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発信者情報開示請求の
具体的な手続きと期間

匿名投稿者を特定するには、証拠保全、権利侵害の明白性、プロバイダの情報保有、ログ保存期限、開示後の対応を一体で確認することが重要です。

3ルート手続選択
2〜6か月開示命令の目安
3〜6か月ログ保存の目安
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発信者情報開示請求の 具体的な手続きと期間

匿名投稿者を特定するには、証拠保全、権利侵害の明白性、プロバイダの情報保有、ログ保存期限、開示後の対応を一体で確認することが重要です。

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発信者情報開示請求の 具体的な手続きと期間
匿名投稿者を特定するには、証拠保全、権利侵害の明白性、プロバイダの情報保有、ログ保存期限、開示後の対応を一体で確認することが重要です。
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  • 発信者情報開示請求の 具体的な手続きと期間
  • 匿名投稿者を特定するには、証拠保全、権利侵害の明白性、プロバイダの情報保有、ログ保存期限、開示後の対応を一体で確認することが重要です。

POINT 1

  • 発信者情報開示請求の具体的な手続きと期間の全体像
  • 重要な判断材料と注意点を整理します。
  • しかし、匿名投稿では、投稿者の氏名・住所が分からないことが多く、そのままでは相手方を特定できません。
  • そこで利用される制度が、発信者情報開示請求です。
  • 現在の実務では、2022年施行の改正により創設された 発信者情報開示 命令事件が重要です。

POINT 2

  • 発信者情報開示請求とは何か
  • 重要な判断材料と注意点を整理します。
  • 1-1. 制度の目的
  • 1-2. 「発信者情報」とは何か
  • 1-3. 用語の整理 ― CP、AP、経由プロバイダ

POINT 3

  • 発信者情報開示請求が問題となる典型事案
  • 重要な判断材料と注意点を整理します。
  • 2-1. 名誉毀損・侮辱・信用毀損
  • 2-2. プライバシー侵害
  • 2-3. 著作権・商標権・営業秘密・なりすまし

POINT 4

  • 発信者情報開示請求が認められるための基本要件
  • 重要な判断材料と注意点を整理します。
  • 3-1. 権利侵害の明白性
  • 3-2. 正当な理由
  • 3-3. 相手方が情報を保有していること

POINT 5

  • 発信者情報開示請求の三つの手続ルート
  • 裁判外で開示を求める
  • 三つの命令を組み合わせる
  • 仮処分と訴訟を使う
  • 重要な判断材料と注意点を整理します。

POINT 6

  • 発信者情報開示請求のルートA ― 裁判外の任意開示請求
  • 重要な判断材料と注意点を整理します。
  • 任意請求のメリットは、裁判所手続に比べて費用と時間を抑えられる可能性があることです。
  • 任意開示請求の期間は、プロバイダの受付体制、発信者への意見照会、請求資料の補正、発信者の回答の有無によって変わります。
  • したがって、ログ保存期限が迫っている場合、任意請求だけで時間を使い切るのは危険です。

POINT 7

  • 発信者情報開示請求のルートB ― 開示命令事件
  • 重要な判断材料と注意点を整理します。
  • 裁判外で開示を求める
  • 仮処分と訴訟を使う
  • 4-2-1. 開示命令

POINT 8

  • 発信者情報開示請求のルートC ― 従来型手続
  • 重要な判断材料と注意点を整理します。
  • 発信者情報開示命令事件が創設された後も、従来型の手続が消滅したわけではありません。
  • この手続は二段階であり、発信者情報開示命令事件より時間がかかる傾向があります。

まとめ

  • 発信者情報開示請求の 具体的な手続きと期間
  • 発信者情報開示請求の具体的な手続きと期間の全体像:重要な判断材料と注意点を整理します。
  • 発信者情報開示請求とは何か:重要な判断材料と注意点を整理します。
  • 発信者情報開示請求が問題となる典型事案:重要な判断材料と注意点を整理します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

発信者情報開示請求の具体的な手続きと期間の全体像

重要な判断材料と注意点を整理します。

インターネット上の匿名投稿によって名誉権、プライバシー、著作権、営業上の信用その他の権利を侵害された場合、被害者は、投稿者に損害賠償請求、削除請求、刑事告訴その他の法的措置を検討できます。しかし、匿名投稿では、投稿者の氏名・住所が分からないことが多く、そのままでは相手方を特定できません。そこで利用される制度が、発信者情報開示請求です。

発信者情報開示請求の具体的な手続きと期間を理解するうえで最も重要なのは、制度が単一の手続ではなく、主に次の三つのルートから構成されるという点です。

  1. プロバイダ等に対する裁判外の任意開示請求
  2. 裁判所に対する発信者情報開示命令事件の申立て
  3. 従来型の「コンテンツプロバイダへの仮処分」と「経由プロバイダへの訴訟」を組み合わせる手続

現在の実務では、2022年施行の改正により創設された発信者情報開示命令事件が重要です。同事件では、開示命令、提供命令、消去禁止命令という三つの命令を組み合わせ、投稿があったサービス運営者、通信を媒介したプロバイダ、裁判所の間で情報を連携させることにより、従来より一体的・迅速な発信者特定が可能になりました。もっとも、制度が迅速化されても、各プロバイダが保有する通信ログには保存期間があり、ログが消去されると技術的に特定が困難になります。個人情報保護委員会・総務省の電気通信事業分野ガイドライン解説では、CP・APにおける通信履歴の保存期間について、少なくとも3〜6か月程度が社会的期待に応える望ましい目安として示されています。

このページでは、弁護士に相談する前後で理解しておきたい実務上の流れを整理します。個別事件の見通しは、投稿内容、媒体、プロバイダの所在、証拠の有無、ログの残存状況、相手方の対応、裁判所の運用によって大きく変わります。したがって、このページは一般的な制度解説であり、個別案件では弁護士に確認する必要があります。

Section 01

発信者情報開示請求とは何か

重要な判断材料と注意点を整理します。

1-1. 制度の目的

発信者情報開示請求とは、インターネット上の匿名投稿等によって自己の権利を侵害されたと主張する者が、投稿者を特定するため、プロバイダ等に対して、投稿者の特定に資する情報の開示を求める制度です。現行法の中心は、いわゆる旧プロバイダ責任制限法を改正して名称変更された特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律、通称「情報流通プラットフォーム対処法」です。現行の法令名はe-Gov法令検索で確認できます。

匿名投稿の被害者にとって、投稿者の氏名・住所が分からなければ、内容証明郵便の送付、損害賠償請求訴訟、仮処分、示談交渉等を現実的に開始できません。他方、発信者情報は投稿者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密と密接に関わります。そのため、法は「被害者救済」と「発信者側の権利利益」の均衡を図るため、一定の要件を満たす場合に限って開示を認める構造を採っています。

1-2. 「発信者情報」とは何か

発信者情報とは、侵害情報の発信者を特定するために役立つ情報で、総務省令で定められたものをいいます。施行規則では、氏名・名称、住所、電話番号、電子メールアドレス、IPアドレス、ポート番号、タイムスタンプ、SIM識別番号、侵害関連通信に係る情報などが列挙されています。

一般の読者にとって分かりにくい点は、「発信者情報開示請求をすれば、最初から氏名・住所が出る」とは限らないことです。SNS、掲示板、口コミサイト等の運営者、すなわちコンテンツプロバイダは、投稿者の氏名・住所を把握していないことが少なくありません。その場合、まず開示される、又は裁判所手続で連携されるのは、投稿時又はログイン時のIPアドレス、ポート番号、タイムスタンプ等です。そこから、通信を媒介した経由プロバイダ、典型的にはインターネット接続事業者を特定し、その経由プロバイダが保有する契約者情報を開示させるという段階を踏みます。

1-3. 用語の整理 ― CP、AP、経由プロバイダ

実務では、次の略語が頻繁に使われます。

次の表は、CP、AP、発信者、申立人の役割を整理したものです。どの相手方にどの情報を求めるのかを理解するため、用語と典型例を対応させて確認してください。

用語意味典型例
CPコンテンツプロバイダ。投稿が掲載された場やサービスを運営する者SNS、掲示板、ブログ、口コミサイト、動画投稿サイト
APアクセスプロバイダ又は経由プロバイダ。投稿時の通信を媒介し、契約者情報を保有する可能性のある者携帯電話会社、光回線事業者、ISP、MVNO等
発信者侵害情報を投稿・送信した者匿名アカウントの投稿者、掲示板投稿者等
申立人・請求者開示を求める被害者側個人、法人、代理人弁護士等

東京地方裁判所の公開ページも、発信者情報開示命令事件について、SNS等を運営するコンテンツプロバイダにIPアドレスやログイン時IPアドレス等の開示を求めたり、アクセスプロバイダ等に氏名・住所等の開示を求めたりできる制度として説明しています。

Section 02

発信者情報開示請求が問題となる典型事案

重要な判断材料と注意点を整理します。

2-1. 名誉毀損・侮辱・信用毀損

最も典型的なのは、SNSや匿名掲示板における誹謗中傷です。例えば、犯罪歴がある、反社会的勢力と関係している、不倫している、詐欺をしている、商品が違法である、企業が不正会計をしている、といった投稿がなされた場合、名誉権、信用、営業上の利益等が問題になります。

ただし、単に「不快」「腹が立つ」というだけでは足りません。発信者情報開示請求では、法的に保護される権利が侵害されたことが明らかである必要があります。意見・論評、事実の摘示、公共性、公益目的、真実性・相当性、社会的評価の低下の有無などが問題となるため、投稿の違法性評価は弁護士による精査が必要です。

2-2. プライバシー侵害

住所、電話番号、勤務先、家族構成、病歴、性的指向、私生活上の写真、非公開の交際関係等が投稿された場合、プライバシー侵害が問題になります。プライバシー侵害では、公開された情報が私生活上の事実又はそれに準じる情報か、一般人の感受性を基準として公開を望まないものか、既に公知か、公開による利益があるかなどが検討されます。

2-3. 著作権・商標権・営業秘密・なりすまし

著作物の無断アップロード、画像・動画・文章の転載、商標を用いた偽アカウント、なりすましによる営業妨害、企業秘密の漏えいなどでも、発信者情報開示請求が検討されます。権利ごとに必要な証拠や主張構成が異なるため、知的財産法、IT法務、個人情報保護、企業危機管理の知見が必要になります。

Section 03

発信者情報開示請求が認められるための基本要件

重要な判断材料と注意点を整理します。

3-1. 権利侵害の明白性

情報流通プラットフォーム対処法5条は、発信者情報開示請求について、侵害情報の流通により請求者の権利が侵害されたことが明らかであることを要件としています。日本法令外国語訳DBに掲載されている条文でも、5条1項1号は、開示請求に係る侵害情報の流通によって請求者の権利が侵害されたことが明らかである場合を要件として示しています。

この「明らか」とは、単に請求者が権利侵害だと感じていることではありません。裁判所又はプロバイダが、投稿内容、文脈、証拠、反論可能性を踏まえて、権利侵害が認められると判断できる程度の明確性が必要です。名誉毀損であれば、対象者の同定可能性、社会的評価の低下、違法性阻却事由の有無が問題となります。プライバシー侵害であれば、公開された情報の性質、非公知性、公開の必要性等が問題となります。

3-2. 正当な理由

同じく5条は、開示される発信者情報が損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他、開示を受けるべき正当な理由がある場合を要件としています。

典型的な正当な理由は、投稿者に対して損害賠償請求、差止請求、削除請求、謝罪広告請求、刑事告訴等を行うために本人特定が必要であることです。逆に、単なる報復、晒し、私的制裁、嫌がらせ目的では、正当な理由とはいえません。開示を受けた者は、発信者情報をみだりに用いて、発信者の名誉又は生活の平穏を不当に害する行為をしてはならないとされています。

3-3. 相手方が情報を保有していること

開示請求は、相手方プロバイダが保有している情報を対象とします。サービス運営者がログを保存していない、投稿から長期間が経過してログが消去されている、IPアドレスが共有・変動していて特定に足りる情報がない、海外VPNやTorを経由している、といった場合には、制度上の要件以前に、技術的・実務的に特定が困難になることがあります。

3-4. 特定発信者情報の補充性

ログイン型SNSでは、投稿時のIPアドレスが保存されていない場合や、投稿時通信だけでは発信者を特定できない場合があります。このような場面で、アカウント作成時、ログイン時、ログアウト時、アカウント削除時等の通信に関する情報が問題となります。これが、いわゆる特定発信者情報です。

特定発信者情報は、投稿そのものの通信ではなく、投稿と関連する別の通信に関する情報であるため、通常の発信者情報よりも補充的な要件が課されます。法5条1項3号は、特定発信者情報以外の情報を保有していない場合、保有情報が一定の限定的情報のみである場合、又は既に開示を受けた通常の発信者情報では発信者を特定できない場合などを要件として定めています。

Section 04

発信者情報開示請求の三つの手続ルート

重要な判断材料と注意点を整理します。

発信者情報開示請求では、手続ルートの選択が期間と成功可能性に直結します。次の一覧は、任意請求、開示命令事件、従来型手続の違いを示します。どの手続が速いかだけでなく、ログ保存期限に間に合うかを読み取ってください。

任意請求

裁判外で開示を求める

費用と時間を抑えられる可能性はありますが、発信者不同意なら裁判所手続に移ることが多くなります。

開示命令

三つの命令を組み合わせる

開示命令、提供命令、消去禁止命令により、CPとAPを一体的に扱いやすくします。

従来型

仮処分と訴訟を使う

二段階になり時間はかかりやすい一方、事案によって適する場合があります。

Section 05

発信者情報開示請求のルートA ― 裁判外の任意開示請求

重要な判断材料と注意点を整理します。

任意開示請求とは、裁判所を使わず、プロバイダ等に対して直接、発信者情報開示請求書、本人確認資料、権利侵害を示す資料、対象URL、投稿内容、投稿日時等を提出し、発信者情報の開示を求める方法です。情報流通プラットフォーム対処法関連情報サイトでは、発信者情報開示関係ガイドラインや手引き、2025年5月以降の書式が公表されています。

任意請求のメリットは、裁判所手続に比べて費用と時間を抑えられる可能性があることです。もっとも、発信者情報はプライバシー・通信の秘密に関わるため、発信者本人の同意がない場合、プロバイダが任意で氏名・住所等を開示することは一般に慎重です。

法6条1項は、開示関係役務提供者が開示請求を受けたとき、発信者と連絡できない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示に応じるかどうかについて発信者の意見を聴かなければならないと定めています。 このため、任意請求をした場合でも、プロバイダから発信者に意見照会が行われ、発信者が不同意又は反論をしたときは、裁判所手続へ進むことが多くなります。

任意開示請求の期間目安

任意開示請求の期間は、プロバイダの受付体制、発信者への意見照会、請求資料の補正、発信者の回答の有無によって変わります。実務上は、数週間から1〜2か月程度で何らかの回答が得られることもありますが、開示が拒否されれば、結局は裁判所手続に移行します。したがって、ログ保存期限が迫っている場合、任意請求だけで時間を使い切るのは危険です。

Section 06

発信者情報開示請求のルートB ― 開示命令事件

重要な判断材料と注意点を整理します。

発信者情報開示請求では、手続ルートの選択が期間と成功可能性に直結します。次の一覧は、任意請求、開示命令事件、従来型手続の違いを示します。どの手続が速いかだけでなく、ログ保存期限に間に合うかを読み取ってください。

任意請求

裁判外で開示を求める

費用と時間を抑えられる可能性はありますが、発信者不同意なら裁判所手続に移ることが多くなります。

開示命令

三つの命令を組み合わせる

開示命令、提供命令、消去禁止命令により、CPとAPを一体的に扱いやすくします。

従来型

仮処分と訴訟を使う

二段階になり時間はかかりやすい一方、事案によって適する場合があります。

発信者情報開示命令事件は、2022年施行の改正により創設された、非訟事件としての新しい裁判手続です。裁判所は、権利を侵害されたとする者の申立てにより、開示関係役務提供者に対し、発信者情報の開示を命じることができます。法8条は、裁判所が決定で発信者情報の開示を命じることができる旨を定めています。

この手続の特徴は、従来、CPに対するIPアドレス開示とAPに対する氏名・住所開示で別々に進めていた手続を、より一体的に進められることです。情報流通プラットフォーム対処法ガイドライン等検討協議会の手引きは、従来手続では、CPからIPアドレス等の開示を受けた後、別途APに対して訴訟を提起する必要があり、同一投稿について別の裁判で2回の判断を経る必要があったと説明しています。これに対し、開示命令事件では、提供命令により、CPに対する開示命令の発令を待たずに経由プロバイダに対する申立てが可能となり、開示命令、提供命令、消去禁止命令を活用して円滑な発信者特定を図るとされています。

4-2-1. 開示命令

開示命令は、裁判所がプロバイダ等に対して発信者情報の開示を命じる決定です。申立人は、対象投稿、権利侵害の内容、開示を求める情報、相手方プロバイダ、証拠資料等を整理して申立書を提出します。

裁判所は、申立てが不適法である場合又は理由がないことが明らかな場合を除き、申立書の写しを相手方に送付しなければならず、決定をするにあたって当事者の陳述を聴く必要があります。 東京地方裁判所の案内でも、申立書副本が相手方に送付され、申立書以外の書面や証拠等は申立人から相手方に直送する運用が説明されています。

4-2-2. 提供命令

提供命令は、CPが保有するIPアドレス等を申立人に直接開示する前に、経由プロバイダを特定し、手続を進めるための重要な命令です。

法15条は、発信者を特定できなくなることを防止するため必要があると認めるとき、裁判所が、開示命令の相手方であるプロバイダに対して、他の開示関係役務提供者の氏名・名称・住所を申立人に提供すること、及び保有する発信者情報を当該他の開示関係役務提供者に提供することを命じることができると定めています。

重要なのは、提供命令では、IPアドレスやタイムスタンプ等が必ずしも申立人本人に開示されるわけではない点です。手引きは、CPが保有するIPアドレス等を、申立人には秘密にしたまま経由プロバイダに提供し、経由プロバイダが発信者の氏名・住所等を特定・保全できるようにする制度であると説明しています。

提供命令は、開示命令の本案に付随する保全的な命令です。手引きによれば、提供命令の審理では陳述聴取が必要的なものではなく、陳述を経ずに発令される場合があります。

4-2-3. 消去禁止命令

消去禁止命令は、開示命令事件又は異議の訴えが終了するまでの間、プロバイダが保有する発信者情報を消去してはならないと命じる制度です。法16条は、発信者を特定できなくなることを防止するため必要があると認めるとき、裁判所が発信者情報の消去禁止を命じることができると定めています。

通信ログの保存期間は限られているため、APに対する消去禁止命令は極めて重要です。開示命令事件は、単に最終的な開示判断を得るだけでなく、ログ消去を防ぎながら発信者特定を進める手続として理解する必要があります。

4-2-4. 異議の訴えと確定

発信者情報開示命令事件では、決定に不服がある当事者は、決定の告知を受けた日から1か月の不変期間内に異議の訴えを提起できます。法14条は、この期間内に異議の訴えが提起されない場合又は却下された場合、当該決定は確定判決と同一の効力を有すると定めています。

したがって、開示命令の決定が出たからといって、常に即日情報が開示されるとは限りません。相手方の対応、異議の有無、任意履行の有無、海外事業者の場合の送達・執行可能性などによって、実際の開示時期は変動します。

Section 07

発信者情報開示請求のルートC ― 従来型手続

重要な判断材料と注意点を整理します。

発信者情報開示命令事件が創設された後も、従来型の手続が消滅したわけではありません。従来型では、まずCPに対してIPアドレスやタイムスタンプの開示を求める仮処分を申し立て、開示されたIPアドレス等からAPを特定し、次にAPに対して氏名・住所等の開示を求める訴訟を提起します。

この手続は二段階であり、発信者情報開示命令事件より時間がかかる傾向があります。しかし、相手方の運用、強制執行可能性、海外事業者への対応、ログ保存期限、証拠の性質によっては、従来型又は混合型の方が適している場合もあります。

手引きも、自己の権利を侵害されたとする者は、発信者情報開示請求訴訟を提起することも、開示命令を申し立てることも選択できるが、同一投稿について訴訟と開示命令を同時に行うことはできないと考えられると説明しています。

Section 08

発信者情報開示請求の具体的な流れ

重要な判断材料と注意点を整理します。

開示請求は、証拠保全、法的評価、相手方特定、申立て、開示後対応を順番に管理する必要があります。次の時系列は、投稿発見から開示後までの進行を示します。上から順に読むと、どの段階で遅れるとログ保存期限を圧迫するかが分かります。

初動

投稿の証拠保全

本文、URL、日時、アカウント、画像・動画、前後文脈、被害状況を保存します。

申立て

CPからAPへつなぐ

開示命令と提供命令を使い、経由プロバイダ特定と情報連携を進めます。

開示後

損害賠償・削除・刑事告訴

開示された情報を適正に扱い、目的に応じた法的措置を検討します。

5-1. 初動 ― 証拠保全

最初に行うべきことは、投稿の証拠保全です。投稿が削除されたり、アカウント名が変更されたり、URL構造が変わったりすると、後から対象投稿を特定することが難しくなります。

保存が重要な情報は、少なくとも次のとおりです。

次の表は、初動で保存すべき情報と注意点を整理したものです。証拠の不足は期間を圧迫するため、URL、日時、前後文脈のそろい方を確認してください。

保存対象実務上の注意点
投稿本文前後の文脈、返信、引用、スレッド全体も保存する
URLブラウザのアドレス欄が分かる形で保存する
投稿日時表示上の日時だけでなく、タイムゾーンにも注意する
アカウント名・ID表示名だけでなく、ユーザーIDやプロフィールURLも保存する
画像・動画サムネイルではなく実際の投稿画面、可能なら動画キャプチャも保存する
権利侵害の根拠どの表現が、どの権利を、なぜ侵害するかをメモする
被害状況閲覧数、拡散状況、問い合わせ、取引停止、精神的苦痛等の資料を残す

スクリーンショットは有用ですが、スクリーンショットだけではURLや投稿日時が不明確な場合があります。PC画面全体、URL欄、日時表示、投稿者プロフィール、前後投稿を含めて保存するのが望ましいです。企業案件では、社内で一次保存した日時、保存者、保存方法を記録し、証拠改ざんの疑いを避けるため、保存手順を統一しておくべきです。

5-2. 法的評価 ― 本当に開示請求に進むべきか

証拠を保存した後、投稿内容が法的に権利侵害といえるかを検討します。ここで重要なのは、削除請求、発信者情報開示請求、損害賠償請求、刑事告訴は、それぞれ目的と要件が異なるという点です。

発信者情報開示請求は「誰が投稿したか」を特定する手続です。投稿の削除そのものを求める手続ではありません。東京地方裁判所も、発信者情報開示命令事件において投稿記事の削除を求めることはできず、削除を求める場合には保全命令の申立て等によると説明しています。

したがって、被害者側は、削除を優先するのか、投稿者特定を優先するのか、損害賠償まで進むのか、刑事告訴も視野に入れるのかを、初期段階で整理する必要があります。削除を先行すると、証拠が失われる場合があります。他方、削除を遅らせると被害が拡大する場合があります。ここは事件ごとの戦略判断です。

5-3. 相手方の特定 ― どのプロバイダに請求するか

次に、請求先を特定します。投稿がSNSや掲示板にある場合、第一段階の相手方は通常CPです。CPがIPアドレス等を保有していれば、それをもとにAPを特定します。

IPアドレスからAPを特定する際には、WHOISやRDAP等のデータベース、JPNIC等の情報、法人番号、登記情報等を確認します。手引きも、CPが送信元IPアドレスを保有している場合、WHOIS・RDAPなどのプロトコルや検索ツールを用いて経由プロバイダの氏名・名称を特定することが想定されるとしています。

ただし、IPアドレスだけで直ちに最終的な契約者が分かるわけではありません。MVNO、ケーブルテレビ、法人回線、Wi-Fi、学校・会社・店舗の共用回線、VPN、海外事業者などでは、さらに別の事業者や利用者管理者をたどる必要が生じることがあります。

5-4. 申立書・請求書の作成

裁判所手続では、申立書に次の事項を整理します。

次の表は、初動で保存すべき情報と注意点を整理したものです。証拠の不足は期間を圧迫するため、URL、日時、前後文脈のそろい方を確認してください。

項目内容
当事者申立人、相手方プロバイダ、代理人
対象投稿URL、投稿日時、投稿内容、アカウント情報
侵害された権利名誉権、プライバシー、著作権、信用等
権利侵害の明白性投稿の意味内容、対象者の特定、違法性阻却事由がないこと
開示を求める情報IPアドレス、タイムスタンプ、氏名・住所、メールアドレス等
正当な理由損害賠償請求、削除・差止、刑事告訴等の予定
保全の必要性ログ保存期限、消去のおそれ、迅速な特定の必要性
証拠スクリーンショット、URL、登記事項、本人確認、被害資料等

東京地方裁判所は、発信者情報開示命令申立てのチェックリスト、申立書、記載例、発信者情報目録記載例、主文目録記載例等を公開しています。

5-5. CPに対する開示命令・提供命令の申立て

典型的な発信者情報開示命令事件では、まずCPを相手方として、開示命令の申立てと提供命令の申立てを行います。提供命令が認められると、CPは、保有するログを調査し、経由プロバイダを特定できる場合には、経由プロバイダの名称・住所を申立人に提供します。同時に、IPアドレスやタイムスタンプ等の発信者情報を、申立人には秘匿したまま経由プロバイダに提供する仕組みが機能します。

5-6. APに対する開示命令・消去禁止命令の申立て

CPから経由プロバイダの名称・住所が提供されたら、申立人はAPに対して開示命令の申立てを行います。ログ消去を防ぐため、消去禁止命令も併せて申し立てることが多いです。

ここで重要なのは、提供命令により他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた申立人が、提供を受けた日から2か月以内に、提供命令を受けたプロバイダに対してAPへの開示命令申立てをした旨の通知をしなかった場合、提供命令が効力を失うと定められている点です。 実務上は、AP情報を受け取った後の申立てと通知の管理が重要です。

5-7. 意見照会と審理

プロバイダは、開示請求を受けると、原則として発信者に対して意見照会を行います。発信者が「開示に同意する」と回答すれば、裁判所の最終判断を待たずに開示が進む場合があります。しかし、発信者が不同意又は反論をした場合、権利侵害の有無、表現の違法性、投稿者本人性、情報の保有、正当な理由等が争点になります。

開示命令の決定にあたり、裁判所は当事者の陳述を聴く必要があります。 そのため、申立人側は、単に「ひどい投稿だ」と述べるのではなく、法律要件に沿って、投稿の意味内容、権利侵害、違法性阻却事由の不存在、開示の必要性を主張立証する必要があります。

5-8. 決定・異議・開示

裁判所が開示を認める決定を出した場合、相手方が任意に開示することがあります。もっとも、決定に不服がある当事者は、告知を受けた日から1か月以内に異議の訴えを提起できます。 異議が出されると、訴訟手続に移行し、期間は長期化します。

異議が出されず決定が確定した場合、又は異議の訴えで開示を命じる判断が維持された場合、プロバイダから発信者情報が開示されます。開示後は、投稿者に対する損害賠償請求、示談交渉、削除請求、刑事告訴等を検討する段階に移ります。

Section 09

発信者情報開示請求の期間とログ保存期限

重要な判断材料と注意点を整理します。

6-1. 法律に固定期間はない

発信者情報開示請求の具体的な手続きと期間を考える際、まず確認すべきなのは、法律上「何日以内に必ず開示される」という固定期間がないことです。裁判所、プロバイダ、発信者、海外事業者、ログ保存、証拠補正、異議の有無によって、期間は大きく変わります。

東京地方裁判所も、発信者情報開示命令事件の性質上、事案等に応じて手続進行が区々になるため、申立て時に一定の郵便切手の予納を受けるのではなく、必要な手続段階で所要額を予納してもらう取扱いであると説明しています。

6-2. 実務上の期間目安

以下は、一般的な実務目安です。個別事件では大きく前後します。

次の表は、投稿発見後の推奨スケジュールです。左列の時期と右列の行動を対応させ、ログ保存期限から逆算して何を急ぐべきかを読み取ってください。

手続ルート主な流れ期間の目安長期化要因
任意開示請求請求書送付、意見照会、任意回答数週間〜2か月程度発信者不同意、資料不足、プロバイダの慎重対応
発信者情報開示命令事件CP申立て、提供命令、AP申立て、消去禁止、開示命令2〜6か月程度が一応の目安海外事業者、補正、発信者反論、異議の訴え、ログ調査難
従来型手続CP仮処分、IP開示、AP訴訟、判決・開示6か月〜1年以上二段階手続、AP訴訟、送達、控訴、ログ保全の遅れ
複雑事件VPN、海外、法人・学校・共有回線、複数投稿6か月〜1年以上管轄、送達、翻訳、多段階照会、特定不能リスク

期間目安で最も誤解されやすいのは、「発信者情報開示命令事件なら必ず短期間で終わる」という考えです。確かに制度上は従来より一体的な審理が可能ですが、投稿媒体が対応しない、APのログが消えている、発信者が争う、異議の訴えが提起される、海外法人への送達が必要になるといった事情があれば長期化します。

6-3. 最重要のタイムリミットはログ保存期間

開示請求の期間を考える際、裁判所の審理期間よりも先に意識したいのは、通信ログの保存期間です。

個人情報保護委員会・総務省の電気通信事業分野ガイドライン解説の改正資料では、CPについて、アカウント情報、ログイン情報、投稿情報等の通信履歴を必要な範囲で保存することが考えられ、その保存期間は少なくとも3〜6か月程度が社会的期待に応える望ましい対応とされています。また、APについても、接続認証ログの通信履歴について少なくとも3〜6か月程度が望ましい目安とされています。

これは「すべてのプロバイダが必ず6か月保存している」という意味ではありません。事業者、ログの種類、サービス設計、保存方針、通信の種類によって異なります。短い場合もあり、長い場合もあります。したがって、被害を発見したら、原則として数日から数週間以内に証拠保全と弁護士相談を開始することが望ましいといえます。

6-4. 投稿発見からの推奨スケジュール

次の表は、投稿発見後の推奨スケジュールです。左列の時期と右列の行動を対応させ、ログ保存期限から逆算して何を急ぐべきかを読み取ってください。

時期行うべきこと
発見当日投稿、URL、日時、アカウント、前後文脈を保存。社内・家族内で不用意に反応しない
1〜3日以内被害内容を整理。削除優先か、特定優先か、損害賠償まで行うか方針検討
1週間以内弁護士に相談。証拠、URL、投稿一覧、被害資料、本人確認資料を準備
2週間以内任意請求、開示命令、仮処分等の手続選択。ログ保存期限を逆算
1か月以内CPへの申立て又は請求を実行。必要に応じて提供命令を活用
AP判明後速やかにAPへの開示命令・消去禁止命令を申し立てる。提供命令後の通知期限も管理
開示後損害賠償請求、示談交渉、刑事告訴、再発防止、削除・検索結果対策を検討
Section 10

発信者情報開示請求の費用と裁判所手数料

重要な判断材料と注意点を整理します。

7-1. 裁判所に納める費用

東京地方裁判所は、開示命令事件の申立て、提供命令の申立て、消去禁止命令の申立てごとに、それぞれ1申立てにつき1000円の申立手数料を納付する必要があると説明しています。また、申立人又は相手方が複数の場合には人数分の収入印紙が必要です。

郵便料等については、発信者情報開示命令申立事件の申立て時に、相手方の数に応じたレターパックライトを予納する取扱いが示されています。

7-2. 弁護士費用

弁護士費用は、事務所、事件の難易度、投稿数、相手方プロバイダ数、海外事業者の有無、削除請求や損害賠償請求を併せるかによって変わります。一般に、着手金、実費、報酬金、翻訳費用、登記・調査費用、強制執行費用等が問題になります。

弁護士に相談する際は、次の点を確認するとよいでしょう。

次の表は、この章の内容を項目ごとに整理したものです。左列と右列を対応させ、手続選択、証拠、期限、費用のどこに影響するかを確認してください。

確認項目質問例
手続選択任意請求、開示命令、仮処分、訴訟のどれを選ぶべきか
期間見通しログ保存期限から見て間に合うか
投稿数複数投稿を一括で扱えるか、投稿ごとに費用が増えるか
相手方CPとAPの双方が必要か、海外事業者か
成功可能性権利侵害の明白性にどの程度の見込みがあるか
開示後対応損害賠償請求、示談、刑事告訴まで対応可能か
総額見込み裁判所費用、実費、報酬、追加費用を含めた概算
Section 11

弁護士に相談する前に準備する資料

重要な判断材料と注意点を整理します。

発信者情報開示請求は時間との戦いです。相談時に資料が不足していると、証拠補正、URL確認、対象投稿の再特定に時間を要し、ログ保存期限を圧迫します。

8-1. 個人の場合

次の表は、この章の内容を項目ごとに整理したものです。左列と右列を対応させ、手続選択、証拠、期限、費用のどこに影響するかを確認してください。

資料内容
投稿の証拠スクリーンショット、URL、投稿日時、前後文脈
被害者本人を特定できる資料本人確認書類、プロフィール、投稿が自分を指す根拠
被害資料仕事・学校・家族・取引への影響、精神的苦痛、問い合わせ履歴
投稿者との関係心当たり、過去のトラブル、DM、メール、通話記録
希望する対応削除、特定、損害賠償、謝罪、刑事告訴の優先順位

8-2. 法人・店舗・団体の場合

次の表は、この章の内容を項目ごとに整理したものです。左列と右列を対応させ、手続選択、証拠、期限、費用のどこに影響するかを確認してください。

資料内容
登記事項・基本情報会社名、所在地、代表者、店舗名、商号、商標
投稿の証拠URL、投稿日時、アカウント、拡散状況
権利侵害の根拠虚偽である資料、取引先説明、商品資料、社内調査結果
損害資料売上低下、予約キャンセル、問い合わせ、信用低下、採用への影響
社内体制担当部署、決裁者、広報方針、削除要否、プレス対応
関連投稿一覧同一人物による可能性、複数媒体、時系列

8-3. 相談時に伝えるべきこと

弁護士には、不利な事実も含めて早期に伝えるべきです。例えば、投稿内容の一部が真実である、過去に公開された情報である、こちらにも挑発的な発言がある、既に削除依頼をして投稿が消えた、投稿者候補に心当たりがある、示談交渉を始めている、などです。

権利侵害の明白性は、投稿の一部だけでなく、前後の文脈や相互のやり取りも踏まえて判断されます。不利な情報を伏せると、裁判所や相手方から指摘された際に手続全体の信用性が損なわれるおそれがあります。

Section 12

発信者側に意見照会書が届いた場合

重要な判断材料と注意点を整理します。

このページの主たる読者は被害者側ですが、発信者側に意見照会書が届く場面も理解しておく必要があります。

プロバイダは、開示請求を受けた場合、原則として発信者に意見を聴く必要があります。 発信者は、開示に同意するか、不同意とするか、不同意の場合には理由を記載して回答します。

発信者側で注意される点は、次のとおりです。

次の表は、この章の内容を項目ごとに整理したものです。左列と右列を対応させ、手続選択、証拠、期限、費用のどこに影響するかを確認してください。

対応注意点
無視反論機会を失い、プロバイダや裁判所に不利に受け取られる可能性がある
安易な同意氏名・住所が開示され、損害賠償請求や刑事告訴につながる可能性がある
感情的反論法的争点から外れ、かえって不利になる可能性がある
弁護士相談投稿内容、真実性、意見論評、公益性、対象者同定可能性等を整理できる

発信者側も、投稿が違法かどうか、開示に応じるべきかどうかは専門的判断が必要です。意見照会書の期限は短いことがあるため、受領後すぐに相談することが望まれます。

Section 13

発信者情報開示後にできる対応

重要な判断材料と注意点を整理します。

10-1. 損害賠償請求

発信者の氏名・住所が判明した後、内容証明郵便等で損害賠償請求を行い、示談交渉を進めることがあります。慰謝料、調査費用、弁護士費用相当額、営業損害等が問題になりますが、認められる範囲は事案によって異なります。

10-2. 削除・差止・再発防止

開示後、発信者に対し、投稿削除、再投稿禁止、謝罪、訂正、秘密保持、違約金条項等を含む合意を求めることがあります。すでに投稿が削除されていても、再投稿や別媒体での拡散を防ぐため、合意書を作成することがあります。

10-3. 刑事告訴

名誉毀損罪、侮辱罪、信用毀損罪、業務妨害罪、著作権法違反等が問題となる場合、刑事告訴を検討することがあります。ただし、刑事事件として成立するか、警察が受理するか、証拠が十分か、親告罪の告訴期間や公訴時効に問題がないかは、別途確認が必要です。

10-4. 開示情報の取扱い

開示を受けた発信者情報は、法的措置に必要な範囲で利用する必要があるとされています。法7条は、開示を受けた者が発信者情報をみだりに用いて、発信者の名誉又は生活の平穏を不当に害する行為をしてはならないと定めています。

したがって、開示された氏名・住所をSNSに晒す、勤務先に無関係な連絡をする、家族に圧力をかける、私的制裁を呼びかけるといった行為は避けなければなりません。被害者であっても、開示情報の不適切利用により法的責任を問われる可能性があります。

Section 14

発信者情報開示請求で失敗しやすいポイント

重要な判断材料と注意点を整理します。

発信者情報開示請求では、早さだけでなく対象投稿と権利侵害の説明の正確さが重要です。次の一覧は、失敗しやすいポイントをまとめたものです。各項目から、申立て前に補うべき資料と説明を読み取ってください。

証拠が不十分

URL、投稿日時、前後文脈、アカウントIDが欠けると対象投稿の特定に支障が出ます。

主張が抽象的

どの文言が、どの権利を、どのように侵害したかを法的に説明する必要があります。

任意請求に時間を使いすぎる

発信者不同意や慎重対応で時間が過ぎると、ログ保存期限に間に合わなくなることがあります。

削除を急ぎすぎる

削除後にURLや投稿内容を証明できなくなる場合があるため、証拠保全が先になります。

11-1. 証拠が不十分

URLがない、投稿日時が分からない、スクリーンショットが一部だけ、前後文脈がない、投稿が削除済み、アカウント名だけでIDがない、といった場合、対象投稿の特定に支障が出ます。

11-2. 権利侵害の主張が抽象的

「傷ついた」「不快だ」「許せない」という感情は重要ですが、開示請求では、どの文言が、どの権利を、どのように侵害したかを法的に説明する必要があります。名誉毀損であれば、社会的評価を低下させる事実摘示又は意見論評か、対象者が特定されるか、真実性・公益性の反論があり得るかを検討します。

11-3. 任意請求に時間を使いすぎる

任意請求は有効な場合もありますが、発信者不同意の場合やプロバイダが慎重な場合、開示されないまま時間が経過します。ログ保存期間が迫っている場合は、最初から裁判所手続を選択する判断が必要です。

11-4. 削除を急ぎすぎて証拠を失う

削除は被害拡大を防ぐために重要ですが、削除後にURLや投稿内容を証明できなくなる場合があります。削除請求の前に証拠保全を徹底する必要があります。

11-5. 海外・VPN・共有回線を過小評価する

海外SNS、VPN、Tor、会社・学校・店舗の共用回線、漫画喫茶、ホテルWi-Fi等では、発信者特定が難しくなることがあります。APまでは特定できても、最終利用者の特定には追加資料や別手続が必要になる場合があります。

Section 15

2025年施行の情報流通プラットフォーム対処法との関係

重要な判断材料と注意点を整理します。

2025年4月1日に施行された改正により、旧プロバイダ責任制限法は「情報流通プラットフォーム対処法」として再編されました。情報流通プラットフォーム対処法関連情報サイトは、改正法が令和6年5月17日に公布され、令和7年4月1日に施行したこと、また2025年5月13日に新しいガイドラインが公表されたことを案内しています。

この改正は、大規模特定電気通信役務提供者に対する削除対応の迅速化・透明化等が大きな柱です。他方、発信者情報開示請求そのものは、2022年施行の発信者情報開示命令事件の枠組みが引き続き中心です。したがって、2025年改正を理解する際は、削除手続の透明化と、発信者情報開示手続を混同しないことが重要です。

Section 16

発信者情報開示請求で弁護士を選ぶ視点

重要な判断材料と注意点を整理します。

発信者情報開示請求は、民事訴訟、保全、非訟事件、IT技術、通信ログ、名誉毀損法理、プライバシー、著作権、プロバイダ対応、広報リスクが交差する分野です。弁護士を探す読者は、次の点を確認するとよいでしょう。

次の表は、この章の内容を項目ごとに整理したものです。左列と右列を対応させ、手続選択、証拠、期限、費用のどこに影響するかを確認してください。

観点確認ポイント
開示請求の経験発信者情報開示命令、提供命令、消去禁止命令の実務経験があるか
対応媒体X、Instagram、YouTube、TikTok、掲示板、口コミサイト等への対応経験
期間判断ログ保存期限から逆算した手続選択ができるか
証拠評価名誉毀損、プライバシー、著作権等の法的評価を具体的に示せるか
開示後対応損害賠償、示談、刑事告訴、削除、再発防止まで対応できるか
説明力成功可能性だけでなく、失敗リスク、費用、期間を明確に説明するか
広報配慮企業・店舗案件で炎上対応や対外発信との整合性を考慮できるか

「必ず特定できる」「すぐ開示される」「絶対勝てる」と断定する説明には注意が必要です。発信者情報開示請求は、ログ保存、投稿内容、相手方の保有情報、裁判所判断に依存するため、専門家であっても一定の不確実性があります。信頼できる専門家は、見込みとリスクを分けて説明します。

Section 17

発信者情報開示請求のFAQ

一般情報として回答します。

Q1. 発信者情報開示請求は、弁護士なしで進める方法がありますか。

一般的には、本人申立てが制度上ただちに排除されるわけではないとされています。ただし、権利侵害の明白性、申立書、発信者情報目録、主文、証拠、管轄、提供命令、消去禁止命令、APへの通知期限など、専門的な判断が多く含まれます。ログ保存期限も関係するため、具体的な進め方は弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q2. 投稿が削除されている場合でも、開示請求の対象になりますか。

一般的には、削除前に対象投稿のURL、投稿日時、内容、アカウント、権利侵害の内容などが十分に保存されていれば、開示請求が検討されることがあります。ただし、証拠が不足している場合や投稿を特定できない場合は難しくなる可能性があります。具体的な見通しは、保存資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q3. 開示請求をすると相手に知られることがありますか。

一般的には、プロバイダが発信者に意見照会を行う場面があるため、開示請求の存在が発信者に知られる可能性があります。ただし、提供命令では、IPアドレス等が申立人へ直接知らされず、プロバイダ間で提供される仕組みもあります。どの段階でどの情報が動くかは手続の選択や相手方によって変わるため、弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q4. 発信者情報開示命令で投稿削除も同時に求められますか。

一般的には、発信者情報開示命令事件は投稿者特定のための手続であり、投稿削除そのものを求める手続ではないとされています。削除を求める場合は、別の保全手続や削除請求が問題になることがあります。具体的にどの手続を組み合わせるかは、投稿内容、緊急性、証拠状況によって変わるため、弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q5. どのくらい急いで準備する必要がありますか。

一般的には、通信ログの保存期間が限られているため、早期の証拠保全と手続準備が重要とされています。CP・APの通信履歴保存期間について、少なくとも3〜6か月程度が望ましい目安とされることがありますが、全事業者が必ずその期間保存する保証ではありません。具体的な期限感は、媒体やプロバイダ、投稿時期によって変わるため、弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q6. 発信者が海外VPNを使っていた場合も特定の可能性はありますか。

一般的には、海外VPNが関係する場合でも一律に特定が不可能になるとは限らないとされています。ただし、VPN事業者、海外事業者、ログ保存、現地法、任意協力、送達、翻訳などの問題により、難易度、費用、期間が大きく変わる可能性があります。具体的な見通しは、通信経路や相手方を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q7. 複数投稿をまとめて開示請求する場面はありますか。

一般的には、同一媒体、同一アカウント、同一権利侵害、同一相手方など、関連性が高い投稿は一括整理が検討されることがあります。ただし、投稿ごとにURL、日時、権利侵害の内容、開示を求める情報を特定する必要があります。投稿数が多い場合の整理方法は、証拠関係を踏まえて弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Section 18

発信者情報開示請求の具体的な手続きと期間のまとめ

重要な判断材料と注意点を整理します。

発信者情報開示請求の具体的な手続きと期間を正確に理解するためには、次の五つの視点が不可欠です。

第一に、発信者情報開示請求は、匿名投稿者を特定するための制度であり、投稿削除手続そのものではありません。

第二に、開示が認められるには、権利侵害の明白性、正当な理由、相手方による情報保有、特定発信者情報の場合の補充性など、法律上の要件を満たす必要があります。

第三に、現在の中心的手続は、発信者情報開示命令、提供命令、消去禁止命令を組み合わせる発信者情報開示命令事件です。これにより、従来より一体的・迅速な発信者特定が可能になりましたが、万能ではありません。

第四に、期間を左右する最大要因は通信ログの保存期間です。3〜6か月程度が望ましい目安として示されているとしても、実際の保存期間は事業者やログ種別により異なります。投稿発見後は、数日から数週間単位で証拠保全と相談を進める重要性が高いとされています。

第五に、開示後の対応、すなわち損害賠償請求、示談、削除、再発防止、刑事告訴、開示情報の適正管理までを見据えて、初期段階から戦略を組み立てる必要があります。

発信者情報開示請求は、被害回復の出発点であると同時に、発信者の権利利益にも強く関わる手続です。感情的な対抗措置ではなく、証拠、法的要件、期間管理、技術的制約、開示後の目的を整理したうえで、専門家と連携して進めることが重要です。

Reference

参考資料

出典名のみを掲載します。

公的資料・法令

  • e-Gov法令検索「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」
  • 東京地方裁判所「発信者情報開示命令申立て」
  • 情報流通プラットフォーム対処法関連情報サイト「発信者情報開示請求」
  • 日本法令外国語訳DB「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」
  • 日本法令外国語訳DB「同法施行規則」
  • 情報流通プラットフォーム対処法ガイドライン等検討協議会「発信者情報開示命令事件に関する対応手引き」
  • 個人情報保護委員会・総務省「電気通信事業における個人情報等の保護に関するガイドラインの解説」
  • 情報流通プラットフォーム対処法関連情報サイト「重要なお知らせ」

手続・書式に関する資料

  • 東京地方裁判所「申立書、記載例、発信者情報目録記載例、主文目録記載例」
  • 東京地方裁判所「申立て後の手続に関する説明」
  • 東京地方裁判所「発信者情報開示命令事件に関するFAQ」
  • 情報流通プラットフォーム対処法関連情報サイト「発信者情報開示関係ガイドライン、手引き、書式」