全国の人数そのものを直接示す公開統計は確認しにくいため、法務省の設定登記件数を中心に、制度の浸透度と実務上の意味を整理します。
全国の人数そのものを直接示す公開統計は確認しにくいため、法務省の設定登記件数を中心に、制度の浸透度と実務上の意味を整理します。
人数統計と設定登記件数を分けて、まず結論を整理します
配偶者居住権を実際に利用している人数そのものを、全国で直接集計した公的統計は、一般に確認できる形では公表されていません。遺産分割協議書に定めたが登記していない事案、親族間の合意で配偶者が住み続けている事案、相続税申告を伴わない事案は、全国横断の人数として捕捉されにくいためです。
公的統計で最も信頼しやすい代理指標は、法務省の登記統計に掲載される配偶者居住権の設定登記件数です。年次表では、2020年129件、2021年880件、2022年892件、2023年911件、2024年861件で、2020年から2024年までの累計は3,673件です。
次の要約は、制度の利用実態を読むための主要数値をまとめたものです。人数そのものではなく登記された設定件数を基準にしている点が重要で、2024年の861件という数字から、全国規模では年間900件前後の専門的な選択肢として使われていることを読み取ります。
2021年から2024年までの平均は年間886件です。2024年は861件で、全死亡数との単純比較では約0.054%、死亡約1,865件につき1件程度です。
この割合は制度の厳密な利用率ではありません。実際に対象となり得る相続は、法律上の配偶者がいること、被相続人所有の居住建物があること、配偶者が相続開始時に居住していること、配偶者以外との共有でないことなど、複数の条件を満たすものに限られるからです。
長期の配偶者居住権と短期居住権、登記統計の意味を区別します
配偶者居住権とは、被相続人の配偶者が、相続開始時に居住していた被相続人所有の建物について、終身または一定期間、その建物を使用し収益できる法定の権利です。所有権を「住む利益」と「所有する利益」に分けることで、配偶者の居住保護と他の相続人の財産承継を調整します。
次の比較は、利用実態を読むときに混同しやすい概念を整理するものです。各行は何を数えられるかと何が抜け落ちるかを示しており、設定登記件数を人数そのものと読まないために重要です。
| 見る対象 | 把握しやすさ | 読み取れること | 限界 |
|---|---|---|---|
| 設定した人数 | 低い | 制度を使った人の実数に近い概念 | 全国で直接集計した公開統計は確認しにくい |
| 設定登記件数 | 高い | 法務局で登記された全国規模の件数 | 未登記の合意や事実上の居住継続は含まれない |
| 相続税申告での評価利用 | 中程度 | 税務上の評価が必要になった相続の一部 | 申告不要の相続や公開統計で細分化されない部分が残る |
| 事実上の居住保護 | 低い | 家族内で配偶者が住み続ける実態 | 登記や申告に現れないため全国集計しにくい |
配偶者短期居住権は、相続開始後の一定期間、従前の居住建物に無償で住み続ける短期的な保護です。一方、ここで扱う登記統計の配偶者居住権の設定は、遺産分割、遺贈、死因贈与、家庭裁判所手続などで取得する長期の配偶者居住権に関するものです。
次の比較は、長期の配偶者居住権と短期居住権の違いを読むためのものです。成立方法、期間、登記の可否が違うため、登記件数に含まれる範囲を判断する手がかりになります。
遺産分割、遺贈、死因贈与、家庭裁判所の手続などで取得し、終身または一定期間の居住を予定します。第三者に対抗するには設定登記が重要です。
相続開始後の短期的な居住の空白を埋める保護です。登記統計上の配偶者居住権設定件数には通常含まれません。
法務省登記統計で追いやすいのは、長期の配偶者居住権が設定登記された事案です。人数、税務利用、未登記利用は別に考える必要があります。
2020年から2024年までの推移と、2024年の件数・個数を確認します
政府統計の総合窓口に掲載される法務省登記統計では、建物に関する登記の種類別に配偶者居住権の設定が集計されています。制度開始年の2020年は通年ではないため、2021年以降の水準を見ると全国でおおむね年間900件前後です。
次の表は、年ごとの設定登記件数と前年差を整理したものです。2021年から2023年は緩やかに増え、2024年はやや減少しているため、急速な普及というより、限定的な場面で安定して使われている制度と読み取ります。
| 年 | 設定登記件数 | 前年からの増減 | 読み方 |
|---|---|---|---|
| 2020年 | 129件 | 算定しない | 制度開始年。2020年4月1日以後の相続から利用可能で、通年比較には向きません。 |
| 2021年 | 880件 | 751件増 | 通年で集計された初期水準です。 |
| 2022年 | 892件 | 12件増 | ほぼ横ばいです。 |
| 2023年 | 911件 | 19件増 | 2020年から2024年までの暦年では最多です。 |
| 2024年 | 861件 | 50件減 | 900件台からやや低下しました。 |
| 2020年から2024年 | 3,673件 | 累計 | 登記された設定件数の累計で、人数そのものではありません。 |
次の比較は、2021年以降の年次推移を視覚的に読むためのものです。縦の高さは各年の件数規模を表し、件数が大きい年ほど高く表示しています。2021年から2024年までが近い高さに収まるため、年間900件前後の狭い範囲で推移していることを読み取ります。
2024年の年計表では、配偶者居住権の設定について件数861件、個数877個という値も確認できます。件数は登記事件、個数は登記対象不動産の個数を示すものと理解され、1つの登記事件で複数建物が対象になった事案が一部ある可能性があります。
死亡数や相続税申告事案と比べると、制度の浸透度が見えてきます
2024年の死亡数1,605,378人と、同年の配偶者居住権設定登記861件を単純比較すると約0.054%です。これは全死亡を母数にした粗い比較であり、法律上の配偶者や居住建物の有無を絞り込んだ利用率ではありません。
次の計算は、社会全体に対する浸透度を概算するためのものです。上段は全死亡との比較、下段は相続税申告書の提出に係る被相続人数との比較で、母数が変わると割合の意味も変わることを読み取ります。
| 比較対象 | 計算式 | 概算割合 | 読み方 |
|---|---|---|---|
| 2024年の死亡数 | 861件 ÷ 1,605,378人 | 約0.054% | 死亡約1,865件につき1件程度です。 |
| 相続税申告書の提出に係る被相続人数 | 861件 ÷ 166,730人 | 約0.52% | 相続税申告事案約194件につき1件程度です。 |
| 2021年から2024年の平均 | 3,544件 ÷ 4年 | 年間886件 | 制度開始後の安定的な水準を読む目安です。 |
全死亡の中には、配偶者がいない人、自宅を所有していない人、賃貸住宅に住んでいた人、施設入所中だった人、配偶者が所有権を取得した人も含まれます。そのため、0.054%は制度の利用率ではなく、社会全体に対する目安です。
相続税申告事案との比較でも同じ注意が必要です。配偶者居住権は相続税がかからない相続でも利用できますし、相続税申告事案の中にも自宅不動産がない事案、配偶者がいない事案、配偶者が所有権を取得する事案が多く含まれます。
制度の認知だけでなく、使うべき場面が限定される構造を確認します
配偶者居住権の利用件数が年間900件前後にとどまる理由は、単に知られていないからだけではありません。法律上の要件、所有権取得との比較、将来の売却、税務評価、相続人間の感情調整など、制度の性質そのものが利用場面を絞っています。
次の一覧は、利用が広がりにくい主な理由を整理したものです。それぞれの項目は、制度を使う前に確認すべき制約を表しており、該当する項目が多いほど代替手段との比較が重要になります。
対象は、相続開始時に配偶者が住んでいた被相続人所有の建物です。配偶者以外との共有建物では問題が生じます。
相続人間に争いがなく、自宅を配偶者が取得しても生活資金や公平性に問題が少ない場合は、所有権取得の方が分かりやすいことがあります。
配偶者居住権は住み続けることを前提にします。売却、住み替え、介護施設入所の可能性が高い場合は相性を検討する必要があります。
建物、居住権、敷地利用権、敷地所有権を分けて評価するため、一次相続と二次相続を含めた試算が必要になります。
所有者となる子などから見ると、自由に使えない不動産を取得する形です。修繕、立入り、費用負担の調整が続きます。
2020年4月1日以後の相続から利用できる制度であり、古い遺言や既存の相続対策では検討されていないことがあります。
特に再婚家庭、先妻または先夫の子と配偶者が相続人になる相続、子のない夫婦と兄弟姉妹相続、遺留分が問題となる相続では、制度を使うかどうか以前に、遺産分割、代償金、登記協力、税務負担を総合的に調整する必要があります。
少数派の制度でも、特定の相続では強い効果を持ちます
利用件数が少ないことは、制度が不要という意味ではありません。配偶者の住まいを守りながら、他の相続人の取得分や将来の財産承継も調整したい場面では、有効な選択肢になります。
次の比較は、制度が機能しやすい場面と慎重に見るべき場面を並べたものです。左側は制度の目的に合いやすい事情、右側は将来の処分や管理で問題が起きやすい事情を示しており、家族の状況を照らし合わせて読みます。
| 検討しやすい場面 | 慎重に見る場面 |
|---|---|
| 再婚家庭で配偶者と前婚の子が相続人になる | 配偶者が近い将来に売却や住み替えを予定している |
| 自宅評価額が大きく、預貯金が少ない | 建物の老朽化が進み、大規模修繕や建替えが近い |
| 配偶者の生活拠点を守りつつ、子に所有権を承継させたい | 所有者となる相続人との関係が極端に悪い |
| 遺言であらかじめ居住権、所有権、預貯金、登記協力を設計したい | 配偶者が所有権を取得でき、他の相続人も納得している |
次の順番は、制度を使うかどうかを実務で検討するためのものです。入口要件、法的設計、税務、登記、紛争予防の順に確認することで、単なる制度利用ではなく、その家族の相続問題に合うかを読み取ります。
法律上の配偶者、居住実態、建物所有者、共有関係を確認します。
遺産分割、遺言、死因贈与、家庭裁判所手続のどれで取得するかを整理します。
配偶者居住権、建物、敷地利用権、敷地所有権を分けて検討します。
設定登記、費用負担、修繕、施設入所時の扱いを明確にします。
法務、登記、税務、不動産を分けて専門家の役割を確認します
配偶者居住権は、法律だけでなく登記、税務、不動産評価、生活設計が重なります。争いの有無、相続税の発生可能性、不動産登記の状況によって、中心となる専門家は変わります。
次の一覧は、相談先ごとの担当領域を示すものです。どの専門家がどの論点を見るかを分けることで、相続人間の争い、登記、税務評価、不動産処分のどこに重点があるかを読み取ります。
遺産分割、遺留分、使い込み疑い、代償金、調停、審判、登記協力拒否など、紛争性がある場面の中心になります。
争い配偶者居住権設定登記、所有権移転登記、相続登記、戸籍収集、登記申請書類の整備を担います。
登記配偶者居住権等の評価、相続税申告、二次相続試算、小規模宅地等の特例、途中消滅時の課税関係を確認します。
税務不動産鑑定士、土地家屋調査士、宅地建物取引士などが、評価、境界、分筆、売却可能性を検討します。
不動産相談前には、戸籍関係資料、相続人関係、固定資産税納税通知書、登記事項証明書、公図や建物図面、遺言書、住宅ローンや抵当権資料、火災保険、修繕履歴、財産一覧、配偶者の収入や介護状況、相続税申告の要否を整理すると判断が早くなります。
登記件数、未登記、税務、相談先について一般情報として整理します
一般的には、人数そのものではなく設定登記件数で見るのが公的統計上の中心です。登記された配偶者居住権は全国で年間約900件前後で、2024年は861件、2020年から2024年までの累計は3,673件です。ただし、未登記の合意や事実上の居住継続は含まれないため、制度の実利用全体とは一致しない可能性があります。
一般的には、相続制度全体から見ると少数派の制度と考えられます。2024年の死亡数1,605,378人との単純比較では約0.054%です。ただし、全死亡には配偶者や居住建物がないケースも含まれるため、厳密な利用率ではありません。
遺産分割協議や遺言で定めても、登記が未了の事案はあり得ます。ただし、一般的には第三者に権利を主張するためには登記が重要とされています。具体的な対応は、権利関係や書類を整理したうえで弁護士、司法書士等へ相談する必要があります。
一般的には含まれません。登記統計でいう配偶者居住権の設定は、長期的な配偶者居住権の設定登記を指します。短期居住権は性質や登記の扱いが異なるため、別の制度として整理する必要があります。
一般的には、節税だけを目的に判断する制度ではありません。一次相続、二次相続、配偶者の税額軽減、将来の売却、施設入所、途中消滅時の課税関係で結論が変わる可能性があります。相続税が関係する場合は、税理士等の専門家に試算を依頼する必要があります。
一般的には、相続人間の争いがある場合は弁護士が中心になります。登記は司法書士、税務は税理士、不動産評価は不動産鑑定士などが関わるため、紛争性、登記、税務のどこが問題かを整理して相談先を選ぶ必要があります。
公的機関と中立的な一次情報を中心に整理しています