会社補償契約は、役員等の防御費用や第三者損害に関する損失を会社が補償する制度です。対象者、補償できる範囲、機関決定、開示、補償実行時の審査、D&O保険との関係を一体で確認します。
会社補償契約は、役員等の防御費用や第三者損害に関する損失を会社が補償する制度です。
導入時に最初に押さえるべき制度目的、法定要件、運用上の注意点をまとめます。
会社補償契約とは、株式会社が役員等との間で、職務執行に関連して生じる一定の防御費用または第三者への賠償損失を補償することを約する契約です。令和元年会社法改正により、会社法430条の2で内容決定手続、補償できる範囲、補償できない範囲、返還請求、利益相反取引規制との関係が明文化されました。
この制度は、役員が過度な個人リスクを恐れて必要な経営判断を控えることを防ぐ一方で、会社財産を不当に流出させないための統制も求めます。したがって、契約締結だけで完結せず、決議資料、契約条項、補償実行時の審査、D&O保険、開示、監査、返還請求まで一体で設計することが重要です。
次の一覧は、会社補償契約の要件と手続きを五つの観点に分けたものです。全体像を先に把握することで、契約書だけでなく、決議、開示、支払時審査、返還請求まで確認すべき理由を読み取れます。
法令違反の疑いまたは責任追及請求への対応費用と、第三者損害に関する賠償金・和解金に係る損失が主な対象です。
通常要する額を超える防御費用、会社への任務懈怠責任相当部分、悪意・重過失による第三者損失などは補償できません。
補償後の取締役会報告、事業報告での開示、二重填補の精算、返還請求条項の運用まで管理します。
導入から事後管理までの順番は、制度の抜け漏れを防ぐために重要です。次の手順図では、左から右ではなく上から下へ進む順番として、目的確認から返還請求・規程改善までの流れを読み取れます。
社外役員招聘、危機対応、D&O保険の補完など、導入理由と役員等の範囲を整理します。
防御費用、第三者損失、罰金・課徴金、会社への責任追及時の扱いを分けます。
取締役会設置会社は取締役会、非設置会社は株主総会で契約内容を決定します。
署名者、契約期間、退任後の効力、株主総会参考書類・事業報告の記載を管理します。
費用の相当性、悪意・重過失、D&O保険、取締役会報告、返還可能性を確認します。
補償契約の定義、責任免除との違い、制度目的を整理します。
会社補償契約は、役員等が職務執行に関連して負担する一定の費用または損失を、会社が全部または一部補償する契約です。主な対象は、法令違反を疑われた場合や責任追及請求に対応するための防御費用と、第三者に生じた損害について役員等が負う賠償責任に関する損失です。
一方で、会社補償契約は、役員等の会社に対する任務懈怠責任を免除する制度とは異なります。役員等が任務を怠ったときは会社に対して損害賠償責任を負う可能性があり、責任免除や責任限定契約は会社法424条から427条などの別の規律で検討します。
次の比較表は、補償契約、責任免除、責任限定契約の違いを示しています。似た制度を混同すると、補償できる範囲や必要な手続を誤りやすいため、列ごとに「何を扱う制度か」と「会社財産への影響」を読み分けることが重要です。
| 制度 | 扱う内容 | 主な確認点 |
|---|---|---|
| 会社補償契約 | 職務執行に関する防御費用や第三者損害に関する損失を会社が補償します。 | 会社法430条の2、補償禁止範囲、決議、開示、補償後報告を確認します。 |
| 責任免除 | 役員等の会社に対する任務懈怠責任の免除を扱います。 | 株主保護、会社財産保護、会社法424条以降の要件を確認します。 |
| 責任限定契約 | 社外取締役など一定の者の会社に対する責任を限度内に抑える契約を扱います。 | 定款根拠、対象者、善意・無重過失、限度額を確認します。 |
会社補償契約の政策目的は、適法かつ合理的な職務遂行を支え、役員候補者、とくに社外取締役、独立役員、外国人役員、高度専門人材を迎えやすくすることにあります。他方で、無制限に会社が肩代わりすると、モラルハザードや株主共同の利益に反する支出につながります。
会社法上の役員等と、執行役員・従業員・子会社役員を区別します。
会社法430条の2が対象とする「役員等」は、会社法423条1項にいう役員等を基本に考えます。具体的には、取締役、会計参与、監査役、執行役、会計監査人です。会社法329条の「役員」と同じ範囲ではないため、用語の違いに注意が必要です。
次の一覧は、会社補償契約の対象者を会社法上の位置づけごとに整理したものです。対象者を誤ると、決議・開示・税務・費用負担の根拠がずれるため、自社で誰を含めるかを読み取ることが重要です。
| 区分 | 会社法430条の2での扱い | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 取締役・監査役・会計参与 | 会社法上の役員等として対象になり得ます。 | 全員同一条件か、社外役員中心か、退任後も含めるかを決めます。 |
| 執行役 | 指名委員会等設置会社の法定機関として対象になり得ます。 | 一般的な「執行役員」と混同しないことが重要です。 |
| 会計監査人 | 会社法423条1項の役員等に含まれます。 | 監査契約、独立性、事業報告での扱いを個別に確認します。 |
| 執行役員・従業員・顧問 | 当然には会社法430条の2の対象者に含まれません。 | 雇用契約、委任契約、社内規程、費用償還、保険で別途設計します。 |
| 子会社役員・出向者 | 親会社の役員等でない限り、親会社との関係では当然には対象になりません。 | 子会社での補償契約、グループD&O保険、費用負担契約を検討します。 |
日本企業で使われる「執行役員」は、多くの場合、会社法上の「執行役」ではありません。執行役員、従業員、顧問、外部専門家の防御費用を会社が負担すること自体が常に否定されるわけではありませんが、会社法430条の2の補償契約とは分けて根拠を検討します。
グループ会社では、親会社が子会社役員の費用を負担する場面で注意が必要です。次の判断の流れは、親会社、子会社、兼務者、出向者の関係を確認する順番を示しています。どの会社の職務に起因する費用かを先に分けることが、利益供与や税務上の問題を避けるために重要です。
親会社役員としての職務か、子会社役員としての職務かを確認します。
会社法430条の2の対象者に入るかを確認します。
子会社の補償契約、グループ保険、親子会社間契約を確認します。
寄附金、役員給与、利益供与、少数株主保護の問題が生じ得ます。
防御費用、第三者への賠償金・和解金、補償対象外になりやすい支出を分けます。
会社補償契約で中心となる補償対象は、防御費用と第三者損害に関する損失です。防御費用は、役員等が職務執行に関して法令違反を疑われ、または責任追及請求を受けたことに対処するための費用です。第三者損害に関する損失は、役員等が第三者に賠償金または和解金を支払うことで生じる損失です。
次の表は、補償できる可能性がある支出を類型ごとに整理しています。どの列に該当するかで、通常要する範囲、会社への責任、悪意・重過失、保険の有無という確認事項が変わるため、支出名だけでなく発生原因を読み取ることが重要です。
| 類型 | 具体例 | 確認すべき条件 |
|---|---|---|
| 防御費用 | 弁護士費用、法律意見書費用、訴訟代理人費用、行政調査・刑事捜査対応費用です。 | 職務執行関連性、法令違反の疑いまたは責任追及請求、通常要する範囲を確認します。 |
| 専門家費用 | 会計、税務、フォレンジック、鑑定、翻訳、通訳、文書レビュー、海外専門家費用です。 | 必要性、相当性、重複起用の有無、会社との利益相反を確認します。 |
| 第三者への賠償金 | 取引先、顧客、株主、投資家、債権者、消費者、従業員などへの賠償に関する損失です。 | 会社に対する任務懈怠責任相当部分が含まれないかを確認します。 |
| 第三者との和解金 | 第三者損害に関する紛争で成立した和解金に係る損失です。 | 会社・保険者の事前承認、責任原因、損害額、求償関係を確認します。 |
防御費用の代表例には、株主代表訴訟、会社による責任追及訴訟、第三者からの損害賠償請求、行政調査、刑事捜査、不祥事調査、証拠保全、海外手続への対応費用があります。ただし、高額な海外専門家費用、重複代理人費用、過剰な調査費用は、合理性・必要性・相当性の審査が欠かせません。
和解金は補償対象になり得ますが、役員等が会社の事前承諾なく和解した場合に補償対象外とする設計が実務上検討されます。D&O保険にも、保険者の承認なく和解すると保険金が支払われない条項が含まれることがあります。
次の一覧は、補償対象から外れやすい支出をリスクの性質ごとに並べています。読者にとって重要なのは、支出名が似ていても「防御費用」と「制裁金そのもの」では扱いが大きく異なる点を読み取ることです。
罰金、科料、課徴金、過料、制裁金そのものは、制裁の趣旨を空洞化するおそれがあるため慎重に扱います。
会社に対する任務懈怠責任の賠償金そのものは、第三者損害とは区別して検討します。
職務執行と無関係な私的行為、兼業先での行為、会社に虚偽説明をしたことにより生じた追加費用は対象外になりやすいです。
会社法430条の2第2項と返還請求の役割を確認します。
会社法430条の2第2項は、補償できない費用・損失を定めています。防御費用のうち通常要する額を超える部分、会社に対する任務懈怠責任相当部分、悪意または重大な過失により第三者責任を負う場合の損失は、会社補償契約で補償できません。
次の比較表は、三つの法定禁止範囲と契約上追加しやすい除外事由を並べています。どの根拠で補償できないのかを区別することで、契約書、決議資料、補償実行時の審査資料に何を残すべきかを読み取れます。
| 除外領域 | 内容 | 残すべき証跡 |
|---|---|---|
| 通常要する額超過 | 事案の性質、請求額、専門性、緊急性、法域、過去事例から見て過剰な防御費用です。 | 見積書、依頼範囲、選任理由、保険者承認、費用明細を残します。 |
| 会社への任務懈怠責任相当部分 | 会社が第三者に支払った場合に役員等へ求償できる部分を補償することはできません。 | 責任分析、監査役等への報告、外部専門家意見を残します。 |
| 悪意・重大な過失 | 役員等が悪意または重大な過失により第三者責任を負う場合の損失です。 | 事実認定、判決・和解・当局判断、社内調査資料を確認します。 |
| 契約上の追加除外 | 罰金、課徴金、横領、背任、贈収賄、証拠隠滅、虚偽報告、調査妨害などです。 | 除外条項、誓約書、調査協力義務、返還同意を整備します。 |
防御費用については、初期段階で疑いがあるだけでも費用が発生するため、一定の先行補償を認めたうえで、後から図利加害目的が判明した場合に返還請求で調整する構造です。契約上は、虚偽説明、証拠隠滅、調査妨害、保険金や第三者回収による二重填補も返還事由として追加することが考えられます。
取締役会・株主総会・委任不可事項・特別利害関係を整理します。
会社補償契約の内容決定は、取締役会設置会社では取締役会、非取締役会設置会社では株主総会が行います。会社法が機関決議を求めている以上、補償契約の実質的な内容を代表取締役や法務部門へ白紙で委ねることは避けるべきです。
次の表は、会社の機関設計ごとに必要となる決議と実務上の注意点を示しています。自社がどの列に該当するかを確認することで、誤った決議機関で契約を締結するリスクを避けられます。
| 会社類型 | 内容決定機関 | 注意点 |
|---|---|---|
| 取締役会設置会社 | 取締役会決議です。 | 契約書案または主要条件一覧を添付し、議事録に決議対象を明確に残します。 |
| 非取締役会設置会社 | 株主総会決議です。 | 中小企業・非公開会社では見落としやすいため、議事録と合理性資料を整備します。 |
| 監査等委員会設置会社 | 取締役会決議です。 | 補償契約の内容決定は取締役へ委任できない事項として扱います。 |
| 指名委員会等設置会社 | 取締役会決議です。 | 執行役へ内容決定を委任できない事項として扱います。 |
取締役会決議では、契約相手方の範囲、補償対象、補償対象外事項、限度額、請求手続、事前承認、和解承認、D&O保険との優先順位、返還請求、報告義務、契約期間、退任後の扱い、準拠法などを決めることが望まれます。
次の一覧は、決議資料に入れるべき事項を重要度順に整理したものです。各項目を確認することで、機関決定として十分な具体性があるか、後日の補償実行時にも使える資料になっているかを読み取れます。
全役員同一条件か、退任後の職務執行分を含めるか、新任役員に自動適用するかを決めます。
決議資料防御費用、第三者損失、罰金・課徴金、会社への責任追及時の扱いを明記します。
契約条項和解、弁護士選任、専門家起用、補償後の取締役会報告、返還請求事由を定めます。
事後管理会社補償契約は利益相反的な性質を持ちますが、会社法430条の2第6項と第7項により、所定の補償契約について一般の利益相反取引規制や民法108条の自己契約・双方代理規制は適用されません。ただし、これは自由に何でもできるという意味ではなく、特別の決議手続や補償禁止範囲があるために一般規制を重ねないという構造です。
補償対象となる取締役が取締役会決議に参加できるかは、実務上重要です。全取締役を同一内容で補償対象とする場合は共通利害にすぎないと整理されることがありますが、特定役員だけを有利に扱う場合や過去事案へ適用する場合は、審議・議決からの退席、外部専門家意見、必要に応じた株主総会決議を検討します。
目的、対象者、補償範囲、通知承認、限度額、保険調整、返還請求を確認します。
会社補償契約では、目的条項、対象者条項、補償対象条項、除外条項、事前通知・承認条項、補償限度額条項、D&O保険との調整条項、返還請求条項を整備します。条項は、会社法430条の2の範囲を超えないことと、正当な職務遂行を支えることの両方を意識して作ります。
次の一覧は、契約条項ごとの役割をまとめたものです。条項名だけではなく、補償請求が発生したときにどの条項で判断するかを読み取ることで、実務運用に使える契約に近づきます。
| 条項 | 主な内容 | 実務上の狙い |
|---|---|---|
| 目的条項 | 適正な職務遂行の支援と会社法430条の2を超えない補償を明記します。 | 補償対象該当性や返還請求の解釈指針にします。 |
| 対象者条項 | 取締役、監査役、執行役、退任役員、新任役員の扱いを具体化します。 | 候補者、退任後請求、開示対象との整合を取ります。 |
| 補償対象条項 | 防御費用、第三者損害の賠償金・和解金、通常要する範囲を定義します。 | 「一切の損害」など過度に広い表現を避けます。 |
| 除外条項 | 法定禁止範囲、罰金・課徴金、虚偽報告、証拠隠滅、調査妨害を除外します。 | 会社財産の不当流出とモラルハザードを抑えます。 |
| 通知・承認条項 | 請求、調査、訴訟、和解、弁護士選任、専門家起用について通知・承認を求めます。 | 保険通知、証拠保全、危機対応の遅れを防ぎます。 |
| 返還請求条項 | 図利加害目的、虚偽説明、補償対象外事由、二重填補が判明した場合の返還を定めます。 | 先払い・立替払いのリスクを調整します。 |
会社と役員等の利益が相反する場合、会社が役員の防御権を一方的に制限することは避ける必要があります。会社承認条項には、独立弁護士選任、監査役・監査等委員・社外取締役の確認、外部専門家意見の取得などを組み合わせることが考えられます。
補償限度額は会社法上必須ではありませんが、役員の職務執行の適正性が損なわれないようにする措置として有用です。D&O保険の支払限度額、会社規模、役員報酬、海外展開、上場市場、過去の訴訟規模を踏まえて設定します。
株主総会参考書類、事業報告、上場会社の開示文書との整合を確認します。
役員選任議案を提出する場合、候補者と会社との間で補償契約を締結しているとき、または締結予定があるときは、株主総会参考書類に補償契約の内容の概要を記載する必要があります。取締役選任議案では会社法施行規則74条1項5号が問題になります。
公開会社で、取締役、監査役または執行役と会社との間で補償契約を締結している場合は、事業報告で会社役員の氏名と補償契約の内容の概要を記載します。会社法施行規則121条3号の2は、職務執行の適正性が損なわれないようにする措置を講じている場合、その内容も概要に含めるとしています。
次の比較表は、株主総会参考書類と事業報告で見ている時点と目的の違いを整理しています。どちらに何を書くかを混同すると、候補者情報と事業年度報告の役割が曖昧になるため、行ごとに記載目的を読み分けることが重要です。
| 開示書類 | 主な目的 | 確認する内容 |
|---|---|---|
| 株主総会参考書類 | 株主が役員候補者を選任するか判断するための情報を提供します。 | 候補者との締結済み・締結予定の有無、内容の概要、D&O保険との整合を確認します。 |
| 事業報告 | 事業年度における契約締結・履行状況を報告します。 | 氏名、内容の概要、適正性確保措置、補償履行時の金額・事実の記載要否を確認します。 |
| 上場会社の関連文書 | 投資家や市場へリスク管理体制を説明します。 | 有価証券報告書、コーポレートガバナンス報告書、招集通知、統合報告書との矛盾を確認します。 |
補償契約に基づく補償を実際に行った場合、事業報告で一定の補償履行に関する事項が問題になります。防御費用を補償した会社が、その事業年度に役員の法令違反または責任負担を知った場合や、第三者損害に関する損失を補償した場合には、記載の要否と粒度を検討します。
開示文案では、対象者名、補償対象、補償できない事項、限度額、返還請求条項、会社の事前承認、和解承認、D&O保険との調整、適正性確保措置を確認します。簡潔でありながら、株主が重要な点を理解できる粒度が必要です。
契約締結時と支払時の判断を分け、補償後報告と返還請求まで管理します。
会社補償契約は、締結時に適法であっても、実際に補償を行う段階で個別審査が必要です。将来の請求・調査・訴訟の内容、費用額、悪意・重過失、会社に対する任務懈怠責任、D&O保険の適用可否は、契約締結時には未確定であることが多いためです。
次の時系列は、補償請求が発生してから取締役会報告・開示検討までの順番を示しています。順番を追うことで、通知、費用相当性、保険連携、支払、返還可能性を同時に管理する必要があることを読み取れます。
役員等から会社へ速やかに通知し、保険通知期限、証拠保全、危機対応の初動を確認します。
職務執行関連性、責任追及請求、通常要する範囲、悪意・重過失、会社への責任相当部分を検討します。
先払いを認める場合は、誓約書、返還同意書、費用明細、保険金回収時の精算同意を取得します。
重要な事実を取締役会へ報告し、事業報告の記載要否と返還請求の可能性を確認します。
取締役会設置会社では、補償契約に基づく補償をした取締役および補償を受けた取締役は、遅滞なく重要な事実を取締役会に報告する必要があります。執行役についても準用されます。報告事項には、対象者、請求・調査・訴訟の概要、補償した費用・損失の種類、補償金額、根拠条項、D&O保険請求状況、補償禁止事由の検討結果、返還請求可能性、開示要否が含まれます。
会社と役員の利益が対立する場合は、会社が役員の弁護士選任や訴訟方針を強く制御しすぎると防御権を害するおそれがあります。他方で、無条件に会社財産を使うと、会社自身への防御活動を会社が支える構造になります。独立社外取締役、監査役、監査等委員、監査委員、外部専門家の関与を検討します。
会社補償契約と役員等賠償責任保険契約は補完関係にあります。
D&O保険は、会社が保険会社との間で締結し、役員等が職務執行に関して責任を負うこと、または責任追及請求を受けることによって生じる損害を保険者が填補する保険契約です。会社法430条の3第1項は、D&O保険の内容決定についても、株主総会または取締役会設置会社の取締役会決議を要求しています。
次の表は、会社補償契約とD&O保険の違いを整理しています。両者を代替関係ではなく補完関係として見ることで、会社財産の支出、保険免責、限度額超過、支払までの時間差をどう調整するかを読み取れます。
| 項目 | 会社補償契約 | D&O保険 |
|---|---|---|
| 契約当事者 | 会社と役員等です。 | 会社と保険会社です。 |
| 支払者・財源 | 会社が会社財産から支払います。 | 保険会社が保険金として支払います。 |
| 内容決定 | 株主総会または取締役会で決定します。 | 株主総会または取締役会で決定します。 |
| 強み | 保険免責、免責金額、限度額超過、迅速支払に対応しやすいです。 | 会社財産の直接流出を抑え、第三者である保険者の審査が働きます。 |
| 弱み | 利益相反と会社財産流出リスクがあります。 | 免責、通知義務、保険者承認、支払遅延、限度額の制約があります。 |
実務上は、D&O保険を基本的なリスク移転手段とし、保険で填補されない部分、保険金支払までの立替、免責金額、限度額超過部分を会社補償契約で補完する設計が検討されます。会社補償契約だけに依存すると、株主説明上の負担が大きくなります。
重複填補は禁止する必要があります。役員等が会社から防御費用の支払を受け、その後D&O保険金も受領した場合には、精算または返還が必要です。契約上、保険金受領時の通知義務、会社への返還義務、保険者への代位・求償協力義務を設けます。
監査役等、社外取締役、内部監査が見るべきポイントを整理します。
監査役、監査等委員、監査委員は、会社補償契約を役員福利厚生としてではなく、取締役の職務執行、利益相反、会社財産の支出、事業報告の適法性に関わる事項として監査します。社外取締役も、補償契約の受益者であると同時に、会社のガバナンスを監督する立場にあります。
次の一覧は、監査役等と社外取締役が見るべきポイントを並べたものです。制度が役員を過度に守る仕組みになっていないか、正当な職務遂行だけを保護しているかを読み取るために重要です。
決議が適法か、契約内容が議事録に残っているか、補償禁止範囲が除外されているか、補償後報告と事業報告の記載が適切かを確認します。
D&O保険だけでは足りない理由、限度額の合理性、不正・重過失の除外、補償審査者、開示文案の十分性を確認します。
補償請求受付、法務・経理・監査役室の確認、保険通知、取締役会報告、文書保存、内部監査での点検を規程化します。
監査上は、会社法430条の2第1項の決議、契約上の除外事由、適正性確保措置、利益相反処理、補償実行時の審査資料、取締役会への報告、開示、返還請求の必要性、D&O保険との重複填補を確認します。
非上場会社、スタートアップ、公開会社・上場会社で重視する点は異なります。
会社補償契約は上場会社だけの制度ではありません。非上場会社、中小企業、スタートアップでも、製品事故、労務問題、資金調達、創業者間紛争、個人情報漏えい、税務調査、補助金不正、許認可違反などで役員個人が対応費用を負担する場面が生じ得ます。
次の比較表は、会社類型ごとの設計上の重点を示しています。会社規模や上場区分により、決議機関、開示、株主説明、D&O保険の役割が変わるため、自社の列を中心に読み取ることが重要です。
| 会社類型 | 重視する点 | 実務対応 |
|---|---|---|
| 中小企業・非取締役会設置会社 | 株主総会決議の要否と同族会社での合理性説明です。 | 議事録、契約書、少数株主・債権者・税務当局へ説明できる資料を整えます。 |
| スタートアップ | 社外役員、CFO、監査役、投資家推薦役員を迎えるための制度整備です。 | D&O保険を基本に、保険で補填されない防御費用を限定的に補償します。 |
| 上場会社・公開会社 | 投資家、議決権行使助言会社、監査法人、取引所から見られる制度です。 | 補償限度額、承認手続、返還条項、株主に理解可能な開示、監査役等の監督を整えます。 |
上場会社では、会社法上の開示に加え、有価証券報告書、コーポレートガバナンス報告書、招集通知、事業報告、統合報告書、役員就任契約、D&O保険説明資料など複数文書の整合が必要です。重大な補償実行、不祥事、役員責任追及、第三者委員会設置、巨額損失と結びつく場合は、適時開示や臨時報告書との関係も検討します。
会社法上の適法性だけでなく、税務・会計・内部統制・不祥事対応も確認します。
会社が役員等の費用または損失を負担する場合、法人税上の損金性、役員給与該当性、経済的利益、源泉徴収、寄附金、交際費、グループ間費用負担、海外税務が問題になり得ます。会社法上補償可能でも、税務上常に会社の損金として扱えるとは限りません。
次の一覧は、会社補償契約の運用時に法務以外の部門が確認すべき観点を整理しています。補償契約は法務だけで完結せず、経理、税務、内部監査、危機管理と連携する必要があることを読み取れます。
不正行為に関する支出、会社への責任追及への防御費用、支配株主への支出、親会社による子会社役員費用の負担では、税理士・公認会計士との確認が重要です。
損金性具体的な訴訟・請求・調査が発生し、補償義務の可能性と金額を合理的に見積もれる場合は、引当金、偶発債務、注記を検討します。
引当補償契約管理台帳、D&O保険台帳、補償請求受付手順、取締役会報告テンプレート、開示チェックリストを整備します。
統制不祥事調査、第三者委員会、刑事・行政事件では、会社と役員の利益相反、共同代理の可否、罰金・課徴金の扱いを慎重に確認します。
不祥事不祥事が発生すると、事実調査、原因分析、責任追及、再発防止、当局対応、被害者対応、開示、メディア対応が同時に進みます。役員が調査対象者や責任追及対象者になる場合、会社が防御費用を全面的に負担すると、株主・従業員・当局から不当と見られる可能性があります。他方で、調査協力者として個人の法的リスクがある場合は、一定の防御費用補償が合理的なこともあります。
海外当局対応では、現地法上の補償規制、D&O保険、弁護士秘匿特権、司法取引、制裁法、贈収賄規制も確認します。国際カルテル、海外贈収賄、米国証券訴訟、情報セキュリティ事故などでは、通常必要な防御費用が高額になる可能性があります。
法務、開示、監査・内部統制の三方向から導入前に確認します。
導入前チェックでは、法務上の要件だけでなく、商事法務・開示、監査・内部統制の確認を並行して行います。次の表は確認事項を三つの領域に分けたものです。抜け漏れを防ぐには、担当部門ごとにチェックするのではなく、契約締結から補償実行までの証跡として何を残すかを読み取ることが重要です。
| 領域 | 主な確認事項 | 成果物 |
|---|---|---|
| 法務 | 株式会社か、機関設計、対象者、補償範囲、禁止範囲、返還請求、D&O保険、和解承認、利益相反体制を確認します。 | 契約書案、主要条件一覧、取締役会または株主総会資料です。 |
| 商事法務・開示 | 候補者ごとの締結済み・締結予定、事業報告記載、適正性確保措置、D&O保険記載との整合を確認します。 | 株主総会参考書類、事業報告、開示チェックリストです。 |
| 監査・内部統制 | 監査役等への事前説明、補償請求受付、支払承認、保険通知、取締役会報告、文書保存、内部監査を確認します。 | 台帳、承認手順、報告テンプレート、保存ルールです。 |
取締役会決議では、契約の本質的内容を明確にし、代表取締役への一任は細目的事項に限ることが重要です。次の整理例は、決議で押さえるべき項目を示しています。個別会社でそのまま使うものではなく、決議対象の具体性を確認するために読むものです。
会社法430条の2第1項に基づき、対象役員等との補償契約の内容を決定します。
通常要する範囲の防御費用と、第三者損害に係る賠償金・和解金に関する損失を定めます。
会社法430条の2第2項各号、罰金・課徴金、会社への任務懈怠責任、悪意・重過失による損失を除外します。
D&O保険との調整、返還請求、取締役会報告、会社側署名者、細目的修正の範囲を明確にします。
誤解を避け、標準モデル・高リスク会社モデル・不祥事発生会社モデルを整理します。
一般的には、D&O保険には免責、限度額、支払遅延、保険者承認、通知義務、保険期間、海外請求などの制約があるため、会社補償契約が補完的な意味を持つ場合があります。ただし、保険条件や会社のリスク状況によって結論は変わる可能性があります。具体的な設計は、保険証券や契約案を確認したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、会社法430条の2第2項が補償できない費用・損失を定めているため、契約書に広い文言を書いても法定禁止範囲は補償できないと考えられます。ただし、個別の費用や損失がどの類型に当たるかは事実関係によって変わります。具体的には、請求内容、費用明細、役員の認識、会社への責任関係を整理して専門家へ相談する必要があります。
一般的には、取締役会決議は補償契約の内容決定手続であり、実際の補償時には個別費用・損失が補償対象か、禁止範囲に該当しないか、D&O保険と重複しないかを別途確認するとされています。ただし、社内規程や契約条項によって運用は変わります。具体的な補償実行は、審査資料を残したうえで専門家へ相談する必要があります。
一般的には、非上場会社でも会社法430条の2の内容決定手続と補償禁止範囲は問題になります。公開会社でない場合は事業報告上の記載義務の範囲が異なり得ますが、契約の適法性、税務、少数株主、債権者対応は別に検討する必要があります。
次の一覧は、会社のリスク状況に応じた設計モデルを整理しています。標準的な会社、高リスク会社、不祥事発生会社では重視する統制が異なるため、自社がどの状態に近いかを読み取ることが重要です。
全取締役・監査役・執行役を対象に、防御費用を通常要する範囲で補償し、第三者損失は悪意・重過失や会社への責任相当部分を除いて補償します。D&O保険を優先し、二重填補を禁止します。
調査中または不祥事後に導入・変更する場合は、過去行為への遡及適用、独立委員会、監査役会、外部専門家意見、開示方針を慎重に整理します。
正当な職務遂行を守り、不正・重過失・会社損害を守らない線引きを具体化します。
会社補償契約の要件と手続きは、会社法430条の2の文言を確認するだけでは十分に運用できません。役員等の防御費用や第三者責任に関する損失を会社が補償する制度であり、適正なリスクテイクを支える重要なガバナンス装置です。同時に、会社財産を役員個人のために支出する利益相反的な制度でもあります。
次の重要ポイントは、このページ全体の結論をまとめたものです。導入・運用のどの段階でも、対象者、範囲、決議、保険、審査、報告、開示、返還という順番に戻って確認することが重要です。
正当な職務遂行を保護し、不正・重過失・会社損害を保護しない線引きを、契約条項、決議資料、補償審査、開示、監査、内部統制に落とし込むことです。
会社補償契約の制度理解に用いる公的資料・実務資料です。