交通事故で歯が折れた、抜けた、欠けた場合に、歯牙障害の等級、補綴歯数、既存障害、証拠化、損害賠償でどこを確認するかを体系的に整理します。
交通事故で歯が折れた、抜けた、欠けた場合に、歯牙障害の等級、補綴歯数、既存障害、証拠化、損害賠償でどこを確認するかを体系的に整理します。
まず、治療本数と認定上の歯数が一致しないという出発点を押さえます。
交通事故で歯が折れた場合、後遺障害等級は「歯科医院で何本治療したか」だけで決まるわけではありません。中心になるのは、自賠責保険の後遺障害等級表にある「何歯以上に対し歯科補綴を加えたもの」という基準です。
事故により現実に喪失した歯、抜歯に至った歯、または歯冠部の大部分を欠損した歯に対して歯科補綴が行われたかを、歯ごとに確認します。軽い欠けをレジンで整えた歯、単なる支台歯、義歯の鈎がかかるだけの歯、ポストやインレーにとどまる歯は、直ちに算入されるとは限りません。
最初に結論を大きくつかむことが重要です。次の強調部分は、歯牙障害の認定で最も誤解されやすい「治療本数」と「認定対象歯数」の違いを示しています。ここを基準に、後の等級表、補綴の種類、証拠資料を読み分けてください。
ブリッジのユニット数、義歯の人工歯数、インプラント上部構造の本数は参考情報ですが、等級判断では事故で失われた歯または大きく欠損した歯が何歯あるかを軸に整理します。
3歯、5歯、7歯、10歯、14歯が等級の境界になります。
歯牙障害の等級は、補綴の対象となる歯数ごとに段階化されています。下の表は、各等級の境界、認定基準、自賠責保険金額の上限、支払基準上の後遺障害慰謝料等を並べたものです。読者にとって重要なのは、金額欄だけでなく、どの歯数の境界に近いかを確認することです。
| 後遺障害等級 | 自賠責上の号 | 認定基準 | 自賠責保険金額の上限 | 支払基準上の後遺障害慰謝料等 |
|---|---|---|---|---|
| 第10級 | 4号 | 14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | 461万円 | 190万円 |
| 第11級 | 4号 | 10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | 331万円 | 136万円 |
| 第12級 | 3号 | 7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | 224万円 | 94万円 |
| 第13級 | 5号 | 5歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | 139万円 | 57万円 |
| 第14級 | 2号 | 3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | 75万円 | 32万円 |
自賠責保険金額の上限と後遺障害慰謝料等は同じものではありません。後遺障害による損害には、逸失利益と慰謝料等が含まれ、等級ごとの限度額の範囲で支払われます。歯牙障害は3歯以上から等級が問題になるため、1歯または2歯だけでは通常この表の歯科補綴等級に届きません。
もっとも、顎骨骨折、咬合異常、咀嚼機能障害、言語機能障害、顔面の傷跡、神経症状などが別に残ると、歯数とは異なる等級が問題になることがあります。歯数だけで全体を判断せず、口腔や顔面に残った機能障害も確認します。
自賠責保険は、交通事故による対人賠償を扱う強制保険です。後遺障害は、治療を尽くしても将来にわたって残る身体的または精神的な障害として、等級に応じた限度額が定められています。
歯の場合は、抜歯、根管治療、暫間補綴、最終補綴、インプラント治療、骨造成、咬合調整などが絡むため、症状固定の時期が争点になりやすい領域です。一般的には、これ以上治療を続けても大きな改善が見込めない医学的安定状態を症状固定と考えますが、歯科外傷では最終補綴や経過観察との関係を丁寧に見ます。
次の一覧は、歯牙障害の等級判断で確認される主な場面を示します。手続きのどこで資料が必要になるかを理解しておくと、後から不足資料を集め直す負担を減らせます。
救急記録、顔面外傷、口腔内出血、脱落歯、破折片、事故の衝撃方向を残します。
右上1番、左上1番など歯番号で特定し、エックス線や歯科用CTで損傷を確認します。
事故との関連、既存のう蝕や歯周病、暫間補綴と最終補綴の時期を分けて整理します。
歯ごとの欠損程度、補綴内容、咀嚼や発音への影響を、認定機関が読める形にします。
歯冠破折、歯根破折、脱臼、症状固定などの言葉を先に整理します。
歯の外傷は、単に「歯が折れた」と表現しても、医学的には複数の状態に分かれます。次の一覧は、後遺障害の数え方に影響しやすい外傷の種類を並べたものです。どの損傷がどの資料で確認されているかを読み取ることが重要です。
歯肉より上に見える部分が欠ける損傷です。エナメル質だけか、象牙質や歯髄まで及ぶかで治療と評価が変わります。
歯槽骨内の根に亀裂や破折が生じる損傷です。初期画像で見えにくく、時間の経過で保存困難になることがあります。
歯が歯槽から完全に離脱する、または位置や動揺に異常が出る状態です。再植の可否や保存状態が問題になります。
歯を支える骨や顎骨の骨折を伴うと、歯数だけでなく咀嚼、開口、咬合の機能障害も確認します。
次の表は、歯牙障害の説明で繰り返し出てくる用語の意味を整理したものです。用語の違いを押さえると、診療録や診断書のどの記載が等級判断に結びつくかを確認しやすくなります。
| 用語 | 意味 | 後遺障害での見方 |
|---|---|---|
| 歯牙障害 | 歯を喪失したり、著しく欠損したりしたことにより、歯科補綴を必要とする障害 | 等級表では補綴を加えた歯数で整理されます。 |
| 歯科補綴 | 欠損した歯や歯冠を人工物で補い、形態、咬合、咀嚼、発音、審美を回復する治療 | 臨床上の補綴や修復の名称と、認定上の歯数は一致しないことがあります。 |
| 歯冠部 | 歯肉より上に見える歯の部分 | 歯冠部の大部分、実務上は4分の3以上の欠損が重要な目安になります。 |
| 歯根 | 歯槽骨の中に埋まっている根の部分 | 歯根破折が保存困難で抜歯に至ると、事故との因果関係が重要になります。 |
| 症状固定 | 治療を続けても医学的に大きな改善が見込めない状態 | 最終補綴、歯髄壊死、歯根吸収、インプラントの骨結合などで時期が変わります。 |
| 既存障害 | 事故前から存在していた障害 | 事故前の欠損、重度う蝕、補綴歯が、加重や差額調整の争点になります。 |
単なるエナメル質破折をレジンで補っただけなら、治療を受けた歯でも認定上の「歯科補綴を加えたもの」に入らない可能性があります。反対に、事故直後は歯が残っていても、歯根破折や歯槽骨損傷により後日抜歯が必要になった場合は、事故からの経過が記録でつながっていればカウント対象として検討されます。
対象歯、欠損程度、補綴、因果関係、既存障害を5段階で確認します。
補綴歯数を数えるときは、いきなり合計本数を出すのではなく、歯ごとに要件を通過するかを見ます。次の判断の流れは、どの順番で確認すれば数え間違いを減らせるかを表しています。上から順に、対象歯の特定、欠損程度、補綴内容、事故とのつながり、事故前からの状態を読み取ってください。
右上1番、左上1番、FDI方式の11、21など、歯ごとの番号で整理します。
完全脱臼、抜歯、歯冠部大部分欠損、保存困難となった歯を確認します。
クラウン、ブリッジ、有床義歯、インプラントなどの種類と装着日を分けます。
初診記録、画像、写真、事故態様、受傷直後からの症状経過でつながりを確認します。
事故前の欠損や補綴があれば、事故前後の差分と加重の扱いを検討します。
次の比較表は、カウント候補になりやすい歯と、直ちには算入しにくい歯を分けたものです。重要なのは、治療名ではなく、事故による喪失や大きな欠損が資料で確認できるかどうかです。
| カウント候補になりやすい歯 | 直ちには算入しにくい歯 |
|---|---|
| 事故で完全に抜けた歯 | 歯冠部の小さな欠けにレジン充填をしただけの歯 |
| 事故後の治療過程で抜歯に至った歯 | 歯冠部の欠損が4分の3に満たない歯 |
| 歯冠部の大部分を欠損した歯 | 単にブリッジの支台になっただけの健全歯 |
| 事故外傷で保存困難となり補綴に置き換えられた歯 | 義歯の鈎がかかるだけの歯 |
| 治療上の必要で残存歯冠部を切除し、大部分欠損と同視できる歯 | ポストやインレーにとどまる歯、事故前から同程度に欠損していた歯 |
4ユニットのブリッジを装着しても、喪失した歯が2歯で、両端の支台歯が事故による喪失または大部分欠損に当たらなければ、単純に4歯とは数えません。支台歯を数えるには、支台形成前後の残存歯質量や、事故外傷による破折の有無を示す資料が重要になります。
補綴物の形と認定上の歯数がずれる典型場面を整理します。
補綴方法ごとの数え方は、後遺障害の境界を左右します。次の表は、ブリッジ、有床義歯、インプラント、クラウン、レジン修復、根管治療で、何を基準に読むべきかをまとめたものです。補綴物の見た目やユニット数ではなく、事故で喪失または大きく欠損した歯が何歯かを読み取ってください。
| 治療や補綴 | 認定上の確認ポイント | 注意点 |
|---|---|---|
| ブリッジ | 全体のユニット数ではなく、喪失または大部分欠損に当たる歯数を確認します。 | 支台歯を削っただけでは、原則として支台歯分を足しません。 |
| 有床義歯 | 人工歯の排列数ではなく、実際に喪失した歯数を基準に検討します。 | 隙間の調整で人工歯数が増えても、喪失歯数と一致しないことがあります。 |
| インプラント | 埋入本数や上部構造ではなく、事故で失った歯数を確認します。 | 骨造成、治癒期間、将来交換費用、治療費の相当性が争点になりやすいです。 |
| クラウン | 事故で歯冠部の大部分が破折し、全部被覆冠を装着したかを確認します。 | 事故前の補綴やう蝕治療との区別が必要です。 |
| レジン修復やインレー | 欠損量が小さい場合、歯牙障害の歯数に入らない可能性があります。 | 歯の角を整えた程度では、3歯の境界に届かないことがあります。 |
| 抜髄や根管治療 | 歯髄処置だけで等級が決まるわけではなく、欠損量と補綴内容を見ます。 | 痛みや予後には関係しても、補綴歯数と直結しない点に注意します。 |
次の注意点一覧は、補綴の種類ごとに起こりやすい数え間違いを示しています。読者にとって重要なのは、補綴物の名称だけで判断せず、事故前後の歯の状態、治療上の必要性、残存歯質量を確認することです。
ブリッジの支台歯は、事故で喪失または大部分欠損した根拠がなければ、単に足すことはできません。
有床義歯では、実際の欠損歯数と人工歯の排列数がずれることがあります。
2本のインプラントで3歯分を支える場合など、埋入本数と喪失歯数は一致しません。
レジン修復をした歯でも、歯冠部の大部分欠損に当たらなければ算入は慎重に見られます。
親知らず、すなわち第三大臼歯は、通常の咀嚼機能や歯列評価から外れることがあり、歯牙障害のカウント対象外と扱われることがあります。乳歯も将来永久歯に生え替わるため、原則として対象外とされることがあります。
ただし、後継永久歯が存在しないなど、永久歯に準じて評価すべき事情がある場合は、歯科医師の診断と画像をもとに個別に検討されます。小児の交通事故では、乳歯の脱臼や陥入が後継永久歯、歯胚、咬合発育へ影響することがあるため、直後の歯数だけでなく経過観察も重要です。
歯数だけでは評価しきれない、食事、発音、顔面、神経の問題も確認します。
歯牙障害の等級は補綴歯数を基準にしますが、口腔や顔面の損傷は機能全体に影響することがあります。次の一覧は、歯数とは別に確認すべき障害を示しています。歯数が2歯にとどまる場合でも、顎骨骨折や咬合異常があれば別の評価が問題になり得る点を読み取ってください。
咬合力、開口量、顎関節痛、義歯やインプラントの適合状態により、食事の範囲が制限されることがあります。
前歯部の欠損、口唇損傷、舌の損傷、補綴の違和感により、構音障害や長時間会話の支障が問題になります。
顔面醜状、口唇瘢痕、口唇閉鎖の不具合は、歯牙障害とは別に資料化する必要があります。
歯槽骨、顎骨、顔面神経周辺の損傷により、痛み、しびれ、知覚鈍麻が残ることがあります。
次の表は、歯牙障害と別に検討されることがある機能障害の例を整理したものです。歯数だけを見て終わらせず、どの検査や所見で機能低下を説明できるかを確認することが大切です。
| 問題になる障害 | 確認したい資料 | 実務上の見方 |
|---|---|---|
| 咀嚼機能障害 | 食物の範囲、咬合力、開口量、顎関節所見、咀嚼機能検査 | 歯牙障害の歯数とは別に、食事機能への影響を確認します。 |
| 言語機能障害 | 発音検査、構音所見、口唇や舌の損傷、職業上の会話負担 | 会話や発音が仕事に影響する場合は、具体的支障を資料化します。 |
| 顔面醜状 | 顔貌写真、瘢痕の部位や長さ、口唇閉鎖の状態 | 歯牙障害とは別の後遺障害として確認されることがあります。 |
| 神経症状 | 疼痛、知覚異常、画像、神経学的所見、治療経過 | 痛みやしびれが残る場合は、部位と経過の連続性が重要です。 |
顎骨骨折を伴い、補綴歯数が2歯にとどまるケースでも、咬合不全、開口障害、顎関節痛などが残る場合は、歯牙障害とは別の後遺障害を検討する余地があります。口腔外科的評価、咬合評価、機能検査を確認することが大切です。
事故直後から症状固定まで、歯ごとの事実をつなげます。
歯の損傷は、事故から時間が経つほど、う蝕、歯周病、過去の補綴不良、日常生活での破折との区別が難しくなります。次の時系列は、どの時点で何を残すかを示しています。順番に資料をそろえることで、事故との因果関係を説明しやすくなります。
顔面をどこに打ち付けたか、衝撃方向、車内損傷、ドライブレコーダーなどを整理します。
頭部外傷、口唇裂創、歯の脱落、歯肉損傷、顎部痛が残ると因果関係を支えます。
受傷機序、対象歯、口腔内写真、エックス線写真、歯科用CTを保存します。
抜髄、根管治療、暫間補綴、最終補綴、症状固定時の状態を経過として残します。
事故前の状態、欠損程度、補綴方法、咀嚼や発音への影響を一覧化します。
次の資料一覧は、後遺障害認定で不足しやすい証拠を分類したものです。資料の種類ごとに、何を証明したいのかを分けて読むと、足りない記録を見つけやすくなります。
事故発生状況報告書、実況見分、車両損傷、救急搬送記録、顔面を打った状況を示す写真。
因果関係対象歯番号、事故前の既往、破折、脱臼、動揺、出血、歯冠部欠損範囲、治療理由。
歯ごとの記録パノラマエックス線、デンタルエックス線、歯科用CT、口腔内写真、顔貌写真、破折片の写真。
客観資料補綴設計、技工指示、装着日、暫間補綴と最終補綴の区別、支台歯の状態。
数え方脱落歯や破折片がある場合は、捨てずに歯科医師へ持参します。完全脱臼した永久歯は、条件が整えば再植が検討されることがあります。保存液、口腔外時間、歯根膜の状態も記録上重要です。
抽象的な記載ではなく、歯番号、欠損程度、補綴内容を明確にします。
歯の後遺障害では、通常の後遺障害診断書だけでなく、歯科用の診断書や補綴状況を示す資料が必要になることがあります。次の表は、診断書や意見書に書かれていると判断しやすい中核事項です。各項目が歯ごとに確認できるかを読み取ってください。
| 記載事項 | 確認したい内容 | 不足した場合の問題 |
|---|---|---|
| 事故日と初診日 | 事故後どれくらいで歯科または口腔外科を受診したか | 受診遅れがあると因果関係を争われやすくなります。 |
| 受傷歯の番号 | 右上1番、左上1番など歯番号で特定されているか | 「前歯部」だけでは対象歯が不明確になります。 |
| 欠損の種類と程度 | 喪失歯、抜歯歯、歯冠部大部分欠損の別 | 小欠損や治療歴との区別が難しくなります。 |
| 事故前の状態 | 既存補綴、う蝕、歯周病、根管治療の有無 | 既存障害や素因が争点になります。 |
| 補綴方法と日付 | 暫間補綴か最終補綴か、クラウン、ブリッジ、義歯、インプラントの区別 | 症状固定時期や補綴歯数が読み取りにくくなります。 |
| 機能への影響 | 咀嚼、発音、疼痛、知覚異常、審美障害 | 歯牙障害以外の評価や逸失利益の資料が不足します。 |
歯科医師に確認するときは、法律上の結論を無理に書いてもらうのではなく、認定機関が判断できる医学的事実を明確にしてもらうことが大切です。次の質問例は、どの歯がカウント対象になるかを検討するための材料を集めるものです。
事故で損傷した歯番号、完全脱臼、歯冠破折、歯根破折、亜脱臼などの診断を確認します。
歯冠部の欠損割合、抜歯に至った医学的理由、保存困難性を確認します。
う蝕、歯周病、補綴、根管治療、近い将来の抜歯見込みがあったかを確認します。
補綴方法を選んだ理由、将来交換や再治療の見込み、咀嚼や発音への影響を確認します。
例えば、「右上1番、左上1番は事故により完全脱臼、右上2番は事故による歯冠破折で歯冠部4分の3以上欠損、各歯に補綴を実施」といった歯ごとの記載があると、認定機関が補綴歯数を判断しやすくなります。
歯科外傷では、治療期間中の損害と後遺障害が残った後の損害を分けて整理します。次の表は、請求対象として問題になりやすい費目、確認したい資料、争点をまとめたものです。金額だけでなく、必要性と相当性をどの資料で説明するかを読み取ってください。
| 費目 | 内容 | 主な争点 |
|---|---|---|
| 治療関係費 | 応急処置、根管治療、抜歯、暫間補綴、最終補綴、画像検査、診断書料、通院交通費 | 自由診療、セラミック、インプラント、骨造成の必要性と相当性 |
| 入通院慰謝料 | 歯科通院、痛み、食事制限、顔面外傷を踏まえた傷害慰謝料 | 通院期間、通院頻度、治療内容、痛みの程度 |
| 休業損害 | 抜歯、手術、疼痛、発音障害、接客困難、食事困難による休業 | 事故前収入、実休業、医師の指示、業務内容との関係 |
| 後遺障害慰謝料 | 等級認定後に問題となる精神的損害 | 自賠責基準、任意保険会社の提示、裁判基準の差 |
| 逸失利益 | 発音、外見、咬合力、会話、業務への具体的支障による労働能力への影響 | 減収の有無、職業上の支障、検査、職場資料、専門家意見 |
| 将来治療費と再補綴費 | 補綴物の再製作、インプラント上部構造、調整、周囲炎対応など | 交換周期、見積、必要性、事故との因果関係 |
歯牙障害の逸失利益は、実務上争われやすい項目です。補綴で一定の咀嚼機能が回復するため、労働能力喪失が否定または限定されることがあります。一方で、俳優、アナウンサー、営業職、接客業、講師、管楽器奏者、歌手、飲食業などでは、発音、外見、咬合力、長時間会話への影響が職業に直結することがあります。
次の重要ポイントは、逸失利益や将来再補綴費を検討する際の考え方をまとめたものです。単に「歯が折れた」と説明するのではなく、生活や仕事への具体的な制限と、その制限を裏づける資料を読み取ることが大切です。
等級は補綴歯数を軸に判断されますが、慰謝料、逸失利益、将来再補綴費では、前歯か奥歯か、若年者か、職業上の発音や外見への影響があるか、補綴の違和感や交換見込みがあるかも重要事情になります。
ブリッジ、クラウン、既存障害、歯根破折、顎骨骨折の場面を確認します。
典型事例で見ると、どこで歯数の判断が分かれるかが理解しやすくなります。次の表は、補綴の見た目と認定上の歯数がずれる場面を並べたものです。各事例で、何を足せて、何を足しにくいのかを読み取ってください。
| 事例 | 数え方の要点 | 確認すべき資料 |
|---|---|---|
| 前歯2本が完全脱臼し、4ユニットブリッジを装着 | 喪失歯は2歯。支台歯が健全なら、原則として2歯にとどまります。 | 支台歯の事故前状態、破折の有無、形成前後の写真 |
| 3歯が歯冠部4分の3以上欠損し、クラウンを装着 | 3歯以上に対し歯科補綴を加えたものとして第14級2号が問題になります。 | 欠損割合を示す診療録、口腔内写真、画像 |
| 5歯を補綴したが、2歯は事故前から重度う蝕 | 事故による新たな障害は3歯にとどまる可能性があります。加重障害の差額調整も問題になります。 | 事故前のカルテ、パノラマ画像、補綴歴 |
| 1歯を抜歯し、2歯に小さなレジン修復 | レジン修復歯が大部分欠損でなければ、合計3歯とは数えにくい場面です。 | 欠損量、修復内容、歯冠部の写真 |
| 事故直後は残っていた歯が数か月後に歯根破折で抜歯 | 事故後から症状や画像所見が連続し、保存困難になった経過が重要です。 | 打診痛、動揺、歯髄壊死、画像の時系列 |
| 歯数は2歯だが顎骨骨折と咀嚼障害が強い | 歯牙障害には届かなくても、咀嚼機能の後遺障害が別に問題になることがあります。 | 口腔外科所見、咬合評価、機能検査 |
境界事案では、3歯、5歯、7歯、10歯、14歯に届くかどうかで等級が変わります。支台歯や小欠損を足せるかどうかは、結論だけを主張しても足りず、歯ごとの事故前後の状態を示す資料が必要です。
歯は事故前から治療歴があることが多い部位です。事故前から抜けていた歯、重度う蝕で大きく欠損していた歯、既存補綴歯がある場合、事故前後の状態差や加重が争点になります。事故前の歯科記録、パノラマエックス線写真、検診記録、補綴物の装着時期が重要です。
次の比較表は、後遺障害申請の進め方として多い事前認定と被害者請求の違いを示しています。どちらが常に有利というものではなく、資料を自分側でどこまで整理して提出したいかを読み取ることが大切です。
| 方法 | 特徴 | 歯牙障害での注意点 |
|---|---|---|
| 事前認定 | 任意保険会社を通じて後遺障害認定を進める方法 | 手間は少ない一方、提出資料を細かく管理しにくい場合があります。 |
| 被害者請求 | 被害者側が加害者側自賠責保険会社へ直接請求する方法 | 歯科資料、写真、画像、意見書、事故前後比較を自分側で整理しやすい反面、資料収集の負担があります。 |
保険会社側の主張では、事故との関係、補綴歯数、高額治療、症状固定後の費用、逸失利益が争点になりやすいです。次の一覧は、よくある主張と確認の視点をまとめたものです。どの争点で、どの資料を補うべきかを読み取ってください。
事故直後の痛み、出血、破折片、画像、事故前記録で、事故が保存困難の原因になったかを確認します。
支台歯も事故で著しく欠損した場合は、形成前後の記録や残存歯質量を示す必要があります。
咀嚼機能、隣在歯を削らない利点、年齢、欠損部位、代替治療との比較を整理します。
再補綴の必要性、時期、費用見積が具体的なら、将来費用として検討されることがあります。
職業上の発音、外見、咬合力、会話、収入減、業務制限を具体化することが重要です。
異議申立てでは、同じ資料を再提出するだけでは足りないことがあります。次の判断の流れは、初回認定で不足していた医学的、法的なポイントをどう補うかを示しています。支台歯や既存障害の争点では、歯ごとに理由を積み上げることが大切です。
非該当や低い等級になった理由を読み、足りない要件を特定します。
歯科医師の意見書、事故前後のパノラマ比較、欠損割合を示す写真を追加します。
支台歯を含める理由や、事故により大部分欠損と同視できる理由を歯別に整理します。
咀嚼検査、顎関節や顎骨の画像、職業上の支障資料も検討します。
補綴歯数、証拠、機能障害、将来費用を最後に点検します。
最後に、補綴歯数を数える前に確認したい項目を一覧にします。次の表は、はいの場合に取るべき整理と、いいえの場合に補いたい確認を分けたものです。読み取りのポイントは、歯ごとの事実、事故前の状態、補綴の理由を空欄にしないことです。
| 確認項目 | はいの場合 | いいえの場合 |
|---|---|---|
| 事故直後に歯科または口腔外科を受診したか | 初診記録を取得 | 受診遅れの理由と他科記録を整理 |
| 対象歯番号が明確か | 歯ごとに一覧化 | 歯科医師に番号で再確認 |
| 事故前の歯科記録があるか | 既存障害の判定に使う | 検診記録や過去画像を探す |
| 歯冠部4分の3以上の欠損があるか | カウント候補 | 小欠損なら非算入の可能性 |
| 抜歯に至った歯があるか | 抜歯理由を確認 | 保存歯の欠損割合を確認 |
| 補綴方法が明確か | 補綴日と種類を記録 | 暫間か最終かを確認 |
| ブリッジの支台歯を足していないか | 支台歯の欠損根拠を確認 | 喪失歯数で整理 |
| 親知らずや乳歯を含めていないか | 個別事情を確認 | 永久歯中心に整理 |
| 咀嚼や発音の障害が残るか | 機能障害の等級も検討 | 歯牙障害中心に検討 |
| 将来再補綴の見込みがあるか | 見積書と歯科医師の意見を確認 | 後日の主張が難しくならないよう資料を残す |
次のまとめは、事故で歯が折れた場合の後遺障害等級と補綴の数え方で特に重要な結論です。表や診断書を読むときは、この10項目のどれに関係する情報かを確認すると整理しやすくなります。
3歯以上が最小基準、3歯、5歯、7歯、10歯、14歯が等級境界、支台歯や小欠損は自動算入しない、既存障害と事故前後の差分を確認する、咀嚼や言語機能は別に検討する、という順番で整理します。
個別の結論は資料により変わるため、一般的な制度説明として整理します。
一般的には、歯牙障害の補綴歯数による等級は3歯以上から問題になるとされています。ただし、顎骨骨折、咬合異常、咀嚼機能障害、言語機能障害、顔面の傷跡、神経症状などが別に残る場合は、歯牙障害とは異なる評価が問題になる可能性があります。具体的な見通しは、診療録や画像を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、ブリッジ全体のユニット数ではなく、事故で喪失または歯冠部の大部分を欠損した歯が何歯あるかを確認するとされています。支台歯が健全で、治療のために削っただけの場合は、直ちに支台歯分を加えるとは限りません。事故態様、事故前の歯の状態、形成前後の記録によって結論が変わる可能性があります。
一般的には、事故前のう蝕や補綴があるだけで、事故との関係がすべて否定されるわけではないと考えられます。ただし、事故前から保存困難だったのか、事故で初めて保存困難になったのかによって評価が変わります。事故前後のカルテ、画像、検診記録、歯科医師の所見を整理する必要があります。
一般的には、治療の必要性、相当性、事故前の状態、代替治療との比較、機能面と審美面の必要性によって検討される項目です。高額な自由診療は争点になりやすいため、治療計画、見積、歯科医師の説明、欠損部位や職業上の影響を資料化する必要があります。
一般的には、非該当の理由を確認し、初回認定で不足していた資料を補うことが重要とされています。同じ資料を繰り返すだけでなく、歯科医師の意見書、事故前後の画像比較、欠損割合を示す写真、補綴設計資料、機能検査などを検討します。具体的な対応方針は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
制度、支払基準、歯科外傷、障害認定の理解に用いた資料名を整理します。