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既存障害がある場合の
後遺障害認定はどうなるか

事故前から障害や持病がある場合でも、後遺障害認定が当然に否定されるわけではありません。加重障害、同一部位、差額支払、民事賠償との違いを資料準備の順番まで整理します。

14級別表第二の最下位等級
237万円12級から10級への差額例
3段階同一部位・加重・因果関係
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既存障害がある場合の 後遺障害認定はどうなるか

事故前から障害や持病がある場合でも、後遺障害認定が当然に否定されるわけではありません。

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既存障害がある場合の 後遺障害認定はどうなるか
事故前から障害や持病がある場合でも、後遺障害認定が当然に否定されるわけではありません。
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  • 既存障害がある場合の 後遺障害認定はどうなるか
  • 事故前から障害や持病がある場合でも、後遺障害認定が当然に否定されるわけではありません。

POINT 1

  • 結論 ― 既存障害があっても、後遺障害認定が必ず否定されるわけではない
  • 重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。
  • 当然には否定されない
  • 同一部位の悪化
  • 新たな障害

POINT 2

  • 用語の定義 ― まず後遺症後遺障害既存障害既往症を分ける
  • 重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。
  • 2-1. 後遺症
  • 2-2. 後遺障害
  • 2-3. 症状固定

POINT 3

  • 自賠責保険における後遺障害認定の基本構造
  • 重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。
  • 3-1. 自賠責保険は「最低限の被害者救済」を目的とする制度
  • 3-2. 後遺障害等級と自賠責保険金額の概観
  • 3-3. 自賠責の調査体制

POINT 4

  • 既存障害がある場合の中核ルール ― 加重障害と差額支払
  • 重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。
  • 自賠責で今回支払対象となる金額
  • 4-1. 加重障害とは何か
  • 4-2. 例1 ― 既存障害12級が、今回事故で10級に悪化した場合

POINT 5

  • 既存障害と既往症はどう違うか
  • 重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。
  • 6-1. 既存障害は「事故前から評価対象となる障害があった」場合
  • 6-2. 既往症は「事故前から病気や変性があった」場合
  • 6-3. 加齢性変化がある人は不利なのか

POINT 6

  • 既存障害がある場合の後遺障害認定 ― 自賠責の加重と民事賠償の素因減額は別問題
  • 重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。
  • 自賠責で今回支払対象となる金額
  • 7-1. 自賠責の加重障害
  • 7-2. 民事賠償の素因減額

POINT 7

  • 既存障害がある事案で、医学的に何を証明すべきか
  • 重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。
  • 8-1. 医学的評価の核心は「事故前後の比較」
  • 8-2. 整形外科領域で重要な資料
  • 8-3. 脳神経外科・神経内科領域で重要な資料

POINT 8

  • 専門職別に見る、既存障害事案の重要ポイント
  • 重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。
  • 9-1. 警察官・交通事故捜査担当
  • 9-2. 救急隊員・救急救命士・救急医
  • 9-3. 整形外科医・脳神経外科医・各専門医

まとめ

  • 既存障害がある場合の 後遺障害認定はどうなるか
  • 結論 ― 既存障害があっても、後遺障害認定が必ず否定されるわけではない:重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。
  • 用語の定義 ― まず後遺症後遺障害既存障害既往症を分ける:重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。
  • 自賠責保険における後遺障害認定の基本構造:重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

結論 ― 既存障害があっても、後遺障害認定が必ず否定されるわけではない

重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。

次の一覧は、既存障害がある事故で最初に分けるべき判断要素を整理したものです。認定の入口を誤ると、必要資料や反論の方向が変わるため重要です。左から順に、事故前の状態、事故後の変化、実務上の見方を確認してください。

認定

当然には否定されない

既存障害があること自体は、後遺障害認定を否定する理由ではありません。

加重

同一部位の悪化

同一部位で重くなった場合は、加重後の等級額から既存障害分を控除します。

別部位

新たな障害

別部位や別系列なら、今回事故による障害として評価される余地があります。

交通事故の後遺障害認定で、被害者に以前から障害、病気、変性所見、過去の事故による後遺障害がある場合、実務上もっとも重要なのは次の整理です。

  1. 既存障害があること自体は、後遺障害認定を当然に否定する理由ではありません。
  2. 事故によって、もともとの障害より障害の程度が重くなった場合は、一般に加重障害として扱われます。
  3. 自賠責保険では、すでに後遺障害のある人が事故により同一部位について障害の程度を加重した場合、原則として「加重後の等級に対応する保険金額」から「既存障害の等級に対応する保険金額」を控除した差額が問題になります。
  4. 事故前の障害と事故後の障害が同一部位ではない場合、通常は単純な差額控除の問題ではなく、事故によって新たに残った障害として評価される余地があります。
  5. 既存障害と、加齢性変化・持病・体質・過去の軽い症状は同じではありません。これらは、後遺障害等級の問題とは別に、医学的因果関係、自賠責の減額、民事賠償での素因減額として争点化することがあります。
  6. 自賠責の後遺障害認定と、裁判・示談での損害賠償額は同一ではありません。自賠責で差額支払になっても、民事上の逸失利益、慰謝料、介護費、将来治療費などは別途検討されます。

つまり、「既存障害がある場合の後遺障害認定はどうなるか」という問いに対する実務的な答えは、事故前の障害と事故後の障害を医学的に比較し、同一部位か、加重したか、新たな障害か、因果関係がどの程度認められるかを段階的に判断するというものです。

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Section 02

用語の定義 ― まず後遺症後遺障害既存障害既往症を分ける

重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。

2-1. 後遺症

後遺症とは、治療を続けてもなお残っている症状を広く指す日常的・医学的な言葉です。痛み、しびれ、可動域制限、麻痺、記憶障害、めまい、耳鳴り、視力低下、外貌の傷あとなどが含まれます。

ただし、後遺症があることと、自賠責保険上の後遺障害等級が認定されることは同じではありません。 自覚症状が残っていても、画像所見、神経学的所見、検査結果、治療経過、症状の一貫性などから、等級表上の後遺障害に該当しないと判断されることがあります。

2-2. 後遺障害

後遺障害とは、交通事故による傷害が治療後も残り、労働能力や日常生活に一定の影響を与えるものとして、自賠責保険の等級表に照らして評価される障害です。後遺障害等級は、介護を要する後遺障害です別表第一と、その他の後遺障害です別表第二に分かれます。

後遺障害認定の中心資料は、通常、医師が作成する後遺障害診断書、診断書、診療報酬明細書、画像資料、検査結果、カルテ、リハビリ記録、事故態様資料などです。整骨院・接骨院等の施術記録も補助資料になり得ますが、後遺障害等級判断の中核は、医師による診断、医学的所見、画像・検査資料です。

2-3. 症状固定

症状固定とは、症状が安定し、一般的な医学的治療を続けても大幅な改善が見込めなくなった状態をいいます。自賠責の後遺障害請求では、後遺障害は原則として症状固定後に評価されます。

症状固定は「もう痛くない」という意味ではありません。むしろ、痛みやしびれ、麻痺、関節可動域制限などが残っているものの、治療による改善効果が乏しくなった段階を指します。したがって、症状固定後に残った障害を、後遺障害として評価することになります。

2-4. 既存障害

既存障害とは、今回の交通事故以前から存在していた障害をいいます。典型例は次のとおりです。

  • 過去の交通事故で、頚椎捻挫後の神経症状について後遺障害14級9号の認定を受けていた。
  • 事故前から片眼を失明していた。
  • 事故前から片脚に人工関節が入っており、可動域制限があった。
  • 事故前から脊髄損傷による麻痺があった。
  • 事故前から身体障害者手帳の交付を受けていた。
  • 労災、自賠責、障害年金などで、すでに障害等級の判断を受けていた。

既存障害は、今回事故による後遺障害認定で、加重障害差額支払同一部位性労働能力喪失率の調整などの争点につながります。

2-5. 既往症

既往症とは、過去または現在の病気・症状のことです。たとえば、椎間板ヘルニア、変形性膝関節症、腰椎すべり症、糖尿病、脳梗塞既往、うつ病、認知症、難聴、骨粗鬆症などです。

既往症は、必ずしも「既存障害」と同じではありません。事故前から病気があっても、それが等級表上の障害として評価できるとは限らないからです。もっとも、事故後の症状が事故によるものか、既往症によるものかが争われる場合、医学的因果関係の判断に影響します。

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Section 03

自賠責保険における後遺障害認定の基本構造

重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。

3-1. 自賠責保険は「最低限の被害者救済」を目的とする制度

自賠責保険は、交通事故被害者を迅速かつ公平に救済するための強制保険です。任意保険や裁判上の損害賠償とは異なり、支払基準、限度額、後遺障害等級表に基づいて処理されます。

自賠責では、損害は大きく次のように分かれます。

  • 傷害による損害
  • 後遺障害による損害
  • 死亡による損害

後遺障害による損害は、等級に応じた限度額の範囲で、逸失利益、慰謝料等として扱われます。

3-2. 後遺障害等級と自賠責保険金額の概観

自賠責の後遺障害保険金額は、別表第一と別表第二で定められています。下表は、一般的な理解のための概観です。実際には等級表の各号、障害の系列、併合、加重、準用などが問題になります。

次の表は、この章の要点を項目ごとに整理したものです。比較対象や数値の違いを一度に確認できるため重要です。左から右へ、項目、判断材料、実務上の意味を読み取ってください。

区分等級自賠責保険金額の上限
別表第一 ― 介護を要する後遺障害第1級4,000万円
別表第一 ― 介護を要する後遺障害第2級3,000万円
別表第二 ― その他の後遺障害第1級3,000万円
別表第二 ― その他の後遺障害第2級2,590万円
別表第二 ― その他の後遺障害第3級2,219万円
別表第二 ― その他の後遺障害第4級1,889万円
別表第二 ― その他の後遺障害第5級1,574万円
別表第二 ― その他の後遺障害第6級1,296万円
別表第二 ― その他の後遺障害第7級1,051万円
別表第二 ― その他の後遺障害第8級819万円
別表第二 ― その他の後遺障害第9級616万円
別表第二 ― その他の後遺障害第10級461万円
別表第二 ― その他の後遺障害第11級331万円
別表第二 ― その他の後遺障害第12級224万円
別表第二 ― その他の後遺障害第13級139万円
別表第二 ― その他の後遺障害第14級75万円

この表で注意すべき点は、上限額は示談や裁判で認められる損害額そのものではないということです。とくに重い後遺障害、若年者、高収入者、介護を要する事案では、民事上の総損害額が自賠責の上限額を大きく上回ることがあります。

3-3. 自賠責の調査体制

自賠責の損害調査は、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所等によって行われます。認定が困難な事案や異議申立事案では、外部専門家が関与する自賠責保険・共済審査会で検討されることがあります。高次脳機能障害、非器質性精神障害、重度後遺障害、因果関係が複雑な事案、既存障害が絡む事案などでは、通常より慎重な資料評価が必要になります。

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Section 04

既存障害がある場合の中核ルール ― 加重障害と差額支払

重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。

次の強調表示は、加重障害で使う差額計算の考え方を示すものです。既存障害がある場合、事故後の等級そのものだけでなく、事故前から存在した部分をどのように控除するかが重要です。式の左から右へ、加重後の評価、既存障害分、今回対象額を読み取ってください。

自賠責で今回支払対象となる金額

加重後の後遺障害等級に対応する保険金額 − 既存障害の等級に対応する保険金額

4-1. 加重障害とは何か

加重障害とは、事故前から同じ部位に後遺障害があった人が、今回の事故によってその障害の程度をさらに重くした場合をいいます。

自賠責保険実務では、すでに後遺障害のある人が、今回の事故で同一部位について後遺障害の程度を加重したとき、加重後の後遺障害に対応する保険金額から、既存の後遺障害に対応する保険金額を差し引く形で扱われます。

式で表すと、次のようになります。

整理例自賠責で今回支払対象となる金額
= 加重後の後遺障害等級に対応する保険金額
- 既存障害の等級に対応する保険金額

この考え方は、「今回の事故によって新たに悪化した部分」を自賠責で評価するという発想に基づきます。

4-2. 例1 ― 既存障害12級が、今回事故で10級に悪化した場合

たとえば、事故前から同一部位に12級相当の後遺障害があり、今回事故で同じ部位が10級相当に悪化したとします。

  • 加重後 ― 10級 461万円
  • 既存障害 ― 12級 224万円
  • 差額 ― 461万円 − 224万円 = 237万円

この場合、自賠責上は差額です237万円が問題になります。これは「10級の障害が認められない」という意味ではありません。加重後の状態としては10級相当であっても、事故前から存在した12級相当分を控除するという処理です。

4-3. 例2 ― 既存障害14級が、今回事故でも14級相当にとどまる場合

事故前に同一部位の14級相当の後遺障害があり、今回事故後も同じ部位について14級相当の状態にとどまる場合、形式上は加重がないと判断される可能性があります。

  • 加重後 ― 14級 75万円
  • 既存障害 ― 14級 75万円
  • 差額 ― 0円

この場合、自賠責上、同一部位について新たな後遺障害保険金の支払対象とならない可能性があります。

ただし、ここで重要なのは、事故後の症状が本当に事故前と同程度なのか、事故前は就労・日常生活に支障が少なかったのに事故後は明らかに支障が増えているのか、画像や神経学的所見に変化があるのか、治療経過に一貫性があるのか、という医学的・実務的検討です。

4-4. 例3 ― 事故前の障害と事故後の障害が別部位の場合

事故前に右膝の後遺障害があり、今回事故で頚部神経症状が残った場合、通常は「同一部位の加重」ではありません。この場合、右膝の既存障害をそのまま差し引くのではなく、今回事故による頚部症状について独立に等級該当性が検討されます。

もっとも、民事賠償では、被害者全体としての労働能力喪失、既存障害による就労制限、事故前収入などが問題になります。したがって、自賠責では別部位として認定されても、示談・裁判では既存障害の影響が逸失利益の算定に反映されることがあります。

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Section 05

既存障害がある場合の後遺障害認定 ― 同一部位とは何か ― 実務上もっとも争われやすい論点

重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。

次の一覧は、同一部位性を判断するときの視点を整理したものです。身体の場所だけでなく、機能や等級表上の系列を確認する必要があるため重要です。各項目から、既存障害と今回障害が連続しているかを読み取ってください。

身体部位

同じ首、膝、眼など、身体部位が連続しているかを確認します。

機能の種類

可動域制限、神経症状、欠損、視力、聴力、精神機能などを見ます。

等級表上の系列

同じ上肢でも肩、肘、手指、神経症状は系列が異なり得ます。

5-1. 同一部位は単なる身体の近さだけで決まらない

加重障害の判断では、「同一部位」かどうかが重要です。ただし、同一部位とは、単に身体の場所が近いという意味ではありません。後遺障害等級実務では、障害の部位、系列、機能、評価対象が問題になります。

たとえば、同じ「上肢」でも、肩関節の可動域制限、肘関節の可動域制限、手指の欠損、神経症状は評価の系列が異なり得ます。同じ「頭部」でも、高次脳機能障害、視力障害、聴力障害、外貌醜状は評価対象が異なります。

5-2. 同一部位性を検討する視点

実務上は、次の観点から同一部位性を検討します。

  • 身体部位が同じか。
  • 機能障害の種類が同じか。
  • 等級表上の系列が同じか。
  • 事故前後で障害の評価対象が連続しているか。
  • 既存障害が今回の障害評価に含まれるか。
  • 事故後の障害が、既存障害とは別個に評価できるか。
  • 併合、準用、加重のいずれで処理するのが妥当か。

5-3. 争点になりやすい例

頚椎・腰椎の神経症状

過去に頚椎捻挫で14級9号が認定され、今回事故でも頚部痛・上肢しびれが残った場合、同一部位の加重か、再受傷による新たな症状か、事故前の症状が消失していたかが問題になります。過去認定から長期間が経過し、事故前は通院も症状もなかった場合には、単純に既存障害が残存していたと評価できるのかが争点になります。

膝関節

事故前から片膝に可動域制限があり、今回事故で同じ膝の可動域がさらに制限された場合、同一部位の加重が問題になります。一方、事故前は右膝、今回事故は左膝であれば、左右別部位として評価される可能性があります。

事故前から片眼失明があり、今回事故で他眼の視力が低下した場合、単純に「別の眼だから既存障害を無視する」というわけではありません。視機能全体としての評価、両眼視機能、等級表上の規定を踏まえて、非常に慎重な判断が必要です。眼科専門医の診断、視力検査、視野検査、眼底所見などが重要になります。

高次脳機能障害

事故前から脳梗塞、認知症、発達障害、精神疾患などがある場合、事故後の記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害が事故による脳外傷に基づくものか、既往症の影響かが争点になります。頭部画像、意識障害の有無、神経心理学的検査、家族・職場からの事故前後比較資料が特に重要です。

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Section 06

既存障害と既往症はどう違うか

重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。

6-1. 既存障害は「事故前から評価対象となる障害があった」場合

既存障害は、事故前から障害として存在していた状態です。過去に後遺障害等級認定を受けている場合は典型ですが、認定を受けていなくても、医学的・客観的に等級相当の障害があったと評価される場合があります。

たとえば、事故前から膝の可動域が大きく制限され、歩行に明らかな支障があり、医療記録にも継続的に記載されていた場合には、過去に自賠責の等級認定を受けていなくても、既存障害として評価されることがあります。

6-2. 既往症は「事故前から病気や変性があった」場合

既往症は、病気や医学的状態です。椎間板膨隆、脊柱管狭窄、変形性関節症、骨粗鬆症、糖尿病性神経障害などが典型です。

既往症があると、保険会社から次のような主張がされることがあります。

  • 事故後の症状は事故によるものではなく、既往症によるものではないか。
  • 事故はきっかけにすぎず、主因は加齢性変化ではないか。
  • もともと就労能力が低下していたのではないか。
  • 治療期間が長引いたのは既往症のためではないか。
  • 後遺障害が残ったとしても、事故の寄与度は限定的ではないか。

しかし、既往症があるからといって、事故との因果関係が当然に否定されるわけではありません。実務上は、事故の外力、事故前症状の有無、事故直後からの症状出現、診療経過、画像所見、神経学的所見、症状の一貫性、既往症の程度などを総合して判断します。

6-3. 加齢性変化がある人は不利なのか

高齢者や中高年者では、MRIやX線で椎間板変性、骨棘、脊柱管狭窄、関節症変化が見つかることがあります。これらは年齢相応の変化として珍しくありません。

重要なのは、画像上の変性所見があることと、事故後の症状が事故によって発生・悪化したことは両立し得るという点です。事故前は無症状だったのに、事故後すぐに痛みやしびれが出現し、通院経過・検査結果・症状の一貫性がある場合、変性所見があるだけで事故との関係が否定されるわけではありません。

もっとも、既往症が高度で、事故前から同様の症状が強く存在していた場合や、事故の外力が軽微で、事故後所見に変化が乏しい場合は、因果関係や寄与度が争われやすくなります。

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Section 07

既存障害がある場合の後遺障害認定 ― 自賠責の加重と民事賠償の素因減額は別問題

重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。

次の強調表示は、加重障害で使う差額計算の考え方を示すものです。既存障害がある場合、事故後の等級そのものだけでなく、事故前から存在した部分をどのように控除するかが重要です。式の左から右へ、加重後の評価、既存障害分、今回対象額を読み取ってください。

自賠責で今回支払対象となる金額

加重後の後遺障害等級に対応する保険金額 − 既存障害の等級に対応する保険金額

7-1. 自賠責の加重障害

自賠責の加重障害は、制度上、既存障害と加重後障害の等級・保険金額を比較し、差額を支払うという発想です。これは自賠責保険金額の算定ルールです。

7-2. 民事賠償の素因減額

一方、民事賠償では、既往症や身体的・精神的素因が損害の発生・拡大に寄与した場合、公平の観点から賠償額を調整することがあります。これを一般に素因減額といいます。

ただし、素因減額は「被害者に弱いところがあったら必ず減額」という単純な制度ではありません。裁判実務では、疾患といえる程度か、通常人にもあり得る身体的特徴にすぎないか、事故前に症状や生活上の支障があったか、事故の外力がどの程度か、損害拡大への寄与がどの程度かを検討します。

7-3. 自賠責で差額支払でも、裁判での賠償が差額だけとは限らない

自賠責で加重障害として差額支払になった場合でも、民事上の損害賠償では、次のような点が別途問題になります。

  • 加重後の労働能力喪失率
  • 既存障害による事故前の労働能力喪失
  • 事故前の収入実態
  • 事故後の就労制限
  • 将来介護の必要性
  • 住宅改造、装具、車両改造、付添看護
  • 慰謝料
  • 既往症の寄与度
  • 過失相殺

したがって、自賠責の結果通知だけを見て「これで全部終わり」と判断するのは危険です。とくに、既存障害があり、今回事故で生活の自立度や就労能力が大きく変わった場合は、弁護士が医学資料と生活実態資料を組み合わせて、民事上の損害を再構成する余地があります。

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Section 08

既存障害がある事案で、医学的に何を証明すべきか

重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。

8-1. 医学的評価の核心は「事故前後の比較」

既存障害がある事案で最重要なのは、事故前と事故後の比較です。単に「事故後に痛い」と主張するだけでは不十分で、次の比較が必要になります。

次の表は、この章の要点を項目ごとに整理したものです。比較対象や数値の違いを一度に確認できるため重要です。左から右へ、項目、判断材料、実務上の意味を読み取ってください。

比較項目確認すべき資料
事故前の症状事故前のカルテ、健康診断、介護記録、職場資料、本人・家族の陳述
事故前の通院状況通院頻度、投薬、リハビリ、診断名
事故前の画像X線、CT、MRI、過去の読影所見
事故前の生活能力歩行、家事、運転、就労、学校生活、介護度
事故前の就労能力職務内容、勤務時間、休職歴、配置転換、収入
事故後の症状初診時記録、症状の推移、神経学的所見
事故後の画像・検査新鮮骨折、出血、靱帯損傷、神経損傷、脳損傷等
事故後の生活変化介助量、外出頻度、家族の負担、復職状況
事故後の機能評価関節可動域、筋力、感覚、歩行能力、神経心理検査

8-2. 整形外科領域で重要な資料

整形外科領域では、骨折、脱臼、靱帯損傷、脊椎損傷、関節可動域制限、神経症状が中心です。以下が重要です。

  • 初診時の外傷所見
  • X線、CT、MRIなどの画像
  • 可動域測定値
  • 徒手筋力検査
  • 腱反射、知覚検査、スパーリングテスト、SLRテスト等
  • 骨癒合の状態
  • 手術記録
  • リハビリ記録
  • 痛み・しびれの部位と一貫性
  • 事故前の同部位治療歴

既存障害がある場合、事故前の画像と事故後の画像を比較することが非常に重要です。たとえば、事故後のMRIで椎間板ヘルニアが見つかっても、それが事故前から存在していたのか、事故により新たに発生・悪化したのかを検討する必要があります。

8-3. 脳神経外科・神経内科領域で重要な資料

頭部外傷、高次脳機能障害、脊髄損傷、末梢神経障害では、次の資料が重要です。

  • 事故直後の意識障害の有無と程度
  • 頭部CT・MRI
  • 脳挫傷、外傷性くも膜下出血、びまん性軸索損傷等の所見
  • 神経学的所見
  • 神経心理学的検査
  • 家族・職場・学校から見た事故前後の変化
  • リハビリ経過
  • 既往の脳梗塞、認知症、精神疾患、発達特性の資料

高次脳機能障害では、本人が自分の障害を十分に自覚できないことがあります。そのため、家族、職場、学校、リハビリ職の観察記録が重要になります。

8-4. 精神科・心療内科領域で重要な資料

交通事故後には、PTSD、不安障害、うつ状態、不眠、適応障害、非器質性精神障害が問題になることがあります。事故前から精神疾患がある場合、事故後の悪化が事故によるものか、既往症の経過かが争点になります。

重要資料は次のとおりです。

  • 事故前の診療記録
  • 事故後の症状出現時期
  • 事故に関する再体験、回避、過覚醒などの症状
  • 服薬内容の変化
  • 就労・学業・家事能力の変化
  • 心理検査
  • 家族・職場の陳述
  • 身体障害との相互影響

精神症状は外部から見えにくく、既往症があると争われやすい領域です。治療の継続性、症状の具体性、事故との時間的関係を丁寧に記録することが大切です。

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Section 09

専門職別に見る、既存障害事案の重要ポイント

重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。

交通事故は、現場対応、医療、保険、法律、車両技術、福祉・生活再建が重なる総合領域です。既存障害がある事案では、各専門職の情報が後遺障害認定や損害賠償に影響します。

9-1. 警察官・交通事故捜査担当

警察資料は、事故態様、衝突方向、速度、転倒状況、歩行者・自転車・車両の位置関係を把握する基礎資料です。既存障害があると、保険会社から「事故の外力が軽微だった」と主張されることがあります。そのため、実況見分調書、物件事故報告書、人身事故証明書、現場写真、信号状況、防犯カメラ、ドライブレコーダーが重要になります。

9-2. 救急隊員・救急救命士・救急医

救急搬送時の記録には、事故直後の意識状態、疼痛部位、麻痺、外傷所見、搬送先、バイタルサインが残ります。事故直後から症状があったかどうかは、因果関係判断に大きく影響します。既存障害がある場合ほど、初期記録の価値は高くなります。

9-3. 整形外科医・脳神経外科医・各専門医

医師は、診断、治療、検査、症状固定、後遺障害診断書の作成に関わります。後遺障害診断書では、単に症状名を書くのではなく、可動域、神経学的所見、画像所見、検査結果、日常生活への影響、事故前障害との違いを可能な範囲で明確にすることが重要です。

ただし、医師に対して「この等級になるように書いてほしい」と求めるのは適切ではありません。被害者側がすべきことは、事故前後の症状・生活・就労の変化を具体的に伝え、必要な検査や記録の漏れを防ぐことです。

9-4. 看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士

リハビリ記録や看護記録には、日々の動作能力、疼痛、歩行状態、認知面、ADL、介助量が記録されます。既存障害がある場合、事故前と比べて何ができなくなったのかを具体化するうえで、これらの記録は非常に有用です。

9-5. 弁護士

弁護士の役割は、医学資料と法的主張を結び付けることです。とくに既存障害がある事案では、次の作業が重要になります。

  • 事故前資料の収集
  • 事故後資料の不足確認
  • 後遺障害診断書の記載漏れ確認
  • 画像資料の取寄せ
  • 異議申立理由書の作成
  • 医師への照会書作成
  • 自賠責結果と民事損害の切り分け
  • 素因減額への反論
  • 逸失利益・介護費・慰謝料の再構成
  • ADR、訴訟の選択

既存障害事案では、単純な慰謝料交渉ではなく、医学的因果関係と損害算定を同時に扱う必要があるため、交通事故に精通した弁護士の関与が有効です。

9-6. 保険会社担当者・損害調査担当

保険会社・損害調査担当は、診療経過、既往歴、事故態様、後遺障害資料、過去認定歴などを確認します。既存障害照会制度により、過去の自賠責後遺障害認定情報が確認される場合があります。過去認定歴を隠しても、後に判明すると説明の信用性を損ねるおそれがあります。

9-7. 交通事故鑑定人・工学鑑定人・車両整備士

事故の衝撃がどの程度だったか、車両損傷と人体損傷の関係、速度、衝突角度、シートベルト、エアバッグ、ドライブレコーダー、EDRなどは、因果関係をめぐる争点に関係します。とくに軽微衝突と主張される事案では、車両損傷写真、修理見積、フレーム損傷、部品交換内容が重要になります。

9-8. 社会保険労務士・福祉職・心理職

労災、障害年金、傷病手当金、介護保険、障害福祉サービス、復職支援、就労支援は、生活再建に直結します。交通事故賠償だけで生活全体を支えることが難しい場合、社会保障制度との関係を整理する必要があります。重度後遺障害や既存障害がある被害者では、福祉職・心理職の支援が賠償実務にも影響します。

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Section 10

後遺障害申請で準備すべき資料

重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。

10-1. 基本資料

既存障害がある場合でも、通常の後遺障害申請と同様、次の資料が基礎になります。

  • 交通事故証明書
  • 診断書
  • 診療報酬明細書
  • 後遺障害診断書
  • 画像資料
  • 検査結果
  • 事故状況説明書
  • 車両損傷写真
  • 修理見積書
  • ドライブレコーダー映像
  • 通院交通費明細
  • 休業損害資料

10-2. 既存障害事案で追加的に重要な資料

既存障害がある場合は、次の資料を積極的に準備します。

  • 過去の後遺障害等級認定票
  • 過去事故の診断書・後遺障害診断書
  • 身体障害者手帳、障害年金証書、労災障害等級資料
  • 事故前のカルテ、画像、検査結果
  • 事故前の通院頻度・薬の内容
  • 事故前の就労状況、給与明細、源泉徴収票、確定申告書
  • 事故前の介護認定資料、福祉サービス利用状況
  • 事故前後の家族・職場・学校の陳述書
  • 事故前後の写真・動画
  • リハビリ記録、看護記録、訪問介護記録
  • 事故前後の日常生活動作表

10-3. 陳述書の作り方

既存障害事案では、本人・家族の陳述書が重要です。ただし、感情的な訴えだけでは不十分です。次のように、事故前後の具体的変化を整理します。

整理例事故前 ―
・週5日、事務職として勤務していた。
・右膝に痛みはあったが、通勤、買い物、家事は自力でできていた。
・階段は手すりを使えば昇降可能だった。
・通院は月1回程度だった。

事故後 ―
・右膝痛が増悪し、杖なしで外出できない。
・階段昇降が困難で、勤務先の部署変更を余儀なくされた。
・通院は週2回となり、鎮痛薬も増えた。
・家族が買い物、掃除、入浴準備を手伝っている。

ポイントは、「事故前から悪かったが、事故後にどの程度悪化したか」を具体的に示すことです。

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Section 11

既存障害がある場合の後遺障害認定 ― 申請方法 ― 事前認定と被害者請求

重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。

11-1. 事前認定

事前認定とは、任意保険会社が自賠責に後遺障害認定を照会する方法です。被害者にとって手続負担が少ない一方、提出資料の選択・補充を保険会社任せにしやすいという弱点があります。既存障害があり、資料の出し方が結果に大きく影響する事案では、注意が必要です。

11-2. 被害者請求

被害者請求とは、被害者が加害者側の自賠責保険会社に直接請求する方法です。資料を自分側で整えやすく、既存障害の説明資料、事故前後比較資料、医師の意見書、陳述書などを主体的に提出できます。

既存障害事案では、被害者請求の方が、提出資料をコントロールしやすいという利点があります。ただし、資料収集の負担が大きいため、弁護士が代理して進めることも多いです。

11-3. 時効に注意

自賠責の被害者請求には時効があります。後遺障害については、症状固定日の翌日から一定期間内に請求する必要があります。実務では時効更新の手続が必要になることもあります。既存障害があるため調査や資料収集に時間がかかる場合は、早めの確認が重要です。

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Section 12

既存障害がある場合の後遺障害認定 ― 認定結果が出た後に見るべきポイント

重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。

自賠責の後遺障害認定結果が届いたら、単に「何級か」だけでなく、次の点を確認します。

  1. どの障害が認定されたか。
  2. どの障害が非該当とされたか。
  3. 既存障害として何が考慮されたか。
  4. 加重障害として差額処理されたか。
  5. 同一部位と判断された理由は何か。
  6. 画像所見・検査所見がどのように評価されたか。
  7. 治療経過や症状の一貫性がどう評価されたか。
  8. 既往症・変性所見が因果関係判断に影響したか。
  9. 異議申立に必要な追加資料は何か。
  10. 民事賠償で争うべき損害項目は何か。

認定票の文言は抽象的なことが多く、一般の方には読み取りが難しい場合があります。既存障害が絡む事案では、認定理由の読み解き自体が専門的作業です。

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Section 13

既存障害がある場合の後遺障害認定 ― 異議申立・紛争処理・訴訟

重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。

13-1. 異議申立

後遺障害等級、非該当、加重判断、既存障害の扱いに不服がある場合、異議申立を検討できます。異議申立で重要なのは、「不満を述べる」ことではなく、初回認定の判断を変えるだけの新しい資料または論理を提出することです。

有効になり得る資料は次のとおりです。

  • 事故前後画像の比較意見
  • 主治医の意見書
  • 専門医の意見書
  • 追加検査結果
  • 神経学的所見の補充
  • 可動域測定の再確認
  • 家族・職場の陳述書
  • 事故態様資料
  • 過去認定障害が現在も残っていたか否かに関する資料
  • 事故前は就労・生活に支障が少なかったことを示す資料

13-2. 自賠責保険・共済紛争処理機構

自賠責の支払内容に不服がある場合、国が指定した公正・中立な第三者機関です自賠責保険・共済紛争処理機構の手続を利用できる場合があります。後遺障害等級、非該当、因果関係、過失割合などが対象になり得ます。

紛争処理は、訴訟よりも簡易・専門的な手続として位置づけられます。ただし、どの資料を出すか、どの争点に絞るかによって結果が左右されます。既存障害事案では、医学的意見書と事故前後比較資料の整備が特に重要です。

13-3. 訴訟

自賠責の認定は裁判所を拘束しません。裁判所は、証拠に基づいて独自に因果関係、後遺障害の程度、労働能力喪失、慰謝料、素因減額を判断します。

もっとも、実務上、自賠責の認定は重要な参考資料になります。したがって、訴訟を見据える場合でも、自賠責段階でどの資料を提出し、どのような認定を得るかは重要です。

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Section 14

既存障害がある場合の後遺障害認定 ― ケース別検討

重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。

ケース1 ― 過去に頚椎捻挫で14級認定、今回も頚部痛・しびれが残った

このケースでは、同一部位の加重か、再受傷による新たな障害かが問題になります。過去の14級障害が事故時点でも実質的に残っていたと評価されると、今回も14級相当では差額が生じない可能性があります。

一方、過去認定後、長期間通院がなく、事故前は症状が消失または軽微で、就労・日常生活に支障がなかった場合には、「既存障害として現在も控除すべきか」を争う余地があります。過去の診療終了後の生活状況、勤務実績、事故直前の健康状態が重要です。

ケース2 ― 事故前から右膝に12級相当の可動域制限、今回事故で10級相当に悪化

このケースは典型的な加重障害です。事故前の右膝可動域、事故後の右膝可動域、画像所見、手術内容、リハビリ経過を比較し、12級から10級への加重が認められれば、自賠責上は差額支払が問題になります。

民事賠償では、事故前からの労働能力制限と事故後の追加的制限をどう評価するかが争点です。事故前は勤務可能だったが事故後に退職を余儀なくされた場合、逸失利益の評価は慎重に検討すべきです。

ケース3 ― 事故前から片眼失明、今回事故で他眼の視力低下

このケースは重篤で、眼科専門医の評価が不可欠です。片眼失明という既存障害があるため、他眼の視力低下は生活・就労に極めて大きな影響を与えることがあります。自賠責上の等級表、視力値、視野、両眼視機能、既存障害との関係を詳細に検討します。

民事賠償では、日常生活自立度、就労可能性、介助の必要性、将来リスク、精神的影響も含めて検討する必要があります。

ケース4 ― 高齢者で腰部脊柱管狭窄があり、事故後に腰痛・下肢しびれが悪化

このケースでは、加齢性変化・既往症と事故との因果関係が争われやすいです。事故前に同様の症状があったか、事故直後から症状が増悪したか、MRIで神経圧迫や外傷性変化があるか、神経学的所見が一貫しているかが重要です。

変性所見があるだけで事故との関係が否定されるわけではありません。しかし、事故前から同程度の症状があり、事故後の医学的変化が乏しい場合には、後遺障害認定や損害額で不利になる可能性があります。

ケース5 ― 事故前からうつ病治療中、事故後にPTSD様症状と就労困難が悪化

このケースでは、事故前の精神疾患と事故後症状の関係が争点です。事故後にどのような症状が新たに出たのか、事故体験と症状との関係、服薬や通院頻度の変化、就労能力の変化を具体的に示す必要があります。

精神科・心療内科の診療記録、心理検査、家族・職場の陳述、身体障害との相互作用を整理することが重要です。

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Section 15

既存障害がある場合の後遺障害認定 ― 保険会社からよくある主張と反論の方向性

重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。

主張1 ― 「もともとの障害なので、今回事故とは関係ありません」

反論の方向性 ― 事故前後の症状、通院、就労、生活能力を比較します。事故前は支障が限定的だったのに、事故後に明らかに悪化した事実を示します。初診記録、画像、リハビリ記録、家族・職場の陳述が重要です。

主張2 ― 「画像上、加齢性変化しかありません」

反論の方向性 ― 加齢性変化の存在と、事故による症状発生・悪化は両立し得ます。事故直後からの症状、神経学的所見、治療経過の一貫性、事故外力、事故前無症状または軽症だったことを示します。

主張3 ― 「既存障害があるので、後遺障害は認められません」

反論の方向性 ― 既存障害がある場合の正しい問題は、認定否定ではなく、同一部位か、加重したか、差額処理すべきかです。事故後の障害が既存障害より重いこと、または別部位・別系列の障害ですことを示します。

主張4 ― 「事故の衝撃が軽微です」

反論の方向性 ― 車両損傷、修理費、部品交換、乗車姿勢、身体の動き、シートベルト、エアバッグ、ドライブレコーダー、救急搬送、初診記録を確認します。軽微衝突と見える事故でも、被害者の姿勢や既存の脆弱性により症状が出ることがあります。ただし、医学的説明可能性が必要です。

主張5 ― 「治療期間が長すぎます」

反論の方向性 ― 症状の推移、治療内容、医師の判断、リハビリ効果、既存障害による回復遅延の医学的説明を整理します。漫然治療と評価されないよう、治療目的、改善経過、症状固定時期を明確にします。

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Section 16

既存障害がある場合の後遺障害認定 ― 弁護士に相談すべきタイミング

重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。

既存障害がある交通事故では、次の場合、早めに交通事故に詳しい弁護士へ相談することを推奨します。

  • 事故前から障害者手帳、障害年金、労災等級、自賠責等級がある。
  • 過去にも同じ部位で交通事故の後遺障害認定を受けている。
  • 保険会社から「既往症」「加齢性変化」「もともとの障害」と言われた。
  • 治療打切りを求められている。
  • 症状固定時期に争いがある。
  • 後遺障害診断書に何を書いてもらうべきかわからない。
  • 事前認定で非該当、または想定より低い等級になった。
  • 加重障害として差額が少なくなった。
  • 高次脳機能障害、脊髄損傷、視力障害、聴力障害、精神障害がある。
  • 事故後に仕事を失った、配置転換になった、介護が必要になった。
  • 将来介護費、住宅改造費、装具費、逸失利益が大きい。

特に、後遺障害診断書を作成する前、被害者請求をする前、異議申立をする前は、資料の整え方が結果に大きく影響するため、相談の価値が高い時期です。

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Section 17

既存障害がある場合の後遺障害認定 ― 実務上の判断手順

重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。

次の判断の流れは、事故発生から認定結果の分析までを順番に整理したものです。既存障害がある事案では、どの段階で事故前資料を集め、どこで同一部位や加重を確認するかが重要です。上から順に、申請前に不足しやすい準備を読み取ってください。

実務上の判断の流れ

交通事故発生

事故直後の症状と事故態様を記録します。

事故前資料を収集

過去の認定、事故前カルテ、画像、障害者手帳、就労・生活資料を集めます。

同一部位か確認

部位、系列、機能、評価対象が連続しているかを見ます。

加重あり
差額支払を検討

加重後等級額から既存障害分を控除します。

別部位・非該当
追加資料を検討

医学意見、陳述書、事故態様資料を補います。

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Section 18

既存障害がある場合の後遺障害認定のよくある質問

重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。

Q1. 過去に後遺障害14級を受けていると、今回も14級は取れませんか。

同一部位で、事故時点でも既存の14級相当障害が残っており、今回事故後も14級相当の範囲にとどまると判断される場合、加重がないとして自賠責上の差額が生じない可能性があります。

しかし、過去認定から長期間が経ち、事故前は通院も症状もなく、今回事故で新たに症状が発生したと評価できる場合には、争う余地があります。過去の障害が実質的に残存していたかが重要です。

Q2. 身体障害者手帳があると、交通事故の後遺障害認定で不利ですか。

手帳があること自体で、今回事故の後遺障害認定が否定されるわけではありません。ただし、事故前から存在した障害の内容、等級、生活・就労への影響は重要な資料になります。事故によってどの部位・機能がどの程度悪化したか、または新たに障害が生じたかを明確にする必要があります。

Q3. 椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄があると、むち打ちの後遺障害は認められませんか。

必ず否定されるわけではありません。事故前は無症状または軽症だったのに、事故後から一貫して痛み・しびれが続き、医学的に説明可能な所見がある場合、等級認定の余地があります。ただし、既往症の程度が強い場合は、因果関係や寄与度が争われます。

Q4. 保険会社に過去の障害を言わない方がよいですか。

隠すべきではありません。過去の後遺障害認定歴は照会されることがありますし、後から判明すると説明の信用性に悪影響が出ます。重要なのは、過去の障害を正確に開示したうえで、今回事故による悪化・新規障害を資料で説明することです。

Q5. 医師が後遺障害診断書を書いてくれません。

医師は、診察した患者から診断書の交付を求められた場合、正当な事由がなければ拒めないとされます。ただし、医師が「後遺障害がある」と判断していない場合に、患者の希望する結論を書いてもらえるわけではありません。まずは、症状固定時期、残存症状、検査の必要性、事故前後の変化を丁寧に相談することが大切です。

Q6. 自賠責で非該当になったら終わりですか。

終わりではありません。異議申立、紛争処理機構、訴訟などの選択肢があります。ただし、同じ資料を再提出するだけでは結果が変わりにくいため、非該当理由を分析し、追加資料や医学的意見を整える必要があります。

Q7. 既存障害がある場合、弁護士費用をかける意味はありますか。

事案によりますが、既存障害があるケースほど、医学資料の整理、加重・同一部位・素因減額への反論、逸失利益の算定、異議申立の設計が複雑になります。損害額が大きい場合や、等級・因果関係が争われている場合は、弁護士関与の効果が出やすい領域です。自動車保険に弁護士費用特約がある場合は、利用できるか確認すべきです。

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Section 19

既存障害がある場合の後遺障害認定 ― 相談前チェックリスト

重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。

弁護士や専門家に相談する前に、可能な範囲で次の資料を集めると、相談の質が上がります。

次の表は、相談前に確認したい資料を項目ごとに整理したものです。資料の有無によって、事故前後の差や保険会社の主張への反論の具体性が変わるため重要です。上から順に、手元にあるものと追加取得が必要なものを読み取ってください。

確認資料
交通事故証明書
診断書・診療報酬明細書
後遺障害診断書
画像資料(X線、CT、MRI)
検査結果
事故前のカルテ・画像
過去の後遺障害等級認定票
身体障害者手帳
障害年金・労災等級資料
事故前後の勤務資料
給与明細・源泉徴収票・確定申告書
事故前後の日常生活の変化メモ
家族・職場・学校の陳述書
車両損傷写真
修理見積書
ドライブレコーダー映像
保険会社からの書面
自賠責の認定結果通知
既往症・持病に関する資料

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Section 20

既存障害がある場合の後遺障害認定 ― 実務上の注意 ― やってはいけないこと

重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。

20-1. 過去の障害・既往症を隠す

隠しても照会や医療記録で判明する可能性があります。説明の信用性を損ねるため、正確に開示したうえで、今回事故との違いを説明する方が実務上有利です。

20-2. 医師に結論を押しつける

医師は医学的判断を行う立場です。「この等級にしてください」と迫るのではなく、事故前後の変化、困っている動作、症状の具体性を伝え、必要な検査や記録を相談します。

20-3. 症状固定前に後遺障害申請を急ぐ

後遺障害は症状固定後に評価されます。治療による改善が見込める段階で申請すると、資料不足や時期尚早の問題が生じます。一方で、漫然と治療を長引かせると、治療の必要性や因果関係を争われることがあります。

20-4. 認定結果だけで示談する

自賠責結果は重要ですが、民事賠償のすべてではありません。とくに既存障害事案では、逸失利益、介護費、慰謝料、素因減額、将来費用を別途検討する必要があります。

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Section 21

既存障害がある場合の後遺障害認定 ― 専門的補足 ― 等級認定で使われる系列併合準用加重

重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。

次の強調表示は、加重障害で使う差額計算の考え方を示すものです。既存障害がある場合、事故後の等級そのものだけでなく、事故前から存在した部分をどのように控除するかが重要です。式の左から右へ、加重後の評価、既存障害分、今回対象額を読み取ってください。

自賠責で今回支払対象となる金額

加重後の後遺障害等級に対応する保険金額 − 既存障害の等級に対応する保険金額

21-1. 系列

系列とは、障害を部位・機能ごとに分類する考え方です。眼、耳、口、神経系統、精神、胸腹部臓器、脊柱、上肢、下肢、手指、足指など、障害の種類ごとに評価します。同一系列か別系列かは、併合や加重の判断に影響します。

21-2. 併合

複数の後遺障害が残った場合、それぞれの等級を一定のルールで組み合わせ、最終等級を決めることがあります。たとえば、右上肢と左下肢に別々の障害が残った場合などです。ただし、すべての障害を単純に足し算するわけではありません。

21-3. 準用

等級表に明確に当てはまる項目がない場合でも、障害の程度が既存の等級に相当すると評価できるときは、準用により等級が判断されることがあります。特殊な障害、複合障害、医学的に説明が難しい障害で問題になります。

21-4. 加重

加重は、既存障害が同一部位で悪化した場合の処理です。加重後の障害等級と既存障害等級を比較し、自賠責上は差額支払が問題になります。既存障害事案の中心概念です。

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Section 22

既存障害がある場合の後遺障害認定のまとめ

重要な論点と確認資料を、一般情報として整理します。

既存障害がある場合の後遺障害認定は、通常の後遺障害認定より複雑です。しかし、既存障害があるからといって、後遺障害認定が当然に否定されるわけではありません。

重要なのは、次の5点です。

  1. 既存障害と既往症を区別します。

事故前から障害等級相当の状態があったのか、単なる病歴・変性所見なのかを分けます。

  1. 同一部位か別部位かを確認します。

同一部位なら加重障害と差額支払が問題になり、別部位なら新たな障害として評価される可能性があります。

  1. 事故前後の比較資料を集める。

事故前カルテ、画像、就労資料、生活状況、家族・職場の陳述が重要です。

  1. 医学的因果関係を丁寧に説明します。

事故直後の症状、画像、検査、治療経過、症状の一貫性を整理します。

  1. 自賠責認定と民事賠償を分けて考える。

自賠責で加重差額になっても、民事上の逸失利益、慰謝料、介護費、将来費用は別途検討されます。

交通事故被害者にとって、既存障害は「不利な事情」になり得ますが、同時に、事故によって生活や就労がどれほど変わったかを正確に示せば、適切な評価につながる事情でもあります。過去の障害を隠すのではなく、正確に開示し、事故前後の差を医学的・法的に組み立てることが、適正な後遺障害認定と損害賠償への近道です。

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Reference

参考資料

  • e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法施行令」
  • 国土交通省「支払までの流れと請求方法」
  • 損害保険料率算出機構「自賠責保険(共済)損害調査に関する支払基準」
  • 損害保険料率算出機構「当機構で行う損害調査」
  • 日本損害保険協会「既存障害照会制度」
  • 厚生労働省「障害等級の認定基準」
  • e-Gov法令検索「医師法」
  • 一般財団法人 自賠責保険・共済紛争処理機構
  • e-Gov法令検索「民法」
  • 最高裁平成4年6月25日第一小法廷判決・民集46巻4号400頁
  • 最高裁平成8年10月29日第三小法廷判決・民集50巻9号2474頁