2σ Guide

準拠法・管轄条項の
実務と契約レビュー

契約の出口戦略として、準拠法、国際裁判管轄、国内の土地管轄、外国判決、仲裁、CISG、消費者・労働契約の制限まで、企業法務の視点で整理します。

7 最初に押さえる結論
12 FAQで整理する論点
3 締結前・レビュー時・紛争時
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準拠法・管轄条項の 実務と契約レビュー

契約書の末尾にある短い条項が、紛争時の入口、費用、回収可能性を左右します。

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準拠法・管轄条項の 実務と契約レビュー
契約書の末尾にある短い条項が、紛争時の入口、費用、回収可能性を左右します。
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2σ GUIDE ・ VIDEO

  • 準拠法・管轄条項の 実務と契約レビュー
  • 契約書の末尾にある短い条項が、紛争時の入口、費用、回収可能性を左右します。

POINT 1

  • 準拠法・管轄条項の全体像をつかむ
  • 契約書の末尾にある短い条項が、紛争時の入口、費用、回収可能性を左右します。
  • 準拠法は判断基準です
  • 管轄は争う場所です
  • 両者は別概念です

POINT 2

  • 準拠法・管轄条項の定義と違い
  • 判断基準となる法と、判断する場所を分けて理解します。
  • 準拠法とは
  • 管轄とは
  • 準拠法とは、ある法律関係について、どの国または地域の法を適用するかを意味します。

POINT 3

  • 準拠法・管轄条項が企業法務で重要な理由
  • 紛争コスト
  • 管轄条項が曖昧だと、本案に入る前に管轄争いだけで時間と費用を消耗する可能性があります。
  • 法的リスクの予見可能性

POINT 4

  • 準拠法・管轄条項で見る日本法の準拠法選択
  • 通則法の当事者自治、最密接関係地、弱者保護、公序を確認します。
  • 日本の裁判所が契約の準拠法を判断する場合、基本となるのは法の適用に関する通則法です。
  • 各条文の位置づけを押さえると、準拠法を明記する意味と、明記しても上書きされ得る範囲を読み分けやすくなります。
  • 法律行為の成立および効力について、当事者が選択した地の法によるという当事者自治の出発点です。

POINT 5

  • 準拠法・管轄条項で見る日本法の管轄合意
  • 1. 対象となる法律関係を確認:本契約に起因し、または関連して生じる紛争かを確認します。
  • 2. 国際裁判管轄を確認:日本の裁判所なのか、外国裁判所なのかを確認します。
  • 3. 国内の第一審裁判所を確認:東京地方裁判所、自社所在地裁判所、被告所在地裁判所などを確認します。
  • 4. 訴訟地を固定:予見可能性は高まりますが、相手方財産所在地で訴える余地は狭まります。
  • 5. 他の管轄も残す:執行戦略の柔軟性は高まりますが、紛争地の予見可能性は下がります。

POINT 6

  • 準拠法・管轄条項と外国判決・執行可能性
  • 1. 相手方財産を確認する:預金、売掛金、不動産、在庫、知財、株式、主要取引先、親会社保証、担保の所在を確認します。
  • 2. 裁判地または仲裁地を選ぶ:日本判決、外国判決、仲裁判断のどれが執行地で実効的かを比較します。
  • 3. 承認・執行要件を確認する:日本で外国判決を使う場合は民事訴訟法118条と民事執行法24条、仲裁判断なら仲裁法45条・46条が問題になります。
  • 4. 保全と回収手段を検討する:仮差押え、仮処分、信用状、エスクロー、所有権留保、保証金なども含めて回収可能性を高めます。

POINT 7

  • 準拠法・管轄条項と仲裁条項の比較
  • 国際執行、秘密性、専門性、費用、保全を比較します。
  • 仲裁とは、当事者が合意により、裁判所ではなく仲裁人に紛争判断を委ね、その判断に拘束される制度です。
  • 仲裁条項は、裁判所の管轄を指定するものではなく、本案紛争を仲裁で解決する合意です。
  • 公開性、上訴、国際執行、専門性、保全の使い方が異なるため、紛争額や相手方財産の所在地に合わせて読み分けます。

POINT 8

  • 準拠法・管轄条項のドラフティング原則
  • 1. 準拠法と管轄を分ける:「日本法」と「東京地方裁判所」は別の問題です。
  • 2. 対象範囲を広く定める:本契約に起因し、または関連して生じる一切の紛争を対象にします。
  • 3. 専属か非専属かを明記する:訴訟地を固定するか、他の裁判所の余地を残すかを選びます。
  • 4. 国際契約では二段階で指定する:日本の裁判所の国際裁判管轄と、東京地方裁判所などの国内土地管轄を分けます。
  • 5. 抵触法を除くか検討する:実体法としての日本法を適用したい意図を明確にします。
  • 6. CISGの適用除外を検討する:国際物品売買では、日本法準拠だけではCISGが問題になることがあります。
  • 7. 執行地を先に考える:相手方財産所在地、保証、担保、保全可能性から逆算します。

まとめ

  • 準拠法・管轄条項の 実務と契約レビュー
  • 準拠法・管轄条項の全体像をつかむ:契約書の末尾にある短い条項が、紛争時の入口、費用、回収可能性を左右します。
  • 準拠法・管轄条項の定義と違い:判断基準となる法と、判断する場所を分けて理解します。
  • 準拠法・管轄条項が企業法務で重要な理由:紛争コスト、リスク予見、交渉力、回収可能性を同時に左右します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

準拠法・管轄条項の全体像をつかむ

契約書の末尾にある短い条項が、紛争時の入口、費用、回収可能性を左右します。

準拠法・管轄条項は、契約書の末尾に置かれることが多いものの、単なる定型文ではありません。契約違反、代金未払い、秘密情報漏えい、ライセンス紛争、システム開発の失敗、M&A後の補償請求、海外販売代理店との解除紛争などが起きたとき、どの法で、どの場所で、どの手続により争うかを決める中核条項です。

準拠法は、契約の成立、効力、解釈、履行、債務不履行責任などをどの国・地域の法で判断するかを定めます。管轄は、紛争をどの国の裁判所、またはどの地域の裁判所で扱うかを定めます。日本法を準拠法にしても当然に日本の裁判所で争えるわけではなく、日本の裁判所を管轄裁判所にしても当然に日本法が適用されるわけではありません。

この一覧は、準拠法・管轄条項を読むときの出発点を表します。各項目は、契約レビューで見落とすと紛争時の費用や回収可能性に直結するため、まず「法」「場」「執行」の三つを分けて読むことが重要です。

Point 01

準拠法は判断基準です

契約の成立、効力、解釈、履行、債務不履行、解除、保証、補償、時効などをどの法で判断するかを定めます。

Point 02

管轄は争う場所です

どの国の裁判所、または日本国内のどの裁判所で紛争を扱うかを定めます。

Point 03

両者は別概念です

日本法準拠でも外国裁判所管轄はあり得ますし、日本裁判所管轄でも外国法が適用される可能性があります。

Point 04

国際契約は出口まで見ます

国際裁判管轄、国内土地管轄、外国判決の承認・執行、仲裁判断の執行まで検討します。

Point 05

弱者保護の制限があります

消費者契約・労働契約では、事業者間契約よりも準拠法・管轄の自由が制限され得ます。

Point 06

専属か非専属かを明記します

訴訟地を固定するのか、他の裁判所で訴える余地を残すのかで、実務上の効果が大きく変わります。

Point 07

仲裁が適する場合もあります

外国での執行を重視する大型国際取引では、裁判より仲裁が実効的なことがあります。

注意このページは一般的な情報提供です。具体的な契約、紛争、訴訟、仲裁、海外執行、消費者契約、労働契約、金融規制、知財、M&A、倒産、税務、輸出管理、個人情報保護等が関係する場合は、該当分野に詳しい専門家への確認が必要です。
Section 01

準拠法・管轄条項の定義と違い

判断基準となる法と、判断する場所を分けて理解します。

準拠法とは

準拠法とは、ある法律関係について、どの国または地域の法を適用するかを意味します。契約実務では、契約の成立、解釈、効力、履行義務、債務不履行、損害賠償、解除、保証、免責、表明保証、補償、時効などをどの法で判断するかが問題になります。

日本企業とシンガポール企業が英文の業務委託契約を締結する場合、日本法、シンガポール法、ニューヨーク州法、イングランド法、契約の履行地の法、当事者の本店所在地の法などが候補になります。どの法を選ぶかにより、契約違反の成立要件、損害賠償の範囲、解除の要件、免責条項の有効性、違約金条項の扱い、消滅時効、代理権、権利譲渡、保証、担保、倒産時の取扱いが変わることがあります。

管轄とは

管轄とは、どの裁判所が事件を扱う権限を持つかを意味します。企業法務では、日本の裁判所で扱うのか、米国やシンガポールの裁判所で扱うのかという国際裁判管轄と、日本国内なら東京地方裁判所なのか大阪地方裁判所なのかという国内の土地管轄を分けて考えます。

国際契約で日本を選びたい場合、慎重な実務では「日本の裁判所が国際裁判管轄を有する」と定め、そのうえで「東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」といった二段階の指定を検討します。

次の比較表は、準拠法と管轄の組合せが実務上どのような負担につながるかを表します。組合せによって外国法調査、翻訳、専門家意見書、手続対応の負担が変わるため、自社にとって対応しやすい法と場所がそろっているかを読み取ることが重要です。

準拠法管轄実務上の意味
日本法日本の裁判所日本企業間または日本寄り取引で多く、法務・訴訟対応の予見可能性が高い組合せです。
日本法外国裁判所外国裁判所で日本法を主張・立証する必要が生じ得ます。日本法専門家の意見書が必要になることがあります。
外国法日本の裁判所日本の裁判所で外国法の内容を主張・立証する負担が生じ得ます。
外国法外国裁判所相手方優位の契約で見られます。日本企業にとって費用、言語、手続上の負担が大きくなることがあります。

裁判所を会議室に例えるなら、管轄はその会議室をどこに置くか、準拠法はその会議室で用いるルールブックです。両者を混同すると、紛争発生後に「どこで争うか」と「どの法で判断するか」の二つを同時に争うことになります。

Section 02

準拠法・管轄条項が企業法務で重要な理由

紛争コスト、リスク予見、交渉力、回収可能性を同時に左右します。

契約トラブルでは、請求額そのものよりも、紛争解決コストが大きな問題になることがあります。海外の裁判所で争う場合、現地弁護士費用、翻訳費用、証拠収集費用、出張費、ディスカバリ対応費、専門家意見書費用などが発生します。小規模な売掛金回収では、訴訟コストが請求額を上回ることもあります。

次の一覧は、準拠法・管轄条項が企業法務のリスク管理に与える影響を整理したものです。契約レビューでは、条項そのものの有利不利だけでなく、紛争時にどの負担が発生するかを読み取る必要があります。

紛争コスト

管轄条項が曖昧だと、本案に入る前に管轄争いだけで時間と費用を消耗する可能性があります。

法的リスクの予見可能性

免責、責任制限、違約金、解除、競業避止、秘密保持、個人情報、知財帰属などは、どの法で解釈されるかにより意味が変わります。

交渉力の反映

大企業や海外企業のひな形では、自社所在地の法、自社に近い裁判所、または慣れた仲裁地が指定されることがあります。

勝訴後の回収可能性

勝訴しても、相手方財産が所在する国で執行できなければ、実効的な回収ができない場合があります。

準拠法・管轄条項は、義務、禁止事項、損害賠償、解除、秘密保持、知的財産、表明保証、補償、不可抗力などの各条項を支える土台です。とくに、海外企業から提示される英文契約では、ニューヨーク州法、デラウェア州法、カリフォルニア州法、イングランド法、シンガポール法、香港法、相手方所在地の裁判所または仲裁機関が指定されていることがあり、費用と言語の負担を現実的に見積もる必要があります。

要点管轄条項は「訴える場所」だけではなく、「勝訴後に回収できるか」という出口戦略とセットで検討します。
Section 03

準拠法・管轄条項で見る日本法の準拠法選択

通則法の当事者自治、最密接関係地、弱者保護、公序を確認します。

日本の裁判所が契約の準拠法を判断する場合、基本となるのは法の適用に関する通則法です。事業者間契約では、当事者による準拠法選択が広く尊重されるのが出発点ですが、消費者契約、労働契約、公序、第三者の権利などには注意が必要です。

次の一覧は、準拠法選択で確認すべき通則法上の主な規律を表します。各条文の位置づけを押さえると、準拠法を明記する意味と、明記しても上書きされ得る範囲を読み分けやすくなります。

7

通則法7条

法律行為の成立および効力について、当事者が選択した地の法によるという当事者自治の出発点です。

準拠法選択
8

通則法8条

準拠法選択がない場合、その法律行為に最も密接な関係がある地の法によるという考え方を採ります。

未選択時
9

通則法9条

準拠法の変更を前提にしつつ、第三者の権利を害する場合は変更を第三者に対抗できないと定めます。

変更
11

通則法11条

消費者契約では、消費者の常居所地法の強行規定が一定の場合に問題になります。

消費者保護
12

通則法12条

労働契約では、労務提供地など最密接関係地の強行規定が問題になります。

労働者保護
42

通則法42条

外国法を適用すべき場合でも、その適用が日本の公序良俗に反するときは適用しない安全弁です。

公序

準拠法条項を置かない場合、売買、業務委託、ライセンス、代理店、共同研究、システム開発、SaaS、M&A、ファイナンスなどで、どの給付が特徴的給付か、履行地がどこか、当事者の事業拠点がどこか、契約交渉や履行の実態がどこに集中しているかが問題になります。契約実務では、将来の紛争時に準拠法そのものを争う余地を減らすため、準拠法条項を明記することが重要です。

契約締結後に変更覚書を作る場合は、変更対象が個別条項だけなのか、準拠法・管轄も含むのかを明確にします。M&A後の契約承継、グループ再編、債権譲渡、保証、担保、サプライチェーン再編では、準拠法変更が第三者に与える影響にも注意します。

Section 04

準拠法・管轄条項で見る日本法の管轄合意

国際裁判管轄、国内土地管轄、専属・非専属、応訴管轄を整理します。

日本の裁判所に国際裁判管轄があるかは、民事訴訟法3条の2以下に基づいて判断されます。被告住所地、法人の主たる事務所または営業所、契約上の債務の履行地、日本における事業に関する請求、不法行為地、不動産所在地など、さまざまな管轄原因が定められています。

次の比較表は、管轄合意に関係する主な民事訴訟法上の規律を表します。国際契約では「国を選ぶ規律」と「国内の裁判所を選ぶ規律」が別にあるため、どの段階の問題かを読み取ることが重要です。

論点主な規律実務上の見方
国際裁判管轄の合意民事訴訟法3条の7一定の法律関係に基づく訴えについて、どの国の裁判所に提起できるかを書面等で合意します。
国内土地管轄民事訴訟法11条第一審に限り、一定の法律関係に基づく訴えについて書面で管轄裁判所を定めます。
応訴管轄民事訴訟法3条の8被告が日本の裁判所で本案について弁論等をした場合、一定の場合に日本の裁判所の管轄が認められます。
特別の事情民事訴訟法3条の9日本に管轄があっても、衡平や適正迅速な審理の観点から訴えが却下される場合があります。
消費者・労働民事訴訟法3条の4・3条の7事業者や使用者が一方的に不利な外国裁判所管轄を押し付けることには制限があります。

次の判断の流れは、管轄条項を読むときに確認する順番を表します。国際裁判管轄、国内土地管轄、専属・非専属の順に見ると、条項がどこまで明確に書かれているかを読み取りやすくなります。

管轄条項を読む順番

対象となる法律関係を確認

本契約に起因し、または関連して生じる紛争かを確認します。

国際裁判管轄を確認

日本の裁判所なのか、外国裁判所なのかを確認します。

国内の第一審裁判所を確認

東京地方裁判所、自社所在地裁判所、被告所在地裁判所などを確認します。

専属
訴訟地を固定

予見可能性は高まりますが、相手方財産所在地で訴える余地は狭まります。

非専属
他の管轄も残す

執行戦略の柔軟性は高まりますが、紛争地の予見可能性は下がります。

単に「東京地方裁判所を管轄裁判所とする」とだけ書くと、専属か非専属か、第一審に限るか、国際裁判管轄まで含むかが争われる余地があります。専属にしたい場合は「第一審の専属的合意管轄裁判所」、非専属にしたい場合は「非専属的管轄に服する」などと明記します。

Section 05

準拠法・管轄条項と外国判決・執行可能性

勝訴判決や仲裁判断をどこで実行できるかを先に見ます。

外国裁判所で勝訴したとしても、日本国内の財産に対して強制執行するには、日本法上の承認・執行の要件を満たす必要があります。民事訴訟法118条は、外国裁判所の裁判権、敗訴被告への適切な送達または応訴、公序に反しないこと、相互保証などを要件とします。さらに、民事執行法24条に基づく執行判決が必要です。

次の時系列は、外国判決や日本判決を実効的な回収につなげるときの確認順序を表します。判決を得る場所だけでなく、相手方財産の所在地と承認・執行の手続をあらかじめ読み取ることが重要です。

Step 01

相手方財産を確認する

預金、売掛金、不動産、在庫、知財、株式、主要取引先、親会社保証、担保の所在を確認します。

Step 02

裁判地または仲裁地を選ぶ

日本判決、外国判決、仲裁判断のどれが執行地で実効的かを比較します。

Step 03

承認・執行要件を確認する

日本で外国判決を使う場合は民事訴訟法118条と民事執行法24条、仲裁判断なら仲裁法45条・46条が問題になります。

Step 04

保全と回収手段を検討する

仮差押え、仮処分、信用状、エスクロー、所有権留保、保証金なども含めて回収可能性を高めます。

日本の裁判所を管轄裁判所にして日本で勝訴しても、相手方の財産が海外にしかない場合、その国で日本判決が承認・執行されるかが問題になります。日本の契約書に「日本判決は海外で執行できる」と書いても、当然に外国で効力を持つわけではありません。

国際的な裁判管轄・外国判決承認では、ハーグ国際私法会議の選択裁判所合意に関する条約や外国判決の承認及び執行に関する条約も確認対象になります。ただし、日本企業が国際契約で裁判管轄を選択する場合は、関係国の締約状況と国内法に基づく承認・執行可能性を個別に確認する必要があります。

Section 06

準拠法・管轄条項と仲裁条項の比較

国際執行、秘密性、専門性、費用、保全を比較します。

仲裁とは、当事者が合意により、裁判所ではなく仲裁人に紛争判断を委ね、その判断に拘束される制度です。仲裁条項は、裁判所の管轄を指定するものではなく、本案紛争を仲裁で解決する合意です。

次の比較表は、裁判管轄条項と仲裁条項の実務上の違いを表します。公開性、上訴、国際執行、専門性、保全の使い方が異なるため、紛争額や相手方財産の所在地に合わせて読み分けます。

観点裁判管轄条項仲裁条項
判断主体裁判官仲裁人
公開性原則公開多くの場合、非公開性が期待されますが、制度・規則によります。
上訴控訴・上告の可能性があります。原則として仲裁判断は終局的です。
国際執行各国法・条約に依存します。ニューヨーク条約により比較的広く執行可能性があります。
迅速性国・事件により差が大きいです。設計次第であり、必ず安い・早いとは限りません。
専門性裁判所の専門部による場合があります。専門家仲裁人を選べます。
仮処分・保全裁判所を利用します。仲裁合意があっても裁判所の保全処分は排除されないのが通常です。

日本の仲裁法13条は、仲裁合意が一定の民事上の紛争を対象とすること、書面性を満たすことなどを定めます。仲裁合意があるにもかかわらず裁判所に訴えが提起された場合、仲裁法14条により、一定の例外を除き、裁判所は被告の申立てにより訴えを却下しなければならないとされています。

仲裁の大きな利点は国際的な執行可能性です。1958年のニューヨーク条約は、外国仲裁判断の承認・執行に関する重要条約であり、日本も1961年に加入し、同年発効しています。日本で民事執行を行うには、仲裁法46条に基づく執行決定が必要です。

注意少額債権、国内取引、不動産、知財差止、労働、消費者、独占禁止法、倒産、行政規制、緊急差止が中心の案件では、裁判所の方が適切なこともあります。
Section 07

準拠法・管轄条項のドラフティング原則

別概念を分け、対象範囲、専属性、国際指定、CISG、執行地を明確にします。

準拠法・管轄条項は、1つの条項にまとめても構いませんが、文理上は明確に分ける必要があります。曖昧な条項は、紛争発生後に準拠法、裁判地、第一審性、専属性、国際裁判管轄の範囲をめぐる争いを残します。

次の判断の流れは、条項を作るときに確認すべき七つの原則を表します。上から順番に確認すると、準拠法と管轄の混同、対象範囲の不足、CISGや執行地の見落としを減らせます。

ドラフティングの確認順序

準拠法と管轄を分ける

「日本法」と「東京地方裁判所」は別の問題です。

対象範囲を広く定める

本契約に起因し、または関連して生じる一切の紛争を対象にします。

専属か非専属かを明記する

訴訟地を固定するか、他の裁判所の余地を残すかを選びます。

国際契約では二段階で指定する

日本の裁判所の国際裁判管轄と、東京地方裁判所などの国内土地管轄を分けます。

抵触法を除くか検討する

実体法としての日本法を適用したい意図を明確にします。

CISGの適用除外を検討する

国際物品売買では、日本法準拠だけではCISGが問題になることがあります。

執行地を先に考える

相手方財産所在地、保証、担保、保全可能性から逆算します。

悪い例と良い例

悪い例では、準拠法が何か不明であり、東京地方裁判所の指定も専属か非専属か、第一審に限るか、国際裁判管轄を含むかが曖昧です。

本契約は東京地方裁判所の管轄とする。

良い例では、準拠法と管轄を分け、対象範囲と第一審の専属的合意管轄裁判所を明確にします。

本契約は、日本法に準拠し、日本法に従って解釈される。
本契約に起因し、または関連して生じる一切の紛争については、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

国際物品売買では、日本はCISGの締約国であるため、CISGを適用したくない場合は明示的な排除を検討します。売主・買主の立場、取引対象、検査・通知、契約不適合、解除、損害賠償、貿易実務、相手国との関係によって判断が変わります。

Section 08

準拠法・管轄条項の場面別条項例

国内B2B、国際契約、外国法、仲裁のたたき台を比較します。

以下は、実務検討のためのたたき台です。実際の契約では、取引類型、相手方所在地、資産所在地、強行法規、業法、税務、会計、紛争規模、交渉力に応じて調整が必要です。

次の比較表は、場面別にどのような準拠法・管轄条項が検討されるかを表します。条項文言だけでなく、どの負担や交渉ポイントが生じるかを読み取ることが重要です。

場面条項の骨子実務上の注意点
国内B2B ― 日本法・東京地裁専属日本法準拠。東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所。東京所在企業には使いやすい一方、地方企業から修正を求められることがあります。
国内B2B ― 中立型日本法準拠。被告の本店所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所。中立的に見えますが、債権回収では債権者側が遠隔地で訴える可能性があります。
国際契約 ― 日本法・日本裁判所専属抵触法規を除く日本法。日本の裁判所の専属的管轄。日本で訴える場合は東京地方裁判所。相手方財産が海外にある場合、日本判決の海外執行可能性を確認します。
国際契約 ― 日本法・非専属管轄抵触法規を除く日本法。日本の裁判所の非専属的管轄。相手方財産所在地でも訴える余地を残せますが、紛争解決地の予見可能性は下がります。
外国法・日本裁判所ニューヨーク州法などの外国法準拠。日本の裁判所の専属的管轄。日本の裁判所で外国法の内容を主張・立証する負担が生じます。
日本法・外国裁判所日本法準拠。シンガポール共和国など外国裁判所の専属的管轄。外国裁判所で日本法を主張・立証する必要があり、意見書や翻訳の費用が増えます。
国際取引用の仲裁条項日本法準拠。仲裁により最終解決。仲裁地、言語、仲裁人の数、機関・規則を定める。JCAA、ICC、SIAC、HKIAC、LCIAなどの機関、規則、緊急仲裁人、併合、多当事者、秘密保持、費用負担を検討します。

国際契約での二段階指定例

国際契約では、国際裁判管轄と国内の第一審裁判所を分けて書くことが考えられます。

本契約は、抵触法規を除く日本法に準拠し、日本法に従って解釈される。
本契約に起因し、または関連して生じる一切の紛争について、各当事者は、日本の裁判所の専属的管轄に服する。日本の裁判所に訴えを提起する場合、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

英文条項での考え方

英文契約では、準拠法、抵触法の除外、専属管轄、第一審裁判所を英語で明確にします。ただし、米国州法、イングランド法、シンガポール法、香港法、EU加盟国法、中国法、韓国法、インド法、中東各国法などが関係する場合、現地法の観点から確認が必要です。

This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of Japan, excluding its conflict-of-law rules.
The parties irrevocably submit to the exclusive jurisdiction of the courts of Japan for any dispute arising out of or in connection with this Agreement. If an action is brought before a Japanese court, the Tokyo District Court shall be the exclusive agreed court of first instance.
Section 09

準拠法・管轄条項でよくある誤りと修正方法

混同、曖昧な管轄、消費者・労働、仲裁、CISG、契約間矛盾を防ぎます。

準拠法・管轄条項の誤りは、紛争発生後に初めて大きな負担として現れます。条項の短さに比べて影響が大きいため、レビュー時には典型的な誤りを先回りして確認します。

次の比較表は、よくある誤りと修正の方向性を表します。どの誤りがどの争点につながるかを読み取り、条項文言だけでなく契約類型にも照らして確認することが重要です。

誤り問題点修正の方向性
「管轄は日本法」と書く管轄は裁判所の問題であり、日本法は準拠法です。準拠法条項と管轄条項を分けて書きます。
「東京地方裁判所を管轄」とだけ書く専属か非専属か、第一審に限るか、国際裁判管轄を含むかが曖昧です。第一審の専属的合意管轄裁判所などと明記します。
B2C利用規約にB2B条項を流用する消費者保護規定との関係でそのまま効くとは限りません。消費者の住所地、常居所地、対象国の消費者保護法を確認します。
労働契約に外国裁判所管轄を入れる労働者保護のため、準拠法・管轄に特別な制限があります。労務提供地、雇用実態、強行的労働法規を確認します。
仲裁地、機関、言語を書かない手続開始時に仲裁の進め方をめぐる争いが生じます。仲裁機関、規則、仲裁地、言語、仲裁人の数を定めます。
CISGを意識しない国際物品売買で日本法と書いてもCISGが適用される可能性があります。適用したくない場合はCISGを明示的に排除します。
主契約と個別契約で矛盾させるどちらの紛争解決条項が優先するかが争点になります。準拠法・紛争解決について優先順位条項を設けます。

仲裁条項の修正例では、少なくとも仲裁機関名、仲裁規則名、仲裁地、手続言語、仲裁人の数を明記します。主契約と個別契約が矛盾する場合は、「準拠法および紛争解決に関する定めについては本契約が優先する。ただし、個別契約において本条を明示して変更する場合はこの限りでない」といった優先順位の考え方を検討します。

重要消費者契約・労働契約では、事業者間契約と同じ発想で一方的に有利な準拠法・管轄を指定しても、そのまま効くとは限りません。
Section 10

契約類型別に見る準拠法・管轄条項の実務ポイント

NDA、業務委託、SaaS、代理店、知財、M&A、共同研究、労務、B2Cを横断します。

契約類型によって、準拠法・管轄条項と結びつく実務上のリスクは変わります。たとえば、NDAでは差止め、SaaSではデータ所在地、M&Aでは補償請求と執行可能性、労務では労働者保護が中心になります。

次の一覧は、契約類型ごとに準拠法・管轄条項で読み取るべきポイントを表します。自社の契約がどの類型に近いかを見て、法、場所、強行規制、執行可能性を確認することが重要です。

NDA

秘密保持契約

秘密情報漏えい時の損害賠償だけでなく、差止めや仮処分、証拠所在地、秘密情報が利用される国を確認します。

委託

業務委託契約

成果物の品質、納期、検収、再委託、知財、秘密保持、個人情報、責任制限の解釈が準拠法で変わり得ます。

SaaS

SaaS・クラウド利用規約

サービス提供者、利用者、データ保存地、個人情報移転、SLA、障害時責任、サイバーインシデントと連動します。

代理店

販売代理店・販売店契約

終了、独占権、競業避止、顧客情報、在庫、商標使用、未払手数料、現地強行法規を確認します。

知財

ライセンス・知的財産契約

支払義務や秘密保持義務は契約準拠法で処理できても、侵害判断や登録有効性は権利国の法が問題になります。

M&A

M&A契約

表明保証、補償、価格調整、アーンアウト、親会社保証、エスクロー、仲裁判断の執行可能性と一体で設計します。

研究

共同研究開発契約

バックグラウンドIP、フォアグラウンドIP、改良発明、輸出管理、研究インテグリティ、データ移転を確認します。

労務

労働契約・労務関係

契約名ではなく実態が重要です。指揮命令、労働時間管理、専属性、報酬の性質が労働関係に近いかを見ます。

B2C

消費者向け利用規約

消費者契約法、特商法、景品表示法、個人情報保護法、資金決済法、海外消費者保護法などを確認します。

知的財産権や不動産、労働、消費者、金融、輸出管理、データ保護などは、契約上の準拠法・管轄だけでは一元的に処理できない場合があります。選択した法で処理できる契約上の義務と、関係国の強行法規・専属管轄で処理される領域を区別します。

Section 11

準拠法・管轄条項の交渉戦略

日本法・日本裁判所を第一案にしつつ、第三国仲裁や担保でリスク配分を調整します。

日本企業が自社ひな形を提示する場合、通常は日本法・日本裁判所を第一案にします。これは、自社法務部や外部専門家が対応しやすく、コストを予測しやすいためです。ただし、海外企業が相手の場合、相手方から強く修正されることがあります。

次の一覧は、交渉上の落としどころと、それぞれのリスク配分を表します。どれがよいかは勝ち負けだけでなく、紛争発生可能性、紛争額、相手方信用、資産所在地、法務予算、事業上の重要性から読み取ります。

日本法・非専属管轄

日本法の予見可能性を確保しつつ、相手方財産所在地で訴える余地を残します。

相手国法・日本管轄

手続場所を日本に寄せる一方、外国法調査・立証の負担が残ります。

日本法・第三国仲裁

相互に自国裁判所を譲れない場合の中立案です。ただし費用、言語、仲裁人候補を具体的に見積もります。

少額は裁判、大型は仲裁

紛争額に応じて、費用と執行可能性のバランスを取る設計です。

差止めは裁判所、損害賠償は仲裁

緊急差止めや仮処分の必要性を残しつつ、本案の国際執行を仲裁で確保します。

担保と引き換えに相手方案を受け入れる

前払い、保証金、エスクロー、所有権留保、親会社保証、担保を組み合わせて回収リスクを抑えます。

準拠法・管轄条項は、単体で交渉するより、支払条件、前払い、保証金、エスクロー、所有権留保、親会社保証、担保、解除条項、責任制限、補償、秘密保持、知的財産、監査権、データ返還、不可抗力、通知、譲渡禁止、優先順位条項と一体で見るべきです。

交渉視点相手方管轄を受け入れる場合でも、前払い、保証、担保、エスクローを組み合わせれば、紛争時の回収リスクを軽減できることがあります。
Section 12

専門職別に見る準拠法・管轄条項のチェックポイント

法務、経営、税務会計、知財、労務、商事、内部監査で確認軸が変わります。

準拠法・管轄条項は、法務担当だけで完結するとは限りません。国際取引、M&A、知財、労務、税務、会計、内部監査が関わる契約では、各専門職が異なる観点からリスクを確認します。

次の比較表は、専門職ごとの確認軸を表します。誰がどの観点を持つべきかを読み取ることで、契約レビューの抜けを減らしやすくなります。

担当領域確認するポイント
弁護士・企業内弁護士・外部弁護士契約全体のリスク配分、強行法規、訴訟戦略、仲裁戦略、執行可能性、外国法上の有効性を確認します。
法務担当・契約法務担当ひな形管理、レビュー基準、承認手続、例外管理、弁護士確認が必要な変更範囲を明文化します。
経営者・事業責任者契約獲得のため相手方管轄を受け入れる場合でも、紛争費用、回収可能性、事業継続リスク、会計上の引当を理解します。
税理士・公認会計士補償請求、偶発債務、訴訟引当、表明保証、移転価格、恒久的施設、源泉税、ロイヤルティ課税との関係を確認します。
弁理士・知財法務担当権利国、登録状況、ライセンス登録、侵害地、差止め、秘密情報、技術輸出、共同発明を確認します。
社労士・労務法務担当労務提供地、雇用実態、就業規則、賃金、労働時間、解雇、ハラスメント、労災、社会保険、税務を横断します。
司法書士・商事法務担当会社設立、商業登記、組織再編、担保、債権譲渡、役員変更など、日本法上の手続を確認します。
内部監査・コンプライアンス・リスク管理担当海外法、海外管轄、仲裁、相手方管轄の契約を抽出し、重要契約として管理します。

契約上の準拠法が外国法であっても、日本法人の登記や会社法手続は日本法に従う必要があります。同様に、労務関係では準拠法・管轄条項によって労働者保護を回避できるわけではありません。

Section 13

準拠法・管轄条項の実務チェックリスト

契約締結前、相手方ひな形レビュー時、紛争発生時で確認項目を分けます。

準拠法・管轄条項は、契約締結前、相手方ひな形レビュー時、紛争発生時で確認すべき項目が変わります。段階ごとに見ることで、条項の有無だけでなく、執行可能性や社内報告まで漏れなく確認できます。

次の一覧は、三つの場面ごとに確認すべき事項を表します。自社の契約がどの段階にあるかを見て、該当する項目から優先的に確認することが重要です。

締結前

契約締結前チェック

  • 準拠法と管轄が明記されているか
  • 専属か非専属かが明確か
  • 国際契約で国と国内裁判所を二段階で指定しているか
  • 消費者契約・労働契約ではないか
  • 強行法規、相手方財産、外国判決または仲裁判断の執行可能性を確認したか
  • CISG、契約間矛盾、仲裁機関・規則・仲裁地・言語・仲裁人の数、保全、社内承認を確認したか
レビュー

相手方ひな形レビュー時チェック

  • 相手国法や相手国裁判所専属になっていないか
  • 仲裁地や言語が自社に過大な負担を与えないか
  • 集団訴訟放棄、陪審裁判放棄、片面的管轄、片面的仲裁が含まれていないか
  • 少額債権でも高額な仲裁費用が発生しないか
  • 外国法専門家、現地強行法規、消費者・労働者保護、取引規模とのバランスを確認したか
紛争時

紛争発生時チェック

  • 契約書、旧版契約、個別契約、注文書、利用規約、変更覚書の優先関係を確認したか
  • 時効、除斥期間、通知期限、証拠所在地、相手方財産所在地を確認したか
  • 仮差押え・仮処分、日本裁判、外国裁判、仲裁、先制提訴リスク、和解・調停・ADRを比較したか
  • 会計上の引当、開示、取締役会報告、保険通知を検討したか

チェックリストは、形式的に埋めるだけではなく、例外承認や専門家確認につなげるために使います。海外法・海外管轄・仲裁・相手方管轄の契約は、紛争時の対応コストが大きいため、契約管理上も重要契約として扱う価値があります。

Section 14

準拠法・管轄条項のFAQ

よくある疑問を一般情報として整理します。個別判断は契約内容と関係国の法により変わります。

Q1. 準拠法・管轄条項は必ず入れるべきですか。

一般的には、事業者間契約では準拠法・管轄条項を入れることが望ましいとされています。ただし、契約類型、取引規模、相手方所在地、消費者・労働者該当性、強行法規によって検討事項は変わります。具体的な対応は、契約書と取引実態を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q2. 日本法に準拠すると書けば、日本の裁判所で訴えられますか。

一般的には、準拠法と管轄は別の問題とされています。日本法を準拠法にしても、日本の裁判所に国際裁判管轄があるとは限りません。具体的な見通しは、管轄条項、当事者所在地、履行地、相手方の応訴状況などによって変わります。

Q3. 東京地方裁判所を管轄裁判所にすれば、日本法が適用されますか。

一般的には、管轄裁判所を指定しても、契約の準拠法が当然に日本法になるわけではありません。東京地方裁判所で争う場合でも、準拠法が外国法であれば外国法の内容が問題になる可能性があります。具体的には、契約書全体の条項を確認する必要があります。

Q4. 専属的と非専属的はどちらがよいですか。

一般的には、訴訟地を固定したい場合は専属的管轄、相手方財産所在地などで訴える余地を残したい場合は非専属的管轄が検討されます。ただし、債権回収、証拠所在地、相手方信用、消費者・労働者保護によって結論は変わります。具体的な設計は専門家へ相談する必要があります。

Q5. 国際契約では裁判と仲裁のどちらがよいですか。

一般的には、外国での執行可能性を重視する大型国際取引では仲裁が有力な選択肢とされています。一方、少額債権、国内資産への執行、緊急差止め、消費者・労働などでは裁判所が適する場合もあります。相手方財産、紛争額、秘密性、費用、専門性によって判断が変わります。

Q6. 外国企業の雛形でNew York law and New York courtsとあります。受け入れてよいですか。

一般的には、取引規模、紛争発生可能性、相手方資産所在地、ニューヨークで訴訟対応する費用、ディスカバリ負担、弁護士費用、判決執行可能性を確認する必要があります。小規模取引では、費用負担が請求額を上回る可能性もあります。

Q7. 国際売買で日本法と書くだけで十分ですか。

一般的には、国際物品売買ではCISGの適用有無を確認する必要があります。CISGを適用したい場合と排除したい場合で条項設計は変わります。売主・買主の立場、検査・通知、契約不適合、解除、損害賠償、相手国との関係によって判断が変わります。

Q8. 利用規約で東京地裁専属とすれば、全国の消費者に対して有効ですか。

一般的には、消費者契約には特別な保護があるため、事業者間契約と同じ感覚で東京地裁専属と定めても、そのまま有効とは限りません。消費者契約法、民事訴訟法、通則法、対象国の消費者保護法を確認する必要があります。

Q9. 労働契約で外国法・外国裁判所を指定できますか。

一般的には、労働契約では労働者保護のため、準拠法・管轄に特別な制限があるとされています。外国法・外国裁判所を指定しても、日本で労務提供する労働者との関係では、日本の強行的労働法規が問題になり得ます。

Q10. 契約書に準拠法・管轄条項がない場合、どうなりますか。

一般的には、準拠法は法廷地の国際私法により最密接関係地法などが判断され、管轄は被告住所地、履行地、不法行為地、財産所在地などの法定管轄原因に基づいて判断されます。具体的な判断は事案ごとの事情により変わります。

Q11. 外国判決は日本でそのまま強制執行できますか。

一般的には、そのまま強制執行できるわけではありません。外国判決が日本で効力を有するには民事訴訟法118条の要件が問題になり、強制執行には民事執行法24条に基づく執行判決が必要です。

Q12. 仲裁判断は日本でそのまま強制執行できますか。

一般的には、仲裁判断は確定判決と同一の効力を有するとされますが、日本で民事執行するには仲裁法46条に基づく執行決定が必要です。具体的には仲裁合意、仲裁手続、仲裁地、執行地の要件を確認する必要があります。

Section 15

準拠法・管轄条項を設計する思考順序

取引の性質から条項間の整合性まで、七つの順番で検討します。

準拠法・管轄条項を作るときは、いきなり文言を選ぶのではなく、取引の性質、想定される紛争、相手方資産、準拠法、紛争解決地、専属性、他条項との整合性を順番に確認します。

次の判断の流れは、条項設計の七つの順番を表します。前の段階の確認が不足すると後続の選択を誤りやすいため、取引実態から執行戦略まで一続きで読み取ることが重要です。

設計の七つの順番

取引の性質を把握する

国内取引か国際取引か、B2BかB2Cか、労働・知財・不動産・金融・M&A・データ・輸出管理が関係するかを確認します。

紛争の種類を想定する

代金未払い、契約不適合、納期遅延、秘密漏えい、知財侵害、解除、補償、差止め、データ漏えい、不正競争、労務紛争を想定します。

相手方の資産所在地を確認する

判決や仲裁判断をどこで執行するかを考えます。

準拠法を選ぶ

自社が理解し、専門家にアクセスでき、契約内容と整合し、強行法規リスクを管理できる法を選びます。

紛争解決地を選ぶ

裁判ならどの国・どの裁判所か、仲裁ならどの機関・どの仲裁地かを選びます。

専属・非専属を決める

予見可能性を重視するなら専属、執行戦略の柔軟性を重視するなら非専属を検討します。

条項間の整合性を確認する

通知、言語、契約終了、秘密保持、知財、責任制限、補償、不可抗力、優先順位、仲裁条項と矛盾しないか確認します。

国際契約では、契約言語、翻訳版の優先順位、通知言語、紛争解決言語も重要です。英文契約で日本法・東京地裁を指定する場合、日本の裁判では契約書の日本語訳が必要になることがあります。日本語契約で外国裁判所を指定する場合、外国訴訟で英訳が必要になることがあります。

Section 16

準拠法・管轄条項を社内規程として整備する方法

標準ポジション、例外承認、契約管理項目を社内基準に落とし込みます。

契約レビューの品質を安定させるには、準拠法・管轄条項について社内基準を作ることが有効です。どこまで現場判断で受け入れてよいか、どの変更から承認や専門家確認が必要かをあらかじめ決めます。

次の一覧は、社内規程として整備すべき三つの領域を表します。標準と例外を分け、契約管理システムに記録することで、紛争時だけでなく監査、M&A、IPO準備にも使える情報として残せます。

標準ポジション

国内B2Bは日本法・東京地裁または自社所在地裁判所、海外B2B小規模は日本法・日本裁判所、海外B2B大型は日本法・仲裁または中立地仲裁など、契約類型別の標準を定めます。

標準化

例外承認基準

外国法準拠、外国裁判所専属、海外仲裁地、英語以外の紛争解決、相手方財産が日本にない場合、高額リスク、B2C・労働・金融・医薬・データ・輸出管理を承認対象にします。

例外管理

契約管理システム

準拠法、管轄国、国内管轄裁判所、専属・非専属、仲裁機関、仲裁地、言語、CISG適用除外、消費者・労働該当性、外部レビュー、例外承認者などを記録します。

運用

次の比較表は、契約管理システムで持たせると有用な項目を表します。紛争時に条項を読み直すだけでなく、監査やデューデリジェンスで例外契約を抽出できるかを読み取ることが重要です。

分類管理項目
紛争解決準拠法、管轄国、国内管轄裁判所、専属・非専属、仲裁機関、仲裁地、言語
適用法リスクCISG適用除外の有無、消費者・労働該当性、相手方国、相手方資産所在地
承認・管理外部弁護士レビューの有無、例外承認者、契約金額、重要契約フラグ

これにより、紛争発生時だけでなく、内部監査、M&Aデューデリジェンス、事業売却、IPO準備、J-SOX、危機管理にも役立ちます。

Section 17

準拠法・管轄条項の高度論点

片面的条項、複数契約、不法行為、強行法規、手続法、契約言語を確認します。

実務では、準拠法・管轄条項を書けばすべて解決するわけではありません。片面的管轄、複数契約、不法行為請求、強行法規、手続法、契約言語など、条項の射程を超える論点が残ります。

次の一覧は、高度論点ごとに注意すべき範囲を表します。選択した準拠法で処理できる領域と、各国の強行規定・手続法・権利国法で処理される領域を読み分けることが重要です。

片面的管轄条項

一方当事者だけが複数の裁判所で訴えられる一方、他方当事者は特定裁判所に限定される条項です。法域によって有効性が問題になることがあります。

複数契約・複数当事者

M&A、ファイナンス、建設、システム開発、共同研究、サプライチェーンでは、関連契約の紛争解決条項を整合させます。

不法行為請求との関係

虚偽説明、秘密情報の不正取得、営業秘密侵害、詐欺、不正競争、知財侵害など、契約外請求をどこまで取り込むかを確認します。

強行法規

消費者、労働、独占禁止、金融、証券、破産、個人情報、輸出管理、制裁、租税、不動産、知財登録、行政規制は別途適用され得ます。

手続法

外国裁判所で訴訟を行う場合、証拠開示、証人尋問、文書提出、保全、上訴などは原則として法廷地法に従います。

契約言語

英文契約で日本法・東京地裁を指定する場合の日本語訳、日本語契約で外国裁判所を指定する場合の英訳、翻訳版の優先順位を整理します。

当事者が準拠法を選んでも、すべての強行法規を排除できるわけではありません。準拠法条項は万能ではなく、むしろ選択した法で処理できる範囲と、関係国の強行規定によって上書きされ得る範囲を区別することが重要です。

Section 18

準拠法・管轄条項は契約の出口戦略

紛争が現実化する前に、法、場所、手続、費用、回収可能性を設計します。

準拠法・管轄条項は、契約書の末尾に置かれる小さな条項ではありません。それは、紛争が起きたときに、どの法で、どの場所で、どの手続で、どの費用感で、どの程度実効的に解決できるかを決める出口戦略です。

次の重要ポイントは、企業法務で準拠法・管轄条項をレビューするときの最終確認を表します。各項目を順に確認することで、条項の形式だけでなく、紛争時の実効性を読み取れます。

契約締結前に出口を設計する

紛争が現実化した後に準拠法・管轄条項の重要性に気づいても、修正は困難です。契約締結前のレビュー段階で、取引リスクに見合った条項設計を行うことが重要です。

  • 準拠法と管轄を混同しない
  • 準拠法を明記する
  • 管轄を明記する
  • 専属か非専属かを明記する
  • 国際契約では国際裁判管轄と国内土地管轄を分けて考える
  • 消費者契約・労働契約では特別保護を確認する
  • 外国判決・仲裁判断の執行可能性を確認する
  • 国際売買ではCISGを確認する
  • 仲裁の方が適切な場合を見極める
  • 相手方資産所在地から逆算する
  • 主契約・個別契約・利用規約・注文書の整合性を確認する

企業法務の実務では、事業部、法務部、企業内弁護士、外部弁護士、外国法専門家、税務・会計・知財・労務・コンプライアンス担当が連携し、準拠法・管轄条項を形式的な定型文ではなく、企業の紛争解決力とリスク管理力を映す条項として扱うことが重要です。

Guide

準拠法・管轄条項で次に確認したいこと

目的に近い詳しい解説へ進めるよう、関連するテーマを整理しました。

知りたい内容を選ぶと、手続、費用、地域、具体的な論点などの詳しい解説に進めます。

このテーマから次に確認されやすい詳しい解説を8件表示しています。

Reference

準拠法・管轄条項の参考資料

このページは、準拠法・管轄条項に関する一般的な情報提供を目的とするものであり、特定の案件についての法的助言、税務助言、会計助言、投資助言、訴訟戦略の助言を構成するものではありません。具体的な契約・紛争・海外取引・消費者契約・労働契約・知財・M&A・金融・データ・輸出管理・倒産・執行に関しては、該当法域および分野に詳しい専門家に相談してください。

法令・公的資料

  • e-Gov法令検索「法の適用に関する通則法」
  • 日本法令外国語訳DB「法の適用に関する通則法 / Act on General Rules for Application of Laws」
  • e-Gov法令検索「民事訴訟法」
  • 日本法令外国語訳DB「民事訴訟法 / Code of Civil Procedure」
  • e-Gov法令検索「仲裁法」
  • 日本法令外国語訳DB「仲裁法 / Arbitration Act」
  • 日本法令外国語訳DB「民事執行法 / Civil Execution Act」

条約・国際機関資料

  • UNCITRAL “Status: Convention on the Recognition and Enforcement of Foreign Arbitral Awards (New York, 1958)”
  • UNCITRAL “Status: United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods (Vienna, 1980) (CISG)”
  • HCCH “Convention of 30 June 2005 on Choice of Court Agreements: Status table”
  • HCCH “Convention of 2 July 2019 on the Recognition and Enforcement of Foreign Judgments in Civil or Commercial Matters: Status table”