共同出願は、共同で特許を取るだけではなく、将来の実施、許諾、費用、外国展開、紛争対応まで決める契約設計です。
共同出願は、共同で特許を取るだけではなく、将来の実施、許諾、費用、外国展開、紛争対応まで決める契約設計です。
主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
最初に、共同出願で結論を左右する5つのポイントを一覧にします。これは、共同所有の公平感ではなく、誰が何を決められるかを読み取るために重要です。各項目は、契約書と社内稟議で最低限説明すべき論点を示します。
共同出願の本質は、出願名義の共有ではなく、処分、ライセンス、審判、費用、外国出願、権利行使の意思決定を設計することです。
持分比率が高くても、第三者ライセンスや持分譲渡を単独でできるとは限りません。
持分を明確にしない場合、民法250条の均等推定を前提に処理されるリスクがあります。
発明者、承継、費用、代理人、外国出願を出願前に決めます。
共同所有が常に最適とは限らず、単独所有とライセンス、分野別独占、収益分配も比較します。
共同出願における権利配分と持分比率は、単に「A社50%、B社50%」という数字を決める問題ではありません。実務上は、発明の創作に誰がどの程度関与したか、研究費・設備・データ・人材・ノウハウを誰が提供したか、どの当事者が事業化するか、第三者ライセンスを誰が行えるか、外国出願費用を誰が負担するか、共同研究終了後に改良発明をどう扱うか、といった複数の問題が一体として現れます。
特に企業間の共同研究、大学・研究機関との産学連携、スタートアップと大企業の協業、コンソーシアム型研究開発、AI・データ・ソフトウェアを含む共同開発では、共同出願の設計を誤ると、特許を取った後に使えない、ライセンスできない、相手方の同意が得られず外国出願できない、事業売却や資金調達の際に知財デューデリジェンスで重大な懸念を指摘される、といった事態が生じます。
この記事は、弁護士、企業内弁護士、外部弁護士、弁理士、知財法務担当、契約法務担当、コンプライアンス担当、M&A・組織再編法務担当、税理士、公認会計士、研究開発マネジメント担当の視点を統合した、専門的かつ実務的な解説です。法律上の根拠は、特許法、民法、特許庁資料、公正取引委員会・経済産業省の指針など、できる限り一次情報・公的情報を中心に整理しています。
主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
共同出願で最も重要な結論は、次の5点です。
主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
共同出願とは、1つの特許出願について、複数の者が出願人となることをいいます。たとえば、A社とB社が共同研究を行い、A社の研究者とB社の研究者が共同で発明を完成させ、両社がそれぞれ発明者から特許を受ける権利を承継して、A社・B社を共同出願人として出願する場合です。
ここで注意すべき点は、共同発明者が複数いることと、共同出願人が複数いることは同じではないということです。発明者は自然人ですが、出願人は法人でも個人でもかまいません。企業実務では、従業員発明規程や譲渡契約により、発明者から会社へ特許を受ける権利が承継され、会社が出願人になります。
特許を受ける権利とは、発明について特許を受けることができる法律上の地位です。特許法33条は、特許を受ける権利を移転できると定めています。他方、特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡できません。また、その権利に基づいて取得すべき特許権について、仮専用実施権を設定したり仮通常実施権を許諾したりする場合にも、他の共有者の同意が必要です。
共同発明とは、複数の者が発明の創作に実質的に関与して発明を完成させた場合をいいます。単に研究費を出した者、一般的な指示をした管理者、データ入力や試験補助のみを行った者、単に命令を出した者は、通常、発明者とは評価されません。発明者性は、発明の技術的思想の創作に現実に関与したかという観点から判断されます。
企業間共同研究では、会議参加者、研究責任者、実験担当者、解析担当者、データ提供者、AIモデル開発者、製品仕様担当者など多様な人が関わります。しかし、全員が発明者になるわけではありません。発明者の誤認は、共同出願違反、冒認出願、職務発明対価、研究者間紛争、大学・企業間紛争の入口になります。
権利配分とは、共同研究や共同開発から生じた知的財産を、誰が保有し、誰が実施し、誰が第三者に許諾し、誰が収益を受け、誰が費用を負担するかを決めることです。
権利配分は、単なる持分比率より広い概念です。以下のような要素を含みます。
次の比較表は、この章で扱う項目を整理し、なぜ判断を分ける必要があるかを示します。列ごとの違いから、契約や実務で確認すべきポイントを読み取ってください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 帰属 | 特許を受ける権利・特許権を誰が保有するか |
| 持分 | 共有の場合、各当事者の割合をどうするか |
| 実施 | 各当事者が自己実施できるか、分野制限を置くか |
| 許諾 | 第三者ライセンスを誰が決定できるか |
| 独占 | 独占実施権・独占的通常実施権を設定するか |
| 費用 | 国内出願、外国出願、審査請求、年金、翻訳、代理人費用を誰が負担するか |
| 収益 | ライセンス料、譲渡対価、損害賠償金をどう分配するか |
| 管理 | 出願代理人、応答方針、分割出願、放棄、審判対応を誰が決めるか |
| 出口 | M&A、事業譲渡、共同研究終了、倒産、競合化の際にどう処理するか |
持分比率とは、共有される特許を受ける権利または特許権について、各共有者が有する割合をいいます。2社で50%・50%、70%・30%、3社で40%・40%・20%などが典型例です。
ただし、特許実務で重要なのは、持分比率が高いからといって、第三者ライセンスを単独で自由にできるわけではないという点です。共有特許権では、特許法73条により、持分譲渡、質権設定、専用実施権設定、通常実施権許諾に他の共有者の同意が必要となります。
主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
特許法33条は、特許を受ける権利の移転可能性と、共有の場合の制約を定めています。実務上重要なのは、次の点です。
つまり、出願前の段階でも、共有者の地位は自由に処分できません。共同研究開始後、まだ出願していない段階で「自社の持分を投資家、関連会社、買収先、海外子会社へ移したい」と考える場合にも、他の共有者の同意が問題になります。
特許法38条は、特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は他の共有者と共同でなければ特許出願できないと定めています。
この規定は共同出願実務の中心です。たとえば、A社・B社の共同発明で、A社とB社がそれぞれ特許を受ける権利を承継して共有しているにもかかわらず、A社だけで単独出願した場合、共同出願義務違反が問題になります。共同出願違反は拒絶理由・無効理由となり得るため、発明者認定と権利承継の確認は、出願前に必ず行う必要があります。
特許法73条は、登録後の共有特許権について重要なルールを定めています。
次の比較表は、この章で扱う項目を整理し、なぜ判断を分ける必要があるかを示します。列ごとの違いから、契約や実務で確認すべきポイントを読み取ってください。
| 行為 | 他の共有者の同意 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 持分譲渡 | 必要 | 競合会社・買収先・関連会社への移転を制限できる |
| 持分を目的とする質権設定 | 必要 | 担保設定に他の共有者が関与する |
| 自己実施 | 契約で別段の定めがない限り不要 | 各共有者は持分比率にかかわらず自社で実施できる |
| 専用実施権設定 | 必要 | 独占的権利の設定には全員同意が必要 |
| 通常実施権許諾 | 必要 | 第三者ライセンスには全員同意が必要 |
この表から分かるように、共同出願における最大の実務リスクは、自己実施はできるが、第三者ライセンスは止まるという点です。
製造業のように自社実施が中心の当事者には共有特許が使いやすい場合があります。しかし、大学、研究機関、スタートアップ、プラットフォーム企業、技術ライセンス会社のように、第三者ライセンスや事業提携によって知財を活用する主体にとっては、他の共有者の同意が必要という構造が大きな制約になります。
民法250条は、各共有者の持分は相等しいものと推定すると定めています。
特許法は持分比率の計算方法を詳細に定めていません。したがって、共同出願契約、共同研究契約、譲渡契約、発明者から会社への承継書面、願書記載、持分証明書などで持分を明確にしない場合、後に均等持分を前提に扱われるリスクがあります。
特許庁は、共有に係る特許権等の持分放棄に関する取扱いで、願書等に持分の記載がなく、特許庁に対し持分を明らかにしていない場合には、民法250条に基づき各共有者の持分を相等しいものと推定した持分を前提とする旨を説明しています。
特許庁の願書記載ガイドでは、出願人が2人以上ある場合、出願人の権利について持分の定めがあるときは、特許出願人欄の次に「持分」欄を設けて「50/100」のように記録できるとされています。小数点は使用できません。
この点は実務上重要です。契約書で持分を定めても、願書・持分証明書・社内決裁・代理人指示が整合していなければ、後続手続で混乱します。特に、持分比率を3分の1、3分の2、7分の3、11分の8など細かく設計する場合は、願書記載、費用負担、収益分配、税務処理、会計処理を同時に確認する必要があります。
特許庁は、持分譲渡による持分移転登録申請について、複数人で共有している権利のうち一部共有者の持分を他者に譲渡する場合の手続を示し、たとえばA・B共有からA・C共有へ変更する場合、BからCへの持分移転について他の共有者Aの同意書が必要であると説明しています。
したがって、共同出願契約では、将来の持分譲渡について、次の事項を事前に定めることが望まれます。
主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
通常の会社法務では、議決権比率や株式保有比率が意思決定に直結します。しかし、共有特許では、持分比率が70%であっても、30%の共有者の同意なしに第三者ライセンスできない場面があります。つまり、共同出願における持分比率は、株式比率のような多数決支配とは異なります。
たとえば、A社70%、B社30%の共有特許があるとします。A社が大企業で、B社が大学またはスタートアップである場合、A社は「自社が70%だから自由に第三者へライセンスできる」と考えるかもしれません。しかし、特許法73条3項により、通常実施権の許諾には他の共有者の同意が必要です。契約で事前同意、包括同意、分野限定同意、条件付き許諾権などを設計していなければ、A社の事業展開は止まる可能性があります。
日本法上の共有特許権は、各共有者が契約で別段の定めがない限り自己実施できる一方、第三者許諾には同意を要するという構造です。
この構造は、当事者がいずれも自社で製造・販売するメーカーである場合には合理的に機能することがあります。他方、次のような主体には不利に働きやすいです。
したがって、共同出願における権利配分と持分比率を設計する際は、単に「発明への貢献度」を反映するだけでは不十分です。事業化モデルに適合した知財活用権限を設計する必要があります。
共同研究の現場では、交渉を簡単にするために「共同研究だから50 ― 50でよい」と決めることがあります。しかし、50 ― 50は公平に見える一方で、以下のようなデッドロックを生みやすい構造です。
共同出願契約では、デッドロック時の処理を定めることが重要です。たとえば、一定期間協議して合意に至らない場合の決裁者協議、第三者専門家の意見、費用負担者による単独外国出願、相手方持分の買取、ライセンス拒否の合理性基準、競合先へのライセンス禁止、特定分野での包括同意などが考えられます。
主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
共同出願における持分比率の決め方に、唯一の正解はありません。実務では、次のモデルを組み合わせて設計します。
当事者が同程度の研究者、設備、費用、ノウハウを提供し、発明への寄与も概ね同等である場合は、均等持分が分かりやすいです。2社なら50%・50%、3社なら3分の1ずつです。
長所は、交渉が簡単で、社内説明もしやすいことです。短所は、寄与度や事業化負担が異なる場合に不公平感が残ること、デッドロックを生みやすいことです。
均等モデルを採用する場合でも、実施、ライセンス、外国出願、費用負担、収益分配、改良発明については別途詳細に定める必要があります。
発明の創作に対する実質的寄与を評価して持分比率を決めるモデルです。たとえば、発明の中核的課題をA社が着想し、B社が実験により具体化し、両者が請求項の構成に重要な技術的貢献をした場合、60%・40%、70%・30%などにすることがあります。
このモデルは、知財法理に近い考え方ですが、実務上は評価が難しいです。研究ノート、会議録、発明届、実験データ、設計資料、ソースコード履歴、メール、ラボノート、AIモデルの訓練・評価記録などが重要になります。
注意点は、発明者間の貢献度と、会社間の持分比率は必ずしも一致しないことです。たとえば、A社従業員1名、B社従業員3名が共同発明者であっても、会社間契約でA社・B社の持分を50%・50%と定めることはあり得ます。
研究費、試作費、外注費、特許出願費用、外国出願費用、審査請求費用、維持年金などの負担比率に応じて持分比率を決めるモデルです。
たとえば、A社が研究費の80%を負担し、B社が20%を負担する場合、A社80%・B社20%とする発想です。ただし、研究費を負担しただけでは発明者にならないのと同様、費用負担だけで発明の創作寄与を説明できるとは限りません。
このモデルは、特に共同研究予算が明確で、研究テーマが特定され、事業化主体が資金提供者である場合に使いやすいです。一方、研究費を多く負担した大企業がスタートアップの中核技術を過度に取り込む場合には、競争政策上・契約公正上の問題が生じ得ます。公正取引委員会・経済産業省の指針は、スタートアップと連携事業者の双方が共同研究に貢献したにもかかわらず、貢献度を超えて成果知財が一方にのみ帰属する場合の問題を指摘しています。
発明を実際に製品化・販売・サービス化する当事者を中心に権利を配分するモデルです。共同発明であっても、一方が製造販売、薬事承認、品質保証、販売網、顧客対応、投資回収を担う場合、その当事者に大きな持分または単独所有を認め、他方には実施料、成功報酬、共同研究対価、限定的ライセンスを与えることがあります。
このモデルは、事業化のスピードを高める一方、研究側当事者の将来展開を制約する可能性があります。大学・研究機関・スタートアップが相手の場合は、研究成果の他用途展開、論文発表、改良研究、周辺技術の利用、研究継続の自由を確保する必要があります。
1つの発明が複数用途に展開できる場合、持分比率と実施権を分野別に分けるモデルです。
例 ―
このモデルでは、持分比率は50%・50%でも、実質的な事業自由度は分野別に設計されます。技術が水平展開しやすいAI、材料、センサー、半導体、バイオ、通信、ロボティクス分野では有効です。
共同出願ではなく、一方当事者を単独出願人・単独権利者とし、他方に契約上の実施権、収益分配、ロイヤルティ、オプション権を与えるモデルです。
このモデルは、第三者ライセンスやM&Aの自由度を高めたい場合に有効です。ただし、共同発明者からの権利承継、対価、公正な貢献評価、独占禁止法・優越的地位濫用リスク、税務・会計上の処理に注意が必要です。
スタートアップ・大企業連携では、大企業単独所有とする場合でも、スタートアップが他用途展開できるライセンスバック、一定領域での非独占利用権、対価、マイルストーン、周辺技術の権利確保などを組み合わせることが望まれます。
主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
実務では、感覚的な交渉だけで持分比率を決めると、後に社内稟議、監査、税務、研究者説明、株主・投資家説明で問題になります。以下のような評価フレームを用いると、合理性を説明しやすくなります。
次の比較表は、この章で扱う項目を整理し、なぜ判断を分ける必要があるかを示します。列ごとの違いから、契約や実務で確認すべきポイントを読み取ってください。
| 評価項目 | 内容 | 典型的な証拠 |
|---|---|---|
| 発明創作寄与 | 課題設定、着想、解決手段、請求項構成への貢献 | 発明届、研究ノート、会議録、実験記録、設計書 |
| 背景技術提供 | 既存特許、ノウハウ、データ、ソースコード、素材、試料の提供 | NDA、MTA、技術資料、特許リスト、データ提供記録 |
| 研究費・設備 | 研究費、装置、試験施設、人員、外注費の負担 | 予算書、請求書、稟議、共同研究計画書 |
| 事業化貢献 | 製品化、量産、薬事、認証、販売網、顧客開拓 | 事業計画、販売契約、規制対応資料 |
| 知財管理負担 | 出願・中間処理・外国出願・年金管理・侵害対応 | 代理人費用、知財部工数、出願方針書 |
| リスク負担 | 製造責任、品質保証、臨床試験、投資回収、訴訟対応 | 契約、保険、規制対応資料、投資計画 |
持分比率の計算に法定の公式はありませんが、交渉資料として次のような重み付けを使うことがあります。
次の比較表は、この章で扱う項目を整理し、なぜ判断を分ける必要があるかを示します。列ごとの違いから、契約や実務で確認すべきポイントを読み取ってください。
| 項目 | 重み | A社評価 | B社評価 |
|---|---|---|---|
| 発明創作寄与 | 50% | 4 | 3 |
| 背景技術提供 | 20% | 5 | 2 |
| 研究費・設備 | 15% | 4 | 2 |
| 事業化貢献 | 10% | 5 | 1 |
| 知財管理負担 | 5% | 4 | 1 |
この場合、各点数に重みを掛けて合計し、相対比に換算します。たとえばA社の総合スコアが4.35、B社が2.45なら、A社約64%、B社約36%となります。これを契約交渉上は、A社65%・B社35%またはA社60%・B社40%に丸めることがあります。
ただし、このような計算式はあくまで交渉補助です。特許法上の発明者性、職務発明対価、独占禁止法上の公正性、税務上の時価、会計上の資産性を機械的に決めるものではありません。
持分比率と費用負担比率は一致させることもありますが、必ず一致させる必要はありません。
たとえば、A社60%・B社40%の共有特許について、A社が事業化主体であるため国内外の出願費用を全額負担し、B社は費用負担しない代わりに第三者ライセンス収益の分配率を下げる、という設計も可能です。
逆に、B社が資金力の乏しいスタートアップである場合、A社が出願費用を一時立替し、将来のライセンス収益または売上ロイヤルティから回収する設計もあります。重要なのは、費用負担と権利配分の不一致がある場合、その理由を契約書・議事録・稟議書に残すことです。
主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
共同出願契約では、対象発明を曖昧にしてはいけません。少なくとも次を記載します。
対象発明が曖昧だと、後の改良発明や周辺発明が契約に含まれるかで紛争になります。
持分比率は、単に「甲乙共有」と書くだけでなく、明確に数値化します。
例 ―
持分比率を定める場合は、願書・持分証明書・費用負担・収益分配との整合性を確認します。願書上、持分を記載できる場合があるため、出願代理人への指示も契約と一致させます。
企業間共同出願で最も危険なのは、発明者から会社への権利承継が不完全なまま出願することです。契約書では、各当事者が自己に属する発明者から特許を受ける権利を適法に承継済みであること、または出願前に承継させる義務を負うことを定めます。
職務発明については、各社の職務発明規程、勤務規則、譲渡契約、相当利益の付与制度を確認します。共同研究に大学教員、学生、派遣社員、業務委託先、海外研究者が関与する場合は、さらに慎重な確認が必要です。
共同出願では、誰が特許事務所を選ぶか、誰が代理人に指示するか、拒絶理由通知への応答方針をどう決めるかが重要です。
契約では、次を定めます。
費用負担は、持分比率に応じる場合、均等負担の場合、一方負担の場合があります。
契約では、次を定めます。
不払い時には、費用負担しない当事者の持分放棄、外国出願からの離脱、実施権への転換、収益分配率の変更などを定めることがあります。
外国出願は費用が大きく、国ごとの制度差もあるため、共同出願契約で必ず定めるべきです。
少なくとも次を定めます。
PCT関連の軽減・支援措置では、共同出願の場合に持分割合を定める必要がある場面があるため、手続上の持分記載と契約上の持分管理を混同しないようにします。特許庁のQ&Aは、軽減・支援措置の申請時の持分割合について、共同出願である場合に必ず持分割合を定めること、合計が100%になるように定めることを説明しています。
特許法73条2項は、契約で別段の定めがない限り、共有者が他の共有者の同意なく特許発明を実施できることを定めています。
しかし、契約実務では、自己実施について以下を定めることがあります。
特に、相手方の競合領域で自由実施されると共同研究の目的が失われる場合、契約で別段の定めを置くべきです。
第三者ライセンスは、共同出願契約の最重要条項です。特許法73条3項により、共有特許について第三者に通常実施権を許諾するには他の共有者の同意が必要です。
契約では、次の設計が考えられます。
次の比較表は、この章で扱う項目を整理し、なぜ判断を分ける必要があるかを示します。列ごとの違いから、契約や実務で確認すべきポイントを読み取ってください。
| 設計 | 内容 | 向いている場合 |
|---|---|---|
| 個別同意型 | ライセンスごとに全員同意 | 競合流出を厳格に防ぎたい場合 |
| 事前包括同意型 | 一定条件を満たすライセンスを事前承諾 | SaaS、AI、部材供給など多数顧客展開 |
| 分野別許諾型 | 各分野の担当当事者が許諾 | 用途が明確に分かれる技術 |
| 収益分配型 | 許諾権者がライセンスし収益を分配 | 事業化主体が明確な場合 |
| 拒否理由限定型 | 合理的理由なく同意拒否できない | デッドロック回避 |
| 競合禁止型 | 競合先には全員同意必須 | 技術流出リスクが高い場合 |
第三者ライセンス条項を定めない共同出願契約は、将来の事業展開を大きく制約します。
ライセンス収入、譲渡対価、和解金、損害賠償金、補償金などをどう分配するかを定めます。
分配方法は、次のように設計できます。
持分比率と収益分配比率を一致させる必要はありません。ただし、税務・会計・移転価格・寄附金認定・利益供与の観点から、合理的理由と証跡が必要です。
第三者が共有特許を侵害した場合、誰が警告し、誰が訴訟を提起し、費用を誰が負担し、回収金をどう分配するかを定めます。
検討事項 ―
権利行使条項は、ビジネス上の力関係にも直結します。大企業が訴訟を嫌がり、スタートアップが権利行使を望む場合、またはその逆の場合、共同出願のままでは意思決定が難しくなります。
共同研究後に生じる改良発明は、紛争の典型です。
契約では、次を区別します。
改良発明をすべて共有にすると、将来の研究開発が硬直化します。他方、一方単独帰属にすると、共同研究成果を囲い込まれるリスクがあります。改良発明は、対象技術、利用分野、発明者、利用した背景技術、事業化範囲に応じて細分化する必要があります。
共同出願では、出願前の発表により新規性を失うリスクがあります。大学・研究機関との共同研究では、論文発表、学会発表、博士論文、研究成果報告、プレスリリースが問題になります。
契約では、以下を定めます。
公正取引委員会・経済産業省の指針も、NDAや共同研究契約において、秘密情報・バックグラウンド情報・知的財産権の取扱いを事前に明確化する重要性を示しています。
共同出願契約は、競合企業間の共同研究で用いられることもあります。その場合、知財条項が競争制限、技術利用制限、取引先制限、価格・数量調整、競合排除に結び付かないよう注意が必要です。
また、大企業がスタートアップに対し、共同研究成果を無償または低廉な対価で一方的に譲渡させる、他分野展開を過度に制限する、周辺特許を囲い込む、成果物の利用を不合理に制限する、といった場合には、優越的地位の濫用等の観点が問題になり得ます。公取委・経産省の指針は、共同研究契約における知的財産権の一方的帰属や成果物利用制限について、問題事例と解決の方向性を示しています。
主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
大企業同士では、双方に知財部・法務部があり、共同出願契約の整備も進んでいます。しかし、事業部ごとの思惑が異なるため、次の点が問題になりやすいです。
大企業同士では、単発の共同出願契約だけでなく、包括共同研究契約、個別テーマ契約、共同出願契約、ライセンス契約、標準化方針、輸出管理、秘密保持を統合的に管理する必要があります。
大企業とスタートアップの共同出願では、交渉力、資金力、知財部門の体制、事業展開のスピードに差があります。
スタートアップ側の典型的リスク ―
大企業側の典型的リスク ―
この類型では、単純共有よりも、分野限定独占、ライセンスバック、買戻権、第三者許諾の条件、M&A時の同意・先買権、秘密情報の分離管理を重視すべきです。
大学・研究機関との共同出願では、大学側が自己実施しないことが多いため、特許法73条2項の自己実施自由のメリットを享受しにくく、第三者ライセンス同意の制約が問題になります。
大学側の関心 ―
企業側の関心 ―
大学・企業間では、大学が持分を保有しつつ、企業に特定分野の独占実施権または独占的通常実施権を付与する、大学は自己実施しないが第三者ライセンス収益を得る、企業が大学持分を買い取るオプションを持つ、といった設計が考えられます。特許庁のOIモデル契約書関連資料は、スタートアップ・事業会社、大学・事業会社、大学・大学発ベンチャーなどの場面に応じたモデル契約書を整備しています。
3社以上の共同研究では、全員共有にすると意思決定が非常に重くなります。共同出願の対象を細分化し、発明ごとに関与当事者だけで出願する設計が重要です。
コンソーシアムでは、次を定めます。
3者以上の共有特許は、将来のライセンス、持分移転、費用負担、M&Aで複雑化するため、可能な限り単純な権利構造にすることが望まれます。
AI・データ・ソフトウェアの共同開発では、特許だけでなく、著作権、営業秘密、データ利用権、モデル利用権、API利用権、学習済みパラメータ、データベース権的利益、クラウド環境、OSSライセンスが絡みます。
特許共同出願だけを定めても不十分です。次を整理します。
AI分野では、成果物を一社に独占させると、スタートアップの横展開が困難になり、共同研究の価値総和が下がることがあります。公取委・経産省の指針も、AI分野で成果物利用条件を独占的にすることが非合理的となる場合があることを指摘しています。
主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
共同研究に参加した全員を発明者に入れる、または逆に相手方研究者を発明者から外すと、後で重大な紛争になります。
発明者認定では、次を確認します。
共同研究契約だけを締結し、共同出願契約を締結しないまま出願するケースがあります。この場合、出願後に次の問題が起きます。
出願前に最低限のタームシートを合意し、その後正式な共同出願契約を締結する運用が望まれます。
パリ優先権やPCT移行の期限直前に、外国出願国、費用負担、代理人選定、翻訳方針で合意できないことがあります。
対策として、共同出願契約で次を定めます。
共有特許権の第三者ライセンスには同意が必要です。これにより、ライセンス事業が止まることがあります。
対策として、以下の条項を入れます。
共同出願後、一方当事者が買収されると、共有者が実質的に競合会社になることがあります。特許法上の持分譲渡には同意が必要ですが、合併など一般承継や支配権変更では契約上の処理が必要です。
共同出願契約では、次を定めます。
共同研究終了後に一方が改良発明を出願した場合、相手方が「共同研究成果を利用した」と主張することがあります。
対策は、共同研究期間中に提供したバックグラウンド情報、成果情報、ノウハウ、データを明確に記録することです。公取委・経産省の指針も、契約締結前に保有していた情報と契約締結後に生じた情報が混在する技術コンタミネーションを防ぐため、バックグラウンド情報の範囲を明確化することを推奨しています。
主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
以下は、条項の方向性を示すサンプルです。実際の契約では、案件の事情に応じて修正してください。
第○条(権利の帰属および持分) 1. 甲および乙は、本発明に係る特許を受ける権利ならびに本発明に基づき成立する特許権を共有する。 2. 前項の共有持分は、甲を60%、乙を40%とする。 3. 甲および乙は、前項の持分比率を、願書、持分証明書その他特許庁に提出する書面に反映させるため、相互に必要な協力を行う。
第○条(出願手続) 1. 本発明に係る国内特許出願は、甲乙共同で行う。 2. 出願代理人は甲乙協議により選任する。ただし、出願期限その他緊急の必要がある場合、甲は乙に事前通知の上、暫定的に代理人を選任できる。 3. 明細書、特許請求の範囲、図面、要約書、拒絶理由通知への応答、補正、分割出願その他権利範囲に重要な影響を及ぼす事項は、甲乙協議により決定する。
第○条(費用負担) 1. 本発明に係る国内出願、審査請求、中間処理、設定登録および特許料納付に要する費用は、甲乙の持分比率に応じて負担する。 2. 前項にかかわらず、外国出願費用については第○条に従う。 3. いずれかの当事者が費用負担を希望しない場合、当該当事者は、当該国または地域における出願または権利維持から離脱できる。この場合の持分、実施権および収益分配は、甲乙別途協議により定める。
第○条(第三者への実施許諾) 1. 甲または乙は、本特許権について第三者に通常実施権を許諾しようとするときは、相手方の事前書面同意を得なければならない。 2. 相手方は、当該第三者が競合会社、反社会的勢力、輸出管理上懸念のある者、または本契約上の秘密保持義務を履行できない者である場合その他合理的理由がある場合を除き、前項の同意を不当に拒絶してはならない。 3. 甲または乙が第三者から受領した実施料その他の対価は、当該許諾に要した合理的費用を控除した後、甲乙の持分比率に応じて分配する。
第○条(外国出願) 1. 甲または乙が本発明について外国出願を希望する場合、国内出願日から○か月以内に、希望国、出願ルート、概算費用および費用負担案を相手方に通知する。 2. 甲乙双方が外国出願を希望する国については、甲乙共同で出願し、費用は持分比率に応じて負担する。 3. 一方当事者のみが外国出願を希望する国については、当該希望当事者が費用を負担し、当該国における権利の帰属、相手方の実施権および収益分配については、本条に定める条件に従う。 4. 前項の場合、非希望当事者は、希望当事者による外国出願に必要な書類作成、署名、委任状、譲渡証その他の手続に協力する。
第○条(改良発明) 1. 本研究期間中に、本発明に関連して甲乙共同でなした改良発明は、甲乙共有とし、持分比率は当該改良発明への寄与度を基準として甲乙協議により定める。 2. 一方当事者が単独でなした改良発明は、当該当事者に単独帰属する。ただし、当該改良発明が相手方のバックグラウンド技術または秘密情報を利用してなされた場合、その取扱いは甲乙協議により定める。 3. 前二項にかかわらず、改良発明が本特許発明の実施に不可欠である場合、甲乙は相互に合理的条件で実施許諾を行うよう誠実に協議する。
主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
次の比較表は、この章で扱う項目を整理し、なぜ判断を分ける必要があるかを示します。列ごとの違いから、契約や実務で確認すべきポイントを読み取ってください。
| チェック項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 発明者 | 真の発明者を確認したか |
| 権利承継 | 発明者から各社への承継は完了しているか |
| 職務発明 | 職務発明規程・相当利益制度を確認したか |
| 契約 | NDA、共同研究契約、共同出願契約が整合しているか |
| 持分 | 持分比率を明記したか |
| 願書 | 願書上の持分記載方針を決めたか |
| 費用 | 国内・外国出願費用の負担を決めたか |
| 外国 | 優先権期限前の意思決定手続を決めたか |
| ライセンス | 第三者ライセンス同意ルールを定めたか |
| 改良 | 改良発明・周辺発明の帰属を定めたか |
| 秘密 | 出願前公表・論文発表を管理しているか |
共同出願契約は、法務・知財だけで完結しません。社内稟議では、次を説明する必要があります。
主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
持分比率、ライセンス料、譲渡対価、研究費負担、無償譲渡、低額譲渡には税務上の論点があります。
たとえば、一方が実質的に大きな価値を持つ特許持分を無償または低額で他方へ移転する場合、寄附金、受贈益、移転価格、グループ会社間取引、研究開発税制、補助金条件との整合が問題になることがあります。
税理士・公認会計士の観点では、次を確認します。
M&Aでは、対象会社が保有する共同出願・共有特許が精査されます。投資家・買主は、次を確認します。
共同出願契約が不十分だと、買収価格の減額、表明保証違反、クロージング条件、補償条項、追加同意取得が問題になります。
主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
共同出願に向かない場合は、単独所有+ライセンス、用途別帰属、分野別独占、オプション契約、成果物利用契約、共同事業契約などを検討します。
主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
一般的には、共同出願契約では持分比率を明記する運用が重要とされています。持分が不明な場合、民法250条の均等推定、費用負担、収益分配、持分放棄、補助金・軽減措置、M&Aデューデリジェンスで混乱が生じる可能性があります。ただし、具体的な定め方は契約目的や当事者の関与内容で変わるため、個別の設計は弁護士・弁理士等の専門家に相談する必要があります。
一般的には、持分が高い場合でも、共有特許権について第三者に通常実施権を許諾するには特許法73条3項により他の共有者の同意が必要とされています。ただし、事前同意、分野別許諾、グループ会社利用などを契約で定めている場合は扱いが変わる可能性があります。具体的な権限確認は、契約書と権利関係を整理したうえで専門家に相談する必要があります。
一般的には、特許を受ける権利や特許権が共有の場合、持分譲渡には他の共有者の同意が必要とされています。グループ会社への移転であっても、契約で事前同意や例外を定めていなければ同意問題が生じる可能性があります。登録後の持分移転登録手続でも同意書が問題になるため、具体的には契約条項と登録実務を確認する必要があります。
一般的には、費用負担を持分比率に連動させる設計がありますが、常に一致させる必要があるわけではないとされています。一方が全額負担する、外国出願だけ希望者負担にする、費用負担者に収益優先分配を認めるなどの設計も考えられます。ただし、持分、費用、収益、実施権の関係を明確にしないと紛争化しやすいため、具体的な定め方は専門家に相談する必要があります。
一般的には、共同研究の成果であっても、共同出願が唯一の選択肢ではありません。発明者、権利承継、貢献度、事業化主体、契約内容により、単独帰属、共同帰属、ライセンスバック、用途別帰属など複数の整理があり得ます。どの方法が適切かは研究目的と将来利用で変わるため、契約前に専門家へ相談する必要があります。
一般的には、大学が自己実施しない場合、大学側の価値回収は第三者ライセンス、企業からの実施料、不実施補償、持分譲渡対価などに依存すると考えられます。企業側が独占実施を望む場合は、大学持分の取扱い、ライセンス収益分配、研究継続の自由、論文発表、改良発明を契約で定める必要があります。具体的な落とし込みは、大学規程や共同研究契約の内容により変わります。
一般的には、将来の事業展開を止めない設計が重要とされています。共同出願により、大企業の同意なしに第三者ライセンスできない、他用途展開できない、投資家に知財自由度を説明しにくい、M&Aで障害になるといった問題が生じる可能性があります。持分比率だけでなく、分野別利用、非独占展開、ライセンスバック、M&A時の処理、バックグラウンド技術の保護を具体的に検討する必要があります。
主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
共同出願における権利配分と持分比率は、次の順序で設計すると失敗しにくくなります。
主要な論点を、本文・表・判断の流れに分けて確認します。
共同出願における権利配分と持分比率は、発明への貢献度を数字にするだけの作業ではありません。企業法務・知財法務の観点では、共同出願は「共同で特許を取る契約」ではなく、「将来の事業自由度、ライセンス収益、費用負担、紛争対応、M&A対応を設計する契約」です。
日本の特許法では、共有特許権者は原則として自己実施できますが、第三者ライセンスや持分譲渡には他の共有者の同意が必要です。このため、共同出願の設計を誤ると、特許を取得しても事業活用できない、ライセンスできない、外国展開できない、投資家や買主に説明できないという問題が生じます。
実務上は、次の原則が重要です。
共同出願は、協業の成果を守るための強力な手段です。しかし、共同所有は協業の美名の下に、将来の意思決定を重くする制度でもあります。したがって、共同出願における権利配分と持分比率は、研究開発の最後に処理する事務手続ではなく、共同研究開始時から経営・法務・知財・研究開発・事業部門が共同で設計すべき戦略課題です。
本文で扱った制度・実務上の根拠を、公的資料を中心に整理しています。