英国Modern Slavery Act 2015のsection 54を中心に、適用判定、年次ステートメント、サプライチェーン把握、契約、救済、KPI、取締役会承認までを整理します。
年次ステートメントだけでなく、ガバナンス、人権 デューデリジェンス、契約管理を一体で整えるテーマです。
英国現代奴隷法への対応は、年に一度「現代奴隷を許さない」と宣言する広報活動ではありません。英国Modern Slavery Act 2015のsection 54は、一定規模以上の商業組織に対し、毎会計年度、自社事業とサプライチェーンにおける奴隷・人身取引リスクへの取組を公表することを求めています。
英国政府の実務ガイダンスは、法定最低限の形式要件だけでなく、事業構造・サプライチェーン把握、方針、リスク評価、デューデリジェンス、研修、KPI、救済、継続改善までを含む実質的対応を期待しています。このページは、2026年6月14日時点の制度・ガイダンスを前提に、企業法務、コンプライアンス、内部監査、購買、人事労務、サステナビリティ、財務、危機管理の視点を統合して整理します。
世界の現代奴隷リスクは、企業にとって人権課題であるだけでなく、違法な競争優位、調達コスト、通関、投資家評価、取引先審査、金融機関審査、M&A、レピュテーション、危機管理の問題です。ILO等の推計では、2021年時点で現代奴隷状態にある人は約5,000万人、そのうち強制労働は約2,760万人とされています。ILOは、強制労働が年間2,360億米ドル規模の違法利益を生むとも公表しています。
次の重要ポイントは、このページ全体の結論を表しています。読者にとって重要なのは、英国現代奴隷法への対応を「英国子会社の開示作業」だけで捉えず、サプライチェーン、労務、契約、内部統制、取締役会監督までつなげて読むことです。
section 54の中心は年次ステートメントですが、信頼される開示には、リスク評価、労働者への影響把握、サプライヤー管理、通報・救済、KPI、翌年度改善計画が欠かせません。
次の一覧は、英国現代奴隷法への対応が日本企業に波及しやすい場面を表しています。各項目は、契約・審査・開示・内部統制のどこから対応が必要になるかを読み取るために重要です。
英国子会社、英国支店、英国向け販売、英国でのサービス提供、英国法人を通じた保守・サポートがある場合に検討が必要です。
英国上場会社グループ、英国企業とのJV、英国でのM&A、英国企業グループ傘下への組込みで問題になりやすいです。
英国公共調達、英国大企業のサプライヤー審査、金融機関の融資・投資審査でステートメントや方針が求められます。
日本国内の外国人労働者、派遣、請負、寮、採用手数料、長時間労働、パスポート管理も説明対象になり得ます。
次の比較表は、英国現代奴隷法への対応で押さえるべき問題領域を整理しています。列ごとに、何を確認し、どの部署が関与するかを読むことで、初動の抜け漏れを減らせます。
| 領域 | 確認すること | 主な関与部門 |
|---|---|---|
| 適用判定 | 英国で事業を行う商業組織か、商品・サービス供給があるか、年間総売上高が3,600万ポンド以上かを確認します。 | 法務、財務、現地法人管理 |
| 年次開示 | 対象年度、対象法人、承認日、署名者、ウェブ掲載、ホームページ上の明確なリンクを確認します。 | 法務、広報、IR、取締役会事務局 |
| 実質対応 | サプライチェーン把握、方針、リスク評価、デューデリジェンス、研修、KPI、救済を整えます。 | 調達、人事、コンプライアンス、内部監査 |
| 継続改善 | 未把握領域、Tier 2以降、労働者の声、是正計画、翌年度計画をステートメントに反映します。 | 経営、サステナビリティ、リスク管理 |
section 54の位置づけ、対象組織、英国事業プレゼンス、グループ対応を確認します。
英国Modern Slavery Act 2015は、現代奴隷に関する刑事法制、被害者保護、当局権限などを含む包括的法律です。企業実務に最も直接関係するのがsection 54で、英国政府はこの規定をTransparency in Supply Chains規定として説明しています。
section 54は、フランス、ドイツ、EUなどで発展している包括的な人権デューデリジェンス義務そのものとは構造が異なります。現時点の中核は、一定の報告・透明性義務です。ただし、質の高いステートメントを作成するには、リスク評価、デューデリジェンス、労働者とのエンゲージメント、救済、KPI、継続改善が必要になります。
次の比較表は、年次ステートメントの対象となる商業組織の要件を表しています。どれか一つだけを見るのではなく、法人性、英国事業、商品・サービス供給、売上高、子会社売上の扱いを順番に確認することが重要です。
| 要件 | 確認ポイント | 日本企業での注意点 |
|---|---|---|
| 法人またはパートナーシップ | 設立地・組成地は英国に限られません。 | 日本法人でも、他の要件を満たす場合は検討対象になります。 |
| 英国で事業を行う | 英国で事業または事業の一部を行うかを見ます。 | 英国子会社、支店、オフィス、サービス機能、英国収入、英国向けサイトなどを確認します。 |
| 商品・サービス供給 | 商品またはサービスを供給しているかを確認します。 | 販売、保守、サポート、SaaS、物流、金融、R&D機能も確認対象です。 |
| 年間総売上高 | 年間総売上高が3,600万ポンド以上かを確認します。 | 当該組織だけでなく、子会社売上も含めて判定します。 |
| 会計年度 | どの会計年度について義務が生じるかを整理します。 | M&A、組織再編、英国進出・撤退、売上変動で毎年見直します。 |
次の一覧は、「英国で事業を行う」かを検討するときに見落としやすい要素を表しています。単発注文や英国向けウェブサイトだけで常に対象になるとは限らないため、実体、契約構造、売上、支配関係、顧客対応、グループ内機能を具体的に読み取ることが大切です。
Companies House登録、英国オフィス、英国支店、英国子会社、物流・データセンター・管理機能の有無を確認します。
英国顧客への継続供給、英国法人経由の販売・保守・サポート、英国公共調達への参加を確認します。
親会社名で包括的に出す場合も、どの法人と事業・サプライチェーンをカバーするかを明確にします。
次の判断の流れは、初回の適用判定をどの順番で進めるかを表しています。分岐の順番に意味があり、売上高だけで早合点せず、英国事業の実体と対象法人を併せて読み取ることが重要です。
日本法人を含め、対象になり得るグループ会社を洗い出します。
拠点、売上、機能、顧客、ウェブサイト、契約主体を確認します。
販売、保守、SaaS、委託、金融、物流、管理機能を含めて確認します。
子会社売上や英国外活動も含めた総売上高を財務データで確認します。
グループステートメントにする場合も、対象法人と掲載場所を明確にします。
グループ対応では、各対象会社が個別にステートメントを作成する方法と、グループとして一つのステートメントを作成する方法があります。グループステートメントでは、対象となる親会社・子会社、英国ウェブサイトでの掲載、政府レジストリ登録主体、承認機関、署名者、グループ内責任分担を明確にする必要があります。
法定最低要件、6領域、レジストリ、透明性による評価を整理します。
英国現代奴隷法への対応の第一歩は、法定最低要件を正確に満たすことです。対象組織は、各会計年度についてステートメントを作成し、会計年度終了後できるだけ速やかに、遅くとも6か月以内に公表することが実務上の目安です。対象会計年度の終了日を明記することも重要です。
次の一覧は、年次ステートメントで特に漏れが多い最低要件を表しています。各項目は、形式的な記載に見えても、取締役会の説明責任、閲覧者のアクセス、レジストリ評価に直結するため、公表前に必ず読み合わせることが重要です。
対象年度ごとに、当該年度に講じた措置または措置を講じていない旨を記載します。
会社では取締役会または同等の経営機関が承認し、取締役または同等の者が署名します。承認日、氏名、職位、署名日を明確にします。
自社ウェブサイトに掲載し、ホームページ上の目立つ場所から内容が分かる名称でリンクします。ウェブサイトがない場合は請求後30日以内の書面提供が必要です。
次の比較表は、section 54(5)で伝統的に示される6領域を表しています。6領域の記載状況は、形式的適法性だけでなく、顧客、投資家、NGO、英国政府レジストリから見た実質的信頼性に影響します。
| 領域 | 記載内容 | 実務で深掘りする点 |
|---|---|---|
| 組織構造・事業・サプライチェーン | 事業、地域、製品・サービス、主要サプライチェーンを説明します。 | Tier 1、Tier 2以降、高リスク国・商品・サービス、未把握領域を記載します。 |
| 方針 | 現代奴隷、人身取引、人権、調達、採用、苦情処理の方針を示します。 | サプライヤーや労働者が理解できる言語・方法で展開されているかを確認します。 |
| デューデリジェンス | 質問票、監査、労働者インタビュー、第三者データ、是正確認を説明します。 | 監査の限界、労働者の声、NGO・労働組合・専門家との関与も確認します。 |
| リスク評価・管理 | 国、業種、商品、労働者属性、採用・労務供給、取引形態で評価します。 | 会社へのリスクではなく、人に対する害のリスクを起点に整理します。 |
| KPI | 研修率、監査件数、是正完了率、通報、採用手数料返還などを測ります。 | 件数だけでなく、有効性、労働者への到達、翌年度改善につながる指標にします。 |
| 研修 | 経営層、法務、調達、人事、現場管理者、サプライヤー向け研修を説明します。 | 対象者別の内容、理解度、実務での行動変容を確認します。 |
次の一覧は、ステートメントの信頼性を下げやすい状態を表しています。読者は、単にPDFが存在するかだけではなく、対象年度、対象法人、承認・署名、掲載場所、実質的な取組の具体性を読み取ることが重要です。
親会社名で包括的に公表していても、どの法人・事業・サプライチェーンをカバーしているかが分からない状態です。
PDFを深い階層に置くだけ、旧年度リンクが切れている、英国サイトに掲載されていない状態です。
取締役会承認日、署名者の氏名・職位、署名日が分からない状態です。
「ゼロトレランス」だけで、リスク評価、是正、救済、KPI、未対応事項が記載されていない状態です。
section 54上は、当該年度に措置を講じていない場合でも、その旨を明記したステートメントを公表する形はあり得ます。しかし、企業法務・取締役会・投資家・顧客・公共調達・金融機関・NGO・メディアの観点では、重大なマイナス評価につながる可能性があります。
不遵守の場合、Secretary of StateがHigh Courtで差止命令を求める可能性があり、命令に従わない場合には裁判所命令違反として無制限の罰金につながる可能性があります。2026年6月14日時点では自動的な行政罰・課徴金制度が整備されているわけではありませんが、レジストリ、顧客審査、投資家評価、NGO評価、公共調達、メディア報道を含む「透明性による制裁」が実務リスクです。
現代奴隷、強制労働、ILO指標、人権デューデリジェンス、救済の意味を整理します。
現代奴隷とは、脅迫、暴力、強制、欺罔、権力濫用などにより、本人が拒否したり離脱したりできない搾取状態を指します。英国政府ガイダンスでは、Modern Slavery Act上の奴隷、隷属、強制労働または義務労働、人身取引などが中心になります。
次の一覧は、英国現代奴隷法への対応で頻出する基礎概念を表しています。用語の意味を分けておくと、ステートメント、契約条項、監査質問票、通報対応で何を確認しているのかを読み取りやすくなります。
ILOの考え方では、何らかの罰の脅しの下で強いられ、本人が自発的に申し出たものではない労働またはサービスです。
実際または潜在的な人権への負の影響を特定し、防止・軽減し、追跡し、説明する継続的プロセスです。
被害を受けた個人または集団を、可能な限り被害がなかった状態に戻す、または補償その他の手段で害を是正する考え方です。
次の一覧は、ILOの強制労働指標として実務上確認される兆候を整理したものです。一つの兆候だけで直ちに断定せず、複数の兆候、離職可能性、採用手数料、債務、住居、移民資格、賃金・勤怠記録、派遣・請負構造を総合して読むことが重要です。
移民資格、言語、貧困、採用時説明との相違、虚偽の労働条件を確認します。
寮、外出制限、監視、交通手段、連絡手段、相談先へのアクセスを確認します。
身体的・性的暴力、解雇・通報・送還の脅し、家族への圧力、監督者の威圧を確認します。
パスポート、在留資格関連の身分証、身分証明書が本人の自由な管理下にあるかを確認します。
賃金控除、未払、採用手数料、借金、返済条件、給与明細の理解可能性を確認します。
過度な残業、危険な作業、寮環境、安全衛生、休憩、退職の自由を確認します。
現代奴隷法務でいうリスクは、第一に企業への法的・財務的リスクではなく、人に対する害のリスクです。もちろん企業の法的リスク、取引停止リスク、評判リスクも管理対象ですが、出発点は「どの労働者が、どこで、どのような搾取にさらされているか」です。
次の比較表は、現代奴隷リスク評価の主要な軸を表しています。列ごとに、国別スコアだけでは足りない理由を読み取り、英国国内を含む全ての地域・産業を対象に優先順位を付けることが重要です。
| 評価軸 | 確認内容 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 国・地域 | 高リスク国、紛争、移民労働、法執行状況を確認します。 | 英国国内にも現代奴隷リスクは存在します。 |
| 業種・工程 | 製造、食品、農業、建設、物流、清掃、警備、ホテル、介護、ITサービスを確認します。 | 直接材だけでなく、サービス委託も対象です。 |
| 商品・原材料 | 鉱物、アパレル、電子部品、再生可能エネルギー関連材料などを確認します。 | Tier 2以降の把握不足が生じやすいです。 |
| 労働者属性 | 移民、女性、難民、子ども、少数民族、非正規労働者を確認します。 | 通報制度にアクセスできるかも確認します。 |
| 採用・労務供給 | 採用手数料、ブローカー、派遣、請負、寮を確認します。 | 労働者負担の費用が債務拘束につながることがあります。 |
| 取引形態 | スポット購買、短納期、低価格、仕様変更、再委託を確認します。 | 自社の購買慣行がリスクを高めることがあります。 |
取締役会、CLO、法務、調達、人事、内部監査、財務が横断して動く体制を作ります。
英国現代奴隷法への対応では、取締役会が年次ステートメントを承認します。したがって、取締役会は単に文書を追認する場ではなく、現代奴隷リスクの重要性、優先リスク、デューデリジェンス計画、KPI、重大インシデント、救済方針、開示方針を監督する場です。
次の比較表は、部門ごとの主な責任を表しています。対応を法務部の文書作成に閉じ込めると実効性が弱くなるため、誰がどの証跡を持ち、どの会議体に報告するかを読み取ることが重要です。
| 役割 | 主な責任 | 取締役会資料に入れる証跡 |
|---|---|---|
| 取締役会 | ステートメント承認、リスク監督、重大方針、救済方針を確認します。 | 適用判定、対象法人、主要リスク、KPI、未対応事項、翌年度計画です。 |
| CEO・CLO・GC | 全社方針、説明責任、部門横断調整を担います。 | 責任者、会議体、報告頻度、署名者、掲載方針です。 |
| 法務 | 適用判定、契約条項、開示レビュー、調査・救済、外部弁護士連携を担います。 | 契約ひな形、法的要件メモ、ステートメント案、調査方針です。 |
| コンプライアンス | 行動規範、研修、通報制度、調査手続、報復禁止を整えます。 | 研修記録、通報件数、調査結果、是正計画です。 |
| 調達 | サプライヤー把握、リスク評価、取引先是正、購買慣行改善を担います。 | サプライヤー一覧、質問票、監査結果、是正状況です。 |
| 人事労務 | 派遣、請負、外国人労働者、寮、採用手数料、退職自由を確認します。 | 労務監査、派遣・請負管理、採用関連規程、相談記録です。 |
| 内部監査・財務 | 統制の有効性、売上高判定、支払記録、非財務開示連携を確認します。 | 監査調書、売上高資料、支払データ、改善勧告です。 |
次の一覧は、取締役会資料に入れるべき主要情報を表しています。取締役が形式的な承認だけでなく、どのリスクが残っているかを読み取れる状態にすることが重要です。
対象法人、対象会計年度、英国事業プレゼンス、総売上高、グループステートメントの対象範囲を示します。
判定高リスク国・商品・サービス、発見されたインシデント、未把握領域、翌年度改善計画を示します。
監督承認日、署名者、署名日、掲載URL、ホームページリンク、政府レジストリ登録方針を確認します。
開示企業内弁護士は、適用判定、グループ体制、取締役会承認、契約条項、M&Aデューデリジェンス、インシデント対応、ステートメント草案の法的レビューを主導します。外部弁護士は、英国法、国際人権法、現地労働法、サプライチェーン規制、開示リスク、訴訟・当局対応、危機管理、クロスボーダー調査を補完します。
次の一覧は、過大な保証を避けるための開示姿勢を表しています。読者は、断定的な無リスク宣言ではなく、把握範囲、限界、改善計画、救済方針が説明されているかを読み取ることが重要です。
自社サプライチェーンに現代奴隷が一切存在しない、全サプライヤーを完全に管理している、といった断定は慎重に扱います。
ゼロトレランス方針だけで、監査、是正、救済、KPI、翌年度計画がない記載は信頼性を下げます。
優先リスク、実施済み措置、把握できていない範囲、次年度の改善を具体的に説明します。
過度な短納期、仕様変更、値下げ圧力、再委託放置が搾取リスクを高める可能性を確認します。
自社事業の強制労働リスクは、人事労務管理と密接に関係します。派遣、請負、技能実習、特定技能、移民労働者、季節労働、寮、長時間労働、賃金控除、採用手数料、パスポート管理、退職の自由、労働契約書の言語、労働組合・従業員代表へのアクセスを点検します。
適用判定からサプライチェーン把握、契約、研修、救済、KPI、公表までを実装します。
英国現代奴隷法への対応は、ステートメント作成だけを年度末に急いで行うと、実態と乖離しやすくなります。まず対象判定と責任者を固め、サプライチェーン把握、リスク評価、方針、契約、研修、通報、救済、KPI、公表・登録を年度内の運用に組み込む必要があります。
次の時系列は、13ステップを実務で進める順番を表しています。各段階の順序を読むことで、年次ステートメントの文章作成より前に、どの証跡と部門連携を用意する必要があるかを把握できます。
法人性、英国事業、商品・サービス供給、3,600万ポンド以上の総売上高、子会社売上、対象年度を確認します。
法務、調達、人事、サステナビリティ、内部監査、広報、IR、現地法人の責任分担を明確にします。
Tier 1、主要なTier 2以降、高リスク国・商品・サービス、派遣会社、労務ブローカー、下請・再委託を整理します。
国、業種、商品、労働者属性、採用・労務供給、取引形態、企業の影響力、過去の通報・監査結果で優先順位を付けます。
人権方針、現代奴隷防止方針、サプライヤー行動規範、調達方針、採用方針、苦情処理規程を整えます。
質問票、契約確認、監査、労働者インタビュー、第三者データ、NGO・労働組合との対話、支払データ分析を使います。
禁止事項、監査権、情報提供、是正計画、解除、責任ある撤退、通報、証跡保存を条項化します。
取締役、法務、調達、人事、現場管理者、サプライヤーごとに、法的義務と兆候の見方を変えて研修します。
サプライチェーン上の労働者が、安全かつ理解できる言語でアクセスできるチャネルを用意します。
潜在的被害者の安全を優先し、現地法、外部専門家、支援機関、証拠保全、広報を総合して動きます。
研修受講率や監査件数だけでなく、是正、救済、労働者の声、採用手数料返還などの有効性を測ります。
対象年度、組織構造、サプライチェーン、方針、リスク、デューデリジェンス、救済、KPI、次年度計画を具体的に記載します。
自社ウェブサイトに掲載し、ホームページに明確なリンクを置き、英国政府レジストリ登録と翌年度改善を検討します。
次の比較表は、ステップごとの成果物を整理しています。どの段階で何を残すかを読むことで、ステートメントに書ける事実と証跡を年度内に蓄積できます。
| 段階 | 主な成果物 | 注意点 |
|---|---|---|
| 判定・体制 | 対象法人リスト、会計年度、責任者、会議体、承認スケジュール | M&A、英国進出・撤退、組織再編で毎年見直します。 |
| 把握・評価 | サプライヤー一覧、リスク登録簿、優先リスク領域、未把握領域 | 完全に把握できない部分は隠さず、改善計画を説明します。 |
| 方針・契約 | 人権方針、現代奴隷防止方針、サプライヤーコード、契約条項 | サプライヤー・労働者が理解できる言語で展開します。 |
| 運用・救済 | 質問票、監査、労働者インタビュー、通報記録、是正計画 | 社会監査の限界、偽装、口止め、二重帳簿を想定します。 |
| 開示・改善 | ステートメント、取締役会議事録、署名記録、掲載証跡、レジストリ登録 | 前年コピーではなく、当年度の取組と未対応事項を示します。 |
通報窓口が本社従業員だけを対象としている場合、サプライチェーン上の労働者はアクセスできません。労働者の言語で利用できること、匿名または安全な形で使えること、報復を防ぐこと、外国人労働者・派遣・請負労働者も使えること、受付後の調査・保護・是正・救済手順があることが重要です。
英国で具体的な現代奴隷事案が確認された場合、Gangmasters and Labour Abuse Authorityまたは警察への報告、危険が差し迫る場合の緊急通報、National Referral Mechanismによる支援への接続が問題になります。海外サプライチェーンで疑義を発見した場合も、現地法、現地支援機関、労働者の安全、移民資格、報復リスク、証拠保全、当局・顧客・投資家への報告を総合的に判断します。
契約条項、責任ある撤退、M&A、非対象企業、日本企業の注意点、国際的規制動向を整理します。
英国現代奴隷法への対応は、契約書に厳格な保証条項を入れるだけでは足りません。発見、報告、是正、救済、再発防止、協働改善、責任ある撤退を契約管理の一部に組み込み、問題を隠すインセンティブを減らす必要があります。
次の比較表は、サプライヤー契約に入れる典型条項と実務上の読み方を表しています。条項名だけでなく、労働者保護、証跡、報告、是正、解除時の影響まで確認することが重要です。
| 条項 | 主な内容 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 禁止事項 | 現代奴隷、強制労働、人身取引、児童労働、債務拘束、身分証保持、労働者負担採用手数料、賃金不払いを禁止します。 | 表明保証だけでなく、継続的な遵守義務にします。 |
| 再委託管理 | 下請・再委託の事前承認、同等義務の流し込み、サプライヤーコード遵守を定めます。 | Tier 2以降の未把握リスクを減らします。 |
| 監査・情報提供 | 賃金記録、勤怠、採用手数料、労働契約、寮、下請構造、労働者インタビューへのアクセスを定めます。 | 監査が報復や証拠隠滅を招かないよう計画します。 |
| 通知義務 | 現代奴隷の疑義、通報、当局調査、重大な労務問題を発見した場合の通知を定めます。 | 通知したサプライヤーが一方的に不利益を受ける設計にしないことも重要です。 |
| 是正計画 | 採用手数料返還、未払賃金支払い、身分証返還、寮改善、労働時間是正、第三者確認を含めます。 | 重大性に応じて期限、責任者、確認方法を定めます。 |
| 解除と責任ある撤退 | 重大違反や是正不能の場合の解除権を定めます。 | 解除が労働者にさらなる害を与えないかを検討します。 |
M&Aでは、買収対象がsection 54の対象か、過去5年分のステートメントがあるか、承認・署名・ウェブ掲載が適切か、英国政府レジストリ登録があるか、サプライチェーンリスク評価を実施しているかを確認します。高リスクサプライヤー、通報・調査・監査結果、サプライヤー契約条項、採用手数料、派遣・請負、外国人労働者管理、NGO・メディア・当局・顧客からの指摘、救済・是正費用も法務DDの質問項目です。
次の一覧は、M&A、非対象企業、日本企業固有の注意点を並べたものです。読者は、法定義務の有無だけで判断せず、顧客・投資家・公共調達・海外規制からの間接要請を読み取ることが重要です。
売上高3,600万ポンド未満でも、大企業顧客から方針・質問票・証跡を求められることがあります。主要サプライヤー把握、方針、通報、研修から始めます。
日本企業では、英国子会社だけでステートメントを作成すると、グループ調達、海外工場、原材料、委託先に関する情報が不足しがちです。日本本社の法務、調達、サステナビリティ、人事労務、内部監査、財務が関与し、英語版ステートメント、日本語の承認資料、現地語のサプライヤー・労働者向け資料を整合させる必要があります。
次の比較表は、英国現代奴隷法と関連する国際規制の関係を表しています。英国制度は報告・透明性が中心ですが、他国制度は製品市場アクセス、輸入差止め、年次報告などに直接影響するため、共通データ基盤を作ることが重要です。
| 制度 | 主な特徴 | 英国対応との接点 |
|---|---|---|
| EU強制労働製品規則 | 強制労働によって作られた製品のEU市場での販売・流通・輸出を禁止する制度で、適用開始は2027年12月14日と説明されています。 | サプライチェーン把握と証跡不足が市場アクセスに影響します。 |
| 米国UFLPA | 新疆ウイグル自治区または対象エンティティ関連物品について、強制労働によるものと推定する制度です。 | トレーサビリティ、原材料証跡、輸入者対応が必要になります。 |
| オーストラリアModern Slavery Act 2018 | 一定規模以上の収益を有する組織に現代奴隷ステートメントを求める制度です。 | 英国・豪州・カナダの報告項目を共通化できます。 |
| カナダの供給網法 | 対象機関・事業体に強制労働・児童労働に関する年次報告を求めます。 | 報告テンプレートや証跡の横断管理が有効です。 |
研修件数だけで終わらせず、救済、労働者への到達、翌年度改善まで測ります。
KPIは、研修受講率や監査件数だけでは不十分です。英国政府ガイダンスは、目標、KPI、戦略的取組を結び付け、定量・定性データを使い、先行指標と結果指標を組み合わせることを推奨しています。現代奴隷インシデントを見つけていないことは、必ずしも有効な取組の証拠ではありません。
次の比較表は、英国現代奴隷法への対応で使えるKPI例を表しています。目的ごとに、把握、評価、方針浸透、通報、是正、採用手数料、監査品質のどこまで測っているかを読み取ることが重要です。
| 目的 | KPI例 | 読み方 |
|---|---|---|
| サプライチェーン把握 | Tier 1・Tier 2サプライヤーの把握率、高リスク原材料のトレーサビリティ率 | 未把握領域を翌年度改善計画につなげます。 |
| リスク評価 | 高リスクサプライヤーの評価完了率、リスク登録簿の更新頻度 | 形式的な国別スコアだけになっていないかを確認します。 |
| 方針浸透 | サプライヤーコード署名率、労働者向け方針翻訳数 | サプライヤーと労働者が理解できる状態かを見ます。 |
| 研修 | 調達担当研修受講率、サプライヤー研修参加数、理解度テスト結果 | 対象者別に内容が合っているかを確認します。 |
| 通報・救済 | 労働者向け苦情処理チャネル導入率、報復防止確認件数、是正計画完了率、被害者救済満足度 | 件数だけでなく、労働者に届いているかを確認します。 |
| 採用手数料 | 労働者負担採用手数料ゼロ確認率、返還額、返還完了率 | 債務拘束につながるコストを実際に減らせているかを見ます。 |
| 監査品質 | 労働者インタビュー実施率、抜き打ち監査比率、監査員研修状況 | 監査の有無だけでなく、実効性を確認します。 |
次の時系列は、初年度の実装ロードマップを表しています。期限ごとの重点が異なるため、90日では判定と棚卸し、180日では制度導入、365日では運用・測定・公表へ進むことを読み取ることが重要です。
対象法人、会計年度、承認者、責任者、既存ステートメント、方針、契約条項、Tier 1サプライヤー、高リスク領域、初回取締役会報告を整理します。
質問票、サプライヤーコード改定、主要契約への現代奴隷条項、調達・人事・法務研修、通報チャネル点検、KPI案、ステートメント草案を進めます。
高リスクサプライヤー監査、労働者インタビュー、是正・救済、内部監査、KPI報告、承認・署名・公表、レジストリ登録、次年度改善計画を決めます。
次の比較表は、成熟度モデルを表しています。自社の現在地を読み取り、Level 1の形式対応から、Level 3以上のリスクベースで労働者に届く仕組みへ高めることが重要です。
| 成熟度 | 状態 | 典型的な特徴 |
|---|---|---|
| Level 0 | 未対応 | 適用判定、方針、ステートメントがありません。 |
| Level 1 | 形式対応 | ステートメントはありますが、抽象的で前年コピーに近く、実態が分かりにくい状態です。 |
| Level 2 | 基本統制 | 対象法人判定、方針、サプライヤーコード、研修、基本KPIがあります。 |
| Level 3 | リスクベース対応 | サプライチェーン把握、優先リスク、監査、通報、是正が連動しています。 |
| Level 4 | 統合的HRDD | 人権デューデリジェンス、購買慣行改善、労働者エンゲージメント、救済、取締役会監督が統合されています。 |
| Level 5 | リーディング | 業界協働、深層サプライチェーン把握、成果指標、透明なインシデント開示、外部評価活用を行っています。 |
次の一覧は、専門職・部門の連携モデルを表しています。英国現代奴隷法への対応では、法務だけでなく、労務、会計、翻訳、危機管理、内部監査、経営陣の知見を組み合わせることが重要です。
弁護士、企業内弁護士、外国法事務弁護士、契約法務担当が、適用判定、契約、開示、取締役会、調査を担います。
コンプライアンス、内部監査、内部統制、商事法務、取締役会事務局が、運用検証、議事録、署名、開示証跡を整えます。
社会保険労務士、労務担当、公認会計士、税理士が、労働時間、賃金、外国人雇用、支払データ、非財務情報を確認します。
危機管理専門家、フォレンジック専門家、法律翻訳者、契約翻訳者が、証拠保全、広報、英文・現地語資料の整合を支えます。
対象範囲、言語、6領域、インシデント、レジストリ、法務部の役割を一般情報として整理します。
一般的には、設立地が英国外であっても、英国で事業または事業の一部を行い、商品・サービスを供給し、総売上高が3,600万ポンド以上であれば対象になる可能性があります。ただし、英国事業の実体、契約主体、売上、グループ構造によって結論が変わります。具体的な判定は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、英国の公衆、投資家、顧客、NGO、政府が閲覧する文書であるため、英語での公表が実務上使われることが多いです。ただし、日本本社の社内承認、日本語の方針、現地語の労働者向け資料との整合も重要です。具体的な運用は、対象法人、掲載媒体、社内承認手続に応じて確認する必要があります。
一般的には、section 54(5)の6領域は、伝統的にステートメントに含め得る内容として整理されています。一方で、英国政府ガイダンスやレジストリ運用では、6領域をどの程度含むかが実務評価上重要です。形式的な要件と、顧客・投資家・レジストリ・NGOから見た信頼性は分けて考える必要があります。
一般的には、現代奴隷を特定していないことだけで取組が有効と評価されるとは限りません。リスク評価、デューデリジェンス、通報制度、労働者インタビューが弱い場合、問題を発見できていない可能性もあります。具体的には、調査範囲、監査方法、労働者へのアクセス、証跡を確認する必要があります。
一般的には、契約上の情報提供義務、購買上の重要性、リスクレベル、代替可能性、労働者への影響を確認します。高リスクで回答拒否が続く場合、追加説明、経営層対話、追加監査、是正要求、取引条件の見直し、責任ある撤退の検討につながる可能性があります。具体的な対応は、契約、現地法、労働者保護の観点から専門家へ相談する必要があります。
一般的には、記載方法には慎重な法務レビューが必要です。一方で、リスクやインシデントを全く説明しないことも、透明性や信頼性を損なう可能性があります。個人情報、被害者保護、捜査、契約機密、名誉毀損、現地法を考慮し、発見内容、救済、再発防止をどの範囲で説明するかを検討する必要があります。
一般的には、2026年6月14日時点では英国政府がレジストリ登録を奨励していますが、法的義務としての登録は整備途上とされています。ただし、政府は過去に、政府運営サービスへの掲載義務化を将来の立法事項として表明しています。顧客対応や透明性の観点では、登録を検討する価値があります。
一般的には、法務部は適用判定、法的要件、取締役会承認、契約条項、開示、調査、外部弁護士連携を担います。ただし、サプライチェーン把握、サプライヤー改善、研修、通報、救済、購買慣行改善は、調達・人事・コンプライアンス・内部監査・経営の責任でもあります。具体的な責任分担は、組織体制とリスクの大きさに応じて定める必要があります。
一般的には、適用判定、対象法人・対象年度の整理、取締役会承認、署名、ウェブ掲載、6領域の記載、サプライチェーン把握、リスク評価、契約、通報・救済、KPI、翌年度改善計画を優先します。ただし、事業内容、英国プレゼンス、サプライチェーンの深さ、過去の指摘、顧客要請によって優先順位は変わります。具体的なロードマップは、関係資料を確認して作成する必要があります。