2σ Guide

遺言書が必要な人と
必要でない人の違い

財産額だけでなく、家族構成、財産の種類、相続させたい相手、遺留分、手続負担から、遺言書の必要性を判断します。

4段階必要度の目安
10問判断質問
3年相続登記の原則期限
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遺言書が必要な人と 必要でない人の違い

財産額だけでなく、家族構成、財産の種類、相続させたい相手、遺留分、手続負担から、遺言書の必要性を判断します。

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遺言書が必要な人と 必要でない人の違い
財産額だけでなく、家族構成、財産の種類、相続させたい相手、遺留分、手続負担から、遺言書の必要性を判断します。
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2σ GUIDE ・ VIDEO

  • 遺言書が必要な人と 必要でない人の違い
  • 財産額だけでなく、家族構成、財産の種類、相続させたい相手、遺留分、手続負担から、遺言書の必要性を判断します。

POINT 1

  • はじめに ― 遺言書が必要な人と必要でない人の違いは「財産額」だけでは決まらない
  • 重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。
  • 家族構成
  • 財産構成
  • 本人の希望

POINT 2

  • 遺言書 ― まず押さえるべき基本用語
  • 重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。
  • 2-1. 遺言と遺言書
  • 2-2. 法定相続人
  • 2-3. 法定相続分

POINT 3

  • 遺言書がない場合に何が起こるか
  • 重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。
  • 遺言書がない場合、相続は主に次の流れで進みます。
  • この流れが円滑に進むなら、遺言書の必要性は相対的に低くなります。
  • ところが、次のような問題があると、遺言書がないことが大きな負担になります。

POINT 4

  • 遺言書が必要な人の典型例
  • 重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。
  • 4-1. 子どもがいない夫婦
  • 4-2. 内縁の配偶者・同性パートナー・婚姻していない相手に財産を残したい人
  • 4-3. 再婚している人、前婚の子がいる人

POINT 5

  • 遺言書が必要でない人、または必要性が低い人の典型例
  • 重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。
  • 5-1. 相続人が1人だけで、特別な希望がない人
  • 5-2. 法定相続分どおりでよく、相続人全員の関係が良好な人
  • 5-3. 財産が少額で、相続手続も単純な人

POINT 6

  • 遺言書の種類と選び方
  • 重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。
  • 自筆証書遺言
  • 法務局保管制度
  • 公正証書遺言

POINT 7

  • 遺言書 ― 遺留分を踏まえた「必要性」の考え方
  • 重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。
  • 8-1. 遺留分が問題になるケース
  • 8-2. 遺留分を踏まえた設計例
  • 8-3. 兄弟姉妹には遺留分がないという重要ポイント

POINT 8

  • 税務との関係 ― 遺言書は相続税対策そのものではない
  • 重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。
  • 遺言書は、誰に何を承継させるかを決める法的文書です。
  • 遺言書を作るだけで相続税が下がるわけではありません。
  • しかし、遺言書の内容次第で、税務上の特例の使いやすさ、納税資金の確保、二次相続の負担に影響することがあります。

まとめ

  • 遺言書が必要な人と 必要でない人の違い
  • はじめに ― 遺言書が必要な人と必要でない人の違いは「財産額」だけでは決まらない:重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。
  • 遺言書 ― まず押さえるべき基本用語:重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。
  • 遺言書がない場合に何が起こるか:重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

はじめに ― 遺言書が必要な人と必要でない人の違いは「財産額」だけでは決まらない

重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。

次の重要ポイントは、遺言書の必要性を判断する軸を整理したものです。財産額だけで判断しないことが重要です。本人の希望と法律の初期設定のズレを読み取ってください。

FAMILY

家族構成

子どもがいない、再婚、前婚の子、内縁の相手、疎遠な相続人がいる場合は必要性が上がります。

ASSET

財産構成

不動産、自社株式、事業用財産など分けにくい財産がある場合は承継先の指定が重要です。

WISH

本人の希望

法定相続人以外に残したい、特定の人に多く残したい、寄付したい場合は遺言書が重要です。

「遺言書が必要な人と必要でない人の違い」は、単純に「お金持ちかどうか」「高齢かどうか」で決まるものではありません。むしろ実務上は、家族構成、相続人同士の関係、財産の種類、相続させたい相手、遺留分への配慮、相続開始後の手続の複雑さによって判断されます。

遺言書は、死亡後の財産承継について本人の意思を法的に残すための文書です。ただし、日本法上の遺言は、単なる手紙やメモ、録音、動画メッセージとは異なります。民法が定める方式に従って作成されなければ、原則として遺言としての効力は認められません。民法上、遺言は法律に定める方式に従わなければすることができないとされています(民法960条)。また、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言など、それぞれに方式上の要件があります。

この記事は、法務・広報担当者が、公的機関・公証実務・裁判所手続・税務情報・登記制度に関する信頼できる情報を参照し、一般の読者にも理解できるよう専門的に整理した解説記事です。個別事案については、弁護士、司法書士、税理士、公証役場等への相談が必要になる場合があります。

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Section 01

遺言書 ― この記事の結論

重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。

次の重要ポイントは、遺言書の必要性を判断する軸を整理したものです。財産額だけで判断しないことが重要です。本人の希望と法律の初期設定のズレを読み取ってください。

FAMILY

家族構成

子どもがいない、再婚、前婚の子、内縁の相手、疎遠な相続人がいる場合は必要性が上がります。

ASSET

財産構成

不動産、自社株式、事業用財産など分けにくい財産がある場合は承継先の指定が重要です。

WISH

本人の希望

法定相続人以外に残したい、特定の人に多く残したい、寄付したい場合は遺言書が重要です。

遺言書が必要な人は、ひとことでいえば、「法律の初期設定どおりに相続が進むと困る人」です。

反対に、遺言書が必要でない人は、「法律の初期設定どおりでも問題が少なく、相続人全員の協議も現実的に円滑に進む可能性が高い人」です。

ただし、ここでいう「必要でない」とは、「作成してはいけない」「作成しても意味がない」という意味ではありません。遺言書は、必要性が低い人にとっても、相続手続を簡素化し、家族の心理的負担を軽くする手段になり得ます。したがって、実務上は次の4段階で判断するのが適切です。

次の比較表は、この章の判断材料を整理したものです。項目の違いを見落とさないために重要です。各列を比べて、自分の状況に関係する要素を読み取ってください。

必要度状況判断の目安
必須級遺言書がないと希望が実現しない相続人以外に財産を渡したい、子のいない夫婦で配偶者に多く残したい、事業承継がある等
強く推奨遺言書がないと紛争・手続遅延の可能性が高い不動産が多い、再婚家庭、相続人の不仲、介護貢献の差、疎遠な相続人がいる等
検討推奨遺言書がなくても何とかなるが、あれば安心財産は比較的単純だが、家族に手続負担をかけたくない等
必要性低め法定相続でも不都合が少ない相続人が1人だけ、財産が少額・単純、特別な希望がない等

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Section 02

遺言書 ― まず押さえるべき基本用語

重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。

2-1. 遺言と遺言書

「遺言」とは、本人が死亡後に効力を発生させる法律上の意思表示です。「遺言書」は、その意思表示を法律上有効な形式で記載した文書です。

日常語では「ゆいごん」と読まれることが多いですが、法律実務では「いごん」と読まれることもあります。読み方よりも重要なのは、民法上の方式に適合しているかです。

たとえば、次のようなものは、気持ちを伝える資料にはなっても、原則として遺言そのものにはなりません。

  • エンディングノート
  • 家族への手紙
  • スマートフォンの録音・動画
  • パソコンで作成しただけの自筆証書遺言本文
  • 署名・日付・押印などの要件を欠くメモ

もっとも、2026年5月2日現在、政府は遺言制度のデジタル化を含む民法等改正法案を国会に提出しています。ただし、提出段階の法案は、成立・公布・施行を経るまで現行制度として利用できるものではありません。現時点で遺言を作る場合は、現行法上の方式に従う必要があります。

2-2. 法定相続人

法定相続人とは、民法上、相続人となる人です。配偶者は常に相続人となり、血族相続人は子、直系尊属、兄弟姉妹という順位で相続人になります。政府広報も、法定相続人を、亡くなった人の配偶者と一定の血族として説明しています。

たとえば、亡くなった人に配偶者と子がいれば、通常は配偶者と子が相続人です。子がいなければ、直系尊属、さらに直系尊属もいなければ兄弟姉妹が相続人となる可能性があります。

2-3. 法定相続分

法定相続分とは、民法が定める相続分の目安です。典型例は次のとおりです。

次の比較表は、この章の判断材料を整理したものです。項目の違いを見落とさないために重要です。各列を比べて、自分の状況に関係する要素を読み取ってください。

相続人の組み合わせ法定相続分の基本
配偶者と子配偶者2分の1、子2分の1
配偶者と直系尊属配偶者3分の2、直系尊属3分の1
配偶者と兄弟姉妹配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1
子のみ子が全体を取得し、複数なら原則均等

ただし、法定相続分は「必ずその割合で現物を分けなければならない」という意味ではありません。相続人全員が合意すれば、遺産分割協議によって別の分け方をすることもできます。逆に、合意できない場合には、家庭裁判所の調停・審判に進むことがあります。

2-4. 遺産分割協議

遺産分割協議とは、相続人全員で、遺産を誰がどのように取得するかを決める話し合いです。

遺言書がない場合、多くの相続では遺産分割協議が必要になります。預貯金、不動産、株式、自動車、事業用財産などを具体的に誰へ移すかを決めるためには、相続人全員の関与が必要になる場面が少なくありません。

ここに、遺言書の大きな意味があります。遺言書があれば、本人があらかじめ「誰に、何を、どの割合で承継させるか」を指定できます。遺産分割協議の負担を減らし、場合によっては協議そのものを不要または簡略にできます。

2-5. 遺留分

遺留分とは、兄弟姉妹以外の一定の相続人に最低限保障される相続上の利益です。民法1042条以下に規定があります。

重要なのは、遺言書を書けば何でも自由にできるわけではないという点です。たとえば、「全財産を長男に相続させる」と書いても、配偶者や他の子に遺留分がある場合、遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。現在の制度では、遺留分を侵害された相続人は、原則として侵害額に相当する金銭を請求する形になります。

一方で、兄弟姉妹には遺留分がありません。したがって、子のいない夫婦で、相続人が配偶者と兄弟姉妹になる場面では、遺言書により配偶者へ全財産を残す設計が重要になることがあります。

2-6. 検認

検認とは、家庭裁判所が遺言書の存在・形状・日付・署名・加除訂正の状態などを確認し、偽造・変造を防止するための手続です。裁判所は、検認は遺言の有効・無効を判断する手続ではないと説明しています。公正証書遺言や、法務局で保管されている自筆証書遺言に関する遺言書情報証明書については、検認は不要です。

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Section 03

遺言書がない場合に何が起こるか

重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。

遺言書がない場合、相続は主に次の流れで進みます。

  1. 法定相続人を確定する
  2. 相続財産と債務を調査する
  3. 必要に応じて相続放棄・限定承認を検討する
  4. 相続人全員で遺産分割協議をする
  5. 預貯金解約、不動産の相続登記、株式・保険・車両等の名義変更を行う
  6. 必要に応じて相続税申告を行う

この流れが円滑に進むなら、遺言書の必要性は相対的に低くなります。ところが、次のような問題があると、遺言書がないことが大きな負担になります。

  • 相続人の一部と連絡が取れない
  • 相続人同士の関係が悪い
  • 不動産を誰が取得するかで意見が割れる
  • 預貯金をすぐ使いたいのに手続が止まる
  • 介護をした人としなかった人の間で不公平感がある
  • 再婚家庭で前婚の子と現在の配偶者が共同相続人になる
  • 事実婚・同性パートナー・友人・団体など、法定相続人ではない人に財産を残したい
  • 会社株式や事業用不動産を後継者に集中させたい
  • 遺産に占める不動産の割合が大きく、現金で調整しにくい

遺言書は、これらの問題をすべて魔法のように消すものではありません。しかし、本人の意思を法律上の文書として明確にし、相続開始後の交渉コストを大きく下げる役割を持ちます。

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Section 04

遺言書が必要な人の典型例

重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。

ここからは、「遺言書が必要な人と必要でない人の違い」を具体的に見ていきます。

4-1. 子どもがいない夫婦

子どもがいない夫婦では、遺言書の必要性が非常に高くなることがあります。

たとえば、夫が死亡し、妻はいるが子はいない場合、夫の父母が存命であれば妻と父母が相続人になる可能性があります。父母がいなければ、兄弟姉妹が相続人になる可能性があります。つまり、妻がすべてを当然に取得するとは限りません。

特に、相続人が「配偶者と兄弟姉妹」になる場合、遺言書がなければ、配偶者と兄弟姉妹が共同相続人となります。配偶者が自宅や預貯金を取得したいと思っても、兄弟姉妹との協議が必要になる可能性があります。

この場面で「全財産を配偶者に相続させる」という遺言書があると、配偶者の生活保障に大きく役立ちます。兄弟姉妹には遺留分がないため、遺留分の点でも比較的設計しやすい類型です。

4-2. 内縁の配偶者・同性パートナー・婚姻していない相手に財産を残したい人

法律上の婚姻関係にないパートナーは、原則として法定相続人ではありません。長年一緒に生活していても、遺言書がなければ当然に相続できるわけではありません。

したがって、次のような相手に財産を残したい場合は、遺言書の必要性が高いといえます。

  • 内縁の配偶者
  • 同性パートナー
  • 婚約者
  • 長年世話をしてくれた友人
  • 同居しているが養子縁組していない親族
  • 特定の団体・学校・NPO・公益法人

このような相手に財産を残すには、「相続させる」ではなく「遺贈する」という法的構成を使うことが多くなります。相続人ではない人への遺贈は、文言や対象財産の特定、税務、遺言執行者の指定などを慎重に設計する必要があります。

4-3. 再婚している人、前婚の子がいる人

再婚家庭では、相続関係が複雑になりやすくなります。

たとえば、現在の配偶者と、前婚の子が共同相続人になる場合があります。現在の配偶者と前婚の子の関係が良好であれば問題が少ない場合もありますが、疎遠であったり、互いの生活実態を知らなかったりすると、遺産分割協議が難航しやすくなります。

また、配偶者の連れ子は、養子縁組をしていなければ、原則として法定相続人ではありません。連れ子に財産を残したい場合、養子縁組をするか、遺言書で遺贈するか、別の生前対策を検討する必要があります。

再婚家庭では、「誰に何を残したいか」だけでなく、遺留分、生活保障、感情的対立、説明可能性を含めた設計が重要です。

4-4. 特定の子に多く残したい人

「同居して介護してくれた長女に多く残したい」「家業を継ぐ長男に事業用財産を残したい」「障害のある子の生活費を多めに確保したい」といった希望がある場合、遺言書は強く推奨されます。

遺言書がない場合、相続人は法定相続分を前提に話し合うことが多くなります。もちろん、相続人全員が納得すれば、介護貢献などを考慮した分割も可能です。しかし、全員の同意が必要です。

特定の人に多く残したい場合は、遺言書でその意思を明確にしておくことが重要です。ただし、他の相続人に遺留分がある場合は、遺留分侵害額請求を受けないよう、または請求されても解決できるよう、現金・保険・代償金の設計を含めて検討する必要があります。

4-5. 不動産が主な財産である人

財産の多くが自宅や土地であり、現預金が少ない場合、遺言書の必要性は高くなります。

不動産は、現金のように簡単に分けられません。相続人が複数いる場合、共有にすると、売却・賃貸・建替え・担保設定などに全員の関与が必要になり、将来の管理が難しくなることがあります。

特に次のような不動産は、遺言書で承継先を決めておく価値があります。

  • 配偶者が住み続ける自宅
  • 事業用不動産
  • 賃貸アパート・マンション
  • 共有状態にしたくない土地
  • 山林・農地・遠方の土地
  • 境界や管理に問題がある不動産
  • 価値は高いが現金化しにくい不動産

また、2024年4月1日から相続登記の申請が義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から原則3年以内に相続登記をする必要があります。正当な理由なく申請を怠ると、10万円以下の過料の対象になり得ます。 遺言書があれば、誰が不動産を取得するかを明確にし、登記手続を進めやすくする効果が期待できます。

4-6. 会社経営者・個人事業主・自社株式を持つ人

会社経営者や個人事業主にとって、遺言書は事業承継の中核資料になり得ます。

特に、中小企業では、自社株式や事業用不動産、事業用口座、代表者保証、取引先との関係が相続と密接に結びつきます。遺言書がないまま経営者が亡くなると、株式が複数の相続人に分散し、経営権が不安定になるおそれがあります。

事業承継で重要なのは、単に「後継者に株を渡す」と書くことではありません。次のような総合設計が必要です。

  • 後継者に議決権を集中させる
  • 非後継者の遺留分・生活保障に配慮する
  • 自社株評価と相続税資金を検討する
  • 事業用不動産の所有・賃貸関係を整理する
  • 会社の定款、株主間契約、役員構成と整合させる
  • 遺言執行者を指定する
  • 税理士、弁護士、司法書士、金融機関との連携を確保する

事業承継型の遺言書は、一般的な自筆証書遺言だけで済ませるにはリスクが高いことが多く、公正証書遺言や専門家によるレビューが強く推奨されます。

4-7. 相続人同士の仲が悪い、または疎遠である人

相続人同士の関係が悪い場合、遺言書の必要性は高くなります。

次のような事情がある場合は、早めに検討すべきです。

  • 兄弟姉妹の仲が悪い
  • 親子が長年疎遠である
  • 一部の相続人が海外・遠方に住んでいる
  • 連絡先が分からない相続人がいる
  • 相続人の一部が親の財産管理を疑っている
  • 生前贈与の有無で争いが起きそう
  • 介護の負担に偏りがあった
  • 親族間で過去に金銭トラブルがあった

遺言書は、相続人間の感情的対立を完全に防ぐものではありません。しかし、少なくとも「本人はどう考えていたのか」という基準点を残せます。さらに付言事項を活用すれば、法的効力とは別に、なぜそのような分け方にしたのかを家族に説明できます。

4-8. 相続人の中に未成年者、認知症の人、障害のある人がいる場合

相続人の中に未成年者や判断能力に不安のある人がいる場合、遺産分割協議が複雑になることがあります。

未成年者が相続人になる場合、親権者との利益相反が生じると特別代理人の選任が必要になることがあります。判断能力が不十分な相続人がいる場合は、成年後見制度等の利用が必要になる可能性があります。

遺言書があれば、遺産分割協議を回避または簡素化できる可能性があります。ただし、本人の生活保障、財産管理、福祉制度、成年後見、信託、任意後見、死後事務委任などとの関係を慎重に検討する必要があります。

4-9. 寄付・遺贈をしたい人

母校、医療機関、福祉団体、NPO、公益法人、自治体などへ財産を残したい場合、遺言書は基本的に必要です。

この場合、注意点は次のとおりです。

  • 受け入れ先が遺贈を受けられるか確認する
  • 現金で渡すのか、不動産で渡すのかを検討する
  • 不動産の場合、管理・売却・税務負担の問題がある
  • 相続人の遺留分を侵害しないか確認する
  • 遺言執行者を指定する
  • 団体名、所在地、法人番号等を正確に記載する

遺贈寄付は、社会的意義が大きい一方、文言ミスや財産特定の不備があると実現が難しくなるため、専門家の確認が望ましい分野です。

4-10. 遺言執行者を指定したい人

遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続を行う人です。預貯金の解約、不動産登記、株式の名義変更、遺贈の履行など、遺言内容によって役割は大きくなります。

遺言執行者を指定しておくと、相続開始後に誰が手続を進めるのかが明確になります。特に、相続人が多い場合、相続人以外に遺贈する場合、相続人同士の関係が悪い場合には、遺言執行者の指定が重要です。

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Section 05

遺言書が必要でない人、または必要性が低い人の典型例

重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。

5-1. 相続人が1人だけで、特別な希望がない人

相続人が1人だけで、その人にすべて相続されることに問題がない場合、遺言書の必要性は相対的に低くなります。

たとえば、配偶者はすでに亡くなり、子が1人だけで、その子にすべて渡したいという場合です。この場合、遺産分割協議で他の相続人の同意を得る必要がないため、手続上の争いは比較的少ないと考えられます。

ただし、不動産が多い、財産の所在が分かりにくい、相続人が手続に不慣れ、相続税申告が必要、遺言執行者を置きたい、といった事情があれば、遺言書を作成する意味はあります。

5-2. 法定相続分どおりでよく、相続人全員の関係が良好な人

相続人全員が近くに住み、関係も良好で、財産も預貯金中心で単純な場合、遺言書がなくても大きな問題にならないことがあります。

たとえば、配偶者と子2人が相続人で、家族全員が「母が自宅と生活資金を取得し、子は残りを必要に応じて話し合う」と共通理解を持っているような場合です。

ただし、相続では「仲が良いから大丈夫」と思っていても、配偶者の再婚、子の配偶者の意見、介護負担、住宅ローン、事業失敗、相続税、相続人自身の病気などによって状況が変わることがあります。必要性が低い場合でも、簡潔な遺言書を作る意義は残ります。

5-3. 財産が少額で、相続手続も単純な人

預貯金が少額で、不動産や株式がなく、相続人も少なく、特別な希望がない場合、遺言書の必要性は低めです。

ただし、「財産が少ないから争いが起きない」とは限りません。相続争いは金額の大小だけでなく、感情、介護、同居、過去の贈与、親の発言の記憶によって起きます。

財産額が少ない場合でも、次のような事情があれば遺言書を検討すべきです。

  • 一部の相続人と疎遠
  • 介護した人に多く残したい
  • 内縁の相手に生活資金を残したい
  • 形見分けで揉めそう
  • 預金を葬儀費用に使いやすくしたい
  • 相続人の一人が手続を主導できない

5-4. 借金対策だけが目的の人

「借金を特定の相続人にだけ負わせたい」「相続人に借金を相続させたくない」という目的だけで遺言書を作る場合、注意が必要です。

遺言書で債務の負担者を内部的に指定しても、債権者との関係では当然にその指定どおりになるとは限りません。借金が多い場合に重要なのは、相続人が相続放棄や限定承認を検討することです。

債務超過が疑われる場合は、遺言書よりも、財産・債務の一覧化、保証債務の確認、相続人への情報共有、弁護士への相談が重要になります。

5-5. 葬儀・供養・医療の希望だけを残したい人

葬儀の形式、納骨、供養、延命治療、ペットの世話などの希望だけを残したい場合、遺言書だけでは不十分なことがあります。

遺言書に付言事項として気持ちを書くことはできます。しかし、葬儀や医療に関する希望は、遺言書の開封・確認前に問題になることが多く、法的拘束力にも限界があります。

この場合は、遺言書に加えて、または遺言書ではなく、次のような手段を検討します。

  • エンディングノート
  • 任意後見契約
  • 死後事務委任契約
  • 財産管理委任契約
  • 家族への事前説明
  • 葬儀社・寺院・霊園との契約
  • ペット信託・世話人との契約

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Section 06

判断基準 ― 遺言書が必要かどうかを決める10の質問

重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。

次の判断の流れは、遺言書を検討すべき事情を順番に確認するものです。該当項目が増えるほど、自己流で進めるリスクが高まります。上から順に、自分に当てはまる要素を読み取ってください。

遺言書の必要性を確認する順番

法定相続人以外に残したい人がいるか

内縁の相手、友人、団体などがいる場合は必要性が高くなります。

家族関係が複雑か

再婚、前婚の子、連れ子、養子、疎遠な相続人を確認します。

財産が分けにくいか

不動産、会社株式、事業用資産がある場合は承継先を明確にします。

特定の人に多く残したいか

介護、事業承継、生活保障、寄付などの理由を整理します。

専門家相談を検討

3つ以上当てはまる場合は専門家確認の優先度が高まります。

次の質問に1つでも「はい」があれば、遺言書の作成を検討すべきです。3つ以上「はい」がある場合は、専門家への相談を強く推奨します。

  1. 法定相続人以外に財産を残したい人がいるか
  2. 子どもがいない夫婦か
  3. 再婚、前婚の子、連れ子、養子、認知した子などが関係するか
  4. 相続人同士の関係が悪い、または疎遠か
  5. 不動産が主な財産か
  6. 会社株式、事業用資産、賃貸不動産があるか
  7. 特定の相続人に多く残したい理由があるか
  8. 相続人の中に未成年者、認知症、障害、浪費、破産などの事情があるか
  9. 寄付・遺贈をしたいか
  10. 相続開始後の手続を特定の人に任せたいか

反対に、次のすべてに当てはまる場合、遺言書の必要性は比較的低いと考えられます。

  • 相続人が少ない
  • 相続人同士の関係が良好
  • 財産が預貯金中心で単純
  • 不動産や事業用財産がない
  • 法定相続分または家族の合意どおりでよい
  • 相続人以外に財産を渡す希望がない
  • 遺留分をめぐる問題がない
  • 相続税申告の可能性が低い
  • 相続開始後に手続を主導できる人がいる

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Section 07

遺言書の種類と選び方

重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。

次の比較一覧は、主な遺言方式の特徴を整理したものです。費用だけでなく、検認、保管、無効リスクが異なるため重要です。自分の紛争リスクに合う方式を読み取ってください。

自筆

自筆証書遺言

費用を抑えやすい一方、方式不備、紛失、未発見のリスクがあります。

保管

法務局保管制度

検認不要や保管面の利点がありますが、内容の法律的妥当性までは保証されません。

公正

公正証書遺言

公証人と証人が関与し、複雑な相続や紛争リスクがある場合に候補になりやすい方式です。

7-1. 自筆証書遺言

自筆証書遺言は、本人が自書して作成する遺言です。費用を抑えやすく、いつでも作成できるのが利点です。

現行法上、自筆証書遺言では、財産目録以外の本文、日付、氏名を本人が自書し、押印する必要があります。2019年の改正により、財産目録についてはパソコン作成や通帳コピー、不動産登記事項証明書の添付などが認められましたが、その場合でも各ページに署名・押印が必要です。法務省も、自筆証書遺言に関するルールとして、財産目録以外は自書が必要である旨を説明しています。

自筆証書遺言の弱点は、方式不備、紛失、改ざん、発見されないリスクです。特に、日付の記載が不明確、押印がない、本文がパソコン作成、訂正方法が不適切、財産の特定が不十分といったミスは、深刻な問題になり得ます。

7-2. 自筆証書遺言書保管制度

自筆証書遺言書保管制度は、法務局が自筆証書遺言書を保管する制度です。法務省は、保管申請ができるのは遺言者本人のみで、代理人や郵送による申請はできないと案内しています。 また、保管申請の手数料は遺言書1通につき3,900円です。

この制度の大きな利点は、保管された自筆証書遺言について、相続開始後の家庭裁判所の検認が不要になることです。法務省の制度案内でも、保管制度のメリットとして検認不要が示されています。

ただし、法務局は遺言内容の法律的妥当性まで審査してくれるわけではありません。つまり、形式面の保管制度であって、内容面の法的助言制度ではありません。遺留分、税務、不動産、事業承継、遺贈先の適格性などに不安がある場合は、専門家の確認が必要です。

7-3. 公正証書遺言

公正証書遺言は、公証人が関与して作成する遺言です。日本公証人連合会は、公正証書遺言について、遺言者本人が公証人と証人2名の前で遺言内容を述べ、公証人がその真意を確認したうえで文書化し、読み聞かせまたは閲覧により内容を確認して作成するものと説明しています。

公正証書遺言の主な利点は次のとおりです。

  • 方式不備で無効になるリスクが比較的小さい
  • 自書が困難でも作成しやすい
  • 公証役場で原本が保管される
  • 家庭裁判所の検認が不要
  • 高齢・病気等で公証役場に行きにくい場合、出張対応が可能なことがある
  • 複雑な内容でも公証人の関与を得られる

日本公証人連合会も、公正証書遺言は家庭裁判所での検認手続を経る必要がないため、相続開始後、速やかに遺言内容を実現しやすいと説明しています。

一方で、公正証書遺言には費用と証人2名が必要です。とはいえ、紛争リスクが高い場合、財産額が大きい場合、不動産や事業承継がある場合、相続人以外への遺贈がある場合には、公正証書遺言が第一候補になりやすいといえます。

7-4. 秘密証書遺言

秘密証書遺言は、内容を秘密にしたまま、公証人と証人の関与により遺言書の存在を証明する方式です。本文を自書する必要はありませんが、手続が複雑で、内容の有効性が公証人に確認されるわけではありません。また、相続開始後に検認が必要です。

実務上は、自筆証書遺言または公正証書遺言が選ばれることが多く、秘密証書遺言は一般の方にとって第一選択になりにくい方式です。

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Section 08

遺言書 ― 遺留分を踏まえた「必要性」の考え方

重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。

遺言書が必要かどうかを判断するとき、遺留分は避けて通れません。

8-1. 遺留分が問題になるケース

次のような遺言は、遺留分問題を生じやすいです。

  • 「全財産を長男に相続させる」
  • 「全財産を配偶者に相続させるが、子がいる」
  • 「世話をしてくれた友人に大半を遺贈する」
  • 「会社株式を後継者にすべて相続させる」
  • 「疎遠な子には一切残さない」
  • 「介護してくれなかった子には残さない」

遺言者には財産処分の自由がありますが、一定の相続人には遺留分があります。遺留分を無視した遺言は、相続開始後に金銭請求を誘発し、かえって争いを大きくすることがあります。

8-2. 遺留分を踏まえた設計例

遺留分への配慮方法には、次のようなものがあります。

  • 遺留分相当額を現金で残す
  • 生命保険や預貯金で代償資金を確保する
  • 不動産を取得する相続人に代償金の準備を促す
  • 付言事項で分け方の理由を説明する
  • 生前贈与の履歴を整理する
  • 遺留分を侵害する場合の交渉方針を事前に検討する
  • 遺言執行者を指定する
  • 弁護士に文案を確認してもらう

8-3. 兄弟姉妹には遺留分がないという重要ポイント

子どもがいない夫婦にとって特に重要なのが、兄弟姉妹には遺留分がないという点です。相続人が配偶者と兄弟姉妹になる場合、遺言書で配偶者に全財産を残す設計がしやすいことがあります。

この意味で、子どもがいない夫婦は「財産が多いから遺言書が必要」なのではなく、相続人の構成上、遺言書の効果が非常に大きいため、必要性が高いのです。

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Section 09

税務との関係 ― 遺言書は相続税対策そのものではない

重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。

遺言書は、誰に何を承継させるかを決める法的文書です。一方、相続税対策は、財産評価、基礎控除、配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例、生前贈与、納税資金、二次相続などを含む税務上の検討です。

国税庁は、相続税の計算において、課税価格の合計額から基礎控除額を差し引き、基礎控除額を「3,000万円+600万円×法定相続人の数」と説明しています。

遺言書を作るだけで相続税が下がるわけではありません。しかし、遺言書の内容次第で、税務上の特例の使いやすさ、納税資金の確保、二次相続の負担に影響することがあります。

たとえば、自宅を誰が取得するか、配偶者がどの程度取得するか、賃貸不動産を誰が承継するか、会社株式を誰が持つかは、税務と密接に関係します。相続税がかかる可能性がある場合、遺言書は税理士の助言とセットで検討するのが望ましいといえます。

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Section 10

遺言書 ― 弁護士に相談すべきケース

重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。

次の一覧は、専門家に相談する価値が高い場面を分類したものです。問題の種類によって必要な確認資料が変わるため重要です。どの分類に当てはまるかを読み取ってください。

紛争が予想される

相続人同士の不仲、疎遠、一部に多く残したい事情などがあります。

紛争

家族関係が複雑

再婚、前婚の子、内縁、海外在住者、多数の相続人などがあります。

家族

財産が複雑

複数不動産、自社株式、収益物件、保証債務などがあります。

財産

判断能力が問題

高齢、認知症、入院、服薬、家族の強い関与がある場合です。

能力

遺言書は自分で作成できます。しかし、次のようなケースでは、弁護士に相談する価値が高いです。

10-1. 紛争が予想されるケース

  • 相続人同士の仲が悪い
  • 疎遠な相続人がいる
  • 一部の相続人にだけ多く残したい
  • 遺留分侵害が見込まれる
  • 生前贈与や使途不明金をめぐる疑いがある
  • 介護貢献について不満が出そう
  • すでに親族間で相続の話が揉めている

10-2. 家族関係が複雑なケース

  • 再婚している
  • 前婚の子がいる
  • 認知した子がいる
  • 養子縁組をしている
  • 連れ子に財産を残したい
  • 内縁・同性パートナーに財産を残したい
  • 相続人の一部が海外在住
  • 相続人が多数いる

10-3. 財産が複雑なケース

  • 不動産が複数ある
  • 共有不動産がある
  • 収益物件がある
  • 自社株式がある
  • 事業用財産がある
  • 借入・保証債務がある
  • 海外資産がある
  • 暗号資産・デジタル資産がある

10-4. 本人の判断能力が問題になり得るケース

高齢、認知症の診断、入院、施設入所、服薬、家族による強い関与などがある場合、遺言能力が争われる可能性があります。

この場合、公正証書遺言を選ぶだけでなく、作成時の診断書、面談記録、意思確認の経緯、財産内容の理解、遺言内容の合理性などを慎重に整える必要があります。弁護士や公証人との相談が重要です。

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Section 11

遺言書 ― 弁護士相談に持参するとよい資料

重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。

次の一覧は、専門家に相談する価値が高い場面を分類したものです。問題の種類によって必要な確認資料が変わるため重要です。どの分類に当てはまるかを読み取ってください。

紛争が予想される

相続人同士の不仲、疎遠、一部に多く残したい事情などがあります。

紛争

家族関係が複雑

再婚、前婚の子、内縁、海外在住者、多数の相続人などがあります。

家族

財産が複雑

複数不動産、自社株式、収益物件、保証債務などがあります。

財産

判断能力が問題

高齢、認知症、入院、服薬、家族の強い関与がある場合です。

能力

遺言書について弁護士に相談する場合、次の資料があると相談が具体的になります。

次の比較表は、この章の判断材料を整理したものです。項目の違いを見落とさないために重要です。各列を比べて、自分の状況に関係する要素を読み取ってください。

資料目的
家族関係図法定相続人、遺留分、関係性を把握する
戸籍資料相続人の範囲を確認する
固定資産税納税通知書不動産の概算評価を把握する
登記事項証明書不動産の名義・権利関係を確認する
預貯金通帳・残高一覧金融資産を把握する
株式・投資信託・証券口座資料有価証券を把握する
生命保険証券受取人・保険金を確認する
借入金・保証債務資料債務承継リスクを確認する
会社資料自社株式・役員構成・定款を確認する
希望する分け方のメモ遺言内容の原案にする
家族間トラブルの経緯メモ紛争リスクを評価する
医師の診断書等遺言能力が問題になりそうな場合に検討する

最初から完璧にそろえる必要はありません。大切なのは、「誰に、何を、なぜ残したいのか」を自分の言葉で整理しておくことです。

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Section 12

ケース別に見る「遺言書が必要な人と必要でない人の違い」

重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。

ケース1 ― 夫婦のみ、子どもなし、夫の兄弟がいる

必要性 ― 非常に高い。

夫が亡くなると、妻と夫の兄弟姉妹が相続人になる可能性があります。妻に全財産を残したい場合、遺言書が重要です。兄弟姉妹には遺留分がないため、適切な遺言書を作成する効果は大きいです。

ケース2 ― 配偶者と子2人、全員仲が良く、財産は預金のみ

必要性 ― 低めから中程度。

法定相続や家族間の協議で円滑に進む可能性があります。ただし、配偶者の生活資金を優先したい、葬儀後の手続を簡単にしたい、子の一方が遠方に住んでいる、といった事情があれば遺言書を検討する価値があります。

ケース3 ― 再婚し、前婚の子と現在の配偶者がいる

必要性 ― 高い。

相続人間の感情的対立が起きやすく、遺産分割協議が難航する可能性があります。現在の配偶者の住まい、前婚の子の遺留分、財産形成の経緯を踏まえた設計が必要です。

ケース4 ― 長男が家業を継ぎ、他の子は会社に関与していない

必要性 ― 非常に高い。

自社株式や事業用資産を後継者に集中させないと、経営に支障が出る可能性があります。一方で、他の子の遺留分や生活保障にも配慮しなければ、相続開始後に紛争化します。

ケース5 ― 独身で相続人がいないが、特に希望もない

必要性 ― 本人の希望次第。

相続人がいない場合、特別縁故者への財産分与や国庫帰属の問題が生じ得ます。誰かに残したい、団体に寄付したい、ペットの世話を頼みたいという希望があるなら、遺言書や死後事務委任契約等が重要です。逆に、特に希望がないなら遺言書の必要性は高くありません。

ケース6 ― 相続財産の大半が自宅不動産

必要性 ― 高い。

不動産は分けにくく、共有にすると将来の管理・売却で問題が起きやすいです。配偶者が住み続けるのか、同居の子が取得するのか、売却して分けるのかを明確にしておく必要があります。

ケース7 ― 財産は少ないが、内縁の相手に残したい

必要性 ― 非常に高い。

財産額が少なくても、内縁の相手は原則として法定相続人ではありません。財産を残したいなら、遺言書による遺贈が重要です。

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Section 13

遺言書作成で失敗しやすいポイント

重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。

13-1. 「長男に任せる」とだけ書く

誰に何を取得させるのかが不明確な遺言は、実行段階で争いを生みます。「任せる」「よろしく頼む」「面倒を見てほしい」だけでは、法的効果が明確でないことがあります。

13-2. 財産の特定が不十分

不動産は所在、地番、家屋番号などで特定するのが望ましいです。預貯金は金融機関名、支店名、口座種別、口座番号などを整理します。もっとも、財産が変動することもあるため、「その他一切の財産」をどう扱うかも重要です。

13-3. 日付が不明確

自筆証書遺言では日付が重要です。「令和6年3月吉日」のように日付が特定できない記載は問題になり得ます。年月日を明確に書く必要があります。

13-4. 遺留分を無視する

遺留分を無視した遺言は、相続開始後に請求を誘発する可能性があります。あえて侵害する場合でも、なぜその設計にするのか、支払原資をどう確保するのかを検討すべきです。

13-5. 受遺者が先に亡くなるリスクを考えていない

遺言で財産を受け取る予定の人が、遺言者より先に亡くなることがあります。その場合に備えて、予備的な承継先を定めることがあります。

13-6. 遺言執行者を指定していない

相続人以外への遺贈や、相続人間の対立が予想される場合、遺言執行者の指定がないと手続が滞ることがあります。

13-7. 保管場所を家族が知らない

自筆証書遺言を作っても、発見されなければ意味がありません。自宅保管の場合、紛失、破棄、隠匿、改ざんのリスクがあります。法務局の自筆証書遺言書保管制度や公正証書遺言の利用を検討すべきです。

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Section 14

遺言書 ― 付言事項の役割

重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。

付言事項とは、遺言書の中で、法的効果を直接生じさせる条項とは別に、家族への思い、分け方の理由、感謝、葬儀の希望などを書く部分です。

付言事項には、通常、財産を移転させるような直接の法的効力はありません。しかし、実務上は重要です。なぜなら、相続人は「なぜ自分の取り分が少ないのか」「なぜこの人に多く残したのか」を知りたいからです。

たとえば、次のような説明が考えられます。

  • 配偶者の老後生活を守るため、自宅と預貯金を配偶者に残す
  • 長女が長年介護してくれたため、その貢献に報いる
  • 長男には生前に住宅資金を援助したため、遺言では調整する
  • 家業を守るため、会社株式は後継者に集中させる
  • 家族全員が争わず、互いを尊重してほしい

付言事項は、争いを完全に防ぐものではありません。しかし、本人の意思の背景を残すことで、相続人の納得を助けることがあります。

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Section 15

遺言書 ― 2026年時点の改正動向 ― デジタル遺言は「今すぐ使える制度」ではない

重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。

2026年4月3日、法務省は、遺言制度の見直しを含む「民法等の一部を改正する法律案」を国会に提出しました。法務省の法律案ページでも、国会提出日が令和8年4月3日とされています。

報道・専門家解説では、パソコンやスマートフォンで作成する新たな方式、いわゆるデジタル遺言・保管証書遺言が話題になっています。しかし、重要なのは、2026年5月2日現在、これは現行の利用可能制度ではなく、法案段階の制度であるという点です。

したがって、今すぐ遺言書を作る場合は、現行制度である次の方式を検討します。

  • 自筆証書遺言
  • 自筆証書遺言書保管制度
  • 公正証書遺言
  • 秘密証書遺言

将来の制度改正を待つより、現在の家族状況・健康状態・財産状況に応じて、現行制度で有効な遺言書を作る方が安全な場合が多いです。

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Section 16

実務的な結論 ― 遺言書が必要な人と必要でない人の違い

重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。

次の重要ポイントは、遺言書の必要性を判断する軸を整理したものです。財産額だけで判断しないことが重要です。本人の希望と法律の初期設定のズレを読み取ってください。

FAMILY

家族構成

子どもがいない、再婚、前婚の子、内縁の相手、疎遠な相続人がいる場合は必要性が上がります。

ASSET

財産構成

不動産、自社株式、事業用財産など分けにくい財産がある場合は承継先の指定が重要です。

WISH

本人の希望

法定相続人以外に残したい、特定の人に多く残したい、寄付したい場合は遺言書が重要です。

最終的に、遺言書が必要な人と必要でない人の違いは、次のように整理できます。

遺言書が必要な人

  • 法定相続人以外に財産を残したい人
  • 子どもがいない夫婦
  • 再婚・前婚の子・連れ子・養子など家族関係が複雑な人
  • 特定の相続人に多く残したい人
  • 不動産が主な財産である人
  • 会社経営者・個人事業主
  • 相続人同士の不仲・疎遠がある人
  • 相続人に未成年者や判断能力に不安のある人がいる人
  • 寄付・遺贈をしたい人
  • 遺言執行者を指定したい人
  • 相続税・登記・事業承継を見据えて承継設計をしたい人

遺言書が必要でない、または必要性が低い人

  • 相続人が1人で、すべてその人に渡したい人
  • 相続人全員の関係が良好で、財産も単純な人
  • 法定相続分どおりで問題がない人
  • 相続人以外に財産を渡す希望がない人
  • 不動産・事業・高額資産がない人
  • 遺留分や相続税の問題が見込まれない人
  • 葬儀や供養の希望だけを残したい人

ただし、必要性が低い人でも、遺言書を作ることで、相続人の手続負担を減らせる場合があります。「必要でない」と「作る価値がない」は同義ではありません。

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Section 17

遺言書 ― よくある質問

重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。

Q1. 遺言書はお金持ちだけが作るものですか。

いいえ。遺言書の必要性は財産額だけでは決まりません。内縁の相手に残したい、子どもがいない、相続人同士が不仲、不動産が1つだけある、介護してくれた人に多く残したい、といった事情があれば、財産額が大きくなくても必要性は高くなります。

Q2. 遺言書があれば相続争いは必ず防げますか。

必ずではありません。遺留分、遺言能力、方式不備、解釈の曖昧さ、財産漏れなどをめぐって争いになることがあります。ただし、適切に作成された遺言書は、争点を減らし、本人の意思を明確にする効果があります。

Q3. 自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらがよいですか。

簡単な内容で、費用を抑えたい場合は自筆証書遺言も選択肢です。ただし、紛争リスクが高い場合、不動産や事業承継がある場合、相続人以外へ遺贈する場合、本人の判断能力が後に争われそうな場合は、公正証書遺言が適していることが多いです。

Q4. 法務局の自筆証書遺言書保管制度を使えば安心ですか。

紛失・改ざん・未発見のリスクを減らし、検認も不要になるため有用です。ただし、法務局が遺言内容の法律的妥当性まで保証するわけではありません。遺留分や税務、不動産の分け方などは別途検討が必要です。

Q5. 認知症になったら遺言書は作れませんか。

認知症の診断があるから直ちに無効というわけではありません。重要なのは、遺言作成時に、遺言の内容・財産・相続人・結果を理解する能力があったかです。ただし、後に争われやすいため、公正証書遺言、医師の診断書、作成経緯の記録など慎重な対応が必要です。

Q6. 親に遺言書を書いてもらいたい場合、子が文案を作ってよいですか。

本人の意思に基づくことが絶対条件です。子が強く誘導したり、本人が内容を理解しないまま署名したりすると、無効や紛争の原因になります。子が資料整理を手伝うことはあり得ますが、最終的な意思決定は本人が自由に行う必要があります。

Q7. 遺言書で相続人の借金負担を指定できますか。

相続人間の内部的な負担調整として意味を持つことはありますが、債権者との関係で当然にその指定が通用するとは限りません。借金が多い場合は、相続放棄、限定承認、保証債務の確認などを弁護士に相談すべきです。

Q8. 遺言書を書いた後、内容を変えられますか。

変更できます。遺言は撤回・変更が可能です。新しい遺言を作る場合、前の遺言との矛盾が問題になるため、古い遺言を明確に撤回する文言を入れるなど、整理して作成するのが望ましいです。

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Section 18

遺言書 ― まとめ

重要な判断材料を、制度・手続・実務上の注意点に分けて確認します。

「遺言書が必要な人と必要でない人の違い」は、財産の多寡ではなく、本人の希望と、法律の初期設定とのズレにあります。

法律の初期設定どおりで問題がなく、相続人全員の協議も円滑に進む見込みが高いなら、遺言書の必要性は低くなります。一方、法定相続人以外に残したい、特定の人に多く残したい、子どもがいない、再婚家庭である、不動産や事業用財産がある、相続人間に不和がある場合は、遺言書の必要性が高くなります。

遺言書は、単なる終活文書ではありません。相続人の権利、遺留分、不動産登記、税務、事業承継、家族の生活保障を横断する法的設計図です。だからこそ、必要性が高い人ほど、自己流で済ませず、弁護士、公証人、司法書士、税理士などの専門家の関与を検討すべきです。

最後に、遺言書の本質は「死後の財産処分」だけではありません。残された人に、迷いと争いをできるだけ残さないための意思表示です。財産が多いか少ないかではなく、家族に何を残したいか、誰を守りたいか。その観点から、遺言書が必要かどうかを判断することが重要です。

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Reference

遺言書の参考資料

公的機関・法令・税務資料など、制度の根拠となる資料名を整理しています。

  • e-Gov法令検索「民法」
  • 政府広報オンライン「知っておきたい相続の基本。大切な財産をスムーズに引き継ぐために」
  • 裁判所「遺言書の検認」
  • 法務省「自筆証書遺言に関するルールが変わります。」
  • 法務省「自筆証書遺言書保管制度」
  • 法務省「自筆証書遺言書保管制度|遺言者の手続」
  • 法務省「自筆証書遺言書保管制度|手数料」
  • 日本公証人連合会「公証事務|遺言|Q1. 公正証書遺言とは、どのようなものですか?」
  • 日本公証人連合会「公証事務|遺言」
  • 国税庁「No.4152 相続税の計算」
  • 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」
  • 法務省「民法等の一部を改正する法律案」