2σ Guide

役員退職慰労金の廃止と
移行措置の実務整理

役員退職慰労金制度を廃止するときは、将来制度の終了だけでなく、廃止日まで在任した役員の過去分をどう清算するかが中心論点になります。会社法、税務、会計、開示、ガバナンスを横断して整理します。

5類型移行措置の選択肢
5年以下特定役員退職手当等
8段階廃止実務の手順
本ページは株式会社Dプロフェッションズ(医師/医療機関/弁護士/弁護士法人ではありません)が運営しています。
一般的な情報提供を目的としており医療上の助言や法律相談等を行うものではありません。
広告(PR)を掲載しています。広告は編集内容や推奨を意味しません。
Video

役員退職慰労金の廃止と 移行措置の実務整理

役員退職慰労金制度を廃止するときは、将来制度の終了だけでなく、廃止日まで在任した役員の過去分をどう清算するかが中心論点になります。

動画を読み込み中…
2σ GUIDE ・ VIDEO
役員退職慰労金の廃止と 移行措置の実務整理
役員退職慰労金制度を廃止するときは、将来制度の終了だけでなく、廃止日まで在任した役員の過去分をどう清算するかが中心論点になります。
動画の文字起こし(全文テキスト)

2σ GUIDE ・ VIDEO

  • 役員退職慰労金の廃止と 移行措置の実務整理
  • 役員退職慰労金制度を廃止するときは、将来制度の終了だけでなく、廃止日まで在任した役員の過去分をどう清算するかが中心論点になります。

POINT 1

  • 役員退職慰労金の廃止と移行措置の全体像
  • 制度廃止では、過去分の清算、税務区分、決議、説明責任を一体で整理します。
  • 在職中打切支給は給与所得リスクが中心になる
  • 会社法上の承認
  • 所得区分と損金

POINT 2

  • 役員退職慰労金の性格と廃止・移行措置の基本構造
  • 役員退職慰労金を、会社法上の報酬制度として整理します。
  • 功労報償性
  • 報酬の後払い性
  • 長期インセンティブ性

POINT 3

  • 役員退職慰労金制度を廃止する理由とガバナンス上の狙い
  • 報酬の透明性
  • 「所定の基準に従い相当額を一任する」議案では、個別額や算定過程が見えにくくなります。
  • 中長期インセンティブ
  • 固定報酬、短期業績連動報酬、株式報酬を組み合わせる制度へ移る動きがあります。

POINT 4

  • 役員退職慰労金の廃止と移行措置で必要な会社法手続
  • 1. 定款・既存決議を確認:役員報酬・退職慰労金の定めや過去の総会決議を確認します。
  • 2. 財産上の利益を支給するか:個別役員に退職慰労金相当額を支給するなら、報酬等として総会決議が基本です。
  • 3. 対象者・基準・上限を明確化:白紙委任を避け、算定資料を残します。
  • 4. 廃止方針と議案を準備:取締役会で廃止方針、移行措置案、開示方針を整理します。

POINT 5

  • 役員退職慰労金の移行措置をどう設計するか
  • 退任時支給、在職中打切支給、過去分不支給、代替報酬を比較します。
  • 移行措置の設計では、支給時期、税務上の所得区分、会計上の負債認識、役員との合意形成を同時に見ます。
  • 廃止日までの在任期間に対応する額を凍結し、各役員の退任時に支給します。
  • 退職慰労金の本来の支給時点と整合しやすい一方、長期管理が必要です。

POINT 6

  • 役員退職慰労金の廃止と移行措置に関する税務論点
  • 退職所得・給与所得、特定役員退職手当等、損金算入時期を確認します。
  • 税務上の重要点は、役員個人の所得区分と法人側の損金算入時期を分けて確認することです。
  • 廃止時の処理名ではなく、退職の実態と金額の相当性が重視されます。

POINT 7

  • 役員退職慰労金廃止後の会計・開示・証跡管理
  • 1. 引当金と規程を確認:役員退職慰労引当金、退職慰労金規程、過去支給実績、会計方針を確認します。
  • 2. 監査人・委員会と協議:監査法人、報酬委員会、社外取締役、監査役へ廃止理由と移行措置案を説明します。
  • 3. 承認日と確定日を記録:制度廃止決議日、株主総会承認日、個別額確定日、支給時期を議事録と算定資料に残します。
  • 4. 開示と源泉資料を保存:事業報告、有価証券報告書、ガバナンス報告書、源泉徴収資料、支払資料の整合を確認します。

POINT 8

  • 最高裁令和6年7月8日判決から読む役員退職慰労金の実務示唆
  • 内規の重要性
  • 退職慰労金規程や内規が存在し、内容が合理的であることは会社判断の支えになります。
  • 株主総会決議の重要性
  • 取締役会への一任は、株主総会決議による授権を前提とします。

まとめ

  • 役員退職慰労金の廃止と 移行措置の実務整理
  • 役員退職慰労金の廃止と移行措置の全体像:制度廃止では、過去分の清算、税務区分、決議、説明責任を一体で整理します。
  • 役員退職慰労金の性格と廃止・移行措置の基本構造:役員退職慰労金を、会社法上の報酬制度として整理します。
  • 役員退職慰労金制度を廃止する理由とガバナンス上の狙い:透明性、中長期インセンティブ、議決権行使、不祥事対応を整理します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

役員退職慰労金の廃止と移行措置の全体像

制度廃止では、過去分の清算、税務区分、決議、説明責任を一体で整理します。

役員退職慰労金の廃止と移行措置は、単なる報酬制度の変更ではありません。会社法上の役員報酬規制、株主総会・取締役会の権限分配、監査役・監査等委員・報酬委員会の関与、退職所得と給与所得の区分、法人側の損金算入時期、会計処理、投資家・株主への説明責任が一体となる複合論点です。

最初に重要なのは、制度廃止そのものと、過去在任期間分をどう清算するかを分けることです。次の重要ポイントは、支給時期、所得区分、承認手続、証跡管理の関係をまとめたもので、制度設計の初期段階で何を読み取るべきかを示しています。

在職中打切支給は給与所得リスクが中心になる

制度を一括清算する目的で在任中の役員へ現金支給する場合、退職所得ではなく給与所得と評価される可能性が高いとされています。退任時支給型、在職中打切支給型、過去分不支給型、代替報酬型では、会社法、税務、会計、説明責任の結論が変わります。

全体設計では、誰に、いつ、どの根拠で、いくら支給するのかを、法務・税務・会計・ガバナンスの四方向から確認します。次の一覧は各担当者が読み取るべき観点を整理したものです。

LEGAL

会社法上の承認

定款に定めがなければ、役員退職慰労金は報酬等として株主総会決議が基本です。白紙委任を避け、対象者、基準、上限、支給時期を説明します。

TAX

所得区分と損金

退任時支給か在職中支給か、退職所得か給与所得か、法人側でいつ損金算入できるかを別々に確認します。

GOV

透明性と証跡

廃止理由、算定資料、報酬委員会や社外役員の関与、株主・金融機関への説明資料を残します。

Section 01

役員退職慰労金の性格と廃止・移行措置の基本構造

役員退職慰労金を、会社法上の報酬制度として整理します。

役員退職慰労金は、役員が退任する際に、在任中の職務執行、功労、在任期間、役位、報酬水準などを考慮して支給される金銭その他の利益をいいます。従業員退職金と似た名称でも、会社と役員の委任関係、会社法上の報酬規制、株主総会の権限、役員報酬ガバナンスの文脈で扱われる点が異なります。

制度の性格を分けて見ることは、廃止時に「既に発生した権利か」「期待にとどまるか」「退職所得として扱えるか」「どの決議が必要か」を判断する前提になります。次の一覧は、役員退職慰労金に重なる四つの性格を示しています。

01

功労報償性

役員として会社に貢献したことへの報償です。功績倍率や功労加算を使うなら根拠資料が必要です。

02

報酬の後払い性

在任中の役務提供の対価を退任時にまとめて支給する性格です。会社法上の報酬等規制と結び付きます。

03

長期インセンティブ性

長期貢献を促す機能がありますが、近年は株式報酬や業績連動報酬へ置き換える動きがあります。

04

身分終了時の清算性

退任という役員関係の終了時に過去期間を清算する性格です。退任時支給型と整合しやすい考え方です。

廃止と移行措置を分ける

廃止とは、将来の退任役員に従来の退職慰労金を支給しない制度へ変えることです。移行措置とは、廃止日まで在任していた役員について、過去分を凍結するのか、在職中に払うのか、支払わないのか、別の報酬へ組み替えるのかを定めることです。

次の比較表は、代表的な移行措置の内容、利点、リスクを横に並べたものです。支給時期と税務上の扱い、役員との調整、会計上の管理負担を比較して読み取ります。

類型内容主な利点主なリスク
完全廃止・過去分不支給将来分だけでなく過去分も支給しない費用・資金流出を抑えやすい役員との紛争、期待権侵害、説明困難
額を凍結し退任時に支給廃止日までの在任期間分を計算し、実際の退任時に支給する退任時支給と整合しやすい未確定債務の管理、死亡退任、役位変更の整理
在職中打切支給制度廃止時に在任中の役員へ一時金として支払う制度を一括清算しやすい給与所得となる可能性、源泉徴収、役員給与規制
代替報酬へ振替株式報酬、業績連動報酬、賞与、固定報酬などへ移す中長期インセンティブに転換しやすい会社法、金商法、会計税務、インサイダー規制の検討が増える
段階的廃止一定期間を置いて縮小または廃止する役員との調整を行いやすい制度が複雑化し、説明が難しくなる
Section 02

役員退職慰労金制度を廃止する理由とガバナンス上の狙い

透明性、中長期インセンティブ、議決権行使、不祥事対応を整理します。

役員退職慰労金制度が廃止される背景には、退任時にまとめて支給される制度では、在任中の業績、株主価値、職務執行の質との関連が見えにくいという問題があります。次の一覧では、廃止理由として説明されやすい四つの要素を確認できます。

報酬の透明性

「所定の基準に従い相当額を一任する」議案では、個別額や算定過程が見えにくくなります。

中長期インセンティブ

固定報酬、短期業績連動報酬、株式報酬を組み合わせる制度へ移る動きがあります。

議決権行使への対応

支給基準や個別額が不明確な議案、不祥事時の支給、社外役員への支給には反対票が集まる場合があります。

減額・不支給の難しさ

不祥事、競業、善管注意義務違反、会社損害がある場合、規程と調査手続が弱いと争われやすくなります。

コーポレートガバナンス・コード補充原則4-2①では、経営陣の報酬制度設計と具体的報酬額の決定について、客観性・透明性ある手続が重視されています。制度廃止は、報酬体系を投資家や株主に説明しやすくする契機になります。

Section 03

役員退職慰労金の廃止と移行措置で必要な会社法手続

報酬等規制、株主総会決議、監査役等の独立性を確認します。

会社法上の確認では、役員退職慰労金を「退職」という名称だけで見ず、職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益として見ることが重要です。次の判断の流れは、定款、総会決議、委任範囲、監査役等の扱いを順番に読むためのものです。

会社法手続の判断の流れ

定款・既存決議を確認

役員報酬・退職慰労金の定めや過去の総会決議を確認します。

財産上の利益を支給するか

個別役員に退職慰労金相当額を支給するなら、報酬等として総会決議が基本です。

支給する
対象者・基準・上限を明確化

白紙委任を避け、算定資料を残します。

制度方針のみ
廃止方針と議案を準備

取締役会で廃止方針、移行措置案、開示方針を整理します。

報酬等としての扱い

取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益は、会社法上の報酬等として規制されます。役員退職慰労金も通常はこの枠組みで扱われ、定款に定めがなければ株主総会決議が必要となるのが基本です。

白紙委任を避ける

株主総会が取締役会へ一任する場合でも、対象者、廃止日までの在任期間、算定方法、上限額、支給時期の考え方を整理し、株主が会社財産の移転範囲を判断できるようにします。

監査役・監査等委員・社外役員

監査役の報酬等は、取締役の報酬等とは独立して検討します。複数の監査役がいる場合、総額枠の範囲内で監査役の協議により個別額を定める構造が基本です。監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社では、機関設計ごとの決定機関を確認します。

Section 04

役員退職慰労金の移行措置をどう設計するか

退任時支給、在職中打切支給、過去分不支給、代替報酬を比較します。

移行措置の設計では、支給時期、税務上の所得区分、会計上の負債認識、役員との合意形成を同時に見ます。次の一覧は、各方式で実務担当者が読み取るべき注意点を並べたものです。

1

退任時支給型

廃止日までの在任期間に対応する額を凍結し、各役員の退任時に支給します。退職慰労金の本来の支給時点と整合しやすい一方、長期管理が必要です。

退任時管理継続
2

在職中打切支給型

制度廃止時に在任中の役員へ一時金を支払います。制度清算は明快ですが、給与所得と扱われる可能性が高い点に注意します。

給与所得
3

過去分不支給型

廃止日までの在任期間分も支払わない方式です。費用は抑えられますが、規程、慣行、個別合意、引当、退任予定者との関係を確認します。

紛争注意
4

代替報酬型

譲渡制限付株式、業績連動型株式報酬、ストックオプション、賞与、年額固定報酬などへ移行します。

報酬再設計

退任時支給型では、廃止日、対象役員、在任期間の算定、基準報酬月額、役位係数、功労加算、減額・不支給事由、支給時期、死亡退任時の受給者、転籍時の扱いを定めます。在職中打切支給型では、源泉徴収、役員給与規制、社会保険、個人の所得税・住民税負担を早期に試算します。

Section 05

役員退職慰労金の廃止と移行措置に関する税務論点

退職所得・給与所得、特定役員退職手当等、損金算入時期を確認します。

税務上の重要点は、役員個人の所得区分と法人側の損金算入時期を分けて確認することです。次の比較表は、個人課税、法人課税、実務資料の三方向から、どの論点を先に検討すべきかを示しています。

論点確認内容実務上の注意
退職所得と給与所得退職により一時に受ける給与か、在職中の職務執行の対価かを確認する在職中打切支給は給与所得と扱われる可能性が高い
特定役員退職手当等役員等勤続年数が5年以下かを確認する該当部分には通常の2分の1計算が適用されない
損金算入時期金額が具体的に確定した日、または実支払年度での損金経理を確認する取締役会の内定だけで未払計上しても、その時点では損金算入できない
過大役員退職給与在任期間、役位、退任時報酬月額、功績倍率、同業比較、会社業績を確認する移行措置という名目だけで過大額は正当化されない
源泉徴収退職所得申告書、退職所得控除、源泉徴収票、住民税、給与所得処理時の賞与源泉を確認する会社の源泉徴収義務違反リスクも管理する

税務調査では、規程、株主総会議事録、取締役会議事録、算定資料、功労加算の理由、対象役員の職務実態、会社の財務状況が確認されます。廃止時の処理名ではなく、退職の実態と金額の相当性が重視されます。

Section 06

役員退職慰労金廃止後の会計・開示・証跡管理

引当金、負債認識、開示、保存資料を時系列で整理します。

会計・開示・内部統制では、制度廃止日、株主総会承認日、個別額確定日、支払日、退任日を時系列で整理することが重要です。次の時系列は、どの時点で会計処理、開示、証跡保存を行うかを読み取るためのものです。

制度確認

引当金と規程を確認

役員退職慰労引当金、退職慰労金規程、過去支給実績、会計方針を確認します。

決議前

監査人・委員会と協議

監査法人、報酬委員会、社外取締役、監査役へ廃止理由と移行措置案を説明します。

決議時

承認日と確定日を記録

制度廃止決議日、株主総会承認日、個別額確定日、支給時期を議事録と算定資料に残します。

支給後

開示と源泉資料を保存

事業報告、有価証券報告書、ガバナンス報告書、源泉徴収資料、支払資料の整合を確認します。

保存資料は、定款、規程、過去の議事録、過去支給実績、移行措置の検討資料、税務メモ、会計処理メモ、委員会資料、対象役員別の算定表、減額・不支給条項の適用判断資料、招集通知、支払時の源泉徴収資料まで含めて管理します。

Section 07

最高裁令和6年7月8日判決から読む役員退職慰労金の実務示唆

内規、株主総会決議、取締役会裁量、調査手続を確認します。

最高裁令和6年7月8日判決は、退任取締役の退職慰労金について、内規に従って決定することを取締役会に一任する株主総会決議がされた事案で、内規の基準額から減額した取締役会決議に裁量権の逸脱または濫用があるとはいえないと判断したものです。次の一覧は、制度廃止時にも読み取るべき示唆を整理しています。

内規の重要性

退職慰労金規程や内規が存在し、内容が合理的であることは会社判断の支えになります。

株主総会決議の重要性

取締役会への一任は、株主総会決議による授権を前提とします。

裁量の限界

取締役会に裁量があるとしても、根拠、手続、資料、利益相反管理が必要です。

調査手続の価値

不祥事や会社損害を理由に減額する場合、社外役員や外部専門家の関与が客観性を高めます。

制度廃止時には、重大な違法行為、競業、秘密保持違反、善管注意義務違反、報酬返還に関する条項も合わせて整備することが考えられます。

Section 08

上場会社・非上場会社で異なる役員退職慰労金廃止の実務対応

資本市場向け説明と事業承継・税務説明を分けて整理します。

上場会社と非上場会社では、同じ役員退職慰労金の廃止でも、説明先と主なリスクが異なります。次の比較表は、投資家向け説明と事業承継・税務説明を混同しないためのものです。

会社類型中心になる説明注意点
上場会社報酬制度見直しの目的、代替報酬、中長期企業価値との連動、社外役員・報酬委員会の関与移行措置の対象、支給時期、支給総額または算定基準を投資家が理解できるようにする
非上場会社・中小企業税務、相続、事業承継、金融機関、親族株主・少数株主への説明過大役員退職給与、退職性、資金繰り、後継者の経営資源への影響を資料化する
M&A予定会社買主へのデューデリジェンス対応、価格調整、表明保証、補償条項支給根拠、税務リスク、未払債務、総会決議の有効性が買収条件に影響する

非上場同族会社では、創業者や親族役員への高額支給が税務上過大役員退職給与と指摘されることがあります。支給直後に株式移転、事業承継、M&Aが予定されている場合は、移行措置と経済効果を一体として説明できる資料を残します。

Section 09

役員退職慰労金制度を廃止する8つの実務手順

現状調査から支給・源泉徴収・開示まで、順序立てて進めます。

実務手順は、現状調査から支給・開示までを順番に進めると、会社法、税務、会計の確認漏れを減らせます。次の時系列は、各段階で何を決め、どの資料を残すかを読み取るためのものです。

Step 1

現状調査

規程、定款、過去決議、過去支給実績、対象役員の就任日、役位、報酬、株式保有、不祥事の有無を一覧化します。

Step 2

廃止目的の文書化

ガバナンス強化、透明性向上、中長期インセンティブ化、会計上の負債整理、M&A・IPO準備など目的を明確にします。

Step 3

移行措置を選択

退任時支給、在職中打切支給、過去分不支給、代替報酬への移行を比較します。

Step 4

税務・会計シミュレーション

退職所得と給与所得、損金算入時期、源泉徴収、キャッシュアウト、引当金、特定役員退職手当等を試算します。

Step 5

規程・議案案を作成

廃止規程、移行措置規程、株主総会議案、取締役会議案、監査役協議資料、招集通知参考書類案を作成します。

Step 6

社外役員・委員会と協議

報酬委員会、独立社外取締役、監査役会、監査等委員会へ事前説明します。

Step 7

株主総会決議

取締役分、監査役分、監査等委員分、執行役分を機関設計に応じて分け、議事録と算定資料を保存します。

Step 8

支給・源泉徴収・開示

源泉徴収、会計処理、支払調書、退職所得申告書、役員報酬開示、事業報告等を更新します。

Section 10

株主総会議案と取締役会決議で残すべき事項

退任時支給型の議案例をもとに、記載すべき要素を整理します。

議案例と取締役会決議事項は、実際に使う文案をそのまま写すためではなく、どの論点を議案・議事録に残すべきかを確認するために重要です。次の比較表では、退任時支給型の議案で明示する項目と、取締役会で確認する項目を分けて読み取れます。

場面記載・決議する事項読み取るポイント
株主総会議案制度廃止の目的、対象役員、廃止日までの在任期間、所定基準、相当額の範囲、具体額・時期・方法の一任、退任時支給過去分の清算であること、支給時期が退任時であること、株主が授権範囲を理解できることを示す
監査役が対象の場合監査役分を取締役分と分け、具体額・時期・方法を監査役の協議に一任する旨を記載する監査役の独立性を損なわない決定構造にする
取締役会廃止方針、移行措置の類型、対象役員、規程廃止または改定、支給基準、総会議案、委員会結果、税務会計方針、開示方針、利益相反制度廃止と個別支給決定を混同せず、根拠資料と決定過程を残す

退任時支給型では、本総会終結時に在任する取締役に対し、就任時から本総会終結時までの在任期間に対応する役員退職慰労金を、所定の基準に従い相当額の範囲内で打切り支給すること、具体的な金額・支給時期・方法を取締役会に一任すること、実際の支給は各取締役の退任時とすることを示します。

在職中に現金で支払う場合は、税務上給与所得となる可能性が高いため、退任時支給型の文言を安易に削ってはいけません。支給時期を在職中にする場合は、源泉徴収、役員給与規制、株主説明を別途検討します。

Section 11

役員退職慰労金の廃止と移行措置に関するFAQ

よくある疑問を、一般的な制度説明として整理します。

Q1. 制度を廃止すれば、過去分を必ず支払う必要がありますか。

一般的には、株主総会決議前で具体的な請求権が発生していない場合もあります。ただし、規程、過去の支給慣行、個別合意、会計上の引当、役員への説明、退任時期などで紛争リスクは変わります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q2. 在職中に打切支給すれば、退職所得になりますか。

一般的には、在職中の取締役・監査役に対して制度廃止に伴い支払われる金員は、退職所得ではなく給与所得と扱われる可能性が高いとされています。ただし、退任の実態や支給原因で判断が変わる可能性があります。具体的な税務処理は、税理士等の専門家へ相談する必要があります。

Q3. 退任時に支給すれば必ず退職所得になりますか。

一般的には、退任時支給は退職所得該当性を検討しやすい方式とされています。ただし、代表権返上、非常勤化、報酬減額、職務内容、顧問契約などの事情によって結論が変わる可能性があります。

Q4. 株主総会で取締役会に一任すると書けば十分ですか。

一般的には、取締役会への一任は認められる余地がありますが、支給基準、対象者、上限、支給時期、算定方法が不明確な白紙委任は問題となり得ます。議案と議事録の具体性は会社の事情で変わるため、専門家と確認する必要があります。

Q5. 監査役の退職慰労金も取締役会で決められますか。

一般的には、監査役の報酬等は取締役の報酬等とは別に扱われます。複数の監査役がいる場合は、総会決議の範囲内で監査役の協議により定める構造が基本とされています。

Q6. 不祥事を起こした役員の退職慰労金を減額できますか。

一般的には、規程上の減額・不支給条項、株主総会の授権、取締役会の裁量、調査手続、損害の有無、行為の悪質性、比例性などにより判断されます。恣意的な減額は争われ得るため、個別の見通しや対応方針は弁護士等の専門家に相談する必要があります。

Q7. 中小企業でも同じ手続が必要ですか。

一般的には、会社法と税務の基本論点は中小企業にも適用されます。株主が少ない会社でも、税務調査、相続、事業承継、金融機関対応では資料整備が重要です。

Q8. 制度廃止後に相談役・顧問報酬を支払えますか。

一般的には可能な場合がありますが、退任後の相談役・顧問契約の実態が重要です。形式上退任しても、実質的に経営判断を続ける場合は、税務上の退職性やガバナンス上の説明が問題となる可能性があります。

Section 12

役員退職慰労金制度廃止前の実務チェックリスト

法務、税務、会計、ガバナンスの確認事項を横断的に点検します。

実務チェックでは、法務、税務、会計、ガバナンスを別々に確認したうえで、最後に同じ日付・金額・対象者で整合しているかを確認します。次の一覧は、各担当が読み取るべき確認事項を並べたものです。

法務

決議と権限

定款、規程、過去総会決議、取締役・監査役等の区分、退任時支給か在職中支給か、減額・不支給条項、利益相反、本人説明、参考書類を確認します。

税務

所得区分と損金

退職所得か給与所得か、特定役員退職手当等、損金算入時期、過大役員退職給与、源泉徴収、申告書・源泉徴収票・支払調書を確認します。

会計

引当金と開示

役員退職慰労引当金、廃止日・決議日・確定日・支払日の処理、監査人との協議、注記・開示への影響を確認します。

統治

説明可能性

廃止理由、代替報酬、社外取締役・報酬委員会の関与、投資家・株主への説明、不祥事時の返還・減額対応を確認します。

まとめると、役員退職慰労金の廃止と移行措置は、将来の報酬制度変更と過去在任期間分の清算を分けて設計することが出発点です。選ぶ方式により、決議、所得区分、損金算入、会計処理、株主説明が変わります。

Reference

この記事の参考情報源

法令・税務情報

  • 会社法
  • 国税庁「No.5208 役員の退職金の損金算入時期」
  • 国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
  • 国税庁「No.2737 役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等」
  • 国税庁「No.2725 退職所得となるもの」
  • 国税庁「役員退職慰労金制度の廃止による打切支給の退職手当等として支払われる給与」

ガバナンス・裁判例

  • 東京証券取引所 FAQ「コーポレートガバナンス・コード補充原則4-2①」
  • 金融庁・東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード改訂案の公表について」
  • 裁判所「退職慰労金等請求事件・令和6年7月8日第一小法廷判決」