2σ Guide

転換価格の計算と
ディスカウント率

市場価格からの割引、DCF割引率、次回ラウンド価格からの割引を分け、転換価格・行使価額・実質取得単価を実務で説明できる形に整理します。

3類型 割引率
10% 市場価格例
25% 希薄化基準
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Overview

転換価格の計算前に確認する免責事項

個別案件の法律・会計・税務・投資判断ではなく、一般的な整理として確認します。

このページは、企業法務、資本政策、会計、税務、証券実務に関する一般的な解説であり、個別案件についての法律意見、会計意見、税務助言、投資助言ではありません。転換社債型新株予約権付社債、新株予約権、第三者割当、ストックオプション、未上場会社のコンバーティブル・ノート等は、発行会社の属性、上場・非上場の別、既存株主構成、投資家属性、発行時の株価形成、開示義務、契約条項、税務上の関係者性、会計基準、海外法制の適用可能性によって結論が大きく変わります。実際の取引では、弁護士、公認会計士、税理士、証券会社、司法書士、社内法務、財務・経理部門、取締役会事務局等による個別検討が必要です。

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転換価格の計算と ディスカウント率

市場価格からの割引、DCF割引率、次回ラウンド価格からの割引を分け、転換価格・行使価額・実質取得単価を実務で説明できる形に整理します。

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転換価格の計算と ディスカウント率
市場価格からの割引、DCF割引率、次回ラウンド価格からの割引を分け、転換価格・行使価額・実質取得単価を実務で説明できる形に整理します。
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2σ GUIDE ・ VIDEO

  • 転換価格の計算と ディスカウント率
  • 市場価格からの割引、DCF割引率、次回ラウンド価格からの割引を分け、転換価格・行使価額・実質取得単価を実務で説明できる形に整理します。

POINT 1

  • 転換価格の計算前に確認する免責事項
  • 個別案件の法律・会計・税務・投資判断ではなく、一般的な整理として確認します。

POINT 2

  • 転換価格の計算とディスカウント率 ― 基本式 ― 転換価格の計算とディスカウント率
  • この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。
  • 3.1 市場価格からのディスカウント率
  • 3.2 基準株価の選び方
  • 3.3 転換社債型新株予約権付社債における基本式

POINT 3

  • 転換価格の計算とディスカウント率 ― ディスカウント率の三分類
  • この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。
  • 5.1 市場価格ディスカウント率
  • 5.2 DCF割引率
  • 5.3 次回ラウンド・ディスカウント率

POINT 4

  • 転換価格の計算とディスカウント率 ― MSCB・行使価額修正条項における転換価格の計算
  • この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。
  • 6.1 MSCBとは何か
  • 6.2 行使価額修正型の基本式
  • 6.3 数値例 ― 株価下落時の希薄化

POINT 5

  • 転換価格の計算とディスカウント率 ― 非上場会社における転換価格とディスカウント率
  • この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。
  • 8.1 非上場会社では「市場価格」がない
  • 8.2 コンバーティブル・ノートの基本構造
  • 8.3 数値例 ― ディスカウントとキャップの比較

POINT 6

  • 転換価格の計算とディスカウント率 ― 税務上の観点― 低い転換価格は課税問題を生む
  • この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。
  • 10.1 ストックオプション税制
  • 10.2 低廉発行・低額譲渡・経済的利益
  • 転換価格又は行使価額が低く設定されている場合、税務上は次の点を検討します。

POINT 7

  • 転換価格の計算とディスカウント率 ― DCF割引率― 転換価格算定にどう関係するか
  • この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。
  • 11.1 DCF法の基本式
  • 11.2 WACCの基本式
  • 11.3 DCF割引率と市場ディスカウント率の関係

POINT 8

  • 転換価格の計算とディスカウント率 ― 転換価格の調整条項
  • この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。
  • 13.1 なぜ調整条項が必要か
  • 13.2 株式分割・株式併合の基本例
  • 13.3 低価発行時の調整

まとめ

  • 転換価格の計算と ディスカウント率
  • 転換価格の計算前に確認する免責事項:個別案件の法律・会計・税務・投資判断ではなく、一般的な整理として確認します。
  • 転換価格の計算とディスカウント率 ― 基本式 ― 転換価格の計算とディスカウント率:この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。
  • 転換価格の計算とディスカウント率 ― ディスカウント率の三分類:この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Section 01

転換価格の計算とディスカウント率の結論 ― 転換価格の計算とディスカウント率で最も重要なこと

この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。

転換価格の計算とディスカウント率では、最初に「何を基準に、何を割り引く率なのか」を明確にすることが重要です。ここを分けることで、市場価格、DCF、次回ラウンド価格を取り違えずに検討できます。

次の一覧は、ディスカウント率という言葉が使われる3つの場面を整理したものです。読者にとって重要なのは、同じ10%でも対象と目的が違えば、法務・評価・投資契約上の意味が変わる点です。各項目を、どの資料で使う数字なのかを見分ける基準として読んでください。

市場価格

市場価格ディスカウント率

基準株価に対して転換価格又は行使価額をどの程度低く設定するかを示します。第三者割当、MSCB、有利発行性、既存株主保護で問題になります。

企業価値

DCF割引率

将来キャッシュ・フローを現在価値へ割り引く資本コストです。WACCや株主資本コストを使い、市場価格からの割引とは目的が異なります。

投資契約

次回ラウンド・ディスカウント率

次回株式発行価格に対する割引です。コンバーティブル・ノートやJ-KISS型投資で、初期投資家のリスク補償として使われることがあります。

次の判断の流れは、転換価格を取締役会資料や投資契約へ落とし込む順番を示します。読者にとって重要なのは、計算結果を先に置くのではなく、必要性、基準、算式、株主影響、記録化を順に確認することです。上から下へ、社内決裁で確認すべき順序として読んでください。

転換価格条件の確認順序

資金調達の必要性

調達額、資金使途、代替手段、実施時期を整理します。

基準価格・評価方法

直前日終値、平均株価、VWAP、評価書のどれを使うかを決めます。

算式と条項

ディスカウント率、下限・上限、調整条項、端数処理を整えます。

株主影響

希薄化率、支配株主の異動、利益相反、開示要否を確認します。

決議・開示・証跡

議事録、評価資料、開示書類、契約に同じ前提を反映します。

「転換価格の計算とディスカウント率」を理解するうえで最も重要なのは、一つの“ディスカウント率”という言葉に、少なくとも三つの異なる意味が混在しているという点です。

第一に、上場株式や第三者割当における「市場価格からのディスカウント率」があります。これは、基準株価を1,000円、転換価格又は行使価額を900円とする場合、10%ディスカウントと表現されるものです。

第二に、企業価値評価で用いる「割引率」があります。これはDCF法で将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引くための資本コスト、つまりWACCや株主資本コストなどを指します。

第三に、ベンチャー投資やコンバーティブル・ノートで使われる「次回ラウンド価格に対するディスカウント率」があります。たとえば「次回優先株ラウンドの発行価格の80%で転換する」という条項は、20%の転換ディスカウントを意味しますが、これはDCFの割引率とは異なります。

この三つを混同すると、取締役会資料、投資契約、開示書類、会計処理、税務判断のすべてで誤りが生じます。したがって、実務上の第一歩は、次の問いを明確にすることです。

重要ここでいうディスカウント率は、何を基準に、何を割り引く率なのか。

このページでは、以下の観点から「転換価格の計算とディスカウント率」を体系的に整理します。

  • 会社法上の新株予約権・新株予約権付社債における行使価額・転換価額の位置づけ
  • 第三者割当・有利発行・既存株主保護との関係
  • 上場会社のMSCB、行使価額修正条項、希薄化リスク
  • 未上場会社のコンバーティブル・ノート、バリュエーション・キャップ、転換ディスカウント
  • 会計上の新株予約権、複合金融商品、ストックオプション評価
  • 税務上のストックオプション、役員・従業員・関連者への低廉発行リスク
  • DCFで用いる割引率と市場価格ディスカウント率の違い
Section 02

転換価格の計算とディスカウント率 ― 用語の整理 ― 「転換価格」は法律用語として常に一義的ではありません

この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。

2.1 「転換価格」と「転換価額」

実務では「転換価格」「転換価額」「行使価額」「発行価格」「取得価額」「払込金額」といった言葉が使われます。これらは似ていますが、同じではありません。

次の比較表は、転換価格に近い用語の使われ方を整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いを見比べて、価格算定・説明責任・実務上の注意点のどこに影響するかを読み取ることです。左から順に、項目、条件、注意点又は計算結果を確認してください。

用語主に使われる場面基本的な意味
転換価格・転換価額転換社債型新株予約権付社債、コンバーティブル・ノート、優先株転換社債、ノート、優先株等が普通株式等へ転換される際の1株当たり価格
行使価額新株予約権、ストックオプション、MSCB等新株予約権を行使して株式を取得する際に、1株当たり又は新株予約権1個当たりで払い込む金額
払込金額募集株式、募集新株予約権、募集社債株式、新株予約権、社債を取得するために払い込む金額
発行価格開示書類、発行条件、実務説明株式又は新株予約権等の発行時の価格。文脈により意味が変わります
実質取得単価投資家側の経済性分析新株予約権の取得対価と行使時払込金額を合算した、株式1株当たりの実質的な取得コスト

日本の会社法上、新株予約権を発行する場合には、その目的である株式の数又は算定方法、行使に際して出資される財産の価額又は算定方法、行使期間、資本金・資本準備金に関する事項等を内容として定める必要があります。募集新株予約権については、募集新株予約権の内容・数、払込金額又は算定方法、割当日、新株予約権付社債である場合の社債に関する事項等を募集事項として定める必要があります。したがって、実務で「転換価格」と呼んでいるものは、多くの場合、会社法上は「行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法」「払込金額又はその算定方法」「社債の払込金額又は償還条件」など複数の法的要素に分解されます。

2.2 「転換価格」は一つの数字とは限らない

転換価格は、必ずしも「900円」のような固定値とは限りません。次のような形をとることがあります。

次の比較表は、転換価格の代表的な決め方を整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いを見比べて、価格算定・説明責任・実務上の注意点のどこに影響するかを読み取ることです。左から順に、項目、条件、注意点又は計算結果を確認してください。

類型実務上の注意点
固定転換価格1株900円で転換計算は単純だが、発行時の時価との関係、有利発行性、希薄化を検討する
市場価格連動型行使請求日の前日終値の90%株価下落時に交付株式数が増え、既存株主の希薄化が拡大しやすい
VWAP連動型直近5取引日のVWAPの92%参照期間、観察期間、出来高、インサイダー情報公表後の期間設定が重要
下限行使価額付きただし下限500円希薄化の上限管理に有効だが、株価が下限を下回ると行使が進まないことがある
上限・下限付き500円以上1,200円以下投資家保護と既存株主保護のバランスを条項で調整する
バリュエーション・キャップ型次回ラウンド価格又は上限企業価値から算定ベンチャーファイナンスで多い。会社法・税務・会計の整理が必要
ディスカウント型次回ラウンド価格の80%DCFの割引率とは異なります。投資契約で明確に定義する必要があります
Section 03

転換価格の計算とディスカウント率 ― 基本式 ― 転換価格の計算とディスカウント率

この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。

3.1 市場価格からのディスカウント率

もっとも基本的な式は次のとおりです。

転換価格 = 基準株価 × (1 − ディスカウント率)

逆に、転換価格からディスカウント率を計算する場合は、次の式になります。

ディスカウント率 = 1 − (転換価格 ÷ 基準株価)

たとえば、基準株価が1,000円、転換価格が900円であれば、

ディスカウント率 = 1 − (900 ÷ 1,000)
                 = 1 − 0.9
                 = 0.1
                 = 10%

となります。

一方、転換価格が1,100円であれば、

ディスカウント率 = 1 − (1,100 ÷ 1,000)
                 = −10%

であり、これはディスカウントではなく、10%のプレミアムです。実務上は「転換価額は基準株価に対して10%プレミアムで設定された」と説明します。

3.2 基準株価の選び方

ディスカウント率は、基準株価の選び方によって変わります。

次の比較表は、転換価格の計算とディスカウント率 ― 基本式 ― 転換価格の計算とディスカウント率で扱う項目を整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いを見比べて、価格算定・説明責任・実務上の注意点のどこに影響するかを読み取ることです。左から順に、項目、条件、注意点又は計算結果を確認してください。

基準株価特徴リスク
取締役会決議日の直前日終値分かりやすく、第三者割当実務で参照されやすい単日の価格変動、材料公表前後の影響を受ける
直近1か月平均短期的な変動を一定程度ならす急激な業績変化や重要事実公表後の価格を反映しにくい場合がある
直近3か月平均より安定的現在の市場実勢から乖離する場合がある
直近6か月平均大きな変動局面で参照されることがある過去価格に引きずられ、現時点の公正性説明が難しい場合がある
VWAP出来高を加味する流動性が低い銘柄では解釈に注意が必要
評価機関による株式価値非上場会社や市場価格が信頼しにくい場面で有用評価前提、事業計画、割引率、類似会社選定の合理性が問われます

日本証券業協会の「第三者割当増資の取扱いに関する指針」では、上場銘柄の発行会社が第三者割当により株式を発行する場合、払込金額は原則として取締役会決議の直前日の価額に0.9を乗じた額以上とし、一定の場合には最長6か月の平均価額に0.9を乗じた額以上とすることができるとされています。ただし、これは「10%以内なら常に安全」という意味ではありません。あくまで証券会社等の会員が発行会社に対して要請する実務指針であり、会社法上の有利発行性、取締役の善管注意義務、説明義務、既存株主の利益保護、開示の十分性は別途検討されます。

3.3 転換社債型新株予約権付社債における基本式

転換社債型新株予約権付社債、つまり一般に「CB」と呼ばれる商品では、社債が株式に転換される際の株式数は、概念的には次のように計算されます。

交付株式数 = 転換対象となる社債額面金額 ÷ 転換価額

たとえば、額面1億円の転換社債があり、転換価額が1株1,000円であれば、

交付株式数 = 100,000,000円 ÷ 1,000円
           = 100,000株

です。

転換価額が800円に修正される場合は、

交付株式数 = 100,000,000円 ÷ 800円
           = 125,000株

となり、同じ社債額面でも交付株式数は増えます。既存株主にとっては、転換価額の引下げは希薄化の拡大を意味します。

端数株式の処理、転換単位、調整条項、株式分割・株式併合時の調整、組織再編時の承継条項、取得条項、繰上償還条項は、発行要項で詳細に定める必要があります。

3.4 新株予約権における基本式

新株予約権では、通常、以下のように整理します。

1個当たり行使時払込金額 = 1株当たり行使価額 × 1個当たり目的株式数

投資家の実質取得単価を考える場合は、新株予約権の取得対価も含めます。

実質取得単価 = (新株予約権の取得対価 + 行使時払込金額) ÷ 取得株式数

たとえば、1個の新株予約権で100株を取得でき、1株当たり行使価額が900円、新株予約権1個の払込金額が5,000円であれば、

行使時払込金額 = 900円 × 100株
               = 90,000円

実質取得単価 = (5,000円 + 90,000円) ÷ 100株
             = 950円

この場合、表面的な行使価額は900円ですが、投資家側の実質取得単価は950円です。逆に、発行会社側から見ると、新株予約権発行時に5,000円、行使時に90,000円を受け取る構造です。したがって、有利発行性や経済的合理性を検討する場合、行使価額だけでなく、新株予約権の払込金額、評価額、行使条件、取得条項、譲渡制限、ロックアップ、株券貸借、ヘッジ取引の有無まで含めて判断する必要があります。

Section 04

転換価格の計算とディスカウント率 ― 会社法上の位置づけ ― 有利発行、募集事項、取締役会の説明責任

この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。

4.1 募集株式の払込金額と有利発行

会社法上、募集株式を発行する場合、募集株式の数、払込金額又は算定方法、払込期日又は期間、資本金・資本準備金に関する事項等を定める必要があります。払込金額が引受人に特に有利な金額である場合、取締役は株主総会において、その払込金額で募集することを必要とする理由を説明しなければなりません。

ここで重要なのは、「ディスカウント率が何%だから有利発行に当たる、又は当たらない」という機械的な判断ではない点です。上場会社で市場価格がある場合には市場価格との比較が重要ですが、株価形成の健全性、流動性、重要事実公表のタイミング、発行会社の資金繰り、資金使途、代替資金調達手段、引受人との関係、既存株主への影響、支配権の移動の有無などを総合的に見ます。

4.2 新株予約権の有利発行

新株予約権については、会社法上、目的株式数又は算定方法、行使に際して出資される財産の価額又は算定方法、行使期間、資本金・資本準備金に関する事項等を定めます。募集新株予約権については、募集新株予約権の内容・数、払込金額又は算定方法、割当日等を募集事項として定めます。

新株予約権の有利発行性は、株式の単純なディスカウント発行よりも難しい問題です。理由は、新株予約権の価値が次の要素によって変動するためです。

  • 行使価額
  • 現在の株価又は株式価値
  • 株価変動率、つまりボラティリティ
  • 行使期間
  • 無リスク利子率
  • 配当予想
  • 譲渡制限、行使制限、ロックアップ
  • 取得条項、強制行使条項、停止指定条項
  • 下限行使価額、上限行使価額
  • 行使価額修正条項
  • 割当先のヘッジ可能性、株券貸借の有無
  • 発行会社の信用リスク、流動性、上場維持リスク

したがって、「行使価額が時価と同じだから有利でない」と単純に結論づけるのは危険です。新株予約権そのものにオプション価値がある場合、その払込金額が公正価値を下回れば、有利発行性が問題となり得ます。

4.3 新株予約権付社債の社債条件

新株予約権付社債では、社債としての条件も重要です。会社法上、募集社債については、社債総額、各社債の金額、利率、償還方法・期限、利息支払方法・期限、払込金額又は算定方法等を定める必要があります。

CBの経済性は、単に転換価額だけでは決まりません。低い利率、満期、繰上償還条項、取得条項、転換停止期間、転換価額修正条項、リセット条項、償還プレミアム、担保・保証、財務制限条項、クロスデフォルト条項などを一体として評価する必要があります。

Section 05

転換価格の計算とディスカウント率 ― ディスカウント率の三分類

この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。

5.1 市場価格ディスカウント率

市場価格ディスカウント率は、基準株価に対して転換価格又は行使価額をどの程度低く設定するかを示す率です。

市場価格ディスカウント率 = 1 − 転換価格 ÷ 基準株価

上場会社の第三者割当やMSCBでは、この率が既存株主保護、発行条件の合理性、開示、上場規則上の審査、証券会社の実務対応に直結します。

5.2 DCF割引率

DCF割引率は、将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引くための率です。

現在価値 = Σ 将来キャッシュ・フロー_t ÷ (1 + 割引率)^t

DCFで用いる割引率は、対象とするキャッシュ・フローと一致していなければなりません。株主に帰属するキャッシュ・フローを評価するなら株主資本コスト、企業全体のキャッシュ・フローを評価するならWACCを用いるのが基本です。また、円建てキャッシュ・フローなら円建ての割引率、名目キャッシュ・フローなら名目割引率、実質キャッシュ・フローなら実質割引率を用いる必要があります。

このDCF割引率は、「基準株価1,000円から900円へ10%ディスカウントする」という意味のディスカウント率とは別物です。両者を混同すると、株式価値評価書や取締役会資料で重大な誤解を招きます。

5.3 次回ラウンド・ディスカウント率

ベンチャーファイナンスでは、コンバーティブル・ノートやJ-KISS型投資契約等において、次回株式発行価格に対するディスカウントが定められることがあります。

転換価格 = 次回ラウンド発行価格 × (1 − 転換ディスカウント率)

たとえば、次回ラウンドで1株1,000円の優先株が発行され、コンバーティブル・ノートの転換ディスカウント率が20%であれば、転換価格は800円です。

転換価格 = 1,000円 × (1 − 0.20)
         = 800円

この場合、初期投資家は、次回投資家より低い価格で株式を取得します。これは、初期段階の高いリスクを負担した投資家への経済的補償として設計されることがあります。ただし、ディスカウント率、バリュエーション・キャップ、転換対象株式の種類、端数処理、みなし清算優先権、希薄化防止条項、最恵待遇条項、税務処理は契約上明確にしておかなければなりません。

Section 06

転換価格の計算とディスカウント率 ― MSCB・行使価額修正条項における転換価格の計算

この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。

6.1 MSCBとは何か

MSCB等とは、一般に、転換価額又は行使価額が株価を基準として頻繁に修正され得る証券をいいます。日本証券業協会の規則では、上場発行者が行う第三者割当増資等により発行する有価証券で、行使に際して払い込むべき1株当たり額が、6か月間に1回を超える頻度で、交付される株券の価格を基準として修正され得る条件が付されたもの等が定義されています。

MSCBは、発行会社にとっては資金調達手段となりますが、株価下落時には転換価額又は行使価額が下がり、交付株式数が増え、既存株主の希薄化が拡大する可能性があります。そのため、東京証券取引所は、上場会社がMSCB等を発行する場合、流通市場の機能や株主の権利を十分に尊重し、転換又は行使を制限する措置を講じる必要がある旨を示しています。

6.2 行使価額修正型の基本式

典型的な行使価額修正型では、次のような式が使われます。

修正後行使価額 = 参照株価 × (1 − ディスカウント率)

ただし、下限行使価額を設ける場合は、次のようになります。

修正後行使価額 = max(下限行使価額, 参照株価 × (1 − ディスカウント率))

上限行使価額も設ける場合は、次のように表現できます。

修正後行使価額 = max(下限行使価額, min(上限行使価額, 参照株価 × (1 − ディスカウント率)))

6.3 数値例 ― 株価下落時の希薄化

前提を次のように置きます。

次の比較表は、転換価格の計算とディスカウント率 ― MSCB・行使価額修正条項における転換価格の計算で扱う項目を整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いを見比べて、価格算定・説明責任・実務上の注意点のどこに影響するかを読み取ることです。左から順に、項目、条件、注意点又は計算結果を確認してください。

項目数値
行使対象金額100,000,000円
ディスカウント率10%
下限行使価額500円
参照株価A1,000円
参照株価B600円
参照株価C400円

参照株価Aが1,000円の場合、

修正後行使価額 = 1,000円 × 90% = 900円
交付株式数 = 100,000,000円 ÷ 900円 = 約111,111株

参照株価Bが600円の場合、

修正後行使価額 = 600円 × 90% = 540円
交付株式数 = 100,000,000円 ÷ 540円 = 約185,185株

参照株価Cが400円の場合、単純計算では360円ですが、下限行使価額500円があるため、

修正後行使価額 = 500円
交付株式数 = 100,000,000円 ÷ 500円 = 200,000株

となります。

この例から分かるとおり、参照株価が下がるほど交付株式数は増えます。下限行使価額は希薄化の上限を管理するために重要ですが、株価が下限を大きく下回ると投資家が行使しにくくなり、発行会社が想定した資金調達が進まないリスクもあります。

6.4 MSCBの実務上の論点

MSCBや行使価額修正型新株予約権では、次の事項を取締役会資料、発行要項、開示書類、投資契約で整合的に整理する必要があります。

次の比較表は、転換価格の計算とディスカウント率 ― MSCB・行使価額修正条項における転換価格の計算で扱う項目を整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いを見比べて、価格算定・説明責任・実務上の注意点のどこに影響するかを読み取ることです。左から順に、項目、条件、注意点又は計算結果を確認してください。

論点確認事項
参照株価終値、VWAP、平均値、どの市場、どの期間か
観察期間重要事実公表後の期間か、空売り規制との関係はどうか
ディスカウント率何%か、資金調達の必要性・投資家リスクと整合するか
下限行使価額希薄化上限、上場維持、資金調達可能性とのバランス
上限行使価額投資家のアップサイド制限、発行会社の調達額への影響
行使制限月間行使量、一定割合超の行使制限、停止指定条項
株券貸借割当先・関係者による貸株、ヘッジ取引、空売りの有無
開示資金使途、選択理由、条件の合理性、希薄化、割当先選定理由
既存株主保護希薄化率、支配株主の異動、独立意見又は株主意思確認

次の横棒グラフは、参照株価が1,000円、600円、400円へ下がる3場面で、交付株式数がどれだけ増えるかを相対比較するものです。読者にとって重要なのは、株価下落により同じ行使対象金額から発行される株式数が増え、既存株主の希薄化が拡大する点です。棒の長さは200,000株を100%とした目安として読み取ってください。

1,000円時
56%
600円時
93%
400円時
100%
行使対象金額1億円、ディスカウント率10%、下限行使価額500円の例を相対比較しています。
Section 07

転換価格の計算とディスカウント率 ― 第三者割当とディスカウント率 ― 10%ルールの誤解

この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。

7.1 「10%以内なら問題ない」は誤り

実務では「第三者割当は時価から10%以内のディスカウントならよい」と語られることがあります。しかし、この表現は不正確です。

日本証券業協会の指針では、上場銘柄の第三者割当による株式発行について、原則として直前日価額に0.9を乗じた額以上とすることが示されています。しかし、これは証券会社等の会員に対する実務上の要請であり、会社法上の有利発行性を機械的に免除するものではありません。

特に、次のような事情がある場合は、10%以内のディスカウントでも慎重な検討が必要です。

  • 直前日株価が重要事実未公表により適正に形成されていない
  • 株価が短期間で急落又は急騰している
  • 流動性が著しく低い
  • 引受人が役員、主要株主、親会社、関連会社、取引先等である
  • 支配権の移動が生じます
  • 発行数量が大きく希薄化率が高い
  • 新株予約権やCBの条件により実質的な取得価額が低くなる
  • 別契約、リベート、手数料、貸株、デリバティブにより経済条件が変化する
  • 発行会社の資金繰りが逼迫しており、代替手段の検討が不十分である

7.2 上場会社の希薄化25%基準

上場会社が第三者割当を行う場合、希薄化率が25%以上となるとき又は支配株主が異動することになるときは、原則として、経営者から一定程度独立した者による必要性・相当性に関する意見の入手、又は株主総会決議などの株主意思確認手続が求められます。

これは、ディスカウント率だけでなく、発行数量と支配権への影響が重要であることを示しています。たとえディスカウント率が小さくても、希薄化率が大きければ、既存株主の議決権割合、1株当たり利益、株価形成、支配関係に重大な影響を及ぼします。

7.3 取締役会資料に書くべき事項

第三者割当でディスカウント発行又は転換価格設定を行う場合、取締役会資料には少なくとも次の事項を整理すべきです。

  1. 資金調達の必要性
  2. 調達資金の具体的使途
  3. 第三者割当を選択する理由
  4. 公募増資、金融機関借入、社債、私募債、資産売却等との比較
  5. 割当先の属性、選定理由、反社会的勢力排除確認
  6. 基準株価の選定理由
  7. ディスカウント率の設定理由
  8. 発行価額、転換価額、行使価額、払込金額の算定根拠
  9. 評価機関による評価書の有無と前提条件
  10. 既存株主の希薄化率
  11. 支配株主の異動可能性
  12. 割当先の保有方針、売却方針、貸株・ヘッジ方針
  13. 会計処理・税務処理
  14. 開示書類の記載内容
  15. 利益相反、関連当事者取引、特別利害関係人の有無
  16. 取締役の善管注意義務・忠実義務の観点からの検討
Section 08

転換価格の計算とディスカウント率 ― 非上場会社における転換価格とディスカウント率

この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。

8.1 非上場会社では「市場価格」がない

非上場会社では、上場株式のような市場価格が存在しません。そのため、転換価格の計算では、次のような評価軸を組み合わせます。

次の比較表は、転換価格の計算とディスカウント率 ― 非上場会社における転換価格とディスカウント率で扱う項目を整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いを見比べて、価格算定・説明責任・実務上の注意点のどこに影響するかを読み取ることです。左から順に、項目、条件、注意点又は計算結果を確認してください。

評価軸内容注意点
DCF法将来キャッシュ・フローを割引率で現在価値にする事業計画と割引率の合理性が重要
類似会社比較法上場類似会社の倍率を用いる類似性、成長率、利益率、規模差を調整する
類似取引比較法類似M&A・投資ラウンドの価格を参照する取引時期、支配権プレミアム、優先株条件に注意
純資産法純資産を基礎に評価する成長企業では過小評価になりやすい
直近投資ラウンド価格直近の第三者投資価格を参照するラウンド後の業績変化、優先株条件、投資家属性に注意

非上場会社の転換価格を安易に低く設定すると、会社法上の有利発行、取締役の責任、既存株主との紛争、税務上の低額譲渡・給与課税・寄附金認定、会計上の費用計上等の問題が生じ得ます。

8.2 コンバーティブル・ノートの基本構造

コンバーティブル・ノートでは、次回適格資金調達が発生したときに、ノート元本及び場合により利息が株式へ転換されます。代表的な転換価格の計算は次の二つです。

ディスカウント価格 = 次回ラウンド発行価格 × (1 − ディスカウント率)
キャップ価格 = バリュエーション・キャップ ÷ 完全希薄化後株式数

投資家に有利な方、つまり通常は低い方の価格を転換価格とすることがあります。

転換価格 = min(ディスカウント価格, キャップ価格)

8.3 数値例 ― ディスカウントとキャップの比較

前提を次のように置きます。

次の比較表は、転換価格の計算とディスカウント率 ― 非上場会社における転換価格とディスカウント率で扱う項目を整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いを見比べて、価格算定・説明責任・実務上の注意点のどこに影響するかを読み取ることです。左から順に、項目、条件、注意点又は計算結果を確認してください。

項目数値
次回ラウンド発行価格1,000円
転換ディスカウント率20%
バリュエーション・キャップ800,000,000円
完全希薄化後株式数1,000,000株

ディスカウント価格は、

1,000円 × (1 − 20%) = 800円

キャップ価格は、

800,000,000円 ÷ 1,000,000株 = 800円

この場合、どちらも800円です。

別のケースで、次回ラウンド発行価格が1,500円であれば、

ディスカウント価格 = 1,500円 × 80% = 1,200円
キャップ価格 = 800円
転換価格 = min(1,200円, 800円) = 800円

となり、キャップが効きます。

逆に、次回ラウンド発行価格が900円であれば、

ディスカウント価格 = 900円 × 80% = 720円
キャップ価格 = 800円
転換価格 = min(720円, 800円) = 720円

となり、ディスカウントが効きます。

8.4 非上場会社での法務上の注意点

非上場会社では、次の点が紛争になりやすいです。

  • 「完全希薄化後株式数」にストックオプションプールを含めるか
  • 次回ラウンドで発行される株式と同一種類に転換するか
  • 優先株の残余財産分配権、参加型・非参加型、みなし清算条項をどう扱うか
  • 転換時に端数株式をどう処理するか
  • 転換前にM&Aが発生した場合の取扱い
  • ノート利息を転換対象に含めるか
  • 税務上、利息、割引発行、低廉取得、役員・従業員への利益供与がどう評価されるか
  • 既存株主の新株予約権、優先引受権、希薄化防止条項との整合性
Section 09

転換価格の計算とディスカウント率 ― 会計上の観点 ― 新株予約権、複合金融商品、ストックオプション

この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。

9.1 新株予約権の発行者側会計

企業会計基準適用指針第17号は、払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理を扱います。同適用指針では、新株予約権を発行したときは、その発行に伴う払込金額を純資産の部に「新株予約権」として計上し、新株予約権が行使され新株を発行する場合には、新株予約権の払込金額と行使に伴う払込金額を資本金又は資本金及び資本準備金に振り替えるとされています。

これは、法務上の「行使価額」と会計上の「新株予約権の払込金額」が別の概念であることを示しています。転換価格の計算では、投資家の実質取得単価だけでなく、発行会社の会計処理も確認する必要があります。

9.2 転換社債型新株予約権付社債

転換社債型新株予約権付社債では、社債部分と新株予約権部分が経済的に結合しています。会計上、社債としての負債性、新株予約権としての資本性、利息、償却原価、転換時の処理などを検討する必要があります。

国際会計基準や米国会計基準が適用される企業、海外子会社を含む連結財務諸表を作成する企業、上場準備会社では、日本基準だけでなくIFRSやUS GAAPとの比較も重要です。特に、固定対固定の要件、デリバティブ区分、負債・資本の区分、評価損益の認識が問題となる場合があります。

9.3 ストックオプションの評価

ストックオプションでは、公正な評価単価又は本源的価値が問題となります。未公開企業については、公正な評価単価に代えて、単位当たりの本源的価値の見積りに基づく会計処理が認められる場面があります。本源的価値とは、算定時点でストックオプションが権利行使されると仮定した場合の価値、つまり株式評価額と行使価格との差額です。

たとえば、付与時の株式評価額が1,000円、行使価格が700円であれば、本源的価値は300円です。この差額は、報酬、費用、税務上の経済的利益として問題になり得ます。

Section 10

転換価格の計算とディスカウント率 ― 税務上の観点 ― 低い転換価格は課税問題を生む

この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。

10.1 ストックオプション税制

日本の税制適格ストックオプションでは、一定の要件を満たす場合、権利行使時の取得株式の時価と権利行使価額との差額に対する給与所得課税が株式売却時まで繰り延べられ、売却時に譲渡所得として課税される制度があります。

しかし、税制適格要件を満たさない場合や、役員・従業員・関係会社・主要株主等に対して低い行使価格で権利を付与する場合には、給与所得、退職所得、雑所得、贈与、寄附金、役員給与、関連者間取引などの問題が生じ得ます。

10.2 低廉発行・低額譲渡・経済的利益

転換価格又は行使価額が低く設定されている場合、税務上は次の点を検討します。

次の比較表は、転換価格の計算とディスカウント率 ― 税務上の観点 ― 低い転換価格は課税問題を生むで扱う項目を整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いを見比べて、価格算定・説明責任・実務上の注意点のどこに影響するかを読み取ることです。左から順に、項目、条件、注意点又は計算結果を確認してください。

場面典型的な税務論点
役員・従業員へのストックオプション給与課税、税制適格要件、行使価格要件、費用計上
取引先への新株予約権付与寄附金、交際費、役務対価、資産計上
関連会社・親会社・子会社への発行グループ内寄附、移転価格、受贈益、資本等取引
主要株主・役員関係者への低廉発行みなし贈与、利益供与、関連当事者取引
非居住者・海外投資家源泉税、租税条約、国外転出、外国税制

税務上の「時価」は、会社法上の有利発行判断や会計上の公正価値と完全に一致するとは限りません。法務・会計・税務の三者で評価前提を統一し、必要に応じて評価書、取締役会議事録、契約書、税務メモを整備すべきです。

Section 11

転換価格の計算とディスカウント率 ― DCF割引率 ― 転換価格算定にどう関係するか

この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。

11.1 DCF法の基本式

DCF法では、将来キャッシュ・フローを割引率で現在価値に換算します。

企業価値 = Σ FCFF_t ÷ (1 + WACC)^t + ターミナル・バリュー ÷ (1 + WACC)^n

株主価値を直接評価する場合は、

株主価値 = Σ FCFE_t ÷ (1 + 株主資本コスト)^t

となります。

ここで重要なのは、キャッシュ・フローの種類と割引率を一致させることです。企業全体に帰属するFCFFを評価するならWACC、株主に帰属するFCFEを評価するなら株主資本コストを用いる必要があります。

11.2 WACCの基本式

WACCは、概念的には次のように表現されます。

WACC = 株主資本コスト × E / (D + E)
     + 負債コスト × (1 − 税率) × D / (D + E)

次の比較表は、転換価格の計算とディスカウント率 ― DCF割引率 ― 転換価格算定にどう関係するかで扱う項目を整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いを見比べて、価格算定・説明責任・実務上の注意点のどこに影響するかを読み取ることです。左から順に、項目、条件、注意点又は計算結果を確認してください。

記号意味
E株主資本の市場価値
D有利子負債の市場価値
株主資本コスト株主が要求する期待収益率
負債コスト借入・社債等のコスト
税率支払利息の税効果を反映する税率

株主資本コストは、CAPMを用いる場合、概念的には次のように計算されます。

株主資本コスト = リスクフリーレート + β × エクイティ・リスク・プレミアム + 追加リスク調整

ただし、未上場会社、スタートアップ、赤字企業、金融機関、不動産会社、プロジェクト会社、海外事業比率が高い会社では、単純なCAPM適用が難しい場合があります。類似会社の選定、βのアンレバリング・リレバリング、サイズプレミアム、個別リスクプレミアム、カントリーリスク、為替、税務上の繰越欠損金、優先株条件などを慎重に扱います。

11.3 DCF割引率と市場ディスカウント率の関係

DCF割引率が10%であるからといって、転換価格を時価から10%割り引いてよいわけではありません。両者は次元が異なります。

次の比較表は、転換価格の計算とディスカウント率 ― DCF割引率 ― 転換価格算定にどう関係するかで扱う項目を整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いを見比べて、価格算定・説明責任・実務上の注意点のどこに影響するかを読み取ることです。左から順に、項目、条件、注意点又は計算結果を確認してください。

項目DCF割引率市場価格ディスカウント率
対象将来キャッシュ・フロー株式の基準価格
目的現在価値の算定発行・転換価格の設定
WACC 8%、株主資本コスト12%時価1,000円に対し900円で発行
主な論点事業計画、資本コスト、リスク有利発行、希薄化、既存株主保護
誤用例WACC 10%だから10%ディスカウントでよい市場ディスカウント10%を企業価値評価の割引率に使う

DCFは、非上場会社の株式価値評価、上場会社でも市場価格が信頼しにくい場合の補助分析、M&Aや第三者委員会の公正性検討、ストックオプションの基礎株価評価などで重要です。しかし、DCF割引率は、市場価格からのディスカウント率を直接正当化するものではありません。

Section 12

転換価格の計算とディスカウント率 ― 公正価値評価 ― IFRS的な視点と実務上の評価技法

この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。

公正価値評価では、測定日における市場参加者間の秩序ある取引を前提とした出口価格が意識されます。IFRS 13は、公正価値を、測定日における市場参加者間の秩序ある取引において資産を売却して受け取る価格又は負債を移転するために支払う価格と定義し、評価技法については、状況に適切で十分なデータが利用可能な技法を用い、観察可能なインプットを最大限利用し、観察不能なインプットを最小限にすることを求めています。

日本基準の適用会社であっても、第三者割当、新株予約権、CB、ストックオプション、M&A、上場準備、海外投資家対応では、この考え方が実務上の説明力を高めます。

評価技法は大きく三つに分かれます。

次の比較表は、転換価格の計算とディスカウント率 ― 公正価値評価 ― IFRS的な視点と実務上の評価技法で扱う項目を整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いを見比べて、価格算定・説明責任・実務上の注意点のどこに影響するかを読み取ることです。左から順に、項目、条件、注意点又は計算結果を確認してください。

アプローチ内容転換価格算定での用途
マーケット・アプローチ市場価格、類似会社倍率、類似取引を参照上場会社、類似会社がある非上場会社
インカム・アプローチDCF等により将来収益を現在価値化成長企業、M&A、事業計画がある会社
コスト・アプローチ純資産、再調達コストを基礎に評価資産保有会社、清算価値、初期段階会社の補助分析

新株予約権やCBのオプション価値は、ブラック・ショールズ・モデル、二項モデル、モンテカルロ・シミュレーション等により評価されることがあります。特に行使価額修正条項、下限行使価額、停止指定、取得条項、強制行使、流動性制約がある場合、単純なブラック・ショールズでは十分でないことがあります。

Section 13

転換価格の計算とディスカウント率 ― 転換価格の調整条項

この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。

13.1 なぜ調整条項が必要か

転換価格は、発行後に株式分割、株式併合、無償割当、株主割当、合併、会社分割、株式交換、株式移転、組織再編、剰余金配当、時価を下回る新株発行等が行われると、当初の経済的バランスが崩れることがあります。そのため、発行要項や投資契約では転換価格調整条項を定めます。

13.2 株式分割・株式併合の基本例

株式分割では、株式数が増えるため、転換価格を下げます。

調整後転換価格 = 調整前転換価格 ÷ 分割比率

たとえば、1株を2株に分割する場合、転換価格1,000円は500円に調整されます。

1,000円 ÷ 2 = 500円

株式併合では、株式数が減るため、転換価格を上げます。

調整後転換価格 = 調整前転換価格 × 併合比率

2株を1株に併合する場合、転換価格1,000円は2,000円に調整されます。

13.3 低価発行時の調整

既存のCBや新株予約権に希薄化防止条項がある場合、発行会社が時価を下回る価格で新株を発行すると、転換価格が調整されることがあります。代表例は次の二つです。

次の比較表は、転換価格の計算とディスカウント率 ― 転換価格の調整条項で扱う項目を整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いを見比べて、価格算定・説明責任・実務上の注意点のどこに影響するかを読み取ることです。左から順に、項目、条件、注意点又は計算結果を確認してください。

条項内容投資家保護の強さ
フルラチェット低価発行価格まで既存投資家の転換価格を引き下げる強い
加重平均方式発行済株式数、低価発行株式数、価格を加味して調整する中程度

フルラチェットは既存投資家を強く保護しますが、創業者・普通株主・後続投資家への影響が大きく、資本政策を硬直化させることがあります。加重平均方式はバランス型ですが、計算式の定義が複雑です。

13.4 調整条項の法務レビュー項目

  • 調整事由は網羅的か
  • 株式分割、株式併合、無償割当、株主割当を区別しているか
  • 低価発行の除外事由、たとえば役職員向けストックオプション、M&A対価、戦略提携対価を定めているか
  • 完全希薄化後株式数の定義が明確か
  • 優先株、種類株、新株予約権、転換社債を含めるか
  • 端数処理は明確か
  • 調整後価格の下限はあるか
  • 調整通知の方法と時期は明確か
  • 組織再編時の承継会社に対する権利内容が定められているか
Section 14

転換価格の計算とディスカウント率 ― 開示実務 ― 発行価格・資本組入額・行使価額修正条項

この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。

有価証券届出書等の開示では、投資者が転換価格や行使価額を理解できるよう、発行価格、行使価額、資本組入額、算式、決定予定時期、具体的決定方法を記載する必要があります。開示府令の様式注記では、新株予約権証券について、新株予約権1個の発行価格、行使により株式を発行する場合の1株の発行価格及び資本組入額、算式表示を行う場合の資本組入額の記載、未確定事項の決定予定時期・具体的決定方法等が示されています。

特に行使価額修正条項付の証券では、投資者にとって次の情報が極めて重要です。

  • 行使価額がいつ、どの頻度で修正されるか
  • どの価格を参照するか
  • ディスカウント率はいくらか
  • 下限行使価額・上限行使価額はあるか
  • 行使により最大何株が発行され得るか
  • 希薄化率は最大どの程度か
  • 調達額が株価によりどう変動するか
  • 割当先が株券貸借やヘッジを行う可能性があるか
  • 発行会社が行使停止指定をできるか
  • 月間行使状況、大量行使、転換価額修正の開示が必要か

東京証券取引所の実務案内では、MSCB等の転換又は行使がない月には月間行使状況の開示が不要とされる一方、転換価額又は行使価額の修正があった場合にはその旨を開示することが示されています。

Section 15

転換価格の計算とディスカウント率 ― 取締役・監査役・社外取締役の視点

この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。

転換価格の計算とディスカウント率は、単なる財務計算ではありません。取締役会の意思決定として、既存株主の利益、資金調達の必要性、発行条件の相当性、開示の十分性を説明できる必要があります。

15.1 取締役会が確認すべき問い

  • なぜ今、資金調達が必要なのか
  • なぜ銀行借入や公募増資ではなく、第三者割当又はCB・新株予約権なのか
  • 割当先はなぜその者なのか
  • 転換価格又は行使価額はどの基準価格から算定したのか
  • ディスカウント率はどのような経済的理由で設定したのか
  • 既存株主にどの程度の希薄化が生じるのか
  • 支配株主の異動又は支配権への影響はあるか
  • 評価機関の評価書は取得したか
  • 評価書の前提条件は妥当か
  • 割当先のヘッジ、貸株、売却方針は確認したか
  • 反社会的勢力排除確認は行ったか
  • 開示は投資者の判断に十分か
  • 利害関係のある取締役は決議から除外すべきか
  • 社外取締役・監査役の意見はどうか

15.2 議事録に残すべきポイント

取締役会議事録には、結論だけでなく、検討過程を残すことが重要です。

  • 資金繰り資料、事業計画、資金使途の説明
  • 代替資金調達手段の比較
  • 転換価格・ディスカウント率の算定資料
  • 評価書、フェアネス・オピニオン、第三者意見の概要
  • 希薄化率、EPSへの影響、議決権割合への影響
  • 割当先との交渉経緯
  • 有利発行性に関する法務意見
  • 会計・税務処理の概要
  • 開示内容の確認
  • 反対意見、留保意見、質疑応答

議事録は、後日、株主代表訴訟、差止請求、金融商品取引法上の開示問題、証券取引所からの照会、監査法人レビュー、税務調査で重要な証拠となり得ます。

Section 16

転換価格の計算とディスカウント率 ― 専門職別の役割分担

この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。

「転換価格の計算とディスカウント率」は、単一の専門家だけで完結しません。実務では、次のような役割分担が望まれます。

次の比較表は、転換価格の計算とディスカウント率 ― 専門職別の役割分担で扱う項目を整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いを見比べて、価格算定・説明責任・実務上の注意点のどこに影響するかを読み取ることです。左から順に、項目、条件、注意点又は計算結果を確認してください。

専門職・部門主な役割
法務担当・企業内弁護士発行スキーム、契約、会社法、開示、取締役会手続の整理
外部弁護士有利発行性、第三者割当、上場規則、紛争リスク、意見書
公認会計士評価、会計処理、監査対応、内部統制、IPO影響
税理士税制適格性、低廉発行、役員・従業員課税、関連者取引
司法書士発行後の登記、資本金・資本準備金、変更登記
証券会社引受・買受け実務、規則対応、投資家説明、マーケット実務
取締役会事務局議案、招集、議事録、決議要件、社外役員対応
財務・経理部門資金使途、資金繰り、会計処理、予算、開示数値
IR担当投資家説明、適時開示、FAQ、株主対応
コンプライアンス担当インサイダー情報管理、反社チェック、利益相反管理
内部監査担当決裁統制、証跡、手続遵守、事後レビュー
Section 17

転換価格の計算とディスカウント率 ― ケーススタディ

この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。

次の時系列は、価格算定から発行後管理までの実務の進み方を示します。読者にとって重要なのは、計算結果を出すだけでは足りず、承認、契約、開示、事後更新まで一続きで管理する点です。上から順に、証跡を残すタイミングとして確認してください。

設計

価格算式と前提を決める

基準株価、評価方法、ディスカウント率、キャップ、下限・上限、端数処理を決めます。

承認

取締役会・株主総会を確認する

有利発行性、利益相反、既存株主保護、希薄化、支配権影響を確認します。

契約

発行要項・投資契約へ反映する

算式、調整条項、行使制限、情報請求、みなし清算、最恵待遇を整合させます。

管理

発行後の再計算と証跡を残す

調整事由、行使状況、登記、会計、税務、IR対応を更新します。

17.1 ケース1 ― 上場会社が固定行使価額の新株予約権を第三者割当で発行する場合

前提

次の比較表は、転換価格の計算とディスカウント率 ― ケーススタディで扱う項目を整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いを見比べて、価格算定・説明責任・実務上の注意点のどこに影響するかを読み取ることです。左から順に、項目、条件、注意点又は計算結果を確認してください。

項目内容
直前日終値1,000円
直近1か月平均980円
行使価額900円
新株予約権の払込金額評価機関算定に基づき1個5,000円
1個当たり目的株式数100株
発行個数10,000個

計算

直前日終値基準のディスカウント率 = 1 − 900 ÷ 1,000 = 10%
1か月平均基準のディスカウント率 = 1 − 900 ÷ 980 ≒ 8.16%

新株予約権1個当たりの実質取得単価は、

(5,000円 + 900円 × 100株) ÷ 100株 = 950円

となります。

法務上の検討

このケースでは、表面的な行使価額は直前日終値から10%ディスカウントですが、新株予約権の払込金額を加味した実質取得単価は950円です。ただし、評価機関算定が妥当か、行使期間・ボラティリティ・下限条件・取得条項が適切に反映されているかを検討しなければなりません。

また、潜在株式数は、

10,000個 × 100株 = 1,000,000株

です。既存発行済株式数が3,000,000株であれば、単純希薄化率は、

1,000,000株 ÷ 3,000,000株 = 33.33%

となり、上場会社の第三者割当実務上、独立意見又は株主意思確認手続が問題となります。

17.2 ケース2 ― MSCBで株価下落が続く場合

前提

次の比較表は、転換価格の計算とディスカウント率 ― ケーススタディで扱う項目を整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いを見比べて、価格算定・説明責任・実務上の注意点のどこに影響するかを読み取ることです。左から順に、項目、条件、注意点又は計算結果を確認してください。

項目内容
調達予定額500,000,000円
当初行使価額1,000円
修正式直前取引日終値の90%
下限行使価額500円

当初行使価額1,000円で全額行使されれば、

500,000,000円 ÷ 1,000円 = 500,000株

です。

しかし、株価が700円まで下落すると、

修正後行使価額 = 700円 × 90% = 630円
交付株式数 = 500,000,000円 ÷ 630円 ≒ 793,650株

となります。

株価が500円を下回り、下限行使価額500円が適用される場合、

交付株式数 = 500,000,000円 ÷ 500円 = 1,000,000株

です。

実務上の意味

株価下落時には、既存株主の希薄化が拡大します。さらに、投資家によるヘッジ売り、貸株、行使と売却のタイミングによっては、株価下落圧力が増幅する懸念があります。発行会社は、行使制限、停止指定、下限行使価額、資金使途の明確化、開示の充実、既存株主への説明を慎重に設計する必要があります。

17.3 ケース3 ― 未上場スタートアップのコンバーティブル・ノート

前提

次の比較表は、転換価格の計算とディスカウント率 ― ケーススタディで扱う項目を整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いを見比べて、価格算定・説明責任・実務上の注意点のどこに影響するかを読み取ることです。左から順に、項目、条件、注意点又は計算結果を確認してください。

項目内容
ノート元本30,000,000円
利息年利2%、転換時に元本へ加算
次回ラウンド価格1,200円
ディスカウント率20%
バリュエーション・キャップ価格900円
転換時元利合計30,600,000円

ディスカウント価格は、

1,200円 × 80% = 960円

キャップ価格は900円のため、投資家に有利な900円を転換価格とします。

転換株式数 = 30,600,000円 ÷ 900円 = 34,000株

実務上の意味

このケースでは、次回ラウンド投資家が1,200円で取得する株式を、ノート投資家は900円で取得します。これは25%の価格差です。

1 − 900円 ÷ 1,200円 = 25%

当初契約で20%ディスカウントと定めていても、キャップが効いた結果、実際の次回ラウンド価格に対するディスカウントは25%になることがあります。したがって、投資契約では「ディスカウント率」だけでなく、バリュエーション・キャップが実際にどの程度の経済効果を持つかをシミュレーションする必要があります。

Section 18

転換価格の計算とディスカウント率 ― よくある誤りと回避策

この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。

次の一覧は、転換価格の計算で起きやすい誤りを整理したものです。読者にとって重要なのは、どの誤りも契約・開示・会計税務のどこかで後から問題化しやすい点です。各項目を、資料レビュー時に優先して確認する警告リストとして読んでください。

基準を明記しない

DCF割引率と混同する

DCF割引率は企業価値評価、市場価格ディスカウント率は発行条件として分けます。

予約権価値を無視する

公正価値、払込金額、行使価額、行使期間、ボラティリティを一体で分析します。

希薄化試算が狭い

複数の株価シナリオで最大希薄化率、調達可能額、行使進捗を試算します。

誤り1 ― ディスカウント率の基準を明記しない

「10%ディスカウント」とだけ書いても、基準が直前日終値なのか、1か月平均なのか、次回ラウンド価格なのか、DCF評価額なのかが不明です。

誤り2 ― DCF割引率と市場価格ディスカウント率を混同する

「WACCが10%なので10%ディスカウントで発行する」という説明は、基本的に不適切です。

回避策 ― DCF割引率は企業価値評価の前提、市場価格ディスカウント率は発行条件の前提として区別します。

誤り3 ― 新株予約権の払込金額を無視する

行使価額だけで有利・不利を判断すると、オプション価値を見落とします。

回避策 ― 新株予約権の公正価値、払込金額、行使価額、行使期間、ボラティリティを一体で分析します。

誤り4 ― 希薄化率を固定価格だけで試算する

MSCBでは、株価下落時に交付株式数が増えます。

回避策 ― 複数の株価シナリオで最大希薄化率、調達可能額、行使進捗を試算します。

誤り5 ― 契約外の経済条件を開示・検討しない

貸株、ヘッジ、手数料、リベート、別契約により、実質的な経済条件が変わることがあります。

回避策 ― 割当先との全契約、サイドレター、貸株契約、デリバティブ、紹介手数料を確認します。

誤り6 ― 非上場会社で株式価値評価を省略する

市場価格がないからといって、任意の価格設定が許されるわけではありません。

回避策 ― DCF、類似会社、直近ラウンド、純資産法等を組み合わせ、評価メモ又は評価書を作成します。

誤り7 ― 税務適格ストックオプションの要件を後回しにする

行使価額や付与対象者、行使期間、保管委託、年間行使限度額などを後から修正できないことがあります。

回避策 ― 付与前に税理士・弁護士が税制適格要件を確認します。

Section 19

転換価格の計算とディスカウント率 ― 実務チェックリスト

この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。

19.1 法務チェック

  • 発行するのは株式、新株予約権、新株予約権付社債、種類株式、コンバーティブル・ノートのいずれか
  • 会社法上の募集事項は網羅されているか
  • 株主総会決議、取締役会決議、委任決議の要否は確認したか
  • 有利発行性の検討は行ったか
  • 特別利害関係人の決議参加を整理したか
  • 種類株主総会の要否を確認したか
  • 既存投資契約の優先引受権、同意権、希薄化防止条項に抵触しないか
  • 発行要項、投資契約、総数引受契約、割当契約、社債要項に矛盾はないか
  • 開示書類と契約書の算式が一致しているか
  • 反社会的勢力排除確認を実施したか

19.2 ファイナンス・評価チェック

  • 基準株価又は株式価値の算定根拠は明確か
  • ディスカウント率の経済的理由は説明可能か
  • DCFの割引率はキャッシュ・フローと整合しているか
  • 類似会社・類似取引の選定は合理的か
  • オプション価値評価のモデルは条件に適合しているか
  • ボラティリティ、無リスク利子率、配当、行使期間の前提は合理的か
  • 株価下落・上昇シナリオで希薄化を試算したか
  • 調達額と資金使途の整合性を確認したか

19.3 上場会社・開示チェック

  • 適時開示の要否を確認したか
  • 有価証券届出書又は臨時報告書の要否を確認したか
  • 発行価格、行使価額、資本組入額、算式を明記したか
  • 行使価額修正条項の特質を説明したか
  • 希薄化率、最大交付株式数を説明したか
  • 25%以上の希薄化又は支配株主異動の可能性を確認したか
  • 独立意見又は株主意思確認手続の要否を確認したか
  • MSCB等の月間行使状況・大量行使・価額修正の開示体制を整えたか

19.4 会計・税務チェック

  • 新株予約権の払込金額の会計処理を確認したか
  • 行使時の資本金・資本準備金の処理を確認したか
  • CBの負債・資本区分を確認したか
  • ストックオプションの公正価値又は本源的価値を確認したか
  • 税制適格ストックオプションの要件を確認したか
  • 低廉発行・低額譲渡・寄附金・給与課税のリスクを確認したか
  • 関連者間取引、移転価格、国外投資家の税務を確認したか
Section 20

転換価格の計算とディスカウント率 ― 計算テンプレート

この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。

20.1 固定転換価格

基準株価 = A
転換価格 = B
ディスカウント率 = 1 − B / A
交付株式数 = 転換対象金額 / B

20.2 新株予約権の実質取得単価

1個当たり目的株式数 = N
1株当たり行使価額 = X
新株予約権1個当たり払込金額 = W

1個当たり行使時払込金額 = X × N
実質取得単価 = (W + X × N) / N

20.3 行使価額修正型

参照株価 = R
ディスカウント率 = d
下限行使価額 = F
上限行使価額 = C

修正後行使価額 = max(F, min(C, R × (1 − d)))
交付株式数 = 行使対象金額 / 修正後行使価額

20.4 コンバーティブル・ノート

次回ラウンド価格 = P
転換ディスカウント率 = d
バリュエーション・キャップ = Vcap
完全希薄化後株式数 = Sfd
元利合計 = M

ディスカウント価格 = P × (1 − d)
キャップ価格 = Vcap / Sfd
転換価格 = min(ディスカウント価格, キャップ価格)
転換株式数 = M / 転換価格

20.5 DCF

企業価値 = Σ FCFF_t / (1 + WACC)^t + TV / (1 + WACC)^n
WACC = ke × E/(D+E) + kd × (1−T) × D/(D+E)
Section 21

まとめ

この章では、原則・数値例・実務上の注意点を読みやすく整理します。

転換価格の計算とディスカウント率は、単純な算数に見えます。しかし、実務上は、会社法、有利発行、上場規則、開示、会計、税務、株式価値評価、投資契約、既存株主保護が交差する高度な論点です。

最も重要な実務原則は、次の五つです。

  1. ディスカウント率の意味を定義する。 市場価格ディスカウント、DCF割引率、次回ラウンド・ディスカウントを混同しない。
  2. 基準価格を明確にする。 直前日終値、平均株価、VWAP、DCF評価額、次回ラウンド価格のどれを基準にするのかを明示する。
  3. 実質経済条件を見る。 行使価額だけでなく、新株予約権の払込金額、社債利率、償還条件、貸株、ヘッジ、取得条項を一体で評価する。
  4. 既存株主への影響を定量化する。 希薄化率、議決権割合、EPS、支配権、株価形成への影響をシナリオ分析する。
  5. 手続と証拠を残す。 取締役会資料、議事録、評価書、法務・税務・会計メモ、開示書類を整合的に整備する。

「転換価格の計算とディスカウント率」を正しく扱うことは、単に資金調達条件を決めることではありません。企業価値、株主間の公平、資本市場の信頼、取締役の責任、投資家保護を同時に設計する作業です。したがって、専門家の総合的な検討を経て、数式、契約、開示、会計、税務が一貫した形で説明できる状態を作ることが、最も重要な実務対応です。

Reference

参考資料

  • 会社法
  • 企業内容等の開示に関する内閣府令
  • 東京証券取引所「企業行動規範の概要 ― 遵守すべき事項」
  • 東京証券取引所「MSCB等の発行に関する実務上の留意事項」
  • 東京証券取引所「MSCB等の転換又は行使の状況に関する開示」
  • 日本証券業協会「第三者割当増資の取扱いに関する指針」
  • 日本証券業協会「第三者割当増資等の取扱いに関する規則」
  • 企業会計基準委員会「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」
  • 企業会計基準委員会「ストック・オプション等に関する会計基準」
  • 経済産業省「ストックオプション税制」
  • IFRS Foundation「IFRS 13 Fair Value Measurement」
  • 企業価値評価に関する実務教材