2σ Guide

経営権を後継者に集中させる
遺言書の書き方

自社株式の議決権を後継者へ集め、非後継者への配慮、遺留分、相続税、会社法手続、遺言執行を矛盾なく整えるための実務ポイントを整理します。

過半数 通常支配の基礎
3分の2 重要決議の目安
10か月 相続税申告の原則期限
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経営権を後継者に集中させる 遺言書の書き方

自社株式の議決権を 後継者へ集め、非 後継者への配慮、遺留分、相続税、会社法 手続、遺言執行を矛盾なく整えるための実務ポイントを整理します。

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経営権を後継者に集中させる 遺言書の書き方
自社株式の議決権を 後継者へ集め、非 後継者への配慮、遺留分、相続税、会社法 手続、遺言執行を矛盾なく整えるための実務ポイントを整理します。
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  • 経営権を後継者に集中させる 遺言書の書き方
  • 自社株式の議決権を 後継者へ集め、非 後継者への配慮、遺留分、相続税、会社法 手続、遺言執行を矛盾なく整えるための実務ポイントを整理します。

POINT 1

  • 経営権を後継者に集中させる遺言書の全体像
  • 1. 自社株式の承継先を決める:死亡時に保有する株式全部を誰へ渡すかを明記します。
  • 2. 非後継者への配慮財産を置く:遺留分と生活保障を見据え、現金や保険などを設計します。
  • 3. 遺言執行者と予備的後継者を指定する:名義書換や後継者不在時の空白を防ぎます。

POINT 2

  • 経営権を後継者に集中させる遺言書 ― 用語の定義
  • 制度、手順、注意点を確認します。
  • 1.1 経営権
  • 1.2 後継者
  • 1.3 自社株式

POINT 3

  • 経営権を後継者に集中させる遺言書 ― 遺言方式の選択― 原則は公正証書遺言
  • 制度、手順、注意点を確認します。
  • 3.1 公正証書遺言を原則とする理由
  • 3.2 自筆証書遺言を使う場合の注意
  • 3.3 秘密証書遺言は通常優先度が低い

POINT 4

  • 経営権を後継者に集中させる遺言書 ― 遺言書作成前に必ず行う調査
  • 制度、手順、注意点を確認します。
  • 4.1 株主構成の調査
  • 4.2 議決権比率の調査
  • 4.3 事業用資産の調査

POINT 5

  • 経営権集中型の遺言書に入れるべき基本条項
  • 制度、手順、注意点を確認します。
  • 5.1 自社株式承継条項
  • 5.2 後継者が相続人でない場合の遺贈条項
  • 5.3 種類株式がある場合の条項

POINT 6

  • 経営権を後継者に集中させる遺言書 ― 文例 ― 後継者が相続人である場合
  • 制度、手順、注意点を確認します。
  • 以下は、実務検討用の文例です。
  • 実際の遺言書に使用する前に、必ず個別事情に合わせて専門家が修正してください。
  • 第2条 遺言者は、遺言者が株式会社〇〇に対して有する貸付金債権その他一切の金銭債権を、長男〇〇〇〇に相続させる。

POINT 7

  • 経営権を後継者に集中させる遺言書 ― 文例 ― 後継者が相続人でない場合
  • 制度、手順、注意点を確認します。
  • 第2条 遺言者は、前条の遺贈の履行を確実にするため、本遺言の遺言執行者として弁護士〇〇〇〇を指定する。
  • 第4条 遺言者は、妻〇〇〇〇に別紙財産目録第2記載の預貯金を相続させる。
  • 第5条 遺言者は、長女〇〇〇〇に別紙財産目録第3記載の不動産を相続させる。

POINT 8

  • 経営権を後継者に集中させる遺言書 ― 遺留分対策 ―経営権集中型遺言の最大の争点
  • 制度、手順、注意点を確認します。
  • 8.1 遺留分は経営権集中の法的限界になる
  • 8.2 遺留分侵害額請求は金銭負担を生む
  • 8.3 遺留分対策の実務メニュー

まとめ

  • 経営権を後継者に集中させる 遺言書の書き方
  • 経営権を後継者に集中させる遺言書の全体像:まず重要な論点を整理します。
  • 経営権を後継者に集中させる遺言書 ― 用語の定義:制度、手順、注意点を確認します。
  • 経営権を後継者に集中させる遺言書 ― 遺言方式の選択 ― 原則は公正証書遺言:制度、手順、注意点を確認します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

経営権を後継者に集中させる遺言書の全体像

まず重要な論点を整理します。

次の重要ポイントは、このページ全体の結論を短く整理したものです。読者にとって重要なのは、遺言書の目的を財産分配だけでなく会社の意思決定維持として理解することです。株式、遺留分、税務、会社資料、遺言執行を一体で読む必要があります。

遺言書の中心は議決権の承継です

後継者に自社株式を集中させ、非後継者には現金、金融資産、保険、不動産などで調整し、遺言執行者と会社側手続をつなげる設計が基本です。

次の判断の流れは、遺言書で必ず整理する論点を順番に示しています。先に株式の承継先を決め、次に非後継者への配慮と執行体制を置き、最後に会社資料や税制と矛盾しないかを確認します。

経営権集中型の遺言で確認する順番

自社株式の承継先を決める

死亡時に保有する株式全部を誰へ渡すかを明記します。

非後継者への配慮財産を置く

遺留分と生活保障を見据え、現金や保険などを設計します。

遺言執行者と予備的後継者を指定する

名義書換や後継者不在時の空白を防ぎます。

このページは、相続実務、会社法、税務、登記、不動産評価、知的財産、労務、金融機関対応などの視点を横断し、経営権承継に必要な論点を整理しています。

ただし、個別案件では、株主構成、定款、株主名簿、非上場株式評価、遺留分、税務、金融機関との保証契約、家族関係、後継者の経営能力、会社の資金繰りにより結論が変わります。このページは一般的な法務・税務・実務情報であり、個別の法律意見、税務代理、登記申請代理、裁判手続代理を代替するものではありません。

経営権を後継者に集中させるための遺言書の書き方で最も重要なのは、会社の建物や預金ではなく、会社を支配するための議決権を誰に承継させるかを明確にすることです。

株式会社の経営権は、通常、株主総会で議決権を行使できる株式に結びついています。会社の代表取締役という肩書は、経営者本人の死亡により当然に後継者へ移るものではありません。後継者が安定して取締役を選任し、重要な会社方針を決め、他の相続人や第三者に会社支配を左右されない状態を作るには、自社株式、特に議決権のある株式を後継者へ集中させる設計が必要です。

そのため、遺言書では少なくとも次の五点を明確にします。

  1. 遺言者が死亡時に保有する自社株式の全部を、誰に承継させるか。
  2. 後継者以外の相続人に、遺留分や生活保障への配慮として何を渡すか。
  3. 遺言執行者を誰にするか。
  4. 後継者が先に死亡した場合や承継を辞退した場合、誰を予備的後継者にするか。
  5. 会社の定款、株主名簿、事業承継税制、遺留分対策、相続税納税資金を遺言と矛盾なく整えるか。

このページでいう「経営権を後継者に集中させるための遺言書の書き方」とは、単に「長男に会社を継がせる」と書くことではありません。会社法上の株式、民法上の遺言、遺留分、相続税法上の評価、登記・名義書換、金融機関対応を一体として設計することを意味します。

Section 01

経営権を後継者に集中させる遺言書 ― 用語の定義

制度、手順、注意点を確認します。

1.1 経営権

このページでいう経営権とは、会社の経営方針を実質的に決める力です。典型的には、株主総会で取締役を選任し、定款変更、合併、会社分割、重要な組織再編、株式制度の変更などを決議するための議決権支配を指します。

中小企業では、代表取締役、創業者、主要株主が同一人物であることが多くあります。しかし、法的には次の三つは別の概念です。

次の比較表は、この章の項目を横並びで整理したものです。確認漏れを防ぐために重要です。左から項目、内容、注意点や担当の違いを読み取ってください。

概念意味相続との関係
代表取締役会社を代表する機関死亡により地位は終了し、後任選任が必要
株主株式を持つ者株式は相続・遺贈の対象になる
経営権会社を支配する議決権・人事権議決権株式の承継設計で左右される

遺言書で後継者に集中させるべき中核財産は、多くの場合、代表取締役の地位ではなく自社株式です。

1.2 後継者

後継者とは、会社の経営を引き継ぐ予定の人物です。子、配偶者、兄弟姉妹、親族、役員、従業員、社外の第三者などが考えられます。

遺言書では、後継者が相続人であるかどうかにより文言が変わります。

次の比較表は、この章の項目を横並びで整理したものです。確認漏れを防ぐために重要です。左から項目、内容、注意点や担当の違いを読み取ってください。

後継者の地位遺言書で使う基本文言注意点
相続人である後継者「相続させる」「承継させる」特定財産承継遺言として設計する
相続人でない後継者「遺贈する」遺贈の履行、税務、会社手続を精査する
会社や持株会社等「遺贈する」等税務・会社法・公益性・自己株式規制等を検討する

「後継者に任せたい」という意思だけでは、経営権の集中には不十分です。誰に、どの株式を、どの方式で、どの時点で承継させるかを明確にする必要があります。

1.3 自社株式

自社株式とは、経営者本人が保有する自分の会社の株式です。非上場の中小企業では、株券が発行されていないことが多く、相続人が「株券を見たことがない」ために株式の存在を軽視することがあります。しかし、株券がなくても、株主名簿、設立時・増資時の書類、法人税申告書別表、定款、登記事項、過去の株式譲渡書類により株式の帰属を確認する必要があります。

遺言書の実務では、次の情報を整理します。

  • 会社の商号
  • 本店所在地
  • 法人番号
  • 発行済株式総数
  • 遺言者が保有する株式数
  • 株式の種類
  • 議決権の有無
  • 株券発行会社か株券不発行会社か
  • 譲渡制限の有無
  • 株主名簿上の記載
  • 質権、譲渡担保、信託、名義株の疑いの有無

1.4 遺留分

遺留分とは、兄弟姉妹以外の一定の相続人に保障される最低限の相続利益です。遺言で後継者に自社株式を集中させる場合、後継者以外の相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。現在の遺留分侵害額請求は金銭請求を基本とするため、自社株式そのものが当然に分散するわけではありませんが、後継者が多額の金銭支払義務を負えば、株式売却、会社資金の流出、経営不安につながることがあります。

したがって、経営権集中型の遺言書では、遺留分を「揉めたら後で考える問題」として扱ってはいけません。遺言作成時に、遺留分額の試算、代償財産、生命保険、納税資金、事業承継税制、民法特例を組み合わせて検討します。

1.5 遺言執行者

遺言執行者とは、遺言の内容を実現する人です。経営権集中型の遺言では、後継者自身、弁護士、司法書士、信託銀行等を遺言執行者に指定することが多くあります。

自社株式の承継、株主名簿の書換え、金融機関・取引先への説明、他の相続人との対応、不動産登記、知的財産の移転、遺贈の履行などを円滑に進めるため、遺言執行者の指定は重要です。

Section 02

経営権を後継者に集中させる遺言書 ― なぜ「会社を後継者に相続させる」と書くだけでは危険なのか

制度、手順、注意点を確認します。

2.1 会社そのものは相続財産ではない

個人事業であれば、事業用資産、屋号、在庫、売掛金、不動産、機械設備などが個人の相続財産になり得ます。一方、株式会社では、会社の預金、工場、車両、在庫、売掛金は原則として会社の財産であり、株主個人の相続財産ではありません。経営者個人の相続財産になるのは、会社の株式、会社への貸付金、会社からの未払役員報酬、個人所有の事業用不動産などです。

そのため、遺言書に「会社を長男に相続させる」とだけ書くと、何を承継させるのか不明確になります。会社の株式を意味するのか、事業用不動産を意味するのか、会社への貸付金を意味するのか、役員の地位を意味するのかが曖昧です。

2.2 後継者が代表取締役になるには会社側の手続が必要

遺言書で「長男を代表取締役にする」と書いても、代表取締役の選定には会社法、定款、取締役会設置会社かどうか等に応じた会社側の手続が必要です。遺言書が直接に代表取締役を任命するわけではありません。

したがって、遺言書の役割は、後継者が会社側の手続を進められるよう、議決権株式を後継者に集中させることです。後継者が議決権を確保していれば、取締役選任、代表取締役選定、役員体制の再構築がしやすくなります。

2.3 自社株式が共有になると意思決定が遅れる

遺言がない場合、自社株式が相続人間で遺産共有状態になり、株主権の行使方法をめぐる対立が生じることがあります。相続人間で意見が割れれば、株主総会での議決権行使、役員選任、配当、資金調達、M&A、金融機関対応が停滞します。

経営権を後継者に集中させる遺言書では、株式を「相続人全員で分ける」発想ではなく、「議決権を後継者に集め、他の相続人には別の財産や金銭で調整する」発想を採ります。

Section 03

経営権を後継者に集中させる遺言書 ― 遺言方式の選択 ― 原則は公正証書遺言

制度、手順、注意点を確認します。

3.1 公正証書遺言を原則とする理由

経営権集中型の遺言では、原則として公正証書遺言を推奨します。理由は次のとおりです。

  • 遺言者本人の意思確認が行われる。
  • 公証人が方式面・文案面を確認する。
  • 原本が公証役場で保管され、紛失・隠匿・改ざんのリスクが下がる。
  • 相続開始後の検認手続が不要になる。
  • 相続人間で遺言の真正を争われるリスクを相対的に下げられる。
  • 自社株式、事業用不動産、代償財産、遺言執行者指定など複雑な条項を整理しやすい。

日本公証人連合会は、公正証書遺言について、遺言者本人が公証人と証人二名の前で遺言内容を口頭で告げ、公証人が真意を確認して文章化し、遺言者と証人に読み聞かせ又は閲覧させて作成する旨を説明しています。経営権集中型の遺言では、方式の安定性が極めて重要です。

3.2 自筆証書遺言を使う場合の注意

自筆証書遺言は、遺言者が自分で作成できる方式です。ただし、本文の自書、日付、氏名、押印、財産目録の署名押印など、方式違反があると無効リスクが生じます。

自筆証書遺言を使う場合は、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用することを検討します。同制度では、保管申請時に民法上の形式に適合するかについて外形的チェックを受けられ、原本と画像データが保管され、相続開始後の家庭裁判所の検認が不要になります。ただし、法務局は遺言内容の相談には応じず、保管された遺言の有効性を保証するものでもありません。

経営権集中型の遺言は、株式の特定、遺留分対策、税務、定款との整合性が難しいため、自筆証書遺言のみで対応する場合でも、弁護士、司法書士、税理士等の事前確認を受けるべきです。

3.3 秘密証書遺言は通常優先度が低い

秘密証書遺言は、内容を秘密にできる一方、実務上は利用頻度が高くなく、経営権集中型の複雑な事業承継には向きにくい場合が多いです。内容を秘匿したまま方式だけ整えても、株式や遺留分の設計ミスは防げません。通常は、公正証書遺言又は法務局保管制度を利用した自筆証書遺言を中心に検討します。

Section 04

経営権を後継者に集中させる遺言書 ― 遺言書作成前に必ず行う調査

制度、手順、注意点を確認します。

次の割合の比較は、後継者が確保したい議決権水準を示しています。数値が大きいほど会社支配は安定しやすい一方、遺留分や相続税、資金調達の負担も重くなります。過半数、3分の2、100%の意味を分けて読み取ってください。

過半数
51%超
特別決議
3分の2
完全支配
100%
割合は議決権を前提とする目安です。種類株式、自己株式、単元株式、定款、出席状況により結論は変わります。

4.1 株主構成の調査

最初に行うべきことは、株主構成の確定です。中小企業では、創業時に親族や知人の名義を借りた名義株、過去の増資時の記録不備、株券発行会社であるにもかかわらず株券の所在が不明、株主名簿未整備といった問題がしばしばあります。

確認資料は次のとおりです。

  • 定款
  • 株主名簿
  • 登記事項証明書
  • 設立時定款・発起人決定書
  • 増資関係書類
  • 株式譲渡契約書
  • 株主総会議事録
  • 法人税申告書別表二
  • 贈与契約書
  • 過去の相続関係書類
  • 株券発行会社の場合の株券

株主名簿と税務申告書が一致しない場合、遺言書以前に株主確定作業が必要です。

4.2 議決権比率の調査

後継者に何株を渡せば安定支配できるかは、単なる株式数ではなく議決権数で判断します。議決権制限株式、自己株式、単元株式、種類株式、相互保有、株主間契約などがある場合は、議決権比率が見かけの株式数と異なることがあります。

実務上の目安は次のとおりです。

次の比較表は、この章の項目を横並びで整理したものです。確認漏れを防ぐために重要です。左から項目、内容、注意点や担当の違いを読み取ってください。

後継者が確保したい水準実務上の意味注意点
議決権の過半数取締役選任など通常の経営支配の基礎定款・議案・出席状況で結果が変わる
議決権の3分の2以上定款変更など重要事項への対応力が高まる特別決議要件や種類株主総会に注意
100%少数株主リスクを最小化遺留分、税負担、資金調達が重くなり得る

遺言書は「何株を渡すか」だけでなく、「それにより後継者がどの議決権比率を持つか」から逆算して書きます。

4.3 事業用資産の調査

自社株式だけを後継者に渡しても、事業に不可欠な不動産、商標、特許、機械設備、車両、会社への貸付金が別の相続人に渡ると、後継者の経営は不安定になります。

特に注意すべき財産は次のとおりです。

  • 経営者個人名義の本社土地・工場土地
  • 経営者個人名義の店舗建物
  • 会社が経営者から借りている不動産
  • 経営者個人が会社に貸し付けている金銭
  • 経営者個人名義の商標権、特許権、著作権
  • 会社が使用する車両や機械設備
  • 会社の金融機関借入に関する個人保証
  • 経営者個人所有のドメイン、ECアカウント、ソフトウェア契約

不動産がある場合は司法書士、不動産鑑定士、土地家屋調査士、宅地建物取引士の関与が必要になることがあります。知的財産がある場合は弁理士の確認が必要です。

4.4 相続人関係と遺留分の調査

戸籍を収集し、推定相続人を確定します。婚外子、養子、前婚の子、代襲相続人、認知、相続欠格、廃除、未成年者、成年後見制度利用者の有無を確認します。

推定相続人に未成年者や後見制度利用者がいる場合、遺産分割では特別代理人、臨時保佐人、臨時補助人が問題となることがあります。遺言書で承継先を明確にしておけば遺産分割協議の範囲は減りますが、遺留分や相続税申告では法定代理人・特別代理人の問題が残る可能性があります。

4.5 相続税・納税資金の調査

非上場株式は、相続税評価額が高額になることがあります。国税庁のタックスアンサーでは、取引相場のない株式について、会社規模に応じて類似業種比準方式、純資産価額方式、併用方式、配当還元方式などが説明されています。事業承継では、後継者に株式を集中させた結果、後継者の相続税負担が重くなり、納税資金確保のために株式や事業用資産を売却せざるを得ない状況を避けなければなりません。

相続税申告は、原則として被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。経営者死亡後は、葬儀、会社の代表者変更、金融機関対応、取引先対応、従業員対応が同時に発生します。遺言書作成時点で、相続税の試算と納税資金の準備を行うことが重要です。

Section 05

経営権集中型の遺言書に入れるべき基本条項

制度、手順、注意点を確認します。

5.1 自社株式承継条項

最重要条項です。後継者が相続人である場合、基本形は次のようになります。

遺言者は、遺言者が死亡時に保有する株式会社〇〇の普通株式全部を、長男〇〇〇〇に相続させる。

この文言のポイントは「死亡時に保有する」「株式会社名」「株式の種類」「全部」「相続させる」を明確にすることです。

現時点の株式数だけを書くと、その後の増資、株式分割、株式併合、追加取得に対応しにくいことがあります。実務では、次のように書くことがあります。

遺言者は、遺言者が死亡時に保有する株式会社〇〇の普通株式、A種種類株式その他同社に対する一切の株式及びこれに基づく株主としての権利を、長男〇〇〇〇に相続させる。

ただし、「一切の権利」という抽象的な文言だけでは財産特定として弱い場合があります。別紙財産目録で株式数、種類、会社情報を明示し、本文では死亡時保有株式全部を包括的にカバーする形が実務上安全です。

5.2 後継者が相続人でない場合の遺贈条項

後継者が親族外役員や従業員である場合、「相続させる」は使えません。基本形は次のとおりです。

遺言者は、遺言者が死亡時に保有する株式会社〇〇の普通株式全部を、同社取締役〇〇〇〇に遺贈する。

この場合、相続人ではない受遺者が株式を取得するため、遺贈の履行、株主名簿、相続税、会社の定款、譲渡制限、金融機関対応、後継者の納税資金を特に慎重に検討します。

5.3 種類株式がある場合の条項

種類株式がある場合は、普通株式、議決権制限株式、拒否権付種類株式、取得条項付株式などを区別して記載します。

遺言者は、遺言者が死亡時に保有する株式会社〇〇の普通株式〇株及びA種種類株式〇株を、長男〇〇〇〇に相続させる。

種類株式を利用して経営権と経済的利益を分ける場合は、遺言書だけではなく、定款変更、種類株主総会、登記、税務評価、株主間合意の整備が必要です。たとえば、後継者には議決権のある株式を集中させ、非後継者には議決権制限株式や配当優先株式を持たせる設計が考えられますが、会社法・税務・遺留分の検討なしに導入してはいけません。

5.4 事業用不動産条項

会社が経営者個人所有の土地・建物を利用している場合、その不動産を後継者又は会社に承継させるか、会社との賃貸借を安定させる必要があります。

遺言者は、別紙財産目録第2記載の土地及び建物を、長男〇〇〇〇に相続させる。

または、後継者以外の相続人に不動産を渡す場合でも、会社が継続利用できるよう賃貸借契約、使用貸借、地代、更新、売却禁止合意、共有回避を検討します。

共有不動産は、相続紛争、売却困難、担保設定困難、意思決定停滞の原因になります。事業用不動産を複数相続人の共有にする遺言は、慎重に避けるべきです。

5.5 会社への貸付金条項

中小企業では、経営者が会社に多額の貸付金を持っていることがあります。これは経営者個人の相続財産です。貸付金が後継者以外の相続人に渡ると、会社に返済請求がなされ、資金繰りに影響する可能性があります。

遺言者は、遺言者が株式会社〇〇に対して有する貸付金債権その他一切の金銭債権を、長男〇〇〇〇に相続させる。

貸付金を債務免除するか、後継者に承継させるか、会社の資本政策で処理するかは税務上の影響が大きいため、税理士・公認会計士と検討する必要があります。

5.6 後継者以外への代償財産条項

経営権を後継者へ集中させるためには、他の相続人への配慮が不可欠です。配慮を欠いた遺言は、遺留分侵害額請求、感情的対立、会社への圧力、取引先への悪影響を生みます。

遺言者は、預貯金のうち金〇〇万円を、二女〇〇〇〇に相続させる。

遺言者は、別紙財産目録第3記載の投資信託を、二男〇〇〇〇に相続させる。

後継者に株式を集中させるほど、非後継者には現金、金融資産、居住用不動産、生命保険金などで納得可能な配分を行うことが望ましいです。

5.7 遺言執行者指定条項

遺言者は、本遺言の遺言執行者として、弁護士〇〇〇〇を指定する。

遺言執行者は、本遺言の執行に必要な一切の行為を行う権限を有し、株主名簿の名義書換請求、預貯金の解約払戻し、不動産登記手続、遺贈の履行、関係機関への届出その他本遺言を実現するために必要な手続を行うことができる。

遺言執行者の権限は民法に基づきますが、実務では金融機関、会社、法務局、税務署、特許庁、保険会社、証券会社等に説明しやすいよう、遺言書内で具体的職務を列挙します。

5.8 予備的後継者条項

後継者が遺言者より先に死亡する、相続放棄をする、経営を引き継げない、重大な病気になる、会社を退職する可能性があります。予備的後継者条項を入れないと、株式承継が空白になります。

長男〇〇〇〇が遺言者の死亡以前に死亡し、又は本遺言による承継を受けることができないときは、前条の株式を孫〇〇〇〇に相続させる。

親族内承継では、後継者の配偶者、子、兄弟姉妹、役員候補の順序を事前に検討します。親族外承継では、株式を誰に渡すかだけでなく、会社が自己株式取得できるか、持株会社が取得するか、M&Aに移行するかも検討します。

5.9 付言事項

付言事項は法的拘束力を持つ財産処分条項ではありませんが、相続人の感情的対立を緩和する効果が期待できます。

私が株式会社〇〇の株式を長男〇〇〇〇に集中して承継させるのは、同人が長年会社経営に従事し、従業員、取引先、金融機関との関係を維持して事業を継続するためである。他の相続人を軽んじる趣旨ではなく、各人の生活と公平に配慮したうえで本遺言を作成した。

付言事項には、後継者に対する期待、非後継者への感謝、遺留分紛争を避けてほしい意思、従業員雇用の維持、取引先への責任などを書きます。ただし、感情的な非難や過去の家族対立を書くと逆効果です。

Section 06

経営権を後継者に集中させる遺言書 ― 文例 ― 後継者が相続人である場合

制度、手順、注意点を確認します。

以下は、実務検討用の文例です。実際の遺言書に使用する前に、必ず個別事情に合わせて専門家が修正してください。

第1条 遺言者は、遺言者が死亡時に保有する株式会社〇〇の普通株式全部及びこれに基づく株主としての権利を、長男〇〇〇〇(生年月日〇年〇月〇日)に相続させる。
第2条 遺言者は、遺言者が株式会社〇〇に対して有する貸付金債権その他一切の金銭債権を、長男〇〇〇〇に相続させる。
第3条 遺言者は、別紙財産目録第2記載の土地及び建物を、長男〇〇〇〇に相続させる。
第4条 遺言者は、別紙財産目録第3記載の預貯金のうち金〇〇万円を、長女〇〇〇〇に相続させる。
第5条 遺言者は、別紙財産目録第4記載の金融資産を、二男〇〇〇〇に相続させる。
第6条 長男〇〇〇〇が遺言者の死亡以前に死亡し、又は本遺言による第1条から第3条までの財産を承継することができないときは、同財産を孫〇〇〇〇に相続させる。
第7条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として、弁護士〇〇〇〇を指定する。遺言執行者は、本遺言の執行に必要な株主名簿の名義書換請求、預貯金の解約払戻し、不動産登記手続、関係機関への届出その他一切の行為をすることができる。
第8条 遺言者は、本遺言以前に作成した遺言の全部を撤回する。

この文例では、自社株式、会社への貸付金、事業用不動産を後継者に集中させ、非後継者には預貯金や金融資産を渡す設計を採っています。

Section 07

経営権を後継者に集中させる遺言書 ― 文例 ― 後継者が相続人でない場合

制度、手順、注意点を確認します。

第1条 遺言者は、遺言者が死亡時に保有する株式会社〇〇の普通株式全部を、同社取締役〇〇〇〇(住所〇〇、生年月日〇年〇月〇日)に遺贈する。
第2条 遺言者は、前条の遺贈の履行を確実にするため、本遺言の遺言執行者として弁護士〇〇〇〇を指定する。
第3条 遺言執行者は、前条の遺贈の履行、株主名簿の名義書換請求、会社及び関係機関への通知その他必要な一切の行為をすることができる。
第4条 遺言者は、妻〇〇〇〇に別紙財産目録第2記載の預貯金を相続させる。
第5条 遺言者は、長女〇〇〇〇に別紙財産目録第3記載の不動産を相続させる。

親族外後継者へ株式を遺贈する場合は、相続人の反発が生じやすく、遺留分侵害額請求、受遺者の納税資金、金融機関の承認、取引先の理解、従業員への説明が重要になります。生前に株主間契約、役員体制、退職金、生命保険、事業承継税制、M&A代替案を検討すべきです。

Section 08

経営権を後継者に集中させる遺言書 ― 遺留分対策 ― 経営権集中型遺言の最大の争点

制度、手順、注意点を確認します。

8.1 遺留分は経営権集中の法的限界になる

民法上、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分があります。直系尊属のみが相続人である場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1が総体的遺留分の基礎になります。相続人が複数いる場合は、これに法定相続分を掛けて各人の遺留分割合を考えます。

たとえば、相続人が配偶者と子二人で、後継者である長男に自社株式の大半を承継させる場合、配偶者や他の子の遺留分を侵害する可能性があります。

8.2 遺留分侵害額請求は金銭負担を生む

現在の遺留分制度では、遺留分侵害額請求は金銭請求を基本とします。これは、後継者にとって一見有利に見えます。なぜなら、株式そのものを当然に取り戻されるわけではないからです。

しかし、金銭支払額が大きければ、後継者は次のような困難に直面します。

  • 個人資金で支払えない。
  • 会社から過大な役員報酬や配当を受けざるを得ない。
  • 株式を担保に借入を行う必要がある。
  • 会社資金の流出が従業員や金融機関に不安を与える。
  • 非後継者との訴訟が長期化し、会社の信用が下がる。

したがって、遺留分対策は「株式を取り戻されないから大丈夫」ではなく、「後継者が支払える金額に抑える」ことが中心です。

8.3 遺留分対策の実務メニュー

次の比較表は、この章の項目を横並びで整理したものです。確認漏れを防ぐために重要です。左から項目、内容、注意点や担当の違いを読み取ってください。

対策内容主担当となる専門家
代償財産の確保非後継者に現金・金融資産・不動産を渡す弁護士、税理士、FP
生命保険の活用非後継者の生活保障、後継者の支払原資を準備税理士、FP、保険会社
生前贈与株式を早期に後継者へ移す税理士、弁護士、司法書士
遺留分に関する民法特例除外合意・固定合意を利用する弁護士、税理士、家庭裁判所手続支援者
事業承継税制非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予を検討税理士、認定支援機関
種類株式議決権と経済的利益を分離する弁護士、司法書士、税理士
株主間契約相続・売却・議決権行使を事前合意する弁護士

8.4 遺留分に関する民法特例

中小企業の事業承継では、経営承継円滑化法に基づく遺留分に関する民法特例が重要です。裁判所の案内では、一定要件を満たす中小会社の後継者について、旧代表者から贈与等により取得した株式等を遺留分算定財産に算入しないこと、又は算入価額を合意時の価額とすることができる制度が説明されています。

この特例は、遺言書だけで発動する制度ではありません。推定相続人等の合意、経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可などが必要です。裁判所の案内によれば、合意後1か月以内に経済産業大臣への確認申請を行い、その確認を受けた日から1か月以内に家庭裁判所へ申立てを行う必要があります。

実務上、遺言書はこの特例と併用して初めて強くなります。生前贈与で株式を移し、除外合意又は固定合意で遺留分リスクを抑え、残余財産を遺言で整理するという組み合わせが有力です。

Section 09

経営権を後継者に集中させる遺言書 ― 会社法上の対策 ― 遺言書だけで完結させない

制度、手順、注意点を確認します。

9.1 定款の確認

経営権集中型の遺言を作る前に、定款を確認します。特に次の条項が重要です。

  • 株式譲渡制限
  • 取締役会設置会社かどうか
  • 代表取締役の選定方法
  • 株主総会の決議要件
  • 種類株式の有無
  • 相続人等に対する売渡請求の定め
  • 株券発行の有無
  • 事業年度と基準日

定款が古いまま会社法改正に対応していない場合、遺言書作成前に司法書士・弁護士による点検を行うべきです。

9.2 種類株式の活用

会社法は、剰余金配当、残余財産分配、議決権、譲渡制限、取得請求、取得条項、全部取得条項、拒否権、役員選任等について内容の異なる種類株式を設計できる仕組みを置いています。

事業承継では、次のような設計が考えられます。

  • 後継者に議決権のある普通株式を集中させる。
  • 非後継者に議決権制限株式を渡す。
  • 非後継者に配当優先株式を渡し、経済的利益を確保する。
  • 創業者が生前は拒否権付種類株式を持ち、段階的に後継者へ移行する。
  • 取得条項付株式により一定事由発生時に会社が取得できるようにする。

ただし、種類株式は万能ではありません。定款変更、株主総会決議、種類株主総会、登記、税務評価、既存株主の同意、遺留分評価への影響を総合検討する必要があります。

9.3 相続人等に対する売渡請求

会社法上、譲渡制限株式について、相続その他の一般承継により株式を取得した者に対し、会社が売渡しを請求できる旨を定款で定める制度があります。これは、望ましくない相続人が株主になることを防ぐための会社法上の対策です。

もっとも、この制度は導入すれば常に後継者に有利というわけではありません。支配株主である経営者が死亡した後、その株式を取得した後継者に対して会社側が売渡請求を行うリスクも設計上は考える必要があります。少数株主構成、議決権排除、株主総会決議、会社の分配可能額、買取資金を検討せずに導入すると、かえって支配権喪失リスクを生むことがあります。

9.4 株主名簿の整備

株主名簿は、株主の氏名又は名称、住所、株式数、取得日などを記載・記録する基礎資料です。遺言書で株式を後継者に承継させても、会社側の株主名簿が未整備であれば、相続開始後の権利行使が混乱します。

遺言書作成と同時に、会社側では株主名簿、株式譲渡履歴、過去の増資書類、議事録、定款を整備します。司法書士と弁護士が連携して確認することが望ましいです。

Section 10

経営権を後継者に集中させる遺言書 ― 税務対策 ― 株式集中は納税負担も集中させる

制度、手順、注意点を確認します。

10.1 非上場株式評価

非上場株式は市場で売却しにくいにもかかわらず、相続税評価額が高くなることがあります。国税庁は、取引相場のない株式について、会社規模に応じた原則的評価方式を示しています。大会社は原則として類似業種比準方式、小会社は原則として純資産価額方式、中会社は併用方式が用いられます。また、同族株主以外が取得する場合などには配当還元方式が問題となることがあります。

経営権集中型の遺言では、後継者が高額な自社株式を取得するため、相続税負担が後継者に偏ります。後継者の個人資金、役員報酬、配当、会社からの退職金、生命保険、納税猶予制度を組み合わせる必要があります。

10.2 法人版事業承継税制

法人版事業承継税制の特例措置は、一定要件を満たす非上場会社の株式承継について、贈与税・相続税の納税猶予・免除を可能にする制度です。中小企業庁は、特例措置について、対象株式数の上限撤廃、猶予割合100%への拡大、親族外を含む株主から代表者である後継者最大3人への承継が対象になることなどを説明しています。

また、特例措置の認定を受けるには、原則として令和9年9月30日までに特例承継計画を提出し、令和9年12月31日までに事業承継を行う必要があるとされています。期限、要件、取消事由、継続届出、担保、雇用要件、資産管理会社該当性などの確認は税理士と認定経営革新等支援機関が中心となります。

遺言書を作成しても、事業承継税制の要件を満たさなければ納税猶予は受けられません。税制は遺言書の付属品ではなく、別個の申請・認定・申告制度です。

10.3 相続税申告と遺留分請求の相互作用

遺留分侵害額請求が予想される場合、相続税申告にも影響します。相続税申告期限は原則10か月であり、遺留分紛争が解決していない時点で申告期限が到来することがあります。申告後に遺留分の支払額が確定した場合、更正の請求や修正申告が問題となることがあります。

したがって、遺言書作成時点で、税理士と弁護士が共同で次の試算を行うべきです。

  • 遺言どおりに承継した場合の相続税
  • 遺留分侵害額請求が最大化した場合の金銭負担
  • 後継者の納税資金
  • 非後継者の納税資金
  • 配偶者控除や小規模宅地等の特例の可否
  • 事業承継税制の適用可否
  • 株価引下げ策の適法性とリスク
Section 11

経営権を後継者に集中させる遺言書 ― 不動産がある場合の追加設計

制度、手順、注意点を確認します。

11.1 会社利用不動産は共有にしない

経営者個人が会社の本社、工場、店舗、駐車場、倉庫を所有している場合、その不動産を誰に承継させるかは経営権に直結します。

後継者が株式を持っていても、本社土地を非後継者が取得し、高額賃料や明渡しを求めれば、会社経営は不安定になります。遺言書では、事業継続に不可欠な不動産は後継者に承継させるか、会社が安定利用できる契約関係を残す必要があります。

11.2 相続登記義務化への対応

不動産を相続で取得した相続人は、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記を行う義務があります。法務省は、正当な理由なく相続登記をしない場合、10万円以下の過料が科される可能性があると案内しています。相続登記の義務化は令和6年4月1日から始まり、同日前の相続で未登記の不動産も対象になります。

経営権集中型の遺言では、事業用不動産の取得者を明確にし、遺言執行者や司法書士が速やかに相続登記できるようにします。

11.3 評価をめぐる争い

不動産評価は遺留分、相続税、代償金に影響します。固定資産税評価額、相続税評価額、時価、鑑定評価額が一致するとは限りません。争いが予想される場合、不動産鑑定士による評価、土地家屋調査士による境界確認、宅地建物取引士による売却可能性の確認を行います。

Section 12

経営権を後継者に集中させる遺言書 ― 経営者保証・金融機関対応

制度、手順、注意点を確認します。

遺言書は株式や財産の承継を定めるものですが、経営者保証そのものを一方的に消すことはできません。中小企業庁は、事業承継時に経営者保証が後継者候補確保の障害とならないよう、金融機関と中小企業者双方の取組を促す対策を実施していると説明しています。

後継者が経営権を取得しても、金融機関が後継者保証を求めるか、旧経営者の保証をどう整理するかは別問題です。遺言作成時点で、金融機関、顧問税理士、公認会計士、中小企業診断士と協議し、次の事項を確認します。

  • 借入金残高
  • 担保不動産
  • 経営者保証の内容
  • 後継者保証の要否
  • 旧経営者死亡時の期限の利益喪失条項
  • 代表者変更時の届出義務
  • 事業計画書
  • 財務改善計画
  • 経営者保証ガイドラインの活用可能性

後継者が議決権を取得しても、金融機関との関係が崩れれば経営承継は失敗します。経営権集中型の遺言は、金融機関対応と一体で設計します。

Section 13

経営権を後継者に集中させる遺言書 ― 知的財産・許認可・デジタル資産

制度、手順、注意点を確認します。

13.1 知的財産

商標、特許、意匠、著作権、営業秘密が経営者個人名義になっている場合、これを後継者又は会社に承継させる必要があります。弁理士に登録名義、使用許諾契約、移転登録、税務上の評価を確認します。

遺言者は、別紙財産目録第5記載の商標権を、長男〇〇〇〇に相続させる。

ただし、本来は会社が使用する知的財産は、相続前に会社へ譲渡又はライセンス契約を整備することも検討します。

13.2 許認可

建設業、運送業、飲食業、医療法人、介護事業、産業廃棄物、酒類販売など、許認可が事業継続の前提となる業種では、代表者死亡や株主変更が許認可に与える影響を確認します。行政書士、弁護士、社会保険労務士が関与する場面があります。

遺言書で株式を渡しても、許認可が承継されない、役員要件を満たさない、専任技術者・管理者要件を満たさない場合、事業継続に支障が出ます。

13.3 デジタル資産

ドメイン、クラウド会計、ECモール、SNSアカウント、サーバー契約、ソフトウェアライセンス、暗号資産、オンラインバンキング権限が経営者個人に紐づいている場合、承継不能リスクがあります。遺言書とは別に、社内規程、管理者権限、緊急時アクセス手順を整備します。

Section 14

経営権を後継者に集中させる遺言書 ― 専門家の役割分担

制度、手順、注意点を確認します。

経営権を後継者に集中させるための遺言書は、単独専門職だけで完結しにくい案件です。代表的な役割分担は次のとおりです。

次の比較表は、この章の項目を横並びで整理したものです。確認漏れを防ぐために重要です。左から項目、内容、注意点や担当の違いを読み取ってください。

専門職主な役割
弁護士遺言文案、遺留分対策、相続人間交渉、紛争予防、調停・審判・訴訟対応
司法書士相続登記、商業登記、株式・定款・株主名簿確認、法務局手続支援
税理士相続税試算、非上場株式評価、事業承継税制、税務申告、税務調査対応
行政書士許認可、相続関係説明図、争いのない書類作成支援
公証人公正証書遺言の作成、本人意思確認、方式確保
遺言執行者遺言内容の実現、名義変更、財産引渡し、関係者対応
信託銀行等遺言信託、保管、執行、金融資産管理
公認会計士会社価値、財務分析、内部統制、承継計画
中小企業診断士事業承継計画、後継者育成、経営改善
不動産鑑定士不動産評価、遺留分・代償金評価
土地家屋調査士境界、分筆、表示登記
宅地建物取引士相続不動産売却、重要事項説明、取引実務
弁理士特許・商標等の名義変更、知財承継
FP家計、保険、納税資金、生活設計
社会保険労務士遺族年金、労務、役員変更後の社会保険手続

争いがある又は争いが予想される場合は、弁護士を中心に据えます。相続税が発生しそうな場合は税理士が早期に関与します。不動産がある場合は司法書士と不動産関連専門職を入れます。非上場会社の株式が中心財産であれば、弁護士、税理士、司法書士、公認会計士の連携が特に重要です。

Section 15

経営権を後継者に集中させる遺言書 ― 作成手順 ― 実務フロー

制度、手順、注意点を確認します。

手順1 ― 目的を文章化する

最初に、経営者本人の意思を文章化します。

  • 誰を後継者にするのか。
  • なぜその人なのか。
  • 従業員の雇用を守りたいのか。
  • 会社売却ではなく親族内承継を望むのか。
  • 非後継者にどのような生活保障をしたいのか。
  • 配偶者の住居や生活費をどう確保するのか。

この整理がないまま文言を作ると、相続人に真意が伝わらず、遺言無効主張や遺留分紛争の火種になります。

手順2 ― 財産目録を作る

財産目録は、遺言書の精度を決めます。

次の比較表は、この章の項目を横並びで整理したものです。確認漏れを防ぐために重要です。左から項目、内容、注意点や担当の違いを読み取ってください。

分類確認事項
自社株式会社名、株式数、種類、議決権、株主名簿
事業用不動産所在、地番、家屋番号、利用者、担保
金融資産預金、証券、保険、退職金見込
債権会社貸付金、役員貸付金、未収金
債務借入、保証、担保、未払税金
知的財産商標、特許、ドメイン
その他車両、機械、会員権、暗号資産

手順3 ― 株式集中後の議決権比率を試算する

後継者が取得する株式により、過半数、3分の2以上、100%のどの水準になるか確認します。少数株主が残る場合は、株主間契約、種類株式、買取資金、売渡請求、M&Aの可能性も検討します。

手順4 ― 遺留分と相続税を同時に試算する

遺留分と相続税は別制度ですが、同時に後継者の資金負担を生みます。片方だけ試算しても不十分です。

  • 遺留分侵害額請求が最大でいくらになり得るか。
  • 相続税がいくらになるか。
  • 後継者は10か月以内に納税できるか。
  • 非後継者にも納税資金があるか。
  • 後継者が遺留分を分割払いできるか。
  • 会社の配当原資はあるか。
  • 生命保険で補えるか。

手順5 ― 遺言書文案を作る

文案作成時は、次の順で書きます。

  1. 自社株式
  2. 事業用不動産
  3. 会社への貸付金
  4. 知的財産
  5. 非後継者への財産
  6. 配偶者の生活保障
  7. 予備的後継者
  8. 遺言執行者
  9. 以前の遺言の撤回
  10. 付言事項

手順6 ― 定款・株主名簿・登記と照合する

遺言書文案と会社資料を照合します。会社名、株式数、種類、株主名簿、定款上の譲渡制限、種類株式、株券発行の有無に矛盾がある場合、遺言書作成前に修正します。

手順7 ― 公正証書遺言として作成する

公証役場に相談し、必要資料を準備します。公正証書遺言では、財産価額に応じた手数料がかかります。日本公証人連合会は、目的価額に応じた手数料表を公表しており、全体の財産が1億円以下の場合の遺言加算等も説明しています。

手順8 ― 作成後のメンテナンスを行う

遺言書は作って終わりではありません。次の事由がある場合、見直しが必要です。

  • 株式数の変動
  • 増資、減資、株式分割、種類株式導入
  • 後継者の変更
  • 相続人の出生、死亡、離婚、再婚、養子縁組
  • 会社の業績変化
  • 不動産の売却・購入
  • 相続税評価の大幅変動
  • 事業承継税制の適用方針変更
  • 金融機関借入・保証の変更
  • M&A検討開始

少なくとも年1回、又は決算後、税理士・弁護士・司法書士と遺言書の整合性を確認することが望ましいです。

Section 16

経営権を後継者に集中させる遺言書 ― よくある失敗例

制度、手順、注意点を確認します。

次の一覧は、経営権集中型の遺言書で起こりやすい失敗をまとめています。読者にとって重要なのは、短い一文や古い資料のままでは会社支配が安定しないことです。どの失敗が株式、遺留分、不動産、貸付金、執行者、税制、株主名簿に関係するかを読み取ってください。

会社を継がせるだけ

株式、役員地位、事業用不動産、会社貸付金のどれを指すか不明確です。

遺留分を無視する

後継者の金銭負担が膨らみ、会社の資金繰りを悪化させる可能性があります。

遺言執行者がいない

相続人間の対立があると、株主名簿書換や不動産登記が停滞します。

16.1 「長男に会社を継がせる」としか書いていない

会社を継がせるという表現は、株式、役員地位、事業用不動産、会社貸付金のどれを意味するか不明確です。必ず自社株式を特定します。

16.2 株式数だけを書き、死亡時の追加取得株式を漏らす

遺言作成後に増資や株式分割があると、文言が古くなることがあります。「死亡時に保有する株式全部」という表現と財産目録を組み合わせます。

16.3 非後継者の遺留分を無視する

後継者に全株式を渡すだけでは、遺留分請求により後継者の資金繰りが悪化します。非後継者への代償財産を設計します。

16.4 事業用不動産を兄弟共有にする

共有不動産は意思決定を遅らせ、売却・担保設定・改修・賃貸借で争いを生みます。会社利用不動産は共有を避けます。

16.5 会社への貸付金を放置する

会社への貸付金が非後継者に承継されると、会社が返済請求を受ける可能性があります。貸付金の承継先を明記します。

16.6 遺言執行者を指定していない

相続人間の対立が予想される場合、遺言執行者がいないと手続が停滞します。特に親族外後継者への遺贈では、遺言執行者指定が重要です。

16.7 事業承継税制の期限を誤解する

遺言書があるだけでは事業承継税制は使えません。特例承継計画、認定、相続税申告、継続届出が必要です。

16.8 株主名簿が整備されていない

誰が何株持つか不明な会社では、遺言書で株式を渡しても紛争になります。遺言作成前に株主名簿を整えます。

Section 17

経営権を後継者に集中させる遺言書 ― チェックリスト

制度、手順、注意点を確認します。

17.1 遺言書作成前

  • 後継者を明確にした。
  • 予備的後継者を決めた。
  • 株主名簿を確認した。
  • 定款を確認した。
  • 株式の種類と議決権を確認した。
  • 事業用不動産を確認した。
  • 会社への貸付金を確認した。
  • 経営者保証を確認した。
  • 知的財産を確認した。
  • 相続人を戸籍で確認した。
  • 遺留分を試算した。
  • 相続税を試算した。
  • 納税資金を確認した。
  • 事業承継税制の適用可能性を確認した。
  • 非後継者への配慮財産を決めた。

17.2 遺言書文案

  • 「会社を継がせる」ではなく株式を特定した。
  • 「死亡時に保有する株式全部」と書いた。
  • 種類株式を区別した。
  • 事業用不動産を特定した。
  • 会社への貸付金を明記した。
  • 非後継者への財産を明記した。
  • 遺言執行者を指定した。
  • 予備的後継者を指定した。
  • 以前の遺言を撤回した。
  • 付言事項を入れた。

17.3 作成後

  • 公正証書遺言の正本・謄本の保管場所を後継者又は専門家に伝えた。
  • 会社の定款・株主名簿を更新した。
  • 金融機関と事業承継方針を共有した。
  • 税理士と株価を定期確認した。
  • 後継者の役員就任・育成を進めた。
  • 生命保険・退職金制度を確認した。
  • 遺言内容を定期的に見直した。
Section 18

経営権を後継者に集中させる遺言書 ― まとめ

制度、手順、注意点を確認します。

経営権を後継者に集中させるための遺言書の書き方は、相続財産を公平に分ける一般的な遺言とは発想が異なります。中心に置くべきなのは、会社の議決権を後継者に集中させ、会社経営を止めないことです。

ただし、後継者にすべてを渡すだけでは不十分です。遺留分、相続税、納税資金、非後継者の生活保障、会社への貸付金、事業用不動産、定款、株主名簿、種類株式、事業承継税制、経営者保証、遺言執行者を同時に設計しなければ、遺言書がかえって紛争の出発点になります。

実務上の最適解は、多くの場合、次の組み合わせです。

  1. 公正証書遺言で自社株式を後継者に明確に承継させる。
  2. 非後継者には現金・金融資産・不動産・保険等で配慮する。
  3. 遺言執行者を指定する。
  4. 定款・株主名簿・種類株式を整備する。
  5. 遺留分と相続税を同時に試算する。
  6. 事業承継税制や遺留分に関する民法特例の適用可能性を検討する。
  7. 金融機関、従業員、取引先への承継体制を生前に整える。

経営権承継は、死亡後に始める手続ではありません。遺言書は、事業承継計画の最後に置く書類ではなく、事業承継計画を法的に実現する中核文書です。

Reference

この記事の参考情報源

  • e-Gov法令検索「民法」
  • e-Gov法令検索「会社法」
  • 日本公証人連合会「公正証書遺言の概要」
  • 日本公証人連合会「公正証書遺言の作成手数料」
  • 法務省「自筆証書遺言書保管制度」
  • 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」
  • 裁判所「遺留分の算定に係る合意の許可」
  • 中小企業庁「法人版事業承継税制」
  • 国税庁「取引相場のない株式の評価」
  • 国税庁「相続税の申告と納税」
  • 中小企業庁「経営者保証」