2σ Guide

むちうちの神経学的検査で
行われるテスト一覧

交通事故後の頚部痛、しびれ、脱力、めまいを評価するために、医療現場で行われる神経学的検査と補助検査の意味を整理します。

50 検査項目
0-5 MMT評価
III 神経徴候
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むちうちの神経学的検査で 行われるテスト一覧

交通事故 後の頚部痛、しびれ、脱力、めまいを評価するために、医療現場で行われる神経学的検査と補助検査の意味を整理します。

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むちうちの神経学的検査で 行われるテスト一覧
交通事故 後の頚部痛、しびれ、脱力、めまいを評価するために、医療現場で行われる神経学的検査と補助検査の意味を整理します。
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  • むちうちの神経学的検査で 行われるテスト一覧
  • 交通事故 後の頚部痛、しびれ、脱力、めまいを評価するために、医療現場で行われる神経学的検査と補助検査の意味を整理します。

POINT 1

  • むちうちの神経学的検査の全体像
  • 痛みだけでなく、しびれ、筋力、反射、歩行、めまいを組み合わせて評価します。
  • 神経学的徴候が評価の分岐点です
  • 筋力・知覚・反射
  • 誘発・軽減

POINT 2

  • むちうちの神経学的検査を自己判断で行わない注意点
  • 1. 事故後の症状を確認:首の痛み、腕や手のしびれ、脱力、頭痛、めまい、意識消失を整理します。
  • 2. 危険サインの有無を確認:手足の脱力、両側症状、歩行障害、排尿排便障害、強い頭痛などを確認します。
  • 3. 危険サインがある場合:救急、脊椎専門、脳神経外科、神経内科などで画像検査や専門評価が検討されます。
  • 4. 危険サインが明確でない場合:医師の判断で基本神経診察、誘発テスト、画像検査の要否を段階的に検討します。

POINT 3

  • むちうち、WAD、神経学的検査の用語整理
  • 分類と病態の違いを先に押さえると、検査名の意味が読みやすくなります。
  • 1.1 むちうち、むち打ち、WAD
  • 1.2 神経学的検査とは何か
  • 1.3 神経根症、頚髄症、末梢神経障害の違い

POINT 4

  • むちうちの神経学的検査で行われるテスト一覧50項目
  • 問診から画像検査まで、目的と注意点をまとめて確認します。
  • 実際にどの検査を行うかは、事故状況、症状、年齢、既往歴、画像所見、医師の判断によって変わります。

POINT 5

  • むちうち評価の土台になる基本神経診察
  • 問診、筋力、知覚、反射を左右差と経過で確認します。
  • 4.1 問診と症状マッピング
  • 4.2 徒手筋力検査(MMT)
  • 4.3 握力測定と筋萎縮測定

POINT 6

  • むちうちで頚椎神経根症をみる誘発・軽減テスト
  • Spurling、Jackson、ULTTなどは、放散痛の再現性と整合性を確認します。
  • 5.1 Spurlingテスト
  • 5.2 Jacksonテスト
  • 5.3 頚椎牽引・離開テスト

POINT 7

  • むちうちで頚髄症・中枢神経障害を疑う検査
  • 病的反射、歩行、手指巧緻運動は、緊急度の判断にも関わります。
  • 6.1 Hoffmann徴候
  • 6.2 Babinski反射
  • 6.3 クローヌス

POINT 8

  • むちうち後のめまい・眼球運動・平衡機能の検査
  • 頚部由来だけでなく、前庭、頭部外傷、脳血管疾患も鑑別します。
  • 7.1 眼球運動検査
  • 7.2 Dix-Hallpike法
  • 7.3 Head Impulse Test

まとめ

  • むちうちの神経学的検査で 行われるテスト一覧
  • むちうちの神経学的検査の全体像:痛みだけでなく、しびれ、筋力、反射、歩行、めまいを組み合わせて評価します。
  • むちうちの神経学的検査を自己判断で行わない注意点:事故直後や強い痛みがある場面では、安全確認を優先します。
  • むちうち、WAD、神経学的検査の用語整理:分類と病態の違いを先に押さえると、検査名の意味が読みやすくなります。
  • 本動画は一般的な情報提供であり、法律上の助言ではありません。記載の数値・金額・期間は目安です。個別事情で結論は変わります。
Overview

むちうちの神経学的検査の全体像

痛みだけでなく、しびれ、筋力、反射、歩行、めまいを組み合わせて評価します。

次の重要ポイントは、むちうちの神経学的検査が何を分けるための評価なのかを示しています。読者にとって重要なのは、首の痛みだけでなく、筋力・知覚・反射の異常がWAD分類や受診先の判断に関わる点を読み取ることです。

神経学的徴候が評価の分岐点です

WAD分類では、頚部症状に神経学的徴候が加わるものはGrade III、骨折または脱臼を伴うものはGrade IVに分類されます。

次の一覧は、検査群を目的別に整理したものです。なぜ重要かというと、同じしびれでも神経根、頚髄、末梢神経、前庭系で見る検査が変わるためで、どの症状にどの評価が対応するかを読み取ります。

基本

筋力・知覚・反射

徒手筋力検査、知覚検査、深部腱反射、病的反射、歩行・協調運動を確認します。

神経根

誘発・軽減

Spurling、Jackson、頚椎牽引、上肢神経伸張などで腕への放散痛を見ます。

頚髄

中枢徴候

Hoffmann徴候、Babinski反射、クローヌス、歩行、手指巧緻運動を見ます。

平衡

めまい・眼球運動

眼球運動、眼振、Dix-Hallpike法、Head Impulse Testなどを見ます。

交通事故後の「むちうち」は、単なる首の痛みだけでなく、腕や手のしびれ、筋力低下、感覚鈍麻、反射異常、めまい、ふらつき、頭痛、眼の動かしにくさ、手先の不器用さなどを伴うことがあります。医療現場では、これらの症状が頚椎周囲の筋・靱帯などの軟部組織による痛みなのか、頚椎神経根の障害なのか、頚髄障害なのか、末梢神経障害なのか、頭部外傷・前庭障害・血管性疾患など別の病態なのかを見分けるために、神経学的検査を組み合わせて評価します。

このページでいう「むちうちの神経学的検査で行われるテスト一覧」とは、主に次の検査群を指します。

  1. 基本神経診察 ― 徒手筋力検査、知覚検査、深部腱反射、病的反射、歩行・協調運動検査。
  2. 頚椎神経根症をみる誘発・軽減テスト ― Spurlingテスト、Jacksonテスト、頚椎牽引・離開テスト、上肢神経伸張テスト、肩外転軽減テスト、Valsalva法、頚椎回旋制限など。
  3. 頚髄症・中枢神経障害をみるテスト ― Hoffmann徴候、Babinski反射、足クローヌス、反転腕橈骨筋反射、タンデム歩行、Romberg試験、巧緻運動評価など。
  4. めまい・眼球運動・平衡機能をみる検査 ― 眼球運動、注視・追跡、眼振、Dix-Hallpike法、Head Impulse Test、Smooth Pursuit Neck Torsion Test、Head-Neck Differentiation Testなど。
  5. 補助検査 ― 筋電図、神経伝導検査、X線、CT、MRIなど。これらは厳密には「神経学的診察」ではありませんが、神経学的所見の裏付けや鑑別に重要です。

むちうち関連障害、すなわちWAD(Whiplash-Associated Disorders)の分類では、頚部症状に加えて神経学的徴候があるものはWAD Grade III、骨折または脱臼を伴うものはGrade IVに分類されます。SIRA NSWのWAD分類でも、Grade IIIの神経学的徴候として、腱反射の低下または消失、筋力低下、感覚障害が挙げられています。 したがって、むちうち後の神経学的検査は、単に「痛みを確認する検査」ではなく、安全確認、病態分類、治療方針、画像検査の要否、リハビリ計画、診療録の整備、交通事故実務上の説明可能性に関わる中核資料です。

Section 01

むちうちの神経学的検査を自己判断で行わない注意点

事故直後や強い痛みがある場面では、安全確認を優先します。

次の判断の流れは、交通事故後に神経学的検査より先に確認される安全上の分岐を表しています。読者にとって重要なのは、脱力、両側症状、歩行障害、排尿排便障害、危険機転がある場合に緊急評価が必要になり得る点を読み取ることです。

交通事故後の安全確認の順番

事故後の症状を確認

首の痛み、腕や手のしびれ、脱力、頭痛、めまい、意識消失を整理します。

危険サインの有無を確認

手足の脱力、両側症状、歩行障害、排尿排便障害、強い頭痛などを確認します。

危険サインがある場合

救急、脊椎専門、脳神経外科、神経内科などで画像検査や専門評価が検討されます。

危険サインが明確でない場合

医師の判断で基本神経診察、誘発テスト、画像検査の要否を段階的に検討します。

Spurlingテスト、Jacksonテスト、頚椎牽引テスト、上肢神経伸張テスト、めまい誘発検査などは、症状を悪化させたり、まれに重大な病態を見落としたりする危険があります。事故直後、強い痛み、手足の脱力、歩行障害、排尿排便障害、強い頭痛、意識障害、発熱、がんの既往、骨粗鬆症、抗凝固薬内服、首を動かすと神経症状が増悪する場合は、自己検査ではなく救急・整形外科・脳神経外科などで評価を受けてください。

このページは情報提供であり、医学的診断、治療方針、後遺障害等級、損害賠償、示談交渉、訴訟判断を個別に決定するものではありません。

交通事故後のむちうちでは、「神経学的検査の一覧」を知る前に、救急評価が必要な状態を見逃さないことが重要です。NICEの脊椎外傷ガイドラインは、外傷患者の初期評価で神経学的評価を含む優先順位評価を行い、手足の筋力低下や感覚異常、脊椎痛、意識障害、薬物・アルコール影響、重大な distracting injury などを確認することを推奨しています。

次のいずれかがある場合は、通常の外来予約を待たず、医療機関に相談すべきです。

  • 事故後から手足の力が入りにくい。
  • 片側だけでなく両手両足にしびれや脱力がある。
  • 歩きにくい、つまずく、階段が怖い、ふらつく。
  • ボタンを留めにくい、箸やペンが使いにくい、物を落とす。
  • 排尿・排便の異常が新たに出た。
  • 首の中央を押すと強く痛い、首を動かせない。
  • 強い頭痛、めまい、ろれつが回らない、ものが二重に見える、飲み込みにくい。
  • 発熱、感染症状、がんの既往、免疫抑制状態、骨粗鬆症、抗凝固薬使用がある。
  • 小児、高齢者、妊娠中、意識消失を伴う事故、車外放出・横転・高速衝突など危険機転がある。

Canadian C-spine Ruleでは、65歳以上、危険な受傷機転、四肢の異常感覚は高リスク因子とされ、低リスク因子がある場合でも左右45度の頚部自動回旋が安全にできるかが判断に使われます。NICEは、成人でCanadian C-spine Ruleにより画像が示唆される場合にはCTを行い、脊髄損傷に起因し得る神経学的異常がある場合にはCTで明らかでなくてもMRIを行うとしています。

Section 02

むちうち、WAD、神経学的検査の用語整理

分類と病態の違いを先に押さえると、検査名の意味が読みやすくなります。

1.1 むちうち、むち打ち、WAD

「むちうち」は俗称です。医学的には、頚椎捻挫、頚部挫傷、外傷性頚部症候群、Whiplash-Associated Disorders(WAD)などの表現が使われます。交通事故、とくに追突事故では、頭部と頚部が急激な加速・減速を受け、首の筋、靱帯、椎間関節、椎間板、神経根、交感神経系、前庭・眼球運動系などに症状が出ることがあります。

WAD分類は、症状と身体所見に基づき、概ね次のように理解されます。

次の表は、「1.1 むちうち、むち打ち、WAD」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。

WAD分類概要神経学的検査との関係
Grade 0首の訴えも身体所見もない通常、神経学的異常はない
Grade I首の痛み・こわばり・圧痛などのみ神経学的異常はない
Grade II首の症状に加え、可動域制限や圧痛など筋骨格系所見がある神経学的異常はないが、経過で再評価する
Grade III首の症状に加え、神経学的徴候がある腱反射低下、筋力低下、感覚障害などが焦点
Grade IV首の症状に骨折・脱臼がある神経障害の有無にかかわらず緊急度が高い

SIRAの分類では、Grade IIIの神経学的徴候として、腱反射低下・消失、筋力低下、感覚障害が明記されています。

1.2 神経学的検査とは何か

神経学的検査とは、脳、脊髄、神経根、末梢神経、筋肉がどのように働いているかを、問診と身体診察で評価する方法です。むちうちで重要なのは、首の痛みそのものよりも、次の異常があるかどうかです。

  • 運動機能 ― 腕や手に力が入りにくいか。
  • 感覚機能 ― しびれ、感覚鈍麻、痛覚低下、ピリピリ感が神経の走行に沿うか。
  • 反射 ― 腱反射が低下しているか、逆に亢進しているか。
  • 中枢神経徴候 ― 歩行障害、巧緻運動障害、病的反射、排尿排便障害があるか。
  • 眼球運動・平衡機能 ― めまい、ふらつき、眼振、視覚症状があるか。

日本神経学会の「神経学的検査チャート作成の手引き」では、徒手筋力検査は重力負荷のかかる肢位で最大筋力を出してもらい、検者が抵抗を加えて評価すること、筋力を0から5までの6段階で評価することが示されています。

1.3 神経根症、頚髄症、末梢神経障害の違い

むちうち後のしびれや脱力は、すべてが同じ原因ではありません。

次の表は、「1.3 神経根症、頚髄症、末梢神経障害の違い」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。

病態障害部位典型的な症状検査で重視する点
頚椎神経根症頚椎から出る神経根片側の首から肩・腕・手への放散痛、しびれ、筋力低下、腱反射低下Spurling、ULTT、MMT、知覚、腱反射
頚髄症頚髄、つまり脊髄本体手の不器用さ、歩行障害、両側症状、反射亢進、病的反射、排尿障害Hoffmann、Babinski、クローヌス、歩行、巧緻運動
末梢神経障害手首・肘・腕などの末梢神経手根管症候群、肘部管症候群など。首の動きと無関係なことも多いTinel、Phalen、神経伝導検査、分布の確認
筋・靱帯・椎間関節由来の痛み頚部軟部組織・関節局所頚部痛、可動域制限、圧痛可動域、圧痛、姿勢、痛みの再現性
前庭・眼球運動系内耳、脳幹、小脳、頚部固有感覚めまい、眼振、ふらつき、視覚不快眼球運動、Dix-Hallpike、Head Impulse、SPNTなど

頚椎神経根症について、AAFPは深部腱反射の低下、とくに上腕三頭筋反射の低下がよくみられる神経学的所見であり、Spurlingテスト、肩外転テスト、上肢神経伸張テストが診断補助として使われると説明しています。

Section 03

むちうちの神経学的検査で行われるテスト一覧50項目

問診から画像検査まで、目的と注意点をまとめて確認します。

以下の表は、臨床で使われる主な検査を、一般読者にもわかるように整理したものです。実際にどの検査を行うかは、事故状況、症状、年齢、既往歴、画像所見、医師の判断によって変わります。

次の表は、「3. むちうちの神経学的検査で行われるテスト一覧 ― 全体表」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。

No検査・テスト名何をみるか陽性・異常の意味注意点
1問診・症状マッピング痛み・しびれ・脱力の場所、時期、増悪因子神経根、末梢神経、筋骨格系の鑑別に重要検査前の最重要情報
2痛み尺度(NRS/VAS)痛みの強さ経過比較、治療効果判定神経障害の有無を直接示すものではない
3Neck Disability Index等日常生活障害機能評価、経過観察診断そのものではない
4姿勢・視診頭位、肩の高さ、筋萎縮防御姿勢、神経障害、肩疾患を示唆視診だけで判断しない
5頚椎可動域前屈、後屈、側屈、回旋可動域制限、痛みの方向性外傷直後は安全確認後に行う
645度回旋確認Canadian C-spine Ruleでの安全評価低リスク例で画像要否判断に関係高リスク例で無理に行わない
760度未満の患側回旋Wainnerクラスターの一要素頚椎神経根症の確率を高める所見の一部単独診断ではない
8徒手筋力検査(MMT)C5〜T1の筋力神経根・末梢神経・筋障害を示唆痛みによる力の入りにくさと区別が必要
9握力測定手指・前腕機能C8/T1、末梢神経、痛み、努力量の影響左右差と経時変化を見る
10筋萎縮・周径測定筋量低下慢性神経障害、廃用、既往を示唆急性期だけでは出にくい
11知覚検査 ― 触覚触れた感覚感覚鈍麻、左右差皮膚分節と末梢神経分布を比較
12知覚検査 ― 痛覚ピンなどの鋭さ神経障害の分布強く刺さない。感染対策が必要
13知覚検査 ― 温度覚温冷の区別小径線維・脊髄路の障害を示唆外来では簡略化されることもある
14振動覚・位置覚深部感覚後索、末梢神経、脊髄症高齢者や糖尿病では既往の影響もある
15上腕二頭筋反射主にC5〜C6低下なら神経根障害、高ければ中枢性も検討左右差が重要
16腕橈骨筋反射主にC5〜C6C6神経根などの評価反転所見があれば頚髄症を疑う
17上腕三頭筋反射主にC7〜C8C7神経根症で低下しやすい頚椎神経根症で重視される
18Hoffmann徴候上位運動ニューロン徴候頚髄症などを示唆健常者でも出ることがあり単独判断不可
19Tromner徴候上位運動ニューロン徴候頚髄症などを示唆Hoffmannと同様に文脈が必要
20Babinski反射錐体路障害中枢神経障害を示唆成人で陽性なら重要
21足クローヌス錐体路障害上位運動ニューロン障害を示唆持続性なら緊急度が上がる
22反転腕橈骨筋反射頚髄圧迫の徴候C5〜C6付近の脊髄障害を示唆専門的評価が必要
23Lhermitte徴候頚部屈曲時の電撃感頚髄刺激、脱髄、脊髄病変などむちうち特異的ではない
24Romberg試験深部感覚・平衡脊髄後索、末梢神経、前庭系転倒に注意
25タンデム歩行バランス、頚髄症、小脳・前庭ふらつき、失調転倒予防が必要
26指鼻試験・回内回外小脳・協調運動失調、協調障害頭部外傷の評価でも使う
27巧緻運動検査手指の細かな動き頚髄症、末梢神経障害ボタン、箸、書字の問診と合わせる
28Spurlingテスト椎間孔狭小化による神経根症状誘発患側上肢への放散痛で陽性強い痛み・外傷直後は禁忌的に慎重
29Jacksonテスト頚椎伸展・圧迫で神経根症状誘発肩・腕・手への放散痛で陽性Spurling関連の圧迫テストとして扱う
30頚椎牽引・離開テスト神経根圧迫の軽減放散痛が軽くなれば陽性不安定性が疑われる場合は行わない
31上肢神経伸張テスト(ULTT/ULNT)神経組織の機械的過敏性再現性あるしびれ・痛み感度は高いが特異性は低め
32肩外転軽減テスト(Bakody)神経根症状が腕挙上で軽くなるか神経根症を示唆胸郭出口症候群などでも解釈注意
33Valsalva法髄腔内圧上昇で痛みが出るか椎間板・神経根刺激を示唆心血管リスクや強い痛みでは慎重
34Arm Squeeze Test肩疾患と頚椎由来痛の鑑別上腕中央圧迫が肩部圧迫より強く痛い補助検査。単独診断不可
35Tinel徴候末梢神経の過敏性手根管、肘部管など頚椎神経根症との鑑別に使う
36Phalenテスト正中神経障害手根管症候群を示唆むちうち特異的ではない
37肘部管圧迫・肘屈曲テスト尺骨神経障害小指・環指しびれの鑑別C8神経根症と混同されやすい
38胸郭出口症候群関連テスト腕神経叢・血管圧迫Roos/EAST、Adsonなど偽陽性が多く慎重に解釈
39脳神経検査視覚、眼球運動、顔面、聴覚、嚥下頭部外傷、脳幹・脳神経障害めまい・複視・嚥下障害で重要
40眼球運動検査追跡、サッカード、眼振前庭・小脳・頚部固有感覚の異常WADでは研究上のばらつきあり
41Dix-Hallpike法良性発作性頭位めまい症特徴的眼振・めまい頚部痛が強い場合は変法を検討
42Head Impulse Test前庭眼反射末梢前庭障害を示唆急性めまいでは専門判断が必要
43Smooth Pursuit Neck Torsion Test頚部固有感覚と眼球追跡WAD関連眼球運動異常を示唆研究・専門外来で用いられることが多い
44Head-Neck Differentiation Test頚性めまいと前庭性めまいの鑑別補助体幹回旋で症状変化頚性めまいは除外診断
45筋電図(針筋電図)神経根障害の電気生理学的証拠脱神経、再神経支配発症直後は異常が出ないこともある
46神経伝導検査末梢神経障害の鑑別手根管、肘部管、腕神経叢など神経根症では感覚神経活動電位が保たれることがある
47X線骨配列、骨折、変性骨傷、アライメント神経自体は直接見えない
48CT骨折、骨性狭窄外傷性骨傷の確認急性外傷で重要
49MRI椎間板、神経根、脊髄、靱帯神経圧迫、脊髄信号変化画像異常と症状が一致するかが重要
50診断的神経根ブロック痛みの責任神経根の推定症状軽減治療・診断を兼ねる専門的手技
Section 04

むちうち評価の土台になる基本神経診察

問診、筋力、知覚、反射を左右差と経過で確認します。

4.1 問診と症状マッピング

むちうちの神経学的検査は、ハンマーで腱を叩くところから始まるわけではありません。最初に重要なのは、症状の分布と時間経過です。

医師やリハビリ職は、概ね次の情報を確認します。

  • 事故日時、衝突方向、追突・正面衝突・側面衝突・横転・車外放出の有無。
  • シートベルト、エアバッグ、ヘッドレスト位置、車両損傷の程度。
  • 受傷直後に首を動かせたか、救急搬送されたか。
  • 痛み、しびれ、脱力、めまい、頭痛、吐き気、視覚症状の発症時期。
  • 症状が首、肩、上腕、前腕、手指のどこへ広がるか。
  • しびれが親指側か、小指側か、中指中心か、手全体か。
  • 咳、くしゃみ、首の後屈、側屈、腕の挙上、長時間座位で悪化するか。
  • 手の不器用さ、歩行障害、排尿排便障害があるか。
  • 既往歴として、頚椎症、椎間板ヘルニア、糖尿病、手根管症候群、脳梗塞、片頭痛、めまい疾患があるか。

交通事故実務上も、事故直後からの症状の一貫性、受診時期、神経学的所見、画像所見、治療経過の整合性は重要です。ただし、症状を強く見せようとして事実と異なる申告をすることは、医療上も法務上も不利益になり得ます。検査では「どこが、どの姿勢で、どのように変化するか」を正確に伝えることが最も重要です。

4.2 徒手筋力検査(MMT)

徒手筋力検査は、検者が患者の腕や手に抵抗を加え、どの筋群の筋力が低下しているかをみる検査です。日本神経学会の手引きでは、筋力は0から5までの6段階で評価されます。

次の表は、「4.2 徒手筋力検査(MMT)」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。

評点意味一般向けの理解
5強い抵抗に抗して全可動域を動かせる正常に近い
4弱い抵抗に抗して全可動域を動かせるやや弱い
3重力に抗して全可動域を動かせる抵抗には弱い
2重力を除けば全可動域を動かせるかなり弱い
1筋収縮は触れるが関節運動なしごくわずかな収縮
0筋収縮も触れない完全麻痺に近い

むちうちでよく確認される筋力は次の通りです。

次の表は、「4.2 徒手筋力検査(MMT)」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。

神経根の目安代表的な運動主な筋・動作異常の例
C5肩外転三角筋腕を横に上げにくい
C5〜C6肘屈曲上腕二頭筋など肘を曲げる力が弱い
C6手関節背屈橈側手根伸筋など手首を反らせにくい
C7肘伸展上腕三頭筋肘を伸ばす力が弱い
C7〜C8手関節屈曲・指伸展前腕筋群指を伸ばしにくい
C8指屈曲深指屈筋など握り込みが弱い
T1指外転・内転骨間筋指を開く、閉じる力が弱い

MMTで重要なのは、単に「痛いから力が入らない」のか、「神経支配に沿った筋力低下」なのかを見分けることです。痛みが強いと、実際の筋力低下がなくても力を出し切れないことがあります。そのため、左右差、再現性、反射、知覚、画像との整合性を合わせて判断します。

4.3 握力測定と筋萎縮測定

握力は、手指・前腕機能を簡便に数値化できる検査です。ただし、握力低下はC8/T1神経根障害だけでなく、痛み、手関節痛、腱鞘炎、手根管症候群、肘部管症候群、努力量、利き手、年齢、性別にも影響されます。

筋萎縮や上腕・前腕周径の左右差は、神経障害が長く続いた場合や廃用がある場合に参考になります。ただし、急性期のむちうちでは明確な筋萎縮がまだ出ていないこともあります。

4.4 知覚検査

知覚検査では、触覚、痛覚、温度覚、振動覚、位置覚などを確認します。むちうちでは、特に触覚・痛覚の左右差と、どの指にしびれがあるかが重要です。

次の表は、「4.4 知覚検査」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。

神経根の目安感覚分布の典型例代表的な訴え
C5肩外側、上腕外側肩の外側が鈍い
C6前腕外側、親指側親指側がしびれる
C7中指周辺中指を中心にしびれる
C8小指、環指、前腕尺側小指側がしびれる
T1上腕内側腕の内側が鈍い

ただし、実際のしびれは教科書通りの皮膚分節にきれいに一致しないことがあります。末梢神経障害、筋膜痛、肩疾患、脳・脊髄疾患、糖尿病性神経障害、心理的ストレス、痛みの過敏化なども影響します。

4.5 深部腱反射

深部腱反射は、反射ハンマーで腱を叩き、反射が左右対称か、低下しているか、亢進しているかをみる検査です。

次の表は、「4.5 深部腱反射」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。

反射主な神経根低下で考えること亢進で考えること
上腕二頭筋反射C5〜C6C5/C6神経根障害、筋皮神経障害頚髄症など中枢性障害
腕橈骨筋反射C5〜C6C6神経根障害、橈骨神経障害頚髄症、反転腕橈骨筋反射
上腕三頭筋反射C7〜C8C7神経根障害で重要中枢性障害

AAFPは、頚椎神経根症では深部腱反射低下、とくに上腕三頭筋反射低下が一般的な神経学的所見だと述べています。 反射は患者の主観に左右されにくい一方、検者の技術、緊張、年齢、既往にも影響されます。左右差と他の所見との一致が重要です。

Section 05

むちうちで頚椎神経根症をみる誘発・軽減テスト

Spurling、Jackson、ULTTなどは、放散痛の再現性と整合性を確認します。

頚椎神経根症とは、頚椎から腕へ向かう神経根が圧迫・刺激され、首から肩、腕、手へ放散する痛みやしびれ、筋力低下、反射低下を起こす状態です。StatPearlsは、頚椎神経根症を「脊髄神経根が圧迫または障害され、痛みが首を越えて腕、胸、肩、背中へ広がり得る状態」と説明し、筋力低下や深部腱反射障害を主要所見として挙げています。

5.1 Spurlingテスト

Spurlingテストは、頚椎神経根症を疑うときに行われる代表的な誘発テストです。APTAの解説では、Spurlingテストは頚椎神経根症を検出するために使われ、標準化された単一手順があるわけではなく、側屈、回旋、伸展、軸圧を組み合わせる複数の変法があるとされています。

一般的には、患者が座位になり、検者が頚部を患側へ側屈・回旋・伸展させ、上から軽く圧迫します。陽性とは、首だけの痛みではなく、普段の症状に近い肩・腕・手への放散痛やしびれが再現される場合です。

次の表は、「5.1 Spurlingテスト」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。

見るポイント内容
目的椎間孔を狭くし、神経根症状が再現されるかをみる
陽性患側上肢への放散痛、しびれの再現
陰性放散症状が再現されない。ただし神経根症を完全否定はできない
注意骨折、不安定性、強い痛み、脊髄症状がある場合は慎重または禁忌的

Spurlingテストは、陽性なら頚椎神経根症の可能性を高めますが、陰性でも神経根症を完全に否定できません。Rubinsteinらのシステマティックレビューでは、Spurlingテスト、頚椎牽引・離開テスト、Valsalva法はおおむね特異度が高め、上肢神経伸張テストは感度が高めとまとめられています。

5.2 Jacksonテスト

Jacksonテストは、日本の整形外科・交通事故実務でよく見かける検査名です。頚部を後屈させ、頭部に軸方向の圧迫を加え、肩から腕への放散痛が出るかをみます。国内の整形外科文献では、Spurling testとJackson testはいずれも頚椎の姿勢により椎間孔を狭くし、圧迫された神経根のデルマトームに一致した上肢放散痛を誘発させる徒手検査と説明されています。

次の表は、「5.2 Jacksonテスト」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。

SpurlingテストJacksonテスト
側屈・回旋・伸展・圧迫を組み合わせることが多い後屈位で軸圧を加える説明が多い
国際的にも研究が比較的多い日本の交通事故資料で頻出するが、国際研究では圧迫テストの一類型として扱われやすい
放散痛の再現を重視放散痛の再現を重視

Jacksonテストで首の局所痛だけが出た場合、神経根症ではなく椎間関節や筋・靱帯性疼痛の可能性もあります。上肢への放散痛、知覚障害、筋力低下、反射低下がそろっているかが重要です。

5.3 頚椎牽引・離開テスト

頚椎牽引・離開テストは、検者が頭部を軽く牽引し、神経根への圧迫が減ることで腕への放散痛が軽くなるかをみる検査です。Spurlingテストが「圧迫して症状を誘発する」検査であるのに対し、牽引・離開テストは「圧迫を減らして症状が軽くなるか」をみます。

次の表は、「5.3 頚椎牽引・離開テスト」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。

目的神経根圧迫が軽減すると症状が改善するかを確認
陽性放散痛やしびれが軽減する
意味頚椎神経根症の可能性を高める補助所見
注意骨折、脱臼、不安定性、強い痛み、脊髄症状が疑われる場合は行わない

5.4 上肢神経伸張テスト(Upper Limb Tension Test / ULTT、Upper Limb Neurodynamic Test / ULNT)

上肢神経伸張テストは、肩、肘、手関節、頚部を一定の手順で動かし、腕神経叢や正中神経、橈骨神経、尺骨神経系の機械的過敏性をみる検査です。AAFPは、Spurlingテストと上肢神経伸張テストを組み合わせることで診断感度・特異度が改善するとしています。

代表的なULNT1、いわゆる正中神経バイアスでは、肩を外転、前腕を回外、手関節と指を伸展、肘を伸展し、頚部側屈で症状の変化をみます。

陽性と判断する際は、単に「伸ばされて痛い」だけでは不十分です。次のような点をみます。

  • 普段のしびれ・痛みに似た症状が再現される。
  • 左右差がある。
  • 頚部を反対側へ側屈すると症状が増え、同側へ側屈すると軽くなるなど、神経組織の緊張変化に反応する。
  • 筋力、知覚、反射、Spurlingテストなどと整合する。

上肢神経伸張テストは感度が高い、つまり陰性なら神経根症の可能性を下げるのに役立つとされる一方、特異性は高くないため、陽性だからといって頚椎神経根症と即断することはできません。

5.5 肩外転軽減テスト(Shoulder Abduction Relief Test / Bakody sign)

肩外転軽減テストは、患者が症状のある側の手を頭の上に置く、または腕を挙上することで、腕への放散痛が軽くなるかをみる検査です。神経根への牽引や圧迫が変化し、症状が軽くなる場合、頚椎神経根症を示唆します。

ただし、肩関節疾患や胸郭出口症候群でも腕の位置により症状が変わることがあり、単独では診断できません。

5.6 Valsalva法

Valsalva法は、息を止めていきむことで髄腔内圧や静脈圧が上がり、椎間板ヘルニアや神経根刺激による痛みが誘発されるかをみる古典的検査です。Rubinsteinらのレビューでは、Valsalva法は特異度が高めだが感度は低い検査として整理されています。

高血圧、心疾患、脳血管リスク、強い痛みがある場合には慎重に扱われます。むちうち評価で必ず行う検査ではありません。

5.7 Wainnerクラスター

Wainnerらの研究では、頚椎神経根症を示唆する臨床所見の組み合わせとして、次の4項目が知られています。

  1. Spurlingテスト陽性。
  2. 頚椎牽引・離開テスト陽性。
  3. 上肢神経伸張テスト陽性。
  4. 患側への頚椎回旋が60度未満。

このようなクラスターは、単一テストよりも診断確率を考えるうえで役立ちます。ただし、研究の対象、基準検査、症状の期間、検者の技術によって結果は変わります。交通事故後のむちうちでは、骨傷や脊髄症状の除外、安全性、画像所見、経過も同時に考える必要があります。

5.8 Arm Squeeze Test

Arm Squeeze Testは、肩疾患と頚椎由来の神経根痛を見分ける補助テストです。上腕中央部を圧迫した痛みが、肩峰下部や肩鎖関節付近を圧迫した痛みより著しく強いかをみます。Guminaらの研究では、頚椎神経根圧迫と肩疾患の鑑別に有用な可能性が報告されています。

むちうち後に「肩が痛い」と表現される場合、頚椎神経根症、肩関節損傷、腱板損傷、肩鎖関節損傷、胸郭出口症候群、腕神経叢損傷などが混在し得ます。Arm Squeeze Testは鑑別の一助ですが、画像、神経診察、肩関節検査と合わせて解釈します。

Section 06

むちうちで頚髄症・中枢神経障害を疑う検査

病的反射、歩行、手指巧緻運動は、緊急度の判断にも関わります。

むちうち後に最も見逃したくないのは、単なる首の痛みではなく、脊髄そのものの障害です。頚髄症では、上肢のしびれや痛みだけでなく、手の不器用さ、歩行障害、反射亢進、病的反射、排尿排便障害が出ることがあります。

AAFPの頚髄症解説では、Hoffmann徴候、反転腕橈骨筋反射、Babinski徴候、持続性クローヌスなどが上位運動ニューロン関連所見として述べられ、Babinski徴候や持続性クローヌスは感度は低いが特異度が高い所見として整理されています。

6.1 Hoffmann徴候

Hoffmann徴候は、中指などをはじいたときに、親指や示指が反射的に曲がるかをみる検査です。頚髄症など上位運動ニューロン障害を示唆します。

ただし、Hoffmann徴候は健常者でも出ることがあり、単独で頚髄症と診断するものではありません。両側性、反射亢進、歩行障害、手指巧緻運動障害、MRI所見との組み合わせが重要です。

6.2 Babinski反射

Babinski反射は、足底を刺激したときに母趾が背屈する反応です。成人で明らかな陽性があれば、錐体路障害、つまり中枢神経系の障害を示唆します。

むちうち後の外来でBabinski反射が陽性なら、頚髄症、脳病変、脊髄病変などを含め、緊急度の高い評価が必要です。

6.3 クローヌス

クローヌスは、足関節などを急に背屈させたとき、筋が周期的に収縮を繰り返す現象です。持続性クローヌスは上位運動ニューロン障害を示唆します。頚椎外傷後に新たに出た場合は、頚髄損傷や脊髄圧迫の評価が必要です。

6.4 反転腕橈骨筋反射

反転腕橈骨筋反射は、腕橈骨筋反射を誘発した際に本来の反応が乏しい一方、指の屈曲が出るような所見です。頚髄圧迫、とくにC5〜C6付近の障害を示唆することがあります。AAFPも、C5上腕二頭筋反射やC6腕橈骨筋反射の低下に対してC7上腕三頭筋反射が亢進する所見を、C5〜C6脊髄圧迫を強く示唆する身体所見として説明しています。

6.5 Lhermitte徴候

Lhermitte徴候は、首を前屈したときに背中や四肢へ電気が走るような感覚が出る現象です。頚髄の刺激、脱髄疾患、脊髄圧迫、放射線後変化などさまざまな原因で出るため、むちうち特異的ではありません。ただし、事故後に新たに出た場合は、頚髄病変の評価が必要です。

6.6 歩行、Romberg、タンデム歩行、巧緻運動

頚髄症では、手だけでなく足にも症状が出ることがあります。歩行障害は本人が「首の事故とは関係ない」と思って見落とすことがあります。

次の表は、「6.6 歩行、Romberg、タンデム歩行、巧緻運動」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。

検査方法異常所見
通常歩行観察普通に歩く痙性歩行、ふらつき、足のもつれ
タンデム歩行かかととつま先を一直線にして歩くふらつき、バランス不良
Romberg試験足をそろえて立ち、開眼・閉眼で比較閉眼で著明に不安定なら深部感覚障害など
指鼻試験指を鼻と検者の指へ交互に運ぶ小脳性失調など
回内回外運動手のひらを素早く返す協調運動障害
10秒テスト・手指巧緻運動手を素早く開閉する頚髄症で遅くなることがある

手指の巧緻運動障害は、日常生活の言葉では「ボタンを留めにくい」「字が書きづらい」「箸が使いにくい」「スマホ操作がぎこちない」「小銭を落とす」と表現されます。神経学的検査では、こうした訴えを具体的な動作で確認します。

Section 07

むちうち後のめまい・眼球運動・平衡機能の検査

頚部由来だけでなく、前庭、頭部外傷、脳血管疾患も鑑別します。

むちうち後には、めまい、ふらつき、吐き気、視線を動かすと気持ち悪い、読書で文字が追いにくい、焦点が合いにくい、頭痛を伴うなどの症状が出ることがあります。原因は一つではなく、頚部固有感覚の異常、前庭障害、良性発作性頭位めまい症、脳震盪、片頭痛、薬剤、心理的ストレス、脳血管疾患などが関係します。

WAD患者の眼球運動を調べたシステマティックレビューでは、WAD患者に眼球運動の変化がみられる研究がある一方、結果や検査方法にはばらつきがあるとされています。

7.1 眼球運動検査

眼球運動検査では、次のような項目を確認します。

  • 眼球が左右上下に十分動くか。
  • ものが二重に見えるか。
  • 追跡運動が滑らかか。
  • サッカード、つまり素早い視線移動が正確か。
  • 注視で眼振が出るか。
  • 頭位や頚部回旋で眼振やめまいが変わるか。

複視、ろれつ障害、嚥下障害、強い頭痛、片麻痺、顔面感覚異常などを伴う場合は、頚性めまいと決めつけず、脳神経外科・神経内科・救急領域での評価が必要です。

7.2 Dix-Hallpike法

Dix-Hallpike法は、良性発作性頭位めまい症(BPPV)を調べる代表的な検査です。頭位を変えたときに、特徴的なめまいと眼振が出るかをみます。

むちうち後のめまいがすべて頚部由来とは限りません。交通事故による頭部衝撃、内耳への影響、寝返りや起き上がりで悪化する症状がある場合、BPPVの評価も重要です。ただし、頚部痛が強い、頚椎不安定性が疑われる、脊髄症状がある場合は、通常法ではなく安全な変法や専門医評価が必要です。

7.3 Head Impulse Test

Head Impulse Testは、前庭眼反射をみる検査です。頭部を素早く小さく動かしたとき、視線を目標に保てるかを確認します。末梢前庭障害の評価に使われますが、急性めまいでは脳梗塞など中枢性めまいとの鑑別が重要であり、専門的判断が必要です。

7.4 Smooth Pursuit Neck Torsion Test(SPNT)

SPNTは、頭部を空間的には正面に保ち、体幹を回旋させて頚部に捻転を加えた状態で、滑動性追跡眼球運動を評価する検査です。頚部固有感覚入力が眼球運動に与える影響をみる目的で使われます。

WAD研究ではSPNT陽性や眼球運動異常が報告されていますが、検査機器、条件、対象、解釈にばらつきがあります。したがって、一般外来で全例に行う検査というより、めまい・視覚症状が目立つ場合に、リハビリテーション、めまい外来、研究的評価で用いられることが多い検査です。

7.5 Head-Neck Differentiation Test

Head-Neck Differentiation Testは、頭部と体幹の動きを分けることで、めまいが頚部由来か、前庭由来かを考える補助検査です。頚性めまいは明確な単一検査で確定する病名ではなく、他の危険な原因や前庭疾患を除外したうえで考える診断です。

Section 08

むちうちと末梢神経障害・肩疾患・胸郭出口症候群の鑑別

しびれの原因を頚椎だけに限定せず、似た症状を分けて考えます。

交通事故後に手がしびれる場合、頚椎神経根症だけでなく、末梢神経障害や肩周囲の損傷が隠れていることがあります。とくに、手根管症候群、肘部管症候群、胸郭出口症候群、腕神経叢損傷、腱板損傷、肩鎖関節損傷は、むちうち症状と混同されやすい病態です。

8.1 Tinel徴候

Tinel徴候は、神経が浅い場所を軽く叩いたとき、その神経の支配領域にしびれや電撃痛が走るかをみる検査です。

次の表は、「8.1 Tinel徴候」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。

部位疑う病態しびれの分布
手首の正中神経手根管症候群親指、人差し指、中指、環指橈側
肘の尺骨神経肘部管症候群小指、環指尺側
橈骨神経走行部橈骨神経障害手背橈側など

C6神経根症と手根管症候群、C8神経根症と肘部管症候群は症状が似ることがあります。頚部運動で症状が変わるか、末梢神経の圧迫部位で症状が再現されるか、筋電図・神経伝導検査でどう出るかを合わせて判断します。

8.2 Phalenテスト

Phalenテストは、手関節を屈曲した姿勢で保持し、正中神経領域のしびれが出るかをみる検査です。手根管症候群を疑うときに使います。むちうちそのものの検査ではありませんが、交通事故後の手のしびれの鑑別で行われることがあります。

8.3 胸郭出口症候群関連テスト

胸郭出口症候群では、腕神経叢や鎖骨下血管が、斜角筋、鎖骨、第一肋骨、小胸筋周辺で圧迫されることがあります。Roos/EAST、Adson、Wright、costoclavicular maneuverなどが知られています。

ただし、これらのテストは偽陽性が多く、単独で診断するものではありません。姿勢、脈拍変化、しびれの分布、筋力、血管症状、画像、神経伝導検査などと組み合わせます。

Section 09

むちうちの筋電図・神経伝導検査の役割

身体所見だけで完結せず、電気診断と照合します。

9.1 筋電図(EMG)

針筋電図は、筋肉に細い針電極を入れ、安静時・収縮時の電気活動を調べる検査です。神経根障害で筋への神経支配が障害されると、脱神経所見や再神経支配所見が出ることがあります。

NCBI Bookshelfの電気診断評価では、頚椎神経根症は詳細な病歴と身体診察で強く疑うことができ、電気診断検査として神経伝導検査と針筋電図が所見確認に用いられると説明されています。

ただし、EMGには限界もあります。

  • 発症直後は異常が出ないことがある。
  • 感覚症状のみで運動軸索障害が乏しい場合、異常が出にくい。
  • 検査筋の選択と検者の技術が重要。
  • 正常でも神経根症を完全に否定できない。
  • 異常があっても事故前からの変性や既往との鑑別が必要。

9.2 神経伝導検査(NCS)

神経伝導検査は、末梢神経に電気刺激を与え、伝導速度や振幅を測定します。頚椎神経根症そのものでは、後根神経節より中枢側の障害であるため、感覚神経活動電位が保たれることがあります。一方、手根管症候群や肘部管症候群では末梢神経伝導に異常が出やすくなります。

したがって、NCSは「頚椎神経根症を直接証明する検査」というより、末梢神経障害との鑑別に有用です。AAFPも、頚椎神経根症の診断が明らかな場合に電気診断が必須ではない一方、上肢末梢神経障害が鑑別に上がる場合に臨床的有用性があると述べています。

神経学的検査は非常に重要ですが、外傷後のむちうちでは画像検査との関係も理解しておく必要があります。

次の表は、「10. 画像検査との関係 ― 神経学的検査だけで完結しない」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。

検査主に見えるもの神経学的検査との関係
X線骨配列、骨折、変性、可動性骨傷や不安定性の手がかり。神経自体は見えない
CT骨折、骨性狭窄、外傷性変化急性外傷で骨傷確認に強い
MRI椎間板、神経根、脊髄、靱帯、軟部組織神経圧迫、脊髄信号変化、椎間板ヘルニアを評価
MRA/CTA血管血管性病態が疑われる場合に検討

NICEの脊椎外傷ガイドラインは、成人でCanadian C-spine Ruleにより頚椎画像が必要と判断される場合にはCT、脊髄損傷に起因し得る神経学的異常がある場合にはCTで明らかでなくてもMRIを行うとしています。

一方、慢性化したむちうちでは、MRIで椎間板変性や軽度の膨隆が見つかっても、それが事故による症状の原因とは限りません。画像所見、神経学的所見、症状分布、事故機転、経時的変化の整合性をみる必要があります。

Section 10

むちうちの検査結果の読み方と典型パターン

C6、C7、C8/T1、頚髄症、WAD Grade IIを区別して考えます。

11.1 C6神経根症が疑われる例

  • 首から肩、上腕外側、前腕外側、親指側に痛みやしびれ。
  • 手関節背屈が弱い。
  • 腕橈骨筋反射が低下。
  • Spurlingテストで親指側へ放散痛。
  • MRIでC5/6椎間板や椎間孔狭窄が症状側と整合。

このような場合、C6神経根障害の可能性が高まります。ただし、手根管症候群でも親指側しびれが出るため、末梢神経の評価も必要です。

11.2 C7神経根症が疑われる例

  • 首から肩甲部、上腕後面、前腕、主に中指へ痛みやしびれ。
  • 肘伸展、手関節屈曲、指伸展が弱い。
  • 上腕三頭筋反射が低下。
  • SpurlingテストやULTTで症状が再現。
  • MRIでC6/7病変が症状側と整合。

AAFPが上腕三頭筋反射低下を頚椎神経根症でよくみられる所見として挙げている点とも整合します。

11.3 C8/T1神経根症が疑われる例

  • 小指、環指、前腕尺側のしびれ。
  • 指屈曲、指外転・内転が弱い。
  • 握力低下。
  • 肘部管症候群との鑑別が必要。
  • MRIでC7/T1病変があれば整合性を検討。

C8/T1領域は、尺骨神経障害や胸郭出口症候群との鑑別が特に重要です。

11.4 頚髄症が疑われる例

  • 両手のしびれ、手先の不器用さ。
  • 歩行が不安定。
  • 腱反射が全体に亢進。
  • Hoffmann徴候、Babinski反射、クローヌスがある。
  • MRIで脊髄圧迫や髄内信号変化がある。

この場合、単なるむちうちとして経過観察するのではなく、整形外科脊椎専門医、脳神経外科、神経内科などで評価が必要です。

11.5 WAD Grade IIに近い例

  • 首の痛み、こわばり、可動域制限、圧痛が中心。
  • 上肢への明確な放散痛はない。
  • MMT、知覚、深部腱反射に明確な左右差がない。
  • Spurling、ULTTが陰性または局所痛のみ。
  • 画像で骨折・脱臼・明確な神経圧迫がない。

この場合、筋・靱帯・椎間関節などの筋骨格系症状が中心で、神経学的異常を伴うWAD Grade IIIとは区別されます。もっとも、経過中にしびれや脱力が出る場合は再評価が必要です。

Section 11

交通事故実務でむちうちの神経学的検査が重要になる理由

医療記録、保険実務、後遺障害資料、事故調査の読み方に関わります。

12.1 医療上の理由

神経学的検査は、次の判断に関わります。

  • 救急搬送や脊椎固定が必要か。
  • CTやMRIが必要か。
  • 整形外科、脳神経外科、神経内科、耳鼻咽喉科、眼科、リハビリ科のどこへ紹介するか。
  • 安静、薬物療法、理学療法、ブロック、手術検討など、治療方針をどう立てるか。
  • 職場復帰、運転、スポーツ復帰、日常生活動作の制限をどう考えるか。

NICE CKSのwhiplash assessmentでは、感覚低下、筋力低下、反射異常など神経学的関与の証拠を評価することが示されています。

12.2 法務・保険実務上の理由

日本の自賠責保険後遺障害等級では、神経系統の障害や局部の神経症状が問題になります。自動車損害賠償保障法施行令別表第二には、12級13号として「局部に頑固な神経症状を残すもの」、14級9号として「局部に神経症状を残すもの」が規定されています。

ここで注意すべきなのは、法令上の文言だけで等級が自動的に決まるわけではないことです。実務では、症状の一貫性、事故態様、受傷直後からの経過、診療録、神経学的所見、画像所見、治療内容、既往歴などが総合的に検討されます。

神経学的検査で重要なのは、次のような記録です。

  • どの時期に、どの症状が、どの部位にあったか。
  • 触覚・痛覚・筋力・反射の左右差がどう記録されたか。
  • Spurling、Jackson、ULTTなどの誘発テストがどのように記載されたか。
  • 症状分布が神経根や末梢神経の解剖と整合するか。
  • MRIなど画像所見と神経学的所見が整合するか。
  • 治療経過で改善、悪化、固定化がどう推移したか。

12.3 警察・事故調査・車両技術との関係

神経学的検査は、事故原因そのものを決める検査ではありません。しかし、事故の衝撃方向、車両損傷、シートベルト・ヘッドレスト、ドラレコ、EDR、救急記録、実況見分、診断書、通院経過と照合されることで、症状の発生機序を説明する材料になります。

たとえば、後方追突で首が急激に伸展・屈曲した状況、受傷直後から頚部痛と上肢しびれがあり、一定の神経根分布に沿った知覚障害と反射低下が記録され、MRIで同側の神経根圧迫がある場合、医学的説明の整合性は高まります。一方、症状の部位が毎回大きく変わる、神経解剖と一致しない、検査結果が不自然に変動する、画像・経過と合わない場合は、別病態や非器質的要因も含め再検討されます。

15.1 医師・リハビリ職

  • 外傷直後に危険サインを除外したか。
  • WAD分類をどう考えたか。
  • 頚椎神経根症、頚髄症、頭部外傷、前庭障害、末梢神経障害をどう鑑別したか。
  • MMT、知覚、反射、病的反射を左右差込みで記載したか。
  • 誘発テストの陽性条件を明確に書いたか。
  • 画像所見が症状側・神経高位と整合するかを記載したか。
  • 経過中に神経所見が改善、固定、悪化したかを追跡したか。

15.2 弁護士・保険担当者

  • 診断名だけでなく、神経学的所見の中身を確認する。
  • 「しびれあり」だけでなく、どの神経根分布かを確認する。
  • Spurling陽性などの記載が、首痛なのか上肢放散痛なのかを確認する。
  • 事故前既往や加齢変性との区別を検討する。
  • 画像所見と症状の左右・高位が一致するかを確認する。
  • 通院頻度、治療内容、症状経過が医学的に自然かを確認する。
  • 後遺障害等級の判断は、法令文言だけでなく実務上の医学資料の整合性が重要であることを理解する。

15.3 警察・事故調査・鑑定人

  • 事故態様と症状発現時期の整合性。
  • ヘッドレスト位置、乗員姿勢、シートベルト、衝撃方向。
  • ドライブレコーダー、EDR、車両損傷、修理見積もり。
  • 救急記録、初診記録、画像検査時期。
  • 神経学的所見が事故直後から存在したか、遅れて出たか。

15.4 社労士・福祉職・心理職

  • 就労制限や休業の根拠となる機能障害。
  • 痛み、睡眠障害、不安、PTSD様症状、抑うつの有無。
  • 日常生活動作、通勤、家事、育児、介護への影響。
  • 医師の意見書、リハビリ計画、職場復帰支援の整合性。
Section 12

むちうちの神経学的検査を受ける前後の準備と記録

症状の部位、動作での変化、検査後の変化を具体的に整理します。

むちうち後に神経学的検査を受ける際、患者側が準備しておくと診療が正確になりやすい情報があります。

13.1 診察前に整理すること

  • 事故の日時、場所、衝突方向、同乗者、救急搬送の有無。
  • 痛み・しびれ・脱力が出た時刻。
  • 症状の部位を図で示せるようにする。
  • 親指側、中指、小指側など、しびれる指を具体的に伝える。
  • 首を後ろに反らす、横を向く、腕を上げる、咳・くしゃみで変わるか。
  • 夜間痛、発熱、体重減少、排尿障害、歩行障害の有無。
  • 事故前からの首・肩・手の症状、糖尿病、頚椎症、手根管症候群など。
  • 服薬、抗凝固薬、骨粗鬆症、妊娠の可能性。

13.2 検査中に大切なこと

  • 痛いときは我慢せず、どこにどう響くかを具体的に伝える。
  • 「首だけが痛い」のか「腕や手へ放散する」のかを区別する。
  • 左右差を正直に伝える。
  • 症状がないのに陽性のふりをしない。
  • 検査後に症状が悪化した場合は医療者に伝える。

13.3 記録として確認したいこと

医師に診断書や後遺障害診断書を依頼する段階では、次のような神経学的所見が診療録に継続的に記録されているかが重要になることがあります。

  • MMTの数値または筋力低下の部位。
  • 知覚障害の範囲。
  • 深部腱反射の左右差。
  • 病的反射の有無。
  • Spurling、Jackson、ULTTなどの結果。
  • 画像所見と症状の対応。
  • 治療経過と症状固定時の残存症状。

ただし、患者が検査項目を医師に強要するのではなく、症状を正確に伝え、必要な検査を医師の判断で行ってもらうことが基本です。

14.1 頚椎可動域検査

頚椎可動域検査では、首を前に倒す、後ろに反らす、左右に倒す、左右へ向く動作を確認します。むちうちでは可動域制限がよく見られますが、それだけでは神経障害を意味しません。

神経根症では、後屈や患側側屈・回旋で腕への放散痛が増えることがあります。頚髄症では、可動域そのものよりも、反射亢進、病的反射、歩行障害、巧緻運動障害が重要です。

14.2 デルマトーム検査

デルマトームとは、一つの神経根が主に感覚を担当する皮膚領域です。C6なら親指側、C7なら中指、C8なら小指側というように典型パターンがあります。

ただし、人間の体は個体差があり、隣接神経根との重なりもあります。そのため、デルマトームに完全一致しないから神経障害がないとも、少し似ているから神経障害だとも言えません。筋力、反射、誘発テスト、画像との総合判断が必要です。

14.3 ミオトーム検査

ミオトームとは、一つの神経根が主に運動を担当する筋群です。C5は肩外転、C6は手関節背屈、C7は肘伸展、C8は指屈曲、T1は指外転などが代表です。

頚椎神経根症では、痛みやしびれだけでなく、対応するミオトームの筋力低下があると、神経学的所見として重みが増します。

14.4 反射検査のグレード

反射は一般に、消失、低下、正常、亢進、クローヌスなどとして記載されます。施設や医師によって0〜4+で表現されることもあります。

次の表は、「14.4 反射検査のグレード」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。

表現意味
0消失
1+低下
2+正常範囲
3+亢進
4+クローヌスを伴う著明亢進

頚椎神経根症では、障害神経根に対応する反射が低下しやすく、頚髄症では全体に反射が亢進しやすいという方向性があります。ただし、もともと反射が出にくい人、緊張で亢進する人、左右差がある人もいるため、単発所見だけで結論を出しません。

14.5 痛み誘発テストの正しい読み方

Spurling、Jackson、Valsalvaなどは「痛みを出す」検査です。しかし、陽性の条件は「首が痛い」だけではなく、普段の症状に近い上肢放散痛やしびれが再現されることです。

次の表は、「14.5 痛み誘発テストの正しい読み方」に関する項目を比較して整理したものです。読者にとって重要なのは、列ごとの違いから検査目的、異常所見、注意点を読み取ることです。

結果解釈
首だけが痛い椎間関節、筋・靱帯、局所痛の可能性
肩・腕・手へ普段通り響く神経根症状を示唆
反対側へ響く検査法、病態、非典型症状を再検討
毎回分布が大きく変わる非器質的要因、広範な疼痛過敏、別病態も検討
しびれだけで筋力・反射・知覚に異常なし早期・軽症、末梢神経、疼痛過敏などを含め経過観察

14.6 牽引で軽くなる症状の意味

頚椎牽引や手を頭に置く姿勢で腕の痛みが軽くなる場合、神経根への圧迫や牽引が変化している可能性があります。ただし、姿勢変化で肩周囲の筋緊張が変わっただけでも痛みは変化します。軽減テストも単独ではなく、神経学的所見全体で判断します。

Section 13

むちうちの神経学的検査でよくある誤解

検査名や画像だけで結論を急がず、整合性で読みます。

誤解1 ― Spurlingテストが陽性なら必ず後遺障害が認められる

誤りです。Spurlingテストは頚椎神経根症を示唆する検査ですが、単独で診断や後遺障害等級を決めるものではありません。知覚、筋力、反射、画像、経過、事故態様などを総合します。

誤解2 ― MRIに異常がないなら神経症状は存在しない

誤りです。MRIで明確な圧迫が見えない場合でも、痛みやしびれが存在することはあります。一方で、MRIに変性所見があっても、それが事故症状の原因とは限りません。画像だけでも症状だけでもなく、整合性が重要です。

誤解3 ― しびれがあるなら必ず神経根症である

誤りです。しびれは、神経根症、末梢神経障害、脊髄障害、前庭・自律神経症状、過換気、不安、糖尿病、薬剤、広範な疼痛過敏など、さまざまな原因で起こります。

誤解4 ― テストで痛いと言えばよい

誤りです。神経学的検査では、どこに、どの方向へ、どのような痛みやしびれが再現されるかが重要です。事実と違う申告は診断を誤らせ、治療や交通事故実務でも不利益になり得ます。

誤解5 ― 神経学的検査は医師以外には関係ない

誤りです。検査を実施・診断するのは医師や医療専門職ですが、弁護士、保険担当者、損害調査担当、事故鑑定人、社労士、福祉職も、資料の意味を理解する必要があります。ただし、非医療職が診断を行うべきではありません。

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むちうちの神経学的検査に関するFAQ

一般情報として、検査や資料の見方を確認します。

FAQでは、個別事案の結論を断定せず、一般的な制度説明と医療・法律上の注意点として整理します。読者にとって重要なのは、同じ検査名でも事故態様、症状、証拠、画像、時期によって見方が変わる点を読み取ることです。

むちうちで必ず神経学的検査は行われますか

一般的には、首の痛みだけで神経症状がない軽症例では簡単な神経スクリーニングにとどまることがあります。ただし、腕や手のしびれ、筋力低下、反射異常、歩行障害、めまい、頭痛、外傷リスクがある場合は、詳しい評価が検討されます。具体的な対応は医師等の専門家へ相談する必要があります。

SpurlingテストとJacksonテストの違いは何ですか

一般的には、どちらも頚椎の姿勢と圧迫によって神経根症状を誘発する検査とされています。Spurlingテストは側屈・回旋・伸展・軸圧を組み合わせる変法が多く、Jacksonテストは後屈位で軸圧を加える説明が多い検査です。検査法や解釈は症状で変わります。

検査で異常がないのに痛いのはおかしいですか

一般的には、おかしいとは限りません。筋・靱帯、椎間関節、椎間板、筋膜、疼痛過敏、心理的ストレスなどが関与し、標準的な神経学的検査で異常が出ないことがあります。症状の経過や危険サインによって評価は変わります。

反射が低下していると言われました。重症ですか

一般的には、反射低下は神経根症を示唆することがあります。ただし、重症度は筋力低下、感覚障害、日常生活障害、画像所見、経過によって変わります。具体的な見通しは医師等へ相談する必要があります。

Hoffmann徴候が陽性なら手術ですか

一般的には、Hoffmann徴候の陽性だけで治療方針が決まるわけではありません。歩行障害、手指巧緻運動障害、反射亢進、Babinski反射、MRI所見、症状進行などで判断が変わります。

めまいがある場合、耳鼻科と整形外科のどちらが関係しますか

一般的には、首の痛みと腕の神経症状が強ければ整形外科や脳神経外科、回転性めまい、耳鳴り、難聴が目立てば耳鼻咽喉科、頭痛、複視、ろれつ障害、麻痺を伴う場合は救急や神経内科での評価が重要になることがあります。

筋電図はいつ受けるものですか

一般的には、末梢神経障害との鑑別、神経根障害の客観的評価、画像と症状の不一致、長引く脱力などで検討されます。発症直後は異常が出にくい場合があるため、時期は医師が判断します。

後遺障害診断書にはどの検査が必要ですか

一般的には、症状、可動域、知覚、筋力、反射、病的反射、誘発テスト、画像所見、治療経過、症状固定時の残存症状が重要資料になります。個別事情によって必要な資料や評価は変わります。

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むちうちの神経学的検査で実務に使えるチェックリスト

初診、経過観察、後遺障害資料で見る項目を分けて整理します。

18.1 初診時チェックリスト

  • 事故機転を確認した。
  • 意識消失、頭部外傷、危険機転を確認した。
  • 手足の脱力、感覚異常、歩行障害、排尿排便障害を確認した。
  • Canadian C-spine Ruleなど安全評価を考慮した。
  • 頚椎可動域を安全な範囲で確認した。
  • MMTをC5〜T1の目安で確認した。
  • 触覚・痛覚を左右差込みで確認した。
  • 上腕二頭筋、腕橈骨筋、上腕三頭筋反射を確認した。
  • Hoffmann、Babinski、クローヌスなど中枢徴候を必要に応じて確認した。
  • Spurling、Jackson、ULTTなどを安全性を確認して実施または延期した。
  • めまい・視覚症状があれば眼球運動・前庭評価を検討した。
  • 画像検査・専門医紹介の要否を判断した。

18.2 経過観察チェックリスト

  • 痛みの強さだけでなく、しびれの範囲を追跡した。
  • 筋力低下が改善、悪化、固定化しているか確認した。
  • 反射の左右差が持続しているか確認した。
  • 手の巧緻運動、歩行、排尿排便の変化を確認した。
  • MRIや電気診断の必要性を再検討した。
  • 職場復帰・運転・家事・育児への影響を記録した。
  • 心理的苦痛、不眠、PTSD様症状、抑うつを確認した。

18.3 後遺障害・損害賠償資料チェックリスト

  • 初診日と事故日が近接しているか。
  • 症状が初診時から一貫しているか。
  • 神経学的検査が複数回記録されているか。
  • 検査結果が神経解剖と整合しているか。
  • 画像所見が症状の左右・高位と整合しているか。
  • 既往歴や加齢変性との関係を医師がどう評価しているか。
  • 治療内容、通院頻度、症状推移が自然か。
  • 症状固定時の残存症状が具体的に記載されているか。
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むちうちの神経学的検査で覚えておきたい要点

検査名の暗記より、症状の伝え方と所見の整合性が大切です。

むちうちの神経学的検査で行われるテスト一覧を一言でまとめるなら、中心は「筋力、知覚、反射、病的反射、歩行・巧緻運動、神経根誘発テスト」です。SpurlingテストやJacksonテストは有名ですが、それだけで診断が決まるわけではありません。むしろ、むちうち評価では次の考え方が重要です。

  • 首の痛みだけならWAD Grade I〜IIの範囲で考えることが多い。
  • 腱反射低下、筋力低下、感覚障害があればWAD Grade III相当の神経学的関与を検討する。
  • 骨折・脱臼があればWAD Grade IVであり、救急・専門的対応が必要である。
  • 上肢への放散痛では、頚椎神経根症と末梢神経障害・肩疾患を鑑別する。
  • 反射亢進、病的反射、歩行障害、手の不器用さは頚髄症を疑う重要サインである。
  • めまい・眼球運動症状は、頚部由来だけでなく、前庭、脳、血管、頭部外傷も含めて考える。
  • 画像や筋電図は有用だが、症状・身体所見・経過との整合性が不可欠である。
  • 交通事故実務では、検査結果の単発の有無より、初診から症状固定までの一貫した記録が重要である。

読者が覚えるべき最も実用的なポイントは、検査名を暗記することではありません。「どこがしびれるのか」「どの動きで腕へ響くのか」「力が入りにくい動作は何か」「歩行や手先の細かい動作に変化があるか」を正確に伝え、医療者が安全に必要な検査を行えるようにすることです。

Reference

参考資料

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