国際物品売買でCISGを排除するか、残すか、一部だけ修正するかを判断するために、適用要件、CISG第6条、準拠法条項、標準取引条件、条項例を整理します。
日本法準拠と書いただけでは足りない場面があるため、排除・適用・一部変更の選択を契約で明確にします。
日本法準拠と書いただけでは足りない場面があるため、排除・適用・一部変更の選択を契約で明確にします。
CISG(ウィーン売買条約)の排除条項とは、国際物品売買契約に本来適用され得る国際物品売買契約に関する国際連合条約の全部又は一部を、当事者の合意によって適用しない、又は特定規定の効果を変更するための契約条項です。CISG第6条は、当事者がCISGの適用を排除し、又は第12条に従うことを条件として各規定の適用を制限・変更できることを認めています。
日本は2008年7月1日に加入書を寄託し、2009年8月1日にCISGの効力が生じています。そのため、日本企業が国際物品売買契約で「日本法を準拠法とする」とだけ定めても、事案によってはCISGが日本法の一部として適用される可能性があります。CISGを外したい場合は、単なる準拠法条項ではなく、CISGを明示的に排除する文言を置くことが実務上重要です。
一方で、CISGを常に排除する必要はありません。CISGは、契約成立、売主・買主の義務、契約不適合、通知、損害賠償、解除、危険移転などについて、国際取引向けの統一的なルールを提供します。相手国の国内売買法が不明確な場合や、中立的なルールを採用したい場合には、CISGを残し、不足部分を日本法などで補う設計も合理的です。
この強調表示は、CISG排除条項で最初に決めるべき3つの論点をまとめたものです。読者にとって重要なのは、CISGの有無だけでなく、排除後又は適用後にどの法規範でリスクを配分するかまで確認する点です。
どの規律を適用し、どのリスクを誰が負担し、紛争時にどの法規範で判断されるかを、契約書上で明確に設計することが中核です。
次の3つの項目は、CISG排除条項を読む前提として押さえるべき判断軸を並べたものです。契約レビューでは、排除の文言、補充法、個別契約への射程をセットで見る必要があります。
CISGを全面排除するのか、適用するのか、一部だけ修正するのかを取引ごとに決めます。
CISGを排除する場合も、残す場合も、有効性、所有権、時効、代理などを補う国内法を明確にします。
基本契約、注文書、注文請書、インボイス、電子取引ログまで、排除又は適用の合意を追える状態にします。
CISG、ウィーン売買条約、排除条項、全面排除、一部変更、準拠法条項を分けて理解します。
CISGは、英語の正式名称 United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods の略称です。日本語では「国際物品売買契約に関する国際連合条約」と訳され、一般に「ウィーン売買条約」と呼ばれます。
CISGは、国境を越える物品売買契約について、契約の成立と、売主・買主の権利義務を統一的に規律する国際条約です。UNCITRALは、CISGを国際物品売買契約のための近代的・統一的・公平な制度として位置付け、商取引の確実性を高め、取引費用を低減するものと説明しています。CISGは1980年4月11日に採択され、1988年1月1日に発効しました。
ここでいう排除条項とは、CISGそのものの適用を全部排除する条項、又はCISGの特定規定の効果を変更・制限する条項です。契約上の「責任排除条項」や「損害賠償責任の免除・制限条項」とは別の概念ですが、損害賠償の上限、間接損害の排除、保証期間、検査・通知期間などを契約で修正する場合には、CISG第6条の問題と密接に関係します。
次の比較表は、CISG排除条項で使われる2つの処理方法を整理したものです。読者にとって重要なのは、全面排除と一部変更では、残るCISGの範囲と補充法の確認ポイントが変わる点です。
| 種類 | 内容 | 典型例 |
|---|---|---|
| 全面排除 | CISG全体を契約に適用しません。 | 「CISG shall not apply」と明記します。 |
| 一部排除・変更 | CISGは基本的に適用しつつ、特定条項を契約で修正します。 | 検査・通知期間を30日に限定する、損害賠償の範囲を限定するなどです。 |
準拠法条項は、契約の解釈・効力・履行・違反などについて、どの国又は法体系の法を適用するかを定める条項です。CISG排除条項は、その準拠法の中にCISGが含まれる場合に、CISGを適用しないと定める条項です。
両者は似ていますが、同一ではありません。「本契約は日本法に準拠する」とだけ定めると、日本法の一部として扱われるCISGが適用される余地があります。これに対し、「本契約は、CISGを除く日本法に準拠する」と定めると、CISGを排除しつつ、日本の民法・商法その他の国内法を補充法として選ぶ意図が明確になります。
次の時系列は、CISGの成立と日本での効力発生を整理したものです。日付を追うことで、日本企業の国際売買契約ではCISGが現実の準拠法問題になることを読み取れます。
UNCITRALが起草した国際物品売買契約の統一準則として採択されました。
国際物品売買契約の成立と当事者間の権利義務を規律する条約として運用が始まりました。
日本がCISGに加入し、国際売買契約における適用可能性が実務上の課題になりました。
この日以降、日本企業が関係する国際物品売買契約でCISGの適用が問題になり得ます。
CISGが本来適用される契約かどうかを、第1条から第5条までの枠組みで確認します。
CISGの排除条項を設計するには、まずCISGが本来適用される場面を理解する必要があります。適用されないものを排除する必要はありませんが、適用される可能性があるのに排除文言がないと、想定外の法規律が契約関係に入ります。
CISG第1条第1項は、営業所が異なる国に所在する当事者間の物品売買契約について、これらの国がいずれも締約国の場合、又は国際私法の準則により締約国の法の適用が導かれる場合に、CISGが適用されると定めています。
例えば、日本企業がドイツ企業に製造装置を販売する場合、日本とドイツはいずれもCISG締約国のため、物品売買契約に当たり、他の除外事由がなければCISG第1条第1項(a)によりCISGが適用され得ます。日本企業が英国企業と取引する場合、英国はCISG非締約国ですが、準拠法として日本法が選択されると、締約国の日本法が導かれるため、CISG第1条第1項(b)による適用が問題となります。
CISGは、すべての国際的な売買に適用されるわけではありません。第2条は、個人用・家族用・家庭用に購入された物品の売買、競売、有価証券、船舶・航空機、電気などを適用対象外としています。企業間の原材料、部品、機械、製品、在庫品などの国際売買が中心的な適用場面です。
第3条は、製造・生産して供給する契約も原則として売買と扱います。ただし、発注者が製造に必要な材料の実質的部分を供給する場合や、供給者の義務の主要部分が労務その他の役務提供に当たる場合には、CISGの適用が否定され得ます。装置製作、OEM、システム付き機械、据付工事付き設備、研究開発を伴う試作品、ソフトウェア組込み製品では特に注意が必要です。
第4条・第5条との関係では、CISGが規律する事項と規律しない事項を分ける必要があります。この一覧は、CISGを適用する場合でも別途準拠法を確認すべき領域を示しています。
売買契約の成立、売主・買主の権利義務、契約不適合、検査・通知、損害賠償、解除、危険移転などです。
契約又は条項の有効性、所有権移転の効果、物品により生じた死亡・身体傷害に関する責任などです。
錯誤・詐欺・強迫、公序良俗、代理権、製造物責任、時効、相殺、強行法規などは補充法や強行法規を確認します。
次の判断の流れは、契約レビューでCISGの適用可能性を初期確認する順番を示しています。上から順に確認することで、排除条項の要否と、条項に含めるべき範囲を読み取れます。
当事者の営業所が異なる国にあるかを確認します。
役務提供や混合契約の場合は主たる性質を確認します。
双方の締約国性、国際私法、準拠法選択を確認します。
外すか、残すか、一部変更するかを契約で明確にします。
国内法、強行法規、紛争解決条項との整合性を確認します。
国連条約集のステータス情報では、2026年6月14日時点のCISG締約国数は97か国と表示されています。締約国は増減・留保変更があり得るため、実際の契約締結時には、公式情報で最新状況を確認することが不可欠です。
CISG第6条は全面排除と一部変更を認めますが、第12条との関係で限界もあります。
CISG第6条の外務省掲載訳では、当事者はこの条約の適用を排除でき、第12条の規定に従うことを条件として、条約のいかなる規定も、その適用を制限し、又はその効力を変更できるとされています。英語正文では、exclude the application、derogate from、vary the effect という3つの処理が示されています。
次の一覧は、第6条から読み取れる実務上の意味を整理したものです。契約書では、CISG全体を外すのか、特定条項だけを修正するのか、第12条・第96条宣言への対応が必要かを区別して読むことが重要です。
CISGは当事者の特約を広く尊重します。特約があれば、その合意が優先し得ます。
当事者は、CISG全体を契約に適用しないと合意できます。
検査・通知、損害賠償、解除など、特定規定の効果を契約で具体化又は変更できます。
第96条宣言国との関係では、書面要件に関する第12条自体を当事者が自由に変更できません。
CISGは条約ですが、締約国では一定の国際売買契約を規律する実体法として作用します。したがって、準拠法として「日本法」「ドイツ法」「フランス法」「米国法」などCISG締約国の法を選ぶと、その法の中にCISGが含まれる可能性があります。
例えば、次の条項は日本法を準拠法として選択していますが、CISGを排除するとは書いていません。
This Agreement shall be governed by the laws of Japan.
UNCITRAL Digestは、締約国法を選んだだけでは、特にその国の国内法だけを選ぶ趣旨が明示されていない限り、CISGの適用を排除しないという判断が多いと整理しています。JETROも、日本法が適用される場合にはCISGが自動的に適用され得ること、排除・変更には明示的な排除文言を規定すべきことを説明しています。
米国の Asante Technologies, Inc. v. PMC-Sierra, Inc. では、当事者の取引条件にカリフォルニア法又はブリティッシュ・コロンビア法を選ぶ条項がありました。しかし、裁判所は、これらの一般的な準拠法条項だけではCISGを排除する明確な意図を示さないと判断しました。実務的な教訓は明快です。CISGを外したいなら、どこかの法を準拠法とするだけではなく、CISGを名指しして外す必要があります。
次の比較表は、準拠法条項とCISG排除条項を分けて読まない場合に起こるリスクを示しています。左欄の文言だけでは、CISGの扱いが不明確なまま残ることを読み取ってください。
| 文言 | 実務上の読み方 | 補うべき文言 |
|---|---|---|
| This Agreement shall be governed by the laws of Japan. | 日本法を選ぶだけで、CISG排除意思が明確ではありません。 | excluding the CISG を加えます。 |
| Japanese Civil Code and Commercial Code shall apply. | 国内法典を特定しており、排除意思は読み取りやすくなります。 | それでも CISG shall not apply を明記すると安定します。 |
| English law applies. | 英国はCISG非締約国のため、排除意思を示す事情になり得ます。 | 紛争予防のため CISG shall not apply と併記します。 |
CISGを排除するか、排除後に何法を適用するか、個別契約や標準条件まで届くかを設計します。
CISG排除条項は、3つの層で考えると整理しやすくなります。第1にCISGを排除するか、適用するか。第2にCISGを排除する場合、その後に何法を適用するか。第3に紛争解決機関、裁判地・仲裁地、言語、標準取引条件、個別契約との優先順位をどう整えるかです。
次の判断の流れは、CISG排除条項を作るときの基本構造を示しています。順番に確認すると、単に「CISG shall not apply」と書くだけでは不足する場面を読み取れます。
全面排除、適用維持、一部変更のいずれかを選びます。
CISGを外した後、又はCISGが扱わない事項を補う法を明記します。
基本契約だけでなく、注文書、注文請書、インボイス、個別売買契約を含めます。
裁判管轄、仲裁、言語、電子同意ログ、優先順位条項と整合させます。
最小限の排除文言は簡潔ですが、補充法が不明確です。通常は準拠法条項とセットで書きます。
The United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods shall not apply to this Agreement.
日本法を補充法とし、個別売買契約にも射程を広げる場合は、次のような文言が考えられます。
This Agreement and any individual sales contracts hereunder shall be governed by and construed in accordance with the laws of Japan, excluding its conflict of laws rules. The United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods shall not apply to this Agreement or any such individual sales contracts.
日本語契約では、CISGの正式名称と略称を併記し、法の抵触に関する規則の扱いも明確にします。
本契約及び本契約に基づき成立する各個別売買契約は、日本法に準拠し、日本法に従って解釈される。ただし、法の抵触に関する規則は適用しない。国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG、ウィーン売買条約)は、本契約及び各個別売買契約に適用しない。
日本企業同士又は日本企業が優位に契約書を作成する場面では、端的に「CISGを除く日本法」と書くこともあります。ただし、英語契約では、相手方・裁判所・仲裁廷に誤解が生じないよう、CISGの正式名称を併記する方が安全です。
最も安全なのは、CISGを名指しして排除する明示排除です。理論上は黙示排除もあり得ますが、CISG Advisory Council Opinion No. 16は、排除の意思はCISG第8条に従って判断され、明確に示されることが求められると整理しています。単に締約国法又は締約国の一地域の法を選んだだけでは、一般に排除意思を推認しない方向で整理されています。
次の一覧は、排除の示し方ごとの安定性を比較したものです。契約文言の明確さが高いほど、紛争時にCISGが適用されるかどうかの争いを減らしやすくなります。
| 方法 | 安定性 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 明示排除 | 高いです。 | CISG、Vienna Sales Convention、正式名称を併記すると略称の曖昧さを減らせます。 |
| 非締約国法の選択 | 比較的高い場合があります。 | 英国法などを選ぶ場合でも、CISG排除を明記する方が安定します。 |
| 国内法典の特定 | 中程度です。 | Japanese Civil Code and Commercial Code などを指定しても、CISG排除文言を加える方が明確です。 |
| 一般的な準拠法条項のみ | 低いです。 | 締約国法を選ぶだけではCISGを含むと読まれる可能性があります。 |
CISG第6条は当事者自治を広く認めますが、subject to article 12 として第12条を留保しています。第12条は、第96条に基づき書面要件に関する宣言を行った締約国に営業所を有する当事者がいる場合、売買契約、変更・終了、申込み、承諾その他の意思表示を非書面で行うことを認める規定が適用されないと定めます。
次の一覧は、第12条・第96条宣言との関係で契約レビュー時に確認する項目です。方式要件は、排除合意や標準約款の組込みにも影響し得るため、単なる条項文言だけでなく証拠性も確認します。
当事者の営業所所在地国が第96条宣言国かを確認します。
方式排除合意、変更合意、標準約款の組込みについて書面性が問題にならないかを確認します。
証拠電子メール、電子署名、EDI、発注システム上の承諾が十分な証拠性・方式性を備えるかを確認します。
電子注文書、注文請書、インボイス、標準約款、訴訟・仲裁段階で排除合意が問題になります。
CISG排除条項が存在しても、それが相手方との契約に組み込まれていなければ意味がありません。自社のウェブサイト、見積書裏面、注文書、注文請書、インボイス、納品書にCISG排除条項が印刷されていても、相手方がそれを契約条件として受け入れたと評価できるかが問題となります。
CISG Advisory Council Opinion No. 16は、CISG排除合意の成立・変更について、CISGの契約成立ルールを用いて判断すべきと整理しています。標準約款の組込みや条件衝突も、少なくともCISGが一応適用される局面では、CISG上の問題として検討されます。
国際売買では、買主の注文書には「CISGを排除し、日本法を準拠法とする」と書かれ、売主の注文請書には「CISGを排除せず、ドイツ法を準拠法とする」と書かれていることがあります。このような標準条件の衝突を battle of forms と呼びます。
CISG第19条は、承諾が追加・制限・変更を含む場合、実質的変更であれば反対申込みとなると定めます。価格、支払、品質・数量、引渡場所・時期、責任限度、紛争解決に関する条件は実質的変更とされます。準拠法条項やCISG排除条項も、紛争解決・法的責任に密接に関係するため、実質的変更と評価される可能性があります。
次の比較表は、標準条件でCISGを排除する場合の実務対応を段階別に整理したものです。各段階で、相手方がどの条件に同意したかを証拠化することが読み取りポイントです。
| 実務項目 | 推奨対応 |
|---|---|
| 見積段階 | 見積書に準拠法、CISG排除、紛争解決を明記します。 |
| 注文段階 | 注文書本文に排除条項を置き、裏面約款だけに依存しません。 |
| 注文請書 | 相手方条件を排除し、自社条件を明示的に承諾させます。 |
| 基本契約 | 個別契約、注文書、インボイスより優先する旨を定めます。 |
| 電子取引 | 発注システム上で約款同意ログを保存します。 |
| 紛争時 | どの時点でどの条件が合意されたかを証拠化します。 |
CISG排除は、契約締結時だけでなく、契約締結後にも合意できます。ただし、契約締結後の排除は既存契約の変更でもあるため、CISG第29条も問題となります。
訴訟・仲裁段階で、当事者双方が国内法だけを主張し、CISGを主張しなかった場合に、CISGが黙示的に排除されたといえるかは慎重に考える必要があります。CISG Advisory Council Opinion No. 16は、訴訟手続で当事者がCISGに基づく主張をしなかっただけでは、CISG排除の意思を推認しない方向で整理しています。国内法上の waiver 概念でCISG排除意思を判断しない方向でも整理されています。
次の一覧は、紛争段階でCISG排除を主張したい場合に確認する要素を示しています。手続上の主張だけでなく、当事者双方がCISGの適用可能性を認識して排除に合意した記録を確認します。
当事者双方がCISGの適用可能性を認識していたかを確認します。
国内法だけで争うという意思が明確に合意として記録されているかを確認します。
契約締結後の変更として、CISG第29条や方式要件に抵触しないかを確認します。
裁判所又は仲裁廷がCISGの適用可能性を職権又は当事者主張から検討する可能性を踏まえます。
CISGは常に排除するものではなく、取引類型、交渉力、紛争解決地、社内運用で判断します。
CISGを排除することが合理的となりやすい場面は、契約書が国内法を前提に詳細に作られている場合や、売主として通知・保証・救済を厳格に制限したい場合などです。次の比較表は、排除を検討しやすい場面と理由を整理したものです。
| 場面 | 理由 |
|---|---|
| 日本法・自国法に精通した裁判所で争う予定 | 予測可能性を高めやすくなります。 |
| 契約書が国内法を前提に詳細に作られている | CISGとの不整合を避けやすくなります。 |
| 売主として通知・保証・救済を厳格に制限したい | CISGのデフォルト規律を上書きしたい場合に向きます。 |
| 自社標準約款が民法・商法・UCC等を前提にしている | 条項体系の整合性を保ちやすくなります。 |
| 相手国の第96条宣言や方式要件が問題になる | 書面性・証拠化を明確にしやすくなります。 |
| 裁判官・仲裁人・社内担当者がCISGに不慣れ | 紛争処理コストを抑えやすくなります。 |
ただし、CISGを排除しても、契約書自体が不十分であればリスクは残ります。排除後の国内法にどのような規律があるか、強行規定、消費者法、製造物責任法、輸出管理法、制裁法、データ保護法などがどう作用するかを別途検討する必要があります。
CISGは、国際売買のために設計されたルールで、契約自由を広く認めます。相手国法の調査が難しい場合や、双方が自国法を譲らない場合には、中立的な共通ルールとして機能することがあります。次の比較表では、CISGを残す選択が合理的になりやすい場面を整理しています。
| 場面 | 理由 |
|---|---|
| 相手国法の調査が難しい | 中立的・国際的な統一ルールを使えます。 |
| 双方が自国法を譲らない | 妥協案として機能しやすくなります。 |
| 国際仲裁を予定している | 仲裁人がCISGに慣れている場合があります。 |
| 取引国がいずれもCISG締約国 | 予見可能な共通ルールを使えます。 |
| 長期的な国際サプライチェーン | 国ごとの差異を一定程度ならせます。 |
| 中小企業・新興国企業との取引 | UNCITRALが想定する取引費用低減効果を期待できます。 |
売主は、契約不適合に関する通知期間、損害賠償範囲、間接損害、逸失利益、保証期間、救済手段の限定、返品・交換の条件を重視します。買主は、品質保証、仕様適合、検査期間、代替品引渡し、修補、解除、損害賠償、遅延損害、サプライチェーン停止リスクを重視します。
次の一覧は、売主・買主それぞれがCISG排除条項で確認すべき契約上の論点です。立場ごとに注目点が違うため、同じCISG条項でも交渉上の意味が変わることを読み取ってください。
検査・通知期間、保証範囲、間接損害、逸失利益、責任上限、返品・交換条件を明確にします。
仕様適合、検査期間、代替品引渡し、修補、解除、サプライチェーン停止リスクを確認します。
CISGを外すか残すかは、常に一方に有利という問題ではなく、契約条項、証拠、業界慣行、交渉力で変わります。
全面排除、日本法補充、CISG適用維持、一部変更、曖昧な条項の改善例を確認します。
以下の条項例は、実務上のたたき台です。個別案件では、取引対象、当事者、準拠法、紛争解決条項、強行法規、社内標準契約との関係に応じて修正する必要があります。
この条項例は、基本契約だけでなく、注文書、注文請書、請求書、個別売買契約までCISG排除の射程に含める構成です。読者にとって重要なのは、排除後の日本法と対象文書の範囲が同時に明示されている点です。
This Agreement and any purchase orders, order confirmations, invoices and individual sales contracts issued or entered into hereunder shall be governed by and construed in accordance with the laws of Japan, excluding its conflict of laws rules. The United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods (CISG/Vienna Sales Convention) shall not apply to this Agreement or any such purchase orders, order confirmations, invoices or individual sales contracts.
本契約並びに本契約に基づき発行又は締結される注文書、注文請書、請求書及び個別売買契約は、法の抵触に関する規則を除き、日本法に準拠し、日本法に従って解釈される。国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG、ウィーン売買条約)は、本契約並びに当該注文書、注文請書、請求書及び個別売買契約には適用しない。
この条項例は、日本語契約で簡潔に排除意思を示すための表現です。短い文言ですが、英語契約や相手方が海外企業の契約では、正式名称を併記した方が誤解を減らせます。
本契約は、CISGを除く日本法に準拠し、同法に従って解釈される。
この条項例は、CISGを中立的ルールとして採用しつつ、CISGが扱わない事項を日本法で補う設計です。有効性、所有権、時効、相殺、代理、製造物責任などの補充法を明確にすることが読み取りポイントです。
This Agreement shall be governed by the United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods. Matters not governed by the CISG shall be governed by the laws of Japan, excluding its conflict of laws rules.
本契約は、国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG、ウィーン売買条約)に準拠する。CISGが規律しない事項については、法の抵触に関する規則を除き、日本法に準拠する。
この条項例は、CISG第38条・第39条の検査・通知ルールを契約上具体化・修正するものです。隠れた不適合、売主の悪意又は重過失、強行法規、品質保証条項との関係は別途確認します。
Notwithstanding Articles 38 and 39 of the CISG, the Buyer shall inspect the Goods within ten (10) business days after delivery and shall notify the Seller in writing of any alleged non-conformity within five (5) business days after the completion of such inspection. The Buyer’s failure to give such notice within the foregoing period shall constitute acceptance of the Goods with respect to any non-conformity that could reasonably have been discovered by such inspection.
この条項例は、損害賠償の範囲を限定するものです。CISGは第74条以下に損害賠償の規定を置きますが、責任制限条項の有効性は、CISG第4条の「有効性」の問題として補充法に委ねられる可能性があります。
To the maximum extent permitted by applicable law, neither party shall be liable for any indirect, incidental, special, consequential or punitive damages, including loss of profit or loss of business opportunity, arising out of or in connection with this Agreement, whether based on contract, tort or any other legal theory.
この条項例は、買主の検査・通知期間を十営業日に限定する短い表現です。期間を短くするほど、補充法上の有効性や相手方の承諾の明確性が重要になります。
The Buyer shall inspect the Goods within ten (10) business days after delivery and shall notify the Seller of any non-conformity within the same period. Any notice given after such period shall be deemed untimely, to the maximum extent permitted by applicable law.
次の比較表は、曖昧な文言と改善例を並べたものです。左欄の条項では、CISGを排除したか、どの国内法を選んだか、どの国の法を指すかが不明確になりやすい点を読み取ってください。
| 曖昧な条項 | 問題点 | 改善例 |
|---|---|---|
| This Agreement shall be governed by Japanese law. | CISGを排除したとは限りません。 | Japanese law, excluding the CISG |
| The laws of Seller’s country shall apply. | どの国・どの営業所か不明確です。 | laws of Japan, excluding CISG |
| UNCITRAL law shall not apply. | CISGの正式名称を排除していません。 | United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods shall not apply |
| Domestic law shall apply. | どの国内法か不明確です。 | Japanese Civil Code and Commercial Code, excluding CISG |
| English law applies. | 非締約国法選択として排除意思は推認され得ますが、明記が安全です。 | English law; CISG shall not apply |
排除条項は単独では完結せず、周辺条項やCISGを残す場合の契約設計と整合させます。
CISG排除条項は、単独で完結するものではありません。準拠法条項、裁判管轄又は仲裁条項、言語条項、契約書・注文書・約款の優先順位条項、インコタームズ条項、品質保証条項、検査・通知条項、損害賠償・責任制限条項、不可抗力条項、輸出管理・制裁条項と整合させる必要があります。
例えば、準拠法を「CISGを除く日本法」としながら、仲裁地をシンガポール、仲裁規則をSIAC、言語を英語とすることは可能です。その場合、仲裁廷が日本法をどう認定するか、CISG排除の成否をどう扱うか、証拠提出・翻訳・専門家意見書が必要になるかを検討します。
次の一覧は、CISG排除条項と同時に整えるべき周辺条項です。並び順は、法の選択から履行・不履行、紛争処理まで、契約の実行時に問題が移っていく順序を示しています。
CISGを除く国内法、又はCISGを補う国内法を明記します。
法選択裁判地、仲裁地、仲裁規則、言語、暫定措置、執行可能性を整えます。
紛争インコタームズ、引渡し、危険移転、検査、通知、品質保証を具体化します。
履行損害範囲、責任上限、間接損害、制裁、輸出管理、サプライチェーン障害を整理します。
責任CISG第9条は、当事者が合意した慣習、当事者間で確立した慣行、国際取引で広く知られ通常遵守されている慣習を重視します。インコタームズは、引渡し、危険移転、費用負担、輸出入手続、保険などを整理する国際取引実務上の重要なルールです。
CISGを適用する場合でも、契約がFOB、CIF、DAP、DDPなどのインコタームズを採用すれば、当該範囲ではインコタームズがCISGのデフォルトルールに優先することが多いです。ただし、インコタームズはCISG全体を排除するものではありません。CIF条件を定めても、契約不適合、通知、損害賠償、解除、契約成立などはなおCISGの問題となり得ます。
CISGを排除しない選択をする場合でも、契約書で何も定めなくてよいわけではありません。むしろ、CISGを前提に、仕様、引渡し、検査、通知、救済、損害賠償、不可能抗力、証拠、補充法、紛争解決を具体化することが重要です。
次の比較表は、CISGを残す場合に契約で具体化すべき項目を整理したものです。CISGはデフォルトルールですので、実際の商流・証拠・救済を契約で埋める必要があることを読み取ってください。
| 項目 | 契約で具体化すべき内容 |
|---|---|
| 仕様・品質 | 図面、規格、検査基準、サンプル、認証、法規適合を定めます。 |
| 引渡し | インコタームズ、場所、時期、分割納入、遅延時の扱いを定めます。 |
| 検査 | 検査場所、検査方法、期間、第三者検査、抜取基準を定めます。 |
| 通知 | 不適合通知の期限、方法、記載事項、宛先を定めます。 |
| 救済 | 修補、代替品、減額、解除、返品、費用負担を定めます。 |
| 損害賠償 | 予見可能性、間接損害、逸失利益、責任上限を定めます。 |
| 不可抗力 | サプライチェーン障害、制裁、輸出規制、感染症、災害を定めます。 |
| 証拠 | 検査記録、写真、ロット番号、輸送記録、通信履歴を残します。 |
| 補充法 | CISGが規律しない事項に適用する国内法を定めます。 |
| 紛争解決 | 仲裁又は裁判、言語、地、暫定措置、執行可能性を定めます。 |
日本法準拠だけで安心する、個別契約へ届かない、相手方承諾を取らないなどの失敗を防ぎます。
日本企業の国際売買実務では、CISG排除条項を置いたつもりでも、準拠法条項、基本契約と個別契約の関係、標準約款の承諾、相手国の留保・宣言を見落とすことがあります。次の一覧は、実務で起こりやすい失敗をまとめたものです。
CISGは日本について効力が生じており、国際物品売買契約では日本法の一部として適用され得ます。
個別契約、注文請書、インボイスに別条件があると、どの条項が優先するか争いになります。
相手方が約款を知らず、又は承諾していない場合、契約条件として組み込まれない可能性があります。
UNCITRALは多くの条約・モデル法・規則を扱うため、CISGを指す表現として曖昧です。
CISGを排除しても、代わりに何法が適用されるかを決めなければ、国際私法によって予期しない法が適用され得ます。
第95条留保、第96条宣言、領域適用、香港・マカオ・台湾をめぐる取扱いなどを確認します。
次の一覧は、CISG排除条項のレビュー前に部門横断で確認する項目です。当事者、契約対象、標準条件、紛争解決を先に確認すると、排除条項の必要性と射程を判断しやすくなります。
当事者の営業所、CISG締約国性、第95条留保、第96条宣言、領域適用を確認します。
適用物品売買か、役務提供か、混合契約か、除外対象に当たらないかを確認します。
対象基本契約、個別契約、自社約款、相手方約款のどちらが優先するかを確認します。
約款準拠法、裁判管轄、仲裁地、言語が整合しているかを確認します。
紛争FAQは一般的な制度説明です。個別の契約判断は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、CISGが適用されない取引であれば排除条項は不要とされています。また、CISGを意図的に適用したい取引では、排除条項ではなく、CISG適用条項と補充法条項を置く設計が考えられます。ただし、国際物品売買でCISGが適用される可能性があり、CISGを使わない方針であれば、明示的な排除条項が必要となる可能性があります。具体的な対応は、契約資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、それだけでは不十分とされています。日本法にはCISGが含まれ得るため、「CISGを除く日本法」又は「CISGは適用しない」と明記する必要がある場面があります。ただし、契約文言、取引対象、当事者の営業所、紛争解決地によって判断は変わります。具体的な対応は、弁護士等の専門家へ確認する必要があります。
一般的には、英国はCISG非締約国のため、非締約国法の選択はCISG排除意思を示す事情となり得ると整理されています。ただし、仲裁地、国際私法、標準約款の組込み、複数文書の優先順位によって争点が残る可能性があります。実務上は、CISG shall not apply と明記する方が紛争予防に役立つ場合があります。
一般的には、CISG第6条により、各規定の適用を制限し、又は効力を変更することが認められています。ただし、第12条の制限や、補充的に適用される国内法上の有効性・強行規定には注意が必要です。責任制限、保証制限、通知期間などは、個別事情によって結論が変わる可能性があります。
一般的には、当然に外れるとは整理されていません。CISG Advisory Council Opinion No. 16は、訴訟でCISGを主張しなかっただけでは排除意思を推認しない方向で整理しています。紛争段階で排除したい場合には、当事者双方がCISGの適用可能性を認識したうえで、明確に合意したことを記録化する必要があります。
一般的には、インコタームズはCISG全体を排除するものではありません。インコタームズは引渡し、危険移転、費用負担などを規律しますが、契約不適合、通知、損害賠償、解除、契約成立などはなおCISGの問題となり得ます。CISGを排除する方針であれば、別途明示する必要があります。
一般的には、基本契約の条項設計と合意の証拠によって判断が変わります。基本契約に「本契約に基づくすべての個別契約、注文書、注文請書、インボイスに適用される」と明記し、相手方がこれに合意していることを証拠化する必要があります。個別注文や相手方書式に別条件がある場合は、優先順位条項の確認が重要です。
一般的には、契約言語によって判断されます。英文契約では英語で正式名称を記載することが望ましいです。日英二言語契約では、どちらの言語が優先するかも定める必要があります。相手方、裁判所、仲裁廷が文言をどう読むかを踏まえた設計が必要です。
一般的には、CISGを排除しても国際売買リスクがなくなるわけではありません。補充法、強行法規、輸出管理、制裁、製造物責任、知的財産、品質保証、税務、判決・仲裁判断の執行などのリスクは残ります。排除条項はリスク管理の一部として位置付ける必要があります。
一般的には、中小企業でもCISGの適用可能性を検討することが重要とされています。UNCITRALは、中小企業や発展途上国の取引者が法的助言へのアクセスに制約を持つ場合にも、CISGのデフォルト適用が利益をもたらし得ると説明しています。もっとも、契約書の曖昧さは紛争コストに直結しやすいため、CISGを排除するか残すかを明確に決める必要があります。
法務、外部専門家、リーガルオペレーション、品質保証、経理、経営層で確認ポイントが異なります。
次の一覧は、CISG排除条項を部門・専門職ごとにどう見るかを整理したものです。契約文言だけでなく、検査、通知、証拠、会計、経営判断まで関係するため、担当領域ごとの読み取りポイントを分けることが重要です。
国際売買契約レビューの基本項目として、取引類型ごとにCISGを残す場合と排除する場合のポリシーを整備します。
法務取引国、紛争解決地、相手方標準約款、留保・宣言、裁判例、仲裁実務を踏まえて有効性と補充法のリスクを評価します。
専門家契約管理システムでCISG適用・排除、準拠法、仲裁地、インコタームズ、品質保証期間、通知期間をメタデータ化します。
管理検査記録、ロット管理、不適合通知、引渡し、危険移転、注文書・注文請書の条件を管理します。
現場売上認識、返品、値引き、損害賠償引当、保証引当、偶発債務、監査証跡への影響を法務と連携して把握します。
会計主要国際取引で、どの標準契約を用いるか、CISGを排除する基本方針を採るか、相手国法を許容するか、仲裁を採用するかを方針化します。
経営CISG(ウィーン売買条約)の排除条項は、国際物品売買契約において、どの法規範で契約成立・不履行・救済を判断するかを決定する中核条項です。日本企業にとって特に重要なのは、「日本法準拠」と書いただけではCISGを排除したことにならない可能性がある点です。
CISGを排除するなら、CISGの正式名称を明示して、契約及び個別売買に適用しないと定めます。さらに、排除後に適用される国内法、裁判管轄又は仲裁、言語、標準約款の優先順位、検査・通知、品質保証、責任制限、インコタームズとの関係を整える必要があります。
一方で、CISGは国際売買のために設計された統一的・中立的なルールですので、常に排除することが正解とは限りません。相手国法の不確実性を避けたい場合、双方が自国法に固執する場合、国際仲裁を予定する場合には、CISGを残し、契約で必要な修正を加える選択も合理的です。
最後に確認すべき問いを、強調表示でまとめます。ここで読み取るべきことは、CISGを外すか残すかという結論よりも、その判断を契約書に明確に反映することです。
この問いに明確に答え、その答えを契約書に反映することが、CISG排除条項の本質です。
制度説明、公的機関、国際機関、判例データベース、学術文献を中心に整理しています。