2σ Guide

営業秘密として法的に保護されるための
3つの要件

秘密管理性・有用性・非公知性を、不正競争防止法、管理指針、裁判例、企業実務の観点から整理します。漏えい後ではなく、平時から証拠で説明できる体制を作ることが重要です。

3要件 すべて必要
2条6項 営業秘密の定義
3条・4条 民事上の手段
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営業秘密として法的に保護されるための 3つの要件

秘密管理性・有用性・非公知性を、不正競争防止法、管理指針、裁判例、企業実務の観点から整理します。

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営業秘密として法的に保護されるための 3つの要件
秘密管理性・有用性・非公知性を、不正競争防止法、管理指針、裁判例、企業実務の観点から整理します。
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  • 営業秘密として法的に保護されるための 3つの要件
  • 秘密管理性・有用性・非公知性を、不正競争防止法、管理指針、裁判例、企業実務の観点から整理します。

POINT 1

  • 営業秘密として法的に保護されるための3つの要件の要旨
  • 3要件はすべて必要です
  • 秘密管理性
  • 有用性
  • 秘密管理性・有用性・非公知性を、法律上の入口として整理します。

POINT 2

  • 営業秘密として法的に保護されるための3つの要件と営業秘密の定義
  • 対象情報を特定
  • 3要件を確認
  • 営業秘密に該当するか
  • 社外秘や機密情報と法律上の営業秘密を区別します。

POINT 3

  • 営業秘密として法的に保護されるための秘密管理性
  • 秘密だという意思を、合理的な管理措置で外部化する必要があります。
  • 鉄壁の管理までは不要ですが、何もしないことは許されません
  • アクセス制限と認識可能性
  • 裁判例が示す管理実態の重要性

POINT 4

  • 営業秘密として法的に保護されるための有用性
  • 肯定されやすい情報
  • 研究開発、原価削減、営業活動、競争戦略、品質改善、リスク低減に役立つ情報です。
  • 否定され得る情報

POINT 5

  • 営業秘密として法的に保護されるための非公知性
  • 一般に知られておらず、通常の方法で容易に知ることができないかを見ます。
  • 公知情報の組合せも営業秘密になり得ます
  • リバースエンジニアリングとダークウェブへの不正流出
  • 非公知性とは、その情報が公然と知られていないことをいいます。

POINT 6

  • 営業秘密として法的に保護されるための3つの要件の相互関係と法的効果
  • 営業秘密として保護される場合の効果
  • 重要情報を特定する
  • 秘密区分を付ける
  • 3要件は独立しつつ、実務では互いに影響します。

POINT 7

  • 営業秘密として法的に保護されるための実務チェックリストと証拠整理
  • 社内点検と紛争時の立証資料を結びつけます。
  • 訴訟・交渉を見据えた証拠整理
  • 営業秘密管理は、情報システム部門だけの仕事でも、法務部門だけの仕事でもありません。
  • 次の点検表は、3要件を社内確認に落とし込んだものです。

POINT 8

  • 営業秘密として法的に保護されるために弁護士へ相談すべき場面
  • 漏えい対応、契約設計、刑事告訴、生成AI利用の前に整理します。
  • 持ち出し・競合利用の疑い
  • 委託先・共同研究先の問題
  • 社内調査と法的手続

まとめ

  • 営業秘密として法的に保護されるための 3つの要件
  • 営業秘密として法的に保護されるための秘密管理性:秘密だという意思を、合理的な管理措置で外部化する必要があります。
  • 営業秘密として法的に保護されるための有用性:成功ノウハウだけでなく、失敗データや欠陥情報も価値を持ち得ます。
  • 営業秘密として法的に保護されるための非公知性:一般に知られておらず、通常の方法で容易に知ることができないかを見ます。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

営業秘密として法的に保護されるための3つの要件の要旨

秘密管理性・有用性・非公知性を、法律上の入口として整理します。

営業秘密として法的に保護されるための3つの要件は、秘密管理性・有用性・非公知性です。不正競争防止法2条6項は、営業秘密を、秘密として管理されている、事業活動に有用な技術上または営業上の情報で、公然と知られていないものと定義しています。

実務上の結論は明確です。会社が大切な情報だと考えているだけでは足りません。その情報が、社内外の関係者から見て秘密として扱うべきものだと認識できるように管理され、事業上の価値があり、一般に知られていないことを、後から証拠で説明できる状態にしておく必要があります。

次の重要ポイントは、3要件の全体像を短く整理したものです。営業秘密該当性は差止め・損害賠償・刑事罰の入口であり、3つがすべて必要であることを読み取るのが大切です。

3要件はすべて必要です

秘密管理性、有用性、非公知性のどれか1つが欠けると、不正競争防止法上の営業秘密には該当しない可能性があります。さらに、営業秘密に当たることと、直ちに差止め・損害賠償・刑事罰が認められることは別問題です。

次の比較一覧は、3要件の役割を並べたものです。左から順に、管理の状態、事業上の価値、一般に知られていないことを確認し、どの項目の証拠が弱いかを読み取ります。

要件1

秘密管理性

秘密にしたい情報の範囲が明確で、関係者が秘密だと認識できる管理措置があるかを見ます。

要件2

有用性

事業活動にとって役立つ技術上または営業上の情報で、競争上の価値を客観的に説明できるかを見ます。

要件3

非公知性

一般に知られておらず、通常の方法で容易に入手・把握できないかを見ます。

Section 01

営業秘密として法的に保護されるための3つの要件と営業秘密の定義

社外秘や機密情報と法律上の営業秘密を区別します。

営業秘密とは、企業、大学、研究機関、個人事業者などが保有する秘密情報のうち、不正競争防止法上の要件を満たす情報をいいます。典型例には、製造方法、設計図、ソースコード、研究データ、実験結果、製品の欠陥情報、顧客リスト、仕入価格、原価情報、販売戦略、取引条件、未公表の事業計画などがあります。

次の表は、3要件を簡潔な意味と実務上の焦点に分けたものです。列を横に読むことで、法律上の言葉を社内点検で確認すべき事実に置き換えられます。

要件簡潔な意味実務上の焦点
秘密管理性秘密として管理されていること秘密にしたい情報の範囲が明確で、関係者が秘密だと認識できる管理措置があるか
有用性事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること事業上・競争上の価値が客観的に認められるか
非公知性公然と知られていないこと一般に知られておらず、通常の方法で容易に入手・把握できないか

社内規程で秘密と呼んでいても、法律上の3要件を満たさなければ営業秘密として保護されない可能性があります。反対に、極秘と大きく印字されていなくても、情報の性質や管理状況から、関係者が秘密であることを容易に認識できる場合には、営業秘密性が認められる余地があります。

次の判断の流れは、営業秘密に該当するかを検討し、その後に差止め・損害賠償・刑事罰を検討する順序を示しています。上から下へ進むことで、営業秘密該当性と侵害行為の要件を混同しないように読み取れます。

営業秘密該当性と法的効果の確認順序

対象情報を特定

守りたいファイル、データ、資料、ノウハウの範囲を具体化します。

3要件を確認

秘密管理性、有用性、非公知性を証拠で説明できるかを見ます。

営業秘密に該当するか

1つでも欠けると不正競争防止法上の保護が難しくなります。

不正取得・使用・開示を検討

差止め、損害賠償、刑事罰は、さらに行為類型などの要件を確認します。

Section 02

営業秘密として法的に保護されるための秘密管理性

秘密だという意思を、合理的な管理措置で外部化する必要があります。

秘密管理性とは、対象情報が秘密として管理されていることをいいます。会社が頭の中で秘密だと思っていたかではなく、関係者から見て、対象情報が秘密として扱われるべき情報だと認識できる状態にあったかが重要です。

次の重要ポイントは、秘密管理性の中心をまとめたものです。大企業並みの高度管理までは不要でも、何もしない状態では保護されにくいというバランスを読み取ることが重要です。

鉄壁の管理までは不要ですが、何もしないことは許されません

企業規模、業態、従業員の職務、情報の性質に応じた合理的な管理で足りる一方、全従業員が自由に閲覧・コピーでき、秘密表示も利用目的制限もない情報は、秘密管理性が否定されるリスクが高くなります。

アクセス制限と認識可能性

アクセス制限とは、情報にアクセスできる人を業務上必要な者に限定することです。研究部門だけが閲覧できるフォルダ、営業担当者に限った顧客情報、NDA締結後の必要範囲での開示などが例です。認識可能性とは、情報に接した人が秘密情報だと認識できることです。秘密表示、機密区分、注意表示、社内規程の分類基準などが考えられます。

次の表は、秘密区分の例と管理措置を対応させたものです。左列の区分が上がるほど、右列の管理措置も強くなる読み方をします。すべてを極秘にせず、重要度に応じて区分することが実務上重要です。

区分管理措置の例
一般情報公開済み資料、通常の会社案内原則制限なし
社内限り社内会議資料、一般的な業務マニュアル社外共有禁止、社内ポータル管理
部外秘顧客別価格、取引先情報、未公表企画部門限定アクセス、秘密表示、持出制限
極秘・営業秘密研究データ、製造条件、ソースコード、M&A資料最小権限、ログ管理、NDA、承認制、退職時確認

裁判例が示す管理実態の重要性

顧客カルテの施術履歴に関する知財高裁令和3年6月24日判決では、顧客カルテの画像が日常的に従業員の私用スマートフォン等に特段の制約なく記録され続け、漏出・拡散防止の格別な手段が取られていなかったことなどから、少なくとも施術履歴部分について秘密管理性を欠くと判断されました。紙のルールだけでなく、現場の利用実態が重要です。

また、東京地裁令和4年10月5日判決では、一部情報について、具体的にどのような内容の情報で、どのような形態で記録されていたかが明らかでないとして、営業秘密性が否定されています。情報の特定は、秘密管理性・有用性・非公知性を検討する前提になります。

次の実務一覧は、秘密管理性を満たすための設計要素を並べたものです。上から順に、情報の特定、区分、権限、表示、規程・契約・教育、証跡という流れで読み、管理措置を証拠として残す視点が重要です。

1

情報の範囲を特定

製品Aの製造条件表、研究テーマBの実験データセット、主要顧客の価格交渉履歴など、管理単位を具体化します。

特定
2

秘密区分を設定

一般情報、社内限り、部外秘、極秘・営業秘密など、重要度に応じて分類します。

分類
3

権限を必要範囲へ限定

共有フォルダ、クラウド、委託先開示、管理者権限を業務上必要な範囲に絞ります。

権限
4

秘密表示を行う

紙媒体、電子ファイル、フォルダ名、文書ヘッダー、共有リンク通知文に区分を示します。

表示
5

規程・契約・教育

就業規則、誓約書、業務委託契約、共同研究契約、NDA、研修を組み合わせます。

周知
6

ログ・証跡を残す

アクセスログ、承認記録、研修受講記録、退職時確認、返却・削除記録を保存します。

証拠

テレワーク、クラウド、生成AIへの対応

クラウドストレージ、チャットツール、オンライン会議、リモートデスクトップ、SaaS、生成AIを使う場面では、私物端末への保存・撮影・転送、外部共有リンク、チャットでのファイル共有、退職者アカウント、生成AIへの入力可否、学習利用の有無、委託先・共同研究先・グループ会社との契約を確認する必要があります。

Section 03

営業秘密として法的に保護されるための有用性

成功ノウハウだけでなく、失敗データや欠陥情報も価値を持ち得ます。

有用性とは、その情報が事業活動にとって役に立つ技術上または営業上の情報であることをいいます。現在売上に直結していることだけを意味せず、研究開発、製造、品質管理、営業、マーケティング、価格交渉、リスク管理、競争戦略などに資する情報も含まれ得ます。

次の一覧は、有用性が認められやすい技術上・営業上の情報を分けたものです。左右を見比べることで、技術部門だけでなく営業・経営情報も営業秘密になり得ることを読み取れます。

技術上

研究・製造・品質の情報

製造方法、製造条件、配合、加工手順、設計図、CADデータ、仕様書、ソースコード、アルゴリズム、AIモデル、学習データ、研究ノート、実験データ、失敗データ、品質管理方法、欠陥分析などです。

営業上

顧客・価格・戦略の情報

顧客リスト、担当者情報、購買履歴、価格表、原価、粗利、値引き条件、仕入先、調達条件、販売戦略、提案書、市場調査、事業計画、M&A、撤退計画などです。

失敗データやネガティブ情報も有用になり得ます

失敗した実験結果、採用しなかった製造条件、製品欠陥情報、クレーム分析、リスク評価なども、研究開発コストの削減、品質改善、競合他社による試行錯誤の短縮、事故防止に役立つ場合があります。たとえば、ある製造条件では不良率が高くなるというデータも、同じ失敗を避けるための重要な知見になり得ます。

取得者が有効活用できるかは決定的ではありません

東京地裁令和4年12月9日判決は、通信ネットワーク関連ファイルについて、保有企業の事業活動に使用・利用されているのであれば、基本的に営業秘密としての保護の必要性を肯定でき、取得者が有効に活用できるかどうかには左右されないという考え方を示しています。競合他社がすぐに再現できなくても、研究開発の方向性、価格戦略、弱点を知るだけで競争上の優位を得ることがあります。

次の比較一覧は、有用性が肯定されやすい情報と否定され得る情報を分けたものです。読者は、情報が事業活動とどのように関係し、客観的な価値を持つかを読み取ることが重要です。

肯定されやすい情報

研究開発、原価削減、営業活動、競争戦略、品質改善、リスク低減に役立つ情報です。単なる名簿でも、購買履歴、決裁権限、価格条件、交渉経緯が含まれると価値が高まります。

否定され得る情報

事業活動と関係のない雑談や個人的メモ、明らかに誤った情報、公序良俗に反する内容、既に一般に知られて独自価値を失った情報などです。

Section 04

営業秘密として法的に保護されるための非公知性

一般に知られておらず、通常の方法で容易に知ることができないかを見ます。

非公知性とは、その情報が公然と知られていないことをいいます。一般に知られておらず、通常の方法で容易に知ることができない状態であれば、非公知性が認められ得ます。

次の表は、公知と評価されやすい情報、非公知と評価される余地がある情報を対比したものです。左右の違いを読むことで、単に一部が知られているかではなく、情報全体の組合せ、入手容易性、分析コストが重要だと分かります。

評価されやすい方向具体例読み取り方
非公知性が否定されやすい会社ウェブサイト、パンフレット、論文、特許公報、展示会資料、業界紙で公開済みの情報通常の調査で容易に入手できる場合は保護が難しくなります
非公知性が否定されやすい市販品を通常の方法で簡単に解析すれば得られる情報、一般的な業界常識製品公開により実質的に知られたと評価される可能性があります
非公知性が認められる余地断片的な公開情報を独自の順序・組合せ・分析により体系化した情報個々の断片でなく、情報全体の価値を説明します
非公知性が認められる余地入手に相当な時間、費用、専門的分析を要する情報、第三者が秘密管理する同種情報理論上知り得るかではなく、通常の方法で容易に知れるかを見ます

公知情報の組合せも営業秘密になり得ます

顧客企業名は業界団体名簿に掲載されているかもしれません。しかし、その顧客について、担当者、購買履歴、決裁時期、価格交渉の経緯、過去のクレーム、競合の提案状況、次回更新見込みを組み合わせた情報は、一般に入手できない場合があります。このような情報全体には、非公知性が認められる余地があります。

リバースエンジニアリングとダークウェブへの不正流出

市販品を容易に解析すれば得られる情報であれば、製品を市販したことで非公知性が失われる可能性があります。一方、特殊な技術、相当な期間、専門的分析、多額の費用を要し、誰でも容易に知ることができるとはいえない場合には、市場に出ていても非公知性がなお認められる余地があります。

第三者の不正アクセス等で情報が流出し、ダークウェブに掲載された場合でも、その時点で直ちに非公知性が失われるとは限りません。ただし、検索可能な一般ウェブサイト、報道、SNS、公開リポジトリなどで広く流通し、通常の方法で容易に入手できる状態になれば、非公知性は大きく損なわれます。

Section 05

営業秘密として法的に保護されるための3つの要件の相互関係と法的効果

3要件は独立しつつ、実務では互いに影響します。

3要件は独立しているようでいて、実務上は相互に関係します。秘密管理性が弱いと情報が拡散しやすくなり、非公知性も失われやすくなります。非公知性が失われれば競争上の価値が低下し、有用性にも影響します。有用性が高い情報ほど、本来は秘密管理措置を強めるべきです。

次の判断の流れは、3要件を一体として設計する順序を示しています。上から下へ進めることで、情報特定、分類、管理、価値説明、公開情報との差分、証拠化を一連の作業として読み取れます。

3要件を一体で設計する順序

重要情報を特定する

何を守るのかを、資料名、ファイル、データ項目単位で明らかにします。

秘密区分を付ける

重要度に応じて、アクセス制限、表示、契約、教育の水準を決めます。

事業上の価値を記録する

売上、研究開発、品質、リスク低減、競争戦略への役立ちを説明します。

公開情報との差分を整理する

一般に入手できる情報との違い、組合せの価値、入手容易性を確認します。

証拠として残す

規程、ログ、研修、NDA、公開調査、社外開示履歴を保存します。

営業秘密として保護される場合の効果

営業秘密として法的に保護されると、不正取得・不正使用・不正開示などに対して、差止請求、廃棄・除却請求、損害賠償請求などの民事上の手段を検討できます。また、一定の営業秘密侵害行為は刑事罰の対象にもなり得ます。

次の表は、営業秘密として保護される場合に検討される手段と注意点を整理したものです。営業秘密該当性は入口であり、実際の請求や刑事告訴では、さらに相手方の行為、損害、故意・過失、目的などが必要になると読み取れます。

手段期待される効果追加で検討する要素
差止請求侵害行為の停止、予防営業秘密性、不正取得・使用・開示、侵害のおそれ
廃棄・除却請求秘密情報を含む資料やデータの廃棄対象物の特定、保管場所、実効性
損害賠償請求金銭的な被害回復損害、因果関係、故意・過失
刑事罰悪質な行為への処罰図利加害目的、取得・使用・開示の態様、証拠
Section 06

営業秘密として法的に保護されるための実務チェックリストと証拠整理

社内点検と紛争時の立証資料を結びつけます。

営業秘密管理は、情報システム部門だけの仕事でも、法務部門だけの仕事でもありません。経営、研究開発、営業、人事、知財、法務、広報、情報セキュリティ、内部監査が連携して、情報の特定、分類、管理、教育、契約、証拠化を進める必要があります。

次の点検表は、3要件を社内確認に落とし込んだものです。分類ごとに確認事項を読み、足りない項目を管理措置や証拠化の課題として把握します。

分類確認事項
秘密管理性守るべき情報を特定している。区分、管理責任者、保管場所を定めている。秘密表示、アクセス権限、外部共有、印刷、ダウンロード、私物端末、USB、個人クラウドを管理している。NDA、委託契約、共同研究契約、入社・異動・退職時手続、研修、ログ、承認記録、返却・削除記録がある。
有用性どの事業、製品、研究、営業活動に役立つか説明できる。競合他社が知ると利益を得る可能性がある。研究開発コスト、営業コスト、品質改善、リスク低減に役立つ。失敗データや欠陥情報も評価している。公序良俗に反していない。価値を説明する社内資料がある。
非公知性ウェブ、論文、特許公報、展示会資料、業界紙で公開されていない。市販品を容易に解析すれば得られる情報ではない。断片的公開情報の単なる寄せ集めではない。取引先・委託先・共同研究先で秘密保持義務がある。社外説明やSNS拡散の有無を確認している。

訴訟・交渉を見据えた証拠整理

営業秘密の紛争では、漏えいしたこと自体に意識が向きがちです。しかし、裁判でまず問われるのは、そもそもその情報が営業秘密だったのかです。日頃から証拠を整理しておく必要があります。

次の表は、証明したい事項と具体的な証拠例を対応させたものです。左列の論点ごとに右列の資料を準備することで、後から営業秘密性や侵害行為を説明しやすくなると読み取れます。

証明したい事項具体的な証拠例
情報の特定営業秘密目録、ファイル名、バージョン、作成日、保管場所、内容説明
秘密管理性秘密表示、アクセス権限表、規程、NDA、研修記録、ログ、退職時確認書
有用性事業計画、研究計画、原価削減資料、売上資料、競合分析、技術評価書
非公知性公開調査結果、特許・論文調査、社外開示履歴、NDA締結先一覧
不正取得・使用・開示ダウンロードログ、メール転送履歴、USB接続履歴、クラウド保存履歴、証言
損害売上減少、競合製品投入、価格下落、調査費用、再発防止費用

営業秘密目録を作る際は、本件ノウハウ一式のような表現では不十分です。どの情報が、どの媒体に、どの範囲で、いつから存在し、誰がアクセスでき、なぜ有用で、どの公開情報と異なるのかを説明できるようにする必要があります。

Section 07

営業秘密として法的に保護されるために弁護士へ相談すべき場面

漏えい対応、契約設計、刑事告訴、生成AI利用の前に整理します。

営業秘密の問題は、初動を誤ると証拠が消え、差止めのタイミングを逃し、刑事・民事・労務・個人情報・広報対応が複雑に絡みます。早期に専門家へ相談すべき場面を知っておくことが重要です。

次の一覧は、相談を検討すべき典型場面を整理したものです。各項目は、証拠保全、契約、差止め、刑事告訴、システム運用のどれに関係するかを読み取る手がかりになります。

漏えい

持ち出し・競合利用の疑い

退職者が顧客リスト、ソースコード、研究資料を持ち出した疑いがある場合や、競合他社に似た製品・提案資料が突然現れた場合です。

取引先

委託先・共同研究先の問題

取引先、委託先、共同研究先から情報が漏えいした可能性がある場合や、NDA、業務委託契約、ライセンス契約を設計したい場合です。

証拠

社内調査と法的手続

私物端末・個人クラウド・私用メールへの転送が見つかった場合、証拠保全、仮処分、差止請求、損害賠償、刑事告訴を検討する場合です。

運用

クラウド・生成AI・海外委託

生成AI、クラウド、SaaS、海外委託先に営業秘密を扱わせる予定がある場合は、入力可否、契約、監査、ログ管理を事前に確認します。

相談前には、対象情報の特定、管理状況、漏えい経路、相手方の行為、証拠の所在を整理しておくと、相談の質が大きく上がります。個別の見通しや対応方針は、弁護士等の専門家に相談する必要があります。

Section 08

営業秘密として法的に保護されるための3つの要件に関するFAQ

個別事案への断定を避け、一般的な考え方として整理します。

Q1. NDAを結んでいれば、自動的に営業秘密になりますか。

一般的には、NDAは秘密管理性を補強する重要な証拠ですが、それだけで自動的に営業秘密になるわけではありません。対象情報の範囲、実際の管理状況、有用性、非公知性も必要です。具体的な判断は資料を整理して専門家へ相談する必要があります。

Q2. パスワードをかけていれば秘密管理性は十分ですか。

一般的には、パスワードは有効な管理措置の一つですが万能ではありません。全員共通で長期間変更されていない、退職者も知っている、外部共有リンクで誰でもアクセスできる場合などは不十分と評価される可能性があります。

Q3. 顧客リストは営業秘密になりますか。

一般的には、顧客リストが営業秘密に当たり得る場合があります。ただし、公開企業一覧に近いものは非公知性や有用性が弱いことがあります。購買履歴、担当者、価格条件、交渉経緯など一般に入手できない知見が含まれ、秘密管理されているかが重要です。

Q4. 従業員の頭の中にある経験・技能も営業秘密ですか。

一般的には、従業員が身につけた経験・技能・知識は、営業秘密そのものとは区別されます。ただし、特定の技術情報、顧客別条件、未公開データなど具体的な秘密情報を不正に使用・開示する場合は問題になり得ます。

Q5. 既に一部が公開されている情報は営業秘密になりませんか。

一般的には、一部が公開されていても、情報全体の組合せ、分析、具体的条件、優先順位、未公開部分に価値がある場合には非公知性が認められる余地があります。公開情報の単純な寄せ集めか、独自の体系化に価値があるかが重要です。

Q6. 生成AIに入力したら営業秘密ではなくなりますか。

一般的には、必ず失われるとは限りませんが、重大なリスクがあります。外部の生成AIサービスに営業秘密を入力し、保存、学習利用、第三者閲覧が生じる場合、秘密管理性や非公知性が争われる可能性があります。

Q7. グループ会社と共有したら秘密管理性は失われますか。

一般的には、直ちに失われるとは限りません。ただし、グループ会社は別法人であることが多いため、共有目的、共有範囲、NDAまたはグループ内規程、アクセス制限、再共有禁止、返却・削除、漏えい時対応を明確にする必要があります。

Q8. 特許を取るべきか、営業秘密として守るべきかはどう判断しますか。

一般的には、特許は公開の代償として独占権を得る制度で、営業秘密は非公開のまま不正取得等から保護する制度です。製品を見れば容易に解析できる技術は特許、外部から把握しにくく長期管理できる情報は営業秘密が適する場合があります。

Section 09

営業秘密として法的に保護されるための3つの要件のまとめ

漏えい後ではなく、平時から3要件を意識した管理体制を作ります。

営業秘密として法的に保護されるための3つの要件は、秘密管理性、有用性、非公知性です。最も実務で争われやすいのは秘密管理性です。企業が秘密だと考えているだけでは足りず、関係者が秘密であると認識できる管理措置が必要です。

有用性は広く認められますが、事業上の価値を客観的に説明できることが重要です。非公知性では、一般に知られていないこと、容易に入手できないこと、公開情報との違いや組合せの価値を説明できることが問われます。

重要情報を守る最善の方法は、平時から3要件を意識した管理体制を作り、必要な証拠を残しておくことです。情報の特定、分類、アクセス制限、秘密表示、契約、教育、ログ、公開情報との差分整理を、部門横断で継続する必要があります。

Reference

この記事の参考情報源

法令、公的資料、裁判例を中心に整理しています。

法令・公的資料

  • 不正競争防止法
  • Japanese Law Translation「Unfair Competition Prevention Act」
  • 経済産業省「営業秘密を守り活用する」
  • 経済産業省「営業秘密管理指針」

裁判例

  • 知的財産高等裁判所 令和3年6月24日判決
  • 東京地方裁判所 令和4年10月5日判決
  • 東京地方裁判所刑事第7部 令和4年12月9日宣告