株主代表訴訟の提訴請求を受けた会社が、60日対応、調査、責任判断、文案、送付、開示までを一体で設計するための企業法務・監査実務向け解説です。
会社が訴えを起こさない理由を、調査と法的評価に基づいて説明するための設計図です。
会社が訴えを起こさない理由を、調査と法的評価に基づいて説明するための設計図です。
不提訴理由通知書とは、主として会社法847条4項に基づき、株主から責任追及等の訴えの提起請求を受けた株式会社が、60日以内に訴えを提起しない場合に、提訴請求株主または提訴対象者から請求を受けて、訴えを提起しない理由を通知する文書です。刑事手続の不起訴とは異なり、企業法務・会社法上の株主代表訴訟前置手続に関する文書として位置づけられます。
不提訴理由通知書の作成方法で重要なのは、単に「提訴しません」と結論を書くことではありません。会社がどの資料を確認し、どの関係者に聴き取り、どの法的責任を検討し、どの理由で責任追及等の訴えを提起しないと判断したのかを、後日の株主代表訴訟や開示対応にも耐えられる粒度で整理することです。
次の一覧は、実務上望ましい通知書が満たすべき項目を整理したものです。通知書の完成度は、会社の判断が恣意ではなく、資料と法的評価に基づくものだと示せるかを左右するため、読み手は各項目が互いに対応しているかを確認することが重要です。
受領日、請求者、対象者、請求の趣旨、請求原因を正確に固定します。
誰が、いつ、どの資料・関係者・専門家を用いて調査したかを示します。
認定事実、法的評価、損害、因果関係、結論の対応関係を明確にします。
代表訴訟、補助参加、文書提出命令、開示、説明責任の場面を想定します。
個別案件の結論は、事実関係、会社の機関設計、請求書の記載、対象者の属性、証拠状況、時効・除斥期間、利益相反の有無、上場会社の開示実務などで変わります。具体的な対応方針は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
会社法847条、会社法施行規則217条・218条、会社法976条2号をつなげて理解します。
会社法847条1項は、一定の株主が株式会社に対し、役員等の責任を追及する訴えなどの提起を請求できることを定めています。公開会社では、原則として6か月前から引き続き株式を有する株主が問題となり、会社が請求の日から60日以内に訴えを提起しないとき、提訴請求株主は会社のために責任追及等の訴えを提起できます。
会社が60日以内に提訴しない場合で、提訴請求株主または対象者から請求を受けたときは、会社は遅滞なく、訴えを提起しない理由を書面その他法務省令で定める方法により通知する必要があります。会社法施行規則217条は提訴請求の方法を、218条は不提訴理由通知の記載事項を具体化しています。
次の比較表は、関連条文が通知書作成のどの場面に関わるかを整理したものです。各条文の役割を分けて読むことで、受領時点で確認すること、文案に書くこと、手続違反になり得ることを切り分けられます。
| 根拠 | 主な内容 | 作成方法への影響 |
|---|---|---|
| 会社法847条1項 | 株主による責任追及等の訴えの提起請求 | 請求者、対象者、請求の趣旨、請求原因を特定する起点になる |
| 会社法847条4項 | 60日以内に提訴しない場合の理由通知 | 不提訴理由通知書の作成義務が問題となる中心条文になる |
| 会社法施行規則217条 | 提訴請求の方法と特定事項 | そもそも会社法上の提訴請求に当たるかを確認する基準になる |
| 会社法施行規則218条 | 調査内容、責任判断、提訴しない理由 | 通知書本文の主要見出しと記載項目を決める |
| 会社法976条2号 | 通知懈怠または不正通知への過料 | 単なる任意説明ではなく、会社法上の手続文書として管理する必要がある |
典型的には、取締役、監査役、会計参与、会計監査人、清算人等の責任追及を求める場面で通知書が問題となります。善管注意義務・忠実義務違反、利益相反取引、競業取引、内部統制システム整備義務違反、M&Aや第三者割当、役員報酬、会計不正、子会社管理、独占禁止法・労働法・個人情報保護法・金融商品取引法違反に伴う会社損害など、対象は幅広いものになります。
上場会社では、提訴請求、不提訴判断、不提訴理由通知書の送付が、適時開示または任意開示の対象として検討されることがあります。公表例には、社内調査委員会の設置、監査役の判断、不提訴理由通知の送付を説明したものがあり、通知書本文と開示文書の整合性が重要になります。
文案に着手する前に、提訴請求の適格性、株主資格、期限、判断主体を確認します。
不提訴理由通知書の作成は、いきなり文案から始めるものではありません。最初に、受領した文書が会社法847条1項の提訴請求に当たるか、請求者が株主資格・保有期間要件を満たすか、60日ルールの起算点はいつか、会社の機関設計上だれが会社を代表し判断するかを確認します。
次の比較一覧は、初動で誤ると後日の代表訴訟や通知義務の有無に影響しやすい前提事項を示しています。左列は確認対象、中央列は実務上見る資料、右列は通知書作成で読み取るべき影響です。
| 確認対象 | 見る資料・事情 | 読み取るポイント |
|---|---|---|
| 提訴請求該当性 | 被告となるべき者、請求の趣旨、請求を特定する事実 | 単なる質問や経営批判ではなく、会社法上の請求として扱うべきか |
| 株主資格 | 株主名簿、振替制度上の情報、保有期間、代理権限 | 公開会社の6か月要件や法人株主の代表権限を確認する |
| 60日ルール | 内容証明郵便の配達日、受付印、メール受信日時 | 社内回付日ではなく、会社として受領した日から期限を管理する |
| 判断主体 | 機関設計、対象者の属性、監査役等の権限 | 通知書の名義、調査主体、決裁機関、委任主体を誤らない |
監査役設置会社で取締役を被告とする責任追及が問題になる場合、会社と取締役との間の訴えについて、監査役が会社を代表する場面があります。監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社、非公開会社、取締役会非設置会社では設計が異なるため、調査協力者と意思決定者を分けて整理する必要があります。
受領から通知書送付までを、期限管理・調査・判断・文書化の順に進めます。
提訴請求を受けたら、初日に受領日、受領部署、差出人、代理人、対象者、請求内容、添付資料を記録し、60日満了日と意思決定日程を管理します。期限管理表、論点整理表、証拠リスト、利益相反確認表を早期に作ることで、調査範囲と判断主体がぶれにくくなります。
次の判断の流れは、受領から送付までの作業順序を表しています。上から下へ進むほど、単なる受付作業から法的評価と意思決定へ重心が移るため、各段階で作る記録が後日の説明資料になることを読み取る必要があります。
受領日、請求者、対象者、請求内容、60日満了日を固定する
請求者の主張を責任要件、損害、因果関係へ分解する
利益相反を排除し、資料・電子データ・ヒアリングを管理する
認定事実、評価、結論の対応関係を論点ごとに確認する
損害回復、回収可能性、訴訟費用、会社利益を具体化する
責任要件、損害、因果関係を分けて説明する
次の時系列は、60日間のなかでどの作業をいつ進めるかを整理したものです。日数が進むほど修正余地が狭くなるため、読者は45日前後までに判断案と通知書ドラフトが必要になる点を読み取ることが重要です。
受領日、期限、対象者、請求内容、添付資料を記録し、関係資料の削除防止を指示します。
請求者の適格性と、だれが調査・判断を担うかを確認します。
外部弁護士、会計士、フォレンジック専門家の要否を判断し、資料収集を開始します。
主要論点ごとに認定事実、争点、追加資料の不足を整理します。
会社法施行規則218条の項目と照合し、文案を作成します。
監査役会・委員会・取締役会等の議事録と送付証跡を整えます。
十分な調査を経た判断であることを、資料・期間・主体・方法から説明します。
会社法施行規則218条1号は、株式会社が行った調査の内容を記載することを求めています。これは、会社が形式的に不提訴を決めたのではなく、必要な資料と関係者確認を踏まえて判断したことを示す中核部分です。
次の表は、調査内容に通常記載する要素を整理したものです。左列は通知書で項目化しやすい要素、右列は具体的な記載対象であり、読者は調査主体・調査範囲・判断資料がつながっているかを確認します。
| 要素 | 記載対象 |
|---|---|
| 調査主体 | 監査役全員、監査等委員会、外部弁護士、調査チームなど |
| 調査期間 | 受領日から判断日までの期間、主要な調査日程 |
| 調査対象 | 提訴請求書記載の各事実、対象取締役の行為、損害、因果関係 |
| 収集資料 | 議事録、稟議書、契約書、会計資料、電子メール、専門家報告書 |
| ヒアリング | 対象者、関係役職員、外部専門家、監査法人など |
| 分析方法 | 法的分析、会計分析、内部統制評価、事業合理性の検討 |
| 判断の基礎資料 | 判断に直接用いた資料の類型または表題 |
文例としては、「当社監査役は、提訴請求書の受領後、外部弁護士の助言を得て、同請求書に記載された各主張の事実関係および法的評価を確認するため、取締役会議事録、経営会議資料、関連契約書、稟議書、会計資料、電子メール、外部専門家意見書および関係者ヒアリング記録を確認した」などの形で、主体・期間・資料・ヒアリング対象をまとめます。
資料保全は初動で行います。取締役会・経営会議・監査役会の議事録、稟議書、契約書、覚書、見積書、請求書、会計伝票、メール、チャット、ファイルサーバ資料、プロジェクト管理資料、外部専門家の意見書、内部監査報告書、社内通報記録、決算資料、適時開示資料、監査法人との協議記録、関係者ヒアリング記録などを整理します。
請求者の主張、責任要件、認定事実、法的評価、結論を分けて書きます。
会社法施行規則218条2号は、提訴請求に係る訴えについて、被告となるべき者の責任または義務の有無についての判断およびその理由を記載することを求めています。ここでは、請求者の主要主張を無視せず、責任追及訴訟として成立するために必要な要件へ分解することが重要です。
次の一覧は、責任判断を読みやすくする基本構造を示しています。順番に意味があり、請求者の主張から結論へ飛ばず、事実認定と評価を分けることで、どの論点で責任が認められないのかを読み取れるようにします。
善管注意義務違反、利益相反、損害、因果関係など、主要論点ごとに整理します。
会社法423条1項など、問題となる義務内容と評価基準を明確にします。
確認資料、会議体での審議、専門家助言、代替案検討などを示します。
当時の情報に照らした合理性、損害、因果関係、裁量判断を検討します。
善管注意義務違反が問題となる場合、検討すべき事項は複数あります。次の比較表は、責任判断で抜けやすい論点を示しており、左列の論点ごとに右列の検討事項を確認することで、結果責任だけで判断していないかを点検できます。
| 論点 | 検討事項 |
|---|---|
| 義務の内容 | 取締役として求められる注意義務・忠実義務の内容 |
| 意思決定過程 | 情報収集、検討資料、専門家助言、会議体での審議 |
| 判断内容 | 当時の情報に照らした合理性、代替案の検討 |
| 損害 | 会社に損害が発生したか、損害額を特定できるか |
| 因果関係 | 行為と損害との相当因果関係 |
| 主観・裁量 | 経営判断として許容される範囲か |
文例では、取引が取締役会でどの資料に基づき審議されたか、外部専門家の意見があったか、損失が事後的に発生していても当時の情報に照らして意思決定が著しく不合理といえるか、損害と対象者の行為との因果関係を示す資料があるかを分けて説明します。
責任があり得る類型では、会社利益との関係をより具体的に説明します。
会社法施行規則218条3号は、被告となるべき者に責任または義務があると判断した場合で、それでも責任追及等の訴えを提起しないときは、その理由を記載することを求めています。この類型では、責任がない場合よりも慎重な説明が必要です。
次のポイント一覧は、責任があり得るにもかかわらず提訴しない理由として検討される要素を整理したものです。各項目は単独で結論を決めるものではなく、損害回復、回収可能性、訴訟費用、会社利益との対応を読み取るために並べています。
損害額が少額で、訴訟費用・社内対応費用に比して会社利益に適合しない場合があります。
対象者から弁済、返還、補填、和解金支払があり、会社損害が実質的に回復している場合があります。
対象者に資力がなく、勝訴しても回収可能性が著しく低い場合があります。
法的責任の一部は認め得ても、主要な損害・因果関係の立証が難しい場合があります。
別訴、仲裁、保険請求、和解手続などにより実質的な回復手段が進んでいる場合があります。
当局対応、被害者対応、再発防止、事業継続を優先することが会社利益に合う場合があります。
文例では、対象取締役に社内規程違反や一定の注意義務違反が認められる可能性があること、確認可能な損害額、弁済や回復状況、承認手続の改定、再発防止研修、内部監査手続の強化などを示したうえで、訴訟費用、社内対応負担、会社利益の観点から提訴しないと判断した理由を具体化します。
法定記載事項から逆算し、責任なし類型と責任あり得る類型を分けます。
標準的な不提訴理由通知書は、宛先、日付、通知主体、件名、提訴請求の特定、調査内容、判断の前提事実、責任または義務の有無に関する判断と理由、提訴しない理由、結語、別紙・資料一覧という順序で組み立てます。
次の表は、通知書の構成を本文項目ごとに整理したものです。上から下へ読むことで、提訴請求の特定から調査、責任判断、提訴しない理由へと論理が進むため、文案作成時には各項目の対応関係を確認します。
| 構成 | 記載内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 提訴請求の特定 | 請求書の日付、受領日、請求者、対象者、請求趣旨、請求原因 | 会社法施行規則217条の特定事項と照合する |
| 調査の内容 | 調査主体、期間、確認資料、ヒアリング、専門家関与 | 判断の基礎とした資料を含める |
| 判断の前提事実 | 主要な認定事実、時系列、会議体、資料 | 事実認定と法的評価を混同しない |
| 責任判断 | 義務違反、損害、因果関係、裁量判断 | 請求者の主要主張に応答する |
| 提訴しない理由 | 責任なし、または責任あり得るが会社利益に照らし提訴しない理由 | 抽象的な総合判断だけで終えない |
責任が認められない場合の骨子は、提訴請求の概要、調査の内容、責任または義務の有無についての判断および理由、提訴しない理由の順に置きます。会社が確認した資料、ヒアリング、外部専門家の助言を明示し、最後に「責任または義務があるとは認められないため、責任追及等の訴えを提起しない」と結論づけます。
責任はあり得るが提訴しない場合の骨子は、責任の可能性、損害額、損害回復状況、回収可能性、訴訟費用、既存の是正措置、保険・和解・当局対応などを示したうえで、会社利益の観点から提訴しない理由を記載します。
通知書のタイトルは、「不提訴理由通知書」「責任追及等の訴えを提起しない理由の通知書」「会社法847条4項に基づく通知書」などが考えられます。件名や本文で、会社法847条4項および会社法施行規則218条に基づく通知であることを明確にすることが望ましいです。
特定性を欠く請求でも、無用な対立を避けるための整理が必要です。
提訴請求が会社法施行規則217条の要件を満たさず、被告となるべき者や請求を特定するのに必要な事実が記載されていない場合、会社法上の提訴請求に当たらない可能性があります。この場合、厳密には不提訴理由通知義務が発生しないことがあり得ます。
次の判断の流れは、不十分な提訴請求を受けた場合に、会社が確認すべき順序を表しています。分岐は通知義務の有無だけでなく、任意の説明や補正依頼を行うかにも関わるため、請求書の形式だけでなく実質的な特定性を読み取ることが重要です。
対象者、請求趣旨、請求原因、過去のやり取りを整理する
施行規則217条の特定事項と照合する
調査・判断・通知書ドラフトを進める
通知義務が発生していない可能性を示しつつ、確認可能な範囲で説明する
実務上は、会社法847条1項の提訴請求としては特定性を欠く旨を通知する、不足事項を指摘して補正を求める、任意の説明として現時点で会社が訴えを提起しない理由を簡潔に伝える、通知義務が発生していないことを明確にしつつ誠実に回答する、といった対応が考えられます。
文例では、「被告となるべき者、請求の趣旨、請求を特定するのに必要な事実の記載が十分でなく、現時点で特定性を欠くものと判断した」と整理しつつ、確認可能な範囲の事実確認結果を示します。ただし、請求書全体の趣旨、事案の性質、会社が既に把握していた事情を踏まえ、裁判所が実質的に提訴請求と評価する可能性も検討します。
法務だけで完結させず、監査・会計・IR・専門家と記録管理を連動させます。
不提訴理由通知書の作成は、法務部だけで完結しません。対象者が現職取締役である場合、当該取締役が調査や文案決定に関与することは利益相反上問題となる可能性があるため、調査協力と意思決定関与を区別します。
次の表は、通知書作成に関わる主な役割と担当事項を整理したものです。左列の役割ごとに右列の担当事項を分けることで、調査の独立性、資料の網羅性、文案レビューの責任範囲を読み取りやすくなります。
| 役割 | 主な担当事項 |
|---|---|
| 監査役・監査等委員・監査委員 | 調査・判断の主体、対象取締役に関する責任判断 |
| 企業内弁護士・法務部 | 会社法手続、請求整理、文案作成、外部弁護士連携 |
| 外部弁護士 | 独立した法的評価、訴訟リスク分析、通知書レビュー |
| コンプライアンス担当 | 不祥事・規程違反・再発防止策の確認 |
| 内部監査担当 | 内部統制、業務プロセス、証跡確認 |
| 経理・財務担当 | 損害額、会計処理、回収可能性、保険の確認 |
| 会計・フォレンジック専門家 | 会計不正、損害算定、証拠分析 |
| IR・広報 | 上場会社の開示、対外説明、報道対応 |
| 取締役会事務局 | 会議体運営、議事録、決議管理 |
次のポイント一覧は、後日の代表訴訟で争点になり得る証跡を整理したものです。通知書だけでなく、作成過程そのものが問われる可能性があるため、読者はどの資料が判断過程を支えるかを確認する必要があります。
提訴請求書の原本、封筒、配達記録、受領記録、株主資格確認資料を保存します。
期限管理表、調査計画書、資料収集リスト、ヒアリング依頼を残します。
外部弁護士の意見書、会計士の分析メモ、監査役会・委員会・取締役会の議事録を整理します。
通知書のドラフト、レビュー履歴、最終版、送付記録、到達記録を保存します。
弁護士との通信、訴訟戦略、内部調査メモについては、将来の文書提出命令や証拠開示を見据え、どこまで議事録化・文書化するかを慎重に設計します。情報漏えい、会計不正、海外子会社不祥事では、電子メールやログの保全も重要です。
通知書は代表訴訟を止める文書ではなく、会社の調査判断を示す資料です。
上場会社では、不提訴理由通知書の送付そのものが必ず適時開示事項になるわけではありません。しかし、対象者、請求額、事案の性質、株価への影響、支配権争い、経営陣の責任、不祥事、第三者委員会、訴訟提起可能性などによっては、適時開示または任意開示を検討する必要があります。
次の比較表は、通知書と開示文書を連動させる際の注意点を整理したものです。通知書全文を公表するか概要にとどめるかで情報量は変わりますが、どちらの場合も法的判断、営業秘密、個人情報、将来の訴訟対応の整合性を読み取ることが重要です。
| 観点 | 確認事項 |
|---|---|
| 内容の整合性 | 通知書と開示文書の説明に矛盾を生じさせない |
| 秘密情報 | 営業秘密、個人情報、名誉毀損リスクに注意する |
| 訴訟対応 | 将来の株主代表訴訟での会社側主張と整合させる |
| 周辺論点 | D&O保険、社内処分、当局対応、対象者の反論権を確認する |
| 投資家説明 | 簡潔でも、法的判断の根拠を曖昧にし過ぎない |
会社が不提訴理由通知書を送付しても、提訴請求株主は、会社が60日以内に訴えを提起しなかった場合、会社のために株主代表訴訟を提起できます。不提訴理由通知書は、株主代表訴訟を法的に阻止する文書ではありません。
もっとも、通知書は、提訴請求株主に対して会社の調査・判断を説明し、後日の訴訟で会社がどのような調査・判断をしたかを示す資料になります。会社が補助参加するか、被告取締役への補助参加に同意するか、取締役・監査役の任務懈怠の有無をどう説明するかにも関わります。
不提訴理由通知書の質は、会社が株主からの責任追及にどれだけ誠実かつ専門的に向き合ったかを示します。後日の訴訟、開示、IR、内部統制評価を見据えて設計します。
結論だけ、利益相反、主要論点の無視、不要な断定を避けます。
不提訴理由通知書でよくある失敗は、調査内容と判断理由を欠くこと、調査主体が利益相反状態にあること、請求者の主要主張に応答しないこと、事実認定と法的評価が混在すること、確認できない事項を断定すること、開示文書と矛盾すること、送付証跡を残さないことです。
次のポイント一覧は、実務で特に問題になりやすい失敗例を整理したものです。各項目は文案上のミスに見えても、後日の訴訟では調査の独立性や判断過程そのものを疑わせるため、読み手はどの段階で修正すべきかを確認します。
「責任は認められないため提訴しません」だけでは、施行規則218条の趣旨を満たさない可能性があります。
対象取締役本人や直属部門が実質的に調査・判断すると、独立性が疑われます。
複数論点の一部にしか触れない場合、残余論点の調査不足と評価されるおそれがあります。
何を事実として認定し、どの法的評価に至ったのかを分けて示す必要があります。
確認できない事項を絶対に存在しないと断定すると、新証拠が出た場合に信頼性を損ないます。
通知書を作成しても到達を証明できなければ、手続上の争いになり得ます。
文体は、事実、評価、結論を分け、主語を明確にし、日付、資料名、会議名、役職名を正確に書きます。確認できた範囲と確認できなかった範囲を分け、相手方の主張を歪めて要約せず、会社の利益を基準にした判断であることを明確にします。
避けるべき表現には、「貴殿の主張は全く根拠がない」「経営判断に文句を言う余地はない」「会社として面倒なので訴訟はしない」「対象取締役に落ち度は一切ない」「訴訟をしても会社の評判が悪くなるだけである」などがあります。感情的・攻撃的な表現は、株主との対立を深めるだけでなく、後日の訴訟で会社側の姿勢を不利に見せる可能性があります。
通知書作成を、再発防止・ガバナンス改善・専門家連携につなげます。
不提訴理由通知書の作成は、単なる訴訟前手続ではなく、内部統制・危機管理の一部です。株主から責任追及を求められたという事実は、会社の意思決定、内部統制、監督体制、記録管理、コンプライアンスに何らかの問題提起がなされたことを意味します。
次の一覧は、通知書作成後に検討し得る改善テーマを整理したものです。通知書本文にすべて書く必要はありませんが、どの改善策が請求内容や調査結果とつながるかを読み取ることで、単なる防御文書ではなく危機管理文書として扱えます。
取締役会資料、利益相反取引の承認プロセス、付議基準を見直します。
統制電子メール、議事録、会議資料、稟議、証拠ファイルの保存方法を整えます。
証跡危機対応時の情報開示、IR想定問答、報道対応の手順を確認します。
注意外部弁護士や専門家を早期に起用すべき案件には、請求額が多額、現職経営陣が対象、経営権争いやMBOが背景、会計不正・粉飾・横領・背任が疑われる、金融商品取引法・独占禁止法・個人情報保護法・労働法等が絡む、海外子会社や外国法が関係する、報道やSNSで問題化している、提訴請求株主が機関投資家・アクティビスト・元役員・競合関係者である、社内資料が膨大でフォレンジック調査が必要、といったものがあります。
次の強調部分は、専門家起用の判断軸をまとめたものです。法的責任の評価だけでなく、調査の独立性、文案の防御可能性、訴訟戦略、開示、交渉、和解、保険対応まで含めて必要性を読み取ることが重要です。
外部弁護士は法的評価と文案レビューを担い、会計・フォレンジック専門家は損害算定やデータ保全を補います。社内判断だけでは独立性や証拠分析が不足する場面があります。
作成前・作成時・送付前の三段階で、抜け漏れを確認します。
不提訴理由通知書は、期限、調査、判断、文案、送付証跡がそろって初めて実務上の意味を持ちます。次の一覧は三段階の確認事項をまとめたもので、読者は現在の案件がどの段階にあり、何が未了かを読み取ることが重要です。
記載水準に唯一の正解はありません。請求額が大きい、取締役の利益相反が疑われる、支配権争いが背景にある、会計不正・情報漏えい・品質不正・労務不祥事など社会的影響が大きい、上場会社で説明責任が重い、報道や第三者委員会報告書がある、提訴請求書が詳細で証拠も添付されている場合は、記載を厚くする必要があります。
反対に、請求が抽象的・反復的・濫用的であり、対象者や請求原因が明確でない場合には、過度に詳細化すると不要な争点を広げることがあります。この場合でも、会社法上の要件、確認範囲、判断理由を簡潔に記載することが望ましいです。
個別案件の結論ではなく、制度理解と確認観点を整理します。
一般的には、不提訴理由通知書は株主代表訴訟を法的に阻止する文書ではないとされています。会社が60日以内に訴えを提起しなかった場合、提訴請求株主が会社のために訴えを提起できる可能性があります。ただし、通知書は会社の調査・判断を説明する資料となり、事案の内容、証拠関係、請求者の判断によってその後の展開は変わります。具体的な対応は、資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、判断の基礎とした資料を含めて調査内容を記載する必要がある一方、根拠資料のすべてを提出することまで常に求められるわけではないと説明されています。ただし、営業秘密、個人情報、訴訟戦略、第三者の秘密保持義務などによって結論が変わる可能性があります。具体的な開示範囲は、資料の性質と紛争状況を踏まえて弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、損害額、損害回復状況、回収可能性、訴訟費用、会社利益、既存の是正措置などを総合して、責任追及等の訴えを提起しない判断が問題となることがあります。ただし、責任の有無、損害・因果関係、保険、開示、内部処分などによって結論が変わる可能性があります。具体的な対応は、事実関係と資料を整理したうえで弁護士等の専門家へ相談する必要があります。
一般的には、不提訴理由通知書の送付そのものが常に適時開示事項になるわけではないと考えられます。ただし、対象者、請求額、事案の性質、株価への影響、不祥事性、第三者委員会、訴訟提起可能性などによって、適時開示または任意開示を検討する必要が生じる可能性があります。具体的な開示判断は、証券取引所ルールや個別事情を踏まえて専門家へ相談する必要があります。
会社法、会社法施行規則、監査役実務、裁判所資料、公表事例を参照しています。