会社貸与、実費精算、定額手当を切り分け、労務・税務・社会保険・内部統制まで矛盾なく制度化するための実務論点を整理します。
会社貸与、実費精算、定額手当を切り分け、労務・税務・社会保険・内部統制まで矛盾なく制度化するための実務論点を整理します。
労務、税務、社会保険、情報管理を横断して、最初に押さえる結論を整理します。
次の重要ポイントは、このページ全体の結論を短くまとめたものです。制度設計の方向性を先につかむことが重要なので、会社が管理すべき費用、合理的に精算できる費用、賃金として扱う手当の違いを読み取ってください。
会社が常に全額負担するという一律ルールではなく、業務に直接必要な機器は会社管理、通信費・電気料金は合理的算定、渡し切り手当は給与処理という整理が実務上の中心になります。
次の三つの項目は、安定した制度設計の柱を並べたものです。費用の性質ごとに扱いを変えることが重要なので、各項目が税務、社会保険、給与計算のどこにつながるかを確認してください。
PC、スマートフォン、モバイルルーターなど業務専用性が高いものは、会社所有・会社負担にすると管理しやすくなります。
自宅回線や電気料金は、公私区分が難しいため、在宅勤務日数や面積按分などの算定式と証憑で説明できる範囲を精算します。
返還不要の在宅勤務手当は、給与課税、社会保険料、労働保険料、割増賃金算定基礎への反映を前提に設計します。
このページは、企業がテレワークを導入または見直しする際に問題となる「テレワーク時の通信費・光熱費の負担」について、企業法務、労務、税務、社会保険、内部統制、情報セキュリティの観点を統合して整理するものです。想定読者は、企業経営者、法務担当者、人事労務担当者、経理担当者、税務担当者、社会保険労務士、弁護士、企業内弁護士、コンプライアンス担当者、内部監査担当者、情報システム担当者、およびテレワーク制度の設計に関与する実務家です。
結論からいえば、テレワーク時の通信費・光熱費について、会社が常に全額を負担しなければならないという単純なルールはありません。しかし、従業員に過度な負担を生じさせることは望ましくなく、誰が、何を、どの範囲で、どの手続により負担するのかを、あらかじめ労使で整理し、就業規則、テレワーク勤務規程、賃金規程、経費精算規程、情報セキュリティ規程などに明確に落とし込む必要があります。特に、労働者に情報通信機器、作業用品その他の負担をさせる定めを置く場合には、労働基準法第89条第5号との関係で就業規則上の記載が問題となります。
また、税務上は「実費精算」と「渡し切りの手当」を区別することが重要です。国税庁のFAQは、在宅勤務に通常必要な費用の実費相当額を精算する方法で支給する一定の金銭は給与課税を要しない一方、使い残しても返還不要な在宅勤務手当は給与として課税する必要があるとしています。 社会保険料、労働保険料の算定基礎においても、実費弁償に当たるか、労働の対償としての手当に当たるかが重要な分岐点となります。
したがって、実務上の最も安定した設計は、次の三層構造です。
このページでは、この結論に至る法的根拠、制度設計、税務処理、社内規程例、実務上のチェックポイントを詳しく解説します。
自宅に移る費用を、労働条件・税務・情報管理・内部統制の論点として分解します。
テレワークでは、従来は会社の事務所で会社が当然に負担していた費用の一部が、従業員の自宅に移転します。代表的なものが、インターネット通信費、電話料金、電気料金、場合によっては水道料金、冷暖房費、プリンター、文具、机、椅子、モニター、照明、消耗品費です。
この問題は、単なる福利厚生や経費精算の問題にとどまりません。少なくとも次の領域にまたがります。
次の比較表は、テレワーク時の通信費・光熱費の負担が企業法務問題になる理由で確認すべき項目を列ごとに整理したものです。費用負担の判断や規程設計で論点を見落とさないために、左側の分類と右側の実務上の意味を対応させて読んでください。
| 観点 | 主な論点 |
|---|---|
| 労働法 | 労働条件の明示、就業規則の相対的必要記載事項、不利益変更、賃金控除、均等・均衡待遇 |
| 税務 | 在宅勤務手当の給与課税、実費精算の非課税処理、現物給与、消費税処理 |
| 社会保険・労働保険 | 標準報酬月額、労働保険料算定基礎、実費弁償と報酬の区別 |
| 賃金実務 | 割増賃金算定基礎、通勤手当の見直し、固定的賃金変動 |
| 情報セキュリティ | 私有端末、家庭内ネットワーク、秘密情報、マルウェア、ログ管理 |
| 個人情報・プライバシー | 通信明細、電気料金明細、自宅面積情報、家族情報の取得範囲 |
| 内部統制 | 承認権限、証憑保存、精算フロー、監査証跡、不正請求防止 |
| 人材・組織 | 従業員満足度、公平性、採用競争力、リモートワーク制度の信頼性 |
したがって、法務部だけ、人事部だけ、経理部だけで処理すると、別部門で問題が発生します。例えば、人事部が従業員満足度を重視して月額5,000円の在宅勤務手当を導入したとしても、経理・税務の確認を欠くと給与課税漏れが生じ得ます。労務担当が「実費精算だから非課税」と考えていても、証憑や算定式が整っていなければ、税務上も社会保険上も実費弁償性を説明しにくいです。法務部がテレワーク規程を作成しても、割増賃金算定基礎への反映が給与計算システムに入っていなければ、未払賃金リスクが残ります。
厚生労働省のテレワーク総合ポータルサイトは、テレワークを「情報通信技術を活用した、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」と説明し、働く場所の観点から、在宅勤務、サテライトオフィス勤務、モバイル勤務に分類しています。
このページでいう「テレワーク時の通信費・光熱費の負担」は、主として雇用型テレワーク、特に在宅勤務を念頭に置く。ただし、モバイル勤務やサテライトオフィス勤務でも、スマートフォン通信料、モバイルルーター費用、レンタルオフィス利用料、出社時交通費など、同じ考え方が応用されます。
会社貸与、合理的な実費精算、課税手当を組み合わせる基本設計を確認します。
次の判断の流れは、費用の性質から負担方式を選ぶ順番を表しています。最初に業務専用性を確認することが重要で、読み手は公私区分が明確な費用ほど会社管理に寄せ、公私区分が難しい費用ほど算定式または手当で処理する流れを確認してください。
会社貸与PC、業務用通話料、文具など、業務との結びつきが明確かを確認します。
明細や利用記録で業務部分を説明できるかを確認します。
合理的算定が可能なら実費精算、困難なら課税手当として制度化します。
就業規則、賃金規程、経費精算規程、給与計算項目に落とし込みます。
テレワークに伴う通信費・光熱費について、現行法上、会社が常に全額負担しなければならないと一律に定める規定はありません。厚生労働省も、通信費や情報通信機器などの費用について、在宅勤務者が負担することがあり得ることを前提に、誰が負担するか、会社が負担する場合の限度額、請求方法などをあらかじめ労使で十分に話し合い、就業規則等に定めておくことが望ましいとしています。
もっとも、これは「会社が何も決めずに従業員へ転嫁してよい」という意味ではありません。厚生労働省のQ&Aは、テレワークを行うことにより労働者に過度の負担が生じることは望ましくないと明示しています。 つまり、適法性、説明可能性、公平性、納得性のあるルール化が必要です。
実務で陥りやすい誤解は、この問題を二択で考えることです。実際には、費目ごとに性質が異なります。
次の比較表は、テレワーク時の通信費・光熱費の負担は全額負担か自己負担かの二択ではないことを確認するための項目を列ごとに整理したものです。費用負担の判断や規程設計で論点を見落とさないために、左側の分類と右側の実務上の意味を対応させて読んでください。
| 費目 | 公私区分 | 会社負担の必要性 | 実務上の基本姿勢 |
|---|---|---|---|
| 会社貸与PC、会社貸与スマートフォン | 明確 | 高い | 会社負担が原則的に合理的 |
| 業務用通話料 | 比較的明確 | 高い | 通話明細に基づき実費精算 |
| 自宅インターネット基本料 | 困難 | 中程度 | 算定式による一部負担または手当 |
| データ通信料 | 条件により明確 | 中程度 | 業務使用部分を合理的に計算 |
| 電気料金 | 困難 | 中程度 | 国税庁FAQの面積按分等を参考に精算 |
| 水道料金 | 困難 | 低から中程度 | 原則は定額手当または明確な対象限定 |
| ガス料金 | 困難 | 低から中程度 | 暖房利用等が業務上必要な場合に慎重に設計 |
| 机、椅子、モニター | 取得・所有権で変動 | 中程度 | 貸与または承認制の購入精算 |
| 文具、郵送、印刷 | 比較的明確 | 高い | 会社負担が実務上自然 |
会社は、業務遂行に直接必要で、かつ公私区分が明確な費用については会社負担とし、公私区分が難しい費用については、合理的な按分、上限付き精算、定額手当、または従業員負担とすることを組み合わせるべきです。
テレワーク時の通信費・光熱費の負担をめぐる実務上の核心は、次の4点です。
これらのいずれかを欠くと、労務紛争、税務否認、社会保険料算定誤り、未払割増賃金、従業員不満、内部監査指摘につながり得ます。
就業規則、賃金控除、不利益変更、均等・均衡待遇の観点をまとめます。
従業員にとって、テレワーク時の通信費・光熱費の負担は、実質的な手取りや労働条件に影響します。月額数千円の負担であっても、恒常的に発生すれば年間では無視できない金額となります。特に、低賃金層、非正規雇用、短時間勤務者、若年層、一人暮らしの従業員にとっては、通信環境整備や電気料金の増加が相対的に重いです。
労働基準法第15条は、使用者が労働契約締結時に賃金、労働時間その他の労働条件を明示することを求めています。テレワークを雇用契約上の通常の勤務形態として予定する場合、通信費・光熱費の負担ルールは、労働条件通知書、雇用契約書、就業規則、テレワーク勤務規程等で明示しておくべき事項です。
労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に就業規則の作成・届出を義務付けている。就業規則の作成・変更にあたっては、労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数代表者の意見書を添えて、所轄労働基準監督署長に届け出る必要があります。
同条第5号は、労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合には、その事項を就業規則に記載することを求めています。テレワーク時に従業員の自宅回線、私有PC、私有スマートフォン、机、椅子、電気料金等を一定範囲で従業員負担とする場合、この条項との関係を検討する必要があります。
実務上は、少なくとも次の事項を就業規則または下位規程に明記すべきです。
次の比較表は、テレワーク時の通信費・光熱費の負担を労働条件として整理するうえで確認すべき項目を列ごとに整理したものです。費用負担の判断や規程設計で論点を見落とさないために、左側の分類と右側の実務上の意味を対応させて読んでください。
| 記載事項 | 具体例 |
|---|---|
| 対象者 | 在宅勤務者、モバイル勤務者、臨時在宅勤務者など |
| 対象費目 | 通信費、電気料金、郵送費、消耗品費、機器費用など |
| 負担主体 | 会社負担、従業員負担、按分負担、上限付き会社負担 |
| 精算方式 | 実費精算、定額手当、会社直接契約、会社貸与 |
| 上限額 | 月額上限、日額上限、事前承認上限 |
| 請求方法 | 申請期限、証憑、承認者、精算日 |
| 返還・退職時処理 | 貸与物返却、過払い返還、未精算費用の処理 |
| 税務・賃金処理 | 給与課税、非課税精算、割増賃金算定基礎の取扱い |
| セキュリティ | 私有端末利用条件、禁止事項、事故時報告 |
| 見直し | 通信料金、電気料金、勤務頻度変更時の改定手続 |
常時10人未満の事業場では、労働基準法上の就業規則作成・届出義務は原則として生じません。しかし、費用負担の明確化が不要になるわけではありません。労働契約上の合意、労働条件明示、信義則、紛争予防の観点から、少なくとも雇用契約書、労働条件通知書、テレワーク同意書、社内規程、業務指示書等で明確化すべきです。
中小企業では、「従業員との距離が近いから柔軟に処理できます」と考えがちです。しかし、明文化されていない費用負担は、後日、退職時、未払賃金請求時、労働基準監督署への相談時、税務調査時に問題化しやすくなります。特に、創業期企業、スタートアップ、士業事務所、IT企業、フルリモート企業では、早期に簡潔な規程を整備することが重要です。
会社が機器利用料、通信費負担分、備品代などを従業員の給与から控除する場合は、労働基準法第24条の賃金全額払い原則に注意する必要があります。厚生労働省は、賃金からの控除について、法令に別段の定めがある場合または事業場の過半数労働組合等との書面による協定がある場合に限り、賃金から一部控除が認められるとしています。
したがって、たとえば「会社が購入したモニター代の一部を従業員負担とし、給与から毎月控除する」「従業員が退職時に貸与物を返還しなかった場合に給与から控除する」といった運用は、控除の根拠、労使協定、本人同意、損害額の特定、相殺禁止との関係を慎重に確認する必要があります。
既存制度を変更して、従業員に新たな通信費・光熱費負担を課す場合、労働条件の不利益変更が問題となることがあります。特に、従来会社が全額負担していた通信機器や手当を廃止し、従業員に自宅回線や私有端末利用を求める場合は、就業規則変更の合理性、周知、経過措置、代替措置、従業員説明が重要です。
逆に、テレワークに伴い通勤手当を見直す場合も、手当の性質に応じた整理が必要です。厚生労働省のテレワークモデル就業規則は、在宅勤務だからといって基本給や諸手当を当然に減額できるわけではありませんが、通勤頻度に応じて通勤手当を見直すことはあり得るとの考え方を示しています。
正社員には在宅勤務手当を支給しますが、契約社員、パートタイム労働者、派遣労働者には支給しないという制度設計は、費用負担の実態と制度目的に照らして慎重に検討する必要があります。同一労働同一賃金ガイドラインは、雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保し、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の待遇差が不合理であるかを示すものとされています。
通信費・光熱費の補填は、職務遂行に伴う費用負担の補填という性質を持つ。そのため、同じ頻度・同じ業務内容でテレワークを行う従業員について、雇用形態だけを理由に在宅勤務手当や実費精算の有無を分けることは、説明が難しくなる可能性があります。制度上の対象者を分ける場合は、勤務日数、テレワーク頻度、業務上必要な通信量、会社貸与機器の有無、職務内容、労務提供場所など、費用発生との関連がある基準を用いるべきです。
実費精算と渡し切り手当を分け、通信費・電気料金の算定式を確認します。
税務上の最重要概念は、「実費精算」と「給与としての手当」の区別です。
国税庁のFAQは、在宅勤務に通常必要な費用について、その費用の実費相当額を精算する方法により企業が従業員に支給する一定の金銭は、従業員に対する給与として課税する必要はないとしています。一方、従業員が在宅勤務に通常必要な費用として使用しなかった場合でも返還不要な在宅勤務手当、たとえば毎月5,000円を渡し切りで支給するものは、給与として課税する必要があるとしています。
実務上は、名称ではなく実態で判断されます。会社が「在宅勤務実費精算金」と名付けても、証憑提出がなく、未使用分の返還もなく、毎月定額で支給されるのであれば、給与課税の対象となる可能性が高くなります。反対に、「在宅勤務手当」という名称であっても、算定式、証憑、業務使用部分、精算・返還の仕組みが整っていれば、実費弁償として取り扱える余地があります。
国税庁FAQは、インターネット接続に係る通信料について、基本使用料やデータ通信料などのうち業務のために使用した部分を合理的に計算する必要があるとし、次の算式を示しています。
業務のために使用した基本使用料・通信料等
= 従業員が負担した1か月の基本使用料・通信料等
× その従業員の1か月の在宅勤務日数 ÷ 該当月の日数
× 1/2
この「1/2」は、1日のうち睡眠時間を除いた時間に均等に通信料が生じていると仮定し、そのうち法定労働時間8時間に相当する割合として説明されています。国税庁FAQは、この算式によらず、より精緻な方法で業務使用部分を算出して支給する場合も、給与課税しなくて差し支えないとしています。
月額インターネット料金が6,000円、当該月の日数が30日、在宅勤務日数が12日の場合、国税庁FAQの算式による業務使用部分は次のとおりです。
6,000円 × 12日 ÷ 30日 × 1/2 = 1,200円
会社が1,200円を証憑と算定式に基づいて精算する場合、給与課税を要しない実費精算として整理しやすくなります。会社が一律2,000円を支給し、差額800円について業務使用部分であることを説明できない場合、その差額は給与課税対象となる可能性があります。
国税庁FAQは、電気料金についても、基本料金や電気使用料のうち業務のために使用した部分を合理的に計算する必要があるとし、次の算式を示しています。
業務のために使用した基本料金・電気使用料
= 従業員が負担した1か月の基本料金・電気使用料
× 業務のために使用した部屋の床面積 ÷ 自宅の床面積
× その従業員の1か月の在宅勤務日数 ÷ 該当月の日数
× 1/2
月額電気料金が18,000円、自宅床面積が60平方メートル、業務に使用した部屋の床面積が10平方メートル、当該月の日数が30日、在宅勤務日数が12日の場合、業務使用部分は次のとおりです。
18,000円 × 10平方メートル ÷ 60平方メートル × 12日 ÷ 30日 × 1/2 = 600円
この金額を見ると、国税庁FAQの算式による電気料金精算額は、従業員の体感する冷暖房費増加額より小さくなることがあります。したがって、企業が従業員満足度や採用競争力を考慮してより大きな補助をしたい場合は、全額を非課税実費精算として処理しようとするのではなく、実費相当部分と給与課税対象の手当部分を分ける設計が望ましいです。
国税庁FAQは、通信費と電気料金について具体的な算式を示していますが、水道料金やガス料金について同様の一般算式を明示しているわけではありません。水道料金は、業務使用と生活使用の区別が特に困難であり、在宅勤務による増加額を客観的に算出しにくい費目です。ガス料金も、暖房、給湯、調理など生活利用との混在が大きいです。
そのため、水道料金・ガス料金を非課税の実費精算として処理する場合は、業務上通常必要な費用であること、業務使用部分の合理的算定方法、証憑、承認、返還ルールを慎重に整備する必要があります。実務上は、水道光熱費をまとめて定額の在宅勤務手当で補填し、給与課税を前提に処理する方が安全な場合が多いです。
国税庁FAQは、企業が所有する事務用品等を従業員に貸与する場合は給与課税不要とされる一方、所有権が従業員に移転する支給の場合は現物給与として課税する必要があるとしています。机、椅子、カーテン、間仕切り、空気清浄機等の環境整備物品についても、会社所有物を貸与する場合と、従業員へ所有権を移転する場合で課税関係が変わります。
ここでいう「貸与」は、単に言葉だけで決まるものではありません。従業員が自由に処分できず、業務に使用しなくなったときに返却を要すること、会社の固定資産または備品として管理されること、退職時・異動時の返却ルールがあることが重要です。
自宅に業務スペースがない従業員に、勤務時間内に自宅近くのレンタルオフィスやコワーキングスペースの利用を認める場合、国税庁FAQは、在宅勤務に通常必要な費用として立替払いし、領収書等を提出して精算されているものについては、給与課税を要しないとしています。
ただし、従業員が自己判断で利用した高額施設、業務と無関係な宿泊、家族利用、私用利用を含む料金まで会社が負担する場合は、給与課税や損金性の問題が生じ得ます。利用目的、利用時間、上限額、対象施設、事前承認、領収書、勤務実態との対応関係を規程化することが望ましいです。
返還不要の在宅勤務手当を賃金制度として扱う際の給与計算リスクを確認します。
厚生労働省のテレワークモデル就業規則は、水道光熱費や通信費用の自己負担を一定額の手当で補う例について、そのような定額手当は割増賃金の算定基礎に算入しなければならないと説明しています。
労働基準法第37条および労働基準法施行規則第21条により、割増賃金の算定基礎から除外できる賃金は限定されています。厚生労働省モデル就業規則は、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金の7項目に限定されると説明しています。
在宅勤務手当は、通常、この限定列挙に当然には該当しません。そのため、給与課税される定額在宅勤務手当を導入する場合は、割増賃金単価の計算にも反映させる必要があります。
よくある誤りは、在宅勤務手当を「経費補助だから割増賃金には関係ない」として、給与計算システム上、割増賃金算定基礎から除外してしまうことです。実費精算であれば賃金ではないと整理できる余地がありますが、定額・返還不要・給与課税対象の手当であれば、賃金としての性格が強くなります。
特に、残業時間が多い企業、裁量労働制・固定残業代制度を採用している企業、夜間対応があるIT企業、カスタマーサポート部門、管理監督者性が争われやすい職位では、在宅勤務手当を含めた割増賃金単価の再計算が重要です。
PC、スマートフォン、自宅回線、電気料金、備品などを費目ごとに整理します。
次の一覧は、費目ごとに実務で選びやすい処理方法を整理したものです。費目の性質によって会社管理、実費精算、課税手当の適否が変わるため、各手段の目的と注意点を読み分けてください。
会社貸与にすると、費用負担、資産管理、セキュリティ、退職時返却を一体で統制できます。
会社管理業務使用部分を合理的に計算できる範囲で、証憑と算定式に基づく精算を検討します。
実費精算公私区分が難しいため、非課税精算にこだわらず、定額手当として給与処理する選択肢があります。
要整理業務関連性が比較的明確なものは、承認制の実費精算や会社直接配送で統制しやすくなります。
承認制最も安定した方法は、業務用端末と通信手段を会社が貸与することです。会社貸与であれば、費用負担、セキュリティ、データ管理、退職時返却、資産管理を一体的に統制しやすくなります。
厚生労働省のQ&Aも、テレワーク導入企業では、パソコン本体、周辺機器、携帯電話、スマートフォンなどについて会社から貸与しているケースが多く、会社が貸与した場合は基本的に全額会社負担としているところが多いと説明しています。
実務上の推奨設計は次のとおりです。
次の比較表は、テレワーク時の通信費・光熱費の負担を費目別に設計するうえで確認すべき項目を列ごとに整理したものです。費用負担の判断や規程設計で論点を見落とさないために、左側の分類と右側の実務上の意味を対応させて読んでください。
| 項目 | 推奨設計 |
|---|---|
| 所有権 | 会社所有 |
| 費用 | 購入費、通信料、保守費は会社負担 |
| 私用利用 | 原則禁止または限定的許容 |
| 退職時 | 返却義務、未返却時の損害賠償ルール |
| セキュリティ | MDM、暗号化、ウイルス対策、VPN、多要素認証 |
| ソフトウェア | 無断インストール禁止 |
| 紛失時 | 速やかな報告、遠隔ロック、インシデント対応 |
私有端末の業務利用、いわゆるBYODは、費用面では導入しやすい一方、法務・セキュリティ上のリスクが大きいです。厚生労働省のモデル就業規則も、自己所有PCの場合、家族共用、秘密保持、ウイルス等のネットワーク攻撃リスクが想定されるため、セキュリティガイドラインを設け、費用については話し合いで決定する例を示しています。
BYODを認める場合は、次の事項を最低限整備すべきです。
自宅インターネット回線は、私用利用と業務利用の区別が難しいです。厚生労働省のモデル就業規則も、従業員の自宅回線は個人使用も可能であり、公私区分が事実上困難であるため、利用料を個人負担としているケース、または一定額の手当を支払っているケースが多いとしています。
企業が取り得る選択肢は次の4つです。
次の比較表は、テレワーク時の通信費・光熱費の負担を費目別に設計するうえで確認すべき項目を列ごとに整理したものです。費用負担の判断や規程設計で論点を見落とさないために、左側の分類と右側の実務上の意味を対応させて読んでください。
| 方式 | 内容 | 長所 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 会社直接契約 | 会社が業務用回線を契約 | 公私区分が明確 | コスト高、設置管理が重い |
| モバイルルーター貸与 | 会社が通信機器を貸与 | 管理しやすいです | 通信品質、容量制限 |
| 業務使用部分の実費精算 | 国税庁算式等で精算 | 税務・社保上安定しやすいです | 証憑・算定事務が必要 |
| 定額手当 | 月額一定額を支給 | 事務負担が軽い | 給与課税、社保、割増賃金基礎 |
電気料金は、在宅勤務で最も不満が出やすい費目の一つです。特に夏季・冬季の冷暖房費、照明、PC、モニター、ルーター、プリンター、空気清浄機などにより、従業員の負担感は増します。
ただし、業務使用分の客観的算定は難しいです。国税庁FAQの面積按分式は税務上の実務指針として有用ですが、従業員が実感する増加額を完全に反映するものではありません。企業としては、税務上の非課税実費精算を重視するのか、従業員納得感を重視して課税手当を支給するのかを明確に選択すべきです。
実務上の選択肢は次のとおりです。
次の比較表は、テレワーク時の通信費・光熱費の負担を費目別に設計するうえで確認すべき項目を列ごとに整理したものです。費用負担の判断や規程設計で論点を見落とさないために、左側の分類と右側の実務上の意味を対応させて読んでください。
| 方式 | 適する企業 | 留意点 |
|---|---|---|
| 国税庁算式による実費精算 | 精緻な税務処理を重視する企業 | 証憑、面積情報、在宅日数管理が必要 |
| 日額手当 | ハイブリッド勤務で在宅日数が変動する企業 | 課税・社保・割増賃金への反映が必要 |
| 月額手当 | フルリモートや在宅頻度が高い企業 | 在宅日数が少ない月の公平性に注意 |
| 会社負担なし | 在宅勤務が任意・福利厚生的な企業 | 過度負担、不満、公平性の説明が必要 |
水道料金やガス料金は、通信費や電気料金以上に公私区分が難しいです。たとえば、在宅勤務によりトイレ使用、水分補給、手洗い、暖房利用が増えるとしても、業務使用分を客観的に算出することは容易ではありません。
このため、水道光熱費を一括して定額の在宅勤務手当で補う設計が実務上は多いです。ただし、その場合は給与課税、社会保険料・労働保険料、割増賃金算定基礎を前提にします。非課税実費精算としたい場合は、業務上の必要性、算定式、証憑、返還ルールを整備し、税理士等と個別に検討することが望ましいです。
従業員の自宅に通信回線がない場合、新規工事費、契約事務手数料、ルーター設置費用などが問題となります。厚生労働省のモデル就業規則は、在宅勤務者の自宅に通信回線が設置されていない場合、新たに通信回線を引く工事費について、会社負担か個人負担かを決めておく必要があるとしています。
実務上は、次の要素を考慮します。
フルリモートを前提に採用し、会社が高い通信品質を求める場合は、会社負担または会社貸与の通信手段を用意する合理性が高いです。従業員の任意利用として在宅勤務を認めるにとどまる場合は、既存回線を前提とし、新規工事費は個人負担とする設計もあり得ます。ただし、その場合も募集要項、雇用契約、テレワーク規程で明確化する必要があります。
郵送費、文具、コピー用紙、トナー、セキュリティ封筒、業務上必要な印紙、宅配便費用などは、業務との関連が比較的明確であり、会社負担とすることが実務上自然です。厚生労働省のモデル就業規則も、業務に必要な郵送費、事務用品費、消耗品費その他会社が認めた費用は会社負担とする規定例を示しています。
ただし、家庭用プリンターのインク、紙、複合機、シュレッダーなどは私用との混在があり得るため、会社貸与、会社直接配送、承認制、上限付き精算、購入先指定などの統制が必要です。
会社直接負担、実費精算、定額手当、組み合わせ方式の長所と留意点を比較します。
会社がPC、スマートフォン、モバイルルーター、周辺機器、ソフトウェア、セキュリティサービスを直接契約または貸与し、業務用費用を会社が負担する方式です。
この方式は、法務・税務・セキュリティ上最も安定しやすいです。従業員の私生活情報を取得する必要も小さく、業務用通信と私用通信を分けやすいです。ただし、初期コスト、管理コスト、資産管理、故障対応が必要です。
大企業、金融機関、医療・ヘルスケア企業、個人情報を大量に扱う企業、営業秘密を扱う研究開発部門、上場企業、内部統制を重視する企業では、この方式が基本となります。
従業員が負担した通信費や電気料金の業務使用部分を、証憑と算定式に基づいて精算する方式です。
この方式は、非課税処理や社会保険料算定基礎外処理を目指す場合に適しています。ただし、事務負担が大きいです。従業員は請求書、明細、電気料金、在宅勤務日数、業務使用部屋の面積等を提出する必要があり、会社は承認、保存、監査を行う必要があります。
実務上は、月次精算よりも四半期精算、半期精算、または在宅勤務日数が一定以上の従業員に限定するなど、事務負担を抑える工夫が必要です。
毎月または在宅勤務日数に応じて一定額を支給する方式です。たとえば、月額3,000円、在宅勤務1日あたり200円などです。
この方式は、制度として分かりやすく、従業員納得感を得やすく、事務負担が軽いです。他方、返還不要の手当である限り、給与課税、社会保険料・労働保険料算定基礎、割増賃金算定基礎への算入が必要になる可能性が高くなります。
したがって、定額手当方式は「税務上非課税の経費精算」ではなく「賃金制度」として設計すべきです。
実務上最も現実的なのは、複数の方式を組み合わせるハイブリッド方式です。
次の比較表は、テレワーク時の通信費・光熱費の負担方式を選ぶうえで確認すべき項目を列ごとに整理したものです。費用負担の判断や規程設計で論点を見落とさないために、左側の分類と右側の実務上の意味を対応させて読んでください。
| 費目 | 推奨方式 |
|---|---|
| 業務用PC、スマートフォン | 会社貸与 |
| 業務用通話料 | 通話明細に基づく実費精算 |
| 自宅インターネット | 国税庁算式による実費精算または定額手当 |
| 電気料金 | 国税庁算式による実費精算または定額手当 |
| 水道・ガス | 原則として定額手当または対象外 |
| 郵送・文具 | 承認制の実費精算または会社直接配送 |
| 机・椅子 | 会社貸与または上限付き承認制購入 |
| レンタルオフィス | 事前承認と領収書による実費精算 |
この方式では、税務・社会保険上の処理項目を明確に分けることが不可欠です。
就業規則、テレワーク勤務規程、賃金規程、経費精算規程の役割分担を確認します。
テレワーク時の通信費・光熱費の負担を規定する場合、1つの規程だけで完結させるより、複数規程の役割分担を明確にする方がよいでしょう。
次の比較表は、テレワーク時の通信費・光熱費の負担を社内規程に落とし込むで確認すべき項目を列ごとに整理したものです。費用負担の判断や規程設計で論点を見落とさないために、左側の分類と右側の実務上の意味を対応させて読んでください。
| 規程 | 役割 |
|---|---|
| 就業規則 | 基本方針、労働条件、作業用品等負担の根拠 |
| テレワーク勤務規程 | 対象者、勤務場所、費用負担、申請、承認 |
| 賃金規程 | 在宅勤務手当、割増賃金算定基礎、通勤手当 |
| 経費精算規程 | 証憑、申請期限、承認権限、上限額 |
| 情報セキュリティ規程 | 端末、通信、データ管理、事故報告 |
| 個人情報取扱規程 | 明細・自宅情報の取得、利用目的、保管期間 |
| 固定資産・備品管理規程 | 貸与物、返却、棚卸、廃棄 |
規程は、過度に細かくすると運用不能になる一方、抽象的すぎると紛争時に機能しません。次の程度まで具体化することが望ましいです。
費用負担、通信費、電気料金、手当、私有端末、貸与物の条項例を掲載します。
以下は、企業法務・労務・税務の観点を反映した参考例です。実際に使用する場合は、各社の勤務形態、労働組合・従業員代表との協議、税務方針、給与計算システム、情報セキュリティ体制に合わせて修正する必要があります。
第○条(費用負担の基本方針)
会社は、テレワークの実施に通常必要な費用のうち、会社が別に定める費用を負担する。
2 従業員は、会社の事前承認を得ずに支出した費用について、会社に請求することはできない。ただし、緊急かつやむを得ない事情があり、事後速やかに会社の承認を得た場合はこの限りでない。
3 テレワークに伴い従業員が負担する通信費、光熱費、作業用品その他の費用の取扱いは、本規程、賃金規程、経費精算規程および情報セキュリティ規程の定めるところによる。
第○条(通信費)
会社が貸与する情報通信機器および通信回線の利用料金は、会社が負担する。
2 従業員が自己の通信回線を業務に使用する場合、会社は、国税庁の在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQその他公的指針を参考に会社が定める算定方法により、業務使用部分に相当する金額を実費精算することがある。
3 前項の精算を受けようとする従業員は、会社所定の申請書、通信料金明細、在宅勤務日数その他会社が必要と認める資料を提出しなければならない。
4 会社が別に定める在宅勤務手当を支給する場合、当該手当の税務上および社会保険上の取扱いは賃金規程に定める。
第○条(電気料金)
従業員が在宅勤務により負担した電気料金について、会社が業務使用部分を実費精算する場合は、会社が定める算定方法により算出する。
2 前項の算定にあたっては、従業員が負担した1か月の基本料金および電気使用料、業務に使用した部屋の床面積、自宅の床面積、在宅勤務日数、当該月の日数その他会社が必要と認める事項を用いることがある。
3 従業員は、会社が必要と認める範囲で、電気料金明細その他の資料を提出するものとする。ただし、会社は、業務上不要な個人情報を取得しないよう配慮する。
第○条(在宅勤務手当)
会社は、在宅勤務に伴い従業員が負担する通信費、水道光熱費その他の費用の補助として、賃金規程に定める在宅勤務手当を支給することがある。
2 在宅勤務手当は、返還を要しない定額手当として支給する場合、給与として取り扱い、所得税、社会保険料、労働保険料および割増賃金算定基礎への算入について、法令および賃金規程に従い処理する。
3 前項の手当の支給額、支給対象者、支給要件、支給停止事由は賃金規程に定める。
第○条(私有端末の利用)
従業員は、会社の事前許可を得た場合を除き、自己または第三者が所有するパソコン、スマートフォン、タブレットその他の情報通信機器を業務に使用してはならない。
2 会社は、私有端末の利用を許可する場合、情報セキュリティ規程に定める基準を満たすことを条件とする。
3 私有端末の業務利用に伴う通信費、修理費、更新費その他の費用負担は、会社と従業員が事前に確認し、会社が定める範囲に限り会社が負担する。
4 従業員は、私有端末の紛失、盗難、マルウェア感染、業務情報の漏えいまたはそのおそれを認識した場合、直ちに会社へ報告しなければならない。
第○条(情報通信機器等の貸与)
会社は、業務上必要と認める場合、従業員に対し、パソコン、スマートフォン、モニター、プリンター、ルーター、ソフトウェアその他の物品を貸与する。
2 貸与物の所有権は会社に帰属し、従業員は会社の許可なく貸与物を第三者に使用させ、譲渡し、担保に供し、改造し、または業務外の目的で使用してはならない。
3 従業員は、退職、異動、テレワーク終了その他会社が返却を求めた場合、速やかに貸与物を返却しなければならない。
4 従業員の故意または重大な過失により貸与物を滅失、毀損または返却不能とした場合の取扱いは、法令および会社規程に従う。
証憑取得、保存期間、閲覧権限、不正防止をプライバシーと内部監査の観点で整理します。
実費精算を行うには証憑が必要です。しかし、従業員の通信明細や電気料金明細には、家族構成、生活パターン、契約サービス、電話番号、住所、使用時間帯、場合によっては私的な通話先など、プライバシー性の高い情報が含まれます。
会社は、実費精算に必要な範囲を超えて個人情報を取得すべきではありません。たとえば、通信料金の総額、基本料、データ通信料、在宅勤務日数の確認だけで足りる場合、通話先番号の全桁や私用通話の詳細まで取得する必要はありません。提出書類では、不要部分をマスキングする運用が考えられます。
通信費・光熱費精算のために取得する情報については、利用目的、保存期間、閲覧権限、廃棄方法を明確にすべきです。給与・経費・税務証憑として保存が必要なものは、法令・会計方針に従って保存します。一方、不要な詳細情報は取得しない、または取得後速やかに削除します。
実費精算制度は、不正請求リスクを伴います。通信費、電気料金、在宅勤務日数、部屋面積は、会社が直接確認しにくいものです。したがって、全件精査ではなく、次のようなリスクベース管理が現実的です。
会社命令型、任意在宅勤務、ハイブリッド勤務、緊急時、フルリモート採用を比較します。
会社がオフィスを縮小・廃止し、従業員にフルリモートを命じる場合、通信費・光熱費をすべて従業員負担とする設計は、納得性と紛争予防の観点から難しいです。少なくとも、会社貸与機器、業務用通信手段、通信費補助、電気料金補助、レンタルオフィス利用制度などを検討すべきです。
このケースでは、従業員にとって自宅が事実上の主要な労務提供場所となります。労働条件通知書、就業場所の記載、通勤手当、出社時交通費、労災、労働時間管理、情報セキュリティ、備品管理を一体的に見直す必要があります。
育児、介護、通勤負担軽減、集中作業など、従業員の希望により在宅勤務を認める場合、費用負担について会社命令型よりも従業員負担の余地は大きいです。ただし、任意制度であっても、制度利用者に過度な負担が生じる場合や、制度利用が事実上期待されている場合には、会社の説明責任は残ります。
「在宅勤務を希望する者は通信費・光熱費をすべて自己負担とする」と規定するだけでなく、会社貸与機器の範囲、業務用通話料の精算、郵送費・文具費の精算、在宅勤務手当の有無を明確化するべきです。
週2日出社、週3日在宅のようなハイブリッド勤務では、通勤手当と在宅勤務手当のバランスが問題となります。定期代相当の通勤手当を維持するのか、出社日ごとの実費精算にするのか、在宅勤務日数に応じた日額手当を支給するのかを整理する必要があります。
この場合、在宅勤務日数が月ごとに変動するため、月額固定手当よりも日額手当の方が公平に見えます。しかし、日額手当であっても返還不要の手当であれば給与課税等の対象となり得ます。給与計算システムで在宅勤務日数を取り込み、課税・社会保険・割増賃金計算に反映できるかが実務上の制約となります。
自然災害、感染症、交通障害、事業継続計画に基づく臨時テレワークでは、平時と同じ精緻な精算制度を即時に適用できないことがあります。しかし、臨時措置であっても期間が長期化すれば、費用負担問題は顕在化します。
規程上は、緊急時条項を設け、一定期間は簡便な定額補助、一定期間を超える場合は通常の実費精算または手当制度へ移行する、といった段階的設計が望ましいです。
採用時からフルリモートを前提とする場合、通信環境、作業環境、費用負担は募集要項・雇用契約上の重要条件です。従業員が自己負担すべき環境を前提に採用する場合は、必要な回線速度、セキュリティ要件、個室または作業スペース、費用補助の有無を明確にします。
採用後に「想定外だった」とならないよう、雇用契約締結前に、テレワーク環境チェックリストを提示し、会社負担と本人負担を説明することが望ましいです。
現状調査から制度方針、税務・給与確認、規程改定、運用監査までを順に確認します。
次の時系列は、制度導入を進める順番を示しています。部門ごとの検討がばらばらになると税務や給与計算でずれが出やすいため、現状把握から監査までの順序を確認してください。
対象者、在宅勤務日数、貸与機器、既存手当、給与処理、セキュリティ事故を棚卸しします。
実費精算、定額手当、会社貸与、自己負担のどれを費目ごとに使うかを決めます。
課税区分、社会保険料、労働保険料、割増賃金算定基礎、会計処理を確認します。
労働者代表手続、周知、証憑保存、年次レビューまでを制度に組み込みます。
最初に行うべきは現状調査です。次の項目を確認します。
次に、会社としての方針を決めます。方針は、コストだけでなく、採用、人材定着、内部統制、税務安全性、従業員公平性を踏まえるべきです。
次の比較表は、テレワーク時の通信費・光熱費の負担制度を導入する手順で確認すべき項目を列ごとに整理したものです。費用負担の判断や規程設計で論点を見落とさないために、左側の分類と右側の実務上の意味を対応させて読んでください。
| 方針 | 向く企業 |
|---|---|
| 厳格な実費精算 | 税務・社保上の正確性を重視する企業 |
| 定額手当 | 従業員満足度と運用簡便性を重視する企業 |
| 会社貸与中心 | セキュリティと統制を重視する企業 |
| 任意在宅勤務は原則自己負担 | 出社前提で補助的に在宅勤務を認める企業 |
| フルリモートは会社負担厚め | 採用競争力と労務リスク低減を重視する企業 |
制度案ができたら、必ず税務、社会保険、給与計算の観点で検証します。
チェックすべき事項は次のとおりです。
常時10人以上の事業場で就業規則を変更する場合は、労働者代表の意見聴取と労働基準監督署への届出が必要です。単に社内ポータルに掲載するだけでは不十分な場合があります。就業規則の下位規程としてテレワーク勤務規程や賃金規程を整備する場合も、就業規則と一体として法的手続を確認します。
また、従業員説明では、次の点を明確に説明するとよいでしょう。
制度は、導入して終わりではありません。少なくとも年1回、次の観点でレビューします。
法務、人事労務、経理税務、給与計算、IT、内部監査の役割を整理します。
法務部門は、就業規則、テレワーク規程、雇用契約、労働条件通知書、費用負担条項、私有端末利用同意書、貸与物規程を確認します。また、不利益変更、賃金控除、労働者代表手続、均等・均衡待遇、秘密保持、個人情報保護との整合性を検討します。
人事労務部門は、制度対象者、在宅勤務日数、通勤手当、在宅勤務手当、勤怠管理、従業員説明、労働者代表対応を担当します。従業員の納得感を左右するため、単なるコスト削減策に見えない説明が必要です。
経理・税務部門は、課税・非課税判定、証憑保存、会計処理、消費税処理、源泉徴収、年末調整、税務調査対応を担当します。実費精算制度を導入する場合は、国税庁FAQに沿った算定式と証憑を整えます。
社会保険・給与計算担当は、標準報酬月額、労働保険料、随時改定、割増賃金算定基礎、給与明細、賃金台帳を管理します。定額在宅勤務手当を導入する場合、給与計算システムの設定ミスが未払賃金リスクに直結します。
情報システム部門は、会社貸与端末、VPN、認証、MDM、ログ、データ持ち出し、私有端末利用条件、インシデント対応を担当します。通信費負担の問題は、セキュリティ設計と切り離せません。
内部監査・コンプライアンス部門は、制度が規程通り運用されているか、精算不正がないか、個人情報を過剰取得していないか、給与計算が正しいかを検証します。上場企業や上場準備企業では、J-SOXや内部統制評価との接点も生じます。
従業員請求、労基署対応、税務調査に備えるための保存資料と運用をまとめます。
次のリスク一覧は、制度が曖昧なまま運用された場合に問題化しやすい場面を整理したものです。紛争や調査では証拠と規程の整合性が重要になるため、各リスクがどの保存資料につながるかを確認してください。
費用負担の説明や精算制度がないと、退職時や紛争時に自己負担分をめぐる主張が出やすくなります。
作業用品等の負担や定額手当の割増賃金算定基礎が、就業規則・賃金台帳と整合しているかが問われます。
非課税処理をする場合、証憑、算定式、返還ルール、給与課税部分との区分資料が必要になります。
従業員が退職時や労働紛争時に、「在宅勤務に必要な通信費・光熱費を自己負担させられた」と主張することがあります。会社に明確な規程、説明資料、同意、精算制度がなければ、紛争の火種となります。
予防策は次のとおりです。
費用負担ルールが就業規則に記載されていない場合、労働基準法第89条第5号との関係で問題視される可能性があります。また、定額手当を割増賃金算定基礎から除外している場合、未払割増賃金の問題として指摘され得ます。
監督署対応を見据えるなら、就業規則、賃金規程、給与明細、賃金台帳、手当の算定根拠、労働者代表意見書、周知資料を一体で保存しておくべきです。
税務調査では、在宅勤務手当が非課税処理されている場合に、実費精算性が確認される可能性があります。証憑がない、算定式がない、返還ルールがない、全員に一律支給しています、といった場合は、給与課税漏れと評価されるリスクがあります。
税務調査対応としては、次の資料を保存します。
よくある疑問を、一般的な制度説明として整理します。
一般的には、会社が常に全額負担するという一律の明文ルールがあるわけではありません。ただし、労働者に過度な負担が生じることは望ましくないとされ、負担主体、限度額、請求方法を労使で整理し、就業規則等に定めることが重要です。具体的な制度設計は、勤務形態、費目、既存規程を確認したうえで専門家に相談する必要があります。
一般的には、法律上の一律金額はありません。非課税の実費精算を目指す場合は、国税庁FAQが示す月額通信費、在宅勤務日数、月の日数、2分の1を用いる考え方などが参考になります。ただし、通信契約や勤務実態によって処理は変わるため、具体的な金額は税務・労務の確認が必要です。
一般的には、月額電気料金、業務に使用した部屋の床面積、自宅床面積、在宅勤務日数、月の日数、2分の1を用いる算式が公的FAQで示されています。ただし、より精緻な方法を採る場合や定額手当を選ぶ場合もあり、証憑、面積情報、給与処理を含めて確認する必要があります。
一般的には、通信費や電気料金よりも業務使用部分の合理的算定が難しい費目です。非課税実費精算とするには、業務上通常必要な費用であること、合理的算定方法、証憑、返還ルールを慎重に整える必要があります。具体的には、税理士等の専門家に相談する必要があります。
一般的には、使い残しても返還不要な定額手当は給与として課税する方向で整理されます。社会保険料・労働保険料、割増賃金算定基礎にも影響する可能性があります。非課税精算を目指す場合は、実費相当額、証憑、算定式、精算・返還の仕組みを整える必要があります。
一般的には、返還不要の定額手当として支給する場合、割増賃金算定基礎に算入する方向で検討が必要です。ただし、実費弁償として整理できる部分があるかは制度設計によって変わります。具体的には、賃金規程、給与項目、支給実態を確認する必要があります。
一般的には、一定の条件下で認める制度設計はあり得ますが、秘密保持、個人情報保護、マルウェア、家族共用、退職時のデータ削除などのリスクがあります。会社貸与を基本に、私有端末利用は事前許可制とし、セキュリティ基準と費用負担を明確にする必要があります。
一般的には、制度変更が可能な場面はあります。ただし、就業規則・賃金規程の根拠、不利益変更、社会保険上の随時改定、労務提供地の整理によって結論が変わります。具体的な変更は、労働条件と社会保険処理を確認したうえで進める必要があります。
一般的には、通信費・光熱費の補填という性質を持つ手当であれば、同じ費用負担が生じる従業員を雇用形態だけで除外すると説明が難しい場合があります。勤務日数、在宅勤務頻度、職務内容、会社貸与機器の有無など、費用発生と関連する基準で整理する必要があります。
一般的には、会社の事前承認がない購入について会社が当然に負担するとは限りません。対象品目、上限額、所有権、退職時返却、精算方法を規程で定めることが重要です。税務上も、会社貸与か従業員への支給かで扱いが変わる可能性があります。
法務、税務、社会保険、情報セキュリティ、内部統制の確認項目を一覧化します。
丸投げでも無制限な会社負担でもない、説明可能な制度設計を最後に確認します。
テレワーク時の通信費・光熱費の負担について、企業が採るべき基本姿勢は、従業員への丸投げでも、無制限な会社負担でもありません。重要なのは、費用の性質に応じて、会社貸与、実費精算、定額手当、従業員負担を使い分け、その理由を規程・税務・給与・内部統制の各面で説明できる状態にすることです。
特に、次の5点は実務上の必須対応です。
テレワークは、単に場所を変えて働く制度ではなく、会社の費用構造、賃金制度、情報管理、労務管理、税務処理を再設計する制度です。「テレワーク時の通信費・光熱費の負担」は、その中核にある実務論点であり、企業のガバナンス水準が表れやすい領域です。
テレワーク時の通信費・光熱費の負担と社会保険・労働保険の扱い
実費弁償か労働の対償かで、報酬・賃金への算入が変わる点を整理します。
5.1 報酬・賃金に含まれますか
厚生労働省の事務取扱いは、社会保険料・労働保険料等の算定基礎となる報酬や賃金について、名称を問わず、労働者が労働の対償として受けるすべてのものと整理しています。他方で、事業主が負担すべきものを労働者が立て替え、実費弁償を受ける場合は、労働の対償とは認められず、報酬等・賃金に該当しないとされています。
この考え方は税務と概ね同じ方向です。つまり、返還不要の渡し切り在宅勤務手当は、社会保険料・労働保険料等の算定基礎に含まれる可能性が高くなります。一方、通信費や電気料金について、明細書、算定式、就業規則、給与規程、賃金台帳等により実費弁償分であることが明らかであれば、当該実費弁償部分は算定基礎に含めない処理が可能となります。
5.2 実費弁償部分とそれ以外の部分を分ける
1つの手当の中に、実費弁償部分とそれ以外の部分が混在する場合、実費弁償分は算定基礎に含めず、それ以外の部分は算定基礎に含めるという整理が示されています。
実務上は、給与明細、賃金台帳、会計仕訳、給与計算システム上の項目を分けるべきです。たとえば、次のように分ける。
次の比較表は、テレワーク時の通信費・光熱費の負担と社会保険・労働保険の扱いで確認すべき項目を列ごとに整理したものです。費用負担の判断や規程設計で論点を見落とさないために、左側の分類と右側の実務上の意味を対応させて読んでください。
5.3 通勤手当の見直しと随時改定
テレワークに伴い、定期代相当の通勤手当を廃止し、出社日ごとの実費精算に変更する企業は多いです。この場合、社会保険上、固定的賃金の変動として随時改定の対象となる可能性があります。
厚生労働省の取扱いでは、労務提供地が自宅とされており、業務命令により一時的に出社する交通費の実費を事業主が負担する場合は、原則として実費弁償として報酬等に含まれないとされています。一方、労務提供地が事業所とされている場合の出社交通費は通勤手当として報酬等に含まれるとされています。
したがって、フルリモート、ハイブリッド勤務、原則出社・例外在宅といった勤務形態ごとに、労務提供地の整理と通勤手当の支給方法を一致させる必要があります。