2σ Guide

SAFEとJ-KISSの
比較と使い分け

米国SAFEと日本法上のJ-KISSを、企業法務、登記、税務会計、金商法、資本政策の観点から整理し、シード投資契約を選ぶ判断軸を示します。

2013SAFE導入
2016J-KISS公開
10%3,000万円÷3億円
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SAFEとJ-KISSの 比較と使い分け

米国SAFEと日本法上のJ-KISSを、企業法務、登記、税務会計、金商法、資本政策の観点から整理し、シード投資契約を選ぶ判断軸を示します。

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SAFEとJ-KISSの 比較と使い分け
米国SAFEと日本法上のJ-KISSを、企業法務、登記、税務会計、金商法、資本政策の観点から整理し、シード投資契約を選ぶ判断軸を示します。
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  • SAFEとJ-KISSの 比較と使い分け
  • 米国SAFEと日本法上のJ-KISSを、企業法務、登記、税務会計、金商法、資本政策の観点から整理し、シード投資契約を選ぶ判断軸を示します。

POINT 1

  • SAFEとJ-KISSの比較と使い分けの全体像
  • 米国法を前提にしたSAFEと、日本法の新株予約権として設計されたJ-KISSを、まず結論から整理します。
  • 結論は法域・投資家層・次回ラウンドで分かれる
  • ただし、両者は同じものではありません。
  • J-KISSは、日本の会社法、登記、税務会計に合わせて設計された日本会社向けのJ-KISS型新株予約権です。

POINT 2

  • SAFEとJ-KISSを比べる前に押さえる基本用語
  • SAFE、post-money SAFE、J-KISS、cap、discount、MFNなどの意味を先にそろえます。
  • 将来株式取得の簡易契約
  • 希薄化を把握しやすいSAFE
  • 日本法上の新株予約権スキーム

POINT 3

  • SAFEとJ-KISSの法的構造を比較する
  • 契約としてのSAFEと、新株予約権としてのJ-KISSでは、会社法・登記・税務会計の出発点が異なります。
  • 各行では、米国実務を前提にするSAFEと、日本法の新株予約権として扱うJ-KISSの違いを読み取ってください。
  • 日本会社が米国SAFEの用語だけを輸入しても、日本法上の実装は別途設計する必要があります。

POINT 4

  • SAFEとJ-KISSの実務的特徴を分けて見る
  • SAFEは迅速な米国型調達、J-KISSは日本法実務への接続が中心になります。
  • どの特徴が自社の調達場面に合うかを確認することは、過度なカスタマイズや次回ラウンドでの混乱を避けるために重要です。
  • シード期に企業価値評価の交渉を軽くし、準備ができた投資家から順次クロージングする発想に向きます。
  • 2018年に導入されたpost-money SAFEでは、創業者と投資家が会社の何%を渡したのかを把握しやすくなりました。

POINT 5

  • SAFEとJ-KISSの使い分けを実務マトリクスで確認する
  • 会社・投資家・調達目的ごとに、第一候補と注意点を整理します。
  • 次のマトリクスは、代表的な調達場面ごとの第一候補を整理したものです。
  • 各行では、第一候補だけでなく注意点まで確認してください。

POINT 6

  • SAFEとJ-KISSの希薄化を数値例で見る
  • post-money capとdiscountは、創業者持分と投資家持分を大きく動かします。
  • 数字を置いて確認することは、資金調達時点では見えにくい将来の持分変化を把握するために重要です。
  • 式と結果から、株式を今発行しないことが希薄化を消すわけではないことを読み取ってください。
  • 次の横棒グラフは、単純化した希薄化の積み上がりを割合で示しています。

POINT 7

  • SAFEとJ-KISSの条項別比較で注意するポイント
  • 転換イベント
  • J-KISSでも次回資金調達、M&A、解散、清算が重要なイベントになります。
  • valuation cap
  • capが低いほど投資家に有利で、創業者の希薄化は大きくなります。

POINT 8

  • 日本企業がJ-KISSを発行する手続の骨格
  • 1. 資本政策表を作成し、投資家候補にタームを提示する:J-KISS発行後と転換後の希薄化を試算し、cap、discount、MFN、情報権の条件を整理します。
  • 2. 投資契約書、発行要項、引受・申込書類を準備する:目的株式数または算定方法、行使価額または算定方法、行使期間、取得条項、譲渡制限などを整えます。
  • 3. 契約締結、払込み、割当、新株予約権者の確定を行う:払込期日、割当日、払込証明、割当通知、新株予約権原簿の記載を整合させます。

まとめ

  • SAFEとJ-KISSの 比較と使い分け
  • SAFEとJ-KISSの比較と使い分けの全体像:米国法を前提にしたSAFEと、日本法の新株予約権として設計されたJ-KISSを、まず結論から整理します。
  • SAFEとJ-KISSを比べる前に押さえる基本用語:SAFE、post-money SAFE、J-KISS、cap、discount、MFNなどの意味を先にそろえます。
  • SAFEとJ-KISSの法的構造を比較する:契約としてのSAFEと、新株予約権としてのJ-KISSでは、会社法・登記・税務会計の出発点が異なります。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

SAFEとJ-KISSの比較と使い分けの全体像

米国法を前提にしたSAFEと、日本法の新株予約権として設計されたJ-KISSを、まず結論から整理します。

SAFEとJ-KISSは、どちらもシード期に企業価値評価を後回しにして資金を入れるためのコンバーティブル・エクイティ型の投資手段です。ただし、両者は同じものではありません。SAFEは米国のY Combinatorが公表したSimple Agreement for Future Equityであり、米国会社法と米国投資実務を前提に発展しました。J-KISSは、日本の会社法、登記、税務会計に合わせて設計された日本会社向けのJ-KISS型新株予約権です。

次の重要ポイントは、このページ全体の結論を短くまとめたものです。どの会社が、どの投資家から、どのステージで調達するかによって選択肢が変わるため、まず大枠をつかむことが重要です。各項目から、米国法人ならSAFE、日本法人ならJ-KISSまたは日本法上のSAFE型新株予約権を軸に検討するという判断軸を読み取れます。

結論は法域・投資家層・次回ラウンドで分かれる

米国法人、とくにDelaware C-Corpが米国投資家から調達する場合はYC型post-money SAFEが自然です。日本の株式会社が日本VC、CVC、エンジェルからシード調達する場合は、J-KISS 2.0を第一候補として検討するのが一般的です。

  • 日本の株式会社が米国SAFEをそのまま使うと、将来株式交付、登記、税務、金商法の整理が残ります。
  • 日本法上のSAFE型新株予約権は、米国SAFEそのものではなく、日本法上の新株予約権として設計された別物です。
  • 起業家にとっての単純な優劣ではなく、投資家層、会社の設立地、次回ラウンド、株主権、エンジェル税制、登記、海外投資家対応、M&A時の扱いで使い分けます。
  • ブリッジラウンド、戦略投資、既存投資契約がある会社、上場準備に近い会社では、標準ひな形の無修正利用より個別設計が重要になります。
Section 01

SAFEとJ-KISSを比べる前に押さえる基本用語

SAFE、post-money SAFE、J-KISS、cap、discount、MFNなどの意味を先にそろえます。

シード投資契約では、同じ言葉でも法域や書式によって意味が変わります。次の一覧は、SAFEとJ-KISSの比較で繰り返し出てくる用語を整理したものです。用語の意味をそろえることは、投資条件、登記、税務、次回ラウンドの転換計算を読み違えないために重要です。

SAFE

将来株式取得の簡易契約

投資家が資金を払い、将来の株式資金調達などのイベントで、あらかじめ定めた計算式に従って株式を取得する米国実務上の書式です。通常、満期や利息を持つ社債ではありません。

post-money

希薄化を把握しやすいSAFE

SAFEラウンドの資金を織り込んだ後、次回priced roundの新規資金が入る前の時点で、SAFE投資家の概算持分比率を見やすくする設計です。

J-KISS

日本法上の新株予約権スキーム

日本版Keep It Simple Securityと説明される、シード投資向けの標準的な投資契約書・新株予約権スキームです。投資家は発行時点では株主ではなく、新株予約権者です。

cap

企業価値上限

次回ラウンドで会社価値が上がっても、早期投資家が一定の上限を基準に有利な価格で株式を取得できるようにする計算上の上限です。

discount

次回価格からの割引

次回ラウンドの新規投資家が支払う株価から一定割合を割り引いた価格で、早期投資家が株式を取得する仕組みです。

MFN

後続条件への追随

後で別の投資家により有利な条件を出した場合に、先行投資家も同等条件を選べるようにする最恵国待遇条項です。

プロラタ権は、既存投資家が将来ラウンドで自らの持分比率を維持するための追加投資権です。適格資金調達または次回資金調達は、SAFEやJ-KISSが転換するきっかけとなる株式資金調達イベントを指します。どの金額、どの株式種類、どの投資家による調達を該当させるかは、支配権と希薄化に直結します。

Section 02

SAFEとJ-KISSの法的構造を比較する

契約としてのSAFEと、新株予約権としてのJ-KISSでは、会社法・登記・税務会計の出発点が異なります。

次の比較表は、SAFEとJ-KISSの制度上の立ち位置を横並びで示しています。名称が似ていても、対象会社、発行時の権利、登記、税務、投資家権利が異なるため、ここを取り違えると、発行手続や次回ラウンドの設計を誤るおそれがあります。各行では、米国実務を前提にするSAFEと、日本法の新株予約権として扱うJ-KISSの違いを読み取ってください。

観点SAFEJ-KISS
発祥Y Combinatorが2013年後半に導入した米国実務の標準書式です。500 Startups Japanが2016年に公開し、Coral Capitalがメンテナンスする日本向け標準書式です。
法的性質将来株式取得に関する契約で、米国会社法・契約法実務を前提にします。日本法上の有償新株予約権で、会社法上の発行手続と登記が問題になります。
主な対象会社米国会社、とくに米国スタートアップです。公式の非米国フォームは限定的に案内されています。日本の株式会社です。
発行時の株主性SAFE保有者は通常、発行時点では株主ではありません。J-KISS投資家も発行時点では株主ではなく、新株予約権者です。
負債性通常、社債ではなく満期・利息を持ちません。通常、新株予約権であり、社債ではありません。
登記米国会社法・州法上の実務によります。新株予約権発行として日本の登記実務が発生します。
税務米国税務、投資家所在地、会社所在地に依存します。有償新株予約権としての検討が中心です。2024年4月1日以降取得分では、一定の新株予約権がエンジェル税制の対象に含まれ得ます。
投資家権利書式により異なります。YC SAFEはシンプルさを重視し、プロラタはサイドレターで扱われることがあります。情報権、Major Investor Rights、MFNなど、KISS由来の投資家寄り条項が論点になります。
市場標準性米国VC実務で非常に高い標準性があります。日本のシード調達実務で高い標準性があります。
使い分けの軸米国法人、米国投資家、米国標準実務です。日本法人、日本会社法、日本登記、日本税務です。

重要なのは、SAFEとJ-KISSの差が書式の長さではなく、会社法上の株式発行メカニズム、登記、投資家権利、税務、会計、金商法、次回ラウンドの株主間契約に及ぶ点です。日本会社が米国SAFEの用語だけを輸入しても、日本法上の実装は別途設計する必要があります。

Section 03

SAFEとJ-KISSの実務的特徴を分けて見る

SAFEは迅速な米国型調達、J-KISSは日本法実務への接続が中心になります。

次の一覧は、SAFEとJ-KISSの実務上の役割を、調達スピード、希薄化の見え方、標準ひな形、発行後管理に分けて整理したものです。どの特徴が自社の調達場面に合うかを確認することは、過度なカスタマイズや次回ラウンドでの混乱を避けるために重要です。

01

SAFEは評価を後回しにして資金を入れる

シード期に企業価値評価の交渉を軽くし、準備ができた投資家から順次クロージングする発想に向きます。

米国実務
02

post-money SAFEは持分比率を見やすくする

2018年に導入されたpost-money SAFEでは、創業者と投資家が会社の何%を渡したのかを把握しやすくなりました。

希薄化
03

SAFEの主な型

valuation capあり・discountなし、discountあり・capなし、uncapped MFN、プロラタサイドレターなどがあります。

条項差
04

J-KISSは日本法に合わせる

投資家は有償で新株予約権を引き受け、将来の次回資金調達時に株式を取得します。

日本法
05

J-KISS 2.0はpost-money capを採用

投資額をpost-money capで割ると、次回ラウンド直前時点での概算持分比率を把握しやすくなります。

J-KISS 2.0
06

発行後の管理が残る

新株予約権原簿、登記、cap、discount、MFN、転換計算、情報提供、M&A時の扱い、税務会計を継続管理します。

管理負担

日本会社がSAFEを使いたい場合、米国SAFEをそのまま締結するのではなく、日本法上のSAFE型新株予約権、J-KISSの修正、英文J-KISS、個別設計のコンバーティブル・エクイティ、または米国親会社の設立などを比較します。米国親会社を使う場合は、税務、組織再編、既存株主、知財移転、外為法、労務、グループ管理の論点が増えます。

Section 04

SAFEとJ-KISSの比較で外せない12の実務論点

会社の設立地から専門家関与まで、選択に影響する論点を横断的に確認します。

次の比較表は、SAFEとJ-KISSの使い分けで確認すべき12の実務論点をまとめたものです。個別の条項だけで判断すると、登記、金商法、税務会計、資本政策の影響を見落としやすいため、各行をチェック項目として読み、どの論点が自社で重いかを整理してください。

論点確認する内容実務上の読み方
会社の設立地米国法人か日本法人か。米国法人ならSAFE、日本法人ならJ-KISSまたは日本法上のSAFE型新株予約権を検討します。
投資家の国籍・慣れ米国VC、日本VC、海外エンジェル、CVCのどれか。海外投資家には、J-KISSがSAFE類似の日本法スキームであることを説明します。
投資家権利情報権、拒否権、取締役指名権、優先引受権、M&A時保護。SAFEだけでは足りず、サイドレターや別契約が必要になることがあります。
登記と会社法募集新株予約権の内容、募集事項、決議、登記。J-KISSでは会社法236条・238条に関わる発行手続が中心になります。
金商法取得勧誘人数、投資家属性、発行総額、通算、譲渡制限。50名以上の勧誘や1億円以上の調達などは慎重な確認が必要です。
税務有償新株予約権の時価、エンジェル税制、投資家課税。2024年4月1日以降取得分では一定の有償新株予約権が対象に含まれ得ますが、行使時要件が重要です。
会計発行会社側、投資家側の計上、時価評価、減損、転換時処理。監査法人や公認会計士への確認が必要になる場面があります。
資本政策post-money cap、SOプール、次回ラウンド、完全希薄化ベース。株式を今発行しないことは、希薄化がないことを意味しません。
次回ラウンド転換適格資金調達、転換価額、株式種類、端数、登記。計算式だけでなく、株主間契約参加や権利衝突の調整も必要です。
M&A・清算・解散金銭支払、転換、投資額回収、残余財産分配の順位。次回ラウンド前のExitや解散が起きた場合の条項を精査します。
事業会社・CVC投資業務提携、情報取得、競業、優先交渉権、データ共有、知財。事業条件は本体に詰め込みすぎず、別契約やサイドレターで整理します。
専門家関与弁護士、企業内法務、司法書士、税理士、公認会計士、CFO。法務、登記、税務、会計、資本政策を同時に確認します。

特に金商法では、実際に投資した人数ではなく、勧誘した人数が問題になる場面があります。SNS、ウェブサイト、ピッチイベント、複数回の条件提示、投資ファンドやSPVの介在がある場合は、投資家候補リストと送付資料の管理が重要です。

Section 05

SAFEとJ-KISSの使い分けを実務マトリクスで確認する

会社・投資家・調達目的ごとに、第一候補と注意点を整理します。

次のマトリクスは、代表的な調達場面ごとの第一候補を整理したものです。状況別に比較することで、SAFEとJ-KISSを抽象論で選ぶのではなく、設立地、投資家の期待、既存契約、税務、登記、次回ラウンドとの整合性から判断できます。各行では、第一候補だけでなく注意点まで確認してください。

状況第一候補理由注意点
米国Delaware C-Corpが米国VCから調達YC post-money SAFE投資家が慣れており、標準性が高い。米国弁護士、税務、409A、州法、証券法対応。
日本株式会社が日本VCからシード調達J-KISS 2.0日本法、登記、税務実務に合い、投資家の受容性が高い。株主総会、登記、転換計算、J-KISS 1.xとの混在回避。
日本株式会社がエンジェルから少額調達J-KISS 2.0またはSAFE型新株予約権評価を後回しにしやすい。エンジェル税制は取得時ではなく行使時の要件が問題になります。
起業家寄りの軽い条件で調達したいSAFE型新株予約権または簡素化J-KISS情報権や投資家権利を軽くできる可能性があります。次回ラウンド投資家の受容性、税務、登記、ひな形の信頼性。
事業会社が戦略投資するJ-KISSとサイドレター、または優先株式情報権や事業提携条件を整理しやすい。本体に事業条件を入れすぎないことが重要です。
次回ラウンド直前のブリッジJ-KISS修正版、新株予約権付社債、優先株式既存投資家との交渉結果を反映できます。標準ひな形から外れるためレビューが必要です。
投資家が元本償還・利息を求める新株予約権付社債・転換社債型デット性を持たせられます。財務負担、社債規制、会計上の負債性。
株主としての議決権を今すぐ与えたい普通株式、みなし優先株式、優先株式発行時点で株主になります。評価、株主間契約、希薄化が即時発生します。
海外投資家が日本会社に投資J-KISSの英文説明、個別英文CE、または米国親会社SAFESAFE類似性を説明できます。英文版、準拠法、税務、外為法、投資家KYC。
既に優先株式・株主間契約がある個別設計既存契約との整合性が必要です。拒否権、優先引受権、同意事項、希薄化防止条項。
Section 06

SAFEとJ-KISSの希薄化を数値例で見る

post-money capとdiscountは、創業者持分と投資家持分を大きく動かします。

次の数値例は、J-KISS 2.0のpost-money cap、discount、複数回発行による希薄化を単純化して示したものです。数字を置いて確認することは、資金調達時点では見えにくい将来の持分変化を把握するために重要です。式と結果から、株式を今発行しないことが希薄化を消すわけではないことを読み取ってください。

場面前提計算読み方
post-money capJ-KISS投資額3,000万円、post-money cap 3億円。3,000万円 ÷ 3億円 = 10%次回ラウンド直前時点で、投資家は概算10%相当を得る設計です。
株式数イメージ創業者株式9,000株。1,000株 ÷ (9,000株 + 1,000株) = 10%創業者90%、J-KISS投資家10%になるような株式数のイメージです。
discount次回株価1株1,000円、discount 20%、投資額2,000万円。1,000円 × (1 - 20%) = 800円。2,000万円 ÷ 800円 = 25,000株次回ラウンド価格より有利な価格で転換されます。
cap優先capによる転換価額が700円。2,000万円 ÷ 700円 = 約28,571株契約上、投資家に有利な方を使う設計が多く、取得株式数が増えます。
複数回J-KISSシード3,000万円・cap 3億円で10%、プレシリーズA 7,500万円・cap 5億円で15%。10% + 15% = 25%相当さらにSeries Aで20%、SOプール10%を置けば、創業者持分は急速に薄まります。

次の横棒グラフは、単純化した希薄化の積み上がりを割合で示しています。割合の長さを見ることで、1回ごとのJ-KISSは小さく見えても、複数回の発行、Series A、SOプールが重なると創業者側の持分に大きく影響することが分かります。

シードJ-KISS
10%
プレA J-KISS
15%
J-KISS合計
25%
Series A
20%
SOプール
10%
数値は説明用に単純化した割合です。実際の株式種類、端数処理、既存新株予約権、J-KISS 1.xとの混在、discount適用により結果は変わります。

この例から分かるとおり、J-KISSは希薄化をなくす道具ではなく、次回ラウンドまで繰り延べ、計算式により発生させる道具です。資本政策表では、発行済株式数だけでなく、完全希薄化ベース、J-KISS転換後、SOプール設定後、次回ラウンド後の複数パターンを管理します。

Section 07

SAFEとJ-KISSの条項別比較で注意するポイント

転換イベント、cap、discount、MFN、情報権、譲渡制限、変更条項を条項ごとに確認します。

次の一覧は、SAFEとJ-KISSで特に交渉・管理が問題になりやすい条項を整理したものです。条項ごとの効果を確認することは、次回ラウンド、M&A、既存投資家との調整で想定外の制約を受けないために重要です。各項目では、どの権利が誰に有利に働くかを読み取ってください。

転換イベント

SAFEではEquity Financing、Liquidity Event、Dissolution Eventが重要です。J-KISSでも次回資金調達、M&A、解散、清算が重要なイベントになります。

valuation cap

capが低いほど投資家に有利で、創業者の希薄化は大きくなります。J-KISS 2.0ではpost-money capにより希薄化率が見えやすくなります。

discount

次回ラウンド価格からの割引です。会社価値上昇が大きい場合はcap、価格上昇が限定的な場合はdiscountが実効的に働くことがあります。

MFN

後続投資家だけが有利な条件を得ることを防ぐ一方、創業者には後続調達の柔軟性低下をもたらします。対象範囲、通知義務、選択期限を明確にします。

情報権

月次試算表、事業計画、KPI、資金繰り、契約情報の提供義務は少人数チームに重くなります。投資額、競合関係、秘密保持と合わせて設計します。

プロラタ権

投資家が将来ラウンドで持分比率を維持するための権利です。少額エンジェル全員に広く与えると、次回ラウンドの運用が難しくなります。

譲渡制限

自由譲渡を認めると、未知の投資家、競合、反社、制裁対象者が権利者になるリスクがあります。会社承認を要求するのが通常です。

変更条項

全員同意では調整が困難になり、多数決では少数投資家保護が弱くなります。経済条件と事務的修正を分けて設計します。

Section 08

日本企業がJ-KISSを発行する手続の骨格

新株予約権としての発行手続、決議、払込み、登記、発行後管理を一連で確認します。

次の時系列は、日本の株式会社がJ-KISS型新株予約権を発行する場合の典型的な進行をまとめたものです。順番を意識することは、契約締結後に決議や登記の不備が見つかる事態を避けるために重要です。各段階で、資本政策、書類、機関決定、払込み、登記、発行後管理がつながっていることを読み取ってください。

設計

資本政策表を作成し、投資家候補にタームを提示する

J-KISS発行後と転換後の希薄化を試算し、cap、discount、MFN、情報権の条件を整理します。

書類

投資契約書、発行要項、引受・申込書類を準備する

目的株式数または算定方法、行使価額または算定方法、行使期間、取得条項、譲渡制限などを整えます。

機関決定

取締役会設置会社か非設置会社かを確認し、必要な決議を行う

株主総会決議または取締役会決議など、会社の機関設計と有利発行該当性に応じた手続を確認します。

発行

契約締結、払込み、割当、新株予約権者の確定を行う

払込期日、割当日、払込証明、割当通知、新株予約権原簿の記載を整合させます。

登記・管理

変更登記を申請し、投資家管理と次回ラウンド準備を続ける

登記事項、新株予約権原簿、情報提供、MFN、転換計算、M&A時の扱いを継続管理します。

会社法上は、新株予約権の内容と募集事項の決定が中核です。公開会社か非公開会社か、取締役会設置会社かどうか、種類株式発行会社か、既存株主の同意事項や投資契約上の拒否権があるかによって、決議機関と必要手続は変わります。

Section 09

SAFEとJ-KISSの税務・会計・金商法リスク

有償新株予約権の時価、エンジェル税制、会計処理、勧誘規制は早期確認が必要です。

次の一覧は、税務、会計、金商法の主なリスクを並べたものです。投資家との条件合意を急ぐ場面ほど、発行後に修正しにくい制度論点を見落としやすくなります。各項目から、タームシート段階で税理士、公認会計士、弁護士、司法書士へ確認すべき領域を読み取ってください。

発行時価

J-KISSは有償新株予約権として扱われ得ますが、払込金額が時価として説明できる必要があります。行使価格、転換条件、満期、M&A時条項などが影響します。

特殊関係者

役員、従業員、関連者への発行では、低額発行、有利発行、給与課税、寄附金、受贈益などの論点が出る可能性があります。

エンジェル税制

2024年4月1日以降に取得した一定の有償新株予約権は、行使時に要件を満たす場合、取得に要した金額が対象に含まれ得ます。

対象外となる時期

2024年3月31日以前取得分は対象外とされます。取得時点で直ちに税制が使えるわけではなく、権利行使時の要件確認が重要です。

会計処理

発行会社側では新株予約権としての計上、権利行使時の資本振替、失効・消却・取得時処理が問題になります。

金商法

取得勧誘人数、投資家属性、発行総額、通算、譲渡制限、目論見書・届出書・通知書の要否を確認します。

金商法では、投資条件を多数の候補者にメール送付する、SNSやウェブサイトで広く勧誘する、ピッチイベントで具体的条件を提示する、数か月以内に複数回勧誘する、50名以上に勧誘する、調達総額が1億円以上になる、といった場面で慎重な確認が必要です。

Section 10

SAFEとJ-KISSを実務で扱うチェックリスト

創業者側、投資家側、法務担当の確認項目を、発行前から発行後まで整理します。

次の比較表は、創業者側と投資家側で確認すべき交渉ポイントを整理したものです。立場によって重視するリスクが異なるため、交渉前に双方の関心を分けて把握することが重要です。各行では、創業者側の管理負担と投資家側の保護がどこで衝突するかを読み取ってください。

観点創業者側の確認投資家側の確認
cap低すぎるcapで将来の持分を過度に希薄化させない。早期リスクに見合う経済条件かを確認する。
情報権少額投資家に広い情報権を与えすぎない。投資後のモニタリングに必要な情報を確保する。
MFN後続調達の柔軟性が過度に制限されないよう範囲を絞る。後続投資家だけが有利になることを防ぐ。
J-KISS 1.xと2.0混在により転換計算が複雑にならないよう整理する。既存発行分と新規発行分の計算差を確認する。
サイドレター最恵待遇、情報権、優先引受権、事業提携条項を一覧管理する。自分の個別権利が次回ラウンドで維持されるか確認する。
M&A時回収金銭支払・転換・優先回収が資本政策と整合するか確認する。次回ラウンド前のM&Aで投資額相当額を回収できるか確認する。

法務担当・企業内弁護士向けの発行前確認

  • 会社の機関設計、定款、既存株主間契約、拒否権・同意事項を確認する。
  • cap、discount、MFN、Major Investor Rights、情報権の一覧を作成する。
  • 金商法上の勧誘人数、投資家属性、発行総額、通算を確認する。
  • 反社、制裁、外為法、KYCを確認する。
  • 税理士・会計士に有償新株予約権の時価・会計処理を確認する。
  • 司法書士に登記可能性を確認する。

発行時・発行後の確認

  • 募集事項、発行要項、決議内容、契約書、議事録、払込証明、割当通知、新株予約権原簿の整合性を確認する。
  • 払込期日、割当日、登記申請期限を管理する。
  • 資本政策表に転換後ベースを反映し、情報提供義務をカレンダー化する。
  • 次回ラウンド時の転換計算テンプレートを作成する。
  • 新規発行のたびにMFNと既存投資家権利を確認する。
  • M&Aや解散時の支払順位を把握する。

判断前に使う15の質問

  1. 発行会社は日本法人か、米国法人か。
  2. 投資家は日本VC、海外VC、CVC、個人エンジェル、既存株主のどれか。
  3. 次回ラウンドはいつ、いくら、どの株式種類で予定されているか。
  4. 投資額は会社の資本政策上、何%の希薄化を意味するか。
  5. capはpre-moneyかpost-moneyか。
  6. discountはあるか。capとdiscountのどちらが優先されるか。
  7. MFNはあるか。対象範囲は明確か。
  8. 情報権、優先引受権、プロラタ権は誰に与えるか。
  9. M&A、解散、清算時の支払順位は明確か。
  10. 金商法上、勧誘人数・発行総額・通算規制を確認したか。
  11. エンジェル税制を使いたい投資家がいるか。
  12. 会計上、発行会社・投資家はどのように処理するか。
  13. 司法書士が登記可能性を確認したか。
  14. 既存株主間契約に抵触しないか。
  15. 次回ラウンド投資家が受け入れやすい設計か。
Section 11

SAFEとJ-KISSのケース別判断とよくある誤解

典型ケースと誤解を並べて、実務判断の落とし穴を確認します。

次の比較表は、6つの典型ケースでどのように使い分けるかを示しています。ケースごとに投資家の期待、会社の法域、税制、戦略投資、次回ラウンドの近さが異なるため、第一候補と代替案を分けて読むことが重要です。

ケース実務上の整理
日本法人、初回シード、VC1社とエンジェル数名第一候補はJ-KISS 2.0です。cap、discount、情報権、Major Investorの定義、エンジェルの権利範囲を整理します。
日本法人、海外エンジェルがSAFEを要求米国SAFEをそのまま使うのではなく、J-KISSまたはSAFE型新株予約権を英語で説明し、日本法上の新株予約権として発行することを提案します。
米国親会社、日本子会社で事業運営米国親会社でYC SAFEを使うことが考えられます。ただし、IP、移転価格税制、外為法、SO、グループ内契約、将来IPO市場を検討します。
事業会社が投資し、業務提携もしたいJ-KISS本体に事業提携条件を入れ込みすぎず、投資契約と業務提携契約を分離します。
次回ラウンド直前のつなぎ資金標準J-KISSでよい場合もありますが、次回価格、投資家候補、既存株主同意、優遇条件を踏まえて個別設計します。
投資家がエンジェル税制を重視J-KISS等も一定条件で対象になり得ますが、取得時ではなく行使時が問題になります。投資年の税制メリットを重視する場合は普通株式やみなし優先株式も比較します。

次の一覧は、SAFEとJ-KISSに関するよくある誤解を整理したものです。誤解を先に外しておくことは、経営陣、投資家、専門家の会話を早くし、将来の税務・登記・投資家紛争を避けるために重要です。各項目では、短い言い切りの裏にある条件を確認してください。

誤解1

SAFEは日本でもそのまま使える

日本法人では、米国SAFEをそのまま使うと、日本会社法上の株式交付、登記、税務、金商法の問題が残ります。

誤解2

J-KISSは短いから簡単

転換計算、cap、discount、MFN、M&A時処理、登記、税務会計、株主間契約参加を理解する必要があります。

誤解3

発行時に株式を出さないので希薄化しない

希薄化は将来発生します。post-money capでは将来希薄化率を明確に先取りしていると考えます。

誤解4

J-KISS投資家は株主と同じ権利を持つ

発行時点では新株予約権者であり、議決権、株主総会出席権、配当請求権などは株主とは異なります。

誤解5

標準ひな形なら専門家確認は不要

既存契約、外国投資家、サイドレター、特殊関係者、金商法上の多数勧誘がある場合は専門家確認が不可欠です。

Section 12

SAFEとJ-KISSの比較と使い分けの実務ポリシー

最後に、専門職ごとの視点と、実務で採るべき基本方針を整理します。

次の一覧は、専門職ごとにSAFEとJ-KISSを見る視点を整理したものです。ひとつの投資契約であっても、法務、登記、税務、会計、資本政策の担当者が見るポイントは異なります。誰がどの論点を確認するかを分けることで、抜け漏れを減らせます。

弁護士

会社法、金商法、契約法、既存株主間契約、M&A条項、外国投資家対応との整合性を確認します。

契約

企業内弁護士・法務担当

標準ひな形からの変更点、稟議資料、投資家管理、次回ラウンド時の権利一覧管理を担います。

管理

司法書士

新株予約権発行の登記、添付書類、決議内容、発行要項から登記事項を確認します。

登記

税理士

有償新株予約権の時価、投資家課税、エンジェル税制、特殊関係者への発行、相続時評価を確認します。

税務

公認会計士

発行会社・投資家双方の会計処理、監査上の表示、減損、時価評価、転換時仕訳を確認します。

会計
C

CFO・経営企画

将来の希薄化、SOプール、次回ラウンドの交渉余地、投資家数、Exit時の分配を管理します。

資本政策

最終的な実務ポリシーはシンプルです。日本法人の標準シード調達ではJ-KISS 2.0を軸にし、SAFEという言葉を使うときは米国YC SAFEなのか、日本法上のSAFE型新株予約権なのかを必ず確認します。標準ひな形の修正は最小限にし、修正する場合は理由と影響を記録します。

資本政策表は、発行済株式数だけでなく転換後ベースで管理します。金商法、税務、登記は後回しにせず、タームシート段階で確認する方が後日の修正コストを抑えやすくなります。SAFEとJ-KISSは資金調達を早くする道具ですが、よい使い分けとは、次の資金調達、組織成長、Exitまで見通して、シンプルさと法的安定性のバランスを取ることです。

Reference

SAFEとJ-KISSの参考資料

制度・標準書式・税務会計・金商法の確認に用いる一次情報と実務資料です。

標準書式・実務解説

  • Y Combinator, Safe Financing Documents
  • Coral Capital, J-KISS
  • Coral Capital, J-KISS 2.0(Post Cap J-KISS)
  • JETRO, 米国VC向け日本スタートアップ投資概要

法令・制度資料

  • 日本法令外国語訳DBシステム 会社法 第2条21号、第236条、第238条
  • 経済産業省「コンバーティブル投資手段」活用ガイドライン
  • 経済産業省 エンジェル税制
  • 日本証券業協会 有価証券の私募
  • 財務省関東財務局 有価証券通知書
  • 企業会計基準委員会 企業会計基準第8号 ストック・オプション等に関する会計基準