脳・心臓疾患と精神障害では、見るべき認定基準、評価期間、証拠が異なります。遺族給付、葬祭料等、時効、不支給決定後の対応まで、請求準備の全体像を整理します。
脳・心臓疾患と精神障害では、見るべき認定基準、評価期間、証拠が異なります。
残業時間だけではなく、医学的事実、業務実態、行政上の判断を分けて整理することが出発点です。
過労死や過労自殺の労災認定は、単に残業時間が多いか少ないかだけで決まるものではありません。死亡または発症と業務との関係について、認定基準、診療記録、労働時間資料、職場の出来事、業務外要因、本人の既往歴などを総合して判断します。
脳・心臓疾患では、発症前おおむね6か月間の長期間の過重業務、発症前おおむね1週間の短期間の過重業務、発症直前から前日までの異常な出来事が中心です。精神障害による過労自殺では、原則として発病前おおむね6か月間に、業務による強い心理的負荷があったかを確認します。
現在進行形で本人に自傷・自殺のおそれがある場合は、労災手続や証拠収集よりも、119番、110番、救急医療、地域の精神保健福祉センター、勤務先の産業医・相談窓口などによる安全確保が一般に優先される対応とされています。
次の重要ポイントは、このページ全体で扱う判断の軸をまとめたものです。先に結論を押さえることで、後続の表や手順から、どの資料を集め、どの期限を管理すべきかを読み取りやすくなります。
遺族が最初に整理すべきなのは、会社に責任を認めさせる交渉ではなく、労働基準監督署への労災保険給付請求に必要な事実と証拠です。事業主証明が得られない場合でも、請求自体を検討できる場合があります。
次の比較表は、労災認定で分けて考える三つの層を示しています。医学、勤務実態、行政判断のどこに資料不足があるかを見極めることが重要で、各列から準備すべき資料の方向性を読み取れます。
| 層 | 内容 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 医学的事実 | 疾病名、発症時期、死亡原因、既往症、治療経過 | 対象疾病に該当するか、発症日をどこに置くかを確認します。 |
| 業務実態 | 労働時間、拘束時間、休日、深夜勤務、出張、責任、トラブル、ハラスメント | 業務による過重負荷・心理的負荷の強さを検討します。 |
| 法的・行政的判断 | 認定基準への当てはめ、業務起因性、給付対象者、時効、不服申立て | 労災保険給付の支給・不支給に関わる論点を整理します。 |
次の一覧は、死亡事案で特に誤解が生じやすい入口の論点を整理しています。類型ごとに評価期間や中心資料が異なるため、自分の事案がどの入口に近いかを読み取ることが大切です。
発症前おおむね6か月の時間外労働、連続勤務、深夜勤務、出張、精神的緊張などを総合して確認します。
発病前おおむね6か月の出来事、ハラスメント、仕事量の急増、長時間労働、支援不足などを時系列で整理します。
遺族給付は死亡日の翌日から5年、葬祭料等は2年が時効の基本です。早期の証拠保全が重要です。
過労死等、労災認定、業務起因性、過労死ラインを、請求準備に使える形で確認します。
このページで扱うのは、民間企業などで働く労働者について、業務上の過重な負荷や強い心理的負荷により、脳血管疾患、心臓疾患、精神障害が発症し、死亡または自殺に至った場合の労災認定と遺族による請求手続です。
国家公務員・地方公務員は、一般の労災保険とは別に公務災害補償制度が問題になります。人事院、地方公務員災害補償基金、各任命権者の制度運用を別途確認する必要があります。
次の一覧は、過労死等の類型と典型的な争点を並べたものです。疾病や結果によって必要な証拠が変わるため、どの類型に近いか、どの争点を先に確認するかを読み取ることが重要です。
| 類型 | 主な疾病・結果 | 典型的な争点 |
|---|---|---|
| 脳・心臓疾患型の過労死 | 脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、心筋梗塞、心停止、大動脈解離など | 発症前6か月の長時間労働、連続勤務、深夜勤務、出張、拘束時間、基礎疾患との関係 |
| 精神障害型の過労自殺 | うつ病、適応障害、急性ストレス反応などの発病後の自殺 | 業務による心理的負荷、ハラスメント、仕事量の急増、極度の長時間労働、業務外要因 |
| 生存事案 | 脳・心臓疾患または精神障害により療養・休業・障害が生じた場合 | 療養補償、休業補償、障害補償、再発・悪化の扱い |
次の重要語は、請求書や調査で繰り返し出てくる概念です。用語の違いを押さえると、労災保険給付の話と、会社への損害賠償請求の話を混同せずに読めます。
労働基準監督署長が、疾病・死亡等が業務上の事由、通勤、または対象外のどれに当たるかを判断する手続です。
疾病・死亡と業務との間に、労災保険法上の補償を認めるだけの関係があるかを意味します。
労災保険は使用者の故意・過失を直接の要件としません。慰謝料や逸失利益の請求では、安全配慮義務違反などが別に問題になります。
次の表は、一般に過労死ラインと呼ばれる時間外労働の目安を整理しています。数字は重要ですが機械的な境界ではないため、時間だけでなく、連続勤務や深夜勤務などの周辺事情も併せて読む必要があります。
| 目安 | 評価の意味 | 注意点 |
|---|---|---|
| 1か月おおむね45時間以下 | 脳・心臓疾患では、業務と発症との関連性が弱い方向に評価されやすい目安です。 | 労働時間以外の強い負荷がないかを別途確認します。 |
| 45時間を超えて増加 | 時間外労働が長くなるほど、関連性が徐々に強まるとされています。 | 拘束時間、勤務間インターバル、深夜勤務などを合わせて確認します。 |
| 1か月おおむね100時間 | 発症前1か月にこの水準を超える場合、関連性が強いと評価できる目安です。 | 給与計算上の残業時間ではなく、実際の労働時間を検討します。 |
| 2か月から6か月で平均おおむね80時間 | 長期間の疲労蓄積を示す重要な目安です。 | 80時間未満なら常に対象外という意味ではありません。 |
令和6年度の公表値を確認し、請求件数と支給決定件数の差から、証拠整理の重要性を読み取ります。
厚生労働省が公表した令和6年度の過労死等に関する労災補償状況では、過労死等に関する請求件数は4,810件、決定件数は4,312件、支給決定件数は1,304件、うち死亡・自殺未遂を含む件数は159件とされています。
次の縦方向の比較グラフは、令和6年度の過労死等全体の件数を、請求、決定、支給決定、死亡・自殺未遂を含む支給決定の順に示しています。高さは件数の大きさを表し、請求から支給決定までに差があることを読み取るために重要です。
次の表は、脳・心臓疾患と精神障害を分けて請求件数と支給決定件数を整理したものです。どちらの類型でも請求と支給決定の間に開きがあるため、認定基準に沿った事実整理が必要であることが読み取れます。
| 区分 | 請求件数 | 支給決定件数 | 死亡・自殺未遂を含む件数 |
|---|---|---|---|
| 過労死等全体 | 4,810件 | 1,304件 | 159件 |
| 脳・心臓疾患 | 1,030件 | 241件 | 死亡67件 |
| 精神障害 | 3,780件 | 1,055件 | 自殺未遂を含む88件 |
この統計から、過労死・過労自殺の労災請求は例外的な問題ではなく、継続して発生している重大な労働災害であることが分かります。一方で、請求件数と支給決定件数には大きな差があるため、どの事実を、どの証拠で、どの認定基準に沿って示すかが極めて重要です。
対象疾病、三つの認定要件、時間外労働、労働時間以外の負荷要因を順に確認します。
脳・心臓疾患の認定基準が対象とする疾病は、脳血管疾患と虚血性心疾患等です。死亡診断書に「心不全」とだけ記載されている場合でも、認定基準上の対象疾病に当たるか、救急搬送記録や診療録から発症時期を確認する必要があります。
次の表は、脳・心臓疾患の主な対象疾病をまとめたものです。疾病名によって発症時期や医学的資料の見方が変わるため、死亡原因欄だけでなく、検査結果や搬送記録まで確認する必要があることを読み取れます。
| 分類 | 対象疾病の例 | 確認したい資料 |
|---|---|---|
| 脳血管疾患 | 脳内出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症 | 診療録、画像検査、救急搬送記録、健康診断結果 |
| 虚血性心疾患等 | 心筋梗塞、狭心症、心停止、重篤な心不全、大動脈解離 | 死亡診断書、心電図、検査結果、既往歴、搬送時記録 |
次の三つの項目は、脳・心臓疾患でどの評価期間を見るかを示しています。直前だけでなく6か月程度の疲労蓄積も重要になるため、時系列で資料を集める範囲を読み取ることが大切です。
著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務があったかを確認します。
発症に近接した時期の特に過重な業務、徹夜勤務、重大対応などを確認します。
極度の緊張、恐怖、驚愕、急激な身体的負荷、著しい作業環境変化などを確認します。
次の横棒グラフは、脳・心臓疾患で特に意識される時間外労働の水準を比較しています。棒の長さは時間数の大きさを表し、45時間、80時間、100時間の位置づけを読み取るために重要です。
次の表は、80時間・100時間に届かない場合でも評価され得る負荷要因を整理しています。証拠例の列から、勤怠表だけでは見えない拘束や緊張をどう補うかを読み取ることが重要です。
| 負荷要因 | 具体例 | 証拠例 |
|---|---|---|
| 拘束時間の長い勤務 | 実労働時間は短くても始業から終業まで長時間拘束される | シフト表、運行記録、宿直日誌、業務日報 |
| 休日のない連続勤務 | 2週間以上の連続勤務、休日の呼出し | 勤怠表、メール、チャット、カレンダー |
| 勤務間インターバルの短さ | 終業から次の始業までが短く睡眠時間が確保できない | 入退館記録、PCログ、交通系IC履歴 |
| 不規則勤務・深夜勤務 | 生活リズムが崩れる勤務、夜勤連続、突発的シフト変更 | シフト表、夜勤記録、業務指示 |
| 出張の多さ | 長距離移動、時差、移動後すぐの業務 | 出張申請、航空券、宿泊記録、精算書 |
| 精神的緊張 | 重大な責任、事故対応、クレーム、納期逼迫 | 会議資料、事故報告書、顧客対応履歴 |
| 作業環境 | 暑熱、寒冷、騒音、酸素濃度、重量物、危険作業 | 安全衛生資料、現場写真、測定記録 |
対象疾病、心理的負荷評価、長時間労働、ハラスメントの継続性、自殺における故意の扱いを確認します。
精神障害の認定基準は、ICD-10第V章「精神及び行動の障害」に分類される精神障害のうち、器質性のものや有害物質に起因するものを除いたものを対象とします。うつ病、適応障害、急性ストレス反応、心的外傷後ストレス障害などが典型例です。
本人が生前に精神科・心療内科を受診していない場合でも、それだけで直ちに対象外になるわけではありません。関係者からの聴取、診療録、その他の資料により、対象疾病の発病が医学的に推定される場合があります。
次の一覧は、精神障害の労災認定で検討する三要件を示しています。三つを順に確認することで、発病の有無、業務による心理的負荷、業務外要因・個体側要因の整理が必要だと読み取れます。
認定基準の対象となる精神障害を発病しているかを、医学資料や関係者聴取で確認します。
発病前おおむね6か月の間に、業務上の出来事や出来事後の状況から強い負荷があったかを見ます。
業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとはいえないかを総合的に確認します。
次の表は、心理的負荷評価表で問題になりやすい出来事を整理したものです。出来事の名前だけではなく、その後の支援不足や継続性も評価に関わるため、具体例の列から時系列に落とし込む項目を読み取ることが重要です。
| 類型 | 具体例 |
|---|---|
| 事故・災害体験 | 業務に関連し、重大事故、死亡事故、危険な事故を経験した。 |
| 仕事量・仕事内容の大きな変化 | 短期間で業務量が急増した、責任が著しく重くなった。 |
| 極度の長時間労働 | 発病直前1か月におおむね160時間以上、または3週間におおむね120時間以上の時間外労働。 |
| 連続した長時間労働 | 2か月連続おおむね120時間以上、または3か月連続おおむね100時間以上の時間外労働など。 |
| パワーハラスメント | 侮辱、暴言、過大要求、過小要求、隔離、人間関係からの切り離しなど。 |
| セクシュアルハラスメント | 性的言動、拒否後の不利益、継続的な被害。 |
| カスタマーハラスメント | 顧客・取引先からの著しい迷惑行為、暴言、脅迫、執拗な要求。 |
| 重大な失敗・責任追及 | 損害・事故・懲戒可能性を伴う責任追及。 |
| 配置転換・転勤 | 不慣れな業務への急な配置、支援不足、家庭生活への重大影響。 |
次の横棒グラフは、精神障害の認定基準で長時間労働を評価するときの主な時間水準を比較しています。棒の長さは時間数の大きさを表し、脳・心臓疾患の80時間・100時間とは異なる見方が必要であることを読み取れます。
次の注意点一覧は、精神障害・過労自殺の事案で見落とされやすい評価要素を整理しています。継続性、故意の扱い、既往歴の三点を押さえることで、単純な誤解を避けることができます。
発病前6か月より前に始まっていても、その期間内にも継続していれば、開始時からの行為を評価対象とする考え方があります。
業務による心理的負荷で精神障害を発病した人が自殺を図った場合、正常な認識や抑制力が著しく阻害されたものとして扱われ得ます。
業務による強い心理的負荷で自然経過を超えて著しく悪化したと医学的に判断されるときは、悪化部分が問題になり得ます。
厚生労働省は、2023年9月に精神障害の認定基準を改正し、悪化の業務起因性が認められる範囲の見直しや、医学意見の収集方法の効率化などを行っています。古い理解だけで判断せず、請求時点の資料を確認することが重要です。
複数の勤務先がある場合は、一つの職場だけでなく全ての就業先の負荷を確認します。
副業・兼業がある場合、一つの勤務先だけでは過重性が明確でなくても、複数の勤務先を合わせると長時間労働や心理的負荷が大きくなることがあります。
労災保険では、複数の事業主に同時に使用されている労働者について、全ての就業先での業務上の負荷を総合的に評価することにより、傷病等との因果関係が認められる場合があります。精神障害では、一つの勤務先だけで労災認定できない場合、全ての勤務先の心理的負荷を総合的に評価し、労働時間・労働日数を通算する考え方が示されています。
次の判断の流れは、複数勤務先がある場合に何を確認するかを順番に示しています。どの勤務先の資料を集めるかを漏らさないために重要で、分岐から本業以外の働き方も確認対象になることを読み取れます。
本業、副業、出向、グループ会社、休日のアルバイト、役員兼務などを確認します。
勤怠、メール、チャット、シフト、業務量、ハラスメントの有無を分けて確認します。
届かない場合でも、全ての勤務先の負荷を合わせて検討する余地があります。
勤務先ごとの時系列表を作り、労働基準監督署に説明しやすい形にします。
遺族(補償)等給付、葬祭料等、受給資格者、年金額、時効をまとめて確認します。
業務災害により労働者が死亡した場合、遺族には遺族補償給付が、葬祭を行った人には葬祭料が支給されます。複数業務要因災害の場合は複数事業労働者遺族給付・複数事業労働者葬祭給付、通勤災害の場合は遺族給付・葬祭給付という名称になります。
次の表は、死亡事案で問題になりやすい主な給付を整理したものです。誰が受け取る可能性があるのか、年金か一時金か、葬祭費用に関係するのかを読み分けるために重要です。
| 給付 | 誰に支給されるか | 内容 |
|---|---|---|
| 遺族(補償)等年金 | 受給資格者のうち最先順位の受給権者 | 遺族数に応じ、給付基礎日額の一定日数分を年金として支給します。 |
| 遺族特別支給金 | 遺族(補償)等年金の受給権者等 | 原則として一時金300万円です。 |
| 遺族特別年金 | 遺族(補償)等年金の受給権者等 | 算定基礎日額の一定日数分です。 |
| 遺族(補償)等一時金 | 年金を受ける遺族がいない場合等 | 給付基礎日額の一定日数分の一時金です。 |
| 葬祭料等 | 葬祭を行った遺族等 | 定額部分と給付基礎日額に基づく額を組み合わせます。 |
| 未支給の保険給付等 | 生前に受けるべきだった給付がある場合の一定の遺族 | 未支給分の請求です。 |
遺族(補償)等年金の対象となるのは、死亡した労働者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹です。ただし、妻以外の遺族には、死亡当時の年齢や障害状態などの要件が問題になる場合があります。事実婚の配偶者も、事実上婚姻関係と同様の事情があれば含まれ得ます。胎児であった子は、生まれたときから受給資格者となります。
次の表は、遺族数に応じた年金額の基本を整理したものです。日数分という計算単位で示されるため、給付基礎日額と算定基礎日額の違いを理解し、実際の支給額はスライドや他制度との調整で変わることを読み取る必要があります。
| 遺族数 | 遺族(補償)等年金 | 遺族特別年金 | 遺族特別支給金 |
|---|---|---|---|
| 1人 | 給付基礎日額の153日分。一定の場合は175日分 | 算定基礎日額の153日分。一定の場合は175日分 | 300万円 |
| 2人 | 給付基礎日額の201日分 | 算定基礎日額の201日分 | 300万円 |
| 3人 | 給付基礎日額の223日分 | 算定基礎日額の223日分 | 300万円 |
| 4人以上 | 給付基礎日額の245日分 | 算定基礎日額の245日分 | 300万円 |
給付基礎日額は、原則として死亡原因となった事故・疾病発生日の直前3か月間に支払われた賃金総額を暦日数で割った1日当たりの賃金額です。算定基礎日額は、原則として発生日以前1年間の特別給与総額を365で割った額で、遺族特別年金等の算定に使われます。
次の表は、死亡事案で特に重要な時効を整理したものです。期限を過ぎると請求できなくなるリスクがあるため、死亡日の翌日からの期間を読み取り、資料収集と請求書提出の予定を逆算することが大切です。
| 給付 | 時効の基本 |
|---|---|
| 遺族(補償)等年金 | 死亡日の翌日から5年 |
| 遺族(補償)等一時金 | 死亡日の翌日から5年 |
| 葬祭料等 | 死亡日の翌日から2年 |
| 未支給の保険給付・特別支給金 | それぞれの保険給付と同じ |
提出先、事業主証明、労働基準監督署の調査、客観資料の集め方を確認します。
通常、請求書は、被災労働者が所属していた事業場を管轄する労働基準監督署に提出します。複数勤務先、出向、派遣、在宅勤務、海外出張、会社の廃業などがある場合は、どの署が管轄になるかを確認する必要があります。
請求書には、労働者の氏名、勤務先、災害・疾病の内容、死亡年月日、請求人情報、給付を受ける口座などを記載します。死亡事案では、死亡診断書、戸籍関係書類、生計維持関係を示す資料、葬祭費用関係資料などが必要になります。
次の時系列は、遺族が請求を進めるときの大まかな順番を示しています。順番を確認することで、感情的な会社対応に入る前に、資料保全、請求書、調査対応を整える必要があることを読み取れます。
死亡診断書・死体検案書、会社資料、家族との連絡記録、医療資料を散逸させないよう保管します。
労働時間、職場の出来事、疾病名、発症日、死亡原因、生計維持関係を時系列にします。
管轄署、必要書類、事業主証明の有無、添付資料を確認して提出します。
監督署が会社、遺族、同僚、上司、医療機関、関係資料などを調査します。
不支給の場合は、理由を確認し、審査請求などの期限を管理します。
次の判断の流れは、会社が事業主証明に協力しない場合の考え方を示しています。会社との押し問答で時間を失わないために重要で、証明拒否の経緯を記録しながら請求を進める余地を読み取れます。
勤務実態、賃金、在籍状況、災害発生状況の確認を求めます。
拒否理由、担当者、日時、やり取りの内容を記録します。
証明が得られない事情を説明し、請求の進め方を確認します。
証明内容と添付資料の整合性を確認して提出します。
労働基準監督署の調査では、勤怠打刻記録、事業場への入退場記録、パソコン使用時間記録などの客観資料が重視されます。客観記録がない場合でも、聴取内容などから使用者の指揮命令下で実際に働いていたと合理的に推認できる場合は、労働時間として特定される可能性があります。
労働時間、心理的負荷、医学的資料を分けて、早期に保全すべき資料を整理します。
過労死・過労自殺の労災請求では、時間が経つほど証拠が失われます。会社のシステムログは一定期間で消去され、チャットアカウントは退職・死亡に伴い閉鎖され、同僚の記憶は薄れ、関係者が異動・退職することもあります。
次の一覧は、証拠保全を三つの方向から整理したものです。どの資料がどの論点に役立つかを分けることで、集めやすいものから優先順位を付けて確認できます。
勤怠記録、入退館記録、PCログ、メール・チャット、交通記録から実際の働き方を再構成します。
時間ハラスメント、責任追及、顧客対応、支援不足、体調悪化、遺書・メモを具体的に整理します。
負荷死亡原因、発症時期、精神障害の有無、業務負荷との時間的関係を診療資料から確認します。
医学次の表は、労働時間に関する証拠を具体例と留意点に分けて整理しています。会社の勤怠記録だけでなく、在社・在宅・移動・休日連絡を合わせて読む必要があることを読み取れます。
| 証拠 | 具体例 | 留意点 |
|---|---|---|
| 勤怠記録 | 勤怠打刻記録、勤怠システム、出勤簿 | 会社記録が実態より短い場合、他資料との矛盾を確認します。 |
| 入退館記録 | 入退館IC記録、警備記録、ビルゲートログ | 在社時間と労働時間は一致しませんが、重要な推認資料になります。 |
| PC・システムログ | 起動・終了ログ、VPN、クラウドアクセス、Git、業務システム | 在宅勤務や深夜作業の証明に有用です。 |
| メール・チャット | 送受信時刻、指示内容、休日連絡 | 業務指示と心理的負荷の双方を示します。 |
| カレンダー | 会議予定、出張予定、締切 | 拘束時間や責任範囲を示します。 |
| 交通記録 | 交通系IC、タクシー領収書、航空券、宿泊明細 | 深夜帰宅・早朝出勤・出張負荷を示します。 |
| 家族との連絡 | LINE、メール、通話履歴 | 帰宅時刻、体調、仕事の悩みの補助資料になります。 |
| 本人メモ | 日記、手帳、ノート、スマートフォンメモ | 継続的に記載されていれば信用性が高まり得ます。 |
次の表は、心理的負荷に関する証拠を類型ごとに整理しています。精神障害や過労自殺では、労働時間だけではなく、発言内容、責任追及、支援不足、体調変化を具体化することが重要だと読み取れます。
| 類型 | 証拠例 |
|---|---|
| パワーハラスメント | 暴言メール、チャット、録音、同僚証言、相談記録、叱責時の会議録 |
| セクシュアルハラスメント | メッセージ、社内相談記録、医療記録、第三者への相談履歴 |
| カスタマーハラスメント | 顧客メール、録音、クレーム対応履歴、会社の対応方針 |
| 業務量急増 | 担当案件一覧、目標数値、引継書、欠員情報、組織図 |
| 責任追及 | 始末書、懲戒示唆メール、上司からの叱責記録、会議資料 |
| 支援不足 | 増員要請メール、相談履歴、未対応の社内通報 |
| 体調悪化 | 通院記録、服薬、睡眠障害、家族の観察メモ、欠勤・遅刻記録 |
| 遺書・メモ | 仕事に関する記載、上司・顧客・業務量への言及 |
次の表は、医学的資料が何を示すかを整理しています。疾病名、発症時期、死亡原因、業務負荷との時間的関係を確認するために重要で、どの医療機関に開示を求めるかを考える手掛かりになります。
| 資料 | 意味 |
|---|---|
| 死亡診断書・死体検案書 | 死亡原因、死亡時刻、直接死因を確認します。 |
| 救急搬送記録 | 発症時刻、症状、現場状況を確認します。 |
| 診療録・検査結果 | 疾病名、既往歴、発症時期、治療経過を確認します。 |
| 健康診断結果 | 基礎疾患の有無、業務負荷前後の変化を確認します。 |
| 精神科・心療内科記録 | 精神障害の診断、症状、業務との関連記載を確認します。 |
| 産業医面談記録 | 会社が体調悪化を把握していた可能性を示します。 |
| 主治医意見書 | 業務負荷と発症・悪化の医学的関連性を補助します。 |
勤怠記録、管理職、持病、通院歴、退職後死亡、遺書の記載をめぐる典型論点を確認します。
過労死・過労自殺の労災請求では、会社の記録や本人の事情を理由に、業務との関係が争われることがあります。ここでは、単純な説明だけで結論を決めないために、典型的な争点を整理します。
次の一覧は、遺族請求でよく問題になる六つの場面をまとめたものです。各項目から、会社の説明や一つの資料だけで判断せず、別資料で補える可能性を読み取ることが重要です。
PCログ、メール時刻、チャット、入退館記録、成果物の更新履歴、顧客対応履歴を組み合わせて実労働時間を再構成します。
労働基準法上の管理監督者性と、労災認定における過重負荷の評価は別問題です。実際にどの程度の時間と負荷で働いていたかを確認します。
業務外要因や個体側要因があることは、直ちに労災否定を意味しません。業務負荷の時期、程度、発症・悪化との関係を整理します。
治療歴がなくても、関係者聴取やその他資料から精神障害の発病が医学的に推定される場合があります。
死亡日ではなく、疾病の発症日または精神障害の発病日を特定し、その前の評価期間に業務負荷があったかを検討します。
遺書は重要資料ですが、記載がないことだけで業務起因性が否定されるわけではありません。勤務実態や相談記録を総合します。
典型争点では、会社の説明、本人の健康状態、家庭事情、医療記録が複雑に絡みます。重要なのは、一つの不利な事情だけで諦めることではなく、認定基準のどの部分で何が問題になるのかを確認することです。
不支給理由を確認し、審査請求期限と追加証拠を整理します。
労災保険給付について不支給決定がされた場合、決定を行った労働基準監督署長を管轄する都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に対して、審査請求をすることができます。審査請求は、労災保険給付の決定があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に行う必要があります。
次の判断の流れは、不支給決定後に何を確認するかを順番に示しています。期限が短い場面で、理由確認、資料開示、追加証拠、医学意見、次の手続を整理する必要があることを読み取れます。
労働時間不足、疾病名・発症日、心理的負荷、業務外要因など否定理由を確認します。
調査復命書等の開示可能性を確認し、認定基準のどこで否定されたかを特定します。
労働時間再計算表、心理的負荷の時系列表、医学的意見書などを検討します。
期限を過ぎないよう、専門家への相談や書面準備を早めに進めます。
必要に応じて、行政上の不服申立てと会社への民事責任追及を分けて考えます。
弁護士へ相談する目的は、直ちに訴訟を起こすことだけではありません。初期段階では、証拠の散逸を防ぐ、労災請求の見通しを把握する、会社との不用意なやり取りを避ける、時効・審査請求期限を管理することが重要です。
次の表は、専門家への相談が検討されやすい場面を整理したものです。どの論点で専門的な整理が必要になるかを読み取ることで、相談前に準備する資料を絞り込めます。
| 場面 | 相談で整理したいこと |
|---|---|
| 会社が資料提出や事業主証明を拒む | 証拠保全、開示請求、監督署への説明方法を検討します。 |
| 労働時間が勤怠記録より長い | PCログ、メール、入退館記録等による再構成が必要になります。 |
| ハラスメントが主な原因 | 発言・行為の立証、同僚証言、録音・メモの評価が重要になります。 |
| 精神科受診歴がない | 遺族・同僚聴取、遺書、行動変化、医学的推定を整理します。 |
| 会社の安全配慮義務違反も問いたい | 労災請求とは別に、損害賠償請求の成否を検討します。 |
| 不支給決定が出た | 審査請求期限が短く、反論構成が専門的になります。 |
| 報道対応・社内調査・第三者委員会が絡む | 遺族のプライバシー、名誉、証拠保全、交渉窓口を整理します。 |
初動資料と時系列表に入れる項目を、請求準備に使いやすい形で整理します。
遺族が大きな衝撃を受けている時期に、全ての資料を一度に集めるのは難しいものです。まずは散逸しやすい資料、期限に関わる資料、労働時間や心理的負荷を示す資料を分けて確認します。
次の一覧は、初動で確認したい項目をまとめたものです。上から順に、死亡原因、会社資料、勤務実態、家族・医療・相談記録を確認し、漏れやすい資料を読み取れるようにしています。
| 確認項目 | 見るべき資料・行動 |
|---|---|
| 死亡原因 | 死亡診断書・死体検案書を保管する。 |
| 会社資料 | 貸与PC、スマートフォン、メールアカウントの保全を求める。 |
| 雇用・賃金 | 勤怠表、給与明細、雇用契約書、就業規則、36協定を確保する。 |
| 業務ログ | 入退館記録、PCログ、メール、チャット、カレンダーを確認する。 |
| 出張・移動 | 出張記録、交通費精算、宿泊明細、タクシー領収書を集める。 |
| 家族記録 | 家族へのメッセージ、日記、手帳、メモを時系列で整理する。 |
| 社内相談 | 同僚・上司・産業医・相談窓口とのやり取りを確認する。 |
| 医療資料 | 通院歴、健康診断、服薬、救急搬送記録を確認する。 |
| 行政相談 | 労働基準監督署への相談日、担当者、説明内容を記録する。 |
| 期限管理 | 遺族給付5年、葬祭料2年、不支給後審査請求3か月を管理する。 |
次の表は、時系列表に入れるべき項目を整理したものです。時系列表は、遺族自身の整理だけでなく、労働基準監督署、弁護士、社会保険労務士、医師に説明する際の基礎資料になるため、何を同じ日付欄で並べるかを読み取ることが重要です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 日付・時刻 | 発症・死亡・出来事・相談・通院の日時 |
| 勤務時間 | 始業、終業、休憩、深夜、休日、在宅作業 |
| 業務内容 | 担当案件、締切、責任、欠員、トラブル |
| 心理的負荷 | 叱責、ハラスメント、顧客対応、責任追及 |
| 身体的負荷 | 連続勤務、出張、夜勤、作業環境 |
| 体調変化 | 睡眠、食欲、疲労、発言、通院、服薬 |
| 証拠 | メール、チャット、ログ、診療録、証言者 |
労災制度や給付額は、認定基準、通達、省令改正などで更新されることがあります。月80時間を超えれば必ず労災、自殺は労災にならない、会社が証明しなければ請求できない、といった断定的な理解は避け、個別事情によって判断が変わることを前提に資料を確認します。
一般的な制度説明として、誤解されやすい点を確認します。
一般的には、事業主証明は重要な資料ですが、会社が証明を拒む場合や会社が廃業している場合でも、請求自体を検討できる場合があります。ただし、証明拒否の経緯、勤務実態を示す資料、管轄署への説明内容によって進め方は変わる可能性があります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、発症前2か月から6か月にわたり1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働は重要な目安とされています。ただし、80時間未満でも、勤務間インターバルの短さ、連続勤務、深夜勤務、出張、精神的緊張などによって評価が変わる可能性があります。具体的な見通しは、労働時間と負荷要因を整理したうえで専門家へ相談する必要があります。
一般的には、治療歴がないことだけで直ちに対象外になるわけではないとされています。関係者からの聴取、行動変化、遺書・メモ、医療資料、職場の出来事などから精神障害の発病が医学的に推定される場合があります。ただし、資料の内容や時期によって判断が変わる可能性があります。具体的な見通しは、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、労働基準法上の管理監督者性と、労災認定で過重負荷を評価することは別の問題とされています。実際にどの程度の時間、どのような負荷で働いていたかが確認されます。ただし、職務権限、勤務実態、資料の有無によって評価は変わるため、具体的な整理は弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、不支給決定通知書を確認し、労働時間不足、疾病名・発症日の認定、心理的負荷、業務外要因など、どの要件で否定されたかを整理します。審査請求には3か月の期限があるため、追加証拠や医学的意見の要否を早期に検討する必要があります。具体的な対応方針は、期限と資料を確認したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、国家公務員・地方公務員は一般の労災保険とは別に、公務災害補償制度が問題になります。人事院、地方公務員災害補償基金、任命権者の制度運用など、確認先や手続が異なる可能性があります。具体的な対応は、勤務先の制度と資料を確認したうえで専門家へ相談する必要があります。
公的資料と中立的な制度資料を中心に整理しています。