交通事故後の頚部痛、しびれ、脱力、めまいを評価するために、医療現場で行われる神経学的検査と補助検査の意味を整理します。
交通事故 後の頚部痛、しびれ、脱力、めまいを評価するために、医療現場で行われる神経学的検査と補助検査の意味を整理します。
痛みだけでなく、しびれ、筋力、反射、歩行、めまいを組み合わせて評価します。
次の重要ポイントは、むちうちの神経学的検査が何を分けるための評価なのかを示しています。読者にとって重要なのは、首の痛みだけでなく、筋力・知覚・反射の異常がWAD分類や受診先の判断に関わる点を読み取ることです。
WAD分類では、頚部症状に神経学的徴候が加わるものはGrade III、骨折または脱臼を伴うものはGrade IVに分類されます。
次の一覧は、検査群を目的別に整理したものです。なぜ重要かというと、同じしびれでも神経根、頚髄、末梢神経、前庭系で見る検査が変わるためで、どの症状にどの評価が対応するかを読み取ります。
徒手筋力検査、知覚検査、深部腱反射、病的反射、歩行・協調運動を確認します。
Spurling、Jackson、頚椎牽引、上肢神経伸張などで腕への放散痛を見ます。
Hoffmann徴候、Babinski反射、クローヌス、歩行、手指巧緻運動を見ます。
眼球運動、眼振、Dix-Hallpike法、Head Impulse Testなどを見ます。
交通事故後の「むちうち」は、単なる首の痛みだけでなく、腕や手のしびれ、筋力低下、感覚鈍麻、反射異常、めまい、ふらつき、頭痛、眼の動かしにくさ、手先の不器用さなどを伴うことがあります。医療現場では、これらの症状が頚椎周囲の筋・靱帯などの軟部組織による痛みなのか、頚椎神経根の障害なのか、頚髄障害なのか、末梢神経障害なのか、頭部外傷・前庭障害・血管性疾患など別の病態なのかを見分けるために、神経学的検査を組み合わせて評価します。
このページでいう「むちうちの神経学的検査で行われるテスト一覧」とは、主に次の検査群を指します。
むちうち関連障害、すなわちWAD(Whiplash-Associated Disorders)の分類では、頚部症状に加えて神経学的徴候があるものはWAD Grade III、骨折または脱臼を伴うものはGrade IVに分類されます。SIRA NSWのWAD分類でも、Grade IIIの神経学的徴候として、腱反射の低下または消失、筋力低下、感覚障害が挙げられています。 したがって、むちうち後の神経学的検査は、単に「痛みを確認する検査」ではなく、安全確認、病態分類、治療方針、画像検査の要否、リハビリ計画、診療録の整備、交通事故実務上の説明可能性に関わる中核資料です。
事故直後や強い痛みがある場面では、安全確認を優先します。
次の判断の流れは、交通事故後に神経学的検査より先に確認される安全上の分岐を表しています。読者にとって重要なのは、脱力、両側症状、歩行障害、排尿排便障害、危険機転がある場合に緊急評価が必要になり得る点を読み取ることです。
首の痛み、腕や手のしびれ、脱力、頭痛、めまい、意識消失を整理します。
手足の脱力、両側症状、歩行障害、排尿排便障害、強い頭痛などを確認します。
救急、脊椎専門、脳神経外科、神経内科などで画像検査や専門評価が検討されます。
医師の判断で基本神経診察、誘発テスト、画像検査の要否を段階的に検討します。
Spurlingテスト、Jacksonテスト、頚椎牽引テスト、上肢神経伸張テスト、めまい誘発検査などは、症状を悪化させたり、まれに重大な病態を見落としたりする危険があります。事故直後、強い痛み、手足の脱力、歩行障害、排尿排便障害、強い頭痛、意識障害、発熱、がんの既往、骨粗鬆症、抗凝固薬内服、首を動かすと神経症状が増悪する場合は、自己検査ではなく救急・整形外科・脳神経外科などで評価を受けてください。
このページは情報提供であり、医学的診断、治療方針、後遺障害等級、損害賠償、示談交渉、訴訟判断を個別に決定するものではありません。
交通事故後のむちうちでは、「神経学的検査の一覧」を知る前に、救急評価が必要な状態を見逃さないことが重要です。NICEの脊椎外傷ガイドラインは、外傷患者の初期評価で神経学的評価を含む優先順位評価を行い、手足の筋力低下や感覚異常、脊椎痛、意識障害、薬物・アルコール影響、重大な distracting injury などを確認することを推奨しています。
次のいずれかがある場合は、通常の外来予約を待たず、医療機関に相談すべきです。
Canadian C-spine Ruleでは、65歳以上、危険な受傷機転、四肢の異常感覚は高リスク因子とされ、低リスク因子がある場合でも左右45度の頚部自動回旋が安全にできるかが判断に使われます。NICEは、成人でCanadian C-spine Ruleにより画像が示唆される場合にはCTを行い、脊髄損傷に起因し得る神経学的異常がある場合にはCTで明らかでなくてもMRIを行うとしています。
分類と病態の違いを先に押さえると、検査名の意味が読みやすくなります。
「むちうち」は俗称です。医学的には、頚椎捻挫、頚部挫傷、外傷性頚部症候群、Whiplash-Associated Disorders(WAD)などの表現が使われます。交通事故、とくに追突事故では、頭部と頚部が急激な加速・減速を受け、首の筋、靱帯、椎間関節、椎間板、神経根、交感神経系、前庭・眼球運動系などに症状が出ることがあります。
WAD分類は、症状と身体所見に基づき、概ね次のように理解されます。
次の表は、「1.1 むちうち、むち打ち、WAD」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。
| WAD分類 | 概要 | 神経学的検査との関係 |
|---|---|---|
| Grade 0 | 首の訴えも身体所見もない | 通常、神経学的異常はない |
| Grade I | 首の痛み・こわばり・圧痛などのみ | 神経学的異常はない |
| Grade II | 首の症状に加え、可動域制限や圧痛など筋骨格系所見がある | 神経学的異常はないが、経過で再評価する |
| Grade III | 首の症状に加え、神経学的徴候がある | 腱反射低下、筋力低下、感覚障害などが焦点 |
| Grade IV | 首の症状に骨折・脱臼がある | 神経障害の有無にかかわらず緊急度が高い |
SIRAの分類では、Grade IIIの神経学的徴候として、腱反射低下・消失、筋力低下、感覚障害が明記されています。
神経学的検査とは、脳、脊髄、神経根、末梢神経、筋肉がどのように働いているかを、問診と身体診察で評価する方法です。むちうちで重要なのは、首の痛みそのものよりも、次の異常があるかどうかです。
日本神経学会の「神経学的検査チャート作成の手引き」では、徒手筋力検査は重力負荷のかかる肢位で最大筋力を出してもらい、検者が抵抗を加えて評価すること、筋力を0から5までの6段階で評価することが示されています。
むちうち後のしびれや脱力は、すべてが同じ原因ではありません。
次の表は、「1.3 神経根症、頚髄症、末梢神経障害の違い」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。
| 病態 | 障害部位 | 典型的な症状 | 検査で重視する点 |
|---|---|---|---|
| 頚椎神経根症 | 頚椎から出る神経根 | 片側の首から肩・腕・手への放散痛、しびれ、筋力低下、腱反射低下 | Spurling、ULTT、MMT、知覚、腱反射 |
| 頚髄症 | 頚髄、つまり脊髄本体 | 手の不器用さ、歩行障害、両側症状、反射亢進、病的反射、排尿障害 | Hoffmann、Babinski、クローヌス、歩行、巧緻運動 |
| 末梢神経障害 | 手首・肘・腕などの末梢神経 | 手根管症候群、肘部管症候群など。首の動きと無関係なことも多い | Tinel、Phalen、神経伝導検査、分布の確認 |
| 筋・靱帯・椎間関節由来の痛み | 頚部軟部組織・関節 | 局所頚部痛、可動域制限、圧痛 | 可動域、圧痛、姿勢、痛みの再現性 |
| 前庭・眼球運動系 | 内耳、脳幹、小脳、頚部固有感覚 | めまい、眼振、ふらつき、視覚不快 | 眼球運動、Dix-Hallpike、Head Impulse、SPNTなど |
頚椎神経根症について、AAFPは深部腱反射の低下、とくに上腕三頭筋反射の低下がよくみられる神経学的所見であり、Spurlingテスト、肩外転テスト、上肢神経伸張テストが診断補助として使われると説明しています。
問診から画像検査まで、目的と注意点をまとめて確認します。
以下の表は、臨床で使われる主な検査を、一般読者にもわかるように整理したものです。実際にどの検査を行うかは、事故状況、症状、年齢、既往歴、画像所見、医師の判断によって変わります。
次の表は、「3. むちうちの神経学的検査で行われるテスト一覧 ― 全体表」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。
| No | 検査・テスト名 | 何をみるか | 陽性・異常の意味 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 問診・症状マッピング | 痛み・しびれ・脱力の場所、時期、増悪因子 | 神経根、末梢神経、筋骨格系の鑑別に重要 | 検査前の最重要情報 |
| 2 | 痛み尺度(NRS/VAS) | 痛みの強さ | 経過比較、治療効果判定 | 神経障害の有無を直接示すものではない |
| 3 | Neck Disability Index等 | 日常生活障害 | 機能評価、経過観察 | 診断そのものではない |
| 4 | 姿勢・視診 | 頭位、肩の高さ、筋萎縮 | 防御姿勢、神経障害、肩疾患を示唆 | 視診だけで判断しない |
| 5 | 頚椎可動域 | 前屈、後屈、側屈、回旋 | 可動域制限、痛みの方向性 | 外傷直後は安全確認後に行う |
| 6 | 45度回旋確認 | Canadian C-spine Ruleでの安全評価 | 低リスク例で画像要否判断に関係 | 高リスク例で無理に行わない |
| 7 | 60度未満の患側回旋 | Wainnerクラスターの一要素 | 頚椎神経根症の確率を高める所見の一部 | 単独診断ではない |
| 8 | 徒手筋力検査(MMT) | C5〜T1の筋力 | 神経根・末梢神経・筋障害を示唆 | 痛みによる力の入りにくさと区別が必要 |
| 9 | 握力測定 | 手指・前腕機能 | C8/T1、末梢神経、痛み、努力量の影響 | 左右差と経時変化を見る |
| 10 | 筋萎縮・周径測定 | 筋量低下 | 慢性神経障害、廃用、既往を示唆 | 急性期だけでは出にくい |
| 11 | 知覚検査 ― 触覚 | 触れた感覚 | 感覚鈍麻、左右差 | 皮膚分節と末梢神経分布を比較 |
| 12 | 知覚検査 ― 痛覚 | ピンなどの鋭さ | 神経障害の分布 | 強く刺さない。感染対策が必要 |
| 13 | 知覚検査 ― 温度覚 | 温冷の区別 | 小径線維・脊髄路の障害を示唆 | 外来では簡略化されることもある |
| 14 | 振動覚・位置覚 | 深部感覚 | 後索、末梢神経、脊髄症 | 高齢者や糖尿病では既往の影響もある |
| 15 | 上腕二頭筋反射 | 主にC5〜C6 | 低下なら神経根障害、高ければ中枢性も検討 | 左右差が重要 |
| 16 | 腕橈骨筋反射 | 主にC5〜C6 | C6神経根などの評価 | 反転所見があれば頚髄症を疑う |
| 17 | 上腕三頭筋反射 | 主にC7〜C8 | C7神経根症で低下しやすい | 頚椎神経根症で重視される |
| 18 | Hoffmann徴候 | 上位運動ニューロン徴候 | 頚髄症などを示唆 | 健常者でも出ることがあり単独判断不可 |
| 19 | Tromner徴候 | 上位運動ニューロン徴候 | 頚髄症などを示唆 | Hoffmannと同様に文脈が必要 |
| 20 | Babinski反射 | 錐体路障害 | 中枢神経障害を示唆 | 成人で陽性なら重要 |
| 21 | 足クローヌス | 錐体路障害 | 上位運動ニューロン障害を示唆 | 持続性なら緊急度が上がる |
| 22 | 反転腕橈骨筋反射 | 頚髄圧迫の徴候 | C5〜C6付近の脊髄障害を示唆 | 専門的評価が必要 |
| 23 | Lhermitte徴候 | 頚部屈曲時の電撃感 | 頚髄刺激、脱髄、脊髄病変など | むちうち特異的ではない |
| 24 | Romberg試験 | 深部感覚・平衡 | 脊髄後索、末梢神経、前庭系 | 転倒に注意 |
| 25 | タンデム歩行 | バランス、頚髄症、小脳・前庭 | ふらつき、失調 | 転倒予防が必要 |
| 26 | 指鼻試験・回内回外 | 小脳・協調運動 | 失調、協調障害 | 頭部外傷の評価でも使う |
| 27 | 巧緻運動検査 | 手指の細かな動き | 頚髄症、末梢神経障害 | ボタン、箸、書字の問診と合わせる |
| 28 | Spurlingテスト | 椎間孔狭小化による神経根症状誘発 | 患側上肢への放散痛で陽性 | 強い痛み・外傷直後は禁忌的に慎重 |
| 29 | Jacksonテスト | 頚椎伸展・圧迫で神経根症状誘発 | 肩・腕・手への放散痛で陽性 | Spurling関連の圧迫テストとして扱う |
| 30 | 頚椎牽引・離開テスト | 神経根圧迫の軽減 | 放散痛が軽くなれば陽性 | 不安定性が疑われる場合は行わない |
| 31 | 上肢神経伸張テスト(ULTT/ULNT) | 神経組織の機械的過敏性 | 再現性あるしびれ・痛み | 感度は高いが特異性は低め |
| 32 | 肩外転軽減テスト(Bakody) | 神経根症状が腕挙上で軽くなるか | 神経根症を示唆 | 胸郭出口症候群などでも解釈注意 |
| 33 | Valsalva法 | 髄腔内圧上昇で痛みが出るか | 椎間板・神経根刺激を示唆 | 心血管リスクや強い痛みでは慎重 |
| 34 | Arm Squeeze Test | 肩疾患と頚椎由来痛の鑑別 | 上腕中央圧迫が肩部圧迫より強く痛い | 補助検査。単独診断不可 |
| 35 | Tinel徴候 | 末梢神経の過敏性 | 手根管、肘部管など | 頚椎神経根症との鑑別に使う |
| 36 | Phalenテスト | 正中神経障害 | 手根管症候群を示唆 | むちうち特異的ではない |
| 37 | 肘部管圧迫・肘屈曲テスト | 尺骨神経障害 | 小指・環指しびれの鑑別 | C8神経根症と混同されやすい |
| 38 | 胸郭出口症候群関連テスト | 腕神経叢・血管圧迫 | Roos/EAST、Adsonなど | 偽陽性が多く慎重に解釈 |
| 39 | 脳神経検査 | 視覚、眼球運動、顔面、聴覚、嚥下 | 頭部外傷、脳幹・脳神経障害 | めまい・複視・嚥下障害で重要 |
| 40 | 眼球運動検査 | 追跡、サッカード、眼振 | 前庭・小脳・頚部固有感覚の異常 | WADでは研究上のばらつきあり |
| 41 | Dix-Hallpike法 | 良性発作性頭位めまい症 | 特徴的眼振・めまい | 頚部痛が強い場合は変法を検討 |
| 42 | Head Impulse Test | 前庭眼反射 | 末梢前庭障害を示唆 | 急性めまいでは専門判断が必要 |
| 43 | Smooth Pursuit Neck Torsion Test | 頚部固有感覚と眼球追跡 | WAD関連眼球運動異常を示唆 | 研究・専門外来で用いられることが多い |
| 44 | Head-Neck Differentiation Test | 頚性めまいと前庭性めまいの鑑別補助 | 体幹回旋で症状変化 | 頚性めまいは除外診断 |
| 45 | 筋電図(針筋電図) | 神経根障害の電気生理学的証拠 | 脱神経、再神経支配 | 発症直後は異常が出ないこともある |
| 46 | 神経伝導検査 | 末梢神経障害の鑑別 | 手根管、肘部管、腕神経叢など | 神経根症では感覚神経活動電位が保たれることがある |
| 47 | X線 | 骨配列、骨折、変性 | 骨傷、アライメント | 神経自体は直接見えない |
| 48 | CT | 骨折、骨性狭窄 | 外傷性骨傷の確認 | 急性外傷で重要 |
| 49 | MRI | 椎間板、神経根、脊髄、靱帯 | 神経圧迫、脊髄信号変化 | 画像異常と症状が一致するかが重要 |
| 50 | 診断的神経根ブロック | 痛みの責任神経根の推定 | 症状軽減 | 治療・診断を兼ねる専門的手技 |
問診、筋力、知覚、反射を左右差と経過で確認します。
むちうちの神経学的検査は、ハンマーで腱を叩くところから始まるわけではありません。最初に重要なのは、症状の分布と時間経過です。
医師やリハビリ職は、概ね次の情報を確認します。
交通事故実務上も、事故直後からの症状の一貫性、受診時期、神経学的所見、画像所見、治療経過の整合性は重要です。ただし、症状を強く見せようとして事実と異なる申告をすることは、医療上も法務上も不利益になり得ます。検査では「どこが、どの姿勢で、どのように変化するか」を正確に伝えることが最も重要です。
徒手筋力検査は、検者が患者の腕や手に抵抗を加え、どの筋群の筋力が低下しているかをみる検査です。日本神経学会の手引きでは、筋力は0から5までの6段階で評価されます。
次の表は、「4.2 徒手筋力検査(MMT)」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。
| 評点 | 意味 | 一般向けの理解 |
|---|---|---|
| 5 | 強い抵抗に抗して全可動域を動かせる | 正常に近い |
| 4 | 弱い抵抗に抗して全可動域を動かせる | やや弱い |
| 3 | 重力に抗して全可動域を動かせる | 抵抗には弱い |
| 2 | 重力を除けば全可動域を動かせる | かなり弱い |
| 1 | 筋収縮は触れるが関節運動なし | ごくわずかな収縮 |
| 0 | 筋収縮も触れない | 完全麻痺に近い |
むちうちでよく確認される筋力は次の通りです。
次の表は、「4.2 徒手筋力検査(MMT)」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。
| 神経根の目安 | 代表的な運動 | 主な筋・動作 | 異常の例 |
|---|---|---|---|
| C5 | 肩外転 | 三角筋 | 腕を横に上げにくい |
| C5〜C6 | 肘屈曲 | 上腕二頭筋など | 肘を曲げる力が弱い |
| C6 | 手関節背屈 | 橈側手根伸筋など | 手首を反らせにくい |
| C7 | 肘伸展 | 上腕三頭筋 | 肘を伸ばす力が弱い |
| C7〜C8 | 手関節屈曲・指伸展 | 前腕筋群 | 指を伸ばしにくい |
| C8 | 指屈曲 | 深指屈筋など | 握り込みが弱い |
| T1 | 指外転・内転 | 骨間筋 | 指を開く、閉じる力が弱い |
MMTで重要なのは、単に「痛いから力が入らない」のか、「神経支配に沿った筋力低下」なのかを見分けることです。痛みが強いと、実際の筋力低下がなくても力を出し切れないことがあります。そのため、左右差、再現性、反射、知覚、画像との整合性を合わせて判断します。
握力は、手指・前腕機能を簡便に数値化できる検査です。ただし、握力低下はC8/T1神経根障害だけでなく、痛み、手関節痛、腱鞘炎、手根管症候群、肘部管症候群、努力量、利き手、年齢、性別にも影響されます。
筋萎縮や上腕・前腕周径の左右差は、神経障害が長く続いた場合や廃用がある場合に参考になります。ただし、急性期のむちうちでは明確な筋萎縮がまだ出ていないこともあります。
知覚検査では、触覚、痛覚、温度覚、振動覚、位置覚などを確認します。むちうちでは、特に触覚・痛覚の左右差と、どの指にしびれがあるかが重要です。
次の表は、「4.4 知覚検査」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。
| 神経根の目安 | 感覚分布の典型例 | 代表的な訴え |
|---|---|---|
| C5 | 肩外側、上腕外側 | 肩の外側が鈍い |
| C6 | 前腕外側、親指側 | 親指側がしびれる |
| C7 | 中指周辺 | 中指を中心にしびれる |
| C8 | 小指、環指、前腕尺側 | 小指側がしびれる |
| T1 | 上腕内側 | 腕の内側が鈍い |
ただし、実際のしびれは教科書通りの皮膚分節にきれいに一致しないことがあります。末梢神経障害、筋膜痛、肩疾患、脳・脊髄疾患、糖尿病性神経障害、心理的ストレス、痛みの過敏化なども影響します。
深部腱反射は、反射ハンマーで腱を叩き、反射が左右対称か、低下しているか、亢進しているかをみる検査です。
次の表は、「4.5 深部腱反射」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。
| 反射 | 主な神経根 | 低下で考えること | 亢進で考えること |
|---|---|---|---|
| 上腕二頭筋反射 | C5〜C6 | C5/C6神経根障害、筋皮神経障害 | 頚髄症など中枢性障害 |
| 腕橈骨筋反射 | C5〜C6 | C6神経根障害、橈骨神経障害 | 頚髄症、反転腕橈骨筋反射 |
| 上腕三頭筋反射 | C7〜C8 | C7神経根障害で重要 | 中枢性障害 |
AAFPは、頚椎神経根症では深部腱反射低下、とくに上腕三頭筋反射低下が一般的な神経学的所見だと述べています。 反射は患者の主観に左右されにくい一方、検者の技術、緊張、年齢、既往にも影響されます。左右差と他の所見との一致が重要です。
Spurling、Jackson、ULTTなどは、放散痛の再現性と整合性を確認します。
頚椎神経根症とは、頚椎から腕へ向かう神経根が圧迫・刺激され、首から肩、腕、手へ放散する痛みやしびれ、筋力低下、反射低下を起こす状態です。StatPearlsは、頚椎神経根症を「脊髄神経根が圧迫または障害され、痛みが首を越えて腕、胸、肩、背中へ広がり得る状態」と説明し、筋力低下や深部腱反射障害を主要所見として挙げています。
Spurlingテストは、頚椎神経根症を疑うときに行われる代表的な誘発テストです。APTAの解説では、Spurlingテストは頚椎神経根症を検出するために使われ、標準化された単一手順があるわけではなく、側屈、回旋、伸展、軸圧を組み合わせる複数の変法があるとされています。
一般的には、患者が座位になり、検者が頚部を患側へ側屈・回旋・伸展させ、上から軽く圧迫します。陽性とは、首だけの痛みではなく、普段の症状に近い肩・腕・手への放散痛やしびれが再現される場合です。
次の表は、「5.1 Spurlingテスト」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。
| 見るポイント | 内容 |
|---|---|
| 目的 | 椎間孔を狭くし、神経根症状が再現されるかをみる |
| 陽性 | 患側上肢への放散痛、しびれの再現 |
| 陰性 | 放散症状が再現されない。ただし神経根症を完全否定はできない |
| 注意 | 骨折、不安定性、強い痛み、脊髄症状がある場合は慎重または禁忌的 |
Spurlingテストは、陽性なら頚椎神経根症の可能性を高めますが、陰性でも神経根症を完全に否定できません。Rubinsteinらのシステマティックレビューでは、Spurlingテスト、頚椎牽引・離開テスト、Valsalva法はおおむね特異度が高め、上肢神経伸張テストは感度が高めとまとめられています。
Jacksonテストは、日本の整形外科・交通事故実務でよく見かける検査名です。頚部を後屈させ、頭部に軸方向の圧迫を加え、肩から腕への放散痛が出るかをみます。国内の整形外科文献では、Spurling testとJackson testはいずれも頚椎の姿勢により椎間孔を狭くし、圧迫された神経根のデルマトームに一致した上肢放散痛を誘発させる徒手検査と説明されています。
次の表は、「5.2 Jacksonテスト」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。
| Spurlingテスト | Jacksonテスト |
|---|---|
| 側屈・回旋・伸展・圧迫を組み合わせることが多い | 後屈位で軸圧を加える説明が多い |
| 国際的にも研究が比較的多い | 日本の交通事故資料で頻出するが、国際研究では圧迫テストの一類型として扱われやすい |
| 放散痛の再現を重視 | 放散痛の再現を重視 |
Jacksonテストで首の局所痛だけが出た場合、神経根症ではなく椎間関節や筋・靱帯性疼痛の可能性もあります。上肢への放散痛、知覚障害、筋力低下、反射低下がそろっているかが重要です。
頚椎牽引・離開テストは、検者が頭部を軽く牽引し、神経根への圧迫が減ることで腕への放散痛が軽くなるかをみる検査です。Spurlingテストが「圧迫して症状を誘発する」検査であるのに対し、牽引・離開テストは「圧迫を減らして症状が軽くなるか」をみます。
次の表は、「5.3 頚椎牽引・離開テスト」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。
| 目的 | 神経根圧迫が軽減すると症状が改善するかを確認 |
|---|---|
| 陽性 | 放散痛やしびれが軽減する |
| 意味 | 頚椎神経根症の可能性を高める補助所見 |
| 注意 | 骨折、脱臼、不安定性、強い痛み、脊髄症状が疑われる場合は行わない |
上肢神経伸張テストは、肩、肘、手関節、頚部を一定の手順で動かし、腕神経叢や正中神経、橈骨神経、尺骨神経系の機械的過敏性をみる検査です。AAFPは、Spurlingテストと上肢神経伸張テストを組み合わせることで診断感度・特異度が改善するとしています。
代表的なULNT1、いわゆる正中神経バイアスでは、肩を外転、前腕を回外、手関節と指を伸展、肘を伸展し、頚部側屈で症状の変化をみます。
陽性と判断する際は、単に「伸ばされて痛い」だけでは不十分です。次のような点をみます。
上肢神経伸張テストは感度が高い、つまり陰性なら神経根症の可能性を下げるのに役立つとされる一方、特異性は高くないため、陽性だからといって頚椎神経根症と即断することはできません。
肩外転軽減テストは、患者が症状のある側の手を頭の上に置く、または腕を挙上することで、腕への放散痛が軽くなるかをみる検査です。神経根への牽引や圧迫が変化し、症状が軽くなる場合、頚椎神経根症を示唆します。
ただし、肩関節疾患や胸郭出口症候群でも腕の位置により症状が変わることがあり、単独では診断できません。
Valsalva法は、息を止めていきむことで髄腔内圧や静脈圧が上がり、椎間板ヘルニアや神経根刺激による痛みが誘発されるかをみる古典的検査です。Rubinsteinらのレビューでは、Valsalva法は特異度が高めだが感度は低い検査として整理されています。
高血圧、心疾患、脳血管リスク、強い痛みがある場合には慎重に扱われます。むちうち評価で必ず行う検査ではありません。
Wainnerらの研究では、頚椎神経根症を示唆する臨床所見の組み合わせとして、次の4項目が知られています。
このようなクラスターは、単一テストよりも診断確率を考えるうえで役立ちます。ただし、研究の対象、基準検査、症状の期間、検者の技術によって結果は変わります。交通事故後のむちうちでは、骨傷や脊髄症状の除外、安全性、画像所見、経過も同時に考える必要があります。
Arm Squeeze Testは、肩疾患と頚椎由来の神経根痛を見分ける補助テストです。上腕中央部を圧迫した痛みが、肩峰下部や肩鎖関節付近を圧迫した痛みより著しく強いかをみます。Guminaらの研究では、頚椎神経根圧迫と肩疾患の鑑別に有用な可能性が報告されています。
むちうち後に「肩が痛い」と表現される場合、頚椎神経根症、肩関節損傷、腱板損傷、肩鎖関節損傷、胸郭出口症候群、腕神経叢損傷などが混在し得ます。Arm Squeeze Testは鑑別の一助ですが、画像、神経診察、肩関節検査と合わせて解釈します。
病的反射、歩行、手指巧緻運動は、緊急度の判断にも関わります。
むちうち後に最も見逃したくないのは、単なる首の痛みではなく、脊髄そのものの障害です。頚髄症では、上肢のしびれや痛みだけでなく、手の不器用さ、歩行障害、反射亢進、病的反射、排尿排便障害が出ることがあります。
AAFPの頚髄症解説では、Hoffmann徴候、反転腕橈骨筋反射、Babinski徴候、持続性クローヌスなどが上位運動ニューロン関連所見として述べられ、Babinski徴候や持続性クローヌスは感度は低いが特異度が高い所見として整理されています。
Hoffmann徴候は、中指などをはじいたときに、親指や示指が反射的に曲がるかをみる検査です。頚髄症など上位運動ニューロン障害を示唆します。
ただし、Hoffmann徴候は健常者でも出ることがあり、単独で頚髄症と診断するものではありません。両側性、反射亢進、歩行障害、手指巧緻運動障害、MRI所見との組み合わせが重要です。
Babinski反射は、足底を刺激したときに母趾が背屈する反応です。成人で明らかな陽性があれば、錐体路障害、つまり中枢神経系の障害を示唆します。
むちうち後の外来でBabinski反射が陽性なら、頚髄症、脳病変、脊髄病変などを含め、緊急度の高い評価が必要です。
クローヌスは、足関節などを急に背屈させたとき、筋が周期的に収縮を繰り返す現象です。持続性クローヌスは上位運動ニューロン障害を示唆します。頚椎外傷後に新たに出た場合は、頚髄損傷や脊髄圧迫の評価が必要です。
反転腕橈骨筋反射は、腕橈骨筋反射を誘発した際に本来の反応が乏しい一方、指の屈曲が出るような所見です。頚髄圧迫、とくにC5〜C6付近の障害を示唆することがあります。AAFPも、C5上腕二頭筋反射やC6腕橈骨筋反射の低下に対してC7上腕三頭筋反射が亢進する所見を、C5〜C6脊髄圧迫を強く示唆する身体所見として説明しています。
Lhermitte徴候は、首を前屈したときに背中や四肢へ電気が走るような感覚が出る現象です。頚髄の刺激、脱髄疾患、脊髄圧迫、放射線後変化などさまざまな原因で出るため、むちうち特異的ではありません。ただし、事故後に新たに出た場合は、頚髄病変の評価が必要です。
頚髄症では、手だけでなく足にも症状が出ることがあります。歩行障害は本人が「首の事故とは関係ない」と思って見落とすことがあります。
次の表は、「6.6 歩行、Romberg、タンデム歩行、巧緻運動」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。
| 検査 | 方法 | 異常所見 |
|---|---|---|
| 通常歩行観察 | 普通に歩く | 痙性歩行、ふらつき、足のもつれ |
| タンデム歩行 | かかととつま先を一直線にして歩く | ふらつき、バランス不良 |
| Romberg試験 | 足をそろえて立ち、開眼・閉眼で比較 | 閉眼で著明に不安定なら深部感覚障害など |
| 指鼻試験 | 指を鼻と検者の指へ交互に運ぶ | 小脳性失調など |
| 回内回外運動 | 手のひらを素早く返す | 協調運動障害 |
| 10秒テスト・手指巧緻運動 | 手を素早く開閉する | 頚髄症で遅くなることがある |
手指の巧緻運動障害は、日常生活の言葉では「ボタンを留めにくい」「字が書きづらい」「箸が使いにくい」「スマホ操作がぎこちない」「小銭を落とす」と表現されます。神経学的検査では、こうした訴えを具体的な動作で確認します。
頚部由来だけでなく、前庭、頭部外傷、脳血管疾患も鑑別します。
むちうち後には、めまい、ふらつき、吐き気、視線を動かすと気持ち悪い、読書で文字が追いにくい、焦点が合いにくい、頭痛を伴うなどの症状が出ることがあります。原因は一つではなく、頚部固有感覚の異常、前庭障害、良性発作性頭位めまい症、脳震盪、片頭痛、薬剤、心理的ストレス、脳血管疾患などが関係します。
WAD患者の眼球運動を調べたシステマティックレビューでは、WAD患者に眼球運動の変化がみられる研究がある一方、結果や検査方法にはばらつきがあるとされています。
眼球運動検査では、次のような項目を確認します。
複視、ろれつ障害、嚥下障害、強い頭痛、片麻痺、顔面感覚異常などを伴う場合は、頚性めまいと決めつけず、脳神経外科・神経内科・救急領域での評価が必要です。
Dix-Hallpike法は、良性発作性頭位めまい症(BPPV)を調べる代表的な検査です。頭位を変えたときに、特徴的なめまいと眼振が出るかをみます。
むちうち後のめまいがすべて頚部由来とは限りません。交通事故による頭部衝撃、内耳への影響、寝返りや起き上がりで悪化する症状がある場合、BPPVの評価も重要です。ただし、頚部痛が強い、頚椎不安定性が疑われる、脊髄症状がある場合は、通常法ではなく安全な変法や専門医評価が必要です。
Head Impulse Testは、前庭眼反射をみる検査です。頭部を素早く小さく動かしたとき、視線を目標に保てるかを確認します。末梢前庭障害の評価に使われますが、急性めまいでは脳梗塞など中枢性めまいとの鑑別が重要であり、専門的判断が必要です。
SPNTは、頭部を空間的には正面に保ち、体幹を回旋させて頚部に捻転を加えた状態で、滑動性追跡眼球運動を評価する検査です。頚部固有感覚入力が眼球運動に与える影響をみる目的で使われます。
WAD研究ではSPNT陽性や眼球運動異常が報告されていますが、検査機器、条件、対象、解釈にばらつきがあります。したがって、一般外来で全例に行う検査というより、めまい・視覚症状が目立つ場合に、リハビリテーション、めまい外来、研究的評価で用いられることが多い検査です。
Head-Neck Differentiation Testは、頭部と体幹の動きを分けることで、めまいが頚部由来か、前庭由来かを考える補助検査です。頚性めまいは明確な単一検査で確定する病名ではなく、他の危険な原因や前庭疾患を除外したうえで考える診断です。
しびれの原因を頚椎だけに限定せず、似た症状を分けて考えます。
交通事故後に手がしびれる場合、頚椎神経根症だけでなく、末梢神経障害や肩周囲の損傷が隠れていることがあります。とくに、手根管症候群、肘部管症候群、胸郭出口症候群、腕神経叢損傷、腱板損傷、肩鎖関節損傷は、むちうち症状と混同されやすい病態です。
Tinel徴候は、神経が浅い場所を軽く叩いたとき、その神経の支配領域にしびれや電撃痛が走るかをみる検査です。
次の表は、「8.1 Tinel徴候」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。
| 部位 | 疑う病態 | しびれの分布 |
|---|---|---|
| 手首の正中神経 | 手根管症候群 | 親指、人差し指、中指、環指橈側 |
| 肘の尺骨神経 | 肘部管症候群 | 小指、環指尺側 |
| 橈骨神経走行部 | 橈骨神経障害 | 手背橈側など |
C6神経根症と手根管症候群、C8神経根症と肘部管症候群は症状が似ることがあります。頚部運動で症状が変わるか、末梢神経の圧迫部位で症状が再現されるか、筋電図・神経伝導検査でどう出るかを合わせて判断します。
Phalenテストは、手関節を屈曲した姿勢で保持し、正中神経領域のしびれが出るかをみる検査です。手根管症候群を疑うときに使います。むちうちそのものの検査ではありませんが、交通事故後の手のしびれの鑑別で行われることがあります。
胸郭出口症候群では、腕神経叢や鎖骨下血管が、斜角筋、鎖骨、第一肋骨、小胸筋周辺で圧迫されることがあります。Roos/EAST、Adson、Wright、costoclavicular maneuverなどが知られています。
ただし、これらのテストは偽陽性が多く、単独で診断するものではありません。姿勢、脈拍変化、しびれの分布、筋力、血管症状、画像、神経伝導検査などと組み合わせます。
身体所見だけで完結せず、電気診断と照合します。
針筋電図は、筋肉に細い針電極を入れ、安静時・収縮時の電気活動を調べる検査です。神経根障害で筋への神経支配が障害されると、脱神経所見や再神経支配所見が出ることがあります。
NCBI Bookshelfの電気診断評価では、頚椎神経根症は詳細な病歴と身体診察で強く疑うことができ、電気診断検査として神経伝導検査と針筋電図が所見確認に用いられると説明されています。
ただし、EMGには限界もあります。
神経伝導検査は、末梢神経に電気刺激を与え、伝導速度や振幅を測定します。頚椎神経根症そのものでは、後根神経節より中枢側の障害であるため、感覚神経活動電位が保たれることがあります。一方、手根管症候群や肘部管症候群では末梢神経伝導に異常が出やすくなります。
したがって、NCSは「頚椎神経根症を直接証明する検査」というより、末梢神経障害との鑑別に有用です。AAFPも、頚椎神経根症の診断が明らかな場合に電気診断が必須ではない一方、上肢末梢神経障害が鑑別に上がる場合に臨床的有用性があると述べています。
神経学的検査は非常に重要ですが、外傷後のむちうちでは画像検査との関係も理解しておく必要があります。
次の表は、「10. 画像検査との関係 ― 神経学的検査だけで完結しない」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。
| 検査 | 主に見えるもの | 神経学的検査との関係 |
|---|---|---|
| X線 | 骨配列、骨折、変性、可動性 | 骨傷や不安定性の手がかり。神経自体は見えない |
| CT | 骨折、骨性狭窄、外傷性変化 | 急性外傷で骨傷確認に強い |
| MRI | 椎間板、神経根、脊髄、靱帯、軟部組織 | 神経圧迫、脊髄信号変化、椎間板ヘルニアを評価 |
| MRA/CTA | 血管 | 血管性病態が疑われる場合に検討 |
NICEの脊椎外傷ガイドラインは、成人でCanadian C-spine Ruleにより頚椎画像が必要と判断される場合にはCT、脊髄損傷に起因し得る神経学的異常がある場合にはCTで明らかでなくてもMRIを行うとしています。
一方、慢性化したむちうちでは、MRIで椎間板変性や軽度の膨隆が見つかっても、それが事故による症状の原因とは限りません。画像所見、神経学的所見、症状分布、事故機転、経時的変化の整合性をみる必要があります。
C6、C7、C8/T1、頚髄症、WAD Grade IIを区別して考えます。
このような場合、C6神経根障害の可能性が高まります。ただし、手根管症候群でも親指側しびれが出るため、末梢神経の評価も必要です。
AAFPが上腕三頭筋反射低下を頚椎神経根症でよくみられる所見として挙げている点とも整合します。
C8/T1領域は、尺骨神経障害や胸郭出口症候群との鑑別が特に重要です。
この場合、単なるむちうちとして経過観察するのではなく、整形外科脊椎専門医、脳神経外科、神経内科などで評価が必要です。
この場合、筋・靱帯・椎間関節などの筋骨格系症状が中心で、神経学的異常を伴うWAD Grade IIIとは区別されます。もっとも、経過中にしびれや脱力が出る場合は再評価が必要です。
神経学的検査は、次の判断に関わります。
NICE CKSのwhiplash assessmentでは、感覚低下、筋力低下、反射異常など神経学的関与の証拠を評価することが示されています。
日本の自賠責保険の後遺障害等級では、神経系統の障害や局部の神経症状が問題になります。自動車損害賠償保障法施行令別表第二には、12級13号として「局部に頑固な神経症状を残すもの」、14級9号として「局部に神経症状を残すもの」が規定されています。
ここで注意すべきなのは、法令上の文言だけで等級が自動的に決まるわけではないことです。実務では、症状の一貫性、事故態様、受傷直後からの経過、診療録、神経学的所見、画像所見、治療内容、既往歴などが総合的に検討されます。
神経学的検査で重要なのは、次のような記録です。
神経学的検査は、事故原因そのものを決める検査ではありません。しかし、事故の衝撃方向、車両損傷、シートベルト・ヘッドレスト、ドラレコ、EDR、救急記録、実況見分、診断書、通院経過と照合されることで、症状の発生機序を説明する材料になります。
たとえば、後方追突で首が急激に伸展・屈曲した状況、受傷直後から頚部痛と上肢しびれがあり、一定の神経根分布に沿った知覚障害と反射低下が記録され、MRIで同側の神経根圧迫がある場合、医学的説明の整合性は高まります。一方、症状の部位が毎回大きく変わる、神経解剖と一致しない、検査結果が不自然に変動する、画像・経過と合わない場合は、別病態や非器質的要因も含め再検討されます。
症状の部位、動作での変化、検査後の変化を具体的に整理します。
むちうち後に神経学的検査を受ける際、患者側が準備しておくと診療が正確になりやすい情報があります。
医師に診断書や後遺障害診断書を依頼する段階では、次のような神経学的所見が診療録に継続的に記録されているかが重要になることがあります。
ただし、患者が検査項目を医師に強要するのではなく、症状を正確に伝え、必要な検査を医師の判断で行ってもらうことが基本です。
頚椎可動域検査では、首を前に倒す、後ろに反らす、左右に倒す、左右へ向く動作を確認します。むちうちでは可動域制限がよく見られますが、それだけでは神経障害を意味しません。
神経根症では、後屈や患側側屈・回旋で腕への放散痛が増えることがあります。頚髄症では、可動域そのものよりも、反射亢進、病的反射、歩行障害、巧緻運動障害が重要です。
デルマトームとは、一つの神経根が主に感覚を担当する皮膚領域です。C6なら親指側、C7なら中指、C8なら小指側というように典型パターンがあります。
ただし、人間の体は個体差があり、隣接神経根との重なりもあります。そのため、デルマトームに完全一致しないから神経障害がないとも、少し似ているから神経障害だとも言えません。筋力、反射、誘発テスト、画像との総合判断が必要です。
ミオトームとは、一つの神経根が主に運動を担当する筋群です。C5は肩外転、C6は手関節背屈、C7は肘伸展、C8は指屈曲、T1は指外転などが代表です。
頚椎神経根症では、痛みやしびれだけでなく、対応するミオトームの筋力低下があると、神経学的所見として重みが増します。
反射は一般に、消失、低下、正常、亢進、クローヌスなどとして記載されます。施設や医師によって0〜4+で表現されることもあります。
次の表は、「14.4 反射検査のグレード」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。
| 表現 | 意味 |
|---|---|
| 0 | 消失 |
| 1+ | 低下 |
| 2+ | 正常範囲 |
| 3+ | 亢進 |
| 4+ | クローヌスを伴う著明亢進 |
頚椎神経根症では、障害神経根に対応する反射が低下しやすく、頚髄症では全体に反射が亢進しやすいという方向性があります。ただし、もともと反射が出にくい人、緊張で亢進する人、左右差がある人もいるため、単発所見だけで結論を出しません。
Spurling、Jackson、Valsalvaなどは「痛みを出す」検査です。しかし、陽性の条件は「首が痛い」だけではなく、普段の症状に近い上肢放散痛やしびれが再現されることです。
次の表は、「14.5 痛み誘発テストの正しい読み方」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。
| 結果 | 解釈 |
|---|---|
| 首だけが痛い | 椎間関節、筋・靱帯、局所痛の可能性 |
| 肩・腕・手へ普段通り響く | 神経根症状を示唆 |
| 反対側へ響く | 検査法、病態、非典型症状を再検討 |
| 毎回分布が大きく変わる | 非器質的要因、広範な疼痛過敏、別病態も検討 |
| しびれだけで筋力・反射・知覚に異常なし | 早期・軽症、末梢神経、疼痛過敏などを含め経過観察 |
頚椎牽引や手を頭に置く姿勢で腕の痛みが軽くなる場合、神経根への圧迫や牽引が変化している可能性があります。ただし、姿勢変化で肩周囲の筋緊張が変わっただけでも痛みは変化します。軽減テストも単独ではなく、神経学的所見全体で判断します。
検査名や画像だけで結論を急がず、整合性で読みます。
誤りです。Spurlingテストは頚椎神経根症を示唆する検査ですが、単独で診断や後遺障害等級を決めるものではありません。知覚、筋力、反射、画像、経過、事故態様などを総合します。
誤りです。MRIで明確な圧迫が見えない場合でも、痛みやしびれが存在することはあります。一方で、MRIに変性所見があっても、それが事故症状の原因とは限りません。画像だけでも症状だけでもなく、整合性が重要です。
誤りです。しびれは、神経根症、末梢神経障害、脊髄障害、前庭・自律神経症状、過換気、不安、糖尿病、薬剤、広範な疼痛過敏など、さまざまな原因で起こります。
誤りです。神経学的検査では、どこに、どの方向へ、どのような痛みやしびれが再現されるかが重要です。事実と違う申告は診断を誤らせ、治療や交通事故実務でも不利益になり得ます。
誤りです。検査を実施・診断するのは医師や医療専門職ですが、弁護士、保険担当者、損害調査担当、事故鑑定人、社労士、福祉職も、資料の意味を理解する必要があります。ただし、非医療職が診断を行うべきではありません。
一般情報として、検査や資料の見方を確認します。
FAQでは、個別事案の結論を断定せず、一般的な制度説明と医療・法律上の注意点として整理します。読者にとって重要なのは、同じ検査名でも事故態様、症状、証拠、画像、時期によって見方が変わる点を読み取ることです。
一般的には、首の痛みだけで神経症状がない軽症例では簡単な神経スクリーニングにとどまることがあります。ただし、腕や手のしびれ、筋力低下、反射異常、歩行障害、めまい、頭痛、外傷リスクがある場合は、詳しい評価が検討されます。具体的な対応は医師等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、どちらも頚椎の姿勢と圧迫によって神経根症状を誘発する検査とされています。Spurlingテストは側屈・回旋・伸展・軸圧を組み合わせる変法が多く、Jacksonテストは後屈位で軸圧を加える説明が多い検査です。検査法や解釈は症状で変わります。
一般的には、おかしいとは限りません。筋・靱帯、椎間関節、椎間板、筋膜、疼痛過敏、心理的ストレスなどが関与し、標準的な神経学的検査で異常が出ないことがあります。症状の経過や危険サインによって評価は変わります。
一般的には、反射低下は神経根症を示唆することがあります。ただし、重症度は筋力低下、感覚障害、日常生活障害、画像所見、経過によって変わります。具体的な見通しは医師等へ相談する必要があります。
一般的には、Hoffmann徴候の陽性だけで治療方針が決まるわけではありません。歩行障害、手指巧緻運動障害、反射亢進、Babinski反射、MRI所見、症状進行などで判断が変わります。
一般的には、首の痛みと腕の神経症状が強ければ整形外科や脳神経外科、回転性めまい、耳鳴り、難聴が目立てば耳鼻咽喉科、頭痛、複視、ろれつ障害、麻痺を伴う場合は救急や神経内科での評価が重要になることがあります。
一般的には、末梢神経障害との鑑別、神経根障害の客観的評価、画像と症状の不一致、長引く脱力などで検討されます。発症直後は異常が出にくい場合があるため、時期は医師が判断します。
一般的には、症状、可動域、知覚、筋力、反射、病的反射、誘発テスト、画像所見、治療経過、症状固定時の残存症状が重要資料になります。個別事情によって必要な資料や評価は変わります。
初診、経過観察、後遺障害資料で見る項目を分けて整理します。
検査名の暗記より、症状の伝え方と所見の整合性が大切です。
むちうちの神経学的検査で行われるテスト一覧を一言でまとめるなら、中心は「筋力、知覚、反射、病的反射、歩行・巧緻運動、神経根誘発テスト」です。SpurlingテストやJacksonテストは有名ですが、それだけで診断が決まるわけではありません。むしろ、むちうち評価では次の考え方が重要です。
読者が覚えるべき最も実用的なポイントは、検査名を暗記することではありません。「どこがしびれるのか」「どの動きで腕へ響くのか」「力が入りにくい動作は何か」「歩行や手先の細かい動作に変化があるか」を正確に伝え、医療者が安全に必要な検査を行えるようにすることです。