営業秘密の3要件、差止めの対象特定、証拠保全、仮処分、訴訟上の秘密保護まで、企業実務で確認すべき論点を体系的に整理します。
営業秘密の3要件、差止めの対象特定、証拠保全、仮処分、訴訟上の秘密保護まで、企業実務で確認すべき論点を体系的に整理します。
使用・開示・流通を止めるために、最初に確認する軸を整理します。
不正競争防止法による営業秘密侵害の差止請求は、技術情報、顧客情報、価格情報、研究データ、製造ノウハウなどが流出した場面で、相手方による使用・開示・流通を止めるための民事上の救済手段です。損害賠償は過去の損害を金銭で評価する面が中心ですが、差止請求は将来の使用や第三者への拡散を止めることに重点があります。
検討の核心は、対象情報が営業秘密に当たるか、相手方の行為が不正競争に当たるか、差止めの対象を特定できるか、侵害または侵害のおそれを証拠で示せるか、初動で証拠を壊していないか、という点です。次の重要ポイント一覧は、どの論点から着手するかを見極めるための整理です。情報の管理状況と相手方行為の両方を見る必要があるため、読者は各項目が証拠と結びついているかを読み取ることが重要です。
秘密管理性、有用性、非公知性の3要件を満たすかを、情報ごとに確認します。
不正取得、使用、開示、目的外利用、転得者の利用など、条文上の類型との対応を見ます。
情報目録、ファイル名、設計図番号、顧客項目などにより、命令として執行できる程度に絞ります。
ログ、メール、クラウド履歴、競合製品の類似、顧客接触記録などから危険性を説明します。
端末初期化、アカウント削除、本人への拙速な追及を避け、証拠の信用性を守ります。
不正競争防止法3条に基づく停止・予防・廃棄等の請求を具体化します。
不正競争防止法3条1項は、不正競争によって営業上の利益を侵害され、または侵害されるおそれがある者が、侵害の停止または予防を請求できることを定めています。同条2項は、侵害行為を組成した物の廃棄、侵害行為に供した設備の除却、その他侵害の停止または予防に必要な行為も請求できるとしています。
次の比較表は、差止請求で検討される主な方向性を、対象となる行為と実務上の注意点で整理したものです。請求は強い制約を伴うため、読者は「どの情報を、誰に、どの態様で禁じるのか」が具体化されているかを読み取ることが重要です。
| 請求の方向性 | 具体例 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 使用の差止め | 顧客名簿を使った営業、製造ノウハウを用いた製造、設計図を参照した開発を止める | 「どの情報を使うこと」を禁じるのか、対象情報の特定が重要です。 |
| 開示の差止め | 競合会社、取引先、外部コンサルタント、海外関連会社への提供を止める | 既に誰へ開示されたか、今後開示されるおそれがあるかを整理します。 |
| 複製・保存への対応 | USB、私物PC、クラウド、メール、チャット、紙資料、スマートフォン上の複製物の削除・廃棄 | 削除だけでは復元可能性が残ることがあり、証拠保全との順序も問題になります。 |
| 侵害品への対応 | 営業秘密を使って製造された製品の製造・販売・輸出入停止、在庫廃棄 | 技術上の秘密の使用と製品との結びつきを説明する必要があります。 |
| 予防措置 | 将来の使用・開示禁止、関係者への共有禁止、アクセス停止 | 過度に広い命令は認められにくく、具体的な危険に即した設計が必要です。 |
差止請求は、相手方の事業活動や職業活動を直接制約する手段です。そのため、「怪しいから止めたい」ではなく、「この情報が営業秘密であり、この相手方がこの態様で使用・開示する具体的危険がある」と説明できることが出発点になります。
秘密管理性・有用性・非公知性を、実務上の証拠と結びつけて確認します。
不正競争防止法上の営業秘密は、秘密として管理されていること、事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること、公然と知られていないことの3要件を満たす情報です。社内で重要情報と呼んでいるだけでは足りず、情報に接する人が秘密として扱うべきものだと認識できる状態が必要です。
次の一覧は、営業秘密の3要件を、典型的な確認事項と争われやすい場面に分けて示します。差止請求の土台になるため、読者は自社の情報管理がどの要件を支えており、どの要件に弱点があるかを読み取ることが重要です。
顧客リスト、価格表、原価情報、製造条件、品質管理データ、研究開発データ、失敗実験データなど、事業活動に役立つ客観的価値があるかを見ます。
刊行物、特許公報、論文、ウェブサイト、展示会資料、一般に入手可能な商品などから容易に入手・推測できないかを確認します。
秘密管理性では、文書・データ・フォルダへの「秘」「Confidential」「社外秘」などの表示、一般情報との分別、職務上必要な者へのアクセス限定、ログ管理、ダウンロード制限、契約・規程上の守秘義務、退職時の返還・削除確認、社内研修などが検討されます。情報セキュリティとして完璧でなければ直ちに否定されるものではありませんが、形だけの表示で従業員が何を守るべきか分からない状態は危険です。
有用性は高度な発明だけに限られず、失敗データのような間接的・潜在的価値のある情報も問題になります。一方、違法行為の隠蔽など公正な競争秩序の中で保護に値しない情報は、有用性が否定される方向になります。非公知性では、公開資料や一般的経験で容易に得られるか、公知情報の組合せ自体に価値があるかを慎重に見ます。
契約上の秘密情報と不正競争防止法上の営業秘密は、射程が異なります。
実務では、秘密情報、機密情報、社外秘、Confidential、営業秘密という言葉が混在します。契約や社内規程上の秘密情報は広く定義されることがありますが、不正競争防止法上の営業秘密は法律上の3要件を満たす情報に限られます。
次の比較表は、契約上の秘密情報と不正競争防止法上の営業秘密の違いを整理したものです。この区別は、差止請求の根拠を選ぶうえで重要であり、読者は「不正競争防止法で進めるのか、契約違反も併せるのか」を読み取る必要があります。
| 区分 | 意味 | 差止請求での位置づけ |
|---|---|---|
| 契約上の秘密情報 | NDA、委託契約、雇用契約、共同研究契約などで広く定められる非公開情報 | 営業秘密に当たらない場合でも、契約違反として差止めや損害賠償が検討されます。 |
| 不正競争防止法上の営業秘密 | 秘密管理性、有用性、非公知性の3要件を満たす技術上または営業上の情報 | 不正競争防止法3条に基づく停止・予防・廃棄等の請求の中核になります。 |
| 一般的経験・技能 | 元従業員が職務経験として身につけた一般的知識、技能、人脈 | 営業秘密の使用と区別され、競争そのものを止める請求は慎重に見られます。 |
相談時には、情報の具体的内容、保存媒体、アクセス可能者、秘密表示、規程・契約、取得・使用・開示の疑い、公開情報から入手可能か、競争上の利点があるかを整理すると、検討が進みやすくなります。
営業上の利益、営業秘密性、不正競争行為、侵害のおそれ、範囲の相当性を分解します。
差止請求では、請求者に営業上の利益の侵害または侵害のおそれがあること、対象情報が営業秘密であること、相手方の行為が不正競争に当たること、侵害または侵害のおそれがあること、差止めの範囲が明確かつ相当であることを検討します。
次の表は、営業秘密に関する不正競争行為の類型を、典型例と確認すべきポイントに分けたものです。条文上の類型に当てはまるかが差止請求の前提になるため、読者は単なる競業や転職と営業秘密の不正利用を区別して読むことが重要です。
| 類型 | 典型例 | ポイント |
|---|---|---|
| 不正取得型 | 窃取、詐欺、強迫、不正アクセス、無断コピー、USB持出し | 取得時の手段が不正かが中心です。 |
| 不正取得後の使用・開示型 | 持ち出した顧客名簿を使う、技術資料を競合へ渡す | 取得だけでなく、使用・開示の具体的態様が問題になります。 |
| 転得者型 | 不正に持ち出されたことを知りながら競合会社が取得・使用する | 悪意または重過失が争点になりやすい類型です。 |
| 正当取得後の不正使用・開示型 | 委託先、共同研究先、元従業員が目的外利用する | 不正の利益を得る目的、または保有者に損害を加える目的が重要です。 |
| 営業秘密侵害品型 | 営業秘密を用いて生産された物を譲渡・輸出入する | 技術上の秘密と製品との結びつきが問題になります。 |
次の判断の流れは、請求範囲を作るときに確認すべき順番を示しています。差止命令は相手方が何をしてはいけないか明確である必要があるため、読者は上から順に、情報・行為・危険・命令範囲がつながっているかを読み取ることが大切です。
営業秘密目録、ファイル名、設計図番号、顧客項目などで範囲を示します。
秘密管理性、有用性、非公知性を情報ごとに説明します。
不正取得、使用、開示、目的外利用、侵害品への利用を区別します。
競業全体ではなく、営業秘密の使用・開示等に焦点を合わせます。
第三者が見ても判断できる程度の明確性を意識します。
情報管理を示す証拠と、侵害行為を示す証拠の両方を集めます。
営業秘密侵害の差止請求では、証拠が二方向に分かれます。第一はその情報が営業秘密であることを示す証拠、第二は相手方が不正取得・使用・開示した、またはそのおそれがあることを示す証拠です。
次の表は、営業秘密性を示す証拠を3要件ごとに整理したものです。情報管理の実効性が後から問われるため、読者は規程が存在するだけでなく、対象情報に実際に適用されていたかを読み取ることが重要です。
| 立証対象 | 証拠例 |
|---|---|
| 秘密管理性 | 情報管理規程、アクセス権限表、フォルダ権限設定、秘密表示、NDA、誓約書、就業規則、研修資料、退職時チェックリスト、ログ管理方針 |
| 有用性 | 事業計画、開発資料、製造工程、営業成果、顧客取引実績、研究開発コスト、競争上の優位性説明資料 |
| 非公知性 | 公開資料調査、特許・論文・ウェブ検索結果、製品解析の困難性、入手コスト、社外非開示の運用資料 |
次の表は、侵害行為を示す証拠を事案類型ごとにまとめたものです。相手方の社内や端末に証拠が偏りやすいため、読者はログ、時系列、対象情報、相手方の成果物との対応関係を重ねて確認する必要があります。
| 事案類型 | 証拠例 |
|---|---|
| 退職者の持出し | 退職前後のログ、USB接続履歴、メール転送履歴、クラウドアップロード履歴、印刷履歴、入退室記録、貸与端末のフォレンジック結果 |
| 競合会社での使用 | 競合製品の仕様比較、開発期間、採用技術、顧客への接触記録、営業メール、見積書、提案資料、元従業員の担当範囲 |
| 委託先の目的外利用 | 契約書、NDA、開示記録、成果物、利用目的違反を示すメール、再委託・再開示の痕跡 |
| 顧客情報の利用 | 顧客への連絡時期、連絡先の一致、不自然な営業順序、旧担当者しか知らない情報の利用、顧客証言 |
| 技術情報の利用 | ソースコード類似性、設計図・部品表の一致、製造条件の一致、実験データの再現、専門家意見書 |
営業秘密侵害訴訟では、侵害の証拠が相手方の工場、サーバ、開発環境に偏在しやすい問題があります。具体的態様の明示義務、書類提出命令、技術上の秘密を取得した者の使用等の推定規定などが問題になることがありますが、対象情報の特定や基本的な侵害事実の説明を省略できるわけではありません。
通常訴訟を待てない場合に、暫定的な使用・開示禁止を検討します。
営業秘密侵害では、通常訴訟の判決を待っていては遅い場合があります。秘密情報が拡散すれば回復は困難であり、競合製品が市場に出れば、顧客喪失や価格競争につながるおそれがあります。このような場面では、民事保全法に基づく仮処分が検討されます。
次の時系列は、営業秘密侵害を疑った後に検討される対応の順番を整理したものです。初動の順序を誤ると証拠や緊急性が損なわれるため、読者は「証拠保全」「アクセス遮断」「警告」「仮処分」がどの順で関係するかを読み取ることが重要です。
端末、ログ、メール、クラウド履歴、入退室記録などを不用意に操作せず、保全対象を決めます。
対象情報の3要件と、取得・使用・開示の疑いを同じ時系列に並べます。
任意停止を狙うか、証拠隠滅・拡散の危険を踏まえて急ぐかを判断します。
差止請求権、緊急性、回復困難な損害、差止範囲、担保の可能性を整理します。
仮処分では、使用・開示禁止、データ・媒体の廃棄または保管、製品の製造・販売停止、顧客名簿を利用した営業活動の停止、第三者への再開示禁止などが検討されます。ただし相手方事業への影響が大きいため、営業秘密性、侵害行為、緊急性、範囲の相当性を慎重に説明する必要があります。
秘密保持命令と閲覧等制限を使い、訴訟での二次漏えいを抑えます。
営業秘密侵害訴訟には、秘密であることや侵害を立証するために情報内容を示す必要がある一方、示しすぎると訴訟を通じて秘密がさらに漏れるという難しさがあります。この問題に対応する制度の一つが秘密保持命令です。
次の一覧は、訴訟で秘密情報を提出する際に検討される保護策と、その役割を整理したものです。勝つために必要な開示と、秘密を守るための制限を両立させる必要があるため、読者は各手段の機能の違いを読み取ることが重要です。
訴訟で提出される準備書面や証拠に営業秘密が含まれる場合、名宛人に訴訟追行目的以外での使用や命令対象者以外への開示を禁じます。
営業秘密が記載された書面や証拠について、第三者による閲覧・謄写の制限を申し立てることを検討します。
訴訟資料を社内で広く共有しすぎず、外部専門家、翻訳者、フォレンジック業者にも守秘義務を徹底します。
営業秘密の内容は、申立書に直接書きすぎず、目録、証拠番号、ページ・行番号、図表番号で対象を特定する工夫が必要になります。相手方の技術担当者に開示しなければ実質的な反論ができない場面もあり、攻撃防御と秘密保護の均衡が問題になります。
民事・刑事・契約上の手段を分けて、期間制限も確認します。
営業秘密侵害が疑われる場合、取り得る手段は差止請求だけではありません。将来の使用・開示を止める手段、過去の損害を回復する手段、刑事手続、契約上の請求を分けて設計する必要があります。
次の比較表は、主な手段を目的と特徴で整理したものです。複数の手段を同時に検討することが多いため、読者は「何を止めたいのか」「何を回復したいのか」「どの証拠が必要か」を読み取ることが重要です。
| 手段 | 目的 | 特徴 |
|---|---|---|
| 差止請求 | 使用・開示・流通を止める | 将来の侵害防止が中心です。 |
| 仮処分 | 緊急に暫定停止する | 迅速性がある一方、疎明と緊急性が重要です。 |
| 損害賠償請求 | 過去の損害を金銭で回復する | 損害額・因果関係の立証が問題になります。 |
| 信用回復措置 | 信用毀損がある場合の回復 | 営業秘密侵害だけでなく信用毀損類型との関係を見ます。 |
| 刑事告訴・相談 | 処罰・捜査による抑止 | 要件、証拠、捜査機関対応が重要です。 |
| 契約上の請求 | NDA、雇用契約、委託契約違反への対応 | 営業秘密に当たらない情報でも問題になることがあります。 |
不正競争防止法上、営業秘密の不正使用行為に対する停止または予防請求権には、一定の場合に期間制限があります。侵害の事実および行為者を知った時から3年、または行為開始時から20年という整理が問題になるため、読者は発覚時点、認識時点、行為開始時点、継続使用の有無を早期に確認する必要があります。
顧客リスト、技術ノウハウ、委託先の目的外利用、侵害品の4類型を整理します。
営業秘密侵害の相談では、退職者の顧客リスト持出し、技術ノウハウの競合持込み、委託先・共同研究先の目的外利用、営業秘密を使った製品販売がよく問題になります。事案類型ごとに、営業秘密性、証拠、差止範囲の作り方が変わります。
次の一覧は、典型事例ごとの確認事項を整理したものです。類型に応じて証拠の種類と反論が変わるため、読者は自社の事案がどこに近いか、どの証拠を優先して集めるべきかを読み取ることが重要です。
顧客名簿、商談履歴、単価表、担当者情報、購買履歴、クレーム履歴などが対象になります。公開情報と非公開の取引条件を区別し、退職前後のログや顧客接触記録を確認します。
顧客情報公開情報との区別製造条件、配合、アルゴリズム、ソースコード、設計図、CADデータ、試験データなどが問題になります。公知技術や一般的技能との違い、競合製品との類似性を検討します。
技術情報独自開発反論取得自体は正当でも、契約上の目的を超える使用・開示が問題になります。NDA、開示記録、成果物、再委託・再開示の有無を確認します。
契約関係目的外利用製造方法、配合、設計、ソフトウェア、検査方法などを使って製品が生産されたかを見ます。製品単位での差止めは影響が大きいため、技術的な関係の説明が重要です。
侵害品製品特定警告書や申立てを受けた場合も、証拠を保全して冷静に検討します。
営業秘密侵害の警告書や差止請求を受けた側も、感情的な反応は避ける必要があります。証拠削除、関係者への口裏合わせ、相手方への威圧的連絡は不利に働く可能性があります。まず対象情報、請求範囲、根拠条文、要求内容、回答期限を確認し、保全すべき資料を確保します。
次の表は、請求を受けた側で検討される主な反論を整理したものです。営業秘密侵害の有無は一つの事情だけで決まるとは限らないため、読者は反論ごとに必要な資料と説明の方向性を読み取ることが重要です。
| 反論 | 内容 |
|---|---|
| 営業秘密ではない | 秘密管理性、有用性、非公知性のいずれかを欠くと説明します。 |
| 情報が特定されていない | 「ノウハウ一式」「顧客情報全部」などでは攻撃防御が困難であると整理します。 |
| 不正取得していない | 正当に開示を受けた、公開情報から取得した、独自に作成したなどを検討します。 |
| 使用していない | 保有していたとしても事業に使っていない、削除済みであるなどを資料で説明します。 |
| 独自開発である | 開発経緯、実験記録、設計変更履歴、第三者資料で説明します。 |
| 一般的経験・技能である | 元従業員の職業経験として利用可能な範囲にとどまることを整理します。 |
| 差止範囲が過大 | 競業全体の禁止、顧客接触の全面禁止などは過剰であると検討します。 |
| 侵害のおそれがない | 保有なし、削除済み、再発防止措置、アクセス遮断を示します。 |
「削除したから問題ない」と安易に説明することには注意が必要です。削除の時期、方法、対象、証拠保全との関係、復元可能性を説明できなければ、証拠隠滅を疑われる可能性があります。
漏えい後に急いで整えるのではなく、情報分類・権限・契約・教育を平時から設計します。
差止請求は紛争後の手段ですが、実際には平時の管理で結果が大きく変わります。営業秘密性、とくに秘密管理性は、漏えい後に急いで作ることができません。何を営業秘密として守るかを決め、事業価値、漏えいリスク、保存媒体、社外開示の有無に応じて分類する必要があります。
次の一覧は、平時に整備すべき管理体制を、情報分類・権限管理・契約・教育・退職者対応に分けたものです。漏えい時の差止請求で証拠になる要素でもあるため、読者は日常運用として残せる記録が何かを読み取ることが重要です。
技術情報、営業情報、経営情報、研究情報、人事・労務情報を分類し、すべてを一律に秘密扱いしない設計にします。
分類重要フォルダへの権限設定、ダウンロード、外部送信、印刷、USB利用の記録を整えます。
権限営業秘密管理規程、NDA、就業規則、退職時誓約、共同研究・委託先への開示台帳を整備します。
契約個人クラウド、社外共有リンク、チャット、BYOD、生成AIへの入力禁止情報、アカウント停止、ログ保存期間を明確にします。
運用営業秘密管理は、法務部だけで完結しません。情報システム、人事、研究開発、営業、経営層が連携しなければ、実効性のある体制にはなりません。
日本法だけでなく、管轄、準拠法、現地手続、証拠の所在を確認します。
営業秘密侵害は、海外子会社、海外委託先、外国籍従業員、海外サーバ、国外競合企業、国際共同研究を通じて発生することがあります。国際的な営業秘密侵害事案では、日本の裁判所に訴訟を提起できるか、日本の不正競争防止法を適用できるかが問題になります。
次の一覧は、海外要素がある場合に確認すべき視点を整理したものです。国境を越えると証拠保全や差止命令の実効性が変わるため、読者は日本側手続と現地対応を並行して検討する必要があることを読み取ることが重要です。
日本の裁判所に訴訟を提起できるかを検討します。
日本法が適用されるか、現地法の営業秘密保護・労働法・個人情報保護法に抵触しないかを見ます。
相手方資産、サーバ、端末、開発資料、関係者がどの国にあるかを確認します。
外国裁判所での差止め、証拠開示、保全、刑事相談、税関対応が必要かを検討します。
海外流出では、時間が経つほど回収が難しくなります。日本での仮処分・訴訟と、現地での保全・警告・刑事相談を並行して検討することがあります。
被害企業側と請求を受けた側で、準備すべき資料を分けて確認します。
営業秘密侵害の相談では、初回相談の質がその後のスピードを左右します。対象情報、管理状況、相手方行為、契約関係、すでに行った調査を整理しておくと、差止請求、仮処分、損害賠償、刑事相談の優先順位を検討しやすくなります。
次の比較表は、被害企業側と請求を受けた側で準備すべき資料を分けて整理したものです。立場によって必要な資料が異なるため、読者は自社の立場に合わせて、情報の一覧と時系列を優先して整えることが重要です。
| 立場 | 主な準備資料 |
|---|---|
| 被害企業側 | 問題情報の一覧、保存場所、秘密表示、アクセス権限、管理規程、NDA、就業規則、アクセス可能者、疑われる行為の時系列、退職日、ログ、メール、USB接続履歴、顧客接触、競合製品、契約書、警告書、社内調査内容、今すぐ止めたい行為 |
| 請求を受けた側 | 警告書、訴状、申立書、対象情報に接触した経緯、開発・営業活動の時系列、独自開発資料、公開情報、第三者提供資料、保有していないことを示す資料、退職時の返還・削除状況、顧客の取得経路、社内調査で判明した事実、事業への影響 |
相談先を選ぶ際は、不正競争防止法、知的財産訴訟、仮処分、証拠保全、秘密保持命令、技術情報、ソースコード、顧客情報、デジタルフォレンジック、労働法、刑事相談、広報対応に目配りできるかを確認します。「確実に差止められる」「すぐ刑事事件にできる」といった断定的な説明には注意が必要です。
一般的な制度説明として、結論が事案ごとに変わる点を明示します。
一般的には、「社外秘」表示は秘密管理性を基礎づける一事情になり得ます。ただし、有用性・非公知性も必要であり、表示が形骸化していたり、公開情報と混在していたり、誰でも自由にアクセスできたりする場合には結論が変わる可能性があります。具体的な見通しは、管理状況や対象情報を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、一般的な経験・技能・人脈の利用は直ちに営業秘密侵害とは扱われにくいとされています。一方で、具体的な顧客情報、価格条件、未公開技術、製造条件など、営業秘密に当たる特定情報を記憶に基づいて使用したと評価される可能性があります。情報の具体性、退職前後の行動、顧客接触状況、証拠関係によって判断が変わるため、専門家への相談が必要です。
一般的には、削除の客観的証明、複製物の有無、第三者への開示、クラウドやバックアップ、復元可能性、今後の使用のおそれを確認する必要があります。単なる自己申告だけでは十分といえない場合があります。具体的な対応は、削除方法や保全状況を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、不正競争防止法3条は営業上の利益を侵害されるおそれがある場合にも差止請求を予定しています。ただし、抽象的な不安だけでは足りず、侵害のおそれを基礎づける具体的事情が必要になる可能性があります。具体的な見通しは、ログ、時系列、相手方行為、情報管理状況を整理して専門家へ相談する必要があります。
一般的には、警告書で任意の停止・削除・誓約を得られることがあります。一方で、相手方に証拠隠滅や情報拡散の機会を与える可能性もあります。緊急性、証拠保全の必要性、相手方との関係、事業上の影響によって結論が変わるため、具体的な対応方針は専門家へ相談する必要があります。
一般的には、NDA、委託契約、雇用契約、就業規則、競業避止合意、著作権、特許権、個人情報保護法、民法上の不法行為など、別の法的構成が検討されることがあります。ただし、各制度の要件は異なります。具体的な選択は、契約書、情報の内容、相手方行為、証拠関係を整理して専門家に確認する必要があります。
一般的には、営業秘密侵害の差止請求は営業秘密の使用・開示等を止めるための制度であり、競業そのものを全面的に禁止する制度ではありません。競業避止義務が問題になる場合でも、有効性や範囲は個別事情で変わります。過度に広い請求は認められにくい可能性があるため、専門家による検討が必要です。
一般的には、訴訟で営業秘密の内容を一定程度示す必要があるため、漏えいリスクはあります。一方で、秘密保持命令や閲覧等制限などの制度を利用し、一定の保護を図ることができます。ただし、制度の利用には対象情報の特定や申立ての設計が必要であり、具体的な運用は専門家へ相談する必要があります。
初動の保全と、執行できる程度の特定を両立させます。
不正競争防止法による営業秘密侵害の差止請求は、企業の競争力を守る強力な手段です。しかし、裁判所は要件を慎重に見ます。単に秘密を盗まれたと主張するのではなく、どの情報が営業秘密なのか、どのように管理されていたのか、なぜ有用で公知ではないのか、相手方がどのように取得・使用・開示したのか、今後どのような侵害のおそれがあるのか、どの行為をどの範囲で止める必要があるのかを証拠で示す必要があります。
次の整理は、差止請求の最終確認で見るべき項目をまとめたものです。初動の数日で方向性が変わることがあるため、読者は証拠保全、社内調査、警告書、仮処分、訴訟、刑事相談、広報対応を一つの戦略として並べて確認することが重要です。
営業秘密目録で、どの情報を守るのかを具体化します。
秘密表示、アクセス制限、契約、研修、退職時確認を証拠化します。
取得、使用、開示、目的外利用、侵害品との関係を時系列で示します。
競争全体ではなく、営業秘密の使用・開示等に絞って明確にします。