2σ Guide

共同出願における
権利配分と持分比率

共同出願は、共同で特許を取るだけではなく、将来の実施、許諾、費用、外国展開、紛争対応まで決める契約設計です。

5点最初の結論
73条許諾制約
16章実務論点
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共同出願における 権利配分と持分比率

共同出願は、共同で特許を取るだけではなく、将来の実施、許諾、費用、外国展開、紛争対応まで決める契約設計です。

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共同出願における 権利配分と持分比率
共同出願は、共同で特許を取るだけではなく、将来の実施、許諾、費用、外国展開、紛争対応まで決める契約設計です。
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2σ GUIDE ・ VIDEO

  • 共同出願における 権利配分と持分比率
  • 共同出願は、共同で特許を取るだけではなく、将来の実施、許諾、費用、外国展開、紛争対応まで決める契約設計です。

POINT 1

  • 共同出願における権利配分と持分比率の全体像
  • 主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
  • 意思決定権の設計
  • 持分比率の限界
  • 均等推定のリスク

POINT 2

  • 共同出願における権利配分と持分比率の結論
  • 主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
  • 共同出願で最も重要な結論は、次の5点です。

POINT 3

  • 共同出願の基本用語と権利配分の意味
  • 主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
  • 2.1 共同出願
  • 2.2 特許を受ける権利
  • 2.3 共同発明

POINT 4

  • 共同出願の法的枠組み ― 特許法・民法・特許庁実務
  • 主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
  • 3.1 特許法33条 ― 特許を受ける権利の共有
  • 3.2 特許法38条 ― 共同出願義務
  • 3.3 特許法73条 ― 共有特許権の特殊性

POINT 5

  • 共同出願の持分比率だけでは不十分な理由
  • 主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
  • 4.1 持分比率は、共同出願の意思決定を完全には支配しない
  • 4.2 自己実施の自由とライセンス制約のギャップ
  • 4.3 50%・50%は公平に見えてデッドロックを生む

POINT 6

  • 共同出願の持分比率を決める基本モデル
  • 主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
  • 5.1 均等モデル
  • 5.2 発明寄与度モデル
  • 5.3 費用負担モデル

POINT 7

  • 共同出願の持分比率を説明する評価フレーム
  • 主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
  • 6.1 評価項目
  • 6.2 サンプル計算式
  • 6.3 持分比率と費用負担比率を分ける

POINT 8

  • 共同出願契約で必ず定めるべき条項
  • 主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
  • 7.1 対象発明の特定
  • 7.2 権利の帰属と持分比率
  • 7.3 発明者と権利承継

まとめ

  • 共同出願における 権利配分と持分比率
  • 共同出願における権利配分と持分比率の全体像:主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
  • 共同出願における権利配分と持分比率の結論:主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
  • 共同出願の基本用語と権利配分の意味:主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

共同出願における権利配分と持分比率の全体像

主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。

最初に、共同出願で結論を左右する5つのポイントを一覧にします。これは、共同所有の公平感ではなく、誰が何を決められるかを読み取るために重要です。各項目は、契約書と社内稟議で最低限説明すべき論点を示します。

01

意思決定権の設計

共同出願の本質は、出願名義の共有ではなく、処分、ライセンス、審判、費用、外国出願、権利行使の意思決定を設計することです。

02

持分比率の限界

持分比率が高くても、第三者ライセンスや持分譲渡を単独でできるとは限りません。

03

均等推定のリスク

持分を明確にしない場合、民法250条の均等推定を前提に処理されるリスクがあります。

04

出願前合意

発明者、承継、費用、代理人、外国出願を出願前に決めます。

05

代替構造の検討

共同所有が常に最適とは限らず、単独所有とライセンス、分野別独占、収益分配も比較します。

共同出願における権利配分と持分比率は、単に「A社50%、B社50%」という数字を決める問題ではありません。実務上は、発明の創作に誰がどの程度関与したか、研究費・設備・データ・人材・ノウハウを誰が提供したか、どの当事者が事業化するか、第三者ライセンスを誰が行えるか、外国出願費用を誰が負担するか、共同研究終了後に改良発明をどう扱うか、といった複数の問題が一体として現れます。

特に企業間の共同研究、大学・研究機関との産学連携、スタートアップと大企業の協業、コンソーシアム型研究開発、AI・データ・ソフトウェアを含む共同開発では、共同出願の設計を誤ると、特許を取った後に使えない、ライセンスできない、相手方の同意が得られず外国出願できない、事業売却や資金調達の際に知財デューデリジェンスで重大な懸念を指摘される、といった事態が生じます。

この記事は、弁護士、企業内弁護士、外部弁護士、弁理士、知財法務担当、契約法務担当、コンプライアンス担当、M&A・組織再編法務担当、税理士、公認会計士、研究開発マネジメント担当の視点を統合した、専門的かつ実務的な解説です。法律上の根拠は、特許法、民法、特許庁資料、公正取引委員会・経済産業省の指針など、できる限り一次情報・公的情報を中心に整理しています。

注意注意 ― この記事は一般的な法務・知財実務情報です。具体的案件では、契約文言、発明の内容、発明者、従業員発明規程、国際出願国、資本関係、独占禁止法・下請法・業法上の論点等により結論が変わります。実際の契約締結・紛争対応では、弁護士・弁理士等の専門家へ相談する必要があります。
Section 01

共同出願における権利配分と持分比率の結論

主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。

共同出願で最も重要な結論は、次の5点です。

  1. 共同出願の本質は、出願名義の共有ではなく、事業上の意思決定権の設計である。 共同出願すると、出願・登録後の処分、ライセンス、審判、費用負担、外国出願、権利行使に相手方が関与します。単に「共同で出せば公平」という発想は危険です。
  1. 持分比率は、自己実施の自由度をそのまま決めるものではない。 日本の特許法では、共有特許権者は、契約で別段の定めがない限り、他の共有者の同意なく特許発明を実施できます。他方、第三者へのライセンスや持分譲渡には原則として他の共有者の同意が必要です。したがって、持分比率だけでなく、実施・許諾・譲渡・費用・収益分配の条項が不可欠です。
  1. 持分比率を定めない場合、実務上は均等持分と推定・処理されるリスクがある。 民法250条は各共有者の持分を相等しいものと推定すると定めています。特許庁資料でも、願書等に持分の記載がなく持分を明らかにしていない場合、民法250条に基づく均等推定を前提とする説明がされています。
  1. 共同出願契約は、出願前に締結するべきである。 特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は他の共有者と共同でなければ出願できません。出願前に、発明者、承継、持分、費用、代理人、外国出願、実施、ライセンス、改良発明、秘密保持を確定しておかないと、後で「誰が何を同意したのか」をめぐる紛争が生じます。
  1. 共同所有が常に最適とは限らない。 事業化主体が一方に明確な場合は、共同出願ではなく、一方単独所有+他方へのライセンス、一方単独所有+ロイヤルティ分配、共有だが一方に独占的実施権・許諾権を付与する構造なども検討すべきです。特にスタートアップ・大企業間では、成果知財を一方的に帰属させる契約が競争政策上問題となり得る場合があるため、公正な貢献評価と対価設計が重要です。
Section 02

共同出願の基本用語と権利配分の意味

主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。

2.1 共同出願

共同出願とは、1つの特許出願について、複数の者が出願人となることをいいます。たとえば、A社とB社が共同研究を行い、A社の研究者とB社の研究者が共同で発明を完成させ、両社がそれぞれ発明者から特許を受ける権利を承継して、A社・B社を共同出願人として出願する場合です。

ここで注意すべき点は、共同発明者が複数いることと、共同出願人が複数いることは同じではないということです。発明者は自然人ですが、出願人は法人でも個人でもかまいません。企業実務では、従業員発明規程や譲渡契約により、発明者から会社へ特許を受ける権利が承継され、会社が出願人になります。

2.2 特許を受ける権利

特許を受ける権利とは、発明について特許を受けることができる法律上の地位です。特許法33条は、特許を受ける権利を移転できると定めています。他方、特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡できません。また、その権利に基づいて取得すべき特許権について、仮専用実施権を設定したり仮通常実施権を許諾したりする場合にも、他の共有者の同意が必要です。

2.3 共同発明

共同発明とは、複数の者が発明の創作に実質的に関与して発明を完成させた場合をいいます。単に研究費を出した者、一般的な指示をした管理者、データ入力や試験補助のみを行った者、単に命令を出した者は、通常、発明者とは評価されません。発明者性は、発明の技術的思想の創作に現実に関与したかという観点から判断されます。

企業間共同研究では、会議参加者、研究責任者、実験担当者、解析担当者、データ提供者、AIモデル開発者、製品仕様担当者など多様な人が関わります。しかし、全員が発明者になるわけではありません。発明者の誤認は、共同出願違反、冒認出願、職務発明対価、研究者間紛争、大学・企業間紛争の入口になります。

2.4 権利配分

権利配分とは、共同研究や共同開発から生じた知的財産を、誰が保有し、誰が実施し、誰が第三者に許諾し、誰が収益を受け、誰が費用を負担するかを決めることです。

権利配分は、単なる持分比率より広い概念です。以下のような要素を含みます。

次の比較表は、この章で扱う項目を整理し、なぜ判断を分ける必要があるかを示します。列ごとの違いから、契約や実務で確認すべきポイントを読み取ってください。

項目内容
帰属特許を受ける権利・特許権を誰が保有するか
持分共有の場合、各当事者の割合をどうするか
実施各当事者が自己実施できるか、分野制限を置くか
許諾第三者ライセンスを誰が決定できるか
独占独占実施権・独占的通常実施権を設定するか
費用国内出願、外国出願、審査請求、年金、翻訳、代理人費用を誰が負担するか
収益ライセンス料、譲渡対価、損害賠償金をどう分配するか
管理出願代理人、応答方針、分割出願、放棄、審判対応を誰が決めるか
出口M&A、事業譲渡、共同研究終了、倒産、競合化の際にどう処理するか

2.5 持分比率

持分比率とは、共有される特許を受ける権利または特許権について、各共有者が有する割合をいいます。2社で50%・50%、70%・30%、3社で40%・40%・20%などが典型例です。

ただし、特許実務で重要なのは、持分比率が高いからといって、第三者ライセンスを単独で自由にできるわけではないという点です。共有特許権では、特許法73条により、持分譲渡、質権設定、専用実施権設定、通常実施権許諾に他の共有者の同意が必要となります。

Section 03

共同出願の法的枠組み ― 特許法・民法・特許庁実務

主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。

3.1 特許法33条 ― 特許を受ける権利の共有

特許法33条は、特許を受ける権利の移転可能性と、共有の場合の制約を定めています。実務上重要なのは、次の点です。

  • 特許を受ける権利は移転できる。
  • 特許を受ける権利は質権の目的にできない。
  • 特許を受ける権利が共有に係る場合、各共有者は、他の共有者の同意なく持分を譲渡できない。
  • 特許を受ける権利が共有に係る場合、取得すべき特許権について仮専用実施権を設定し、または仮通常実施権を許諾するには、他の共有者の同意が必要である。

つまり、出願前の段階でも、共有者の地位は自由に処分できません。共同研究開始後、まだ出願していない段階で「自社の持分を投資家、関連会社、買収先、海外子会社へ移したい」と考える場合にも、他の共有者の同意が問題になります。

3.2 特許法38条 ― 共同出願義務

特許法38条は、特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は他の共有者と共同でなければ特許出願できないと定めています。

この規定は共同出願実務の中心です。たとえば、A社・B社の共同発明で、A社とB社がそれぞれ特許を受ける権利を承継して共有しているにもかかわらず、A社だけで単独出願した場合、共同出願義務違反が問題になります。共同出願違反は拒絶理由・無効理由となり得るため、発明者認定と権利承継の確認は、出願前に必ず行う必要があります。

3.3 特許法73条 ― 共有特許権の特殊性

特許法73条は、登録後の共有特許権について重要なルールを定めています。

次の比較表は、この章で扱う項目を整理し、なぜ判断を分ける必要があるかを示します。列ごとの違いから、契約や実務で確認すべきポイントを読み取ってください。

行為他の共有者の同意実務上の意味
持分譲渡必要競合会社・買収先・関連会社への移転を制限できる
持分を目的とする質権設定必要担保設定に他の共有者が関与する
自己実施契約で別段の定めがない限り不要各共有者は持分比率にかかわらず自社で実施できる
専用実施権設定必要独占的権利の設定には全員同意が必要
通常実施権許諾必要第三者ライセンスには全員同意が必要

この表から分かるように、共同出願における最大の実務リスクは、自己実施はできるが、第三者ライセンスは止まるという点です。

製造業のように自社実施が中心の当事者には共有特許が使いやすい場合があります。しかし、大学、研究機関、スタートアップ、プラットフォーム企業、技術ライセンス会社のように、第三者ライセンスや事業提携によって知財を活用する主体にとっては、他の共有者の同意が必要という構造が大きな制約になります。

3.4 民法250条 ― 持分が不明な場合の均等推定

民法250条は、各共有者の持分は相等しいものと推定すると定めています。

特許法は持分比率の計算方法を詳細に定めていません。したがって、共同出願契約、共同研究契約、譲渡契約、発明者から会社への承継書面、願書記載、持分証明書などで持分を明確にしない場合、後に均等持分を前提に扱われるリスクがあります。

特許庁は、共有に係る特許権等の持分放棄に関する取扱いで、願書等に持分の記載がなく、特許庁に対し持分を明らかにしていない場合には、民法250条に基づき各共有者の持分を相等しいものと推定した持分を前提とする旨を説明しています。

3.5 願書上の持分記載

特許庁の願書記載ガイドでは、出願人が2人以上ある場合、出願人の権利について持分の定めがあるときは、特許出願人欄の次に「持分」欄を設けて「50/100」のように記録できるとされています。小数点は使用できません。

この点は実務上重要です。契約書で持分を定めても、願書・持分証明書・社内決裁・代理人指示が整合していなければ、後続手続で混乱します。特に、持分比率を3分の1、3分の2、7分の3、11分の8など細かく設計する場合は、願書記載、費用負担、収益分配、税務処理、会計処理を同時に確認する必要があります。

3.6 持分譲渡の登録実務

特許庁は、持分譲渡による持分移転登録申請について、複数人で共有している権利のうち一部共有者の持分を他者に譲渡する場合の手続を示し、たとえばA・B共有からA・C共有へ変更する場合、BからCへの持分移転について他の共有者Aの同意書が必要であると説明しています。

したがって、共同出願契約では、将来の持分譲渡について、次の事項を事前に定めることが望まれます。

  • グループ会社への譲渡は包括同意するか。
  • M&A・事業譲渡・会社分割・合併の場合に同意を要するか。
  • 競合会社への譲渡を禁止または承諾留保できるか。
  • 譲渡希望時の先買権、買取請求権、売渡請求権を定めるか。
  • 譲渡後も秘密保持・目的外使用禁止・競業制限が維持されるか。
Section 05

共同出願の持分比率を決める基本モデル

主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。

共同出願における持分比率の決め方に、唯一の正解はありません。実務では、次のモデルを組み合わせて設計します。

5.1 均等モデル

当事者が同程度の研究者、設備、費用、ノウハウを提供し、発明への寄与も概ね同等である場合は、均等持分が分かりやすいです。2社なら50%・50%、3社なら3分の1ずつです。

長所は、交渉が簡単で、社内説明もしやすいことです。短所は、寄与度や事業化負担が異なる場合に不公平感が残ること、デッドロックを生みやすいことです。

均等モデルを採用する場合でも、実施、ライセンス、外国出願、費用負担、収益分配、改良発明については別途詳細に定める必要があります。

5.2 発明寄与度モデル

発明の創作に対する実質的寄与を評価して持分比率を決めるモデルです。たとえば、発明の中核的課題をA社が着想し、B社が実験により具体化し、両者が請求項の構成に重要な技術的貢献をした場合、60%・40%、70%・30%などにすることがあります。

このモデルは、知財法理に近い考え方ですが、実務上は評価が難しいです。研究ノート、会議録、発明届、実験データ、設計資料、ソースコード履歴、メール、ラボノート、AIモデルの訓練・評価記録などが重要になります。

注意点は、発明者間の貢献度と、会社間の持分比率は必ずしも一致しないことです。たとえば、A社従業員1名、B社従業員3名が共同発明者であっても、会社間契約でA社・B社の持分を50%・50%と定めることはあり得ます。

5.3 費用負担モデル

研究費、試作費、外注費、特許出願費用、外国出願費用、審査請求費用、維持年金などの負担比率に応じて持分比率を決めるモデルです。

たとえば、A社が研究費の80%を負担し、B社が20%を負担する場合、A社80%・B社20%とする発想です。ただし、研究費を負担しただけでは発明者にならないのと同様、費用負担だけで発明の創作寄与を説明できるとは限りません。

このモデルは、特に共同研究予算が明確で、研究テーマが特定され、事業化主体が資金提供者である場合に使いやすいです。一方、研究費を多く負担した大企業がスタートアップの中核技術を過度に取り込む場合には、競争政策上・契約公正上の問題が生じ得ます。公正取引委員会・経済産業省の指針は、スタートアップと連携事業者の双方が共同研究に貢献したにもかかわらず、貢献度を超えて成果知財が一方にのみ帰属する場合の問題を指摘しています。

5.4 事業化主体モデル

発明を実際に製品化・販売・サービス化する当事者を中心に権利を配分するモデルです。共同発明であっても、一方が製造販売、薬事承認、品質保証、販売網、顧客対応、投資回収を担う場合、その当事者に大きな持分または単独所有を認め、他方には実施料、成功報酬、共同研究対価、限定的ライセンスを与えることがあります。

このモデルは、事業化のスピードを高める一方、研究側当事者の将来展開を制約する可能性があります。大学・研究機関・スタートアップが相手の場合は、研究成果の他用途展開、論文発表、改良研究、周辺技術の利用、研究継続の自由を確保する必要があります。

5.5 分野別・用途別モデル

1つの発明が複数用途に展開できる場合、持分比率と実施権を分野別に分けるモデルです。

例 ―

  • A社 ― 自動車用途で独占実施
  • B社 ― 医療用途で独占実施
  • 両社 ― 産業機械用途では非独占実施
  • 第三者ライセンス ― 各分野の担当当事者が主導し、収益を一定割合で分配

このモデルでは、持分比率は50%・50%でも、実質的な事業自由度は分野別に設計されます。技術が水平展開しやすいAI、材料、センサー、半導体、バイオ、通信、ロボティクス分野では有効です。

5.6 単独所有+ライセンスモデル

共同出願ではなく、一方当事者を単独出願人・単独権利者とし、他方に契約上の実施権、収益分配、ロイヤルティ、オプション権を与えるモデルです。

このモデルは、第三者ライセンスやM&Aの自由度を高めたい場合に有効です。ただし、共同発明者からの権利承継、対価、公正な貢献評価、独占禁止法・優越的地位濫用リスク、税務・会計上の処理に注意が必要です。

スタートアップ・大企業連携では、大企業単独所有とする場合でも、スタートアップが他用途展開できるライセンスバック、一定領域での非独占利用権、対価、マイルストーン、周辺技術の権利確保などを組み合わせることが望まれます。

Section 06

共同出願の持分比率を説明する評価フレーム

主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。

実務では、感覚的な交渉だけで持分比率を決めると、後に社内稟議、監査、税務、研究者説明、株主・投資家説明で問題になります。以下のような評価フレームを用いると、合理性を説明しやすくなります。

6.1 評価項目

次の比較表は、この章で扱う項目を整理し、なぜ判断を分ける必要があるかを示します。列ごとの違いから、契約や実務で確認すべきポイントを読み取ってください。

評価項目内容典型的な証拠
発明創作寄与課題設定、着想、解決手段、請求項構成への貢献発明届、研究ノート、会議録、実験記録、設計書
背景技術提供既存特許、ノウハウ、データ、ソースコード、素材、試料の提供NDA、MTA、技術資料、特許リスト、データ提供記録
研究費・設備研究費、装置、試験施設、人員、外注費の負担予算書、請求書、稟議、共同研究計画書
事業化貢献製品化、量産、薬事、認証、販売網、顧客開拓事業計画、販売契約、規制対応資料
知財管理負担出願・中間処理・外国出願・年金管理・侵害対応代理人費用、知財部工数、出願方針書
リスク負担製造責任、品質保証、臨床試験、投資回収、訴訟対応契約、保険、規制対応資料、投資計画

6.2 サンプル計算式

持分比率の計算に法定の公式はありませんが、交渉資料として次のような重み付けを使うことがあります。

次の比較表は、この章で扱う項目を整理し、なぜ判断を分ける必要があるかを示します。列ごとの違いから、契約や実務で確認すべきポイントを読み取ってください。

項目重みA社評価B社評価
発明創作寄与50%43
背景技術提供20%52
研究費・設備15%42
事業化貢献10%51
知財管理負担5%41

この場合、各点数に重みを掛けて合計し、相対比に換算します。たとえばA社の総合スコアが4.35、B社が2.45なら、A社約64%、B社約36%となります。これを契約交渉上は、A社65%・B社35%またはA社60%・B社40%に丸めることがあります。

ただし、このような計算式はあくまで交渉補助です。特許法上の発明者性、職務発明対価、独占禁止法上の公正性、税務上の時価、会計上の資産性を機械的に決めるものではありません。

6.3 持分比率と費用負担比率を分ける

持分比率と費用負担比率は一致させることもありますが、必ず一致させる必要はありません。

たとえば、A社60%・B社40%の共有特許について、A社が事業化主体であるため国内外の出願費用を全額負担し、B社は費用負担しない代わりに第三者ライセンス収益の分配率を下げる、という設計も可能です。

逆に、B社が資金力の乏しいスタートアップである場合、A社が出願費用を一時立替し、将来のライセンス収益または売上ロイヤルティから回収する設計もあります。重要なのは、費用負担と権利配分の不一致がある場合、その理由を契約書・議事録・稟議書に残すことです。

Section 07

共同出願契約で必ず定めるべき条項

主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。

7.1 対象発明の特定

共同出願契約では、対象発明を曖昧にしてはいけません。少なくとも次を記載します。

  • 発明の名称
  • 発明の概要
  • 発明者
  • 発明届番号または社内整理番号
  • 出願予定国
  • 明細書案・請求項案との対応
  • 共同研究契約・NDA・MTAとの関係
  • バックグラウンド技術との境界

対象発明が曖昧だと、後の改良発明や周辺発明が契約に含まれるかで紛争になります。

7.2 権利の帰属と持分比率

持分比率は、単に「甲乙共有」と書くだけでなく、明確に数値化します。

例 ―

注意本発明に係る特許を受ける権利および本発明に基づき成立する特許権は、甲および乙の共有とし、その持分比率は甲60%、乙40%とする。

持分比率を定める場合は、願書・持分証明書・費用負担・収益分配との整合性を確認します。願書上、持分を記載できる場合があるため、出願代理人への指示も契約と一致させます。

7.3 発明者と権利承継

企業間共同出願で最も危険なのは、発明者から会社への権利承継が不完全なまま出願することです。契約書では、各当事者が自己に属する発明者から特許を受ける権利を適法に承継済みであること、または出願前に承継させる義務を負うことを定めます。

職務発明については、各社の職務発明規程、勤務規則、譲渡契約、相当利益の付与制度を確認します。共同研究に大学教員、学生、派遣社員、業務委託先、海外研究者が関与する場合は、さらに慎重な確認が必要です。

7.4 出願手続の担当者・代理人

共同出願では、誰が特許事務所を選ぶか、誰が代理人に指示するか、拒絶理由通知への応答方針をどう決めるかが重要です。

契約では、次を定めます。

  • 出願代理人の選任方法
  • 明細書案のレビュー期限
  • 請求項変更の承認手続
  • 拒絶理由通知への応答方針
  • 補正、意見書、分割出願、変更出願の決定方法
  • 出願取下げ、放棄、審査請求、早期審査の決定方法
  • 代理人費用の負担

7.5 国内出願費用・維持費用

費用負担は、持分比率に応じる場合、均等負担の場合、一方負担の場合があります。

契約では、次を定めます。

  • 出願費用
  • 審査請求料
  • 拒絶理由対応費用
  • 登録料・年金
  • 審判・訴訟費用
  • 翻訳費用
  • 外国代理人費用
  • 支払期限
  • 不払い時の効果

不払い時には、費用負担しない当事者の持分放棄、外国出願からの離脱、実施権への転換、収益分配率の変更などを定めることがあります。

7.6 外国出願

外国出願は費用が大きく、国ごとの制度差もあるため、共同出願契約で必ず定めるべきです。

少なくとも次を定めます。

  • 外国出願する国・地域の決定方法
  • PCT出願を行うか
  • 優先権主張期限までの意思決定方法
  • 各国移行の判断基準
  • 翻訳・現地代理人費用の負担
  • 一方のみが外国出願を希望する場合の処理
  • 外国出願の名義を国内出願と同じにするか
  • 外国法上の共有・ライセンス制約に対応する契約条項

PCT関連の軽減・支援措置では、共同出願の場合に持分割合を定める必要がある場面があるため、手続上の持分記載と契約上の持分管理を混同しないようにします。特許庁のQ&Aは、軽減・支援措置の申請時の持分割合について、共同出願である場合に必ず持分割合を定めること、合計が100%になるように定めることを説明しています。

7.7 自己実施

特許法73条2項は、契約で別段の定めがない限り、共有者が他の共有者の同意なく特許発明を実施できることを定めています。

しかし、契約実務では、自己実施について以下を定めることがあります。

  • 実施分野の制限
  • 地域の制限
  • 競合製品への適用制限
  • 委託製造・OEM・ODMの可否
  • グループ会社実施の可否
  • 顧客への販売・組込み・再販売の範囲
  • 実施報告義務
  • 実施料の有無

特に、相手方の競合領域で自由実施されると共同研究の目的が失われる場合、契約で別段の定めを置くべきです。

7.8 第三者ライセンス

第三者ライセンスは、共同出願契約の最重要条項です。特許法73条3項により、共有特許について第三者に通常実施権を許諾するには他の共有者の同意が必要です。

契約では、次の設計が考えられます。

次の比較表は、この章で扱う項目を整理し、なぜ判断を分ける必要があるかを示します。列ごとの違いから、契約や実務で確認すべきポイントを読み取ってください。

設計内容向いている場合
個別同意型ライセンスごとに全員同意競合流出を厳格に防ぎたい場合
事前包括同意型一定条件を満たすライセンスを事前承諾SaaS、AI、部材供給など多数顧客展開
分野別許諾型各分野の担当当事者が許諾用途が明確に分かれる技術
収益分配型許諾権者がライセンスし収益を分配事業化主体が明確な場合
拒否理由限定型合理的理由なく同意拒否できないデッドロック回避
競合禁止型競合先には全員同意必須技術流出リスクが高い場合

第三者ライセンス条項を定めない共同出願契約は、将来の事業展開を大きく制約します。

7.9 収益分配

ライセンス収入、譲渡対価、和解金、損害賠償金、補償金などをどう分配するかを定めます。

分配方法は、次のように設計できます。

  • 持分比率に応じて分配
  • 費用控除後に分配
  • ライセンスを主導した当事者に一定割合の管理手数料を認める
  • 分野別に異なる分配率を定める
  • 研究費回収までは一方に優先分配し、その後按分する
  • 大学・研究機関には不実施補償またはロイヤルティを支払う

持分比率と収益分配比率を一致させる必要はありません。ただし、税務・会計・移転価格・寄附金認定・利益供与の観点から、合理的理由と証跡が必要です。

7.10 権利行使・侵害対応

第三者が共有特許を侵害した場合、誰が警告し、誰が訴訟を提起し、費用を誰が負担し、回収金をどう分配するかを定めます。

検討事項 ―

  • 侵害情報の共有義務
  • 警告書送付の承認手続
  • 訴訟提起の決定方法
  • 弁護士・弁理士の選任
  • 訴訟費用の負担
  • 和解条件の承認
  • 損害賠償金・和解金の分配
  • 相手方が訴訟に参加しない場合の処理
  • 反訴・無効審判への対応

権利行使条項は、ビジネス上の力関係にも直結します。大企業が訴訟を嫌がり、スタートアップが権利行使を望む場合、またはその逆の場合、共同出願のままでは意思決定が難しくなります。

7.11 改良発明・周辺発明

共同研究後に生じる改良発明は、紛争の典型です。

契約では、次を区別します。

  • 共同研究期間中の改良発明
  • 共同研究終了後の改良発明
  • 一方単独で行った改良
  • 相手方バックグラウンド技術を利用した改良
  • 共同出願特許を実施するために不可欠な改良
  • 周辺用途への応用発明
  • AIモデル・データ・学習済みパラメータの改良

改良発明をすべて共有にすると、将来の研究開発が硬直化します。他方、一方単独帰属にすると、共同研究成果を囲い込まれるリスクがあります。改良発明は、対象技術、利用分野、発明者、利用した背景技術、事業化範囲に応じて細分化する必要があります。

7.12 秘密保持・公表・論文発表

共同出願では、出願前の発表により新規性を失うリスクがあります。大学・研究機関との共同研究では、論文発表、学会発表、博士論文、研究成果報告、プレスリリースが問題になります。

契約では、以下を定めます。

  • 出願前公表の禁止
  • 公表前レビュー期間
  • 特許出願の要否判断
  • 秘密情報の範囲
  • バックグラウンド情報の管理
  • 目的外使用禁止
  • 共同研究終了後の秘密保持期間

公正取引委員会・経済産業省の指針も、NDAや共同研究契約において、秘密情報・バックグラウンド情報・知的財産権の取扱いを事前に明確化する重要性を示しています。

7.13 競争法・公正取引上の配慮

共同出願契約は、競合企業間の共同研究で用いられることもあります。その場合、知財条項が競争制限、技術利用制限、取引先制限、価格・数量調整、競合排除に結び付かないよう注意が必要です。

また、大企業がスタートアップに対し、共同研究成果を無償または低廉な対価で一方的に譲渡させる、他分野展開を過度に制限する、周辺特許を囲い込む、成果物の利用を不合理に制限する、といった場合には、優越的地位の濫用等の観点が問題になり得ます。公取委・経産省の指針は、共同研究契約における知的財産権の一方的帰属や成果物利用制限について、問題事例と解決の方向性を示しています。

Section 08

共同出願の当事者類型別に見る設計ポイント

主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。

8.1 大企業同士の共同出願

大企業同士では、双方に知財部・法務部があり、共同出願契約の整備も進んでいます。しかし、事業部ごとの思惑が異なるため、次の点が問題になりやすいです。

  • 相手方が競合部門を持つ場合の実施制限
  • グループ会社への実施許諾
  • 海外子会社・製造委託先での実施
  • 標準化・コンソーシアム対応
  • クロスライセンスへの組込み
  • M&A時の持分移転
  • 特許ポートフォリオ全体での交渉

大企業同士では、単発の共同出願契約だけでなく、包括共同研究契約、個別テーマ契約、共同出願契約、ライセンス契約、標準化方針、輸出管理、秘密保持を統合的に管理する必要があります。

8.2 大企業とスタートアップ

大企業とスタートアップの共同出願では、交渉力、資金力、知財部門の体制、事業展開のスピードに差があります。

スタートアップ側の典型的リスク ―

  • 成果知財が大企業に一方的に帰属する。
  • 周辺用途・他分野展開が制限される。
  • 第三者ライセンスが大企業同意に縛られる。
  • VC・投資家から知財自由度に疑義を持たれる。
  • M&A時に共有特許がボトルネックになる。

大企業側の典型的リスク ―

  • スタートアップの権利承継・職務発明管理が不十分。
  • 秘密情報・バックグラウンド技術が混在する。
  • スタートアップが同種技術を他社へ展開する。
  • 出願費用・維持費用の負担能力に差がある。
  • スタートアップの倒産・買収により共有者が変わる。

この類型では、単純共有よりも、分野限定独占、ライセンスバック、買戻権、第三者許諾の条件、M&A時の同意・先買権、秘密情報の分離管理を重視すべきです。

8.3 企業と大学・研究機関

大学・研究機関との共同出願では、大学側が自己実施しないことが多いため、特許法73条2項の自己実施自由のメリットを享受しにくく、第三者ライセンス同意の制約が問題になります。

大学側の関心 ―

  • 研究成果の公表
  • 研究継続の自由
  • 教員・学生の発明者性
  • 研究費・共同研究費
  • ライセンス収入
  • 社会実装
  • 不実施補償

企業側の関心 ―

  • 独占実施権
  • 競合企業へのライセンス制限
  • 外国出願費用のコントロール
  • 事業化時の自由度
  • ノウハウ流出防止
  • 共同研究終了後の改良発明

大学・企業間では、大学が持分を保有しつつ、企業に特定分野の独占実施権または独占的通常実施権を付与する、大学は自己実施しないが第三者ライセンス収益を得る、企業が大学持分を買い取るオプションを持つ、といった設計が考えられます。特許庁のOIモデル契約書関連資料は、スタートアップ・事業会社、大学・事業会社、大学・大学発ベンチャーなどの場面に応じたモデル契約書を整備しています。

8.4 コンソーシアム型共同研究

3社以上の共同研究では、全員共有にすると意思決定が非常に重くなります。共同出願の対象を細分化し、発明ごとに関与当事者だけで出願する設計が重要です。

コンソーシアムでは、次を定めます。

  • 参加者全員に帰属する成果と個別参加者に帰属する成果の区別
  • 発明届の提出先
  • 発明審査委員会
  • 共同出願対象の決定方法
  • 非参加当事者へのライセンス条件
  • 標準化・公開仕様との関係
  • 離脱者の権利
  • 新規参加者のアクセス権
  • 競合分野への利用制限

3者以上の共有特許は、将来のライセンス、持分移転、費用負担、M&Aで複雑化するため、可能な限り単純な権利構造にすることが望まれます。

8.5 AI・データ・ソフトウェア開発

AI・データ・ソフトウェアの共同開発では、特許だけでなく、著作権、営業秘密、データ利用権、モデル利用権、API利用権、学習済みパラメータ、データベース権的利益、クラウド環境、OSSライセンスが絡みます。

特許共同出願だけを定めても不十分です。次を整理します。

  • 学習データの所有・利用権
  • アノテーションデータの帰属
  • ソースコードの著作権
  • 学習済みモデルの利用範囲
  • モデル改善結果の帰属
  • OSS利用とライセンス互換性
  • 顧客データの再利用
  • 個人情報・プライバシー
  • データ越境移転
  • AI成果物の再提供

AI分野では、成果物を一社に独占させると、スタートアップの横展開が困難になり、共同研究の価値総和が下がることがあります。公取委・経産省の指針も、AI分野で成果物利用条件を独占的にすることが非合理的となる場合があることを指摘しています。

Section 09

共同出願で紛争が起きやすい場面

主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。

9.1 発明者の認定ミス

共同研究に参加した全員を発明者に入れる、または逆に相手方研究者を発明者から外すと、後で重大な紛争になります。

発明者認定では、次を確認します。

  • 誰が技術的課題を設定したか。
  • 誰が解決手段を着想したか。
  • 誰が着想を実施可能な形に具体化したか。
  • 請求項の構成要件に誰の貢献が反映されているか。
  • 単なる実験補助・事務補助・資金提供にとどまらないか。

9.2 出願前契約がない

共同研究契約だけを締結し、共同出願契約を締結しないまま出願するケースがあります。この場合、出願後に次の問題が起きます。

  • 持分比率が不明
  • 費用負担が不明
  • 外国出願の意思決定が不明
  • 第三者ライセンスの可否が不明
  • 発明者対価の負担が不明
  • 改良発明の帰属が不明

出願前に最低限のタームシートを合意し、その後正式な共同出願契約を締結する運用が望まれます。

9.3 外国出願期限の直前に合意できない

パリ優先権やPCT移行の期限直前に、外国出願国、費用負担、代理人選定、翻訳方針で合意できないことがあります。

対策として、共同出願契約で次を定めます。

  • 外国出願希望通知の期限
  • 希望者のみが費用負担して出願できる制度
  • 非希望者の持分放棄または外国出願権譲渡
  • 外国出願国ごとの名義
  • 外国出願後のライセンス収益分配
  • 国内出願との優先権・公開時期管理

9.4 相手方が第三者ライセンスに同意しない

共有特許権の第三者ライセンスには同意が必要です。これにより、ライセンス事業が止まることがあります。

対策として、以下の条項を入れます。

  • 同意拒否には合理的理由を要する。
  • 一定期間内に回答しない場合は同意したものとみなす。
  • 競合会社、反社会的勢力、輸出管理懸念先など拒否可能な相手を列挙する。
  • 最低実施料、品質管理、秘密保持、サブライセンス条件を満たす場合は包括同意する。
  • 分野別に許諾権限を分ける。

9.5 M&A・事業譲渡で共有者が変わる

共同出願後、一方当事者が買収されると、共有者が実質的に競合会社になることがあります。特許法上の持分譲渡には同意が必要ですが、合併など一般承継や支配権変更では契約上の処理が必要です。

共同出願契約では、次を定めます。

  • 支配権変更時の通知義務
  • 競合会社による買収時の解除権
  • 持分買取権
  • ライセンス条件の変更
  • 秘密情報アクセス制限
  • 共同研究成果の利用停止

9.6 共同研究終了後の改良発明争い

共同研究終了後に一方が改良発明を出願した場合、相手方が「共同研究成果を利用した」と主張することがあります。

対策は、共同研究期間中に提供したバックグラウンド情報、成果情報、ノウハウ、データを明確に記録することです。公取委・経産省の指針も、契約締結前に保有していた情報と契約締結後に生じた情報が混在する技術コンタミネーションを防ぐため、バックグラウンド情報の範囲を明確化することを推奨しています。

Section 10

共同出願契約の条項例

主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。

以下は、条項の方向性を示すサンプルです。実際の契約では、案件の事情に応じて修正してください。

10.1 持分比率条項

第○条(権利の帰属および持分)
1. 甲および乙は、本発明に係る特許を受ける権利ならびに本発明に基づき成立する特許権を共有する。
2. 前項の共有持分は、甲を60%、乙を40%とする。
3. 甲および乙は、前項の持分比率を、願書、持分証明書その他特許庁に提出する書面に反映させるため、相互に必要な協力を行う。

10.2 出願手続条項

第○条(出願手続)
1. 本発明に係る国内特許出願は、甲乙共同で行う。
2. 出願代理人は甲乙協議により選任する。ただし、出願期限その他緊急の必要がある場合、甲は乙に事前通知の上、暫定的に代理人を選任できる。
3. 明細書、特許請求の範囲、図面、要約書、拒絶理由通知への応答、補正、分割出願その他権利範囲に重要な影響を及ぼす事項は、甲乙協議により決定する。

10.3 費用負担条項

第○条(費用負担)
1. 本発明に係る国内出願、審査請求、中間処理、設定登録および特許料納付に要する費用は、甲乙の持分比率に応じて負担する。
2. 前項にかかわらず、外国出願費用については第○条に従う。
3. いずれかの当事者が費用負担を希望しない場合、当該当事者は、当該国または地域における出願または権利維持から離脱できる。この場合の持分、実施権および収益分配は、甲乙別途協議により定める。

10.4 第三者ライセンス条項

第○条(第三者への実施許諾)
1. 甲または乙は、本特許権について第三者に通常実施権を許諾しようとするときは、相手方の事前書面同意を得なければならない。
2. 相手方は、当該第三者が競合会社、反社会的勢力、輸出管理上懸念のある者、または本契約上の秘密保持義務を履行できない者である場合その他合理的理由がある場合を除き、前項の同意を不当に拒絶してはならない。
3. 甲または乙が第三者から受領した実施料その他の対価は、当該許諾に要した合理的費用を控除した後、甲乙の持分比率に応じて分配する。

10.5 外国出願条項

第○条(外国出願)
1. 甲または乙が本発明について外国出願を希望する場合、国内出願日から○か月以内に、希望国、出願ルート、概算費用および費用負担案を相手方に通知する。
2. 甲乙双方が外国出願を希望する国については、甲乙共同で出願し、費用は持分比率に応じて負担する。
3. 一方当事者のみが外国出願を希望する国については、当該希望当事者が費用を負担し、当該国における権利の帰属、相手方の実施権および収益分配については、本条に定める条件に従う。
4. 前項の場合、非希望当事者は、希望当事者による外国出願に必要な書類作成、署名、委任状、譲渡証その他の手続に協力する。

10.6 改良発明条項

第○条(改良発明)
1. 本研究期間中に、本発明に関連して甲乙共同でなした改良発明は、甲乙共有とし、持分比率は当該改良発明への寄与度を基準として甲乙協議により定める。
2. 一方当事者が単独でなした改良発明は、当該当事者に単独帰属する。ただし、当該改良発明が相手方のバックグラウンド技術または秘密情報を利用してなされた場合、その取扱いは甲乙協議により定める。
3. 前二項にかかわらず、改良発明が本特許発明の実施に不可欠である場合、甲乙は相互に合理的条件で実施許諾を行うよう誠実に協議する。
Section 11

共同出願の企業法務・知財法務チェックリスト

主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。

11.1 出願前チェック

次の比較表は、この章で扱う項目を整理し、なぜ判断を分ける必要があるかを示します。列ごとの違いから、契約や実務で確認すべきポイントを読み取ってください。

チェック項目確認内容
発明者真の発明者を確認したか
権利承継発明者から各社への承継は完了しているか
職務発明職務発明規程・相当利益制度を確認したか
契約NDA、共同研究契約、共同出願契約が整合しているか
持分持分比率を明記したか
願書願書上の持分記載方針を決めたか
費用国内・外国出願費用の負担を決めたか
外国優先権期限前の意思決定手続を決めたか
ライセンス第三者ライセンス同意ルールを定めたか
改良改良発明・周辺発明の帰属を定めたか
秘密出願前公表・論文発表を管理しているか

11.2 契約レビュー時の赤信号

  • 「共同出願する」としか書かれていない。
  • 持分比率がない。
  • 費用負担が「別途協議」とだけ書かれている。
  • 外国出願が「別途協議」とだけ書かれている。
  • 第三者ライセンスの同意ルールがない。
  • 改良発明がすべて共有またはすべて一方帰属になっている。
  • 発明者からの権利承継保証がない。
  • 職務発明対価・相当利益の処理がない。
  • 秘密情報とバックグラウンド情報の定義が曖昧。
  • 競合会社への持分譲渡・M&A時の処理がない。
  • 一方の当事者が不当に広い独占権を得るが、対価がない。

11.3 社内稟議で説明すべき事項

共同出願契約は、法務・知財だけで完結しません。社内稟議では、次を説明する必要があります。

  • なぜ共同出願が必要か。
  • 単独所有+ライセンスではなぜ不十分か。
  • 持分比率の根拠は何か。
  • 費用負担と持分比率は一致しているか。
  • 第三者ライセンスの自由度は確保されているか。
  • 外国出願費用の上限はどの程度か。
  • 事業化に必要な実施権は確保されているか。
  • 相手方が競合化した場合の対策はあるか。
  • M&A・資金調達・事業譲渡への影響は何か。
  • 知財ポートフォリオ全体で合理的か。
Section 12

共同出願における税務・会計・M&Aの観点

主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。

12.1 税務上の注意

持分比率、ライセンス料、譲渡対価、研究費負担、無償譲渡、低額譲渡には税務上の論点があります。

たとえば、一方が実質的に大きな価値を持つ特許持分を無償または低額で他方へ移転する場合、寄附金、受贈益、移転価格、グループ会社間取引、研究開発税制、補助金条件との整合が問題になることがあります。

税理士・公認会計士の観点では、次を確認します。

  • 知財持分の時価評価
  • ライセンス料率の合理性
  • 研究費負担と権利帰属の対応
  • 補助金・委託研究費の条件
  • グループ会社間移転価格
  • 無償ライセンスの税務処理
  • M&A時の知財評価
  • 減損・資産計上・注記の要否

12.2 M&A・デューデリジェンス上の注意

M&Aでは、対象会社が保有する共同出願・共有特許が精査されます。投資家・買主は、次を確認します。

  • 対象会社が単独で実施できるか。
  • 第三者ライセンスに相手方同意が必要か。
  • 相手方が競合会社か。
  • 持分譲渡や支配権変更に制限があるか。
  • 外国出願や維持費用の負担義務があるか。
  • 共同出願契約が存在するか。
  • 発明者からの権利承継が完了しているか。
  • 共同研究終了後の改良発明が制約されていないか。
  • 重要製品の自由実施が共同所有者の同意に依存していないか。

共同出願契約が不十分だと、買収価格の減額、表明保証違反、クロージング条件、補償条項、追加同意取得が問題になります。

Section 13

共同出願に向く場合・向かない場合

主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。

13.1 共同出願に向く場合

  • 発明への技術的寄与が双方にあり、単独帰属が不公平な場合
  • 双方が自社実施する予定で、第三者ライセンスが中心ではない場合
  • 共同研究の成果を相互に防衛的に利用する場合
  • 標準化、共同事業、JVなど、共同管理の必要性が高い場合
  • 研究開発段階で事業化主体が未確定であり、暫定的共有が合理的な場合

13.2 共同出願に向かない場合

  • 一方が第三者ライセンスを主な収益源とする場合
  • 一方が多数顧客へSaaS・AI・APIとして展開する場合
  • 事業化主体が一方に明確で、迅速な意思決定が必要な場合
  • M&A・資金調達で知財の自由度が重要な場合
  • 当事者間の信頼関係が弱く、将来競合化する可能性が高い場合
  • 外国出願費用を一方しか負担できない場合
  • 改良発明が頻繁に発生する技術領域の場合

共同出願に向かない場合は、単独所有+ライセンス、用途別帰属、分野別独占、オプション契約、成果物利用契約、共同事業契約などを検討します。

Section 14

共同出願における権利配分と持分比率のFAQ

主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。

Q1. 共同出願では、持分比率を必ず決める必要がありますか。

一般的には、共同出願契約では持分比率を明記する運用が重要とされています。持分が不明な場合、民法250条の均等推定、費用負担、収益分配、持分放棄、補助金・軽減措置、M&Aデューデリジェンスで混乱が生じる可能性があります。ただし、具体的な定め方は契約目的や当事者の関与内容で変わるため、個別の設計は弁護士・弁理士等の専門家に相談する必要があります。

Q2. 持分が70%あれば、単独でライセンスできますか。

一般的には、持分が高い場合でも、共有特許権について第三者に通常実施権を許諾するには特許法73条3項により他の共有者の同意が必要とされています。ただし、事前同意、分野別許諾、グループ会社利用などを契約で定めている場合は扱いが変わる可能性があります。具体的な権限確認は、契約書と権利関係を整理したうえで専門家に相談する必要があります。

Q3. 自社の持分をグループ会社へ譲渡できますか。

一般的には、特許を受ける権利や特許権が共有の場合、持分譲渡には他の共有者の同意が必要とされています。グループ会社への移転であっても、契約で事前同意や例外を定めていなければ同意問題が生じる可能性があります。登録後の持分移転登録手続でも同意書が問題になるため、具体的には契約条項と登録実務を確認する必要があります。

Q4. 共同出願の費用は必ず持分比率に応じて負担しますか。

一般的には、費用負担を持分比率に連動させる設計がありますが、常に一致させる必要があるわけではないとされています。一方が全額負担する、外国出願だけ希望者負担にする、費用負担者に収益優先分配を認めるなどの設計も考えられます。ただし、持分、費用、収益、実施権の関係を明確にしないと紛争化しやすいため、具体的な定め方は専門家に相談する必要があります。

Q5. 共同研究の成果は必ず共同出願にすべきですか。

一般的には、共同研究の成果であっても、共同出願が唯一の選択肢ではありません。発明者、権利承継、貢献度、事業化主体、契約内容により、単独帰属、共同帰属、ライセンスバック、用途別帰属など複数の整理があり得ます。どの方法が適切かは研究目的と将来利用で変わるため、契約前に専門家へ相談する必要があります。

Q6. 大学との共同出願で、大学が自己実施しない場合は何を検討しますか。

一般的には、大学が自己実施しない場合、大学側の価値回収は第三者ライセンス、企業からの実施料、不実施補償、持分譲渡対価などに依存すると考えられます。企業側が独占実施を望む場合は、大学持分の取扱い、ライセンス収益分配、研究継続の自由、論文発表、改良発明を契約で定める必要があります。具体的な落とし込みは、大学規程や共同研究契約の内容により変わります。

Q7. スタートアップが大企業と共同出願する際の最大の注意点は何ですか。

一般的には、将来の事業展開を止めない設計が重要とされています。共同出願により、大企業の同意なしに第三者ライセンスできない、他用途展開できない、投資家に知財自由度を説明しにくい、M&Aで障害になるといった問題が生じる可能性があります。持分比率だけでなく、分野別利用、非独占展開、ライセンスバック、M&A時の処理、バックグラウンド技術の保護を具体的に検討する必要があります。

Section 15

共同出願の権利配分を決める実務プロセス

主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。

共同出願における権利配分と持分比率は、次の順序で設計すると失敗しにくくなります。

  1. 共同研究の目的を明確にする。 研究成果を誰がどの事業で使うのかを確認する。
  2. バックグラウンド技術を棚卸しする。 既存特許、ノウハウ、データ、ソースコード、試料をリスト化する。
  3. 発明届を作成する。 発明者、発明の課題、解決手段、実験結果、関与者を記録する。
  4. 発明者性を確認する。 単なる補助者・管理者・資金提供者を発明者に入れない。
  5. 権利承継を確認する。 各社の職務発明規程、譲渡書、大学規程、学生・外部委託者の権利を確認する。
  6. 権利配分モデルを選ぶ。 共同出願、単独所有+ライセンス、分野別帰属などを比較する。
  7. 持分比率を決める。 発明寄与、背景技術、費用、事業化、リスクを評価する。
  8. 実施・ライセンスを設計する。 自己実施、第三者許諾、独占、収益分配を定める。
  9. 費用と外国出願を設計する。 希望者負担、離脱、持分放棄、各国移行を定める。
  10. 共同出願契約を締結する。 出願前に締結し、願書記載・代理人指示と整合させる。
  11. 出願後も管理する。 中間処理、分割、年金、権利行使、改良発明を定期的に見直す。
Section 16

共同出願における権利配分と持分比率のまとめ

主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。

共同出願における権利配分と持分比率は、発明への貢献度を数字にするだけの作業ではありません。企業法務・知財法務の観点では、共同出願は「共同で特許を取る契約」ではなく、「将来の事業自由度、ライセンス収益、費用負担、紛争対応、M&A対応を設計する契約」です。

日本の特許法では、共有特許権者は原則として自己実施できますが、第三者ライセンスや持分譲渡には他の共有者の同意が必要です。このため、共同出願の設計を誤ると、特許を取得しても事業活用できない、ライセンスできない、外国展開できない、投資家や買主に説明できないという問題が生じます。

実務上は、次の原則が重要です。

  • 持分比率は必ず明記する。
  • 持分比率だけでなく、実施・ライセンス・費用・収益・外国出願を一体で定める。
  • 発明者認定と権利承継を出願前に確認する。
  • 共同出願が最適か、単独所有+ライセンス等の代替案も検討する。
  • スタートアップ、大学、AI・データ分野では、将来の横展開を止めない設計を重視する。
  • M&A・資金調達・税務・会計・競争法の観点も含めて契約を作る。

共同出願は、協業の成果を守るための強力な手段です。しかし、共同所有は協業の美名の下に、将来の意思決定を重くする制度でもあります。したがって、共同出願における権利配分と持分比率は、研究開発の最後に処理する事務手続ではなく、共同研究開始時から経営・法務・知財・研究開発・事業部門が共同で設計すべき戦略課題です。

Reference

この記事の参考情報源

本文で扱った制度・実務上の根拠を、公的資料を中心に整理しています。

法令・公的資料・裁判例

  • e-Gov法令検索「特許法」
  • e-Gov法令検索「民法」
  • 特許庁「特許出願人欄・持分欄に関する願書記載ガイド」
  • 特許庁「共有に係る特許権等の持分放棄における取扱い」
  • 特許庁「持分譲渡による持分移転登録申請書」
  • 特許庁「オープンイノベーションポータルサイト」
  • 特許庁「国際出願に係る軽減・支援措置のQA集」
  • 公正取引委員会・経済産業省「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」