として最低であり、親不孝者なので一切相続させない。

望ましい方向性は次のようなものです。

長男は、令和○年○月○日、遺言者の自宅において、遺言者の胸部を強く押して転倒させ、遺言者は○○病院で胸椎圧迫骨折との診断を受けた。その後も長男は謝罪せず、令和○年○月から令和○年○月まで、遺言者名義の普通預金口座から合計○○万円を無断で引き出した。

家庭裁判所に伝えるべきなのは、怒りの大きさではなく、法的に評価可能な事実です。

7.4 遺言執行者を必ず指定する

遺言による廃除では、遺言執行者の役割が決定的です。遺言執行者がいなければ、関係者が家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てる必要が生じ、時間がかかります。裁判所は、遺言執行者の指定がない場合や指定された者がなくなった場合、利害関係人の申立てにより家庭裁判所が遺言執行者を選任できると案内しています。

遺言による廃除を本気で考える場合、弁護士など、相続紛争と家庭裁判所手続に対応できる専門職を遺言執行者に指定することを検討すべきです。家族を遺言執行者にすると、対象者との対立が激化し、証拠収集や申立書作成で負担が大きくなることがあります。

7.5 予備的な財産配分を書く

家庭裁判所が廃除を認めるとは限りません。そのため、遺言書には、廃除が認められた場合の配分だけでなく、廃除が認められなかった場合でも遺言として機能する予備的な財産配分を設計する必要があります。

例えば、廃除が認められない場合にも、対象者には法定相続分ではなく最小限の財産だけを承継させ、その他の財産を他の相続人や第三者へ承継させる条項を検討します。ただし、その場合は遺留分侵害額請求のリスクを見込む必要があります。

Section 08

8. 遺言の種類と実務上の選択

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

8.1 自筆証書遺言

自筆証書遺言は、原則として遺言者が全文、日付、氏名を自書し、押印して作成する遺言です。財産目録については一定の方式により自書でない資料を添付できる制度があります。自筆証書遺言は費用を抑えやすい一方、方式不備、紛失、偽造、改ざん、遺言能力争いのリスクがあります。

廃除を含む遺言では、方式不備で遺言全体が無効になると、廃除意思も実現できません。そのため、自筆証書遺言を使う場合でも、弁護士や司法書士、公証人経験者などの確認を受けることが望ましいです。

8.2 自筆証書遺言書保管制度

法務局の自筆証書遺言書保管制度を使うと、遺言書保管官による外形的な形式チェックを受け、原本と画像データが保管され、相続開始後の家庭裁判所での検認が不要になります。法務省は、この制度について、形式に適合するかの外形的チェックを受けられること、保管により紛失や改ざんを防げること、ただし遺言内容の相談には応じられず、有効性を保証するものではないことを明記しています。

したがって、法務局で保管したからといって、廃除が認められるわけではありません。保管制度は、遺言書の保管と形式面の安全性を高める制度であり、廃除事由の実体判断をする制度ではありません。

8.3 公正証書遺言

公正証書遺言は、公証人が関与して作成される遺言です。公証人が方式面を確認し、原本が公証役場に保管されるため、方式不備や紛失のリスクを下げやすい方式です。また、裁判所の遺言書検認案内でも、公正証書遺言は検認が不要とされています。

廃除を含む遺言では、公正証書遺言が有力な選択肢です。ただし、公証人が遺言を作成したからといって、廃除事由が家庭裁判所で当然に認められるわけではありません。公証人は遺言書の作成に関与しますが、廃除の成否を最終判断するのは家庭裁判所です。

8.4 秘密証書遺言

秘密証書遺言は、遺言内容を秘密にしたまま、遺言書の存在を公証手続で明らかにする方式です。現在の実務では利用頻度は比較的高くありません。廃除を含む複雑な相続対策では、内容の法的妥当性や証拠整理が重要になるため、秘密性だけを優先するのは慎重であるべきです。

Section 09

9. 死後の手続の流れ

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

遺言による廃除の基本的な流れは次のとおりです。

段階手続主な担当者
1遺言者の死亡親族、医師、市区町村
2遺言書の確認相続人、遺言執行者、銀行、法務局、公証役場
3必要に応じて検認家庭裁判所、相続人
4遺言執行者の就任遺言執行者
5廃除申立ての準備遺言執行者、弁護士、司法書士
6家庭裁判所へ廃除請求遺言執行者
7家庭裁判所の審理裁判官、裁判所書記官、家庭裁判所調査官など
8審判、確定家庭裁判所、当事者
9推定相続人廃除届申立人、市区町村
10遺産承継、税務、登記遺言執行者、税理士、司法書士、金融機関など

9.1 遺言書の検認

自宅などで保管されていた自筆証書遺言や秘密証書遺言については、原則として家庭裁判所の検認が必要です。裁判所は、遺言書の保管者または発見した相続人が、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく家庭裁判所に提出して検認を請求しなければならないと案内しています。検認は、遺言の存在と内容を相続人に知らせ、偽造や変造を防止するための手続であり、遺言の有効、無効を判断する手続ではありません。

公正証書遺言や、法務局で保管された自筆証書遺言に関する遺言書情報証明書は、検認が不要です。

9.2 廃除申立ての管轄と必要書類

家庭裁判所の手続では、相続開始前の生前廃除と、相続開始後の遺言による廃除で、管轄や必要書類が異なります。一般に、遺言による廃除では、遺言者死亡後に遺言執行者が相続開始地を管轄する家庭裁判所へ申立てを行います。必要書類としては、申立書、遺言者の死亡が分かる戸籍、対象者の戸籍、遺言書写しまたは検認調書謄本、遺言執行者選任審判書謄本などが問題になります。具体的な提出書類や郵券は各家庭裁判所で確認が必要です。

9.3 審判確定後の戸籍届

廃除の審判が確定した場合、戸籍上の届出が必要になります。大阪市の案内では、推定相続人廃除届は、被相続人または遺言執行者が家庭裁判所の審判によって推定相続人を相続から廃除する場合に行う届出であり、届出人は審判の申立人、届出期日は審判確定の日から10日以内、必要書類は推定相続人廃除届書、家庭裁判所の審判書謄本および確定証明書とされています。

自治体ごとに窓口案内や様式が異なることがあるため、実際には届出先の市区町村で確認します。

Section 10

10. 証拠の作り方と保全

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

10.1 証拠の基本思想

遺言による廃除では、遺言者が死亡しているため、証拠の事前準備が成否を大きく左右します。証拠は、次の三つを満たすほど強くなります。

  1. 具体性があること
  2. 客観性があること
  3. 時系列で一貫していること

単に「ひどい子だった」と書くよりも、「いつ、どこで、誰が、何をし、どの証拠があるか」を残すことが重要です。

10.2 有力になり得る資料

次の比較一覧は、この章の項目を表しています。読者にとって重要な違いを列ごとに整理し、どの条件や注意点を確認すべきか読み取れるようにしています。

類型具体例注意点
医療資料診断書、カルテ、入院記録、写真けがと相手方行為の関係を説明する必要がある
公的相談記録警察相談、自治体の高齢者虐待相談、DV相談相談日時と内容を確認する
財産資料通帳、取引明細、委任状、領収書、振込記録無断引出しと贈与、生活費支出を区別する
通信記録LINE、メール、SMS、手紙改ざん疑義を避けるため原本性を保つ
音声、動画暴言、脅迫、面談状況の録音違法収集やプライバシー侵害に注意する
介護記録ケアマネ記録、施設記録、訪問介護記録専門職の客観記録として有用な場合がある
第三者証言親族、近隣、医師、介護職、友人の陳述書利害関係の有無が評価される
法的資料保護命令、刑事記録、民事判決、調停調書内容と確定状況を確認する

10.3 日記とメモの価値

日記やメモは、それだけで決定的証拠になるとは限りませんが、継続的に作成され、他の資料と整合していれば、重要な補助資料になります。後日まとめて作成したものよりも、出来事の直後に記録されたものの方が信用性を評価されやすくなります。

記録には、日付、場所、相手の発言、行為、被害、目撃者、関連資料の所在を記載します。感情を書くこと自体は否定されませんが、法的評価に必要なのは事実です。

10.4 違法な証拠収集を避ける

証拠を集めたいからといって、相手方のスマートフォンに無断でアクセスする、メールアカウントを盗み見る、盗聴器を仕掛ける、医療記録を不正取得するなどの行為は避けるべきです。違法性のある収集方法は、別の紛争や刑事問題を招くことがあります。

証拠化が必要な場合には、弁護士に相談し、合法的で信用性のある方法を検討します。事実実験公正証書、陳述書、内容証明郵便、録音の保全、電子データの原本保存などを適切に組み合わせることがあります。

Section 11

11. 廃除が認められた場合の効果

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

11.1 相続権を失う

廃除が認められると、対象者は当該被相続人の相続について相続権を失います。遺言による廃除の場合、その効力は被相続人の死亡時にさかのぼります。

11.2 遺留分も主張できない

廃除の実務上の最大の意味は、対象者が遺留分を主張できなくなる点にあります。単に遺言で「相続させない」と書いただけの場合、遺留分権利者から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。これに対し、廃除が認められれば、対象者は遺留分権利者としての地位を失います。

11.3 代襲相続に注意する

廃除された者が被相続人の子で、その者に子、つまり被相続人から見た孫がいる場合、代襲相続が問題になります。民法887条は、子が相続開始以前に死亡した場合のほか、相続欠格や廃除により相続権を失った場合にも、その子が代襲して相続人となる制度を定めています。

このため、長男を廃除しても、長男の子が代襲相続人となることがあります。孫にも財産を渡したくないという場合、単に長男を廃除するだけでは足りません。ただし、孫を廃除するには、孫自身について廃除事由が必要です。親の非行を理由に子を当然に廃除することはできません。

11.4 受遺能力との関係

廃除された者に対し、被相続人があえて遺贈をすることができるかという論点があります。民法965条は、胎児の相続能力と相続欠格に関する規定を受遺者に準用していますが、廃除に関する民法892条を受遺者に準用するとは定めていません。

したがって、廃除は相続人としての地位を失わせる制度であり、受遺者としての地位とは区別されます。もっとも、実務上「廃除した者に遺贈する」という設計は特殊であり、遺言意思の整合性や税務、紛争予防の観点から専門的検討が必要です。

11.5 生命保険金、死亡退職金、信託財産への影響

廃除は相続権に関する制度です。生命保険金や死亡退職金、信託受益権などは、契約や規程、信託行為の内容によって権利帰属が決まることがあります。生命保険金は、受取人固有の権利と扱われる場面が多く、相続財産そのものとは区別されることがあります。

そのため、特定の相続人を廃除したい場合でも、生命保険の受取人がその者のままになっていれば、廃除とは別の問題として保険金請求が生じ得ます。遺言だけでなく、保険契約、退職金規程、信託契約、銀行口座、証券口座、不動産名義を総点検する必要があります。

Section 12

12. 廃除が認められなかった場合のリスク

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

12.1 対象者は相続人として残る

家庭裁判所が廃除を認めなければ、対象者は相続人として残ります。遺言の財産配分により取得分をゼロにしていても、対象者が遺留分権利者であれば、遺留分侵害額請求をしてくる可能性があります。

12.2 遺言無効確認や遺留分紛争が起こりやすい

廃除の対象者は、強い不利益を受ける立場です。そのため、廃除申立てだけでなく、遺言能力、方式不備、偽造、錯誤、詐欺、強迫、不当な誘導などを主張して遺言の有効性自体を争うことがあります。

特に高齢者の遺言では、認知症、服薬、入院、介護施設入所、判断能力の波、周囲の相続人の関与が争点になりやすいです。廃除を含む遺言では、遺言能力の資料、医師の診断、作成時の録音、弁護士や公証人との面談記録が重要になります。

12.3 税務、登記、金融機関手続が遅れる

廃除の審判が確定しないと、相続人確定に時間がかかります。相続税の申告が必要な場合、国税庁は相続税申告を、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内に行うこととして案内しています。 廃除手続が長引いても、相続税の期限が当然に延長されるわけではありません。

不動産についても、相続登記の義務化により、相続により不動産を取得したことを知った日から一定期間内の登記申請が問題になります。廃除の成否が登記名義や法定相続人の範囲に影響するため、司法書士と連携し、暫定対応や期限管理を検討します。

Section 13

13. 生前廃除との比較

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

遺言による廃除と、生前に本人が家庭裁判所へ請求する廃除は、同じ廃除制度ですが、実務上の性格がかなり異なります。

項目生前廃除遺言による廃除
請求者被相続人本人遺言執行者
時期被相続人生存中被相続人死亡後
本人の説明可能不可能
証拠の重要性高いさらに高い
親族関係への影響生前に対立が顕在化死後に対立が顕在化
取消し被相続人が請求可能遺言による取消しも問題になり得る

生前廃除は、本人が直接事情を説明できる利点がありますが、生前に親族対立が激化します。遺言による廃除は、生前の対立を避けられる一方、死後に本人が説明できないため、証拠不足になりやすいという弱点があります。

Section 14

14. 廃除の取消し

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

民法894条は、被相続人がいつでも推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求できると定めています。 廃除は、いったん認められたら絶対に固定される制度ではありません。関係修復、謝罪、弁償、介護、同居再開などの事情により、被相続人が取消しを望む場合があります。

遺言によって廃除取消しの意思を表示することも問題になり得ます。過去に生前廃除をしていた場合、その後の遺言で「廃除を取り消す」とするなら、遺言執行者や関係者は家庭裁判所手続を含めて確認する必要があります。

Section 15

15. 相続欠格との違い

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

廃除と似た制度に、相続欠格があります。相続欠格は、一定の重大な不正行為をした者が法律上当然に相続資格を失う制度です。例えば、被相続人や先順位相続人に対する殺害行為、遺言に関する詐欺、強迫、偽造、変造、破棄、隠匿などが問題になります。

廃除との違いは、次のとおりです。

項目廃除相続欠格
根拠民法892条、893条など民法891条
効果発生家庭裁判所の審判が必要法定事由があれば当然に発生
対象遺留分を有する推定相続人相続人一般
主な事由虐待、重大な侮辱、著しい非行殺害、遺言妨害、遺言偽造など
遺言による意思表示可能不要
取消し被相続人が取消し請求可能原則として当然失格の問題

相続欠格に当たり得るほど重大な行為がある場合には、廃除ではなく欠格を主張する方が法的に適切なことがあります。ただし、欠格事由の有無も争いになり得るため、弁護士による証拠評価が不可欠です。

Section 16

16. 遺留分放棄、相続放棄との違い

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

16.1 遺留分放棄

遺留分放棄とは、相続開始前に遺留分を放棄する制度です。相続開始前の遺留分放棄には家庭裁判所の許可が必要です。これは、推定相続人本人が申し立てる制度であり、被相続人が一方的に相続人の遺留分を奪う制度ではありません。

対象者が任意に遺留分放棄をするのであれば、廃除よりも紛争性が低い場合があります。ただし、強要や不当な圧力があると後に争われる可能性があります。

16.2 相続放棄

相続放棄は、相続開始後に相続人が家庭裁判所で行う制度です。相続放棄をすると、原則として初めから相続人でなかったものとみなされます。これは相続人本人の意思で行うもので、被相続人が遺言で相続人に相続放棄をさせることはできません。

「遺言書で相続放棄させる」といった表現は法律上不正確です。被相続人が一方的に相続人の地位を奪いたい場合に検討されるのが廃除ですが、廃除には厳格な要件と家庭裁判所の判断が必要です。

Section 17

17. 不動産がある場合の実務

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

17.1 相続登記と廃除

相続財産に不動産がある場合、廃除の成否は登記名義に直接影響します。廃除が認められた場合、その者は相続人から外れるため、登記原因証明情報や相続関係説明図に反映する必要があります。

相続登記は2024年4月1日から義務化されています。相続により不動産を取得した相続人は、原則として取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があり、正当な理由なく義務に違反した場合には過料の対象となり得ます。

廃除審判が長引くと、登記の期限管理が複雑になります。司法書士は、遺言執行者、弁護士、税理士と連携して、審判確定後の登記、相続人申告登記の活用可能性、遺産分割との関係を検討します。

17.2 不動産評価の争い

廃除が認められない場合、遺留分侵害額請求が発生することがあります。この場合、不動産の評価額が大きな争点になります。不動産鑑定士は、土地建物の適正価格を評価し、遺留分算定や代償金交渉の基礎資料を作成します。

相続不動産を売却して金銭で分ける場合には、宅地建物取引士や不動産仲介業者が関わります。境界未確定、私道、借地権、農地、共有持分、再建築不可などがあると、土地家屋調査士や行政書士、司法書士、弁護士の連携が必要になります。

Section 18

18. 税務上の注意点

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

18.1 相続税申告期限

相続税の申告が必要な場合、申告期限は原則として、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。国税庁は、相続税の申告と納税についてこの期限を案内しています。

廃除の審判が未確定で相続人の範囲が争われていても、税務申告の期限管理は別問題として進みます。税理士は、暫定的な相続人関係、遺言内容、廃除申立ての状況、遺留分リスク、未分割申告の扱いなどを踏まえて対応します。

18.2 基礎控除と法定相続人の数

相続税の基礎控除は、3,000万円に600万円と法定相続人の数を乗じた額を加えて計算します。国税庁は、相続税がかかる場合の説明で、この基礎控除額の算式を示しています。

廃除や代襲相続がある場合、法定相続人の数の判断が複雑になることがあります。相続税法上の法定相続人の数は、民法上の相続人関係と関連しながらも、養子の数の制限など独自の税務ルールがあります。税理士による確認が重要です。

18.3 生命保険金と死亡退職金

生命保険金や死亡退職金には、相続税法上のみなし相続財産として扱われるものがあります。民法上の相続財産かどうかと、相続税の課税対象になるかは別の問題です。廃除、受取人変更、遺留分、課税関係を混同しないように整理する必要があります。

Section 19

19. 専門職の役割

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

19.1 弁護士

争いがある相続では、弁護士が中核的な専門職です。廃除事由の法的評価、証拠収集、遺言条項の設計、遺言執行者への就任、家庭裁判所への申立て、相手方との交渉、遺留分侵害額請求、遺言無効確認、調停、審判、訴訟まで一貫して扱います。

特に「遺言書で特定の相続人を廃除することはできるか」という相談では、遺言書作成だけでなく、廃除が認められない場合の二次紛争を見越す必要があります。弁護士は、認容可能性と証拠不足のリスクを率直に評価する役割を担います。

19.2 司法書士

司法書士は、相続登記、不動産名義変更、戸籍収集、相続関係説明図、登記原因証明情報、法務局対応、一定の裁判所提出書類作成などで重要です。不動産がある相続では、廃除審判の結果を登記にどう反映するかが問題になります。

19.3 税理士

税理士は、相続税申告、税務相談、税務代理、税務調査対応を担当します。廃除により相続人の範囲や取得財産が変わる場合、税額計算、基礎控除、生命保険金、死亡退職金、小規模宅地等の特例、未分割申告などに影響します。

19.4 行政書士

行政書士は、紛争性のない範囲で、遺産分割協議書、相続関係説明図、戸籍収集補助、遺言作成支援などを行います。ただし、紛争性がある法律相談、税務代理、登記申請代理はそれぞれ弁護士、税理士、司法書士の独占業務に関わるため、役割分担が必要です。

19.5 公証人

公証人は、公正証書遺言の作成を担当します。公証人は中立、公正な立場で公証事務を行います。廃除を含む遺言では、公証人の関与により方式不備のリスクを下げることができますが、廃除事由の成否を最終的に判断するのは家庭裁判所です。

19.6 遺言執行者

遺言執行者は、遺言内容を実現する役です。遺言による廃除では、民法893条により、家庭裁判所への請求を担う中心人物です。弁護士、司法書士、信託銀行、家族などが就任することがありますが、廃除のような争いが予想される手続では、紛争対応能力が重要です。

19.7 信託銀行等の相続、遺言担当

信託銀行等は、遺言書作成相談、保管、遺言執行を一体で扱うサービスを提供することがあります。ただし、廃除や遺留分紛争が激しい場合、法律紛争の代理は弁護士の役割になります。信託銀行が遺言執行者に就任する場合でも、紛争対応の範囲や追加費用、弁護士連携の要否を確認すべきです。

19.8 不動産鑑定士、土地家屋調査士、宅地建物取引士

不動産鑑定士は、遺留分や遺産分割で不動産評価が争点となる場合に評価を行います。土地家屋調査士は、境界確認、分筆、表示登記に関わります。宅地建物取引士や不動産仲介業者は、相続不動産を売却して金銭で分ける場面で重要です。

19.9 公認会計士、中小企業診断士、弁理士

相続財産に非上場株式や事業が含まれる場合、公認会計士は会社価値評価や財務分析で重要です。中小企業診断士は、事業承継計画、後継者育成、経営改善を支援します。特許、商標など知的財産がある場合、弁理士が名義変更や権利管理に関わります。

19.10 ファイナンシャル・プランナー、社会保険労務士

ファイナンシャル・プランナーは、法律や税務の独占業務を行うものではありませんが、家計、保険、老後資金、資産配分の全体設計で有用です。社会保険労務士は、遺族年金など死亡後の社会保険手続で関わります。

19.11 家庭裁判所で関わる人

家庭裁判所では、裁判官、裁判所書記官、家庭裁判所調査官、家事調停委員、家事調停官、鑑定人、専門委員などが事案に応じて関わります。未成年者や後見利用者が共同相続人で利益相反がある場合、特別代理人、臨時保佐人、臨時補助人が選任されることもあります。

Section 20

20. よくある誤解

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

20.1 「遺言書に書けば必ず廃除できる」

誤りです。遺言書は廃除意思を表示する手段にすぎません。家庭裁判所が廃除を認める必要があります。

20.2 「嫌いな相続人は廃除できる」

誤りです。廃除には、虐待、重大な侮辱、その他の著しい非行が必要です。単なる好き嫌いや不仲では足りません。

20.3 「兄弟姉妹も廃除しないと相続から外せない」

通常は誤りです。兄弟姉妹には遺留分がないため、遺言で他の人に財産を承継させる設計が中心になります。

20.4 「廃除すればその子どもにも一切相続されない」

誤りです。廃除された者が子で、その者に子がいる場合、代襲相続が生じることがあります。

20.5 「法務局で保管した遺言なら廃除も保証される」

誤りです。法務局の自筆証書遺言書保管制度は、保管と外形的な形式チェックを行う制度であり、遺言内容の有効性や廃除事由の有無を保証する制度ではありません。

20.6 「公正証書遺言なら家庭裁判所は不要」

廃除については誤りです。公正証書遺言は検認が不要ですが、遺言による廃除では、遺言執行者が家庭裁判所へ廃除請求をする必要があります。

Section 21

21. 相談前チェックリスト

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

「遺言書で特定の相続人を廃除することはできるか」を専門家に相談する前に、次の資料を準備すると相談の質が上がります。

  • 家族関係図
  • 戸籍の概要
  • 相続人候補の氏名、生年月日、住所
  • 財産目録
  • 不動産の登記事項証明書、固定資産税通知書
  • 預貯金、証券、保険、退職金、負債の資料
  • 過去の遺言書、メモ、エンディングノート
  • 廃除したい理由の時系列メモ
  • 診断書、写真、録音、メール、LINE、警察や自治体への相談記録
  • 財産使い込みが疑われる通帳、取引明細
  • 介護記録、施設記録、ケアマネ記録
  • 対象者との過去の調停、訴訟、刑事事件の資料
  • 生命保険の保険証券、受取人情報
  • 事業承継や会社株式に関する資料
Section 22

22. 実務上の設計例

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

22.1 暴力を理由に子を廃除したい場合

親が長年、子から暴力を受け、診断書や警察相談記録がある場合、遺言による廃除を検討できます。遺言書には廃除意思、遺言執行者、証拠の所在、予備的配分を明記します。弁護士を遺言執行者に指定し、死後に家庭裁判所へ廃除請求をする設計が考えられます。

注意点は、暴力がいつのものか、被相続人が後に許した事情があるか、証拠が残っているかです。古い出来事だけで、その後長期間良好な関係が続いていた場合には、廃除相当性が弱くなることがあります。

22.2 財産使い込みを理由に廃除したい場合

同居の子が親の預金を無断で引き出した疑いがある場合、まず使途を調査します。介護費、生活費、親の同意に基づく支出、贈与、横領的な支出を区別しなければなりません。

使い込みが重大で、被相続人の生活を害し、証拠で裏付けられる場合には、その他の著しい非行として廃除を検討し得ます。ただし、単なる疑いだけでは足りません。通帳、ATM利用場所、委任状、領収書、介護記録、本人の意思能力、使途説明を総合的に検討します。

22.3 兄弟姉妹に渡したくない場合

独身で子も親もいない人が、兄弟姉妹に財産を渡したくない場合、廃除ではなく遺言で財産承継先を指定することが中心です。兄弟姉妹には遺留分がないため、全財産を特定の人や団体に遺贈する遺言を作成します。

ただし、兄弟姉妹が遺言無効を主張する可能性はあります。公正証書遺言、遺言能力資料、遺言執行者の指定、受遺者の明確化、予備的受遺者の指定が重要です。

22.4 孫への代襲相続を避けたい場合

子を廃除しても、その子の子が代襲相続することがあります。孫にも遺留分が問題になる場合、単純な廃除だけでは望む結果にならない可能性があります。

この場合、遺言による財産配分、生命保険、信託、生前贈与、遺留分放棄、家族信託、事業承継、代償金の準備などを総合設計します。ただし、孫自身に廃除事由がなければ、孫を廃除することはできません。

Section 23

23. 遺言条項サンプル

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

以下は、専門家に相談する際のたたき台です。個別事情に合わせた修正が不可欠です。

第1条(推定相続人の廃除)
遺言者は、遺言者の長男である甲野太郎(昭和○年○月○日生)について、民法第892条に基づき、推定相続人から廃除する意思を表示する。

第2条(廃除理由)
前条の廃除を求める理由は、別紙「廃除理由書」記載のとおりである。遺言者は、遺言執行者に対し、遺言者の死亡後、同理由書および関連証拠に基づき、遅滞なく家庭裁判所に推定相続人廃除の請求を行うことを求める。

第3条(遺言執行者)
遺言者は、本遺言の遺言執行者として、弁護士○○○○を指定する。遺言執行者は、民法第893条に基づく推定相続人廃除の請求、財産目録の作成、預貯金の解約、名義変更、登記手続に必要な協力、その他本遺言の執行に必要な一切の行為を行う権限を有する。

第4条(予備的な財産承継)
仮に第1条の廃除が認められない場合であっても、遺言者の財産は次のとおり承継させる。
1. 遺言者は、別紙財産目録1記載の不動産を、二女甲野花子に相続させる。
2. 遺言者は、別紙財産目録2記載の預貯金を、二女甲野花子に相続させる。
3. その他一切の財産は、二女甲野花子に相続させる。

このサンプルでは、廃除が認められなかった場合でも遺言として機能するように予備的な財産承継を入れています。ただし、対象者に遺留分が残る場合、遺留分侵害額請求に備えた資金設計が必要です。

Section 24

24. 弁護士が見る重要ポイント

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

弁護士は、廃除相談で次の点を確認します。

観点確認事項
対象者適格遺留分を有する推定相続人か
事由虐待、重大な侮辱、著しい非行に当たるか
重大性相続権剥奪に値するほど重大か
証拠客観資料で裏付けられるか
時期古すぎないか。その後許した事情はないか
被相続人側事情被相続人にも重大な原因がないか
代襲相続孫などが代襲するか
遺留分廃除不認容時の請求額はどの程度か
遺言能力遺言作成時の判断能力に問題はないか
執行可能性遺言執行者が申立てを遂行できるか
税務申告期限、評価、納税資金に問題はないか
登記不動産名義変更や相続登記義務に対応できるか

廃除は、勝てるかどうかだけでなく、仮に認められなかった場合に相続全体をどう守るかが重要です。

Section 25

25. 裁判所実務から見た注意点

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

家庭裁判所は、単に遺言者の感情を実現する機関ではありません。廃除は、遺留分を有する推定相続人の相続権を失わせる強い効果を持つため、慎重に審理されます。

裁判所実務で重要になるのは、次のような点です。

  • 廃除理由が具体的であるか
  • 証拠が客観的であるか
  • 申立書の事実整理が時系列で明確か
  • 相手方の反論を想定しているか
  • 被相続人が後に許した事情がないか
  • 対象者が改心、弁償、介護などをした事情がないか
  • 他の相続人による誘導や利益相反がないか
  • 遺言能力に疑義がないか

最高裁判所の判断が示すように、家庭裁判所は、形式的な要件該当性だけでなく、廃除を相当とするかを総合的に考えます。

Section 26

26. 研究的視点からの整理

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

廃除制度は、遺言自由、遺留分制度、家族秩序、私有財産権、相続人保護の交点に位置します。

一方で、被相続人には、自分に対して重大な非行をした者に財産を承継させたくないという強い利益があります。他方で、相続人には、家族としての地位に基づき一定の相続期待や遺留分保護があります。廃除は、この二つの価値が衝突する場面で、家庭裁判所の後見的判断を介在させる制度です。

この制度構造から、廃除は「私的制裁」ではありません。被相続人が怒っているから認められるのではなく、民法上保護される相続関係を失わせるほどの客観的な非行があるかが問われます。

また、遺言による廃除では、遺言者の死後に初めて審理が行われるため、証拠法的な困難が大きくなります。これは、制度上やむを得ない面がある一方で、遺言者の意思実現を阻む実務的な障害にもなります。そのため、廃除を考えるなら、遺言書の文言だけでなく、生前からの証拠化、専門職の関与、遺言執行者の選任、税務登記までを一体的に設計する必要があります。

Section 27

27. 結論

制度、手続、注意点を本文に沿って確認します。

「遺言書で特定の相続人を廃除することはできるか」という問いに対する専門的な答えは、次のとおりです。

遺言書で、特定の推定相続人を廃除する意思を表示することはできます。しかし、遺言書の記載だけで当然に廃除の効力が生じるわけではありません。遺言者の死亡後、遺言執行者が家庭裁判所に請求し、家庭裁判所が民法892条の要件と廃除相当性を認める必要があります。

廃除できるのは、遺留分を有する推定相続人です。兄弟姉妹は原則として廃除の対象ではなく、遺言による財産承継設計で対応します。廃除事由は、虐待、重大な侮辱、その他の著しい非行であり、単なる不仲や感情的対立では足りません。

遺言による廃除を実現したいなら、次の五点が不可欠です。

  1. 廃除意思を明確にした有効な遺言書
  2. 具体的事実を整理した廃除理由書
  3. 診断書、相談記録、通帳、通信記録などの客観証拠
  4. 遺言執行者の適切な指定
  5. 廃除不認容時の遺留分、税務、登記、代襲相続への予備的設計

最終的には、弁護士を中心に、司法書士、税理士、公証人、遺言執行者、不動産関係専門職などが連携し、相続全体を設計することが重要です。廃除は強力な制度である反面、要件は厳格で、証拠不足や設計不備があると望む結果に届きません。したがって、「遺言書で特定の相続人を廃除することはできるか」を考えるときは、単に一文を書くのではなく、家庭裁判所で説明できるだけの事実、証拠、手続、代替策を整えたうえで遺言を作成することが必要です。

Reference

参考文献、法令、公的情報

  • e-Gov法令検索「民法」第892条、第893条。第892条は、遺留分を有する推定相続人が被相続人に対して虐待をし、重大な侮辱を加えたとき、またはその他の著しい非行があったときに、被相続人が家庭裁判所に廃除を請求できる旨を定める。第893条は、遺言で廃除意思を表示した場合、遺言執行者が遺言の効力発生後に家庭裁判所へ請求し、廃除の効力が死亡時にさかのぼる旨を定める
  • e-Gov法令検索「民法」第1042条。兄弟姉妹以外の相続人に遺留分を認める規定
  • 最高裁判所平成元年11月20日第一小法廷決定、裁判所判例情報。家庭裁判所が被相続人側の宥恕、相続人側の改心等の諸般の事情を総合考察して廃除相当性を判断する制度である旨を示す
  • 裁判所「遺言執行者の選任」。遺言執行者の役割、申立人、申立先、費用、必要書類の案内
  • 法務省「自筆証書遺言書保管制度」。外形的チェック、保管、検認不要、内容相談不可、有効性保証なしの説明
  • 裁判所「遺言書の検認」。検認の趣旨、公正証書遺言と法務局保管の自筆証書遺言に関する遺言書情報証明書は検認不要である旨の案内
  • 裁判所の家事事件手続案内、各家庭裁判所の推定相続人廃除申立てに関する書式および手続案内。具体的な提出書類、郵券、管轄は申立先裁判所で確認する必要がある
  • 大阪市「推定相続人廃除届」。届出人、届出期日、届出場所、必要書類の案内
  • e-Gov法令検索「民法」第887条。子の代襲相続に関する規定
  • e-Gov法令検索「民法」第965条。受遺者について、胎児の相続能力および相続欠格に関する規定を準用する旨の規定
  • 国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」。相続税申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内
  • e-Gov法令検索「民法」第894条。被相続人はいつでも推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求できる旨の規定
  • 法務省「相続登記の申請義務化に関する案内」。2024年4月1日から相続登記の申請が義務化され、相続により不動産取得を知った日から3年以内の申請が必要となる制度
  • 国税庁「No.4102 相続税がかかる場合」。基礎控除額は3,000万円+600万円×法定相続人の数