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人権DD(デューデリジェンス)の法的要請
企業法務・サプライチェーン実務の要点

人権DDは、任意のCSRではなく、国際基準、国内外法制、公共調達、契約、開示、M&A、内部統制が交差する法務・経営の統制課題です。

5層 法的要請の整理
6段階 OECD型プロセス
2029年 EU CSDDD適用目安
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人権DD(デューデリジェンス)の法的要請 企業法務・サプライチェーン実務の要点

人権DDは、任意のCSRではなく、国際基準、国内外法制、公共調達、契約、開示、M&A、内部統制が交差する法務・経営の統制課題です。

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人権DD(デューデリジェンス)の法的要請 企業法務・サプ
ライチェーン実務の要点
人権DDは、任意のCSRではなく、国際基準、国内外法制、公共調達、契約、開示、M&A、内部統制が交差する法務・経営の統制課題です。
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  • 人権DD(デューデリジェンス)の法的要請 企業法務・サプライチェーン実務の要点
  • 人権DDは、任意のCSRではなく、国際基準、国内外法制、公共調達、契約、開示、M&A、内部統制が交差する法務・経営の統制課題です。

POINT 1

  • 人権DD(デューデリジェンス)の法的要請の全体像
  • 取引先からの要請
  • サプライヤー行動規範、監査、是正要求、契約解除、取引停止が問題になります。
  • 海外法制の影響

POINT 2

  • 人権DDの定義と国際基準
  • 1. 1. 方針・管理体制へ組み込む:責任ある企業行動を社内規程、役割分担、取引先管理に反映します。
  • 2. 2. 負の影響を特定・評価する:事業、サプライチェーン、取引関係の実際または潜在的な影響を確認します。
  • 3. 3. 停止・防止・軽減する:リスクに応じた予防策、是正策、購買慣行の見直しを実施します。
  • 4. 4. 実施状況を追跡する:監査、KPI、苦情処理、是正完了状況で有効性を確認します。
  • 5. 5. 対応を説明・開示する:方針、重点課題、対応策、課題、改善計画を説明します。
  • 6. 6. 救済を行う、または協力する:必要な場合は、被害回復や再発防止に関与します。

POINT 3

  • 日本における人権DDの法的要請
  • 政府ガイドライン、公共調達、会社法 ・内部統制、既存法との接続を確認します。
  • 公共調達で説明できる状態を作る
  • 会社法・内部統制との関係
  • 2023年には、実務担当者、とりわけ中小企業や初めて取り組む企業にも使いやすい実務参照資料が公表されています。

POINT 4

  • 海外法制が人権DDに与える影響
  • 1. UNGPsが国連人権理事会で支持されます:ビジネスと人権分野の基礎文書として、各国法制や企業基準の土台になります。
  • 2. 日本政府ガイドラインと実務参照資料が整備されます:日本企業の人権方針、人権DD、救済への取組の基準として利用されます。
  • 3. ドイツLkSGの対象企業が段階的に広がります:ドイツ企業のサプライヤーにも質問票、監査、契約条項の要請が及びます。
  • 4. EU強制労働製品規則の適用開始が予定されています:企業規模ではなく製品単位で市場アクセスに影響する点が重要です。
  • 5. EU CSDDDの適用開始時期の目安です:国内法化期限と適用開始時期が延長され、原則としてこの時期からの適用が整理されています。

POINT 5

  • 日本企業が直面する人権DDの3つの影響
  • 直接適用リスク
  • 間接適用・契約連鎖リスク
  • 市場アクセス・レピュテーションリスク
  • 直接適用、契約連鎖、市場・評判リスクを分けて確認します。

POINT 6

  • 人権DDを設計する実務プロセス
  • 1. 人権方針を承認する:取締役会・経営会議で承認し、社内外に周知します。
  • 2. 重点リスクを特定する:事業、地域、取引先、工程、労働形態を分析します。
  • 3. 予防・軽減策を実施する:契約、監査、研修、是正計画、購買慣行の見直しを行います。
  • 4. 実効性を確認する:KPI、苦情件数、監査結果、是正完了率、再発率を確認します。
  • 5. 是正・救済へ進む:被害回復、支援、取引条件の見直し、再発防止を検討します。
  • 6. 開示・改善へ進む:対応状況を説明し、次年度の重点課題を更新します。

POINT 7

  • 人権DD条項と契約実務の要点
  • サプライヤー行動規範、監査、是正、解除、下請法 ・独禁法への配慮を確認します。
  • 契約解除は万能ではありません
  • 下請法・独禁法への配慮
  • 人権DDの契約実務では、まずサプライヤー行動規範を整備します。

POINT 8

  • M&A・投資・金融における人権DD
  • 買収価格、表明保証、補償、PMI、融資契約へ反映します。
  • M&Aでは、対象会社の人権リスクが買収価格、表明保証、補償、クロージング条件、PMIに影響します。
  • 読者は、単にリスクを発見するだけでなく、価格、表明保証、補償、統合計画まで反映する必要があることを読み取れます。
  • 人権、サプライチェーン、労務、環境、制裁、輸入規制に関する表明保証、誓約、補償、クロージング条件を検討します。

まとめ

  • 人権DD(デューデリジェンス)の法的要請 企業法務・サプ
  • 人権DD(デューデリジェンス)の法的要請の全体像:まず、任意の社会貢献から法務・経営統制へ移っている理由を整理します。
  • 人権DDの定義と国際基準:通常の買収調査との違い、UNGPs、OECD、ILO基準を整理します。
  • 日本における人権DDの法的要請:政府ガイドライン、公共調達、会社法 ・内部統制、既存法との接続を確認します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

人権DD(デューデリジェンス)の法的要請の全体像

まず、任意の社会貢献から法務・経営統制へ移っている理由を整理します。

人権DD(デューデリジェンス)の法的要請とは、企業が自社、子会社、サプライチェーン、販売先、委託先、投資先、その他の取引関係を通じて生じ得る人権への負の影響を、継続的に特定し、予防・軽減し、実効性を確認し、説明し、必要に応じて救済に関与することを求める要請です。

この要請は、単なる社会貢献やイメージ向上策ではなくなっています。国連「ビジネスと人権に関する指導原則」とOECD「責任ある企業行動のためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」が国際的な基準を形成し、EU、ドイツ、フランス、ノルウェー、英国、米国、オーストラリア、カナダなどの法制度や取引実務にも影響しています。

日本では、2026年6月14日時点でEU CSDDD型の包括的人権DD義務法が一般法として施行されているわけではありません。それでも、日本政府ガイドライン、実務参照資料、公共調達方針、顧客の行動規範、海外法制の間接影響を踏まえると、「まだ義務化されていないから不要」と整理できる問題ではありません。

次の強調表示は、このページ全体で押さえるべき結論を表しています。読者にとって重要なのは、人権DDを単独の法令確認ではなく、契約、調達、開示、取締役会監督、証跡管理までつなげて読むことです。

人権DDは法務・経営リスク管理の中核です

個別法の条文だけでは足りません。国際基準、国内外の法令、行政ガイドライン、公共調達、契約実務、会社法上のガバナンス、開示規制、訴訟リスク、金融・投資家要請を総合して把握する必要があります。

次の比較表は、人権DDの法的要請を5つの層に分けて示しています。各層は別々に存在するのではなく、契約交渉や取締役会報告、顧客監査の場面で重なって現れるため、自社の弱い層を確認することが重要です。

内容実務上の意味
第1層
ハードロー
法律、規則、指令、行政処分、罰則です。EU CSDDD、ドイツLkSG、フランス注意義務法、英国現代奴隷法、米国UFLPA、EU強制労働製品規則などが問題になります。
第2層
ソフトロー
国連指導原則、OECDガイドライン、日本政府ガイドライン、ILO基準です。直接の罰則がなくても、契約、開示、裁判、当局判断の参照基準になり得ます。
第3層
公共調達・行政方針
入札説明書、契約書、政府調達、自治体調達です。受注資格、評価、契約条項、説明責任に影響します。
第4層
契約上の要請
サプライヤー行動規範、監査権、是正計画、表明保証、補償、解除です。取引継続、価格交渉、監査対応、損害賠償に直結します。
第5層
会社法・開示・訴訟リスク
取締役の監督義務、内部統制、虚偽表示、不法行為、労務紛争、株主・投資家対応です。法律名に人権DDと書かれていない場合でも責任問題化する可能性があります。

次の一覧は、人権DDの不備が企業法務でどのように顕在化するかを表しています。読者は、自社に近い取引形態や開示場面を起点に、どの部署が早期に関与すべきかを読み取ることができます。

取引先からの要請

サプライヤー行動規範、監査、是正要求、契約解除、取引停止が問題になります。

海外法制の影響

EU CSDDD、ドイツLkSG、フランス注意義務法、英国現代奴隷法、米国UFLPAなどが域外的・間接的に影響します。

当局・市場アクセス

輸入差止め、通関遅延、当局調査、行政処分、罰金、公共調達上の不利益につながります。

開示・表示

有価証券報告書、統合報告書、サステナビリティ開示、広告表示で虚偽・誤認表示リスクが生じます。

ガバナンス

取締役のリスク管理・内部統制上の責任が問われる局面があります。

取引・投資案件

M&A、投資、融資、IPO、共同研究、ライセンス、フランチャイズで調査項目になります。

Section 01

人権DDの定義と国際基準

通常の買収調査との違い、UNGPs、OECD、ILO基準を整理します。

人権DDとは、企業が事業活動、製品・サービス、サプライチェーン、販売網、委託・請負、投資、M&A、金融、データ利用などを通じて、誰のどの人権にどのような負の影響を与え得るかを継続的に調査・評価し、その影響を防止・軽減し、実施結果を確認し、外部に説明し、必要な場合には救済に関与する一連のプロセスです。

ここでいう人権は抽象的な理念に限られません。強制労働、児童労働、賃金、労働時間、安全衛生、結社の自由、団体交渉、差別、ハラスメント、移民労働者、技能実習・特定技能、ジェンダー、障害、宗教、民族、先住民族、土地・居住、プライバシー、表現の自由、消費者の安全、AIによる差別的取扱い、環境汚染による健康被害などが問題になります。

次の比較一覧は、通常の企業買収調査と人権DDの違いを表しています。人権DDでは、企業側の損失だけでなく、労働者、地域住民、消費者、取引先従業員、移民労働者、子ども、少数者など権利保持者への影響を中心に読むことが重要です。

M&A DD

買主・投資家のリスク把握

買収前に法務、財務、税務、労務、知財、環境などを調査し、価格、表明保証、補償、クロージング条件に反映します。

Human Rights DD

権利保持者への影響把握

日常的・継続的に、事業全体とバリューチェーンを通じた人権への負の影響を把握し、予防、軽減、説明、救済へつなげます。

Corporate Legal

部門横断の統制

法務、調達、労務、サステナビリティ、内部監査、経営陣が連携し、契約、監査、開示、証跡管理まで一体で運用します。

国連指導原則の3本柱

UNGPsは、2011年に国連人権理事会で支持された基礎文書です。各国の国内法と同じ意味での条約ではありませんが、各国法制、企業行動規範、投資家基準、公共調達、国際契約、紛争解決の基準文書として機能しています。

  • 人権を保護する国家の義務では、国家が企業を含む第三者による人権侵害から人々を保護するため、政策、規制、裁判制度を整備することが求められます。
  • 人権を尊重する企業の責任では、企業が他者の人権を侵害することを避け、自社が関与する人権への負の影響に対処する責任を負います。
  • 救済へのアクセスでは、人権への負の影響が生じた場合、被害を受けた人が司法的・非司法的な救済にアクセスできる必要があります。

次の判断の流れは、OECDガイダンスが示す責任ある企業行動DDの6段階を表しています。順番に意味があり、方針に組み込むだけで終わらず、影響の特定、予防・軽減、追跡、説明、救済まで循環させる点を読み取ることが重要です。

OECDガイダンスに沿った6段階

1. 方針・管理体制へ組み込む

責任ある企業行動を社内規程、役割分担、取引先管理に反映します。

2. 負の影響を特定・評価する

事業、サプライチェーン、取引関係の実際または潜在的な影響を確認します。

3. 停止・防止・軽減する

リスクに応じた予防策、是正策、購買慣行の見直しを実施します。

4. 実施状況を追跡する

監査、KPI、苦情処理、是正完了状況で有効性を確認します。

5. 対応を説明・開示する

方針、重点課題、対応策、課題、改善計画を説明します。

6. 救済を行う、または協力する

必要な場合は、被害回復や再発防止に関与します。

ILO基準と労働人権

人権DDの中心課題の多くは労働問題です。強制労働、児童労働、結社の自由、団体交渉権、差別、安全衛生、労働時間、賃金、ハラスメント、移民労働者の手数料負担、身分証の預かり、寮環境などは、サプライチェーン監査で頻繁に問題になります。

法務担当者は、国内労働法の遵守だけでなく、取引先所在国の法制度、ILO中核的労働基準、顧客のサプライヤー行動規範、労働者への実効的な聞き取り方法、通報者保護、是正措置の実効性まで確認する必要があります。

Section 02

日本における人権DDの法的要請

政府ガイドライン、公共調達、会社法・内部統制、既存法との接続を確認します。

日本政府は、2020年に「ビジネスと人権」に関する行動計画を策定し、2022年に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定しました。2023年には、実務担当者、とりわけ中小企業や初めて取り組む企業にも使いやすい実務参照資料が公表されています。

日本政府ガイドラインは、法律そのものではありません。それでも、日本で事業活動を行う企業に対し、規模・業種等を問わず、人権方針の策定、人権DDの実施、救済への取組を求める重要な政府基準です。企業法務では、取引先対応、公共調達、開示、社内規程、監査、危機対応の基準文書として扱う必要があります。

次の一覧は、日本国内で人権DDが実務上の要請になる主な場面を表しています。読者にとって重要なのは、直接の罰則がない資料であっても、調達、契約、開示、取締役会監督の場面で説明責任が生じる点です。

01

日本政府ガイドライン

人権方針、人権DD、救済への取組を求める政府基準として、取引先対応や社内規程の設計で参照されます。

政府基準
02

公共調達

政府調達の入札説明書や契約書等で、ガイドラインを踏まえた人権尊重への取組を促す方向が示されています。

入札・契約
03

会社法・内部統制

人権DDの不備が輸入差止め、取引停止、当局調査、ブランド毀損に発展する場合、取締役の監督とリスク管理の問題になります。

監督責任

公共調達で説明できる状態を作る

公共調達に参加する企業では、人権方針、サプライチェーン管理、苦情処理、証跡、研修、取引先是正などの実施状況を説明できるかが重要になります。人権DD未実施が直ちにすべての入札で失格事由になるという意味ではありませんが、今後の評価や契約条項に影響する可能性があります。

会社法・内部統制との関係

日本の会社法に「人権DD」という用語を正面から置いた一般条文はありません。しかし、取締役は会社の業務執行を監督し、会社に著しい損害を及ぼすおそれのあるリスクを管理する体制を整備する責任を負います。取締役会、監査役、監査等委員、監査委員、内部監査部門、コンプライアンス部門は、人権DDをサステナビリティ部門だけの業務とせず、内部統制・リスク管理の一部として監督する必要があります。

次の比較表は、人権DDが国内の既存法とどのように接続するかを表しています。列ごとに、どの法領域で、どのような争点が起こり得るかを確認することで、法務部門が関与すべき範囲を読み取れます。

法領域人権DDで問題になり得る争点
労働法長時間労働、安全衛生、ハラスメント、差別、解雇、外国人労働者、請負・派遣の偽装が問題になります。
下請法・独占禁止法人権対応コストを一方的に転嫁する場合、優越的地位濫用や不当な利益提供要請が問題になります。
個人情報保護法・プライバシー労働者監視、AI評価、通報制度、健康情報、越境移転が問題になります。
景品表示法・消費者法人権配慮やエシカル表示について、誤認表示のリスクが生じます。
金融商品取引法・会社法開示サステナビリティ情報、リスク情報、人的資本、ガバナンス説明の正確性が問題になります。
民法・不法行為安全配慮義務、損害賠償、共同不法行為、契約上の表明保証違反が問題になります。
環境法汚染、廃棄物、化学物質、地域住民への健康影響が問題になります。
刑事法・入管関連法強制労働、賃金不払い、脅迫、旅券・在留カードの不当保管、贈収賄、虚偽表示が問題になります。
Section 03

海外法制が人権DDに与える影響

EU、ドイツ、フランス、ノルウェー、英国、米国、オーストラリア、カナダの要請を整理します。

海外法制は、日本企業にも直接または間接に影響します。現地売上高、従業員数、拠点、輸入者としての地位、親子会社関係、フランチャイズ・ライセンス関係、顧客のサプライチェーン法令対応を確認する必要があります。

次の時系列は、このページで重視している主な適用開始時期や制度上の節目を表しています。いつから何が問題になるかを押さえることで、契約更新、顧客監査、証跡整備の優先順位を読み取ることができます。

2011年

UNGPsが国連人権理事会で支持されます

ビジネスと人権分野の基礎文書として、各国法制や企業基準の土台になります。

2022年・2023年

日本政府ガイドラインと実務参照資料が整備されます

日本企業の人権方針、人権DD、救済への取組の基準として利用されます。

2023年・2024年

ドイツLkSGの対象企業が段階的に広がります

ドイツ企業のサプライヤーにも質問票、監査、契約条項の要請が及びます。

2024年・2026年

EU CSDDDが成立し、改正により適用範囲等が見直されます

非常に大規模な企業を中心に、人権・環境デュー・ディリジェンス義務が整理されています。

2027年12月14日

EU強制労働製品規則の適用開始が予定されています

企業規模ではなく製品単位で市場アクセスに影響する点が重要です。

2029年7月26日

EU CSDDDの適用開始時期の目安です

国内法化期限と適用開始時期が延長され、原則としてこの時期からの適用が整理されています。

次の比較表は、主要な海外法制ごとの特徴を表しています。対象企業の規模、開示義務、輸入規制、情報請求権など、制度ごとの違いを確認し、自社が直接対象か、取引先経由で影響を受けるかを読み取ることが重要です。

制度主な内容日本企業への影響
EU CSDDD一定規模以上の企業に人権・環境デュー・ディリジェンスを義務づけるEU指令です。2026年改正により適用時期、適用範囲、制裁、民事責任等が見直されています。直接対象に該当しない場合でも、対象企業のサプライヤー、販売先、委託先、物流事業者、商社、金融機関、M&A対象会社として契約条項や監査を求められる可能性があります。
ドイツLkSG一定規模以上のドイツ企業に、リスク管理、リスク分析、方針声明、予防措置、是正措置、苦情処理、文書化・報告を求めます。ドイツ企業のサプライヤーである場合、質問票、行動規範、監査、是正措置、契約条項の要請を受けることがあります。
フランス注意義務法一定規模以上の企業に注意義務計画の策定・実施・公表を求めます。リスクマッピング、下請・サプライヤー評価、通報、モニタリングを含みます。フランス大企業のバリューチェーンに入る企業は、間接的な要請を受ける可能性があります。
ノルウェー透明性法OECDガイドラインに沿ったデュー・ディリジェンスと情報開示を求め、一般の人々による情報請求権を特徴とします。ノルウェー企業と取引する場合、情報開示要求に耐え得る証跡管理が必要になります。
英国現代奴隷法一定規模以上の企業に、現代奴隷・人身取引を防止するための措置に関する年次声明を求めます。声明内容が空疎な場合、投資家、NGO、顧客、メディアから批判を受け、契約・評判・開示上のリスクになります。
米国UFLPA特定地域や特定事業者に関連する強制労働リスクについて、輸入貨物を差し止める強力な制度です。原材料、部品、鉱物、繊維、太陽光関連製品、電子部品などの上流トレーサビリティと証拠資料が問題になります。
EU強制労働製品規則強制労働によって作られた製品のEU市場での販売、EUへの輸入、EUからの輸出を禁止する制度です。CSDDD対象外であっても、強制労働リスクの高い原材料・地域・工程に関与する企業は対応が必要になります。
オーストラリア・カナダの報告制度現代奴隷、強制労働、児童労働リスクに関する報告義務を定めています。顧客からの質問票、契約条項、監査、証跡提出要求の根拠になります。
注意直接対象会社に該当するかだけで判断すると、実務対応が遅れます。顧客や親会社、輸入者、投資家を通じた契約連鎖により、対象外企業にも実質的な要請が及ぶ可能性があります。
Section 04

日本企業が直面する人権DDの3つの影響

直接適用、契約連鎖、市場・評判リスクを分けて確認します。

日本企業にとっての人権DDリスクは、直接の法令適用だけではありません。多くの場合、海外顧客や大企業取引先からの契約要請、輸入規制、投資家・NGO・メディアの関心を通じて、早期に事業リスク化します。

次の3つの項目は、日本企業が直面しやすい影響の類型を表しています。自社がどの類型に当たりやすいかを読むことで、海外法制調査、契約対応、危機管理の優先順位を決めやすくなります。

Direct

直接適用リスク

EU、ドイツ、フランス、英国、ノルウェー、米国、オーストラリア、カナダ等で事業を行う場合、現地法が直接適用される可能性があります。売上高、従業員数、現地拠点、輸入者としての地位、親子会社関係、フランチャイズ・ライセンス関係を確認します。

Contract

間接適用・契約連鎖リスク

EUやドイツの大企業が自社の法令遵守のために、日本のサプライヤーへ質問票、行動規範、監査、是正計画、契約条項、データ提出を求めるケースです。法的には契約問題ですが、実質的には海外法制の影響を受けています。

Market

市場アクセス・レピュテーションリスク

NGO報告、メディア報道、SNS、投資家質問、大学・自治体・公共機関の調達方針、消費者運動により、法令違反が確定する前に事業リスク化することがあります。

次の注意点の一覧は、強制労働、児童労働、危険労働、差別、ハラスメント、環境汚染、地域住民への被害が疑われる場面で短期間に求められる対応を表しています。平時の体制がなければ、調査、事実認定、是正、救済、対外説明が後手に回ることを読み取れます。

調査方法

誰に、どの範囲で、どの証拠を確認するかを短期間で決める必要があります。

事実認定

監査記録、労働者の声、取引先回答、物流記録、支払記録を照合する必要があります。

是正措置

未払賃金、手数料、労働安全、報復防止など、権利保持者への影響を踏まえて対応します。

取引判断

取引継続、改善支援、段階的縮小、責任ある撤退を検討します。

被害者救済

原因者、助長者、取引関係を通じた関連性に応じて救済への関与を検討します。

対外説明

事実確認中の事項を過度に断定せず、方針、調査、対応、今後の改善を説明します。

Section 05

人権DDを設計する実務プロセス

方針、リスクマッピング、重点課題、予防・軽減、追跡、開示、救済を一体化します。

人権方針は、企業が人権尊重責任を果たす意思を社内外に示す文書です。形式的な宣言ではなく、取締役会・経営会議の承認、関連部門への周知、サプライヤー行動規範との整合、契約条項への反映、研修への組込みが必要です。

次の一覧は、人権方針に含めるべき主要項目を表しています。方針を読む人が、対象範囲、重点課題、責任部署、救済姿勢を把握できることが重要です。

A

国際基準への支持

UNGPs、OECDガイドライン、ILO中核的労働基準等への支持を明記します。

基準
B

適用範囲

自社、子会社、サプライチェーン、取引関係を含む範囲を示します。

範囲
C

重点人権課題

強制労働、児童労働、安全衛生、差別、プライバシーなど、自社に関係する課題を例示します。

課題
D

運用と改善

人権DD、救済・苦情処理、取引先への期待、ガバナンス体制、継続的改善を示します。

運用

次の比較表は、リスクマッピングで確認する評価軸を表しています。列ごとに、国・地域、業種、取引形態、権利保持者、自社の関与度、深刻度、発生可能性を分けることで、すべての取引先を同じ深度で調査するのではなく、リスクベースで優先順位をつけられます。

評価軸確認する例
国・地域リスク紛争、強制労働、児童労働、法執行の弱さ、移民労働者依存、表現の自由制限を確認します。
業種・製品リスクアパレル、農産物、水産、鉱物、電子部品、太陽光、建設、物流、警備、ITプラットフォームを確認します。
取引形態リスク多重下請、派遣・請負、技能実習、短納期、極端な価格圧力、仲介業者利用を確認します。
権利保持者リスク子ども、女性、移民労働者、障害者、先住民族、地域住民、少数者、消費者を確認します。
自社の関与度自社が直接引き起こしたか、助長したか、取引関係で関連しているかを確認します。
深刻度規模、範囲、回復困難性を確認します。
発生可能性過去事例、業界慣行、監査結果、苦情、メディア・NGO情報を確認します。

サリエント・ヒューマンライツ・イシューを特定する

サリエント・ヒューマンライツ・イシューとは、自社にとって重要というより、人権への負の影響の深刻度が高い主要課題をいいます。企業のブランドや財務インパクトではなく、権利保持者にとっての深刻度を基準に優先順位をつける点が重要です。

製造業では、外国人労働者、派遣・請負、長時間労働、安全衛生、化学物質、原材料調達が重点課題になり得ます。IT企業では、プライバシー、監視、AI差別、コンテンツモデレーション、下請エンジニアの労働条件、データセンターの環境・地域影響が論点になり得ます。

予防・軽減措置を設計する

リスクを特定した後は、サプライヤー行動規範、契約条項、研修、監査、是正措置計画、発注慣行の見直し、労働者インタビュー、匿名アンケート、苦情処理窓口、手数料徴収・旅券保管・賃金控除・過重労働の禁止、移民労働者・派遣労働者・下請労働者への情報提供、地域住民・先住民族との協議を組み合わせます。

購買慣行取引先に一方的に負担を押し付ける対応では、実効性が弱まります。発注者の短納期、価格圧力、仕様変更、支払遅延が人権侵害を助長している場合、価格、納期、費用分担も見直す必要があります。

次の判断の流れは、人権DDを単発の質問票回収で終わらせないための運用順序を表しています。順番に沿って、方針策定から救済・改善までつなげることで、社内報告や顧客説明に使える証跡も残しやすくなります。

人権DDの継続運用

人権方針を承認する

取締役会・経営会議で承認し、社内外に周知します。

重点リスクを特定する

事業、地域、取引先、工程、労働形態を分析します。

予防・軽減策を実施する

契約、監査、研修、是正計画、購買慣行の見直しを行います。

実効性を確認する

KPI、苦情件数、監査結果、是正完了率、再発率を確認します。

課題あり
是正・救済へ進む

被害回復、支援、取引条件の見直し、再発防止を検討します。

課題なし
開示・改善へ進む

対応状況を説明し、次年度の重点課題を更新します。

追跡・モニタリングと開示

人権DDは、一度質問票を送って終わる手続ではありません。高リスク取引先の特定率、人権方針・行動規範への同意率、監査実施件数と重大指摘件数、是正措置の完了率と再発率、労働者からの苦情件数、解決件数、解決までの日数、研修受講率、取引改善・是正支援の件数、苦情窓口の利用可能言語・アクセス性、重大インシデント発生時の調査開始までの時間などを追跡します。

KPIは「件数が少ないほど良い」と単純には考えられません。苦情件数がゼロであることは、窓口が機能していないことを示す場合もあります。開示では、方針、体制、重点課題、リスク評価方法、予防・軽減措置、苦情処理、是正事例、今後の課題を、法務、IR、サステナビリティ、広報、内部監査、経営陣が連携して説明する必要があります。

救済と苦情処理メカニズム

人権への負の影響が発生した場合、企業は、原因者か、助長者か、取引関係を通じて関連しているだけかを分析し、それに応じて救済への関与を検討します。苦情処理メカニズムでは、労働者・地域住民・取引先従業員がアクセスできること、多言語対応、匿名性、報復禁止、調査手順と期限、通報者・被害者の安全、実効的な是正・救済、継続的改善が重要です。

Section 06

人権DD条項と契約実務の要点

サプライヤー行動規範、監査、是正、解除、下請法・独禁法への配慮を確認します。

人権DDの契約実務では、まずサプライヤー行動規範を整備します。内容には、強制労働、児童労働、差別、ハラスメント、賃金、労働時間、安全衛生、結社の自由、環境、贈収賄、情報管理、通報制度、監査協力、是正措置などを含めます。

行動規範は、契約に組み込まれて初めて実効性が高まります。発注書や基本契約書に遵守義務を書く場合でも、違反時の通知、調査、是正、監査、取引継続・停止、損害賠償、機密保持、個人情報保護との関係を明確にする必要があります。

次の比較表は、人権DD条項に含まれやすい要素と、その実務上の狙いを表しています。列ごとに義務の性質を確認し、相手方に過大な負担をかけず、実際に履行できる条項にすることが重要です。

条項実務上の狙い
法令・国際基準遵守国内法だけでなく、UNGPs、OECD、ILO、顧客規範への適合を求めます。
表明保証強制労働・児童労働等がないこと、必要な許認可・労務管理を行っていることを表明させます。
情報提供義務サプライチェーン、原産地、労務管理、監査結果、是正状況の情報提供を求めます。
監査権書面監査、現地監査、第三者監査、労働者インタビューを可能にします。
下請・再委託先への同等義務下請・再委託先にも同等の人権尊重義務を課します。
是正措置違反・疑義発見時の是正計画、期限、進捗報告を定めます。
重大違反時の措置出荷停止、発注停止、契約解除、損害賠償、当局・顧客への報告を定めます。
救済協力被害者救済、未払賃金支払、手数料返還、安全確保への協力を求めます。
証跡保存監査・当局対応に必要な資料の保存期間を定めます。
機密・個人情報監査情報、労働者情報、営業秘密を適切に保護します。

契約解除は万能ではありません

人権侵害が疑われる取引先との契約を直ちに解除すれば、企業が責任を果たしたように見える場合があります。しかし、契約解除によって労働者が賃金を失い、被害者が救済されず、問題が地下化することもあります。国際基準上は、企業はまず影響力を行使し、予防・軽減・是正を図ることが期待されます。

最終手段取引停止は、重大な違反があり、改善見込みがなく、取引継続によってさらに負の影響を助長する場合などに検討されます。責任ある撤退や被害者への影響もあわせて確認する必要があります。

下請法・独禁法への配慮

発注者が人権DDを理由に、取引先へ過大な監査費用、資料作成費用、設備投資費用、認証費用を一方的に負担させる場合、下請法や独占禁止法上の問題が生じ得ます。人権尊重を掲げながら、発注者の優越的地位により取引先の労働条件を悪化させることは、本来の目的に反します。

契約条項を設計する際は、費用負担、対応期限、資料範囲、監査頻度、秘密保持、改善支援、価格反映を合理的に定める必要があります。顧客から受ける人権条項についても、自社が実際に履行可能か、個人情報、営業秘密、競争法上の問題がないかを確認します。

Section 07

M&A・投資・金融における人権DD

買収価格、表明保証、補償、PMI、融資契約へ反映します。

M&Aでは、対象会社の人権リスクが買収価格、表明保証、補償、クロージング条件、PMIに影響します。製造業、アパレル、食品、鉱物、物流、建設、警備、ITプラットフォーム、医療・介護、人材派遣、海外子会社を持つ企業では特に重要です。

次の比較表は、M&Aで調査すべき人権DD項目を表しています。項目ごとに、法務DD、労務DD、環境DD、サプライチェーン調査、データ・AI調査が交差するため、調査範囲を早めに設計することが重要です。

調査項目確認ポイント
方針・規範人権方針、サプライヤー行動規範の有無と運用状況を確認します。
高リスク領域高リスク地域、原材料、製品への関与を確認します。
労働者管理外国人労働者、派遣・請負、技能実習、移民労働者の管理を確認します。
紛争履歴労働時間、賃金、安全衛生、ハラスメント、差別に関する紛争履歴を確認します。
監査・是正サプライヤー監査、是正計画、苦情処理の実績を確認します。
顧客対応顧客からの人権条項、監査要求への対応状況を確認します。
外部リスク輸入差止め、当局調査、NGO報告、メディア報道の有無を確認します。
開示との整合サステナビリティ開示と実態の整合性を確認します。
データ・AIプライバシー、監視、AI差別などの人権影響を確認します。

次の一覧は、調査結果を取引書類や買収後統合へ反映する主な方法を表しています。読者は、単にリスクを発見するだけでなく、価格、表明保証、補償、統合計画まで反映する必要があることを読み取れます。

M&A契約への反映

人権、サプライチェーン、労務、環境、制裁、輸入規制に関する表明保証、誓約、補償、クロージング条件を検討します。

契約

価格・補償への反映

重大な人権リスクがある場合、価格調整、エスクロー、特別補償、是正完了条件、取引先契約の見直しを検討します。

調整

PMIでの統合

買収後にグループ人権方針、サプライヤー管理、通報制度、研修、監査、開示、内部監査を統合します。

PMI

金融・投資での影響力

融資先・投資先を通じた人権リスクについて、顧客DD、エンゲージメント、融資契約、表明保証、停止条件、モニタリングを通じて影響力を行使します。

金融
Section 08

業種別・ガバナンス・証跡管理で見る人権DD

業種固有リスク、部門別責任、後から説明できる文書化を整理します。

人権DDの重点論点は業種によって異なります。製品、工程、労働形態、地域社会、データ利用、金融取引のどこに負の影響が生じやすいかを確認する必要があります。

次の比較表は、主要業種ごとの重点論点を表しています。自社の業種だけでなく、原材料、物流、委託先、販売先、金融取引まで広げて読むことで、見落としやすいリスクを把握できます。

業種重点論点
製造業・部品・電子機器上流の鉱物・部品・化学物質・エネルギー、工場労働者の安全衛生、派遣・請負、外国人労働者、長時間労働、寮環境、監視カメラ・生体認証、製品安全、紛争鉱物、強制労働リスク、半導体・太陽光関連材料、データ保護が論点になります。
アパレル・繊維綿花、糸、生地、縫製、染色、物流、廃棄まで多段階のサプライチェーンがあり、強制労働、児童労働、低賃金、長時間労働、工場火災、安全衛生、移民労働者、過度な短納期、発注キャンセルが論点になります。
食品・農水産農園、水産加工、漁船労働、季節労働者、移民労働者、児童労働、土地収奪、水資源、森林破壊、動物福祉、食品安全が問題になります。環境と人権が交差する法規制にも注意が必要です。
建設・不動産多重下請、技能労働者、外国人労働者、安全衛生、長時間労働、賃金不払い、地域住民、立退き、土地取得、環境影響、警備会社の行為が論点になります。
IT・AI・データビジネスプライバシー、監視、差別、表現の自由、説明可能性、子どもの権利、コンテンツモデレーターのメンタルヘルス、データラベリング労働者の労働条件が論点になります。
金融・投資融資先・投資先を通じた人権リスク、地域住民、先住民族、土地、環境、安全保障、人権侵害に関する国際基準が重要になります。

次の役割一覧は、人権DDを誰が担うべきかを表しています。人権DDは単独部門では完結しないため、取締役会から調達・内部監査・外部専門家まで、どこが何を担当するかを読み取ることが重要です。

Board

取締役会・経営陣

重大リスク、方針、体制、資源配分、開示、危機対応を監督します。海外売上比率が高い企業、サプライチェーンが複雑な企業、公共調達・大企業取引に依存する企業では経営課題として扱います。

Legal

法務・コンプライアンス

海外法制の適用判定、契約条項、監査対応、秘密保持、個人情報、当局対応、訴訟リスク、開示表現、M&A、社内規程、研修、通報制度、調査、是正、懲戒、再発防止を担います。

Procurement

調達・事業部門

サプライヤー選定、価格、納期、発注量、監査、是正支援に関与します。人権リスクの多くは発注条件と密接に関連します。

Audit

内部監査・リスク管理

方針だけでなく、リスク評価、監査記録、是正措置、苦情処理、証跡保存、開示の整合性を検証します。

Expert

外部専門家

法令調査、契約交渉、監査、調査、救済、研修、開示レビューで、弁護士、外国法事務弁護士、社労士、公認会計士、現地監査人、通訳・翻訳者、研究者、NGO、業界団体などが関与します。

次の一覧は、人権DDで保存すべき資料を表しています。文書化は形式的な守りだけでなく、次年度以降の改善、顧客説明、M&A、監査、取締役会報告に使うためにも重要です。

方針・会議資料

人権方針、取締役会・経営会議資料を保存します。

承認

リスク評価資料

リスク評価表、サプライヤー分類、国・製品・業種リスク資料を保存します。

評価

監査・是正資料

質問票、回答、証拠書類、監査計画、監査報告書、労働者インタビュー記録、是正措置計画、完了確認資料を保存します。

監査

苦情・救済資料

苦情受付記録、調査記録、救済内容、再発防止策を保存します。

救済

契約・規範資料

契約書、行動規範、誓約書、監査条項、研修資料、参加記録を保存します。

契約

開示・対話記録

統合報告書、有価証券報告書、ウェブ開示のレビュー履歴、当局・顧客・投資家・NGOとのコミュニケーション記録を保存します。

開示
Section 09

中小企業の人権DD導入と1年ロードマップ

比例性と優先順位を前提に、30日・90日・180日・1年で体制を作ります。

人権DDは大企業だけの課題ではありません。中小企業でも、大企業のサプライチェーンに入っている場合、顧客から人権方針、質問票、監査、是正を求められることがあります。もっとも、大企業と同じ体制を一度に構築する必要はなく、比例性と優先順位が重要です。

次の時系列は、中小企業が初期対応として取り組む目安を表しています。順番に意味があり、まず自社と主要取引を正直に把握し、次に重点先へ絞って確認し、最後に説明資料と見直しサイクルへ進むことを読み取れます。

最初の30日

現状を一覧化し、短い方針を作ります

主要製品・サービス、主要顧客、主要サプライヤーを一覧化し、高リスク国・業種・労働形態を確認します。短い人権方針を作成して経営者が承認し、就業規則、ハラスメント規程、通報制度、サプライヤー契約、顧客から受け取った質問票や行動規範を整理します。

90日以内

重点リスクに絞って点検します

重点サプライヤーに限定して質問票を送付し、外国人労働者、派遣・請負、長時間労働、安全衛生に関する社内点検を行います。苦情・相談窓口の周知を改善し、重大リスクがある場合は是正計画を作り、基本契約書・発注書に最低限の人権条項を入れます。

180日以内

報告・研修・証跡を整えます

重点リスクについて簡単な社内報告書を作成し、取引先への説明資料を整備し、年1回の見直しサイクルを決めます。研修を実施し、顧客監査に備えて証跡を整理します。

中小企業の要点最も重要なのは、完璧な制度を作ることではなく、自社のリスクを正直に把握し、優先順位をつけ、改善の記録を残すことです。

次の時系列は、1年間で最低限の体制を構築するロードマップを表しています。0〜3か月、3〜6か月、6〜12か月で到達点を分けることで、経営会議や顧客説明に使える進捗管理ができます。

0〜3か月

現状把握

事業・製品・地域・取引先を整理し、既存の労務、調達、通報、契約、開示資料を棚卸しします。高リスク領域を仮特定し、人権方針のドラフトを作成し、経営会議または取締役会に報告します。

3〜6か月

重点リスク対応

高リスクサプライヤーに質問票を送付し、重点取引先に対する監査・ヒアリングを実施します。サプライヤー行動規範を整備し、基本契約書に人権条項を入れ、苦情処理メカニズムを点検します。

6〜12か月

統制化

是正措置計画を運用し、研修を実施し、KPIを設定します。内部監査項目に人権DDを入れ、対外開示を整備し、次年度の改善計画を策定します。

Section 10

人権DDで失敗しやすい実務と法的リスクチェック

質問票偏重、一律監査、責任転嫁、過大開示、機能しない窓口を避けます。

人権DDで失敗しやすいのは、形式的な対応だけで実態を把握できない状態です。質問票の回収率、低リスク先までの一律監査、取引先への一方的な責任転嫁、実態を上回る開示、利用しにくい通報制度は、いずれも法務・開示・取引上のリスクにつながります。

次の注意点一覧は、典型的な失敗と対策を表しています。読者は、どの失敗が自社の運用で起きやすいかを確認し、質問票、監査、購買慣行、開示、苦情処理の改善につなげることができます。

質問票だけで終わる

回答の信頼性、証拠、監査、労働者の声、苦情、是正まで確認する必要があります。

低リスク先まで一律に監査する

コストが過大になり、高リスク先への対応が薄くなります。リスクベースで優先順位をつけます。

取引先に一方的に責任転嫁する

短納期、低価格、仕様変更が人権リスクを生んでいる場合、自社の購買慣行も見直します。

開示が実態を上回る

問題がないと断定しすぎず、実態に基づき、課題と改善計画を含めて説明します。

通報制度が機能しない

日本語のみ、匿名不可、取引先労働者が利用できない、報復禁止が不明確な状態を改善します。

次の比較表は、法的リスク別のチェック項目を表しています。海外法制、契約、ガバナンス、開示の列を分けることで、自社の確認漏れや担当部署の抜けを読み取ることができます。

区分主なチェック項目
海外法制EU域内売上高、従業員数、拠点、子会社、支店を把握し、EU CSDDD、ドイツLkSG、フランス注意義務法、英国現代奴隷法、ノルウェー透明性法の直接対象可能性を確認します。米国向け輸出品のUFLPA・強制労働輸入規制、EU強制労働製品規則、顧客のサプライチェーン法令対応も確認します。
契約サプライヤー行動規範の契約組込み、監査権、情報提供義務、是正措置、下請・再委託先への同等義務、解除、救済協力、過大負担の有無、個人情報、営業秘密、競争法上の問題、顧客条項の履行可能性を確認します。
ガバナンス取締役会または経営会議での報告、責任部署、エスカレーションルート、法務・コンプライアンス・調達・サステナビリティ・内部監査・労務の連携、重大インシデント時の危機対応手順、内部監査による検証を確認します。
開示人権方針、重点課題、リスク評価、対応策、救済制度、実績と課題、法務・IR・サステナビリティ・広報のレビュー、統合報告書、ウェブサイト、顧客回答、有価証券報告書の整合性、過度な断定の有無を確認します。

次の一覧は、初期調査で使える簡易質問票の例を表しています。質問ごとに、強制労働、児童労働、労働時間、賃金、通報制度、下請管理、重大指摘、是正可能性を確認し、重点先の追加調査につなげることが重要です。

1

方針・規程

人権方針またはサプライヤー行動規範、強制労働・児童労働・差別・ハラスメント・安全衛生・賃金・労働時間に関する社内規程の有無を確認します。

2

労働者の属性

外国人労働者、派遣・請負労働者、季節労働者を使用しているかを確認します。

3

不当な負担の有無

採用手数料、保証金、違約金の徴収、旅券・在留カード・身分証明書の保管の有無を確認します。

4

記録と窓口

労働時間、賃金、控除、休暇、安全衛生に関する記録と、匿名で相談・通報できる窓口の有無を確認します。

5

下請・過去事案

下請・再委託先への同等の人権尊重要求、過去3年間の重大指摘、訴訟、行政処分、報道の有無を確認します。

6

改善計画

是正措置が必要な場合、期限を定めた改善計画を策定し、進捗を報告できるかを確認します。

Section 11

人権DDのFAQ

一般的な制度説明として、個別事案の結論は専門家確認が必要である前提で整理します。

Q1. 日本企業にも人権DDは法的に必要ですか。

一般的には、日本でEU CSDDD型の包括的人権DD義務法が一般に施行されているわけではありません。ただし、日本政府ガイドライン、公共調達、海外法制、契約条項、開示、会社法上のリスク管理、顧客監査を総合すると、多くの企業にとって人権DDは実務上の法的要請になる可能性があります。具体的な対応範囲は、事業地域、取引構造、業種、契約内容によって変わるため、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q2. 人権DDを実施すれば、人権侵害が発生しても責任を免れますか。

一般的には、人権DDを実施しただけで当然に免責されるとは限りません。人権DDは、負の影響を防止・軽減し、合理的に対応したことを示す重要なプロセスですが、形式的な実施だけでは不十分になる可能性があります。実効性、リスクに応じた深度、是正措置、証跡、救済への関与が問われるため、具体的な見通しは弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q3. サプライヤーに質問票を送れば十分ですか。

一般的には、質問票は入口にすぎないと考えられています。回答の信頼性確認、高リスク先の追加調査、労働者インタビュー、監査、是正措置、苦情処理、モニタリングが必要になる可能性があります。どの深度まで行うかは、取引規模、地域、業種、過去の指摘、顧客要求によって変わるため、実務設計は専門家と確認する必要があります。

Q4. 中小企業も人権方針を作る必要がありますか。

一般的には、中小企業でも、大企業のサプライチェーンに入る場合や顧客から要請を受ける場合、人権方針の整備が重要になる可能性があります。ただし、大企業と同じ分量である必要はなく、自社の事業、従業員、取引先、主要リスクに即した簡潔な方針から始める方法も考えられます。具体的な内容は、業種、規模、取引先要求に応じて専門家へ相談する必要があります。

Q5. 問題のあるサプライヤーはすぐ取引停止すべきですか。

一般的には、常に直ちに取引停止することが適切とは限りません。取引停止により労働者がさらに不利益を受ける場合もあります。まず影響力を行使し、是正措置を求め、支援し、改善可能性を評価することが考えられます。ただし、重大な違反が継続し、改善見込みがなく、取引継続が負の影響を助長する場合には、責任ある撤退を検討する可能性があります。個別判断は証拠関係や契約内容で変わるため、弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q6. 人権DDはESGやサステナビリティと何が違いますか。

一般的には、ESGやサステナビリティは広い概念であり、人権DDはその中でも、企業活動が人に与える負の影響を特定・予防・軽減・救済する具体的なプロセスと整理されます。投資家向け評価だけではなく、権利保持者を中心に据える点が特徴です。自社の開示や投資家対応との関係は、開示規制や契約要求も踏まえて確認する必要があります。

Q7. 人権DDとコンプライアンスの違いは何ですか。

一般的には、コンプライアンスは法令・社内規程の遵守を中心に考えることが多い一方、人権DDは法令違反が明確でなくても、人権への負の影響があるかをリスクベースで検討する点に特徴があります。現地法が国際基準より低い場合でも、企業には国際的に認められた人権を尊重することが期待される場合があります。具体的な整理は対象国・業種・取引構造によって変わります。

Q8. どの部門が主管すべきですか。

一般的には、単独部門だけでは不十分とされています。法務、コンプライアンス、調達、労務、サステナビリティ、内部監査、リスク管理、経営企画、事業部門が連携する必要があります。主管部門は企業規模・業種により異なりますが、取締役会・経営陣の監督が重要です。具体的な体制設計は、自社の組織構造やリスクに応じて専門家へ相談する必要があります。

Section 12

人権DDを企業法務の中核統制にする

国際取引、公共調達、投資家対応、従業員の安全と尊厳を支える実務へつなげます。

人権DD(デューデリジェンス)の法的要請は、一部の大企業や欧米企業だけの問題ではありません。国際基準、海外法制、日本政府ガイドライン、公共調達、契約実務、開示、M&A、金融、内部統制、訴訟・当局対応が相互に結びつき、日本企業にも広く影響しています。

次の重要ポイントは、人権DDを企業法務に実装する際の最終確認事項を表しています。5つの項目を順に読むことで、方針だけで終わらず、サプライチェーン、リスクベース、契約・監査・救済・開示、取締役会監督まで接続する必要があることを確認できます。

企業法務が担う5つの実務要点

人権DDをCSRではなく法務・経営リスク管理として扱い、自社だけでなくサプライチェーン・取引関係・製品サービスの影響まで確認し、リスクベースで深刻な影響から対応し、契約・監査・是正・救済・開示・証跡を一体で設計し、取締役会・経営陣が監督して部門横断で継続改善することが重要です。

人権DDを正しく理解することは、制裁や訴訟を避けるためだけではありません。サプライチェーンの強靭性、取引先からの信頼、公共調達・国際取引への参加、投資家評価、従業員の安全と尊厳、企業価値の持続的向上に直結します。企業法務は、その中心で、人権を尊重する経営を実装する役割を担います。

Reference

この記事の参考情報源

国際基準・ガイダンス

  • United Nations Office of the High Commissioner for Human Rights, Guiding Principles on Business and Human Rights
  • United Nations Office of the High Commissioner for Human Rights, The Corporate Responsibility to Respect Human Rights: An Interpretive Guide
  • OECD Guidelines for Multinational Enterprises on Responsible Business Conduct
  • OECD Due Diligence Guidance for Responsible Business Conduct

日本の公的資料

  • 経済産業省「ビジネスと人権~責任あるバリューチェーンに向けて~」
  • 経済産業省「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」
  • 経済産業省「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」
  • 外務省「ビジネスと人権」
  • 内閣官房「公共調達における人権配慮について」

海外法制・制度資料

  • European Commission, Corporate sustainability due diligence
  • Directive (EU) 2024/1760 on corporate sustainability due diligence
  • Directive (EU) 2026/470 amending, among others, Directive (EU) 2024/1760
  • Bundesamt für Wirtschaft und Ausfuhrkontrolle, Supply Chain Act - Overview
  • Légifrance, Code de commerce, Article L225-102-4
  • Lovdata, Norwegian Transparency Act
  • GOV.UK, Transparency in supply chains: a practical guide
  • U.S. Customs and Border Protection, Uyghur Forced Labor Prevention Act
  • European Commission, The Forced Labour Regulation
  • Australian Government, Modern Slavery Act
  • Government of Canada, Fighting Against Forced Labour and Child Labour in Supply Chains Act
  • European Commission, Conflict Minerals Regulation: The regulation explained