2σ Guide

事業用資産を
家族信託で次世代へ承継する方法

工場、店舗、賃貸物件、非上場株式、個人事業資産を、管理権限、経済的利益、最終承継先に分けて設計する考え方を整理します。

3つ 管理・利益・承継先
5設計 代表的な活用型
10段階 実行手順
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事業用資産を 家族信託で次世代へ承継する方法

工場、店舗、賃貸物件、非上場株式、個人事業資産を、管理権限、経済的利益、最終承継先に分けて設計する考え方を整理します。

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事業用資産を 家族信託で次世代へ承継する方法
工場、店舗、賃貸物件、非上場株式、個人事業資産を、管理権限、経済的利益、最終承継先に分けて設計する考え方を整理します。
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2σ GUIDE ・ VIDEO

  • 事業用資産を 家族信託で次世代へ承継する方法
  • 工場、店舗、賃貸物件、非上場株式、個人事業資産を、管理権限、経済的利益、最終承継先に分けて設計する考え方を整理します。

POINT 1

  • 事業用資産の家族信託で全体像をつかむ
  • 管理権限、経済的利益、最終承継先を分けて設計します。
  • 受託者が動かせる範囲
  • 受益者が受ける利益
  • 終了時の帰属先

POINT 2

  • 事業用資産の家族信託で承継対象になる財産
  • 不動産、株式、個人事業、知的財産、金銭や保証を分けて確認します。
  • 3.1 事業用不動産
  • 3.2 非上場株式、同族会社株式
  • 3.3 個人事業主の事業用資産

POINT 3

  • 事業用資産の家族信託の基本構造
  • 1. 委託者と信託財産を特定:現経営者が何を信託するかを、不動産、株式、金銭、設備ごとに特定します。
  • 2. 受託者の適格性を確認:後継者、親族、家族法人、信託会社などの候補について、会計管理能力と中立性を確認します。
  • 3. 受益者と受益権を設計:当初受益者、第二受益者、帰属権利者を分け、相続税や贈与税の課税時点を検討します。
  • 4. 別制度が必要な論点を分離:遺留分、許認可、個人保証、金融機関承諾、信託業法の論点は別に処理します。

POINT 4

  • 事業用資産の家族信託で使う五つの代表設計
  • 事業用不動産管理型
  • 自社株式承継型
  • 受益者連続型
  • 個人事業承継補助型
  • 持株会社等との併用型
  • 不動産、自社株式、個人事業、知的財産、持株会社を設計別に整理します。

POINT 5

  • 事業用資産の家族信託を実行する十段階
  • 1. 事業と財産を棚卸しする:不動産、会社、個人事業、税務、家族関係、金融資料を集め、信託する財産としない財産を分けます。
  • 2. 後継者を決める:経営後継者、財産承継者、受託者が同一でよいか、分けるべきかを確認します。
  • 3. 相続人と遺留分を分析する:非後継者への代償金、生命保険、民法特例、説明方法、遺言併用を検討します。
  • 4. 税務シミュレーションを行う:相続税、贈与税、所得税、法人税、登録免許税、不動産取得税、消費税を確認します。
  • 5. 信託目的を定める:事業継続、雇用維持、取引先保護、生活保障、後継者承継を具体化します。
  • 6. 受託者権限を設計する:保存管理、賃貸運営、株主権行使、売却、担保設定、借入、建替え、専門家委託を定めます。
  • 7. 議決権行使指図権を設計する:現経営者、後継者、予備後継者、監督人の関与を時期ごとに分けます。
  • 8. 公正証書化と意思確認を行う:高齢経営者、高額不動産、非上場株式、相続人対立がある場合は公正証書化を検討します。
  • 9. 登記、名簿、口座、契約を変更する:信託登記、株主名簿、信託口座、賃貸借契約、担保、知的財産の手続を実行します。
  • 10. 信託後に定期点検する:受託者は帳簿、報告、税務資料を整え、少なくとも年1回の見直しを行います。

POINT 6

  • 事業用資産の家族信託と税務の要点
  • 相続税、贈与税、所得税、法人税、事業承継税制の関係を整理します。
  • 家族信託は節税装置ではありません
  • 7.1 家族信託は節税装置ではありません
  • 7.2 信託設定時の課税

POINT 7

  • 事業用資産の家族信託で遺留分と紛争に備える
  • 意思能力の争い
  • 医師記録、公証人関与、面談記録、録音録画、契約時期の適正化で、委託者の意思形成を残します。
  • 使い込み疑い
  • 信託口口座、帳簿、領収書、年次報告、信託監督人で、受託者の管理を透明化します。

POINT 8

  • 事業用資産の家族信託契約に入れる主要条項
  • 目的、財産特定、受託者権限、承認、交代、終了、報告を設計します。
  • 9.1 信託目的条項
  • 9.2 信託財産の特定
  • 9.3 受託者の権限条項

まとめ

  • 事業用資産を 家族信託で次世代へ承継する方法
  • 事業用資産の家族信託で全体像をつかむ:管理権限、経済的利益、最終承継先を分けて設計します。
  • 事業用資産の家族信託で承継対象になる財産:不動産、株式、個人事業、知的財産、金銭や保証を分けて確認します。
  • 事業用資産の家族信託の基本構造:自益信託、他益信託、民事信託、商事信託の違いを押さえます。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

事業用資産の家族信託で全体像をつかむ

管理権限、経済的利益、最終承継先を分けて設計します。

事業用資産を家族信託で次世代に承継する方法では、財産を単に移すのではなく、管理権限、経済的利益、最終承継先を分けて設計します。工場、店舗、賃貸物件、非上場株式、設備、知的財産、金銭、借入や保証の整理まで一体で確認することが重要です。

次のポイント一覧は、家族信託で分けて考える三つの軸を示しています。事業を止めないために重要なので、各項目から誰が管理し、誰が利益を受け、最終的に誰へ渡すのかを切り分けて読み取ってください。

管理権限

受託者が動かせる範囲

修繕、賃貸、議決権行使、売却、借入、専門家委託などを契約で具体化します。

経済的利益

受益者が受ける利益

賃料、配当、売却代金、生活費給付などを誰に帰属させるかを定めます。

最終承継先

終了時の帰属先

現経営者、配偶者、後継者、予備後継者の死亡や不適格を想定して承継順序を決めます。

注意家族信託は相続税を消す制度ではなく、遺留分、許認可、個人保証、金融機関承諾を自動解決する制度でもありません。遺言、生前贈与、種類株式、生命保険、持株会社、任意後見、事業承継税制と組み合わせて検討します。
Section 01

事業用資産の家族信託で承継対象になる財産

不動産、株式、個人事業、知的財産、金銭や保証を分けて確認します。

次の一覧は、事業用資産ごとに信託で扱える部分と別手続が必要になりやすい部分を整理しています。資産の種類によって登記、名義、許認可、税務、金融機関対応が変わるため重要です。各行から、信託契約だけで完結しない論点を読み取ってください。

🏢

事業用不動産

工場、店舗、倉庫、賃貸ビル、駐車場などは管理処分権限を受託者へ移しやすい一方、信託登記、担保権者確認、賃貸借契約、保険、税務確認が必要です。

登記
📈

非上場株式

株主名簿、譲渡制限、議決権行使指図権、配当、受益権評価、事業承継税制との整合を確認します。

会社法
🛠

個人事業資産

店舗、設備、車両、在庫、屋号、契約、許認可を分けて確認し、信託は不動産や設備管理の補助として位置づけます。

許認可
®

知的財産とブランド

商標、特許、ドメイン、ECアカウント、営業秘密は登録、規約、ライセンス、評価、税務の確認が必要です。

知財
💴

金銭、借入、保証

信託口座、帳簿、返済原資、担保、保証人変更、信託財産責任負担債務を金融機関と確認します。

金融

通常の相続では、預貯金、不動産、株式などを相続人間で分けることが中心になります。これに対し、事業用資産の承継では、資産を分けること自体が事業価値を壊すことがあります。

例えば、町工場の土地建物、機械設備、非上場会社の株式、店舗の賃貸借契約、屋号、商標、取引先との契約、金融機関との借入、経営者保証、従業員との信頼関係は、単体ではなく一体として機能しています。相続人全員で共有にしてしまうと、売却、担保設定、大規模修繕、建替え、事業譲渡、役員変更、株主総会の運営が難しくなることがあります。

中小企業庁の事業承継ガイドラインは、円滑な事業承継によって事業価値を次世代に引き継ぐことが不可欠ですとし、準備不足により不本意な結果になる例や、親族内承継だけでなく従業員承継、第三者承継も増加している状況を指摘しています。 同ガイドラインは、事業承継における信託の活用について、信託契約の定め方によって自由な設計が可能であり、認知症などによる判断能力低下への対応策としても注目されていると説明しています。

事業用資産承継で特に問題になりやすいのは、次の事項です。

次の比較表は、この章で扱う項目の違いと確認点を整理したものです。契約、税務、登記、家族間調整の抜け漏れを防ぐために重要なので、左側で分類を確認し、右側の説明から具体的に確認すべき事項を読み取ってください。

問題起こり得る事態
経営者の判断能力低下株式の議決権行使、賃貸物件の修繕、売却、借入更新、担保設定が止まる
死亡直後の空白遺産分割がまとまるまで、後継者が経営権を安定して行使できない
相続人間の対立後継者と非後継者の間で、株式評価、不動産評価、役員報酬、使い込み疑いが争点になる
遺留分後継者に株式や不動産を集中させた結果、他の相続人から金銭請求を受ける
税務資金相続税、贈与税、登録免許税、専門家費用、納税資金の不足が起こる
許認可、契約個人事業の場合、許認可や取引契約を後継者が取り直す必要が出る
個人保証会社の借入に関する経営者保証が後継者へどう引き継がれるかが問題になる

このような問題のうち、家族信託が直接得意とするのは、財産管理の継続、議決権行使の安定、最終帰属先の指定、資産分散の抑制です。他方、税負担そのものの軽減、許認可承継、保証債務の処理、相続人間の感情対立の解消は、別の制度や交渉を組み合わせる必要があります。

家族信託で扱える財産には制度上特に限定がなく、金銭的価値のある財産であれば、金銭、有価証券、土地建物などを信託できると説明されています。 もっとも、実務上は、名義変更、管理方法、金融機関対応、許認可、税務の観点から、対象財産ごとに適否を分ける必要があります。

3.1 事業用不動産

事業用不動産とは、工場、店舗、倉庫、事務所、駐車場、賃貸用ビル、アパート、社宅、役員社宅、事業用土地などです。家族信託では、現所有者を委託者兼当初受益者、後継者や信頼できる家族を受託者とし、不動産の管理処分権限を受託者に移す設計が考えられます。

この設計により、現経営者が高齢化しても、受託者が賃貸借契約の更新、修繕、火災保険、固定資産税の支払、建替え検討、売却準備を進めやすくなります。不動産が信託された場合は、登記上も信託に関する登記を行い、信託目録に信託目的や受託者などの事項を反映させる必要があります。不動産登記法、不動産登記規則、登記実務の検討が不可欠です。

3.2 非上場株式、同族会社株式

同族会社の事業承継では、株式こそが経営権の中核です。株式を信託すると、株主名簿上の名義、議決権行使、配当受領、受益権の承継、後継者の経営権確保を設計できます。

中小企業庁の事業承継ガイドラインは、遺言代用信託の典型例として、自社株式を対象に信託を設定し、経営者を当初受益者、後継者候補を受託者とし、議決権行使指図権を経営者が持つ設計を紹介しています。これにより、後継者の地位を確立させつつ、経営者の死亡時に株式承継の空白を小さくする効果が期待されます。

ただし、非上場株式の信託では、会社法、定款、株主名簿、譲渡制限、種類株式、議決権行使指図権、利益相反、法人税、相続税、贈与税、事業承継税制との関係を精査する必要があります。会社法上、譲渡制限株式、株主名簿、議決権、種類株式の規律が関係します。

3.3 個人事業主の事業用資産

個人事業主の場合、事業用の土地建物、厨房設備、工具、車両、機械、在庫、売掛金、屋号、ウェブサイト、商標、営業秘密、顧客リスト、取引契約などが問題になります。

中小企業庁の事業承継ガイドラインは、個人事業主では、会社形態の承継と異なり、事業承継前後で法人格が維持されるわけではありませんため、事業遂行に必要な許認可等を後継者が取得し直したり、取引先等との契約関係を引き継いだりする必要がありますと指摘しています。

したがって、個人事業の家族信託では、信託だけで事業そのものが承継されると考えてはいけません。事業用不動産や設備の管理は信託で扱えても、許認可、雇用、取引契約、個人名義の借入、屋号の使用、税務上の事業所得の帰属などは別途整理します。

3.4 知的財産、ブランド、営業権

特許権、商標権、意匠権、著作権、ノウハウ、営業秘密、ドメイン、SNSアカウント、ECアカウントは、事業価値の中核になることがあります。特許庁は、権利者です自然人の死亡により権利を相続人が承継する手続として、相続による移転登録申請を案内しています。

家族信託で知的財産を扱う場合は、弁理士、弁護士、税理士が関与し、登録可能性、ライセンス契約、会社への使用許諾、ロイヤルティ、評価、相続税、法人税を検討します。信託財産に入れるのか、会社へ譲渡するのか、後継者へ贈与するのか、持株会社に集約するのかを比較することが重要です。

3.5 金銭、預金、借入、保証

金銭は信託財産にできますが、既存の個人名義預金口座をそのまま「信託口」に変更できるとは限りません。金融機関ごとに、家族信託専用口座、信託口口座、屋号付き口座、受託者個人口座の取扱いが異なります。

また、借入金や個人保証は、家族信託だけで当然に移転するものではありません。金融機関との契約変更、保証人変更、担保権者の承諾、返済原資、受託者の権限、信託財産責任負担債務の設計が必要です。

Section 02

事業用資産の家族信託の基本構造

自益信託、他益信託、民事信託、商事信託の違いを押さえます。

次の判断の流れは、事業承継型の家族信託を基本構造から実行可能性まで順番に確認するものです。役割と税務を混同すると設計が破綻しやすいため重要です。上から順に、委託者、受託者、受益者、課税関係、信託業法の確認へ進むと読み取ってください。

事業承継型家族信託の基本確認

委託者と信託財産を特定

現経営者が何を信託するかを、不動産、株式、金銭、設備ごとに特定します。

受託者の適格性を確認

後継者、親族、家族法人、信託会社などの候補について、会計管理能力と中立性を確認します。

受益者と受益権を設計

当初受益者、第二受益者、帰属権利者を分け、相続税や贈与税の課税時点を検討します。

別制度が必要な論点を分離

遺留分、許認可、個人保証、金融機関承諾、信託業法の論点は別に処理します。

4.1 基本型

最も基本的な事業承継型の家族信託は、次のような構造です。

次の比較表は、この章で扱う項目の違いと確認点を整理したものです。契約、税務、登記、家族間調整の抜け漏れを防ぐために重要なので、左側で分類を確認し、右側の説明から具体的に確認すべき事項を読み取ってください。

役割典型例実務上の意味
委託者現経営者、先代経営者事業用資産を信託する人
受託者後継者、後継者の兄弟、家族法人、専門的管理者信託財産の名義人となり、契約に従って管理する人
当初受益者現経営者賃料、配当、売却代金などの経済的利益を受ける人
第二受益者後継者、配偶者、子現経営者死亡後に受益権を取得する人
帰属権利者後継者、会社、親族、財団等信託終了時に残った財産を受ける人
信託監督人、受益者代理人弁護士、司法書士、親族など受託者を監督し、受益者保護を補完する人

基本型では、委託者が所有する事業用不動産や株式を信託し、受託者が管理します。委託者は当初受益者として利益を受け続けます。現経営者が死亡したときは、信託契約で指定した後継者が受益権を取得する、または信託を終了して後継者に財産を帰属させる設計をとります。

このとき、所有権は受託者に移りますが、経済的利益は受益者に帰属します。ここが、単なる贈与や売買とは異なる点です。

4.2 自益信託と他益信託

事業承継の初期設計では、自益信託がよく使われます。自益信託とは、委託者と受益者が同一の信託です。現経営者が委託者兼当初受益者となり、受託者に管理を任せる形です。

他益信託とは、委託者と受益者が異なる信託です。例えば、父が委託者、長男が受益者になる場合です。国税庁は、新たに信託を設定した場合などで、適正な対価を負担することなく受益権等を取得したときは贈与税が課税されると説明しています。

したがって、税務上の基本方針は次のとおりです。

次の比較表は、この章で扱う項目の違いと確認点を整理したものです。契約、税務、登記、家族間調整の抜け漏れを防ぐために重要なので、左側で分類を確認し、右側の説明から具体的に確認すべき事項を読み取ってください。

類型典型的な税務リスク
委託者兼受益者の自益信託経済的利益の移転がないため、設定時の贈与税リスクは通常低いが、登記費用や将来の受益権移転課税は検討が必要
委託者と受益者が異なる他益信託受益権取得者に贈与税が課税される可能性が高い
死亡時に次の受益者へ移る信託相続税または贈与税の課税関係を個別に検討する必要があります
受益者連続型信託相続税法上の特例、評価、元本受益権、収益受益権の扱いが難しい

4.3 民事信託と商事信託

家族信託は、多くの場合、家族や親族が受託者となる民事信託です。これに対し、営業として信託の引受けを行う場合は信託業に当たり、信託業を営むには原則として内閣総理大臣の免許または登録が必要です。金融庁は、信託業を「信託の引受けを行う営業」と説明し、免許または登録の制度を示しています。

このため、弁護士、司法書士、税理士、行政書士などの専門家が、通常の報酬を得て継続的に受託者になる設計は、信託業法との関係で慎重な検討が必要です。専門家は通常、信託契約の設計、契約書作成、税務、登記、監督機能、遺言、遺産分割対策などを支援し、受託者そのものは家族や信託会社等が担う形を検討します。

Section 03

事業用資産の家族信託で使う五つの代表設計

不動産、自社株式、個人事業、知的財産、持株会社を設計別に整理します。

次の一覧は、事業用資産を家族信託で承継する代表的な五つの設計を並べたものです。資産の性質に合う型を選ばないと税務、登記、許認可、会社法上の問題が残るため重要です。各項目から、どの場面で向くか、何に注意するかを読み取ってください。

設計1

事業用不動産管理型

先代個人名義の工場や店舗、賃貸物件を後継者が管理し、先代には賃料などの利益を残す設計です。

設計2

自社株式承継型

議決権株式を信託し、議決権行使指図権、株主名簿、配当、受益権承継を整理します。

設計3

受益者連続型

創業者、後継者、孫など複数世代の受益者を定めますが、税務と期間制限に注意します。

設計4

個人事業承継補助型

店舗や設備の管理を信託で支え、許認可、借地、取引契約は別手続で承継します。

設計5

持株会社等との併用型

持株会社、資産保有会社、種類株式を組み合わせ、議決権と経済的利益を分けます。

5.1 事業用不動産管理型

設計例

父が所有する工場土地建物を信託財産とし、長男を受託者、父を当初受益者、父死亡後の受益者を長男とする設計です。長男は受託者として、修繕、賃貸借契約、火災保険、固定資産税支払、会社への賃貸、必要な売却や担保設定を行います。

向いているケース

次の比較表は、この章で扱う項目の違いと確認点を整理したものです。契約、税務、登記、家族間調整の抜け漏れを防ぐために重要なので、左側で分類を確認し、右側の説明から具体的に確認すべき事項を読み取ってください。

状況理由
会社の工場や店舗が先代個人名義経営者個人の判断能力低下で会社の使用継続が危うくなるため
不動産収入を先代の生活費に使いたい当初受益者を先代にすれば、経済的利益を残しやすい
後継者に不動産管理を早めに任せたい所有権を完全贈与せず、管理権限を移せる
相続人共有を避けたい死亡後の帰属先を設計できる

注意点

信託不動産は、受託者名義になります。登記、固定資産税通知、賃貸借契約、火災保険、抵当権、借入契約、金融機関承諾、会社との利益相反を確認する必要があります。受託者が会社役員で、会社に不動産を貸す場合は、賃料の適正性、法人税、所得税、役員報酬、取締役会承認なども問題になります。

5.2 自社株式承継型

設計例

創業者が持つ議決権株式を信託し、後継者を受託者、創業者を当初受益者とします。創業者が元気な間は、議決権行使指図権を創業者に残します。創業者死亡後は、後継者が受益者または帰属権利者となり、株式を確定的に承継します。

期待される効果

  1. 後継者が株主管理の実務を早期に担う。
  2. 創業者が議決権行使の方向性を指図できます。
  3. 創業者が認知症になっても、株式の管理名義が受託者にあるため、株主総会運営の停止リスクを下げられます。
  4. 死亡後の遺産分割を待たずに、株式承継の道筋を明確にできます。

中小企業庁のガイドラインも、事業承継に際して活用される信託の典型として遺言代用信託を挙げ、先代経営者の死亡時に自社株式が後継者へ承継されることにより、遺産分割等による経営の空白期間が生じないメリットが指摘されていると説明しています。

注意点

自社株式を信託する場合、定款上の譲渡制限、株主名簿の記載、議決権の取扱い、配当、受益権評価、信託終了時の株式移転、事業承継税制との整合性を確認します。特に、法人版事業承継税制を使う場合、対象株式、後継者、代表者、議決権、保有継続などの要件に信託が影響し得ます。国税庁は、法人版事業承継税制について、非上場株式等を相続または遺贈により取得した場合の相続税の納税猶予と免除制度を説明しています。

5.3 後継ぎ遺贈型受益者連続信託

設計例

創業者を第一受益者、長男を第二受益者、長男死亡後は孫を第三受益者とする設計です。創業者は、単に自分の次の後継者だけでなく、さらに次の承継者まで一定程度指定することを狙います。

効果

遺言では、長男に財産を渡すことはできますが、長男が死亡した後にその財産を必ず孫へ渡せと拘束することは原則として難しいです。受益者連続型信託を使うと、信託期間中は、受益者の死亡に応じて次の受益者を定める設計ができます。

注意点

受益者連続型信託は、信託法、相続税法、贈与税、受益権評価、遺留分、信託期間制限が複雑です。国税庁は、受益者連続型信託に関する相続税法上の取扱いを通達や解説で示しています。 安易に使うと、想定外の課税、遺留分紛争、受託者交代不能、信託終了後の帰属不明が起こります。

5.4 個人事業承継補助型

設計例

個人事業主が所有する店舗兼住宅のうち事業部分、営業用車両、機械設備を信託し、後継者を受託者とします。営業許可、賃貸借契約、取引先契約は別途、後継者への事業譲渡または契約変更で承継します。信託は、不動産や設備の管理と承継を補助する役割を担います。

注意点

個人事業の場合、信託で「事業そのもの」が自動移転するわけではありません。中小企業庁が指摘するように、許認可の取得し直しや取引先契約の引継ぎが必要になることがあります。

個人版事業承継税制も検討対象です。中小企業庁は、個人事業者の事業承継を促進するため、多様な事業用資産の承継に係る相続税、贈与税を一定要件のもとで納税猶予する制度を案内しています。 国税庁も、個人版事業承継税制の相続税、贈与税の取扱いを示しています。

5.5 資産保有会社、持株会社、種類株式との併用型

設計例

事業会社株式を持株会社に集約し、現経営者が持株会社株式を信託する、または事業会社で種類株式を導入し、議決権株式と配当優先株式を分けたうえで、議決権株式を信託する設計です。

効果

株式の経済的価値と議決権を分け、後継者には経営権を集中させ、非後継者には経済的給付を確保する設計がしやすくなります。

注意点

会社法、税法、株価評価、同族会社行為計算否認、組織再編税制、配当課税、少数株主対策が高度に絡みます。中小企業庁のガイドラインも、種類株式や信託の活用について、法務および税務の両面から具体的な検討を事前に行うことが不可欠であり、弁護士、司法書士、税理士等への早期相談が重要という趣旨を示しています。

Section 04

事業用資産の家族信託を実行する十段階

棚卸しから定期点検まで、実務で抜けやすい手順を順に確認します。

次の時系列は、事業用資産を家族信託で次世代に承継する十段階を、実行順に整理したものです。途中の税務、遺留分、登記、金融機関対応を飛ばすと後戻りが大きいため重要です。上から順に、準備、設計、契約、実行、点検へ進む流れを読み取ってください。

第1段階

事業と財産を棚卸しする

不動産、会社、個人事業、税務、家族関係、金融資料を集め、信託する財産としない財産を分けます。

第2段階

後継者を決める

経営後継者、財産承継者、受託者が同一でよいか、分けるべきかを確認します。

第3段階

相続人と遺留分を分析する

非後継者への代償金、生命保険、民法特例、説明方法、遺言併用を検討します。

第4段階

税務シミュレーションを行う

相続税、贈与税、所得税、法人税、登録免許税、不動産取得税、消費税を確認します。

第5段階

信託目的を定める

事業継続、雇用維持、取引先保護、生活保障、後継者承継を具体化します。

第6段階

受託者権限を設計する

保存管理、賃貸運営、株主権行使、売却、担保設定、借入、建替え、専門家委託を定めます。

第7段階

議決権行使指図権を設計する

現経営者、後継者、予備後継者、監督人の関与を時期ごとに分けます。

第8段階

公正証書化と意思確認を行う

高齢経営者、高額不動産、非上場株式、相続人対立がある場合は公正証書化を検討します。

第9段階

登記、名簿、口座、契約を変更する

信託登記、株主名簿、信託口座、賃貸借契約、担保、知的財産の手続を実行します。

第10段階

信託後に定期点検する

受託者は帳簿、報告、税務資料を整え、少なくとも年1回の見直しを行います。

第1段階: 事業と財産を棚卸しする

まず、信託する財産と信託しない財産を分けます。棚卸しでは、次の資料を集めます。

次の比較表は、この章で扱う項目の違いと確認点を整理したものです。契約、税務、登記、家族間調整の抜け漏れを防ぐために重要なので、左側で分類を確認し、右側の説明から具体的に確認すべき事項を読み取ってください。

分野必要資料
不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、公図、測量図、賃貸借契約書、担保設定書類
会社定款、株主名簿、決算書、法人税申告書、株主総会議事録、役員構成、借入一覧
個人事業青色申告決算書、許認可、取引契約、設備一覧、在庫、車両、屋号、屋号口座
税務相続税試算、贈与税試算、株価評価、土地評価、小規模宅地等の特例可能性
家族関係戸籍、推定相続人一覧、遺留分権利者、過去の贈与、生活支援状況
金融借入契約、担保、保証、生命保険、退職金準備、納税資金

ここでの目的は、信託契約書を作ることではなく、承継に必要な論点を発見することです。

第2段階: 後継者を決める

信託は、後継者が決まっていない段階でも一部設計できますが、事業承継型の信託では、後継者候補の能力、意思、年齢、家族関係、資金力、事業への関与度を確認する必要があります。

後継者には、次の三つの立場があります。

次の比較表は、この章で扱う項目の違いと確認点を整理したものです。契約、税務、登記、家族間調整の抜け漏れを防ぐために重要なので、左側で分類を確認し、右側の説明から具体的に確認すべき事項を読み取ってください。

立場説明
経営後継者会社や事業を実際に運営する人
財産承継者株式、不動産、設備などを経済的に承継する人
受託者信託財産を管理する人

この三者は同一人物でもよいですが、常に同一です必要はありません。例えば、長男が経営後継者、長女が受託者、父が当初受益者、父死亡後は長男と長女が一定割合で受益者になる設計もあり得ます。ただし、経営権を分散させると意思決定が遅くなるため、事業の安定を重視する場合は、議決権や重要不動産の管理権限を後継者へ集中させることが多いです。

第3段階: 相続人と遺留分を分析する

事業承継型の家族信託では、遺留分対策が極めて重要です。遺留分とは、一定の相続人に保障される最低限の相続利益です。民法上、兄弟姉妹以外の相続人に遺留分が認められています。

家族信託で後継者に株式や事業用不動産を集中させても、他の相続人の遺留分を当然に消すことはできません。したがって、次の対策を組み合わせます。

  1. 非後継者に代償金や生命保険金を用意します。
  2. 事業用資産と非事業用資産を分け、非後継者にも納得可能な資産を確保します。
  3. 相続人全員へ説明し、信託の目的、評価、生活保障を透明化します。
  4. 経営承継円滑化法の遺留分に関する民法特例を検討します。
  5. 必要に応じて遺言を併用されることが多いです。

中小企業庁は、経営承継円滑化法による支援として、遺留分権利者全員との合意および所要の手続を前提に、遺留分に関する民法の特例を利用できると説明しています。

第4段階: 税務シミュレーションを行う

家族信託を導入する前に、少なくとも次の税務シミュレーションが必要です。

次の比較表は、この章で扱う項目の違いと確認点を整理したものです。契約、税務、登記、家族間調整の抜け漏れを防ぐために重要なので、左側で分類を確認し、右側の説明から具体的に確認すべき事項を読み取ってください。

税目、費用検討事項
相続税信託受益権、株式、不動産、生命保険、債務控除、納税資金
贈与税他益信託、受益権贈与、株式贈与、相続時精算課税
所得税信託財産からの賃料、配当、譲渡所得、事業所得の帰属
法人税会社への賃貸、役員関係、自己株式、組織再編、同族会社取引
登録免許税不動産信託登記、信託終了時の所有権移転登記
不動産取得税信託設定時、終了時、受益者変更時の取扱い
消費税事業譲渡、不動産賃貸、設備譲渡が絡む場合

国税庁は、相続税について、正味の遺産額が基礎控除額を超える場合に申告および納税が必要であり、基礎控除額は3,000万円に600万円と法定相続人の数を掛けた額を加えて計算すると説明しています。

また、信託受益権については、相続税または贈与税の申告に際し、信託受益権の価額を評価するための評価明細書が用意されています。

第5段階: 信託目的を定める

信託目的は、信託契約の心臓です。事業承継型では、次のように具体化します。

設計例本信託は、委託者が所有する事業用不動産および自社株式について、委託者の判断能力低下または死亡が生じた場合にも、事業の継続、従業員の雇用維持、取引先との関係維持、受益者の生活保障、後継者への円滑な経営承継を実現することを目的とします。

信託目的が抽象的すぎると、受託者の権限行使が争われます。逆に狭すぎると、売却、担保設定、建替え、M&A、資金調達ができなくなります。事業承継では、事業環境の変化に対応できる柔軟性が必要です。

第6段階: 受託者の権限を設計する

受託者の権限は、信託契約で明確に定めます。事業用資産では、次の権限が重要です。

次の比較表は、この章で扱う項目の違いと確認点を整理したものです。契約、税務、登記、家族間調整の抜け漏れを防ぐために重要なので、左側で分類を確認し、右側の説明から具体的に確認すべき事項を読み取ってください。

権限具体例
保存管理修繕、保険、税金支払、清掃、管理委託
賃貸運営賃貸借契約の締結、更新、解除、賃料改定
株主権行使議決権行使、配当受領、株主総会対応
売却不動産売却、株式譲渡、事業譲渡に伴う処分
担保設定借入のための抵当権設定、根抵当権変更
借入信託財産の維持、修繕、納税、建替え資金の借入
建替え解体、新築、請負契約、設計契約
専門家委託弁護士、司法書士、税理士、不動産業者、管理会社への委託

受託者には、善管注意義務、忠実義務、分別管理義務などが課されます。信託協会も、受託者には善管注意義務、忠実義務、分別管理義務などがあると説明しています。

第7段階: 議決権行使指図権を設計する

自社株式信託では、議決権行使指図権が重要です。議決権行使指図権とは、受託者が株主名義人として議決権を行使する際に、だれの指図に従うかを定める仕組みです。

例えば、次のように設計できます。

次の比較表は、この章で扱う項目の違いと確認点を整理したものです。契約、税務、登記、家族間調整の抜け漏れを防ぐために重要なので、左側で分類を確認し、右側の説明から具体的に確認すべき事項を読み取ってください。

時期指図権者狙い
現経営者が元気な間現経営者経営の実権を維持する
現経営者が判断能力を失った後後継者、または信託監督人の承認を得た後継者経営空白を避ける
現経営者死亡後後継者後継者の経営権を確立する
後継者が死亡または不適格になった場合予備後継者、信託監督人、取締役会の推薦者不測の事態に備える

中小企業庁のガイドラインも、経営者が議決権行使指図権を保持することで、当面の間は経営の実権を握りつつ、後継者の地位を確立させることができると説明しています。

第8段階: 公正証書化と本人意思確認を行う

信託契約は、私文書でも成立し得ますが、事業用資産を扱う場合は、公正証書化を強く検討します。公正証書化には、次の利点があります。

  1. 委託者の意思確認を公証人が関与して行いやすい。
  2. 後日の偽造、変造、意思能力争いを抑えやすい。
  3. 金融機関、登記、取引先への説明資料として使いやすい。
  4. 契約内容の確定性を高めやすい。

日本公証人連合会は、公証役場、公証人が遺言や任意後見契約などの公正証書作成、私文書認証、確定日付付与などを行う公的機関ですと説明しています。

第9段階: 登記、株主名簿、口座、契約変更を実行する

信託契約を締結しただけでは、実務は完了しません。対象財産ごとの実行手続が必要です。

次の比較表は、この章で扱う項目の違いと確認点を整理したものです。契約、税務、登記、家族間調整の抜け漏れを防ぐために重要なので、左側で分類を確認し、右側の説明から具体的に確認すべき事項を読み取ってください。

財産実行手続
不動産所有権移転および信託登記、信託目録作成、担保権者確認
非上場株式株主名簿記載、定款確認、譲渡承認、議決権指図実務確認
金銭信託口口座、会計帳簿、受託者固有財産との分別管理
車両、機械名義変更、保険、リース契約、動産譲渡登記の要否確認
知的財産特許庁登録、ライセンス契約、会社使用許諾、弁理士確認
賃貸借契約貸主名義、振込先、敷金、保証会社、管理会社通知
借入、担保金融機関承諾、保証、返済原資、信託財産責任負担債務

法務省は、2024年4月1日から相続登記が義務化され、不動産を相続により取得したことを知った日から3年以内の申請が必要ですと説明しています。 信託を生前に実行しておけば、信託財産については通常の遺産分割による名義変更とは異なる流れになりますが、信託外の不動産が残る場合は相続登記義務を忘れてはいけません。

第10段階: 信託後の運用と定期点検を行う

家族信託は契約締結がゴールではありません。むしろ、締結後の運用が本番です。

受託者は、信託財産と自分の固有財産を分け、帳簿を作り、収支を記録し、受益者へ報告し、必要に応じて税務申告資料を整えます。信託財産が賃貸不動産であれば、賃料入金、修繕費、固定資産税、保険料、借入返済を信託口座で管理します。自社株式であれば、株主総会招集通知、議決権行使、配当、株式評価、会社再編を管理します。

少なくとも年1回、次の点検を行います。

  1. 受益者、受託者、信託監督人に変更がないか。
  2. 後継者が適任か。
  3. 対象財産の評価が大きく変わっていないか。
  4. 税制改正、会社法改正、登記実務変更がないか。
  5. 事業承継税制の届出、報告、継続要件に漏れがないか。
  6. 非後継者への説明や代償資金の準備が十分か。
  7. 信託終了事由を見直す必要がないか。
Section 05

事業用資産の家族信託と税務の要点

相続税、贈与税、所得税、法人税、事業承継税制の関係を整理します。

次の強調事項は、事業用資産の家族信託で最も誤解されやすい税務上の出発点を示しています。節税だけを目的にすると贈与税、相続税、所得税、法人税の想定外負担が出るため重要です。ここでは、信託は税負担を消す仕組みではなく、課税時点と評価を確認する仕組みだと読み取ってください。

家族信託は節税装置ではありません

信託を使っても、信託受益権、帰属財産、株式、不動産は税務上評価されます。自益信託、他益信託、受益者連続型信託、事業承継税制との関係を、契約前に税理士等と試算する必要があります。

7.1 家族信託は節税装置ではありません

家族信託は、財産管理と承継の制度であり、相続税を当然に減らす制度ではありません。相続税は、相続や遺贈によって取得した財産等の価額の合計が基礎控除額を超える場合に課税されます。 信託を使っても、受益権や信託終了時の帰属財産が税務上評価されます。

節税だけを目的に信託を設計すると、次のリスクがあります。

次の比較表は、この章で扱う項目の違いと確認点を整理したものです。契約、税務、登記、家族間調整の抜け漏れを防ぐために重要なので、左側で分類を確認し、右側の説明から具体的に確認すべき事項を読み取ってください。

リスク内容
贈与税他益信託や受益権移転により課税される
相続税受益権、帰属権、株式、不動産が課税対象になり得る
所得税信託財産から生じる収益が受益者等に帰属する
法人税会社との取引価格、賃料、役員関係、株式移転が問題になる
否認リスク実態のない形式的な信託は税務上問題視されやすい

7.2 信託設定時の課税

自益信託では、委託者が当初受益者ですため、経済的利益は委託者に残ります。このため、信託設定時点で贈与税が生じない設計になることが多いです。ただし、登録免許税、専門家報酬、評価費用、登記費用、金融機関手数料は発生します。

他益信託では、委託者以外の者が受益権を無償または低額で取得するため、贈与税が問題になります。国税庁は、適正な対価を負担することなく受益権等を取得したときは贈与税が課税されると説明しています。

7.3 信託期間中の所得課税

受益者等課税信託では、信託財産に属する資産、負債、収益、費用は、税務上、受益者等に帰属するものとして扱われます。国税庁は、受益者等課税信託に関し、受益者等が信託財産に属する資産および負債を有するものとみなされる旨を示しています。

例えば、信託財産が賃貸不動産で、父が受益者であれば、賃料収入は父側の所得として扱われることが基本になります。もっとも、受益者が複数、収益受益者と元本受益者が異なる、法人が関与する、受益者連続型です場合は、税理士による詳細検討が必要です。

7.4 受益権の評価

信託財産を直接相続するのではなく、信託受益権を相続または贈与する場合、受益権の評価が問題になります。国税庁は、相続税または贈与税の申告に際して信託受益権の価額を評価するための「信託受益権の評価明細書」を案内しています。

評価では、次の要素が重要です。

  1. 信託財産の種類と時価。
  2. 収益受益権と元本受益権が分かれているか。
  3. 受益者が複数か。
  4. 信託期間がどの程度か。
  5. 受益者連続型か。
  6. 信託財産に借入、担保、賃貸借、使用貸借があるか。
  7. 非上場株式の評価方式。

7.5 事業承継税制との関係

法人版事業承継税制は、非上場株式等に係る贈与税、相続税について、一定要件のもと納税猶予および免除を受けられる制度です。中小企業庁は、法人版事業承継税制の特例措置について、特例承継計画の提出期限が令和9年9月30日までですと案内しています。 国税庁も、特例措置の適用期限や対象株数、納税猶予割合などを説明しています。

個人版事業承継税制は、個人事業者の事業用資産に係る贈与税、相続税について、一定要件のもと納税猶予および免除を受けられる制度です。国税庁は、個人の事業用資産についての相続税および贈与税の納税猶予、免除の特例を案内しています。

家族信託を使う場合、これらの制度と両立できるかは必ず個別に確認します。株式の名義、議決権、後継者の地位、贈与または相続の取得形態、継続届出、担保提供などに影響が出る可能性があります。

Section 06

事業用資産の家族信託で遺留分と紛争に備える

意思能力、使い込み疑い、評価争い、契約不備への備えを確認します。

次の注意点一覧は、事業用資産の家族信託で相続紛争になりやすい原因を整理したものです。後継者へ資産を集中させる設計ほど、説明不足や評価資料不足が争いにつながるため重要です。各項目から、契約前に残すべき証拠と管理透明化の方法を読み取ってください。

意思能力の争い

医師記録、公証人関与、面談記録、録音録画、契約時期の適正化で、委託者の意思形成を残します。

使い込み疑い

信託口口座、帳簿、領収書、年次報告、信託監督人で、受託者の管理を透明化します。

遺留分侵害

税務評価、代償資金、生命保険、遺留分特例、家族説明を組み合わせます。

評価争い

不動産鑑定、固定資産評価、路線価、株式評価、決算書分析を整理します。

契約書不備

解除、終了、変更、死亡、辞任、解任、利益相反条項を明確にします。

家族信託は、相続紛争を減らす道具にはなりますが、家族関係が壊れている場合に紛争を消す魔法ではありません。むしろ、説明不足の信託は「長男が父を囲い込んだ」「財産を隠した」「受託者が使い込んだ」という疑念を生みます。

紛争予防の基本は、次の三つです。

  1. 目的を説明すること。事業継続、雇用維持、納税資金、配偶者の生活保障など。
  2. 評価を説明すること。株式評価、不動産評価、生命保険、代償金。
  3. 管理を透明化すること。帳簿、報告、信託監督人、口座分離。

相続人間で遺産分割の話合いがつかない場合、家庭裁判所の遺産分割調停または審判を利用できます。裁判所は、調停手続では当事者から事情を聴き、資料提出を受け、必要に応じて鑑定を行い、合意を目指して話合いを進めると説明しています。調停が不成立の場合は審判手続が開始されます。

事業承継型の信託で争いになりやすいのは、次の論点です。

次の比較表は、この章で扱う項目の違いと確認点を整理したものです。契約、税務、登記、家族間調整の抜け漏れを防ぐために重要なので、左側で分類を確認し、右側の説明から具体的に確認すべき事項を読み取ってください。

争点対策
委託者の意思能力医師記録、公証人関与、面談記録、録音録画、契約時期の適正化
受託者の使い込み疑い信託口口座、帳簿、領収書、年次報告、監督人
遺留分侵害税務評価、代償資金、生命保険、遺留分特例、家族説明
不動産評価不動産鑑定士、固定資産評価、路線価、収益価格の整理
株式評価税理士、公認会計士による評価、決算書分析
後継者不適格受託者交代条項、予備後継者、信託監督人承認
契約書の不備解除、終了、変更、死亡、辞任、解任、利益相反条項の整備
Section 07

事業用資産の家族信託契約に入れる主要条項

目的、財産特定、受託者権限、承認、交代、終了、報告を設計します。

9.1 信託目的条項

事業承継型では、目的条項に「事業継続」「雇用維持」「取引先保護」「受益者の生活保障」「後継者への円滑な承継」を入れます。目的が明確であれば、受託者の権限行使の判断基準になります。

9.2 信託財産の特定

不動産であれば所在、地番、家屋番号、種類、構造、床面積を明記します。株式であれば会社名、株式数、種類、議決権、株券発行の有無、譲渡制限を確認します。機械設備であれば型番、製造番号、設置場所を一覧化します。

9.3 受託者の権限条項

管理、修繕、賃貸、売却、借入、担保設定、株主権行使、専門家委託、訴訟対応、税務申告資料作成の範囲を明記します。事業用資産は環境変化が大きいため、売却や建替えを完全に禁止すると事業継続を妨げることがあります。

9.4 重要行為の承認条項

受託者の単独判断に任せすぎると濫用リスクがあります。そこで、次の行為は信託監督人または受益者代理人の承認を必要とする設計が考えられます。

  1. 不動産売却。
  2. 担保設定。
  3. 1,000万円を超える修繕または投資。
  4. 自社株式の譲渡。
  5. 事業譲渡、会社分割、合併への賛成。
  6. 受託者自身またはその会社との取引。

9.5 受託者交代条項

受託者が死亡、認知症、破産、辞任、不正、利益相反、長期入院、所在不明になった場合の後任を定めます。

後任受託者を定めていないと、信託運用が止まり、裁判所手続が必要になることがあります。事業用資産では、受託者の交代が遅れるだけで、資金繰り、修繕、株主総会、金融機関対応に支障が出ます。

9.6 受益者変更、死亡時承継条項

現経営者死亡時に、だれが受益権を取得するかを明記します。相続人共有にするのか、後継者単独にするのか、配偶者へ収益受益権を与えるのか、子へ元本受益権を与えるのかを検討します。

配偶者の生活保障を重視する場合、配偶者を第二受益者とし、配偶者死亡後に後継者へ移す設計もあります。ただし、受益者連続型信託の税務と遺留分を検討します。

9.7 信託終了条項

信託終了事由として、次のものを定めます。

  1. 委託者死亡後、一定期間経過。
  2. 後継者への株式承継完了。
  3. 事業譲渡またはM&A完了。
  4. 受益者全員の合意。
  5. 信託目的達成または達成不能。
  6. 信託財産の全部処分。
  7. 受託者不在が一定期間継続。

終了後の残余財産帰属先を明確にしないと、相続人間で争いになります。

9.8 報告、帳簿、監査条項

受託者は、信託財産の収支を記録し、年1回以上、受益者または信託監督人へ報告します。信託口座、領収書、賃貸借契約、株主総会資料、修繕見積、税務資料を保存します。

9.9 紛争解決条項

家族内紛争を想定し、協議、専門家調停、管轄裁判所、準拠法、通知方法を定めます。ただし、遺産分割、遺留分、信託違反、受託者解任などは、法律上の手続に従う必要があります。

Section 08

事業用資産の家族信託で専門家チームが担う役割

法務、登記、税務、評価、許認可、金融の分担を確認します。

事業用資産を家族信託で次世代に承継する方法を実行するには、単独の専門家だけでは不足しがちです。役割分担は次のとおりです。

次の比較表は、この章で扱う項目の違いと確認点を整理したものです。契約、税務、登記、家族間調整の抜け漏れを防ぐために重要なので、左側で分類を確認し、右側の説明から具体的に確認すべき事項を読み取ってください。

専門職主な役割
弁護士信託契約の法的設計、遺留分、相続人間交渉、利益相反、調停、審判、訴訟、使い込み疑いへの対応
司法書士不動産信託登記、相続登記、商業登記、株式や役員変更に関連する登記、裁判所提出書類作成支援
税理士相続税、贈与税、所得税、法人税、消費税、事業承継税制、株式評価、受益権評価、税務調査対応
行政書士許認可、遺産分割協議書、相続関係説明図、事業承継に伴う行政手続支援
公証人信託契約公正証書、遺言、任意後見契約などの公正証書化
公認会計士非上場株式評価、財務デューデリジェンス、内部統制、M&A、会社価値分析
中小企業診断士後継者育成、経営改善、承継計画、事業磨き上げ、補助金支援
不動産鑑定士事業用不動産、賃貸不動産、工場、借地権、底地の評価
土地家屋調査士境界、分筆、表示登記、未登記建物調査
宅地建物取引士、不動産会社売却、賃貸、管理、重要事項説明、価格査定
弁理士特許、商標、意匠、知的財産の承継、移転登録、ライセンス契約
FP生活費、納税資金、保険、老後資金、家族全体の資金計画
金融機関、信託銀行借入、担保、信託口座、遺言信託、資金決済、納税資金

紛争が起きた場合には、家庭裁判所の裁判官、家事調停官、家事調停委員、裁判所書記官、家庭裁判所調査官、鑑定人、専門委員、特別代理人などが関与することがあります。未成年者や成年後見制度の利用者が相続人で利益相反がある場合、家庭裁判所による特別代理人等の選任が必要になることがあります。

Section 09

事業用資産の家族信託のケーススタディ

自社株式、個人事業、賃貸不動産、知的財産の設計例を確認します。

ケース1: 創業者が自社株式と工場不動産を持っている

状況

創業者Aは、製造業の会社株式80%と工場土地建物を個人で所有しています。長男Bが会社で働いており、長女Cは会社に関与していません。Aは高齢で、認知症リスクと相続争いを心配しています。

設計

  1. 自社株式を信託し、Bを受託者、Aを当初受益者とします。
  2. Aが元気な間は、重要な議決権行使についてAの指図権を残す。
  3. A死亡後は、Bを受益者または帰属権利者とします。
  4. 工場不動産も信託し、Bが受託者として会社との賃貸借を管理します。
  5. Cには生命保険金、預貯金、代償金を用意します。
  6. 株式評価と不動産評価を税理士、不動産鑑定士が検討します。
  7. 遺留分対策として、経営承継円滑化法の民法特例を検討します。

効果

Bが事業用資産を一体管理でき、Aの判断能力低下時にも株主権や不動産管理を継続しやすくなります。一方で、Cへの説明と代償資金を用意しないと、遺留分侵害額請求や感情的対立が残ります。

ケース2: 個人事業の店舗を子に引き継ぎたい

状況

母Dは飲食店を個人事業で営み、店舗建物と厨房設備を所有しています。長女Eが後継者です。営業許可はD名義、店舗土地は借地です。

設計

  1. 店舗建物と主要設備を信託し、Eを受託者、Dを当初受益者とします。
  2. 営業許可は、Eが取得し直すスケジュールを作る。
  3. 借地契約の承継、地主承諾、賃料支払名義を確認します。
  4. 屋号、メニュー、仕入先、従業員との関係は、事業譲渡契約または個別契約で整理します。
  5. 個人版事業承継税制の適用可能性を税理士が検討します。

効果

信託は、店舗資産の管理と承継を安定させます。ただし、営業許可、借地契約、取引先契約を別途承継しなければ、営業は継続できません。

ケース3: 賃貸不動産が事業の収益源になっている

状況

父Fは複数の賃貸マンションを所有し、賃料収入で生活しています。次男Gが管理を手伝っていますが、相続人は長男、次男、長女の三人です。

設計

  1. 主要賃貸不動産を信託し、Gを受託者、Fを当初受益者とします。
  2. F死亡後は、配偶者Hを受益者として生活費を確保します。
  3. H死亡後は、Gを中心に不動産を承継し、長男、長女には代償金または別財産を充てる。
  4. 大規模修繕、借入、売却、建替えは信託監督人の承認事項にします。
  5. 毎年、収支報告を相続人予定者へ共有します。

効果

賃貸不動産の管理が止まりにくくなり、配偶者の生活保障と次世代承継を両立しやすくなります。ただし、受託者Gの管理が不透明だと、他の相続人から不信を招きます。

ケース4: 商標とEC事業を承継したい

状況

父Iは個人でEC事業を営み、商標、ドメイン、SNSアカウント、在庫、外注先契約があります。後継者は娘Jです。

設計

  1. 商標権は弁理士が移転または信託可能性を検討します。
  2. ドメイン、SNS、ECモールアカウントは利用規約上の承継可否を確認します。
  3. 在庫、外注契約、顧客データは、事業譲渡契約で整理します。
  4. 必要に応じて法人化し、知的財産を法人へライセンスします。
  5. 家族信託は、商標や事業用資金、不動産などの管理補助に使う。

効果

知的財産やデジタル資産は、単に相続で承継しても運用できない場合があります。信託だけでなく、利用規約、個人情報、ライセンス、税務を一体で設計します。

Section 10

事業用資産の家族信託で失敗しやすい設計

説明不足、税務後回し、受託者不在、許認可誤解、口座未整備を避けます。

次の比較表は、失敗しやすい設計と回避策を並べたものです。家族信託は契約書だけで完了せず、説明、税務、受託者交代、口座、遺言、登記まで運用が続くため重要です。左列で危険な設計を確認し、右列から事前に講じる対策を読み取ってください。

次の比較表は、この章で扱う項目の違いと確認点を整理したものです。契約、税務、登記、家族間調整の抜け漏れを防ぐために重要なので、左側で分類を確認し、右側の説明から具体的に確認すべき事項を読み取ってください。

失敗例なぜ危険か回避策
後継者だけに説明し、他の相続人へ説明しない囲い込み、使い込み、遺留分侵害の疑念が生じる家族説明、評価資料、代償資金、信託監督人
税務を後回しにする贈与税、相続税、受益権評価で想定外の負担が出る契約前に税理士が試算
受託者を一人だけにする死亡、認知症、破産、辞任で信託が止まる後任受託者、監督人を定める
信託財産を広げすぎる管理不能、会計混乱、金融機関対応不能になる目的に必要な資産に絞る
許認可を信託で承継できると誤解する営業継続が止まる行政書士、監督官庁へ確認
株主名簿や定款を確認しない株式信託の効力、議決権行使が争われる司法書士、弁護士が会社書類を確認
信託口座を作らない受託者固有財産との混同が起きる金融機関と事前協議
遺言を作らない信託外財産の承継が不明になる信託と遺言を併用
相続登記を放置する義務違反、過料、処分困難が起こる司法書士が不動産全体を点検
公正証書化しない意思能力や契約成立を争われやすい公証人関与を検討
Section 11

事業用資産の家族信託と他制度の比較

遺言、任意後見、生前贈与、売買、種類株式、生命保険との違いを整理します。

次の比較表は、この章で扱う項目の違いと確認点を整理したものです。契約、税務、登記、家族間調整の抜け漏れを防ぐために重要なので、左側で分類を確認し、右側の説明から具体的に確認すべき事項を読み取ってください。

制度主な目的長所限界
家族信託財産管理と承継の連続設計判断能力低下、死亡後承継、受益者連続に対応しやすい税金、遺留分、許認可、保証を自動解決しない
遺言死亡後の財産帰属指定簡便で信託外財産にも使える生前の認知症対策には弱い
任意後見判断能力低下後の本人保護身上監護、財産管理を公的に支える事業承継の積極的資産運用には制約が出やすい
生前贈与財産を直接移転後継者へ早期承継できる贈与税、撤回困難、非後継者不満
売買対価を払って移転経済的公平を作りやすい後継者の資金負担、譲渡所得税
種類株式議決権、配当、拒否権の設計会社法上の経営権設計に有効定款変更、登記、税務が複雑
持株会社株式集約、グループ管理組織的承継に強い組織再編税制、運営コストが必要
生命保険納税資金、代償金現金を準備しやすい事業用資産の管理権限は移らない
事業承継税制納税猶予、免除税負担を大きく抑え得る要件、届出、継続義務が重い
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事業用資産の家族信託でよくある質問

税務、遺留分、受託者、公正証書、許認可、実行期間を一般情報として確認します。

Q1. 家族信託を使えば相続税はかかりませんか。

一般的には、家族信託を設定しても相続税や贈与税が問題になる可能性があります。信託受益権、信託終了時の帰属財産、株式、不動産などは税務上評価されます。ただし、課税関係は財産内容、受益者、取得時期、特例適用の有無によって変わるため、具体的な税額や申告方針は税理士等の専門家へ相談する必要があります。

Q2. 家族信託を使えば遺留分は請求されませんか。

一般的には、家族信託だけで遺留分が当然になくなるわけではありません。後継者に事業用資産を集中させる設計では、遺留分侵害額請求が問題になる可能性があります。ただし、相続人構成、財産評価、代償金、生命保険、民法特例の利用状況で結論は変わるため、具体的な対応は弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q3. 受託者はだれがよいですか。

一般的には、後継者、信頼できる親族、家族法人、信託会社などが候補になります。受託者には会計管理能力、信頼性、時間的余裕、中立性が求められます。ただし、家族関係、事業規模、利益相反の有無によって適切な候補は変わるため、信託監督人や受益者代理人の設置も含めて専門家へ相談する必要があります。

Q4. 専門家が受託者になれますか。

一般的には、専門職が継続的に信託を引き受ける場合、信託業法との関係を慎重に確認する必要があります。専門家は、契約設計、税務、登記、監督機能、遺言や遺産分割対策を支援する立場で関与することが多いです。ただし、具体的な役割分担は契約内容と業務範囲で変わるため、個別に確認する必要があります。

Q5. 家族信託と遺言はどちらを使うべきですか。

一般的には、事業承継では家族信託と遺言を併用することが多いです。信託は信託財産の生前管理と死亡後承継を設計し、遺言は信託外財産や予備的な承継に使われます。ただし、財産内容、後継者、相続人関係、税務によって適切な組み合わせは変わるため、資料を整理して専門家へ相談する必要があります。

Q6. 信託契約は公正証書にすべきですか。

一般的には、高額な事業用不動産、非上場株式、高齢経営者、相続人間対立がある場合、公正証書化を検討する意義があります。本人意思や契約内容の確認資料として役立つ可能性があります。ただし、公正証書化だけで紛争を完全に防げるわけではありません。そのため、意思能力、説明経過、税務試算、家族説明も含めて整える必要があります。

Q7. 個人事業の許認可も信託で承継できますか。

一般的には、許認可は信託だけで当然に承継されるものではありません。後継者が取得し直したり、取引先契約を変更したりする必要が生じる可能性があります。ただし、業種、許認可の種類、監督官庁、契約内容によって手続は変わるため、行政書士等の専門家や関係機関へ確認する必要があります。

Q8. 受託者が財産を使い込んだらどうなりますか。

一般的には、受託者には善管注意義務、忠実義務、分別管理義務などがあり、義務違反があれば損失填補、解任、民事上の責任などが問題になる可能性があります。ただし、事実関係、帳簿、領収書、契約条項、監督体制によって見通しは変わるため、具体的には弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q9. 既に相続が発生した後でも家族信託は使えますか。

一般的には、家族信託は本人の判断能力がある生前に設定する制度です。既に相続が発生した後は、遺産分割、相続登記、株式承継、事業譲渡などの手続が中心になります。ただし、相続人が取得した財産について改めて信託を設定する余地はあるため、税務と登記を含めて専門家へ相談する必要があります。

Q10. どのくらいの期間で実行できますか。

一般的には、単純な不動産信託なら数か月で進むこともありますが、非上場株式、借入、担保、許認可、相続人調整、事業承継税制が絡む場合は半年から1年以上かかる可能性があります。ただし、必要期間は財産内容と関係者の合意状況で変わるため、早めに資料を整理して専門家へ相談する必要があります。

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事業用資産の家族信託の実務チェックリスト

初回相談前、契約設計、実行後の確認項目を整理します。

15.1 初回相談前チェック

  • 事業用資産一覧を作成したか。
  • 不動産登記簿、固定資産評価証明書を取得したか。
  • 会社の定款、株主名簿、決算書を用意したか。
  • 借入、担保、保証の一覧を作成したか。
  • 推定相続人と遺留分権利者を確認したか。
  • 後継者候補の意思を確認したか。
  • 信託する財産と信託しない財産を仮に分けたか。
  • 相続税、贈与税、株価評価の試算を依頼したか。
  • 金融機関へ事前相談する必要がありますか確認したか。
  • 遺言、任意後見、生命保険の既存資料を確認したか。

15.2 契約設計チェック

  • 信託目的は具体的か。
  • 受託者の権限は過不足ないか。
  • 重要行為の承認者を定めたか。
  • 後任受託者を定めたか。
  • 受益者死亡時の承継先を定めたか。
  • 信託終了事由を定めたか。
  • 帳簿、報告、口座分離を定めたか。
  • 遺留分対策を検討したか。
  • 税務上の課税時点を確認したか。
  • 事業承継税制との整合性を確認したか。

15.3 実行後チェック

  • 不動産信託登記が完了したか。
  • 株主名簿の記載が完了したか。
  • 信託口口座または管理口座を整備したか。
  • 賃貸借契約、保険、管理会社へ通知したか。
  • 税務申告資料の保存方法を決めたか。
  • 受益者へ初回報告をしたか。
  • 年次点検日を決めたか。
  • 遺言と信託の矛盾がないか再確認したか。
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事業用資産の家族信託で次世代承継をまとめる

契約書を作る前に、事業、家族、税務、資金、登記、許認可を総合診断します。

事業用資産を家族信託で次世代に承継する方法は、財産管理、経営権、税務、相続人調整を一体で設計する高度な事業承継手法です。

最も重要なのは、家族信託を「相続税対策の裏技」と見ないことです。家族信託の本質は、事業用資産をだれが管理し、だれが利益を受け、最終的にだれへ承継させるかを、本人の判断能力があるうちに明文化することです。

成功する案件には、共通点があります。

  1. 事業用資産の棚卸しが正確です。
  2. 後継者が明確です。
  3. 非後継者への説明と遺留分対策があります。
  4. 税務試算が契約前に済んでいる。
  5. 信託契約書が事業実態に合わせて設計されています。
  6. 登記、株主名簿、口座、許認可、金融機関対応まで実行されています。
  7. 信託後の帳簿、報告、監督体制があります。

家族信託は、正しく設計すれば、経営者の高齢化、認知症、死亡、相続争い、資産分散という事業承継の重大リスクを減らせます。しかし、専門家の関与なしにひな形だけで作ると、税務、登記、遺留分、受託者責任、金融機関対応で深刻な問題を残します。

事業を次世代へ残すためには、信託契約書を作る前に、事業そのもの、家族関係、税務、資金、法務、登記、許認可を総合的に診断することが不可欠です。

Reference

事業用資産の家族信託の参考情報源

参考情報源

  • e-Gov法令検索 信託法
  • e-Gov法令検索 民法
  • e-Gov法令検索 会社法
  • e-Gov法令検索 不動産登記法
  • 一般社団法人信託協会 信託の基本
  • 一般社団法人信託協会 受託者の義務
  • 中小企業庁 事業承継ガイドライン 第3版
  • 中小企業庁 経営承継円滑化法による支援
  • 金融庁 信託業法に関する案内
  • 国税庁 信託受益権の評価明細書
  • 国税庁 相続税がかかる場合
  • 国税庁 受益者連続型信託の特例に関する情報
  • 中小企業庁 法人版事業承継税制 特例措置
  • 国税庁 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等
  • 国税庁 個人版事業承継税制に関する情報
  • 法務省 相続登記の申請義務化について
  • 裁判所 遺産分割調停
  • 日本公証人連合会 公証業務に関する案内
  • 特許庁 相続による移転登録申請書