相続人が会社株式、事業用不動産、知的財産、債権債務を承継した場面で、権限・価値・リスクを資料で示し、価格、開示、契約条件へつなげるための実務整理です。
相続が絡む M&Aでは、資料集めは「提出物」ではなく取引設計そのものです。
相続が絡むM&Aでは、通常の企業売買に必要な資料に加えて、誰が売る権限を持つのか、相続人の同意はそろっているのか、遺産分割は成立しているのか、相続税評価とM&A価格の差をどう説明するのか、被相続人個人と会社の資産・債務が混在していないかが中心争点になります。
したがって、M&Aの相手先企業とのデューデリジェンスで準備すべき資料は、財務諸表や契約書の束だけではありません。相続関係資料、会社法上の支配権資料、財務・税務資料、労務資料、不動産・知的財産・許認可資料、個人情報・IT資料、紛争・偶発債務資料、そして最終契約に反映する開示資料を一体で整える必要があります。
次の3つの層は、相続M&Aで最初に分けるべき資料群を表します。権限がなければ契約できず、価値が説明できなければ価格交渉が進まず、リスクが示せなければ補償や前提条件が重くなるため、どの資料がどの目的に効くのかを読み取ることが重要です。
戸籍、法定相続情報一覧図、遺言、遺産分割協議書、調停調書、審判書、株主名簿、譲渡承認決議、登記事項証明書など、契約締結と資産移転の根拠を示します。
決算書、税務申告書、試算表、総勘定元帳、資金繰り表、債権債務明細、固定資産台帳、不動産評価資料、非上場株式評価資料、事業計画を整理します。
相続もM&Aも、権利が誰から誰へ移るかを資料で示す手続です。
相続は、亡くなった人の財産、債務、契約上の地位、株式、不動産などが相続人へ移る制度です。M&Aは、株式、事業、会社組織、資産、契約、人材、許認可、ブランド、知的財産などを第三者へ承継させる取引です。両者は、誰から誰へ、何が、どの根拠で移るのかを証明しなければならない点で重なります。
次の判断の流れは、相続M&Aで資料不足が取引条件へ波及する順番を表します。上から下へ、権限、価値、リスク、契約条件の順に確認することで、単なる資料収集ではなく取引設計として何を見るべきかを読み取れます。
売主、代金受領者、表明保証者、補償義務者を特定します。
原本、押印、電子署名、作成者の権限、変更履歴を見ます。
追加調査、同意取得、登記完了、保証解除などが条件化されます。
資料番号と条項を対応させ、後日の紛争を減らします。
M&Aは、合併、買収、事業譲渡、会社分割、株式譲渡、株式交換、株式移転、第三者割当増資、資本業務提携などを広く含む実務用語です。相手先企業は、売主側から見れば買主候補、買主側から見れば売主または対象会社、合併や資本提携では提携先企業を含みます。
次の比較表は、相続M&Aで頻出する用語と資料上の意味を整理したものです。言葉の意味がずれると、誰に何を開示し、どの契約に反映するかがずれるため、取引関係者が同じ前提で読めるかを確認してください。
| 用語 | 意味 | 資料準備での注意 |
|---|---|---|
| デューデリジェンス | 取引前に法務、財務、税務、労務、事業、不動産、IT、知的財産などを調査する手続です。 | 価格、契約条件、クロージング条件、補償、引継ぎ計画を決める材料になります。 |
| データルーム | 資料を格納し、相手先企業や専門家が閲覧する場所です。 | アクセス権限、閲覧ログ、ダウンロード制限、資料番号、更新履歴、Q&A管理が重要です。 |
| LOI | 基本合意書または意向表明書です。 | 独占交渉、価格レンジ、調査範囲、秘密保持、費用負担を確認します。 |
| SPA | 株式譲渡契約です。事業譲渡なら事業譲渡契約が中心になります。 | 表明保証、補償、価格調整、前提条件、解除、クロージング手続を資料と対応させます。 |
| 開示資料 | 表明保証の例外や補足を記載する文書です。 | 未開示の訴訟や税務リスクなどを番号管理し、補償責任の範囲を調整します。 |
売れる人、貸せる人、同意できる人を確定しなければ、契約条件は固まりません。
相続人を確定する資料は、相続M&Aの起点です。誰が株式や不動産を承継したかが曖昧なまま進めると、株式譲渡契約の売主、代金受領者、表明保証者、補償義務者が特定できません。
次の比較表は、相続・権限資料の目的と実務上の注意点を表します。列の左側は資料名、中央は何を証明するか、右側は相手先企業がどこで疑問を持つかを示しているため、不足している資料から優先的に集めるべきものを読み取れます。
| 資料 | 目的 | 実務上の注意 |
|---|---|---|
| 被相続人の出生から死亡までの戸籍、除籍、改製原戸籍 | 法定相続人の範囲を確定します。 | 転籍、婚姻、養子縁組、認知、離婚があると複数市区町村から取得が必要です。 |
| 相続人の現在戸籍 | 相続人が現在生存し、相続人であることを示します。 | 数次相続では追加資料が必要になります。 |
| 住民票除票または戸籍附票 | 被相続人の住所の同一性を示します。 | 登記簿、株主名簿、契約書上の住所と照合します。 |
| 法定相続情報一覧図 | 相続関係を一覧化し、複数手続で戸籍束の代わりに使います。 | 戸除籍謄本等と一覧図を登記所に提出し、登記官が確認した写しが交付される制度です。 |
| 相続放棄申述受理証明書 | 相続放棄者を相続人から除外します。 | 家庭裁判所の手続結果を確認します。 |
| 特別代理人選任審判書 | 未成年者や成年被後見人との利益相反を処理します。 | 制限行為能力者がいる場合に重要です。 |
遺言がある場合は、誰が株式や事業用不動産を取得するか、遺言執行者が誰かを確認します。公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言で手続が異なり、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用している場合は、相続開始後に遺言書情報証明書の交付を受けられます。
次の一覧は、遺言、遺産分割、不動産の権限確認で見る資料を表します。相手先企業は、資料そのものだけでなく、誰が署名し、どの財産が特定され、期限や代償金がどう定められているかを読むため、右側の確認ポイントを重点的に確認してください。
遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明書、調停調書、審判書・確定証明書、和解書、係属中事件の申立書・主張書面を確認します。
同意登記事項証明書、公図、地積測量図、固定資産評価証明書、相続登記申請書控え、賃貸借契約、担保明細、境界確認、土壌汚染や建築確認資料を確認します。
使用権相続により不動産を取得した相続人は、その取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象となる場合があります。義務化の施行日は令和6年4月1日であり、それ以前の相続でも一定の場合に対象になります。
価格、納税、補償の根拠は、決算書だけでは足りません。
財務デューデリジェンスは、過去の決算書を読むだけではありません。買主は、正常収益力、運転資本、純有利子負債、設備投資、簿外債務、関連当事者取引、個人と会社の混同、資金繰り、将来キャッシュフローを検証します。
次の比較表は、財務資料ごとに見られるリスクを整理したものです。左列は資料区分、中央は準備すべき資料、右列は買主が価格や補償へ反映しやすい論点を示すため、右列のリスクが大きい項目から補足説明を用意してください。
| 区分 | 資料 | 見られるリスク |
|---|---|---|
| 決算 | 直近3期から5期の決算書、勘定科目内訳書、法人税申告書別表 | 利益推移、税務調整、役員報酬、交際費、貸倒引当 |
| 月次 | 月次試算表、月次推移表、管理会計資料 | 足元業績、季節性、月次決算の精度 |
| 会計帳簿 | 総勘定元帳、補助元帳、仕訳帳 | 不自然な振替、関連当事者取引、使途不明金 |
| 現預金 | 残高証明、入出金明細、資金繰り表 | 資金ショート、簿外口座、役員引出し |
| 売掛金・棚卸資産 | 売掛金年齢表、回収遅延一覧、棚卸表、評価減明細、滞留在庫リスト | 貸倒、架空売上、循環取引、過大在庫、不良在庫 |
| 借入・偶発債務 | 借入契約、返済予定表、担保明細、保証明細、訴訟、クレーム、未払残業代 | 財務制限条項、期限の利益喪失、保証解除不可、価格調整 |
| 関連当事者 | 役員貸付金、役員借入金、親族会社取引、家賃、業務委託 | 利益移転、回収不能、税務否認 |
次の一覧は、相続が絡む場合に特に問題になりやすい勘定科目を表します。会社の数字と相続財産目録がつながる項目なので、会計処理だけでなく、誰の債権・債務として扱うかを読み取ることが重要です。
被相続人が会社から借りていた金銭が相続債務になるかを、契約、元帳、返済履歴、相続財産目録で確認します。
会社が被相続人から借りていた金銭を相続人が請求できるかを、借入契約、取締役会承認、残高確認書で確認します。
死亡前の報酬が未払か、税務処理が適正かを、役員報酬決議、源泉徴収簿、未払金台帳で確認します。
個人所有地を会社が利用している場合の地代適正性を、賃貸借契約、支払明細、不動産評価で確認します。
価格調整資料は、買主が提示価格を下げるためだけの資料ではありません。正常収益力、EBITDA調整、ネットデット、運転資本、クロージング日残高の根拠を示すことで、売主側も合理的な価格説明ができます。
相続税は、正味の遺産額が基礎控除額を超える場合に申告・納税が必要です。基礎控除額は一般的に「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」とされ、申告は被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内に行うこととされています。
次の重要ポイントは、相続税評価とM&A価格が一致しない理由を表します。評価差を説明できないと相続人、税務、買主の三方向で不信が生まれるため、どの評価が何の目的で作られたのかを読み分けてください。
非上場株式の相続税評価では、会社規模や株主属性に応じて類似業種比準方式、純資産価額方式、併用方式、配当還元方式などが問題になります。一方、M&A価格は買主のシナジー、簿外債務、未払残業代、取引先依存、設備老朽化、親族紛争を反映して上下することがあります。
税務資料では、法人税、消費税、地方税、源泉税、税務調査、組織再編、移転価格・国際税務を分けて準備します。相続人が株式を売却する場合の売主は相続人であり、譲渡所得課税が問題になります。会社が事業譲渡をする場合の売主は会社であり、法人税、消費税、資産譲渡益が問題になります。
契約を引き継げるか、紛争を誰が負うか、従業員リスクが残るかを見ます。
契約書類は、M&A後に買主が事業を継続できるかを判断する資料です。特に支配権変更条項、譲渡禁止条項、解除条項、独占契約、競業避止、最恵待遇、知的財産帰属、秘密保持、個人情報、損害賠償上限を確認します。
次の比較表は、法務資料の区分と具体例を表します。販売、仕入、業務委託、不動産、金融、知財、IT、代理店、保険を分けることで、株式譲渡で継続できる契約と事業譲渡で個別承諾が必要な契約を読み取れます。
| 区分 | 資料 |
|---|---|
| 販売 | 基本取引契約、個別契約、注文書、請書、価格表、リベート契約 |
| 仕入 | 仕入基本契約、供給契約、購買条件、品質保証契約 |
| 業務委託 | 外注契約、派遣契約、請負契約、制作委託契約 |
| 不動産・金融 | 賃貸借契約、使用貸借契約、借入契約、担保契約、保証契約、リース契約 |
| 知財・IT | ライセンス契約、共同開発契約、クラウド契約、SaaS利用規約、保守契約、システム開発契約 |
| 代理店・保険 | 販売代理店契約、フランチャイズ契約、OEM契約、生命保険、損害保険、PL保険、D&O保険 |
次の一覧は、紛争・行政処分・許認可で準備すべき資料を表します。会社の紛争と相続人間の紛争が重なると、買主が引き受けるリスクと売主が補償するリスクが分かれるため、どの問題が進行中かを読み取ってください。
訴状、答弁書、準備書面、証拠説明書、調停申立書、和解調書、内容証明郵便、回答書、相続人間の遺留分・遺産分割・使途不明金に関する書面を確認します。
補償行政指導、業務改善命令、報告徴求、許認可取消関係資料、クレーム台帳、事故報告書、リコール資料、内部通報資料を確認します。
是正許可証、認可証、登録証、届出控え、更新期限一覧、行政庁との協議記録、役員変更届の要否、人員・資格者・設備・財産的基礎の資料を確認します。
承継常時10人以上の従業員を使用する使用者は、労働基準法第89条により就業規則を作成し、所轄労働基準監督署長へ届け出る必要があるとされています。M&Aでは、就業規則の有無だけでなく、実際の運用との乖離、未払残業代、有給休暇、退職金、労働時間管理が重要になります。
次の比較表は、労務資料ごとの確認事項を表します。基礎、規程、勤怠、賃金、社会保険、退職、紛争を分けることで、未払賃金や偶発債務につながる資料不足を読み取れます。
| 区分 | 資料 | 主な確認事項 |
|---|---|---|
| 基礎 | 従業員名簿、組織図、雇用契約書、労働条件通知書 | 雇用形態、契約期間、職務、勤務地 |
| 規程 | 就業規則、賃金規程、退職金規程、育児介護休業規程 | 届出、周知、実態との一致 |
| 勤怠 | タイムカード、勤怠システム、36協定、変形労働時間制協定 | 未払残業代、長時間労働 |
| 賃金 | 賃金台帳、賞与台帳、源泉徴収簿 | 固定残業代、手当、控除 |
| 社会保険 | 社会保険加入資料、労働保険申告書、算定基礎届 | 未加入、資格喪失漏れ |
| 退職・紛争 | 退職金台帳、退職給付債務、労基署是正勧告、労働審判、ユニオン交渉 | 偶発債務、引当不足、補償、再発防止 |
事業価値の前提になる資産と情報を、会社名義か個人名義かまで確認します。
不動産は、所有者が会社なのか、被相続人個人なのか、相続人共有なのか、親族会社なのかで対応が変わります。会社所有なら株式譲渡で間接的に承継されますが、個人所有地を会社が使用している場合は、賃貸借契約や使用貸借契約を整備する必要があります。
次の一覧は、不動産、知的財産、個人情報・IT、営業資料の確認ポイントを表します。名義・使用権・データ管理・売上依存のどこにリスクがあるかを分けて読むことで、価格や前提条件へ反映すべき項目が見えます。
登記事項証明書、公図、地積測量図、建築図面、固定資産税納税通知書、評価証明書、賃貸借契約、境界確認、土壌汚染、担保権、地役権、借地権、修繕履歴を確認します。
特許、実用新案、意匠、商標の登録原簿、出願資料、著作権譲渡契約、職務発明規程、共同開発契約、ライセンス契約、ドメイン、SNS、ECアカウントを確認します。
個人情報保護規程、プライバシーポリシー、個人データ台帳、第三者提供記録、委託契約、アクセス権限表、システム構成図、ログ、脆弱性診断、インシデント対応計画を確認します。
事業概要、製品・サービス、主要顧客別売上・粗利、主要仕入先、競合比較、価格改定履歴、営業見込、クレーム、キーマン一覧、中期経営計画を確認します。
次の重要ポイントは、創業者個人に依存していた資産や権限を見つけるための視点を表します。買主は「創業者がいなくても事業が回るか」を見ているため、個人名義や個人管理のまま残るものを読み取ってください。
創業者個人名義の商標、個人が管理するドメインやクラウド、個人の人脈で維持される主要顧客、口頭だけの仕入条件、未整備の業務マニュアルは、買収後の事業継続リスクとして評価されます。取引先との組織的契約、技術標準書、顧客対応履歴、権限委譲規程、後継経営陣の経歴を資料化することが重要です。
個人データの開示は段階管理が必要です。デューデリジェンス段階では、まだ事業承継が確定していないため、秘密保持契約、閲覧者制限、マスキング、匿名加工、仮名化、委託構成、本人同意、共同利用の可否、外国提供の有無を確認します。
調査される側でも、買主の資金力・信用・保証対応を確認します。
相続人が会社を売る場合、こちらが調査される側と考えがちです。しかし、相手先企業が本当に代金を払えるか、従業員と取引先を守れるか、経営者保証を外す意思と能力があるかも確認する必要があります。
次の比較表は、相手先企業に請求すべき資料と目的を表します。左列は区分、中央は請求資料、右列は売主側が何を判断するかを示すため、支払能力、買収後運営能力、保証解除の実現性を読み取ってください。
| 区分 | 請求資料 | 目的 |
|---|---|---|
| 基本 | 会社案内、登記事項証明書、役員一覧、株主構成 | 実在性、支配者、反社確認 |
| 財務 | 直近決算書、借入状況、資金証明、融資内諾書 | 支払能力、クロージング確実性 |
| 実績 | 過去のM&A実績、PMI実績、対象業界経験 | 買収後運営能力 |
| 方針 | 従業員処遇、取引先対応、ブランド継続、事業計画 | 売主の安心、従業員保護 |
| 経営者保証 | 金融機関との協議状況、保証解除方針 | 売主の残存リスク除去 |
| コンプライアンス | 反社チェック、訴訟、行政処分、信用情報 | 不適切買主リスクの回避 |
買主の資金証明は、口頭説明では足りません。預金残高証明、融資内諾書、投資委員会承認、親会社保証、エスクロー、分割払の担保、解除条項を確認します。相続税納税資金のために売却する場合、代金不払いは相続人に重大な損害を与えます。
次の時系列は、秘密保持と資料開示の順番を表します。左から右ではなく上から下へ進む段階管理として読み、会社が特定される情報、詳細財務、個人情報、条件充足証拠をいつ出すかを確認してください。
業種、地域をぼかした概要、売上規模、利益規模、譲渡理由の抽象説明に限定します。
相手先企業の属性確認後に、会社名、概要資料、簡易決算、事業概要、質問対応を行います。
詳細財務、契約、労務、不動産、税務、法務資料を閲覧ログ付きで管理します。
重要契約、個人情報、キーマン面談、取引先確認は、マスキングや同意の要否を確認します。
名義変更、決済、許認可、保証解除資料を、前提条件の証拠として保存します。
次の重要ポイントは、データルーム管理台帳で残すべき項目を表します。後日、どの資料を開示したか、買主は知っていたか、売主が隠したかが争われやすいため、資料番号と最終契約の開示資料番号を対応させて読み取れる状態にします。
資料番号、資料名、版数、作成日、提供日、閲覧権限者、ダウンロード可否、マスキング有無、個人情報有無、原本所在、更新履歴、Q&A番号、最終契約の開示資料番号を記録します。
相手先企業が同業他社、主要仕入先、主要販売先、プラットフォーム企業である場合、独占禁止法上の企業結合審査も問題になります。当事会社の事業内容、商品・サービス別売上、市場シェア、競合一覧、主要顧客・仕入先、価格決定構造、参入障壁、代替品、地理的市場、届出要否の検討資料を準備します。
資料は見て終わりではなく、前提条件、表明保証、補償、開示資料に変換します。
デューデリジェンス資料は、見ただけでは終わりません。発見事項を価格、クロージング前提条件、表明保証、補償、開示資料へ変換して初めて意味を持ちます。
次の比較表は、調査で見つかった事項を契約へ反映する例を表します。左列は発見事項、右列は契約上の処理例なので、資料不足がどの条項に変わるかを読み取ってください。
| 見つかった事項 | 契約への反映例 |
|---|---|
| 相続人の一部同意未了 | クロージング前提条件、同意取得義務、解除権 |
| 相続登記未了 | 登記完了を前提条件、または使用権確保を特約化 |
| 未払残業代リスク | 価格減額、特別補償、エスクロー |
| 税務調査リスク | 税務補償、時効期間に応じた補償期間 |
| 主要取引先契約の解除条項 | 取引先同意取得を前提条件 |
| 経営者保証未解除 | 金融機関同意、保証解除をクロージング条件 |
| 個人情報リスク | 是正措置、データ移転手続、補償 |
| 知財が個人名義 | 権利移転または独占ライセンスを条件化 |
次の一覧は、開示資料に含める項目を表します。表明保証の例外を具体的に示すほど、売主・買主双方が補償責任の範囲を読み取りやすくなるため、条項番号、関連資料、金額影響を対応させることが重要です。
どの表明保証に対する例外かを明確にします。
係属中の訴訟、未払、同意未了などを資料番号と結びます。
請求額、未払額、発生時期、解決見込みを記載します。
買主の承諾欄または確認欄を設け、後日の認識違いを減らします。
相続M&Aは一人の専門家では完結しにくい領域です。次の比較表は、資料準備に関わる専門職の主な担当を表します。誰が資料を集め、誰が有効性を確認し、誰が契約へ落とすかを分けて読むことで、資料漏れを防ぎやすくなります。
| 専門職 | 主な担当 |
|---|---|
| 弁護士 | 相続紛争、遺留分、株式帰属、契約交渉、法務調査、表明保証、補償、調停・審判・訴訟 |
| 司法書士 | 相続登記、商業登記、株式・役員変更登記、不動産名義変更、戸籍収集支援 |
| 税理士 | 相続税申告、非上場株式評価、譲渡税、法人税、消費税、税務調査 |
| 公認会計士 | 財務調査、株式価値評価、内部統制、会計処理、財務分析 |
| 行政書士・公証人・遺言執行者 | 許認可、行政手続、公正証書遺言、遺言内容の実現、株式・不動産・預金の承継手続 |
| 不動産・労務・知財の専門職 | 不動産評価、境界、測量、就業規則、社会保険、未払残業代、知財移転登録、知財調査 |
| 中小企業診断士・金融機関 | 事業調査、経営改善、承継計画、PMI支援、借入、担保、経営者保証、資金決済 |
初動30日、調査開始前、最終契約前で確認する資料を分けます。
相続人が売主となる中小企業M&Aでは、資料を一度に完全化しようとすると止まりやすくなります。初動30日で最低限の権限と会社資料を集め、調査開始前に資料室と開示ルールを整え、最終契約前に権限・同意・支払・保証解除を確認する順番が実務的です。
次の時系列は、資料準備を3段階に分けたものです。上から下へ進むほど契約に近づくため、早期に必要な資料と最終契約直前まで更新すべき資料を読み分けてください。
戸籍一式、法定相続情報、遺言、遺産分割協議書案、相続人同意状況、登記事項証明書、定款、株主名簿、直近3期の決算書、借入・保証一覧、主要契約、事業用不動産、許認可、係争一覧、NDAひな形をそろえます。
データルーム目次、資料管理台帳、Q&A管理表、個人情報マスキング方針、開示承認の流れ、相続人間の情報共有ルール、専門家の役割分担、価格算定の前提、取引方式比較、想定表明保証、想定クロージング条件を準備します。
売主権限、株式譲渡承認決議、株主名簿書換資料、相続登記または不動産使用権、主要取引先同意、金融機関の担保・保証解除または承諾、許認可要否、未払税金・未払賃金・係争、開示資料、代金支払方法を確認します。
次の一覧は、よくある失敗と防止策を表します。どの失敗も、資料がないこと自体より、資料不足を放置したまま独占交渉や最終契約へ進むことで大きくなるため、各項目で先に確認すべき資料を読み取ってください。
相続人の一部が反対しているのにLOIへ進むと、買主から信頼を失います。誰が何に同意しているかを一覧化します。
古い株主名簿、名義株、承認漏れがあると株式譲渡の有効性が疑われます。設立から現在までの連続性を確認します。
会社が使う土地が相続人共有のままだと、買主が安心して承継できません。登記、賃貸借、使用承諾を整理します。
相続税評価、M&A価値算定、交渉経緯、買主シナジー、リスク調整を記録し、税務署、相続人、買主の見方を分けます。
買主の資金力、過去トラブル、反社リスク、経営者保証対応を確認し、代金不払いや保証残存を避けます。
個別案件の判断ではなく、一般的な整理として確認してください。
一般的には、財務諸表と契約書だけでは足りないことが多いとされています。相続が関係する場合は、相続人の権限、遺産分割、株式帰属、不動産名義、相続税評価、個人と会社の資産混同、経営者保証、個人情報、許認可、労務、知的財産まで確認対象になります。具体的な範囲は会社の状況によって変わるため、専門家に相談する必要があります。
一般的には、相続人全員の同意状況や売却権限が未整理のまま詳細資料を出すと、交渉停止や紛争につながる可能性があります。ただし、遺言執行者の権限、遺産分割の進行、株式の帰属、資料の機密性によって判断は変わります。具体的な開示範囲は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、相続税評価額とM&A価格は目的が異なるため、一致しないことがあります。ただし、評価差の理由を説明できないと、相続人間の不信、税務上の確認、買主との価格交渉で問題になる可能性があります。評価資料、価格算定書、交渉経緯、リスク調整の資料を残し、具体的には税理士等へ相談する必要があります。
一般的には、個人情報を含む資料は、秘密保持契約、閲覧者制限、マスキング、匿名加工、仮名化、同意の要否を確認したうえで段階的に開示することが望ましいとされています。業種、データの種類、移転方式、共同利用や委託の構成によって結論が変わるため、具体的には弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、売主側も相手先企業の資金力、信用、過去のM&A実績、従業員処遇、経営者保証解除の方針を確認する必要があるとされています。特に相続税納税資金のために売却する場合、代金不払いや保証残存は重大なリスクになり得ます。具体的な調査方法は、案件の規模や相手先企業の属性によって変わります。
一般的には、資料不足があっても、追加取得、前提条件、価格調整、補償、開示資料、クロージング延期などで対応できる場合があります。ただし、売主権限、株式帰属、許認可、重要契約、保証解除などの不足は成否に直結する可能性があります。具体的な対応は、資料の重要性と取引方式を踏まえて専門家に相談する必要があります。