2σ Guide

遺言書で配偶者居住権を
遺贈する場合の書き方と文例

配偶者の住まいを守りながら自宅の所有権を子などに承継させるために、遺言書で何を特定し、どの文言を避け、登記・税務・遺留分までどう確認するかを整理します。

1028条民法上の根拠
2020年制度の施行時期
10か月相続税申告の目安
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遺言書で配偶者居住権を 遺贈する場合の書き方と文例

まず、配偶者居住権を遺言で使う目的と、基本文言で必ず特定する項目を確認します。

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遺言書で配偶者居住権を 遺贈する場合の書き方と文例
まず、配偶者居住権を遺言で使う目的と、基本文言で必ず特定する項目を確認します。
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  • 遺言書で配偶者居住権を 遺贈する場合の書き方と文例
  • まず、配偶者居住権を遺言で使う目的と、基本文言で必ず特定する項目を確認します。

POINT 1

  • 遺言書で配偶者居住権を遺贈する場合の全体像
  • まず、配偶者居住権を遺言で使う目的と、基本文言で必ず特定する項目を確認します。
  • 基本文言は「配偶者居住権を遺贈する」
  • 遺言書で 配偶者居住権を遺贈する場面では、単に「配偶者を自宅に住ませる」と書くだけでは足りません。
  • 所有権と居住する権利を分けるため、配偶者の生活資金、子の将来利用、遺留分、相続税評価、登記まで同時に検討します。

POINT 2

  • 配偶者居住権とは何か、短期居住権や遺贈との違い
  • 民法上の権利として何を守る制度なのか、似ている制度や言葉と分けて整理します。
  • 死亡後の最終意思表示
  • 遺言による財産上の利益
  • 相続人への承継表現

POINT 3

  • 遺言書で配偶者居住権を遺贈できる要件
  • 内縁・事実婚
  • 法律婚の配偶者ではない場合、民法上の配偶者居住権ではなく、別の居住確保策を検討します。
  • 長期入院・施設入所
  • 自宅へ戻る意思や可能性、家財の所在、生活の本拠性を確認し、予備的条項を置くか検討します。

POINT 4

  • 配偶者居住権を遺贈する遺言書に入れる主要条項
  • 1. 建物と配偶者を確認:法律婚、居住実態、建物所有、共有関係を確認します。
  • 2. 遺贈文言と存続期間を決める:終身か一定期間か、第三者使用を予定するかを整理します。
  • 3. 所有権取得者を定める:建物と土地を誰が取得するか、負担付き所有権として明確にします。
  • 4. 専門家確認を優先:共有、遺留分、税務、登記不能の可能性を先に検討します。
  • 5. 登記・税務へ接続:登記協力条項、遺言執行者、評価資料を整えます。

POINT 5

  • 遺言書で配偶者居住権を遺贈する文例
  • 基本型、一定期間型、施設入所時、予備的条項、再婚家庭の5パターンを確認します。
  • 基本型 ― 配偶者に終身の配偶者居住権を遺贈する
  • 一定期間型 ― 終身ではなく15年間にする
  • 施設入所時の第三者使用を想定する

POINT 6

  • 財産目録、自筆証書遺言、公正証書遺言の書き方
  • 物件を登記事項証明書どおりに特定し、方式不備と内容不備を分けて確認します。
  • 建物・土地・預貯金の財産目録
  • 自筆証書遺言の方式
  • 公正証書遺言で作成する場合

POINT 7

  • 配偶者居住権の登記と相続開始後の手続
  • 1. 遺言書と生活費を確認
  • 2. 戸籍・財産・遺言執行者を整理:戸籍収集、相続人確定、財産調査、遺言執行者の就任、必要資料の取得を進めます。
  • 3. 所有権移転と配偶者居住権設定:建物・土地の所有権移転登記を確認し、配偶者居住権設定登記を進めます。
  • 4. 相続税申告の要否を判断:配偶者居住権等を評価し、相続税申告・納税、固定資産税、火災保険、公共料金の整理を進めます。

POINT 8

  • 配偶者居住権の相続税評価と二次相続への影響
  • 配偶者居住権、建物所有権部分、敷地利用権、敷地所有権部分に分けて評価します。
  • 遺言書・戸籍・住民票
  • 登記事項証明書・評価証明
  • 年齢・期間・耐用年数

まとめ

  • 遺言書で配偶者居住権を 遺贈する場合の書き方と文例
  • 遺言書で配偶者居住権を遺贈する場合の全体像:まず、配偶者居住権を遺言で使う目的と、基本文言で必ず特定する項目を確認します。
  • 配偶者居住権とは何か、短期居住権や遺贈との違い:民法上の権利として何を守る制度なのか、似ている制度や言葉と分けて整理します。
  • 遺言書で配偶者居住権を遺贈できる要件:法律婚、居住実態、建物所有、共有関係を確認し、成立しにくい場面を先に除外します。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

遺言書で配偶者居住権を遺贈する場合の全体像

まず、配偶者居住権を遺言で使う目的と、基本文言で必ず特定する項目を確認します。

遺言書で配偶者居住権を遺贈する場面では、単に「配偶者を自宅に住ませる」と書くだけでは足りません。一般的には、誰に、どの建物について、民法第1028条以下に定める配偶者居住権を、どの期間、遺贈するのかを明確にする必要があるとされています。

この制度が役立つのは、自宅の所有権は子などに承継させたい一方で、残された配偶者には住み慣れた自宅で生活を続けてほしい場面です。所有権と居住する権利を分けるため、配偶者の生活資金、子の将来利用、遺留分、相続税評価、登記まで同時に検討します。

次の重要ポイントは、このページ全体で扱う判断軸を整理したものです。何を表すかを先に押さえることで、文例を読むときに「権利の発生」「所有権の帰属」「手続の実現」のどこを確認すべきかが分かります。

基本文言は「配偶者居住権を遺贈する」

建物を所有させるのではなく、居住建物を使用・収益する権利を取得させる趣旨を明示します。対象建物、存続期間、所有権取得者、登記協力、遺言執行者を合わせて設計することが重要です。

基本型では、配偶者居住権を配偶者へ遺贈する条項と、居住建物・敷地の所有権を誰に承継させるかを定める条項を分けて書きます。次の文例は、どの部分を特定する必要があるかを読み取るための最小構成です。

第1条(配偶者居住権の遺贈)
遺言者は、遺言者の配偶者である妻 山田花子(昭和○年○月○日生)に対し、別紙物件目録1記載の建物について、民法第1028条以下に定める配偶者居住権を遺贈する。

2 前項の配偶者居住権の存続期間は、妻 山田花子の終身の間とする。

第2条(居住建物及び敷地の所有権の承継)
遺言者は、前条の配偶者居住権の負担付きで、別紙物件目録1記載の建物及び別紙物件目録2記載の土地を、長男 山田一郎(平成○年○月○日生)に相続させる。

次の比較表は、似ている文言が実際には別の効果を持つことを示します。取得する財産、所有者、処分可能性の違いを読むことで、目的が「配偶者に所有させること」なのか「配偶者の居住を守り、所有権は別の人へ残すこと」なのかを区別できます。

書き方配偶者が取得するもの所有者注意点
自宅を妻に相続させる建物・土地の所有権自宅評価額が大きいと、妻が取得できる預貯金が少なくなることがあります。
妻に配偶者居住権を遺贈する居住建物を使用・収益する権利子など別の取得者妻は権利を譲渡できず、登記・税務評価・費用負担を別途確認します。
妻が自宅に住めるようにする不明確不明確道義的希望、使用貸借、所有権承継、配偶者居住権のどれかが曖昧になります。

配偶者居住権の遺贈は、文例を写すだけで完了する手続ではありません。家族構成、財産内容、建物共有、配偶者の居住実態、相続税、遺留分、施設入所、登記可能性を確認したうえで、弁護士、司法書士、税理士、公証人等に確認する必要があります。

Section 01

配偶者居住権とは何か、短期居住権や遺贈との違い

民法上の権利として何を守る制度なのか、似ている制度や言葉と分けて整理します。

配偶者居住権とは、被相続人の配偶者が、相続開始時に居住していた被相続人所有の建物について、一定の要件を満たす場合に、原則として無償で使用・収益できる権利です。民法第1028条以下に定められ、2020年4月1日施行の相続法改正で導入されました。

従来は、配偶者が住み続けるには自宅所有権を取得する、子が所有者となり使用貸借や賃貸借で住ませる、遺産分割協議で調整するといった方法が中心でした。しかし、自宅評価額が大きいと配偶者が生活資金を十分に取得できないことがあり、子が所有者になると配偶者の居住が不安定になることもあります。

次の比較表は、長期の配偶者居住権と相続開始直後の短期的な保護制度の違いを示します。どちらの制度なのかを取り違えると、遺言に書くべき内容、登記の要否、相続税評価の扱いを誤るため、目的と手続の列を見比べてください。

項目配偶者居住権配偶者短期居住権
根拠民法第1028条以下民法第1037条以下
目的長期・終身の居住保護相続開始直後の短期的な居住保護
取得方法遺産分割、遺贈、死因贈与など一定要件を満たすと法律上発生
遺言での扱い遺言で遺贈する設計が可能通常、遺言で設定する制度ではありません
登記第三者へ主張するために重要登記制度ではありません
財産評価相続税評価の対象になります通常の配偶者居住権とは評価の扱いが異なります

遺言、遺贈、相続させる旨の遺言も区別が必要です。次の整理は、それぞれの言葉が何を意味するかを示します。遺言書の文言を決めるときは、配偶者へ所有権を承継させるのか、配偶者居住権を遺贈するのかを読み分けることが重要です。

遺言

死亡後の最終意思表示

遺言者が死亡後の財産承継などについて、民法の方式に従って行う意思表示です。

遺贈

遺言による財産上の利益

相続人または相続人以外の者へ、遺言によって財産上の利益を与えることです。配偶者居住権ではこの表現が重要になります。

相続させる

相続人への承継表現

「長男に自宅を相続させる」のように、相続人へ特定財産を承継させる実務上の表現です。

配偶者居住権については、民法第1028条が、配偶者居住権が遺贈の目的とされたときを想定しています。そのため、遺言書では一般的に「民法第1028条以下に定める配偶者居住権を遺贈する」と明記する設計が用いられます。

Section 02

遺言書で配偶者居住権を遺贈できる要件

法律婚、居住実態、建物所有、共有関係を確認し、成立しにくい場面を先に除外します。

配偶者居住権は、残された配偶者を保護する強い制度ですが、どの建物にも自由に作れるわけではありません。要件を満たさないまま遺言に書くと、権利が成立しない、登記できない、相続人間の争いになるといったリスクがあります。

次の表は、遺言作成前に確認すべき要件と、確認を怠った場合の実務上の問題を整理したものです。左から順に「誰の権利か」「どの建物か」「どの手続へつながるか」を読むと、戸籍・居住実態・登記情報をそろえる理由が分かります。

要件内容確認ポイント
法律上の配偶者民法上の配偶者居住権は、法律婚の配偶者を対象とします。戸籍上の婚姻関係を確認します。内縁・事実婚では別制度を検討します。
相続開始時の居住被相続人死亡時に、配偶者が居住建物に住んでいることが前提です。住民票だけでなく、生活の本拠、家財、郵便物、入院・施設入所の経緯も確認します。
被相続人所有の建物対象は被相続人の財産に属する建物です。借家は対象外です。借地上の建物では借地契約や地代負担も確認します。
共有関係被相続人が配偶者以外の者と建物を共有している場合は注意が必要です。子、兄弟、会社、第三者との共有がないか登記事項証明書で確認します。
遺贈文言「配偶者居住権を遺贈する」と明示します。「住まわせる」だけでは、権利内容や登記可能性が不明確になります。
所有権の帰属建物・土地を誰が取得するかも定めます。配偶者居住権の相手方となる所有者を明確にします。

次の重要ポイントは、共有建物で最も問題になりやすい場面を示します。登記上の共有者が誰かは、配偶者居住権の成立可能性に直結するため、遺言文言を考える前に確認する必要があります。

共有確認たとえば「建物名義が夫2分の1、長男2分の1」で、夫が妻へ配偶者居住権を遺贈する場合、夫の死亡時点で居住建物が夫と配偶者以外の長男との共有であるため、成立要件に重大な問題が生じる可能性があります。

次の一覧は、要件判断で特に迷いやすい事情をまとめたものです。各項目は、配偶者居住権だけでなく、使用貸借、賃貸借、所有権の遺贈、家族信託、死因贈与など別の手段を検討すべきかを見分けるために重要です。

内縁・事実婚

法律婚の配偶者ではない場合、民法上の配偶者居住権ではなく、別の居住確保策を検討します。

長期入院・施設入所

自宅へ戻る意思や可能性、家財の所在、生活の本拠性を確認し、予備的条項を置くか検討します。

借家・借地

借家は配偶者居住権の対象外です。借地上の建物では借地契約、地主承諾、地代負担を別に確認します。

未登記・増築

未登記建物、増築部分、附属建物、二世帯住宅、区分建物では、物件特定と登記の難度が上がります。

Section 03

配偶者居住権を遺贈する遺言書に入れる主要条項

権利を発生させる条項だけでなく、所有者、費用、登記、予備的条項まで一体で確認します。

配偶者居住権を遺贈する遺言では、権利を与える条項だけでは足りません。所有権を取得する人、費用負担、修繕、第三者使用、登記協力、予備的な財産帰属、遺言執行者を一緒に設計しておくことで、死亡後の手続が止まりにくくなります。

次の表は、遺言書に入れるか検討すべき主要条項と、書かない場合に起こりやすい問題を対応させています。目的の列は何を実現する条項か、リスクの列はその条項がないとどこで争いになりやすいかを読むためのものです。

条項目的書かない場合のリスク
配偶者居住権の遺贈配偶者に民法上の権利を取得させます。単なる希望、使用貸借、所有権承継との区別が不明確になります。
存続期間終身か一定期間かを定めます。登記、評価、相続人間調整で争いになります。
所有権承継建物・土地を誰が取得するか定めます。配偶者居住権の相手方となる所有者が不明確になります。
費用負担固定資産税、修繕費、保険料などを整理します。配偶者と所有者の間で費用紛争が起こります。
第三者使用介護施設入所後の賃貸などに備えます。配偶者が住まなくなった後の利用が不明確になります。
登記協力配偶者居住権設定登記を進めやすくします。所有者が協力せず、第三者への主張が難しくなります。
予備的条項先死亡、放棄、要件不充足に備えます。財産帰属が不明確になり、遺産分割協議が必要になることがあります。
遺言執行者遺言内容を実現する担当者を指定します。相続人間対立で登記や金融機関手続が止まりやすくなります。

次の判断の流れは、文例を作る前にどの順番で検討すべきかを示します。上から順に、対象建物と配偶者の要件を確認し、権利内容と所有権の帰属を決め、最後に登記・税務・紛争予防へつなげる読み方をしてください。

配偶者居住権を遺贈する条項設計の順番

建物と配偶者を確認

法律婚、居住実態、建物所有、共有関係を確認します。

遺贈文言と存続期間を決める

終身か一定期間か、第三者使用を予定するかを整理します。

所有権取得者を定める

建物と土地を誰が取得するか、負担付き所有権として明確にします。

不安あり
専門家確認を優先

共有、遺留分、税務、登記不能の可能性を先に検討します。

整合あり
登記・税務へ接続

登記協力条項、遺言執行者、評価資料を整えます。

この流れを踏まえると、条項は「権利を与える文言」と「実現するための周辺条項」に分かれます。次の短い条項例では、遺言執行者がどの手続へ関与するかを読み取ってください。

第○条(遺言執行者)
遺言者は、本遺言の遺言執行者として、弁護士 ○○○○(所在地 ○○)を指定する。

2 遺言執行者は、本遺言の内容を実現するため、相続人、受遺者、金融機関、登記手続関係者その他の関係者に対し、必要な通知、請求、書類の受領及び引渡し、登記手続に必要な協力要請その他一切の行為をすることができる。
Section 04

遺言書で配偶者居住権を遺贈する文例

基本型、一定期間型、施設入所時、予備的条項、再婚家庭の5パターンを確認します。

文例は、家族構成や財産内容に合わせて調整する前提で読む必要があります。ここでは、どの文言が何を実現するかを見分けられるように、終身型、一定期間型、第三者使用、失効時の備え、再婚家庭の順に並べます。

基本型 ― 配偶者に終身の配偶者居住権を遺贈する

次の文例は、配偶者に終身の配偶者居住権を遺贈し、長男へ自宅土地建物の所有権を承継させ、妻に預貯金を取得させる設計です。権利を与える条項、所有権を承継させる条項、生活資金を確保する条項が分かれている点を読み取ってください。

遺言書

遺言者 山田太郎は、次のとおり遺言する。

第1条(配偶者居住権の遺贈)
遺言者は、遺言者の妻 山田花子(昭和○年○月○日生)に対し、別紙物件目録1記載の建物(以下「本建物」という。)について、民法第1028条以下に定める配偶者居住権を遺贈する。

2 前項の配偶者居住権の存続期間は、妻 山田花子の終身の間とする。

第2条(本建物及び敷地の承継)
遺言者は、前条の配偶者居住権の負担付きで、別紙物件目録1記載の建物及び別紙物件目録2記載の土地を、長男 山田一郎(平成○年○月○日生)に相続させる。

第3条(預貯金)
遺言者は、別紙財産目録3記載の預貯金を、妻 山田花子に相続させる。

第4条(遺言執行者)
遺言者は、本遺言の遺言執行者として、弁護士 ○○○○を指定する。

2 遺言執行者は、本遺言の内容を実現するため、相続人、受遺者、金融機関、登記手続関係者その他の関係者に対し、必要な通知、請求、書類の受領及び引渡し、登記手続に必要な協力要請その他一切の行為をすることができる。

令和○年○月○日

住所 ○県○市○町○丁目○番○号
遺言者 山田太郎 印

この文例では、配偶者居住権を遺贈すること、対象建物を物件目録で特定すること、長男が負担付き所有権を取得すること、妻が生活資金として預貯金を取得することが中心です。相続財産の総額、相続人の数、遺留分、相続税評価によっては調整が必要です。

一定期間型 ― 終身ではなく15年間にする

次の文例は、配偶者居住権の存続期間を終身ではなく15年間とするものです。期間の列挙が客観的であるほど、登記や評価で争いにくくなりますが、配偶者が長寿となった場合の住まいを別途検討する必要があります。

第1条(配偶者居住権の遺贈)
遺言者は、遺言者の妻 山田花子に対し、別紙物件目録1記載の建物について、民法第1028条以下に定める配偶者居住権を遺贈する。

2 前項の配偶者居住権の存続期間は、遺言者の死亡の日から15年間とする。ただし、妻 山田花子がその期間満了前に死亡したときは、その死亡時に終了する。

一定期間型には、子が将来自宅を利用・売却する見通しを立てやすい、終身型より評価額が低くなる可能性がある、介護施設入所や住み替え予定と整合しやすいといった利点があります。一方で、配偶者の年齢、健康状態、生活資金、介護施設費、賃貸住宅の確保可能性を考えずに短期化すると、配偶者保護に失敗する可能性があります。

施設入所時の第三者使用を想定する

次の文例は、配偶者が病気や要介護状態などで自宅に居住しない期間が生じた場合に、所有者の書面承諾を得て第三者に使用・収益させる余地を置くものです。賃料、修繕、保険、固定資産税、配偶者死亡後の賃貸借をどう扱うかが読みどころです。

第1条(配偶者居住権の遺贈)
遺言者は、遺言者の妻 山田花子に対し、別紙物件目録1記載の建物について、民法第1028条以下に定める配偶者居住権を遺贈する。

2 前項の配偶者居住権の存続期間は、妻 山田花子の終身の間とする。

3 妻 山田花子は、病気、要介護状態、施設入所その他やむを得ない事情により本建物に居住しない期間が生じる場合、本建物の所有者である長男 山田一郎の書面による承諾を得て、本建物を第三者に賃貸その他使用又は収益させることができる。

4 前項の場合の賃貸条件、修繕費、火災保険料、固定資産税相当額その他の費用負担については、妻 山田花子と本建物所有者が協議して定める。

この条項は、配偶者が当然に自由な賃貸権限を持つという意味ではありません。配偶者居住権は譲渡できず、第三者使用には所有者の承諾や登記、賃貸借契約、借地借家法、固定資産税、火災保険、所得税との整合確認が必要です。

先死亡・放棄・要件不充足に備える

次の文例は、配偶者が遺言者より先に死亡した場合、遺贈を放棄した場合、法令上成立しない場合に備えるものです。予備的条項を置くことで、予定外の事情が起きたときの財産帰属を読み取れるようにします。

第○条(予備的条項)
妻 山田花子が遺言者の死亡以前に死亡した場合、妻 山田花子が第1条の配偶者居住権の遺贈を放棄した場合、又は第1条の配偶者居住権が法令上成立しない場合には、第1条は効力を有しない。

2 前項の場合であっても、別紙物件目録1記載の建物及び別紙物件目録2記載の土地は、長男 山田一郎に相続させる。

3 第1項の場合において、遺言者は、妻 山田花子の生活確保のために予定していた別紙財産目録3記載の預貯金については、長男 山田一郎及び長女 山田陽子に各2分の1の割合で相続させる。

遺言は作成時から死亡時まで長期間が空くことがあります。配偶者の死亡、施設入所、建物売却、建替え、共有化、相続人の死亡、家族関係の悪化が起こり得るため、主要な失効事由を想定することが紛争予防につながります。

再婚家庭で後妻と前婚の子がいる場合

次の文例は、後妻には居住を守る権利を与え、前婚の子には負担付き所有権を承継させる設計です。付言事項は法的処分そのものではありませんが、なぜこの配分にしたのかを説明し、感情面の対立を和らげる補助になることがあります。

第1条(配偶者居住権の遺贈)
遺言者は、遺言者の妻 佐藤花子に対し、別紙物件目録1記載の建物について、民法第1028条以下に定める配偶者居住権を遺贈する。

2 前項の配偶者居住権の存続期間は、妻 佐藤花子の終身の間とする。

第2条(居住建物及び敷地の所有権)
遺言者は、前条の配偶者居住権の負担付きで、別紙物件目録1記載の建物及び別紙物件目録2記載の土地を、長男 佐藤一郎に相続させる。

第3条(生活資金)
遺言者は、別紙財産目録3記載の預貯金のうち金○○万円を、妻 佐藤花子に相続させる。

第4条(その他の財産)
遺言者は、前各条に記載した財産を除く一切の財産を、長男 佐藤一郎に相続させる。

第5条(付言事項)
私は、妻 佐藤花子が私と長年生活を共にし、私の療養及び生活を支えてくれたことに感謝している。妻が私の死後も住み慣れた自宅で安心して生活できるよう、第1条の配偶者居住権を定めた。他方で、自宅土地建物の所有権は長男 佐藤一郎に承継させ、将来の家系財産として維持してほしいと考えている。相続人らには、この趣旨を理解し、互いに配慮して手続を進めることを望む。

再婚家庭では、後妻の生活資金、前婚の子の遺留分、自宅評価額、後妻の年齢による配偶者居住権評価、後妻死亡後の自宅利用、意思能力資料、公正証書遺言の必要性を確認します。争いが予想される場合は、遺言作成段階から弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Section 05

財産目録、自筆証書遺言、公正証書遺言の書き方

物件を登記事項証明書どおりに特定し、方式不備と内容不備を分けて確認します。

配偶者居住権を遺贈する遺言では、対象建物の特定が極めて重要です。曖昧な物件表示は、登記不能、相続人間紛争、税務評価の混乱につながるため、登記事項証明書に基づく財産目録を作ります。

建物・土地・預貯金の財産目録

次の文例は、建物、土地、預貯金を別々に特定するための書き方です。建物は配偶者居住権の対象、土地は敷地利用関係と所有権承継、預貯金は配偶者の生活資金として、役割が違う点を読み取ってください。

別紙物件目録1(建物)

所在  ○県○市○町○丁目○番地○
家屋番号 ○番○
種類  居宅
構造  木造瓦葺2階建
床面積 1階 ○○・○○平方メートル
    2階 ○○・○○平方メートル

別紙物件目録2(土地)

所在  ○県○市○町○丁目
地番  ○番○
地目  宅地
地積  ○○○・○○平方メートル

別紙財産目録3(預貯金)

1 ○○銀行 ○○支店 普通預金 口座番号○○○○○○○
2 ○○信用金庫 ○○支店 定期預金 口座番号○○○○○○○
3 ○○証券 ○○支店における遺言者名義の上場株式、投資信託、預り金その他一切の金融商品

未登記建物、増築未登記部分、附属建物、車庫、物置、二世帯住宅、区分建物、マンション、複数筆の土地、私道持分、借地、敷地権付き区分建物、共有持分がある場合は、通常より記載が複雑になります。

自筆証書遺言の方式

次の比較一覧は、自筆証書遺言で特に確認すべき方式面と内容面を分けたものです。方式面の列は遺言そのものの成立に関わり、内容面の列は配偶者居住権を実現できるかに関わるため、両方を確認する必要があります。

確認領域主な注意点起こりやすい失敗
方式全文、日付、氏名を自書し、押印します。財産目録は一定要件のもとで別作成が認められます。「令和○年○月吉日」、署名なし、押印なし、訂正方式の不備、財産目録各ページの署名押印漏れ。
内容配偶者居住権、対象建物、存続期間、所有者、予備的条項を明確にします。「住む権利」だけ、物件表示の誤り、旧住所・旧姓・誤字による人物特定の曖昧さ。
保管法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する選択肢があります。方式の外形確認と保管にとどまり、内容の有効性が保証されると誤解すること。

自筆証書遺言で本文を自書する場合の基本イメージは次のとおりです。別紙物件目録をパソコンで作る場合でも、民法第968条の方式に従い、各ページへの署名押印などを確認します。

遺言書

私は、次のとおり遺言する。

第1条 私は、私の妻 山田花子(昭和○年○月○日生)に対し、別紙物件目録1記載の建物について、民法第1028条以下に定める配偶者居住権を遺贈する。

第2条 前条の配偶者居住権の存続期間は、妻 山田花子の終身の間とする。

第3条 私は、第1条の配偶者居住権の負担付きで、別紙物件目録1記載の建物及び別紙物件目録2記載の土地を、長男 山田一郎に相続させる。

第4条 私は、別紙財産目録3記載の預貯金を、妻 山田花子に相続させる。

令和○年○月○日

住所 ○県○市○町○丁目○番○号
山田太郎 印

公正証書遺言で作成する場合

次の一覧は、公正証書遺言で必要になりやすい資料を整理したものです。本人確認、相続関係、不動産、財産、証人、遺言執行者の情報がそろうほど、公証役場との調整と専門家確認が進めやすくなります。

本人・相続関係

遺言者本人確認資料、印鑑登録証明書または本人確認資料、戸籍謄本、受遺者・相続人の住所氏名生年月日が分かる資料を確認します。

本人確認

不動産資料

不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書または固定資産税納税通知書を準備します。

不動産

金融・証人・執行者

預貯金、証券、生命保険、その他財産資料、証人予定者、遺言執行者の情報を整理します。

手続

公正証書遺言では、公証人が最終文案を整えますが、内容の設計は別問題です。次の文例は、公正証書遺言で配偶者居住権、存続期間、所有権承継、登記協力、遺言執行者を並べる構成例です。

令和○年第○○号
遺言公正証書

本公証人は、遺言者 山田太郎の嘱託により、証人○○○○及び証人○○○○の立会いをもって、次の遺言の趣旨の口授を筆記し、この証書を作成する。

第1条(配偶者居住権の遺贈)
遺言者は、遺言者の妻 山田花子に対し、別紙物件目録1記載の建物について、民法第1028条以下に定める配偶者居住権を遺贈する。

第2条(存続期間)
前条の配偶者居住権の存続期間は、妻 山田花子の終身の間とする。

第3条(居住建物及び敷地の承継)
遺言者は、第1条の配偶者居住権の負担付きで、別紙物件目録1記載の建物及び別紙物件目録2記載の土地を、長男 山田一郎に相続させる。

第4条(登記協力)
長男 山田一郎は、妻 山田花子が第1条の配偶者居住権について登記手続を行う場合、これに必要な協力をしなければならない。

第5条(遺言執行者)
遺言者は、本遺言の遺言執行者として、司法書士 ○○○○を指定する。

公正証書遺言は方式不備のリスクを小さくできますが、遺留分、相続税、登記不能、共有建物、家族関係、生活費不足が自動的に解決するわけではありません。配偶者の生活資金、子の遺留分、修繕費、施設入所、相続税評価資料を別途確認します。

Section 06

配偶者居住権の登記と相続開始後の手続

第三者に権利を主張するため、所有権移転登記と配偶者居住権設定登記を連動させます。

配偶者居住権は、配偶者の住まいを保護する権利です。しかし、建物所有者が第三者へ売却したり、債権者が差し押さえたりする場面では、第三者に対して権利を主張できるかが重要になります。民法第1031条は、居住建物所有者に登記協力義務を負わせる趣旨の規律を置いています。

次の表は、配偶者居住権の登記で明確にしておきたい事項を整理したものです。登記欄に反映する情報と遺言書で明確にする情報がずれると手続が滞るため、対象建物、権利者、存続期間、所有者、第三者使用特約を分けて確認します。

登記で問題になる事項遺言書での確認内容実務上の注意
対象建物別紙物件目録で登記事項証明書どおりに特定します。未登記、増築、附属建物、区分建物では追加確認が必要です。
配偶者居住権者配偶者の氏名、生年月日などで特定します。法律上の配偶者であることと居住実態も確認します。
存続期間終身または死亡日から15年間など客観的に定めます。「必要とする間」のような表現は避けます。
居住建物の所有者負担付きで建物を取得する相続人を定めます。土地の所有権承継も別途明確にします。
第三者使用特約施設入所時の賃貸などを認めるかを検討します。所有者の承諾、賃貸借、保険、税務との整合が必要です。

次の時系列は、相続開始後に登記・税務・財産承継がどの順番で進むかを表します。順番を把握することで、遺言書確認、所有権移転登記、配偶者居住権設定登記、相続税申告が同時期に重なることを読み取れます。

死亡直後

遺言書と生活費を確認

死亡届、葬儀関係、遺言書の有無、公正証書遺言検索、法務局保管遺言、自筆証書遺言の検認要否、相続人への連絡、配偶者の当面の生活費を確認します。

遺言確認後

戸籍・財産・遺言執行者を整理

戸籍収集、相続人確定、財産調査、遺言執行者の就任、必要資料の取得を進めます。

登記段階

所有権移転と配偶者居住権設定

建物・土地の所有権移転登記を確認し、配偶者居住権設定登記を進めます。抵当権、住所変更、氏名変更、未登記建物も必要に応じて整理します。

10か月以内

相続税申告の要否を判断

配偶者居住権等を評価し、相続税申告・納税、固定資産税、火災保険、公共料金の整理を進めます。

相続登記義務化との関係も重要です。不動産を相続で取得した相続人は、取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があり、正当な理由なく違反した場合には10万円以下の過料の対象となり得る制度が2024年4月1日から始まっています。配偶者居住権の登記とは別に、所有権を取得する相続人の登記義務も確認します。

配偶者居住権を登記しない場合、相続人間では権利を主張できる場面があっても、第三者との関係で不安定になる可能性があります。高齢の配偶者が手続を先送りにしているうちに認知症になった場合、後見申立てが必要になることもあります。

Section 07

配偶者居住権の相続税評価と二次相続への影響

配偶者居住権、建物所有権部分、敷地利用権、敷地所有権部分に分けて評価します。

配偶者居住権は、単なる道義的な居住許可ではなく、財産的価値のある権利です。相続税申告が必要な場合、配偶者居住権、居住建物の所有権部分、敷地利用権、敷地所有権部分を評価します。

次の表は、自宅に関する経済価値がどの財産に分かれるかを示します。主な取得者の列を見ると、配偶者と子などの取得額がどちらも税務・遺留分へ影響することが分かります。

財産主な取得者評価上の意味
配偶者居住権配偶者建物を一定期間使用・収益できる権利の価値です。
居住建物の所有権部分子など配偶者居住権の負担が付いた建物所有権の価値です。
敷地利用権配偶者建物利用に伴う敷地利用の経済的価値です。
敷地所有権部分子など敷地利用権の負担が付いた土地所有権の価値です。

次の一覧は、税理士が確認する主な資料を整理したものです。資料の種類を分けて見ることで、遺言書だけでは評価できず、登記資料、固定資産評価、路線価、配偶者の年齢、存続期間、耐用年数などが必要になることが分かります。

権利関係

遺言書・戸籍・住民票

配偶者居住権の取得原因、相続人関係、居住実態、受遺者の特定を確認します。

不動産

登記事項証明書・評価証明

建物・土地の名義、固定資産評価額、路線価図または倍率表、建物の構造や築年数を確認します。

評価要素

年齢・期間・耐用年数

配偶者の年齢、配偶者居住権の存続期間、法定耐用年数、経過年数、複利現価率を確認します。

特例

小規模宅地等と税額軽減

小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減、二次相続への影響、納税資金を確認します。

「配偶者の税額軽減があるから評価を気にしなくてよい」と考えるのは危険です。次の重要ポイントは、配偶者自身の納税だけでなく、他の相続人、遺留分、二次相続、特例適用、税務調査に影響することを示します。

税務確認配偶者居住権の評価は、他の相続人の取得額、遺留分侵害額、配偶者死亡時の二次相続、小規模宅地等の特例、相続税申告書の整合性に影響します。遺言作成段階で概算評価を税理士に確認し、弁護士・司法書士とも共有することが望まれます。

配偶者居住権を終身にするか、10年など一定期間にするか、配偶者の年齢、建物の耐用年数や残存年数によって評価額は変わります。節税だけを目的に設定すると、売却困難、遺留分、生活資金不足、所有者との費用紛争が生じる可能性があります。

Section 08

遺留分、費用負担、譲渡禁止、消滅の注意点

配偶者を守る遺言であっても、他の相続人や所有者との調整が必要です。

配偶者居住権の遺贈は、配偶者の住まいを守る一方で、所有権を取得する相続人に負担を課します。遺留分、固定資産税、修繕、譲渡禁止、第三者使用、消滅時の後始末を想定しないと、配偶者の平穏な生活を守るはずの遺言が争いの原因になることがあります。

遺留分との関係

次の比較一覧は、遺留分問題が生じやすい典型場面と対策を対応させています。配偶者居住権も財産的価値のある権利であるため、配偶者だけでなく、他の相続人の最低限の利益も試算することが重要です。

確認事項具体例対策
財産配分妻に終身の配偶者居住権と預貯金の大半、長男に自宅所有権、長女には少額のみ。全財産評価、配偶者居住権の概算評価、各相続人の遺留分額を試算します。
支払資金遺留分侵害額請求があると、妻や長男が金銭支払を求められる可能性があります。生命保険金、代償金、預貯金配分、付言事項、交渉体制を検討します。
意思能力高齢期に遺言を作成した場合、遺言無効主張が問題になることがあります。診断書、面談記録、作成経緯、公正証書遺言を検討します。

費用負担と修繕

次の表は、建物を使い続ける期間に問題になりやすい費用をまとめたものです。納税義務者と実質負担者がずれる費用があるため、誰が支払い、誰が求償し、どの費用は協議するのかを読み分けます。

費用問題になりやすい理由
固定資産税納税義務者は所有者でも、通常必要費として配偶者への求償をどう扱うかが問題になります。
火災保険料所有者保護と居住者保護の双方に関係します。
小修繕費日常使用に伴う設備故障を誰が直すか問題になります。
大規模修繕費屋根、外壁、耐震、給排水管など高額になりやすい費用です。
管理費・修繕積立金マンションでは毎月の負担と大規模修繕の関係が重要です。
光熱費・庭木管理通常は居住者負担が中心ですが、名義変更や管理方法を確認します。

費用負担条項の基本例は次のとおりです。通常の使用・保存に必要な費用、大規模修繕、所有者が納付した固定資産税相当額の扱いを分けて読んでください。

第○条(費用負担)
妻 山田花子は、第1条の配偶者居住権に基づき本建物を使用する期間中、本建物の通常の使用及び保存に必要な費用を負担する。

2 本建物及びその敷地に係る固定資産税及び都市計画税について、本建物又はその敷地の所有者が納付した場合、妻 山田花子は、配偶者居住権の存続期間に対応する部分のうち、本建物の通常の使用に関係するものとして相当な額を、所有者に支払うものとする。

3 本建物の大規模修繕、滅失、毀損、保険契約、建替えその他通常の使用を超える事項については、妻 山田花子と本建物所有者が協議して定める。

譲渡禁止、第三者使用、消滅

次の一覧は、権利の性質と終了時の手続をまとめたものです。配偶者居住権は売却益を得るための権利ではなく、居住保護のための権利であり、終了後は建物所有者側の手続も発生する点を読み取ってください。

譲渡できない

配偶者居住権そのものを第三者に売却、譲渡、担保設定する文言は不適切です。

第三者使用は慎重に

施設入所後に賃貸する場合でも、所有者の承諾、登記、賃貸借、税務、保険、修繕を確認します。

消滅事由を想定

存続期間満了、配偶者死亡、放棄、建物全部滅失、用法違反等、合意解除などを確認します。

死亡後の後始末

抹消登記、家財整理、保険・公共料金、賃借人対応、空き家管理または売却が必要になることがあります。

Section 09

危険な文例、専門職の役割、ケース別の配偶者居住権設計

書いてはいけない表現を避け、家庭状況に応じて専門職と設計します。

書いてはいけない危険な文例

次の比較表は、見た目には自然でも法的効果が曖昧になりやすい文言を整理したものです。危険な文言の列だけで判断せず、なぜ問題になるのか、どのように直すべきかを合わせて読み取ってください。

危険な文言問題点修正の方向
妻には自宅に住み続けてもらう。道義的希望、配偶者居住権、使用貸借の区別が不明確です。民法第1028条以下に定める配偶者居住権を遺贈すると明記します。
妻に自宅を相続させる。所有権を取得させる趣旨と読まれやすく、居住権だけを与える目的と合いません。所有権を子へ、配偶者居住権を妻へ分けて書きます。
妻に今住んでいる家の配偶者居住権を遺贈する。対象不動産の特定に不安が残ります。登記事項証明書どおりの物件目録を付けます。
妻が必要とする間、配偶者居住権を遺贈する。存続期間が客観的に判断できません。終身または死亡日から○年間など明確にします。
妻に配偶者居住権を遺贈する。建物・土地の所有者が不明確です。負担付き所有権を誰に承継させるかも定めます。
共有状態を確認せず自宅と書く。配偶者以外の共有者がいると成立要件に問題が生じる可能性があります。登記事項証明書で共有者、抵当権、未登記部分を確認します。

専門職の役割

次の一覧は、配偶者居住権を遺言で遺贈する場面に関わる専門職の役割を整理したものです。どの論点を誰に確認するかを分けることで、法律、登記、税務、評価、将来売却の検討が抜けにくくなります。

専門職主な役割
弁護士遺言内容の法的設計、遺留分対策、相続人間紛争予防、交渉、調停、審判、訴訟対応。
司法書士相続登記、配偶者居住権設定登記、戸籍収集、登記用書類、法務局手続。
税理士相続税申告、配偶者居住権評価、敷地利用権評価、小規模宅地等の特例、税務調査対応。
行政書士紛争性・税務・登記申請を除く範囲での相続書類や遺言作成支援。
公証人公正証書遺言の作成、公証実務、遺言方式の安定化。
不動産鑑定士・土地家屋調査士不動産評価、未登記建物、増築、分筆、境界、表示登記。
宅地建物取引士・不動産仲介業者将来売却、賃貸、空き家管理、価格査定。
ファイナンシャル・プランナー等老後資金、保険、生活設計、遺族年金など周辺手続の整理。

ケース別の設計

次の一覧は、家族構成や不動産の状態ごとに検討の重点が変わることを示します。左の事情がある場合、右の設計ポイントを確認することで、配偶者居住権が適するか、所有権承継や別制度が適するかを比較できます。

子が一人

比較的シンプルな設計

配偶者に終身の配偶者居住権、子に自宅土地建物の所有権、配偶者に生活資金を取得させます。将来の介護や認知症も想定します。

子が複数

共有を避ける検討

自宅を共有にすると、売却、修繕、固定資産税、配偶者死亡後の利用で対立しやすくなります。代償金や保険で調整します。

子がいない

所有権承継との比較

配偶者と親または兄弟姉妹が相続人になることがあります。配偶者に所有権を取得させる方が適する場合もあります。

先祖代々の土地

所有権と居住を分ける

土地は子に残し、妻には配偶者居住権と生活資金を確保する設計が考えられます。家系財産への思いだけで生活費を削らないことが重要です。

住宅ローン

金融機関の権利を確認

抵当権、団体信用生命保険、債務承継、返済能力、期限の利益喪失条項を確認します。遺言だけで金融機関の権利は変更できません。

二世帯住宅

利用範囲と登記を確認

区分登記、親子共有、玄関や水回りの独立、実際の居住部分と権利対象のずれを検討します。

Section 10

専門家へ確認するための総合文例

配偶者居住権、所有権、登記協力、費用、第三者使用、予備的条項を一体化したたたき台です。

次の総合文例は、専門家に相談する際に論点を漏らさないためのたたき台です。実際に使う前に、家族構成、財産内容、登記、税務、遺留分、遺言方式を確認する必要があります。

遺言書

遺言者 山田太郎は、次のとおり遺言する。

第1条(配偶者居住権の遺贈)
遺言者は、遺言者の妻 山田花子(昭和○年○月○日生)に対し、別紙物件目録1記載の建物(以下「本建物」という。)について、民法第1028条以下に定める配偶者居住権を遺贈する。

第2条(存続期間)
前条の配偶者居住権の存続期間は、妻 山田花子の終身の間とする。

第3条(本建物及び敷地の承継)
遺言者は、第1条の配偶者居住権の負担付きで、本建物及び別紙物件目録2記載の土地を、長男 山田一郎(平成○年○月○日生)に相続させる。

第4条(登記協力)
長男 山田一郎は、妻 山田花子が第1条の配偶者居住権について登記手続を行う場合、これに必要な協力をしなければならない。

第5条(費用負担)
妻 山田花子は、第1条の配偶者居住権に基づき本建物を使用する期間中、本建物の通常の使用及び保存に必要な費用を負担する。

2 本建物又はその敷地の所有者が、本建物又はその敷地に係る固定資産税、都市計画税その他本建物の通常の使用に関係する費用を支払った場合、妻 山田花子は、当該費用のうち相当額を所有者に支払うものとする。

3 本建物の大規模修繕、滅失、毀損、建替えその他通常の使用を超える事項については、妻 山田花子と本建物所有者が誠実に協議して定める。

第6条(第三者使用)
妻 山田花子は、病気、要介護状態、施設入所その他やむを得ない事情により本建物に居住しない期間が生じる場合、本建物所有者の書面による承諾を得て、本建物を第三者に賃貸その他使用又は収益させることができる。

第7条(生活資金)
遺言者は、別紙財産目録3記載の預貯金を、妻 山田花子に相続させる。

第8条(その他の財産)
遺言者は、前各条に定める財産を除く遺言者の一切の財産を、長男 山田一郎に相続させる。

第9条(予備的条項)
妻 山田花子が遺言者の死亡以前に死亡した場合、妻 山田花子が第1条の配偶者居住権の遺贈を放棄した場合、又は第1条の配偶者居住権が法令上成立しない場合には、第1条、第2条、第5条及び第6条は効力を有しない。

2 前項の場合であっても、本建物及び別紙物件目録2記載の土地は、長男 山田一郎に相続させる。

第10条(遺言執行者)
遺言者は、本遺言の遺言執行者として、弁護士 ○○○○(事務所所在地 ○県○市○町○丁目○番○号)を指定する。

2 遺言執行者は、本遺言の内容を実現するため、相続人、受遺者、金融機関、証券会社、保険会社、法務局、税務署、市区町村その他の関係者に対し、必要な通知、請求、照会、書類の受領及び引渡し、財産目録の作成、預貯金等の払戻し又は名義変更、登記手続に必要な協力要請その他本遺言の執行に必要な一切の行為をすることができる。

第11条(付言事項)
私は、妻 山田花子が私と長年生活を共にし、私の生活を支えてくれたことに深く感謝している。妻が私の死後も住み慣れた自宅で安心して生活できるよう、第1条の配偶者居住権を定めた。また、自宅土地建物の所有権は長男 山田一郎に承継させ、将来の管理を任せたいと考えている。相続人らには、私の意思を尊重し、妻の生活の平穏を守りながら、互いに誠実に協議して手続を進めることを望む。

令和○年○月○日

住所 ○県○市○町○丁目○番○号
遺言者 山田太郎 印

別紙物件目録1(建物)
所在   ○県○市○町○丁目○番地○
家屋番号 ○番○
種類   居宅
構造   木造瓦葺2階建
床面積  1階 ○○・○○平方メートル
     2階 ○○・○○平方メートル

別紙物件目録2(土地)
所在   ○県○市○町○丁目
地番   ○番○
地目   宅地
地積   ○○○・○○平方メートル

別紙財産目録3(預貯金)
1 ○○銀行○○支店 普通預金 口座番号○○○○○○○
2 ○○信用金庫○○支店 定期預金 口座番号○○○○○○○
3 その他遺言者名義の一切の預貯金

総合文例で最も重要なのは、第1条の一文だけで終わらせないことです。対象建物、存続期間、土地建物の所有者、登記協力、費用負担、予備的条項、遺言執行者、相続税評価、遺留分対策まで含めて設計します。

Section 11

遺言書で配偶者居住権を遺贈する場合のFAQ

よくある疑問を、一般的な制度説明として整理します。個別事情で結論は変わります。

Q1. 遺言書には「配偶者居住権を遺贈する」と書くべきですか。

一般的には、配偶者居住権を設定する趣旨を明確にするため、「民法第1028条以下に定める配偶者居住権を遺贈する」と書く形が用いられます。ただし、建物の所有関係、居住実態、相続人構成によって必要な条項は変わります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。

Q2. 「配偶者居住権を相続させる」と書いてもよいですか。

一般的には、民法第1028条が遺贈の目的とする場面を想定しているため、「遺贈する」と書く方が安全とされています。ただし、遺言全体の文脈や相続人の立場によって評価が問題になる可能性があります。具体的な文言は専門家へ確認する必要があります。

Q3. 配偶者居住権は土地にも設定できますか。

一般的には、配偶者居住権の直接の対象は居住建物とされています。ただし、建物を利用するための敷地利用権や土地所有権の承継が税務・登記で問題になります。具体的には、建物と土地の登記事項証明書を確認したうえで専門家へ相談する必要があります。

Q4. 配偶者は配偶者居住権を売れますか。

一般的には、配偶者居住権は譲渡できない権利とされています。ただし、所有者の承諾を得て第三者に使用・収益させる設計を検討する場面はあり得ます。賃貸借、登記、税務、保険、修繕の扱いで結論が変わるため、具体的には専門家へ相談する必要があります。

Q5. 配偶者が遺贈を拒否できますか。

一般的には、特定遺贈の受遺者は遺言者死亡後に遺贈を放棄できるとされています。ただし、放棄後の財産帰属や税務、他の相続人の取得内容が問題になります。遺言書では予備的条項を置くことを含めて専門家へ確認する必要があります。

Q6. 自筆証書遺言で配偶者居住権を遺贈できますか。

一般的には、民法上の方式を満たせば自筆証書遺言でも配偶者居住権の遺贈を記載できます。ただし、要件、登記、税務、遺留分が複雑になりやすいため、公正証書遺言や法務局保管制度の利用、専門家確認を検討する必要があります。

Q7. 法務局に保管すれば内容も有効と保証されますか。

一般的には、法務局の自筆証書遺言書保管制度は、方式の外形確認や保管により紛失・改ざん等を防ぐ制度とされています。内容の法律相談や有効性保証を行う制度ではありません。配偶者居住権の内容面は、別途専門家へ確認する必要があります。

Q8. 公正証書遺言なら検認は不要ですか。

一般的には、公正証書遺言は家庭裁判所の検認を要しないとされています。法務局保管制度を利用した自筆証書遺言も、所定の手続により検認不要となる場面があります。ただし、遺言の有効性や内容の適切性は別問題であり、具体的には専門家へ確認する必要があります。

Q9. 配偶者居住権の登記は必要ですか。

一般的には、権利の成立と第三者に主張できるかは区別され、配偶者を確実に保護するには登記が重要とされています。ただし、登記手続の内容は遺言形式、所有権移転、相続人の協力状況で変わります。司法書士等へ確認する必要があります。

Q10. 建物所有者となる子は自宅を売却できますか。

一般的には、所有者として売却が問題になる場面はあり得ますが、配偶者居住権が登記されていれば買主はその負担を前提に取得することになります。市場価値や売却可能性に大きく影響するため、具体的には不動産・登記・法律の専門家へ相談する必要があります。

Q11. 配偶者が施設に入ったら配偶者居住権は当然に消えますか。

一般的には、施設入所だけで当然に消えるとは限らないとされています。存続期間、居住実態、放棄、合意解除、第三者使用、建物管理などで結論が変わる可能性があります。施設入所時の扱いは遺言書や別途合意で設計しておく必要があります。

Q12. 固定資産税は誰が払いますか。

一般的には、固定資産税の納税義務者は所有者ですが、配偶者居住権者が通常必要費を負担する考え方との関係で求償が問題になります。遺言書や相続人間の合意で整理する必要があり、具体的な負担は事情によって変わります。

Q13. 配偶者居住権を設定すると相続税が安くなりますか。

一般的には、単純に安くなるとはいえません。配偶者居住権、建物所有権部分、敷地利用権、敷地所有権部分に分けて評価するため、各人の取得額や二次相続に影響します。節税目的だけで設定するのではなく、税理士等へ相談する必要があります。

Q14. 共有建物でも配偶者居住権を遺贈できますか。

一般的には、被相続人が配偶者以外の者と共有している建物では、配偶者居住権の成立に問題が生じる可能性があります。共有者、持分、居住実態、登記状況で結論が変わるため、登記事項証明書を確認したうえで専門家へ相談する必要があります。

Q15. 内縁の妻に配偶者居住権を遺贈できますか。

一般的には、民法上の配偶者居住権は法律上の配偶者を対象とするとされています。内縁・事実婚のパートナーを保護したい場合は、所有権の遺贈、使用貸借、賃貸借、信託、死因贈与など別の制度を検討する必要があります。

Section 12

遺言書で配偶者居住権を遺贈する前の実務チェックリスト

法律要件、文言、税務、紛争予防、手続を最後に横断確認します。

最後に、配偶者居住権を遺言で遺贈する前に確認すべき事項をまとめます。左の分類ごとに、要件、文言、評価、紛争予防、手続のどこに抜けがあるかを点検すると、専門家へ相談する際の資料整理にも役立ちます。

分類確認事項
法的要件法律婚であること、相続開始時の居住見込み、建物名義、土地名義、共有者、未登記建物、増築、附属建物、住宅ローン、抵当権、差押え、賃借権を確認します。
遺言文言「配偶者居住権を遺贈する」と明記し、対象建物、存続期間、建物所有権取得者、土地所有権取得者、登記協力、費用負担、第三者使用、予備的条項、遺言執行者を確認します。
税務・評価相続税申告の要否、配偶者居住権評価、敷地利用権、建物所有権部分、敷地所有権部分、小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減、二次相続、納税資金を確認します。
紛争予防各相続人の遺留分、遺留分侵害額請求への資金、付言事項、意思能力資料、相続人への説明方針、紛争リスクを確認します。
手続自筆証書遺言か公正証書遺言か、民法第968条の方式、法務局保管制度、公証役場資料、保管場所、死亡後の登記・税務・金融機関手続の担当を確認します。

特に、再婚家庭、前婚の子がいる場合、子どうしの関係が悪い場合、自宅評価額が財産の大半を占める場合、相続税申告が必要になりそうな場合、建物が共有名義の場合、住宅ローンや抵当権が残る場合、配偶者が高齢・病気・施設入所の可能性がある場合、遺留分侵害が見込まれる場合、自筆証書遺言で作成しようとしている場合は、文例の丸写しではなく個別設計が必要です。

配偶者居住権の遺贈は、配偶者を守る遺言であると同時に、所有権を取得する相続人に負担を課す遺言でもあります。法的安定性、税務合理性、家族の納得可能性を同時に満たすために、弁護士、司法書士、税理士、公証人を中心に必要な専門職と連携して確認します。

Reference

参考資料

制度の根拠を確認するための公的・準公的資料です。

法令・公的資料

  • e-Gov法令検索「民法」
  • e-Gov法令検索「不動産登記法」
  • 法務省「残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます。」
  • 法務省「自筆証書遺言書保管制度」
  • 法務省「遺言書の様式等についての注意事項」
  • 法務省「相続登記の申請義務化特設ページ」
  • 裁判所「遺言書の検認」
  • 裁判所「遺言執行者の選任」

税務・公証実務

  • 国税庁「No.4666 配偶者居住権等の評価」
  • 国税庁「配偶者居住権等の評価明細書」
  • 国税庁「配偶者居住権等の評価に関する質疑応答事例集」
  • 日本公証人連合会「遺言」