会社法423条責任を出発点に、424条から427条までの違いを整理します。
会社法423条責任を出発点に、424条から427条までの違いを整理します。
取締役の責任一部免除と軽減規定は、任務懈怠責任を前提にしながら、善意・無重過失の役員等について責任額を一部免除または限定できる制度です。経営判断の萎縮を防ぎつつ、会社・株主に対する説明責任を残すため、条文ごとの役割を分けて理解することが重要です。
次の比較表は、会社法424条から427条までの責任免除・責任限定制度を横並びで整理したものです。どの制度が何を対象にし、どの手続で使うのかを最初に押さえると、後続の条文解説を読み分けやすくなります。
| 制度 | 根拠条文 | 基本的な性格 |
|---|---|---|
| 総株主の同意による全部免除 | 会社法424条 | 発生済みの会社に対する責任を、総株主の同意で免除する制度 |
| 株主総会決議による一部免除 | 会社法425条 | 善意・無重過失の役員等について、最低責任限度額を残して一部免除する制度 |
| 定款に基づく取締役会等による一部免除 | 会社法426条 | 定款規定がある特定の会社で、取締役会等により一部免除できる制度 |
| 責任限定契約 | 会社法427条 | 非業務執行取締役等との契約により、将来の責任額に上限を置く制度 |
425条・426条は、すでに問題となった責任について一部免除を検討する事後的な制度です。427条は、非業務執行取締役等とあらかじめ契約し、将来の423条責任に上限を設ける制度です。D&O保険や会社補償は、責任免除そのものではなく、防御費用や損失を別の仕組みで支える制度として位置づけられます。
任務懈怠責任、会社に対する責任、第三者責任、善意・無重過失を確認します。
責任免除・責任限定の前提になる用語を曖昧にしたまま条文だけを読むと、会社に対する責任、第三者に対する責任、悪意・重過失の扱いが混線します。次の一覧では、制度判断の入口になる基本概念を、実務で確認すべき観点とあわせて整理します。
株式会社の業務執行に関する意思決定や監督を担う会社機関です。取締役会設置会社では取締役会が業務執行の決定、代表取締役の選定・解職、職務執行の監督などを行います。
役員等が職務上の任務を怠り、会社に損害を生じさせた場合に、会社へ損害賠償責任を負うことです。法令・定款違反、善管注意義務違反、利益相反手続の不備、内部統制の著しい不備などが問題になります。
善意は責任原因となる事実を知らないことを指す法的な概念です。重大な過失は、通常要求される注意を著しく欠く状態を意味し、単なる判断ミスや軽過失とは区別されます。
次の比較表は、会社法423条1項の会社に対する責任と、会社法429条の第三者に対する責任を分けて見るためのものです。425条から427条の中心対象がどちらなのかを確認することで、制度の限界を読み落としにくくなります。
| 区分 | 内容 | 免除・限定との関係 |
|---|---|---|
| 会社に対する責任 | 会社法423条1項の責任です。会社が損害を受けた場合に、取締役等が会社へ賠償する責任を負います。 | 425条から427条の責任免除・責任限定の中心対象です。 |
| 第三者に対する責任 | 会社法429条に基づき、職務を行うについて悪意または重大な過失がある場合に、第三者への責任が問題になります。 | 425条から427条で当然に軽減されるわけではありません。 |
会社法423条1項は、役員等が任務を怠ったときに会社へ損害賠償責任を負うという基本規定です。株主代表訴訟でも、多くはこの423条1項責任が中心になります。競業取引・利益相反取引では、423条2項・3項による損害額や任務懈怠の推定が問題になることもあります。
したがって、取締役の責任一部免除と軽減規定は、423条で責任が成立し得るかを見たうえで、424条から427条によりどこまで免除・限定できるかを検討する二段階の構造で理解する必要があります。
総株主の同意による全部免除は強力ですが、対象は発生済みの具体的責任に限られます。
会社法424条は、423条1項の責任について、総株主の同意がなければ免除できないという原則を定めています。裏返すと、すでに発生した具体的な423条1項責任については、総株主の同意があれば全部免除できる余地があります。
次の重要ポイントは、424条を使える場面と使いにくい場面を分けて理解するためのものです。株主数や株主構成によって実現可能性が大きく変わるため、手続の重さと限界を同時に確認することが大切です。
株主総会の多数決とは異なり、すべての株主の同意が問題になります。議決権のない株主がいる場合でも、責任免除に利害を持つ株主について同意の要否を慎重に確認します。
株主数が少ない会社では選択肢になり得ます。一方、上場会社のように株主が多数・分散している会社では、総株主同意を得ることは実務上かなり困難です。
すでに発生した具体的な責任を免除する制度であり、将来どのような任務懈怠が起きても取締役が責任を負わないという事前免除ではありません。
424条による免除は、会社に対する423条責任の処理にとどまります。刑事責任、行政上の制裁、金融商品取引法上の責任、第三者に対する責任、税務上の問題などを当然に消滅させるものではありません。
善意・無重過失、最低責任限度額、開示事項、監査役等の同意を整理します。
会社法425条は、善意・無重過失の役員等について、最低責任限度額を残して責任の一部を免除できる制度です。取締役を完全に無責任にする制度ではなく、一定の自己負担を残すことでモラルハザードを防ぐ構造になっています。
次の強調部分は、425条による一部免除の計算構造を示しています。責任額から何を差し引けるのかを理解することが、株主総会議案、説明資料、免除額の相当性を検討する出発点になります。
株主総会特別決議により免除できるのは、最低責任限度額を超える部分です。最低責任限度額は必ず残ります。
次の表は、425条で検討すべき主要要件を一覧にしたものです。対象責任、対象者、主観的要件、手続、開示事項を同じ表で確認することで、議案作成時の抜け漏れを減らせます。
| 検討項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象責任 | 会社法423条1項の会社に対する責任 |
| 対象者 | 取締役、会計参与、監査役、執行役、会計監査人などの役員等 |
| 主観的要件 | 職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないこと |
| 手続 | 株主総会決議。会社法309条2項8号により特別決議事項とされます。 |
| 免除可能額 | 賠償責任額から最低責任限度額を控除した額を上限とします。 |
| 開示事項 | 責任原因事実、賠償責任額、免除可能限度額と算定根拠、免除理由、免除額などを整理します。 |
| 監査役等の同意 | 一定の会社で、取締役・執行役の責任免除議案を株主総会に提出するには、監査役・監査等委員・監査委員の同意が必要です。 |
取締役は、責任原因となった事実と賠償責任額、免除できる額の限度と算定根拠、責任を免除すべき理由と免除額を株主総会で開示する必要があります。抽象的な説明だけではなく、原因事実、損害額、調査過程、善意・無重過失の根拠、再発防止策を整理することが重要です。
監査役設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社では、取締役または執行役の責任免除議案について、監査役等の同意が必要になる場合があります。また、免除決議後に退職慰労金その他の一定の財産上の利益を与える場合や、新株予約権の行使・譲渡がある場合は、追加の株主総会承認が問題になります。
6倍・4倍・2倍の倍率、計算例、実務上の計算ミスを確認します。
最低責任限度額は、425条・426条・427条のいずれでも中心になる基準です。大まかには、役員等が職務執行の対価として受けた、または受けるべき財産上の利益の1年当たり額に、役職区分ごとの倍率を乗じた額と、一定の新株予約権に関する財産上の利益相当額を合算して考えます。
次の表は、役職区分ごとの倍率を示しています。代表取締役、業務執行取締役、非業務執行取締役等では会社経営への関与度が異なるため、最低限残る責任額の水準も変わる点を読み取ってください。
| 区分 | 倍率 | 趣旨 |
|---|---|---|
| 代表取締役・代表執行役 | 6倍 | 会社経営への影響力が最も大きいため、負担額も大きくなります。 |
| 代表取締役以外の業務執行取締役・代表執行役以外の執行役 | 4倍 | 実際に業務執行に関与するため、中間的な負担になります。 |
| 非業務執行取締役、会計参与、監査役、会計監査人など | 2倍 | 主に監督・監査・専門的関与を担うため、相対的に負担が軽くなります。 |
次の比較一覧は、最低責任限度額の計算例を2つ並べたものです。損害額が同じ1億円でも、役職区分と報酬等相当額によって、残る責任額と免除できる上限額が大きく変わることを確認できます。
1年当たり報酬等相当額が1,000万円で新株予約権利益がない場合、最低責任限度額は1,000万円 × 6倍 = 6,000万円です。会社に1億円の損害がある場合、免除できる上限額は4,000万円です。
1年当たり報酬等相当額が600万円で新株予約権利益がない場合、最低責任限度額は600万円 × 2倍 = 1,200万円です。会社に1億円の損害がある場合、免除できる上限額は8,800万円です。
最低責任限度額の算定では、報酬だけでなく、賞与、兼務使用人給与、退職慰労金相当額、新株予約権利益を確認します。算定基準日、事業年度の長さ、退職慰労金の按分、役職兼任、責任原因事実が複数日にまたがる場合の扱いも実務上の誤りが起こりやすい点です。
法務担当だけで計算すると、会計・税務・報酬制度・株式報酬制度の情報が不足することがあります。法務、経理、人事、株式報酬担当、公認会計士、税理士、司法書士、弁護士が連携して算定することが望ましいとされています。
会社類型、定款規定、株主の異議申述、登記までを実務順に確認します。
会社法426条は、一定の会社が定款に定めを置くことにより、株主総会を開かずに、取締役の過半数の同意または取締役会決議で役員等の責任を一部免除できる制度です。機動的に処理できる一方で、定款規定、会社類型、株主異議手続などの制約があります。
次の表は、426条を使えるかを判断するための要件一覧です。会社類型、定款規定、善意・無重過失、特に必要と認める事情、株主保護手続を同時に確認することで、取締役会だけで完結すると誤解するリスクを避けられます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社類型 | 取締役2人以上の監査役設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社 |
| 定款規定 | 取締役の過半数同意または取締役会決議で一部免除できる旨の定款規定が必要です。 |
| 主観的要件 | 当該役員等が善意・無重過失であること |
| 実体的要件 | 責任原因事実の内容、職務執行状況その他の事情を勘案して、特に必要と認めること |
| 免除可能額 | 425条により免除できる額を限度とします。 |
| 決議・同意 | 非取締役会設置会社では責任を負う取締役を除く取締役の過半数同意、取締役会設置会社では取締役会決議が問題になります。 |
| 監査役等の同意 | 一定の場合に監査役、各監査等委員、各監査委員の同意が必要です。 |
| 株主保護手続 | 公告または通知、1か月以上の異議申述期間、3%以上の議決権を有する株主による異議があれば免除不可とされます。 |
426条は機動的である分、単に本人への配慮や一般的な人材確保を理由に使う制度ではありません。当該取締役の判断過程、法令違反・社内規程違反の程度、善意・無重過失の根拠、損害額と最低責任限度額のバランス、私的利益の有無、会社の再建・事業継続への影響、再発防止策、D&O保険や会社補償との関係を総合的に検討します。
次の判断の流れは、426条の定款規定を置いた後、実際に一部免除を検討する際の手続順を示しています。上から順に確認することで、定款変更、決議、公告・通知、株主異議の各段階で何を見落としてはいけないかを把握できます。
監査役の監査範囲が会計限定でないか、定款規定と登記の要否を確認します。
事実調査、損害額、判断過程、再発防止策を資料化します。
利害関係、同意手続、議事録の記載を整理します。
会社は426条に基づく免除をしてはならない扱いになります。
1か月以上の期間を確保し、事業報告・開示への影響も確認します。
426条の定款規定は登記事項です。定款変更案の作成、監査役等の同意の要否確認、株主総会特別決議、定款変更後の登記申請、取締役会規程や役員規程、D&O保険規程等の整備まで一体で進める必要があります。
非業務執行取締役等との個別契約、責任限度額、開示義務を整理します。
会社法427条の責任限定契約は、会社が一定の役員等との間で、423条1項責任について、善意・無重過失である場合に一定額を限度として責任を負う旨をあらかじめ契約する制度です。特に、日常の業務執行に関与しない社外取締役や監査役の就任実務で重要になります。
次の表は、責任限定契約を有効に機能させるための要件をまとめています。定款規定だけでは足りず、個別契約、相手方の地位、責任限度額、株主総会での開示まで確認する点が重要です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 定款規定 | 責任限定契約を締結できる旨の定款規定が必要です。 |
| 契約相手 | 2026年5月14日時点の現行会社法では、非業務執行取締役等に限られます。 |
| 契約 | 会社と対象役員等との個別契約が必要です。 |
| 主観的要件 | 職務を行うにつき善意・無重過失であること |
| 責任限度額 | 定款で定めた額の範囲内で会社があらかじめ定めた額と、最低責任限度額のいずれか高い額になります。 |
| 就任後変更 | 契約相手が業務執行取締役等に就任した場合、契約は将来に向かって効力を失います。 |
| 株主総会開示 | 会社が損害を知った後、最初の株主総会で一定事項の開示が必要です。 |
次の比較表は、425条、426条、427条の機能差を整理したものです。事後的な一部免除と事前契約による責任限定を混同しないため、性格、手続、対象者、業務執行取締役の扱いを横断的に見てください。
| 比較項目 | 425条 | 426条 | 427条 |
|---|---|---|---|
| 性格 | 発生済み責任の一部免除 | 発生済み責任の一部免除 | 事前契約による責任限定 |
| 手続 | 株主総会特別決議 | 定款規定、取締役会等、株主異議手続 | 定款規定と個別契約 |
| 対象者 | 役員等 | 役員等 | 非業務執行取締役等 |
| 業務執行取締役 | 対象になり得る | 対象になり得る | 現行法上は対象外 |
| 善意・無重過失 | 必要 | 必要 | 必要 |
| 最低責任限度額 | 残る | 残る | 少なくとも残る |
| 実務用途 | 個別責任発生後の処理 | 機動的な個別責任処理 | 社外役員等の就任時リスク管理 |
契約で責任限度額を100万円と定めても、最低責任限度額が1,200万円であれば、責任限度額は1,200万円になります。反対に、契約上の責任限度額が2,000万円で最低責任限度額が1,200万円であれば、2,000万円が限度額になります。定款例をそのまま流用せず、役員報酬水準、社外役員構成、D&O保険の内容、投資家の期待を踏まえて設計することが重要です。
会社法428条、第三者責任、刑事・行政責任、税務・保険上の限界を確認します。
責任一部免除・責任限定の制度を過大評価すると、使えない場面で使えると誤解する危険があります。特に、自己のための直接取引、第三者責任、刑事責任、行政責任は、425条から427条だけでは処理できない代表的な領域です。
次の一覧は、425条から427条によって当然に消滅・軽減されるわけではない責任を整理したものです。会社に対する423条責任だけを見てしまうと、第三者、行政、刑事、税務、保険約款の各問題を見落とすため、周辺責任を同時に確認してください。
会社法429条に基づく第三者責任は、425条から427条で当然に軽減されるわけではありません。
税務上の追徴・重加算税に関連する役員責任や、会社補償・D&O保険の免責事由に該当する損失は、個別に確認が必要です。
利益相反取引では、取締役会承認、価格の公正性、第三者評価、議事録、開示、税務・会計処理を慎重に整備する必要があります。424条の総株主同意による免除が理論上問題になる余地はあっても、株主・債権者・税務・会計・開示の問題を伴うため、実務では慎重な検討が必要です。
責任免除制度、保険、補償契約を混同せず、平時から整合的に設計します。
D&O保険と会社補償は、取締役のリスク管理において重要ですが、425条から427条の責任免除・責任限定制度そのものではありません。責任を減らす手続と、責任追及に伴う費用・損害を支える仕組みを分けて設計する必要があります。
次の比較表は、425条から427条、D&O保険、会社補償の役割を並べたものです。それぞれが何を支え、どこに限界があるかを確認することで、定款、役員就任契約、保険、補償契約を整合的に設計できます。
| 制度 | 何をする制度か | 主な限界 |
|---|---|---|
| 425条 | 株主総会で発生済み423条責任を一部免除 | 善意・無重過失、最低責任限度額、株主総会特別決議 |
| 426条 | 定款に基づき取締役会等で発生済み423条責任を一部免除 | 会社類型、定款規定、特に必要、株主異議手続 |
| 427条 | 非業務執行取締役等の423条責任に上限を設ける | 業務執行取締役等は現行法上対象外、善意・無重過失 |
| D&O保険 | 責任追及・損害・防御費用を保険でカバー | 約款上の免責、不正行為、保険金額、通知義務 |
| 会社補償 | 会社が防御費用・一定損失を補償 | 補償禁止範囲、取締役会決議・報告、開示 |
D&O保険は、役員等が職務執行に関して責任を負うこと、または責任追及を受けることによって生じる損害を保険者が填補する保険です。会社法430条の3は、会社が役員等賠償責任保険契約の内容を決定するには、株主総会決議、取締役会設置会社では取締役会決議が必要であると定めています。
会社補償は、会社が役員等に対して、防御費用や一定の第三者損害賠償に関する損失を補償する制度です。会社法430条の2は、補償契約の内容決定手続、補償できない費用等、返還請求、取締役会報告などを定めています。会社に対する423条責任に係る部分や、悪意・重過失により第三者責任を負う場合の損失などは、補償できない場合があります。
426条型、427条型、責任限定契約の条項例を一般的な検討素材として整理します。
定款規定や責任限定契約の文言は、会社の機関設計、上場・非上場、監査役の監査範囲、既存定款、社外役員構成、株主構成に応じて調整が必要です。以下は検討の出発点を示す一般的な文例であり、そのまま使用する前提ではありません。
第○条(取締役等の責任の一部免除)
当会社は、会社法第426条第1項の規定により、任務を怠ったことによる取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人の損害賠償責任について、当該役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合において、責任の原因となった事実の内容、当該役員等の職務の執行の状況その他の事情を勘案して特に必要と認めるときは、法令の定める限度において、取締役会の決議によって免除することができる。
第○条(責任限定契約)
当会社は、会社法第427条第1項の規定により、非業務執行取締役等との間で、任務を怠ったことによる損害賠償責任について、当該非業務執行取締役等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、法令の定める最低責任限度額を限度とする旨の契約を締結することができる。
次の一覧は、責任限定契約で責任限度額以外に検討されやすい条項を整理したものです。契約締結後の地位変更、責任追及時の通知、D&O保険や会社補償との連携を文書化しておくことで、責任問題が生じた後の混乱を抑えられます。
善意・無重過失の場合に、会社法425条1項に定める最低責任限度額を限度とする旨を定めます。
限度額対象者が業務執行取締役等に就任した場合、責任限定に関する条項が将来に向かって効力を失う旨を定めます。
地位変更責任追及の請求またはそのおそれを認識した場合の通知、調査、防御、保険請求、開示対応への協力を定めます。
通知義務古い定款では、責任限定契約の対象を「社外取締役」とだけ記載していることがあります。2014年会社法改正後の実務では、対象が「非業務執行取締役等」に広がっているため、既存定款の文言を見直す余地があります。
事実保全から手続選択、議事録・説明資料の作成までを順序立てて確認します。
責任免除・軽減を検討する場面では、先に結論を決めるのではなく、事実保全、利害関係者の整理、保険通知、補償契約の確認、独立性ある調査体制の構築から始める必要があります。拙速な免除判断は、後の株主代表訴訟や説明責任の問題を大きくします。
次の時系列は、責任問題が発生した場合に会社が初動で確認する順番を示しています。上から下へ進むほど、証拠保全から法的評価、手続選択、記録化へと検討が深まるため、途中の段階を飛ばさないことが重要です。
メール、チャット、議事録、稟議書、契約書、会計資料、ログ、通報記録、外部専門家の助言記録を保全します。
責任追及対象となり得る役員、関係部門、子会社、取引先、株主を整理し、D&O保険通知と会社補償契約の有無を確認します。
取締役自身の責任が問題になる場合、社外取締役、監査役、監査等委員、第三者委員会、外部弁護士の関与を検討します。
任務懈怠、損害、因果関係、利益相反、428条該当性、善意・無重過失、最低責任限度額、第三者責任、保険・補償の範囲を評価します。
次の表は、状況に応じた主な選択肢をまとめたものです。株主構成、定款規定、役員の地位、責任発生前後、防御費用の問題を切り分けることで、424条から427条、保険、補償のどれを検討すべきかが見えてきます。
| 状況 | 主な選択肢 |
|---|---|
| 株主が少なく全員の同意が得られる | 424条による全部免除を検討 |
| 上場会社・株主多数で責任発生後に免除したい | 425条の株主総会特別決議を検討 |
| 定款に426条規定があり、機動的処理が必要 | 426条の取締役会決議等を検討 |
| 社外取締役等について事前に備えたい | 427条の定款・責任限定契約を整備 |
| 防御費用・訴訟費用が問題 | D&O保険・会社補償を検討 |
| 悪意・重過失や自己のための利益相反が疑われる | 425条から427条の適用困難性を検討 |
議事録と説明資料には、責任原因事実、調査方法、損害額、取締役の関与・認識・判断過程、善意・無重過失と判断した理由、最低責任限度額、免除額の相当性、監査役等の同意、反対意見、保険・補償、再発防止策、株主への説明方針を残します。
定款整備、免除決議、426条決議後、中小企業・上場会社の注意点を整理します。
株主総会・取締役会事務局は、定款整備前、責任免除決議前、426条決議後で確認項目が変わります。次の一覧は、手続段階ごとに見るべき事項を整理したもので、会社の機関設計や株主構成に応じた確認漏れを防ぐために使えます。
中小企業では、株主と取締役が同一または近親者であることが多く、424条の総株主同意が現実的に使える場合があります。ただし、相続、少数株主、名義株、株式譲渡制限、所在不明株主が絡むと、総株主同意の取得は容易ではありません。古い定款、会計限定監査役、議事録・稟議書・契約書の不足、D&O保険未加入または保険金額の不足も典型的な課題です。
上場会社や大会社では、責任免除・軽減は法的手続だけでなく、資本市場、開示、ガバナンス評価の問題になります。機関投資家や議決権行使助言会社は、免除理由、調査の独立性、損害額、再発防止策、対象取締役の関与度、会社のガバナンス体制を重視します。必要に応じて、独立社外取締役を中心とする特別委員会、監査役会、監査等委員会、第三者委員会の設置を検討します。
経営判断の検討順序、2026年時点の改正論点、職種別の役割を整理します。
責任一部免除・軽減規定は、杜撰な経営判断を後から正当化する制度ではありません。経営判断原則の考え方、法改正動向、職種ごとの役割分担を踏まえ、平時から説明可能な意思決定過程を整備する必要があります。
次の判断の流れは、経営判断原則と425条から427条の位置づけを分けて考えるためのものです。責任が成立するかの段階と、責任が成立し得る場合にどこまで免除・限定できるかの段階を混同しないことが重要です。
423条1項責任の成立可能性を確認します。
判断当時の情報収集・検討過程と意思決定内容が著しく不合理かを見ます。
善意・無重過失といえるかを確認します。
425条、426条、427条、D&O保険、会社補償の範囲を整理します。
2026年5月14日時点では、現行会社法427条の責任限定契約の対象は、非業務執行取締役等に限られています。一方、2026年3月18日に取りまとめられた会社法制の見直しに関する中間試案では、業務執行取締役等である取締役および執行役を、責任限定契約を締結できる相手方に加える方向の提案が議論されています。もっとも、改正が成立した制度ではないため、意見募集の結果、その後の法制審議会、要綱案、法案提出、国会審議、施行時期を確認する必要があります。
次の一覧は、職種ごとの実務上の関与ポイントを整理しています。責任免除・責任限定は法務だけで完結しないため、誰がどの論点を補完するのかを明確にすることが重要です。
責任成立、善意・無重過失、最低責任限度額、手続適法性、株主代表訴訟リスク、保険・補償、開示、利益相反管理を総合的に評価します。
法的評価定款、登記、取締役会議事録、株主総会参考書類、事業報告、公告・通知を整備します。
手続運営426条・427条に関する定款変更と登記で、登記漏れや文言不備がないよう確認します。
登記損害額、役員報酬、退職慰労金、株式報酬、新株予約権利益、税務、会計上の引当・偶発債務、開示への影響を検討します。
会計税務責任免除議案への同意や取締役会決議の監督に関わり、調査の十分性、免除額の相当性、株主利益への影響を確認します。
独立確認責任限定契約、D&O保険、株主総会決議、軽過失の扱いを正しく整理します。
責任限定契約や一部免除の制度は、名前だけで理解すると「取締役が責任を負わない制度」と誤解されがちです。次の一覧では、特に多い誤解と正しい整理を並べ、最低責任限度額、善意・無重過失、手続要件、428条の限界を確認します。
正しくありません。善意・無重過失の場合に責任額の上限を設ける制度であり、悪意・重過失がある場合には機能せず、最低責任限度額も残ります。
現行法上の対象は社外取締役に限られず、業務執行取締役等でない取締役、会計参与、監査役、会計監査人が対象です。
426条の定款規定、会社類型、善意・無重過失、特に必要な事情、監査役等の同意、株主異議手続などを満たす必要があります。
D&O保険は保険による填補制度であり、責任そのものを免除する制度ではありません。責任限定契約や会社補償とあわせて設計します。
軽過失であっても、手続要件を満たさなければ免除できません。428条の自己のための直接取引のように、425条から427条が使えない場面もあります。
全部免除には、原則として総株主の同意が必要です。株主総会特別決議でできるのは425条に基づく一部免除であり、最低責任限度額は残ります。
代表取締役、社外取締役、426条手続、428条、最低責任限度額などを一般情報として整理します。
一般的には、2026年5月14日時点の現行会社法では、代表取締役は会社法427条の責任限定契約の対象ではないと整理されます。代表取締役については、責任発生後に425条の株主総会決議または426条の定款に基づく取締役会等の手続により、一部免除を検討することになります。ただし、善意・無重過失、最低責任限度額、手続要件などで結論は変わる可能性があります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、形式的に社外取締役であっても、業務執行取締役等に該当する場合は注意が必要とされています。また、責任限定契約には定款規定と個別契約が必要であり、単に社外取締役に選任しただけで契約が成立するわけではありません。職務内容や会社との関係によって判断が変わる可能性があります。
一般的には、定款規定は責任限定契約を締結できる根拠にとどまるとされています。実際に責任限定の効力を得るには、会社と対象役員等との個別契約が必要です。契約文言、対象者、就任後の地位変更、保険・補償との関係は個別に確認する必要があります。
一般的には、426条に基づき取締役会等で免除の決議・同意をした場合、株主に対する公告または通知、1か月以上の異議申述期間が必要とされています。3%以上の議決権を有する株主が異議を述べた場合、会社は免除できない扱いになります。会社類型や定款の内容で手続は変わる可能性があります。
一般的には、425条から427条による免除・責任限定は、善意・無重過失が要件とされています。悪意または重過失がある場合、これらの制度は使えないと整理されます。ただし、423条責任について総株主の同意による免除が理論上問題になることはあり、第三者責任、刑事責任、行政責任、開示責任などは別途検討が必要です。
一般的には、自己のために会社と直接取引をした場合、会社法428条により425条から427条の一部免除・責任限定は適用されないとされています。利益相反取引では、承認手続、価格の公正性、第三者評価、議事録、開示、税務・会計処理などを慎重に整備する必要があります。
一般的には、責任一部免除を行っても、手続や実体要件に問題があれば株主から争われる可能性があります。また、免除前に責任追及請求や代表訴訟が提起されている場合、訴訟手続との関係を整理する必要があります。個別の見通しは事実関係と手続経過で変わります。
一般的には、役員報酬月額だけで単純に計算するものではないとされています。報酬、賞与、兼務報酬、退職慰労金相当額、新株予約権利益などを確認し、会社法施行規則113条・114条に従って検討します。具体的な算定は会計・税務・報酬制度の資料をそろえて確認する必要があります。
一般的には、会社補償には会社に対する423条責任に係る部分など、補償できない範囲があるとされています。最低責任限度額を会社補償で実質的に肩代わりすることは、制度趣旨との関係で慎重に検討する必要があります。補償契約、取締役会決議、保険約款、開示との関係を個別に整理します。
一般的には、2026年5月14日時点では現行法は改正されていません。中間試案では、業務執行取締役等を責任限定契約の対象に加える方向の議論がありますが、確定した制度ではありません。今後の法制審議会、意見募集の結果、要綱案、法案、国会審議を確認する必要があります。
制度を正しく使うには、責任を軽くする方法だけでなく、説明可能なガバナンス設計が必要です。
取締役の責任一部免除と軽減規定は、単なる役員保護制度ではありません。会社法は、取締役に対する責任追及を原則として認めつつ、善意・無重過失の役員等について、最低責任限度額を残した一部免除や責任限定契約を認めることで、経営判断の萎縮を防ぎ、適切なガバナンス人材を確保しようとしています。
実務上の結論は、次の一覧に集約できます。この一覧は、条文、主観的要件、最低責任限度額、適用除外、周辺制度、法改正動向を横断して確認するためのまとめであり、平時のガバナンス設計にも使えます。
任務懈怠責任の成立可能性を見たうえで、免除・限定の可否を検討します。
425条・426条・427条はいずれも、善意・無重過失を前提にします。
425条・426条では最低責任限度額を残して一部免除し、427条でも少なくとも残ります。
2026年5月14日時点の現行法では、代表取締役や業務執行取締役は対象外です。
自己のための直接取引では、425条から427条は適用されません。
定款、登記、株主総会、取締役会、監査役等の同意、株主異議手続、開示、保険、補償を一体で管理します。
責任免除・責任限定は、事後的な救済策であると同時に、平時のガバナンス設計そのものです。取締役の意思決定過程を記録し、利益相反を管理し、内部統制を構築し、D&O保険・会社補償を整備し、定款・登記・株主説明を適切に行うことが、会社と株主に対して説明可能な経営判断を支えます。
主要な法令・公的資料と制度解説を整理しています。