上場会社・上場準備会社が、未公表重要情報を管理し、売買可否を判断し、適法な売買機会を確保するための実務設計を整理します。
上場会社・上場準備会社が、未公表重要情報を管理し、売買可否を判断し、適法な売買機会を確保するための実務設計を整理します。
禁止一辺倒ではなく、重要情報の管理、売買可否の判断、記録保存、適法な売買機会の確保を一体で設計します。
インサイダー取引防止規程は、役職員に株式売買をさせないためだけの文書ではありません。未公表の重要情報を早く把握し、誰が知っているかを管理し、売買してよい場面と止める場面を記録付きで判断するための全社統制です。
この一覧は、規程が守るべき三つの価値を整理したものです。市場の公正性、会社信用、役職員保護は相互に関係しており、どれか一つだけを強調すると過剰規制や統制漏れにつながります。各項目から、規程を「禁止」だけでなく「情報管理と適法な売買支援」の仕組みとして読むことが重要です。
未公表重要情報を厳格に管理しつつ、重要情報を知らない場合や公表後の売買まで不必要に萎縮させないことが、実効性ある規程の中心になります。
実務では、未公表の業績修正、M&A、自己株式取得、公開買付け、品質不正、行政調査、決算発表延期などが典型的な管理対象になります。違反が疑われると、課徴金、刑事罰、没収・追徴、当局調査、報道対応、上場会社としての信用低下が連鎖します。
一方、役職員の売買を全面禁止に近づけるだけでは、持株会、株式報酬、資産形成、従業員エンゲージメントに悪影響が出ます。良い規程は、重要情報を知った人を特定し、売買制限を必要な範囲に絞り、判断過程を残すことで、守るべき取引と認められる取引を分けます。
目的、対象者、重要情報、情報管理、売買管理、教育監査までを一つの制度としてつなぎます。
次の比較表は、規程作成時に必ず検討する10項目を、条文に落とす内容と運用上の注意に分けて示しています。表の左から順に、制度の柱、規程化する事項、実務で見落としやすい点を読んでいくと、単なる禁止条項では足りない範囲が分かります。
| 作成ポイント | 規程化すべき中身 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 目的 | 市場の公正、投資者保護、会社信用、役職員保護、適時開示との連携 | 禁止規程ではなく、未然防止と適正売買支援の文書として設計します。 |
| 適用対象者 | 役員、従業員、契約社員、派遣社員、出向者、子会社役職員、外部アドバイザーなど | 家族を直接縛るより、本人の情報漏えいと実質関与取引を管理します。 |
| 対象有価証券 | 自社株式、新株予約権、社債、J-REIT、上場インフラファンド、取引先株式、M&A対象会社株式など | 法令上の対象と社内管理上の対象を分けて定義します。 |
| 重要情報の範囲 | 重要事実、公開買付け等事実、該当可能性のある情報、バスケット条項情報 | 法令列挙事項だけに限定すると、品質不正や行政調査などを取り逃がします。 |
| 情報管理 | 報告義務、重要情報管理台帳、アクセス制限、会議体管理、電子データ管理 | 売買承認より前に、誰が重要情報を知っているかを把握します。 |
| 売買管理 | 事前承認、事前届出、売買禁止期間、承認有効期間、売買後報告 | 対象者と取引類型を分け、過剰規制を避けます。 |
| 情報伝達・取引推奨禁止 | 家族、友人、SNS、投資コミュニティ、取引先への漏えいと推奨の禁止 | 情報内容を伝えなくても、売買時期の示唆だけで問題になり得ます。 |
| 知る前契約・計画 | 事前作成、証券会社提出、裁量排除、変更制限、記録保存 | 適法な売買機会確保の制度であり、事後的な正当化には使えません。 |
| 会社自身の取引 | 自己株式取得、株式発行、株式報酬、持株会、資本政策 | 個人売買とは別に会社取引の承認と中断判断を置きます。 |
| 教育・監査・改廃 | 入社時研修、年次研修、案件別研修、内部監査、法改正レビュー | 制定後の運用状況を定期的に検証します。 |
目的条項では、市場の公正性、投資者保護、会社・グループの信用維持、役職員保護に加え、役職員による適法かつ適正な有価証券売買機会の確保を明記します。この一文があることで、規程が「全部止める」文書ではなく「危険な取引を止め、許容される取引を透明に処理する」文書になります。
重要事実、会社関係者、第一次情報受領者、公表、情報伝達・取引推奨を平易に定義します。
この一覧は、規程本文や細則で定義すべき基本概念を整理したものです。読者にとって重要なのは、法令用語を丸写しすることではなく、どの場面で報告や売買停止が必要になるかを判断できることです。列ごとに、概念、内容、規程上の落とし込み方を確認してください。
| 概念 | 内容 | 規程での示し方 |
|---|---|---|
| インサイダー取引 | 会社の内部情報またはこれに準ずる未公表重要情報を知る立場の者が、公表前に関係する上場有価証券等を売買する行為です。 | 自社株式だけでなく、取引先、投資先、M&A対象会社の株式も対象に含めます。 |
| 重要事実 | 決定事実、発生事実、決算情報、バスケット条項に大別されます。 | 法令上の重要事実に加え、該当可能性のある未公表情報も管理対象にします。 |
| 会社関係者 | 役職員に限らず、契約締結者やその役職員なども、契約の履行等に関して重要事実を知れば対象になり得ます。 | 外部専門家、証券会社、FA、印刷会社、PR会社なども案件別に管理します。 |
| 第一次情報受領者 | 会社関係者から未公表重要事実の伝達を受けた者です。 | 本人が売買しない場合でも、家族、知人、取引先、SNSへの伝達を禁止します。 |
| 情報伝達・取引推奨 | 他人に利益を得させ、または損失を回避させる目的で情報を伝えたり売買を勧めたりする行為です。 | 情報の中身を明示しない推奨や売買時期の示唆も禁止対象に含めます。 |
| 公表 | TDnet掲載、公開買付公告など法令上の方法による公表を意味します。 | 噂、スクープ報道、SNS投稿、アナリストレポートだけでは公表扱いにしないと明記します。 |
重要事実の4類型は、現場が最初に迷いやすい部分です。決定事実には株式発行、資本提携、業務提携、合併、会社分割、事業譲渡、自己株式取得などが含まれます。発生事実には事故、災害、訴訟、行政処分、主要取引先との取引停止などがあります。
決算情報では、売上高、営業利益、経常利益、純利益、配当予想などについて、公表済み予想値等との重要な差異が問題になります。もっとも見落としやすいのはバスケット条項で、主要製品の重大な欠陥、複数年度にわたる不適切会計、製品検査数値の改ざん、行政庁による調査関連情報など、列挙事項以外でも投資判断に著しい影響を及ぼす事実を捕捉します。
危険な言動としては、「理由は言えないが今のうちに買っておいた方がよい」「来週までに売っておいた方がよい」「この銘柄は近いうちに大きく動く」「しばらく自社株は触らない方がよい」などがあります。情報内容を具体的に伝えていなくても、売買を勧め、控えさせ、または時期を示唆すれば、情報伝達・取引推奨として問題になり得ます。
改正しやすさ、読みやすさ、実務での使いやすさを両立させる三層構造です。
次の三層構造は、規程のどこに何を書くべきかを示しています。読者にとって重要なのは、重い基本ルールと頻繁に変わる様式を同じ場所に詰め込まないことです。上から順に、全社ルール、可変的な基準、現場の具体例として読み分けてください。
目的、定義、適用対象、重要情報の報告義務、情報管理、売買禁止、事前承認、情報伝達・取引推奨禁止、違反時対応、教育、改廃などの基本ルールを置きます。
重要事実リスト、売買禁止期間、承認申請様式、対象者区分、子会社運用、海外拠点運用、株式報酬、知る前契約・計画の手続を置きます。
決算速報値を見た場合、取引先の未公表M&A情報を知った場合、家族から相談を受けた場合、SNS投稿を見つけた場合などの具体例を置きます。
本文に細かい担当部署名、様式番号、承認画面の操作手順まで書き込むと、組織変更やシステム変更のたびに規程改正が必要になります。本文は安定的な統制原則、細則は更新される基準、マニュアルは教育と相談対応の素材として設計するのが実務的です。
法令上の対象より広く、ただし管理可能な範囲で、情報への接近度に応じて区分します。
次の表は、適用対象者を情報への接近度に応じて分けたものです。読者にとって重要なのは、全員を同じ強度で縛るのではなく、常時重要情報に近い人、案件ごとに近づく人、教育中心でよい人を分けることです。管理水準の違いを読み取ってください。
| 区分 | 例 | 管理水準 |
|---|---|---|
| 常時厳格管理対象者 | 取締役、監査役、執行役員、経営会議メンバー、IR、経理財務、法務、経営企画、M&A担当 | 原則として事前承認、決算ブラックアウト、研修必須 |
| 案件別管理対象者 | M&A、資本政策、不祥事調査、新製品不具合、訴訟、行政調査などに関与する者 | 案件発生時から売買制限と情報管理台帳登録 |
| 一般役職員 | 通常は重要情報に接しない従業員 | 基本教育と、重要情報を知った場合の報告義務 |
| グループ会社対象者 | 子会社、海外子会社の役職員 | 重要情報への接近度に応じて管理 |
| 外部関係者 | 公認会計士、証券会社、FA、印刷会社、PR会社、システムベンダーなど | NDA、契約条項、案件別リスト、データアクセス制限 |
家族については、会社規程で直接拘束するには限界があります。実務の中心は、役職員本人に対し、家族、同居者、知人へ未公表重要情報を伝えない義務を課し、家族名義口座を利用した実質的な本人売買や取引推奨を禁止することです。
対象有価証券の整理は、法令上の範囲と社内管理上の範囲を分けて読む必要があります。次の一覧は、社内規程に含めるべき対象を、なぜ管理するのかという視点でまとめたものです。自社だけでなく他社情報を扱う場面まで読み取ってください。
自社株式、新株予約権、社債、CB、株式報酬関連の権利、役員持株会、従業員持株会、単元未満株などを含めます。
取引先、顧客、提携先、M&A対象会社、投資先、調達先の未公表重要情報に係る当該他社の有価証券を含めます。
家族名義口座、法人名義口座、投資クラブ、知人名義口座、銘柄や条件を本人が設定する自動売買サービスを含めます。
売買承認より先に、重要情報がどこにあり、誰が知っているかを管理します。
次の時系列は、重要情報を正式決議後ではなく早い段階から管理する考え方を示しています。読者にとって重要なのは、M&Aや資本政策、決算情報、不祥事対応では、取締役会決議前から情報価値が高まることです。順番に、どの時点で台帳登録や売買制限を始めるべきかを確認してください。
役員または部門長が検討を始めた時点で、主管部門への報告対象にします。
プロジェクト名、関与者、共有先、アクセス権限を記録します。
経理財務部門の速報値や監査法人との重要な協議を、売買制限の判断に接続します。
品質保証、法務、情報システム、子会社管理からの報告を一元化します。
噂やスクープ報道だけでは解除せず、公表確認の証跡を残します。
重要情報の定義は、金融商品取引法上の重要事実、公開買付け等事実、これらに該当する可能性がある情報、公表された場合に投資者の投資判断または会社グループの信用に重要な影響を及ぼす可能性がある未公表情報、という広い形が実務的です。
次の表は、重要情報管理台帳に残すべき項目を、後日の説明責任に必要な順序で整理しています。読者にとって重要なのは、単に案件名を残すだけでなく、判断過程、外部照会、公表方法、制限解除まで一連の証跡を残すことです。
| 台帳項目 | 記録する内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 案件情報 | 案件名またはコードネーム、情報の概要、発生日、認識日、報告日 | どの情報をいつ認識したかを明確にします。 |
| 判断情報 | 重要事実該当性の一次判断、軽微基準、投資判断への影響、専門家照会、取引所照会 | 判断過程を後から説明できるようにします。 |
| 関与者情報 | 管理責任者、情報取扱者リスト、アクセス権限付与者、外部提供先 | 誰が知っているかを売買制限に接続します。 |
| 開示情報 | 適時開示予定、公表予定、公表日、公表方法、制限解除日 | 公表確認と制限解除の証跡を残します。 |
| 売買制限情報 | 売買制限対象者、承認保留、解除判断、例外処理 | 承認審査と監査で照合できるようにします。 |
電子情報管理では、紙資料の保管だけでは足りません。次の一覧は、現代の規程で明記すべき電子データ管理の対象を示しています。情報がどの媒体から漏れやすいかを読み取り、情報セキュリティ規程とも連動させてください。
プロジェクトフォルダ、役員会資料、経営会議資料、外部データルームの閲覧権限を限定し、異動者・退職者の権限を削除します。
メール件名、添付ファイル名、チャット、社内SNS、印刷、ダウンロード、転送、スクリーンショットを管理します。
未公表重要情報を外部AIサービスへ入力しない、または承認制にすることを情報セキュリティ規程と連携して定めます。
禁止、事前承認、事前届出、売買後報告、自由売買をリスクベースで使い分けます。
次の比較表は、売買管理の方法をリスクの高い順に整理したものです。読者にとって重要なのは、常に最も強い制限をかけるのではなく、誰がどの情報に接しているか、どの取引類型かに応じて管理水準を変えることです。
| 管理方法 | 適した場面 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 売買禁止 | 重要事実を知っている者、案件関与者、ブラックアウト期間中の役員など | 明確で強い統制 | 広げすぎると資産形成を妨げます。 |
| 事前承認 | 役員、重要部門、一定額以上の取引 | 個別審査が可能 | 承認基準と記録が必要です。 |
| 事前届出 | 一般従業員または低リスク取引 | 管理コストを抑えられる | 届出だけでは抑止力が弱い場合があります。 |
| 売買後報告 | 持株会、定期買付、少額取引など | 実務負担が軽い | 未然防止には不十分な場合があります。 |
| 自由売買 | 重要情報に接しない一般従業員の市場取引 | 過剰規制を避けられる | 教育と報告義務は必要です。 |
事前承認申請書には、申請者、所属、役職、対象銘柄、売買の種類、数量、予定日、口座名義、実質的関与の有無、未公表重要情報を知っていない旨の誓約、直近の案件関与状況、家族名義・法人名義等の実質関与、知る前契約・計画の有無、承認後の有効期間を記載させます。
次の割合比較は、上場会社実務の傾向を視覚的に整理したものです。読者にとって重要なのは、情報伝達・取引推奨の明記や決算期の売買禁止が、多くの会社で実務上の焦点になっている点です。棒の高さが高いほど、当該対応を行う会社の比率が高いことを示します。
ブラックアウト期間は、決算発表前後など未公表の業績情報に接する可能性が高い時期に、役職員の自社株売買を禁止または制限する社内ルールです。四半期末または期末日の翌日から決算発表日まで、決算期末日の2週間前から決算発表日まで、通期決算では期末日の1か月前から決算発表日まで、業績予想修正が見込まれる場合は修正開示まで、などが例になります。
次の判断の流れは、知る前契約・計画を含む売買可否の審査順序を示しています。読者にとって重要なのは、未公表重要情報を知っているか、公表確認があるか、事前の客観的計画か、承認後に事情変更がないかを順番に確認することです。分岐では、左側が高リスク、右側が手続を進められる方向を示します。
対象者、銘柄、数量、予定日、口座名義、案件関与を確認します。
重要情報管理台帳と案件別リストを照合します。
公表確認、制限解除、例外の有無を確認します。
承認有効期間を短くし、事情変更時の失効を明記します。
作成時点、証券会社提出、時期・数量・方法の客観性、裁量排除、変更制限、記録保存を確認します。
本人が売買しない場面でも、伝達、推奨、選択的開示がリスクになります。
次の一覧は、情報伝達・取引推奨の禁止条項で具体的に止めるべき行為を整理したものです。読者にとって重要なのは、未公表重要情報の内容を明かしていなくても、売買を勧めたり控えさせたりする示唆が問題になり得る点です。
「しばらく自社株は触らない方がよい」など、理由を伏せた注意喚起でも損失回避目的と評価される可能性があります。
内部情報を匂わせて売買を煽る投稿、私的チャットでの推奨、匿名掲示板への書き込みを禁止します。
商談、IR面談、アナリスト対応で未公表重要情報を選択的に伝えないよう、窓口と回答範囲を管理します。
IR活動では、投資家やアナリストとの対話が必要です。しかし、選択的開示はインサイダー取引リスクだけでなく、フェア・ディスクロージャーの観点からも問題になり得ます。未公表重要情報を含む質問への回答方針、公表済み情報と未公表情報の線引き、面談記録の保存、決算説明会・投資家面談前の想定問答レビュー、アナリストレポートへのコメント範囲、取材対応窓口の一本化を定めます。
次の比較表は、外部との接点ごとに必要な統制を整理したものです。読者にとって重要なのは、IR、取引先、外部専門家、SNSでそれぞれ情報の出方が違うため、同じ禁止文言だけでは足りないことです。
| 接点 | 主なリスク | 規程・運用での対応 |
|---|---|---|
| IR面談 | 未公表業績、資本政策、M&A、KPIを選択的に伝える | 想定問答レビュー、回答窓口、面談記録、資料確認 |
| 取引先 | 相手先の未公表重要情報を受領し、相手先株式を売買する | 他社重要情報の報告義務、案件別売買禁止リスト |
| 外部専門家 | 受領者が多くなり情報が拡散する | NDA、再委託制限、アクセスログ、返却・削除証明 |
| SNS・私的チャット | 不用意な示唆、画像、会議資料の流出 | 投稿禁止、端末・スクリーンショット管理、教育 |
条項文言では、「役職員等は、他人に利益を得させ、または損失を回避させる目的をもって、未公表の重要情報を伝達し、または当該重要情報に基づき有価証券の売買等を推奨してはならない。重要情報の内容を明示しない場合であっても、売買を勧め、控えさせ、または売買時期を示唆する行為を含む」といった形で明記します。
自社株式の個人売買だけに限定すると、M&A、自己株式取得、株式報酬、子会社情報を取り逃がします。
次の一覧は、自社株式の個人売買以外に規程へ入れるべき領域をまとめたものです。読者にとって重要なのは、重要情報の発生源が子会社、取引先、資本政策、株式報酬などに広がることです。各項目から、売買制限と情報管理の対象を広げる必要性を読み取ってください。
買収検討先、資本業務提携先、取引先の業績悪化、顧客の製品欠陥、公開買付けに関するFA業務など、職務上知った他社の未公表重要情報に基づく売買を禁止します。
自己株式取得、株式発行、自己株式処分、株式報酬、持株会、資本政策について、個人売買規程とは別に会社取引の承認と中断判断を設けます。
子会社の品質不正、会計不正、行政処分、サイバー事故、訴訟、労務紛争、情報漏えいを親会社へ早期報告する仕組みを置きます。
会社自身の取引では、自己株式取得の検討開始時からの情報管理、取締役会決議前後の売買制限、取得期間中の重要事実発生時の中断判断、証券会社との取引スキーム確認、適時開示、会社法手続、金商法手続の連携を定めます。
株式報酬では、株式発行、自己株式処分、新株予約権発行、譲渡制限付株式、RSU、PSU、ストックオプション、源泉徴収税額充当目的の売却が問題になります。株式報酬としての株式発行等に係る決定については、希薄化率1%未満または価額総額1億円未満と見込まれることのいずれかに該当する基準への改正が、2025年4月1日から施行・適用される点も、細則で更新できるようにしておきます。
子会社・海外拠点の管理方法は複数あります。次の表は、グループ全体に規程を及ぼす代表的な方法と、読み取るべき注意点を整理したものです。会社規模や海外展開に応じて、どの方法を組み合わせるか検討してください。
| 方法 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| グループ規程として直接適用 | 親会社規程を子会社にも適用します。 | 各社の権限規程や現地法との整合が必要です。 |
| 子会社に同等規程を制定 | 子会社ごとに同等内容の規程を置きます。 | 改正漏れを防ぐため、親会社主管部門のレビューを入れます。 |
| コンプライアンス規程へ組込み | グループコンプライアンス規程の一部として管理します。 | 売買管理、開示、情報管理の具体手続を別紙で補います。 |
| 英語版・現地語版ポリシー | 海外子会社向けに日本法の基本と報告基準を翻訳します。 | 日本の上場会社グループとしての報告義務を教育します。 |
読まれない規程では機能しないため、研修、台帳監査、危機対応、制度変更対応を組み込みます。
次の表は、対象者別に必要な研修内容を整理したものです。読者にとって重要なのは、全員向けの基礎教育だけではなく、役員、経理財務、IR、M&A、法務、子会社、外部関係者ごとに接する情報と責任が違うことです。
| 対象者 | 研修内容 |
|---|---|
| 全役職員 | インサイダー取引の基本、重要情報の扱い、家族・SNSへの注意、相談窓口 |
| 役員 | 法的責任、信用リスク、自己株式取得、株式報酬、IR発言 |
| 経理財務・IR | 決算情報、業績予想、TDnet、公表確認、選択的開示 |
| M&A・経営企画 | TOB、買集め、デューデリジェンス、案件別情報管理 |
| 法務・コンプライアンス | 重要事実判断、承認審査、台帳管理、当局対応 |
| 子会社・海外拠点 | グループ報告、日本法の基本、現地証券口座での売買注意 |
| 外部関係者 | NDA、案件別情報管理、取引推奨禁止 |
教育は、集合研修、eラーニング、動画、確認テスト、誓約書、事例メール、案件別注意喚起を組み合わせます。研修受講履歴、テスト結果、誓約書、未受講者フォロー、役員向け説明資料を保存することで、規程が読まれ、理解され、運用されている証跡になります。
次の一覧は、内部監査で確認すべき項目を運用証跡ごとに整理しています。読者にとって重要なのは、規程の有無ではなく、台帳、承認記録、研修、子会社報告、外部契約が実際に機能しているかを点検することです。
重要情報管理台帳が作成・更新され、案件関与者リストとアクセス権限が最新になっているかを確認します。
台帳売買承認申請、承認記録、承認後の取引実績、公表確認、ブラックアウト周知を突合します。
売買管理研修受講率、未受講者対応、法改正・取引所制度変更への追随、細則更新の履歴を確認します。
見直し違反または違反疑いが発生した場合には、事実関係の保全、取引記録・メール・チャット・会議資料・アクセスログの保全、関係者ヒアリング、専門家への相談、売買停止・追加漏えい防止、取引所・証券取引等監視委員会・金融庁・証券会社への対応要否、適時開示または任意開示の要否、取締役会・監査役等への報告を定めます。
J-IRISSについては、2026年5月25日以降の新システム移行予定を踏まえ、本文に固有名詞だけを固定するより、取引所、証券業協会、証券会社その他関係機関が設ける内部者情報の登録・照合その他未然防止制度について、関係規則に従い必要な対応を行う、という制度変更に耐える文言にするのが実務的です。
30条前後の構成例と、目的、定義、台帳、承認、違反対応の条項例を実務向けに整理します。
次の比較表は、規程の条項構成を大きなまとまりごとに整理したものです。読者にとって重要なのは、条文番号を増やすことではなく、情報管理、売買管理、教育監査、違反時対応まで抜けなく並べることです。
| 条項群 | 入れる項目 |
|---|---|
| 基本条項 | 目的、基本方針、定義、適用対象者、対象有価証券等、重要情報の範囲 |
| 情報管理 | 情報管理責任者、主管部門、重要情報の報告義務、重要情報管理台帳、情報取扱者の範囲制限、外部提供・秘密保持 |
| 売買管理 | 未公表重要情報に基づく売買等の禁止、情報伝達・取引推奨の禁止、自社株式等の事前承認、他社株式等の売買制限、ブラックアウト期間、知る前契約・計画、公表確認と解除 |
| 特殊取引 | 持株会、株式報酬、役員報酬、会社による自己株式取得、株式発行等の管理 |
| 組織運用 | 子会社・海外拠点への適用、外部専門家・取引先の管理、教育・研修、内部通報・相談、記録保存、内部監査、見直し、改廃 |
| 違反時対応 | 違反時の調査、懲戒、損害賠償、契約解除、再発防止 |
条項例は、各社の業種、上場市場、組織規模、株式報酬制度、海外展開、子会社管理体制に応じて調整します。次の一覧は、規程本文に入れる中核文言の例を示しています。どの条項がどの統制を担うかを読み取ってください。
未公表重要情報の適切な管理と有価証券売買等の適正な管理を通じて、インサイダー取引、情報伝達行為、取引推奨行為を未然に防止し、市場の公正、投資者保護、会社信用、企業価値を確保することを目的とします。
基本重要情報を、重要事実、公開買付け等事実、該当可能性のある情報、投資判断または会社信用に重要な影響を及ぼす可能性のある未公表情報として定めます。
定義案件名、概要、認識日、関与者、外部提供先、公表予定、公表日、売買制限対象者その他必要事項を記載し、更新します。
記録役員および指定役職員は、自社株式等の売買前に申請し、情報管理責任者の承認を得ます。承認後に未公表重要情報を知った場合、承認は効力を失います。
審査よくある失敗は、重要事実一覧表を貼るだけでバスケット条項や案件初期段階に対応できない、事前承認の確認基準がない、決算ブラックアウトを全社一律に広げすぎる、家族管理を過度に広げる、子会社・海外拠点を忘れる、情報伝達・取引推奨を書いていない、制度名を本文に固定しすぎる、といったものです。
制定前レビューでは、目的、重要情報、承認、ブラックアウト、教育、監査、法改正対応を一つずつ確認します。
次のチェックリストは、規程を制定または改訂する前に確認すべき30項目です。読者にとって重要なのは、条文の有無だけでなく、対象者、手続、例外、証跡、見直しまで運用できる形になっているかを確認することです。上から順に、基礎、情報管理、売買管理、周辺制度、運用検証として読み進めてください。
| 領域 | 確認項目 |
|---|---|
| 基礎設計 | 目的条項に市場公正、投資者保護、会社信用、役職員保護が入っているか。重要情報を法令上の重要事実より広く定義しているか。バスケット条項に対応できる文言があるか。 |
| 伝達・対象範囲 | 情報伝達・取引推奨の禁止を明記しているか。自社株式だけでなく他社株式・M&A対象会社株式を管理しているか。役員、重要部門、案件関与者、一般従業員を区別しているか。 |
| グループ・外部 | 子会社・海外拠点への適用または同等規程整備を定めているか。外部専門家・取引先へのNDA・契約条項を定めているか。 |
| 情報管理 | 重要情報の報告義務、重要情報管理台帳、情報取扱者リスト、電子データ・チャット・生成AI・データルームの管理を想定しているか。 |
| 承認審査 | 売買事前承認制度、承認申請書の記載事項、承認拒否・保留事由、短い承認有効期間、承認後に重要情報を知った場合の承認失効を定めているか。 |
| 制限期間・例外 | ブラックアウト期間の対象者・期間・例外が明確か。知る前契約・計画の利用手続があるか。持株会、株式報酬、源泉徴収税額充当目的売却の扱いがあるか。 |
| 会社取引・公表 | 会社自身の自己株式取得・株式発行等の管理があるか。公表確認の方法が明確か。スクープ報道や噂を公表扱いしないことを明記しているか。 |
| 教育・監査 | 家族・同居者への情報漏えい防止、SNS・投資コミュニティ・私的チャットへの注意、研修対象者・頻度・記録、内部通報・相談窓口、違反疑い時の調査・証拠保全・専門家相談、内部監査、法改正・制度変更時の見直し条項があるか。 |
上場準備会社は、未上場段階でもインサイダー取引防止規程を早期に整備すべきです。上場申請、業績予想、資本政策、ストックオプション、主幹事証券、監査法人、ベンチャーキャピタル、既存株主、役職員持株会など、多数の関係者が重要情報に接するからです。
小規模上場会社では、大企業型の複雑な制度より、重要情報の報告先を一元化する、役員・経理財務・IR・経営企画を事前承認制にする、決算ブラックアウトを役員・重要部門に設定する、M&A・不祥事・資本政策の案件別リストを作る、年1回の研修と誓約を行う、承認記録と公表確認を保存する、専門家への相談基準を明確にする、といった運用できる制度が重要です。
法務、経理財務、IR、内部監査、IT、人事報酬、危機管理がそれぞれ別のリスクを見ます。
次の一覧は、専門職・部門ごとのレビュー観点を整理したものです。読者にとって重要なのは、インサイダー取引防止規程が法務部だけの文書ではなく、経理財務、IR、M&A、情報システム、人事報酬、内部監査、危機管理の統制文書でもあることです。
決算情報、業績予想、会計上の見積り、減損、不適切会計、監査法人との協議、決算発表スケジュール、ブラックアウト期間を確認します。
決算取締役会決議、経営会議、議事録、役員売買、自己株式取得、株式報酬、役員持株会、上場規程との整合性を確認します。
会議体アクセス権、ログ、チャット、メール、データルーム、生成AI、端末管理、退職者権限削除を確認します。
情報管理違反疑い発生時の初動、証拠保全、ヒアリング、当局対応、取引所対応、開示、第三者委員会要否、再発防止策を確認します。
初動最終的に目指すべき姿は、役職員が危ないから何もできないと萎縮する会社ではありません。未公表重要情報を厳格に管理しつつ、適法な売買機会を透明な手続で確保できる会社です。そのためには、規程本文、細則、マニュアル、台帳、教育、監査を一体として運用する必要があります。
よくある疑問を、個別判断ではなく一般的な制度説明として整理します。
一般的には、家族を会社規程で直接拘束することには限界があるとされています。ただし、本人が未公表重要情報を家族へ伝えること、家族名義口座を使って実質的に本人が売買すること、売買時期を示唆することは問題になり得ます。具体的な制度設計は、会社規模、役職員の情報接近度、証券口座管理の実務負担によって変わるため、専門家へ相談する必要があります。
一般的には、未公表重要情報を職務等に関して知っていない売買や、公表後の売買はインサイダー取引そのものには当たらない場合があります。ただし、社内規程で事前承認、届出、ブラックアウト期間、役員向け制限が定められていることがあります。具体的な対応は、社内規程、案件関与状況、公表確認、証跡を整理したうえで確認する必要があります。
一般的には、噂、スクープ報道、SNS投稿、アナリストレポートだけでは、法令上の公表とは扱えないとされています。TDnet掲載、公開買付公告その他の公表方法を確認し、公表確認の証跡を残すことが重要です。具体的な判断は、情報の種類、公表方法、時点、取引所対応によって変わる可能性があります。
一般的には、ブラックアウト期間は法令上当然に一律設定が求められるものではなく、未然防止のための社内ルールとして設計されるものとされています。役員、経理財務、IR、法務、経営企画など決算情報に接する可能性が高い者を中心にする方法があります。具体的な対象者と期間は、会社の情報流通、決算体制、過去運用、管理コストによって調整する必要があります。
一般的には、知る前契約・計画は、未公表重要情報を知る前に、時期、数量、方法などを客観的に定め、本人の後日の裁量を排除することで、一定の場合に適用除外となる制度です。重要情報を知った後に形式的に作成することや、有利な計画だけ実行し不利な計画を中止することは問題になり得ます。具体的には、法令・内閣府令・金融庁Q&A・社内細則に沿って確認する必要があります。
一般的には、上場準備会社でも、上場申請、業績予想、資本政策、ストックオプション、主幹事証券、監査法人、既存株主、役職員持株会など、多くの関係者が重要情報に接するため、早期整備が望ましいとされています。具体的な整備時期や内容は、IPOスケジュール、資本政策、管理部門の体制に応じて検討する必要があります。
一般的には、小規模上場会社では、複雑な制度より、報告先の一元化、役員・重要部門の事前承認、案件別リスト、年1回の研修と誓約、承認記録と公表確認の保存など、運用できる仕組みが重要とされています。具体的な水準は、組織規模、情報流通、子会社の有無、株式報酬制度の有無によって変わります。
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