不可抗力条項は、出来事の列挙だけでは足りません。対象事由、因果関係、通知、軽減義務、効果、長期化時の出口、ハードシップ、制裁対応、BCPを一体で設計します。
不可抗力条項は、出来事の列挙だけでは足りません。
不可抗力条項は、出来事の列挙だけでは足りません。対象事由、因果関係、通知、軽減義務、効果、長期化時の出口、ハードシップ、制裁対応、BCPを一体で設計します。
次の重要ポイントは、不可抗力条項を単なる事由の列挙ではなく、危機時の契約運用手順として見るための整理です。読者にとって重要なのは、出来事、因果関係、通知、軽減努力、効果、出口を同時に規定しなければ、発生時に契約が動かない点です。3つの項目を、条項に必ず入れる柱として読み取ってください。
パンデミック・災害・戦争を含めるだけではなく、影響を受ける義務、通知、証拠、軽減措置、履行停止、損害賠償免除、再交渉、解除、精算までを一体で設計する必要があります。
次の一覧は、パンデミック、災害、戦争で問題になりやすい履行障害を並べたものです。読者にとって重要なのは、同じ不可抗力でも、感染症では人員・施設、災害では拠点・物流、戦争では制裁・送金が中心論点になる点です。各項目を、契約書に列挙すべき事由と効果を分けて読む入口として確認してください。
検疫、入国制限、施設閉鎖、オンサイト作業不能、サプライチェーン途絶を扱います。
地震、洪水、インフラ障害、工場停止、物流経路、保険、BCPとの接続を扱います。
武力紛争、港湾封鎖、禁輸、輸出管理、送金規制、サイバー攻撃を扱います。
このページは、企業法務、契約法務、国際取引、リスクマネジメント、BCP、コンプライアンス、内部統制、通商・輸出管理、紛争対応の実務を横断して、「パンデミック・災害・戦争を不可抗力に含める条項設計」を専門的に解説するものである。
読者として想定するのは、契約書を読む必要がある経営者、法務担当、営業責任者、調達責任者、プロジェクトマネージャー、管理部門、士業・専門職、研究者、コンサルタントである。法律の専門用語は避けきれないが、重要な概念は定義を置き、実務での判断順序が分かるように整理する。
このページは一般的な情報提供であり、個別案件に対する法律意見ではない。準拠法、契約類型、業界規制、相手方所在国、制裁・輸出管理、保険、倒産リスク、紛争解決地によって結論は変わるため、実際の契約締結・解除・損害賠償請求・紛争対応では専門家への確認が必要である。
パンデミック、災害、戦争を不可抗力に含める条項を作るとき、最も多い失敗は、「地震、台風、感染症、戦争その他不可抗力」とだけ書いて終わることである。これでは、いざ紛争になったときに、次の重要問題が未解決のまま残る。
したがって、実務上の正解は、不可抗力条項を「出来事の列挙条項」としてではなく、リスク発生時の契約運用プロトコルとして設計することである。
このページの中心命題は次のとおりである。
免責、猶予、停止、解除、再交渉、証拠化、ガバナンスの機能を整理します。
不可抗力とは、一般に、当事者の合理的支配を超える外部的事由により、契約上の義務を履行できない、または履行が重大に妨げられる状態をいう。英語契約では force majeure と呼ばれる。
ただし、不可抗力という言葉の意味は、国や準拠法によって当然に同じではない。日本法上、すべての契約に共通する「不可抗力条項」が民法に一括して定められているわけではない。日本法では、履行不能、債務不履行に基づく損害賠償、危険負担、解除、信義則、事情変更の法理などの制度を背景に、契約条項によってリスク配分を具体化することになる。民法は、履行不能の場合の履行請求、債務不履行に基づく損害賠償、危険負担、解除などについて規定している。
不可抗力条項には、少なくとも次の機能がある。
2 不可抗力条項の機能の比較表は、検討項目ごとの差を一目で確認するためのものです。読者にとって重要なのは、列ごとの役割や注意点を比べることで、自社の制度・契約に移す際の確認漏れを減らせる点です。左から右へ項目、意味、実務上の注意を対応させて読み取ってください。
| 機能 | 内容 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 免責機能 | 一定の義務違反について損害賠償責任を免除または限定する | 遅延損害金、違約金、SLA違反、納期遅延責任をどう処理するか |
| 猶予機能 | 履行期限を延長する | 納期、検収期限、サービス開始日、工事完成日をどう動かすか |
| 停止機能 | 義務の履行を一時停止する | 継続的サービス、供給契約、保守契約、業務委託に重要 |
| 解除機能 | 長期化した場合に契約を終了できる | 双方が契約拘束から抜ける出口を作る |
| 再交渉機能 | 価格、数量、納期、仕様、調達先を見直す | ハードシップ条項との接続が重要 |
| 証拠化機能 | 通知、報告、資料提出を通じて事実関係を固定する | 紛争、監査、保険請求、取締役会説明に有用 |
| ガバナンス機能 | 危機発生時の意思決定手順を明確にする | 法務、調達、営業、経営、危機管理部門の連携を容易にする |
不可抗力条項は、単なる「責任逃れ」ではない。むしろ、非常時に契約関係を秩序立てて継続・修正・終了するための制度設計である。
履行不能、損害賠償、危険負担、解除、事情変更の法理との関係を確認します。
民法上、契約その他の債務発生原因と取引上の社会通念に照らして債務の履行が不能であるとき、債権者はその履行を請求できない。ここで重要なのは、単に「物理的に不可能」かどうかだけではなく、契約内容、目的、取引慣行、代替可能性、費用負担、法規制、時期などを含めて判断される点である。
例えば、特定の工場でしか製造できない製品が地震で製造不能になった場合、履行不能が問題になり得る。他方、同種品を市場から調達できるなら、単に自社工場が被災しただけでは履行不能とはいえない可能性がある。
民法上、債務者が債務の本旨に従った履行をしない場合または履行不能の場合、債権者は損害賠償を請求し得る。ただし、その不履行が契約その他の債務発生原因および取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由による場合は、損害賠償責任を負わない。
この「責めに帰することができない事由」は、実務上、不可抗力と近い場面で問題になる。しかし、不可抗力条項を置く意味はなお大きい。なぜなら、契約で次の事項を明確にできるからである。
双務契約では、一方の債務が当事者双方の責めに帰することができない事由で履行不能になった場合、反対給付をどう扱うかが問題になる。民法は、一定の場合に債権者が反対給付の履行を拒める構造を採っている。
実務上は、不可抗力条項で次のように整理する必要がある。
履行不能、履行拒絶、履行遅滞などが発生した場合、民法上、催告解除または無催告解除が問題になる。不可抗力条項では、民法の解除ルールに加えて、例えば「不可抗力状態が連続90日を超えた場合、いずれの当事者も通知により未履行部分を解除できる」といった契約上の出口を定めることが多い。
ここで注意すべきなのは、不可抗力条項が常に「契約を解除する条項」ではないことだ。多くの場合、最初の効果は免責・猶予・停止であり、解除は長期化した場合の二次的効果として位置づける方が、継続的取引には適合しやすい。
不可抗力は、典型的には「履行できない」または「履行が重大に妨げられる」場合を対象とする。これに対し、履行は可能だが、コストが著しく上昇した、契約の経済的均衡が崩れた、という場合には「ハードシップ」または「事情変更」の問題となる。
日本法において事情変更の法理は明文の一般規定ではなく、判例・学説上の法理として議論されてきた。東京大学社会科学研究所の研究資料でも、戦争によりスエズ運河が封鎖され、履行自体は可能だが費用が不相当に増大する例を、事情変更法理の典型的検討例として挙げている。そこでは、事情変更法理は極めて例外的に契約上の拘束から解放する「最後の手段」と位置づけられている。
したがって、企業法務の実務では、「不可抗力」と「ハードシップ」を分けて規定することが望ましい。単なる価格上昇や採算悪化まで不可抗力に含めると、契約の安定性が損なわれる。他方、価格高騰や物流迂回のような現実的問題を一切扱わないと、長期契約では破綻しやすい。そこで、不可抗力条項に加えて、再交渉・価格改定・数量調整・指数連動・解除を定めるハードシップ条項を置くことが合理的である。
国際契約で参照される代表的基準から、一般要件、通知、ハードシップを読み解きます。
国際商業会議所(ICC)は、2020年版の不可抗力・ハードシップ条項を公表している。ICC条項は、不可抗力の基本要件として、当事者の合理的支配を超えること、契約締結時に合理的に予見できないこと、影響を合理的に回避または克服できないことを中心に据えている。また、推定不可抗力事由として、宣戦布告の有無を問わない戦争、敵対行為、内乱、テロ、通貨・貿易制限、禁輸、制裁、政府命令、疫病、自然災害、極端な自然事象、輸送・通信・情報システム・エネルギーの長期障害などを列挙している。
この設計は、パンデミック、災害、戦争を包括するうえで実務的に参考になる。特に重要なのは、ICC条項が単にイベントを列挙するだけでなく、通知、軽減義務、一時的障害、長期化時の解除、不当利得的精算まで規定している点である。日本企業の英文契約やクロスボーダー取引でも、ICC条項をそのまま採用するか、または自社取引に合わせて修正する検討価値が高い。
UNIDROIT国際商事契約原則は、国際商取引における契約法のモデルとして広く参照される。不可抗力については、当事者の支配を超える障害、契約締結時に合理的に考慮できなかった障害、回避・克服できなかった障害を理由に不履行責任が免除される構造を採る。ハードシップについては、契約の均衡が根本的に変化した場合に、再交渉、裁判所・仲裁廷による終了または契約適応の可能性を定める。
UNIDROITの重要な示唆は、不可抗力とハードシップを別概念として扱いつつ、事案によっては重なり得ることを認める点である。例えば、戦争で輸送路が閉鎖され履行不能になれば不可抗力である。一方、輸送路は残っているが迂回により費用が数倍になった場合は、ハードシップとして再交渉・価格調整を検討する方が適切なことがある。
国際物品売買契約に適用され得る国連国際物品売買契約条約(CISG)は、第79条で、当事者の支配を超える障害により義務不履行が生じ、その障害を契約締結時に考慮すること、または回避・克服することが合理的に期待できなかった場合の免責を規定している。CISGは、第三者に履行を委ねた場合の免責、障害継続期間中の効果、通知義務、損害賠償以外の救済への影響も定めている。
国際売買では、契約書に不可抗力条項を置いていない場合でもCISG第79条が問題になることがある。しかし、CISGだけに依拠すると、通知期限、制裁、輸出規制、パンデミック対応、価格高騰、サプライヤー障害、既履行部分の精算などが十分に明確でない場合がある。したがって、CISG適用可能性がある取引でも、契約条項として不可抗力・ハードシップを具体化すべきである。
感染症の発生と履行障害を区別し、既知リスクやオンサイト義務を具体化します。
パンデミックを不可抗力に含める場合、単に「感染症」と書くだけでは不十分である。実務上は、次のような表現を組み合わせる。
新型インフルエンザ等対策特別措置法は、事業者に感染拡大防止への協力や、まん延による影響を考慮した適切な措置を講ずる努力を求めている。公益的事業など一定の主体には業務継続に関する責務も問題になる。 したがって、パンデミックを不可抗力事由に含める場合でも、「感染拡大防止のために合理的措置をとった結果、履行に支障が出た」場面と、「社内管理が不十分で感染が拡大した」場面を区別する必要がある。
感染症が世界的に流行しても、それだけで全契約の義務が免除されるわけではない。不可抗力条項は、通常、イベントと不履行との間の因果関係を要求する。
例えば、以下は不可抗力になり得る。
他方、以下は不可抗力に該当しない、または慎重に扱うべきである。
契約締結時点で既にパンデミックが発生している場合、「予見不能」とはいえない可能性が高い。したがって、既に感染症流行が存在する時期に契約する場合は、次のように明記する必要がある。
このような規定を置かないと、「そのリスクを知って契約したのだから、価格・納期に織り込むべきだった」と評価される可能性がある。
パンデミック条項では、次の点を明示する。
4 パンデミック条項に入れるべき具体論点の比較表は、検討項目ごとの差を一目で確認するためのものです。読者にとって重要なのは、列ごとの役割や注意点を比べることで、自社の制度・契約に移す際の確認漏れを減らせる点です。左から右へ項目、意味、実務上の注意を対応させて読み取ってください。
| 論点 | 条項設計の方向性 |
|---|---|
| 当局措置 | 法令、命令、要請、ガイドライン、入国制限、検疫、施設閉鎖を含める |
| 自主判断 | 法令上の命令でなくても、合理的な安全配慮・感染防止措置による停止を含めるか決める |
| オンサイト義務 | 立入制限時にリモート対応へ切替できるか定める |
| 納期 | 停止期間だけ自動延長するのか、協議で再設定するのか定める |
| 料金 | 停止中の固定料金、最低購入数量、キャンセル料をどう扱うか決める |
| 証拠 | 当局通知、閉鎖命令、感染状況、代替手段検討記録を求める |
| 長期化 | 30日、60日、90日、120日などの閾値を置く |
| 事業継続 | BCP、代替拠点、代替要員、分散勤務の努力義務を置く |
被災場所、物流経路、代替履行、保険との関係を条項に落とし込みます。
災害を不可抗力に含める場合、一般的には次の事由を列挙する。
内閣府の事業継続ガイドラインは、BCMの対象として自然災害を中心にしつつ、大事故、感染症のまん延、テロ、サプライチェーン途絶、サイバー攻撃など、事業の中断をもたらす可能性があるあらゆる事象に適用可能であると説明している。 これは、不可抗力条項をBCPと連動させるべきことを示唆する。
災害条項では、災害がどこで発生した場合に不可抗力となるかが重要である。
例えば、東京本社は無事でも、九州の製造工場が豪雨で停止すれば供給不能になることがある。反対に、当事者の本社地域で地震があっても、契約履行に影響がなければ不可抗力とはいえない。したがって、「当事者またはその履行補助者の施設、物流経路、供給元、受領場所その他本契約の履行に実質的影響を及ぼす場所で発生した災害」といった定義が実務的である。
災害の場合、代替履行可能性が争点になりやすい。
不可抗力条項では、「合理的に利用可能な代替手段を講じても履行障害を回避または克服できない場合に限る」と定めるのが基本である。ただし、代替手段に過大な費用がかかる場合、誰が費用を負担するかを定めなければ紛争になる。ここは不可抗力条項とハードシップ条項を接続する。
災害リスクでは、保険との関係も重要である。
契約条項上は、保険金の受領が費用精算や損害賠償額にどう影響するかを定めることがある。また、一定の保険加入義務を置く場合は、不可抗力発生時の証拠収集・通知義務と整合させる必要がある。
武力紛争だけでなく、制裁、輸出管理、送金規制、サイバー攻撃も含めて整理します。
戦争を不可抗力に含める場合、宣戦布告の有無に限定すべきではない。現代の紛争では、正式な宣戦布告がないまま、敵対行為、侵攻、軍事行動、制裁、輸出規制、金融制限、サイバー攻撃、港湾封鎖、徴用、接収、渡航禁止が発生する。
実務上は、次のように広く列挙する。
ICC条項も、戦争、内乱、テロ、貿易制限、禁輸、制裁、政府命令等を不可抗力事由として列挙している。
戦争リスクで最も重要なのは、物理的な戦闘だけでなく、制裁・輸出管理・外為規制・送金規制である。日本でも、ウクライナ情勢に関連して外国為替及び外国貿易法に基づく資産凍結、支払規制、資本取引規制、輸出禁止等の措置が実施されている。
したがって、国際契約では、単に「war」と書くだけでは足りない。次の条項を検討する。
戦争により輸送費、保険料、燃料費、原材料費が高騰した場合、それが直ちに不可抗力になるとは限らない。履行自体が可能であれば、原則として契約は履行されるべきである。これは、日本法の事情変更論、UNIDROITのハードシップ、国際契約実務のいずれにおいても重要な発想である。
したがって、戦争リスクを扱う条項では、次の二層構造が望ましい。
対象事由から証拠化まで、条項の抜け漏れを防ぐ10要素を確認します。
次の判断の流れは、不可抗力を主張できるかを検討する順番を示します。読者にとって重要なのは、イベントが発生しただけでは足りず、因果関係、合理的支配の外側、回避困難性、通知・軽減努力まで必要になる点です。上から下へ、該当性、影響、手続、効果の順に読み取ってください。
パンデミック、災害、戦争、制裁、行政措置などが条項に含まれるかを確認します。
その事由により、特定の義務が不可能、違法、または実質的に妨げられたかを確認します。
代替調達、迂回輸送、リモート対応など合理的措置を検討したかを確認します。
通知、証拠、履行停止、期限延長、長期化時の協議・解除を条項どおり運用します。
対象事由は、抽象条項と列挙条項を併用する。
抽象条項だけでは、何が含まれるか争いになる。列挙だけでは、想定外の事象が漏れる。したがって、次の構造が望ましい。
この後に、パンデミック、災害、戦争、制裁、政府命令、サプライチェーン途絶、インフラ障害を列挙する。
不可抗力事由と不履行との間には因果関係が必要である。条項上は、次のように定める。
「影響を受けた」とだけ書くと広すぎる。逆に「完全に不可能」とすると狭すぎる。実務上は、「不可能、違法、または合理的努力によっても実質的に妨げられる」といった中間表現が使いやすい。
不可抗力の典型要件として、契約締結時に合理的に予見できなかったことがある。ただし、パンデミック、戦争、気候災害のように、発生自体は予見可能でも、具体的影響の規模・地域・期間・規制内容が予見できないことがある。
条項上は次のように整理する。
不可抗力は、当事者の合理的支配を超える事由である必要がある。自社の資金不足、人員不足、管理不備、設備老朽化、通常のサプライヤー遅延は、原則として不可抗力ではない。
ただし、第三者障害については慎重な設計が必要である。クラウド、物流、半導体、原材料、下請加工、決済システムなど、現代の契約履行は第三者に依存している。条項では、第三者の不履行を当然に不可抗力とするのではなく、次のように絞る。
不可抗力を主張する当事者には、通常、合理的な回避・克服努力が求められる。
例として、次の措置が考えられる。
ただし、「あらゆる手段」を求めると過重である。条項上は「商業的に合理的な努力」「合理的範囲内」「過大な費用を要しない範囲」といった限定を置く。
不可抗力条項の実効性は、通知条項で決まる。
通知には、次の内容を含めるべきである。
通知期限は「遅滞なく」だけでもよいが、実務上は「認識後○営業日以内」とする方が明確である。重大な契約では、初回速報を24時間または48時間以内、詳細報告を5営業日以内、更新報告を週次または隔週とすることもある。
通知を怠った場合の効果も定める。過度に厳しく「通知しなければ一切不可抗力を主張できない」とすると、災害時には不合理となることがある。より実務的には、「通知遅延により相手方に生じた損害については免責されない」「通知到達時から免責効果が生じる」と定める。
不可抗力の効果は、契約ごとに設計する。
7 第7要素 ― 効果の比較表は、検討項目ごとの差を一目で確認するためのものです。読者にとって重要なのは、列ごとの役割や注意点を比べることで、自社の制度・契約に移す際の確認漏れを減らせる点です。左から右へ項目、意味、実務上の注意を対応させて読み取ってください。
| 効果 | 条項例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 損害賠償免除 | 影響範囲・期間に限り損害賠償責任を負わない | 故意・重過失、通知違反、軽減義務違反は除外するか検討 |
| 履行停止 | 影響義務の履行を停止できる | 相手方の反対給付停止権も定める |
| 期限延長 | 影響期間に合理的準備期間を加えて延長 | 自動延長か協議再設定か決める |
| 数量調整 | 供給可能数量を合理的に配分 | 優先順位・按分基準を定める |
| 代替履行 | リモート、代替品、代替ルートを認める | 品質・検収・追加費用が問題 |
| 料金調整 | 停止期間中の料金を減額または免除 | 固定費・待機費・出来高精算を定める |
| 解除 | 長期化時に解除 | 既履行部分・前払金・在庫を精算 |
| 再交渉 | ハードシップ時に価格・納期を協議 | 協議不成立時の効果が必要 |
不可抗力が数日で終わるなら、納期延長で足りる。しかし、パンデミック、戦争、広域災害は長期化する。長期化時の出口を定めなければ、双方が契約に縛られたまま、履行も収益化もできない状態になる。
典型的な設計は次のとおりである。
ICC条項も、障害の継続により契約上合理的に期待したものが実質的に失われる場合の解除や、一定日数を超えた場合の解除を扱っている。
不可抗力だけでは、費用増・価格高騰・物流迂回・為替急変・保険料上昇に対応しにくい。そこで、ハードシップ条項を置く。
ハードシップ条項では、次を定める。
UNIDROIT原則は、ハードシップを契約均衡の根本的変化として捉え、再交渉、終了、契約適応の枠組みを示している。 日本企業の契約実務でも、長期契約ではこの考え方が有用である。
不可抗力を主張する当事者は、証拠を残す必要がある。契約条項に、証拠提出義務を置くと紛争予防になる。
証拠例は次のとおりである。
証拠化は、訴訟・仲裁だけでなく、監査、取締役会説明、保険請求、金融機関説明、開示対応、内部統制上も重要である。
売買・供給契約では、納期、数量、検収、所有権移転、危険移転、代金支払、最低購入数量、在庫・仕掛品の精算が重要である。
設計ポイントは次のとおりである。
業務委託契約では、作業場所、人員、成果物、納期、検収、報酬、再委託が問題となる。
パンデミック時には、オンサイト作業をリモート作業に切り替えられるかが重要である。災害時には、資料・機器・データへのアクセス不能が問題になる。戦争・制裁時には、海外人材、オフショア拠点、クラウド利用、個人情報越境移転が問題となる。
条項では、次を定める。
ITサービスでは、自然災害だけでなく、データセンター障害、クラウドリージョン障害、通信障害、サイバー攻撃、電力障害、行政命令が問題になる。
ただし、すべてを不可抗力にすると、SLAが空洞化する。サービス提供者が冗長化、バックアップ、DR、セキュリティ対策を約束している場合、その範囲の障害は不可抗力ではなく、通常のサービス責任として扱うべきことがある。
設計ポイントは次のとおりである。
建設・EPC契約では、災害、戦争、資材高騰、労務不足、許認可遅延、現場閉鎖、輸入規制が重大である。
設計ポイントは次のとおりである。
建設契約では、不可抗力とハードシップの境界が特に重要である。工期延長は不可抗力で処理し、資材価格高騰は価格調整条項で処理する、といった役割分担が有効である。
物流契約では、港湾閉鎖、通関停止、航路変更、航空便欠航、燃料費高騰、戦争保険料、コンテナ不足が問題になる。
設計ポイントは次のとおりである。
ライセンス契約では、不可抗力で問題になるのは、製造・販売・ロイヤルティ支払・最低保証・監査・技術支援である。
設計ポイントは次のとおりである。
M&Aでは、不可抗力条項というより、MAC条項、表明保証、クロージング前提条件、サンドボックス、誓約事項、解除権が問題になる。パンデミック・災害・戦争が対象会社に重大な悪影響を与えた場合、クロージングを拒めるか、価格調整できるかが焦点である。
設計ポイントは次のとおりである。
基本条項、パンデミック特則、戦争・制裁特則、ハードシップ条項を確認します。
以下は、企業間取引における比較的バランス型の日本語条項例である。実際には、準拠法、契約類型、業界、力関係、リスク負担、保険、価格設定に応じて修正する必要がある。
第○条(不可抗力)
1. 本契約において「不可抗力」とは、当事者の合理的支配を超え、契約締結時に合理的に予見できず、かつ当該当事者が商業的に合理的な努力を尽くしても回避または克服できない事由により、本契約上の義務の全部または重要な一部の履行が不可能となり、違法となり、または実質的に妨げられる状態をいう。
2. 不可抗力には、以下の事由を含むが、これらに限られない。
(1) 地震、津波、台風、暴風、豪雨、洪水、高潮、豪雪、土砂災害、噴火、落雷、山火事、大規模火災、爆発その他の自然災害または極端な自然事象
(2) 感染症、疫病、伝染病、パンデミック、エピデミック、検疫、隔離、入国制限、渡航制限、外出制限、営業制限、施設閉鎖その他感染拡大防止のための法令、命令、要請または合理的措置
(3) 戦争、武力紛争、敵対行為、侵攻、内戦、反乱、暴動、革命、クーデター、テロ、破壊活動、海賊行為、軍事動員、港湾封鎖、領空または領海の閉鎖
(4) 経済制裁、禁輸、輸出入規制、外国為替規制、支払・送金規制、政府機関または行政機関の命令、許認可の停止、不許可、遅延または撤回
(5) 電力、ガス、水道、通信、交通、港湾、空港、道路、鉄道、情報システム、クラウドサービスその他重要インフラの大規模かつ継続的な障害
(6) 本契約の履行に不可欠なサプライヤー、下請業者、運送業者、クラウド事業者その他第三者の履行障害であって、当該障害が前各号の事由に起因し、かつ影響を受けた当事者が合理的に利用可能な代替手段を尽くしても回避または克服できないもの
3. 前項にかかわらず、単なる資金不足、需要減少、市況悪化、収益性の低下、通常の価格変動、為替変動、当事者の内部管理上の不備、通常予見可能な人員不足またはサプライヤーの通常の履行遅延は、不可抗力に該当しない。ただし、別途本契約に定めるハードシップ条項の適用を妨げない。
4. 不可抗力により本契約上の義務の履行に影響を受けた当事者は、当該不可抗力の発生またはその影響を認識した後、遅滞なく、かつ可能な限り○営業日以内に、相手方に対し、当該事由の内容、発生日または認識日、影響を受ける義務、影響の範囲、見込期間、講じた措置、今後の軽減措置および合理的に入手可能な証拠資料を通知するものとする。
5. 影響を受けた当事者は、不可抗力による影響を回避、軽減または克服するため、商業的に合理的な努力を尽くすものとし、相手方に対して状況の重要な変更を遅滞なく通知するものとする。
6. 不可抗力により影響を受けた義務について、影響を受けた当事者は、当該不可抗力の影響が継続する範囲および期間に限り、履行遅滞または不履行に基づく損害賠償責任、遅延損害金、違約金その他契約上の責任を負わない。ただし、当該当事者の故意または重過失、通知義務違反、軽減義務違反、または不可抗力と相当因果関係のない損害についてはこの限りでない。
7. 不可抗力により履行期限の遵守が妨げられた場合、当該履行期限は、不可抗力の影響が継続した期間および履行再開に合理的に必要な期間だけ延長される。ただし、当事者は、必要に応じて代替履行、分納、仕様変更、納期再設定、数量調整その他合理的措置について誠実に協議する。
8. 不可抗力は、既に期限が到来し、かつ不可抗力により支払が違法または実質的に不可能となっていない金銭支払義務を免除しない。ただし、制裁、送金規制、金融機関停止その他不可抗力により支払の実行が違法または実質的に不可能となった場合、当事者は代替支払方法、支払期限の延長またはエスクローその他合理的措置について協議する。
9. 不可抗力の影響が連続して○日を超える場合、当事者は、本契約の継続、変更、代替履行、費用負担、価格、数量、納期および解除について誠実に協議する。不可抗力の影響が連続して○日を超え、かつ本契約の目的を達成することが困難である場合、いずれの当事者も、相手方に書面で通知することにより、本契約の未履行部分を将来に向かって解除することができる。
10. 前項に基づき本契約が解除された場合、当事者は、既履行部分、検収済み成果物、仕掛品、専用部材、前払金、合理的な中止費用および不可避的に発生した第三者費用の精算について、別紙または当事者間の協議に従い処理する。
第○条(感染症・パンデミックに関する特則)
1. 感染症、疫病、伝染病、パンデミックまたはエピデミックには、国際機関、国、地方公共団体、保健当局その他公的機関による宣言、命令、要請、勧告またはガイドラインに基づく措置のほか、従業員、取引先、顧客、施設利用者その他関係者の生命・身体の安全を保護し感染拡大を防止するために当事者が合理的に講じた措置を含む。
2. 本契約締結時点で既に存在または公表されている感染症流行についても、当該流行に関して契約締結時に合理的に予見できなかった規制の新設、強化、再発動、対象地域拡大、長期化、サプライチェーン途絶または施設閉鎖が生じた場合には、当該予見不能な影響の範囲に限り、不可抗力に該当し得る。
3. オンサイト作業、対面会議、現地検査または現地立会いが感染症対策により困難となった場合、当事者は、リモート作業、オンライン会議、遠隔検査、資料提出、写真・動画・ログの提出その他代替手段について誠実に協議する。
第○条(戦争・制裁・輸出管理に関する特則)
1. 当事者は、本契約の履行に関して適用される経済制裁、輸出入規制、外国為替規制、再輸出規制、エンドユーザー規制、反テロ・反マネーロンダリング規制その他通商関連法令を遵守する。
2. 本契約の履行が、戦争、武力紛争、制裁、禁輸、輸出入規制、送金規制、許認可の不許可または遅延その他当事者の合理的支配を超える通商上の障害により違法となり、または実質的に不可能もしくは著しく困難となった場合、影響を受けた当事者は、当該影響の範囲に限り、本契約上の義務の履行を停止することができる。
3. 前項の場合、当事者は、許認可取得、代替輸送、代替支払、代替供給、契約範囲の変更または本契約の解除について誠実に協議する。ただし、いずれの当事者も、適用法令または制裁に違反する履行を求められない。
第○条(ハードシップ)
1. 契約締結後に、当事者の合理的支配を超え、契約締結時に合理的に予見できず、かつ当該当事者が引き受けたリスクとはいえない事由により、原材料、エネルギー、物流、保険、為替、関税、制裁対応、許認可対応その他本契約の履行に要する主要費用が著しく増加し、または本契約から得られる価値が著しく減少し、本契約の経済的均衡が根本的に変化した場合、影響を受けた当事者は、相手方に対し、価格、数量、納期、仕様、履行方法その他契約条件の合理的変更について協議を求めることができる。
2. 前項の協議請求は、当該事情、影響額、算定根拠、軽減措置および希望する変更内容を記載した書面により行う。
3. 当事者は、協議請求後○日以内に誠実に協議する。協議期間中、当事者は、別途合意がない限り、本契約上の義務を継続する。ただし、履行継続が当事者に著しく過大な損害を生じさせる場合は、当事者は一時停止または暫定条件について協議する。
4. 当事者が協議開始後○日以内に合意に至らない場合、いずれの当事者も、未履行部分について本契約を解除することができる。契約上合意する場合には、解除に代えて、専門家決定、仲裁人による暫定的条件決定、価格指数連動その他の調整手続を定めることができる。
売主・サービス提供者側、買主・発注者側、バランス型の交渉方針を整理します。
売主・サービス提供者側は、履行障害による損害賠償、遅延損害金、違約金、SLA責任を限定したい。したがって、次の方向で交渉する。
買主・発注者側は、不可抗力を過度に広く認めると供給責任が空洞化する。したがって、次の方向で交渉する。
バランス型の条項は、次の考え方を採る。
短すぎる定型文、通知義務不足、ハードシップ欠落などを修正視点で確認します。
不備 ― パンデミック、戦争、制裁、政府命令、サプライチェーン障害が含まれるか不明。
修正 ― 自然災害、感染症、戦争、制裁、行政措置、重要インフラ障害、第三者障害を具体的に列挙する。
不備 ― どの責任が免除されるか不明。履行義務自体が消えるのか、損害賠償だけなのか、納期延長なのか分からない。
修正 ― 履行停止、期限延長、損害賠償免除、料金調整、解除、精算を分けて規定する。
不備 ― 相手方が代替調達・損害軽減をできない。
修正 ― 認識後○営業日以内の通知、通知内容、更新報告、証拠提出、通知遅延の効果を定める。
不備 ― 価格高騰や輸送費増加を不可抗力として無理に処理しようとする。
修正 ― 不可抗力とは別に、費用増・価値減少・経済的均衡の根本的変化を扱うハードシップ条項を置く。
不備 ― 戦争発生時に、履行すれば制裁違反、履行しなければ契約違反という板挟みになる。
修正 ― 制裁・輸出管理・送金規制・許認可不許可を不可抗力または法令遵守条項に組み込む。
不備 ― 代金支払まで不可抗力で免れると主張される。
修正 ― 金銭支払義務は原則として免除しない。ただし、送金規制、金融機関停止、制裁により支払が違法または実質不能な場合の代替支払手続を置く。
不備 ― 長期停止しても解除できず、契約が宙ぶらりんになる。
修正 ― 30日協議、60日再設定、90日解除などの段階的出口を設計する。
契約管理、危機対応、BCPを条項運用とつなげます。
不可抗力条項は契約書の中だけで完結しない。実際に不可抗力を主張するには、社内体制が必要である。
不可抗力発生時には、どの契約にどの条項があるか即座に確認できなければならない。
必要な管理項目は次のとおりである。
リーガルオペレーションの観点では、契約管理システムに不可抗力関連メタデータを登録し、災害・感染症・戦争・制裁発生時に一括抽出できる状態が望ましい。
不可抗力発生時の社内の判断手順は、次の順序で設計します。
内閣府の事業継続ガイドラインは、BCPを、自然災害、感染症のまん延、テロ、大事故、サプライチェーン途絶など不測の事態が発生しても重要事業を中断させない、または短期間で復旧させるための方針・体制・手順を示すものとして説明している。
契約条項で「商業的に合理的な軽減努力」を義務付けるなら、社内のBCPが実際に機能していなければならない。契約上、BCP提出義務、年次訓練、代替拠点、バックアップ、サプライヤー多重化、安全在庫を求められるケースも増える。不可抗力条項とBCPは、法務とリスク管理の接点である。
発生事実、因果関係、予見可能性、軽減措置、通知、証拠を整理します。
不可抗力を主張する側は、一般に次の事実を説明・立証する必要がある。
紛争担当、外部弁護士、内部監査、フォレンジック担当が関与する場合、事象発生直後のメール、チャット、会議録、調達記録、通知案、サプライヤー回答、経営判断資料が重要証拠になる。後から整えるのではなく、初動から証拠化する必要がある。
ドラフト時と発生時に確認すべき項目を一覧で点検します。
次の時系列は、不可抗力が長期化した場合の出口設計を表します。読者にとって重要なのは、停止期間が伸びるほど、単なる納期延長から再設定、解除、精算へと検討事項が変わる点です。30日、60日、90日、120日の各段階で、協議、再設定、解除、自動終了などの選択肢を読み取ってください。
影響範囲、見込期間、代替履行、費用負担を確認します。
価格、数量、納期、仕様、履行方法を見直します。
契約目的の達成が困難な場合、未履行部分の解除を検討します。
既履行部分、前払金、仕掛品、第三者費用を精算します。
不可抗力条項を危機対応力を支える中核条項として整理します。
パンデミック・災害・戦争を不可抗力に含める条項設計では、「何を不可抗力と呼ぶか」だけでなく、「発生したときに契約をどう動かすか」を定める必要がある。不可抗力条項は、危機発生時に当事者を契約責任から機械的に解放する魔法の文言ではない。むしろ、非常時における通知、証拠化、軽減努力、履行停止、期限延長、損害賠償免除、再交渉、解除、精算を規律する実務的なオペレーション条項である。
特に、パンデミックでは、感染症そのものよりも、検疫、入国制限、施設閉鎖、従業員安全、サプライチェーン途絶、リモート代替が問題になる。災害では、被災場所、代替履行可能性、インフラ障害、保険、BCPが問題になる。戦争では、武力行使だけでなく、制裁、禁輸、輸出管理、送金規制、港湾封鎖、サイバー攻撃が問題になる。
最後に、実務上最も重要な設計原則を再掲する。
この原則を踏まえれば、「パンデミック・災害・戦争を不可抗力に含める条項設計」は、契約書の末尾に置かれる定型条項ではなく、企業の危機対応力そのものを支える中核条項となる。
公的機関、基準設定主体、国際機関などの資料名を整理しています。